二足歩行のけものたち 双足行走的兽类
BL終了後、セックスするために旅行に行き最終的に一緒になるまでの話です。
BL 结束后,为了做爱而去旅行,最终走到一起的故事。
凛くんをキュートな男子高校生だと思ってます。お蔵入りにするか10回くらい悩みましたが全体的に脳をハッピーで埋め尽くしてお読みください。
我以为凛君是个可爱的男高中生。我犹豫了十次左右是否要放弃,但总的来说,请尽情享受这个充满快乐的故事。
◆
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糸師兄弟は地元の焼肉屋でのんびりと牛ハラミを焼いていた。
糸师兄弟正在当地烤肉店里悠闲地烤着牛横膈膜。
兄はスペインのレ・アール、弟はフランスのP・X・Gと欧州のチームで活躍している。短く貴重なオフシーズンに示し合わせて故郷に帰ってきて、こうして盃を合わせているというわけだ。二人とも一応未成年なので、盃の中はオレンジジュース。
哥哥在西班牙的雷阿尔,弟弟在法国的 P·X·G,两人都在欧洲的球队中活跃。他们约定在短暂而宝贵的休赛期回到故乡,就这样举杯共饮。因为两人都还未成年,所以杯中是橙汁。
ブルーロックプロジェクトの終了から既に一年弱が経過していた。
蓝锁计划结束至今已近一年。
「…さっきから兄ちゃんばっか食ってない?」 “…从刚才开始你就一直在吃哥哥的吗?”
「お前が焼いてるから食ってやってんだよ」 “因为你烤了,我才吃的。”
「焼くの代われよ。兄貴だったら可愛い弟に食わせてやるもんだろ」
“你来烤吧。如果是大哥的话,应该会让可爱的弟弟吃吧。”
「弟だったらありがたく俺の糧となるんだな」 “如果是弟弟的话,应该会感激地成为我的食物吧。”
「クソ兄貴…」 「混蛋大哥…」
良い頃合いに焼けた牛ハラミを全て自分の皿に放り込み、凛はトングを置いた。傍若無人唯我独尊の兄をもった弟なりの抵抗だった。
凛恰到好处地将烤好的牛横膈膜全部放到自己的盘子里,然后放下了夹子。这是作为有一个旁若无人、唯我独尊的哥哥的弟弟的反抗。
本来、二人の財力だったら叙々苑でも三つ星レストランでもどこにでも行けるんだけれど、今回の目的は里帰りだ。地元の少し汚い焼肉屋が二人にはちょうど良いのだ。
本来,以他们两人的财力,无论是叙叙苑还是三星级餐厅,哪里都能去,但这次的目的地是回乡。对于他们两人来说,家乡那家有点脏的烤肉店正好合适。
「凛、次何頼む」 「凛,接下来点什么?」
「ホルモン」 「烤内脏」
「いいな。牛ミノにするぞ」 「好啊。那就点牛肚吧」
「ハチノスも」 「八之助也是」
「ハチノスってなんだ」 「八之助是什么」
「牛の第二の胃袋」 「牛的第二个胃」
「詳しいな」 「真能吃啊」
食べ盛りでプロのスポーツマンな兄弟。二人の食欲は凄まじい。
正值食欲旺盛期的职业运动员兄弟。两人的食欲非常惊人。
ついでに数杯目の白米と、クッパも追加した。ここのクッパは美味しいと昔から知っているから。
顺便又加了几碗白米饭和一些库巴。因为早就知道这里的库巴很好吃。
※以下、ブルーロックの顛末について※ ※以下关于《蓝色监狱》的结局※
結論、ブルーロックプロジェクトは成功した。 结论,《蓝色监狱》项目成功了。
日本サッカーをブッ壊し、新生日本サッカーを作ること。そのためには世界一のストライカーが必要だ。
彻底摧毁日本足球,创造新生日本足球。为此需要世界最强的前锋。
世界一のストライカーには、世界一のエゴイストにしかなりえない。
成为世界第一的射手,只能是世界第一的自私者。
エゴイストとは、周りを蹴落とす人間でも、落とし入れる人間でもない。
所谓自私者,既不是踢落周围人的人,也不是被踢落的人。
自分の生きたいように生きる人間のことだ。 而是按照自己想要的方式生活的人。
U-20W杯の結果は準優勝に終わったが、ブルーロックイレブンがかつて成し遂げた勝利、BLTVでの日本人選手の活躍、そしてW杯での大健闘を通して、日本サッカーは変わった。
U-20W 杯虽然以亚军告终,但通过蓝锁十一队曾经取得的胜利、BLTV 上日本球员的活跃表现,以及在 W 杯上的顽强拼搏,日本足球已经发生了变化。
日本人のワンフォーオール・オールフォーワンの精神は、本来自分を押し殺したうえで全うするものではなかったのだ。
日本人一贯的“一即全,全即一”的精神,原本并不是在压抑自己之后再去完成的。
自分の生きたいように生きる。それから初めて、他人の生き様を、プレーを尊重できる。それが日本サッカーの真髄だった。
按照自己想要的方式生活。只有这样,才能尊重他人的生活方式和比赛表现。这才是日本足球的精髓。
潔世一のプレースタイルは新日本サッカーの精神の根幹となった。
洁世一的球风成为了新日本足球精神的核心。
己が世界一のストライカーであることを名実ともに証明すべく、ブルーロックのメンバーたちは世界へ羽ばたいていった。
为了名副其实地证明自己是世界第一的射手,蓝锁的成员们纷纷展翅飞向世界。
※以上※
「で。相談だったか」 “那么,是要商量什么事情吗?”
「うん」 嗯
「この俺に相談するからにはそれなりの悩みなんだろうな」
“既然来找我商量,想必是有相当的烦恼吧。”
「うん」 嗯
リスのように頬を米で膨らませながら凛は頷く。よし話せと冴は腕を組んで促した。凛とほぼ義絶していた期間は約三年。凛は兄弟の呪縛から解き放たれ、世界一に値するストライカーになった。
凛像松鼠一样鼓着腮帮子,点了点头。冴交叉双臂,示意她继续说下去。凛与家人几乎断绝关系的时期大约持续了三年。她摆脱了兄弟的束缚,成为了世界顶级的射手。
冴は、日本の同調圧力的な国民性さえなければ、凛こそが世界一のストライカーになれると信じていた。
冴坚信,如果没有日本那种同调压力的国民性,凛才是能够成为世界第一射手的人。
今般の相談内容も、今後のサッカー人生にかかる何かだろうと踏んでいた。
他猜测这次商谈的内容,可能与凛未来的足球生涯有关。
「あのさ」 “我说”
「ああ」 “啊”
冴は凛を眺めながらオレンジジュースに口をつけた。渋谷を歩けばスカウトされるこの兄弟は、ふとした仕草でも壮絶に絵になる。
冴一边看着凛,一边喝了一口橙汁。这对在涩谷走一走就会被星探发掘的兄弟,连一个小动作都美得像画一样。
「アナルセックスしたことある?」 “你有过肛交吗?”
冴は美しい表情のままブッとオレンジジュースを噴いた。かろうじて殆どがコップの中に収まったので大惨事は避けたものの、数万円のシャツにいくらかオレンジの水滴が零れ落ちてしまった。
冴保持着美丽的表情,突然喷出了橙汁。幸好大部分都落在了杯子里,避免了灾难,但几万日元的衬衫上还是滴落了几滴橙汁。
そうこうしているうちにホルモンが来る。ハチノスが本当に蜂の巣のような見た目をしているのを目の端で捉えたが、それどころではなかった。
就在这时,烤肉上来了。虽然瞥见了蜂斗菜真的像蜂巢一样的外观,但已经顾不上了。
「…何してんの??」凛は怪訝な顔で尋ねた。 “…你在干什么??”凛带着疑惑的表情问道。
「おい愚弟。俺を揶揄ってんじゃねーぞ殺すぞ」 “喂,笨蛋弟弟。别嘲笑我,不然我可要揍你了。”
「からかってねーよ。兄ちゃんなら女とそういうことヤッてんじゃないかと思って」
“我没有开玩笑。我以为哥哥你和女人在做那种事呢。”
おしぼりで口を拭く兄を差し置いて、凛は至って冷静にホルモンを焼く。「焼けてんのか焼けてねーのかわかんねえ」とか些細な独り言まで呟いていた。
凛冷静地烤着牛肠,而哥哥却在用湿毛巾擦嘴。她甚至嘟囔着:“到底烤没烤好啊,搞不清楚。”
「お前は俺をなんだと思ってんだ」 “你把我当成什么了?”
「意外。兄ちゃんドSっぽいのに」 “意外,哥哥看起来挺 S 的。”
「相手は?」 「对方是谁?」
「は?」 「啊?」
「抱きたい相手がいんだろ」 「你有想拥抱的人吧」
「…まあ、そう」 “…嘛,算是吧。”
糸師凛、17歳。今年で18歳になる。 糸师凛,17 岁。今年就要 18 岁了。
流石に冴も少しだけ心配になった。アナル欲しがる女と付き合ってるのかこいつは、年上か?性癖歪みやしないか。…
连冴也稍微有点担心了。这家伙是不是在和喜欢肛交的女人交往,对方年纪比他大吗?性癖好不会有什么问题吧。…
「相手はフランス女か?」 “对方是法国女人吗?”
「いや、純日本人」 “不,是纯日本人。”
「学校の女か」 “是学校里的女生吗?”
「誰だっていーだろ別に」 「谁都行吧,反正都一样」
「聞かせろ。どこまでいった。クソガキの癖に」 「说来听听。你们进展到哪一步了。你这小鬼头」
「ニ年くらい前と、半年くらい前、キスした」 「两年前和半年前,接过吻」
「は?」 “啊?”
「それだけ」 “就那样。”
情報が少なすぎる。セックスして、継続的な肉体関係をもっていて、後ろの穴の話になるならわかる。キスして(しかもたった2回)いきなりアナルに飛ぶ意味がわからない。冴は眉間に深い皺を刻んだ。容姿と身体能力と英語力に恵まれたせいか、極端にコミュニケーション能力が低い凛のことだ。凛が一方的に強い想いを寄せてて、アブノーマルな性癖を実行しようとしているとしか思えない。
信息太少了。如果是发生性关系,有持续的肉体关系,然后谈到后穴的话题还能理解。只是接吻(而且才两次)就突然跳到肛门,这意义何在?冴眉间刻下了深深的皱纹。或许是因为容貌、体能和英语能力出众,凛的沟通能力极其低下。凛单方面有着强烈的情感,只能认为她试图实践异常的性癖。
冴は顔の前で両手の指を組んだ。ゲンドウポーズも、彼がすると映画のワンシーンのようだった。
冴在脸前交叉着双手的指头。这个姿势,由他来做就像电影中的一幕。
眼下の皿にホルモンが投げ込まれていく。 眼前的盘子里不断被投入牛肠。
「兄ちゃん?」 “哥哥?”
「…おい、もうちょっと焼け…。まだ網の上に置いて一分も経ってねえだろうが…」
「…喂,再烤一会儿…。还没在烤架上放一分钟吧…」
冴は別の理由で怖い顔をしていたのだが、凛はホルモンが生焼けで兄が半ギレなのかと思った。めんどくせえと思いながら、「…はいはい」と溜息溜息、取り分けたホルモンを網の上に戻す。生焼けの内臓をなめちゃいけない。
冴因为另一个原因露出了可怕的表情,但凛以为哥哥是因为牛肠半生不熟而有些生气。虽然觉得麻烦,但还是叹着气回答:「…知道了知道了」,然后把分出来的牛肠放回烤架上。不能吃半生不熟的内脏。
兄は言葉を選びながら尋ねた。 哥哥斟酌着词句问道。
「…凛、その子とは付き合ってるのか?」 「…凛,你和那孩子是在交往吗?」
「付き合ってない」 「没有交往」
「付き合ってない?」 「没有交往?」
「付き合ってない」 「没有在交往」
「アナルはやめとけ。どうせ承諾もされてねーんだろ」
「肛交还是算了吧。反正也没有得到同意吧」
凛は顔を上げた。「なんで…」と言った。口を半分開けたショックそうな顔だった。
凛抬起了头。「为什么…」她说道。脸上露出了半张着嘴的震惊表情。
なんでじゃねーんだよ。 为什么不是啊。
「凛…」
冴は身を乗り出し、真剣な顔で凛を覗き込んだ。凛はトングを手に固まったまま、兄を見返した。網は、熱いままである。
冴探出身子,认真地盯着凛看。凛手里拿着夹子,僵硬地回望着哥哥。网还是热的。
「性的なお友達でもねえ。自分の女でもねえ。そんな相手にてめーの嗜好を強要すんな。いくらなんでも嫌われる」
“既不是性伴侣,也不是自己的女人。别强迫那种人接受你的喜好。再怎么说也会被讨厌的。”
「でも兄ちゃん」 “但是哥哥”
「でもじゃねーんだよ」 “不是但是啊”
「……」 “……”
凛はまたもトングを置いた。熱網からはホルモンの脂で業火がのぼり、とても香ばしい匂いを醸していた。火事のような激しさだ。けれど兄弟はそれどころではない。
凛再次放下了夹子。热网上,牛肠的油脂燃起了熊熊烈火,散发出极其诱人的香气。火焰如同火灾般猛烈。然而,兄弟俩此刻无暇顾及这些。
凛はふっと真左の壁を見て、右手は腰に、左肘で頬杖をつくように口を抑えた。長い前髪でちょうど目が見えなくなった。
凛突然看向真左的墙壁,右手放在腰间,左肘撑着脸颊,捂住了嘴。长长的刘海正好遮住了视线。
「…男だよ…」 「……是男的……」
「…は?」 「……啊?」
「相手、男っつってんだよ」 “对方可是个男人啊。”
「…潔世一か」 “……洁世一吗?”
