刀剣乱腐Web再録_【Web再録】狐の戯れ・完全版
刀剑乱舞 Web 重录【Web 重录】狐之戏·完整版
RawTitle:【Web再録】狐の戯れ・完全版
RawTitle:【Web 重录】狐之戏·完整版
Date:2017-09-08 Length:115476
日期:2017-09-08 长度:115476
Name:むづき(https://www.pixiv.net/users/496960)
Source:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8642684
Tags:[R-18, 小狐三日, こぎみか, 刀剣乱腐, 小狐丸, 三日月宗近, なにこれ素敵, 刀剣乱腐小説300users入り]
标签:[R-18, 小狐三日, こぎみか, 刀剑乱舞, 小狐丸, 三日月宗近, 這些很棒, 刀剑乱舞小说 300 用户加入]
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标题:
お詫び:
致歉:
完全版と銘打っておきながら最後の部分を掲載し忘れていました!
虽然说是完整版,却忘了上传最后的部分!
9/26に最後の部分を追加しました。
已于 9/26 日添加了最后的部分。
本として出していた『狐の戯れ』をそろそろ掲載しようかと思います。
我们打算将之前以本形式出品的《狐之戏戏》发布上来。
これまでこちらに掲載していた分も含めた、小狐丸視点の入った物です。
这些内容包括之前在这里发布的,以及从小狐丸视角出发的内容。
ホラーなままで楽しみたい方は過去掲載分だけでお楽しみいただいた方がいいかもしれません。
如果您想保持恐怖的氛围并享受乐趣,那么可能最好只欣赏过去的发布内容。
こちらも『狐への嫁入り』『依存』同様、再版の予定は無いけど再版希望が多かった物です。
和《狐之嫁妆》、《依存》一样,这本书也没有再版的计划,但再版的希望很多。
紙媒体で欲しいと仰って頂いた方々には申し訳ありませんが、データ掲載でなにとぞ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
对那些希望在纸媒上看到内容的人来说很抱歉,但为了数据展示,无论如何都请谅解°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
孕ませ出産ネタがありますので苦手な方は回れ右!
有关于怀孕分娩的内容,如果对此感到不适,请绕行!
好き好んで地雷原に踏み込む奴は木端微塵になっても知らないぞ!
明知是雷区还故意踩进去的人,就算粉身碎骨也不知道悔改!
というわけで、誤字脱字は相変わらず特に修正していませんが、とりあえず本にした時にうっかり間違えて書いた光忠の一人称を『俺』から『僕』にだけ変更しましたww
所以,错别字还是一如既往地没有特别修改,但至少在成书时,不小心把光忠的第一人称从“俺”改成了“我”而已哦 w
なぜ一人称間違えるのかまったくもー!!
为什么会犯人称错误啊!!!
【BOOTH入荷】再版はありませんので倉庫にある分で終了です。
【BOOTH 到货】没有再版,库存数量结束。
桜舞うまで:<a href="https://garasu-ageha.booth.pm/items/618079" target="_blank">https://garasu-ageha.booth.pm/items/618079</a>(サンプル:<strong><a href="pixiv://novels/5104671">novel/5104671</a></strong>)
樱花飘落之前:https://garasu-ageha.booth.pm/items/618079(样本:novel/5104671)
こぎみか二人旅本・全編収録
两人旅行笔记·全篇收录
月雫:<a href="https://garasu-ageha.booth.pm/items/618072" target="_blank">https://garasu-ageha.booth.pm/items/618072</a>(サンプル:<strong><a href="pixiv://novels/8275288">novel/8275288</a></strong>)
月霰:https://garasu-ageha.booth.pm/items/618072(样本:小说/8275288)
みかみか本・みっかみかにしてあげる!再録含
みかみか本・みっかみかにしてあげる!再录含
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学校の帰り道。
学校的回家路上。
山の中に古い社がある場所がある。
山中有个古老的神社所在地。
色の落ちた鳥居があるその前の道を通って帰る俺にとっては、見慣れた場所。
那里有个褪色的鸟居,我走过那条路回家,对我来说是个熟悉的地方。
そこで、変わった人を見かけた。
在那里,我遇到了一个与众不同的人。
じわじわと蝉の鳴く声が聞こえてくるだけで、茹だるような暑さを感じる季節。
只能听到蝉鸣声,就能感受到那种令人窒息的炎热,这是蝉鸣声的季节。
この暑い日に幾重にも重ねた着物に、白くて長い髪。
在这炎热的天气里,层层叠叠的和服,长长的白发。
鳥居の向こうに立って道行く人を見ているのかただぼんやりしているのか、何をするわけでもなく軽く腕を組んでいるだけの男。
静静地站在鸟居对面,看着过往行人,或者只是漫无目的地,只是轻轻搭着肩膀的男子。
ここ数日、帰る頃には必ず立っているその人は、特に誰かに声をかけるわけでもなく、いつも同じ場所にいた。
近几天,每天回家时都会站在那里的那个人,并没有特别和任何人打招呼,总是站在同一个地方。
そしてこの日、何度目か見かけたその人と目が合った気がして軽く会釈をした。するとその人は驚いたように目を大きく見開いて俺を見つめてきた。
然后,就在这一天,感觉和那个见过几次的人对视了,就轻轻地点了个头。结果那个人惊讶地睁大了眼睛,注视着我。
外国人だろうか。目が真っ赤だと気づいた。
看起来是个外国人。注意到他的眼睛通红。
吸い込まれそうな紅い瞳から目を逸らすことが出来ず、自然と足が止まる。
无法从那双仿佛能吸人的红色瞳孔中移开目光,自然而然地停下了脚步。
部にも所属していない俺以外には人もいない夕方。
除了不属于任何部门的我自己,傍晚时分没有其他人。
白い髪が夕日の光を受けてきらきらと輝いて見えた。
白色的头发在夕阳的照射下闪闪发光。
次の瞬間、その人はにこりと微笑んで手招きをした。
下一个瞬间,那个人微笑着伸出手示意。
知らない人について行ってはいけない。小学生でも知っていることだが、何故か俺はその動きに逆らえず、一歩、また一歩と鳥居に、否、その白い人に近づいた。
不要跟不认识的人走。这是连小学生都知道的事情,但不知为何,我却无法抗拒那种冲动,一步又一步地靠近了鸟居,不,是那个白色的人。
鳥居を潜り、子供の頃遊び場にしていた石段に踏み込む。
躲过鸟居,踏上了曾经是孩子们游乐场的石阶。
この辺りの子供達は、この山を遊び場にしていることが多い。最近はゲームにネットにと外で遊ぶ子供は減ったようだが、俺は幼馴染達とよくここで駆け回っていた記憶がある。だが、思えばそういう時以外にここに踏み込むことはなかったかもしれない。
这里的孩子们经常把这座山当作游乐场。最近,似乎在外面玩耍的孩子减少了,但我记得我和我的小伙伴们经常在这里奔跑。但回想起来,除了那种时候,可能我很少会踏进这里。
定期的に誰かが掃除しているのであろうそこは、駐在している管理者がいるわけでもなくただただ寂れている。
那里似乎有人定期打扫,但并没有驻扎的管理员,只是空荡荡的。
そんな所に一人立つ彼は、もしかしたらここの管理をしている人なのだろうか。
在那样的地方独自一人,他或许是这里的管理者吧。
適当なことをぼんやりと考えている俺の手を取った彼は、にぃ、と口の端を歪めて笑うと俺の手を引いて少し奥まった場所にある祠の前まで移動した。
他握住我漫无目的地胡思乱想的手,嘴角微微上扬,笑着拉着我走到稍远处的神社前。
そこにも小さめの鳥居があり、更に奥には小さな祠と、ここで遊ぶ子供達なら誰でも知っている洞穴がある。洞穴といっても、子供が屈んで入れる程度だ。元は何かをお供えする場所だったのかもしれないそこは、すっかり子供達のかくれんぼの定番の場所となっている。
那里有小型的鸟居,再往里还有一个小神社,以及孩子们都知道的洞穴。洞穴虽小,但足以让孩子们弯腰进入。那里可能曾是供奉物品的地方,现在却成了孩子们捉迷藏的固定场所。
こんな場所でなんだろうかと見上げると、祠の前の鳥居に背を押し付けられ、同時に顎を捉えられた。
在这样的地方抬头看去,被推到祠堂前的鸟居后面,同时下巴被抓住。
間近に長いまつげに縁取られた紅い瞳が迫り、宝玉のような美しさに思わず見惚れてしまった。顎にかかる指先に、微かな力が篭められたのを感じた次の瞬間、俺の顔は彼の顔を見上げるように少しだけ持ち上げられた状態で止められた。
近处,被长长的睫毛包围的红眼睛逼近,不由自主地被那宝石般的美貌迷住了。感觉到指尖上微妙的力道,下一刻,我的脸被微微抬起,停在了仰望他的位置。
軽く上向かされたと思ったら、重ねられる唇。驚いて目を見開くも、何故か声は出ず、身体も動かなかった。いや、その表現は正しくはない。声を出そうという意思も、跳ね除けようという意思も、浮かんでこなかったのだ。
以为只是微微上升,却感受到嘴唇的接触。惊讶地睁开眼睛,却为何说不出话来,身体也无法动弹。不,这种说法并不准确。想要发声的意志,想要逃避的意志,都没有浮现出来。
おとなしくしているのをいいことに、男は俺の唇を思うさま貪り、何度も角度を変えてより深く口腔を蹂躙した。
因为表现得安静,男人开始贪婪地亲吻我的嘴唇,不断变换角度,更深地蹂躏我的口腔。
ぬるりと温かい舌の感触が這い回り、舌を絡めるだけでなく上顎をくすぐり、歯列をなぞり、頬肉をもゆっくり味わっているのがわかって、耳の後ろがちりちりとくすぐったいようななんとも言えない感覚に襲われた。
舌尖上温热的触感蔓延开来,不仅仅是缠绕着舌头,还轻轻挠弄上颚,滑过齿列,慢慢品味脸颊的肉,突然感到耳后一阵酥痒,难以言喻的感觉袭来。
湿った音が喉奥に流し込まれる錯覚に、いつの間にか目を閉じてうっとりと身を任せていた。
在一种错觉中,湿漉漉的声音灌入喉咙深处,不知不觉中,我闭上眼睛,沉醉地任由身体放松。
どれほどそうしていただろう。酸欠でぼんやりする俺の呼吸が乱れるのも構わずに続けた彼は、唇を重ねたまま俺の腰に手を回してゆっくり服越しに撫で始める。汗ばんで張り付いたシャツが擦れる感触。
即使我的呼吸因为缺氧而变得模糊不清,他也不在乎,继续将嘴唇贴合在我的腰上,慢慢地穿过衣服抚摸,汗湿的衬衫摩擦的感觉。
不快なはずのそれは、どういうわけか俺の身体を熱くした。
那本应是不愉快的,却不知为何让我身体发热。
途端に、腰に重い熱が溜まり始めた気がして呼吸が余計に苦しくなった。
感觉腰间开始聚集一股沉重的热气,呼吸也变得愈发困难。
ぎゅっと着物を縋るように握ると、ようやく唇を放した彼は顎を伝った唾液をべろりと舐め取り、俺の額に一度口吻けて身体を離した。
他紧紧握住和服,终于松开了嘴唇,舔了舔从下巴流下的唾液,然后在我额头上轻轻一吻,转身离去。
かと思うと、また意味深な笑みを浮かべ、そのままどこかへ行ってしまった。
然而转瞬间,他又露出了意味深长的笑容,然后径直走开了。
ずるりとその場に座り込んだ俺は、呼吸を整えるのに必死で、結局今のはなんだったのかとか、あの人は誰なんだろうとか、そんなことも訊けずにいたのだ。
我笨拙地坐在那里,拼命调整呼吸,最终也没有弄清楚这是怎么回事,那个人到底是谁。
*
「…なんだったんだろう」
“那究竟是什么呢?”
家に帰ってもそのことばかりが頭を占める。
回到家后,那句话一直占据着我的脑海。
白昼夢と片付けるには余りにもリアルだった。
那个白日梦太过真实,以至于难以整理。
座り込んだ時に汚れたズボンが、あれは夢ではなかったと言っているようで余計に複雑な気分になる。
坐下来时,那双脏兮兮的裤子仿佛在说这不是梦,让我更加心情复杂。
そしてなにより、唇にはしっかりと散々吸われた感触が残っていた。
然而更重要的是,嘴唇上留下了被狠狠吸过的感觉。
情熱的な口吻けに蕩けるような心地だったのを、嫌でも記憶がしっかりはっきり鮮明に覚えてしまっているし、それを否定できる自信が残念ながら今の俺にはない。
虽然不愿意,但那热情的口吻和融化般的感觉依然清晰地刻在记忆中,遗憾的是,我现在没有否认它的自信。
男に唇を奪われた衝撃が後になって襲ってきたが、今更騒いだって遅い。そんなことよりも今ショックなのは…
被男人夺走嘴唇的震惊后来袭来,但现在再闹也晚了。比起这些,现在更令人震惊的是...
「………熱い…」
“………热……”
身体が熱い。
身体很热。
どう考えても、これは、あれだ。
想来想去,这肯定是那个。
これでも思春期の男子だ、この現象が何なのかわからないわけではない。
即使是青春期男孩,对这种现象也不陌生。
じわりと股間が熱を持っているのを感じて複雑な気分になった。だって、このタイミングでこれは、要するにさっきのあの行為ですっかりその気になってしまっているということだろうと、いかなこの手のことに鈍いと同年代の知人友人にからかわれる俺でもわかる。
慢慢地感觉到大腿间发热,心情变得复杂。毕竟,在这个时候,这大概就是刚才那件事让我完全陷入那种状态了吧,即使是像我这样在这方面反应迟钝的人,也能理解同龄的熟人朋友为什么会取笑我。
両親はとうの昔に他界し兄弟もいない俺は、適度に距離を置いた叔父夫婦を保護者としているが、実際は金と必要な時の『保護者』の名前が出されるばかりでそれ以上のことなど何もない。
父母早已去世,兄弟也无,我虽然将适度保持距离的叔父叔母当作监护人,但实际上,只有金钱和关键时刻的“监护人”之名才会被提及,除此之外再无其他。
一人暮らしのこの部屋では、別におっ勃てていようが困りはしないが、これは精神衛生上大変よろしくないだろう。
在这个独居的房间里,无论是否感到孤独,这对精神卫生来说恐怕是非常不利的。
「なんなんだ」
“这是什么呢?”
キスされて発情とか、しかも男相手に。これ以上のショックなど少なくともこれまでの人生にはなかったと思う。きっと、多分。
被亲吻而感到兴奋,而且还是和男性。这样的冲击至少在我过去的人生中是未曾有过的。大概吧。
シャワーを浴びるついでに確認すると、やはり半勃ちになってしまっているそこが余計に惨めな想いにさせてくれて頭を抱えたくなった。
洗完澡一看,还是半勃起的状态,这让我更加感到绝望,不禁抱头叹息。
そっと握ると、腰が跳ね上がるほどの快感が襲ってきて眩暈がする。握っただけでこのザマとか、冗談じゃない。
轻轻一握,快感如同腰间跳跃,令人眩晕。仅仅一握,这种快感绝不是开玩笑的。
物悲しい気もしながら、さっさと処理してしまおうと年頃の男子としてはそれなりに経験しているであろう処理を開始した……の、だが。
虽然有些伤感,但作为一个年纪不小的男子,我还是开始进行了一些应该有的处理……但是。
「んっ、んんぅ……な、んで…」
“嗯,嗯嗯……怎么……”
酷く感度が上がっているのがわかる。
感觉非常敏锐。
指一本一本の動きも掌の感触も、嫌というほど粘膜を刺激し腰にまで響く。
指尖的每一次动作,掌心的触感,都强烈刺激着粘膜,甚至让腰部都感到震动。
唇を噛み締め、もう少しというところまできているのに、何故かその熱が開放されることはない。
咬紧嘴唇,已经接近临界点,但不知为何,那股热情始终没有被释放出来。
困惑が頭の中を占めた。
头脑中充满了困惑。
涙で目の前が霞む。すっかりその気になって勃ちあがったそれは、いくら刺激しても快感を蓄積するばかりで、ずんと重くなった腰が無意識に揺れても結局そこより先には到達できなかった。
眼泪模糊了视线。完全沉浸其中,即使受到刺激也只会积累快感,腰部沉重地摇摆,却始终无法达到更高境界。
どういうことなのかと唇を噛んで浅く短い息を何度も吐いて、少しずつ指に絡んでくるぬめりを掬い取って、自分で心得ている弱い部分を懸命に擦っても駄目だ。
咬着嘴唇,短促地吐着气,试图逐渐抓住手指上的湿润,但无论怎样努力,也无法触及自己内心脆弱的部分。
無理矢理水を被って熱を収めようとするが、そう容易いものでもない。
强迫自己喝水来降温,但这并非易事。
身体の表面は冷えても、中では芯を持った熱が揺らめくようにじわじわと俺を焼いているのが自覚できた。
身体表面虽然感到寒冷,但内心深处却有一种坚定的热在微微颤动,慢慢地灼烧着我。
夕飯もそこそこにベッドに入ってからも、身体の中をぐるぐると回り続ける熱に浮かされなかなか寝付けなかった。
晚餐后也还好,但躺在床上后,身体里不断涌动的热浪让我难以入睡。
無理にでも寝てしまおうと目を閉じ、呼吸を整えることでなんとか少しずつ意識を深いまどろみの中に沈めていった。
我强迫自己闭上眼睛,通过调整呼吸,设法逐渐将意识沉入深沉的睡意中。
□
翌日。
第二天。
学校では睡眠不足と無理矢理鎮めただけの身体の中で燻る熱が邪魔をして、授業に身など入るわけがなかった。
学校里,由于睡眠不足和勉强压制住的身体里的热气干扰,我无法专心听课。
あの男に何をされたのだろうか。何かされたんじゃないだろうかと思うが、それがなんなのかわからない。いや、散々キスされたけど。
那个男人对我做了什么?我觉得他肯定对我做了什么,但具体是什么我不知道。不,我只是被狠狠地吻了一下。
ぼんやりとしたまま過ごした授業中、いったい何をしていたのか何を聞いていたのか、まったく覚えてなどいなかった。
在昏昏欲睡的课堂上,我完全记不起当时在做什么,听了什么。
「お前さんが授業中ぼんやりするなんて珍しいじゃないか。こりゃ帰りは槍でも降ってくるかぁ?」
“你上课发呆很罕见啊。这次回家估计要挨揍了。”
「なに、少し寝不足なだけだ」
“什么,只是有点困而已。”
「確かに、ちょっと顔色悪いな」
"确实,脸色看起来不太好。"
何度か同じクラスの鶴丸が顔を覗き込みに来ては、顔色が悪いと額に手を当てて、熱はなさそうなんだけどなぁ? と不思議そうな顔をしていた。
鹤丸好几次来这个班级偷看,脸色不好时还会用手摸额头,虽然不像是发烧,但表情却很疑惑。
ただの寝不足なら休み時間に寝たりしていそうなものだが、そんな様子も無かったことが気にかかったようだ。
如果是单纯的睡眠不足,应该会在休息时间睡觉,但他的那种状态让我感到有些奇怪。
存外よく見ているのだ、こいつは。
他观察得很仔细啊。
昔からの馴染みである事からも、俺のことをよく知っているというのは大きいかもしれない。
由于是老朋友,可能对我很了解。
「熱中症とかってわけでもなさそうだけど、念のため今日は早めに寝ろよ? お前すぐ寝るくせに、油断すると夜更かしも多いんだから」
“看起来不像中暑之类的,但为了保险起见,你今天早点睡好吗?你这么快就能睡着,但要是粗心大意,晚上熬夜也很多。”
「ははっ、そうだな。今日は早めに休むとするか」
“哈哈,是啊。今天早点休息?”
変に心配をかけるわけにもいかないと曖昧に笑っておいたが、今夜もまともに寝付けるかはわからない。
虽然模糊地笑着表示不用担心,但今晚是否能正常入睡还是个未知数。
未だにじくじくとした熱が腹の奥で燻っているのがわかり、このままではいけないとわかっていてもどうしようもない。こんなこと、相談するわけにもいかないじゃないか。
尽管我明白腹中的热气还在咕咕作响,但无论我多么明白这样下去不行,却无能为力。这种事情,去咨询也是不可能的。
本当に気をつけろよ?と部活に向かう鶴丸に見送られる形で教室を出た俺は、曖昧な笑みを浮かべたままひらりと手を振った。
看着鹤丸以送别的方式走向社团活动,我带着模糊的笑容轻轻挥手。
複雑な思いを抱えての下校時間。
带着复杂的情绪放学回家。
いつもなら駅前のコンビニや喫茶店などに連れ立って向かう生徒も多く、テスト期間中は遊び呆けてないで帰って勉強しろと補導される生徒が出るほどに人が多いのだが、そこへ向かうこの道は今日も人通りがなく。
通常会有很多学生被带到车站前的便利店或咖啡馆等地,但在考试期间,会有很多被劝导回家的学生,但今天这条路上却没有人。
ぼんやりした頭でふらふらと歩を進める俺の前には、例の鳥居が見え始める。
模糊的头脑中,我摇摇晃晃地走着,那座熟悉的鸟居开始出现在眼前。
帰り道にあるその鳥居の下には、またあの男がいた。
在回家的路上,那个鸟居下面又出现了那个男人。
にこりと笑って、今日はわざわざ俺を待っていたのか真っ直ぐにこちらを見ていた。
微笑了一下,今天他是不是特意在等我,直直地看着我。
俺に何をしたのか、貴方は誰なのか、何故あんなことをしたのか。訊きたいことは色々あったが、その紅い瞳を見た瞬間そんなものは全部吹っ飛んだ。
我有很多问题要问你,你是谁,你为什么要这么做,但当我看到你那双红眼睛的那一刻,所有的问题都消失了。
気づけば昨日同様に祠の前まで連れて行かれ、鳥居に背を預けて与えられる口吻けに夢中になっていた。
不知不觉中,我就像昨天一样被带到了神社的前面,我全神贯注于背对鸟居给我的喙中。
ガクガクと力が入らず座り込みそうになる俺の両足の間に膝を押し込み、無理矢理立たせての口吻けは逃さないと言われているようでゾクゾクした。
当他要坐下时,他把膝盖推到我的两腿之间,我很激动,因为他似乎在说他不会错过强迫我站起来的长鼻。
ぐ、と膝で股間を刺激され、背を駆け上がるような快感が脳を焼く。何度も唇を放して呼吸を促しては、再び塞いで口腔を蹂躙し尽くす。苦しい、けれど、悔しいけど気持ち良くてぼんやりする。軽い酸欠になっているのは確かだが、拒むことが出来ない。
- 胯部受到膝盖的刺激,沿着背部奔跑的快感灼伤大脑。 - 多次松开嘴唇以促进呼吸,然后再次闭合并流过口腔。 这很痛苦,但也很令人沮丧,但感觉很好,而且很模糊。 我确定我的氧气快用完了,但我无法拒绝。
その間に手は俺の乳首をシャツ越しに探し当て、ぐりぐりと押し潰したり摘んだりと刺激を与え続けている。お陰で今何をしているのかと冷静に考える余裕も失っていった。
与此同时,他的手隔着衬衫找到了我的,并继续通过挤压和捏来刺激它们。 多亏了这一点,我失去了冷静思考自己在做什么的时间。
と、唇を放した彼は俺の両の瞼に一度ずつ口吻け、次いで耳を口に含んでねっとりと舐められた。
他放开了嘴唇,依次在我的左右眼皮上吻了一下,然后又把耳朵含在嘴里,轻轻地舔舐。
びくっびくっと大きく身体が跳ね、頭の中に響く水音にまた腰に熱が溜まる。無意識に腰を揺らしてしまい、膝で刺激を続けていた男には当然その動きが直接伝わる。まるで男の膝を使って自慰をしているようで、自分でも止めなくてはと思うのに身体の熱が暴れ回って言うことを聞かない。
身体突然大幅度地弹跳起来,脑袋里响起了水声,腰间又聚集了热量。下意识地摇动腰部,膝盖持续地刺激着那个男人,当然,这种动作会直接传递给他。就像是用那个男人的膝盖来自慰一样,虽然自己也想停下来,但身体的热量却失控地四处乱窜,不听使唤。
その様子に男はまた笑い、逆の耳も同じようにねっとりと嬲り始めた。
看着他那样子,男人又笑了,反过来也用同样的方式轻轻地挑逗他的另一只耳朵。
ぬるりと舌が這う感触に首筋がぞくぞくと奇妙な感覚に襲われ、こんなこと普通に考えて気持ち悪いだろうに首を振って逃れるなんて気も起こらなくて。
舌头滑过的触感让脖颈上传来奇妙的刺痛,按理说,这样的事情在正常情况下会让人感到恶心,但竟然没有想要摇头躲避的念头。
口が自由になっているのに、荒くなった呼吸ばかりで声が出せない。
尽管嘴巴自由了,却只能发出粗重的呼吸声,发不出声音。
どうしてしまったのか。
这是怎么搞的。
とろりと目を開けると、俺の目を覗き込むようにして軽く身を屈めた男の紅い瞳がすぐ近くにあった。
慢慢睁开眼睛,发现一个男人的红色瞳孔正紧紧地注视着我,他轻轻地弯下腰。
「愛い奴よ」
“亲爱的孩子啊”
目を細め、頬を撫で、男はそう低く笑った。
目を細め、頬を撫で、男はそう低く笑った。
眯起眼睛,轻抚脸颊,男人如此低声笑了。
きゅっ、と乳首を摘まれびくりと仰け反る。
哎哟,被捏住乳头,身体猛地一颤。
「ッあ…!」
“嘶啊……!”
「ふむ、声もなかなか…」
“嗯,声音还不错……”
「ひんっ、やぁ…」
“哼,喂……”
身体を弄られる度、跳ね上がる身体と鼓動、そして自分でも驚くほど甘い声。
- 每次我的身体被摸索时,我的身体和心跳都会跳动,她的声音甚至对自己来说也出乎意料的甜美。
先程まで出し方を忘れたかのように一つも出せなかったのに、彼が言葉を発した途端自然に洩れ始めた声が自分でも抑えられない。
我一个也说不出来,好像我忘记了早点怎么说出来一样,但他一说出这句话,我就抑制不住开始自然而然地流出的声音。
男の手が股間へ伸びたかと思ったら、やんわりと膝で刺激されてその気になってきていた俺のモノを、包むように揉み始める。途端に突き抜けるような快楽に爪先がぴんと突っ張った。
- 当我想到男人的手伸到胯部时,我用膝盖轻轻刺激它,开始摩擦我的东西,这就是那种感觉。 - 脚趾绷紧,似乎突然渗透了。
「ぁ、ぁ…ぁ…っ」
“啊 啊 嗯?
目の前がちかちかする。
眼前一片模糊。
与えられる刺激に身体が悦んでいるのがわかった。
明白了身体在享受所给予的刺激。
けれど、男は殊更ゆっくり、様子を見るように揉むだけで決定的な刺激を与えてはくれない。
然而,男人更加缓慢,只是轻轻地抚摸,并不给予决定性的刺激。
無意識に腰を揺らして耐えられないと訴えるも、もう少しというところでその手は離れた。
不自觉地摇动腰部,表示难以忍受,但在即将达到临界点时,他的手却放开了。
「ふふ、つらいか。先程も既に熱を帯びておったな。燻る熱はさぞかしもどかしかろうな?」
“嘻嘻,难受吗?刚才就已经有点发热了。那股熏热的气息一定很令人沮丧吧?”
「はっ…はぁ……ぁ、ぁ…」
“嗯……嗯……嗯……嗯……嗯……”
「だが、今日はここまでじゃ。その熱を抱えたまま過ごすがいい」
“但是,今天就到这里吧。带着这股热度过活也不错。”
ぬるりと舌先が頬から耳にかけてをゆっくり舐め、男の声が直接耳に吹き込まれた。
“轻轻地用舌尖舔舐从脸颊到耳朵,男声直接吹进耳朵里。”
そんな…っ!
哎呀…!
ここまでしておいて、あんまりじゃないか。
先这样吧,别太过了。
そう思うが、それ以上の言葉は出なかった。
虽然这么想,但也没说出更多的话。
何故だろう、意思を持った『言葉』ばかり、俺は忘れたように紡ぐことが出来なくなっていた。
为什么呢,总是带有意义的“言语”,我竟然忘了如何编织。
男の身体が離れた瞬間、またその場にずるりと座り込む。そんな俺を見下ろして一度目を細めると、男は何も言わずに去って行った。
男人身体离开的那一刻,又滑稽地坐回原位。看着他这样,我皱了皱眉,他没说一句话就离开了。
勿論、この後男が再び来ることもなく、帰ってからも熱は引かずに身体の中をぐるぐると駆け回る。
当然,之后男人再也没有来过,回到家后体温也没有下降,身体里却像旋风一样翻滚。
この二日間の体験は、冷静に考えればどこぞの変質者に唐突に襲われている状態で、学区内の未成年がその餌食に遭っているとなれば警察が動くレベルだ。
如果冷静地思考,这两天经历的情况,就像是突然被变态袭击,学区内未成年人成了他的目标,这已经是警察应该介入的程度了。
だというのに、被害届を出すわけでもなく、また同じことをされるのではないかと思いながらもまたついて行ってしまったのは何故なのか。これでは合意の上だと言われても仕方ない。
尽管如此,我没有报警,又担心自己会再次遭遇同样的事情,但还是跟了上去。这样说是达成了一致,也没办法。
いや、合意でもあれは非常識だけど。
哎,不管是什么协议,那都是非常不理智的。
ベッドの中で熱に浮かされながら、そっと中途半端に放り出されたモノを布越しに指で辿ってみると、ビリビリと痺れるような強い快感が襲ってきて身体中を駆け巡る。
在床上被热浪包围,轻轻地半途而废地扔掉的东西,手指穿过布料摸索,传来一阵阵刺痛的强烈快感,遍布全身。
耐えられずに先日のように処理をしようとしたのだが、やはりそれはもう少しというところで止まってしまうばかりだった。
无法忍受,像前几天一样尝试处理,但总是停留在稍微多一点的地方。
つらい。
痛苦。
苦しい。
苦难。
熱くて堪らない。
炎热得难以忍受。
どうしてこんなことになってしまったのか。
为什么会变成这样。
何度もこれ以上やっても無駄だと諦めては、無意識にあの男がやったように胸や股間に触れてしまう。
虽然多次放弃,认为再怎么做都是徒劳,但还是会无意识地像那个人一样触摸胸口和胯部。
自慰を覚えた猿か、と頭の中で毒づくが、あまりのつらさにそれさえも霞んでいった。
我在心里诅咒着这只学会自慰的猴子,但那种痛苦已经让我无法去想它。
枕を噛んで声が洩れないように。いつの間にかスウェットも下着も脱ぎ捨てていたが、直接触れても中途半端に終わってしまって余計に辛くなるばかりだ。
咬着枕头,以免声音泄露。不知不觉中,我已经脱掉了睡衣和内衣,但直接接触却总是半途而废,反而更加痛苦。
ぬちぬちと粘性の湿った音が聞こえる度に、自分の置かれた状況が惨めで堪らない。指に絡む蜜の量が増えて掌を伝って手首まで濡らし、腿に滴りシーツに染みを作る。
每当听到粘稠湿润的声音,我就感到自己处境的悲惨。指尖缠绕的蜜越来越多,手掌湿润,一直延伸到手腕,腿上滴落,床单被浸湿。
ビリビリと襲ってくる快感に足に力が入りすぎて、汗が止め処なく流れていく。
快感袭来,脚上用力过猛,汗水止不住地流淌。
「ふ、ふぅ…ぁ、はぁ……っ」
“哇...... 叹息。。。。。。 嗯?
だらしなく開いた唇から覗く舌が震え、声も細く、呼気に混じって空気を振るわせるだけに終わる。
从草率张开的嘴唇中探出的舌头颤抖着,声音很细,空气只在呼气中颤抖。
ぐり、と先端を挫いて括れを指の腹で擦り、血管の浮いた陰茎がピクンと跳ねるが、やはり望んだ高みに達することが出来ずに無駄に体力ばかり消耗していった。
我挤压尖端,用指腹揉搓打结,血管漂浮的阴茎弹跳,但还是达不到我想要的高度,白白浪费了力气。
気づけば外は明るくなってきていて、一晩中触れては止めるという無為なことをしていたのかと思うとうんざりする。
不知不觉中,外面天亮了,我厌倦了想我整晚都在做一些无用的事情,抚摸和停止。
学校へ行かなくてはならない時間も迫っているが、こんな状態で行ける筈もなく、結局風邪を引いたと仮病を使って休んでしまった。どちらにしろ、疲労で酷く眠たかった。
学校去的时间迫在眉睫,但这样的状态下根本无法去,最后只好装病请假休息了。无论如何,都因为疲劳而非常困倦。
眠るタイミングを失っていた俺は、学校へ連絡し終わるまでは起きていなくてはとシャワーを浴びて気を紛らわせていたが、連絡が終わった瞬間倒れるようにして眠りに就いた。
我一直找不到睡觉的时间,直到联系学校结束之前都处于清醒状态,洗澡提神,联系结束后像倒下一样入睡了。
本当に、俺の身体はどうなってしまったのか。
真的,我的身体怎么了。
*
「随分と素直な身体よ。これは具合も良さそうじゃ」
“身体很诚实啊。看起来身体状况还不错。”
ぐあい…?
哎呀…?
具合は正直最悪なんだが。
真的糟糕透了。
熱いしダルいし身体はおかしいし。
又热又累,身体都不好了。
「お主は十分な素質がある。すぐに役目も果たせよう」
“你很有天赋。很快就能承担起责任。”
素質? 役目?
质量是什么?职责是什么?
なんの話をしている。
在说什么呢。
そんななにかのゲームのようなことを言われても困るんだが。
即使被说成是那种类似游戏的什么,我也感到困扰。
「大丈夫じゃ。私に全て任せれば、至上の悦楽を約束しよう」
“没问题。交给我,我保证给你至高无上的快乐。”
だから、いったい何の話を…
因此,究竟在说些什么呢……
「もうすぐ。もうすぐじゃ。可愛い私の―――」
「马上就要了。马上就要了。可爱的小……」
*
「はぁ、風邪とは聞いていたが、お前さん顔真っ赤だぞ」
「嗯,听说你感冒了,但是你的脸色真的很红啊。」
「あぁ…そうだろうな…」
「啊……应该是吧……」
「熱は」
「热是」
「少し」
「一点」
「どうせ冷房つけっぱなしで寝てたんだろう」
「反正空调一直开着睡觉吧」
「素っ裸で寝ていた」
「裸睡」
「驚いたな。お前さんでもそんな馬鹿なことするのか」
"你这也太傻了,居然做这种事情?"
日が暮れるには早い時間。
天色还早呢。
学校帰りらしい鶴丸が、学校で渡されたというプリントと共に見舞いの品を持ってやって来た。
看起来像是放学回家的鹤丸,拿着在学校得到的打印材料和礼物来了。
素っ裸というのは言いすぎだが、案外間違ってもいない格好だったのでそれ以上は言わずにおいた。
虽然说是赤裸,但大概也不算过分,所以就没有多说了。
今は落ち着いているが、いつ唐突に耐えられなくなるかわからないし、表面上とはいえ風邪と偽っていたのだからとベッドに潜っての俺の様子は、幼馴染のこいつをもってしても具合がいいようには見えないらしい。
现在虽然很平静,但不知道什么时候会突然承受不住,而且表面上虽然说是感冒,但实际上我躲在床上,即使是青梅竹马也看不出来我身体状况好。
仮病の線を疑わないわけではなかったが、昨日の授業中のぼーっとした様子を知っていたためか、風邪の兆候は確かにあったなと納得されて終わった。
虽然没有怀疑是装病,但因为知道昨天上课时我发呆的样子,所以确实有感冒的迹象,我也就信了。
「これ、燭台切から」
“这是从烛台那里来的。”
「なんだ?」
“怎么了?”
「粥だってよ」
"粥也可以"
「学校で作ったのか?」
"是在学校做的吗?"
「まさか、一度帰ったんだよ。ほら、あいつ寮だから」
"怎么可能只回去一次。看,那是他的宿舍。"
成程、と受け取った保温ポットの中身は、ほわほわと湯気の立ち上る美味そうな卵粥だった。
接过保温壶,里面的内容物是看起来很美味的蛋粥,热气腾腾。
食えそうなら食っちまえよ、ポット持って帰るし。と言われ、確かに昨晩はあの熱のせいで何も作る余裕はなかったし、そもそも作れないし、コンビニにも寄らなかったのだから何も食べていなかったと思い、添えられていたスプーンを手に取った。
看着就能吃掉,还把壶带回家。确实,昨晚因为发烧,根本没时间做饭,而且本来也做不了,也没去便利店,所以什么都没吃,拿起附带的勺子。
何しろよく考えたら今日も何も食べていないのだ。それなりに腹は減っている。こう見えてよく食べる方らしく、時々その細身のどこに入るんだと呆れられるほどだ。そんな俺が何故今の今まで、指摘されるまで空腹すら気づかなかったのか。本当に弱っているのかもしれないと心の片隅で浮かんだ考えを振り払うように、受け取ったポットの中身をもう一度覗き込んだ。
想来想去,今天也什么都没吃。肚子饿得厉害。看起来我好像能吃很多,有时候还会让人惊讶,那瘦小的身体里怎么装得下这么多。我为什么会直到现在才意识到饿,难道我真的这么虚弱吗?我努力把这种想法从心底里赶走,再次仔细看了看手中的壶里的东西。
はふはふと口にした粥は美味かった。
喝下去的粥很美味。
腹が減っていたこともあって、それなりに量のある中身は見る見る減っていく。
因为肚子饿,所以那不少的内容物很快就见底了。
燭台切の料理の腕もあるだろうが、安心する美味しさが広がって胸の奥からほっこりと温まるようだ。
烹饪技艺高超,但更让人安心的是那令人陶醉的美味,从心底涌起一股暖意。
染み渡る美味さに暫し何も語らず黙々と口を動かし続けていると、安堵の息をついて俺のベッドの横に持ってきた椅子に無造作に腰掛けて、鶴丸は苦笑した。
在被这令人陶醉的美味所吸引,暂时无言以对,默默动着嘴,终于松了一口气,坐在我的床边带来的椅子上,鹤丸苦笑着。
「食欲はあるみたいで安心したぜ」
“看起来食欲不错,可以放心了。”
「なんだ、心配してたのか」
“怎么了,担心我吗?”
「だって、今まで病気で休むなんて時はいつも俺にも連絡してきたのに、今日は何もなかったろ。ぶっ倒れてるんじゃないかって焦ったんだぜ?」
“毕竟,以前生病休息的时候,总是会联系我,可是今天却什么都没有,是不是摔倒了,我非常担心。”
「正直ぶっ倒れてるに等しかったがな」
“说实话,几乎就是摔倒了。”
「頼むぞまったく。一人暮らしでそれが一番拙いんだからな」
“拜托了,完全不行。一个人住,那是我最不擅长的。”
大袈裟に肩を竦めて嘆いてみせる鶴丸の声は、ふざけているものとは違って真剣だった。
“鹤丸夸张地耸肩叹息的声音,和开玩笑的样子完全不同,非常认真。”
俺が一人暮らしという時点で心配の種は尽きないと言っていたが、それは今も変わらないようだ。
就算我现在一个人住,担心的事情还是层出不穷,好像一点都没变。
「…気をつける」
“……小心点”
「そうしてくれ」
“拜托你了”
気をつけるとは言ったものの、なにをどう気をつければいいのだろうか。
虽然说了要小心,但到底要怎么小心呢?
もうとっくに手遅れな気がする現状を話したら、こいつはどんな反応をするだろう。
我感觉现在已经太迟了,如果他听到这个现状会怎么反应。
ふぅ、と息を吹きかけて少し冷ました粥をもう一口。
哼,呼出一口气,再吃一口稍微冷却的粥。
鶴丸の家はここから少し離れていて、確かあの神社の前を通ることはない。けれど、あの場所の存在は知っているはずだ。
鹤丸的家离这里有些远,应该不会经过那个神社前面。但应该知道那个地方的存在。
昔一緒にあそこで遊んでいたのは鶴丸だったのだから。
因为以前我们一起在那里玩的就是鹤丸啊。
遊ぶ相手は鶴丸以外にもいたが、毎日一緒にいたのは鶴丸くらいのものだった。
除了鹤丸以外还有其他玩伴,但每天一起的几乎就是鹤丸了。
「なぁ、あの神社覚えてるか」
“哎,你还记得那个神社吗?”
「神社?」
“神社?”
「ほら、子供の頃かくれんぼとか、秘密基地作って探検したりした、ここの近くの」
“看,小时候在这里捉迷藏、建秘密基地探险的附近。”
「あ?あー……あぁ! あそこか。懐かしいな」
“啊?啊……啊啊! 那边吧。”
少しだけ考えた辺りすぐにはピンと来なかったようだが、それでも思い当たる場所は一箇所しかないのか頷いた。
虽然稍微想了想,但似乎并没有立刻想到,但似乎只有一个地方符合。
「あれだろ? ここから十分くらいのとこの」
“那应该是吧?从这里起足够远的地方。”
「あぁ」
“啊……”
「神隠しの神社」
「神秘的神社」
「……なんだと?」
「……什么意思?」
なにか不穏な言葉が聞こえてスプーンを持つ手が止まった。
听到了什么不祥的话语,手中的勺子停了下来。
神隠しの神社?なんだそれは。
神秘的神社?那是什么?
長年ここに住んでいたが初耳だぞ。
在这里住了这么多年,第一次听说。
そう目で訴えると、鶴丸は座っていた椅子の背を抱える形に座り直し、腕を背もたれの上に組んで顎を乗せて口を開いた。
鹤丸听了,重新坐回椅子,双手抱住椅背,下巴放在手上,张开了嘴。
「昔さ、あそこで遊んでた子供が行方不明になったんだってよ」
“以前,那里有个孩子失踪了你知道吗?”
「行方不明?」
“失踪?”
「そ。今じゃあそこで遊ぶの禁止って言われて、封鎖されてるって話」
“现在那里被禁止游玩,还被封锁了。”
「封鎖?」
“封锁?”
「あそこの神社の管理してた一家がさ、謎の失踪」
“管理那个神社的一家,发生了神秘的失踪。”
「……今は誰か他の人が管理してるとか」
“……现在有其他人管理着。”
「さぁ?」
「嗯?」
鶴丸は、幼い頃に聞かされただけだから詳しいことはうろ覚えだけど、とぽつぽつ語ってくれた。
因为只是小时候听过,所以具体的事情记不太清了,但她零零碎碎地讲了一些。
はじめは小学校を卒業間近に控えた女の子が、友人とかくれんぼをしていていなくなったそうだ。
据说,起初是一个即将小学毕业的女孩在和朋友捉迷藏时失踪了。
どこにでもある都市伝説のようなそれは、暫く誘拐か家出ではないかと騒がれたそうだ。
就像无处不在的都市传说一样,那段时间有人传言可能是绑架或离家出走。
次に起こったのは、とても仲のいい中学生くらいの兄弟。
接下来发生的是,一群关系很好的中学生兄弟。
肝試しにと友人達数名と夜に入って行って、そのままいなくなったそうだ。
他们几个为了尝试冒险,晚上进去后就消失了。
最初は、怖くなって帰ったんじゃないかと言っていた友人達が、その翌日兄弟が帰っていないらしいと知って学校中に半泣きで情報提供を求めるビラを貼りまくっていたから覚えていると。
最初,朋友们说他们害怕得回家了,但后来得知兄弟们没有回来,于是第二天在学校里贴满了半哭半泣的信息提供传单。
「確かその事件の辺りからだな、俺達もあそこに近づくなって言われて、あの神社で遊ばなくなったの」
“大概从那起事件开始吧,我们也被警告不要靠近那里,所以不再去那个神社玩了。”
「そうだったか…?」
“是这样的吗……?”
「お前マジで言ってる? 俺らの学年じゃ有名だろ」
“你真的这么说?在我们年级可是出了名的。”
「最近あそこで遊ぼうと言われなくなったなとしか…」
“最近没再被邀请去那里玩了吧……”
他の遊び場に夢中になって、それで神社に行かなくなったものだとばかり思っていた。
以为他们沉迷于其他游乐场所,因此不再去神社了。
そして、その半年後には神社の管理をしていた一家の謎の失踪。
半年后,管理神社的一家神秘失踪。
それについては、相次いで起こった神隠しなんて言われる子供達の行方不明事件を重く捉えた一家が、どこかへ引っ越してしまっただけではないかと思うけど。
对于接连发生的神隐事件,说那些孩子失踪可能只是因为一家搬家了。
鶴丸は横に置いていた紙パックのジュースをずず、と啜ると、そう締め括って口を閉ざした。
鹤丸一边喝着放在旁边的纸盒果汁,一边慢慢地说,然后紧闭了嘴。
「………今は?」
“……现在?”
「ん?」
“嗯?”
「今も、あそこは立ち入り禁止なのか?」
“现在那里还是禁止入内吗?”
「どうだろうなぁ。もう結構前の話しだし、禁止っつっても別に立ち入り禁止の看板とか立てられたわけでもなかったから」
“怎么样啊。毕竟是很久以前的事情了,就算说是禁止,也没有立什么禁止入内的牌子。”
で、その神社がどうしたって?
那么,那个神社怎么了?
鶴丸の言葉が耳には届くが脳まで響かない。
鹤丸的话虽然能听到,但没能在脑子里留下印象。
食べ進める手が止まってしまったポットの中身が少しずつ冷えていくのを感じながら、それ以上に背筋が凍るような感覚を覚えた。
在感受到手中停止的勺子让汤慢慢变凉的同时,一种背脊发凉的感觉更甚。
そんな場所で、あの男は何をしているのだろうか。
在那样的地方,那个男人在做什么呢?
その事件を知っているのだろうか。何も知らずにあそこにたまたま居ただけ?
他知道那起事件吗?是偶然在那里,一无所知吗?
俺も知らなかったんだ、その可能性は大いにある。けれど、もしも、もしもだ。
我也不知道,这种可能性很大。但是,如果,如果的话。
その事件が本当に誘拐の類だったとしたら。
如果那个事件真的是绑架的话。
「因みに…犯人とか…」
“顺便提一下...罪犯之类的...”
「少なくとも、俺は犯人がどうとかそんな話は聞いた事がないな」
“至少,我还没听说过罪犯是怎么样的或者类似的话题。”
つまり、まだ犯人は捕まっていないかもしれないということか。それもそうだ、失踪した子供達の情報がそれ以上出ていないということは、発見されていないということ。
也就是说,可能还没有抓到罪犯。这也难怪,因为失踪孩子的信息并没有更多出来,这也意味着他们还没有被发现。
少なくとも、そんなに大々的にビラまで貼って探していたというなら、学校内でも一部噂になっていてもおかしくはない。俺が興味を持たなかっただけで、親や教師達の間では大問題のはずなのだ。
至少,如果像那样大规模地贴传单寻找,学校内部也多少有些传闻也不足为奇。只是我没有表现出兴趣,但在家长和老师之间,这应该是个大问题。
ならば、無事に見つかったらそれなりに報告はあるだろうし、これだけ知っている鶴丸がその情報を逃すとも思えない。
那么,如果顺利找到了,应该会有相应的报告,而且像鹤丸这样知道这么多的人,不可能错过这个信息。
子供達にその情報が拡散されていないというなら、それはまだ見つかっていないか、子供達に『拡散すべきではない状態で見つかった』かのどちらかだ。
如果孩子们没有散播这个信息,那么要么是还没有找到,要么是孩子们在“不应该散播的状态下”找到了。
そんな場所で、毎日、毎日、あの男はなにをしていたのか。
在那样的地方,他每天都做了些什么。
「鶴丸…」
「鹤丸...」
「うん?」
「嗯?」
「変な話をするが、笑わずに聞いて欲しい」
「想讲些奇怪的话,但希望你们不要笑」
「なんだよ急に」
「怎么突然这样」
これは、もしかしたら、一人で抱えて恥ずかしがって周りに相談できないなどと言ってる場合ではないかもしれない。
这可能不是一个人默默承受、不好意思向周围人求助的情况。
そう覚悟を決めた俺は、この二日間のことを、自分の身に起こっている現象は隠して掻い摘んで話した。
我已经下定决心,这两天发生的事情,我隐瞒了自己的感受,详细地谈了谈。
男を見かけるようになったのは多分二週間くらい前から。目が合ったのは一昨日が初めてだった。
大概是从两周前开始注意到男人的。第一次对视是在前天。
鶴丸は黙ってその話を聞いていたが、やがてふとなにか疑問に思ったのか口元に手を指を当てて唸ると、確認いいか?と真剣な目を向けた。
鹤丸默默地听着那个话题,后来可能因为某种疑问,他用手挡住嘴角,咂嘴问道:“确认一下好吗?”他目光认真。
「周りに人はいなかったのか?」
「周围没有人吗?」
「あぁ。俺とその人だけだ」
「啊。就我和那个人」
「こっち、駅に近いし結構人通りあるだろう。お前さん以外にも帰宅部は多いし、駅前で遊んでから帰る奴だっているだろ?」
「这边,靠近车站,人流量应该挺大的。除了你之外,还有很多回家的人,还有的在车站前玩后再回家呢?」
「まぁ、そうだな…」
「嗯,是啊……」
「その時間だと、この辺りの主婦達だって買い物に出たりするだろうし…いくらあの神社の前だからって人通りがぱったり絶えて何時間もってのは無いと思うんだが」
“那个时间点,这附近的家庭主妇们也应该出去购物了……就算是在那个神社前面,也不可能人流量突然消失,几个小时都没有人的。”
そうは言われても、実際誰もいなかったのだから仕方ない。
“虽然这么说,但实际上并没有人,也没办法。”
時間にして一時間くらいだろうか。だったらそんな何時間もというわけでもない。
“大概一个小时左右吧。那样的话,也就不是几个小时了。”
偶然だろうと続けようとした俺に、鶴丸は更に加えた。
“在我打算继续的时候,鹤丸又补充了一句。”
「それに、あの神社の周りってここいらの中学の通学路じゃないか。お前さんがそこから帰る時点で誰もいないのも引っ掛かる。騒ぎながら下校する連中たくさんいるだろう?」
「再说,那个神社周围不就是这里的中学上学路线吗?你从那里回家的时候,应该没有人吧?放学路上那么多喧闹的学生。」
「それは…」
「那…」
確かに、あまりのことに気が動転して注意を払っていなかったが、俺があの男に触れられている間に一度でも誰かが通過した音や声を聞いただろうか。
「确实,因为太震惊了,所以没有注意到。但我在那个男人接触我的过程中,有没有人经过的声音或声音,你听到过吗?」
いつも騒がしく数名で一緒になって下校する小中学生をよく見かけていたというのに、それすらいないというのは考えられなかった。
「虽然经常看到几个小学生和初中生一起喧闹地放学,但没想到会一个都没有。」
「まさか本当に神隠しじゃないか、なんてそんな事は言わないけど…偶然と考えるのもなぁ」
“怎么可能真的是神隐呢,虽然我不会这么说……但也不能认为是偶然吧。”
「だったらなんだと言うんだ。なにかおかしな現象でも起こってるというのか?」
“那究竟是怎么回事?难道有什么奇怪的现象发生吗?”
「そうじゃない。もっと現実的に考えろ。例えば、あの通りはあの時間帯通れないとでもどこかに看板が立てられて、他の連中が別の道を行ってるならそれは人の手の仕業だ」
“不是那样的。要更现实地考虑。比如,如果那条路在那个时间段无法通行,那么就会立起标志,其他人就会走别的路,那肯定是人为的。”
「けど、それなら俺だって」
“那我也一样。”
「工事現場の立て看板を無視して、ものの見事に穴に落っこちた奴を俺は知っている」
我认识那个无视工地警示牌,结果不慎掉进洞里的家伙。
「う…」
呜...
俺だ。
我。
自分でも不覚を取ったと思っていたあの出来事は、実際にそんなバカなことをした中学時代からずっと語られる、鶴丸からの定番の話の一つだ。
我自己都觉得那件事太丢人了,但实际上,从中学时代开始就一直在说的那些愚蠢的事情,就是鹤丸的保留节目之一。
「俺だってそんな易々といくとは思ってないさ。けど、もしも偶然じゃないとしたら、お前さん確実に狙われてるって事じゃないか」
「我当然也不认为会那么容易就去了。但如果不是偶然的话,那可能就是你在被盯上了。」
気をつけた方がいい。
一定要小心。
そう告げる鶴丸は、自分の言っている事が半分は冗談だと鼻で笑って終わる程度の内容だと理解している。だがそんな無茶な例え話を出してでも警告をしなくてはならないと感じるくらい、俺は危なっかしいということだろう。
说着这些的鹤丸,其实心里明白自己说的有一半是玩笑,只是用鼻子笑一笑就结束了。但即使是这样荒谬的比喻,我也觉得有必要发出警告,大概是因为我觉得情况很危险吧。
実際、その男に二日も連続で言いようにされてしまっているのだから、強く否定は出来ない。
事实上,那个人连续两天都在对我说这样的话,所以我无法坚决否认。
今日の帰りに神社の前を見てくると言い残して、また具合が悪くなる前に寝ろと俺をベッドに押し付けてもう食べ進めることが出来なくなったポットを回収すると、鶴丸はプリントやらノートをコピーしたものを置いて出て行った。
今天回家的路上,让我看看神社前面,然后在我恶化之前让我睡觉,把我推到床上,已经吃不了饭的锅被我收起来,鹤丸留下复印的打印机和笔记就出门了。
神社の前を見てくるとは言ったが、鶴丸だって馬鹿じゃない。わざわざ中へ踏み込むようなマネはしないだろうし、自転車で来ていると言っていたから通りすがりにちらりと確認するだけだろう。
虽然说要看神社前面,但鹤丸也不是傻瓜。他不会故意走进去,而且他说他骑自行车来的,所以他可能只是随意地看了看。
お前こそ気をつけろよとは言っておいたが、心配は要らないだろう。
虽然我说你要小心,但不用担心。
あの神社には当分近づかないようにしよう。
我们暂时不要靠近那个神社。
遠回りになるが、道をずらしても帰ることはできるんだ。
尽管绕远路,但改变路线后还是可以回家的。
そう自分に言い聞かせて、また熱で苦しむようなことになる前に眠ってしまおうと目を閉じた。
这样对自己说,然后在再次因为热而痛苦之前闭上眼睛睡觉。
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□
「ふぁ…ぁ、ぁ…っは…」
“呃……啊……嗯……”
甘ったるい声。
倦得要命的声音。
耳を塞ぎたくなるほどのそれは、思いの外近くから聞こえた。
那种声音大到让人想塞住耳朵,竟然是从意想不到的近处传来的。
「随分と熟れてきたな」
“成熟了不少啊。”
喉で笑う声。
喉咙里发出的笑声。
熱くと息を吹き込むようなそれが耳朶を打ち、揺れる視界が次第に像を結ぶ。
热切地吹入气息,耳畔响起,摇曳的视线逐渐聚焦。
目の前には、あの白い男。
眼前是那个白皙的男人。
どうしてここに?
为什么会在这里?
そうぼんやりと考えてから気づいた。違う、この男が俺の部屋に来たわけではない。
想了一会儿才意识到,不,这个男人并不是来我的房间。
背中に感じるのは硬質な冷たい感触、そして白い男の背後に見えるのは夕日も沈みきる寸前の町並み。
背上感觉到的质感是坚硬而冰冷的,而那白皙男子背后的街景,夕阳也即将沉入地平线。
石段を少し上がって道路より高い位置にある、あの古びた祠の前の光景。
沿着石阶往上走,道路之上的那个破旧神社前的景象。
夢だろうか。それにしては風の匂いも触れる男の吐息もはっきりわかる。
是梦吗?然而风的味道和男人的呼吸都如此清晰可辨。
足の裏には土の感触を感じ、靴も履いていないのだと気づいた。
脚底感受到的是泥土的触感,这时我才意识到自己并没有穿鞋。
どうして。
为什么。
そんな疑問さえ言葉に出来ず、疼く身体の熱を持て余して、座り込まないよう必死に後ろ手に鳥居に縋りついている状態にあった。
连这样的疑问都无法用言语表达,身体疼痛,热得无法坐下,只能拼命地用手抓住鸟居的后背,保持这种姿势。
男の大きな手が俺の髪を何度か梳くように撫で、頬に滑らせて上向かされたかと思うと唇を男の唇で塞がれた。頬に添えられていた手が耳を覆い、もう一方の手も反対の耳を塞いだ。
男人的大手几次像梳理头发一样抚摸我的头发,滑过脸颊,然后被男人的嘴唇堵住。脸颊上的手覆盖住耳朵,另一只手也堵住了另一只耳朵。
脳で反響するように舌を絡める水音が響き、頭の中まで犯されている気分になって何も考えられない。
舌头缠绕的水声在脑海中回响,感觉整个大脑都被侵犯,无法思考。
どうしてここに居るのか。俺は寝たはずなのに。ここには近づかないようにって決めたのに。
为什么会在这里。我本应该已经睡觉了。我明明决定不要靠近这里。
そんな考えすら浮かべる余裕がなく、上顎を舐められて鳥居に爪を立ててビクビク身体が跳ねるのを抑えられずにいた。散々口腔を嬲った男の唇が離れたが、両手で顔を固定されたまま動けない。それどころか、まるで甘い蜜を求めるかのように舌を伸ばして名残惜しそうに追う自分が信じられなかった。
根本没有时间去想那种事情,被舔着上颚,在鸟居上用指甲抓挠,身体不由自主地颤抖。那个肆意玩弄口腔的男人离开了,但我的脸被双手固定,无法动弹。更别提,我竟然相信自己像是在渴望甜蜜蜜糖一样伸出舌头,依依不舍地追逐。
細められた紅い瞳が俺の様子を満足そうに眺め、舌が触れることの無い距離で同じように舌を伸ばした。
细细的红眼睛满意地注视着我的样子,在无法触及的距离同样伸出舌头。
つ、と滴る唾液をだらしなく開いた俺の口に流し込む様はこんな場所で何をやっているのかと指摘されるほどに異質だが、一方の俺はそれを拒まず、求めたものが与えられた喜びのようなものを感じながらこくりと喉を鳴らした。
滴落的唾液缓缓流入我张开的嘴中,这种在如此地方的行为显得格外异质,但另一方面,我没有拒绝,而是在感受到给予的喜悦时,喉咙里发出了咕噜咕噜的声音。
胃の奥まで流れ込んでいく男の唾液に、まるで身体の奥まで男に染められているようでまた熱が溜まっていく。
他的唾液流遍胃的深处,仿佛他的身体也深深地浸染了我,热意不断上升。
「私を拒もうとも無駄よ。お主にはもう私の刻印が記されている」
拒绝我也是徒劳。主人的印记已经刻在我的身上。
刻印とはなんだろう。
刻印究竟是什么?
やはり言葉は形にならない。
话终究是无形的。
夕日が沈む寸前だった空はもう暗く、明かりのついていないこの場所では男の瞳の色も良く見えなくなってきた。
夕日即将沉没的天空已经变得昏暗,在这没有灯光的地方,男人的眼睛颜色也变得难以辨认。
いつもならこんなに暗くなったら解放されるのに、今日はそんなこともなく。
平时这个时候我就会感到解脱,但今天却并非如此。
男の手がまたも股間に伸び、ゆっくり撫でたり揉んだりされて足がガクガク震えた。
男人的手再次伸向大腿,慢慢地抚摸、揉捏,让他的脚颤抖不已。
「熱いのう。あぁ、雄の匂いもする、このまま溜め込むのは辛かろうなぁ?」
“好热啊。哎呀,还有雄性的气味,这样积累下去一定很痛苦吧?”
「ぁ、ぁ…ぁぁっ…」
「啊、啊…啊啊…」
「そら、後ろを向け」
「天空,向后转」
手を放されると同時に言われるままに背を向けて鳥居に手をつく。
手被放开的同时,顺从地转过身去,把手放在鸟居上。
どうして従っているのかもよくわからないが、ここで抵抗してもきっと自分にとっての好機には繋がらないだろう。
不太明白为什么跟着走,但在这里反抗的话,肯定不会遇到对自己有利的机会。
不思議に思いながらじっとしていると、何の迷いも無くズボンが下げられた。よく見れば俺の格好は部屋で寝ていたときのままだ。ベルトも無いスウェットは抵抗も無くするりと下ろされ、ついでのように下着も膝の辺りまで下ろされた。
感到不可思议地坐着不动,裤子自然而然地滑落了。仔细一看,我的打扮还是像在房间里睡觉时那样。没有皮带,宽松的汗衫毫无阻力地滑落,紧接着内衣也滑到了膝盖附近。
何をしているのだろう。流石に羞恥で顔から火が出そうだ。
我在做什么呢。毕竟害羞得脸都快要烧起来了。
いくら至近距離の相手の顔もよく見えない暗さになってきたからといって、誰も通らないわけでは…
即使是近距离的人,也因为太暗看不清楚,但也不是没有人经过...
………静か過ぎる。
……太安静了。
鶴丸に言われたことを思い出す。
想起鹤丸说过的话。
暗くなってきたこの時間では小中学生はとっくに家に帰り着いているだろう。
在这个越来越暗的时间,中小学生应该早就回到家了。
だが、部活に出ていた高校生はどうだろう。
但是,那些参加社团活动的高中生呢?
仕事帰りの社会人は?
那么下班回家的社会人呢?
この辺りは交通の便も良く、駅もバス停も近くにあるし、民家もマンションも多いから人通りだって絶えるには早い。
这一带交通便利,车站和公交站都很近,住宅和公寓也很多,所以人流量很大。
サァ、と血の気が引く音を聞いた気がした瞬間、背後から先程までよりも低い声がした。
哎呀,感觉听到了吸一口冷气的声音,背后传来了比刚才更低的声音。
「この私を差し置いて考え事とは余裕ではないか」
“把我想法放在一边,你还有余裕吗?”
「ひぅっ、ぁあっ…ぁ、ぁっ」
“呼——啊,啊……啊,啊——”
ぬるりとした感触が襲ってきた。
柔软的触感袭来。
その、尻の、孔、に…。
那个、臀部的、洞、……。
ぬる、と繰り返される感触に、一体何事かと振り返ったら、男が俺の尻の辺りに顔を埋めているのが見えた。
在重复的柔软触感中,我回过头,发现一个男人正把脸埋在我的臀部附近。
と、いうことは、今触れているこれは…
那么,现在正在接触的这个是……
「ゃ、ぁ…! だ、め、そんな…」
“呀,啊……! 不,没,那种……”
「ほう。思っていたよりも精神力は強いか」
“咦。没想到精神力这么强。”
「そんな、ところ…汚、い…っ」
“那种,地方……脏,啊……”
「案ずるな、そのようなことはない」
“不要猜疑,那种事情不存在。”
そういう問題じゃない。
“那不是问题。”
思う間にも中まで舌が差し込まれ、腹の中を舐められるというおぞましい感覚に目からぼろぼろと涙が零れ落ちる。
“思绪混乱,感到羞愧和恐惧,眼泪不由自主地流下来,感觉舌头被深深插入,肚子被舔舐,令人毛骨悚然。”
恥ずかしさと恐怖で混乱する頭では、鳥居に縋りついて声を上げることしか出来ない。
“在羞愧和恐惧中,头脑混乱,只能爬到鸟居上大声呼喊。”
両足を広げさせられ、ずるずると倒れる上半身をなんとか鳥居に手をついて支えているお陰で、腰を突き出す形になってしまっているのが尚更恥ずかしい。
因为在鸟居上勉强支撑着摇摇欲坠的上半身,所以现在这样露出腰部的姿势更加尴尬。
「ふふ、いい具合に色付いてきたのう」
“嘿嘿,颜色涂得挺不错的嘛。”
この薄闇で色なんてわかるのかとか、いいから早く手を放してくれとか、色々物申したいことはあったがそれらもすべてあっさりと霧散していく。
在这微弱的黑暗中,怎么能看清颜色呢,还有快点放手之类的,有很多话想说,但它们都轻飘飘地消散了。
と、暫くそうして解された箇所へ今度は指が捻じ込まれた。
然后,手指被紧紧地夹在刚才解开的地方。
とんでもない異物感はあったが痛みは無く、それ以上に羞恥で死にそうだ。
真是奇怪的感觉,没有疼痛,但更多的是羞耻感,差点就死了。
ぐにぐにと中を広げるように押していた男は、やがてとある一点を狙って押し込み始めた。
那个男人一边咕哝着,一边把里面推开,最后开始瞄准一个点用力推。
「ッ! ぁッ、あぁっ!」
“啊! 哎呀,啊!”
