短編集(冬) 短篇集(冬)
X(twitter)上で参加させていただいた新ワンライへの投稿作品(2024年2月分)を主にまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的新一期投稿作品(2024 年 2 月分)的主要汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请参阅第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
illust/95808309 插画/95808309
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雪の日の朝 雪日的清晨
かこん。かちかちかちかち。ブロロロロ。ストーブのスイッチが入る音。間もなくごあああ、と暖かい空気が届き始める。セットしてあったタイマーが作動したらしい。
咔嚓。咔嚓咔嚓咔嚓。咕噜噜噜。炉子开关打开的声音。不久后,暖暖的空气开始传来,发出咕啊啊的声音。似乎是预设的定时器启动了。
眠りの淵に片足を突っ込んだまま、瞼を擦って起き上がる。
一只脚悬在睡眠的深渊边缘,揉着眼睛坐起身来。
サイドデスクを挟んだ隣のベッドで寝ている相手を起こさないよう気を付け、窓に歩み寄る。ガラスとカーテンで隔てられてなお侵食する冷気に眉を寄せながら、わずかにカーテンの裾を捲った。目の前に広がる景色に息を呑む。
小心翼翼地不吵醒隔着床头柜睡在旁边床上的对方,走向窗户。尽管有玻璃和窗帘的阻隔,仍感受到寒气的侵袭,微微卷起窗帘的一角。眼前的景色让人屏息。
遥かな山並み。樹氷を纏う木立。窓の外の景色は、どこもかしこも真っ白な雪に覆われていた。
遥远的山峦。披着树冰的树林。窗外景色,处处皆被皑皑白雪覆盖。
薄水色の空の下、白い大地に黒い穴が点々と群れをなしている。遙か上空から見れば、それは一本の線にも見えるかもしれない。
淡蓝色的天空下,白色大地上黑洞点点成群。从遥远高空俯瞰,或许那看起来像是一条线。
さく、と、ざく、の中間のような音が規則的にリズムを刻む。
咔嚓,咔嚓,中间似的声音规律地敲打着节奏。
雪に残された足跡を追って歩く。幸い積もった厚みはそれほどでもなく、雪に馴染みの薄い自分でも歩くのに支障はない。
循着雪地上留下的足迹前行。幸好积雪并不算厚,对于不习惯雪地的自己来说,行走并无大碍。
踏みしめた靴の底に、雪に覆われた地面の下で霜柱が軋んで砕ける感触が伝わる。
踩踏的鞋底传来雪覆盖的地面上霜柱碾压破碎的触感。
はあ、と吐いた息は白い。次いで吸い込んだ外気の冷たさに顔を顰めた。
呼,吐出的气息是白色的。紧接着吸入的冷空气让脸颊紧皱。
日が出ているとはいえまだ朝の早い時間だ。前日の寒さを思い出せばまだましだが、それでも用もなく外に出たいと思う気温ではない。なるべく早く足跡の主を見つけて連れて帰りたいところである。
虽说太阳已经升起,但仍是清晨时分。虽然比起前一天的寒冷要好些,但也不是那种无事也想出门的气温。只想尽快找到足迹的主人,带他回家。
そんな願いと裏腹に、轍の果てはまだ見えない。舌を打つ鋭利な音が虚空に響く。
尽管心中如此期盼,辙痕的尽头却仍未显现。锐利的咂舌声在虚空中回响。
(何処行きやがった、彼奴) (那家伙,到底跑到哪儿去了)
時は少しだけ遡る。 时间稍稍回溯。
束の間の休日、温泉付きのコテージに宿泊した翌日の朝だった。
短暂的假期,在附带温泉的小屋住宿的翌日早晨。
起きてみれば隣のベッドはもぬけの殻で、備え付けのクローゼットから昨日相手が外で羽織っていたコートが消えている。まさかと思いながら玄関に向かえば靴がない。送ったメッセージに既読は付かず、電話を掛けても応答がない。
醒来时,旁边的床已是空无一人,备用的衣橱里昨天对方在外面穿的大衣也不见了。虽然觉得不可能,但还是走向玄关,鞋子也不见了。发送的信息未读,电话也无人接听。
眉間に皺を刻みながら、凛は最低限の支度をしてコテージを出た。
凛皱着眉头,完成了最低限的准备,走出了小屋。
風に当たった耳たぶが痛くなる程度の時間を歩いて、ようやく見つけた相手は雪原の中で膝をついて工作に励んでいた。馬鹿げたことに熱中するその顔つきは至って真剣だ。
走了足够让耳朵被风吹得生疼的时间,终于找到的那个人正跪在雪原中埋头工作。那副全神贯注于荒唐事情的表情,显得极为认真。
最初に胸を満たしたのは安堵で、次に怒りがそれを塗りつぶしていく。
最初涌上心头的是安心,接着愤怒便将其彻底抹去。
「おい」 「喂」
「あ、凛。おはよう」 「啊,凛。早上好」
苛立ちを露わにした声を受け、屈み込んでいた潔が立ち上がる。膝を軽く払った。纏わりついていた雪がぱらぱらと落下していく。