凛のおそろしくわずかな首肯。兄でなければ見逃していた。
凛那极其微小的点头。如果不是他的哥哥,恐怕就错过了。
潔世一。凛の奴に対する執着と殺意は並大抵のものではなかった。凛はパーソナルスペースが恐ろしく狭い。まともな相互コミュニケーションが可能なのは自分含め2、3人いたらいいほうだと冴は思っている。
洁世一。凛对那家伙的执着和杀意非同小可。凛的个人空间极其狭小,能够进行正常交流的人,包括自己在内,有两三个就已经算多了。冴认为。
つまり、凛の殺意や執着は平たく言うと人間関係の矢印であって、アイラブユーに近い。徹底的な負の感情が、愛にも見える激情へなんらかの理由で裏返ったって不思議はない。なにしろ交友範囲が異常に狭すぎるので。
也就是说,凛的杀意和执着简而言之就是人际关系中的箭头,接近于“我爱你”。彻底的负面情感,因为某种原因转化为看似爱的激情,并不奇怪。毕竟他的交友范围异常狭窄。
冴は弟に対する圧倒的な理解力でもって瞬時に腹落ちした。
冴凭借对弟弟的深刻理解力,瞬间就明白了这一点。
「…なるほどな。話はわかった。しかし俺から具体的なアドバイスはできない」
「…原来如此。我明白了。不过我无法给出具体的建议。」
「役たたず…」 「没用的家伙…」
「なんか言ったか」 「你说什么了吗?」
「なんでもございませんクソお兄様」 “没什么大不了的,混蛋哥哥。”
「まあ、俺から言うとすれば」 “嗯,如果由我来说的话。”
糸師冴は一切茶化さずにアドバイスした。 糸师冴认真地给出了建议。
なぜなら、冴は凛のことを、本当に可愛いと思っている。凛は冴の宝物だった。
因为冴真的觉得凛很可爱。凛是冴的宝贝。
帰国した雪の降る夜。 在回国的那天晚上,下着雪。
世界一のMFになるという新しい夢と、託そうとした夢、それから兄であることを弟から否定された冴は、心臓に風穴が開くほどの絶望を見た。
成为世界第一的 MF 的新梦想,以及想要寄托的梦想,还有被弟弟否认自己作为哥哥的身份,冴感受到了心如刀割般的绝望。
世界を見て、自分の限界を見て、かつて夢を共有した弟に存在を否定された。
环顾世界,审视自己的极限,却被曾经共享梦想的弟弟否定了存在。
だから、弟を徹底的に否定し返した。 因此,我彻底地否定了弟弟。
徹底的に叩きのめして、壊しにかかることで自分を守った。日本を貶めることで弟を貶めた。弟を飼い慣らし、その本能を忘れさせてしまった日本を強く憎んだ。
彻底地击垮他,通过摧毁他来保护自己。通过贬低日本来贬低弟弟。我强烈憎恨那个驯服弟弟,让他忘记本能的日本。
日本という国に宝物を壊されて、冴は日本を見放した。
冴因为日本的宝物被破坏,决定放弃日本。
盲信していた兄に徹底的に否定された弟は、存在意義を失う。生きることそのものだったサッカーに意味を見出せなくなった。
被一直盲目信任的哥哥彻底否定的弟弟,失去了存在的意义。曾经是生活本身的足球,也找不到意义了。
けれど。いらない人間になりたくないという生存本能があった。兄への復讐心が、愛憎が、皮肉にも兄が託そうとした夢、世界一のストライカーへと凛を向かわせたのだった。
然而,有一种生存本能,不想成为一个无用的人。对哥哥的复仇心,爱恨交织,讽刺地让凛走向了哥哥所寄托的梦想,成为世界第一的射手。
凛は、兄を、そして周りの人間を病的に拒絶した。サッカーで勝つことだけが凛の全てになった。また誰かに負けたら、認められなかったら、今度こそ、本当に壊れてしまう。凛はいつも死にかけの獣だった。
凛病态地拒绝了哥哥以及周围的人。足球比赛的胜利成了凛的全部。如果再次失败,不被认可,这次真的会彻底崩溃。凛总是像一只濒死的野兽。
二人とも、死にたくなかった。 两人都不想死。
お互いに、どうしようもなく幼かったのだ。 他们彼此都无可救药地幼稚。
それでも。一度はぐちゃぐちゃに壊れても。 尽管如此。即使一度变得支离破碎。
凛の兄への尊敬も死ななかった。兄ちゃんは、すごい。兄ちゃんは、優しい。「糸師冴の弟」という呪縛から解き離れた後も、凛の兄への心は子供のままだった。
凛对哥哥的尊敬也未曾消失。哥哥很厉害。哥哥很温柔。即使摆脱了“糸师冴的弟弟”这一束缚,凛对哥哥的心意依旧如孩童般纯真。
凛の兄への心は、サッカーへの意欲の根源だ。 凛对哥哥的心意,是他投身足球热情的根源。
例え兄が年老いても、サッカーをやらなくなっても。 即使哥哥年老,不再踢足球。
サッカーで生きていく限り、凛は子供の頃の兄の姿をまぶたの裏に見ている。
只要凛还在足球中生活,她就会在眼睑下看到童年时哥哥的身影。
世界を跨いでの壮大な兄弟喧嘩は終わりを告げていた。けれど、戦場で合間見えたときは、本気で殺し合う。それがこの天才兄弟の在り方だった。
跨越世界的壮大的兄弟争吵已经宣告结束。但是,在战场上偶尔相遇时,他们会认真地互相厮杀。这就是这对天才兄弟的存在方式。
「あの…すみません、糸師選手ですか?」 “那个…不好意思,您是糸师选手吗?”
網の上のホルモンが全部真っ黒になっていて目元に濃い影を落としていたところ、兄弟は同時に振り向いた。兄弟はボックス席に座っていた。通路に立っていたのは、十歳そこらの少年である。目はどんぐりみたいにクリクリと大きく、膝に絆創膏やガーゼが勲章のように貼られている。
网上的荷尔蒙全都变得漆黑,眼周投下浓重的阴影,就在这时,兄弟俩同时转过头来。他们坐在包厢席上。站在过道的是一个大约十岁的少年。他的眼睛像栗子一样圆溜溜的,膝盖上贴着创可贴和纱布,像是勋章一样。
少年は二人をうろうろと見ていたので、糸師選手と称して兄弟を指しているのを冴と凛は察した。
少年来回打量着两人,冴和凛察觉到他是在称呼他们为糸师选手。
「ああ、そうだぞ坊主」 「啊,没错,小子。」
「…っ!!こっ、この前見ました!試合…ケーブルテレビで、あの、俺、糸師選手を見てサッカー頑張ろうと思いました!サ、サインください!」
「…!!我、我之前看到了!比赛…在有线电视上,那个,我,看到糸师选手后决定努力踢足球!请、请给我签名!」
凛はどもりながらしゃべる少年と兄をゆっくり見比べた。凛はファンらしき人間から話しかけられても基本スルーする性質だ。兄も、サインは断るだろうと思った。
凛一边结巴着说话,一边慢慢比较着少年和哥哥。凛基本上对搭话的粉丝都是无视的。哥哥也以为他会拒绝签名。
「わかった。サインはいいが、何に書けばいい?」 「明白了。签名可以,但要签在哪里呢?」
「ほっ、ほんとですか!うっうれしいです。じゃ、じゃあ、こ、これにおねがいします!」
「真的吗!太高兴了。那么,那么,请在这上面签吧!」
少年の顔が真っ赤に輝いた。差し出されたのは、この焼肉屋の紙ナプキンとアンケート用のボールペン。即席にもほどがあるが、少年の必死さが伝わってきた。
少年的脸因兴奋而变得通红。他递过来的是这家烤肉店的纸餐巾和用于问卷调查的圆珠笔。虽然有些仓促,但少年的迫切心情传达了过来。
冴は狼狽えもせず、すらすらと紙ナプキンにサインをした。「ほらお前も」と兄から即席サインセットを受け取り、見るからに書き慣らされている、程よく崩れた「sae itoshi」の下に、凛も自らの名前を筆記体で書く。サインをしたのは仕事以外で初めてだった。
冴毫不慌张,流畅地在纸巾上签了名。"你看你也来",从哥哥那里接过即兴签名套装,明显已经习惯了的、恰到好处地潦草的"sae itoshi"下面,凛也用草书体写上了自己的名字。这是她第一次在工作之外签名。
焼肉屋の外は夏の夜の匂いがした。 烤肉店外弥漫着夏夜的气息。
潮風がかすかに混じり、凛は故郷に帰ってきていることを改めて実感する。
微咸的海风混杂其中,凛再次感受到自己回到了故乡。
海外は、匂いからして日本と違うのだ。 海外的气味就和日本不同。
凛は両手をポケットに突込み、冴の少し後ろで石ころを蹴る。石を追いかけるように、のろのろ進んでいた。
凛将双手插进口袋,在冴的稍后方踢着小石子。他慢吞吞地走着,仿佛在追逐那颗石子。
「意外だったよ」 “真是意外啊。”
「何が」 「什么?」
「兄ちゃん、あーいうの無視するかと思った。サインとか」
「我以为你会像平时那样无视呢,签名什么的。」
「普段なら断ってる」 「平时我都会拒绝的。」
「じゃあなんで?気分?」 “那为什么?心情?”