「ふむ、ここか」
“嗯,这里吧。”
よくわからない感覚が襲ってきた。内側から押し上げられるような、熱をぐるぐると無理矢理に掻き回すような、目の前がちかちかと明滅するような錯覚を起こし、背筋がぞわりと粟立つ。
一种难以言喻的感觉袭来。从内部涌出的、像热浪一样翻滚地、强行地挠痒,眼前闪烁着幻觉,脊背发麻。
妙な汗が噴出し、痛いほどに股間でも熱を持て余した俺のモノが主張を始めていた。
满身是汗,痛得难以忍受,我的东西开始抗议,热得无处发泄。
ぐちぐちと聞きたくもない音が聞こえ、手も足もぶるぶると震え続ける。
听不到想听的嘈杂声音,手和脚颤抖不已。
手が汗で滑り、鳥居に縋りつくのも苦労するがそんなことに微塵も構わずに男は刺激を続けた。
手上出汗滑腻,好不容易才攀上鸟居,但男人不顾这一切,继续寻求刺激。
俺の様子を見ているのか、刺さるのではないかと思うほどの視線を感じて振り返ることが出来ない。
我感觉他的视线像针一样刺痛,无法回头。
「ひっ、ぃっ、やぁっ! や、なに…なに、か……っあぁっ!」
“嘿,哎,哇!什么,什么……啊!”
ビクンッと腰が跳ね、目の前が真っ白になる。
腰部突然一跳,眼前一片空白。
強い快感にショートしたかに思える刹那の時間を体験した俺の身体は支えきれずに崩れ落ち、手と膝をついて荒い呼吸を繰り返す。
在体验了短暂的强烈快感后,我的身体支撑不住,倒在地上,双手和膝盖着地,喘着粗气。
身体の痙攣が治まらず、呻くような声が喉から絞り出されるばかりだ。
身体抽搐不止,喉咙里只发出呻吟声。
「気をやったか。だが吐き出せはせんじゃろう」
“放松点吧。但就是吐不出来。”
「は…ぇ…?」
“嗯……?”
言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。
理解这些话的意思花了一些时间。
確かにイった時と感覚が似ていると気づくのと、それでも射精した感覚は無いと気づくのは殆ど同時で、それが一体何を意味しているのかまで悟るのは男の指が再び俺の中を刺激し始めてからだった。
几乎在同一时间,我意识到那种感觉和我的时候很相似,但我仍然没有感觉到我射精了,直到那个男人的手指再次开始刺激我,我才明白这意味着什么。
「やっ! やだっ! やめ…やめて…ッ!」
“耶! 停。。。 停下。。。 哇!
「どうした。気持ちよかったろう? 遠慮などする必要はない、このまま何度でもイかせてやろうぞ」
“怎么了,感觉好吗? 你不必退缩,我想怎么做就怎么做。
「ひっ…ぃ…くるし……やぁっ…」
“嗯...... 哇。。。 Kurushi ...... 嘿......”
「あぁ、熱が溜まりすぎてつらいか」
“哦,太热了,太硬了。”
「んっ、んぅ…」
“嗯,嗯......”
必死に首を縦に振って吐き出せないことが辛いのだと伝えるが、男は笑うだけで手を休めてはくれない。
她疯狂地摇头,告诉她吐不出来很痛苦,但男人只是笑了笑,没有休息他的手。
それどころか、面白がるように震える陰茎を指先でくすぐるように嬲ったり、透明な蜜を零すばかりの先端を擦るだけ擦ってあっさり手を放したりと追い詰めてくる。
相反,他仿佛被逗乐了似的用指尖挑逗着颤抖的阴茎,光是揉搓就揉了揉透明的花蜜尖,轻松松开了手。
「ひっぎ…うあぁっ」
「挤...哎呀」
「また気をやったか。まだやれるな?」
「又泄气了。还能再努力一下吗?」
「ゆるして…むり、むりです…ゆるして、ください…」
「放松...不行,真的不行...请放松,求你了...」
「ならぬ」
「不行」
あまりにも軽い調子で却下され、必死の懇願はまた自分でも信じられないほどの甘ったるい声にかき消された。
竟然以如此轻描淡写的语气被拒绝,拼命的恳求也被自己听起来如此甜腻的声音所淹没。
そうして何度射精できないままイかされただろう。記憶しているのは、そこから更に二回無理矢理イかされて、腕の力も尽きて頬を土に汚しながら地面に這い蹲って尚弄られ続けている自分の身体が、奇妙なほど痙攣を起こした辺りまでだ。
然而不知为何,连续两次被强迫,直到筋疲力尽,脸颊沾满泥土,在地上爬行蹲坐,身体奇怪地抽搐起来。
[newpage]
□
目を覚ましたとき、俺はベッドにいた。
醒来时,我躺在床上。
時計を見ると時刻は九時を回り、しかし外は明るく。
看表时,时间已接近九点,但外面却很亮。
携帯を見ると十数件の鶴丸からの電話とメールの嵐。
翻看手机,发现十几条来自鹤丸的电话和邮件。
間に学校からのものもあったので、無断欠席ということになってしまったに違いない。
因为中间还有学校发来的,所以肯定是被记为无故缺勤了。
のろのろと起き上がって、妙な夢を見たと顔を洗いに洗面台へ向かうと、鏡に映った顔には土汚れが残っていた。
慢吞吞地起床,洗完脸后走向洗手台,镜子里映出的脸上还残留着泥土。
目を見開いてまじまじとそれを見つめ、はっとして自分の格好を見ると、上下ともきちんと着てはいるものの全てどろどろに汚れていた。
打开眼睛仔细地看,虽然上下一身都穿戴整齐,但全都沾满了污垢。
手も足も、爪の間まで土を引っ掻いたように汚れが詰まっていて身体が震えた。
手脚都沾满了泥土,指甲缝里都塞满了污垢,身体都颤抖起来。
「夢…ゆめ…? ゆめ、だろう? だって、俺は、昨日…外になんか…そとに…」
“梦…梦…?梦,对吧?因为,我昨天…在外面…在外面…”
毟り取るように全て脱ぎ、そのままシャワールームへ入って思い切り蛇口を捻った。
立刻脱掉所有衣服,直接走进淋浴间,猛地拧开水龙头。
身体を蝕む熱が再発し、シャワーの刺激でさえ声を洩らしそうになる。
身体被热病折磨,连淋浴的刺激都几乎要泄露声音。
身体中の汚れと汗を洗い流し、洗う間もびくびくと震える身体の感度が上がっている気がすることはこの際無視した。
洗去身体上的污垢和汗水,感觉在洗澡的时候身体敏感度提高,这次就忽略了吧。
気にしたって自分ではどうにもならないのだ。
即便在意,自己也无法改变。
バスタオルで乱雑に拭っただけの身体に何も纏わぬままベッドへ戻って学校に連絡して、熱で寝込んでいて電話に気づけなかったと言い訳をした。心配そうな担任には俺の声はどう聞こえていただろう。
只用浴巾随便擦了擦身体,什么都没穿就回到床上,联系了学校说因为发烧而昏睡,没注意到电话,找借口说。担心我的老师,我的声音听起来会怎样呢?
俺は今、自分がどんな表情をしているのかわからない。
我现在不知道自己是什么表情。
怖くて、苦しくて、熱くて、自分がどうなってしまったのか、夢でないならいつ出て行ったのか、いつ帰ってきたのか、どうして着替えもせずに、どうして靴すら履かずに、どうして…。
恐惧、痛苦、炽热,如果不是梦,那么我是何时离开的,何时回来的,为什么连换衣服都没有,为什么连鞋都没穿,为什么……
ガタガタ震える身体が自分のものではない気がして、着替えを済ませて何かに駆り立てられるように先程脱ぎ捨てた衣類を全てゴミ袋に詰めて玄関に放り出した。
身体颤抖得感觉不属于自己,刚才匆忙脱下的衣服被驱使着全部塞进垃圾桶,扔到了门口。
今日はゴミの日ではないので持ち出せないことが悔やまれる。全ての窓や扉に鍵を掛け、玄関もチェーンまで掛けておく。カーテンも日の光がまったく入らないというのは流石に難しいが、外の様子が見えないようきっちり閉めた。
今天不是垃圾收集日,不能拿出来,很遗憾。把所有的窗户和门都锁上,连大门都挂上了链子。窗帘完全不让阳光进来确实很难,但尽量把外面的情况遮住,关得严严实实。
後は頭から布団を被って、時々鶴丸から届くメールに目を通すだけだった。
现在只是从头到脚盖上被子,偶尔看看鹤丸发来的邮件。
外に出ることも、外を見ることも怖かった。
出去外面、看外面的东西都很害怕。
夢遊病にでもなってしまったのだろうかと投げれば、落ち着けと鶴丸からの返信が来る。
恐怕是得了梦游症了吧,一扔东西,就会收到鹤丸的回复来安慰我。
とにかく、授業終わったらすぐに行くから、部屋でじっとしていろと。
总之,课一结束就立刻去,所以在房间里就好好坐着吧。
昨日、鶴丸は本当にあの神社を見に行ったのだろうか。
昨天,鹤丸真的去了那个神社吗?
鶴丸はなんともなかったのだろうか。
鹤丸没事吧?
そんな不安を抱えもしたが、この様子では大丈夫なのだろう。じっと携帯を見つめているお陰で表示されている時間の進みが遅く感じる。
虽然也有这样的不安,但看这情况应该没问题。因为一直盯着手机看,所以感觉时间过得慢。
眠るのが怖い。眠ったら、その間にまた勝手に出て行ってしまいそうな気がする。
睡觉很可怕。一觉醒来,感觉好像又自己跑出去了一样。
まだ昼にも差し掛かっていないこの時刻では、授業が終わるのを待つのも楽ではなかった。
在这个还不到中午的时间,等待课程结束也不是一件愉快的事情。
[newpage]
□
「つ、る…まる…」
“噫,满……”
「お前、本当に顔色ヤバイぞ」
“你,脸色真的很不好看啊。”
インターホンが鳴ったのを聞きつけ、転がるように玄関に走った俺は、外から聞こえる声で相手が鶴丸だとわかるとがちゃがちゃと煩いほどに音を立てながら、震える手でチェーンを外して鍵を開けた。
我听到门铃响,像滚球一样跑到门口,听到外面传来的声音是鹤丸,就迫不及待地颤抖着双手解开链条,打开门锁。
時間は三時過ぎ。
时间已经过了三点。
俺の様子が余りにもおかしいと感じたらしい鶴丸は、頭が腹痛ですとでも言っとけと適当なことをクラスメイトに伝言を預けて出てきたのだそうだ。
鹤丸似乎觉得我的样子很奇怪,于是让我跟同学说我的头很痛,就随便找了个借口出门了。
言動がふざけてはいるし悪戯も好きな奴だが、基本的に真面目な生徒で通っている鶴丸が仮病など余程に勇気が必要だったろうに。
虽然他喜欢恶作剧,但本质上是个认真的学生,鹤丸装病应该需要很大的勇气吧。
来る途中コンビニに寄ってきたらしく、カップ麺と弁当とスポーツドリンクと果物の缶詰、そしてアイスを二つ。ベッド脇に用意した折りたたみ式の卓袱台に広げて、食欲はどうだ?と首を傾げて見せた。
来的路上去了便利店,买了杯面、便当、运动饮料、水果罐头,还有两份冰淇淋。摊开在床边的折叠式餐桌旁,好奇地问:“食欲怎么样?”
まずは俺を落ち着けようと思ったのだろう。
想先让我平静下来。
「食欲ないならアイス食え。なにも食わないよりはマシだし、外も暑いからな。ほら、お前の好きなやつ」
“不想吃就吃冰淇淋吧。总比什么都不吃好,外面又热。看,你喜欢的那个。”
「…あぁ」
“…啊。”
「で、今は大丈夫なのか?」
「那么,你现在还好吗?」
「今…?」
「现在...?」
「その、なんだっけ。身体の様子がおかしいって」
「那个,怎么了。身体感觉不舒服吧?」
「あ、あぁ、今は…大丈夫だ…」
「啊,啊,现在...还好...」
あの後、メールで詳しいことまでは書かなかったが身体がおかしいことも伝えた。風邪ではないと。そういうのではなく、一種の生理現象ではあるはずなのだが、自分の手には負えない状態にあると。
之后,虽然没有在邮件中详细说明,但传达了自己的身体不适。不是感冒。不是那种,而应该是一种生理现象,但已经到了自己无法承受的地步。
思春期の男子にその内容はいかがなものかと、冷静になれたら頭を抱えただろうが、実際それ以外に伝えようがなくて冷静になどなれやしなかった。
对于青春期男孩来说,那内容实在不堪入目,冷静下来可能会抱着头,但实际上除了那之外没有其他可以传达的内容,根本无法冷静下来。
まじまじと俺の顔から下へと移していく鶴丸の視線に多少居心地の悪さを感じながら、手渡されたアイスのパッケージを開けた。
在感受到一丝不自在的同时,看着鹤丸的目光从我的脸向下移动,我打开了递给我的冰淇淋包装。
バニラアイスをチョコレートでコーティングしたそれを一つ、同梱されているピンで刺して口に運ぶ間、鶴丸はもう一つのアイスを冷凍庫に、スポーツドリンクを二本残して残りを冷蔵庫に、弁当はレンジに放り込みカップ麺と缶詰は棚に入れた。
在用巧克力包裹的香草冰淇淋上插上一根牙签,放进嘴里的时候,鹤丸把另一块冰淇淋放进冷冻库,留下两瓶运动饮料,剩下的放在冷藏库,把便当中饭扔进微波炉,把杯面和罐头放回架子。
俺が食べられないようなら自分が食べようと思っていたのだろう弁当を温める姿は、この部屋の勝手を知っていることがよくわかる程度には迷いがない。
如果我不能吃,那我就想自己吃掉那份我打算吃的便当了。加热便当的姿态,让我很清楚地知道这个房间的规矩。
一本を俺に、一本を自分用に置いたスポーツドリンクを片方取って口をつけた鶴丸は、温め終わった弁当を取り出すと外した蓋に付着したハンバーグソースを簡単に水洗いしてから、プラスチック用のゴミ箱に入れ、そこで玄関脇に放り出してあるゴミ袋に気づいたのか眉間に軽く皺を寄せた。
鹤丸拿起一瓶给我一瓶给自己准备的体育饮料,喝了一口后,拿出加热好的便当,简单地在掉落的汉堡酱上用水冲洗,然后放入塑料垃圾箱,并注意到门口放着的垃圾袋,微微皱了皱眉头。
「…あれか?」
“...那是?”
「あれだ」
“那是啊。”
汚れた服をゴミ袋に詰めたことも、メールで話してあった。
把脏衣服装进垃圾袋的事情,也通过邮件说过。
ぱきっ、と割り箸を口に咥えて割った鶴丸は、卓袱台を挟んで俺の前に腰を落ち着けると温かい弁当を前に手を合わせてから、一度だけ俺に本当に要らないのか?と問いかけてくる。
哗啦一声,咬着筷子割开鹤丸的鹤丸,在我面前放下腰,坐在桌布台上,把手放在热腾腾的便当中,然后问我一次,你真的不需要吗?
食欲は湧かなかった。
没有食欲。
美味そうな弁当ではあったし、鶴丸も俺がよく好んで買うものを選んできてくれたようだったが。
虽然看起来很好吃,鹤丸也好像挑了我喜欢买的东西。
それだけに申し訳ない気もしたが、アイスを食べるので精一杯だった。
真的感到很抱歉,但是为了吃冰淇淋已经尽力了。
昼休みに昼食を取らずに、俺の様子が尋常でないことを心配した鶴丸は、この辺りを通るはずの生徒に片っ端からこの数日何時に下校していたかを聞いて回っていたのだそうだ。
午休时间没有吃午饭,鹤丸担心我的状况不寻常,据说她一直在询问经过这里的同学们这数日何时放学。
そして結果は
结果是
「皆、五時にはこの辺り通過してた。進学コースの連中はもっと遅いけど、六限までのクラスは特に道を変えるわけでもなくあの神社の前を通ってるみたいだ」
「大家都五点前已经通过了这里。升学班的人更晚,但六节课的班级并没有改变路线,好像都是经过那个神社前。」
「…俺と変わらない時間だな」
「...和我的时间一样啊」
「それから、昨日通ってみたけど、俺の行った時間には白い髪の男なんか居なかった。ついでに、俺が今日聞きこんだ連中も見たことないそうだ」
「然后,我昨天去看了看,我去的那个时间点没有那个白头发的男人。顺便说一下,我今天听说的那些人我也没见过」
「は? いや、それは…お前はいいかもしれんが…他の誰も見ていないって言うのか?」
「是吗?不,那...你可能是吧...其他人都没有看到,对吧?」
「そうみたいだな」
「好像是这样的」
「あんなに目立つ格好してるのに?目を引くぞ、あの長い白髪と着物は」
“怎么穿得这么显眼?那长长的白发和和服一定会引人注目的。”
「俺に言われてもな。とにかく、それらしい人物に心当たりはないそうだ」
“就算我说了也没用。总之,他好像没有印象是那种人。”
熱々のハンバーグをふーふーと冷ましながら口に入れ、咀嚼する鶴丸の目は冗談を言っているような感じではなかった。
“一边呼呼地冷却着热腾腾的汉堡,一边咀嚼,鹤丸的眼神并没有开玩笑的感觉。”
では、俺はいったい誰と会っていたのだろう。
“那么,我究竟和谁见面了呢?”
たまたま?たまたま他の人が通ったときに見える位置に居なかっただけ?
真的是偶然吗?难道只是因为不在别人经过时能看到的那个位置吗?
だとしたら、それはやっぱり昨日鶴丸が言ったとおり、俺が狙われているということだろうか。
那么的话,可能就像鹤丸昨天说的那样,我是被盯上了吧。
ぞくりと寒気が襲ってきて鳥肌が立った。
突然感到一阵寒意袭来,鸡皮疙瘩都起来了。
「明日土曜日で休みだし、この土日予定も無いし、もしなんだったら俺ん家泊まりに来いよ」
“明天是周六休息,这个周末也没有安排,那要不就到我家来住一晚吧。”
「えっ」
“哎?”
「ここよりは神社も遠いしさ。一人だとやっぱなにかあった時対処出来ないだろう」
“这里离神社也更远了。一个人万一出了什么事,处理起来肯定不行吧?”
「けど」
“但是”
「うちの親なら大丈夫。お前のことガキの頃から知ってるだろう?」
“我爸妈没问题。你从小就是我认识的孩子吧?”
気にするなと言ってくれる鶴丸の誘いはありがたいが、正直少し迷ってしまう。
能让你别再担心的鹤丸的诱惑固然令人感激,但说实话,我有些迷茫。
というのも、例の変調がいつ起こるかもわからない。
因为,那种变化的时机我也无法预料。
夜通し身体の中で疼く熱と戦って悶える俺の姿など、見せたいものではない。
通宵达旦与身体里疼痛的热度抗争、挣扎的我,并不是想展示的样子。
無意識にまた脱いでしまったらそれこそ目も当てられないじゃないか。
如果不自觉地又脱了衣服,那简直是无地自容了。
「無理にとは言わないけど。一応考えておいてくれ。なにかあったら連絡すれば迎えに来るから」
「虽然不说无理,但请先考虑一下。如果有什么事情发生,就联系我,我会来接你。」
弁当を食べ終えた鶴丸は、その後も暫く俺の様子を気遣って話し相手になってくれた。
鹤丸吃完便饭后,之后还关心我的状况,成了我的谈话对象。
神社の不審な男の話ではなく、学校でこんなことがあった、こんな馬鹿なことをやる奴がいた、悪戯に引っ掛かった奴の反応を見ようとして自分が引っ掛かった等、脈絡もない話ばかり。
不是关于神社里可疑男人的事情,而是学校里发生的这样的事情,那样愚蠢的行为,想看看恶作剧被牵连的人的反应,结果自己也被牵连进来了,都是些毫无关联的话。
きっと気を遣わせたのだ。
估计是让我担心了。
俺が神社に行っているのが夕方ばかりであることを考えて、鶴丸はこの日、八時頃まで俺の部屋に居た。
考虑到我去神社大多是傍晚,鹤丸这天一直待在我的房间里直到八点左右。
どういうわけか身体の熱はそこそこ落ち着いていて、鶴丸に余計な心配を掛けることなく時間は過ぎていった。今日は大丈夫かもしれない。そう心のどこかで安心して、手を振って部屋を出て行った鶴丸に戸締り気をつけろよと散々言われて鍵とチェーンを掛けなおした。
不知为何,体温有所下降,没有给鹤丸带来额外的担忧,时间就这样过去了。今天可能没问题。在心底里稍微安心了,挥手告别房间,还被叮嘱要小心上锁,于是又重新挂上了钥匙和链条。
今度礼を言わなくては。
下次一定要说谢谢。
少しだけ心が軽くなった気がして、玄関に背を向け一歩廊下へ踏み出した。
感觉心情轻松了一些,背对着大门,踏出了一步进入走廊。
―――――瞬間、ぐらりと目の前が揺れた。
瞬间,眼前突然晃动了一下。
ハッとして目を開けると、そこはあの神社の石段の上だった。一歩、また一歩と石段を登り、鳥居を潜ってあの祠の前へ行くところだ。
突然睁开眼睛,发现自己站在那座神社的石阶上。一步一步地登上石阶,穿过鸟居,朝着那座祠堂走去。
足元を見ると、また部屋着のままで靴も履かずに歩いている。
看着足元,他还是穿着家居服,连鞋都没穿就走了。
歩みを止めようとするが言うことを聞かない足は勝手に前へ進み、やがて古びた祠の前で微笑んでいるあの男の元まで辿り着く。
试图停下脚步,但脚不听使唤,擅自向前走去,终于来到了那个微笑着站在古老祠堂前的男人的面前。
薄闇の中、月明かりしかないそこで男の紅い瞳がやや橙に近い色に光った。
在昏暗之中,只有月光,那里男子的红瞳微微泛着橙色光芒。
「言うたじゃろう? 私を拒もうとも無駄じゃと」
“你说了什么?就算拒绝我也无济于事。”
くい、と顎を持ち上げられ、瞳を覗き込まれて血が沸騰するかのような熱が身体中を襲った。
咕咚一声,下巴被抬起,目光被深深凝视,身体中涌起一股热血沸腾的热浪。
もうこの身には私の施した刻印がいくつも刻まれておる、と囁く声に足が震えて立っていられない。
我的身上已经刻下了我留下的印记,我低语着,脚颤抖得无法站稳。
男の腕に支えられ、無理矢理立たされながら身体の中を暴れ回る熱が抑えきれず思わず声を洩らすと、触れただけでもう耐えられんかと喉で笑われた。
被男人的手臂支撑着,勉强站立着,身体里的热浪无法抑制,忍不住发出声音,只是被触碰一下,喉咙里就忍不住笑出声来。
「案ずるな。その熱、今宵は発散させてやろう」
“别想了。今晚就让你发泄出来。”
準備は整ったからなぁ。
准备已经做好了。
不穏な言葉を吹き込みながら俺に口吻けた男は、力の抜けた俺の身体を迷わず横抱きにして祠よりずっと上へと続く石段を登って行った。
在我耳边吹着不祥的话语,那个男人毫不犹豫地抱起筋疲力尽的我,沿着比神社还要高的石阶向上走去。
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■□
あるところに仲のいい狐達がいました。
有一群关系很好的狐狸。
狐達は好奇心が強く、自分達の遊び場に目新しいものが転がり込めば、喜んで眺めていました。
狐狸们好奇心强,如果他们玩耍的地方滚进来新奇的东西,就会高兴地观赏。
ある日、一人の人間の子供が遊び場に迷い込みました。
有一天,一个人类的孩子们误闯进了游乐场。
人間が珍しかった狐達は、そっと近づいてその様子を見ていました。
狐狸们因为人类很少见,所以悄悄地靠近观察。
けれど、どんなに近づいても人間の子供が狐達に気づくことはありません。
但是,无论它们多么靠近,孩子们都没有察觉到狐狸们。
狐達は人間の世界とは薄い膜を隔てたような、ギリギリの世界の生き物だったからです。
因为狐狸们像是被一层薄薄的膜隔开的,边缘世界的生物。
やがてその遊び場には人間がよく立ち入るようになりました。
逐渐地,人类开始频繁进入那个游乐场。
狐達にとってはやはり珍しく、近くで見てみようと寄っていきます。
对于狐狸们来说仍然很罕见,它们会靠近看看。
それでも人間が狐達に気づくことはありません。
尽管如此,人类并没有注意到狐狸们。
目新しいものを、人間はたくさん持ち込みます。
人类带来了许多新奇的东西。
それらが気になって気になって、狐達はぐるぐると人間の周りを駆け回ります。
它们好奇地围着人类转来转去。
どれくらいそうしていたでしょう。
它们这样做了多久了。
ある日、一人の人間の子供が目を大きく見開いて言いました。
有一天,一个小孩睁大了眼睛说。
「きつねさんだ」
“是狐狸。”
どういうわけか一匹の狐の存在に気づいた人間の子供は、その日から毎日狐の子と遊びました。
突然,一个注意到狐狸存在的小孩从此每天都和狐狸的孩子一起玩耍。
好奇心が強い狐の子は嬉しくて嬉しくて、いつしかその人間の子供とずっとずっと一緒にいられたらと考えるようになりました。
好奇心强的狐狸孩子高兴极了,渐渐地开始想,如果能一直和那个小孩在一起就好了。
どうすればいいだろう。
那该怎么办呢?
どうすれば一緒にいられるだろう。
那怎样才能在一起呢?
悩みに悩んだ末、狐の子は思いました。
经过一番的烦恼,狐狸的孩子想道。
―――自分の世界へ連れ帰ってしまえばいい。
——把他带回自己的世界不就好了。
ある日、人間の世界から一人の子供が姿を消しました。
有一天,一个孩子从人类的世界消失了。
ある日、人間の世界から一匹の狐の子供が消えました。
有一天,一只狐狸的孩子从人类的世界消失了。
狐の暮らす世界で、一人と一匹が仲睦まじく幸せに暮らしているかは、誰にもわかりません。
在狐狸居住的世界里,一个人和一只狐狸是否和睦相处、幸福地生活,谁也不知道。
けれど、他の狐達は思いました。
但是,其他的狐狸们想。
大好きな相手と一緒なら、きっと幸せに違いないと。
如果和心爱的人在一起,一定很幸福吧。
いつしか、狐達は自分を見つけてくれる相手を探すようになりました。
久而久之,狐狸们开始寻找能找到自己的伴侣。
一人が消え、一匹が消え。
一个人消失了,一匹马消失了。
何年も何年も。
多年又多年。
そうして狐はとうとう最後の一匹を残すのみとなりました。
于是狐狸终于只能保留最后一匹了。
何匹もの兄弟が、仲間が、嬉しそうに人間を連れて消えるのを、ただただぽつんと見ていました。
看着成群的兄弟和同伴高兴地带着人类消失,它只是默默地注视着。
寂しくて寂しくて、最後の狐はずっとずっと孤独に耐えて自分だけの相手を探し続けました。
寂寞得无法忍受,最后一只狐狸一直孤独地忍受着,不断寻找自己的伴侣。
そうして、ある日、目が合いました。
于是,有一天,他们的目光相遇了。
蒼くて黄色い、美しい、月のような人間の子供。
美丽的,像月亮一样蓝黄相间的,人类的孩子。
最後の狐は嬉しくて嬉しくて、これまでの寂しさを忘れるくらいの驚きと喜びを抱えて笑いました。
最后的狐狸高兴得无法自持,带着足以忘却过去寂寞的惊讶和喜悦,笑了出来。
そして決めたのです。
然后决定了。
もう居なくなってしまった他の狐達と同じように、きっとこの人間と一緒に幸せになってみせると。
就像其他已经消失的狐狸一样,一定和这个人一起幸福地生活。
紅い夕日のような瞳をついと細めて、狐は月のような人間に手を伸ばしました。
狐狸将像红日一样的眼睛逐渐细长,向像月亮一样的人伸出手。
■□
朝には簡単な朝食を持って行こう。
早上吃简单的早餐吧。
そう思って三日月の携帯へ電話をかけた鶴丸は、怪訝な顔をして時計を見た。
鹤丸一边想着,一边给三日月打电话,然后惊讶地看着手表。
三日月の部屋を出てからそんなに時間は経っていない。
从三日月房间出来到现在并没有过多久。
眠るのが怖いと言っていた三日月が、こんなに早く眠るとも思えないというのに、何度かけ直しても電話に出る気配がなかった。
三日月说害怕睡觉,但没想到会这么快就睡着,尽管我连续打了好几次电话,她都没有接听。
念のためにメールと留守電も入れてみたものの、どうにも胸騒ぎがしてならない。
尽管我已经尝试了发邮件和留言,但仍然无法平息内心的不安。
結局十分ほどそうしてかけ直してみてから、自転車と家の鍵を引っ掴んで携帯を耳に押し当てたまま家を飛び出した。
最终,在重新尝试之后,我抓起自行车和家门钥匙,把手机贴在耳朵上,跳出家门。
鶴丸の家から三日月の暮らすマンションの一室まで、自転車を使えば十分とかからない。
从鹤丸的家到三日月住的公寓的一室,骑自行车足够了。
警察に見つかれば止められると知っていながら、一刻を争う事態になっていないことを祈って自転車を漕ぎながら再び電話を掛けてみた。しかし、それは数秒後に無情にも留守番電話サービスに繋がってしまう。
尽管知道如果被警察发现就会被制止,我还是一边祈祷着不要发生任何紧急情况,一边骑着自行车,再次尝试打电话。然而,几秒钟后,无情地被转接到留言服务。
マンションの前に着いたら、鍵を掛けるのももどかしいとばかりに殆ど横薙ぎに倒すようにして、エレベーターホールに駆け込んでカチカチとボタンを叩く。どこの階に行ってしまっているのか、なかなか降りてこないエレベーターに業を煮やして階段を駆け上がり、ぜぇぜぇと息を切らせながら途中で歩調が弱まり、もっと運動するべきかと呑気なことも言えずになんとか目的の階までやって来た。
到达公寓前,焦急地几乎横着倒下,冲进电梯厅,砰砰地按电梯按钮。电梯迟迟不下来,我生气地跑上楼梯,喘着粗气,途中步伐不稳,连说应该多运动的话也说不出口,终于到达了目的地楼层。
もう一度、とリダイヤルを押して耳に押し当てた携帯から呼び出し音が鳴るのを確認して三日月の部屋の前まで行くと、中からは聞き覚えのある着信音が聞こえた。
再次按下重拨键,确认手机里传来铃声,走到三日月房间的门口,从里面传来熟悉的来电铃声。
若干無用心なことに、三日月の部屋の外に置かれた観葉植物の鉢をずらすと、中から合鍵が出てくることを知っている。
稍微不小心地移动了三日月房间外的观叶植物花盆,我知道从中会掉出钥匙。
インターホンを押して中から物音がしないことを確認するや、合鍵を使って扉を開けた。
按下门铃确认里面没有动静后,用备用钥匙打开了门。
しかしその扉は、途中まで開きはしたもののチェーンに阻まれて大きく口を開けることはなかった。
然而,那扇门虽然打开了一半,却被链条阻挡,无法完全打开。
チェーンも掛かっているのに、中からは人の気配がしない。
尽管挂着链条,里面却没有任何人的气息。
「三日月! 三日月―!?」
“月亮!月亮——!”
声を掛けてみるが、やはり物音はしない。
尝试呼唤,但仍然没有声音。
人が呼吸する気配や足音、勿論シャワーの音もしないしトイレというわけでもなさそうだ。
没有人的呼吸声、脚步声,当然也没有淋浴声,看起来也不像是在厕所。
ふと視線を落とすと、そこには見覚えのある靴がきちんと揃えて置かれていて。
突然低头一看,那里整齐地摆放着熟悉的鞋子。
「………どういうことだよ…」
“………这是什么意思……”
外に出ることを恐れていた三日月が、一人で出歩くとは思えなかった。
三日月害怕外出,一个人走路是想象不到的。
本当に夢遊病の気でもあるというのか。
真的是梦游症吗?
しかしそれではこのチェーンはどう説明する。
但是这样的话,这个链条怎么解释呢?
U字型であったなら多少の工作は出来そうなものだが、ここのチェーンは昔ながらの鎖型だ。
如果是 U 型的话,多少可以进行一些工作,但这里的链条是传统的链型。
そうなると、心当たりといえばこの中で倒れてしまっているか、もしくは本当に『何か』奇妙な現象に巻き込まれているか。前者であって欲しくはないが、後者も容認できる内容ではない。
这样一来,可能的线索就是这里有人倒下,或者真的卷入了某种奇特的“什么”现象。前者希望不是,但后者也不是可以容忍的内容。
酷く困惑しながら、鶴丸は呆然と室内を見つめていた。
鹤丸极度困惑,呆呆地看着室内。
□
「ふぁ…ぁあっ…ん…」
“呃……啊……嗯……”
「随分と、熱くなっておるなぁ?」
"挺热的啊?"
つつ、と指が肌を滑る度に勝手に身体が跳ね上がる。
手指滑过肌肤,身体不由自主地跳了起来。
身体が燃えるように熱い。
身体像燃烧一样热。
朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めて見える先には、俺に覆い被さる男の白い髪がふわりと揺れる。
意识模糊,拼命地维持清醒,眼前,覆盖在我身上的那个男人的白发轻轻摇曳。
髪の束が垂れ下がり、首筋に触れただけでぞわぞわと言い知れぬ感覚に苛まれる。
头发垂落,仅触及脖颈便让人感到难以言喻的瘙痒。
どうにもこの男に触れられると、否、声を聞くだけでも酷く発情してしまっているのがわかって困惑なんてもんじゃない。
一想到这个男人,不,甚至听到他的声音都会让我极度兴奋,这让我感到困惑。
一枚一枚、確かめるように脱がされた衣類はそこらに適当に放り出され、敷布だけの布団の上に寝かされた俺の胸を撫でながら男の舌が鎖骨を辿り、やんわりと歯を立てた。
逐件检查被脱下的衣物,随意地扔在一边,我躺在仅有的床单上,他的手抚摸着我的胸膛,舌尖沿着锁骨滑行,轻轻地咬住了我。
ビクンッと大きく跳ね上がる俺の肩を押さえ、肌を滑る唇が時折音を立てて皮膚を吸うものだから、ぴりりとした僅かな痛みと共にじんわりとそこからも熱が広がる。
我猛地跳了起来,他按住了我的肩膀,嘴唇滑过我的肌肤时偶尔发出声音,吸吮着我的皮肤,伴随着轻微的刺痛,热感从那里缓缓扩散开来。
きっといくつもキスマークをつけられてしまっているのだろうけれど、それを確認する余力はない。
肯定有很多吻痕,但已经没有力气去确认了。
「もうこんなに蜜を零して。はしたない奴よ」
“都流了这么多蜜了,真是个讨厌的家伙。”
「ぁっ、ぁっ……触らないで……ッ」
“啊,啊……别碰……”
「何を言うておる。気持ち良いのだろう?」
“你在说什么呢。难道很舒服吗?”
「ひぁんっ!」
“哇!”
「くくっ、こうも容易く濡れるとは…ほら、奥もすっかり潤っているではないか」
“该死的,我不知道它会这么容易被淋湿...... 看,后面完全湿透了。
陰茎から流れ出た蜜に濡れた蕾に男の指が触れる。
男人的手指触摸着从阴茎中流出的花蜜湿润的花蕾。
その感触を確認するかのようにぐにぐにと数回押しただけで、指先がくぷりと俺の中に飲み込まれてチカチカと覚えのある明滅が視界を覆う。
我按了几下,仿佛要确认这种感觉,我的指尖被我体内吞没了,熟悉的闪烁光芒遮住了我的视线。
「ここは随分と気に入っておったようじゃなぁ? 気を失うほど果てて」
“这里你很喜欢吧?已经到了绝望的地步了”
「やだ…やだぁ…やめ、て、もう、やだ…こわい…」
“讨厌……讨厌啊……别再这样了,已经够了……好可怕……”
「怖がる必要などない、身を委ねよ。今宵は奥の奥まで雄に食われる愉悦を教えてやろう」
“没有必要害怕,把身体交给我吧。今晚我要让你体验从里到外被雄性吞噬的愉悦”
「く、くわれ…?」
“呼、呼……”
「ここに」
「这里」
言いながら中をぐるりと解す為に指を動かしつつ、もう一方の手が俺の何も隠すもののない下腹部を撫でた。
说着,一边动手解开中间的结,一边用另一只手抚摸着我毫无遮拦的下腹部。
温かい掌が燻る熱を呼び覚ますかのようで、ズクンと重い熱がぐるぐると回り始めた。
温暖的手掌仿佛唤醒了炽热的气息,一股沉甸甸的热流开始缓缓转动。
「私の精を注いでやろう。それが終われば、お主はもう二度とここから出られぬ」
「我要注入我的精华。一旦完成,你就再也无法从这里离开了。」
「…ぁっ、は……え…出られ…?」
「…啊,是……出不去…?」
「もう、ここから解放してやるのも終いよ。お主とてもう気づいておるじゃろう? その熱は私でないと放出させてやることは出来ん」
「已经,从这里解放你也是尽头了。你主子很清楚吧?那种热情不是我能让你释放的。」
「どういう、意味…」
「这是什么意思…」
声が震えた。
声音颤抖了。
二度と出られないとはどういう意味なのか。
这是什么意思,再也出不去了。
精を注ぐとは。
专心致志是什么意思。
なんとなく意味はわかっているような気がするが、脳がそれを受け入れることを拒絶している。
感觉好像懂了,但大脑却拒绝接受。
青褪めた俺の表情を観察するように覗き込んだ男は、にぃ、と笑って中を探る指の本数を増やして、無情にも激しく抜き差しを始めた。
看着我青涩的表情,那个男人笑了笑,开始用手指探索,无情地、激烈地抽插。
耐えられるはずのない激しい刺激に身体全体で仰け反り、ぼろぼろと涙が零れて頬や髪を濡らした。
难以承受的强烈刺激使身体不由自主地后仰,泪水纷纷落下,湿润了脸颊和头发。
嬌声とも悲鳴ともつかない声が絞り出されるが、それは電気ではなく火による明かりの灯された室内に吸い込まれるようにして溶けた。
那是一种既非娇声也非悲鸣的声音,被挤压出来,仿佛被吸入了室内由火光照亮的空气中,融化在其中。
障子と襖で仕切られたここは、あの石段の一番上にあった古びた社の中で一番大きな本殿だと思われる場所だ。小さな神社だったと記憶しているが、全国の有名な神社に比べればというだけで、改めて見ればそれなりに広いように感じる。
这里被屏风和隔扇分隔,据推测是位于那座石阶最上方的古老神社中最大的神殿。虽然我记得这是一个小神社,但与全国知名的神社相比,再次看到时感觉还是相当宽敞的。
幼い頃の記憶では、こんな奥まで探検させてもらえなかったからかもしれないけれど。
因为小时候没有被允许探索这么远,可能是因为这个原因。
拝殿の手前の砂利の敷かれた辺りまでが、子供たちが遊ぶのに使っても怒られなかったギリギリだったように記憶している。
我记得当时连拜殿前的砂砾地都成了孩子们玩耍的地方,连责备都没有。
そんな奥まった場所に連れ込まれ、罰当たりなことにそこでこんな風に肌を晒すなんて。
被带到这么隐蔽的地方,竟然还被迫这样暴露身体,真是可恶。
木造の社は不気味なほどに雰囲気があって、既に夜であることもあってか高い天井が魂を吸うかのように見えて、与えられる刺激とは違ったぞわりとした感覚が襲ってくる。
这座木制神社有一种令人毛骨悚然的氛围,加上已经是夜晚,高高的天花板看起来像是在吸取灵魂,带来的刺激是一种不同于以往的微妙感觉。
必死に男の着物を握って、こんな場所でなんてことをするのかと訴えるが、ちゅっと乳首を吸われて指に力が入らなくなってしまうのは一瞬だった。
狂命地握着男子的和服,质问在这种地方做什么,但被轻轻吸吮乳头的一瞬间,手指的力气就消失了。
「抗うな。お主は私のものになる為にここに居るのだ」
“不要反抗。你在这里是为了成为我的东西。”
「なんで、なんで俺なんだ…なんで…」
“为什么,为什么是我……为什么……”
「お主が、私の唯一だからじゃ」
“因为你是我唯一的……”
「…ゆいいつ…?」
“……什么时候……?”
「ずっと欲しかった。ずっとずっと望んでおった。私だけの番よ」
“我一直都很想要。一直一直都在期待。我是你专属的。”
「つ、がい…?」
“噫、怪异……?”
意味がわからず繰り返すように呟くだけに終わる。
意思不明白,只是反复嘟囔着。
意地悪く笑っていた男の表情がふわりと緩んだような気がしたが、それもすぐに指を引き抜かれる感触に全部塗り替えられて意識が霧散する。
感觉那个恶作剧般笑着男人的表情突然缓和了,但随即被抽回手指的感觉完全取代,意识变得模糊。
「さて、ここはもう待ちきれんそうじゃ」
“好了,这里似乎已经等不及了。”
痛いほど張り詰めた俺の陰茎を握り、ゆっくりと擦られて息が出来ない。
- 她抓住我痛苦紧绷的阴茎,慢慢地摩擦,我无法呼吸。
しとどに濡れたそれが水音を立てる度に気が狂うのではないかと思うほどの快感が走るが、相変わらず射精までは至らない。
- 每次它在喉咙里弄湿并发出水声时,快感就会流淌到我想我会发疯,但它仍然没有达到射精。
「ひぃっ、ぃッ、ァッ! やぁああぁぁッ!」
“啊
「私の精を受ければ楽になれる。力を抜いて受け入れよ」
“如果你接受我的精子,事情会更容易。
力を抜けと言われても無理だ。
被要求放松,但做不到。
こんな状態で力を抜くなんて出来るわけがない。
在这种状态下放松,根本不可能。
跳ね回る俺の脚を抱え、いつの間にか取り出された男のモノが俺の後孔に押し付けられた。
抱住我蹦跳的腿,不知不觉中,那个男人的东西被推进了我的后洞。
その後はもう、無理だとか、怖いとか、そんな事を考える暇も与えられはしなかった。
此后,再也没有时间想那些无理、害怕的事情了。
ぐぷ、と切っ先が半ば無理矢理に押し込まれ、大きく膨れた先端が飲み込まれる度に内壁を強く擦り上げて酷い圧迫感と、受け入れるには過ぎた快感を同時に叩き込まれる。
もう少し押し込まれ、先端が飲み込まれるたびに内壁を強く擦り合わせ、酷い圧迫感と受け入れられないほどの快感が同時に襲ってくる。
深く深く含まされる動きは、白く霞がかっていく意識では到底全てを把握しきれるものではなく、ピンと突っ張って力が抜けなくなった脚を抱えたまま男が律動を始める頃には、昨晩教え込まれたように射精できないまま何度もイかされていた気がする。
深く深く感じられる動きは、白い霞がかっていく意識では全てを把握するのは難しく、男が律動を始める頃には、昨晩教われたように射精できないまま何度もイカされた気がする。
「ひ、ぁ…っが…ぁぁあぁ…ッぁ、う、ぁ…ッ」
形を持たない声ばかり洩れる俺の中に納まったものが一際強く奥を突き、熱を孕んだ最奥に新たな熱が注がれた瞬間、大きく跳ねた身体の中を暴れていた熱がようやく解放された。やっとの思いで弾けた精は、今まで味わったことのない強すぎる快感を生んで俺の意識を焼いた。
形のない声がただ洩れる私の中に突き刺さり、熱を持つ奥深くに新たな熱が注がれた瞬間、体が大きく跳ね上がり、いつも以上の快感で意識が燃え尽きる。
*
それからどれほど経ったろう。
那之后过了多久了。
あの時から俺は幾度と無く男に抱かれ、散々啼かされて精を受け入れさせられた。
从那时起,我不知被多少男人抱过,痛哭流涕,被迫接受他们的身体。
ふらつく足でなんとか立ち上がって外へ出ようと試みるも、すぐに引き戻されて気づけば男の腕の中だ。
尝试用蹒跚的步伐站起来向外走去,但很快就被拉回来,发现自己又回到了那个男人的怀抱中。
一度だけ、男は外に出る機会を与えてくれたが、それは俺を陥落させる最後の仕上げだったのだろうか。
男的只给我一次外出的机会,那可能是我堕落的最終一步吧。
石段の一番下まで抱き上げられて運ばれた俺を、出入り口の大きな鳥居に押し付けて後ろから壊れるのではないかと恐怖するほど突き荒らされた。
我被紧紧抱起,一直抱到石阶的最下面,然后被推到入口处的大鸟居前,后背几乎要被撞碎,感到非常恐惧。
どういうわけかそこでは、以前のように声を出すことが出来なくてただただ揺さぶられるばかり。
不知道为什么,在那里我无法像以前那样发声,只能被摇晃。
男は肩越しに俺にそっと囁いた。
男人从肩上悄悄对我说。
「一度だけチャンスをやろう。ここの結界を少しだけ緩めてやる、そうすれば自由に声を出すことも叶うじゃろう」
「就试一次机会吧。稍微放松这里的结界,这样你就能自由地发声了。」
本当に元の世界に戻りたくば声を出せばいい。
真的想回到原来的世界,只要喊出声来就可以了。
そうすればこれまで通り人の世に帰れるし二度と手を出さぬと誓おう。
这样就可以像以前一样回到人间,并且发誓再也不伸手了。
但し、既にこの身は初めて手を掛けた時より私の神気で作り変えられておる。
但是,我的身体已经被我的神气改变,比第一次接触时还要多。
それがどういう意味なのかは、もう嫌というほどわかっていよう?
难道你不知道那是什么意思吗?已经烦得要命了吧?
そう告げて男の手が鳥居に触れた途端、空気が軽くなった。
就在男人告诉他的那一刻,空气变得轻松了。
出そうと思えば声が出せるだろうことが、本能で理解できた。同時に、これまで疑問だった人の絶えたあの空間は何だったとかと思えるほどに人の声が聞こえ始め、今まではその結界とやらで遮断されていただけなのだと知る。
我本能地理解了,只要想出声,就能发出声音。同时,人的声音开始变得清晰,以前那个消失的空间是什么,我也能想象出来,原来之前只是被那个结界所阻隔。
今なら助けを呼べる。
现在可以呼救了。
そればかりか、声を出すだけで解放される。
更重要的是,只要出声,就能得到释放。
そう思った瞬間に繋がったままのそこが大きく揺さぶられた。
就在这么想的瞬间,那里被剧烈摇晃了一下。
「…ッ! ……っ、…ッ!」
“…啊!……嗯、…啊!”
「どうした? 声を出さんとここから出られんぞ?」
“怎么了?大声点,不然我们出不去啊?”
「……っ、…!」
“……嗯、…!”
「ふふ、そんなに心地良いか。人に見られるのが好きか? ならばもっと乱れて見せよ。もっとも、声を出せばその瞬間その痴態も人の目に触れるが、お主の今度の一生を決めることじゃ。精々事が終わるまでに決めよ」
“嘻嘻,这么舒服吗?喜欢被人看到吗?那么就更加放纵一些吧。不过,如果发出声音的话,那一刻的狂态也会被人看到,这可是决定你未来一生的关键。最好在事情结束之前就做出决定。”
すっかり男を受け入れることに馴染んでしまった内壁が、律動にあわせて脈打つようにうねるのがわかる。
“内心已经完全接受了男人,可以感受到随着律动而起伏的跳动。”
敢えて弱いところばかり突く動きに何度も声が洩れそうになって、慌てて口を手で塞いだ。
“故意攻击弱点,多次差点发出声音,慌忙用手堵住嘴巴。”
自分でも不可解な行動に疑問を持つが、だからといって動きを止めてもらえるわけでもなく、崩れ落ちそうな震える足を折らせぬよう、しっかりと腰を掴んでの動きは激しさを増すばかり。
“对自己这种不可理解的行为感到疑惑,但并不能因此停下来,为了不让那颤抖的脚跌倒,只能紧紧抓住腰部,动作越来越激烈。”
このまままた中で出されてしまったら、全部終わる気がした。これまで築き上げてきた、三日月宗近という存在が全部飲まれる気がした。
如果再陷入其中,一切都将结束。我建立起来的三日月宗近这个存在,似乎都要被吞噬了。
怖くて、苦しくて、けれどそれを塗り潰す悦楽に心が覆われていく。
虽然害怕、痛苦,但被这种抹去一切痛苦的快乐所覆盖。
早く声を出して助けを呼ばなくてはと思う心と、もう元の身体に戻れないのならこのままでもいいかもしれないと思う心が鬩ぎ合う。
一边想着要早点呼救,一边又觉得如果无法回到原来的身体,这样也行或许。
口を塞いでいた手を放し、錆びれて色のくすんだ鳥居に爪を立てる。
放开堵住嘴巴的手,在生锈且颜色暗淡的鸟居上抓挠。
一方の手を腰を掴む男の手に重ね、きゅっと握った。
一只手抓住腰间的手,紧紧握住。
その意味を汲み取ったのか、ぐん、と抱え上げるように上半身を持ち上げられ、顎を捉えて後ろを向かされたかと思ったら唇を重ねられた。
似乎理解了那个意思,上半身被猛地抱起,下巴被抓住,转过了身,然后嘴唇贴了上来。
舌が口腔を蹂躙し、強く吸って呼吸さえ奪う中、互いの熱が弾けるのもすぐだった。
舌头在口腔中肆虐,用力吸吮,几乎瞬间就夺走了呼吸。
「ぁ…あぁ…っ」
“啊……啊……”
「お主の選んだことじゃ。二度と放さぬ」
"这是你选择的事情。绝不会再放手。"
余韻に浸ってびくびくと跳ねる身体を抱き締められながら見上げた鳥居は、真新しい作りかと錯覚する真っ赤なものになっていた。
在余韵中沉浸,被紧紧抱住的身体颤抖着抬头望去,看到的鸟居仿佛是全新的,变成了鲜红色。
それを見た瞬間理解する。
看到那一瞬间就明白了。
嗚呼、もうこの世界は閉じられたのだと。
唉,这个世界已经关闭了。
名も知らぬ男に抱き締められたまま、蕩けた思考を揺らしながら手探りで口吻けを強請ると、くすくすと笑う声を白い髪を靡かせながら風が連れ去った。
被一个陌生的男人紧紧抱住,思绪飘散,摸索着要求亲吻,那咯咯的笑声随风飘散,白头发随风飘扬。
[newpage]
□
紅い。
红色。
ただただ紅い空。
仅仅是一片红色的天空。
ざぁっと風が吹けば揺れる木々の黒さがくっきりと浮かび上がる、西の空に大きな夕陽が見える社。
一阵风吹过,树木的黑色轮廓清晰可见,西边的天空挂着一轮大大的夕阳。
そっと震える足を伸ばして外に出ると、ざり、と裸足の足の裏に小さな砂利の音と感触。
轻轻伸直颤抖的双脚,走出户外,突然听到,嗒,赤脚踩在沙石上的声音和触感。
痛いとか、そんな事を気にしている場合ではない。
现在不是考虑疼痛这类事情的时候。
チラと見やれば、畳の上に敷かれた布団の上で穏やかな寝息を立てている白い男の姿が見えた。
稍一瞥去,便看到,榻榻米上铺的棉被上,一个白皙的男子正在平稳地入睡。
ゆっくりゆっくり、気づかれないよう戸を閉めて、出来る限り音を立てないように砂利の上を歩いて境内を抜けた。
慢慢地、尽量不发出声音地走过沙石路,悄无声息地穿过庭院。
その先に見える石段まで出ると、後は一気に駆け下りた。
看到前面的石阶,便一口气冲了下去。
足の裏がびりびりと悲鳴を上げ、石や枝を踏んで傷がつくがそんなこと構っていられない。
脚底传来刺痛,踩到石头和树枝上会受伤,但这些都顾不得了。
まだ熱の残る身体はふらつき、至る箇所に男の熱を、味を、それこそ身体にも記憶にも心にも覚えさせられた痕跡と感覚が残っているのを無視して、真っ赤な大鳥居まで一息に駆け下りて手をついた。
身体还有余温,摇摇晃晃地,到处都留下了男人体温、味道,以及身体、记忆、心灵都难以忘怀的痕迹和感觉,却依然一口气跑到了那座鲜红的大鸟居前,伸出手去。
「はぁ、はぁ…」
「唉,唉……」
呼吸が酷く乱れ、心臓がバクバクと音を立てているのがわかる。
呼吸急促,心脏砰砰直跳,我能感觉到。
汗が滴るほどに噴き出して顎を伝い背を濡らすが、疲労を訴えている暇など無かった。
汗水如雨般涌出,顺着下巴流到背上,但我没有时间抱怨疲劳。
男が寝ている間に、出来る限り遠くへ、誰か助けてくれる相手を探しに行かねば。
在男人睡觉的时候,必须尽可能远地去寻找能帮助自己的人。
ここから自宅までは徒歩で十分程度だが、自宅に居てもいつの間にかここに来ていたことを考えると、男には自宅の場所を知られているのかもしれない。
从这里到我家步行足够了,但即使在家里,不知不觉中也会来到这里,也许男人知道我家在哪里。
なら、もう少し先になるが川向こうの鶴丸の家に行こう。事情は以前話していたから、きっと助けてくれる。とにかく警察に…警察が信じてくれるだろうか、自宅に居たのに、いつの間にか神社に連れて行かれて一晩中男に陵辱されていたなど。いいや、信じなくてもいい。とにかくあの男の手の及ばない場所に隠れることが出来れば。
那么,再往前一点,去对岸的鹤丸家。因为之前已经说过情况,他一定会帮忙的。总之先报警……警察会相信我吗?我明明在家里,却不知不觉被带到神社,整晚被那个男人侮辱。算了,即使不相信也没关系。总之如果能躲在那个男人够不到的地方就好了。
ごくりと唾を飲み込んで、ぐいと汗を拭って鳥居の外へ出た。手の甲にも汗が浮いていたためにずるりと滑るだけに終わった行為は、俺の不安を表していたのかもしれない。
咕咚咕咚吞了口唾沫,擦了擦汗,出了鸟居。因为手心出汗,滑倒的行动可能就是我的不安的表现。
大きな夕陽が見える夕方ということは、少なくとも昨晩からほぼ丸一日男の腕から逃れられなかったということ。今日は土曜日のはずだから、学校関係者には俺が居なくても何一つ伝わってはいないだろう。
能看到大夕阳的傍晚,至少从昨晚开始,几乎一整天都没有从那个男人的臂弯里逃脱。今天是星期六,学校的人应该不会知道我不在。
平日であったなら、今日は出てきていないと不審がる声も上がっただろうけれど。
要是平时,今天肯定会有怀疑的声音冒出来。
そこだけを悔やみながら、肺がパンクするのではないかと思うほど走った。
就这样一边悔恨,一边感觉肺都要炸了,拼命地跑。
緊張と不安と僅かな期待で逸る足はもつれ、ずきりと痛む足の裏が血を流す。
心中充满了紧张、不安和一丝期待,脚步踉跄,脚底疼痛,鲜血直流。
自宅マンションに続く道を逸れ、紅い町並みを見知った方向へ向けて足を動かし続けた。
走着偏离了通往自家公寓的道路,朝着熟悉的红色街道方向继续前进。
然程持久力があるわけでもない上に、一晩中好き勝手に嬲られたお陰で体力は著しい低下を見せ、空気さえ重く感じるほどにダルくて仕方がない。
然而并非拥有持久的耐力,加之整夜被随意玩弄,体力急剧下降,感觉连空气都变得沉重,疲惫不堪。
夏の気温に焼けたアスファルトの熱に炙られながらでは、ますます体力は奪われる一方で呼吸の苦しさに速度が次第に落ちていく。何度も後ろを振り返り、追ってきていないか確認し、曲がり角では先回りされていないかドキドキしながらそっと覗き込んだ。
在被夏日高温烤得滚烫的沥青路面炙烤下,体力不断被剥夺,呼吸越来越困难,速度逐渐下降。一次次回头张望,确认没有人追赶,在拐角处小心翼翼地窥视,担心被超车。
走っていられなくなって動きが歩みに変わっても、足を止めることだけはせずに胸に手を当ててキリキリ痛む肺に懸命に酸素を送り込んだ。
跑不动了,动作变成了走,但并没有停下脚步,用手按在胸口,向剧痛的肺部拼命输送氧气。
汗で濡れて張り付く髪が鬱陶しいが、それさえも気にする余裕はなくて。
被汗水浸湿的头发黏糊糊的,但连这点都不在乎。
水が欲しい。
我想要水。
暑い、熱い、喉がひどく渇く。
很热,很渴,喉咙很干。
もう少しで小さな川がある。そこを抜ければ最初の曲がり角を左に行ってすぐの場所に鶴丸の住んでいるマンションがある。
就快有小溪了。穿过那里,左转第一个弯,就到了鹤丸住的公寓。
もう少し。今あいつの顔を見たら泣いてしまう気がする。
就差一点。现在看到他那样子,我可能会哭出来。
早く安心したい。早く逃げられたという実感が欲しい。早く。
很想早点安心。很想有逃离的感觉。快点。
殆ど気力で引きずるような動きになった足を動かして、川に差し掛かる最後の交差点を曲がった。
用几乎耗尽的力量拖着腿,转弯进入最后一个通往河流的路口。
「っ!」
“啊!”
ビクリと肩が跳ねた。
肩膀一抖,微微跳了一下。
川に架かる橋の上に人影が見えた。
桥上可见人影。
一瞬あの男ではないかと身構えたが、その姿はもう少し幼いように見えた。
猜测那不是那个人,但他的样子看起来更年轻。
髪は長くないし、何より白銀に揺れることもない。
头发不长,更不用说摇曳的白银了。
ほっと胸を撫で下ろして辺りを注意深く見渡して、後もう少しだと橋の方へ歩いた。
放松了一下,轻轻拍打胸口,仔细观察四周,然后继续向桥的方向走去。
真っ赤に染まった空の下にぽつんと一人、橋の欄干に背を預けてぼーっとしているように見えるその人は、俺が近づいても気にする様子はまったくなかった。
在那片染成红色的天空下,孤零零的一个人,背靠在桥栏上,仿佛对我走近毫不在意。
よかった、あの男の仲間というわけでもなさそうだと、ゆっくり息を吐いて橋に足を踏み出した。
好吧,看来他并不是那个男人的同伴,我缓缓地吐了口气,踏上了桥。
途端、影を落としていて表情の伺えなかったその人が、ぐりん、と不自然な動きで顔を上げた。
忽然,那个表情无法看清的人,咕哝一声,不自然地抬起了头。
驚いて思わず足を止めてしまった俺を、零れるのではないかと思うほどに大きく見開いた目でじっと見つめる姿は、言うなればただ異様で、重度の酔っ払いか、さもなくばテレビのニュースやドラマなどで見た覚醒剤などを使用した人間をイメージさせた。
我惊讶地停下脚步,他瞪大了眼睛,几乎像是泪水要涌出,那专注的目光,简直令人毛骨悚然,仿佛是重度醉酒,或者是电视新闻或剧中吸食了兴奋剂的人的形象。
「……、…」
「…え?」
「…呢?」
何か言われた。
有什么说的。
くぐもった声は聞き取りづらく、口ももごもごと動かす程度だったので何を言っているのか読み取ることも出来ず、反射的に聞き返すつもりもなかったのに声が口をついて零れ落ちた。
声音模糊不清,嘴也只动了几下,所以无法听清说了什么,也没有打算回话,但声音却脱口而出。
すると壊れた人形のように無機質に、けれど勢い良く口から流れるように声が溢れ出して来た。
声音像破旧的人偶一样无感情地、却势头强劲地从口中涌出。
「わたるの? わたるの? ここをわたるの? わたルの? いっちャウの? ワたるのわたるのわタるの? ねぇわたるノ? ここを? ここを? わたルノ? どコいくの? ねぇ? ネェ? どこニいくの?」
“是我在这里吗?我在这里吗?这里是我吗?我的?你的?我的我的我的?喂,我在这里吗?这里吗?这里吗?我的?去哪里了?喂?嗯?去哪里了?”
「ひっ…!」
“哼...!”
息継ぎもしないその勢いに圧されて、一歩後ずさる。
在那股势头下,连呼吸都停顿了,不由得后退一步。
首をかくりと傾げてぎこちない動きで欄干から身を浮かせ、一歩、こちらへ歩み寄ってきた。
慢慢地抬起头,歪歪扭扭地靠在栏杆上,然后一步,向我这边走来。
その間も延々ここを渡るのかと問いかけてくる声は途切れることを知らず、口の端から泡交じりの唾を吐きながら更に一歩。
在这段时间里,他不断地问自己是否还在这里,声音从未中断,一边吐着带泡沫的唾沫,一边又向前迈了一步。
気迫に圧されてこちらも一歩下がった。
在他的气势压迫下,我也退了一步。
慌てて踵を返して橋を降りると、その声は不気味なほどにぴたりと静かになった。
慌忙转身跑下桥,那声音变得异常安静。
そろりと振り返ると、にたぁ、と笑みを浮かべてまた元の位置に戻り、欄干に身を預けてぼんやりし始めた。夕陽の逆行で表情の見えなくなったその人は、その後こちらを見ることはなかったけれど、もうその橋を渡る勇気は出せなかった。
转过身去,嘴角露出笑容,又回到了原位,靠在栏杆上发呆。夕阳的逆光让那个人的表情变得模糊不清,之后再也没有看过这边,再也没了过桥的勇气。
腰を抜かしてもおかしくないだけの驚きを抱えて、別の道を探そうと川沿いに歩き始めた。
腰杆挺得笔直,心中充满了惊讶,开始沿着河边寻找其他道路。
この近くにも橋があったはず。もしもそこにも…いや、妙な考えはやめよう。その手前に駅もある。なんなら駅員に事情を話して警察を呼んでもらおう。
这附近应该也有桥。如果那里也有……不,别胡思乱想了。前面还有车站。不妨去跟车站工作人员说明情况,请求他们叫警察过来。
真っ赤な町の中、すっかり恐怖と緊張で萎えてしまった足に無理矢理力を篭めて、涙の滲んだ目を擦って歩き始めた。
在这红彤彤的镇子里,我的脚因为恐惧和紧张而完全无力,勉强聚集力量,擦去含泪的双眼,开始行走。
足の裏が痛い。擦り切れて血の滲むそこにじくじくと熱が集まっているというのに、焼けたアスファルトに焼かれて更なる痛みが指先から次第に感覚を奪っていく。
脚底疼痛难忍。尽管那里已经磨破出血,热气在伤口处聚集,但被烤得滚烫的沥青却让疼痛从指尖逐渐夺走了感觉。
はぁ、はぁ、と自分の呼吸が煩い。
呼吸声变得如此沉重。
一呼吸する度に肺奥まで熱した空気が入り込んで苦しい。
每呼吸一次,热气就进入肺部深处,让人感到痛苦。
然程遠くない駅が見え始め、そろりと辺りを確認しながら路地を曲がって線路を渡った。
然而并不遥远的车站开始出现在视野中,一边确认四周的情况,一边拐过小巷,穿过了铁路。
着物一枚に裸足でうろつく姿は異様であろうと思えるが、そんな事を気にしている余裕は俺の中のどこにも無くて、いつも生真面目な駅員がいる駅構内へ足を踏み入れた。
虽然想象着穿着和服赤脚闲逛的样子可能有些怪异,但在我内心深处,根本没时间去想这些,我总是很认真地走进有站员的车站站台。
しかし、そこには駅員どころか人が一人もいなかった。
然而,那里连一个站员都没有,更别提人了。
「………そんな…」
“………那样的……”
そこでようやく気づいた。
终于意识到了。
夕方の駅前がこんなに静かなはずが無い。
晚上车站前不应该这么安静。
大体、ここへ来るまで、橋の上のおかしな人を除けば誰一人として出会わなかったし車も通らなかった。
一直到这里,除了桥上那个奇怪的人,没有遇到过任何人,也没有车经过。
住宅地を抜けて来たというのに、何かが聞こえたりしただろうか?
虽然已经穿过了住宅区,但有没有听到什么声音?
人影に限ったことではない。人の声は? 虫のさざめきは? 鳥の羽ばたきは?
人的影子尚且如此,人的声音呢?虫鸣声呢?鸟的振翅声呢?
夕食の支度をする音も匂いも無く、テレビの音も無く、夕方のタイムセールに向かう主婦の姿も無く、仕事帰りのサラリーマンの姿も無く、学生達がコンビニ前に屯っている姿も無ければ近所のよく吠える犬の声さえしなかった。
没有晚餐准备的声音和气味,没有电视的声音,没有傍晚去参加打折活动的家庭主妇的身影,没有下班回家的上班族的身影,没有学生们在便利店前聚集的身影,甚至连附近那只经常吠叫的狗都没有声音。
見れば電光掲示板も作動していないばかりか、改札のランプもついてはおらず、振り返って確かめるが交差点の信号は何も示すことなく沈黙し、車はおろか自転車も餌を求める雀や鳩の姿も見当たらない。
更奇怪的是,从我离开那个公司到现在已经过去了多久?
いや、それ以上におかしなのは、俺があの社を出てからどれだけ時間が経った?