听到那带着不耐烦的声音,原本弯腰的洁站了起来。轻轻拍了拍膝盖。粘附的雪花纷纷落下。
そうして雪がなくなった後、その膝小僧の部分が丸く湿って色濃くなっているのを見た凛の眉が跳ねる。
雪融化后,看到那膝盖骨部分变得圆润湿润且颜色加深,凛的眉头不禁一跳。
「このクソ寒い中ほっつき歩くとか何考えてんだ、阿呆」
「在这该死的寒冷中闲逛,你脑子在想什么,傻瓜」
「いやぁ、テンション上がっちゃってさ。見ろ、俺の力作」
「哎呀,情绪高涨起来了嘛。看,我的杰作」
得意げに指差した先には、小さな雪だるまが鎮座している。凛は白けた顔で鼻を鳴らした。
得意地指向的地方,一个小小的雪人端坐着。凛一脸扫兴地哼了一声。
「しょぼい力作だな。もっとでかくならなかったのかよ」
「真是寒酸的作品啊。就不能堆得更大些吗?」
「うーん、意外と雪が足りなかったんだよな。その代わり形は拘ったんだぜ?」
「嗯,意外地雪不够啊。不过形状可是很讲究的哦?」
もっとよく見ろと促され、そばまで寄って凝視する。
被催促着再仔细看看,于是凑近凝视。
なんの変哲もない、誰もが雪だるまと聞いてイメージするありきたりの形。大小の雪玉が積み重ねられただけのシンプルな構造。
没有任何特别之处,谁听到雪人都会想象到的普通形状。只是大小雪球堆叠而成的简单结构。
何処がだよ、という思いが顔に出ていたのだろう。潔は肩をすくめて首を振る。
脸上流露出‘哪里有啊’的疑惑。洁耸耸肩,摇了摇头。
「わかってないな、この綺麗な丸にするのが難しいんだよ。適当にやったら凸凹になるし」
「你不懂啊,要把这弄得这么圆润可不容易。随便弄的话会凹凸不平的。」
やれやれとでも言いたげな様子だった。 一副像是想说“真是的”的样子。
凛は半眼になって、少し低い声で言う。 凛半眯着眼,用稍低的声音说道。
「そうかよ。で、夢中になってスマホの通知も耳に届かなかったわけか」
「是吗。所以你才会沉迷到连手机通知都没听见啊」
「え?」 「诶?」
潔が目を丸くする。 洁瞪大了眼睛。
慌ててコートのポケットを漁り、スマートフォンを取り出す。赤くなった指先で電源ボタンを押したが成果はなかった。黒いままの画面上でちかちかと表示される空の電池のアイコンに、あちゃあと声を上げる。
慌忙地翻找着外套口袋,掏出智能手机。用泛红的指尖按下电源键,却毫无反应。屏幕依旧漆黑,闪烁着空电池的图标,我不禁发出一声“哎呀”。
「電源切れてら。昨日充電忘れてた、ごめん」 「没电了。昨天忘记充电了,对不起」
眉をハの字に下げる潔の顔に溜飲が下がる。ため息一つで容赦してやることにして、凛はこの道中ずっと手に持っていた物を突き出した。
看到洁皱起眉头的脸,我心中的郁闷稍稍缓解。决定用一声叹息来宽恕他,凛将一路上一直拿着的东西递了过去。
コテージに置き去りになっていたマフラー。手袋。毛糸の帽子。
被遗留在小屋的围巾。手套。毛线帽。
部屋でそれを見つけたとき、凛は持ち主の正気を疑ったものだった。潔の表情が緩む。
在房间里发现它们时,凛不禁怀疑起主人的神智。洁的表情缓和下来。
「気が済んだなら帰るぞ」 「气消了的话就回去吧」
「ありがとう、助かる。元々は本当にちょっと見るだけのつもりだったんだけど、つい」
「谢谢,帮大忙了。原本真的只是打算稍微看看的,结果就……」
くしゅ、とくしゃみをひとつして、潔はぶるりと肩を震わせる。
洁打了个喷嚏,肩膀微微颤抖。
「うお、今更寒くなってきた」 「呜哇,现在突然觉得冷起来了」
「さっさとつけろ馬鹿」 「快点戴上,笨蛋」
手袋だけが潔に押し付けられる。それを手に嵌めている間に凛はさっさと潔の頭に帽子を被せ、ぐるぐるとマフラーを巻きつけた。
只有手套被干净利落地塞了过来。在洁把手套套上的间隙,凛迅速地将帽子扣在洁的头上,并紧紧地缠上了围巾。
その巻き具合のきつさに潔はぐえ、と声を上げる。解けないように結んだ手が、文句を言うなとばかりにぴしゃりとマフラーを叩いた。
洁被那缠得过紧的围巾勒得发出“呃”的一声。凛为了防止围巾松开而打了个结,仿佛在说“别抱怨”似的,啪地拍了一下围巾。
そうして準備を整えて、踵を返そうとしたときに差し出された手を凛は無言で見つめる。
凛在准备妥当、正要转身离开时,默默地注视着伸向自己的手。
「手、繋いで帰らね?」 「手,牵着一起回去吧?」
「…」
へら、と潔が笑って言った。凛は眉を寄せる。 洁笑着说道,凛皱起了眉头。
帰り道、二人並んで歩く。 回家的路上,两人并肩而行。
楽し気な声が冬の朝のしんとした空気を揺らして、残響と共に消える。
欢快的声音在冬日清晨的寂静空气中回荡,与回响一同消失。
繋いだ手は、手袋越しでも暖かかった。 牵着的手,即使隔着手套也感到温暖。