「あれくらいのガキを見ると、お前を思い出す」 “看到那样的孩子,就会想起你。”
凛はゆっくりと顔を上げた。 凛慢慢地抬起了头。
兄は後ろ姿だけ弟に見せていた。いつもそうだった。凛が、ブルーロックになるまでは。
哥哥只让弟弟看到他的背影。一直以来都是这样。直到凛成为 Blue Lock 的一员。
「お前たちは俺がクソだと思ってた日本サッカーに一筋の光を見せた。全国のサッカー馬鹿に新しい夢を見せたんだ。たったのサイン一つであのガキの運命が変わって、十年後、日本を支える選手になる。そんなことも、あるかもしれない……」
"你们认为我是个废物,但我给日本足球带来了一线光明。我给全国的足球迷展示了新的梦想。仅仅一个签名就能改变那个小鬼的命运,十年后,他可能成为支撑日本队的选手……"
凛の蹴っていた石の音が消えて、冴は顎を上げるように振り向いた。それからわずかに目を見開いて、クハッと笑った。
凛踢石头的声音消失了,冴像是要抬起下巴一样转过身来。然后微微睁开眼睛,轻声笑了出来。
「お前、なんだその顔。泣きそうになってんじゃねーよ」
“你那是什么表情?别一副要哭的样子。”
冴は、自分より背の高くなった弟の頭を左手で叩くように掴んだ。
冴用左手像敲打一样抓住了比自己还高的弟弟的头。
肩を並べて、見慣れた道を歩き、いつかのように一緒に家へ帰る。
并肩走在熟悉的路上,像往常一样一起回家。
この国で、この場所で育った。間違えようのない足取りが、その何よりもの証拠だった。
在这个国家,在这个地方长大。毫无疑问的步伐,是最有力的证据。
◆
半年と数ヶ月前。 半年多以前。
世一と凛が素直にLINEを交換できたのは、ブルーロックプロジェクトが終わった直後だった。
世一和凛能够坦诚地交换 LINE,是在蓝色监狱项目结束后不久。
そのときはじゃあまたどこかで、みたいなノリで別れたが、三日後、世一から連絡が来た。二人とも海外移籍が決まってる状態だった。
那时我们就像是在说“以后还会在某个地方再见”一样分开了,但三天后,世一联系了我。两人都已经决定了要转会海外。
『俺たちこのまま終わるのか?』と。 “我们就这样结束了吗?”他问。
一度だけキスをして、ブルーロックの終わる最後の最後までお互いが最良のパートナーでありライバルだった。凛はもう世一のことを見くびってはいない。どうせ、日本代表としてサッカーをするとき、また同じ戦場に立つことになるだろう。凛は世一を信じていた。宿敵だからこその信頼だった。しかし。
我们只接过一次吻,直到《蓝色监狱》的最后一刻,我们都是彼此最好的伙伴和对手。凛不再小看世一。毕竟,作为日本代表踢足球时,我们还会站在同一个战场上。凛相信世一,正是因为他是宿敌,这种信任才显得尤为珍贵。然而。
『終わるわけねーだろ』 『不会结束的吧』
凛はそう返していた。世一が言うのは、フットボーラーとしてのつながりではなくて、この歪な恋愛関係の決着について言っているのを知っていた。喰らいたい、殺したい、そんな青い監獄らしい感情と、長いようで短い日々のやりとりの積み重ねで生じた純粋な好意や、お互いのサッカーから受けた影響だとか。全部がごちゃ混ぜになった恋、のようなもの。
凛这样回答道。他知道世一所说的不是作为足球运动员之间的联系,而是关于这段扭曲的恋爱关系的终结。想要吞噬、想要杀掉,这种像是青色监狱般的感情,以及那些看似漫长实则短暂的日常交流中积累的纯粹好感,还有彼此从足球中受到的影响等等。所有的一切都混杂在一起的恋爱,就像是这样。
最終選考前の休暇期間中に凛が世一を呼びつけたのも、なんのことはない、ただ、会いたくなったから。それだけだった。
在最终选拔前的休假期间,凛叫世一来见自己,其实也没什么特别的原因,只是因为想见他。仅此而已。
『終わるわけねーだろ』と返した翌日、世一はまたも単身鎌倉にやってきた。まるで押し掛け女房だった。ショルダーバックのベルトを両手で握りしめる姿は、何も知らないお上りさんのよう。
『怎么可能结束啊』第二天,世一又独自一人来到了镰仓。简直就像个不请自来的妻子。他双手紧握着肩包的带子,一副什么都不知道的游客模样。
家族旅行や修学旅行で何度か訪れたことはあるようだったが、凛はとりあえず世一を連れて一通り観光案内した。連れて歩くだけの、ガイドのない観光案内だ。
虽然似乎有过几次和家人旅行或学校组织的旅行来过这里,但凛还是先带着世一四处逛了逛,做了个无导游的观光介绍。
それにしても世一はよく喋った。 不过话说回来,世一真的很能说。
凛はほとんど「へー」とか「で?」とか「あっそ」しか言ってなかったが、世一はとにかく楽しそうに喋る。さして興味のない話題のはずなのに、凛はちゃんと聴いていた。自分でも不思議なくらい、世一のくだらない話の一言一句、聞いていた。
凛几乎只说了“嘿”、“真的吗?”、“哦,这样啊”之类的话,但世一却非常开心地聊着。按理说这些话题应该并不怎么吸引人,但凛却认真地听着。自己都觉得不可思议,世一那些无聊的谈话,每一句她都听得清清楚楚。
いくら世界に名を轟かすフットボーラーであっても、サッカーがなければ二人は一般の高校生だ。日が沈むのも早く、とっぷりと暮れ、もう世一が帰る時間になった。
尽管是世界闻名的足球运动员,但如果没有足球,两人也只是普通的高中生。天色很快就暗了下来,夜幕深沉,已经是世一该回家的时间了。
なお、ここまでデートっぽい雰囲気は皆無だった。年若い男子二人が遊び歩くだけのそれであった。
而且,到目前为止,这里完全没有约会的氛围。这只是两个年轻男孩四处玩耍的情景。
「今日はやけに浮かれてたな」 “今天你格外兴奋啊。”
駅に世一を送り届ける道中、それとなく凛がつぶやいた。
在送世一到车站的路上,凛不经意地嘀咕了一句。
「へ」と凛を見上げた世一が声を出して、思い出したようにみるみる真っ赤になった。
世一抬头看向凛,发出“啊”的一声,随即像是想起了什么似的,脸一下子红了起来。
「そ、そんなに浮かれてたか俺…?」 「我、我这么兴奋吗…?」
「ああ」 「嗯」
潔世一は優しい少年であった。そして、人望も相当に厚い。誰にでも優しいし、誠実だし、話もたくさんしてくれる。
洁世一是个温柔的少年。而且,他的人缘也相当好。对谁都很温柔,诚实,也经常和大家聊天。
けれども、凛の目も伊達じゃない。友人や仲間に囲まれている時の彼と、今日一日共に過ごした世一の顔が違うのは明らかだった。
然而,凛的眼神也并非虚有其表。与朋友和伙伴在一起时的他和今天一整天共度的世一的表情明显不同。
終始、キラキラと暖色に照っている。戸惑ってるときもジト目のときも罰の悪そうなときでも、ご機嫌なのがどことなく滲んでいるのだ。
始终散发着温暖的光芒。无论是困惑时,眯眼时,还是看起来像受罚时,他的好心情都隐约透露出来。
やがて世一はどもりながら白状した。 不久,世一结结巴巴地坦白了。
「…、そ、そりゃ、う、浮かれるだろ…」 「…、那、那当然、会、会高兴的吧…」
「はあ」 「啊」
「お前が練習でもないのに一日中、一緒にいてくれてたんだから…」
「你明明没有练习,却一整天都陪在我身边…」
「はあ?」 “啊?”
凛が当社比素っ頓狂な声を上げた。 凛发出了与平时完全不同的惊讶声。
いきなりデートみたいな雰囲気になり戸惑う。二人に残された時間は残り三十分ほどである。
突然间气氛变得像约会一样,让她感到困惑。留给两人的时间只剩下大约三十分钟。
世一が凛の上着の袖を指先で引っ張った。さりげないが、凛とっては抜群の吸引力だった。
世一用指尖轻轻拉了拉凛的外套袖子。虽然看似不经意,但对凛来说却有着无法抗拒的吸引力。
彼は、今にも壊れそうな勝ち気な声で言った。 他用几乎要破碎的倔强声音说道:
「凛、キスしようぜ。とびきりエロいの」 “凛,来个吻吧。超级色情的那个。”
凛は、酒瓶で頭を殴られたかと思った。 凛以为自己被酒瓶打了头。
二人に残された時間はわずか。なんだってこんな時に。追い込みにも程がある。配分を考えろ。そんなさまざまな文句が凛の脳裏を走り抜けた。が。
留给两人的时间所剩无几。为什么偏偏在这种时候。逼得太紧也要有个限度。要考虑分配。各种各样的抱怨在凛的脑海中闪过。但是。
世一の全力で歳上ぶったお誘いは、凛の嗜虐心を刺激するのに十分だった。
世界第一的全力追求,对于年长的凛来说,已经足够刺激她的虐恋心理了。
そして、ビルとビルの間で大人顔負けのキスをした。 在两栋大楼之间,他们深情地拥吻,连大人都自愧不如。
世一の体を鉄の壁に押しつけて、舌をからませ擦り付けて時折歯を立てた。前と違うのは、世一が凛の首にしがみつくように抱きついていたこと、凛の腕が世一の腰をがんじがらめに離さなかったこと、それと、相手を殺す牙が愛撫の甘噛みに変わったことだ。ブルーロックから娑婆にでたせいか。しかし、それも、どうでもいい。
将世界第一的身体紧贴成铁壁,舌头交缠摩擦,偶尔咬牙切齿。与之前不同的是,世界第一像紧抓着凛的脖子一样紧紧拥抱,凛的手臂紧紧搂住世界第一的腰不放,而且原本致命的利齿变成了温柔的轻咬。是因为从蓝色监狱来到了人间吗?不过,那也无所谓了。
時間がない。関係は歪なままだ。凛は自分の心がわからない。ただ、自分に繋ぎ止めておきたい。キスじゃ足りない。キスのその先が欲しい。
时间紧迫。关系依旧扭曲。凛不明白自己的心。只是,想要将自己紧紧维系。仅一个吻不够。渴望吻之后的更多。
世一がハッと目を開けた。腰に硬いものが触れたのを感じて、「あ…」と死ぬほど汗をかく。世一の目に少し恐怖の色がさしたのを見て、凛の背中にゾクゾクと何か、きもちいいものが走った。
世一猛地睁开了眼睛。他感觉到腰部碰到了一个硬物,不禁“啊…”地一声,冷汗直冒。看到世一眼中闪过一丝恐惧,凛的背上仿佛有什么东西在蠕动,带来一种奇妙的感觉。
「おい、帰さねーぞ」 “喂,我不会让你走的。”
世一が押し返そうとするも、凛には体格で圧倒的に負ける。ぎう…っと抱きしめられた。いや、捕縛された。
世一试图推开,但凛在体格上完全占优势。他被紧紧地抱住,不,是被束缚住了。
凛の鎖骨に押し潰されて世一はあまり抵抗できない。ジタバタするも虚しく、逆に、帰りたくないのに親に抱き上げられて暴れる幼児みたいになってしまっていた。
凛的锁骨压得世一无法过多抵抗。他挣扎也无济于事,反而变得像一个不想回家却被父母抱起而挣扎的幼儿一样。
「いやっ…マジで…、困る…っ」 "不要...真的...很困扰..."
「知らねーよ」 "不知道"
「セッ…クスしたいのか、凛、」 “想做…爱吗,凛?”
核心をついた言葉に凛は息を呑む。 这句直击要害的话让凛倒吸了一口气。
世一も自分で言って、キスしていたときよりもずっと真紅に顔を染めて、声を震わせていた。世一もまだ高校生。ネットでAVを見たりはするものの現実で口にする日が来るとは思っていなかった。しかも今日に限って。
世一自己也说了,脸比接吻时还要红,声音也在颤抖。世一还是个高中生。虽然会在网上看 AV,但没想到会在现实中说出这种话。而且偏偏是今天。
「じゃ、じゃあ、場所がねーだろ。ホテル…なんか当たり前に入ったこと、ねーし…。お前ん家なんか上がれるわけねーし。ほ、他に場所があるのかよ」
“那么,那么,没有地方吧。酒店……我从来没有理所当然地进去过……。你家也不可能上去。喂,还有其他地方吗?”