不,更奇怪的是,我从那个公司出来之后,已经过去了多久?
どう短く見積もっても三十分近くは経っているはずだ。
即使估算得再短,也差不多有三十年了。
なのに、どうして未だに空が赤い?
然而,为什么天空还是红色的?
いくらまだ夏場で明るい時間が長いとはいえ、夕陽があんなに長い間空に揺らめくなどありえないだろう。
即使现在还是夏天,白天时间很长,但夕阳不可能那么长时间在天空中闪烁。
じっとりと嫌な汗が背を伝い落ち、無人の駅を見渡し両腕で自分の身体を抱き締めた。ガタガタと震える身体に力が入らず、油断するとその場に崩れ落ちて動けなくなりそうだ。
湿漉漉的讨厌的汗水沿着背脊滑落,环顾四周是无人的车站,用双臂紧紧抱住自己的身体。身体颤抖得无法控制,稍微松懈就会在这里倒下,动弹不得。
やけにレトロな時計の針は夕方五時半頃を指しているが、果たしてあれはあっているのだろうか。
特别复古的钟表指针指向傍晚五点半左右,但那是否真的准确呢?
「……どうして」
“……为什么?”
やっと、ここは自分の暮らしていた場所ではないのではないかと混乱する頭の中に浮かび始め、同時にそれは誰にも助けてもらえないということなのだと絶望が胸の奥を占めていく。
终于,我开始意识到这里不是我曾经居住的地方,混乱的头脑中同时浮现出这种感觉,同时我也意识到自己无法得到任何人的帮助,绝望在胸中蔓延。
とにかく、誰かいないだろうか。
总之,这里应该没有人吧。
もしかしたら俺のようにここに迷い込んだ者がいるかもしれない。
可能有人像我一样误打误撞地闯了进来。
殆ど絶望に等しい微かな希望に縋って、開きっ放しの改札を通ってホームを見て回り、電車も動いてなさそうだと考えて外へ出る。
几乎绝望地抓住一丝希望,穿过敞开的检票口,环顾月台,觉得火车似乎也没有启动,便向外走去。
駅構内のコンビニも、棚に商品さえ並んではおらずがらんどうの寂しい空気を纏っていた。
站内的便利店也是如此,货架上连商品都没有摆放,弥漫着一种凄凉的氛围。
いくつかの曲がり角や店を見て回り、心細さと恐怖に心が折れかけたその時、何かが聞こえた気がした。
在转角处和店铺间徘徊,心中恐惧和不安几乎压垮了我,这时我好像听到了什么声音。
音とも声ともつかないなにか。
什么也听不到,也看不到。
どこから聞こえるのかと立ち並ぶ店の壁に手をついて引きずるように歩みを進め、やがてそれを見つけた。四つ目の店の隣にあった小ぢんまりとした駐車場に、人影が。年若い男のようだとわかって歩みを止めた。
他沿着排列的店铺墙壁摸索着前进,试图找出声音的来源,最终在第四家店旁边的小停车场发现了人影。他认出那是一个年轻人,便停下了脚步。
どうやらあの白い男ではなさそうだと安心したのも束の間、その男の足元に転がるものを見て表情が、背筋が、空気が凍った。
看起来那个人不是那个白人男子,他刚松了一口气,却看到那个男子的脚下滚落着什么,他的表情和背脊都凝固了。
紅く染まった空の下、赤い紅い液体が一面に広がり、その中に何かの冗談のようにおそらくは『人間のパーツであろう生白いなにか』が転がっていた。
在染成红色的天空下,红色的液体遍布一片,其中似乎有一个可能是“人类的某个部分”的白色物体在滚动。
その向こうには、女性のものと思われる長い黒髪の………
那边是看起来像是女性的长长的黑发……
「…ッ!」
“……!”
咄嗟に悲鳴を上げそうになって口を押さえた。
立刻想要发出悲鸣,却忍住了。
気づかれないうちに逃げなくては。そう思っても、もう足が竦んで動けなかった。
在没被发现之前必须逃跑。虽然这样想,但脚已经发软,无法动弹。
俺の気配に気づいたのか、男はゆるりとこちらを向いた。
他似乎注意到了我的气息,男子缓缓地转向这边。
真っ赤な、血のような瞳を持った黒い髪の男。
黑色头发,有着像血一样鲜红的眼睛的男人。
短く刈った髪の一部が返り血で固まっているのがわかる。
可以看到短头发的一部分因为淤血而凝固。
男はギラギラとした目で、けれどどこか不思議そうに、ゆっくりと首を傾げてからこちらへ歩み寄ってきた。
男子用锐利的目光看着,但似乎有些奇怪,慢慢地歪着头,然后朝这边走来。
逃げる暇も無く男の手が伸び、俺の着物の胸元を掴んで引き摺るようにして地面に乱暴に倒される。
没有时间逃跑,男人的手伸过来,抓住我的和服胸口,用力一拉,我被粗暴地摔倒在地。
間近に先程見た赤い水溜りが見えてぞわりと鳥肌が一斉に立った。
看见刚才看到的红色水坑,突然觉得一阵鸡皮疙瘩。
「ひ、ぃ…や、だ…や…」
“呼,啊……呀,啊……”
声が出ない。恐怖で潰れた声はひゅーひゅーと細い息を洩らすばかりで意味を成さない。
发不出声音。恐惧中,声音破碎,只能呼呼地吐出微弱的气息,无法表达任何意义。
男にとってそんな事は関係無いのか、髪を鷲掴んで無理に顔を上げさせられたかと思ったら、吐息がかかるほど近くまで顔を近づけて嘗め回すようにじろじろと顔を見られた。血の気が失せて動けない俺の表情を暫し観察した後、にたりと笑った男は俺の胸の辺りにどかりと腰を下ろした。
男对于那种事情真的无关紧要吗?以为是被抓着头发强迫抬起脸来,结果被近距离地靠近,几乎能感受到他的呼吸,瞪大了眼睛盯着看。观察了我无法动弹、血气上涌的表情后,那个男人笑了笑,然后在我胸口附近坐了下来。
「か、ひゅ…っ」
“啊,咦……”
肺が圧迫され、呼吸もままならない。
肺部受到压迫,几乎无法呼吸。
俺もあんな風に殺されるのだろうかと涙で滲む視界に映りこむ黒い男を見つめていると、男はごそごそと自分の纏っていた着物の前を寛げ始めた。ぼろん、と取り出されたのは、まだ反応を示していない男の陰茎で。
我看着那个被泪水模糊的视线中映出的黑色男人,心想自己会不会也那样被杀死,那个男人开始在他穿着的和服前宽慰起来。果然,拿出来的还是那个尚未反应过来的男人的阴茎。
どうしてそんなものを、と考える暇も与えられず、男の手が乱暴に俺の顎を捉えて力ずくで口を開けさせられた。そこでようやく何をしようとしているのか何となく察することが出来て戦慄した。
我还没来得及思考我为什么要那样做,那个男人的手猛烈地抓住了我的下巴,逼得我张开嘴。 我终于明白了他们试图做什么,我感到很震惊。
バタバタと暴れたくても萎えた四肢は動いてくれず、人形のようにされるがままだ。
就算你想飘飘飘、横冲直撞,枯萎的四肢也不会动弹,你会被当作玩偶对待。
一切の躊躇いも迷いも無く陰茎が口に押し込まれ、その大きさと生臭さに吐き気を催す。
没有任何犹豫或犹豫,阴茎被推入嘴中,它的大小和鱼腥味让我恶心。
腰を浮かせて上から落とし込むようにして強引に捻じ込まれたそれが喉奥を突いて、呼吸を遮り更なる嘔吐感を促す。ごりごりと喉の粘膜を擦られて苦しさにぼろぼろと涙が零れた。
它通过抬起臀部并从上方放下而被强行扭曲,然后戳到喉咙后部,中断呼吸并促进进一步呕吐。 她喉咙的粘膜被摩擦,泪水因疼痛而滴落。
気持ち悪い。
好恶心。
苦味のある不快な味が口内に広がるのを感じて喉が痙攣を起こす。
感觉嘴里有苦涩的不愉快味道,喉咙开始抽搐。
「ぐ、ぐぅ…ぐぶ、ぅ…んんぐ…っ」
「咕、咕呜…咕布、呜…嗯咕…嗖」
苦しい。苦しい。気持ち悪い。助けて。助けて。
好痛苦。好痛苦。好恶心。救救我。救救我。
思いも虚しく、ぐんと膨れた怒張が口内で弾けるのは早く、いっぱいに口の中を満たしていたソレから苦い熱がどくどくと溢れて喉奥へ無遠慮に流れ込んでいく。吐き出したいのに、興奮した男に頭を掴まれぐいぐいと押し込められれば、口腔を犯すものを抜くことさえ許されない。
心中空虚无助,那股强烈的怒火在口中爆发得很快,充满了口腔的苦涩热流毫无顾忌地流入喉咙深处。想呕吐,却被兴奋的男人抓住头发,被紧紧地推入,连从口腔中拔出东西的权利都没有。
チカチカ星の散る視界が危険を訴え、窒息してしまうと引き攣った喉が不規則に蠢く。
闪烁的星星散布的视野在诉说着危险,窒息时喉咙不规律地抽搐。
がりがりと地面に爪を立て、抵抗しなくてはと必死に動かぬ四肢に力を篭めようともがいた。
他把爪子挖进地里,拼命挣扎着抓住他一动不动的四肢,试图反抗。
けれど俺のささやかな動きなど意に介さず、男はずるりと勢いよく陰茎を抜き去ると俺の両足を持ち上げた。単衣のみで下には何も穿いていないお陰で、たったそれだけで下半身の全てがあらわになる。
但他不在乎我的小动作,他从我的阴茎中滑出,抬起我的双腿。 由于她只穿了一件衣服,下面什么都没有,所以她所有的下半身都暴露在外。
何をされるのか、そんなものつい先日嫌と言うほど叩き込まれた俺には容易に予想がつき、仮に違ったとしても傍らに転がる彼女の様な末路が待っているに決まっている。
很容易预测她会做什么,因为她被打得太惨了,前几天她不喜欢了,就算不同,她也必然有和她一样的命运在身边。
粘つく精を大量に流し込まれた喉はまだ痙攣していて、まともな抵抗など出来よう筈がなかった。
他的喉咙仍然因为大量粘稠的精液而痉挛,他无法做出像样的抵抗。
尻にぬるりと熱が押し付けられ、嫌悪感と吐き気に苛まれつつも、呼吸もままならない現状を打破するだけの力もなく。碌に呼吸も出来ず、次第に視界が霞み掛かってくる。
尿液中热乎乎的感觉让人恶心,想吐,但连呼吸都困难,连打破这种现状的力量都没有。呼吸越来越困难,视线逐渐模糊。
嫌だ。こんなの。
厌恶。这种东西。
けふ、と懸命に酸素を求める肺が痙攣を起こし、頭痛が襲ってきた。
今天,拼命呼吸的肺开始痉挛,头痛袭来。
ず、と無理矢理に肉を押し開き、男のモノが俺の中に埋め込まれる感覚。突然の痛みと壮絶な不快感にぼろぼろと涙が零れた。
哎,勉强推开肉,感觉男人的东西被塞进我的身体里。突如其来的疼痛和极度的不适,眼泪不由自主地流了下来。
そこがどうなっているのかなんて気にする余裕も無く、遠退く意識の片隅でよりにもよって男に犯されながら殺されるのかとそればかりが頭を占める。
根本没有余力去在意那是什么样子,只是在意识的一个角落里想着,难道就要在那种情况下被男人侵犯然后被杀了吗?
このまま意識を失ったら、もう目覚めることも無く隣に転がっている女性のようになるのだろうかと、悔しさと惨めな思いで思考が埋め尽くされていく。
如果就这样失去意识,难道就会像旁边的女人一样永远醒不过来吗?悔恨和悲哀的情绪充满了我的思绪。
―――――た、すけ…
啊、糟了...
「何をしておる」
你在做什么?
低い声が聞こえた気がした。
我以为我听到了一个低沉的声音。
瞬間、熱と足を無遠慮に掴む力が一瞬で消えた。
刹那间,那股毫不犹豫地抓住双腿的热量和力量,在瞬间消失了。
放り出されるように横倒しになったお陰で喉に絡む精が吐き出され、突如肺に流れ込んできた酸素に激しく噎せ返り、身体をくの字に折ってげほげほと精と胃液と唾液の混じったものを何度も吐いた。
他喉咙里的精液因为被甩出去了而吐了出来,突然流进肺部的氧气让他猛烈地吞咽了下去,他把身体折成一个弯,一遍又一遍地吐出精液、胃液和唾液的混合物。
涙に滲んだ視界には、ゆうるりと揺らめく山吹色と白銀。
在泪水浸透的视野中,闪闪发光的山吹色和白色的银色。
見覚えのあるそれにハッとなって恐る恐る顔を上げると、ギリリ、と俺に圧し掛かっていた男の首に指先を食い込ませて吊るし上げる白い男の姿。その燃えるような紅い瞳が俺へ、次にその向こうの女性へ、次いでもう一度俺へと向けられてから吊るし上げた男へ移った。
那个熟悉的身影让我忍不住笑出声来,小心翼翼地抬起头,只见一个白皙的男子正用手指紧紧地勒住一个男人的脖子,将他吊起来。那双炽热的红眼睛先是对准了我,然后转向对面的女子,再次转向我,最后又转向那个被吊起来的男子。
「この辺りはお主の縄張りか。私の番が失礼した。が、私のものに手を出した報いだけは受けてもらわねばな…?」
“这里是你管辖的地盘吗?我的职责失职了。但是,你对我的东西动手,这个惩罚你必须接受……?”
ゆったりとした口調で告げる声は、非常に穏やかにも感じられた。けれどその瞳の奥に宿る確かな怒りを感じ取って、俺は指一本動かせなくなった。言い終わるのと男の腕が動くのは殆ど同時で、吊るし上げられた男の身体が駐車場横の店の壁に思い切り叩きつけられた。ぐしゃ、と肉の潰れる湿った音が聞こえ、恐怖で震える身体はその行方を視線で追うことさえも拒絶した。
他用悠闲的语气宣布,听起来非常温和。但是,从他那双眼睛深处感受到的坚定愤怒让我动弹不得。他说完话,男子的手臂几乎同时动了起来,被吊起来的男子的身体狠狠地撞在停车场旁边的店铺墙上。咕哝一声,肉被压碎的湿漉漉的声音响起,我颤抖的身体甚至无法用视线追踪他的去向。
ガタガタ震える俺の傍に白い男はゆったりとした歩みで寄って来ると、すっかり青褪めた俺の表情に何を思ったか、両腕で横抱きに抱き上げて無言のまま歩き始めた。かと思ったら、あっさりと地を蹴って天高く飛翔した。現実にはありえない現象に目を丸くし、その瞬間に理解した。
那个白皙的男子缓缓地走到我颤抖的身边,看到我脸色苍白,似乎明白了什么,他用双臂将我横抱起来,默默地开始走。我以为他会落地,但他却轻松地一跃而起,飞向高空。我目瞪口呆地看着这一幕,突然明白了这一切。
嗚呼、どんなに頑張っても逃げられるはずが無かったのだと。
唉,不管怎么努力,也不可能逃脱得了。
こんな人間離れした跳躍力と速度を持った奴を相手に、俺はなんて無力なのかと。
面对这样一个脱离人类极限的跳跃力和速度的家伙,我究竟有多么无力啊。
この後きっと、勝手に抜け出し脱走を謀った俺は、この男に手酷い目に遭わされるのだと。
此后,我必定会被这个男人遭受残酷的对待,因为我一定会擅自逃脱并策划逃跑。
風を切って空を翔る男の靡く白い髪と山吹色の着物はとても優雅で美しいが、この身の内にあるのは獣の情欲と支配欲だ。己の手を離れようとした俺をどうするか、無言のままのこの端正な顔は何も表情に出しはしないが、きっと良からぬ事を巡らせているのだろうと思うと震えが止まらなかった。
风中翱翔的男子,他那飘扬的白色头发和山吹色的和服显得非常优雅美丽,但他的内心却充满了兽性的欲望和支配欲。他试图挣脱我的手,但那端正的面容却没有任何表情,我总觉得他一定在策划着什么坏事,这让我止不住地颤抖。
瞬く間に神社が近づき、ザンッと音を立てて砂利の上に着地する衝撃に身を竦ませるのを気にも留めず、俺を抱き上げたまま疲れを見せない男はすたすたと本殿の方へと足を向けた。ざり、ざり、と砂利を鳴らして歩く度に近づく開け放たれたままの戸が、地獄への入り口のように見えて奥歯は鳴りっ放しだ。
瞬间间神社近づき、ざんと音を立てて砂利の上に着地する衝撃に身を竦ませるのを気にも留めず、俺を抱き上げたまま疲れを見せない男はすたすたと本殿の方へと足を向けた。ざり、ざり、と砂利を鳴らして歩く度に近づく開け放たれたままの戸が、地獄への入り口のように見えて奥歯は鳴り放しだ。
俺を抱いたままでは草履が脱げないのか、一度上がり口に俺を下ろして草履を脱ぐ姿は、黙っていればどんな女も見惚れるであろう美丈夫だ。長い髪がふわりと垂れ下がり、俺の視界を一瞬だけ遮った。チラと覗く紅い瞳は感情を見せず、やはり何も発せられぬままに俺を抱き上げて奥へと進んで行く。
到着したのは、俺を壊れるのではないかと恐怖を覚えるほどに陵辱の限りを尽くしたあの部屋だった。
到达的是,让人感到恐惧,仿佛会被摧毁的侮辱之极的房间。
敷かれた布団は掛け布がぐしゃぐしゃに放り出されていたし、敷布も寝乱れた痕跡をそのまま残していて昨夜の狂うほどの快楽地獄を思い出して身震いする。
铺好的被褥,挂毯被胡乱扔在一边,铺布也留下了睡乱的痕迹,一想到昨晚的狂欢般的快乐地狱,就不禁颤抖起来。
そっと敷布の上に下ろされ、自分を抱くように腕を回して震える俺を暫し眺めてから男が部屋を後にするのをじっと見つめていた。
他慢慢地把我放在毯子上,像抱住我一样绕着胳膊颤抖,然后男人静静地离开了房间。
どこへ行ったのだろうか。いつ戻ってくるかわからないが、もう逃げ出す気力も体力もなかった。
他去哪里了?不知道什么时候回来,我已经没有逃跑的力气和体力了。
だって、逃げてもどうせ追いつかれる。逃げ場など無い。外にはまともな人間が誰一人として見当たらなかったじゃないか。障子となっている廊下の方を見ると、相変わらず外は紅い。どうなっているのかわからない。いっそ夢であってくれるならと祈ったところで、悪夢は醒めなければ現実と変わらない。
因为,就算逃跑也肯定会被追上。没有逃生的出路。外面连一个正常的人都没有。看到那扇屏风后面的走廊,外面依旧是一片红色。不知道发生了什么。如果这只是一个梦就好了,然后我祈祷噩梦能醒过来,但噩梦不醒,现实和梦境没什么区别。
かた、と音がして、障子戸がするすると開いたかと思ったら、盆と桶を手にした男が戻ってきた。
听见一个声音,我以为屏风门开了,结果拿着盆和桶的男人回来了。
俺の前に膝を突いて盆と桶を置くと、盆の上に載せられていた湯呑みを取り上げてこちらへ差し出してくる。肩が跳ね上がり、何度も男と湯呑みを交互に見た。受け取れと言っているのはわかるが、カタカタ震える手では支えきれずに落としてしまいそうだ。これを振り払ったり落としたりなどしたら、男の怒りに拍車を掛けるに違いないと思うと、なかなか手が出せない。
我在他面前跪下,把盆和桶放在膝上,然后把放在盆上的茶碗拿起来递给他。他的肩膀颤抖着,多次交替看着我和茶碗。我知道他在说“给我”,但他的手颤抖得无法支撑,差点掉落。如果我把这东西挥开或扔掉,肯定会激怒他,所以我迟迟不敢动手。
「ただの水じゃ。喉が渇いていよう」
“只是水。你渴了。”
「ぁ…」
“啊……”
酷く喉が渇いていたことを今更のように思い出す。
突然想起自己非常渴,就像现在这样。
色々ありすぎて、なにより先程黒い男の精を無理矢理流し込まれて、それどころではなくなっていたのも大きい。
事情太多了,最重要的是,黑人的灵魂早先被强行灌进来,已经不复存在了。
それでも受け取らないのをどう捉えたか、男は俺の唇に湯呑みを押し当て、少しずつ傾けながら後頭部に手を回して支えた。ゆっくり流し込まれる冷たい水を、乾いた喉が先程の粘つく不快感を洗い流そうとするかのように懸命に受け入れていく。
他仍然没有接受,将茶杯压在我的嘴唇上,并用手搂住我的后脑勺以获得支撑。 他接受了缓缓涌入的冷水,仿佛他干燥的喉咙正试图洗去刚才粘稠的不适。
一杯分飲み干したのを確認すると、盆に載っている水差しからもう一杯水を注いで同じように流し込んでくる。あれだけ暑い中を歩き回って汗をかいたのだ、確かに一杯だけでどうにかなるものではない。
当他确认他已经喝完了所有的杯子时,他从托盘上的水壶中倒出另一杯水,并以同样的方式倒入。 我在炎热中走来走去,汗流浃背,我当然不能只喝一杯就过得去。
少しずつ緊張を鎮めて、こく、と喉を鳴らすのを、男はただただじっと見つめていた。
男人只是盯着他慢慢平息紧张情绪,咕噜咕噜地叫着。
飲み終えた湯呑みを盆に戻した後、男は俺の帯に手を掛けた。
喝完茶后,男子拉住了我的腰带。
「ぁ、ゃ…」
“啊,呀……”
するりと簡単に解かれてしまった帯を放り出し、単衣も脱がされてしまう。
轻松地解开腰带后,连单衣也被脱了下来。
抵抗する暇もなければ、そんな事をする力もない俺はされるがままで、これからこの男のいいように嬲られるのかと血の気が引いていくのを感じた。
没有时间抵抗,也没有力气去做,我只能任人摆布,开始感到害怕,不知道接下来这个男子会对我做什么。
背に羽織った状態になった単衣があるとはいえ、こんな無防備な姿を晒しては、心許無いというどころの話ではない。
即便披着羽衣,但暴露出如此无防备的姿态,心里总觉得不踏实。
男の手が俺の頬に触れ、するりと滑らせて喉元を、鎖骨を、胸をと触れていき、腰の辺りまで下りたところで手が放れていった。置かれていた桶の中に手を突っ込んだかと思うと、ちゃぷ、と水音を立てて何かが引き出された。
男人的手轻轻触碰到我的脸颊,滑过喉咙、锁骨,一直下滑到腰部,然后手松开了。我以为他把手伸进了桶里,突然听到“咕嘟”一声水响,似乎有什么东西被取了出来。
そこにあったのは一枚の布。よく見れば桶からは微かに湯気が立っていた。
那里有一块布。仔细一看,桶里冒出淡淡的蒸汽。
布を絞って広げると、軽く畳んで俺の方へ向き直る。
捏紧布,展开后轻轻折叠,朝我这边转过来。
布が頬に押し当てられ、ゆっくりと丁寧に、涙や汗の痕を拭っていく。
布料轻轻贴在脸颊上,慢慢地、小心翼翼地擦拭着泪水和汗水的痕迹。
顔が終わるともう一度湯に浸して絞り、同じように首を、胸元を、腹を、背を、順に丁寧に清めてくれた。腕を持ち上げて滑らせるように拭い、手を取って指の一本一本まで。拭い終えると単衣に腕を通す事を許してくれた。帯が無いので前は広げたままのその格好は、もしかしたら何も着ていないよりも淫らに見えるのではないかと思うと羞恥で頬が熱くなった。
洗完脸后,再次泡在汤里拧干,然后依次认真地清洗脖子、胸口、腹部、背部。抬起手臂,像滑过一样擦拭,然后拿起手,甚至一根一根地擦拭。擦完后,允许我穿过单衣的手臂。因为没有腰带,敞开的前襟可能比什么都没穿还要露骨,想到这里,羞愧得脸颊发烫。
足に手を掛けて同じ動作を繰り返していた男は、足裏の擦り切れた傷を見つけると眉間に皺を寄せた。
拿着脚的手重复着同样的动作,当发现脚底擦破的伤口时,他皱起了眉头。
「こんな傷まで作りおって」
“竟然连这样的伤口都制造出来了。”
ぽつ、と零された声は酷い苛立ちを含んでいた。
声音低沉,带着深深的痛苦。
ぎらりと夕陽によく似た紅い瞳が俺を射抜き、途端に室内の空気が変質を遂げたように凍りついた気がした。恐怖が噴出すように身の内に戻ってくる感覚。
那像夕阳一样红的眼眸刺穿了我,突然室内空气凝固,仿佛恐怖的感觉从体内涌出。
今の自分の格好を、置かれた状況を思えば、どれほどに拙いことになっているかなど一目瞭然だ。
想到现在的打扮和所处的环境,拙劣的程度一目了然。
「や、や…だ…」
“啊,啊……”
声が震えた。
声音颤抖。
燃えるような瞳を持つくせに冷め切った視線が容赦なく俺を貫いていく。同時に、布を桶に放り込んだ男は俺の首に手を掛けて力任せに布団の上に組み敷いた。
虽然有燃烧般的眼睛,但冷酷的目光却毫不留情地穿透我。同时,那个把布扔进桶里的男人,抓住我的脖子,用力把我按在床上。
掴まれたままの足が妙な動きをして、足の付け根の関節が鈍い悲鳴を上げ、布団の上とはいえ押さえつけられては背中も痛むし、何より首が絞められて短めに整えられていた男の爪が皮膚に食い込むのを感じた。紛れもない恐怖が視界を暗くした。
被抓住的脚做出奇怪的举动,脚踝关节发出钝痛的尖叫,即使是在床上被压制,背部也感到疼痛,更不用说脖子被勒得变短,男人的指甲深深地刺进皮肤,让我感到无比的恐惧。
「少しは優しゅうしてやろうと思うたが、甘かったかのう」
“本来想对你温柔一点的,不过看来我太仁慈了。”
「ごめ、なさ…ごめんなさ…ぃ…」
“对不起,真的对不起……”
「この私を謀った罪は重いぞ。二度と逃げられぬようこの足を折った方が良いか? ん?」
“策划我的罪过很重啊。要不要打断这条腿,让你再也逃不掉了?嗯?”
ひぃっ、と引き攣った悲鳴が喉奥で潰された。
“哎哟,喉咙里发出一声悲鸣,然后被压下去了。”
乱暴に押し倒されて乱れた着物から投げ出された足を片方掴み直し、白い男はぺろりと走りすぎて筋肉が悲鳴を上げていた脹脛の辺りを長く肉厚の舌で舐めてから、笑う口元から覗く牙をゆっくり立てた。拭ってもらったばかりだというのに、全身に汗が噴出すのがわかる。
“被粗暴地推倒,从凌乱的和服中扔出一只脚,白人男子抓住那只脚,然后舔了舔因为跑得太快而肌肉发出悲鸣的脚踝,接着慢慢地竖起了从笑着的嘴角露出的牙齿。尽管刚刚擦过汗,但全身冒汗的情况很明显。”
それとも引き千切って喰ろうてやろうか、と吐息が唾液と汗に濡れた足に吹きかけられてガチガチと奥歯が鳴った。
吐息被唾液和汗水浸湿的脚吹拂着,牙齿咯咯作响,似乎在说:“要不就咬断它,吃掉算了?”
「細い足よ。少し力を入れれば折れてしまいそうじゃなぁ?」
“细长的脚啊,稍微用点力就会折断吧?”
「や…いや、いや、だ…」
“嗯…不,不,是…”
「しかし、なんの仕置きも無しではお主は反省などせんじゃろう」
“然而,如果不进行任何惩罚,你是不可能反省的。”
「はんせい、してます…して…っ、やだっ! やだやだやだ! 折らないで! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい!」
“先生,我在……我在……啊,不行!不行不行不行!别折断!对不起!对不起对不起!”
みしり、と足首が、膝の関節が、嫌な音を立てたのがわかって必死に首を振った。
脚踝发出吱吱声,膝盖关节发出讨厌的声音,我拼命地摇着头。
痛みが体内を駆け抜け脳髄を焼くが、その姿を口元に笑みを浮かべたまま酷薄な目で見下す男の表情に一切の慈悲も見えなかった。
疼痛在体内穿梭,烧灼着脊髓,但那个男人嘴角带着笑容,眼神冷漠,看不到任何慈悲。
ぐぐ、と足を掴む手に力が篭められ、その度に筋が、間接が、骨が、軋んだ悲鳴を上げる。
咕咕,脚被抓住的手上力量收紧,每次都发出关节、肌腱、骨骼的吱嘎声。
ぼろぼろと零れる涙は恐怖と痛みのどちらのものか。
涙如雨点般落下,是恐惧还是痛苦?
必死に床に爪を立てて懇願する俺の様子を見ていた男は、視線をこちらへ投げたまま少し身を屈めて内腿に牙を押し当てた。先程のような、牙を立てるだけの行為ではなく、今度こそぶつりと鋭いそれが皮膚を裂いて肉に潜り込む。
看着拼命在地板上抓挠、恳求的男人,他投来目光,微微弯腰,将牙齿紧贴在内腿上。这次不是仅仅露出牙齿的行为,而是真正地用尖锐的牙齿撕裂皮肤,深入肉里。
喰われる。
被吞噬。
そんな恐怖が勝って言葉にならない悲鳴が、喉の粘膜を傷つけるほど激しく俺の口から溢れて紅い空に消えた。
那种恐惧胜过言语的悲鸣,从喉咙的粘膜上划过,从我的口中爆发出来,消失在红色的天空中。
怖い。痛い。どうしてこんなことに。
恐怕。痛苦。为什么会这样。
ぎゅっと敷布を掴んで痛みに耐える姿を暫し見下ろしていた男は、そっと口を放して傷口をぺろりと舐めた。
那个紧紧抓住绷带忍受痛苦的男人,轻轻地张开嘴,舔舐着伤口。
「美味じゃな」
“不好吃。”
やはり喰われるのだろうかという思いを加速させる言葉が耳に届く。
听到这句话,让他更加确信自己会被吃掉。
覚悟を決めなくてはならないだろうと凍りつきそうな思考を緩やかに進めていると、首を掴んでいた手が離れ、次いで足も解放された。
似乎在缓缓推进那冻结般的思考,紧握的双手终于松开,接着脚也获得了自由。
「どうして勝手なことをした」
“你为什么擅自做这件事?”
「………ぇ…?」
“………嗯……?”
「私の縄張りはこの山周辺くらいのもの。その先に出て行けばなにがあるかわからんのだぞ。川の方へ向かっていた痕跡を見つけた時は肝が冷えた」
“我的地盘大概就是这片山周边。再往远处去就不知道有什么了。发现往河边去的痕迹时,我感到一阵寒意。”
どうして、あんな危険なマネをした。
为什么做了那么危险的事情。
噴出す怒りを抑え込もうとするかのように、低く唸るような声だった。
声音低沉,像是在压抑着喷涌而出的怒火。
「私が間に合わなかったら、お主はあのままあやつに嬲り殺しにされておったのだぞ!」
“如果我没赶上,你大概就被那个家伙强奸杀害了!”
「……」
“……”
どういう、ことだ…?
什么意思?
何故、そんな顔をしている。
为什么你这样表情?
どうしてそんな、泣きそうな、苦しそうな顔をしている。
为什么看起来这么伤心,好像要哭的样子。
「目が覚めたとき、隣にお主がいないことに気づいて心臓が凍るかと思うたわ! どこへ行ったのかと探しに出てみれば、道には点々とお主の血の匂いが残っておるばかりで姿も見えぬ!」
“当我醒来的时候,发现旁边的主人不在,我的心都凉了!我出去找,却发现路上到处都是主人的血腥味,但看不到主人的身影!”
どこで、何があったのか。何をしているのか。
在哪里,发生了什么。在做什么。
姿が見えないというだけで酷い焦りが身を焼いた。
只是因为看不见姿态,就感到极度的焦灼。
停止しそうな思考を必死に働かせて、無事であってくれと慌てて痕跡を辿ってみればあのザマだ!
拼命地驱散即将停止的思考,慌忙地追踪痕迹,希望能平安无事!那竟然是那场灾难!
「お主を失ったらと、私がどれだけ…!」
“如果失去了您,我会多么……!”
目の前にいるこの男は、本当にあの身勝手な男なのだろうか。本当に、あの駐車場で躊躇うことなく見ず知らずの男に暴行を働いた男なのだろうか。
这个人站在我面前,他真的是那个自私的人吗?他真的是那个在停车场毫不犹豫地攻击一个陌生人的男人吗?
混乱する俺を見下ろしていた男は、布団と俺の背の間に腕を差し入れ強く抱き締めてくる。
那个俯视着我混乱状态的男子,将手臂伸入被褥和我背部的空隙中,紧紧地抱住我。
「無事でよかった」
“你没事真是太好了。”
耳に吹き込まれた言葉は、もしかしたら俺は何かを勘違いしているのではないかと思わせるものだった。
耳边吹过的这句话,让我开始怀疑自己是否有什么误解。
その日、男は暫く俺を抱き締めてから身を離し、改めて足裏を丁寧に清めてから、何かの葉を磨り潰して貼り付けてから布を巻いてくれた。
那天,他紧紧地抱了我一会儿,然后离开,重新仔细地清洗了我的脚底,然后磨碎一片叶子贴在上面,最后用布包好。
新しい単衣を持ってきて俺を着替えさせると、盆と桶と脱いだ単衣を持って出て行く。
他拿来一件新单衣让我换上,然后拿着脱下的单衣走出去。
着替え終えてゆっくり寝かされた体勢で、去り行く背を見つめて無意識に呟いた。
换好衣服后,我慢慢躺下,看着他的背影,不自觉地低声说道。
「………心配、してくれてたのか…」
“………你在担心我吗……?”
あれほどに感じていた恐怖が、この頃には鎮まっていた。
那种恐惧感,现在已经平息了。
ふと、敷布から離れた位置に乱れた掛け布を見やる。
忽然,看到被掀开的毯子旁边的乱糟糟的挂毯。
目覚めた時、俺が隣にいないと気づいて慌てて飛び起きたのだろうか。
醒来时,我意识到他不在旁边,慌忙跳了起来。
布団を整える暇も惜しんで、社の中に俺がいないとわかって飛び出してみれば、石段の途中から傷ついて滲んだ血が点々と捺された道が出来上がっていて焦ったのだろうか。
连整理床铺的时间都舍不得浪费,发现我不在,就跳出去,结果在石阶上摔伤,血迹斑斑,形成了一条路,一定很着急吧。
腿に刻まれた噛み痕にも布が巻かれ、痛み熱を持った足が少しだけ軽くなっていることに気がついた。
腿上的咬痕被布条缠绕,疼痛和热度稍微减轻,我注意到了这一点。
あの泣きそうな表情は、あの怒りを押し殺した声は、本当に俺に向けられたものだったのだろうか。
那种哭泣的表情,那种压抑的愤怒的声音,难道真的是针对我的吗?
もし、もしも…
如果,如果……
「……あれは、自分に向けてのものだったのか…?」
“……那是不是针对我自己的……?”
もしも、俺が危険に晒されている可能性を考えてのものだったなら。
如果这是因为我可能处于危险之中。
もしも、自分が危険を伝えなかったせいだと怒りを抱えていたというなら。
如果是因为我没有传达危险而感到愤怒的话。
「どうして…」
“为什么……”
わからないことばかりだ。
一切都不明白。
寝そべった布団の上で少しだけ身じろいで隣を見た。
躺在铺好的被褥上,微微扭动身体,看向旁边。
誰もいないそこに、今夜もあの男は一緒に眠るのだろうか。
在那里没有人,今晚那个男人还会和我一起睡觉吗?
どうせ逃げられないのなら、せめてどういうつもりで俺をここへ連れて来たのかくらい知りたい。
如果逃不掉的话,至少我想知道你为什么把我带到这里。
どうして俺だったのか、結局のところまともな返答は貰っていなかったのだし。
为什么是我,最终我也没有得到一个正常的回答。
ぼんやりと考えるうちに、ゆったりとした緩慢な眠気が襲ってきた。とにかく今日は、疲れた。
模模糊糊地想着,慢慢地袭来了一种悠闲的困意。总之今天,我很累。
いつの間にか外が赤から墨を落としたような深い闇色に変わっていることにも気づかずに、俺の意識はゆっくりと暗転していった。
在不知不觉中,外面已经从红色变成了墨色般的深沉黑暗,我的意识却慢慢地陷入了黑暗。
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■
初めて出会ったのは随分と昔だった。
首次相遇已是很久以前了。
あの頃は友も、兄弟もたくさんこの場所には駆け回っていた。曽祖父母が幼少の頃に建てられたという大きな社は全員で暮らすには十分で、他の家族も本殿にも拝殿にも好き勝手に入っていた。
那时候,朋友和兄弟们经常在这片地方奔跑。据说曾祖父母在幼年时建造的这个大社足够全家人居住,其他家族也随意进入本殿和拜殿。
山周辺にも気づけばたくさんの家々が建ち、昔の面影をなくしていくのが寂しいけれど、目まぐるしく発展していく光景は見ていて面白いと祖父は笑った。
山周围只要留意就能看到许多房屋,虽然感到有些寂寞,因为它们正在逐渐失去往日的风貌,但祖父看着这些快速发展的景象却觉得很有趣。
ある時、いつも庭を駆け回っていた友の数が減っていることに気がついた。
有时候,我注意到那个总是在我家院子里奔跑的朋友越来越少。
とにかく数が多かったことと、山を下りればどこにでも行ける事を考えて特に不思議には思わなかった。
不管怎样,数量很多,而且下山后可以去任何地方,所以并没有觉得特别奇怪。
年頃になれば自分の住処を探しに出て行く者だって少なくは無いし、どこかで番を探そうと出て行く者だって居るのだから。
到了一定年纪,就会出去寻找自己的住处,而且也会有人出去寻找自己的位置。
社の屋根に上り、木々の隙間から見えるどこまでも広がる人間達の作った世界を眺めては、ほんの時々だけ見ることが出来る人間の姿に興味を示すようになったのはいつの頃だったか。
站在社屋的屋顶上,从树木的缝隙中看到人类创造的世界无限广阔,我开始对偶尔可以看到的人类身影产生兴趣,不知道是从什么时候开始的。
この世界と人間の暮らす世界は、時の流れがズレているのだと聞いている。
听说这个世界和人类居住的世界,时间的流逝是错位的。
こちらの世界が不安定なのだというが、元々こちらに暮らしている私にはよくわからなかった。
说这个世界不稳定,但对我来说,原本就生活在这里的我并不太理解。
人間の世界の一日がこちらでは半日もなかったかと思えば、一週間経った頃ようやく向こうでは一日が過ぎる事だってあった。その隙間、ほんの少しの間だけ、向こう側とこちら側の時間の流れが重なる瞬間がある。重なったその瞬間にだけ、賑やかしく行き来する人間の姿が見えた。それが過ぎれば、また長い時間をかけて時間の流れが重なるのを待つことになる。こちらの時間がどういうルールに則って動いているのかはわからない。一説にはこちらに溢れる霊力や神気の影響で変わるのではないかと言われているが、それさえもピンとこない。結局のところそんなものがわかったところで私には関係の無いことだった。
想象着人类世界的一天在这里连半天都不够,大约过了一个星期,那边才真正过去了一天。在那期间,只有短短的一瞬间,两边的时间流逝是重合的。只有在重合的那一瞬间,才能看到热闹往来的人影。那之后,又要等待很长时间,两边的时间流逝才能再次重合。这里的時間运行规则我不太清楚。有人说,这里的灵力或神气的影响可能会改变,但这也不太明白。归根结底,即使知道了这些,对我也没有什么关系。
やがて他の親兄弟の殆どがこの社を離れ、新しい住処を探しに行ってしまった。
最后,大多数兄弟姐妹离开了这个公司,去寻找新的住所。
半数以上減った社はがらんどうで、外に出ては他の縄張りに踏み込んで追い出されてを繰り返す者もいれば、なにか面白いことは無いだろうかと鳥居の外を眺めてはつまらなそうに転がる者もいた。
半数以上的公司都空荡荡的,有些人外出后进入其他势力范围被驱逐,难道就没有什么有趣的事情吗?他们望着鸟居外,显得无聊地打转。
まだ幼かった私は外への好奇心もあったが、ほんの時々やってくる人間の方に興味があった。
尽管我还是个孩子,对外面世界充满了好奇心,但我对偶尔来访的人类更感兴趣。
それは幼い雌の人間だった。
那是一个年轻的女孩子。
私よりもずっと年上の同胞に連れられて、一緒に遊んでいた。
我被比我年长的同胞带着,一起玩耍。
向こうの世界とこちらの世界が繋がる時間は長くは無い。
与这个世界和那个世界相连的时间并不长。
故にあまり長い間一緒にいることは出来ないが、それでも二人は楽しそうだった。
因此,我们无法长时间在一起,但即使如此,我们也很快乐。
またね、と手を振る人間を見送っていた同胞は、いつしかあの人間とずっと一緒にいられればと言うようになった。そんなこと出来るはずが無いと皆が慰め、諦めた方がいいと言う中で、その同胞は諦めきれずに思考を凝らした。
那些挥手送别的人,渐渐地开始希望能够永远和那个人在一起。在大家都安慰自己,认为不可能实现,最好是放弃的时候,那个同胞却无法放弃,开始深思熟虑。
そして同胞は、もう少しで再度時間が重なるという頃合を狙って行動を起こした。
然后,同胞们开始行动,试图在时间即将再次重叠的时候。
人の子を、こちらの世界へ引きずり込んだのだ。
将人的孩子拉入这个世界。
時間が動き出す前に鳥居の外へ、結界の外へ出してやらねば人間は自分の力で出ることは叶わない。
在时间开始流动之前,必须将他带到鸟居之外,结界之外,否则人类无法凭借自己的力量逃脱。
そうと知った同胞は、二度と自分の元を離れぬよう彼女を連れたままこの山を離れてしまったのだ。
知道这一点的人,带着她离开了这座山,不再让她离开自己的身边。
空間の歪であった鳥居を介さず、遠く遠くへ。
不通过扭曲的空间的鸟居,远远地。
向こうの世界では、子が消えたと人間が何人も出回って探していた。
在那个世界里,许多人都在寻找失踪的孩子。
時々覗くその世界は騒然とし、共に居たであろう人間の子供が大人達に囲まれ質問責めにあっている姿を覚えている。
有时候瞥见的世界变得喧嚣,我记得曾经在一起的人类孩子被大人包围着,被质问和责备。
こちらの世界も騒然となった。人間の子を浚うなどと憤る者も居れば、そんな手があったかと感心する者も居た。人の子と共に居ることを望んだ者達にとってはこれ以上ない朗報だったのだ。
我的世界也变得喧嚣起来。有人对挖掘人类孩子感到愤怒,有人对这种手段感到钦佩。对于希望与孩子在一起的人来说,这是个好消息。
対して人の子を身勝手な生き物と断じる古参の者達には面白くないだろう。この神域を穢す気かと罵る者も多かった。
对于那些认为孩子是自私的生物的资深人士来说,这不会有趣。很多人诅咒他们想玷污这个神圣领域。
いつしか二つに分かれた同胞達は散り散りになり、その合間にも自分達を視る事が出来た人の子を、これこそが自分の運命の相手なのだと信じて連れ去ってくる者も後を絶たず。愛想を尽かした者達は出て行き、自分の番と決めた人間を抱え込んだ者も自分の新しい住処を探しに出て行った。
不知不觉,分裂成两派的同胞们散落各地,其间也有能看见自己的人将认为这是自己命运伴侣的孩子带走,这样的人络绎不绝。厌倦了的人离开了,决定轮到自己的人抱紧了他人,也出去寻找新的住所。
あんなに賑やかだった社は、どんどん寂れていった。
那么热闹的公司,渐渐变得冷清了。
幼い私に悪影響が出ないようにと、父は私を連れてどこかへ移動するべきかと母と相談していた。
为了不让幼小的我受到不良影响,父亲和母亲商量着应该把我带到哪里去。
大人達が集まって本殿で口論を続ける間、暇を持て余した私はすっかり子供の数も減った山の中で、何かを発散するように駆け回った。石段の下へ降りた場所にある小さな祠の傍には小さな洞穴があり、そこに潜り込んで集めた木の実を隠したりするのがその時の遊びだった。誰が一番多く木の実を集められるか競い合ったりもした。私の隠し場所はそこだったが、今にして思えばバレバレの隠し場所だ。
在大人们在本殿争论不休的时候,无聊的我开始在人数减少的山中四处奔跑,像是在发泄什么。在石阶下的小神社旁边有一个小洞窟,我会在那里藏起收集到的果实。有时也会比赛谁收集的果实多。我的藏匿之处就在那里,但现在想想,那是个很容易被发现的地方。
ひょこ、と顔を出し、そろそろ戻ろうかと思った時、鳥居の向こうが揺らいだ。
妖精探出头,正想回去的时候,鸟居的另一边开始摇晃。
向こう側と繋がる時間。
与对面连接的时间。
驚いて動きを止めた私の前にいたのは、青い子供と白い子供だった。
惊得停下动作的我面前,站着的是蓝孩子和白孩子。
白い子供がどこかに隠れ、青い子供が探しに行くという遊びをしていた。
白孩子藏到了某个地方,蓝孩子去找他,他们正在玩这个游戏。
青い子供は辺りをきょろきょろと見回してから、こちらへ走ってきた。
蓝色的孩子四处张望一番后,朝这边跑来。
そこで私と、目が、合った。
那时我和他的目光相遇了。
「? なにしてるの?」
“?你在干什么?”
「…え」
“…嗯?”
「かくれんぼ? あれ? つるのおともだち?」
“捉迷藏?那是什么?藤蔓的朋友?”
どうやらこの子供は、自分の知らないうちにかくれんぼをする仲間が増えていたのだと勘違いしたようだった。小首を傾げて、まぁいいかと頷くと、にこにこと笑ってみぃつけた。と私を指差した。
看起来这个孩子误以为在自己不知情的情况下,玩捉迷藏的伙伴越来越多。他歪着头,轻轻点头,微笑着指向我。
間違いない、この人間には私が見えている。
没错,这个人我看得见。
そう思った瞬間胸の奥が熱くなった。これまで、どうして人間なんかを連れてくるのかと同胞の奇行を不思議に思っていたが、この瞬簡にその全てが吹き飛んでいた。
想到这,胸中涌起一股暖流。之前我一直奇怪为什么要把人类带来,对同胞的怪异行为感到不解,但这一刻,所有的一切都烟消云散了。
この人間が、私の『相手』なのだろうかと。
这个人真的是我的“对手”吗?
その子供はすぐに踵を返し、もう一人の子供を探しに行った。呆然と見送る私をちらちらと見ながら、それでも真面目にもう一人の子を探す。
那个孩子立刻转身去找另一个孩子。他一边茫然地看着我,一边认真地去找另一个孩子。
木の上に器用に上っていった白い子供を見つけた青い子供は、二人連れ立って私の前まで石段を降りてくる。その時、白い子供がそろそろ帰ろうと青い子供の手を引いた。
看见那个灵巧地爬上树的白孩子,蓝色的孩子带着他一起走下石阶来到我面前。这时,白色的孩子拉起蓝色的孩子的手,好像是要回家了。
「あ…」
哎...
私の声に青い子供はこちらを振り返り、次に白い子供へ視線を移し、もう一度こちらを見て手を振った。
我的声音让蓝孩子回头看我,然后视线转向白孩子,再次看我并挥手。
「またあした」
“又是明天”
「う、うんっ!」
“嗯,嗯!”
咄嗟に首を縦に振る私の前から去って行った二つの影が鳥居を潜ると、そこには静寂だけが残された。
忽然摇头的我面前,那两个影子穿过鸟居消失了,只留下寂静。
また明日、その言葉が嬉しくて、暫く鳥居の向こうを見つめたまま動けなかった。
又是明天,因为那句话让我很高兴,所以我一直盯着鸟居的对面,动弹不得。
社に帰って、私を見ることが出来る人間が居たと跳ね回って喜んだ。同胞の中には祝福してくれる者もいたし、妙な気を起こす前にどこかへ連れて行った方がいいのではという声も上がった。
回到公司,有人看到我,高兴地跳来跳去。同胞中有人祝福我,也有人建议在情绪失控之前带我走开。
両親の困った顔が忘れられないが、私は何を困ることがあるというのかと首を傾げるだけだった。
我忘不了父母那焦急的表情,但我只是好奇他们有什么烦恼。
だって、私の番になれる人間が見つかったのだ。まだ一人前とは言えない私でも、きっと一緒にいられれば二人で力を合わせて幸せになれると信じた。
因为终于有人能轮到我了。虽然我还不算完全合格,但我相信只要我们一起,就能互相帮助,过上幸福的生活。
けれど、その日を境にあの子供が山へ来ることはなくなった。
然而,从那天起,那个孩子就不再来山上了。
こちらの時間とは違うという。なら、きっと向こうではまだ『明日』が来ていないだけなのだろう。
这里的时间不同。那么,大概那边还尚未迎来“明天”吧。
そう自分に言い聞かせ、両親が兄弟たちを連れて他の住処を探すという話も蹴って、あの子供を待ち続けた。
这样告诉自己,拒绝了父母带着兄弟姐妹们寻找其他住所的建议,一直等待着那个孩子。
きっとまた、にこにこと笑顔を向けてくれるだろうと信じて。
相信她一定会再次带着灿烂的笑容向我走来。
一年が経ち、二年が経ち、同胞達が次々に番を見つけて去って行く。
一年过去了,两年过去了,同胞们一个个找到了自己的位置离开。
三年が経ち、四年が経ち、同胞達が次々に山を離れて去って行く。
三年过去了,四年过去了,同胞们一个个离开山去。
五年が経ち、六年が経ち、いつしかそこには私しか居なくなっていた。
五年过去了,六年过去了,不知何时只剩下我一个人在那里。
向こうではどれくらいの時が過ぎたのだろう。
那边过了多久了。
こちらではもう何十年経っただろう。
这里已经过去几十年了。
二十を超える夏を数えたところで、私はとうとうあの日の約束は果たされないのだと悟った。
经过数个炎热的夏天,我终于明白,那天约定的承诺无法实现了。
子供には視えても、大人になると視えなくなることも珍しくないようだと知っていたから。きっとあの子供には、もう私の姿は視えないのだろうと考えて。
我知道,虽然孩子能看见,但长大后看不见的事情也很常见。我想,那个孩子可能已经看不见我了。
後はただ一人、ぽつんと残された山の中でぼんやりするだけの日々だった。
之后的日子,就只剩下我一个人,孤独地留在山中发呆。
更にいくつの夏が過ぎただろうか、ふと、あまり覗くことのなくなった人の世界はどうなっているだろうかと好奇心で鳥居の傍に立った。
又过了多少个夏天,我突然好奇,那些不再窥视的人们的世界会变成什么样,于是站在鸟居旁边。
すると、ただの偶然と片付けるには出来すぎていると思う姿を見つけた。
觉得这个发现太过偶然,无法简单地归咎于巧合。
大して変わりない町並みを眺める視界に、見覚えのある人間を見つけたのだ。
在几乎没什么变化的街道景观中,我看到了一个熟悉的人。
こちらへ目を向けることのないまますたすたと通り過ぎて行く姿はすっかり成長していたが、間違うはずがない、あの時の子供だ。
那个曾经没有注意到这里的人已经长大成人,但那个孩子肯定不会弄错,那就是他。
もう姿形もまともに記憶してなどおらず、ほんの少し声を聞いただけだったから声も覚えてはいない。それなのに、一目見てあの子だとわかった。あの時の記憶が鮮明に蘇り、土の匂い、風の音、その中にふわりと柔らかく温かそうな子供の匂いが混じったのを思い出して、通り過ぎて行く姿をずっと目で追っていた。
我已经无法清楚地记得他的样子,只能隐约听到他的声音,因此我也记不起他的声音了。然而,一眼就认出了他。那时的记忆清晰地复苏,想起了泥土的气味、风的声音,还有其中混合着柔软温暖的孩童气息,我一直在用眼睛追逐着他的身影。
血が沸騰するのではないかと思うほどに胸の奥が熱くなるのを感じた次の瞬簡には、視界が揺れて世界がズレた。
我感觉胸中热血沸腾,下一瞬间,视线晃动,世界变得扭曲。
大人になって知ったことだったが、この鳥居の他にも同じように向こうの世界と繋がった場所は複数存在し、それはやはりそれぞれを守護する者の力で支えられているのだという話だ。これは、外へ出て行った同胞達が時々やって来て外の情報を教えてくれたり、外へ連れ出してくれたりした為に知ったことだった。ずっとずっと大きな社のある、人の賑わいの絶えない神社などはその際たるものだった。
虽然是在成年后才了解到,但除了这座鸟居,还有其他与另一个世界相连的地方,它们都是由守护者的力量支撑着。这是因为我偶尔会出去,同胞们会告诉我外面的信息,或者带我出去,所以我才了解到这些。那些拥有巨大神社、人声鼎沸的神社就是这样的地方。
ここへ移り住まないかと誘われることもあったが、私はそれを断ってあの山に居座った。
我也曾被邀请搬到这里居住,但我拒绝了,我选择留在那座山上。
どこかで、また逢えないかと期待していたのかもしれない。
或许我在某个地方期待着再次相遇。
ようやくそれが叶ったのだと思うと同時に、一瞬たりともこちらを見なかったあの様子に、やはりもう視えていないのだろうと胸が痛んだ。
想到终于实现了,同时看到他连一秒钟都没有看我,心里还是痛了一下,感觉他可能已经看不见我了。
今、この社の鳥居を支え、守護しているのは私の神気だ。
现在,支撑和保护这个公司鸟居的是我的神气。
この結果を解けば、向こうの時間に合わせることは出来ない話ではないと聞いている。やったことはない。やった結果、そこがどうなるのかもわからない。もしも、ここを放棄して鳥居の結界を解けば、私の姿は視えるだろうか。こちらへ引き込むのではなく、私が向こうへ行く選択もあるのではないだろうか。常に傍に居られずとも、会話するくらい許されないか。悩みに悩む間、私は毎日そこであの人間が通りかかるのを待った。
听说解开这个结果,并不能说不能与那边的时间同步。我没有做过。做了之后,那里会变成什么样也不知道。如果放弃这里,解开鸟居的结界,我的身影能被看见吗?不是把我拉过来,而是我选择去那边,这样的选择可能也有吧。即使不能一直陪伴在身边,至少允许我进行对话吗?在纠结的过程中,我每天都在那里等待那个人经过。
いずれ諦めがつくのではないかと思いながら。だが、思惑とは逆に、見かける度に想いは募り、世界が違うから視えていないだけなら、私が向こうへ行くか、無理矢理にでもこちらへ引き込めば…と思うようになってきた。
每当我想到这终究会结束的时候。然而,与预期相反,每次见到时,思念都在增加,如果只是因为世界不同而看不到,那么我过去还是强行拉过来……这样的想法越来越强烈。
実際、番とする目的ではなく、ただ嬲りものにするために無理矢理連れて来る者がいたことも知っていた。人の子はそれらを神隠しと呼んでいたようだったが、どう呼ばれようと知ったことではなかった。
实际上,并不是为了达到某个目的而带他们来,而是为了让他们成为玩物而强行带来的人我也知道。那些孩子把这种行为称为神隐,无论叫什么名字,我都已经知道了。
悶々とする日々を送り、また逢えなくなるよりは行動を起こした方がいいのではないかと思っていた私が、ふといつものように通過して行こうとする人の子へ視線を向けた時だ。きょとと目を丸くしたあの日の子供は、軽く私に会釈をしたのだ。
在痛苦的日子里度过,又觉得与其不见面,不如采取行动更好,就在我像往常一样准备走过那个孩子的时候,我转向了他。那天,那个孩子圆圆地瞪大了眼睛,轻轻地向我打了个招呼。
視えている。
看得见。
今でも、あの人間には、私が視えていた。
依然看得见那个人。
そうとわかってからの私の中に、もう迷いはなかった。
知道之后,我的内心不再迷茫。
*
「アッ、あぁ…ぁ…!」
「啊,啊……!」
「はぁ…は…っ、ふふ、好い声じゃ」
「嗯……嗯……,哈哈哈,好听的声音啊」
ぬるりと首筋に浮いた汗を舐め取り、胸の頂を強く吸って軽く歯を立てた。
轻轻舔舐着从脖颈上滑落的汗珠,深深地吸了一口气,轻轻地咬了咬牙。
初めて触れたあの日にこの身に施した術は、今でも白く美しい身体の中で渦巻いている。
那一天第一次施加在身上的法术,至今仍在那洁白美丽的身体中翻滚。
私が居なくてはならぬよう、私の世界に来ても壊れぬよう、私の傍を離れぬよう、少しずつ少しずつ人の子の世界から切り離してやった。
为了让我不可或缺,为了我的世界不被破坏,为了不离开我的身边,我逐渐将他从人类的世界中分离出来。
最初はこんな風に無理に身体を繋げるようなことをするつもりはなかったし、昔はそんな風に考えることもなかった。けれど、所詮は私も雄ということだ。大人になったこの身は正直に欲望を訴え、それは私の下で乱れる身体に仕込んだ術にも作用し、私が欲を持って触れればそれだけで身体は素直に熱く疼き、立ち昇る色香にこちらもくらくらする。
最初并没有打算这样强行连接身体,以前也从未这样想过。但归根结底,我也是雄性。长大后的身体诚实地表达着欲望,这种欲望也作用于我植入他体内的法术,只要我有所欲望地触碰,他的身体就会自然而然地变得炽热,疼痛,并升腾起令人眩晕的香气。
すっかり私の番として作り変えられた身体が他の者に触れられていた時は、目の前が真っ赤になるのを感じた。
当我的身体完全变成了他的替身,被他人触碰时,我感到眼前一片通红。
「んっんむ…」
“嗯嗯嗯……”
唇を重ね舌を吸い、そこにほんの僅かに私の知らぬ味を感じて眉間に皺が寄る。水を飲ませた程度では流しきれない仄かな苦味が、私以外のものに触れられたと物語っている。このような痕跡を残すことに腹が立った。
唇齿相依,舌尖相吸,我感觉到一丝未知的味道,眉间皱起。那微妙的苦味,就像是被除我之外的人触碰过一样,让我感到愤怒。我无法忍受留下这样的痕迹。
ゆっくり寝かせてやっていた間、あの男に何をされたのだろうかと考えるだけで迂闊に目を離した自分に怒りが湧き、勝手に出て行ったこの人間をどれほどに嬲れば二度と妙な気を起こさず私の傍にいるだろうと考えた。目を覚ました後、緩やかに開く青い瞳を見て、なんとか抑えていた思いは堰を切ったように溢れ出し、結果としてもうどれだけの時間嬲っているのかわからない。
在我慢慢让他入睡的过程中,一想到那个男人对我做了什么,我就忍不住瞪大了眼睛,愤怒地离开了。我幻想着如果我能让他受足够的折磨,他就不会再在我身边引起奇怪的情绪。醒来后,看到他那缓缓睁开蓝色的眼睛,我努力压抑的情感像决堤的洪水一样涌出,结果我甚至不知道我折磨了他多久。
既に息は絶え絶えで、身を震わせながら涙を零して喘ぐ姿を目に焼き付ける。
呼吸已经微弱,身体颤抖着,泪水滑落,喘息的景象刻骨铭心。
細い腰が跳ね上がり、薄い腹が波打つ。
细腰跳跃,薄腹起伏。
中に私の精を受け入れねば達することの出来ない身体には熱が溜まり、苦しそうに喘ぎながらもう許してくれと必死に懇願する。
身体内部因接受了我的精华而无法达到高潮,热气聚集,痛苦地喘息,拼命地恳求再给我一次机会。
どうすれば私だけのものになってくれる。
如何才能成为我独有的。
どうすれば私だけを見てくれる。
怎么才能只看我一个人。
だって、私達は番なのに。
因为,我们才是主角啊。
そこまで考えて思い至る。
想到这一点才恍然大悟。
私は、私の番であるこの人間の名すら知らないのだと。
我甚至不知道这个人的名字,而这个人正是我该关注的对象。
「……あぁ…」
「……啊……」
汗と涙と唾液でどろどろになっても尚美しい顔を覗き込み、そっと頬を撫でた。
看着那被汗水和泪水以及唾液弄脏却依然美丽的脸庞,轻轻地抚摸了她的脸颊。
うすらと開いた瞳が涙を零しながらこちらを見たのを確認し、口元に笑みを浮かべて下肢を揺すった。
确认了那微微睁开的眼眸含泪望向这里,嘴角露出笑容,摇晃着下肢。
「ひぐっ、あっ、あぁっ!」
「呼呼,啊,啊啊!」
既にどろどろに蕩けたそこは繋がったままにちにちと音を立てる。
已经烂透了的地方,依然每天发出声响。
まだ達していないそこはきゅうと切なげに締め付け、早く楽にしてくれと訴えているようだ。
还未到达的地方,似乎在痛苦而寂寞地紧紧束缚,仿佛在呼唤着快让它轻松一些。
「心地悦いか? 早う子種が欲しいと締め付けてきよるなぁ?」
“舒服吗?别那么快就想要子嗣,紧紧地束缚着呢。”
「う…うぅ…」
“嗯…嗯…”
「何度出せぬまま達したか覚えておるか? ん?」
你还记得你多少次无法达成吗?
「や…もう……やら…こわれ、る…」
呜...已经...要...碎了...
「壊しはせん。お主は今後もじっくりと私が可愛がってやる」
不要破坏。主人以后会好好疼爱我的
嬉しかろう?
你应该很开心吧?
頬を舐めると涙と汗の塩気が舌先に甘く感じた。
舔舐脸颊,泪水与汗水的咸味在舌尖上感觉到了甜。
「だが、それもお主次第よ。すっかり蕩けたな。私の精が欲しいか? ならば一つ答えよ」
「但是,那也是由你决定的。你已经完全迷失了。你想要我的精华吗?那么就给我一个回答。」
軽く揺すり、思考を奪い決して休ませることなく、緩慢で痺れるような刺激を与え続けた。
轻轻摇晃,夺走思考,从不让休息,持续给予缓慢而麻木的刺激。
悲鳴に近い声が細く喉から洩れるのを聞きながら、力無く揺さぶられる足が空を蹴るのを横目に腰を抱えてより深く抉った。こつ、と当たる最奥から横へ少しズレる位置に、少し硬い感触。器官の繋ぎ目であろうそこを突く度に、ガクガクと身を震わせ、過ぎた快感に身悶えた。
听着近似悲鸣的声音从喉咙里细弱地溢出,无力地摇晃着脚,看着踢向天空,抱住腰部,更深地挖掘。咔,击中深处稍微偏移的位置,有些硬的感觉。在器官的连接处,每次撞击都会让身体颤抖,快感过去后感到痛苦。
「お主の名はなんと言う?」
“你叫什么名字?”
そっと、思考を放棄して啼かされるだけの人形のようになった耳へ質問を吹き込んだ。
轻轻地,将问题吹入只被啼哭的人偶般的耳朵。
真名は、その対象を縛るもの。
真名,是束缚那个对象的东西。
人間の世では、神にも魔にも己の真の名を知られてはならぬと言われているようだ。妖もまた然り。
在人间界,据说连神和魔也不应知道自己的真名。妖也是如此。
名を縛るということは、その魂までも縛るということ。
名字被束缚,也就意味着灵魂也被束缚。
この身を捕らえても逃れようとするなら、魂も縛ってしまえばいい。鳥居の結界を解いても、もう二度と日の元の世に出られぬように。
即使抓住这具身体想要逃脱,那就把灵魂也束缚住,解开鸟居的结界,也再不能回到日光之下的世界。
揺さぶりながらのお陰で言葉が不明瞭だが、思考を蕩けさせてやらねば、もしも真名を口にしてはならぬと言われて育っていたならなかなか口を開いてくれぬであろう。
虽然摇晃中言语不清,但如果不让思绪流淌,如果因为被告知不能说出真名而成长,那么恐怕很难开口。
ぐいと身体を持ち上げて私の上に座らせ、がくりと項垂れる耳へ淡い期待をのせてもう一度囁く。
突然把我身体抱起,让我坐在她身上,轻轻地摇曳,把淡淡的期待放在垂下的耳朵上,再次低语。
「さぁ、私に、お主の名を教えておくれ」
「快告诉我你的名字」
とろりと開いた瞳は暗く、光を宿さぬまま虚ろに宙を彷徨った。
眼眸缓缓睁开,深邃而空洞,仿佛在空中徘徊,不带一丝光亮。
ゆっくり開いた唇が洩らした甘い吐息が私の頬にかかる。
嘴角缓缓张开,吐出的甜息轻拂过我的脸颊。
何も纏わぬ身体が、そこから伸びる四肢が、指先が懸命に私の肌に絡むように触れる。
裸露的身体,从那里延伸出的四肢,指尖拼命地缠绕我的肌肤。
「み、か…」
「嗯,啊…」
何度も何度も、息を飲んで私を揺らめく瞳で見つめて、ゆっくり呟く。
一次次地,用几乎窒息的眼神凝视着我,缓缓地嘟囔。
「……ね、…ち、か」
“……嗯,…是,吧。”
「みかづきむねちか、か。美しい名じゃ」
“御見崎夢乃,这个名字很美。”
「ぁ、あ…ぁ…」
“啊,啊…啊…”
「あぁ、そうじゃな。褒美をやろう」
「啊,没错。来享受奖励吧」
一際強く奥を突く。
突破力强,深入内部。
がくん、と支えを失ったかのように衝撃に揺れる身体を抱きすくめ、後は欲望のままに貪った。
拥抱住被冲击得颤抖的身体,像失去了支撑一样,然后完全被欲望所驱使。
互いの腹に圧迫されて擦られる硬く主張する三日月の陰茎が、赤く腫れて痛々しい。
互相挤压的腹部,摩擦着坚硬而强烈主张的弯月形阴茎,红肿且疼痛。
温かく締め付ける肉の刺激に抗わず、奥へ奥へと己の欲を放つと、それに触発されるように腹部に温かなものが弾けた。散々溜め込んだ熱が全て吐き出されるには時間が掛かる。無論一度だけで済まぬことくらい同じ雄である私にもわかる。
面对温暖的束缚感,无法抗拒地沉溺其中,腹部涌起一股暖流。积蓄的热量全部释放出来需要时间。当然,一次就能解决的事情,我这个雄性也明白。
べろりと顎を伝う唾液を舐め取り、深く繋いだ下肢を揺すりながら舌を絡めた。
舔舐从下巴滑落的口水,摇晃着紧密相连的下肢,用舌头缠绕。
自らも腰を揺らして耐え難い疼きと解放感に溺れながら、制御しきれないのであろう快楽の波に浚われることを恐れてか、腕を私の首に絡める様はもっとと強請っているようで愛らしい。
同时摇摆腰部,沉浸在难以忍受的疼痛和解脱感中,害怕无法控制的快乐浪潮,所以紧紧地将手臂绕在我的脖子上,看起来更加贪婪,也更加可爱。
「足りぬか。わかっておる、その身にも魂にも私の味を刻むがいい」
“还不够吗?我明白,我要在你的身体和灵魂上刻上我的味道。”
お主はもう、この小狐丸のものなのだから。
你已经是这小狐丸的了。
「あっあっ…ひ、ぃぁ…ッ!」
“啊呀……呼,嗯啊……!”
「ようやっと見つけた私の番…他の誰にもやらぬ。三日月、私だけのものじゃ」
“终于找到我的份了……只有我能做。三日月,这是我的。”
言い聞かせるように囁く間も、何度も身体を痙攣させて精を吐き出す三日月は、いつしか自ら舌を絡めるようになっていた。
在喃喃自语的同时,三日月多次身体痉挛,精疲力尽,最后甚至开始舔自己的舌头。
それが一層愛おしくて、畳の上に押し倒し指を絡めて両手を縫い止め、夢中になって形のいい唇を貪り唾液を啜った。
那更加可爱,压在榻榻米上,手指交错,双手缝合,沉迷地亲吻着形状优美的嘴唇,吮吸着唾液。
呼吸さえも奪うような濃厚な口吻けは、私の思考も蕩かしていった。
那种几乎能夺走呼吸的浓烈口吻,也让我思绪飘散。
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■
「…小狐丸……?」
“……小狐丸……?”
「あぁ」
「唉」
ぐったりと床に臥したままの三日月に、そういえば私も名乗っていなかったと思い至って名を告げると、眉間に小さく皺を寄せて復唱してから、聞こえるかどうかという小さい声で「古風だな」と呟くのが聞こえた。私はこれでも耳がいいのだ。
就这样躺在地上,突然想起自己还没有报过名,于是告诉了三日月的名字,他微微皱眉,复述了一遍,然后用很小声问能不能听到,我听到他说“真古板”。我的耳朵还是不错的。
どうにもなにか誤解があるようなので、とにかく怖がらせないよう、ひとつひとつ話をしていくことにした。思えば、我らはまず言葉が足りていなかったように思う。
感觉有些误会,所以决定一点一点地说,以免吓到对方。回想起来,我们首先觉得词汇不够。
同胞とはそれでもよかったが、三日月は人の子。言葉にせねば伝わらぬこともあると誰かが言うておった気もする。誰だったか。まぁいい。
同伴就算这样也还好,但三日月是人家的孩子。有人说,有些事情不说话是传达不了的。是谁说的来着?算了,没关系。
外はまだ明るく、とても暑い。
外面还很亮,非常热。
清めてやった身体を横たえた三日月は単衣を纏うだけに終わっている為に、細い腰も薄い背もそこから覗くうなじも実に扇情的だ。しかしこれをまた抱いてしまっては会話など出来よう筈も無く、それでは畜生と変わらぬと己を叱咤する。
清醒的身体横躺在那里,只穿了一件单衣,细腰、薄背以及露出的锁骨都显得十分诱人。然而,如果再这样抱着,就无法交谈了,这样下去简直和畜生无异,于是自己开始责备自己。
掛け布をかけてやろうかとも思ったが、この暑い中では必要ないだろうかと思い直して畳んで横に置いておく。
也有想过挂上遮阳布,但转念一想,这么热的天气应该不需要吧,于是又把它叠好放在一边。
「三日月よ」
“三日月啊”
「……な、なに…」
「……什么、什么……」
「そう怯えるでない。確かに少々手荒なまねをしたとは思う。無茶をさせたな、すまん」
“不要害怕。确实,我可能有些粗鲁地模仿了。让你受惊了,对不起。”
「……」
“……”
「私はお主が居なくなって気が動転しておったのだ。お主の気持ちも考えず一方的に怒りを向けるなど、私がどうかしておった」
“我是因为您不在而心神不宁。我没有考虑您的感受,就单方面地发怒,这是我做错了。”
「……」
“……”
「お主は一夜を共にした私と床を共にして照れておっただけであろうに」
“你与我共度一夜,共卧一榻,仅此而已。”
「待て、どこでそうなった」
“等等,是在哪里发生的?”
怯えの色を潜めた瞬間の三日月の声は困惑を隠しきれないようだった。どうしたというのか。
“在掩饰恐惧的瞬间,新月般的嗓音无法隐藏困惑。怎么了?”
首を傾げると同時に髪が滑る。
“低头的同时,头发滑落。”
「のう、三日月」
“嗯,三日月”
「……」
“……”
「そう警戒するでない。なんぞ私が悪いことをしておるかのような気分になる」
“我不认为应该如此警惕。难道我做了什么坏事吗?”
「拉致監禁と強姦は立派に悪いことだと思うが」
“我认为绑架监禁和强奸是非常恶劣的行为。”
「らちかんきんとごうかん? なんじゃ、難しい言葉が出てきおったな?」
“这什么鬼?怎么突然冒出这么多难词?”
「しらばっくれるな! 俺が一体何をしたって……い、つ…ッ」
“别说了!我不管做了什么……哎,别……”
急に動いた三日月が苦痛に顔を歪めて突っ伏す。どうやら動いた時に足の傷を床に叩きつけてしまったようだ。
三日月突然动了一下,痛苦地扭曲着脸倒在地上。看起来是在动的时候不小心把脚上的伤碰到了地上。
新しい薬草に換えてやらねばとその足を取ると、三日月の表情が硬くなった。
拿出那脚换上新的草药,三日月表情变得僵硬。
布を取り、下に貼り付けてあった薬草を取り除き、身を清めたときに持って来ていた桶を持って井戸へ水を汲みに行く。この部屋を出て少し行った場所にある井戸は、真夏日でも冷たい水が汲めるので重宝する。水を汲み上げて部屋へ戻ると、三日月は複雑そうな顔をして起き上がって座り、自分の痛々しい足を擦っていた。
拿起布料,取下身下贴着的草药,洗净身体后,拿着桶去井边打水。这个房间外的井,即使在炎热的夏日也能打上清凉的水,非常宝贵。提水上楼后,三日月起身坐下,揉着自己的疼痛的脚。
室内の棚を開け、中から摘んでおいた薬草を取り出して傍らに膝をつく。きし、と音を立てる畳の音にも過敏に反応して、三日月の表情がまた少し強張った気がした。
打开室内的架子,从中取出事先摘好的草药,蹲在旁边。听到榻榻米发出的“吱嘎”声,三日月对声音的反应变得敏感,表情又紧绷了一些。
「薬草は苦手か?」
你讨厌草药吗?
もしやこの匂いが駄目とかそういうのだったりするのだろうか。
这股味道不会让人不舒服吧?
そう思って尋ねると、そろりと視線が私の手に移った。
他们这么一问,视线立刻转移到我的手上。
美しい瑠璃色の瞳がくるりと動く様はとても愛らしく、私は良き番を得たと心の底からこの出会いに感謝した。もう二度と逢えぬと思っていただけに、今この瞬間の幸福を噛み締めたい。だからこそ、自身の番の好みは把握しておきたいとも思うのだ。
美丽的琉璃色瞳孔转动的方式非常可爱,我从心底感谢得到了一个好的角色。正因为觉得再也见不到,才想要紧紧抓住现在这一刻的幸福。因此,我也想了解自己角色的喜好。
「…よもぎ、か?」
“...是菖蒲吗?”
「これか? そうじゃな、確かよもぎと聞かされておる」
“是这个吗?没错,是听到说是菖蒲。”
人の子はこれを磨り潰して傷口に貼る事で傷口を消毒し、傷の治りを速めると聞く。
听说人们会用这个磨碎后敷在伤口上,以此来消毒伤口并加快愈合。
昔、祖母に参考までにと聞かされたことを思い出して、今こそ役立てて見せようと有事の際のために見つける度に摘んでいた葉を使ってみたのだが、成程、三日月は葉を見ただけでそれがなにかわかるようじゃ。ならば人の子がこれを使うというのも間違ってはおらんのだろう。
回想起以前向祖母请教的事情,现在想借此机会派上用场,所以每次遇到机会就摘下叶子来试试看。结果,三日月只看了一眼叶子就能知道那是什么。那么,人们的孩子使用这个应该也没错吧。
「昨日…俺の足に貼っていたのはもしかして…」
「昨天…我贴在脚上的可能是…」
「これじゃな。少しは効くか? 磨り潰して貼ると聞かされておったが、どの程度潰せばいいのかまではよくわからんでな」
"这样吧。应该有点效果吧?听说要磨碎后贴上,但具体要磨碎到什么程度不太清楚。"
「昭和か」
"昭和时代吗?"
「は?」
"吗?"
「今時そんなもの使わない」
"现在没人用那种东西了。"
「そ、そうなのか?」
“哦,是这样吗?”
困惑した声を出す私を見つめ、ゆっくりと三日月は頷いた。
看着我困惑的声音,三日月缓缓地点了点头。
なんという…ではこれは意味はないのだろうか…。
真的…这有什么意义吗…。
手に残った葉を見つめ、三日月の傷ついた足へ視線を移し、がくりと肩を落とす。
看着手中的叶子,视线转向受伤的弯月,肩膀无力地垂下。
するとなにか思うところがあったのか、三日月は慌てた様子で告げた。
看来三日月似乎有什么想法,慌忙地报告说。
「で、でも、確かによもぎは傷に効くと言われていて、よもぎを使った薬も存在する。だから、その…多分、だいじょうぶ、だと…」
“嗯,但是据说常春藤对伤口有好处,也有用常春藤制成的药。所以,那个…大概,应该…没事吧。”
気を遣ってくれたらしいとわかり、己の不甲斐無さを呪うと同時に慈しみ溢れる言葉と心遣いに、じん、と胸の奥が温かくなった。
看来你很关心我,同时诅咒自己的无能为力,同时被充满慈爱的言语和关怀所温暖,心里暖洋洋的。
やはり私にはこやつしか居ないのだ。
我还是只有自己一个人。
これでも問題はないようなので今一度傷に貼っておいてやろうと、桶に汲んできた水で足裏を清めてから手にした葉を揉む。足裏に貼り、布を巻いて固定してやると三日月は少しだけ足の指先を動かしてから座り直した。
虽然这样也没有问题,于是再次把脚底清洗干净,用桶里的水洗完脚底后,用手揉搓拿到的叶子。把叶子贴在脚底,包上布并固定好,三日月稍微活动了一下脚尖,然后又坐了下来。
「早う治るといいのう」
“希望早点好起来。”
「…まぁ、な」
「嗯,算了」
「して、先程申しておった……なんじゃった? 夏の金柑と豪腕?」
「说,刚才说的……是什么?夏天的金柑和强壮的手臂?」
「拉致監禁と強姦」
「绑架监禁与强奸」
「それはどういう意味じゃ?」
「这是什么意思?」
「…本気で言ってるのか?」
“你真的这么认为吗?”
正気を疑うような目をするが、知らぬものは知らぬ。人の子は言葉で伝える故、小難しい言葉が多い。
尽管用怀疑的目光看待,但不知者不知。人的孩子用言语传达,所以有很多难懂的词。
私の知らぬ言葉もきっとまだまだたくさんあるのじゃろう。そう納得して意味を聞けば、その内容はとんでもないものであった。
我不知道的词肯定还有很多。这样一理解,内容就非常惊人了。
「……どうしてそうなった?」
“为什么变成这样?”
「俺の台詞だ。どうしてそうじゃないと思った」
"我的台词。为什么你会这么想?"
「お主は私の番じゃ。無理に連れ去ったわけでも閉じ込めたわけでもあるまい」
"你是我的回合。你不可能强迫带走或者关起来吧?"
「なっ!?」
"啊!?"
おかしなことを言う。
你在说笑话吗?
私はきちんと帰りたければ帰る事もできるよう最後に機会を与えたはずだ。ここからだって、昨日も勝手に出て行っておったではないか。閉じ込めていたらそんなことも出来まい?
如果我真的想回家,我也能做到。最后,我本应该给了机会。从这里出发,昨天不也是随便出去的吗?如果被关起来,那种事情能做出来吗?
私としては、それ以上に理解が出来ぬのはその後のことじゃ。
我更不理解的是之后的事情。
「なんといったか、ごうかん? 無理に組み敷くとは失敬な。お主が望んだのではないか」
“那是什么,恭喜?强迫别人做是不礼貌的。难道不是你想要的吗?”
「は…? はぁっ!?」
“嗯…?啊!?”
「確かに最初は恐れておったかもしれんが、善がり狂っておったのは誰じゃ? それに、身体の疼きを収めたいが故に、私の精が欲しいと啼いて懇願したではないか」
"确实一开始可能害怕过,但疯狂行善的是谁呢?再说,不就是为了想要平息身体的疼痛,我的精神才渴望着被你呼唤吗?"
「それはっ! お前が俺に何か妙なことをしたから…」
"那还用说!因为你对我做了什么奇怪的事情……"
顔を真っ赤にして吠える三日月の唇は戦慄き、自分の身体を抱くように腕を回して俯いた。
那圆月的唇红得发烫,战栗着,像抱住自己的身体一样扭动着双臂,低头俯身。
形のいい唇が悔しそうに、どうして俺だったんだ、どうして、と呟く声が聞こえてくる。
那好看的唇带着悔恨,为什么是我,为什么,这样的声音传入耳中。
その言葉の数々に、やはり三日月は私の事を覚えてなどいなかったのだと少しだけ物悲しい気持ちになった。ほんの少しも期待していなかったと言えば嘘になる。諦めなくてはと思った時期もあったが、私にとっては所謂運命の相手だったのだ。
那些话语中,我多少有些伤感地觉得,那弯月根本就没有记得我的事。
まともな会話一つ交わすことも出来なかったあの頃の自分を恨めしく思うほどに、どうしてもっと一緒に居たいと言えなかったのかと悔やんだし、どうして約束したのに来てくれないのかと嘆いたりもした。
我羡慕那个连正常对话都无法进行的时候的自己,为什么就不能更想和他在一起呢,为什么承诺了却没来,我既后悔又叹息。
その相手が、今また目の前に居るのだ。どうしてそれをみすみす見逃すことが出来よう。
那个对现在又出现在我眼前的人,我怎么能轻易错过。
「お主が私をどう思っておったかは、その、あまり釈然とはせんがなんとなくわかった」
“你对我有什么想法,虽然不太清楚,但总觉得有些明白了。”
「なんとなくな上に釈然としないのか」
"怎么这么不爽快呢?"
「こちらにはそのつもりが無かったからな」
"因为本来就没有那个打算。"
「なら、帰してくれるのか」
"那你能还给我吗?"
「それは出来ぬ」
"那不可能。"
そこだけはきっぱりと言っておいた。
坚决地说出这一点。
今更手放すなど出来ぬ。既にこの世界を一人では離れられぬよう術を施した後であることも勿論関係しているが、己の番を手放したい者など居らぬ。
现在放手是不可能的。当然,在已经对这个世界施展了让人无法独自离开的技巧之后也是如此,没有人愿意放弃自己的命运。
手を伸ばし、腕の中に三日月の身体を納めると、弾かれたように腕を持ち上げて私の胸を叩く。
将三日月的身体放入怀中,像被弹开一样举起手臂,敲打我的胸口。
見かけによらず痛い。
表面上看并不痛。
しかし手を離せば抱き締める機を逃すと思い、更に力を篭めて逃さぬよう身体を密着させた。
然而,一旦放手,就会错过拥抱的机会,于是更加用力地抱紧,让身体紧密贴合。
敷布の上で布の擦れる音が聞こえ、迂闊に動かしては足に負担がかかるとそれ以上動かぬよう気をつけると、こちらがやや腰を浮かしたような妙な態勢になってしまった。胸に顔を埋めるようにして三日月が硬直している。少しでも気を落ち着かせようと背を撫で、こちらも三日月の肩の窪みに鼻先を埋める。
在布料上,可以听到布料摩擦的声音,小心翼翼地移动以免给脚带来负担,结果自己变成了一个奇怪的姿势,腰部微微抬起。将脸埋在胸口,三日月僵硬地不动。为了尽量让自己平静下来,轻轻地拍拍背,也把鼻子埋在三日月肩膀的凹槽里。
風の音だけが聞こえる静かな社は暑く、しっとりと汗ばんだ肌から立ち昇る三日月の匂いに安心した。
只有风的声音,安静的寺庙很热,从湿润的皮肤上升起的三日月的味道让人感到安心。
「お主は私の番じゃ。二度と手放したりなどするものか」
“你是我的回合。难道我会再次放手吗?”
「それはお前の勝手な都合だ」
"这是你个人的便利"
「そう言われてしまうと些か辛い…私は私なりにお主を幸せにしたいと思っておるし、共に居ることで少しでもお主の中の誤解が解ければと思っておる」
"这样说确实有些痛苦……我确实是想尽我所能让您幸福,也希望我们能在一起,能稍微解开您心中的误解"
「誤解も何も、一方的なものだろう」
“误解也不过是单方面的罢了”
「すまぬ」
“不好意思”
私の言葉を聞きながら、三日月は俯いて黙り込んでしまった。
听着我的话,三日月低头沉默了。
何が悪いのかわからない。
“不知道哪里不好。”
私達の世界では、番と決めた者を己のものにするには力で示す。私の力に引き寄せられ、こうして共に居る時点でそれはもう成立したのではないのだろうか。
在我们的世界里,要想将决定为属下的人据为己有,必须展示力量。被我的力量吸引而来,这样共处的时候,或许它已经成立了。
わからない。人の子は違うのだろうか。これまで、多くの同胞達もこうして番を連れて来ていたはずだが、なにか間違えたのだろうか。
不懂。人的孩子难道不一样吗?以前,许多同胞也这样带来过属下,难道有什么做错了?
三日月の様子を見ると、恐らく何か間違えたのだろう。
看着新月的样子,可能是我做错了什么。
私の無知が、三日月を傷つけているのだとわかって頭の中が酷く混乱している。
我的无知让我意识到,我的无知正在伤害新月,这让我在脑海中极度混乱。
それでも、たとえ無知と笑われようが、身勝手と罵られようが、私は三日月を手放したくない。
即使被无知嘲笑,即使被自私谩骂,我也不愿放弃三日月。
*
その後の三日月は、じっと魂が抜けたかのように寝転がったまま動かなかった。
此后的三日月,就像灵魂被抽走一样,静静地躺在那里一动不动。
私が抱き締めても視線を上げることさえせず、糸の切れた繰り人形のように。
即使我紧紧抱住,她也不抬头,就像断了线的木偶一样。
時折そっと口吻けると、何故か酷く悲しそうな顔をされた。
有时候我轻轻呼唤,她却不知为何露出极度悲伤的表情。
どうしてしまったのだろうか。人の子は些細なことで壊れてしまう生き物だと聞いているだけに、三日月の反応がとても怖かった。
究竟发生了什么。听说人的孩子会因为一些小事而崩溃,所以三日月的表现让我非常害怕。
こちらの世界では基本的に食事は必要ない。ここに住む者は皆、霊気や神気を吸って生きているのだから。しかし元々こちらの住人ではない三日月は己でそれらを吸収する術を持たず、私が注いでやらねばならない。口移しで行うそれを、あんな悲しそうな目で受け止められては胸が酷く痛む。
在这个世界上,基本上不需要吃饭。住在这里的人都是通过吸取灵气或神气来生活的。然而,原本不是这里居民的三日月没有吸收这些的能力,我不得不亲自喂食。看到他那样悲伤的眼神,我的心都痛了。
「三日月、なにか欲しいものはあるか?」
“三日月,有什么想要的吗?”
問いかける声に返事は無い。
询问的声音没有得到回应。
「こちら側には我らの眷属が殆どでな、外へ出るには少々面倒事もあろうが、私と共になら連れて行ける。気晴らしにどこか行きたいところはあるか?」
“我们这边大多是我们的家属,出去可能有些麻烦,不过我可以带你一起。你有什么想去散心的地方吗?”
「……帰りたい」
“……想回家。”
「三日月…」
“新月……”
どうせ、その願いは叶えてくれないのだろう?
“反正,那个愿望也不可能实现吧?”
そう言われたような気がした。
我感觉好像是被这样说的。
力無く横たわる三日月の髪を撫で、同じように隣に寝転がって正面から抱き締めた。もはや抵抗する意思もないのか、腕が持ち上がることもない。
轻轻抚摸无力地横躺的三日月头发,同样地,从正面抱紧旁边躺着的身体。已经没有反抗的意志,手臂也没有抬起。
暴れて抵抗されても困るが、これはこれで対処に困る。
即使被粗暴地反抗也麻烦,但这种情况也难以应对。
もっと同胞達を見習って、人の子の世を見ておくべきだったと今更に後悔した。
现在后悔不已,觉得自己应该更多地学习同胞们,看看别人的孩子的生活。
鼻先を髪に埋めゆっくり深呼吸すると、肺腑の奥まで三日月の匂いでいっぱいになる。
慢慢将鼻子埋入头发中深呼吸,肺部深处便充满了新月般的香气。
どれほどそうしていたろうか、三日月はぼんやりとしたまま私に黙って抱かれていたが、思考を巡らせることを放棄した身体は起きているのか眠っているのかもわからないほどに静かだ。
我不知道自己这样做了多久,三日月模糊地抱着我,默默地,放弃思考的身体是醒着还是睡着,如此安静以至于让人分辨不出。
どうしたものかと考える私の耳になにか音が届いた。
我的耳朵似乎听到了什么声音。
風の乱れる音。
风声呼啸。
それまで静かだった社の外が、ざわりとそこにだけ風が渦を巻いているかのように騒がしい。注意深く身を起こし、三日月の髪をもう一度だけ撫でて摺り足で障子に近づいた。
公司外面原本很安静,突然间仿佛只有那里卷起了一股旋风般喧嚣。我小心翼翼地起身,再次轻轻抚摸着新月形状的头发,蹑手蹑脚地靠近拉门。
少しだけ、指一本通る程度の細い隙間を作って外を覗き見るが、そこに何かが居るような様子は無い。
我稍微打开了一根手指粗细的缝隙向外窥视,但那里并没有什么异常的迹象。
気のせいだろうかと思った矢先、砂利の上にぐるりと旋風が舞ったのが見え、息を殺してじっと見つめた。動きがおかしい。自然のものではない。
正当我怀疑是不是错觉的时候,看到沙粒上突然卷起了一个旋风,我屏住呼吸,静静地注视着。动作异常。这不是自然现象。
この世界には妖も多く存在するため、それが一体何者なのか見極めるのは案外難しいのだ。
这个世界上妖魔鬼怪众多,要确定那究竟是什么东西,实在是一件相当困难的事情。
次第に大きくなる旋風が一際激しく渦を巻き、木の葉を巻き込んで辺りの木々を揺らすのを見届けた後、そこに現れたのは一匹の白い狐だった。人型を取らず、獣の形をしたその姿は紛れも無く私の同胞だ。
逐渐变大的旋风异常猛烈地卷起漩涡,卷起周围的树叶摇动树木后,出现在那里的竟是一只白色的狐狸。它没有采取人形,而是以兽形出现,毫无掩饰地是我的同胞。
「小狐丸! 小狐丸よ!」
“小狐狸丸!小狐狸丸啊!”
「おお! 誰かと思えば! 久しいではないか!」
“哇!是谁啊!好久不见了!”
障子を開いて応えれば、白い狐はくるりとこちらを見て元気に跳ねた。
打开隔扇回应,白狐狸便转过头来,精神抖擞地跳了起来。
「やはり居ったか。風の噂でそなたが嫁取りをしたと聞いてな、どれどんな美姫を娶ったかと見に来たのよ。嫁御は奥の間か?」
"果然来了。听风是雨说你抢亲了,来看看你娶了什么样的美女,新娘是在内室吗?"
ぴょんぴょんと跳ねながら駆け寄ってきたのは、時々外の世を見てみよと私を連れ出す昔馴染みの悪友で、名は琥珀といった。美しい琥珀色の瞳をした風の術を得意とする狐ではあるが、どうにも人型を取るのは苦手なのか常にこの姿だ。
蹦蹦跳跳地跑过来的是,那个时不时想带我看看外面的世界的老朋友,名叫琥珀。虽然是有美丽琥珀色瞳孔的风之术师,狐狸,但似乎并不擅长变成人形,总是这个样子。
風の噂とは。一体どこからどう伝わっているのか謎だが、琥珀は元々好奇心が誰よりも強く、お節介且つお調子者であるが故に友人も多く、噂話もよく耳にする方だ。きっとどこぞで酒の肴の代わりにと話題に出されたのだろう。
听风是雨。究竟是从哪里传来的,是个谜。琥珀原本就比任何人都有好奇心,喜欢多管闲事且爱热闹,因此朋友很多,也经常听到别人的闲话。估计是在某个地方被当成了酒菜的话题。
ここよりずっと北の、小さくとも賑やかな神社に住処を置いていることも大きいかもしれない。人の子の集まる場所には妖も集まりやすい。どんなものであれ、集まる場所というのは情報も集まりやすい。
住在更北边,虽然小但很热闹的神社里也是一个重要因素。人多的地方,妖怪也容易聚集。无论是什么,聚集的地方信息也容易聚集。
人も妖も、口に戸など建てられぬという事だ。くわばらくわばら。
人与妖魔,连门都不好建,更别提其他了。
「で? 噂の嫁は?」
“怎么样?那个传闻中的媳妇?”
余程気になっていたのか、琥珀は私の背後を覗き見ようと身を乗り出してはくるくる駆け回って座ってを繰り返す。勝手に覗き見るのは流石に古き仲とはいえ非礼が過ぎると心得てのことだろう。
琥珀似乎非常在意,不时地回头窥视我,然后起身绕圈坐下,反复如此。虽然我们是老朋友,但这样擅自窥视实在太过失礼了。
兄弟同然に育った仲ゆえの気軽さはあるが、最低限の礼儀は弁えている。
虽然我们像兄弟一样长大,但基本的礼仪还是懂得的。
私は暫し逡巡した。
我暂时犹豫了一下。
無論、紹介するにやぶさかではない。
当然,我不会犹豫推荐。
琥珀ならば私の番を見たからといって奪おうとするような愚かな事はしないだろうし、それがどんな結果を招くかも心得ているはずだ。だが、今の三日月を紹介していいものかと考えると少々勝手が変わってくる。
我不会因为看到琥珀就愚蠢地去抢夺,也明白那会带来什么后果。但是,当我考虑是否应该介绍现在的月亮时,我的想法有些改变。
一層の混乱に陥れ、本当になにも語らぬ人形のようになってしまうのではないだろうか。
我不会陷入更大的混乱,变成一个真正什么也不说的木偶。
私はそれが恐ろしかった。
我感到很可怕。
少し待ってもらうか。しかし、少しとはどれくらいだ。
请稍等一下。但是,稍微是多长时间呢?
遠路遥々一目だけでもとやって来た兄弟分を、出来ればなにもないまま追い返すようなマネはしたくない。だが、彼にも妻子が居る。三日月の調子が戻るまで長居することも勧められまい。唸る私に何を思ったか、琥珀は動きを止めてじっとこちらを見つめた。
我不想做那种即使只有一眼看到远道而来的兄弟也要把他赶走的举动。但是,他也有妻子和孩子。在月亮恢复到三日月的状态之前,也不建议他长时间停留。看到我嘟囔,琥珀停下了动作,静静地注视着我。
「なんだなんだ、もしや嫁御は病に臥してるとでも言いたいのか?」
“你这是什么意思,难道你想说妻子卧病在床吗?”
「病ではない…病ではない、と、思うんだが…」
「我不是…我不是,这么想的……」
「煮えきらんな。寝ておるのなら後にするか? 流石に嫁いだばかりの嫁御の寝顔を見せよとは俺も言わんさ」
“煮不熟。如果你在睡觉的话,就稍后再做吧?毕竟我也是刚结婚的新媳妇,不想让你看到我睡觉的样子。”
「そうではないのだが…」
“不是这样的……”
「……なにか困り事か?」
“有什么困扰吗?”
私よりも人の世に詳しい琥珀に相談したほうがいいだろうか。
我觉得还是应该向比我对人间世更熟悉的琥珀咨询一下。
ここで悩んでいても仕方あるまい。思い切って口を開こうとしたその時、背後から布擦れの音が聞こえた。
在这里烦恼也是没有办法的。当我鼓起勇气想要开口的时候,背后传来了布擦的声音。
振り返ってみると、不思議そうな顔をした三日月がゆっくりと身を起こすところだった。
转过头去看,只见三日月带着疑惑的表情慢慢地坐直了身体。
外の様子を見に行ってそのまま戻らぬことを不審に思ったのか、それとも話し声に気を取られたか。
我怀疑是觉得外面情况不对劲就回不来了,还是被说话声吸引了注意力。
ともあれ、自ら動くそんな些細な動きにも感動を覚えるほどに、ゆるりと視線を投げる三日月の姿は儚くも美しかった。
总之,对这样微小的动作都感到感动,那缓缓投来的新月形状的目光既脆弱又美丽。
「……誰かいるのか…?」
“……有人吗……?”
恐る恐るといった声だ。
声音颤抖着。
外で襲われたことが相当堪えたのだろう。
恐怕在外面被袭击的经历相当痛苦。
琥珀へ視線を移すと、好奇心と自制の狭間で揺らいでいる目をして首を横に振った。自分から覗くのだけはまだ我慢してくれるようだ。
将视线转向琥珀,目光在好奇与自制之间摇摆不定,轻轻摇了摇头。似乎还能忍耐着不自己窥视。
ひとつ頷いて三日月の方へ戻り、掛け布を握って身を硬くする背を優しく撫でてやる。困惑した表情は蒼白で、怯えの色が滲んでいるのがわかってチリチリと胸が痛んだ。
点了点头,转向新月的方向,握住挂布,轻轻抚摸着僵硬的背部。困惑的表情苍白,带着恐惧的色彩,让人心中隐隐作痛。
「大丈夫じゃ。私の兄貴分よ、害は無い」
“没关系。我的哥哥,没问题。”
「あ、あに…?」
“啊,哥哥……?”
恐々とした声で呟いた三日月は、無意識なのだろうか、私の着物へ手を伸ばしてぎゅっと握って開いたままの障子の向こうを見つめていた。
三日月低声嘀咕着,似乎是无意识的,他伸手向我身上的和服抓去,紧紧握住,目光穿过半开的拉门凝视着。
明るい外の光を見つめる瞳は、ほの暗い。
看着外面明亮的光线,眼睛却显得有些昏暗。
「琥珀よ、入って参れ」
琥珀,进来吧
私が声を掛けると、掌を通して三日月の身体が跳ね上がったのを感じた。
我呼唤一声,感觉到掌心传来了三日月身体的弹跳。
だが、少しの間を空けて光の筋が影に遮られ、ひょこりと入ってきた琥珀の姿に身を硬くしてじっと息を殺していた三日月は、呆気にとられたような顔をした。
但稍作停顿,光线被阴影遮挡,三日月僵硬地屏住呼吸,呆呆地看着琥珀悄悄进入的身影。
「き…きつね…?」
啊……狐狸……?
しろい、きつねだ…。
纯白的、狐狸啊……。
小さく呟く声が届く頃、琥珀は私と三日月の前までやって来てちょこりと座ると、目を細めてぺこりと一礼した。
当细微的声音传来时,琥珀走到我和新月面前,轻轻坐下,眯起眼睛深深地鞠了一躬。
陽の匂いのする尻尾をふさふさと揺らし、三日月を見上げて口を開く。
摇动着散发着阳光气息的蓬松尾巴,抬头看着新月,张开嘴巴。
「お初にお目にかかります。わたくしはそこに居る小狐丸と兄弟同然に育ちました、名を琥珀と申します。此度は我が弟分の麗しき姫君を一目拝見したく参上した次第でござ…」
“初次见面。我是与那里的小狐狸丸一同长大的,如同兄弟一般,名叫琥珀。这次是特地来一睹我弟弟那美丽公主的芳容的。”
「うわっ! 狐が喋ったぞ!?」
“哇!狐狸说话了!?”
びくんっと大袈裟なほどに肩を跳ね上げた三日月は、ぐいぐいと私の着物を引っ張って叫んだ。
三日月猛地一跳,夸张地拉扯着我的和服,大声尖叫。
あまりの勢いに私も琥珀も目を丸くして三日月を見た。
我和琥珀都瞪大了眼睛看着三日月,气势汹汹。
自分の身を隠すように抱えていた掛け布を放り出し、私の着物からも手を放して、そろりと手を床について近づく姿は警戒して怯えていた先程とは真逆で、好奇に輝いているように見える。
放下了原本用来遮掩自己的披风,从我的和服中抽出手,小心翼翼地跪在地上靠近,与刚才警惕害怕的样子截然相反,看起来充满了好奇。
なんじゃその反応は。私の時には無かったぞ。
那是什么反应?我那时候可没有过。
複雑な気分になりつつも、一体何がそんなにも三日月を刺激したのかが気になって琥珀へと視線を投げた。一方の琥珀はその様子に深く頷き、にこにこと気分を害した風でもない笑顔を見せる。
虽然心情变得复杂,但心里还是想知道是什么刺激了那弯月,于是视线投向了琥珀。琥珀则深深地颔首,带着一丝微笑,没有受到任何伤害。
「こちらの狐は初めてでございますか。人の子の世に住まう狐は人の言葉を持たぬと言いますな。しかしながら、そこの小狐丸も狐にございますれば、いずれはわたくしのような者にも多く出会うことになりましょう」
“这位狐狸是第一次来吗?据说住在人世间的狐狸不会说人话。然而,既然那里有名叫小狐丸的小狐狸,那么总有一天也会遇到像我这样的人吧。”
「え…?」
“咦...?”
「え?」
“咦?”
目を丸くして動きを止める三日月と、間抜けな声を出して動きを止める私の沈黙に琥珀は続けた。
眼睛变得圆圆的,动作停止的弯月,以及我发出笨拙的声音,沉默也随之停止。琥珀继续着。
「お恥ずかしながら、我が弟分は人の子の世を知らずして育った無知さを未だ良しとしている様子。姫君にも非礼を働くことがあるやも知れませぬ。ですが、それは誓って貴方を貶めるためでも、まして嫌ってのことでもございません。それだけは、どうかお心に留め置いていただきたく存じます」
“很不好意思,我那弟弟在无知中长大,对世间的孩子一无所知,却还以此为乐。他有时也会对公主无礼。但是,这绝不是出于要贬低您的意图,更不是出于讨厌您。这一点,还请您务必铭记在心。”
改めて一礼する姿に、数回の瞬きの後に三日月は私と琥珀を交互に見た。
重新行礼的姿态,在数次眨眼之后,月亮交替地看了我和琥珀。
そうか、三日月の世界では狐は喋らないものなのか。それはさぞ驚かせてしまったことであろう。
好吧,在三日月的世界里,狐狸是不会说话的吧。这肯定让她很惊讶。
一人納得していると、困惑を絵に描いたような顔で黙ってしまった三日月が、またも恐る恐るといった声で私に問いかけた。
当我确信无疑时,三日月带着困惑的表情默默地画出了困惑的表情,又小心翼翼地问我。
「お前…狐だったのか?」
“你……是狐狸吗?”
「そこからか」
“原来如此”
今更過ぎる問いに嘆息すると、白い影がすっくと立ち上がった。
对这个过于深奥的问题叹息时,白色的影子突然站了起来。
「なんと! 小狐丸、そなた姫君にきちんと説明しておらぬのか?」
“哎呀!小狐丸,你难道没有向这位公主小姐好好解释吗?”
「説明とは」
“解释是……”
「あぁ…どうも皆、そなたを甘やかしすぎてしまったようだ」
“唉……看来大家都对你太过宽容了。”
ここからは、ひたすらに説明という名の説教が始まった。
从这里开始,就是关于解释的教诲开始了。
まず、人の子と我らの世界では常識が異なること。
首先,人的孩子和我们的世界中常识是不同的。
人の形をしているからといって人の子とは限らぬと、人の子には見抜くことが出来ぬこと。
不能因为具有人的形态就一定是人的孩子,人的孩子是无法被看穿的。
我らと人の子はそもそもの作りが違うのだから、環境に合わねば壊れてしまうこと。
我们和人的孩子本来就不是同一个构造,如果不适应环境就会崩溃。
そして、
然后,
「一度契った者は、二度と離れることはありませぬ」
「一旦结缘,便不再分离」
琥珀の言葉に、私と一緒になって黙って聞いていた三日月は微かに表情を硬くした。
琥珀般的话语,我与三日月一起默默聆听,他的表情微微变得严肃。
「小狐丸。そなた、もう契りは」
「小狐丸,你已经结缘了」
「済ませておる」
已经完成了
「なれば、姫君の身にはもう明確な変化が出ておりましょう。それは、小狐丸が生きている限り失われることはございません」
如果如此,公主的身体应该已经出现了明显的转变。只要小狐丸还活着,就不会失去。
「……!」
……!
息を飲む気配。
呼吸急促的感觉。
私が三日月の身体に施している術は、契りをもって完成する。そしてそれは、三日月をここへ招き入れた日の内に済ませていた。
我对三日月施展的术,需要通过契约来完成。而且,那是在邀请三日月来到这里的当天就完成的。
術からの開放は、正確には術者である私が生を終えるか、術者自らが解くかのどちらか。だが、狐はこれと決めた番を変える事は無い。故に、その方法を知る者がごく僅かなのだ。
术的解脱,准确来说,要么是我这个施术者生命的终结,要么是施术者自己解开。但狐狸是不会改变自己决定的时间的。因此,知道这种方法的人寥寥无几。
私自身、己の施した術の解き方を知らぬ。
我自己也不知道自己施展的术的解法。
蒼白な顔をして黙りこくった三日月の様子に、私が何を悩んでいたのかを察したのか、琥珀はこほんと一つ咳払いをしてゆらりと尾を揺らした。
琥珀看到三日月脸色苍白地沉默不语,似乎察觉到了我在想什么,轻轻地咳嗽了一声,尾巴轻轻摇晃。
慣れぬ内は不安もあるだろうと、いつでも困ったら相談に乗ろうと、そう言ってくれた。
每当不习惯的时候,也许会有不安吧。无论何时遇到困难,我都会尽力提供帮助。
顔色の優れぬ三日月の様子は、多くの友を持ち、当然多くの番を見てきた琥珀をもってしても深刻らしく、困り果てたように肉球で畳を軽く叩く。これは困ったときの琥珀の癖だ。
即使是拥有众多朋友和丰富经验的琥珀,面对这样的困境,也会显得严肃,用肉掌轻轻敲打榻榻米。这是琥珀遇到困难时的习惯。
「俺は…もう、帰れないんだな…?」
“我已经…回不去了吗…?”
ぽつ、と呟く声。
轻声细语。
悲しげなそれに、琥珀は耳をぺたりと倒して申し訳なさそうに俯いた。
悲伤之余,琥珀低垂着耳朵,似乎有些抱歉地低下了头。
震える声に重なるように、ぽた、ぽた、と雫が落ちていくのが見える。
随着颤抖的声音,可以看到水滴“噗嗵、噗嗵”地落下来。
堪らずに抱き締めると、恐ろしく無抵抗の身体がなされるがままに私の胸にすとんと倒れ込んだ。
我无法承受,紧紧地抱住她,那无力的身体像被恐惧压垮一样,沉重地倒进我的怀里。
私より少し小柄な身体は、はたはたと零れる涙を拭うこともせずに私の胸に顔を埋めた。
身材比我略小,她没有擦拭那零落的眼泪,只是把脸埋进我的胸膛。
「琥珀よ、すまんが今日は…」
「琥珀啊,今天…」
「そうだな。落ち着く時間は必要かもしれん。こっちこそ悪かった、そなたがとうとう長年の想いを果たしたのかと思うと居ても立ってもいられなくてな」
「是啊。也许需要冷静一下。我才是那个糟糕的人,想到你终于实现了多年的愿望,我就无法坐立不安。」
三日月を見た琥珀は何か口にしかけ、そのまま思い直して閉ざすとぺこりと頭を下げて出て行った。
三日月看到琥珀,差点说出口,然后又改变了主意,低下头默默地离开了。
暑いばかりの外の空気は、いつの間にか夕闇を纏い始めていた。
外面的空气一直很热,不知何时开始笼罩着夕暮的阴影。
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□
何度目かの口吻けに、俺はうすらと目を開けた。
几次三番地,我微微睁开眼睛。
日に何度か、こうして小狐丸は俺を抱き締めて口吻ける。どういうわけかここ最近はあの身の内を焼くような激しい衝動は訪れず、小狐丸の口吻けにも特に反応はしない。
每天几次,小狐丸这样紧紧抱住我,亲吻。不知为何,最近一直没有那种让我身体发热的强烈冲动,对小狐丸的亲吻也没有特别反应。
どういうことかと首を傾げると、小狐丸は俺に施した術のことを教えてくれた。どうやら、小狐丸が俺に対して欲情した時に反応するようだ。なんて迷惑な術を施してくれたのか。
我疑惑地歪头,小狐丸便告诉我他对我施展的术。好像是在小狐丸对我产生欲望时才会反应。这是什么麻烦的术啊?
小狐丸の話では、俺はこちらの世界では何も食べなくても生きられるらしい。が、その為には神気とか霊力とか、とにかくこの世界の空気中や植物なんかが蓄えているものを吸って自分の糧にしなくてはならないという。けれど俺にはそんな力は無いから、小狐丸は自分の中にあるものをこうして分けてくれていたのだそうだ。もっと他に方法はないのか。
在小狐丸的故事里,我听说在这个世界里即使不吃东西也能活下去。但是,为了做到这一点,必须吸收这个世界的空气或植物等所储存的神气或灵力等东西作为自己的食物。但是我没有那样的力量,所以小狐丸似乎是这样把他的东西分给我的。难道没有别的办法吗?
けれど、悔しいが、小狐丸の口吻けは正直……気持ちいい。
虽然有点不甘心,但小狐丸的语气很诚实……感觉很好。
以前、勝手に出て行って襲われた時に触れられる感覚は、吐き気を催すほど気持ち悪かったのに、小狐丸に抱き締められるのにももう慣れた。
以前,我擅自出去被袭击时,那种触感让我感到恶心得想吐,但现在我已经习惯了被小狐丸抱紧。
だが、だからといって自分の元居た世界が恋しくないわけではない。
但是,这并不意味着我不怀念原来的世界。
未だに俺をこちらへ引き摺り込んだ小狐丸のことは許せないし、戻れる方法があるなら藁にも縋りたい。
我仍然无法原谅把我拉到这里的小狐丸,如果有可能的话,我愿意像草一样攀附。
だが、その方法が無い。
但是,没有这样的方法。
この世界の時間が狂っていることは、あの琥珀とかいう狐から聞いたし、人間は二つの世界を自由に行き来できないとも聞いた。小狐丸達はその気になれば、一定の時間に限り自由に行き来できるそうだ。要するに、鍵を持っている者と持っていない者の差のようなものだ。
这个世界的时钟出了问题,我从那个叫做琥珀的狐狸那里听说的,人类无法自由地在两个世界之间往来,我也听说了。小狐丸他们如果愿意的话,在一定的时间内可以自由往来。换句话说,就像是拥有钥匙的人和没有钥匙的人之间的区别。
鍵を持っている者はいつでも扉を開けられるが、持たない者は開けてもらう他はたまたま開いている時ではないと通れない。
拥有钥匙的人可以随时打开门,而没有钥匙的人除非恰巧门是开着的,否则无法进入。
それにも場所が限られ、ここではあの大きな鳥居がそれに当たるそうだ。なんというかもう、ファンタジーだ。大体小狐丸が狐だというのも未だに信じられない。あの超人的な跳躍力なんかを考えると、確かに人間ではなさそうだとも思うけれど。
地点也有限制,这里那座巨大的鸟居就是它的象征。怎么说呢,感觉就像进入了幻想世界。小狐丸是狐狸这一点我至今都无法相信。考虑到他那超人的跳跃力,确实不像人类能做到。
小狐丸は俺を気遣ってか甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼くし、常に傍に寄り添っている。
小狐丸似乎很关心我,总是不辞辛劳地照顾我的日常生活,并一直陪伴在我身边。
かと思えば突然どこかに行ってしまうこともあるけれど。今もどこかに行っていたらしく、戻るなりいそいそと俺の所へやって来たのだ。
一会儿又突然不见了,但现在看起来好像又去哪里了,一回来就急忙来到我这里。
散々人の唇を奪った小狐丸は、俺と目が合うなり牙の覗く口を開いて笑った。
小狐丸轻而易举地夺走了少女的唇,与我目光交汇时,他张开嘴露出锋利的獠牙,笑了。
「三日月、喉は乾いておらんか?」
“三日月,你不觉得喉咙干吗?”
「水ならまだここに…」
“水的话,这里还有……”
「ほれ、手を出してみよ」
“看吧,试试手。”
「…?」
そう言ってなにか小さな包みを出すと、手を出してみよと言うくせに勝手に俺の手を取り、勝手に載せた。
说着,拿出一个小包裹,一边让你伸手一边擅自拿起你的手,放进了包裹里。
はらりと開いた布包みの中には、赤いつやつやした物が入っていた。
布包里突然打开,里面有一件红彤彤的物品。
「…いちご?」
「…草莓?」
「昔同胞達と野いちごを食したことを思い出してな、採ってきたんじゃ。これでも食べて元気を出せ」
“想起和昔日同胞们一起吃野草莓的事情,采来的就吃吧,吃了也能恢复精神。”
食べ物でどうにかなる問題ではない。
食物问题不是什么大问题。
冷たく突っ撥ねてもよかったが、小狐丸の期待に満ちた目を見ていると折角採ってきてくれた物だし…と一粒摘んでみる。
即便冷淡地拒绝也可以,但看到小狐丸充满期待的眼神,想到这是特意采来的东西,还是摘一颗试试看吧。
少し濡れているそれは、おそらく井戸の水で洗ってきたのだろう。ひんやりとした粒を口に含むと、甘酸っぱい爽やかな酸味が舌を刺激した。久方ぶりの食べ物の味に、頬の奥がじんわりとした痛みを訴え、すぐにそれは美味しい物を食したという実感になって胸を満たす。
它有些湿润,可能是用井水洗过的。含在嘴里冰凉的颗粒,刺激着舌尖,带来酸甜爽口的酸味。久违的食物味道让脸颊深处微微疼痛,立刻就感觉像是吃到了美味的东西,胸中充满了满足感。
「美味い…」
“好吃……”
「そうか……そうか、よかった」
“好吧……好吧,太好了”
ほう、と息を吐く小狐丸は嬉しそうに笑いながら、全部食べていいんだぞと促してくる。どうやら無意識に浮かべた笑顔に安心したらしく、初めて出会った時のような妖しい笑みではなく、素直に優しい笑顔が眩しいほどだった。狐ではなく犬ではないだろうか、こいつは。
呼,呼出气的小狐丸高兴地笑着,催促着说可以吃全部。似乎是无意识地浮现出的笑容让他感到安心,不再是初次见面时的妖媚笑容,而是直率而温柔的微笑,让人眩目。他不是狐狸,也不是狗吧,这家伙。
もう一粒口に運ぶ。俺が食べる姿を目を細めて見つめながら、小狐丸は俺の前に胡坐をかいて座り直した。
又吃了一颗。小狐丸目不转睛地看着我吃东西,然后在我面前盘腿坐下。
「お前の分は」
“这是你的份”
「私はいい。普段から物を食すことはないからな」
“我很好。因为我平时从不吃东西。”
「食べられないわけではないんだろう」
“应该不是不能吃吧。”
さっき、昔同胞達と野いちごを食したと言っていたのだから、嫌いでもないだろうに。
“刚才还说和以前的朋友们一起吃了野草莓呢,应该不至于讨厌吧。”
手元の野いちごを一粒摘み上げ、ヘタを取って小狐丸に差し出す。
“拿起手中的野草莓,摘下一颗,去掉蒂,递给小狐丸。”
目を丸くしてやや寄り目に俺の指先の野いちごへ視線を落とすと、きょとんとした顔でこちらへ流れるように視線が持ち上がってくる。俺だって、わざわざ採って来てくれたやつが食えないままなんて流石に気まずい。
眼珠子瞪得圆圆的,目光微微偏斜地落在我的指尖草莓上,然后带着惊讶的表情缓缓将视线移向我。我嘛,特意采来给你,你却一口不吃,实在有点尴尬。
「ほら」
“看!”
「気にせずとも良いのに」
“不必在意”
「狐の世界ではどうか知らんが、俺は気になるんだ。文句あるのか」
“狐狸的世界我不清楚,不过我倒是挺担心的。有什么不满吗?”
「ははっ」
“哈哈哈”
やや早口で言い放った言葉に肩を揺らすと、小狐丸は手を伸ばした。が、野いちごを受け取るかと思いきや、俺より少し大きな手が俺の手首を掴み、直接俺の手からぱくりと…
说话有些急促,肩膀随着话语摇摆,小狐丸伸手去拿,本以为会接住野草莓,却没想到一只比我的手稍大的手抓住了我的手腕,直接从我手中夺走...
「っ!」
“啊!”
驚きに少し力が篭ってしまい、野いちごが僅かに潰れて俺の指に果汁が滴る。
惊讶中有些用力过猛,野草莓微微破裂,果汁滴落在我的指尖。
指を噛まぬよう舌で掬って口に入れた小狐丸はそれを飲み込むと、今度は指に付着した果汁をぺろりと舐め取っていく。指先を咥えて、ちゅ、と音を立てて吸う姿に何故かこちらが恥ずかしくなって顔が熱くなった。
小狐丸用舌头把手指上的果汁舔入口中,然后又舔干净了手指上的果汁。他紧紧咬住指尖,发出“啾”的声音,吸吮的样子让人不由得感到有些害羞,脸颊也变得热了起来。
「はっ、放せ!」
“放开我!”
「美味じゃな」
“不好吃啊”
「だから放せと言って…」
“所以我说放开……”
「………そうじゃな、すまん」
“……是的,对不起”
無視されるとか、何故と首を傾げられるとか、そういう反応を予想していただけに、あっさりと手を放したことに暫し呆然とする。
看来他人在被忽视时,会疑惑地歪头,我本以为会看到这样的反应,所以才会轻易地放手,一时间有些愣住。
本当にこれが、俺を無理矢理こちらへ連れて来た男なのだろうかと。
真的,这个男人是强迫我来到这里的吗?
先程までの眩しい笑顔ではなく、どこか寂しそうな影のある笑みを浮かべて立ち上がり、後は振り返りもせずに部屋を出て行った。ひらりひらりと舞う山吹色の着物ではなく、少し動きやすそうな白い単衣を着た背中は、初めて見たときより小さく見えた。
他没有之前那灿烂的笑容,而是带着一丝寂寞的阴影般的笑容站起来,没有回头,就离开了房间。不再是那件飘逸的山吹色和服,而是换上了看起来更方便活动的白色单衣,背影看起来比第一次见时小了一些。
取り残された俺の手には丁寧に洗って布に包まれた艶のある瑞々しい野いちごが数個。
我手里拿着几个被仔细洗净并用布包起来的鲜嫩草莓。
別に、あんな顔させるつもりじゃなかった。
我本来没打算让他那样表情的。
一粒摘んで口に運んだ野いちごは、何故か少し味気なかった。
摘一颗野草莓放进嘴里,不知为何,味道有点淡。
*
足の調子は良くなってきた。
脚的状况已经好转了。
立ち上がっても痛みはないし、今はもうよもぎを貼らずに放置している。
站起来也没有疼痛,现在我已经不再贴仙人掌叶了,就让它放着。
小狐丸は何度も足の裏を確認して、丁寧に冷たい井戸水で洗っては消毒してくれていたが、もうその必要もなさそうだ。
小狐丸反复检查脚底,用冷水仔细清洗并消毒,但似乎已经没有必要了。
ここに来て、もう既に一ヶ月は経つ。時間がおかしいというのは確かなようで、不気味なほど長かった夕方はあの一回きりで、先程まで天頂に太陽が輝いていたというのに、少し本殿の中を見て回って部屋に戻ると外が真っ暗で驚いたこともあった。
来到这里已经一个月了。时间确实不对劲,那个漫长的傍晚让人不寒而栗,刚才太阳还闪耀在天顶,但稍微看看大殿内部,回到房间却发现外面一片漆黑,也让我吓了一跳。
ふらっと出歩いても小狐丸は文句は言わなかった。ただ、鳥居の外には危険だから出るなと、それだけ。
小狐丸虽然随意地走了出去,但并没有抱怨。只是说,鸟居外面很危险,不要出去而已。
俺に神気を与える為に行われる口吻けの際、小狐丸は俺を抱き寄せて、やはりどこか寂しそうにすまないと呟くようになってしまった。
在给我赋予神力的仪式上,小狐丸抱紧了我,还是像以前一样,似乎无法忍受孤独地站着。
俺の世界と、自分の世界の常識の違いを突きつけられて、これまで築き上げてきたものが根底から崩れたような、そんな感じがする。
感觉就像是被强迫面对自己世界和自身世界常识的差异,以前建立的一切都从根基上崩溃了一样。
結局のところ、あいつが何故俺を選んだのかを聞かせてもらっていないし、これから俺をどうするつもりなのかもわからないままだ。無為に過ぎる時間をもどかしく感じながら、石段の上から遥か遠くに見える鳥居を眺めても、ここでは小狐丸と時々やって来るあの狐…琥珀以外とは会う事が無かった。
最终,我甚至没有听他说过他为什么选择了我,也不知道他打算如何对待我。在浪费时间的同时,无意义地眺望着远处的鸟居,这里却只有小狐丸偶尔出现的那个狐狸...除了琥珀之外,我从未见过其他人。
俺達の様子が余程気になるのか、三日に一度ほどの頻度であの狐は現れた。
看来它非常在意我们的情况,那个狐狸每隔三天就会出现一次。
もしかしたら暇なのかもしれない。この世界には、あまりにも何も無さ過ぎて退屈だ。
也许它很闲。这个世界太无聊了,几乎什么都没有。
最初はとにかく、こんなわけのわからない場所に連れて来られても迷惑だと憤るばかりで考えもしなかったが、ここはあまりにも静かで自分が世界に一人取り残されたような気分になる。
最初是,我只是觉得被带到这样一个莫名其妙的地方很麻烦,完全没有想过。但这里太安静了,感觉自己被世界抛弃了。
どうして俺を選んだのかはわからないが、小狐丸はこんな場所に一人でいたのだろうかと考えると、あいつらの言うところの『視えた』人間である俺との出会いは確かに新鮮で、もしかしたら、嬉しかったのかもしれない。
我不知道为什么会被选中,但想到小狐丸一个人在这里,我和他们所说的“可见”的人相遇确实很新鲜,也许还很高兴。
はらりと落ちてきた葉を拾い上げてくるくると回す。よく見ればそれは既に黄色くなっていて、向こうではまだ夏休みにも入っていなかったのに、ここでは紅葉が始まっているのだと知った。時間がずれているということは、季節の巡りも異なるということだ。成程、俺が向こうの世界から小狐丸を見つけた時、この暑いのによくあんな格好で居られるなと思ったものだったが、こちら側は春だったのかもしれない。
拾起一片飘落的叶子,旋转着。仔细一看,它已经变黄了,那边还在暑假,这里已经开始落叶了。时间差意味着季节的循环也不同。好吧,当我从那个世界找到小狐丸的时候,我还想,这么热的天气,他还穿着那样的衣服,这里可能是春天吧。
事実、ここ最近はあの格好でいることは少ないようだ。
事实上,最近他很少穿那样的衣服。
「三日月」
物思いに耽っていると、背後から声が掛けられた。
念念不忘,背后有人叫。
振り返るとそこには白い狐がちょこんと座っていた。どこから来たのだろうか。
回头一看,那里有一只白色的狐狸正坐着。它从哪里来的呢?
「なんだ」
「什么?」
姫君と呼ばれるのがなんだか複雑で、名を名乗ってそれで呼んでくれと言ってからは琥珀も俺を三日月と呼ぶようになっていた。
姬君被这么叫感觉有点复杂,自从她让我直呼其名之后,琥珀就改叫我月亮了。
名の通りの琥珀色の瞳をくるくると動かしながら辺りを見回し、小狐丸を知らないかと問われたので、多分裏の井戸に居るだろうと答えておいた。この天気だ、きっと洗濯でもしているだろう。
她转动着像她名字一样琥珀色的眼睛四处张望,有人问起小狐丸,我大概猜她在井边吧。这样的天气,肯定是在洗衣服吧。
冷たい井戸水を汲み上げて、広い桶に着物を浸けて洗っているのを見た時は、思っていた以上に家庭的な奴なのかも知れないと思ったものだ。
看着她从井里打上冷水,把衣服浸在桶里洗,我才发现她可能比我想的还要居家。
タタッと井戸の方へ駆けて行く白い影はすぐに姿が見えなくなり、またその場には俺一人になる。石段に座って足を投げ出すと、裸足ではまた傷を負うと小狐丸が用意してくれた指を引っ掛けるだけで履ける草履が視界に入る。小狐丸のように、紐を足首に巻くタイプではないそれは、俺の足のサイズに合わせてわざわざ小狐丸が編んでくれた。少し粗のあるそれは傷ついた足には少しチクチクしたが、傷の治った足にはよく馴染んだ。
那个向井边跑去的白色影子很快就消失了,我又一个人站在那里。我坐在石阶上,把脚伸出去,发现小狐丸为我准备的那双草鞋就在视线范围内。那双草鞋和小狐丸的不是一样,是专门为我编的,大小正好。虽然有点粗糙,但对我的伤脚来说却有些扎人,但脚伤好后却很合脚。
「…別に、俺は悪くない」
「…其实,我并不坏」
あんな出会い方をしなければ。
如果不是以那样的方式相遇。
こんな状況に陥らなければ。
如果不是陷入这样的境地。
もしかしたら友人にはなれたかもしれないのに。
也许本可以成为朋友的。
膝を抱えて座り直し、足首を動かして引っ掛けた草履をぶらぶらと揺らす。
抱着膝盖重新坐下,扭动脚踝,摇晃着被勾住的草鞋。
向こうではどれだけの時間が流れただろう。みんな心配しているだろうか。少なくとも、鶴丸には悪いことをした。親代わりになって育ててくれた叔父夫婦にも申し訳ない。
在那边,时间已经流逝了多久。大家一定都很担心吧。至少,我对鹤丸做了坏事。也对不起抚养我长大的叔叔阿姨。
将来の夢があるわけではないが、無難に高校を卒業して、無難な大学に行って、適度な職場に就職して、少しずつでも叔父夫婦に学費などを返していけたらと思っていたが、こうなってしまっては最初の段階でもう躓くどころか崖から転落して這い上がることも出来やしない。
虽然没有未来的梦想,但想着至少能安全地毕业高中,进入安全的大学,找到合适的工作,慢慢地偿还叔叔阿姨的学费等,但这样一来,连最初阶段都跌倒了,更不用说爬起来了。
ぱたりと草履を揺らしていた足を止め、抱えた膝に顔を埋めた。目覚めたら全て夢だったとか、そんな都合のいい展開になんてならないとわかっていても現実逃避してしまうのは、つい先日まで賑わっていた空間から突然切り離されたからだろうか。
停止摇晃草鞋和脚,把脸埋在抱着的膝盖上。即使知道醒来后一切只是梦,或者这样的美好结局不可能发生,但还是会逃避现实,这或许是因为最近才从热闹的空间中突然被隔离吧。
あまり自覚は無かったが、人恋しいのかもしれない。一人になると向こうでの日々ばかり思い出す。
不太自觉,可能有些恋家。一个人时,总是想起那里的日子。
どれくらいそうしていただろう、タタタと軽い足音が聞こえたかと思ったら、その向こうから砂利を踏む足音も聞こえ始めた。
我以为只是听到轻轻的脚步声,结果从那边也传来了踩在砂砾上的脚步声。
「じゃあな、また来る」
那好吧,我下次再来。
「あぁ、奥方と子等にもよろしゅう伝えてくれ」
嘿,麻烦你告诉夫人和孩子。
琥珀が帰るらしい。なんの用事だったか知らないが、本当になにか用件を伝えるためだけに立ち寄ったのだろう。伏せたまま耳に届く声にそう判断していると、足音がこちらへ近づいてきた。
琥珀好像要走了。不知道有什么事,但应该是专门来传达某个事项的。我这样判断着,突然脚步声朝这边靠近了。
「三日月、そろそろ日も暮れる」
「新月、天色渐晚」
は? と顔を上げると、洗濯日和だと胸を張って言える天気だった空がいつの間にか薄闇に染まっていた。
仰头一看,原来是晴朗的洗衣天气,不知何时天空已被薄暗笼罩。
相変わらずわけのわからない時間の流れをしている。
时间依旧混乱地流逝着。
俺の肩に触れ、顔を覗き込むように傾ける動きに合わせてふわりと白が俺の視界の端で揺れた。
她轻轻触我的肩膀,低头窥视的动作让我眼前白光微微摇曳。
次の瞬間には俺の身体は抱き上げられて小狐丸の腕の中だ。何度自分で歩けると言ってもこれだけはやめてくれないのだから、まだ自由にしてはどこかへ行くのではないかと危惧しているのかもしれないと考えると、抗議したところで無駄なんだろうと思えてくる。
在下一个瞬间,我的身体被抱在狐丸的臂弯中。尽管我多次说自己能走,但似乎还是不能放弃这一点,也许是在担心我无法自由行动,会不会去哪里吧。想到这里,即使抗议也感觉是徒劳的。
いつも通りなら、このまま社ではなくその向こう側にある民家の方に連れて行かれることになる。
按照惯例,我将被带到社对面的人家。
そこは、現在はもう俺の住んでいた世界では空き家になっている場所で、鶴丸が言っていた行方を眩ませたこの神社の管理をしていた一家の暮らしていた場所だ。
那里,现在已经成为我住过的世界的空屋,是鹤丸所说的那家管理着神社的一家人的生活的地方。
造り自体はこちら側でも変わらないのか、中には自由に入れるし、中にあるものを勝手に使うことも出来る。かといって、別に家電製品などがあるわけではなく、がらんとした何も無い完成したばかりの家がそのまま放置され続けたような有様。そこに何をしに行くのかと言えば、備え付けの風呂場を使用する為だ。先にも言ったとおり家電製品などないこの場所で、小狐丸は汲み上げた水を沸かしては俺を連れてくる。こちらではそんなに湯を使う習慣はないそうだが、人間は風呂に入るものだとどこかで学んだのだろう。最初の頃は水を張った桶を持ってきて身体を拭くだけだった行為が、いつからか湯で清められるようになった。
建筑本身在这里也没有变化,可以自由进入,也可以随意使用里面的东西。但这里并没有家电产品,只是一座空荡荡的新建房屋被闲置着。我去那里是去使用内置的浴室。正如之前所说,这里没有家电产品,狐丸会烧开水带我来。这里的人似乎没有那么多洗澡的习惯,但我想人们是在某个地方学到了洗澡的。最初的时候,我只是拿着装满水的桶擦身体,但不知从什么时候开始,就可以用热水洗澡了。
俺の足の傷が治るまでは、どう足掻いても自分ではやらせてもらえず、全て脱がされ余すところ無く小狐丸に清められたのは今でも脳を取り替えてでも消し去りたい記憶だ。
我脚上的伤还没好,无论怎么挠脚,自己都无法挠到,全部都被脱光,被小狐丸彻底清洗干净,这个记忆至今仍想抹去,即使换脑也想抹去。
先程まで洗濯でもしているのだろうと思っていたが、どうやら湯殿の用意をしてくれていたらしい。
之前还以为在洗衣服,没想到是在准备热水。
風呂場に到着すると、既に新しい単衣と布束が用意されていていつでも入れるようになっていた。
到达浴室时,已经准备好了新的单衣和布包,随时可以进去。
「三日月」
三日月
ゆっくり下ろされ、後は小狐丸が出て行ってから一人で風呂に入ればいいという段階で声を掛けられた。どうかしたのかと顔を上げると、大きな手が頬に触れる感触。
慢慢放下,然后是小狐丸出去后一个人洗澡的阶段,有人叫住了我。抬起脸来,感觉一只大手在脸颊上触碰。
「今宵は、一緒に入ってもいいか?」
今晚可以一起吗?