凛は沈黙を貫いた。打開策がないからだ。 凛一直保持沉默。因为没有解决办法。
「ほらないんじゃねーか」と世一はため息と一緒につぶやいて、するりと凛の腕から抜け出して、安堵の顔をした。その顔が少し凛の癪に障った。けれど不快ではなかった。
“不会没有吧”,世一叹着气小声说,然后迅速从凛的手腕中挣脱出来,露出了安心的表情。那表情让凛有点不爽。但并不讨厌。
お互い熱を冷ますように夜風に当たりながら、駅につき、改札にて別れることにした。彼らは終始、無言だった。
他们决定在夜风中让彼此冷静下来,到达车站后,在检票口分别。他们始终沉默不语。
「じゃ、じゃあ、元気でな…もし、オフシーズン空いてたら…」
“那么,那么,保重啊…如果,淡季有空的话…”
結局今日もはっきりしなかった関係。 最终,今天的关系也没有明确。
一日中街を歩き回って、帰り際にディープなキスをして。思い返すと完全にデートだ。けれど二人の間には何も口約束がなかった。とある外国では、付き合おうとかいう告白も無しにカップルになるらしいけれど、宿敵関係が板につきすぎている二人には、口約束も、言葉のいらない愛の約束も難しかった。もう、数日後にはそれぞれ海外に発つというのに。
一整天在街上闲逛,临走时还深情地吻别。回想起来,这完全是一次约会。然而,两人之间并没有任何口头约定。据说在某些国家,即使没有表白说要交往,也能成为情侣,但对于关系已经僵化到极点的这对宿敌来说,无论是口头约定,还是无需言语的爱情承诺,都显得异常困难。尽管几天后他们就要各自前往海外。
改札に向かうところ、腕を引かれて振り返る。 当我走向检票口时,被拉住了手臂,回头一看。
凛が。仏頂面のまま、世一の袖を指で握りしめて引き止めていた。
凛,依然板着脸,用手指紧紧抓住世一的袖子,阻止他离开。
世一は頭を金槌で殴られたかと思った。デート後半戦、二人はトキメキで殴り合いをしている。
世一以为自己的头被锤子砸了。约会后半段,两人因为心动而开始互相推搡。
図体がでかいくせにそれは反則でしょうと。そんな、全然平気ですみたいなツラで、ここぞとばかりに歳下ぶる。彼が糸師凛という男だからこそ、破壊的だった。
明明身材高大,这样做是不是犯规了?他那副完全不在乎的样子,趁机摆出一副年下的姿态。正因为他是糸师凛这个男人,才显得如此具有破坏性。
その凛がズイと近づいてきて、「わう」と世一は変な声を出した。人が多く、キスできるような距離にならない限りは特に目立つこともなかった。世一は凛を気の抜けた顔で見上げていた。
凛突然靠近,世一发出奇怪的声音“哇”。人多,只要不是能接吻的距离,就不会特别引人注目。世一用松懈的表情抬头看着凛。
凛は世一を見下ろし、静かに彼に迫った。 凛俯视着世一,静静地向他逼近。
「次は抱かせろ」 “下次让我抱你。”
心臓が消し飛ぶ前に凛を突き飛ばした。 在心脏停止跳动之前,世一推开了凛。
よろめきあとずさり、ポケットに両手を隠しては、「すけべ!」。世一は、赤い顔で凛をささやかに罵った。それしかできなかったのだ。
踉跄后退,双手藏在口袋里,低声骂道:“色狼!”世一红着脸,轻声咒骂凛。他只能做到这样。
世一は慌てて改札の向こうに逃げていく。 世一慌忙逃向检票口对面。
鎌倉に残された凛は、力んでいた拳をやっと開いて見た。じっとりと湿っていて、一人で眉をしかめた。
被留在镰仓的凛,终于松开了紧握的拳头。手心湿漉漉的,独自皱起了眉头。
前置きは以上である。 以上是前言。
【オフシーズンまで数ヶ月。果たして二人の行末は?!】
【距离淡季还有几个月。两人的结局究竟会如何?!】
凛と世一は滅多にメッセージのやり取りをしない。電話もしない。
凛和世一很少互相发消息,也不打电话。
シャワーを浴びてベッドに座り、そういえばと思ってトークを開く。奴とのやりとりは、『俺たちこれで終わりなのか?』『んなわけねーだろ』、それから電話一本で時が止まっていた。
洗完澡坐在床上,突然想起来要打开聊天。和那家伙的对话是,“我们这就结束了吗?”“怎么可能”,然后一个电话就让时间停滞了。
しかし、あれからデートしてキスしたのに、二人の関係は、実質ほとんど変化していないのである。本格的な海外移籍や新生活で超多忙な中、オフシーズンより前にわざわざ会う理由も見つけられなかった。
然而,尽管那之后约会过还接吻了,两人的关系实际上几乎没有变化。在正式的海外移居和新生活的超忙碌中,甚至找不到在休赛期前特意见面的理由。
後ろに体を倒すと、スプリングがキシッと声を上げた。
向后仰倒身体,弹簧发出了吱的一声。
凛はそっとキーボードを開き、世一に向かって、『シーズン終わりどうする』と打っては消した。次に、『おい』と書いたが、我ながらあまりにもコミュニケーションが不自由すぎてそれも消した。こうなると面倒臭くなってくる。別に直前でもアイツのことだ、俺のとこに飛んでくるだろう…と凛の中によくわからない自信がもたげはじめた。メッセージを考えるのをやめかけたとき、スマホが震えて凛の顔面に端末が落下した。
凛轻轻地打开键盘,面向世一,打出了“赛季结束后你打算怎么办”,但又删掉了。接着,他写下了“喂”,但觉得自己这样沟通太不顺畅,于是也删掉了。这样一来,他开始感到麻烦。不过,毕竟是那家伙,就算在最后一刻,他也会飞奔到我这里来吧……凛心中涌起了一种难以言喻的自信。正当他准备放弃思考信息的时候,手机震动起来,终端落在了凛的脸上。
ほとんどキレながら起き上がると「潔世一」からの着信である。居留守する選択肢はない。凛は出た。
他几乎要发火地起身,发现是“洁世一”打来的电话。没有假装不在的选项。凛接了电话。
『guten Morgen. 凛。悪いな夜に』 “早上好。凛。抱歉,这么晚打扰你。”
「切るぞ」 「要切了」
『じゃあ出んなよ…』 「那就不出了…」
顔にスマホが落ちたから気が立っているとは言わなかった。
虽然没有说因为手机砸到脸上而生气。
「で」と凛はその先を促した。 凛催促道:「然后呢?」
『二ヶ月先に迫ってるけど』 『虽然已经迫近两个月了』
「ああ」 「啊」
『オフシーズン、考えたんだ俺』 「淡季的时候,我想过了」
「で?」 「然后呢?」
『ここは普通に親の承諾書もらって泊まりに行こうぜ。俺も実家帰りたいし。日本のご飯食べたいし。なんなら蜂楽たちと会う約束もしちゃったし』
「这里就正常地拿到父母的同意书,然后去住吧。我也想回老家,想吃日本的饭菜。甚至已经和蜂乐他们约好了见面」
凛は世一に見えないのに「はあ?」みたいな顔をした。蜂楽たちについては…まあいいとする。親に承諾書をもらうなど。親にそういうことしてきますと言うようなものではないか。凛は米神に二本指をのせてしばらく沈黙した。
凛虽然看不见世一,却露出了“哈?”的表情。至于蜂乐他们……算了。要父母拿到同意书什么的。这不是像父母会做那种事吗?凛用两根手指按在米神身上,沉默了一会儿。
「……お前がこっち来りゃいーだろ」 “……你过来不就好了吗?”
『お前の家?フランスの?』 『你家?法国的?』
「そ」
『えーっでもさ…俺日本のなんかすげー旅館に泊まってみたい。おいしいご飯たべたい。お味噌汁のみたい。お魚たべたい。稼いだお金つかいたい』
『哎,但是啊…我想住进日本那种超棒的旅馆。想吃美味的饭菜。想喝味噌汤。想吃鱼。想用赚来的钱花。』
そりゃ凛だって日本食が食べたい。フランス料理は一級品だって食べられる環境だけれども、凛の好物は鯛茶漬け、刺身と醤油と山葵で構成されたいわば海鮮丼。食の嗜好は純日本人そのものだった。
那当然了,凛也喜欢吃日本料理。虽然身处能吃到一流法国料理的环境,但凛的最爱是鲷鱼茶泡饭、生鱼片配酱油和山葵,可以说是海鲜盖饭。她的饮食喜好完全是纯正日本人的风格。
『え、なに?何渋ってんの?そんなに日本帰るのめんどい?』
“哎,什么?你在犹豫什么?回日本那么麻烦吗?”
「ちげーよアホ。親に外泊の許可なんか取れるか」 “才不是呢,笨蛋。我怎么可能从父母那里得到外宿的许可。”
『…そんなに厳しいの、糸師家?ブルーロックに子供を差し出したのに?』
“……那么严格吗,糸师家?明明都把孩子送到蓝色监狱了?”
「生贄みたいに言うな」 「别像献祭一样说话」
『全然難しいことないだろ。友達と旅してくるとか適当に言っとけばフツーに承諾書書いてくれるって』
『根本不难吧。随便说和朋友去旅行什么的,一般都会写同意书的』
なるほどな、と思った。男子高校生よろしく世一との関係に思考が偏っていたのを凛は素直に恥じた。しかし、凛はこの方まともな友達がいたことがない。
原来如此,凛想着。她为自己像男高中生一样偏执于与世一的关系而感到羞愧。然而,凛从未有过这样正经的朋友。
友達と泊まりに行くなんてしたことがないのだ。それもそれで、親に言うのが少しこそばゆかった。
我从来没有和朋友一起过夜过。而且,告诉父母这件事也让我有点不好意思。
『大丈夫か?練習するか?』 『没问题吗?要练习吗?』
世一は心配性の母親みたいに尋ねた。凛の口下手は冴の次に世一がよく知っていたので。
世一像担心的母亲一样问道。因为凛不擅长说话,这一点世一仅次于冴,非常了解。
かくして、凛は親に電話することにした。世一の願望通り「日本のなんかすげー旅館」に泊まるためには数ヶ月前からアポをとったほうがいい。
于是,凛决定给父母打电话。为了实现世一的愿望,住进“日本的超棒旅馆”,最好提前几个月预约。
世一は糸師父母に伝える文面まで考えて長文LINEで送ってくれたが凛はあんまり読んでいない。癪だったのでお礼も言わず既読スルーした。
世一甚至考虑了给糸师父母的留言内容,用长篇 LINE 发给了凛,但凛并没有怎么读。因为生气,她连感谢的话都没说,直接已读不回。
三十分以上の躊躇の末に、凛は親に発信した。LINEの便利なところは、Wi-Fiさえあれば世界のどこでもつながれることだ。
经过三十多分钟的犹豫,凛终于给父母打了电话。LINE 的便利之处在于,只要有 Wi-Fi,无论在世界哪个角落都能连接上。
10コール目となっても出ず、凛は一度電話を切った。緊張の時が先延ばしになり少し安心したのも束の間、母親から着信があり、凛は決死の思いでスマホを耳に当てた。
即使到了第十次呼叫,凛也没有接听,她挂断了一次电话。紧张的时刻被推迟,她稍稍安心了,但很快母亲打来了电话,凛怀着决死的心情将手机贴在耳边。
『凛、どうしたの。電話してくるなんて珍しいね』 『凛,怎么了?打电话过来真是少见呢。』
「……ああ、うん、」頭をよぎったのはほぼ見ていない世一からの文面だった。
「……啊,嗯,」她脑海中闪过的是几乎没看过的世一发来的消息。
「あのさ、友達と。旅行行きたくて。日本で」 “那个,和朋友。想去旅行。在日本。”
言葉を覚えたてのロボットのように凛はぽつぽつと母に喋り出した。
凛像刚学会说话的机器人一样,断断续续地对母亲说。
そういえば、打倒・糸師冴を掲げてから、父母とまともにコミュニケーションをとった記憶がない。両親に自分はどう見えていたのか。あれだけ仲の良かった兄と自分が義絶みたいなことをして、何を思っていたのか。なぜか今、そう感じた。
说起来,自从提出要超越糸师冴以来,已经不记得有和父母好好沟通过。父母眼中的自己是什么样的呢?和曾经关系那么好的哥哥闹到这种地步,他们又是怎么想的呢?不知为何,现在有了这样的感觉。
「だから、同意書みたいなの、ほしくて」 「所以,我想要个同意书之类的东西。」
『うん、わかった。日本でってことは、次のオフシーズンの時ってことね?』
『嗯,明白了。在日本的话,是指下一个休赛期的时候吧?』
凛の母はあっさり承諾した。あっさりしすぎていて、拍子抜けするほどだ。いや、断る理由もないだろう。ブルーロックに入るのも、海外を飛び回る生活になるのも、両親は決して止めなかった。たかが友達とか言う「ぬるい」共同体との旅行に何か言うはずもない。
凛的母亲爽快地答应了。答应得太过干脆,让人有些意外。不过,也没有拒绝的理由吧。无论是加入 Blue Lock,还是过上四处奔波的海外生活,父母从未阻止过。对于和朋友这种“轻松”的集体旅行,他们更不可能有什么意见。