「は?」
嗯?
言葉を失くす。
失去言语。
だって、こいつ、何を言って…。
那家伙到底在说什么……。
思わず半歩身を引くと、小狐丸は一瞬だけ息を詰めて少しだけ目を伏せ、ゆっくりと手を下ろす。
不自觉地退后半步,小狐丸瞬间屏住呼吸,微微垂下眼帘,慢慢地放下手。
だらりと下がった手は力無く揺れ、それを目で追う間に目の前に立つ身体が動いた。
垂下的手无力地摇晃着,就在这时,眼前的身体动了。
「すまん、忘れてくれ」
"对不起,请忘掉吧。"
手から顔の方へ視線を上げたが、既に背を向けてしまっていた小狐丸の表情はわからなかった。
他把手从脸的方向抬起来,但小狐丸已经转过身去,表情看不清楚。
一人取り残された湯気の篭る脱衣場で、見えなくなった背中の残滓を呆然と見つめて、一体なんだったのかと首を傾げた。
在被蒸汽笼罩的更衣室里,呆呆地看着消失的背影的残影,疑惑地歪着头,究竟是怎么回事呢?
きっと気紛れに過ぎないのだろう。
恐怕只是心血来潮吧。
人をからかうばかりで真意を見せないあいつらしいと溜息をつきながら、単衣を脱いで用意された湯を浴びて身を清め、ゆったりと風呂に浸かる。ここへ来て唯一俺が安らげる時間かもしれない。
那家伙总是嘲笑人,不透露真心,我叹了口气,脱下单衣,准备好的热水里洗澡,放松地泡在浴缸里。这可能是我唯一能安心的时间了。
本当は眠る間もと言いたいところだけれど、寝る時はいつだってあの男が俺を抱き締めているので落ち着かない。
真的想睡觉,但每次睡觉时那个男人都紧紧抱住我,让我无法安心。
その点、ここではのんびりゆったり一人でいられるのだから気が楽だ。先程のように一人で外にいることもあるが、いつ誰が来るかわからない場所では落ち着けない。
在这里,可以悠闲自在地一个人待着,心情也放松。虽然有时会一个人在外面,但不知道什么时候会有人来,所以无法安心。
ちゃぷ、と湯を両の手に掬って顔を覆うようにして浴びると、じんわりと熱が隅々まで行き渡るようだ。外はまだまだ暑いし、エアコンも無いお陰で日々ぐったり死んだように寝転がっていることが多いけど、湯の温かさは嫌いじゃない。
"嚓",用手掬起热水,像遮住脸一样洗澡,感觉热气渐渐传遍全身。外面还是很热,而且没有空调,所以每天大部分时间都像死了一样躺着,但并不讨厌热水的温暖。
ゆったり温まりながら、改めて湯を掌に溜めてみる。立ち昇る湯気が視界を仄かに曇らせるが、湯加減は丁度いい。水浴びばかりで基本的に湯を使う習慣が無いと言っていた小狐丸が、俺が火傷をしないよう何度も自分の手を浸して湯加減を確認して首を傾げていたのを、何度か見かけたことがあった。今日もきっと、そうして沸かしてくれたのだろう。
悠闲地泡着热水,再次用手掬起热水。上升的热气使视线变得朦胧,但水的温度正好。虽然小狐狸丸说基本上不用热水,但为了不让我烫伤,他多次用手试水温,我见过他多次这样倾斜着头。今天肯定也是这样烧好的。
「……」
一方的に連れて来たのはあいつの方なのだからこれくらい当然だと思ってはいたが、環境も常識も違ったあいつがそこまでするのは、本当は凄く大変なんじゃないだろうか。
既然是他一个人带来的,当然想这也理所当然,但那个人的环境和常识都不同,他做到这一步应该真的很不容易吧。
琥珀は小狐丸も狐だと言った。
琥珀说小狐丸也是狐狸。
俺の知っている狐といえば、野山を駆け回って獲物を獲ったり仲間同士でじゃれあって転がったり、安全な場所を確保してごろごろしたり…そんなイメージばかりだ。少なくとも、湯を沸かしたり、傷の手当によもぎを磨り潰したり、そんなことはしないだろう。
我认识的狐狸,要么在山林中奔跑捕猎,要么和同伴嬉戏打滚,要么找个安全的地方悠闲地躺着……总之,都是这样的印象。至少,不会烧水,也不会用荨麻敷治伤口。
少しでも俺がこちらで苦を感じないよう努力してくれているのは、確かに感じているんだ。
确实能感觉到,我在这里努力不让自己的苦楚感太强烈。
「………いちご…」
“……草莓……”
礼くらい、言ってやればよかったか。
本来就应该说一声礼的。
すまんと言われたことを思い出す。
想起被说过“对不起”。
あんなに嬉しそうだったのに、一瞬で表情を曇らせてしまった。きっと、少しでも俺に喜んでもらいたくて探し回っていただろうに。
竟然看起来那么开心,却一瞬间让表情变得暗淡。肯定是在努力寻找让我高兴的事情吧。
どの道、ここから帰ることが出来ない以上、この先も一緒に居ることになるんだ。
既然无法从这里回去,那接下来也只好一起待在这里了。
なら、少しでもこちらの環境に慣れるよう自分でも何かしなくてはいけないだろう。
那么,为了让自己适应这里的环境,我必须自己做一些事情吧。
その一歩としてというのは何か違う気もするが、いつまでも距離を置いたままではいられないし、それでは間がもたない。やっぱりまだ許せない部分はあるけれど、もしも万が一、本当にこうやってあいつの言うところの『番』とやらを見つけるのが当たり前なのだと信じて成長した結果だったとしたなら、全面的にあいつが悪いとも言えない。俺が被害者であることに変わりは無いけれど。
这一步似乎有些不同,但一直保持距离是不行的,那样时间也不会拖延。毕竟还是有不能原谅的部分,但如果真的相信,这种成长是理所当然的,那么也不能完全说对方是错的。虽然我仍然是受害者。
ぶつけても仕方のない怒りを抱えていたって何も変わりはしないのだと、いい加減腹を括るべきなのかもしれない。
即便怀抱着无法排解的愤怒,似乎也无济于事,也许该适当地忍一忍了。
思わず零した溜息は、湯気に混じって消えた。
不禁叹了口气,那声叹息随着蒸汽消散了。
*
「なんだって?」
“什么啊?”
まずは小狐丸にこちらから声を掛けられるよう努力しよう。心に決めて出て行くと、いつもの寝室と化した本殿の一室で小狐丸は濡れたままの俺の髪を手拭いで丁寧に拭いて水気を取りながら、耳を疑うようなことを口にした。
首先努力让小狐丸能从这边呼唤我。下定决心走出去后,在一间变成了日常寝室的神殿房间里,小狐丸用毛巾仔细地擦拭着我湿漉漉的头发,同时说出了一些令人怀疑的话。
思わず背後に座って髪を撫でるように拭い続ける小狐丸の方へ向き直り、身を乗り出して聞き間違いではないかと問いかけた。
不自觉地转向小狐丸,背对着他继续用抚摸的方式擦拭头发,然后身体前倾,询问自己是否听错了。
驚いた顔をして手拭いを手にして動きを止めた小狐丸は、苦笑してもう一度告げた。
小狐丸惊讶地停下手中的动作,拿着毛巾,苦笑后再次确认。
「お主を向こうの世に帰してやろう」
“我要把你送回另一个世界。”
「けど、だって、もう俺は帰れないって…」
「但是,毕竟,我已经回不去了…」
「それはお主の身に私の術が掛かっておるからよ。問題はそれだけじゃ」
「那是因为你的身上已经受到了我的法术影响。问题不仅仅是那样。」
何事も無いかのように言い放ち、まだ雫の垂れる髪に再び手拭いを被せた。
就像什么都没发生过一样说,再次用手帕遮住了还挂着水珠的头发。
「この術は、解けないって…」
「这个法术,是无法解开的…」
「あぁ、私も解き方は知らん」
“唉,我也不知道怎么解”
「なら」
“那好吧”
「お主、向こうに家族や友人はいるか?」
“你那边有家人和朋友吗?”
「え。ん、まぁ…いるが。それがどうした」
“嗯。嗯,嘛……有啊,那又怎么样?”
「ならば、今頃向こうではまだお主を探しておるじゃろうな」
「那么,现在他们可能还在找您呢」
髪を擦る音がすぐ近くで聞こえる。
头发摩擦的声音就在耳边响起。
ぽん、と毛先を挟み込むようにして優しく叩き、水分を吸わせる動作は随分と手馴れたものだ。
嗯,轻轻地用指尖夹住,吸走水分的动作已经非常熟练了。
「私はな、お主の傍に居られればそれでいいのだ。場所などどうとでもなるし、そんなものは些末事よ」
「只要能陪在你身边,这样就足够了。地方什么的无所谓,那种事情都是小事一桩。」
「…?」
話が見えない。複雑な表情をしているのがわかったのか、小狐丸は短い眉を少し寄せてまた困ったように笑った。もう一枚新しい手拭いを出して、吸いきれない水分をまた丁寧に吸わせようと毛先を挟みこんでぽんぽんと叩く動作。俺はそこまで気にしないから放っておいてもいいと言っていたのだが、どうにも小狐丸はこうして毛の手入れをするのが楽しいらしい。
看不见对话。知道他表情复杂了吗,小狐丸微微皱起眉头,又像往常一样苦笑。拿出新的手巾,小心翼翼地吸去无法吸收的水分,用指尖夹住用力敲打。我说不用那么在意,随他去好了,但他似乎觉得这样整理毛发很有趣。
自分の髪もそうやって長い時間をかけて手入れしているからだろうか。この髪の手入れは大変そうだな、と今更ながらに場違いなことを考えた。
自己的头发也是这样花费很长时间打理的吧。这头发打理起来一定很麻烦,我突然想到这个,感觉有些不合时宜。
「私も、そちらへ行ってみようかと思うてな」
「我也想试试看」
「は?」
"吗?"
「それなら、私はお主の傍に居られるし、お主も元の世に帰れる。お主の家族や友人にも逢えよう」
「那样的话,我可以陪在你身边,你也可以回到原来的世界。你还可以见到你的家人和朋友。」
「本気で言ってるのか?」
「你真的这么说的吗?」
「無論」
「当然」
にこりと笑う目は、嘘をついているようには見えなかった。
她那微笑的眼睛,看起来并没有在说谎。
だがしかし、それは、つまり…どう足掻いてもこの関係は崩れないということか。
但是,也就是说,不管怎么挣扎,这种关系都不会崩溃吗?
諦めはしないと宣言されているようなものだ。どこに行っても、傍には必ず小狐丸が居るということ。
宣称永不放弃的东西。无论去哪里,小狐丸总是陪伴在旁。
いいや、それだけじゃない。小狐丸は向こうの常識を知らないんだ。好き勝手に何かされてしまっては世間の目というものがある。何しろ、こちらではあんなに人が居なかった街中には右を見ても左を見ても人、人、人なんだ。この格好だけでも十二分に目立つだろうに。
不,不仅如此。小狐丸不了解那里的常识。一旦被随意对待,就会受到世人的目光。毕竟,在我们这里,街道上人烟稀少,无论往左看还是往右看,都是人,人,人。这样的打扮已经很显眼了。
「一緒にっていうのは、最低条件なわけだな?」
「一起说的,不应该是最低条件吗?」
「なんじゃ? お主よもや、私に掛けられた術で散々熱を持て余して啼き悶えたことを忘れたわけではあるまい?」
「难道你忘了,因为我受到的咒术而痛苦地忍受着炽热和哭泣吗?」
「お前が俺に発情しなければいいんだろう」
「你不用对我产生情欲不就好了」
「無理じゃ。今でも相当我慢しておるというのに」
「不可能。我到现在还在相当忍耐着」
相当我慢しているというのは、確かにその通りかもしれない。この一ヶ月の間に小狐丸にそうした意味で触れられたのは最初の日と、外に出た翌日だけだ。
「确实,我应该忍耐。在这一个月里,只有第一天和出去后的第二天,小狐丸以这种方式触碰了我。」
そう考えると思った以上に忍耐強いのかもしれない。年頃の男といえば、一週間だって処理もせずにいたら不能フラグだ。小狐丸が本当は何歳かなんて知らないけど。
或许比我想象的更有耐心。对于一个年轻人来说,一周不做任何处理就变成不能使用的标志了。我不知道小狐丸到底多大年纪。
「次のこちらと向こうの時間が合わさる時、帰してやろう」
“等下次我们这边的和那边的时间能对上的时候,再还给你。”
「本当だな? 後で撤回とかするなよ!」
“真的吗?别事后反悔!”
「お主こそ、私も共に行くことを忘れるでないぞ?」
「你可得别忘了,我也要一起去。」
この際、おまけがついていようと構わない。本人がそれでいいと言うなら向こうの世界で多少生き難くても順応してくれるだろう。
在这种情况下,即使有额外的奖励也无所谓。如果他自己觉得这样就好,那么即使在外面的世界生活困难,他也能适应。
どこで暮らすつもりなのか謎だし、もしかしたら俺の部屋に転がり込む魂胆かもしれないけれど、数々の疑問よりも諦めなくてはと自分に言い聞かせていた望みが叶うという事実に頭の中はいっぱいだった。
不知他打算住在哪里,也许他会有勇气溜进我的房间,但我的脑海中充满了希望,那就是我不断告诉自己不要放弃,希望最终会实现。
手拭いを畳み、俺の様子を見ていた小狐丸は優しく微笑んだ。
小狐丸叠好毛巾,看着我,温柔地笑了笑。
「少しは機嫌は直ったか?」
“心情好些了吗?”
「え…?」
“嗯...?”
「色々とすまなかった。私はきっと、数ある段階を踏み倒してしまったのだろうな。礼も弁えず、これでは嫌われて当然じゃ」
“真是抱歉,我可能跳过了很多步骤。没有礼貌,这样当然会让人讨厌。”
「…それなんだが、結局まだ聞かされていないぞ。何故俺だったんだ」
“...但是,最终还是没听我说。为什么是我呢?”
「やはり覚えてはおらんか。私を見つけてくれたのはお主だったというのに」
“还是不记得了吗?是你找到我的。”
小狐丸は姿勢を正すと、ぽつりぽつりと語ってくれた。
小狐丸摆正姿势后,零零星星地讲了起来。
ずっと昔、まだ幼かった頃に出会っていたこと。
那是好久以前,还是年幼的时候相遇的事情。
白い子供、おそらく鶴丸であろう人物と遊んでいる最中に、仲間に入った一人だと勘違いした俺が声をかけ、そしてまた明日と手を振ったこと。
白色的孩子,可能在和鹤丸玩耍,我误以为加入进来的那个人叫住了他,然后挥手告别说“明天见”。
また来てくれると信じて待っていたこと。
又相信他们会来,一直在等待。
けれど結局その約束は果たされないまま、俺がここへ来ることは無かったこと。
然而,最终那个承诺并未实现,我来到这里也就没有意义。
きっとなにか理由があるのだろうと、もしかしたらまだ『明日』になっていないのかもしれない。『明日』が都合が悪くなってしまったのかもしれない。そう思ってお互いの世界の時間が繋がる頃、鳥居の内側にその姿を見つけることが出来ないかと、あの祠の前でじっと座っていたこと。
很可能有什么原因,也许还不到“明天”呢。也许“明天”变得不方便了。在想到彼此的世界时间相连的时候,我在那个祠堂前静静地坐着,试图在鸟居内侧找到那个身影。
友人が、家族が、もうやめておけと言うのも聞かずに、やがて置いて行かれるのをぽつんと見送りながら、それでも約束したのだとここを離れなかったこと。
朋友和家人都劝我放弃,但我还是默默地看着他们离去,没有离开这里。
ようやく見つけた俺は、そのことを忘れてしまっていたこと。
终于找到了,我竟然把那件事给忘了。
「琥珀は、最後まで私の面倒を見てくれた者の一匹よ。だからじゃろうな、私がお主をここへ招き入れたと知って飛んできおったわ」
“琥珀是最后一个照顾我的人。所以,我知道你要来,就飞来了。”
もっとも、そこにあったのは私と琥珀の望む形ではなかったが。
然而,那里并不是琥珀和我所期望的样子。
そう笑う小狐丸の視線は徐々に下がり、口を噤んでしまった。俺はといえば、それらすべてを本気にしていいのかわからなかった。子供の口約束だ、そんなものありふれているし忘れることだって珍しくはないだろう。切って捨ててしまうことは簡単なのだ。けれど、小狐丸と俺の間には明確な認識の違いがあった。
狐丸的笑容渐渐低垂,张了张嘴却什么也没说出来。至于我,我不知道是否真的要当真。孩子的口头承诺,这种事情很常见,忘记也并不罕见。割舍掉很容易。但是,狐丸和我之间存在着明显的认知差异。
片や友人の友人であろうと勘違いをして、その内また逢うことになるだろう程度に考えていた子供。
把朋友的朋友的误会当作一种可能,想着下次还会再见面。
片や己を視る事が叶う、将来を共に歩めるかもしれない人間を見つけて期待を寄せた子供。
能够看到他人和自己,期待着可能与他们一起走向未来的孩子。
子供ゆえの純粋さは、こうまでも道を違えてしまった。
由于孩子的纯真,竟然走到了这样的歧途。
それだけではない、その話を聞いた上で、俺はまだ思い出せずにいる。
不只是这样,尽管我已经听到了这个故事,但我仍然想不起来。
俺にとってはなんてことのない日常の一コマに過ぎなかったということだ。
对我来说,那只是日常生活中的一小部分,没什么大不了的。
「……本当、なのか?」
「……真的吗?」
「そうじゃな、人の子の世では狐は化かすものと伝えられておるようだし、信じられんのは仕方ない」
「既然如此,在人类的传说中狐狸是欺骗者,这也是无可厚非的」
「そんなつもりじゃ…」
「我没有那个意思……」
「構わぬ。記憶にないなら尚のこと信じられぬのも道理よ。私も正直、あの頃の事はよく覚えておらん。何しろこちら側ではとうに二十年…いや、三十年は経っておるのか。たった一度会っただけの人の子の何を知っておるかなどと言われても、何も知らぬとしか答えられん。ただな、それでも私はお主にもう一度逢うた時に、今度は放してはならぬと感じたのよ。本能などと言ってしまえば簡単じゃろうがな、要するに嬉しかったんじゃ。お主がまだ私を認識できることが」
「没关系。如果忘记了,那么不相信也是理所当然的。老实说,我对那时候的事情也不是很清楚。毕竟在这里已经过去了二十年……不,三十年了。只见过一次面的人的孩子,我能知道什么呢?只能说一无所知。但是,即便如此,我还是觉得下次再见到你的时候,不能放手。虽然这么说有点像本能,但主要是因为我很高兴。你还能认出我」
逢えない間に想いは募り、思い出は美化された部分もあったろう。だから余計にこの機を逃してはいけないと思ってしまったのだと、小狐丸は跋が悪そうに告げる。
在无法相见的日子里,思念不断积累,回忆中也有美化过的部分吧。因此,小狐丸觉得不能错过这个机会。
俺が何も言えなくなったのを見て、畳んだ手拭いを手に小狐丸は立ち上がる。
看着我无法说话,小狐丸手拿叠好的毛巾站起身来。
「何故お主だったのかと問うたな? 多分、一目惚れじゃ」
你问为什么是我吗?可能是一见钟情吧
そう、一言残して部屋を出て行った。
是的,留下最后一句话就离开了房间。
夜の帳の落ちた室内に、その晩小狐丸が戻って来ることはなかった。
那晚,夜幕降临,室内没有小狐丸回来。
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□
小狐丸の話では、時間が重なる時はこちら側で後五日ほどだろうということだった。
在小狐丸的故事中,当时间重叠时,这里应该比那边晚五天左右。
向こうでの逢魔刻に重なることが多いというから、向こうでの現在時刻はわからないが、少なくとも今は向こうの五倍近い速さでこちらの時間が動いているということか。なら、向こうでは俺がいなくなってから然程日にちは経っていないかもしれない。そうであってくれることを願う。
听说在那边重叠的时间很多,所以那边现在的时刻不清楚,但至少现在这里的时间是以那边近五倍的速度在流逝。那么,那边可能从我消失后并没有过去那么多天。希望是这样。
これで既に失踪届が出ていたり、マンションが引き払われていたりなんてことになっていたら、騒ぎの中に小狐丸を伴って行くのは困難になるかもしれない。それとも、向こうでも小狐丸は他の人には見えないのだろうか。聞いておけばよかったと思いつつ、なんとなく聞けないままに終わっている。
如果已经报了失踪,或者公寓已经被退租了,那么在混乱中带着小狐丸走可能会很困难。或者,那边的小狐丸对其他人来说也是不可见的吧。虽然想着要问一问,但最终还是没问出口。
あの話の後も小狐丸は変わらず俺を抱き寄せて、一言すまないと呟いて口吻けるし、甲斐甲斐しく世話も焼いた。戻って来なかったのはあの晩だけで、夜は俺を抱き締めて眠ることをやめなかった。俺の方は、あの話を元に昔出会った事があっただろうかと考えることが増えた。けれど、鶴丸の友人だろうと勝手に思いこんで一緒に遊んだ人間は、正直なところ一人二人ではなかった。
在那个故事之后,小狐丸还是一如既往地紧紧抱住我,低声说了一句对不起,然后语气变得温柔起来,非常关心地照顾我。只是那一晚没有回来,晚上还是紧紧抱着我入睡。我这边,根据那个故事,开始更多地思考我们曾经相遇过的事情。但是,虽然我自作主张地认为那个是鹤丸的朋友,但老实说,不止一两个人。
鶴丸は誰にでも声をかけ、誰とでも打ち解けた。俺も声を掛けられれば応じるし、一緒に遊んだ相手だとわかっていればこちらから声を掛けることもあったのだが、いつも鶴丸と一緒にいた所為かどうしてもそうした繋がりは後手に回っていたように思う。
鶴丸会主动跟每个人打招呼,和任何人都能打成一片。我如果被搭话也会回应,如果知道是和我一起玩的人,我也会主动搭话,但总觉得因为总是和鹤丸在一起,所以这种联系总是慢一步。
けして友人が少ないわけでもなかったと思うが、鶴丸と比べれば見劣りしただろう。
我觉得我并不是朋友很少,但和鹤丸比起来可能就差远了。
それ程に人を惹きつけ巻き込むことに長けていたのだ、あのお節介でお人好しの幼馴染は。
那个爱管闲事、热心肠的青梅竹马,非常擅长吸引人并让他们卷入其中。
同時に、会ったのが一度きりだった相手も珍しくはなかった。時間の都合があわなかったり、他の友人と遊びに出かけていたり。人の世は面倒なもので、大人に限らず子供の社会にだって対立や派閥は存在した。
同时,见过一次面的人也不少见。因为时间安排不过来,或者和其他朋友出去玩。人世间的烦恼,不仅限于大人,连孩子的社会也存在对立和派系。
要は誰かが誰かと喧嘩をしただけで、その人と仲のいい友人達も悉く掌を返すなど珍しくもなんともないのだ。
事实上,只是有人和别人打架,而那个人的朋友也都纷纷反击,这种情况并不少见。
だから、昨日遊んだ子が今日遊べなかったからといって気には留めないことが多かった。
因此,昨天玩的孩子今天不能玩了,我通常不会放在心上。
今にして思えば、それはそうして一緒に居る相手を『選ぶ』ことが出来るという贅沢すぎる環境に在ったからに他ならない。
现在回想起来,那是因为我们身处一个可以“选择”和谁在一起的美好环境中。
このままじゃいけない。
这样下去是不行的。
俺だってこの環境のことを知らなければ、それってただのストーカーじゃないのかとか、一方的に想われても困るとか言えただろう。でも、この一ヶ月で思い知った。ここは、余りにも寂しい場所だ。
我也觉得如果不知道这个环境的话,难道不是只会被跟踪,或者被单方面喜欢而感到困扰吗?但是,这个月我意识到了这一点。这里,实在是太孤独了。
縋るものが欲しかったのかもしれないと思ってしまうくらいには。なんといったか、こういう現象を。ストックホルム症候群か。
或许是太想要攀爬的东西了吧。这应该怎么说呢,就是这种现象。斯德哥尔摩综合症吗?
ふむ、と窓際に置かれた文机に頬杖をついて外を見るが、今日も今日とて変わり映えのしない光景だけが広がっている。時々どこかへ出かける小狐丸も、今日はここにいるようだ。
嗯,靠在窗边的书桌上,向外望去,今天还是和昨天一样,没有变化的光景在眼前展开。偶尔出去的小狐狸,今天好像就在这里。
外で布団を干していた小狐丸が、こちらの視線に気づいてにこにこと笑うのが今は直視できない。
正在户外晾晒被子的狐狸丸注意到我的视线,微笑着,但现在却无法直视。
咄嗟に外してしまった視線にどう思ったか、小狐丸はこちらに向けて挙げかけた手を下ろし、困ったように笑う気配を残してどこかへ行ってしまった。
立刻移开了视线,小狐丸放下举起的手,带着尴尬的笑容离开了。
俺の態度は、間違いなくあいつを傷つけているのだとわかっている。わかっているけど、心の整理が出来ているかといえばそういうわけでもない。帰ることが出来るのは嬉しいし、ちゃんと帰れる方法を考えてくれたことも素直に嬉しい。
我知道我的态度无疑伤害了他,虽然明白这一点,但心里并没有整理好。能回家让我很高兴,而且想出了回家的方法也让我感到很欣慰。
けれど、どうして最初にせめて一言、そう、久しぶりとでも言ってくれなかったのか。それさえあれば、俺はここまで悩まなかったし、あんなに恐怖を覚えることもなかった……いや、昔の知り合いがストーカー化していて、且つ妙な現象に見舞われれば結局恐怖が占めたことに変わりはないか。
但是,为什么连一句“好久不见”都没有说呢?如果那样的话,我就不会这么烦恼,也不会感到那么害怕……不,如果以前的熟人变成了跟踪狂,还遭遇了奇怪的现象,最终恐惧占据上风也是理所当然的。
ぐぐ、と伸びを一つ。
嗯,伸了个懒腰。
これじゃ駄目だ、と文机に手をついて立ち上がった。
这不行,于是他放下手头的工作,站起身来。
部屋を出て、ぐるりと辺りを見渡す。小狐丸の姿は見えないが、確かあちらへ行ったように思える。
走出房间,四处张望。看不到小狐丸的身影,但总觉得他应该是往那边去了。
多分こっちだろうと適当に考えながら歩を進めた。
想着大概就是这边吧,一边随意地想着一边继续前进。
俺はこの社の内部に詳しくはないし、もしも山の外へ行ってしまったというなら見つかるわけがないのだが、そうとわかっていても行動を起こさないわけにはいかなかった。
我对这个公司的内部并不了解,而且如果我出了山,也不可能找到我,尽管我明白这一点,但我也不能不采取行动。
俺達は多分、お互いに言葉が足りていない。
我们可能彼此都缺少一些言语。
あいつが狐として生きてきたから言葉で会話することが少ないのだというなら、尚更俺が引くわけにはいかないんだ。あいつは言葉にしなくても一生懸命コミュニケーションをとろうとしてきたじゃないか。
如果他说因为他像狐狸一样生活,所以很少用言语交流,那我就更不能退缩了。他即使不用言语也在努力进行沟通,对吧?
俺はいつだって受身で、それに対するなんの言葉もなく、それでは感謝しているのか拒絶しているのかもあいつには伝わらない。
我总是被动,对于这一点没有任何言语,这样他既不能感受到我的感激,也不能感受到我的拒绝。
いつも俺が眠るまで俺を抱き締めたまま背を撫でていたあいつは、俺が目覚める頃には大体起きていた。
他总是抱着我不让我睡觉,直到我醒来时他差不多已经起床了。
また眠っている間に俺が抜け出さないかと心配で眠れないのではないかと思うと、流石の俺も良心が痛む。それなのに、毎日洗濯して布団も干して湯を沸かして、何もしない俺の世話をしては笑ってくれる。
每当想到我可能趁他睡觉时溜走,他会不会因此睡不着,即使是像他这样的硬汉也会感到良心不安。然而,他每天都会帮我洗衣服、晾被子、烧水,对我无微不至的照顾,却总是笑着。
そうじゃない、それだけじゃない、俺は、命を救われたことの礼さえ言っていないじゃないか。
不,不止这些,我甚至还没有向他道谢救了我的命。
外へ出て裏へ回ると、薪を積んだ小屋の前に小狐丸はいた。
走出屋外,绕到后面,小狐丸正站在堆满木柴的小屋前。
「小狐丸」
“小狐丸”
「ん、どうした」
“嗯,怎么了”
もう先程の寂しそうな空気は微塵も見せず、湯を沸かす気だったのか薪を抱えて振り返る小狐丸は目を丸くしていた。
已经没有了之前那种寂寥的氛围,仿佛连一丝尘埃都不愿显露,抱着柴火转身的小狐丸瞪大了眼睛。
俺の方から声をかけることなどなかったからか、驚きが隠せないようだ。
因为之前我并没有主动搭话,所以他看起来很惊讶。
「あのな…」
“那个……”
いざ口にしようとするとなかなか言葉が出てこない。
话到嘴边却难以启齿。
慣れたつもりでいても、今でも心の奥にはこいつに植えつけられた恐怖が残っている。
虽然自认为已经习惯了,但内心深处仍残留着被植入的恐惧。
小狐丸の方から声を掛けられた時は、会話が出来るタイミングなのだと思えるから話が出来たが、こちらから声をかけて機嫌を損ねでもしたら、また無理矢理に襲われるだけでなく今度こそ帰してもらえなくなるのではないかと、ほんの少しだけ負のイメージが頭の中を過ぎる。
当小狐丸呼唤我时,我觉得是进行对话的时机,所以能够说话。但如果我主动搭话而让对方不高兴,不仅会被无理地攻击,甚至可能这次连让我离开的机会都没有,一丝负面的想法在脑海中闪过。
首を傾げて抱えていた薪を下ろすと、手を首に掛けた手拭いで拭きながらなにかあったかと問われる。
把头歪着,放下手中的柴火,一边用挂在脖子上的手巾擦拭,一边被问是否有什么事情发生。
「いま、時間、あるか…?」
「现在,有时间吗…?」
段々声が小さくなるのが自分でもわかる。
我能感觉到声音渐渐小了。
なにか大事が話があると思ったのか、小狐丸はこくりと頷いて身体ごと姿勢を正すようにこちらへ向き直った。
因为觉得可能有重要的事情要谈,小狐丸不自觉地微微点头,身体也跟着坐正,朝这边转过头来。
そう改めて向き直られると言い出しにくい。
重新坐直身体说起来有点难开口。
こういうのは勢いが大事だというのに、早速勢いを削ぎにこられてどう切り出すべきか悩む。
就算知道势头很重要,但很快势头就被削弱了,不知道该如何继续前进,感到困惑。
互いの呼吸も聞こえるのではないかと思うほどの沈黙。
沉默得连彼此的呼吸都能听到。
気まずい空気に耐え切れず、仕切り直すべきかと考え始めては、それではきっと同じことを繰り返してしまうと首を振った。突然首を振る俺に小狐丸はどこか具合が悪いのではないかと思ったのか、目に見えて困惑していた。
无法忍受尴尬的气氛,开始考虑是否应该重新开始,但又担心那样可能只会重复同样的事情,于是摇了摇头。突然摇头的我让小狐丸觉得我可能哪里不舒服,他明显显得困惑。
「三日月、どうした。どこか具合でも悪いか」
「三日月,怎么了。是不是哪里不舒服?」
やっぱりか。
果然如此。
「涼しい風は出てきておるがまだまだ日差しは強い。話があるなら中で聞こう」
"凉风已经吹出来了,但阳光还是那么强烈。如果有事的话,就在里面说吧。”"
「待て! 待っ…あの、あのっ、あ、リガとうッ」
「等着!等等…那个、那个、啊,里头有鬼!」
声が裏返った――――ッ!
声音反了过来——!
羞恥で死ぬ。
为羞耻而死。
一気に顔が熱くなるのを感じながら頭を抱えると、もっと困惑したらしい小狐丸がおろおろと狼狽えながら口を開く。
感觉到脸突然发热,抱着头的同时,看起来更加困惑的小狐丸慌张地开口。
「な、なんの話じゃ? 私が何かしたか?」
“那、是什么事啊?我做了什么?”
これじゃなにも伝わらないままだ。意味がない。
这样什么都没传达,没有意义。
まだ恥ずかしさが抜けず、頭を抱えるついでにやや俯いて顔を隠しながら、半ば自棄になって答える。
还没有摆脱尴尬,抱着头,稍微低着头,半是自暴自弃地回答。
「いちご、美味かった」
“草莓,很好吃。”
「は? あ、あぁ、あれか…」
“是吗?啊,啊,那个……”
「風呂も、湯加減とか、丁度いい」
“洗澡,水温等,正好”
「そうか、それはよかった」
“哦,那挺好的”
「服…というか、着物か、これもいつも綺麗にしてくれて」
“衣服……或者说和服,总是保持得很干净”
「この時期は嫌でも汗を吸うからのう」
"这个时期不管愿不愿意都得吸汗"
なんじゃ、そんなことか。と苦笑する声が耳に届き、小狐丸は見返りを求めてやっていたわけではないのだと再認識する。
什么嘛,这种事情。听到苦笑的声音,小狐丸意识到自己并不是在寻求回报。
何も知らず、知ろうともせず、俺はこの無償の優しさに何を返してきた?
一无所知,也不想去了解,我究竟回报了这种无偿的善意什么?
「助けてくれたこと、感謝してる…」
"谢谢你帮助我,我很感激……"
「助けた?」
「帮了?」
「外に、勝手に出て行ったとき」
「出去外面,自己乱跑的时候」
「……」
途端に小狐丸が口を噤んだ。
途端に小狐丸闭上了嘴。
あの時のことは小狐丸の中に随分と深い傷をつけたようだ。
那件事似乎在小狐丸心中留下了很深的伤痕。
小狐丸の話を信じるならば、小狐丸からしてみればようやく見つけた『一目惚れ』の相手に逃げられた挙句、目の前で暴力を振るわれ殺されかけていたのだ、衝撃は計り知れない。
如果相信小狐丸的话,那么对小狐丸来说,他好不容易找到的“一见钟情”的对象从他身边逃走,甚至在他面前遭受暴力,差点被杀,震惊是难以言表的。
「感謝されるようなことなど何もしておらん。お主には怖い思いをさせてしまっただけであったな…」
“我什么都没做值得感谢的。只是让您受了惊吓而已……”
「う…」
“嗯……”
否定は出来ない。
否定不了。
「あの時の輩は今頃また新しい獲物でも嬲っているじゃろう。こちらでは珍しいことではないからのう。珍しくもないとわかっておったのに先に伝えんかった私の責よ」
“那时候的那群人现在肯定又在玩弄新的猎物了。这里并不少见啊。虽然我知道这并不少见,但没早点告诉你,是我的责任啊。”
「俺こそ、お前のこと誤解してずっと避けてて…というか、その、俺も最初は正直なことを言うと嫌がらせの類じゃないかと思ってた…し…」
“我才是,误解了你一直避开……或者说,我一开始也觉得那可能只是骚扰……而且……”
男に弄られてイかされるとか、同性愛者でもない年頃の男子にはトラウマ級の出来事だ。
对于一个不是同性恋的年轻人来说,被男人玩弄是一种创伤性的经历。
おまけに、俺が下だったわけだから尚更のことだ。
更何况,我是下风的一方。
正直、あの時の奴はあれで本当に生きてるのかと頭の中を一瞬過ぎった気がしなくもないが、そこは気づかなかった振りをしてこの際スルーしておく。ここの連中は頑丈な奴ばかりなんだ。きっとそうだ。
虽然说实话,我当时真的觉得那个人是不是真的活着,但一瞬间我并没有意识到这一点,这次就假装没看到。这些人都是坚强的家伙。肯定是这样。
初めは夢じゃないかと思った。夢遊病の気があるんじゃないかと思った上に、男相手に好き勝手にされるなんて百万歩ほど譲って嫌がらせ、そうでなければ俺自身が気づいていなかっただけで二重人格の方向も疑う出来事だった。
最初我以为那只是个梦。我还怀疑自己是不是有梦游症,再加上被男人随意对待,这简直是百般折磨,如果不是我自身没有意识到,我甚至会怀疑自己是不是有双重人格。
けれど真相を聞けば、こいつは天狐とかいう神様だか妖怪だかわからん狐の一族で、俺を番に選んで即行で手を出して、俺が思い悩んだ謎現象のすべてはこいつが起こした怪異で。
但若听到真相,这家伙竟是天狐之类的神明或妖怪,不知是哪一族,选中我做护卫后立刻出手,我之前所苦恼的所有谜团现象都是这家伙造成的。
本当に、こいつの言い分を聞かなければただの誘拐だ。
真的,不听听这家伙的解释,这只是一起绑架案。
「自分の部屋に居ても気づいたらこの山に来ていたのは流石に精神的に堪えた…」
“即使待在自己的房间里,突然意识到自己竟然来到了这座山上,精神上确实承受了很大的压力……”
「あれは私が呼んだんじゃ。既に術は施してあったからな、なかなかお主の意識に繋がらん時はどうしたものかと思うたが。繋がりさえすれば強制的に世界を切り替えることも可能よ」
“那是我召唤的。已经施加了法术,所以在意识无法连接的时候,我也在思考该怎么办。只要连接上了,就有可能强制性地改变世界。”
「じゃあ俺は、こちら側の俺の住んでるマンションに強制的に連れて来られて、そこから歩いて行ったって言うのか」
「那么我被强制带到这边我住的公寓,然后走过去的,对吧?」
「そうなるか。あの辺りはまだ私の能力の及ぶ位置であったからな、そこいらの低級妖怪如きではおぬしに手はだせん」
「会是这样吗?那个地方还在我的能力范围内,那里的低级妖怪之类的根本不是你的对手。」
「人間はあの鳥居からじゃないと行き来できないんじゃなかったのか」
「人类不是只能从那个鸟居来去吗?」
「それは人の子自ら通る場合よ。私の使った力は、確か人の子の間では神隠しと呼ばれておったか」
「那是人的孩子自己经过的地方。我使用的力量,在人的孩子之间被称为神隐。」
本当に怪異だった。
确实很诡异。
都市伝説は都市伝説で終わってるから笑い話になるのであって、こうして現実になるとこうも笑えないのか。
都市传说就是都市传说,应该以笑话收场,现在变成现实了,难道就不能笑了吗?
「しかしそれももうじき終わる。お主は自分の世界に帰る準備だけしておくがいい」
“但是那也快结束了。你只需要准备好回到自己的世界就好。”
「準備って…」
“准备……?”
「向こうは恐らく、まだ、死ぬほど暑い」
「那边可能还非常热」
まさかの真顔で言われて一瞬空気が固まった。
竟然用严肃的表情说出这样的话,一时间空气都凝固了。
なにかしなくてはならないことがあったのかと身構えただけに、その答えに対するリアクションを用意していなかった。
身子一挺,以为有什么必须做的事情,却没准备好对那个答案的反应。
「お前でもそういう冗談を言うのだな」
「你也敢开这样的玩笑啊?」
「? 冗談などではない。人の子の世は物が多すぎてこちらよりも暑いと聞くぞ」
「?玩笑等等不是真的。人的世界东西太多,听说比这里还要热。」
そうかもしれんが。
也许是吧。
気を張りすぎたのかもしれん。
也许是太自信了吧。
とにかく礼は言えた、少しくらい距離は縮まっただろうか。小狐丸の言う『番』としてはどうか知らんが、友人として今後どうにかなるだろう。
无论如何,我表达了感谢,也许距离拉近了一些吧。至于小狐丸所说的“番”怎么样我不清楚,但作为朋友,今后应该没问题吧。
目的は果たしたとその場を離れようとすると、小狐丸の手が俺の腕を掴んだ。
目的達成したとその場を立ち去ろうとすると、小狐丸の手が私の腕を握った。
ぐ、と強く抱き寄せられ後ろ向きに身体が傾ぐのを、もう一方の腕が優しく抱きとめた。
哎呀,被紧紧地拥抱过来,身体向后倾斜,另一只手温柔地抱住了我的手臂。
「すまん」
"对不起"
耳元で声が聞こえたかと思うと、やんわりと顎を捉えられ口吻けられた。
想象着在耳边听到声音,下巴被轻轻地抓住,嘴唇被亲吻。
神気を注ぐためのそれに、力を抜いて身を任せるようになったのはいつからだったろう。
为了注入神气,是从什么时候开始学会放松身体,任其自然呢?
向こうに帰れば神気も必要ない。この行為も、後五日で終わる。そうすれば、小狐丸は俺にこんな申し訳なさそうな顔で謝ることもなくなるのだろうか。
如果回到那边,也就不需要神气了。这个行为,五天后也就结束了。那样的话,小狐丸也不会再以这种尴尬的表情向我道歉了吧。
唇を重ねて息を吹き込むように行われるそれは、ねっとりと蕩けるような性感を揺さぶるものとは違う。
嘴唇紧贴,吹气般的行为,与那种腻腻歪歪、令人心动的性感是不同的。
ゆっくり目を閉じて与えられる口吻けをおとなしく受け入れながら、ほんの少しだけこの時間が失われるのを惜しむ気持ちが揺らめいていることに、気づかない振りをした。
慢慢地闭上眼睛,以平静的语气接受,同时心中微微感到不舍,仿佛在惋惜这短暂的时间流逝,却装作没有察觉。
*
「何を馬鹿なことを!」
“你在说什么傻话!”
「声が大きい」
声音很大
どうせ止められるだろうと内緒にしていた小狐丸が、琥珀に怒鳴られたのは向こう側へ戻る予定の日の朝だった。
小狐丸本来以为可以保密,不会被发现,结果在计划返回的那天早上被琥珀怒斥了。
昨晩は小狐丸にずっと抱き締められていて、本当はこいつでも未知の世界に行くのは怖いんじゃないだろうかと考えたほどだ。
昨晚小狐丸一直紧紧抱着我,我甚至想过,带这个小家伙去未知的世界,我真的很害怕。
いつでもこちらに渡れる小狐丸はそんなこと気にしていないと勝手に思っていたが、こちらに琥珀を初めとする仲間達を置いて行くことになるのだから、不安があるのは当然なのかもしれない。
我以为小狐丸随时可以过来,所以没有太在意,但既然要留下琥珀和其他伙伴,难免会有不安。
反対されることを承知で告げたのは、この社の管理を任せたいからだそうだ。
换句话说,他之所以会告知可能会受到反对,是因为他想将公司的管理权交出去。
縄張りとする主である小狐丸が居なくなれば、ここは無法地帯となる。
如果那个称霸一方的狐狸丸消失了,这里就会变成无法无天的地带。
仮にも神の社。俺を襲ったような妖怪の類に侵されてはならないのだという。
即使是神社,也不应该被那些像袭击我的妖怪之类的生物侵犯。
この神域が侵されるようなことがあれば、もしかしたら神隠しに遭う者も格段に増えるかもしれないという話を聞かされて、青褪めたのはつい先程の話だ。小狐丸達のような天狐の一族がこうした神社に身を置いているのは、神の一端であるからというだけではなく、他の世界を自由に行き来できる能力をもって秩序を守るためなのだそうだ。とはいえ、神隠しというものが存在するとおり、気に入ってしまったものを連れて来てしまうのも大体この天狐一族だというのだから始末におえない。
听说如果这个神域被侵犯,可能会有更多的人遭遇神隐,所以青褪色的事情就是最近发生的。小狐丸他们这样的天狐一族之所以会待在这样的神社,不仅仅是因为他们是神的一部分,还因为他们拥有自由穿梭于其他世界的能力,是为了维护秩序。尽管如此,正如神隐的存在一样,如果他们喜欢上了某个东西,也会带回来,所以这也让人头疼。
小狐丸達が担っているのは、人の肉や魂を喰らう類の妖怪達を向こう側に流さないように食い止める役目なのだそうだ。
小狐丸他们承担的职责是阻止那些吃人肉和灵魂的妖怪逃到另一边。
天狐などと言っていたから、てっきり豊穣なんかの神だと思っていたが、どうもそれはそれで役目を負っている者が居るらしい。神事に疎い俺にはよくわからない。
之前以为天狐之类的就是丰收之神,但好像有承担这个职责的人存在。对于不太懂神事的我来说,有点难以理解。
ともあれ、昔はここに住んでいた琥珀なら問題はないだろうと、思い切って相談することにしたのだ。
总之,以前住在这里的琥珀应该没问题吧,我就大胆地去找琥珀商量。
琥珀は困惑した様子でチラチラと俺を見てから深い溜息をつき、小狐丸と話があるとどこかへ小狐丸を連れて行ってしまった。
琥珀困惑地看了我一眼,深深地叹了口气,然后带着小狐丸去了一边。
このまま小狐丸を説得する気なのだろうかと思うと気が気じゃない。
你真的打算就这样说服小狐丸吗?这让我感到不安。
やっと帰ることが出来るんだ。
终于可以回家了。
こんなところで急に考えを変えられては困る。
在这里突然改变主意会很麻烦。
二人の向かった先にこっそりついて行き、会話の聞こえる場所で立ち止まった。
跟在两人身后悄悄地走,直到能听到对话的地方才停下。
井戸の辺りで、案の定琥珀は小狐丸を説得しようと試みていた。
井边,果然琥珀正在试图说服小狐丸。
息を殺して様子を伺う俺に気づかず、琥珀は困り果てたように本気なのかと問いかける。耳も尾も垂れ下がり、賛同していないことは明らかだ。
琥珀没有注意到我屏住呼吸观察她的样子,像极了绝望的样子,她认真地问我是不是真的下定决心。耳朵和尾巴都垂了下来,显然她并不赞同。
「考え直す気はないのか」
“你不想再考虑一下吗?”
「すまぬ。もう決めたことじゃ」
“不好意思,我已经决定了。”
「そなたは、あちらへ渡るということがどういうことかわかっておるのか? 嫁御にはきちんと説明したか?」
“你知道他要去那边是什么意思吗?你有没有好好向妻子解释?”
「あれは……いや、言う必要はなかろう。折角元の世に帰れるというのに、水を差して曇らせとうない」
“那……不,没有必要说。好不容易能回到原来的世界,不想再泼冷水了。”
なにやら不穏な言葉が聞こえてきた。
听起来有些不祥的话语。
どうやら小狐丸は、この期に及んでまだ俺に隠し事をしているらしい。
看起来小狐丸似乎到现在还在对我有所隐瞒。
「三日月は結局、ここへ来てからいつも憂いの表情ばかりよ。昔のように笑ってはくれん。やり方を間違えた私の責じゃ、そこを責める事などできんし、私には三日月を笑わせてやることもできん」
「三日月终究在这里以来一直面带忧愁的表情。不像以前那样笑了。这并非我的责任,我无法责怪那里,也无法让三日月笑出声来。」
「だからと言って早計ではないか? まだ共になったばかりであろう?」
「因此就急于行动,不是太早了吗?我们才刚刚合并不久吧?」
「早う帰してやらんと、本当に駄目だと感じた頃には向こうの時間の流れに乗れまい。私は三日月を壊したいわけではない」
“早些回家,我真的觉得不行。我不想破坏月亮”
「だが…」
“但是……”
「すまん、兄者。私は良き番にも良き夫にもなれんかった。なればせめて最後くらい笑顔が見たい」
“对不起,哥哥。我既当不好守夜人,也当不好丈夫。如果能的话,至少在最后我想看到你笑”
「愚かな…向こうでは半日とてそなたは生きられんのに」
“愚蠢的……在那里,即使半天你也活不下去”
「三日月の笑顔を失ったままでいるよりは良い。それに、私は最後に三日月の望みを叶えられる。三日月は私から解放され元の生活に戻れる。誰も困りはせん」
「与其失去三日月笑容的状态更好。而且,我能够实现三日月最后的愿望。三日月可以从我这里解脱出来,回归原来的生活。不会让任何人困扰」
「今の言葉、もう一度言うたら流石に承知せんぞ。誰も困らぬとはこの俺を前によう言うた」
「既然已经说过这些话,再重复一遍我也知道了。你在我面前说不会有人困扰」
「そうか…そうじゃな、すまぬ」
「嗯...好吧」
その後も何か話しているようだったが、聞こえてきた内容が内容だっただけに頭に入ってこなかった。
「之后似乎还在说话,但因为内容太内容,所以没有听进去」
音を立てないようその場を離れ、部屋に戻った途端に身体から力が抜け崩れ落ちた。
试图不发出声音地离开现场,一回到房间身体就突然无力,倒在地上。
なんだ、なんだったんだ今の会話は。
什么?刚才的对话是什么?
ただ説得するだけだろうと思っていた俺の想像を超えた内容に、ただただ混乱するばかりだった。
以为只是说服我,没想到内容超出了我的想象,我完全陷入了混乱。
半日も生きられないとはどういうことだ。
不到半天就活不下去了,这是什么意思?
だって、あいつは自由にこちらと向こうを行き来できて、何も食べなくても平気で、なんで、向こうについて行くって自分で言ったんだ、それなのにどういうことだ?
人家可以自由地来来回回,就算不吃东西也无所谓,为什么他自己说要跟过去,那究竟是什么意思呢?
どうしてそこまでする。どうしてあんなあっさりと…いや、違う。あっさりとではないのかもしれない。ずっと悩んで、ずっと考えて、あいつが言っていたとおり、俺が笑う方法を探していただけ。たまたまその方法がこれしか思い当たらなかっただけ。
为什么做到这个地步。为什么那么轻易……不,不对。也许并不轻易。一直苦恼,一直思考,只是按照他说的,在寻找我笑的方法,只是恰好这个方法是我唯一想到的。
ずっとそうだったじゃないか。あいつは罪滅ぼしに世話を焼いていたわけでも、見返りが欲しくて助けてくれたわけでもない。
一直以来都是这样。他并不是为了赎罪而帮忙,也不是为了回报而帮忙。
最初から、俺に笑って欲しかっただけだったんだ。
最初只是想让我笑而已。
俺は結局、自分のことばかりで小狐丸を見ていなかったのだと思い知らされる。
我终于意识到,我一直在只顾着自己,没有注意到小狐丸。
礼を言えたからもう大丈夫、これから先少しずつ友人として距離を計ることもできるだろうと勝手に思い込んでいた。けれど違った。
因为说了礼貌的话,所以已经没事了,今后可以逐渐以朋友的身份保持距离,我擅自这么想。但是不对。
小狐丸の中で、それはもうとっくの昔に終わった問題だった。
在小狐丸那里,那已经是很久以前就结束的问题了。
良き番になれないと言っていた。その時点で、もう小狐丸は己の価値を切り捨てたんだ。
说着自己当不了好差事。那时起,小狐丸已经放弃了自我价值。
子供の酔狂とか、ただの意地とか、そんなものでここに残って俺を待っていたわけではなかった。
他们并不是在这里等我,只是因为孩子的胡闹、无理取闹之类的。
考えれば考えるほど、頭の中が白くなっていくのを感じる。
越想,越觉得头脑空白。
小狐丸は、最期の最後まで、俺のことしか考えていないんだ。
小狐丸直到最后都在想着我。
目の前が揺らいだ。
前面的景象开始晃动。
波打つそれが涙であると気づくのに時間が掛かった。
才意识到那滴落的是泪水。
それほどに思考は働かず、ぽたぽたと落ちる雫を拭うこともせずにじっと畳の目を見つめていた。
思考并未那么活跃,也没有去擦拭那点点滴滴落下的水珠,只是静静地盯着榻榻米的缝隙。
[newpage]
■
「さて、三日月。そろそろ時間じゃ」
“嗯,月亮。时间差不多了。”
琥珀に散々文句を言われた後、夕闇の迫る空を見上げてこの景色も見納めかと一つ頷いた。
珍珠上被说了很多抱怨的话,抬头看着渐渐降临的夜幕,不禁对这个景色心生赞叹,微微点头。
迷いはもうない。
已经不再迷茫了。
三日月にあれだけ怖い思いをさせたのだ、この代償は当然じゃろう。
让新月经历了那么可怕的恐惧,这样的代价当然是理所当然的。
部屋に戻ると、三日月は呆然と私を見上げるだけだった。
回到房间后,新月只是呆呆地看着我。
これから帰れることを考えてゆっくり休めなかったのだろうか。
你是不是在想着能回家就放松一下?
三日月の手を取り、自分の親指の腹に牙を突き立てて傷をつけた。すぐにぷくりと血の玉が浮く。
拿起三日月的手,把牙齿戳进自己的拇指肚里,弄伤了。很快,一个血球就浮了上来。
それを三日月の掌に押し付け、鳥居の形に指を滑らせた。
把它按在三日月的手掌上,用手指滑过,形成了一个鸟居的形状。
「…なんだ、それ」
“...那是什么?”
「念のためじゃ。二度とあの鳥居の結界を抜けることがないよう」
"以防万一。绝不再越过那个鸟居的结界。"
「にどと…?」
"怎么了……?"
「向こうに折角戻ったというのに、私の居らん内にうっかりここへまた踏み込んでしまっては拙いからのう」
"既然已经回到那边去了,却意外地又踏进了我的领地,真是失礼了。"
そら、もう片方の手を寄越せ。
那边,把另一只手也伸过来。
言いながらもう一方の手を取った瞬間、解放した右手が私の着物へと伸びた。
说着,另一只手已经握住了我的和服。
ぎゅっと肩口を掴まれたと思ったら、次の瞬間にはぐるりと視界が回り、思い切り畳の上に押し倒されていた。散らばる髪が頬に当たってくすぐったい。
突然觉得有人紧紧抓住了我的肩膀,下一瞬间视野就旋转起来,我被猛地推倒在榻榻米上。散落的头发拂过脸颊,痒痒的。
見慣れた天井がくすんだ色を見せ、その端に三日月の艶やかな髪がさらりと揺れた。
熟悉的屋顶呈现出褪色的颜色,其边缘上,月亮形状的头发轻轻摇曳。
何事かとそちらを見上げれば、私に圧し掛かる三日月は険しい表情でこちらを睨みつけていた。
不知为何抬头一看,那轮对我施加压力的弯月正以严厉的表情瞪视着我。
「みか…」
“米卡……”
「どうして黙っていた」
“为什么一直沉默?”
「なにが」
“什么?”
「半日も生きられないってなんだ! お前っ! 最初から死ぬ気でいたのか!」
“连半天都活不下去是吗!你!你从一开始就打算去死吗!”
「!」
三日月の言葉に驚き、目を見張ってしまう。
对三日月的话感到惊讶,不禁瞪大了眼睛。
「…聞いておったのか」
「…你听到了吗?」
それは、肯定しているのと同じだと後で気づいた。
后来我意识到,那和肯定是一样的。
青く美しい瞳が、全部説明しろと訴えているのがわかる。
看得出,那双清澈美丽的眼睛在诉说着一切。
言葉などなくともわかる、私はこれまでそうして生きてきた。
即使没有言语,我也知道,我就是这样活过来的。
けれど三日月は違う。言葉に縛られた世界で生きてきた。だから、黙っていれば気づかれないと思っていたのに、油断した。
但是月亮却不同。它在被言语束缚的世界中生活过。因此,我以为只要保持沉默就不会被发现,结果却疏忽了。
「なに、死ぬ気も何も、人も妖も命の刻限は決まっておる。それはいかな神の一端とはいえ例外ではない。私の時期がすぐそこまで来ておるというだけの話よ」
“什么,死亡和生命,无论是人还是妖,都有各自的寿命。即使是神也不例外,我的时间即将到来。”
「嘘つけ! ここに残ればまだまだ生きられるくせに! 大体なんだ! そんな頑丈な身体しておいて半日も生きられないって!」
“你还能活多久!这里还能活很久!太可笑了!有那样强壮的身体,半天就活不下去了!”
「環境に合わぬのよ。向こうの世には神気が足りぬ。こちらである程度この身に蓄えては行くが、それも長くは持つまい。水に潜るのに大きく息を吸ってから入るじゃろう? そのようなものじゃ」
“不适应环境。那边世界缺少灵气。这边多少积累在身上,但也不会持久。潜水前大口吸气再进去吗?就是这样。”
途端に、私の頬に雫が降ってきた。
“突然,我的脸颊上滴下了水珠。”
紅くなってきた空の色を受けて光る目元が、また泣かせてしまったのだと現実を突きつける。
“天空变红了,闪烁的眼睛再次让我意识到,我又哭了。”
結局私は、何をしても三日月に笑顔を与えることはできないのだと言われているようで、胸が締め付けられる思いがした。
最后我似乎被说无论做什么都无法给三日月带来笑容,心里感到很压抑。
なら、やはりこの選択は間違っていない。私はもっと早く、己の我侭など捻じ伏せて三日月を解放してやるべきだったのだ。
那么,这个选择应该没错。我应该早点克制自己的任性,把三日月解放出来。
「話は後で聞こう。今は時間がない、三日月、手を」
“等会儿再说。现在没时间了,三日月,动手吧。”
「嫌だ」
“讨厌”
「三日月」
“新月”
「嫌だ! そうやって、勝手に考えて勝手に納得して! いつもいつも! 大事なことは何も言わない! もうたくさんだ! お前は何がしたかったんだ! なんで俺を巻き込んだ!」
“讨厌!总是这样,自作主张,自以为是!总是这样!重要的事情什么都不说!已经够了!你到底想做什么!为什么要牵扯我进来!”
「すまぬ」
“对不起”
「違う! そうじゃない! 俺は謝ってほしいわけじゃない!」
“不对!不是那样的!我并不是想要道歉!”
癇癪を起こしたように髪を振り乱して首を振る三日月の声は、思い通りにならないもどかしさに振り回されているようだった。
月亮形状的嗓音像是要发怒般地摇动头发,晃动脖子,似乎在无法如意的挫败感中挣扎。
迷子の子供が泣き叫ぶような、そんな寂しさが篭められている。
被困在一种像迷路的孩子哭泣尖叫般的孤独感中。
「お前っ! 言ってたじゃないか! ずっと待ってたって! こんなことで諦めるのか!」
“你啊!不是说了吗!一直都在等你!就因为这样你就放弃了吗!”
「私はもう一人になりたくないだけよ。もう、待つのは疲れた。最期にお主といられるならそれで…」
“我只是不想再一个人而已。已经厌倦了等待。如果能在最后和你在一起的话……”
「だから! それが勝手だって言ってるんだ! 人の事巻き込んで散々掻き乱して…やっと心の整理がつきそうな時に今度は自分では何も出来ないから自由にする? ふざけるな!」
“所以!我就是说这是自私的!把别人的事情卷进来,肆意搅乱……好不容易心情整理得差不多,现在却又什么都做不了,就放手?别开玩笑了!”
「ではどうしろと言うのだ! この方法を措いて他にお主が望むことなど…」
"那你到底想怎么样!除了这种方法,你还有什么别的愿望……"
「何で俺にばかり合わせようとするんだ!」
"干嘛总是针对我!"
ダンッと私の顔の横に拳を叩きつけて、三日月は声を荒げたことで乱れた呼吸を整えようと何度も深呼吸をした。
砰的一声,拳头打在我的脸颊旁边,三日月提高嗓门,试图通过多次深呼吸来平复紊乱的呼吸。
吐息が掛かるほどの距離で行われるそれは、時々涙を堪えようとして失敗した嗚咽が混じっている。
在吐息所能触及的距离进行,时不时夹杂着努力忍住泪水却失败的抽泣声。
「俺は……お前に嫌われてると思ってた…嫌がらせなんじゃないかって…、ただの気紛れで…目をつけられただけなんじゃないかって…」
「我……以为你讨厌我……是不是在欺负我……只是心血来潮……只是被你盯上了而已……」
一目惚れって言われたの、本当は嬉しかったのに。
被说是一见钟情,其实我挺高兴的。
「……!」
そこまで呟いて、三日月は私の胸に顔を埋めて嗚咽を洩らす。
三日月一边嘀咕着,一边把脸埋在我的胸口,抽泣起来。
嫌うなどとんでもない。嫌がらせで契るなど以ての外だ。
根本不喜欢。用讨厌来约束等等是不可能的。
気紛れでここまでつれて来たりなどしない。
不会心血来潮地带来这里。
けれど、三日月にはそう思えていたのだ。
但是,我曾经那样想过。
以前そう聞かされた時も衝撃を覚えたが、それだけ三日月にはショックなことだったのだ。
即使以前听到过,也感到震惊,那对三日月来说确实是个冲击。
だからこそと言うべきか、三日月はそうでないと、寧ろ好かれていたと知って嬉しかったと言う。
因此,三日月并不是这样说的,而是知道人们更喜欢他,感到很高兴。
私は自分の耳を、意識を疑った。都合がよすぎるのではないか。これは夢ではないのか。
我怀疑自己的耳朵,怀疑自己的意识。这太方便了吧。这难道不是梦吗?
三日月から、嘘でも冗談でも、好いたことを嬉しいと言われるなどありえないと思っていたのに。
从三日月开始,即使是谎言或玩笑,也不觉得会被说喜欢。
「…三日月、早う手を」
「...三日月、早些动手」
早く。
快点。
早くしなければ。
必须快点。
「三日月!」
早く逃がしてやらなくては。
早点摆脱它吧。
そうでないと、折角の決心が揺らいでしまっては、もうこんな機会を設けることもない。
如果不这样,好不容易下的决心就会动摇,再也不会有这样的机会了。
己に無理を強いてでも自制し、常にでも触れていたい存在を手放す覚悟を再び持つ自信などない。
即使强迫自己,也没有再次拥有放下总是想要触碰的存在,保持自制力的自信。
「時間がないと言って…」
“说没有时间……”
だから、せめて最後くらい私の醜い独占欲も支配欲も見せず、自由な所へ。
因此,至少在最后,不要让我表现出丑陋的占有欲和支配欲,去一个自由的地方。
そう願う私の声に顔を上げた三日月は、全てを言い終わる前に私の唇に己のそれを押し当てた。
我希望我的声音能让她抬起头,在她说完所有话之前,她把她的唇压在了我的唇上。
神気を注ぎ込む時のような、軽く触れ合わせるものではなく。拙い動きで私の舌を絡め取ろうとする動きに目を見開き、動きが止まった。
不是像注入神气那样轻轻触碰。她用笨拙的动作试图缠绕我的舌头,我瞪大了眼睛,直到她的动作停止。
駄目だ。
糟糕。
折角抑えているのに、何故わざわざ刺激しようとする。
虽然努力抑制着,却为何故意去刺激。
駄目だと自分に言い聞かせて懸命に耐えてきたのに、どうして。
为什么我明明告诉自己不要看,却还是拼命地忍受着。
三日月の唇がゆっくり離れ、互いの間に細い糸が伸び、ぷつりと切れた。
三月形的唇缓缓分开,彼此之间拉出细线,啪的一声断裂。
顔を真っ赤にした三日月は涙を浮かべた瞳で私を見下ろし、どこか寂しそうに濡れた唇を震わせた。
三月形的脸涨得通红,带着含泪的眼睛俯视着我,嘴角颤抖着,似乎有些寂寞地湿润了。
「もう、俺は要らないか…?」
“我,已经不再需要了吗...?”
嗚呼、馬鹿な奴。
呃、这小子真傻。
どうして自ら縛られようとするのか。
为什么要自己束缚自己呢?
答える前にびくりと三日月の身体が強張り、私の上に再び顔を埋めて突っ伏した。
在回答之前,三日月的身体突然僵硬,再次把脸埋在我身上俯卧下来。
小刻みに身体が震えているのがわかるが、それが恐怖や寒さなどではないことは一目瞭然だった。
可以看出身体在微微颤抖,但很明显那不是恐惧或寒冷。
ほら、煽ったりするから。
嘿,别煽动。
「要らぬなど。私にはお主だけじゃ」
“哪有那么多。就你一个就够了。”
「ぁ…っ、は…はぁ…ぁ」
“啊…嗯…嗯啊…啊…”
「煽らねばそんな事にはならぬまま終われたのに、人のなけなしの良心をふいにしおって」
“如果不煽动,事情就不会发展到这种地步,就这样结束了,却轻易地抹去了人们那微薄的良心。”
「こ、ぎつ…」
“哎,好痛……”
「答えよ三日月。ならばお主はどうしたい。どうして欲しい」
「回答吧,三日月。那么,你想要什么。想要做什么」
突っ伏したままの顔を両手で包み、こちらを見るよう促して問いかけた。
用双手紧紧包裹着扭曲的脸,催促着看向这边,问道。
ここまで耐えたのを無駄にしたのだ、視線が泳いでいるのがわかるが手を放してやる気はない。
到现在为止的忍耐都白费了,看得出来视线在游移,但并不打算放手。
鼓動が聞こえそうなほど三日月の身体は熱くなり、きゅっと拳を握る手が私の胸の辺りでもどかしそうに着物を巻き込み布地に皺を刻む。
鼓动似乎能听到,三日月的身体变得热起来,紧紧握拳的手在我胸边似乎有些懊恼地卷起和服,在布料上留下皱褶。
「俺、は…」
「我、是……」
はぁ、と熱い吐息が洩れ、匂い立つかのような色香が次第に薄暗くなる室内に満ちる。
哎呀,一股热气喷涌而出,仿佛香气弥漫的室内逐渐变得昏暗。
もうすぐ、重なった時間が再び分かたれ、互いの世界が閉ざされる。
恍惚间,重叠的时间再次被分割,彼此的世界也将封闭。
今から走れば、私の足なら間に合うだろう。
现在就跑的话,我的脚应该能赶得上。
閉ざされれば、もうこの話は白紙になると理解しているだろうか。
如果被封闭,那么这个故事可能就成了一张白纸了,你明白吗?
その上で私を煽ったというなら、もうなにも耐える必要はないだろうか。
再这样激怒我,难道就没有必要再忍耐了吗?
今度こそ、三日月を傷つけずに手に入れることはできるだろうか。
这一次,能否不伤害新月就得到它呢?
手探りなのは今も変わらない。
仍然是一边摸索一边前行。
きっとこれからも傷つけてしまうことも多いだろう。
恐怕今后还会伤害到很多人。
それでも、要らないかと訊かれて要らぬと答えられる程、私は無欲ではないし諦めてもいない。
即使被问及是否不需要,回答不需要,我也并非没有欲望,也没有放弃。
初めて三日月をこの社へつれて来た時とは違った仄かな期待を胸に、三日月の返答を待つ。
带着与第一次将三日月带到这家公司时不同的微妙期待,等待三日月做出回应。
「放すな」
不要放
「……」
「本当に、好きでいてくれてるなら…俺を二度と、放すな」
「如果真的喜欢我……就别再让我离开」
「よかろう」
「好吧」
そうか、最初に好きだと言えていたら、こんなに悲しませることはなかったのか。
「如果当初能说出喜欢,就不会这么让我伤心了。」
気づくのが遅すぎた、たくさん泣かせた、怖い思いもさせた、こんなにも悲しませた。
「意识到得太晚,让你流了很多泪,让你害怕,让你如此伤心。」
なら、これからの時間はたくさん話そう。
那么,接下来的时间要多聊聊天。
もういいと耳を塞ぐほど愛を囁いて、啼き乱れて声が嗄れても可愛がろう。
就算把耳朵塞住也要大声说爱,就算哭得声音嘶哑也要疼爱。
きっとまた怒るだろう。けれど、きっとまた、許してくれるだろう。
肯定还会生气。但是,肯定还会,原谅我。
これは私の勝手な思い込みかもしれない。だけど、そうであると信じたい。
这可能只是我自己的臆想。但愿它是真的。
「三日月。私だけの可愛い番よ。愛している、ずっとお主が欲しかった」
“三日月。只属于我的可爱的小家伙。我爱你,永远都想要你。”
「…遅い」
“……晚了。”
「待たせた分も、これから穴埋めしていこう」
“等你的时间,我会慢慢弥补。”
苦笑して軽く口吻けると、ようやく私が一番見たかった表情を見せてくれた。
苦笑轻声说道,终于露出了我最想看到的表情。
*
夜が更け、そして緩やかに明けていく。
夜越来越深,然后缓缓地亮起来。
空が少しずつ明るくなるまで、三日月は私の腕の中で甘く啼き続けた。
在天空逐渐明亮之前,新月一直在我怀里甜甜蜜蜜地啼哭。
力ずくで捻じ伏せるものではなく、互いの合意の上での営みは蕩けるような心地だった。
不是通过强力扭曲,而是在彼此同意的基础上努力,感觉像是在融化。
身を清めてやりたいが、腕の中の温もりが惜しくて放す事ができない。
想要洗净身体,但怀里那份温暖让人不舍得放手。
否、二度と放すなと言われた。なら、これでいい。
不、绝不能再放过了。那就这样吧。
二人寄り添って眠るゆったりとした時間は、私が長く夢見ていたものだ。
两人依偎着入睡的悠闲时光,是我长久以来梦寐以求的。
「三日月…」
“新月……”
囁くが返事は無い。流石に疲れてしまったのだろう。
哭诉却无回应。想必是累极了。
悲しみや恐怖とは違う涙を流した痕が、しっかりと目元と頬に残っている。
悲伤或恐惧不同的泪水痕迹,清晰地留在眼角和脸颊上。
指で擦ってもなかなか落ちないそれに唇を寄せ、私も心地良いまどろみに身を任せた。
用手指擦也擦不掉,于是靠近嘴唇,我也沉浸在这舒适的朦胧中。
「小狐丸!」
“小狐狸丸!”
どっす! と激しい衝撃が腹部に襲いかかってきた。
“谁!”强烈的冲击波袭来,腹部感到剧痛。
そうと気づけたのは衝撃に負けて身体をくの字に折って咳き込み、完全に油断していたお陰で抉るような痛みを受けた腹を押さえて呻いた後だった。
我是在被震惊得身体弯曲,咳嗽着,完全放松警惕之后,才意识到腹部的剧痛。
一瞬で目が覚めた。なんだったんだ今のは。
瞬间醒来。刚才怎么了。
涙目で目を開け、ゆるりと視線を滑らせると私の顔を覗き込むのは白い狐。
涕眼朦胧地睁开眼睛,缓缓地移动视线,发现窥视我的是一只白狐。
「………琥、珀…?」
“……琥、珀……?”
「琥珀? ではないわ! そなた向こうの世に行ったのではなかったのか!」
“琥珀? 你不是去了另一个世界吗?
「大声を出すな、三日月が起きてしまう」
“别喊,新月会醒来的。”
言いながら隣を見ると、そこに三日月の姿は無かった。
“说着,他看向旁边,发现那里没有新月。
腹に受けた衝撃以上に衝撃を受けて飛び起きたが、腹部にまた痛みが走って呻くハメになった。
我震惊地跳了起来,比我肚子里受到的冲击还要多,但疼痛又一次穿过我的腹部,我呻吟着。
「嫁御ならとうに目覚めて顔を洗いに行ったぞ。裸のままだったことに驚いて百面相をしておったわ」
「既然是新娘,早就该起床洗脸了。惊讶地发现她还是赤身裸体,一脸惊讶的样子。」
「お、おぉ…そうか」
「哦,原来是这样。」
「して、結局行かなんだか」
「结果还是没去啊?」
「あぁ。三日月が、私に放すなと言ってくれた。二度と放すなと…昨日の話を聞かれておったようじゃ」
「啊。三日月告诉我不要再放手了。不要再放手了……好像是被问到了昨天的事情。」
苦笑すると、琥珀はふんと鼻を鳴らして尻尾を揺らすと、嫁御に一生をかけて感謝するんだな、と皮肉っぽい笑みを浮かべた。
苦笑了一下,琥珀轻轻鼻子哼了一声,摇了摇尾巴,似乎在向妻子表达一生的感激,嘴角浮起一丝讽刺的微笑。
無論、言われずともそのつもりだ。
当然,不用说也知道。
「俺もそなたの嫁御には感謝だな。近く行われる祭の際はどちらにいるべきか考えるだけで頭が痛かった」
“我对你妻子也很感激。一想到即将到来的祭典,我应该去哪里,我的头就痛。”
「祭?」
“祭典?”
「俺の住処ではもうすぐ祭よ。人の子が増える上に、あぁしたものは人も妖も浮かれるからなぁ」
“在我的住处,很快就要举行祭典了。人丁兴旺,连人和妖怪都会变得活跃起来。”
繋がりやすくなる。
连接变得更加容易。
目を細めて告げる琥珀の言葉に思い出す。そうだ、もうすぐ人の子の世では『盆』と呼ばれる時期だ。
紧盯着琥珀般的话语,想起了往事。对了,在人类的子嗣的世界里,这是即将到来的被称为“中元节”的时期。
年に数回、こちらと向こうが繋がりやすくなる時期がある。
每年有几次,这里和那里连接变得容易的时期。
時間の流れが重なる時間が長くなり、現世へ還る亡者達が群れを成す。
时间流逝重叠,时间变长,现世回归的亡者成群结队。
そして逆に、現世から戻らねばならない亡者が、生者を連れ去るという無茶をする事態になるのも大体こうした時期だ。
反之,必须从现世返回的亡者,会做出带走生者的荒唐行为,这种情况大概也是在这个时期。
そこに混じって獲物を漁る妖も居れば、迷い込んで出られなくなる人の子も少なくはない。
有些妖怪混在其中捕食猎物,迷路而无法出来的孩子也不少。
まぁ何が言いたいかというと、我ら神の一端は最も忙しくなる時期だ。特に己が守護する門があるなら尚更のこと。私の居るここは、人の子自体来る事が少ないので、まず祭が開かれることもなし、お陰で言われるまで気づかぬ有様だ。
嗯,我想说的是,我们神的一部分是最忙的时候了。尤其是有自己守护的门的时候更是如此。我所在的地方,人很少来,所以首先不会有祭典,直到有人说起,我才会意识到。
昔は賑わっていたと聞くが、私が生まれた時分にはもうその習慣自体が薄れていたように思う。駅前で祭の幟は上がるが、それだってこちらではなく逆方向にある神社でのもので人の子の足はそちらへ向く。川向こうでは花火も上がるとあって、関係の無いこちら側は閑散としたものだ。
听说以前很热闹,但我觉得我出生的时候,这种习惯本身就已经淡化了。车站前会升起祭典的旗帜,但那也不是这里,而是在相反方向的神社,人们的脚步都朝那个方向走去。对岸升起了烟花,而这边无关紧要,显得很冷清。
「ふむ、祭か…」
“嗯,是祭典吗...”
顎に手を当てて呟く声に被さるように、廊下から足音が聞こえてきた。
嘴角上扬,耳边传来走廊的脚步声。
「あ、小狐丸。起きていたか」
“啊,小狐狸丸,你醒了吗?”
「おお、三日月。身体は大丈夫か」
「哇,三日月。你身体还好吗?」
「あ、あぁ…少し、怠いくらいか…」
「啊,啊……有点,懒洋洋的……」
「そうか。そら、こちらへ来い」
「是吗。那么,来这边吧。」
腕を広げて見せると、手拭いで顔を拭きながらやって来た三日月は数秒迷ってから私の前に座った。
伸开双臂示意,三日月用手巾擦脸,犹豫了几秒后在我面前坐下。
何故そこなのだ、こういう時はこう…胸に飛び込むなりなんなり、あるではないか。私の認識がまた人の子のそれとは違うのだろうか。正直自信はない。
为什么会这样呢,这种时候不就应该...纵身一跃,不是吗?我的认知难道和别人的不一样吗?说实话,我没有自信。
三日月の向こうで琥珀が噴出すのが見えた。笑うな、必死なんだ、これでも。
看见了月亮的另一边琥珀喷涌而出。别笑了,我已经拼尽全力了,这样也行。
「三日月は随分と初心なのだなぁ?」
“新月还真是挺初心的啊?”
「初心とかそういう問題じゃないだろう。恥ずかしくないのかアレ」
“初心这类问题应该不是问题吧。难道不觉得害羞吗?”
「さてな、俺はかかとようやるが、人の子にはそうした触れ合いが苦手な者も多いと聞く」
“好了,我虽然喜欢踩跟头,但听说很多人家的孩子都不喜欢这样的接触”
「かか?」
“什么?”
「俺の女房よ」
“我的妻子啊”
「琥珀の奥さんは人間じゃないのか」
“琥珀的夫人不是人吗?”
「あれは狐よ。だが俺達とも違うがな」
“那是一只狐狸。虽然和我们不同,但也不是没有。”
くつくつと笑う琥珀の言葉に三日月は興味を持ったのか、美人か? とかこちら側で知り合ったのか? とか私を差し置いて琥珀とばかり話している。
琥珀咯咯地笑着,三日月对此感兴趣吗?是美人吗?还是在这里认识她的?总是和琥珀说话,把我晾在一边。
広げたままだった腕を下ろしてその様子を見ていると、時々三日月の目がこちらをチラチラ見るので私の存在を忘れているわけではないようだが、こうも蔑ろにされては面白くない。
看着她放下垂着的胳膊,时不时地偷偷看我,似乎并没有忘记我的存在,但这样被轻视也不是什么有趣的事。
面白くないと顔に出ていたのか、琥珀の瞳がまあるく見開かれたかと思うとにやにやと笑われた。憎たらしいが色々と琥珀に助けられているのは事実、ここは大人になってぐっと耐えるしかない。
看来我脸上写着无聊,琥珀的眼睛圆圆地瞪大了,然后轻轻地笑了。虽然讨厌,但确实在很多方面都得到了琥珀的帮助,这里只能长大了,忍一忍。
しかし、対する琥珀はするりと三日月の横を擦り抜けて私の元まで来ると、くるりと回って後ろ足で脇腹を思い切り蹴り飛ばしてきた。
然而,另一方面,Amber 从新月溜过,向我走来,然后转身用后腿踢我的侧面。
さっき腹に食らったのと同じ衝撃にまた呻く。
我又一次呻吟起来,因为刚才我肚子受到了同样的震惊。
「なんじゃ!」
“什么!”
「朴念仁よのう。嫁御がどう話して良いかわからず、そなたから声を掛けてくれるのを待っておるのが何故わからぬ」
“我不知道为什么我的妻子不知道该说什么,等你和我说话。”
「はぁ?」
哈哈?
「昨夜は色々あったのであろう? 身奇麗にして夫と共に朝を迎えたかった妻の心も読めぬとは情けない」
昨晚可能发生了很多事情吧?无法理解那位希望与丈夫一起迎接朝阳的美丽妻子的心情,真是令人遗憾
ひそひそと小声で囁く言葉が三日月まで聞こえてるかどうかはわからないが、琥珀が私になにか話しているのを、どこかそわそわと居心地悪そうにして三日月が気にしているのは理解できた。
我不知道那低声细语是否传到了三日月那里,但琥珀似乎在对我说话,而三日月则有些不安地在意着这一点。
成程、それで私より早く起きて抜け出したのか。
既然比我先起床逃出去了。
よくよく見れば、髪もしっとりと濡れているように見える。
仔细一看,头发似乎也湿漉漉的。
顔だけでなく、冷たい水で身体を清め髪も整えようとしたのだろう。
不仅脸,还用冷水清洗了身体,整理了头发吧。
じゃあ俺は帰るからな、とだけ残して走り去って行った琥珀を見送って、視線を泳がせる三日月の手をそっと取る。その手は氷のように冷たい。
那我就先走了,只留下琥珀跑走的背影,轻轻握住那像月亮一样游动的手。那只手冰冷如冰。
「冷え切っておるな」
“你冷得要命啊。”
「あ、あ…え、と…」
“啊,啊……嗯,嗯……”
「近う。温めてやろう」
“近了。我来给你暖暖。”
「わっ」
「哇」
抱き寄せると殆ど抵抗もなく、バランスを崩すように私の胸に倒れてきた三日月の身体はひやりと冷たく、まだ昼間は暑いが朝と晩は冷えるこの時期に、水で清める習慣のなかった三日月が井戸水で身を清めたのかと思うと、じんと胸の奥が熱くなった。
抱住我时几乎没有抵抗,像是要打破平衡一样倒在我胸前的三日月身体冰凉刺骨,虽然现在是夏天,但早晚已经变冷,这个时期,没有用水清洗习惯的三日月用井水清洗身体,我心中不禁一阵发热。
膝の上に座らせ、掛け布を手繰り寄せて背に掛けてしかと抱き締めてやると、三日月の手が私の胸の辺りで所在無さ気に彷徨う。やがてそっと私の胸に手を当てて俯きおとなしくなるものだから、もしかして迷惑だったろうかと少しだけ不安になった。
让她坐在膝盖上,拿起围巾搭在她背上,紧紧地抱住她,三日月的手在我胸边游移不定。过了一会儿,她轻轻地把手放在我胸口,低头变得安静,我有些担心她是否感到不舒服。
覗き込もうとした顔は髪に隠れて見えず表情はわからないが、耳が真っ赤になっているのを見て、今度こそ本当に照れているだけだったのだと気づく。
她试图窥视,但脸被头发遮住,表情看不清楚,但看到她的耳朵红彤彤的,我意识到这次她真的只是害羞而已。
照れたのではなく恐怖で逃げ出したあの時とは違い、今度は本当に私を受け入れてくれたのだと思うと一層愛おしさが増していく。美しい目を見たくて、けれど無理に顔を上げさせたりなどしてはまた拒絶されるかもしれないと思うと、少し慎重になってしまうのは仕方のないことだと思う。
与那次因恐惧而逃跑不同,这次我真的觉得你接纳了我,爱怜之情更甚。很想看到你美丽的眼睛,但又担心强迫你抬头会再次被拒绝,所以变得有些谨慎,这也是无可奈何的事。
少しずつ体温を取り戻していく三日月の熱と匂いに、夢ではないのだと改めて実感し、同時に感謝でいっぱいになった。帰ることが出来るとあんなに喜んでいたのに、ここに居ることをあんなに怖がっていたのに、私を選んでくれたのだと。
在三日月的热度和气味中,我逐渐恢复了体温,再次深刻地感受到这不是梦,同时充满了感激。虽然能回家让我那么高兴,但在这里我却如此害怕,你选择了我。
「三日月、愛してる」
“三日月,我爱你”
「…ん」
“…嗯”
「ずっと一緒じゃ」
“一直在一起吧”
「…あぁ」
“……啊”
「みか…」
“米卡……”
「小狐丸」
“小狐丸”
私の声を遮るように名を呼ばれ、どうかしたかと覗き込めば少しだけ上げた顔は真っ赤で、視線はどこを見ていいやらわからずに彷徨い続けている。
我的叫声被遮住,被叫到名字,然后窥视,微微抬起的脸红彤彤的,视线迷茫地徘徊着。
蚊の鳴くような細い声でぽそぽそと、小さく小さく「もういい、恥ずかしいからそれ以上言うな」と聞こえてきて口を閉ざした。
用蚊子般细小的声音,零零碎碎地,小声小声地说“好了,害羞,别再说了”,然后闭上了嘴。
言われないとわからないと言ったり、それ以上言うなと言ったり、まこと人の子はわからぬ生き物だ。
说不知道,说别再说,诚实的人是难以理解的生物。
ならばと額に唇を落とすと、慌てて額に手を当てて顔を上げ、目が合うなり零れ落ちるのではないかと思うほど目を見開いて硬直した。なんだこの可愛い生き物は。
然后把嘴唇落在额头上,慌忙用手按在额头上,抬起脸,一见面就担心会泪流满面,眼睛瞪得大大的,僵硬了。这可爱的小生物是啥?
琥珀が出て行った障子は開いたままで、秋の香りを乗せた風が吹き込んでくる。
琥珀般的屏风敞开着,带着秋意的风儿吹了进来。
かさりと舞う木の葉も増え、砂利も黄色や赤で埋められている。
舞动的树叶越来越多,沙砾也铺满了黄色和红色。
「すまんな」
“没关系”
「なにが」
“什么?”
「気を遣わせてしまった。本当は帰りたかったろう。残ってくれたのは嬉しいが…本当のことを言うとな、少しだけ後悔しておる」
"让你费心了。其实我真的很想回家。留下来虽然很高兴……但说实话,我有点后悔。"
「後悔?」
"后悔?"
「お主に色々と話しすぎた。私のことをよく知らぬままであれば見捨てることも出来たろうに」
"和你说了太多话。如果还不了解我,也许我可以被抛弃吧。"
私はズルイ。
我是错的。
三日月の優しさにつけ込んだに過ぎない。
只不过利用了三日月的好心。
もう一度すまないと口を開こうとした瞬間、三日月の手が伸びてきて私の鼻をぎゅっと抓んだ。
在试图开口说“对不起”的那一刻,三日月的手伸过来紧紧抓住了我的鼻子。
普通に痛い。
很正常地很痛。
三日月を抱えている為に鼻を押さえることもできず、痛みに若干涙目になった私に対する三日月の視線は先程までの照れた表情ではなく、こちらがゾクリとするほど随分と冷めたものだった。
因为抱着三日月,所以无法按住鼻子,面对因疼痛而有点泪眼汪汪的我,三日月的眼神不再是之前的热情,而是变得非常冷漠。
「次にそんなことを言ったら許さない」
「下次再这么说,我就不原谅你了」
「……」
「俺だって、本当に嫌いな奴だったら事情を知ってても見放したし…大体っ、こんな風に触らせるわけないだろう!」
「我如果真的讨厌那个人,即使知道情况也会放弃他...一般来说,不会让他这样碰触!」
言わせるなよこんなこと! とすぐに朱が入る頬に伏せられる目。長い睫毛が落とす影が長いと気づく。
“别说了,这种事情!” 紧接着,脸颊泛起红晕,眼神低垂。注意到长长的睫毛投下的阴影也很长。
怒られていてもこんなところばかり見ているのだから、どれだけ三日月に溺れてしまっているのかがよくわかる。
即使生气,也总是只看这些地方,真是完全沉浸在三日月之中了。
聞いてるのか?と眉間に皺を寄せた表情も魅力的だ。
听到了吗?皱着眉头的表情也很迷人。
きゅっと引き結んだ唇も桜色で美しい。
嘴角紧紧抿在一起,樱色也很美。
「ん…ッ! こら、お前…人が怒ってる時に何考えてる!」
“嗯…!喂,你…人在生气的时候你在想什么!”
びくっと身体を震わせた白い頬が益々赤くなるのを見て、今どういう状態になってしまっているのかを悟る。欲情したつもりはなかったが、無意識なものもこうして伝わってしまうのだからこの術は余程強力なのだろう。それとも、番としての結びつきが成ったからだろうか。
看着那微微颤抖变得越发红润的白皙脸颊,我意识到自己现在的状态。我并没有故意想要引起欲念,但无意识的东西也会这样传达出来,这术法恐怕非常强大。或许是因为作为使者的联系已经形成了吧。
匂い立つような色香はこんな些細なものでも十分に発していて、それに中てられてこちらもより一層求めてしまうのだから悪循環だ。睨みつける瞳を見つめながらゆっくりと唇を重ねると、なにか抗議しようと開いた口の中に迷わず舌を捻じ込んだ。
那种令人陶醉的香气,即使是这样的小事也能充分散发出来,这让我更加渴望。我凝视着那双瞪大的眼睛,慢慢地将嘴唇贴在一起,然后毫不犹豫地将舌头卷入那想要抗议的嘴巴中。
怠いと言っていたのだ、無茶はさせられない。
你说我很懒散,不会让你胡来。
思う存分唇を貪って、それで満足することとしようと決めて後頭部を支えて角度を変えながらより深く、温かい口腔を蹂躙しつくした。
我尽情地吻着,决定就这样满足。我支撑着后脑勺,改变角度,更深、更温柔地蹂躏着口腔。
勿論、終わってから殴られた。
无论怎样,结束后都被打了。
それなりにいい拳をしているが、なにか武道でもやっているんだろうか…?
打得还不错,是不是还练过什么武术?
殴られた頭を押さえながら、先程琥珀と話していた祭のことを三日月に伝えてみた。
按住被打的头,试着把刚才和琥珀说的话告诉了三日月。
すると眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた三日月は目を丸くして興味を示し、小首を傾げながら呟く。
三日月皱着眉头瞪着我,眼睛瞪得圆圆的,好奇地歪着头嘀咕。
「祭?」
「そうじゃ」
「是啊」
「それって隣町のやつか?」
「那是不是隔壁镇的那个人?」
「トナリマチ…」
「梦之城…」
どこからどこまでが人の子の言う町の区切りなのかがわからず、腕を組んで唸る。
不知从何地到何地是人们所说的城镇的分界,只能抱臂叹息。
私達にとってはあくまで誰かの縄張りか否かでしかなく、そうした区切りはもっていないのだから仕方ない。素直によくわからんと告げると、三日月は神社の名を口にした。
对我们来说,这不过是某人的地盘与否,并没有这样的分界,所以也没办法。坦率地告诉我不太懂后,三日月提到了神社的名字。
「おお、そうじゃそうじゃ。そこよ」
哇,没错没错。就是那里。
「へぇ、あそこ琥珀の縄張りだったのか」
哇,那里是琥珀的地盘吗?
「というより琥珀の奥方のな。琥珀はそこに移って共になったからのう」
“与其说是琥珀的另一方,不如说是琥珀的深处。”
「あいつ婿養子だったのか…」
“他竟然是女婿或养子?”
それは色々と大変そうだな、と呟く三日月の中でどんな光景が浮かんでいるかは知らんが、場所がわかるなら好都合。どうやら毎年行われる祭のことも知っている様子だ。
它们似乎在抱怨着各种麻烦,但不知道三日月心中浮现的是怎样的景象,如果知道地点那就方便了。看起来他似乎还知道每年都会举行的祭典。
大きな鳥居をくぐって入ってくる人の子の波の先には、色とりどりの提燈が下がり、賑やかな音楽と立ち並ぶ屋台に湧き上がる空気。
通过巨大的鸟居进入的人群中,彩色灯笼在波浪的尖端低垂,热闹的音乐和并排的摊位中升腾起一股气氛。
時々こちらからも狐の子等が人に扮して紛れ込み、僅かな駄賃を手に何か買ってきては大喜びしていることも珍しくは無い。もっとも、商品をそのまま持ち去って消えるという輩の方が多いわけだが。
有时候狐狸的孩子也会装扮成人类混进来,拿着微薄的报酬买些东西回来,高兴得不得了。不过,拿走商品就消失的人似乎更多。
「この世界以外からも来ることが多いゆえ、賑やかなんてものではないがなぁ」
“因为经常从外界来,所以并不热闹啊。”
「ここ以外にもあるのか、そんなわけのわからない世界」
“除了这里还有其他的世界吗?我并不了解。”
「人の子は精々二つ三つ渡れる程度であったか。私達にとっては合わせ鏡のように無限に広がっておる。世界と世界を渡る際に一瞬姿が見えることもあるそうでな、人の子はそれを見て狐に化かされたと言うそうだ」
“人类的孩子们最多只能穿越两三次。对我们来说,它们就像无限广阔的镜子。在穿越世界与世界的间隙时,有时会看到一瞬的景象,人类的孩子们看到这些就会说被狐狸欺骗了。”
例えば、さっきまで誰もいなかった場所に突然誰かが立っていたり、かと思えば瞬きする間に消えていたり。
例如,刚才还空无一人,突然有人站在那里,或者你以为是这样,眨眼间就消失了。
例えば、一緒に遊んでいる子供の人数が増えている気がして、人数を確認してみると実際は元の人数であったり。
例如,感觉一起玩耍的孩子人数增加了,但确认人数时实际上还是原来的数量。
そうした一瞬の間だけそこに存在しているように錯覚するのは、たまたま渡っている最中である場合が多い。
这种错觉,只在一瞬间感觉存在,通常是在偶然经过的时候。
「そうか。祭か…」
“哦,是庆典吗……”
「祭は好かんか?」
「你喜欢祭典吗?」
「いいや」
「不了」
「ならば今度連れて行ってやろう。きっとお主も気晴らしになる」
「那么下次我带你去。你肯定也会心情愉快的。」
それを聞いた三日月は、本当か? と目を輝かせた。
听到这话,三日月眼中闪过一丝疑惑。
祭が好きなのか、それとも退屈なのか。両方かもしれない。
你喜欢祭典,还是觉得它无聊?可能两者都是。
するりと布擦れの音を立てて立ち上がり、戸を開け放つ三日月の姿はここへ来たばかりの怯えて泣いた姿とは違い、何かを吹っ切ったように凛としている。否、実際吹っ切ったのだろう。
她轻快地擦着布,站起来,推开大门,那弯月的身影与刚刚到来的胆怯哭泣的形象不同,仿佛释放了什么,显得坚定。不,实际上应该是释放了什么。
そうさせたのは私だと思うと、必ず大切に守らねばという思いが沸々と湧き上がる。
我觉得是我让她这样的,一种必须好好守护她的强烈愿望涌上心头。
いずれ琥珀に頼らずとも三日月に安心してもらえるようにせねば。
我必须让她不依赖琥珀,也能安心地依靠弯月。
どうにも三日月は未だに琥珀を介してでないと私との距離を掴めぬ様子だ。それは私も同じこと。情けないことこの上ないと自覚はしつつも、まだまだ手探りなのは私が未熟ゆえか。
无论如何,三日月还是无法通过琥珀与我拉近距离的样子。对我来说也是一样。虽然深感惭愧,但仍然摸索前行,或许是因为我还不够成熟吧。
「三日月よ」
「三日月啊」
「ん、なんだ」
「嗯,怎么了」
「好きじゃ」
「喜欢」
まずはきちんと伝えること、これを忘れぬように。
首先要好好传达,要记住这一点。
そう考えて口を開くと、途端に三日月は真っ赤になって振り向こうとした動きをぴたりと止めた。
这样想着,开口之际,月亮突然变得通红,转过头来的动作瞬间停止了。
手で顔を覆い、恥ずかしい奴…と小さく呟く声が聞こえてきて苦笑してしまった。愛してると伝えるのも恥ずかしいからもういいと言われたから好きだと言ったのに、これも駄目とは難しいことを言う。
用手遮住脸,小声嘟囔着“羞耻的家伙……”忍不住笑了出来。因为爱而感到羞耻,所以当被说“再见了”时,尽管已经说出了“我喜欢你”,但说出“这也不行”是件困难的事。
これも、今後の課題であろう。
这也是未来的课题之一。
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□
「では、すぐに戻る」
那么,马上回去
「あぁ」
哎呀
夜。
昼間はずっと小狐丸がなにやら俺との距離を測ろうと試行錯誤しているらしい空気が伝わってきて、こちらも何かするべきなのかと考えるだけで疲れてしまった。慣れないことはするものじゃない。こういうのはいつも鶴丸の役目だった。
白天,总觉得小狐丸在尝试测量与我之间的距离,这种气氛让我感到疲惫,只是考虑该做些什么就已经让我筋疲力尽。我不擅长做不熟悉的事情。这种事情向来是鹤丸的责任。
気疲れを起こした俺は小狐丸が沸かしてくれた湯に早めに浸かり、入れ替わりに風呂に入ろうとする小狐丸に微笑まれながら寝室となっているいつもの部屋に戻ろうと歩を進めた。
我感到疲惫不堪,小狐丸为我烧好了热水,我赶紧泡进去,然后看着小狐丸也想要替换着洗澡,微笑着回到了平时睡觉的房间。
普段水浴びで終わるらしい小狐丸も、俺の習慣を真似て風呂に入ることを覚え、最初は熱い熱いと言っていたが少し水を足すことでなんとか入れるようになったようだ。もっとも、それがあるから俺が先に風呂に入ることになるのだが。
虽然小狐丸平时只是洗个澡,但他也开始模仿我洗澡的习惯了。一开始他说水太热了,但后来加了点水,好像就能泡进去了。不过,也因此我先洗澡了。
以前一緒に入ろうと言われて困惑したのは、一緒に入ると何をされるかわからないと思ったのもあるのだが、そうした意味もあった。隣で熱さに必死に耐えられても非常に困る。
以前有人邀请我一起洗澡时,我感到困惑,一方面是因为不知道会发生什么,另一方面也是因为这个。旁边的人拼命忍受着热度,对我来说非常难受。
ともあれ、少しでも俺に合わせてくれようとする姿勢はありがたい。
总之,能稍微迁就我,我很感激。
こちらの世界では冬が長いらしく、迫り来る季節の変わり目に備えた空気は枯葉の匂いを含んでいた。
这个世界冬天很长,空气中弥漫着落叶的气味,为即将到来的季节变换做准备。
草履越しに土の感触を踏み締めながら、本殿へ向かう。途中で部屋に備えていた水差しの中身が無くなっていた事を思い出し、たまには自分で汲んでこようと歩を進めた。
踏着草鞋,感受着泥土的触感,朝着正殿走去。途中想起房间里准备的水壶里的水已经用完了,于是决定偶尔自己取水,继续前行。
外に面した戸を開ければ直接部屋に入れる構造になっているそこへ、草履を脱いで膝立ちで入って手を伸ばす。広い部屋だが、俺が外を見たがるためか布団も水差しやグラスの載った盆も近い場所にあった。
打开朝外的门可以直接进入房间,脱下草鞋,跪在地上,伸手进去。房间很宽敞,但因为我总是想向外看,所以被子、水壶和放有玻璃杯的盆都放在了近处。
二重になった戸はまだ残暑の熱を孕んだ空気のために障子戸の方にしてあり、外の月明かりがほんのりと室内を照らす。
由于还残留着夏天的热气,双重门还是关着的,月光从纸门透进来,微微照亮了室内。
灯りをつけようかとも思ったが、俺はここの灯りをつけられないので小狐丸が戻るのを待つしかない。同じ理由で持ち歩ける灯りも無く、手にした水差しだけを持って井戸の方へ足を向けた。
我想开灯,但我无法开这里的灯,只能等待小狐丸回来。同样,我也无法携带手电筒,只能拿着水壶朝井的方向走去。
俺のいた世界では、子供が落ちて怪我でもしたら大変だと囲いと重い蓋で厳重に封をされていたと記憶している裏庭の井戸は、ここでは飲み水の他にも洗濯や風呂などの生活用水としてしっかりと機能していた。蛇口を捻っても水が出ないのだから仕方ない。
在我的世界里,我记得那个被围栏和沉重的盖子严密封闭的井,位于后院,不仅用于饮用水,还用于洗衣、洗澡等生活用水。因为即使拧动龙头也没有水流出,所以也没办法。
枯渇することを知らないのだろうかと思えるほど豊富に蓄えられている井戸水はとても綺麗で、こちら側の世界がいかに俺の暮らした世界と違って人間の出す汚物に汚染されていないかがわかる。
恐怕是井水储备得如此丰富,以至于可以感受到它的清澈,从而明白这个世界的环境与我曾经生活的世界有多么不同,没有被人类产生的污物所污染。
空気も、不純物が少ないと感じるのはこちらに馴染んできたからだろうか。
感觉到空气中的杂质很少,也许是因为我已经习惯了这里吧。
井戸の隣には古びた小屋があり、そこには小狐丸がせっせと溜め込んだ薪が積んである。その隣にまさかのドラム缶があり、どこから拾ってきたのかは知らないがそれを使って湯を沸かし、やはりせっせと風呂場に運んでいるのだからいつの時代だと突っ込みたくなったのは記憶に新しい。電気も通っていないこの場所でどうやって湯を沸かしているのかと思っていたが、とても原始的な方法だった。確かに直接火を熾して湯を沸かすことが出来る構造の風呂ではなく、ステンレス製のものではあったが。
井边有一间破旧的小屋,里面堆满了小狐丸辛勤收集的柴火。旁边竟然有一个铁桶,不知道是从哪里捡来的,用它来烧水,然后不辞辛劳地运到浴室。记得当时很惊讶,在这个不通电的地方,竟然能用电烧水,而且方法非常原始。虽然不是直接用火加热的浴缸,但毕竟是用不锈钢制成的。
大体壁が邪魔で火を熾す場所が無いけれど。
大概是因为墙壁挡住了,没有地方可以生火。
よってこのドラム缶からは、余った湯がまだ湯気を上げていた。
因此从这个空罐头里,还有剩余的汤还在冒热气。
「この世界にある物はどういう法則で存在してるんだろうなぁ」
“这个世界上的东西是以什么法则存在的呢?”
家も、井戸も、神社も、向こうの世界で見たものだ。見たものではあるが、どれも向こうではくすんで朽ちた色をしてボロボロになっているものも少なくないのに、こちらでは新品のように綺麗だ。時間の流れはどちらかと言えばこちらの方が早いというのに。
家、井、神社,都是我在另一个世界见过的。虽然见过,但它们在另一个世界都变成了暗淡的颜色,破烂不堪的也不少,而在这里却像新品一样干净。时间流逝的速度似乎这里更快。
小狐丸の話では、少なくとも小狐丸達の種族は一定の年齢まで達せばそこから成長しなくなるそうだが、ここにある物も同じ条件なのだろうか。
据小狐丸所说,至少小狐丸他们种族的人在一定年龄之后就不会再成长了,这里的物品也是同样的条件吗?
家の中にある物も、食器や食品などといったものは見当たらないのに、箪笥や衣類は存在した。石鹸などは無いが、湯船は存在した。衣類は小狐丸がどこかから持って来ているのを見かけたので、もしかして消耗品の類はこちらの世界には反映しないのだろうか。食品は食べる必要が無いこちらの世界では確かに無意味だろう。石鹸やシャンプーなども、どこからともなく小狐丸が持って来ていたが、実は三回ほど石鹸ではなく洗剤を持ってきたし、シャンプーとコンディショナーの違いがわからず同じ物をいくつも持ってきて首を傾げていた。
家中にある物も、食器や食品などといったものは見当たらないのに、箪笥や衣類は存在した。石鹸などは無いが、湯船は存在した。衣類は小狐丸がどこかから持って来ているのを見かけたので、もしかして消耗品の類はこちらの世界には反映しないのだろうか。食品は食べる必要が無いこちらの世界では確かに無意味だろう。石鹸やシャンプーなども、どこからともなく小狐丸が持って来ていたが、実は三回ほど石鹸ではなく洗剤を持ってきたし、シャンプーとコンディショナーの違いがわからず同じ物をいくつも持ってきて首を傾げていた。
馴染みが無いのだろうから仕方ないが、あれはまさか例の一定の時間だけその気になれば向こうの世界に出歩けるという、カミサマ特有のチートな能力で勝手に持ってきたものではないだろうかと思っているが、多分追求したところで何がいけないのかわからないという反応をされるのだろう。
適任が無いのだろうから仕方ないが、あれはまさか例の一定の時間だけその気になれば向こうの世界に出歩けるという、神明特有のチートな能力で勝手に持ってきたものではないだろうかと思っているが、多分追求したところで何がいけないのかわからないという反応をされるのだろう。
井戸に向き直り桶を放り込むと、そう深くない位置で水音がした。カラカラと引き上げた水を水差しに移し、桶を置く。あまりに深いと持ち上げられるか不安だったが、この程度なら俺でも扱えるなと一人頷き、さて小狐丸が戻る前に部屋に帰っていようと水差しを持ち上げた。
途端、ぞくり、と背筋が凍るような感覚に襲われた。
途端、ぞろり、と背筋が凍るような感覚に襲われた。
空気が一気に重くなったような、異質な感覚。
空气突然变得沉重,有一种异样的感觉。
目の前の井戸に異変は無い、どちらかと言えば肌に感じる空気に変化が起こったような気がする。
眼前的井口似乎并无异样,但感觉是皮肤上感受到的空气发生了变化。
先程まで残暑の空気とはいえそれなりに心地良い風が吹いていたというのに、肌に触れる風が粘度を増したかのように纏わりつく。
就连刚才还残留着暑气的空气,现在吹来的风也变得粘稠,像是紧紧地缠绕在皮肤上。
それだけではない。
不仅如此。
水差しを手に俯いたままの状態でもわかる、確かな視線。
即使手拿水壶低头,也能感受到那坚定的目光。
じわじわと侵食するかのようなそれに、皮膚が粟立ちじっとりと汗ばんでくる。
就像慢慢侵蚀的侵蚀,皮肤上起了一层鸡皮疙瘩,汗珠慢慢渗出。
首の後ろがチリチリとした感覚に襲われ、危険を訴えるように思考を、視界を、赤く染めて警笛を鳴らす。
脖子后面被刺刺的感觉袭击,思维、视野都被染成红色,像是在呼救,警报声响起。
そろり、とゆっくりゆっくり顔を上げると、薪の積まれた小屋の向こう。木々の覆う茂みの中から、じぃ、とこちらを見つめる白い貌。
慢慢地、慢慢地抬起头,看到堆满木柴的小屋对面,树木覆盖的灌木丛中,一个白色的面孔静静地注视着我们。
その貌と目が合い、瞬間、ぞろりと伸びた黒い髪を揺らしながらかくりと首を傾げるかのように倒した、女性と思われるそれがにたりと嗤い…
她与目光交汇,瞬间,像是要摇晃那乌黑的头发,轻轻地倾斜了头,像是在微笑...
「ッ…ッ―――――ッ!!」
“嘶...嘶——!!”
声にならない悲鳴が喉から噴出す。
喉咙紧缩,无声的悲鸣从喉咙中喷涌而出。
引き攣った喉がビリビリと無理矢理に声を絞り出そうとして、肺の酸素を全て吐き出す勢いで形にならない絶叫が鼓膜を叩くが、それは力の限りに叫んでいるにも拘らず殆ど声にならずに掠れた呼吸音だけを響かせる。
喉咙紧绷,试图艰难地发出声音,像是要把肺中的氧气全部吐出,那不成形的尖叫敲击着鼓膜,尽管她尽力呼喊,但几乎听不到声音,只有那刺耳的呼吸声在回荡。
頭蓋の奥で反響する悲鳴を声と錯覚して煩いほどだが、実際は風の音とそれに揺れる枯葉の擦れる音ばかりだ。
似乎在头盖骨的深处回响的悲鸣声和错觉一样令人烦躁,但实际上只是风的响声和枯叶随风摇曳的摩擦声。
一歩、白い影が動いた気がした。
感觉到一步之遥,白色的影子动了。
勿論こちらへ、少しずつ接近しようとしている。
当然是朝这个方向,正在逐渐靠近。
水差しを取り落としそうになりながら、本能が逃げろと告げるままに足を動かそうとするが、根でも張ったのではないかと思うほどぴくりとも動かなかった。
似乎要被水壶绊倒,尽管本能告诉我逃跑,但脚却动弹不得,仿佛根深蒂固一般。
腿が動けと意識の命令を受けて痙攣するが、膝から先は麻痺した脳の影響か動かない。
腿部在接收到意识命令后开始抽搐,但膝盖以下因脑部影响而瘫痪,无法动弹。
そうしている間に更に一歩、一歩、茂みの奥から覗く顔が、顔だけではなく胸部まで現れ、腰まで見えるようになり、それでもこちらへ向かってこようとしているのがわかる。
在这段时间里,从灌木丛中探出头来的人影,不仅脸部,连胸部都露了出来,腰部也隐约可见,似乎还在朝这边走来。
逃げなきゃ、逃げなくちゃ、なんで動かないんだ!
快跑啊,快跑啊!为什么就是动不了!
遂に膝の力が抜けて井戸の縁に手を掛けてなんとか立っているだけの状態になってしまう。
最终膝盖的力气耗尽,只能抓住井口边缘,勉强站立在那里。
奥歯が音を立て、温い空気を一層重く感じたその時、
那时,牙齿发出声响,感觉温暖的空气更加沉重,
―――肩になにかが、触れた。
——肩上似乎被什么触了一下。
「ひ――――っ!」
“嘶——!”
「三日月?」
“新月?”
目の前が真っ白になるほどの恐怖の中、聞こえたのは小狐丸の声だった。
在一片让人眼前一亮的恐怖中,我听到了小狐丸的声音。
同時に空気の重さが消え去り、今度こそ俺はその場に崩れ落ちた。
同时,空气的沉重感消失了,这一次我终于在那个地方倒下了。
「どうした、こんな所で…あぁ、水か。言えば持って行ってやったものを。喉でも乾いたか」
“怎么了,在这种地方……啊,水吗?说了就会给你拿过来。喉咙也干了吗?”
優しく声を掛けてくれる小狐丸の手は温かくしっとりとしていて、たった今風呂から出てきて本殿に移るところだったのだとわかる。が、正直そんな余裕は俺には無かった。
小狐丸温柔地呼唤我的手温暖而湿润,我刚刚从浴室出来,正要移到主殿。但说实话,我没有那样的闲情逸致。
身体が今更に震え始め、慌てて顔を上げるが先程の白い女性らしきものは居なくなっていて頭が混乱する。
身体突然开始颤抖,慌忙抬起头,但刚才那位白衣服的女性已经不见了,头脑一片混乱。
「こ、こぎ、こぎつね…っ」
“咕、咕、咕咕……”
「うん?」
“嗯?”
「だれか、だれかいた…! おんなのひと、しろい、おれのことみてた…」
“有人,有人来了……! 女人,白色,她看着我……”
「誰かじゃと? どこに?」
谁啊?在哪里?
「あ、あっち…」
啊,那边…
「ふむ」
「嗯」
恐る恐る指を指した方向へ視線を投げた小狐丸は、なんの迷いも無くそちらへ歩いて行ってしまう。
小狐丸小心翼翼地指向那个方向,毫不犹豫地走了过去。
「まっ、まって、こぎつねまる…!」
「等等,等等,小狐狸丸……!」
「すぐ戻る」
「马上回来」
まだ恐怖で歯の根が合わず、上手く呂律が回らない。
仍然因为恐惧而牙齿紧咬,说话不利索。
ゆらゆらとまだしっとり濡れている髪を緩く束ねた尾が揺れながら俺の元を離れていくのが酷く不安で仕方がなく、確認しに行く小狐丸から目が離せない。
那摇曳着还湿漉漉的头发,轻轻束起尾巴离开我,让我感到极度的不安,无法移开视线,一直盯着确认的小狐狸丸。
奥の茂みまで行った小狐丸は辺りをぐるりと見回してから首を傾げ、何事も無いまま戻ってくる。
小狐丸走到茂密的树林,四处张望一番后,若无其事地返回。
何も居なかったと言う顔は少しだけ困ったように笑っていて、俺が何かを見間違えて勝手にビビッて腰を抜かしたのだと思っているのであろうと伺えた。
面带“什么都没有”的表情,他微微苦笑,似乎认为我误判了什么,自己吓得腿软了。
そんなんじゃないのに。
还是不行呢。
もしもまた、あの駅付近で見かけたような奴がこの辺りに来ているなら安心なんて出来やしない。
如果又是在那个车站附近看到那种家伙来到这里,也不可能安心。
「本当だ、本当になにか…」
"真的,真的有什么……"
「わかったわかった。ほれ、部屋に戻ろう。私が傍についておる故案ずるな」
"明白了,明白了。看,回房间去吧。我会跟着你的,别乱来"
「小狐丸!」
"小狐丸!"
「なんじゃ、立てぬか?」
“怎么,站不起来吗?”
言うなり俺を抱え上げた小狐丸は、苦笑しながら本殿の方へ向かって歩き出した。
言说中抱起我的小狐丸,苦笑着朝本殿走去。
水差しを抱えたままぎゅっと身を硬くして、小狐丸の肩越しに後ろの方を見るのが怖くて俯いた。
拿着水壶,紧紧地绷直身体,从小狐丸的肩膀后面看后面的方向感到害怕,所以低下了头。
だから気づけなかった。
因此没有注意到。
小狐丸の困ったような笑顔が、いつの間にか鋭く辺りを窺うものになっていたなんて。
小狐丸那略显尴尬的笑容,不知何时变得锐利,窥视着周围。
*
部屋の隅に明かりが灯る。
屋角亮起了灯光。
カタン、と桐の小物入れから小狐丸が取り出したのは赤い漆塗りの煙管だった。
卡坦,从桐木小物盒里拿出的是一支红色的漆烟管。
金の模様が施されたそれを咥えたかと思ったら、小狐丸は火を入れぬままに大きく吸った。
以为咬住了上面有金色图案的东西,没想到小狐丸没点火就大大地吸了一口。
ふぅ、と煙管を口から放して息を吐くと、火を入れていなかったはずなのに形のいい唇からは薄い紫煙が吐き出されて室内を漂った。
呼,把烟管从嘴里吐出来,吐气时,虽然没点火,但从好看的嘴唇里却吐出了淡淡的紫色烟雾,飘满了房间。
俺はゆるりと燻らせた紫煙が二度三度と室内を漂うのを見つめながら、一体何が起こったのかわからず膝を抱えていた。
我一边看着那淡淡的紫色烟雾在房间里飘来飘去,一边不知道发生了什么,抱着膝盖发愣。
「三日月。さぁ、顔を上げよ」
三日月。快抬头吧
頬に手を添えられて顔を上げさせられた俺の唇に、いつものように小狐丸の唇が重なる。
被她轻轻放在颊上的手抬起了我的头,像往常一样,小狐丸的唇再次贴上了我的唇。
神気を注ぐためのその行為が、この時はほんのりと苦味を帯びていた。
这次,为了注入神气的这个动作,带有一丝苦味。
先程から口にしている煙管のせいだろうと、反射的に閉じた瞼を持ち上げて焦点が合わずにぼやける距離にある顔を見つめると、小狐丸は唇を放してまた煙管を口にし、大きく息を吸ってから唇を重ねてきた。
应该是之前叼在嘴里的烟斗的缘故,我本能地抬起了闭上的眼帘,但视线模糊,看不清她的脸,小狐丸松开了唇,又把烟斗放回嘴中,深深地吸了一口气,然后再次贴上了唇。
今度は直接紫煙を吹き込まれ、驚いて身を放そうとする前に後頭部を支えられた。
这次直接被吹入紫烟,在惊讶地想要放松身体之前,后脑被支撑住了。
拒むな。吸い込め。そういうことだろうと受け取って、苦いそれを受け入れた。
不要拒绝。吸进去。我猜应该是这样,苦涩地接受了。
小狐丸の舌が唇を割って滑り込んできて、ゆっくりと俺の舌を絡め取って唾液を注ぐ。
小狐丸的舌头舔破嘴唇滑进来,慢慢地缠绕住我的舌头,吐出唾液。
目の前の淡い灰色の単衣を握り、与えられるものをひたすら受け入れることで応える俺の反応がお気に召したのか、重ねた唇を放しもせずに布団に押し倒された。
握住眼前的淡灰色单衣,仅仅通过接受所给予的一切来回应,我的反应似乎很得你心,你甚至没有放开重叠的嘴唇,就把我推倒在被窝里。
一瞬煙管は大丈夫かと思ったが、そういえば火を入れていないのだったとその考えをあっさり切り離した。
我以为那一瞬间烟管没事,但突然想到还没点火,这个想法立刻被否定了。
「三日月…」
“新月……”
「間違っても盛るなよ」
“就算错了也不要倒掉”
「随分と酷なことを言う」
“说得很过分了”
「昨日もやったろう。いい加減腰がいかれる」
“昨天又做了吧。腰都要累断了。”
くつくつと笑って煙管を咥え、同じように何度か紫煙を口移しで吹き込まれた。
笑着叼着烟斗,同样地吸了几次紫烟。
一体これはなんなのか。
这究竟是什么?
その後も暫く室内に紫煙を撒いていた小狐丸は、俺を抱き寄せて告げた。
之后还撒了会儿紫烟的小狐丸,把我搂过去告诉了我。
「これより数日、この部屋を出ることはならぬ」
「在此数日内,不得离开此房间。」
「は?」
"吗?"
「案ずるな。お主はちゃんと私が守る」
「不要担心。我会好好保护你的。」
ちょっと待てなんの話だ。
「稍等,这是什么话。」
そう問いかけようとした時、先程見た白い女性の姿が頭の中を過ぎった。
「正要问时,刚才看到的那个白裙女子的身影从脑海中掠过。」
もしかして、なにかヤバイものに目をつけられているのだろうか。
也许我被什么可怕的东西盯上了。
俺が青褪めて硬直したのに気づいたのか、枕元に煙管を置いた手が何度も背を撫でた。
我注意到自己脸色苍白,身体僵硬,手放在枕头边,多次抚摸着背部。
優しく包むようなそれに身を預け、白くぼんやりと月明かりを透かす障子戸の向こうに何かいるような気がしてそちらを見ることが出来ずに、小狐丸の胸に顔を埋めた。
在那温柔的怀抱中,我仿佛感觉到月光透过模糊的纸窗,对面似乎有什么东西,但我无法看清楚,只能把脸埋在小狐丸的胸口。
小狐丸に抱き締められたまま、もう寝てしまおうと目を閉じた。
被小狐丸紧紧抱住,我闭上眼睛,准备入睡。
瞼の裏に作られた薄い闇は小狐丸が狐火で灯した室内の明かりをほんのり透かしていたが、胸に顔を押しつけて背中に腕を回した俺の行動に気を好くしたのか、小狐丸の腕にも力が篭った。
眼窝里透出的淡淡黑暗,透过小狐丸用狐火点亮的室内灯光,似乎在欣赏着我的动作,小狐丸的胳膊也充满了力量。
石鹸の匂いと先程の紫煙の匂いが微かに鼻腔を擽り、まだしっとりとして乾ききっていない髪が頬に触れて少し冷たい。
肥皂的气味和刚才紫烟的气味微微刺激着鼻腔,湿润的头发触碰到脸颊,有些凉意。
自慢の毛のくせにそんな雑な扱いでいいのかと頭の中を過ぎるも、俺が怯えていたから髪の手入れを放ってでもこうして抱き締めてくれているのだと考えると悪くはない気がした。
虽然对自己的头发有些自豪,但被这样随意对待似乎也不坏。想到自己虽然害怕,但还是被她放下头发紧紧抱住,感觉还不错。
温かな腕に包まれていると、先程のことが嘘のように感じられる。もしかしたら何かを見間違えたのだろうかと、何かが居るという先入観に囚われていただけなのだろうと、そう思えてくる。
被温暖的胳膊包围着,刚才的事情感觉像是谎言。也许是我看错了什么,也许是我被某种先入为主的观念所束缚,这样想起来。
…………ぃ…。
……有点……。
瞼を閉じてどれほど経ったか。
闭上眼睛,过去了多久。
ふと耳に何かが届いた気がして沈みかけた意識が浮上する。
突然觉得耳朵里传来什么,几乎要失去意识的时候又清醒过来。
小狐丸が何か言ったのだろうかと思ったが、聞こえてくるのはいつの間にか俺を抱いたまま眠ったらしい小狐丸の規則正しい寝息のみ。
小狐丸似乎说了些什么,但听到的只有他似乎在我怀里睡着的规律呼吸声。
障子戸を閉めたこの部屋には、風の音も少し聞こえるために隙間風の音でも拾ったのだろうと考えるのは当然で。
这间关上拉门后,能稍微听到风声,所以很可能也捕捉到了缝隙中的风声。
けれど気にしてしまうのは、やはり外で見た人影らしきものを気にしているからだろう。
然而,我之所以会介意,可能是因为我在外面看到了类似人影的东西。
気にしないようにして眠ろうとすると、また何かが聞こえてきた。それは細く吹く風のようでもあり、人の声のようでもあった。
尝试不去在意而入睡,却又听到些什么。那既像微风轻拂,又似人声低语。
よく聞き取れないそれに次第に意識を奪われ、耳を澄ませて先を探ってしまう。
由于听不清楚,意识逐渐被夺走,不得不竖起耳朵寻找声音的来源。
細く細く聞こえてくるものが、『呻くような女性の声』に聞こえると感じた瞬間、ぞくりとしたものが背筋を駆け上がり、ブワッと鳥肌が立つ。
当听到细微的声音,感觉像是“呻吟的女声”时,瞬间感到一阵寒意从脊背升起,鸡皮疙瘩瞬间冒出。
慌てて小狐丸を起こそうと思ったが声は出ず、身体も硬直して動かなかった。
慌忙想要叫醒小狐丸,但发不出声音,身体也僵硬,无法动弹。
ぴたりと小狐丸に抱かれたまま目を開けることも出来ず、すぐ近くから穴が開くほど真っ直ぐに、じぃ、とこちらを見ている女性の姿を感じ取り、どうにかしてこの事を小狐丸に伝えられないかと混乱する頭で必死に考えた。どれほどに考えても、動くことも声を出すことも出来なくては何も伝えられないのだという当たり前のことにさえ気が回らない。
我无法睁开眼睛,被小狐丸紧紧抱住,从附近就能看到洞口直直地、咦,感觉到那个女人在看着我,我拼命地想办法把这件事告诉小狐丸,但我的头很混乱。无论怎么想,我无法动弹,也无法发出声音,因为很明显,如果不这样做,我就无法传达任何信息。
手を伸ばせばすぐにでも背に触れるのではないかと思える濃密な『気配』は、俺に呼吸をも忘れさせるほどだった。
那种几乎一伸手就能触碰到背的浓烈“气息”,让我连呼吸都忘记了。
いやだ、いやだ、なんなんだいったい。
不行,不行,这是怎么回事。
恐怖に塗り潰されゆく意識の片隅で、白い手がぬっとこちらに向けて伸ばされたような感覚を受けて脳ではパニックを起こした俺の声に出せない悲鳴が反響し、懸命に気配を、呻き声を、意識から遠ざけようと働きかける。
在被恐惧淹没的意识边缘,我感觉到一只白手突然向我伸来,我的大脑中产生了恐慌,我无法发出悲鸣,拼命地试图将气息、呻吟声从意识中排除。
意識の片隅に、やがてこちらを見つめる女性の影が這い寄って来る様を幻視して、硬直した身体が小刻みに震え、そして、
在意识的一角,逐渐幻视到那位看向这里的女性身影爬过来,僵硬的身体微微颤抖,然后、
…ちょ、ゥ…だイ…。
…嗯、嗯…是的……。
遂に声は耳元で―――――…
遂に声は耳元で……
「ッあああああああああああああああああ!!!」
「啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊!!!」
「ぅお! ビックリした」
“哇!吓了一跳”
ガバッと勢いよく跳ね起きた俺を迎えたのは、目を丸くした小狐丸と明るい外の日差しだった。
突然跳起来,迎接我的是瞪大了眼睛的小狐丸和明媚的阳光。
いつの間に眠ったのかわからないが、ぐっしょりと汗をかいた俺を心配してか小狐丸の手には濡らした手拭いが握られていた。
不知何时睡着的,我满头大汗,小狐丸担心地握着湿漉漉的手巾。
「なんじゃ、怖い夢でも見たか?」
“怎么了,做了什么可怕的梦吗?”
困ったようにふわりと微笑んで、手拭いで額や首筋に浮いた汗を拭ってくれる小狐丸の言葉に、果たしてあれは本当に夢だったのだろうかと、冷たい恐怖に塗り潰された思考が考えることを拒絶するかのように頭痛として襲ってきた。
困難地微笑着,用毛巾擦拭额头上和脖子上冒出的汗,小狐丸的话让我不禁怀疑,那真的是梦吗?冷冽的恐惧将我的思绪淹没,头痛如同袭击一般袭来。
何も言えずに俯いて自分の身体に腕を回す俺を優しく撫でながら、大丈夫だと小狐丸は尚も囁く。
无言地低头,轻轻抚摸着我绕着身体的手臂,小狐丸还在轻声说“没关系”。
一体なにが大丈夫だというのか。もしもあれが夢でなかったとしたら、あの後俺は何をされるところだったのか。何もわからないくせに適当なことを。
一体哪里没问题?如果那不是梦的话,我接下来会遭遇什么?尽管什么都不懂,却随意行事。
恐怖に荒んだ心は尖った矛先を小狐丸に向けようとするが、見上げた先の気遣う笑顔にそれすらも消えていく。当たっても仕方がない。そんなことはわかっているんだ。
恐惧地狂乱的心想要将尖锐的矛尖指向小狐丸,但抬头看到的关切笑容却使这一切都消散。即使击中也无法改变。我明白这一点。
「また、女の人が…」
「又,女人……」
「昨日言っておった奴か?」
“昨天说的那个人吗?”
「……多分」
“……可能吧”
そうだと思う、と続けようとした視線の先で、紅い瞳が急に鋭く光った気がして息を飲む。
想继续说下去,却感觉视线尽头,那双红色的瞳孔突然变得锐利,让人呼吸一滞。
獲物を狩る獰猛な獣を髣髴させる瞳に、二の句が継げなくなってしまう。
那双像是在狩猎猎物的凶猛野兽般的瞳孔,让人说不出话来。
そうか、とひとつ呟いた小狐丸は徐に煙管の入っていた桐の箱を手繰り寄せて中から古びた櫛を取り出した。普段小狐丸が髪を梳いているのとは違うそれは、なんの装飾もない飴色の物で、女性用の物と考えるには些か大きいように感じた。
是啊,小狐丸轻声自语,慢慢地拿起放着烟管的桐木箱,从中取出一把旧式的梳子。这把梳子与小狐丸平时梳头用的不同,没有任何装饰,是淡黄色的,感觉比女性用的要大一些。
よく見れば歯が数本欠けていて、これで髪を梳けば耐え切れずに新たに歯が欠け落ちるのではないかと思わせるには十分だった。
仔细看的话,有几颗牙齿掉了,这样梳头可能会承受不住而再次掉牙。
小狐丸はその櫛に指を掛け、意図的に歯を四本折った。櫛を箱に戻し、折った歯だけを手に立ち上がると部屋の四隅に一本ずつ、畳に突き立てるように埋め込んだ。
小狐丸将手指放在梳子上,故意折断了四根牙齿。将梳子放回盒子里,只拿着折断的牙齿站起来,将它们分别嵌入房间的四个角落,像钉子一样插入榻榻米中。
「三日月、私は暫し出かける」
「三日月、私は暫し出かける」
「三日月,我暂时出去一下」
「え」
「啊」
「昨日も言うたが、この部屋から出るな。それから、何かが聞こえても決して声を出してはならぬ」
「昨天也说过,不要从这个房间出去。如果听到什么声音,也绝对不能出声。」
「え、え、どういう…」
“嗯,嗯,这是什么意思……”
「良いな?」
“不错吗?”
あまりに真剣な声に、俺は本当にヤバイものに目をつけられているのだと改めて感じて青褪めた。
他的声音太过严肃,我再次感到自己正被可怕的东西注视着,脸色变得苍白。
「な、んで、どこに…」
“那、怎么、在哪里……”
「確認したいことがある。この部屋には今結界を張った、少しの間ならもつじゃろう」
“我想确认一些事情。现在我在这个房间施了一个结界,短时间内应该没问题。”
「少しって」
“稍微吧”
少しじゃ困るんだが。
稍微有点困了。
困惑しながら見上げる俺の頭を撫でた後、ぐるりと小狐丸の周りを炎が舞った。かと思ったら、その炎が消えた時には初めて小狐丸を見かけた時の、山吹色のあの着物を纏っていた。突然の早着替えに突っ込む余裕などありはしない俺には、本当にこれから俺を置いてどこかへ行く気なのだという危機感しか浮かばない。だって、この結界とやらがどの程度の効力をもつかわからないのに、一体何が俺を狙っているのかもわからないとあっては安心など出来るはずがない。
在抚摸着我困惑地仰望天空的头之后,火焰在小狐丸周围舞动。没想到,当火焰消失时,我第一次看到小狐丸时,他正穿着那件山吹色的衣服。对于我这样一个突然换装都没有余裕的人来说,这让我感到一种危险感,仿佛他真的要把我留在这里,去往别处。毕竟,这个结界有多大的效果我也不知道,而且我也不知道究竟在针对我什么,所以怎么可能安心呢。
ここ最近ようやく不可思議な現象に馴染み始めたばかりの俺では、まだまだ耐性などつくわけがないんだ。怖いものは怖いし不思議なものは不思議だし、狐が喋るとか外に出ると妙なのがうろついてるだとか、それだけでもう精一杯だというのに、これ以上なにがあると言うのか。
最近我刚刚开始习惯这些不可思议的现象,所以我还没有建立起任何抵抗力。可怕的东西很可怕,神奇的东西很神奇,狐狸会说话,出去时会遇到奇怪的事情,光这些就已经让我筋疲力尽了,还有什么更可怕的呢?