「うん。だから、帰ってきた時、すぐ、貰えればいいから…」
“嗯。所以,回来的时候,能马上拿到就好了…”
『凛、友達ができたんだね』 『凛,你交到朋友了呢』
抑え気味ではあったが、母の声は感慨がこもっていた。凛は微かに目を見開いた。
虽然有些克制,但母亲的声音里充满了感慨。凛微微睁开了眼睛。
『凛は、お兄ちゃんも、サッカーも大好きだったからね。凛がそれでいいなら、いいって思ってたんだけど…、お友達ができて、よかった。楽しんできてね』
“凛,你哥哥和你一样,都很喜欢足球。如果你觉得这样好,我就觉得好…,交到朋友了,真好。要玩得开心哦。”
母が言ったのはそれだけだった。 母亲只说了这些。
友達が少なくて心配していただとか、兄が全く帰国しないなか、弟である自分までほぼ相談もせずブルーロックに向かって、またたくまに海外へ羽ばたくことになったことを責めるようなそぶりも見せない。
她并没有因为担心我朋友少,或者因为哥哥完全不回国,而我这个弟弟甚至几乎没有商量就投身于《蓝色监狱》,转眼间又飞往海外而责备我。
久しぶりに、家族とちょっと話してもいいかもしれない。凛はそう思った。
久违了,或许可以和家人稍微聊聊天。凛这样想着。
◆
宿に関して特に希望はなかった。 对于住宿并没有特别的要求。
ただ、うまい魚が食える場所。その一点のみが凛の条件だった。
只是,能吃到美味的鱼的地方。这是凛唯一的条件。
『じゃあ北海道とかかな。完全にイメージだけど。東京で待ち合わせて、そのまま飛行機乗ってさ』
「那去北海道怎么样?虽然只是想象。在东京集合,然后直接坐飞机去。」
「なんでもいい」 「什么都行。」
『えーっすげーっ、一泊十万の部屋とかある!え、ここにしていい?いや流石に浮く?こういうとこって金持ちが来るやつだよな…』
「哇,有那种一晚十万日元的房间!哎,这里可以吗?不,果然还是有点贵吧?这种地方不是有钱人来的吗…」
年俸ウン千万の男が何を言っているのか。しかし気持ちはわかる。多分客層はどっかしらの社長や役員とその連れだとか、老夫婦だとかそんな感じだ。はたからみたらただの男子高校生に見える二人がそんなところに来たら、まあ浮くだろう。
年薪几千万的男人在说什么啊。不过心情能理解。大概客人是某个公司的社长或高管及其陪同,或者是老夫妇之类的。从旁看去,两个看起来只是普通男高中生的家伙来到这种地方,肯定会显得格格不入。
『どーしよっかなー!?あ、るるぶ買わなきゃ。いやことりっぷ?…もう全部買うか!』
『怎么办好呢!?啊,得买旅游指南。还是买鸟瞰图?…干脆全买了吧!』
「落ち着け。宿決めるのが先だろうが。つーか、何泊するつもりだ?」
「冷静点。先决定住的地方吧。话说,你打算住几晚?」
『え…』 『呃…』
途端に世一の語気がしぼむ。今度はどうした。 世一的语气瞬间变得低沉。这次又是怎么了。
凛はテレビにミッドサマーを無音で流していた。今ちょうど老人が崖から飛び降りて死にきれず、ハンマーで頭部を殴打されるところだ。
凛正在电视上无声地播放《仲夏夜惊魂》。现在正好演到老人从悬崖跳下未死,反而被用锤子击打头部的场景。
その手元で「北海道 旅館」と凛もタブレットで一応検索だけはしていた。そこから先には進んでいないが。
在手边,凛也在平板电脑上简单搜索了一下“北海道 旅馆”。虽然还没有进一步行动。
「おい、急に黙るな。気持ち悪い」 “喂,突然不说话了。感觉不舒服。”
『気持ち悪いはなくね?いや、俺は、…二泊くらいしてもいいかなって思ってたんだけど…』
“并没有不舒服吧?不,我是在想……住个两晚左右应该可以吧……”
「…なんでもいい」 “…什么都行。”
無関心のふりをした。電話の向こうの世一に聞こえないように、熱い息を細く吐いた。
她装作漠不关心的样子。为了让电话那头的世一听不见,她轻轻吐出了热气。
『よ、よかった!じゃあ、二泊しよう!せっかく海越えるんだしな!』わかりやすく明るくなった声は照れ隠しに聞こえた。
“太好了!那我们住两晚吧!难得穿越大海呢!”声音变得明显开朗,听起来像是在掩饰害羞。
『じゃあ、なおさらどこにしよう…オフだし、観光もしたいけど部屋もいいとこがいいし…』
『那到底去哪儿好呢…因为是休假,既想观光又想找个好房间…』
「予約した」 「已经预订了」
『は!?』 『哎!?』
「旅館と違って宿泊客とすれ違うことも少ない」
凛は世一の希望をもとに的確な宿を割り出した。ちょっとお高いところ。人目があるところは嫌。凛は道すがらでもうまい海鮮が食べれればなんでもいいので、森の中の純朴で清潔そうな一棟貸しを直感で選んだ。一泊二人で10万円を切る程度なのできっとクオリティも高いだろう。ルームシアター付きなのも凛のお眼鏡にかなった。
凛基于世一的希望,准确地找到了合适的住处。这个地方稍微有点贵,但她不喜欢人多的地方。凛觉得只要在路上能吃到美味的海鲜,其他都无所谓,所以她凭直觉选择了一栋位于森林中、看起来朴素又干净的出租屋。两人一晚的费用不到 10 万日元,质量应该很高。房间还配有家庭影院,这正合凛的意。
凛は当該サイトを世一に送り、「異論ねえな?」と一言ぶしつけに確認した。
凛将该网站发送给世一,并直截了当地确认道:“没有异议吧?”
しばらく沈黙が続いた。世一が部屋などを確認していることがわかった。
沉默持续了一会儿。我知道世一正在检查房间等地方。
『…うん!最高!』 『…嗯!太棒了!』
たぶん、電話の向こうではクリスマスプレゼントを見つけた子供みたいな笑顔が咲いているんだろう。目の前に世一の顔が浮かび上がるようだった。
大概,电话那头他的脸上绽放着像找到圣诞礼物的孩子一样的笑容。我仿佛能看到世一的脸浮现在眼前。
『さすが凛だな。こういうとこでも判断が早いというか。てか、すげーなルームシアター付きって』
『不愧是凛啊。在这种地方判断也这么快,或者说。而且,居然有带家庭影院的房间,真厉害啊。』
「ああ。そこが気に入った」 「嗯,我就喜欢这一点。」
『え。待てよ。ホラー見るつもりじゃねえよな』 『诶,等等。你不是打算看恐怖片吧?』
「一緒に見るか?ベッドの中で」 “一起看吗?在床上。”
世一が電話口でものすごく咳き込んだ。ちょうど飲み物を飲んでいたのか、苦しそうな呻き声が時折聞こえる。
世一在电话那头剧烈地咳嗽。可能是正好在喝东西,不时传来痛苦的呻吟声。
『く、っ、口説かれてんのか怖がっていいのかわかんねーよ!寝れなくなったらどーしてくれんだよッ、ブルーロック時代も大変だったんだぞ』
“咳、咳、被搭讪了,我该不该害怕啊!要是睡不着了怎么办啊,咳、咳、布鲁洛克时代也很辛苦的啊!”
「元々寝かせるつもりねーよ」 “本来就没打算让你躺下”
怒りのブツ切りが凛を襲う。世一には刺激が強すぎたようだ。凛も顔には出ないこそ、今のやり取りで腹の中が少しカッカッとしていた。
愤怒的断句向凛袭来。世一似乎受到了太大的刺激。凛虽然脸上没有表现出来,但刚才的交流让她心里有些烦躁。
世一は際どい雰囲気になると凛とのコミュニケーションを遮断する。この前は自分から誘ってきたくせに。
世一一旦感觉到气氛紧张,就会切断与凛的沟通。上次还是他自己主动邀请的。
凛はソファへと体を横に倒し、視線をゆったりテレビに移した。映画はそれなりに場面が進み、人間の内臓を使ったグロテスクな芸術品ができあがっていた。それは最早人の形をしていなくても脈打ち、まだ温かそうに見えた。
凛将身体横倒在沙发上,视线缓缓移向电视。电影场景逐渐推进,展现出一个用人类内脏制成的令人毛骨悚然的艺术品。尽管它已不再具有人形,却似乎仍有脉搏跳动,看起来依然温暖。
自分の唇を触ってみる。世一の舌の熱さや、乾いた唇の感触を思い出そうとして、ホラー映画やサッカーとは別種の興奮が自分を襲うのを感じる。
她触摸自己的嘴唇,试图回忆世一舌尖的热度和干燥唇瓣的触感,感受到一种与恐怖电影和足球不同的兴奋感。
ホラー映画漬けになったきっかけは兄が海外に発って、刺激が足りなくなってから。仮に、世一とのセックスがゾクゾクするほど刺激的なものだったら、自分はそれにのめり込んでしまうのだろうか。
沉迷于恐怖电影的契机是哥哥出国后,她感到刺激不足。如果与世一的性爱是那种令人心跳加速的刺激,她是否会深陷其中呢?
「アホか…」 「笨蛋吗…」
独り言。テレビを消して、歯磨きをして、テキパキと凛はベッドに入った。早く明日になればいい。一日を終えるたびに旅行の日へ確実に一歩近づいていく。こんなに安らかな気持ちで毎夜明日を待てるなら、悪くないと思った。
自言自语着。凛关掉电视,刷完牙,迅速地钻进了被窝。真希望明天快点到来。每一天结束时,都确确实实地向旅行的日子迈进一步。如果每晚都能怀着如此平静的心情期待明天,我觉得也不错。
◆
兄・糸師冴との焼肉会より約一週間後。 烧肉会后约一周。
凛は北海道、札幌のとあるカウンター席で海鮮丼を待っていた。
凛在北海道札幌某家店的吧台座位上等待着海鲜丼。
一見ごちゃっとしたファミレスにも見えたが、魚のバリエーションの豊富さ、そして壁のあちこちに貼り付けられた黄色い札。しめさば600円、今日のお造り三点盛り950円…だとか数え切れないほどの手書きのメニューがあり、その雑多でありつつも力強い筆致から、味への自信が伝わってくるようだった。
乍一看,这家家庭餐厅显得有些杂乱,但丰富的鱼类菜品选择,以及墙壁上贴得到处都是的黄色标签。比如,盐烤鲭鱼 600 日元,今日生鱼片三拼 950 日元……还有数不尽的手写菜单,虽然杂乱无章,但那有力的笔触似乎传达出了对味道的自信。
そして隣には潔世一。青い監獄で知り合った宿敵とこうして美味い飯を待ってる時間が、考えてみると不思議になってくる。
然后旁边是洁世一。在蓝色监狱里相识的宿敌,如今却这样一起等待美味饭菜的时刻,仔细想想真是不可思议。
世一はスマホに釘付けになって、札幌で他に寄れるところがないか必死に調べているようだった。
世一似乎对手机着了迷,在札幌拼命查找是否有其他可以去的地方。
「おい」 “喂”
「……」 “……”
「おい」 “喂”
「えっ何?」 “啊?什么?”
スマホに夢中な世一に不満を覚えた。それを伝えるほどの甲斐性が凛にはまだない。世一が生意気なほど大きな目をぱちくりとさせるのに、凛はふいと向こうに視線をやった。
凛对沉迷于智能手机的世一感到不满。凛还没有足够的毅力去传达这一点。世一瞪大眼睛,显得有些傲慢,而凛却突然将视线转向了别处。
世一は眉をハの字に下げて、ニンマリ歯を見せて笑った。
世一皱起眉头,露出得意的笑容。
「なんだよ凛ちゃん。構ってちゃんかよ」 “什么啊,凛酱。你是想要人关心吗?”
「黙れクソ…」 “闭嘴,混蛋……”
「わかったわかった。凛、ウニ好き?よかったらやるよ」
“知道了知道了。凛,你喜欢海胆吗?喜欢的话我可以给你。”
「いらねえ」 「不需要」
「遠慮すんなよ。俺苦手なんだよな〜」 「别客气。我不擅长这个啊~」
「しれっと人に押し付けんな」 「别悄悄地把事情推给别人」
頬杖をついて唇を尖らせる世一をたわむれに睨む。 世一托着腮,噘起嘴,被对方以调笑的眼神瞪着。
凛は本日朝、世一と東京で待ち合わせた。当然実家から始発で空港に向かったわけだが、以下、そのときの糸師家の様子である。
凛今天早上在世一和东京碰面了。她自然是先从娘家出发,乘坐首班车前往机场,以下是当时糸师家的情景。
「凛、これお土産。お友達に渡してね。鳩サブレー。それと、ガトーレーズンもワンダース。飛行機の中で食べなさい」
凛,这是给你的礼物,要交给你的朋友哦。是鸽子饼干。还有,歌剧院蛋糕也很棒。在飞机上吃吧。
「何人で旅行すると思ってんだ」 “你以为会有多少人去旅行?”
「凛、知らない人に声かけられてもついていくんじゃないぞ。スカウトって言われても無視するんだぞ」
“凛,不要随便跟不认识的人走。就算是有人说是星探,也要无视他们。”
「息子を何歳だと認識してんだ」 “你认为我儿子几岁?”
「凛、ハンカチとちりがみ持ったか?大事なプリント朝に渡されても困るんだからな」
“凛,带手帕和纸巾了吗?重要的打印资料要是早上交给你,你也会为难的。”
「お前は何を言っているんだ」 “你在说什么呢?”