俺の前に跪き、恭しく手を取って指先に唇を寄せた小狐丸のふわふわの髪が風もないのに揺れる。
我跪在他面前,恭敬地伸出手,将嘴唇靠近指尖,小狐丸柔软的头发在无风的情况下轻轻摇曳。
表情が硬いであろう俺を安心させようとしたのか、もう一度微笑んでから小狐丸は振り向かずに出て行った。一人ぽつんと取り残された部屋には、あの紫煙の香りが残っていた。
试图安慰表情僵硬的我,小狐丸微笑了一下,然后没有回头地离开了。被孤零零留下的房间里,还残留着那紫烟的香气。
*
カタ。
咔哒。
戸が揺れる音がした。
听到门摇晃的声音。
それだけでビクリと肩が跳ね上がる。
就这样,我不禁肩膀一震。
布団を被ってじっと蹲る俺の耳には、風の音と自分の煩いほどの心音ばかりが響いていた。
我蹲在床上,只听到风声和自己的心音在耳边回荡。
けれど、ふと油断した瞬間に確かに聞こえてくる。細い細い呻き声。
然而,一不留神,确实能听到。细微的呻吟声。
否、それだけじゃない。
不,不仅仅是这样。
小狐丸が居なくなった途端に、カリカリと何かを引っ掻く音が聞こえ始めた。
小狐丸消失后,突然听到喀喀喀的抓挠声。
戸板を、床板を、天井を、壁を、細く薄い爪で破ろうとでもしているのか何度も何度も。
他似乎在试图用细薄的爪子破坏木板、地板、天花板和墙壁,一次又一次地。
気を抜けば叫んでしまいそうになる。初めの内はただの恐怖で済んでいたそれも、長時間続けられれば次第に精神を病んでくる。
稍一放松就会忍不住尖叫。一开始只是恐惧,但如果长时间持续,精神就会逐渐出现问题。
カリ、カリカリ、カリリ、カリ…
咔、咔咔、咔里、咔...
耳を塞ぎ、きつく目を閉じて、早く小狐丸が帰って来るように待つしかない。
只能堵住耳朵,紧紧闭上眼睛,尽快等待小狐丸回来。
そうでないと、いつかこのまま戸を破られるのではないかという恐怖に負けてしまう。
否则,总有一天会屈服于害怕门被撞开的恐惧。
きゅっと唇を噛んで、歯がカチカチと鳴るのを抑えようと試みる。
咬紧嘴唇,试图压抑牙齿咔哒作响的声音。
聞こえない振りをして必死に意識を散らそうとする俺の耳に聞こえる声が、少しずつ、少しずつ、増えている気がしてならない。
故意装作听不见,拼命分散注意力,但我却感觉那些声音一点一点、一点一点地变多了。
引っ掻く音も増えている気がする。
捻抓的声音似乎也越来越多。
開けてくれと、どこに居るのかと、訴える声がする。なにかをくれと訴える声も聞こえる。
听到呼喊声,问你在哪里,还有请求给予什么的声音。
確か夢で聞いた声もちょうだいと言っていた気がする。
我感觉好像在梦中听到那个声音也说要给我。
一体何を? それこそ命とかそういうものだろうか。冗談じゃない。
究竟是什么?那不应该是生命之类的吗?这不是玩笑。
大丈夫、このままじっとしていれば大丈夫。守ると言ってくれた。結界も張ってくれた。
没事的,就这样静静地待着就好。她说过会保护我。她还布置了结界。
大丈夫だ。信じろ。きっと対処法を探しに行ってくれたんだ。そう考えていないと心が折れそうだった。こちらの世界に残る選択をしたことを後悔してしまいそうだった。
没事的,相信我。她肯定去找解决办法了。如果不这样想,我可能会心碎。我差点后悔选择留在这个世界。
それだけは駄目だ。後悔なんて、切り離した向こうの世界に残した皆にも、喜んで受け止めてくれた小狐丸にも失礼だ。
只此不行。后悔之事,对那些留在另一个世界的所有人,对那个欣然接受的小狐丸都是一种失礼。
どれほど時間が経ったろうか。ここには時計がないし、日の傾きは経過する時間を正確に表してくれない。障子戸の向こうには何も見えない。薄い紙越しのそこには日の光はあっても人の影は見えない。だというのに戸はずっとカタカタと揺れ続けていた。
难道已经过了这么久了吗?这里没有钟表,日影也无法准确表示经过的时间。纸门那边什么也看不见。透过薄纸,即使有阳光,也看不见人的影子。然而,门却一直嘎吱嘎吱地摇晃个不停。
怖い。怖いけれど、今は恐怖に泣くほどではない。
恐惧。虽然害怕,但现在还没有哭到恐怖的地步。
小狐丸が必ず帰って来てくれると信じているから。
因为我相信小狐丸一定会回来。
小狐丸までもが恐怖の対象だった時とは違う。今は味方がいる。これは大きかった。
现在不再是小狐丸成为恐惧对象的时候了。现在有盟友。这是一件大事。
大丈夫だと自分に言い聞かせる間に、しん、と部屋が静まり返った。
在对自己说“没关系”的时候,突然,“砰”的一声,房间又安静了下来。
「…?」
“……?”
戸の揺れが収まり、引っ掻く音や声もなくなった。もしかして小狐丸が帰って来たのだろうか、それとも諦めた?
房间的晃动停止了,抓挠的声音和声音也消失了。难道是小狐丸回来了,还是放弃了?
そろりと被った布団をそのままに辺りを見回すが、少しずつ太陽の位置が変わっているらしい明るさの変化を見せる光以外何も見えない。だからと言って開ける勇気はない。出るなとも言われているのだから尚更だ。
将叠好的被子放在一边,四处张望,除了看到太阳的位置逐渐变化,光线的变化外,什么也看不见。因此,没有勇气打开。既然外面还在说不要出去,那就更不敢了。
このまま何事もなく終わってくれることを祈りつつ、そっと安堵の息を洩らした時、再び何かが聞こえてきてビクリと全身で跳ね上がった。
在默默祈祷着一切都能平安无事地结束的同时,轻轻地松了一口气,突然又听到了什么,全身一跳,惊恐地跳了起来。
けれどその声は、先程までの呻くような女性の声ではない。どこかで聞いたような記憶のある、もっとはっきりとした男の…
但是那个声音,不再是刚才那种呻吟的女声。是那种似曾相识的、更加清晰的男声...
「三日月?」
“新月?”
鶴丸の、声。
鹤丸的声音。
「…っ!」
「…啊!」
なんで、どうして。
为什么,怎么会。
こちら側に鶴丸が居るわけがない。居るわけがないのに、どうして鶴丸の声がするんだ。
这边怎么可能会有鹤丸。怎么可能会有,为什么会有鹤丸的声音。
布団から出て障子戸に近づくと、外から確かに覚えのある声が聞こえてくる。まさか俺のようにこちら側へ入ってしまったのだろうか。
从床上起身,走到拉门前,确实听到了从外面传来的熟悉的声音。难道真的有人像我这般误闯了进来吗?
だとしたら危険だ。外にはまだあの謎の白い女性がいるかもしれない。
那么就危险了。外面可能还存在着那个神秘的白衣女性。
俺を探しているらしい声に咄嗟に戸へ手を伸ばし、そこでふと手を止める。
似乎有人在找我,我本能地伸手向门口,然后突然停下。
これは、本当に鶴丸の声だろうか。
这是真的鹤丸的声音吗?
もしもそうだったとして、何故ここで俺を探すのだろう。
如果是这样的话,为什么还要在这里找我。
ここに俺がいると、何故知っている?
既然我知道我在这里,为什么你会知道?
「……つ、る…まる…?」
“……吐、鲁…吗……?”
そこに居るのは、本当に俺の知っている存在なのだろうか?
那里的是否真的是我所知道的存在呢?
戸に届く手前の手が不安に揺れ、そこに気を取られすぎて声を出してしまったことに気づけずにいた俺の元へ届いたのは、さっきまで聞こえていた声がピタリと止んだ不気味に静まり返った耳鳴りがするほどの静寂。
户前伸出的手在不安中颤抖,因为太过专注于那里而没能察觉到,传来的声音突然停止,耳畔响起令人不安的寂静。
次の瞬間、ほんの数泊の間を置いてガタガタと戸が揺れ始め、障子紙を突き破って手が伸びてきた。
紧接着,门在短短几夜后开始剧烈摇晃,纸张被撕裂,手伸了进来。
ぴしりと何かにヒビが入るような音がし、伸ばしかけていた手が伸びてきた手に掴まれ強く引っ張られる。
传来密集的裂缝声,正要伸出手的手被抓住,被用力拉扯。
「ひっ」
“嘶”
慌てて引き戻そうとするが、俺を掴む白く細い腕は見かけ以上に力が強く、咄嗟に逃げようと背を向けた俺の身体を引き摺って外へ出そうとする。外からは割れるような笑い声が聞こえ始め、もう一本、腕が障子紙を突き破って俺の背中に伸ばされた。
慌忙想要退缩,但抓住我的那双苍白细弱的手臂比看上去更有力,猛地一拉,试图把我拖出去。外面传来了刺耳的笑声,另一只手也破开了隔扇纸,伸向了我的背部。
何故か手を入れることは出来ても障子戸は開かないのか、無理矢理に俺を引き摺り出そうとするばかりで戸はガタガタ揺れている。けれど、一本、また一本と腕が伸び、遂に障子戸に背を付けるところまで引っ張られてしまった。
为什么手可以伸进去,门却打不开呢?只是勉强地把我拖出来,门在剧烈摇晃。然而,手臂一根接一根地伸长,最终我被拉到了门后。
細い女の手が伸び、爪が皮膚に突き立てられる。
细嫩的女手伸来,指甲刺进了皮肤。
赤い筋が残り、首に、腕に、腹にと引っ掻き傷が走り痛みを訴えた。
红色的肌肉上留下痕迹,脖子上、手臂上、肚子上都是被抓出的伤痕,疼痛在诉说着。
単衣は肌蹴られ、ギリリと深く抉ろうとする爪の動きが腹に集中しているのに気づいて、このまま内臓を抉り取られるのではないかと血の気が引いた。
单衣被踢,意识到尖锐的爪子正深深地抓挠腹部,担心内脏会被抓出来,不禁感到一阵恐惧。
すぐ真後ろにある障子越しに、女の笑い声がする。
从后面立即的障子透过,传来女人的笑声。
「うふふ…ふふ…ちょウだぃ…」
“嘻嘻……嘻嘻……吵死了……”
何を、と問う余裕など無く、必死に爪を立てる手を引き剥がそうと暴れるしかない俺に囁き続ける声は執拗に何かを求めていて、触れる先から何かが浸食してくるような錯覚に襲われて悪寒が酷い。
没有时间和余裕去问“是什么”,只能拼命挣扎着试图摆脱抓住的手,而那执拗的声音似乎在不断地寻求着什么,触碰到的地方仿佛有什么东西在侵蚀,让人感到一阵恶寒。
吐き気がする。触るな。
想吐。别碰我。
無意識にそう訴える声も揺れる戸の音と笑い声に殆ど掻き消されて自分の耳にも入ってこない。
不自觉地发出这样的呼喊,声音几乎被摇曳的门声和笑声淹没,连自己的耳朵也几乎听不到。
「ちょうダい、あナたの…」
“真好、你的……”
今までなかった新しい言葉が紡がれるその瞬間、背後から聞こえていた笑い声が突然劈くような悲鳴に変わった。
在编织出前所未有的新词的那一瞬间,背后传来的笑声突然变成了撕裂般的悲鸣。
薄い皮膚を抉っていた爪が剥がれ、俺を拘束する腕が次々に取れた。否、正確には落ちた。
剥开薄皮的手指甲脱落了,束缚我的手臂一个个地被解开。不,更准确地说,是掉落了。
赤い色を撒き散らしながら、それらは俺のすぐ傍に無造作にごろりと落ちて転がる。
在撒下红色颜料的同时,它们在我身边随意地滚落、打滚。
次いで焼け付くような熱風を感じて咄嗟に振り返ると、女の手が突き破っていた障子に開けられた穴の向こうで大きな炎が渦を巻いていた。熱と風に目を焼かれ、瞼を開いていられなくなって目を細めて手を翳した数秒後、大きな音を立てて障子戸が思い切り開かれた。
感受到热风像烙铁一样灼烧,猛地回头一看,女人的手已经捅破了纸门,在洞口那边,大火正在翻滚。被热风和火焰烧得眼睛睁不开,眯着眼睛用手遮住眼睛几秒钟后,纸门突然发出巨大声响打开。
「三日月! 無事か!」
“月亮!你没事吧!”
炎の渦を背に大きく揺れる長い髪と着物は出て行った時のままに、右手に見慣れぬ長い刃物を提げた小狐丸が血相を変えて飛び込んできた。
火焰的漩涡背后,长发和和服像离开时一样大幅度摇晃,右手提着不熟悉的长刀的小狐丸脸色大变地跳了进来。
炎が消え、風が舞う。入ってきた小狐丸が俺の有様を見て、手にした刀らしき刃物を放り出して抱き締めてくれたのを最後に、俺の意識はぷつりと途切れた。
火焰熄灭,风在舞动。进来的小狐丸看到我的样子,扔掉手中的疑似刀刃,紧紧抱住我,从那以后,我的意识逐渐模糊。
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■
琥珀を連れて戻った時、社の周りには不穏な空気が満ちていた。
当带着琥珀回来时,公司周围弥漫着一种不安的气氛。
三日月が恐怖を訴えたあの時に、言われなくてはわからない程度の空気の変化があったのは確かで、けれど辺にはなにも居らず首を捻った。
在三日月诉说了恐惧的那次,确实有言不由衷的微妙气氛变化,但周围却没有人,我扭头看了看。
眠っている間に何かあってはと、念の為に三日月に触れることが出来ぬよう普段はあまり使うことのない結界を施して様子を見たが、朝になって目を覚ませば三日月は妙な夢を見たと震えていた。
担心在睡觉时发生什么,于是特意给三日月施加了一个平时很少使用的结界来观察情况,但早上醒来时,三日月却因为做了一个奇怪的梦而颤抖着。
ならばこれはただ縄張りを荒らしに来た輩ともまた違うかもしれんと、今度は三日月を見ることの叶わぬよう結界を施して琥珀の知恵を借りに出てみれば、琥珀は驚いた顔をして急いで戻れと言う。
那么这也许不是仅仅来破坏地盘的家伙,这次他试图通过施展结界来阻止看到三日月,于是向琥珀寻求智慧,琥珀惊讶地急忙让他回去。
三日月が危険だと、そう警告されて急ぎ戻ればほんの微かな違和感は形となって三日月を襲っていた。白い女の姿がいくつも見えて、やはり妖とも我ら狐とも違うとそれらを追い払った。三日月に直接危害を加えていた者には制裁を。果たして三日月は全身を無数の引っ掻き傷に覆われながら、私を見るなり気を失ってしまった。
三日月很危险,有人这样警告我,我急忙返回,却只有微妙的违和感变成了三日月。看到了许多白衣女子,还是和妖精、我们狐狸不一样,把它们都赶走了。对直接对三日月造成危害的人进行制裁。果然,三日月被无数抓痕覆盖全身,看到我立刻失去了意识。
外に連れ出して何者とも知れぬものに三日月が見つかってはならぬと、結界内に一人残したのが間違いであった。
不能将三日月带出结界外,否则就会遇到不知名的怪物,把一个人留在结界内是错误的。
数刻後、目を覚ました三日月は泣きそうになりながら私の首にしがみつき、もう大丈夫だと背を撫でる間に懸命に涙を堪えて何度も頷いた。
数刻後、我醒了过来,三日月似乎要哭了,紧紧地抱住我的脖子,在我抚摸她背的时候,拼命地忍住泪水,连连点头。
「小狐丸…っ」
“小狐丸……”
私の名を呼び、そこにいる事を確かめるように腕に力を込めて身を寄せる三日月を抱き締めながら、単衣の隙間から覗く痛々しい爪痕に申し訳ない気持ちになると共に、どうして三日月がこんな目に遭わされなければならないのかと怒りが湧く。三日月の証言では、あの女はずっと何かを欲していたという。
叫着我的名字,用力地抱住确认我在那里的三日月,同时看着单衣缝隙中露出的痛苦爪痕,感到非常抱歉,同时也愤怒于为什么三日月要遭受这样的待遇。根据三日月的说法,那个女人一直想要得到什么。
後になって駆けつけた琥珀はそれを聞くなり、それもそうだろうなと呟いた。
后来赶到的琥珀听后没有说什么,只是喃喃自语道:“也许是这样吧。”
「小狐丸の話を聞いた時にもそんな気はしたが…それは恐らく凝り固まった女の執念の塊よ。妖ではなく、所謂『鬼』に近いものだ」
“听小狐丸的故事时我也这样想过……那可能是一块凝固的女人的执念,不是妖怪,而是接近所谓的‘鬼’的东西。”
神妙な顔をして唸る琥珀の言葉に、鬼? と顔を上げた三日月は眉間に皺を寄せて問いかける。
神秘的面容,琥珀般的话语,鬼?三日月抬起头,皱起眉头问道。
「鬼って…あの鬼か? 角が生えてて金棒持って裸にしましまパンツだけの」
鬼是……那个鬼吗?长着角,拿着金棒,只穿着条条裤
「うん? なんじゃその変態は」
“嗯?这变态是啥?”
琥珀に対する三日月の言葉に、私の頭の中では一瞬で謎の生物が完成してしまったが、首を振る琥珀のなんとも複雑そうな表情に、これもまた私達と人の子の認識の差なのだとわかった。しかし、しましまパンツだけで金棒を持った存在など明らかな不審者ではないか。人の子の世には恐ろしいものがいたものよ。せめて服を着ろ。
对于琥珀对三日月说的话,我的脑海中瞬间就浮现出一个神秘的生物,但看到琥珀那复杂的样子,我明白了,这又是我们与人类孩子认知上的差异。然而,只穿条内裤就拿着金棒的生物显然是个可疑分子。人类的世界里充满了可怕的东西。至少穿上衣服吧。
思考を飛ばしかけた私の気配を感じたか、琥珀はひとつ咳払いをした。
我感觉到了你试图逃避思考的气息,琥珀轻轻地咳嗽了一下。
「人の子の世でもそれは極端な例よ。小狐丸、そなたも見たことあるであろう。人の子が豆を撒く習慣」
在人类的世界上,那也是一个极端的例子。小狐丸,你也应该见过。人类撒豆子的习惯。
「畑か?」
是田地吗?
素朴な疑問に、またも首を振って短く告げる。
朴素的问题,又摇摇头简短地回答。
「鬼祓いの儀よ」
鬼祓いの儀。暫し考えて思い当たるのは、人の子が何故か人の子に豆をぶつける謎の行動だった。
鬼祓いの儀。暂且思考一下,突然想到的是,为什么孩子会无缘无故地向孩子扔豆子的神秘行为。
古い習慣と聞くが、残念ながら私が生まれた頃にはほぼ衰退したものであったために数える程度しか見たことが無い。
听说是古老的习俗,但遗憾的是,在我出生的时候,它几乎已经衰落了,所以我只见过几次。
「あぁ、あれか。いやしかし、あれは皆服を着ていたろう」
“哎呀,那是什么。不,但是,他们应该都穿着衣服吧。”
「話に聞いたことがあるが、あれの鬼役は嫁御の申したとおりの格好が伝わっておるそうだ」
“听说过的,那个鬼角色的装扮是按照新娘子的要求来的。”
「げに恐ろしき習慣じゃな…」
“那可是可怕的习俗……”
「まぁよい、話が逸れたな。嫁御を襲ったのはそれとは違う。あれは早くして子を亡くした、若しくは産めなかった母の妄執の塊、言わば思念だな。しかし、ただの思念と馬鹿にはできん。思いが強ければ強いほど、それは形を成して人を襲う」
“嗯,好吧,话题跑偏了。袭击新娘的不是这个。那是因为早逝或未能生育的母亲所持有的执着,可以说是思念。但是,这不仅仅是思念,如果思念强烈,它就会成形并攻击人。”
特に子供や、子を宿した母が狙われるのだそうだ。
据说特别针对孩子,以及怀有孩子的母亲。
己の手に残らなかった子を想うあまり、他人の子を自分のものとして奪い取ろうとするのだと。
因为太过思念自己未能留下的孩子,所以想要把别人的孩子当作自己的东西夺走。
普通は霊力の高い我らには近づかぬそうだが、三日月は人の子であるがゆえに近づくのが容易だったのであろう。
一般情况下,我们这种灵力较高的人难以接近,但三日月因为是人的孩子,所以接近起来比较容易。
だが、それにしても解せぬ。
但是,这仍然让人难以理解。
「琥珀よ。今、子供を奪うと言うたな? ならば何故三日月が狙われる。確かに三日月は我らに比べて年若いが、子と呼べる歳でもあるまいて」
琥珀啊。你现在说夺走孩子,那为什么是新月被针对。确实新月在我们看来年纪较小,但也可以称之为孩子。
それとも、狙われる年齢層はそんなに幅広いのか。未だに私にしがみつく三日月を膝の上へ引き上げて抱き、改めて胸元を開いて無数の爪痕を確認する。痛々しい爪痕は首や鎖骨、胸も腕も腿も赤い筋を残し、場所によっては深く抉られ血が滲んでいるが、もっともその被害が大きいのは腹の辺りだった。痛むというよりもその時の恐怖を思い起こすのか、三日月の表情は優れない。
还是说,被针对的年龄段如此广泛。我仍然紧紧抱住新月,把它抱到膝盖上,再次查看胸前的无数抓痕。痛苦的抓痕在脖颈、锁骨、胸部和手臂上留下了红色的痕迹,有些地方甚至被深深抓破,鲜血渗出,但最严重的伤害还是在腹部周围。与其说痛,不如说它唤起了当时的恐惧,新月的表情并不好。
三日月の様子を見ながら琥珀の返答を待つと、そこには意外な返しがやってきた。
看着新月的样子,等待琥珀的回答,结果却得到了一个意外的回答。
「何を戯けたことを言っておる。嫁御の腹の子を狙うたに決まっておろう?」
“你在说什么玩笑话。难道是打算针对新娘腹中的孩子?”
「…………え」
「………啊」
「…………え?」
「………啊?」
数秒の沈黙の果てに、私は聞き間違いかと、三日月は意味がわからないと目を丸くした。
数秒的沉默之后,我以为我听错了,三日月瞪大了眼睛,不知道是什么意思。
私達の反応をどう受け取ったのか、琥珀はからからと笑って三日月の剥き出しになった腹を前足でとんと軽く押した。
琥珀笑着,轻轻用前爪推了推三日月毫无掩饰的肚子,想知道我们是怎么反应的。
「そなたらの子が宿っておる。これが狙われたのよ。あぁ、そんな顔をするな、最初はわからんもんさ。俺もかかが最初のやや子を宿した時は言われるまでわからんかった。知ったのはかかの腹がすこぉし膨れた辺りだったか。いやぁ、あれは驚かされたが、なに、今に驚くだけでは済まんようになる。今のうちにそなたらも覚悟を決めよ」
“你们的孩子在这里住着。这是被盯上的。哎呀,别那样表情,一开始我也不知道。我第一次看到狐狸精附身的孩子时,也是直到被告知才知道。知道的原因是狐狸精的肚子稍微鼓了起来。哎呀,那件事让我很惊讶,但是,现在不能只是惊讶。你们现在也要做好心理准备。”
沈黙を幸いにとべらべら喋った我が兄弟は、これからが正念場よ、としなやかな尾を揺らして見せた。
沉默中,我们兄弟俩趁机滔滔不绝地说着,然后优雅地摇了摇尾巴,表示现在才是关键。
「小狐丸、毎日そなたの血を少し混ぜた水を嫁御に飲ませよ。それでもう襲われることはあるまい。手を出せば狐に祟られると避けるようになる」
“小狐丸,每天给新娘喝一点混有你的血的清水。这样就不会再被袭击了。一旦出手,就会被狐狸精报复,所以要尽量避免。”
話についていけていない私達に構わず琥珀の説明は続く。
虽然我们没跟上话题,但琥珀还是继续解释着。
やがてようやく思考が追いついたらしい三日月が、慌てた様子で遮った。
似乎终于跟上思考的三日月慌忙地挡住了。
「まっ、待ってくれ! 子供が宿ってるって…俺は男だぞ?」
“喂,等等!那孩子还在宿舍呢……我是男人啊?”
子供なんか出来るわけないじゃないかと訴える表情は焦りと不安で染まり、それ以上に自分が男として見られていなかったのではないかと不満を抱えているのが手に取るようにわかる。
诉说着“怎么可能生孩子呢”的表情被焦急和不安所笼罩,更明显的是,我能感受到他因为不被当作男人看待而怀有的不满。
三日月の不安が皮膚を通して伝わるかのようだが、その問いかけに私は首を傾げた。
三日月的不安似乎透过皮肤传递过来,我对他的问题点了点头。
「雄でも孕むじゃろう?」
「雄性也会怀孕吗?」
「はっ!?」
「咦!?」
「あぁ、そうか。お主の言うておるのはこの身に直接宿るもののことか。確かにそれは雌にしか宿らんが、お主に宿ったのは新たな子の魂のみじゃからな。子を宿すための器官は必要ない」
「啊,是这样。你所说的,是直接附着在这具身体上的东西吗?确实,这只能附着在雌性身上,但附着在你身上的,是新生命的灵魂。不需要用来孕育孩子的器官。」
「…なんだ、それ……」
“那是什么……?”
愛しい者の腹に己の子が宿ったとあっては、先程までの騒ぎの衝撃を上回る。けれど、三日月の様子を見ると手放しで喜べる状態でもないようだった。表情は強張り血の気の失せた肌は白さを増し、唇が戦慄くのをこれほどに間近で見てしまい、三日月がそれを喜んでいないことがわかる。
爱慕之人的腹中孕育着自己的孩子,这比刚才的骚动更为震撼。然而,看到三日月的样子,并不能完全感到高兴。表情僵硬,脸色苍白,嘴唇颤抖,如此近距离地看到这些,可以明显看出三日月并不高兴。
複雑な空気を察したのか、浮かれた様子の琥珀も口を噤んで窺うように見つめている。
感觉到复杂的气氛,浮夸的琥珀也闭上了嘴,窥视着周围。
とにかく、暫くは環境に気をつけることと琥珀は告げ、三日月を床に休ませて外へ出た。
总之,暂时要注意环境,告诉琥珀,让三日月休息,然后出去。
琥珀が帰ろうとする頃には夜も更けており、木枯らしの吹く中でいくつかの忠告をされた。
琥珀要离开的时候,夜已经深了,在寒风中,得到了一些忠告。
三日月が自分で神気を蓄えられず私から与えられているのと同様に、三日月に宿った子も私が神気と霊力を与えねばならないこと。それを怠れば、子は己を保つ為に母体である三日月の生気を奪っていくこと。万が一子を諦めるというなら、早めに取り除いてやらねば定着して手遅れになること。既に宿ってから一ヶ月近く経っているように見えることから、時間はあまり残されていないこと。
三日月无法自己积累神气,就像是从我这里获得的一样,附身于三日月的孩子也需要我赋予神气和灵力。如果疏忽了这一点,孩子为了维持自身,会逐渐夺取母体三日月的生命力。如果决定放弃孩子,就必须尽早去除,否则一旦扎根,就会来不及。从看起来已经附身近一个月的情况来看,时间已经不多了。
「子が生まれるのは、早ければ後二ヶ月ほどだ。実体がない分とても早い」
“孩子出生的话,如果早的话,大概还有两个月左右。因为没有实体,所以会很快。”
「本当に急じゃな」
“真的太急了。”
「俺達にとっては心の準備が必要な環境ではないからな…子を成すための行為でもあるわけだし」
“对于我们来说,这不是一个需要心理准备的环境……成为孩子的行为也是一样。”
「……まぁ、そうじゃな」
「嗯,就这样吧」
「嫁御とよう話し合うがいい。とは言っても、今は無理かもしれんが」
「和妻子好好商量一下。虽然这么说,但现在可能不行吧」
三日月の様子を思い出すだけで、子のことは諦めねばならないだろうとどこかで感じていた。
一想起三日月的样子,就感觉不得不放弃孩子的事了。
自分に子が宿るなどとは思っていなかったから、この環境でも耐えようと思ってくれたのかもしれない。
我从未想过自己会有孩子,也许她正是因为这样才愿意在这个环境中坚持下去。
子は惜しいが、私は三日月がなにより大切だった。ならば、三日月が壊れてしまうかもしれないなら子を諦めることは受け入れることが出来る。問題は、一度そうした経験をしてしまった三日月が私と共に居ることを苦痛に感じるか否かだ。
孩子虽然可惜,但对我来说,月亮比什么都重要。如果月亮可能会破碎,那么我可以接受放弃孩子。问题是,一旦有了那样的经历,月亮是否会觉得和我在一起是痛苦的。
もっと早くに気づくべきだった。気づいていれば、ゆっくり話し合う機会も設けられただろう。気づいていれば、今回のような恐怖も与えずに済んだのだ。
我应该早点意识到。如果意识到了,也许可以安排更多的时间慢慢讨论。如果意识到了,也许就不会给对方带来这次这样的恐惧了。
項垂れる私の足を一度だけとんと前足で叩いて、琥珀は北の空へと駆けて行った。
我的脚垂下,琥珀用前脚轻轻敲了一下,然后向北方的天空飞去。
後姿が見えなくなるまで見上げてから、深い溜息をついて踵を返す。これ以上三日月を一人にするわけにもゆかぬと、真っ直ぐに三日月の居る部屋へ向かうも足取りは重い。
抬头看到看不见背影为止,深深地叹了口气,然后转身离去。既然不能让一个人独占三日月,就直接走向三日月所在的房间,但脚步却很沉重。
これからどう話せばいいのか。これまで同胞達が子を授かった時は皆一様に喜んだものだった。故に、こうした場合のことなど微塵も考えたことはなかった。
现在该怎么说话呢。以前同胞们生孩子时都是欢欣鼓舞的。因此,对于这种情况从未有过丝毫的考虑。
もう一度深い溜息をつき、最後に深呼吸をしてから部屋に踏み込むと、床に寝かせたはずの三日月が起き上がって自分の腹を見つめていた。
再次深深地叹了口气,最后深吸一口气后才走进房间,发现原本应该躺在地上的新月形物体已经坐起来,盯着自己的肚子看。
袷を開き、爪痕だらけの腹をじっと。
打开袖子,静静地凝视着满是爪痕的腹部。
「…み、かづき……」
「…み、かづき……」
「…看,かづき……」
「小狐丸、少しいいか」
「小狐狸、稍微有点儿困」
思った以上にはっきりした声で、三日月は腹をそっと撫でながら私を呼び寄せた。
以比想象中更清晰的声音,三日月轻轻抚摸着肚子,将我召唤过来。
どうしてこうなると先に言わなかったのかとか、どうしてこんな目に遭わなければならないのかとか、罵詈雑言を覚悟して後ろ手に戸を閉めてから三日月の前に座ると、肌蹴た肌に走る赤い筋がよく見えた。
为什么没有早点说呢,为什么必须遭遇这样的境遇呢,带着诅咒和谩骂的准备,转身关上门,坐在三日月面前,可以看到赤色筋脉在肌肤上蜿蜒。
少しいいかと言われてから暫し、妙な沈黙の中で三日月が口を開くのを待つ。
被说“稍微有点儿困”之后,在一种奇怪的沉默中等待三日月开口。
何度も腹を撫でている動きは、子が宿ったことを気にしているのか、それとも爪痕が痛むのか。
重复抚摸肚子的动作,是在担心孩子吗,还是因为爪痕疼痛?
きし、と風に煽られた社の軋む音が聞こえる気がする静寂は、ぽつ、と呟く声に唐突に破られた。
风吹得公司吱吱作响的声音在寂静中似乎能听到,突然被一声低语打破。
「お前は、知っていたのか。俺に子供が宿ることを」
“你知道了吗?我有孩子了。”
「…あぁ」
“……啊。”
「わかっていて手を出してたんだな」
“知道却还是伸出手了”
「…あぁ」
“……啊”
そうか。と呟く声は感情が読めない。
声音低沉,听不出情绪。
三日月を抱いたのはまだ数える程度だが、一ヶ月ほど経っているという話を信じるなら、恐らく初日か翌日のどちらかで宿ったのだろう。これが歓迎される状況であったなら、相性の良さを素直に喜べたのに。
持有新月形的东西还为数不多,但如果相信已经过去了一个月的话,可能是在第一天或第二天就住下了。如果这是受欢迎的情况,那么应该会直接感到高兴。
普段から必要以上に三日月に神気を与える名目で口吻けを交わしていたお陰で、なんとか生き長らえている子の存在は、皮肉にもその行動のせいでこれまで気づかれなかった。
由于某种原因,他们以给三日月过多神气的名义交换了言辞,因此那个孩子能够奇迹般地活下来,讽刺的是,正是他们的行为使得这个孩子的存在一直未被察觉。
もしもその行為を怠っていたならば、もっと早くに生気を吸われた三日月の体調の変化に気づいて事態を把握出来ただろうに。
如果当时没有疏忽,应该能更早地注意到三日月身体状况的变化,从而掌握局势。
「小狐丸、正直に答えろ」
“小狐丸,老实回答。”
「なんじゃ」
“什么啊”
「お前は、子供が欲しいか?」
“你想要孩子吗?”
「お主はどうなんじゃ。己の腹に宿るなど知らなかったのだろう? もしお主が…」
“你怎么样了。难道你不知道自己心里在想什么吗?如果……”
「俺のことじゃない。お前の話をしてるんだ」
“不是关于我的事。我在说你的事。”
逃げるな。
“别跑。”
つい、と三日月の瞳が私を捉えた。
“突然,三日月的眼神抓住了我。”
そんなの、答えなどわかりきっているだろうに。
这种事情,答案当然一目了然。
「私は、正直なところを言うと欲しいと思っている。だがそれは…」
"说实话,我是想要的。但是……"
「そうか、よかった」
"哦,那就好了。"
「お主に負担が…………ん?」
"你不会有什么负担吧?……"
「お前が俺に遠慮して子を下ろせなどと言い出したらどうしようかと思った。そうか、欲しいか」
“你要是敢对我客气,说让我生个孩子,我该怎么办?好吧,你想要吗?”
「ん? うん? 待て、三日月。お主はその…」
“嗯?嗯?等等,三日月。你那个……”
「だが俺は何をすればいい? 宿っていると言われても実感は無い。だからまだ信じられないしお前達の冗談じゃないかとも疑っているんだが」
“但是我不知道该怎么办?虽然别人说我在宿命,但我没有感觉。所以我还不相信,也怀疑你们是不是在开玩笑。”
「待て! 待て待て、話をさせろ!」
“等等!等等,让我把话说完!”
思った以上にサクサクと進められようとする話にこちらが困惑してしまう。
想象中那样轻松地推进故事,我却感到困惑。
どうしたと顔を上げる三日月に、本当にいいのかと問えば、何を言い出すのかという顔をされた。
当抬起头看到三日月脸上的疑惑时,如果问她这样做真的好吗,她会露出一个不知从何说起的表情。
「お主はそれでいいのか? 原因となった私が言うのもなんじゃが、人の子の常識とはかけ離れているのだろう?」
“你真的觉得这样就好吗?虽然是我引起的,但这也太偏离常理了吧?”
「人間の常識とかけ離れた場所に居るんだからな。正直なことを言うと俺にもよくわからん。さっきも言ったとおり実感は無いし、まだ動揺もしている。なにか話していないと狂いそうだ」
“既然身处一个与常人常识相去甚远的地方,说实话我也不是很懂。就像我刚才说的,我没有感觉,还是感到不安。如果不说话,我可能会失控。”
「だったら…」
「那…」
「でも、本当に、お前がこうなることを望んでいたなら、とも思うんだ。ここは寂しいからな。……まぁ、何が生まれてくるのかわからないのが、怖いところでもあるが…」
「但真的,我总觉得你是希望变成这样的。这里很寂寞……嗯,不知道会诞生什么,这也是可怕的地方……」
よく見れば、笑顔が引き攣っている。
仔细看的话,笑容都紧绷着。
身体が小刻みに震えているのに気づいた時、強く腕の中に震える身体を抱き寄せていた。
意识到身体在微微颤抖时,紧紧地抱住了颤抖的身体。
己の中に己以外のものが居ることが恐ろしいのか、薄い腹を何度も撫でて必死に笑顔を作っている三日月の表情は、やはり硬い。
你内心深处除了自己还有其他东西让你感到恐惧吗?她多次抚摸着薄薄的肚子,拼命地做出笑容,但表情依旧僵硬。
受け入れる努力はすると、声を震わせて呟くと、三日月は私の頬に一度口吻けた。冷たく震えた唇は柔らかく、とにかく何かしていないと押し潰されそうだと訴えるようだった。
当她努力接受时,声音颤抖着低语,三日月在我的脸颊上轻轻一吻。冰冷的颤抖的嘴唇显得柔软,仿佛在诉说着如果不做点什么就会被压垮的感觉。
「お前が助けてくれた生命だ…なら、今度は俺が守る」
“你救了我的生命……那么,这次换我来守护。”
「お主は強いな」
“你真坚强。”
吹っ切れてしまえば何よりも強い精神を持つのであろう。なんと頼もしいことか。
一旦吹散,便是最坚强的精神。多么值得信赖啊。
私が守らねばならんというのに、私はずっと守られている。
尽管我应该被守护,但我一直被守护着。
孤独を癒してくれたのも、捨てるはずだった命を拾ってくれたのも三日月だ。
是它治愈了我的孤独,也是它捡起了本应被丢弃的生命。
先程まで何に狙われているのかもわからず震えていたというのに、今は己に宿ったものを受け入れようと前向きに考えている。
尽管之前不知道自己被什么瞄准而颤抖,但现在正积极地接受自己内在的东西。
母は強しと聞いたことがあるが本当だなと思ったが、これを口に出すのはせめて無事に生まれるまではやめておこうと考えて、今日はまだ与えていなかった神気を注ぐ為に唇を重ねた。
听说过母亲很强大,但这次真的觉得是真的。不过,为了至少等到平安出生为止再说出这句话,今天还没有注入那股神气,只是嘴唇紧闭。
*
「祭なんて久しぶりだ」
好久没参加祭典了。
「これ三日月。あまり離れるでない」
这是月亮。不要离得太远。
三日月を抱えて琥珀の住処となっている神社を訪れたのは、三日月の懐妊が発覚してから二十日程経ってからだった。
从发现三日月怀孕到现在大约二十天,才去拜访了那个拥有琥珀住所的神社。
人の子の群れが見える。
我能看到一群孩子的身影。
盆の時期は人の子の世も霊力が満ちる為に、時間が重なる時間が他と比べて圧倒的に長い。
盆时节,人的孩子和灵力都充满,时间变得格外漫长。
時間が重なった途端に、こちらの世界では冷え切っていた空気がとても暑くなった。
时间重叠的瞬间,我们这个世界里原本寒冷的空气变得异常炎热。
向こうはまだまだ夏の暑さだ。
那边还是酷暑难耐。
大きな鳥居の上に座り、足元を流れる人の波を見下ろせば、薄く透けた人の子の群れが賑やかな雰囲気に呑まれて浮き足立っているのがよくわかる。
坐在巨大的鸟居之上,俯瞰脚下流淌的人群,可以清楚地看到被热闹的气氛所吸引,轻轻透明的孩子们的身影在空中飘浮。
「なんで皆透けてるんだ?」
“为什么他们都透明了?”
「まだ向こうの世に居るからじゃ。あちらの大鳥居を潜ればはっきり見えるようになる」
“因为还在那边世界。穿过那边的大鸟居就能看得很清楚。”
「潜ったらこちら側に来てしまうのか?」
“穿过去了就会来到这边吗?”
「重なるだけじゃ。触れてはならんぞ。こちら側と重なった者に触れてしまったら、強制的にこちら側へつれて来てしまう」
只是重叠而已。不能触碰。如果触碰了这边重叠的人,就会强制把他们拉到这边来。
「あぁ、お前が俺にやったやつだな?」
“啊,原来是你对我做了那件事?”
「……」
“……”
「そうか、なら触らなければ、無事に元の世界に戻れるんだな? ずっと時間以内に鳥居を潜れなかったらどうなるんだろうと思っていたんだ」
“既然如此,那么不触碰,就能平安回到原来的世界了?我一直担心,如果一直没能穿过鸟居会怎样。”
やっとすっきりした。とくすくす笑いながら私の肩にことりと頭を乗せ、ぴたりと寄り添って人の流れを眺める三日月の目は優しい。
“终于轻松了。她咯咯地笑着,把头靠在我的肩膀上,紧紧地依偎着,她的三日月眼温柔地看着人群流动。”
所々にぴょこぴょこと駆け回る狐の姿が見える。
狐狸在四处蹦跳的身影可见。
琥珀の子等が、人の子の多さに興味を示すと同時に悪さを働く妖が紛れていないか監視しているのだ。
琥珀的孩子对人类孩子的数量感兴趣的同时,也在监视是否有作恶的妖怪混在其中。
狐の多さにも驚いたのか、三日月はあちらへふらり、こちらへふらりと視線を投げてはその様子を見ている。
三日月对狐狸的数量也感到惊讶,四处张望,观察它们的举动。
「あれは皆琥珀の子供なのか?」
“那些都是琥珀的孩子吗?”
「琥珀の孫も居る。だが、大半は琥珀の子じゃな。あやつ先日生まれた子が十八匹目と言っておったわ」
「琥珀的孙子也有。但大部分是琥珀的孩子。前几天生的那个说是第十八个了。」
「子沢山だな」
「孩子很多啊。」
「長く生きればそういう者も出てくるが、あれは少々極端じゃのう」
「活的时间长了自然会出些这样的,但那个确实有些极端。」
三日月の懐妊にも気づくはずだ。
应该能察觉到三日月怀孕了。
それだけではない。この神社は確か安産祈願の場でもあった。
不仅仅如此。这座神社肯定也是祈求安产的场所。
ついでと言うのもおかしな話だが、ここで三日月の安産祈願をしていくのも良いかもしれん。
顺便说一句,在这里进行新月祈求安产也许不错。
「どこか見に行きたいところはあるか?」
“有什么地方想去看看吗?”
「ここでも十分楽しいぞ」
“这里也很开心啊。”
「そうか?」
“是吗?”
「花火は見れるのか? 夜にあるだろう?」
你能看到烟花吗?夜晚应该会有吧?
「あぁ、この時期は向こうと重なる時間も長い。花火はこの辺りの狐達にとっても楽しみの一つよ」
哎呀,这个时期和那边重叠的时间也很长。烟花对于这片区域的狐狸们来说也是一件乐事呢。
それは楽しみだ、と微笑む三日月は、何度も自分の腹を気にして撫でている。もう爪痕は無く、まだ実感は無いのか不思議そうにしているが、今はそれなりに落ち着いて構えていられるようになった。
那是令人期待的,微笑的月亮形物体多次抚摸着自己的肚子,已经没有爪痕了,但仍然感到疑惑,是否还没有完全感受到,但现在似乎已经能够平静地等待了。
あの後、子の為に神気や霊力を注がねばならぬと三日月に告げるのにも勇気が必要だった。
之后,为了孩子,向月亮形物体注入神力和灵力也需要勇气。
何しろ三日月に与える神気では足りぬ。多く与えていたつもりではあったが、日が経つにつれてそうもいかなくなってきたのだ。きちんと成長している証なのだろうが、その所為で三日月が倒れてしまっては意味が無い。
神气给不了三日月。虽然曾经以为给得很多,但随着时间的推移,越来越觉得不够。这可能是成长的证明,但如果因此导致三日月倒下就毫无意义了。
体力を考慮しながら三日月を抱いた時もあった。
也有考虑过体力而抱住三日月的时候。
精を直接注ぐことで子への糧とするそれは私達の一族では別段珍しいことでもなかったが、三日月は腹に子供が居るのに何してくれてるんだと大層ご立腹で、説明するのに時間が掛かった。
直接注入精神作为孩子的食物在我们一族中并不罕见,但三日月腹中怀着孩子,对此感到非常不满,解释起来也很费时。
これまでも身体を重ねた後、汗や涙の後を拭う為に清めはしたが、三日月の中に出したものを掻き出すようなことは無かった。全て向こう側の世で言う精とは違い、受けた身に吸収されるものだからだ。つまりは私の神気と霊力の塊を吐き出しているに過ぎないのだが、そうと知らぬ三日月の怒りようは流石の私も行為半ばに萎えるほどだった…。
以前虽然也清理过身体流出的汗水和泪水,但从未像清理三日月那样把里面的东西掏出来。因为与外界所说的精神不同,接受者能够吸收。也就是说,我吐出的只是我的神气和灵力的凝聚,但三日月不知道这一点,她的愤怒让我在行为中途都感到萎靡不振……。
誤解が解けた今では、逆に今日はいいのかと問われるようになり、ようやく私が望んだ番の形となってきたような気がする。
现在误解已经解开,反而开始被问今天是不是更好,感觉终于变成了我期望的样子。
あまりの愛しさに眩暈がする。
过于喜爱以至于眩晕。
「おい!」
“喂!”
「! なんじゃ!?」
“!什么啊!?”
「なんじゃ!? じゃない! お前っ、こんなところで盛るな!」
“什么啊!?不是!你,别在这里炫耀!”
突然大声を出されて何事かと振り返ると、顔を真っ赤にした三日月が眉間に皺を寄せて熱い息を吐いていた。
突然大声喊叫,回头一看,只见三日月脸色涨得通红,皱着眉头,呼出热气。
この数日の三日月を思い出すだけで愛しさが振り切ってしまった私の心に反応して、三日月の中に燻る術が影響を与えているのだ。
就连想起这几天的三日月,我的心也因爱意而激动不已,似乎三日月中的熏香之术对我产生了影响。
ひっそり想う事も許されないこの術は、それでも私達の距離を縮めるのに役立っているように思える。つまりは、私が三日月を欲していると嫌と言うほど三日月には伝わるのだから。
即使不允许悄悄想念,这个术似乎也在缩短我们之间的距离。换句话说,即使我不愿意说出我渴望三日月,这种感觉似乎也传达到了三日月那里。
厄介で面倒な術だと罵られたこともあったが、それだけ私が三日月を愛しているのだと今でこそやっと受け入れてもらえたのだ。
曾经被骂过麻烦的技巧,但现在终于被接受了我对三日月的爱。
「人の子等があのように睦まじく楽しんでいるのを眺めておるとなぁ、私も中てられてしまうわ」
看着孩子们那样和睦地享受着,我也忍不住想要加入其中。
するりと腰を撫でればひくりと震える身体が熱を持ち始めるのがわかる。
轻轻拍打腰部,就能感觉到身体开始颤抖,开始发热。
「ぁ、あ…こら、小狐丸ッ…!」
“啊,啊……喂,小狐丸……!”
「大丈夫じゃ。誰も気になどせん」
“没关系。谁都不会介意的”
「俺が気にするだろう!」
“我会介意的!”
「私は気にせん。ほら、お主ももうその気になっておるではないか」
“我不会介意的。你看,主人你也开始在意了不是吗?”
「あ…ッ、ひんっ」
“啊…嗯”
着物越しにきゅっと胸の尖りを摘めば、鳥居の上にいるというのにガクンと前のめりに倒れそうになって慌てて私の胸に縋りつく。
穿过和服轻轻一捏胸口的尖刺,竟然因为站在鸟居之上而差点向前倒下,慌忙中紧紧抱住我的胸口。
甘い声と熱い吐息、耳まで真っ赤に染まった表情は涙目でどこか悔しそうだ。
甜美的声音和炽热的呼吸,脸颊通红,泪眼汪汪,似乎有些懊悔。
身体が疼くのだろう、悔しそうにはしているが拒むことは出来ないでいる。
身体虽然疼痛,尽管懊悔,却无法拒绝。
「花火までまだ時間はある、それまで私の月を愛でるとしよう」
「烟花还有时间,在此之前,让我用爱来呵护你的月亮。」
「ほ、本当にここでやる気か…?」
“真的在这里吗……?”
「無論。だがあまり焦らしても花火を見る体力も失くすやもしれんな」
“当然。但若是过于焦急,或许连看烟花的体力也会失去吧。”
言うなり三日月を抱き上げて私の膝の上に向かい合う形で乗せると、既にその気になりつつある股間の膨らみが私の腹部に擦れる。刺激が強いのかビクビクと跳ねた身体を舌で味わう。首筋に、鎖骨に、胸に。
“她直接抱起三日月放在我的膝盖上,形状正好面对我,已经有些兴奋的臀部在我腹部摩擦。强烈的刺激使她身体颤抖,用舌头品味着。从脖颈到锁骨,再到胸部。”
時間が重なったことで突如訪れた夏の空気に晒されて汗ばんだ身体は、舌先に微かな塩分と三日月の肌の味を伝えて紅潮していく。
“时间重叠,突然感受到夏日的气息,汗水的咸味和三日月肌肤的味道在舌尖传递,身体逐渐变得红润。”
指の動きひとつに震え、舌の動きひとつに甘く啼く愛らしい月は、涙に濡れた瞳をとろりと空へ向けて与える刺激を甘受する。
指尖的颤动,舌头的轻吟,那可爱的月亮,带着泪水的眼眸,温柔地接受着来自天空的刺激。
下手な動きをすれば落下してしまうという緊張感に懸命に腕に力を篭めて私に縋ろうとするが、主張を始めた陰茎をゆるりと嬲ればその力も失われていく。背に回した片腕で支えてやりながらゆるゆると扱くと、蜜を零して質量を増すそこが達せないことがもどかしいのか、だらしなく開いた口から舌を伸ばして口吻けを強請る。
一旦动作不稳就会坠落,紧张感让人拼命地握紧拳头,试图向我攀附,但只要开始主张,阴茎就会逐渐失去力量。用背上的那只手支撑着我,慢慢地抚摸,那里不断分泌出蜜汁,质量不断增加,却始终无法满足,从松散的口中伸出舌头,强烈地寻求口吻的满足。
「すっかり蕩けたな」
“彻底堕落了”
「ん、んぅ…だれの、せい…」
“嗯,嗯嗯……这是谁的,罪……”
「ふふ、初めはあれだけ嫌がっていたお主が私の腕の中で染まってゆくのは気分が良い。今宵も愛らしく啼け」
“嘿嘿,一开始那么讨厌的主人,在我的怀里逐渐沉沦,感觉真好。今晚也可爱地啼叫吧”
腰を掴んで膝立ちになるよう促してやり、既にひくひくと期待している蕾に三日月の蜜に濡れた指を押し当てると、飢えた子供のように素直に飲み込んでいくのが堪らない。
“抓住腰,让她跪下,她已经迫不及待地期待着。将沾满新月蜜汁的手指按在她的期待之处,她像饥饿的孩子一样毫不犹豫地吞噬着,令人难以忍受。”
ほんの少し動かしただけでほろりと解れていくのは、術の所為かそれとも既にそう身体が覚えたからか。後者であって欲しいと願いながら指を引き抜くと、その先に訪れる熱と衝撃を覚悟してかぎゅうっと頭を抱えられた。
只需稍微动一下,就会缓缓地松开,这是技艺所致,还是身体早已习得?希望是后者,当我抽出手指时,已经做好了迎接热度和冲击的准备,紧紧地抱住头。
このような可愛らしいことをされては抑えが利かぬ。腰を落とさせる間にも目の前にある子を宿した腹に唇を寄せると、足の力が抜けたのかゆっくり挿入するつもりが随分と性急なものになってしまった。ズグ、と一息に奥まで貫いてしまった洞はきゅうううと強く私を締め付け、奥の奥で全てを飲み込もうとするかのように蠢いている。
被你做这样可爱的事情,根本无法控制自己。在让腰落下的同时,将嘴唇靠近怀中的孩子,脚下的力量似乎消失了,原本打算缓缓插入的动作变得急切起来。咕噜一声,整个洞窟紧紧地包裹住我,仿佛在深处吞噬一切。
「ひぐ…ぁ…ッぁ…」
“呼……啊……”
「挿れただけで気を遣ったか。だが足りまい?」
“只是插入就担心了吗?但还不够吗?”
「あ、や…まだ、うごいちゃ、らめ…ぇ…」
「啊,还…动一下,乱…嗯…」
「すまんな。待てぬ」
「对不起。等不及了。」
「! あっ、あッ!やぁ…!」
「!哎呀,哎呀!喂…!」
ビクビクと跳ねる腰を抱えて揺すると高い嬌声を上げて乱れる。
抱着颤抖的腰肢摇晃,发出高声尖叫,变得混乱。
勢いよく奥へと穿てば溢れる蜜も量を増して雄の匂いが濃くなっていく。
顺着势头往里深入,流淌的蜜越来越多,雄性的气味也越来越浓。
声と匂いに気づいた狐達がこちらをちらりと見るが、誰もが特に気にも留めずに己の役目を果たすために駆け回る。
狐狸们注意到了声音和气味,瞥了这边一眼,但没有人特别在意,各自忙碌着自己的职责。
より奥に、この身に宿る子だけでなく、三日月に染み渡るよう私の精を注ぎ込む為に揺さぶる度に美しい瞳がらぼろぼろと雫が零れた。
更往里,不仅是我身上的孩子,还有我的精华被注入到新月般的光芒中,每一次摇晃,美丽的眼睛都泪如雨下。
下唇を軽く食み、べろりと顎先から上へ向けて零れた唾液を舐め取る。自然に揺れる腰が身体に溜まる快楽の熱を発散させたいと訴えるのを感じ、深く笑みを刻みながら媚肉を味わった。
轻轻咬住下唇,舔舐从下巴上流下来的唾液,感觉到腰身自然地摇摆,释放身体积累的快感,我带着深深的笑容品味着那柔软的肉。
目の前で揺れる赤く腫れた尖りにむしゃぶりついて強く吸うと、必死に首を振って握っていた私の着物に深く皺が寄る。今度ここだけで気を遣れるように仕込んでやっても面白いかもしれない。
紧紧地吸着眼前那鲜红肿胀的尖刺,拼命地摇晃着,我的和服上深深地皱起了褶子。也许下次只在这里小心地安排一下,会很有趣。
私に触れられぬと気を遣ることが出来ず、精を受けねば果てることも出来ぬ身体は貪欲に刺激を求め、僅かな期間で自ら腰を振るまでになった。
如果不能触摸我,就无法关心,如果不接受我的精华,就无法满足,这个贪婪地寻求刺激的身体,在短短的时间内就自己扭动腰肢了。
この様子では私も琥珀のことを馬鹿に出来んかも知れぬと、駆け回る琥珀の子等をチラと見やってから一際強く腰を叩きつけた。
在这种情况下,我也不知道是否可以嘲笑琥珀,瞥了一眼四处奔跑的琥珀的孩子,然后狠狠地敲了一下腰。
「ァあっ――――――ッ!…ッ!」
“啊——!……!”
「く…」
「嗯…」
強い締め付けに小刻みに痙攣する動きが加わって、抗うことなく三日月の中へ全てを注ぎ込んだ。
逐渐加入了强烈的紧绷和轻微的抽搐动作,毫无抵抗地全部投入到了弯月之中。
呪縛から解き放たれたように三日月も果て、大きく仰け反って胸を喘がせた。
仿佛从诅咒的束缚中解脱出来,弯月也到了尽头,大幅度地倒下,喘着粗气。
「ぁ、あ…こぎ、つねぇ…」
「啊,啊……快,快点……」
「堪らんな、お主の中は」
不堪一击,你的内心
「はぁ…ぁ……もっと…」
「嗯……嗯……还要……」
「いいのか?花火が始まってしまうぞ?」
“好了,烟花要开始了,不是吗?”
「いい…いいから…ッ! もっと、ほしい…」
“很好...... 听着。。。 呼! 我想要更多......”
とろりと蕩けた瞳で強請られては断る理由も無く。
- 当她被迫用厚厚的眼睛做这件事时,没有理由拒绝。
汗で額に張り付いた髪を掻き分けて啄ばむだけの口吻けを落とすと、そんな些細な刺激にも期待してしまうのか含んだままの肉棒をきゅうきゅうと締め付けて求める。
- 当我用汗水刮掉粘在额头上的头发,垂下嘴巴的鼻子时,她收紧了仍然包含的那,仿佛她期待着这样微不足道的刺激。
後で文句を言ってくれるなよ、とだけ囁いて再び律動を始めたその行為が終わったのは、花火を眺める祭の客達が歓声を上げる中に三日月の嬌声を交えさせて尚時間が経ってのことだった。
你可以稍后再抱怨,然后又开始律动,直到烟花节的观众欢声雷动,月亮的轻吟交织其中,时间才过去。
無論、後で琥珀にからかわれた。
当然,后来被琥珀取笑。
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■□
「何か持って行ったほうが良いぞ」
「应该带点什么走」
「は?」
"吗?"
「あの神社に行くんだろう」
「他可能要去那个神社」
大倶利伽羅の言葉に目を丸くした。
听到大倶利伽羅的话,眼睛都瞪圆了。
一学年下の燭台切と大倶利伽羅は、中学時代の部の後輩だ。
燭台切和大倶利伽羅是高一届的后辈,中学时曾是同一个社团的成员。
三日月が失踪してから半年。未だに見つからない三日月の捜索願は、両親の居ないあいつの場合はどうやら親戚が出したらしく、俺達の元へ正確な情報が回ってくるのは遅かった。
半年过去了,三日月仍然下落不明。似乎是因为没有父母,三日月失踪的搜查申请是由亲戚提出的,所以我们这边收到准确信息很慢。
何度もあのマンションの一室へ足を運んだが、結局ほんの数日であの部屋はもぬけの殻となった。
我多次去过那栋公寓的房间,但最终那间房间在短短几天后就变得空空如也。
情報提供を求めて駅前でビラを配ったり、少しでも目撃者が居ないか駆け回ったりもしたが、結局のところ情報は入ってこないし、周りも警察に任せればいいと傍観の姿勢をとるものだから、尾ひれの付いた噂以上の話なんて耳に入ってこなかった。
为了寻求信息,我在车站前分发传单,四处寻找可能的目击者,但最终没有信息传来,周围的人也采取旁观的态度,把事情交给警察处理,所以没有听到比传闻更深入的消息。
あの神社も、休日に覗いてみたがなんの変哲も無い色の落ちた鳥居と、周辺のゴミ拾い程度だけされた砂埃にまみれた石段があるばかり。
那座神社我也在休息日去看过,但那里只有褪色的鸟居和被垃圾覆盖的石阶,没有发现任何异常。
上まで登ってみたものの、がらりとしたそこは大型台風でも直撃したら吹っ飛びそうなぼろぼろの社しかなかった。
尝试爬上去,但那里破败不堪,就像被大型台风直击一样,随时可能被吹走。
薄気味悪いそこに夕方に行く気になれなくて昼間に行ったから明るかったが、そのお陰で余計に寂しい空気を纏って見えた。
由于那里有些令人作呕,我不愿意在傍晚去,所以白天去的时候很亮,但正因为这样,才显得更加空旷。
学校帰りに、もう一度なにか手掛かりはないかと立ち寄ってみるつもりでいた俺は、もうすっかり冷えてしまった空気に負けないようジャケットを羽織ったところで声を掛けられた。
在回家的路上,我打算再去看看有没有什么线索,结果在穿上外套抵御寒冷空气的时候,有人叫住了我。
「なにか、って。何を?」
“什么?什么?”
「食い物」
「食物」
「は?」
「是吗?」
意図がわからず首を傾げると、言葉が足りていないと苦笑した燭台切が補足した。
意思不明白,歪着头,燭台切苦笑着补充说:“话不够。”
「あのね鶴さん。あの神社、僕達の学年じゃ怪談話で有名なんだ」
“那个,鹤先生。那个神社,我们年级以怪谈故事而闻名。”
「怪談?」
“怪谈?”
「う~ん、都市伝説みたいな?あそこには狐が住んでて、気に入ったものや珍しいものを持って行っちゃうんだって。前に言ってたじゃない、神隠しがどうとか。それは狐の仕業なんだって噂でね」
“嗯,像都市传说一样?据说那里住着狐狸,它会带走它喜欢或者稀有的东西。之前不是说过吗,关于神隐的事情,那都是狐狸干的,听说就是这样。”
「ほお?」
“咦?”
「で、夕方に行くなら、気に入られて連れて行かれちゃうのを防ぐのに、狐の気を逸らすために食べ物をあげるといいんだって」
“所以,如果晚上去的话,为了防止被狐狸喜欢然后带走,可以喂食来分散狐狸的注意力。”
「……口裂け女みたいだな」
“……嘴裂开的女人样子啊”
あれは確かべっこう飴だったか。
“那肯定是一块很甜的糖。”
そんな感想を持った俺に、呆れたように腰に手を当てて燭台切は続けた。
“你这样想,我感到很惊讶,但还是继续切蜡烛。”
「普通に考えて、神社だろう? お供えもなしにただ冷やかしに行くなんて罰当たりだと思わない?」
“正常来说,那应该是神社吧?没有供品就只是去冷嘲热讽,难道你不觉得这是冒犯吗?”
「あぁ、そういう」
“啊,原来是那样”
確かに一理あるかもしれん。
确实有道理。
帰りに団子でも買って行くことに決めて、忠告してくれた二人に手を振って学校を出た。どうせならついて来てくれてもいいのに、とは言い出せなかった。もしも連れて行って、三日月みたいなことになっては困る。
决定回家时买些年糕,向那两位给我忠告的人挥手告别离开学校。本来想叫他们一起来的,但没敢开口。如果叫他们一起来,结果变成像月亮那样就麻烦了。
帰り道にある和菓子屋で団子をいくつか買って、神社までの道のりを自転車で行く。勿論石段は無理だからと、鳥居の辺りに無造作に立てかけて、かさりと音を立てる袋を持って石段を登った。それなりに距離のある石段は、落ち葉で覆われていた。
在回家的路上,在一家和菓子店买了几个年糕,骑着自行车去神社。当然,石阶是上不去的,所以随便在鸟居附近搭起一个,拿着发出响声的袋子爬上石阶。那石阶距离不短,被落叶覆盖着。
ここも、最後に三日月に会ったのが俺であったことから、事情聴取を受けた俺の証言で警察の捜査が入っていたために暫くは立ち入り禁止になっていたが、今では封鎖とは名ばかりの無法地帯に逆戻りだ。
因为最后是我见到了三日月,所以我的证言导致警察介入调查,那段时间这里被暂时封锁,但现在又回到了那个名为封锁实则非法的地带。
逆に言うと、それさえなければもっと早くにここに足を運んでいたというのに。
反过来,如果不是那样,我可能早就来这里了。
登りきって見渡しても、そこは木々の緑が枯れ葉色に変わっただけの寂れた空間で、ざりりと砂を噛む足元も砂利の間に砂が多い。ざくざくと進む先にある拝殿は、鈴も外されてしまっていた。
登到高处望去,这里只是树木的绿色变成了枯叶色,一片荒凉的空间,脚下沙子很多,走在上面沙沙作响。前方有座拜殿,连铃铛都被取走了。
「……三日月…」
“……三日月……”
昔はここで駆け回ったりしていたのに。
以前总是在这里奔跑来跑去。
いつの間にこんなに近寄り難い場所になってしまったのだろうか。
什么时候这个地方变得这么难以接近了?
惜しい気持ちを抱えながらぐるりと見渡すと、ふと視界に何かが映った。
抱着遗憾的心情四处张望,突然视线中出现了一些东西。
慌ててそちらへ視線を投げると、小さな子供が二人、拝殿の端の方で蹲っている。
忙着看向那边,看到两个小孩子蹲在拜殿的一角。
「…こんな時間に、こんな場所に子供?」
“这么晚了,这个地方怎么会有孩子?”
思わず辺りを見回して親を捜すが、どうもその二人しかいないらしい。
不禁环顾四周寻找父母,但看起来只有那两个人。
思わず声をかけると、びくりと肩を揺らした二人は物凄い勢いで振り返った。
不禁开口叫唤,那对惊慌失措的二人猛地回过头来。
それは目を見張るほどの可愛らしい子供で、一方は長く白い髪に蒼い瞳、一方は黒に近い紺の襟足だけ少し長い髪に緋色の瞳。よく似た顔立ちのそれは兄弟であろうことが窺える。
那是个令人惊叹的可爱孩子,一个有着长长的白色头发和蓝色的眼睛,另一个有着接近黑色的深紫色头发和红色的眼睛。他们有着相似的面容,看起来像是兄弟。
「こんな場所で何してるんだ。お父さんやお母さんは?」
"你在这地方干什么?爸爸和妈妈呢?"