このように、早朝にもかかわらず家族三人が玄関に寄ってたかって見送りに来た。兄に至っては完全にふざけている。
就这样,尽管是清晨,家里三个人还是聚集在门口一起送行。哥哥更是完全在开玩笑。
極め付けには、ムスッとしている弟の肩を爽やかに叩いては…
最后,他轻轻地拍了拍闷闷不乐的弟弟的肩膀,…
「頑張れよ」冴は真顔でサムズアップした。 “加油啊。”冴一脸认真地竖起了大拇指。
凛はほぼキレながら自宅のドアを勢いよく閉めた。ちょっと赤らんだ顔を眩しい朝日に晒し、東京に向かったのだった。
凛几乎是带着怒气,猛地关上了自家的大门。他微微泛红的脸庞暴露在耀眼的朝阳下,向着东京出发了。
「海鮮丼特ですーおまたせしましたー」 「海鲜丼特餐来了——让您久等了——」
「うわすげえ!!うまそーっ」 「哇,太厉害了!!看起来好好吃!」
青縞模様のどんぶりに海の宝石がこぼれ落ちんばかりに光輝いている。中トロ、マグロ、サーモン、甘エビ、ウニ、鯛、イクラ。さっきまで生きていたのがわかるくらい艶々としていて、口の奥から猛烈に唾液が出た。
青条纹的碗中,海洋的宝石仿佛要溢出来般闪耀着光芒。中腹、金枪鱼、三文鱼、甜虾、海胆、鲷鱼、鲑鱼子。它们鲜嫩欲滴,仿佛刚刚还在活着,让人忍不住口水直流。
たっぷりと添えられた山葵を醤油に溶かし、極上の宝石たちへ振り掛ける。
将满满的山葵溶入酱油,洒在极品的宝石上。
世一は箸を人差し指に挟んで「いただきます!」と手を合わせた。ひょいと凛の箸が世一の海鮮丼をつまむ。
世一用筷子夹在食指上,合掌说:“我开动了!”凛的筷子轻轻夹起世一的海鲜丼。
「もらっとく」 “我收下了”
「……!」 “……!”
凛は事もなげにウニを拾い、自分の丼に移した。ちょっぴり取り損ねて、かけらが世一のもとに残った。
凛若无其事地捡起海胆,移到自己的碗里。稍稍漏掉了一点,碎片留在了世一的碗里。
衝撃のあまり、世一は凛を二度見した。凛が壮絶にカッコよく見えた。いや、元々とても素敵な顔の作りをしているのだけれども。
震惊之余,世一再次看向凛。凛看起来非常帅气,不,原本就有着非常迷人的面容。
顔に血が集まらないように念じたが、無駄に終わる。世一は呆けたように凛を見つめ続けた。
世一努力让自己不脸红,但这是徒劳的。他呆呆地继续凝视着凛。
「んだよ」 “怎么了?”
「なっなんでも?ありがと……」 “什么都能做?谢谢……”
蛇のように睨まれて曖昧に笑う。心臓が猛烈に血を吐き出していて世一は死にそうだった。
被蛇一般的眼神盯着,含糊地笑着。心脏剧烈地喷涌着血液,世一感觉自己快要死了。
ふと、青い監獄時代をかえりみる。 突然,回想起青色监狱时代。
凛ってこんなに優しかったっけ…おれだけにこんなに優しいのかな…と一瞬自惚れそうになるのを振り払い、今度こそ世一はご馳走に箸をつけた。
凛曾经这么温柔吗…只对我这么温柔吗…一瞬间差点自恋起来,但随即世一这次真的开始享用美食了。
「え!?ウニんまい!!」 「哎!?这是海胆!!」
「!?」 “!?”
世一は驚いた。トロッと溶けて、磯の香りと魚介独特の甘味が口に広がり、回転寿司の苦いウニとは大違いだった。これが本物の雲丹という食べ物なのだ。
世一感到惊讶。它柔软地融化,海边的香气和海鲜特有的甜味在口中扩散开来,与回转寿司中苦涩的海胆大相径庭。这就是真正的海胆的味道。
ハッと我に返る。きまずい気持ちで凛を見た。凛は手に箸を持ったまま、眉間に皺を寄せて手のひら返しの世一を凝視している。
我猛然回过神来,尴尬地看向凛。凛手里还拿着筷子,眉头紧锁,凝视着翻过来的世界第一。
時間にして数秒後。 数秒之后。
「はあーーーー…」とても大きな溜息をつき、凛はウニを世一のところへ戻してくれた。
“啊——”凛长长地叹了口气,把海胆放回了世界第一的位置。
「あっ、ありがとな!」と世一は恥ずかしいやら嬉しいやらで小さくはしゃぐことしかできなかった。
“啊,谢谢你!”世一既害羞又高兴,只能小声地欢呼。
二人は無言でモグモグと口を動かして海鮮丼をたいらげ、満足した顔で店を出た。言葉を忘れるほど美味しかったのだ。
二人默默地咀嚼着,将海鲜丼吃得一干二净,带着满足的表情离开了店铺。美味到让人忘记了言语。
これで凛が旅に求めていたことはほとんど終わった。マグロだけではない。他たくさんの最高の海鮮で優勝することができたので、もう言うことはなかった。
这样一来,凛在旅途中所追求的几乎都已达成。不仅仅是金枪鱼,还有许多其他顶级海鲜,已经无需多言。
世一に別に寄りたい場所があれば勝手に着いて行くつもりだったが、本人も十分堪能した気になったようで、「電車乗るか」と凛に一言促した。
如果世一还有想去的地方,本打算随意跟随,但似乎本人也感到十分满足,于是催促道:“去坐电车吧。”
関東に比べたらましではあるが、思っていたより十分暑い。駅でお茶を二本買って電車に乗り込む。凛はキャリーケースを引き、世一は大きな黒いリュックを背負っていた。車内は冷房がガッツリきいていて生き返るようだ。
虽然比关东地区好一些,但比想象中要热得多。在车站买了两瓶茶,然后上了电车。凛拖着行李箱,世一则背着大黑背包。车内空调开得很足,感觉像是活过来了。
世一は小さくロゴの入ったベージュのTシャツを、凛は黒無地のシャツを着ていた。
世一穿着带有小 logo 的米色 T 恤,凛则穿着黑色素色衬衫。
凛は、窓側の座席に背を預けると長い脚を組んで、スマホを眺め始めた。その様子を世一がじっと瞳に映している。
凛靠在窗边的座位上,翘起长腿,开始看手机。世一静静地注视着她。
「人間観察が趣味なのか、お前は」 “你是把观察人类当作兴趣吗?”
「えあっ、」 “呃,啊……”
じろりと凛に睨まれて、また、ごまかしの照れ笑い。凛は余計に表情を険しくした。
被凛狠狠地瞪了一眼,他又露出了掩饰尴尬的笑容。凛的表情变得更加严肃了。
「いや、なんか。凛だなあ…と思って」 “哎,总觉得。凛啊……”
「なんだそりゃ。言いたいことがあるなら言え」 “什么啊,那算什么。有话想说就说吧。”
「人のこといえねーだろ…」 “别人的事你管不着吧……”
「あ?」 「啊?」
「なんでもございません」 「没什么。」
凛は、同性でも見惚れるくらいにかっこいい。私服だとそれが際立って、モデルのスカウトが来ないのが不思議なほどだ(来てるのを世一が知らないだけかもしれない)。
凛非常帅气,即使是同性也会为之着迷。穿着便服时更是突出,奇怪的是竟然没有模特公司来发掘她(可能只是世一不知道而已)。
世界一に値すると言われたストライカー、糸師凛。 被誉为世界第一的射手,糸师凛。
彼の美しさに、世一は毎回ひそかに驚いているのだった。
世一每次都暗自惊叹于他的美丽。
圧倒的に完成されたプレースタイルへの憧憬。いちストライカーとしての殺意。自分の中の獰猛な愛憎で、凛を見つめてるだけでたまらない気持ちになるのだ。
对那压倒性完美球风的向往。作为射手所怀的杀意。仅是凝视着凛,内心那狂野的爱恨情感便无法自抑。
口が裂けたとて、うまく伝えられるかわからない。人を思う気持ちというのは、兎角複雑だ。
即使嘴巴裂开了,也不知道能否表达得好。思念人的心情,总是复杂的。
「…オフは、冴も帰ってきてんの?」 「…休息的时候,冴也回来了吗?」
「ああ」 「啊」
「共同生活できてるのか」 "能一起生活吗?"
「この前焼肉行った」 "之前去吃了烤肉。"
「え?家族で?」 "诶?和家人一起?"
「サシで」 「用杯子干杯吧」
「えっ急に仲良くなってない?怖…」 「哎?突然关系变好了?好可怕…」
「下手なホラーにもならねえ。壊れたもんが再構築されただけだ」
「连个糟糕的恐怖故事都算不上。只是坏掉的东西被重新构建了而已」
「そんなもんなの…」 「就是那样吧…」
列車はそこまで混んでおらず、都会を抜けると深い森にさしかかった。外はかんかんに晴れていて、窓のガラスごしでも緑が目に染みるようだった。
列车并没有那么拥挤,穿过城市后便进入了深邃的森林。外面阳光灿烂,透过车窗玻璃,绿色仿佛沁入眼帘。
二人はお互いの顔を見つめ合うこともなく、座席の右側の同じ窓を眺めていた。
两人并没有互相凝视对方的脸,而是默默地望着座位右侧的同一个窗户。
「ふたりでどんな話すんの?」 「你们俩聊什么呢?」
「普通」
「ずっとサッカーの話してそう」 「一直在聊足球吧。」
「俺も兄貴もサッカーのことしか知らない。それ以外は全部捨ててきた」
「我和哥哥只知道足球的事,其他的全都放弃了。」
次々に景色の移り変わる車窓は夏の肖像のようで、二人で同じ絵画を眺めているみたいだった。首をずらし、世一はそっと凛の横顔を確かめて、それからまた視線を戻した。
车窗外景色接连变换,宛如夏日的肖像,两人仿佛在共同欣赏同一幅画作。世一微微侧头,轻轻确认了凛的侧脸,随后又将视线移回。
「羨ましいな…」 “真羡慕啊…”
「…あ?」 “…啊?”
「そうやってサッカーのことだけ考えて生きてこれたのは、キョーダイがいたからだよな。きっと冴もそーだよ。凛がいたから本気で世界を目指したんだ」
「能这样一心只想着足球活到现在,是因为有京介在啊。冴肯定也是这样。因为有了凛,才认真地以世界为目标。」
「…知った口聞いてんじゃねーぞ」 「…别用那种知道的口吻说话。」
「うん。きっとそうだ。だって俺だって、もし凛みたいな弟がいたら、ずっと一緒にサッカーしたいって思う。だから、マジで世界一になるぞって、ブルーロックがなくても腹を決めてたかもしれない…」
「嗯。一定是这样。因为我也是,如果有像凛这样的弟弟,会一直想和他一起踢足球。所以,即使没有蓝色监狱,也许我也会下定决心要成为世界第一…」
お前らはすごいよ、と世一は眠たげに笑った。凛は変わらず車窓を見ていた。しばらくして言葉がなくなり、世一が船を漕ぎはじめた。特急とはいえ、移動時間はそこそこある。
你们真厉害啊,世一困倦地笑了。凛依旧望着车窗。过了一会儿,话语消失了,世一开始划船。虽然是特快列车,但移动时间还是相当长的。
凛は、世一の方へ少し体を寄せると、あどけなく眠る世一の頭を自らの肩に乗せてやった。体温がシャツ越しに伝わり、その重みは決して不快じゃない。
凛稍微将身体靠向世一,天真地睡着的世一的头轻轻地靠在了自己的肩上。体温透过衬衫传来,那份重量绝不令人不快。
それから、出来心で。自分の肩で眠る世一にスマホをかざし、一枚おさめた。
然后,出于一时兴起。凛将手机对准在自己肩上熟睡的世一,拍下了一张照片。
夏の肖像は次々に姿を変え、今度はのどかで雄大な町を映した。
夏日的肖像不断变换着姿态,这次映照出一个宁静而宏伟的城镇。
目的駅に到着し、凛と世一は別の電車に乗り換える。寝起きで口をムニャムニャさせている世一の腕と自分のキャリーケースを引いて、凛は次の電車を待った。平日の昼なのもあり、人はまばらだ。
到达目的地车站后,凛和世一换乘了另一辆电车。凛拉着刚睡醒、嘴巴还在嘟囔的世一的手臂和自己的行李箱,等待着下一班电车。因为是平日的白天,人并不多。
「お前、しっかりしてるよな。俺より年下なのに。クソ生意気なのも許せるわ」
“你真是可靠啊,明明比我年纪还小。连你的傲慢也能原谅。”
「上げるか下げるかハッキリしろ。うっとおしい」 「提高还是降低,明确一点。真烦人」
「いひひ」 「嘻嘻嘻」
世一は腑抜けた笑顔で声をもらした。 世一露出了颓废的笑容,发出了声音。
自分といるときの世一は、少しだけ子供っぽい。凛はそう思っていた。
和世一在一起时,他有时会显得有些孩子气。凛是这样认为的。
凛は己の短所をある程度自覚している。全方位に無愛想で口の悪いところが、逆に世一に余計な気を遣わせないのかもしれない。
凛对自己的缺点有一定程度的自知之明。她那全方位的不亲切和刻薄,或许反而让世一不会感到多余的顾虑。
世一は他人の気持ちや周囲の空気について標準より敏感な性質のようだ。それが彼のプレースタイルに大きく影響していることも、人望の厚さに繋がっていることも、凛はわかっていた。
世一似乎对别人的心情和周围的气氛比常人更为敏感。凛知道,这种敏感性不仅深刻影响着他的行为方式,也是他广受欢迎的原因之一。
だから、世一のこんな少しわがままな表情は自分だけのものなのかもしれない。そう思うと、少しだけ、気分がいい。
所以,世一这种略带任性的表情,或许只属于自己。这样想着,心情稍微好了一些。
凛の手が、さりげなく世一の腕を下に滑っていく。 凛的手不经意间从世一的胳膊下滑过。
「…どうしたの、凛」 “…怎么了,凛?”
「お前があんまりボケッとしてるんで迷子防止だ」 “你太呆了,这是为了防止走丢。”
「そこまでバカじゃねえよ…」 “我才没那么傻呢……”
キャリーケースの影で二人は手を繋いだ。世一は凛の黒い後頭部に目を細めて、こぼれるような笑いかたをした。
两人在行李箱的阴影下牵起了手。世一眯着眼看着凛黑色的后脑勺,露出了淡淡的笑容。
電車は滞りなくやって来、道を進むにつれて二人きりの実感が深くなっていく。
电车顺畅地驶来,随着前行,两人独处的实感逐渐加深。
地元では見れないような広大な野原が、窓を通して視界を圧倒する。
通过车窗,一片在本地无法见到的广阔原野映入眼帘,令人震撼。
駅に到着すると、徒歩で目的のカフェに向かった。四角いロッジのような作りだ。ロゴの入った清潔な硝子戸を引き、白いセメントで床を塗り固められた玄関を抜けた。
到达车站后,他们步行前往目的地咖啡馆。咖啡馆的外观像一座方形的小屋。推开印有 logo 的干净玻璃门,穿过用白色水泥涂抹坚固的入口,进入了店内。
「いらっしゃいませー」 「欢迎光临」
カフェのレジ兼受付には、キチンとした印象の女性が立っていた。染めているかと思うほどの真っ黒い髪の毛を首の後ろで結っていた。世一は少し緊張しながら話しかけた。
在咖啡馆的收银兼接待处,站着一位给人整洁印象的女性。她将一头黑得仿佛染过的头发在脑后扎起。世一略带紧张地搭话道:
「予約してたイサギです」 「我是预约了的伊佐木」
「糸師で予約してる」 「在糸师那里预约了」
「アッ、イトシです」 「啊,是糸师」
「お待ちしておりました。お部屋のご説明をするので奥へどうぞ。お荷物はお部屋へお届けしておきますので」
「久候多时了。我来为您说明房间,请往里走。您的行李会送到房间里」
白っぽい茶のフローリングと、ヒノキと漆喰で構成された壁。高めの天井にはシーリングファンがゆっくりと回っていた。同地区の家具屋から取り寄せているらしい頑丈な木のテーブルに通されて、ソファに腰を下ろした。大の男ほどの高さがある窓からは、どこまでも広がる雪色の花畑がよく見えた。ウェルカムドリンクに二人とも冷たい緑茶を頼むと、底の丸くてグラグラ揺れるガラスコップに真緑の水が注がれてやってきた。金平糖の形をした氷が浮かんでいて、世一は小さく感動する。
白色的茶色地板,以及由扁柏和石灰构成的墙壁。高高的天花板上,吊扇缓缓转动。坐在从当地家具店订购的坚固木桌上,我被引导到沙发上坐下。从高大的窗户可以看到无边无际的雪白色花田。我们两人都点了冷绿茶作为迎宾饮料,随即一个底部圆润、摇晃不稳的玻璃杯中被倒入了深绿色的水。形状像金平糖的冰块漂浮其中,我感到一丝小小的感动。
受付とは違う、オーナーらしい壮年の女性がやってきた。
一位看似是业主的中年女性走了过来,与前台不同。
「この度ははるばる遠いところからお越しいただきありがとうございます。こちらの注意事項を踏まえてお過ごしください。10分後、宿まで車でお送りしますので、それまでドリンクをお楽しみください」
“这次您远道而来,非常感谢。请根据这里的注意事项享受您的时光。10 分钟后,我们将用车送您到住宿处,在此之前请尽情享用饮料。”
糸師家族の承諾書を前に差し出し、凛と世一二人して頷く。
在糸师家族的同意书前递交,凛和世一两人郑重地点头。
未成年の男子ふたりの自分達がどのように見られているのか、しかも二人とも世界的なサッカー選手で、顔が知られていてもおかしくないのに、オーナーたちは全く反応しない。きっと家族連れにもカップルにも全く同様に接しているのが容易に想像できた。
两名未成年男子,他们都是世界级的足球运动员,即使脸被认出来也不奇怪,但店主们却完全没有反应。可以轻易想象到,他们对待家庭和情侣也一定是完全一样的态度。
ありがたいことだった。 真是感激不尽。
口にした緑茶は日本の夏の味がした。 喝下的绿茶让我感受到了日本的夏日味道。
◆
凛が予約したコテージは、お屋敷と言っても差し支えないくらい大きな木造建築だった。例えるなら、森の教会のようだった。
凛预订的小屋,可以说是一座宏伟的木造建筑,称之为庄园也不为过。打个比方,它就像森林中的教堂一样。
耐久性のありそうなガラス扉の向こうには土間が続いており、左側は大きな窓、右側の板間にはソファと本棚が設置された談話ルーム、照明の賑やかなダイニングキッチン、その向こうに階段が見えていた。土間はダイニングキッチンのあたりで尽きており、その先の板間にもソファと窓があって、土地の大自然を眺められるようになっていた。
看似耐用的玻璃门后面是土间,左侧有大窗户,右侧的板间设有沙发和书架的谈话室,照明明亮的餐厅厨房,再往里可以看到楼梯。土间在餐厅厨房附近结束,前方板间也设有沙发和窗户,可以眺望土地的大自然。
板間は明るく優しい茶色をしていて、夕暮れ時のやわらかい光でしとやかに輝いていた。
板间呈现出明亮而温柔的茶色,在黄昏时分的柔和光线下,显得温婉而闪耀。
世一は顔をパッと明るくし、飛ぶ勢いで全部の部屋を見に行った。まず、「綺麗!お風呂すごい!石と木でできてる!なんだっけこれ枯山水!?どうぶつの森で見た!」と叫び、二階に駆け上がっては、「ベッドでっか!え、部屋何個ある!?二人じゃ使いきれねえよ!一週間居たい!」とかなんとか。つまり、かなりはしゃいでいた。
世一一下子把脸亮了起来,飞快地跑去看所有的房间。首先,他大喊:“真漂亮!浴室太棒了!是用石头和木头做的!这是什么来着,枯山水!?在《动物森友会》里见过!”然后他冲上二楼,喊着:“床好大!哎,有几个房间!?两个人用不完啊!想在这里住一个星期!”总之,他非常兴奋。
そんな世一を真顔で眺めながら、凛はとなりのトトロを思い出していた。
凛一边认真地看着那本《世界一》,一边想起了旁边的龙猫。
「うっせーぞ潔」 “吵死了,洁!”
「いや…お前が落ち着きすぎなんだよ!!もうちょっとはしゃげよ!!ほら見ろ!これプロジェクターじゃん!寝ながら映画見れるぞ!うわっすげえあらゆるサブスクが揃ってる」
“不……是你太冷静了!!再兴奋一点吧!!看啊!这是投影仪啊!可以躺着看电影!哇,太厉害了,各种订阅服务都有!”
「本当にうるせえ……」 “真的好吵……”
まあ、凛も自分が選んだ宿についてここまで喜んでもらえるのは悪い気分ではない。
嘛,凛能对自己选择的住处如此高兴,倒也不坏。
世一が落ち着いたのは約三十分後のことだった。二人ともここに来て料理する気は皆無だったので、夕食のケータリングサービスを頼んでいた。
世一平静下来大约是三十分钟后的事了。两人都没有在这里做饭的心情,所以预订了晚餐的送餐服务。
時間の流れや社会生活を忘れるためか、テレビや時計はない。世一はごそごそとリュックの中身を出し始めた。
为了忘记时间的流逝和社会生活,这里没有电视和时钟。世一开始翻找背包里的东西。
「凛、UNOやる?時間あると思ってさー」 “凛,玩 UNO 吗?我觉得还有时间。”
「二人だぞ持ってくるもの考えろ」 “只有两个人啊,你得考虑带什么来。”
「いや意外と楽しいかもしれないしやろーぜ」 “不,说不定还挺有趣的,试试看吧。”
そんな感じで適当に遊んでいたら夕食がやってきた。 就这样随意地玩着,晚餐时间就到了。
金額がそれなりなこともあり、海の恵みをつかった小鉢3種、牛ヒレ肉のステーキ、ふぐの唐揚げ、冷たいコーンスープ、ギザギザしたフライドポテトなど絶品のものがドカドカと運ばれてくる。結構な量ではあったが、これも二人は綺麗にたいらげた。
由于价格不菲,各种使用海产的小碗菜、牛里脊肉牛排、炸河豚、冷玉米汤、带棱的炸薯条等美味佳肴纷纷上桌。虽然量不少,但两人还是吃得干干净净。
締めの北海道味噌ラーメンをすすっていたところ、「あ、そうだった」と世一はナプキンで鼻水を拭いながら言う。
世一一边用纸巾擦着鼻涕,一边说:“啊,对了。”这时他正在享用北海道味噌拉面作为结尾。
「凛、見たぞこの間の試合。華麗なハットトリック決めてたな。記事にまでなってたじゃん」
「凛,我看了你上次的那个比赛。你那华丽的帽子戏法真是太厉害了,连新闻都报道了呢。」
「あんなん獲らせてもらったよーなもんだ」 「那只是运气好,碰巧得了而已。」
「ほー、珍しく謙虚」 「哦?难得你这么谦虚。」
「うっせ。てめーこそぬるいプレーしたら殺す」 「吵死了。你敢松懈我就杀了你。」
「はは。そりゃこっちの台詞だ。同じピッチに立った時は世界一の座から引き摺り下ろしてやるよ」
「哈哈。那可是我的台词。站在同一个投手丘上时,我会把你从世界第一的宝座上拽下来。」
「世界一?俺がか?」 「世界第一?我吗?」
「あ?あ、うん」 “啊?啊,嗯。”
ふうふうとラーメンに息をかけるとバターの香りが立ち上った。
他对着拉面吹气,黄油香气随之升腾。
世一は、凛ほどラーメンを綺麗に食べる男を見たことがない。啜っているのに汁が一滴も飛んでないんじゃないかと思った。
世一从未见过像凛这样吃拉面如此干净利落的男人。他吸食时,汤汁仿佛一滴也未溅出。
「世界一に値するストライカーだとかマスコミに持て囃されてるだけだ。俺はもう糸師冴の弟なだけじゃない。でも、世間は一生、俺と兄貴を比較するだろうな。常に世界とも比較してくる。潔世一とかいうバカが見せたサッカーを夢見て次々に若手も出てくる。そんな中、世界一なんて、誰かがそう言いたきゃ勝手にそう呼ばれる。そんなぬるいもの、俺は最初から求めちゃいない」
“被媒体捧为世界一流的前锋,不过如此。我不仅仅是糸师冴的弟弟。但世人会一辈子拿我和哥哥比较吧。总是连世界都拿来比较。梦想着洁世一那种傻瓜展示的足球,年轻球员一个接一个涌现。在这样的环境中,所谓世界第一,谁想这么称呼就随他们去吧。那种软弱的东西,我从一开始就不追求。”
麺を吸い込み咀嚼しては、スープに目を落としながら静かに喋る凛。そんな彼を世一はレンゲ片手に眺める。
一边吸入面条并咀嚼,一边将目光投向汤中,静静地说话的凛。世一一手拿着筷子,注视着这样的他。
「じゃあ、お前が求めてるのはどんなものなんだ?」世一はしんと尋ねた。
“那么,你追求的到底是什么?”世一静静地问道。
打って変わり、凛は剣呑なまなざしで世一を見た。穏やかだった空気が灯火のように吹き消え、自分達が戦場にトリップしたかと錯覚する。
凛以凌厉的目光盯着世一,气氛瞬间从平静变得如灯火般熄灭,让人误以为自己置身于战场之中。
「忘れたのか。W杯で俺達は負けた。たった一瞬の運。だがどうしようもねえ結果だ。他の国を全部ブチ負かして、てめーもブッ潰す。それが俺の求める世界一だ」
“你忘了吗?我们在世界杯上输了。仅仅是一瞬间的运气。但那是一个无法改变的结果。我要击败所有其他国家,彻底击溃你。那才是我追求的世界第一。”
世一の脳に、嵐のような風が吹き抜けた。夏に似た明るい暴風だ。
世一的脑海中,仿佛刮过了一场夏日的明亮风暴。
フィールドの破壊者、糸師凛。支配者の世一さえ喰うか喰われるかわからぬ化け物。
球场破坏者,糸师凛。连支配者世一也无法确定是他吞噬对方还是被对方吞噬的怪物。
脳髄から、脊髄から、骨の髄から興奮する。自分達ふたりは、世界を舞台にこれからもエゴをぶつけあっていくのだ。
从脑髓到脊髓,再到骨髓,都兴奋不已。他们两人,将以世界为舞台,继续碰撞各自的自我。
世一はキュッと目を瞑った。 世一紧紧闭上了眼睛。
「……突然どうした」 “……突然怎么了?”