問いかけると、二人ともじっと俺を見つめながらとことこと近づいてくる。
问完之后,他们俩都静静地盯着我,慢慢地靠近我。
俺の目の前まで来て暫く俺の目を見つめると、共に互いの顔を見合ってから小さな手をこちらへ伸ばしてきた。
他们走到我面前,停了一会儿,互相看了对方一眼,然后慢慢地伸出手来。
「こら、お前達」
"喂,你们这些"
もう少しで手が届くというところで声が聞こえた。
仿佛就要触手可及时,听到了声音。
顔を上げると、ゆったりとした藍色の着物の男がこちらへ来るところだった。
抬起头,看到一位穿着宽松蓝色和服的男子朝这边走来。
その顔を見て、目を見開く。
看着那张脸,眼睛瞪得大大的。
「み、かづき…」
“啊,かづき……”
「おお、鶴丸じゃないか。久しいな」
“哇,这不是鹤丸吗。好久不见啊。”
久しいとか、そういう問題じゃないだろう。
“好久不见之类的,应该不是问题。”
色々と言いたいことがあったはずなのに、いざ目の前に三日月が居るのを見ると全部吹っ飛んでしまった。
“本想说说这许多话,但一看到眼前的三日月,所有的话都飞散了。”
「かかさま」
“早上好”
「このひと、ぼくたちがみえる」
“这个人,我们看得见”
「そうだな。でも駄目だ、手を出してはいけないぞ」
“没错。但不行,不能出手”
窘める言葉に二人の子供は俺をちらりと見上げ、困った顔をしてから小さく頷いた。どうにも納得がいかないという顔だが、三日月も譲る気はなさそうだ。
两个孩子被这尴尬的话说得抬头看了我一眼,露出为难的表情,然后轻轻地点了点头。他们似乎不太信服,但三日月似乎并不打算让步。
否、そんなことはどうだっていい。
不,这样的事情无所谓。
かかさま。
假名。
そんなおかしなあだ名で呼ばれてるのか。
你怎么会有这么搞笑的外号?
場違いなことばかり考えてしまうが、衝撃の余韻が過ぎれば後は怒涛の文句が口を突いた。
总是胡思乱想,但一旦震惊的余波过去,接下来就是滔滔不绝的抱怨。
「お前! 今までどこに行ってたんだ! 捜索願とか出されて…半年も!」
“你!之前去哪了!都发布了搜查令……半年了!”
「半年。そうか、そちらではまだ半年なのか」
「半年了。这么说,在那里还是半年吗?」
「何言ってるんだ! 帰ろうぜ。お前の叔父さんたちだって心配してたし、うちの親も…」
「你在说什么!我们走吧。你的叔叔们也在担心你,还有我爸妈...」
「残念ながらそれは無理だ。俺はもうそちらの住人ではないからな」
「很遗憾,那不可能。我已经不是那里的居民了。」
俺の声に苦笑した三日月は、記憶にあるのと同じ艶やかな髪をさらりと揺らして答えた。
听到我的声音,三日月苦笑着,轻轻摇曳着记忆中那闪亮的头发回答道。
そちらの住人ではないとはどういうことだろうか。もうマンションが引き払われているから、住む場所が無いということだろうか。そんなものどうにでもなるだろう。
难道你不是那里的居民吗?因为公寓已经空了,所以没有住的地方了吧。那种事情随便怎么样都行吧。
「なんだそりゃ。その子達は親戚の子か何かか?」
“怎么了?那些孩子是亲戚的孩子吗?”
「俺の子だ」
“是我的孩子”
「はぁ?」
哈哈?
「俺の子だ。もう少しでもう一人増える」
“是我的孩子。再多一个也好”
勢いのままに喋っていた俺の前で、以前とどこか雰囲気が変わった気がする三日月はうっそりと微笑んだ。
在我气势磅礴地说话的时候,三日月似乎感觉到了某种变化,她偷偷地微笑了一下。
そこにいるのは、俺の子、などと言われて納得できる大きさの子供ではない。どう見ても三歳以上にはなっている。
那里并不是我的孩子,他们的大小不足以让我信服,看起来至少已经三岁了。
大体彼女がいるなんて話も聞いたことがないのに。
我甚至没听说过她在这里。
そう思ったことを口にしようとした瞬間、三日月は着物越しの薄い腹を愛おしそうに撫でた。
就在他试图说出自己的想法时,三日月轻轻地抚摸着和服下的腹部,显得十分怜爱。
ぞく、と、急に周りの気温が一気に下がったような寒気がした。
突然感觉周围的气温急剧下降,一股寒意袭来。
何の冗談だと、そう言ってしまう事は容易いはずなのに。どういうわけかそれを口にすることは憚られた。
说起来好像很容易,但不知为何,我竟然感到有些难为情。
「以前は迷惑をかけたな。今はもう大丈夫だ。最初は俺も少し戸惑ったが、いざこうして子を持つと心境も変わるものだな」
“以前是给你添麻烦了。现在没事了。一开始我也有些困惑,但一旦有了孩子,心境也会改变的。”
「……なんの、はなしを…」
“……没什么,是闲话……”
「うん? あぁ、小狐丸のことだ」
“嗯?啊,是小狐丸的事?”
「こぎつね…?」
“狐狸……?”
「この神社で会ったという白い男さ。あれは不審者ではなかった。今では俺の家族だ」
“在这个神社遇到的那个白人男子。他并不是可疑分子。现在他已经成为我的家人了”
「なに…何言ってるんだよ…」
“什么……你在说什么呢……”
「この子達の父親でもある。本当に凄いな、俺にも血の繋がった家族が出来た」
“这个孩子的父亲也是我。真的太厉害了,我也有了血亲的家人。”
酷く幸せそうに微笑む三日月の目は嘘をついているようには見えなくて。だからこそ、正気ゆえの狂気が見える。
那双看起来冷酷而幸福的微笑的三月眼,似乎没有说谎。正因为如此,才能看到理智中的疯狂。
強引な男だと思っていたが、一緒に暮らすとなかなかに甲斐甲斐しく優しい実直な奴だ。心配は要らんよ。ところころ笑う姿を、じっと子供たちも見つめている。
我原以为他是个强硬的男人,但和他一起生活后,他竟然是个相当有趣、温柔、真诚的家伙。不用担心。他们静静地观察着他那笑眯眯的样子,连孩子们也在看。
やがて子供の目が俺の手にあった袋に興味を示した。
渐渐地,孩子们对放在我手中的袋子产生了兴趣。
欲しいのだろうかとそれを手渡すと、中身を覗き込んだ二人は三日月を見上げてかさかさと袋を振った。
想要吗?递给她后,两人窥视里面的内容,抬头看着月亮,沙沙地摇动袋子。
「ほう、団子か。貰ってもいいのか?」
“哎,是年糕吗?可以吃吗?”
「あ、あぁ…」
“啊,啊……”
「そうか。よかったなお前達。向こうで仲良く食べるんだぞ。すまんなぁ、食べ物などこちらに来てから碌に口にする機会が無いから珍しいんだろう」
“是吗。太好了你们。在那边好好吃吧。抱歉啊,自从来这里之后就没有好好吃东西的机会了,所以觉得很珍贵。”
こちらの住人は神気で生きているから食べる必要が無くてな。と語る三日月の目が、ついとどこか遠くを見た。
“这里的居民因为神气而活着,所以不需要吃东西。”三日月的眼神似乎望向了远方。
「鶴丸よ、そろそろここを出た方がいい」
「鹤丸,你该走了」
「……」
「もうじき閉ざされる。閉じてしまったら向こうの時間の流れに乗れなくなるぞ。久しく逢えて嬉しかった。元気そうで何よりだ」
「马上就要封闭了。一旦封闭,就无法跟上那里的时间流逝了。很久没见面,很高兴。看起来很有精神,真是太好了」
「なにを…」
「什么……」
「さぁ、もうすぐ『迎え』が来る」
「嘿,『迎接』马上就要到了」
何を言っているのかわからない。
我不知道他在说什么。
追いつかない頭で必死に整理しようとする俺のポケットで、携帯が突然音を立てた。こんな時に誰だよと思いながら取り出した携帯の画面を見たが、そこには通話もメールも着信を知らせるものなど何も無くて。
在我拼命整理的口袋里,手机突然响了起来。我一边想着在这种时候是谁,一边拿出手机看屏幕,但上面没有任何通话或邮件的提示。
「…?」
不思議に思いながら顔を上げると、そこにはもう三日月も、あの子供達も姿は見えなかった。
惊奇地抬起头,那里已经没有月亮,那些孩子们也不见了。
ざぁ、と木々を揺らす風が木の葉を舞わせる寂れた神社に、立っているのは俺一人だった。
嗡嗡,吹动树木的风使树叶飘舞,在荒废的神社里,只有我一个人站立。
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□
温かい手が腹を撫でる。
温暖的手抚摸着肚子。
後ろから抱えられるようにして座る俺の肩に、ふわりと白い束がかかった。
我被从后面抱住,肩膀上轻轻挂着一件白色的东西。
酷く身体が熱い。
身体热得厉害。
身動き一つ取るのも億劫なほど、身体中が痛い。
身体痛得连动一动都感到困难。
汗と涙が頬で混じり合い、肌に張り付いた髪がしっとりと濡れた。
汗水与泪水在脸颊上交融,紧贴肌肤的头发湿漉漉的。
「ふー…ふー…っ」
「呜…呜…」
呼吸がなかなか整わず、時々息を詰めては身を強張らせ、その度に深呼吸を促される。
呼吸难以平顺,时不时气促,身体随之紧张,每次都促使我深呼吸。
優しい手つきで腹を撫でるのは、俺をこちら側の世界へ引きずり込んだ張本人だ。
用温柔的手抚摸腹部,是把我拉入这个世界的幕后推手。
後に小狐丸と名乗った男は、何度もこうして様子を見ながら時折ゆっくりと抱き締めて唇を重ねてくる。
后来的男子自称小狐丸,多次这样观察情况,偶尔慢慢抱紧,嘴唇紧贴过来。
あの時の強引さは相変わらずだが、こうして優しい面もあるのだと知ってからは身を寄せ合うことにも馴染んできた。
那时的强硬依旧,但自从知道他也有温柔的一面后,也就习惯了彼此靠近。
「……ふ、ぁ…」
“……呃,啊……”
「つらいか」
“难受吗?”
「ぅ……い、たい…」
“嗯……想……”
「もう少しじゃ。そら、水はいるか?」
"再等等。天空,有水吗?"
「うぅ…」
"嗯……"
正直喉は乾いているが、水を飲む気力も湧かない。
说实话喉咙很干,但也没有喝水的力气。
それがわかっているのか、小狐丸は近くに置いていた水の入った筒を取ると、自分で水を口に含んで俺に口移しでゆっくり流し込んでくる。何度もそれを繰り返し、熱と痛みで流してしまった汗の分を補充しようとするのがわかって、はじめは抵抗のあったそれもすっかり慣れてしまった。
小狐丸知道这一点,于是他从旁边拿起装满水的筒,自己含一口水,慢慢地递给我,让我喝。他反复这样做,我知道他是想补充我因热和痛流出的汗,一开始我有些抗拒,但后来也就习惯了。
こくりと喉を鳴らすのを確認して、再びゆっくり腹を撫でる仕種は慈しみに溢れていて、その手を払い除けることも放せと邪険にすることも出来ない。
轻轻确认喉咙的响动,再次缓缓抚摸腹部的方式充满了慈爱,无法推开那只手,也无法冷漠地忽视它。
もっとも、そうして小狐丸の存在を警戒することなど今ではもうなくなってしまっているのだけれど。
然而,现在警戒小狐丸的存在已经不再了。
手足が痺れるような感覚と同時に指先から冷えていく。かと思えば腹の奥が熱した油を注いだのではないかと思うほど熱くなって、酷い痛みが襲ってくる。
同时伴有手脚麻木的感觉,指尖逐渐变冷。一想到腹部深处仿佛注入了热油,就感觉热得难以忍受,随之而来的是剧烈的疼痛。
「こぎ……ね…っ」
“咕……嗯……”
「三日月、呼吸を止めるでない。ゆっくりでいいから深呼吸じゃ」
「三日月、不要停止呼吸。慢慢来,深呼吸就好。」
「んんぅ…」
「嗯嗯……」
ふるふると首を振るのも弱々しく、困った様子の小狐丸の表情が逆さまに覗き込む。
狐丸的头无力地摇晃,表情痛苦地朝下窥视。
小狐丸の腕に頭を乗せるように凭れ掛かり、投げ出した足で敷布を蹴るように引っ掻き、苦しさで着物に爪を立てながら胸を喘がせた。
狐丸的头靠在手臂上,用被扔出的脚踢开毯子,用指甲在衣服上抓挠,痛苦地喘息着胸部。
そろそろか、と小狐丸が呟くのと殆ど時間を置かずして、今までとは比べ物にならない痛みが襲ってきて呼吸もままならなくなった。
狐丸几乎没说什么,时间几乎没过去,就袭来了一种前所未有的剧痛,呼吸也变得困难。
かひゅ、と掠れた声とも呼吸ともつかない音を洩らして悶える俺の腹部に手を当てていた小狐丸は、一度その手を放すと近くに置かれていた水とは違う筒を取った。
哎呦,声音嘶哑,呼吸也难以捕捉,我感到痛苦的小狐丸把手放在我的腹部,然后放开了手,拿起了一旁放着的水壶不一样的管子。
中には半分ほど酒が入っていて、それを口に含むと自分の手に霧状に吹きかけた。
里面大约有一半是酒,含在嘴里后,就像向自己的手上吹雾一样。
もう一方の手で俺の着物の袷を開き、既にしっとりどころではない量の汗をかいて波打つ腹に直接酒を浴びた掌を当てる。
另一只手拉开我的和服的襟,已经湿透的汗液在波动的腹部上直接洒上酒的手掌。
「いま少し耐えよ」
“再忍一忍。”
「ぐ、ぅ……っあ、あぁぁっ、がっ…あぁあぁあぁああッ!」
“咕,呜……啊,啊啊啊,啊……啊啊啊啊啊啊啊啊啊!”
ぐぶ、と音がするのではないかと錯覚する。
感觉像是咕咕的声音。
小狐丸の手が俺の腹に突き刺さったのを見て、状況を把握する前に灼熱の痛みが全身を焼いて、あまりの衝撃に痙攣を起こした身体は暴れることさえ出来ない。
小狐丸的手刺入我的腹部,在弄清楚情况之前,灼热的疼痛已经遍布全身,身体因极度震惊而抽搐,甚至无法挣扎。
怖くて痛くて、髪を振り乱して腹に突き立てているのとは逆の小狐丸の手が俺の手を握るのと、それに強く爪を立てて叫ぶのはどちらが早かったか。
恐惧与疼痛交织,头发被甩乱,腹部被刺入的小狐丸的手与紧紧握住我的手、用力抓挠并尖叫的先后顺序。
小狐丸の手が動く度に痛みで意識が遠のいていく。
每当小狐丸的手一动,疼痛就让我意识模糊。
やがて耐え切れずに意識を手放した俺の身体は、どろどろに溶けてしまうのではないかと不安になる程の熱を抱えたままだった。
最终,我无法承受,失去了意识,我的身体仿佛要融化,带着不安的热度。
*
ひやりとしたものが触れた。
被冰冷的东西触到了。
ゆっくり意識を浮上させると、身体はまだ多少痛むものの驚くほど熱が引いていて軽い。
慢慢恢复意识,身体虽然还有点痛,但热量退得惊人,感觉轻松。
瞼を上げると、心配そうに俺の顔を覗き込みながら冷やした布で顔や身体を拭いてくれている小狐丸の姿があった。
抬起眼皮,看到小狐狸丸担心地看着我的脸,用冷布擦着我的脸和身体。
「気がついたか。具合はどうじゃ」
“你醒了?感觉怎么样?”
「……ぁ…」
「……啊…」
「あぁ、そうか。待っておれ」
「啊,这样啊。等着你」
喉がひどく渇いている。
喉咙非常干渴。
叫んだためかぴりりと痛むのは、喉の粘膜が切れてしまったからだろうか。
呼喊后喉咙刺痛,可能是喉咙粘膜撕裂了吧。
すぐに水を取りに行った小狐丸が戻ってきて、まだ身動きの取れない俺の頭を支えながら口移しで水を飲ませてくれた。やはり喉が痛む。飲み込むのに時間が掛かるのは体力を消耗しているからというだけではなさそうだとぼんやり考えながら、髪を撫でてくれる小狐丸へ視線を投げた。
小狐丸立刻去取水回来,一边支撑着我无法动弹的头,一边用嘴对嘴的方式喂我喝水。喉咙还是痛。吞咽需要花费很长时间,似乎不仅仅是体力消耗那么简单。我漫无目的地抚摸着小狐丸的头发,目光投向了他。
その意味を汲み取ったのか、ふわりと微笑んだ小狐丸は俺の位置からではよく見えなかった頭上に当たる場所に置いてあったらしい一つの籠を、そっと手繰り寄せて中にあるものを取り出した。
似乎放在了看不太清楚的位置,小狐丸轻轻拿起了一个笼子,从中取出里面的东西。
布に包まれたそれは、白とピンクのよくわからない形状の小さなモノで、時々動いているのがわかる。
被布包裹着的是一些白色和粉红色的不明形状的小东西,偶尔还能看到它在动。
「よう頑張ったな」
“你很努力了。”
「…あぁ」
“…啊。”
俺の顔の横に置かれたそれを顔だけ動かして見ていると、自然と涙が零れ落ちた。
我把脸旁边的它只动脸看,眼泪自然而然地流了下来。
この、よくわからない形状の物体が、つい先程俺の腹から取り出された『子』であると理解して。
我刚刚从肚子里取出的这个形状不明的物体,理解成是我的“孩子”。
*
俺がこの体験をするのは二度目だ。
我第二次经历这个体验。
一度目は体感時間で二年ほど前。以前鶴丸に会った時、俺が失踪してから半年と言っていたから、実際は一年も経っていないようだ。
第一次是在大约两年前,我体验的时候。之前和鹤丸见面时,我说我失踪了半年,实际上可能只过去了一年。
一度目は腹から取り出されたのはまさかの双子で、いや、それ以上に、膨らむことの無かった腹から本当に子供が産まれたことが衝撃で取り乱した記憶がある。
第一次从腹部取出的竟然是双胞胎,更不用说,从从未膨胀的腹部真正生下孩子的记忆令人震惊。
なにしろ取り出し方が特殊だった。
因为取出方式特殊。
産むための器官も無く、なにかを宿している実感も無かった俺を襲った突然の熱と激痛は、なにか変調を起こしていることだけはわかったがそれ以上はなにもわからず、死ぬのではないかと思ったくらいだ。
没有生育器官,也没有任何寄宿感的我突然袭来的高烧和剧痛,只是知道有些异常,但除此之外一无所知,几乎以为要死了。
そんな俺の腹に小狐丸の手が突き立てられたときは本気で死んだと思った。
当小狐丸的手伸进我的腹部时,我真的以为我要死了。
けれど今回同様に気を失った俺が目覚めた時、腹に穴なんか開いてなかったし傷も無かった。
但是这次当我失去意识醒来时,肚子并没有被挖开,也没有受伤。
小狐丸は今のように俺の身体を拭いてくれていて、その傍らには小さな籠があった。
小狐丸现在在擦拭我的身体,旁边还有一个小笼子。
私達の子だと言われて、ようやく子を宿していたことを実感した俺はその事実を受け入れるのに時間が掛かった。だって、俺達の常識では男は子を身篭ったりなどしない。あんな無茶な取り上げ方もしないし、大体、腹だって膨れてはいなかった。衝撃は計り知れない。
当我被说成是孩子的父亲,我终于感受到了自己怀孕的事实,但接受这个事实花了一些时间。因为按照我们的常识,男人是不会怀孕的。那种荒谬的推测也不可能有,而且一般来说,肚子也不会鼓起来。震惊难以言表。
そう震える身体をなんとか落ち着けて、可愛いものだぞと寄せられた籠の中を見て逃げそうになった。
我努力让自己镇定下来,看着被递过来的笼子,里面装着可爱的小东西,我差点逃走。
実際は身体に力が入らず、腰を抜かしたように床を数歩這っただけだったが。
实际上身体没有力气,只是像腰弯下去一样在地上爬了几步而已。
だって、自分の子だと言われれば、それがどんなに実感のないことであろうとも人の子を思い浮かべるだろう。
因为如果被说成是自己的孩子,即使那感觉再不真实,也会想起人的孩子。
けれどそこに蠢いているのは人間の形などしていない、白くてピンク色の何かだ。溶け崩れた異形を自分の子だと言われて悪い夢ではないかと思った。気が触れてしまったのではないかと、自分の目と正気を疑って、頭を抱えて泣きながら取り乱す俺の姿に小狐丸が焦っていたのを思い出す。
但是在那里蠕动的东西不是人类的形状,而是一种白色和粉红色的东西。被说成是自己的孩子,难道不是噩梦吗?难道是我触动了什么,怀疑自己的眼睛和理智,抱着头哭泣,疯狂地挣扎,小狐丸焦急地回忆起我的样子。
籠を置き、痛みの和らいだ身体を無理矢理動かして暴れる俺を抱き締めて懸命に声を掛け続ける小狐丸の腕を引っ掻き、何度も俺を抱き寄せる胸を叩いて突き飛ばそうとした。
把笼子放下,勉强动弹着疼痛减轻的身体,小狐丸紧紧抱住我,拼命地呼唤我,我抓挠她的手臂,敲打她抱紧我的胸脯,试图将她推开。
白くて長い髪は指に絡まってぶちぶちと嫌な音を立て、目を潰すギリギリの場所を爪が掠めて頬を一筋の血が流れた。
白色的长发缠绕在手指上,发出讨厌的沙沙声,指甲划过眼角,脸颊上流下一道血痕。
なかなか放さない手に噛み付き、床を這って遠ざかろうとする俺に小狐丸は根気強く声を掛けて落ち着かせようと試みる姿は、あの時の俺には狂気を植え付ける獣でしかなく、恐怖で泣き叫ぶ声が室内に響き続けた。
那双不肯松开的手咬住了我,我试图在地上爬行远离,小狐丸却耐心地呼唤我,试图让我平静下来。那时的我,在他眼中不过是一只疯狂野兽,恐怖的哭喊声在屋内回荡。
その騒ぎを収めたのは、突然響き始めた泣き声だった。
那场骚动最终被一声突然响起的哭声所平息。
響くといっても、とてもとても弱く、小さく。
声音非常微弱,非常小。
自分の頬にも爪を立てて泣きじゃくる俺の耳に、形にならない声が弱々しく届いた時、ようやく小狐丸の腕の中でその出所を視線で追った。
当我脸颊上也被指甲抓破,哭喊的声音弱弱地传到我的耳边时,我终于在小狐丸的怀里用目光追寻声音的来源。
籠の中の、歪な肉塊が発するものだと気づいて、恐怖で竦んだ身体がじわじわと弛緩した。
意识到笼中扭曲的肉块发出的东西,身体因恐惧而颤抖,然后慢慢地放松下来。
どんな形であれ、産まれた命に罪は無いのだ。
无论以何种形式,出生的生命都没有罪。
産むことを決め、受け入れようとあれだけ努力もしたじゃないかと自分に言い聞かせて、過呼吸を起こしかけていた自分を落ち着かせようと何度か深呼吸を繰り返し、速まる鼓動を鼓膜の奥で聞きながらそっと小狐丸を見上げた。
决定生育,并努力接受,不是吗?我对自己说,试图让自己平静下来,避免过度换气,反复深呼吸,同时听着鼓膜深处加快的心跳,轻轻地抬头看向小狐丸。
傷だらけになった小狐丸の自慢の髪は乱れ、それでも怒ることなく優しく微笑んで俺を支えて一つ頷くと、籠をもう一度抱えて俺の前に持ってきた。
狐丸的骄傲之发已伤痕累累,即便如此,他仍不怒而笑,支持着我,轻轻点头,再次抱起笼子,放在我面前。
蠢くそれはどう見ても人間の形をしていないが、よくよく見ればそれはテレビなどの動物を取り扱った番組で観た事がある、産まれたばかりの仔犬や仔猫に似ていた。
那个愚蠢的东西怎么看都不像人形,但仔细一看,它却像是在电视等节目中看到过的刚出生的小狗或小猫。
「驚くのも無理はないか。これは元々実体の無いもの故姿形は不安定なのだ。抱いてやるといい。二・三日もすれば親の形を覚えて安定するじゃろう」
“惊讶也是理所当然的。这原本就没有实体,形态自然不稳定。抱抱它吧,过二三天就会记住父母的形态,变得稳定了。”
「だ、抱く…?」
“抱抱...?”
「こうして、ほら、手を」
"就这样,看,手"
「わっ、わ…」
"哇,哇……"
あまりに軽すぎるそれを布ごと取り出して俺の手の中に納めた小狐丸は、手が震えて取り落とさぬよう俺の手を包むように支えて笑った。
那只太过轻盈的小狐狸丸,被我从布料中取出,放在手中,手颤抖着,生怕掉落,我紧紧地握住手,笑着支撑着。
「いつか、愛しい者との間に子を儲けるのは私のかねてからの夢の一つであった。三日月、礼を言うぞ」
"总有一天,与心爱的人生儿育女,是我长久以来的梦想之一。三日月,请受我一拜。”
「………こども…」
「………孩子……」
「軽いじゃろう? こんなに小さくとも必死に生きようとしておる。あぁ、顔立ちはお主に似ておるな」
「轻吗?这么小还拼命地活着。哎呀,脸型和你长得挺像的。」
「……」
似てると言われても正直わからなかった。
虽然这么说,但说实话我也不知道。
人の形をしていないものを見て似てるとは流石に少々複雑だ。
看着不像人形的东西,竟然觉得有点复杂。
いつしか手の震えは収まり、そっと自分の腕の中に小さな二つの命を抱いていた。
不知不觉手抖停止了,轻轻地把自己怀中的两个小生命抱在怀里。
そんな俺を支えるように抱いて、小狐丸は嬉しそうに笑っていたのだ。
小狐丸像支撑我一样抱着我,开心地笑着。
*
声が洩れないよう結界を張っていた室内は、俺が気絶していた間に結界が解かれたのか空気が軽くなっている。
为了不让声音泄露,室内布下了结界,我在昏迷期间,结界被解除了,空气变得轻松了。
でなければ、別室で眠っている子供達が起きてきてしまう。
如果不在另一间屋子里睡觉,孩子们就会醒来。
あの二人は、小狐丸の言うとおり二・三日もすれば人の形になり、人間では考えられない速度で成長を遂げた。この環境の所為かと最初は思ったが、小狐丸にそういうものなのかと問えば、今更何を言うのかという顔をしてあっさりと返された。
那两个人正如小狐丸所说,两三天后就会变成人形,以人类无法想象的速度成长。最初以为是这个环境的原因,但问小狐丸是不是这样,他却露出一种现在说这些已经太晚了的表情,淡淡地回答。
「何を言っておる、狐の成長などそんなものじゃろう?」
“你在说什么,狐狸的成长哪有那样的事情?”
そういえばこいつは狐だった。
说到这个,这家伙是只狐狸。
一定の年齢までいけば成長が止まるらしいこの世界で、果たして小狐丸は本当は何歳なのか。
在这个世界上,似乎到了一定的年龄就会停止成长,那么小狐丸究竟真的有多大年龄呢?
俺も、小狐丸から与えられる神気だけで生きているため、これ以上成長することも老けることも無いらしい。まだ実感は湧かないが、十年もすればそれが本当かどうか嫌でもわかるだろう。今日産まれたこの子も、俺の理解を超える速度で成長するに違いない。
我也只靠小狐丸赋予的神气活着,所以似乎不会成长也不会变老。虽然现在还没有真正感觉到,但十年后不管愿意不愿意,应该就能知道了。今天出生的这个孩子,也一定会以超过我的理解速度成长。
俺は他人に与えられる神気など持っていないため、子供達の成長を促すための食事は全て小狐丸が与えている。というよりも、俺もそうなのだから小狐丸が居なければ親子揃って餓死してしまうだろう。
我没有从别人那里得到神气,所以孩子们成长的饮食都是小狐丸提供的。更准确地说,既然我也如此,如果没有小狐丸,我们母子俩都会饿死。
ある程度まで成長すれば、子供達も小狐丸と同じように自分で神気を蓄えられるようになるそうだが、まだまだ時間が掛かりそうだ。
一定程度成长后,孩子们也能像小狐丸一样自己积累神气,但似乎还需要更多时间。
「小狐丸」
小狐丸
「なんじゃ」
什么啊
「これは…男か? 女か?」
这是…男吗?女吗?
「見てわからんか? 雄じゃ」
看不懂吗?那是雄的
「三男か」
“是三个男孩吗?”
じっくり見たが、わからないものはわからない。
仔细看了,不懂的还是不懂。
そこが人間と狐の差なのだろうか。
那大概是人与狐的区别吧。
「名はどうするか」
名字怎么处理
「白夜、暁…三人目も男かぁ」
「白夜、黎明…第三个也是男人吗?」
隣で寝ている二人を思い出す。
想起旁边睡着的那两个人。
小狐丸によく似た白い髪の長男を白夜、俺に似た紺色の髪の次男を暁と名づけたのは小狐丸だ。
小狐丸给长得像他的白发长子取名为白夜,给我长得像的深色头发次子取名为暁,这是小狐丸取的名字。
ゆっくり時間を掛けて考えればいいと、疲れきった俺の髪を撫で付けるように頭を撫でて目を細める表情を見上げると、その指先が俺の目尻に溜まったままの涙を拭ってくれた。
慢慢地思考,我抚摸着疲惫不堪的头发,抬头看到他皱眉的表情,他的指尖轻轻擦去我眼角积聚的泪水。
疲れた。
累了。
とにかく、口を開くのも億劫だ。
总之,张嘴都感到困难。
そんな空気を感じ取ったのか、小狐丸は俺の身体を拭うのに使っていた布と水の入った桶を抱えて部屋を出ると、それらを片付けてから着替え用の着物と掛け布を持ってくる。
感觉到这样的气氛后,小狐丸抱着用来擦拭身体的布和装水的桶走出房间,整理好之后拿来换衣用的和服和披肩。
起き上がる力も無い俺を着替えさせるのは重労働だろうに、文句の一つも言わずに生まれたての子を籠に戻して俺を着替えさせてくれた。
连我自己起床都感到无力,更别提帮我换衣服了,却毫无怨言地把我刚出生的孩子抱回摇篮,让我换衣服。
子にも布を掛け、俺の隣に寝転んだ小狐丸の腕に抱かれてゆっくり瞼を下ろす。
给孩子也盖上布,然后我躺在小狐丸身边,被他抱着慢慢闭上眼睛。
はじめはこんな扱いで大丈夫なのかと不安だったが、この世界には神気が満ちているので抱いて温めなくても子が死ぬことは無いそうだ。それどころか、抱いて寝たら潰してしまうぞ!?と驚かれたものだ。確かに、このサイズは潰すかもしれない。起きている間はずっと抱いてやるようにして、寝る時はこうして籠の中へ。
最初我还担心这样对待孩子是否合适,但这个世界上充满了灵气,所以即使不抱着孩子取暖,孩子也不会死。相反,抱着孩子睡觉还可能会压坏它!?这让我很惊讶。确实,这个尺寸可能会压坏。醒着的时候我总是抱着它,睡觉时就这样放进笼子里。
双子の時もそうして過ごしてきた。
我们一直是这样度过的。
温かい小狐丸の腕に抱かれながら、いつかこの子もこうした温もりを求めるようになるのだろうかと心の片隅で思いながら意識をゆっくり沈めていった。
在温暖的狐丸怀里,心中暗想这孩子将来也会寻求这样的温暖吧,然后慢慢地放松了意识。
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□
以前、鶴丸が来た時は大変だった。
以前鹤丸来访时很麻烦。
子を宿しているからといってそれが身体そのものに影響を与えるのは産まれる寸前であり、それまでは普段と変わらない。故に、あの時は小狐丸に滅茶苦茶に抱かれた。
虽然收留了孩子,但这并不会对身体本身产生影响,直到临盆之前都和平时一样。因此,当时被狐丸紧紧抱住,非常难受。
小狐丸の力で安定しているこの辺りの結界は、小狐丸が眠っている間は少しだが薄くなる。その間に鶴丸に会ってしまったのは誤算だった。
小狐丸的力量使这片区域的结界保持稳定,但在小狐丸沉睡期间,结界会稍微变薄。在这期间遇到鹤丸是个意外。
懐かしい友人に会えた喜びは当然あった。ここには俺達しか居ないのだから。
当然,能见到怀念的朋友感到很高兴。这里除了我们没有人了。
けれど、まさか子供達まで見られるとは思わなかったし、鶴丸が子供達の姿を見ることが出来るのだと知ったときは戦慄した。
然而,我没想到连孩子们都能看到,当我知道鹤丸能看到孩子们的身影时,我感到非常震惊。
白夜と暁は、それが小狐丸の言うところの俺と同じ感覚だったのか、迷うことなく鶴丸に手を伸ばした。
白夜和晓,似乎感受到了小狐丸所说的那种感觉,毫不犹豫地向鹤丸伸出手。
その意味するところなど決まっている。鶴丸をこちら側へ連れ込むためだ。
意义所在并不固定。是为了把鹤丸带到这边来。
鶴丸を元の世界に帰した瞬間、俺の傍らには小狐丸が立っていた。
当鹤丸回到原世界的那一刻,我旁边站着小狐丸。
小狐丸が目を覚ます気配を感じ、閉じてしまう前に帰さねばと焦った為に反応するのが遅れた俺の身体は、傍らに立つ小狐丸の腕にあっさりと捕らえられた。
感觉到小狐丸醒来的迹象,因为急于在它闭上眼睛之前把它带回去,所以反应迟钝的身体被旁边站立的小狐丸轻而易举地抓住了。
「今のは誰じゃ」
“那是谁?”
耳元で囁く声が低い。
耳边低语的声音很轻。
俺の身体は相変わらず自分ではどうしようもない熱を蓄え、小狐丸がそうした意思を持って触れたなら身も心も屈服させるだけの抗えぬ快楽を叩き込まれる。
我的身体依然无法控制地积累着无法言喻的热量,如果小狐丸带着那样的意志触碰我,就会被那种无法抵抗的快感击垮,身心屈服。
ぞくぞくと背が粟立つのを感じながら、足の力が抜けるのを必死に耐えて小狐丸の着物に縋りつき、戦慄く唇を開いて答えようとすると、隠し切れない熱い吐息が洩れて数回言いなおすハメになった。
一边感觉到身体颤抖着竖起,一边拼命地忍耐着脚软,紧紧地抓住小狐丸的和服,张开颤抖的嘴唇想要回答,却忍不住泄露出了无法隐藏的急促呼吸,不得不反复说几次。
「お、俺の…幼馴染……んぅ…」
哦,我的……青梅竹马……嗯……
「私の眠っている間に知らぬ男と会おうとは、仕置きが必要かのう?」
"在我睡觉的时候,和不知名的男人见面,是不是需要惩罚呢?"
「ちが…本当に、なんでもない……ッか、ら…しんじて、ゆるして…」
"不……真的,没什么……嗯……请相信我,原谅我……"
立つのも困難なほどの熱が、小狐丸に触れられた箇所から広がり甘い痺れにも似た疼きが抑えられなくなる。
热得难以站立,从被小狐丸触碰的地方蔓延开来,甜蜜的麻痹感无法抑制。
懸命に白夜と暁が触れてしまいそうだったこと、帰そうと思っただけだったことを訴える間、外だというのに小狐丸は俺の帯を抜いて首筋に、胸にと唇を落とし、傷をつけぬ程度に牙を押し当てた。
在拼命地告诉白夜和晓差点接触的时候,只是想回去而已的时候,尽管外面,小狐丸还是拔了我的腰带,把头颈、胸部和嘴唇都放在上面,用牙齿轻轻压住,没有弄伤我。
ひんっ、と息を詰めて身を竦ませる度に、言い訳があるなら続けよ、と乳首を舐め転がし、舌先を尖らせて押し込むようにしてぐりぐりと刺激する。
- 每次我屏住呼吸放弃时,如果有借口,我会继续舔舐和滚动我的,并通过指向我的舌尖并将其推入来刺激它们。
膝が震え、砂利の上に倒れそうになるのを小狐丸の手が阻止し、がくんと身体が揺れた。
他的膝盖在颤抖,雪生丸的手阻止了他跌倒在碎石上,他的身体摇晃着。
「言い訳せぬなら、そんな口は塞いでしまっても構わんなぁ?」
“如果你找不借口,你不介意就这样闭上嘴巴,好吗?”
言うなり唇を重ねられ、口腔を長い舌が縦横無尽に嬲る感触に身も心も溶かされていく。
说着,她的嘴唇叠叠着,她的身心都被她修长的舌头向四面八方挑逗着她的口腔的感觉融化了。
「ぁ…あぁ…っ……こぎつね、ぇ…」
「啊…啊啊…嗯……小狐狸、嗯…」
「誰にも渡さぬ。三日月、お主は私の番ぞ」
“我不会给任何人的,新月,轮到我了。”
「あっ、ぁんッ、そこ…駄目ぇ…ッ!」
“啊 白搭。。。 哇!
下肢に伸びた手が下穿き越しに俺の雄の象徴を揉みしだく。強すぎる快楽に押し流されそうな意識を繋ぎ止めて、涙で滲む視界にニヤニヤと笑いながら『お仕置き』を続ける小狐丸に縋るしかなかった。
伸向小腿的手隔着内衣摩擦着我的男性标志。 - 她别无选择,只能坚持即将被太强烈的快感席卷的意识,一边对着泪水浸透的景象咧嘴一笑,一边继续“惩罚”。
小狐丸に作り変えられたこの身体は、小狐丸の与える神気がなければ生きられず、また小狐丸の精を受けねば雄としての機能を果たすことも出来なくなっていた。
这个被改造成小小丸的身体,没有小小丸赋予的神能就活不下去,除非接受小小丸的灵魂,否则无法作为男性发挥作用。
つまるところ、こうした触れ合いではなく、直接体内に小狐丸の精を注いでもらわないと俺は気をやることは出来ても射精することは不可能なのだ。イくこと自体、小狐丸に触れられなければ出来ないこの身体の熱を発散する手段は、ただただ小狐丸の機嫌を取って縋る以外に無いのだ。
归根结底,不是这样的接触,而是直接将小狐丸的精华注入体内,我才能控制自己的情绪,否则射精对我来说是不可能的。实际上,如果不能接触小狐丸,这个身体的热量只能通过取悦小狐丸来释放,除此之外别无他法。
だから快楽を与えるこの行為自体が、熱を蓄積するだけで解放を望んでも与えられない拷問に近く、まさしく『お仕置き』には相応しい。
因此,给予快乐的行为本身,只是积累热量,却无法带来释放,更像是近似的酷刑,简直就是“惩罚”。
たすけてゆるしてごめんなさいもうむりいきたいこわれるなにもしてないしんじて…!
帮帮我,宽恕我,我真的想哭,我什么都没做,请相信我……!
汗と涙と唾液にまみれた顔をくしゃくしゃに歪めて必死に泣き縋る俺に、小狐丸は尚も嬲るばかりの刺激を加えてその様子や啼き声を愉しんでいるようだった。
面部被汗、泪和唾液浸湿,扭曲着,拼命地哭泣,小狐丸却还在不断地给予刺激,似乎在享受这种样子和哭声。
けれど、少しばかり時間を掛けすぎたのか、鶴丸からもらった団子を食べ終えたらしい子供達がひょこりと様子を見に来てしまった。
然而,可能是因为花了一点儿时间,孩子们好像偷偷地来看鹤丸给的团子吃完了没有。
「ととさま、かかさまいじめてるの?」
“桃子,你在玩弄手机吗?”
「かかさまいやっていってるよ」
“我在玩手机呢。”
その声にビクリと身体が跳ねた。
听到这声音,身体不由自主地跳了一下。
不思議そうに首を傾げる二人の視線を受け、自分の子供に見られているという事実に身体の中を熱が暴れ回る。
他们的目光好奇地倾斜,意识到自己的孩子在注视着自己,身体里涌起一股热流。
「ぁ、や、やぁ…見ないで…見ないで…ッ!やだぁ…!」
“啊,别,别看…别看…啊!讨厌啊…”
「見られるのがそんなに悦いか、大したスキモノよ」
“你那么喜欢被看到,真是个怪人啊。”
「こぎつ、ね…やめて、やめ、もう…おねがいだから…」
“别,别这样…别这样…求你了…”
「何を言うか。折角じゃ、お主の姿をよく見せてやれ」
你说什么呢。好不容易让你好好看看我的样子
「や……ッ!」
呜……!
抵抗も虚しく、子供達が見ている前で小狐丸の猛るモノが俺の中に納められた。
抵抗也是徒劳,在小孩子们面前,小狐丸凶猛的样子已经深深印入我的心中。
ビクンッビクンッと陸に上げられた魚のように跳ねる身体を背中から抱き締めて、顎を掴んで顔を上げさせられる。
就像被抛上岸的鱼一样蹦跳的身体,从背后紧紧抱住,下巴被抓住,脸被迫抬起来。
見ないでと訴えたいのに、腰を揺すられればそんな言葉は形にもならず。
我本想大声呼喊,但腰一晃动,那些话就形同虚设。
「よく見よ。これが雌の顔よ。ふふ、嫌がるなど、寧ろ悦んで食い締めよるわ」
「好好看啊。这就是雌性的面孔。嘻嘻,与其讨厌,不如高兴地咬紧牙关。」
「? かかさまよろこんでるの?」
「?在鞠躬吗?」
「いじめてないの?」
「没有欺负你吗?」
「白夜、暁、ぬしらもいずれ番を見つけたらこうして存分に可愛がってやるがいい。まぁ、今はまだわからんじゃろうがな」
「白夜、黎明、我们迟早会找到那个时刻,尽情地疼爱彼此。嗯,现在还不明白,但总有一天会懂。」
そら、向こうで遊んでおれ。
天空,到那边去玩吧。
小狐丸の言葉に頷いて、手を繋いで駆けて行った二人が視界から消える頃、もうとっくに限界を超えていた俺は狂ったように小狐丸に縋るばかりだった。
在小狐丸的话中点头,手牵手奔跑的两人从视线中消失的时候,早已超越极限的我像疯了一样紧紧抱住小狐丸。
「イかせて…こわい……ゆるして、ゆるして…」
「别……好可怕……请放松,请放松……」
「少し虐めすぎたか。そう急くな、もう少しで私も果てそうじゃ」
"有点太过分了吗?你这么急,我都要支撑不住了。"
相変わらず具合の良い身体よ。
身体还是一如既往地好。
囁く声を最後に、激しい律動が始まり人形のように揺さぶられるままに揺れる視界に星がちらつくのを見ながら、思考が白く埋め尽くされるのを感じた。
在最后一句呢喃声后,强烈的节奏开始,就像木偶一样被摇晃,看着星星在摇曳的视野中闪烁,感觉到思绪被白色填满。
*
「見られた?」
「被看到了?」
「だから、言っただろう。白夜と暁が手を出しそうだったから止めに行っただけだと」
「所以,你这么说。因为白夜和黎明似乎要出手,所以我才阻止的。」
「何故」
「为什么」
「何故って…」
「为什么呢...」
「見えるということは番の素質があるということじゃろう。何故止めた」
“看得见就意味着有当家的素质。为什么阻止?”
「あいつは!」
“那家伙!”
「幼馴染と言うておったな。なら良いではないか。親しい者が傍に来るのに何の問題がある」
“你说他是青梅竹马,那不是很好吗。亲近的人来旁边有什么问题?”
心底理解が出来ないという顔をして、俺の身を清めながら小狐丸は首を傾げた。
“小狐丸带着疑惑的表情,一边为我洗清嫌疑,一边歪着头。”
それはそうかもしれないが、違うだろう、そういう問題じゃない。
那可能吧,但应该不是那样,那种问题不是。
俺は今でこそこうして家族が出来たから受け入れることが出来たが、向こうに家族がいない俺と、家族だけでなく友人も多い鶴丸では受け入れられる許容というものが違うだろう。
我现在终于有了家庭,所以能够接受这样的现实,但对我来说,没有家庭的我,在鹤丸那里,不仅是对家庭的接受,还有朋友的接受,可能有着不同的容忍度。
大体、番ということはつまり、それは俺達の子供と鶴丸が……やめよう、考えると頭が痛くなる。
大概就是番的意思吧,也就是说,那是我们的孩子和鹤丸……别想了,一想到这里就头疼。
「なんじゃ。それとも、知った者が相手では胸が痛むか」
“怎么了。还是说,知道的人会心痛?”
「……まぁ、そんなところだ」
“……嗯,就是这样。”
「ふふ、まだ子の成長を見守る段階じゃからな。確かに少々早すぎるか」
“嘿嘿,还在看着孩子成长呢。确实有些早了。”
いずれは巣立つ子の成長を見守るのは親の義務よ。
观察孩子成长,终究是父母的义务。
笑いながら俺の腹を撫で、嬉しそうに目を細めた。
笑着摸了摸我的肚子,眼睛眯成了一条缝。
お主がいればその義務も増えるやもしれんがなぁ、と。
如果有你在,或许这个义务也会增加吧。
ずっと一人孤独を抱えた狐は、番に選んだ俺を抱いて酷く優しく囁いた。
一只孤独地抱持着孤独的狐狸,紧紧地抱着被选为守卫的我,既温柔又痛苦地呢喃。
「放さぬ。永遠に、私だけのものよ」
“不放你走。永远都是我一个人的东西。”
やがて産まれる子を宿した腹を撫でる手に自分の手を重ね、この子は、白夜と暁は、いったいどんな相手をこの世界に引き込んでしまうのだろうと、少しだけ考えた。
随着时间的推移,怀抱着即将出生的孩子的肚子,用手轻轻抚摸,这个孩子,白夜与黎明,究竟会将怎样的对手带入这个世界呢,我稍微想了一下。
願わくば、俺のように受け入れることが出来る相手が見つかるようにと。
但愿能找到一个能像接纳我一样接纳对方的人。
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■□
ざぁ、と風が吹く。
乍暖还寒,风儿吹拂。
行方不明になったはずの三日月とこの神社で不思議な再会をした俺は、あれから何度もここへ足を運んでいた。
行踪不明的三日月竟然在这个神社与我神奇地重逢,从那以后我多次来到这里。
もしかしたらまた逢えるかもしれないと思って。
或许我们还能再次相遇。
けれど、あれ以来一度も三日月は姿を見せない。あの子供達も見当たらない。
但是,从那以后三日月再也没有出现过,那些孩子们也无处可寻。
燭台切と大倶利伽羅には、それこそ狐に化かされたんじゃないかと心配されるに至り、俺も夢だったんじゃないかと思い込もうとした。だけど、財布の中にあったレシートと手元に残らなかった団子が、あれを夢で片付けることを拒絶する。
对于燈台切和大俱利伽羅,我甚至担心他们是不是被狐狸迷惑了,我也开始怀疑那是不是只是一个梦。但是,钱包里的收据和剩下的团子拒绝让我把那当作一场梦来处理。
何か土産を持って行けば逢えるだろうかと、団子に始まり、三日月の好きだった饅頭や狐といえばこれだろうと稲荷寿司を買って行ったりもしたが、結局ただの一度も逢えはしない。
带着一些土特产去见她,从团子开始,买到三日月喜欢的馒头和狐狸形状的年糕,甚至买过稲荷寿司,但最终一次也没有见到她。
一人虚しく持ち帰ったそれを食べては、なにをしているのかと自分に問いかけたりもした。
一个人空虚地带着那些东西回家,也会问自己这是在做什么。
鶴丸、と呼んでくれる幼馴染の親友は、もう俺の手の届かない場所へ行ってしまったのだろうか。
被称为鹤丸的幼年好友,应该已经去了我够不着的地方了吧。
何度目かの挑戦の後、ふと鳥居の近く、少し石段を上がったところにあった小さな祠に目を向けた。幼い頃、ここを綺麗に磨いてお供え物を置いている婆さんがいた事を思い出す。
在多次尝试之后,不经意间看向了鸟居附近,稍微上了一点石阶的地方,那里有一个小祠堂。我想起了小时候,这里有一位老奶奶会把它擦得干干净净,还会摆放供品。
あの一家はいつの間にかいなくなってしまったが、ここにお供え物をする人はあの婆さん以外に見たことはない。
那一家人不知何时消失了,除了那位老奶奶,我从未见过其他人来献供品。
持って来ていた饅頭をそこに供え、俺はそのまま帰宅した。
我把带来的馒头放在那里,然后直接回家了。
あの饅頭は鳥や虫が食うか、町内の清掃をしているボランティア活動などで回収されるのだろうかと思うと、少しだけ罪悪感が浮かんだ。ゴミになってしまうようなら持ち帰るべきだったろうかと。
想到那个馒头可能被鸟或虫吃掉,或者被社区志愿者清理活动回收,我有点罪恶感。如果它变成了垃圾,我应该带回家的。
翌日の学校帰りに回収してしまおうと立ち寄ると、そこにあったはずの饅頭は消えていて、手遅れだったかと辺りを見回す。饅頭はパックに六つほど入っていた代物で、もしも鳥が食べたならパックだけその辺に落ちている可能性があった。
第二天放学后我打算去捡起来,却发现那个馒头不见了,看来已经来不及了,我四处张望。那个馒头是装在六个包装袋里的,如果鸟吃了,那个包装袋可能就掉在那里了。
ボランティア活動は月に二回なので、ゴミが回収されたとは考えにくい。
每月只有两次志愿者活动,所以不太可能收集到垃圾。
けれど、いくら見回してもそれらしきゴミは見当たらなかった。
但是,无论怎么查看,都没有看到类似垃圾的东西。
「…いや、まさかな」
“...不,应该是吧。”
俺の手から団子を受け取って持って行った子供達を思い出して小さく呟く。
想起从自己手中接过团子并带走的孩子,小声地嘟囔着。
そんな都合の良い事が起こるわけが無い。
那么顺利的事情不可能发生。
けれど、もし、饅頭を持って行ったのがあの子供達…若しくは三日月だったなら。
但是,如果那个孩子拿着馒头……或者月亮的话。
きっと違うだろうと思いながらも、万が一の可能性を考えてしまうとそうではないかとばかり都合よく考えてしまう。俺は今でも諦めてはいないんだ。
虽然觉得不可能,但一想到万一的可能性,就会自然而然地往好的方面想。我到现在都没有放弃。
なにか、確証を得られるような何かないだろうか。
没有什么能获得确凿证据的东西吧。
暫く考えた結果、俺はその場を離れて近くの弁当屋で弁当を買ってきた。コンビニだったなら菓子でもよかったが、コンビニより弁当屋の方が近いのだから仕方ない。
经过短暂思考后,我离开了那里,在附近的便当店买了便当。如果是在便利店的话,买点零食也行,但既然便当店比便利店近,也没办法。
買ってきたそれを祠の前に置き、鞄を開けてノートを取り出して一枚破り、それで小さな折鶴を折った。
买来的那东西放在祠堂前,打开书包拿出笔记本撕下一页,用它折了一只小鹤。
迂闊に手紙など書いて誰かに拾われては困るし、同じ理由で名前を記すのも躊躇われた。けれど、これならきっと三日月は気づいてくれる。そう信じて折鶴を添えて弁当を供えると、祈るように手を合わせてその日は帰宅した。
写信太显眼,怕被人捡到,也因为同样的原因,犹豫要不要写名字。但是,这样三日月一定能察觉到。我这么相信着,附上折鹤和便当,祈祷般地合上手,那天就回家了。
翌朝、ドキドキしながら走った神社の祠には、既に弁当は無かった。けれど、弁当が無いだけでそれ以上の変化もなかった。なにか返事が無いだろうかと思っただけに少しばかり落胆してしまう。これでは昨日と変わらないじゃないか。
第二天早上,紧张地跑到神社的祠堂,便当已经不见了。但是,便当不见了,也没有其他变化。我怀疑是不是没有收到回信,所以有些失望。这样看来,和昨天没什么区别。
溜息を吐いて学校に向かおうと祠を離れようとした俺は、かさりと何かを踏んだことに気づいて下を見た。白いなにか。そっと摘み上げたそれは、弁当の包み紙で折られた、狐。
我正想吐出怨气,朝学校走去,突然踩到了什么硬东西,低头一看,是白色的东西。我轻轻捡起来,发现是包着便当的纸折成的一只狐狸。
「……きつね…」
「……狐狸……」
ぞわ、と肌が粟立つ。
呼吸,皮肤起鸡皮疙瘩。
誰が折ったのだろう。弁当の包み紙で、丁寧に折られたそれ。
谁把它弄坏了。那个用纸盒,被仔细折叠的它。
三日月だという保証は無い。保証は無いけれど、ここで鶴への返しに狐を選ぶ奴などいるだろうか。
没有保证那是月亮。虽然没有保证,但在这里选择狐狸来回应鹤的人会有吗?
開いてみても何も書かれていないそれは、何度も折り直した痕跡が残っていた。丁寧に見えたが、折り目は何度もやり直しているようなので折ったやつは不器用なのかもしれない。
打开一看,里面什么也没写,却留下了多次折叠的痕迹。看起来很整齐,但折痕似乎反复折叠,或许折叠的人不太熟练。
「…三日月……なのか…?」
“……是新月……吗……?”
その日から、週に一度程度の頻度で俺は弁当や饅頭などを供えた。勿論、そこには白い鶴を添えた。
从那天起,我每周大约提供一次便当或馒头等食物。当然,那里还附上了白鹤。
翌日にはそこに弁当や饅頭はなく、代わりに狐が置かれていた。
第二天,那里没有便当或馒头,而是放了一只狐狸。
最初は気づかなかったが、細かく千切った紙で折られた狐はひとつではなく、大きな狐が二つと小さな狐が二つ。どういうことかと首を捻った俺が三日月からのメッセージだと気づくのには少しばかり時間が掛かった。恐らくこれは、大きな狐は自分と、例の小狐丸とかいう白い男。そして小さい狐は子供達を指している。
「…家族で食べました、ってか?」
“...我们一起吃了,是吗?”
帰って来て欲しい。
希望你能回来。
けれど、その気持ちはわかっているだろうに戻って来ないのは、戻れない理由があるということなのだろう。例えば、戻る方法がわからない。例えば、今の家族と共に居たい。
但是,尽管我明白你的心情,却无法回来,这大概是因为有无法回来的理由吧。比如,不知道该怎样回去。比如,现在想和现在的家人在一起。
そうなのだとしたら、俺には何も出来ない。
那样的话,我就无能为力了。
少なくとも、こうして痕跡を残せるのだから無理矢理監禁されているという事は無いだろう。なら、せめて姿の見えない親友の幸せを願う。
至少,能这样留下痕迹,应该不是被强制监禁吧。那么,至少祝愿看不见的挚友幸福吧。
何日か同じことを繰り返していくうちに、小さな狐の数が増えた。あの日、腹にいた子が産まれたというメッセージだろうか。こんな報告の仕方をされるなんて思わなかったじゃないか、ちくしょう。
几天重复同样的事情,小狐狸的数量增加了。那天,肚子里的孩子出生了,是这么报告的吗?没想到会有这样的报告方式,该死。
毒づきながら苦笑し、この日は折り紙を買ってきて赤い鶴も一緒に折った。お祝いの紅白鶴だ。
尽管心痛,还是苦笑着,那天买了折纸,还一起折了一只红色的鹤。庆祝的红白鹤。
更に半年もすれば、そこに更にひとつ子狐が増えて呆れたものだ。
再过半年,那里又多了一只小狐狸,真是让人惊讶。
本当は直接祝いたいのに。本当に祝っても良い状況なのかさえわからないじゃないか。呆れて溜息を吐く俺の手には稲荷寿司が提げられていた。
真想直接道喜。真的能祝他们好吗,甚至我都不知道自己是否真的能这样做。我那只能吐出叹息的手里拿着的是稻荷寿司。
あの日から随分と時間が過ぎ、俺はこの春からこの町を離れることになる。
从那天起已经过去了很长时间,我从这个春天开始将离开这个小镇。
少し離れた場所にある大学に進学が決まったのだ。
我已经被决定进入稍远处的大学学习。
ここにお供えが出来るのも今日が最後だと思うと、よくこの一年間飽きもせず続けられたものだと、自分でも呆れていいやら感動していいやらわからなくなった。本当なら一緒に卒業するはずだった高校生活も終わりを告げ、明日からは一人暮らしに早く慣れる為に、移り住む町へ移動しなければならない。
这里能提供帮助,也是因为觉得今天是最后一次,所以这一年间一直坚持不懈,自己都觉得有点惊讶,有点感动得不知道该说什么。本来应该是和同学们一起毕业的高中生活也结束了,从明天开始,为了更快地适应独居生活,不得不搬到新的城镇去。
盆と正月くらいは帰ってこられるだろう。GWも戻ってきてもいいかもしれない。
盆と正月くらいは帰ってこられるだろう。GWも戻ってきてもいいかもしれない。
盆と新年左右会回来的。GW(德国复活节假期)也可能回来。
その時には、またこの狐は増えているのだろうか。
那时,这只狐狸可能又增多了吧。
祠の前にしゃがんで、かさりと袋ごと稲荷寿司を置き、白い折鶴を一緒に添える。
在祠堂前蹲下,将装有稲荷寿司的袋子重重地放下,并一起放置白色的折鹤。
もう少しで桜の花も咲くようになるだろうこの空気の中で、せめてもう一度、この町から離れる前に逢いたかったと未練がましく心の片隅で呟く。暖かくなるには少し早いけれど、上着は少し薄くなった。
再过几天樱花也将盛开,在这空气中,我至少还想再从这座城镇离开前见你一面,心中隐隐作痛。虽然还早了些,但上衣已经变得薄了一些。
あいつは半年逢わなかっただけで二年経ったとか妙なことを言っていたが、ならあれから更に一年経った今はどうなっているのか。本当に神隠しだったとでも言うのだろうかと、今でも不思議に思えて仕方がない。
他半年没见就说什么过了两年之类的奇怪话,但现在又过去了一年,情况怎么样了呢?难道真的要说他是被神隐了吗?到现在我还是觉得很不可思议。
三日月が姿を消したあの瞬間、携帯に気を取られている間にどこかへ行ったのかとも一瞬考えたけれど、足元の砂利の音にその考えを改めざるをえなかった。
那一刻,看到三日月消失,我瞬间想到可能是分心在玩手机,不知不觉间走远了,但随即被脚下沙砾的声音打断了这个想法。
あんなに音のする場所を、音を立てずに素早く移動するなんて出来っこない。
那么嘈杂的地方,怎么可能悄无声息地快速移动。
「妙な芸当覚えやがって。そんな驚きいらないんだよ、まったく」
“你学什么奇怪的技艺啊,这种惊讶根本不需要。”
春を目前とした風は、俺のささやかな呟きを浚っていってしまう。
春风拂过,吹散了我微弱的低语。
今日は一度家に帰って、忘れ物は無いか確認しなくてはならない。
今天必须回家一次,确认一下有没有遗漏的东西。
明日の朝には移住先へ向かわなければ。色々と新生活は大変なんだぞ、と誰も聞く者がいない場所で一人笑う姿は、周りにはどう映るのだろうか。
明天早上就必须去新家了。新生活各种都很辛苦啊,没有人听你说这些,一个人笑的样子,周围人看起来会是什么样子呢?
周りにたまたま人が居ないことが救いだと思いながら、立ち上がって祠から離れようとしたところでいつの間にか隣に誰かが居たことに気づいてぎょっとする。
虽然觉得周围没人是个幸运的事,但当我站起来想要离开祠堂时,突然发现旁边有人,不禁愣住了。
俺と同じようにしゃがんで、祠をじっと見つめる少女。
像我一样蹲下,静静地盯着祠堂的女孩。
長い黒髪に白い頬。表情までは見えないが、なにやら無言のままじっと祠を、否、祠の前に置いた供え物を見つめていた。
长长的黑发,白皙的面颊。虽然看不清表情,但似乎无言地盯着祠堂,不,是盯着祠堂前的供品。
婆さんがお供え物を置いていたのを不思議に思って眺めていた、幼い日の自分を思い出す。
惊奇地看着婆婆放供品,想起了小时候的自己。
「つる…」
「丝……」
少女がぽつりと呟く。
少女轻轻自语。
どうも添えられた折鶴が気になるらしい。
似乎很在意你附上的折纸鹤。
「おにいさんが、おいてたの…」
“哥哥放在那里的……”
たどたどしいまだ幼い口調で、何かを納得したように頷く姿は随分と愛らしい。
语气稚嫩,点头表示同意的样子十分可爱。
恐らく独り言であろうそれは誰かに聞かせるためのトーンではなく、問いではなく確認であると窺える。
看起来那可能是自言自语,并不是为了告诉别人,而是确认,而不是提问。
「あぁ、うん、まぁ…願掛けみたいなもんかな?」
“啊,嗯,嘛……像是一种愿望一样的东西吗?”
独り言に対してつい返答してしまったのは、まさか見ている人が居るとは思わずに跋が悪いから。少しばかり気恥ずかしい思いを抱えながら、照れ隠しのように告げた言葉に少女は顔を上げた。
不禁回应了自言自语,并不是因为觉得有人在看,而是因为自己的冲动。少女带着一丝尴尬的情绪,像是在掩饰害羞一样,抬起头告诉了别人。
不思議そうな顔をしてこちらを見たその子の瞳は、まん丸に見開かれて硝子玉のように輝いている。
那个孩子带着不可思议的表情看向这边,他的眼睛圆圆地睁大,像玻璃珠一样闪闪发光。
その、まるで夕焼けを閉じ込めたような紅い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、首の後ろがぞくりとした何かに襲われた。
回忆起那种仿佛被夕阳封印的红瞳所吸引的错觉,脖子的后面被一种微微的触感袭击。
この感覚は、どこかで覚えがある。
这种感觉似乎在哪里见过。
けれどそれは一体どこでだったか。
但具体是在哪里呢?
「おにいさんは、やこがみえるのね?」
“哥哥,你好像生气了?”
「え…?」
“咦...?”
「やこのこえが、きこえるのね?」
“这个声音,能听见吗?”
「な、え、何が…」
“嗯,啊,是什么……”
少女はにこりと花のように笑うと、さらりと髪を揺らしながら立ち上がった。
少女微笑着,像花儿一样,轻轻摇动头发站起身来。
これは、覚えがある。この感覚はあの時に似ている。
这是我曾经学过的。这种感觉和那时很相似。
三日月と最後に逢ったあの時、二人の子供と出逢った時の、あの感じに。
就像上次和月亮最后一次相遇时,遇到那对双胞胎孩子时的感觉。
じり、と一歩下がるが、出入り口は少女の立つ方向だ。
稍微退了一步,但出口就在那个少女站立的方向。
静けさが耳に痛い。
寂静得让人耳朵难受。
どうしてこの時間にこの辺りに人の気配がしないのだろう。
为什么这个时间这个附近没有人影。
「おにいさんのおなまえは?」
“哥哥的名字是什么?”
紅い、紅い瞳がついと細められた。
红色的、红色的瞳孔逐渐变细了。
やこは、やこ。よるのきつねとかいて、やこっていうのよ。
野口是野口。晚上画了狐狸,野口就是狐狸的意思。
どこかませた口調で歌うように囁く声は、毒のように皮膚に、鼓膜に絡み付いて離れない。
带着某种口吻唱歌般低语的声音,像毒一样缠住皮肤、耳膜,无法摆脱。
やこはおしえたわ。おにいさんのおなまえは?
你教了我。你哥哥的名字是什么?
まだ幼い声に抗い難い響きが含まれているように感じられて、背中を冷たい汗が伝った。
感觉到那稚嫩的声音中蕴含着难以抗拒的响亮,背上冷汗直冒。
夜の狐。夜狐。きつねというだけで、頭の中では警鐘が響く。
夜的狐狸。夜狐。仅仅提到“狐狸”这个词,脑海中就会响起警钟。
―――おしえて?
你告诉我?
首を傾げて問いかける仕種に、姿の見えない親友が重なった。
倾头询问的样子,仿佛是无形的朋友重叠在一起。
「鶴丸…国永…」
“鹤丸……国永……”
「つるまるくになが。そう、つるまる、ね」
“变成圆滚滚的。是的,就是圆滚滚的。”
きいたなまえだわ。おかあさまがときどきはなしてくださったなまえ。
听过这个名字了。妈妈偶尔会这么叫。
ならきっと、おかあさまもよろこんでくれる。
那妈妈肯定也会高兴的。
そうくすくすと笑う声が不吉なものに思えて仕方がない。
那么咯咯咯的笑声听起来总觉得不吉利。
時々俺の名が出ていたとはどういう意味なのかを考える暇も無く、紅葉のような小さな手がこちらへ伸ばされた。
有时候没时间去想我的名字为什么会突然出现,一只像枫叶一样的小手伸向这边。
大丈夫だと。心配することなど何もないと。
没事的。不用担心任何事情。
「かんげいするわ」
“我会喊的。”
少女の笑みが深くなり、動けない俺の指先に小さな手が。
少女的笑容变得更深,一只小手放在无法动弹的我的指尖上。
思考が止まりそうになる数瞬の間に、場違いな疑問が脳裏を過ぎった。
在思考即将停滞的数秒之间,一个不合时宜的疑问闪过脑海。
どうしてもっと早くに考えなかったのか、自分でもわからない疑問。
为什么自己没有早点想到,这个问题我自己也说不清楚。
どうして今この瞬間に浮かんだのか、自分でもわからない疑問。
为什么这个疑问会在这个瞬间浮现出来,我自己也搞不清楚。
あの時、どうして三日月は子供達が俺に触れることを止めたのだろうか、と。
那时候,为什么三日月阻止孩子们碰我呢?
閑静な住宅街に、小さな都市伝説がまたひとつ。
在宁静的住宅区,又有一个小小的都市传说。