「俺、嬉しくて…」 “我,很高兴……”
「は?」 “啊?”
少しして、彼は弾けたように大きな目を見開いた。微塵も怯まぬ勝ち気な笑顔。世一はしんから楽しそうに凛を睨んだ。
过了一会儿,他仿佛突然醒悟般睁大了眼睛。毫无畏惧的自信笑容。世一打心底里愉快地瞪着凛。
「凛、俺もお前を全力で潰しにやってやるよ。首洗って待っとけ」
“凛,我也会全力以赴地打败你。洗干净脖子等着吧。”
「雑魚ほど元気によくほざく」 “越是杂鱼越爱乱叫。”
「あ?誰が雑魚だ。日本サッカーの客寄せパンダが…」
「什么?谁是杂鱼。日本足球的招揽观众吉祥物可是…」
「客寄せパンダはてめーだ潔」 「招揽观众吉祥物就是你这家伙,洁」
一触即発。
二人はサッカーでしか繋がれない。 二人只能通过足球联系在一起。
そんなことを裏付けるような口喧嘩の火蓋が切って落とされたように思われた。
感觉像是为那件事提供了证据,激烈的争吵一触即发。
世一は糸に吊られたようにラーメンの碗を持ち上げ、喉を鳴らしてスープを完飲した。豪快な音を立ててどんぶりを置き、口を拭いては記憶喪失したみたいな無邪気な声で言った。
世一像被线吊着一样举起拉面碗,咕噜咕噜地喝完了汤。豪爽地放下碗,擦了擦嘴,用一种像是失忆般的纯真声音说道。
「マジでうまかったな。少し食休みしたら外でも走るか」
“真的很好吃啊。稍微休息一下,再到外面跑跑步吧。”
「…朝にしとけ。本気で遭難する」 “……早上再说吧。真的会遇难的。”
「確かに山を舐めるなって言うしな。じゃあぼちぼち風呂でも入れるか」
“确实不能小看山啊。那我去泡个澡吧。”
◆
石造りの風流な湯船は、温度を設定するだけで勝手に湯を張ってくれるようだった。
石制的雅致浴池,似乎只要设定好温度,就会自动放水。
湧き上がるまでのあいだ、凛と世一には沈黙が続いた。UNOの続きをやるでもない。映画を見るわけでもない。ケータリングの片付けにオーナーが来てくれたことが救いでさえあった。
在热水涌出之前,凛和世一之间一直保持着沉默。既没有继续玩 UNO,也没有看电影。连店主来帮忙收拾餐饮用具都成了一种慰藉。
やがて、お風呂が沸き上がった。 不久,浴缸里的水烧开了。
「凛」
「ああ」 “啊。”
「風呂沸いたけど」 “浴缸水烧好了,但是”
「俺は後にする」 “我待会儿再洗”
「いやそうじゃなくて」 “不,不是那个意思”
妙にもじついている世一に凛は片眉を上げた。 对世一那莫名其妙的举动,凛挑起了一边的眉毛。
凛は談話スペースで優雅に脚を組みながら本を読んでいた。題名は『山の怪奇・伝承物語』だった。
凛在谈话区优雅地翘着腿,正读着一本书。书名是《山中怪奇·传承故事》。
「なんだよ」 “什么啊?”
「一緒に入るか?なんつって」 “一起进去吗?开玩笑的。”
両手をパッと顔の横に広げておちゃらけて見せる。 他双手啪地一声在脸旁张开,做出一副开玩笑的样子。
「…………」 “…………”
本を取り落とすほどのことでもないが、凛は世一の取り繕った笑顔を眺めたまま、しばらく黙った。
虽然并没有严重到会让人把书掉落,但凛一直凝视着世一那掩饰性的笑容,沉默了一会儿。
ブルーロック時代は共同生活で、たまたま大浴場で居合わせたこともあった。そもそも同性だし、恥ずかしいことは何もない。
蓝锁时代我们曾共同生活,偶尔也会在大浴场碰面。毕竟都是同性,没什么好害羞的。
だが、そのときはそのときだ。今はキスの先を意識しているし、そもそもはその先を目的として泊まりがけの旅行を計画したのだ。世一からのお誘いであることは明白だった。
但是,那时候是那时候。现在我意识到了接吻之后的事情,而且原本就是为了那个目的才计划了这次过夜旅行。很明显,这是世一的邀请。
世一はふざけて誘ってみたものの、今や真っ赤になってほとんど涙目になっていた。(失敗した〜〜!!)と思っているのは明白だった。
世一虽然开玩笑地邀请了我,但现在脸红得几乎要哭出来了。(失败了~~!!)他这么想是显而易见的。
「男二人が入れるほど広くねーだろうが。バカ言ってないでさっさと入れ」
“这地方哪有能容纳两个男人的空间啊。别胡说了,快进去。”
「……うん」 “……嗯。”
無理矢理入ればそうでもないのだけれど、世一はそれを凛のノーのサインだと思って、崖から突き落とされたように落胆してしまった。しかも、すごく恥ずかしい。もう涙が零れ落ちる寸前だ。
虽然强行挤进去也不是不行,但世一以为凛的沉默就是拒绝的信号,像被从悬崖上推下去一样感到失望。而且,非常羞耻。眼泪几乎要掉下来了。
しかし凛は本に目を落としながら続けた。 然而凛一边低头看书,一边继续说道:
「風呂でなんか抱けるか。ベッドまでいい子で我慢しろ」
“在浴室里怎么能抱呢。乖乖忍到床上吧”
と、ほとんど本の内容が頭に入っていない状態で言った。何回も同じところを読んでいたし、世一がほぼ泣いているのも分かっていたけど、気づいてないふりをしてあげるのが精一杯だったのだ。
她几乎没把书的内容看进去,说了这番话。她多次重复读着同一处,也知道世一几乎要哭了,但她只能尽力装作没注意到。
凛の頬が包まれ、不意に掬い上げられる。本を眺めていたから世一が接近していたのに気づけなかった。瞳の大きな、熱っぽい顔がせまる。
凛的脸颊被包裹,突然被捧起。因为一直在看书,所以没有注意到世一已经靠近了。那双大眼睛、热情的脸庞逼近过来。
二人を遮るものはもう何もなかった。 阻挡两人的东西已经什么都不剩了。
世一の唇が、ちゅうっと凛に吸い付いた。 世一的唇,轻轻地吸住了凛的唇。
バサリと落ちる本。 重重落下的书本。
ベッドまで我慢しろと言ったのは凛だったのに、世一をソファに押し倒して、口で性交するように舌をねじ込んだ。Tシャツの柔らかい生地の上から、世一の身体を手のひらでなぞる。少しも運動していないはずが、凛の息も世一の吐息も、ふうっ、ふうっと上がっていた。腿に当たる感触に世一はもっと顔を赤らめた。
明明是凛让世一忍耐到床上去,自己却将世一推倒在沙发上,用舌头强行进行口交。她隔着柔软的 T 恤面料,用手掌抚摸世一的身体。两人都没有进行任何运动,但凛的呼吸和世一的喘息都越来越急促。世一感受到腿部的触感,脸更加红了。
「…す、すご…マジで、俺に勃つんだ…凛…」 「…真、真的…我硬了…凛…」
「悪いか」 “对不起啊”
「ん。嬉し……」 “嗯。高兴……”
「…昼、手繋いだ時も、…」 “……白天牵手的时候也是,……”
「、」 “嗯。”
耳に直接凛の声。 耳边直接传来凛的声音。
処理しきれない情報の熱に世一の頬がひくっと震えた。
无法处理的信息热度让世一的脸颊微微颤抖。
自分からけしかけた癖に、少年らしさを残しつつも既に色男の頭角を表す凛の容貌が目の前にあるのと、彼の欲望の深さがわかって、世一の腰はがく、がく、と震えていた。
尽管保留着少年的特质,但凛那已经显露出色男头角的容貌就在眼前,世一感受到了他的欲望之深,腰部不由自主地颤抖起来。
めざとく凛がそれに気づく。 凛敏锐地察觉到了那一点。
「…怖いのか」 「…害怕吗?」
「ち、ちがう、」 「不、不是的,」
「……」
「俺、ちゃんと準備してきたんだっ、」 “我,我可是好好准备了的,”
沈黙した凛に世一が小さく叫んだ。「は」凛は目を丸くして数回瞬きした。世一は視線を横に逸らす。目に水の膜がはっていて、涙が溢れるかと思ったが、ぎりぎり溢れない。眉を吊り上げてスンスン鼻を鳴らしながら白状した。
世一对着沉默的凛小声喊道。“啊?”凛瞪大了眼睛,眨了几下。世一把视线移开。眼眶里泪水盈盈,差点就要溢出来,但勉强忍住了。他挑起眉毛,哼哼着鼻子坦白道。
「う、後ろでオナニーして、いっぱい、練習してきた……だ、だから、もうすぐ凛のもらえるって思うと身体が、」
「呃,我在后面自慰,练习了很多次……所以,一想到马上就能得到凛,身体就……」
「…………」
「ッおい黙るなよ!喜べよ!こっちはお前にぐちゃぐちゃにされたくて来たんだぞ!引いたら…、引いたら殺す……」
「喂,别说话了!高兴点!我可是为了被你弄得一团糟才来的!要是退缩了……退缩了就杀了你……」
世一は腕で目を隠した。泣いているのか。羞恥が限界だったのか。いずれにせよ、この世一の一連の仕草は、凛の欲情を烈しく炎上させた。
世一用手臂遮住了眼睛。是在哭吗?还是羞耻感到了极限?无论如何,世一这一连串的动作,让凛的欲望更加炽烈地燃烧起来。
凛はフッと幽霊のように立ち上がった。 凛突然像幽灵一样站了起来。
ついに引かれた?そう思って、力無い声が彼を呼ぶ。 终于被吸引了吗?她这样想着,用无力的声音呼唤他。
「りん……」 “凛……”
「先に入る。クソッタレが……」 “先进去。混蛋……”
キャリーケースからめいめいのものを引っ張り出して部屋の奥に行く。
从行李箱里各自拿出自己的东西,走向房间深处。
「ちゃんとぐちゃぐちゃにしてやるからそのつもりで来い」
“我会好好弄得一团糟,所以做好心理准备再来。”
突き放すような言い方の癖に、言葉にはじんと火傷するような熱さがあった。
虽然说话方式有些冷淡,但言语中却有着灼热得让人心头一颤的热情。
世一は唇をキュッと噛み、どうしようもなくなってその辺のクッションをこれでもかという力で抱きしめた。
世一紧咬着嘴唇,感到无助,便用力抱紧了身边的靠垫,仿佛要用尽全力。
談話スペースの目の前に大きな窓がある。暗いガラスは鏡のように世一を反射した。自分の顔が見たことない表情をしていて、世一はいっそういっそう凛が欲しくなった。
谈话空间前有一扇大窗户。昏暗的玻璃像镜子一样映出了世一的身影。看到自己脸上从未有过的表情,世一更加渴望凛的出现。