短編集(梅雨) 短篇集(梅雨)
twitter上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2023年6月分)をまとめたものです。
这是在 Twitter 上参与的 One-Rai 投稿作品(2023 年 6 月)的汇总。
各話2000~3000文字程度。全体的に甘口でお送りします。
每话约 2000~3000 字。整体风格偏甜,敬请欣赏。
目次は1ページ目をご覧ください。 目录请参阅第 1 页。
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アイスの食べ方、二者二様 冰淇淋的吃法,各有千秋
しゃくしゃく。 咔嚓咔嚓。
しゃくしゃく。 咔嚓咔嚓。
人気のない田舎町のバス停に、小気味良い音が響く。
人迹罕至的乡间小站,清脆的声音回荡。
勢いよく齧り付いた口の中で、オレンジフレーバーの甘さが冷たく溶けていく。
猛地一口咬下,橙子味的甜香在口中冰凉地融化开来。
駅へ向かうバスを待ちながら、糸師凛と潔世一は二人並んでアイスを食べている。
等待前往车站的巴士时,糸师凛和洁世一两人并肩站着吃着冰淇淋。
橙色をした丸い棒状のアイスは、まだ季節の早い海を見に行った帰り道、偶然見つけた駄菓子屋で購入したものだ。
那根橙色的圆柱形冰棍,是在早春时节去海边游玩归途中,偶然在一家杂货店里买到的。
随分年季の入った店構えで、他に客はいなかった。からからとガラス戸を引いて入ると奥から店主らしい優し気な顔つきの老婆が姿を見せ、いらっしゃい、と笑顔で二人を迎えた。
这是一家颇有年头的店铺,店内没有其他客人。推开嘎吱作响的玻璃门进入,一位面容慈祥的老婆婆从里间走出,微笑着迎接他们,说道:'欢迎光临。'
アイスを見つけたのは凛が先だった。古めかしいフォントでアイスクリンと記された冷凍庫は店の奥の方、カウンターの脇に設置されていた。
凛最先发现了冰淇淋。店深处柜台旁,一台标有古朴字体的“冰淇淋”字样的冷冻柜引起了她的注意。
なんとはなしに眺めていたところに潔が横から顔を覗かせてその蓋を開け、ひょいと中の二本を掴み、レジに持っていく。そのままうたた寝をしていた店主に声をかけて会計を済ませてしまった。制止する隙もない、迅速な行動だった。
正当她不经意地看着时,洁从旁边探出头来,迅速打开盖子,从中取出两支冰淇淋,径直走向收银台。他直接叫醒了正在打盹的店主,迅速完成了结账。动作之快,让人连制止的机会都没有。
そして、ほら、と笑って二本の内の一本を凛に差し出した。別に欲しかったわけじゃない。本当はそう言おうとしていたのに、凛はなんとなく気勢を削がれ、無言でそれを受け取った。
然后,他笑着递给凛两根中的一根。其实并不想要。本想这么说的,但凛不知为何气势被削弱,默默地接了过来。
確かバス停にベンチあっただろ、そこで食べようぜ。
记得公交车站那边有长椅吧,我们去那里吃吧。
その言葉にも、特に反論するような部分はなかった。バス停は駄菓子屋を出て、その先の角を右に曲がったところにあった。歩いて数十秒ほど、すぐ近くの場所だ。アイスが溶ける心配もない。
对于这句话,也没有特别需要反驳的地方。公交车站从零食店出来,拐过前面的拐角向右走就到了。步行只需几十秒,非常近。也不用担心冰淇淋会融化。
凛は首を縦に振る。 凛点了点头。
まいど、ありがとね、という声に見送られ、二人は駄菓子屋を出た。
在“谢谢惠顾”的送别声中,两人走出了零食店。
しかし時刻は午後二時半。一日のなかで一番暑い時間帯だ。
然而此时已是下午两点半。是一天中最炎热的时段。
時期としてはまだ夏の入口かその手前だというのに、今日は快晴の影響もあってか随分と気温が高い。照り返しのきついアスファルトの道路を辟易しながら歩く。距離は短いとはいえ、湿度の高さもあいまって汗がじわじわと滲む。
尽管时节尚在初夏,今日却因晴朗天气而异常炎热。走在反射强烈的柏油路上,感到十分不适。虽然距离不长,但高湿度使得汗水缓缓渗出。
辿り着いたバス停には屋根もついていて、ベンチはちょうど日陰になっていた。午前のあいだ日向になっていた名残か空気が熱を孕んでいるが、それでも直射日光を浴びるよりは随分マシだろう。
抵达的公交站台有屋顶遮蔽,长椅恰好处于阴凉处。上午阳光直射的余温仍使空气带着热意,但比起直接曝晒,这已好上许多。
少しペンキの禿げた青色の、四人掛けのベンチに少し間を空けて座る。図らずも二人同時に、アイスを包む透明なビニールを破る。
坐在稍显斑驳的蓝色四人长椅上,彼此间留出些许空隙。不约而同地,两人同时撕开了冰淇淋的透明包装。
その後は互いに食べることに集中して、会話は途切れた。
之后,两人专注于进食,对话中断了。
時折吹く風の清涼感に救われながら無心でアイスを齧り続け、あっという間に最後の一口まで食べ終わって、凛はふっとひとつ息を吐いた。バス停に響いていた音が止む。
偶尔吹来的风带来清凉,凛无心地继续啃着冰淇淋,转眼间就吃到了最后一口,她轻轻吐出一口气。公交车站的喧嚣声也停止了。
凛の右手に握られた、剥き出しになった木の棒には何も書いていない。元からアタリもハズレもついていない種類の商品だった。
凛右手握着的木棒上什么也没写。原本就是没有中奖或不中奖标记的商品。
隣に目を向けると、潔のアイスはまだかなりの分量を残していた。コイツ食べるの遅えな、と凛は思う。
转头看向旁边,洁的冰淇淋还剩下不少。这家伙吃得真慢啊,凛心想。
気になって見ていると、その理由はすぐに分かった。食べ方が自分とは異なるらしい。齧らずにちろちろと少しずつ舐めているようだった。時間が掛かるのも納得だ。
好奇地观察了一会儿,原因很快就明白了。他的吃法似乎和我不一样。不是咬,而是细细地舔着,一点一点地。难怪会花这么多时间。
バスが来るまではまだ時間があるのでそちらは問題ないが、このペースでは食べ終わるより先にアイスが溶けて地面に落ちてしまいそうだ。
离公交车来还有些时间,所以这倒不是问题,但照这个速度,恐怕还没吃完冰淇淋就先融化了,掉到地上去了。
つい、凛の口から冷めた声が出る。 凛的口中冷冷地吐出声音。
「ちまちま食ってんな」 「吃得这么慢」
潔がアイスを舐めるのを止めて、凛の方を見る。 洁停下舔冰淇淋的动作,看向凛。
「あー、うん。こういうアイスの、噛んだときの音がちょっと苦手でさ。食べるの自体は好きなんだけど。あの軋むみたいな感じの音が脳に響くのが、なんかダメなんだよなぁ」
「啊,嗯。这种冰淇淋,咬下去的声音我有点受不了。虽然吃是喜欢吃的。那种嘎吱嘎吱的感觉在脑子里回响,真是受不了啊。」
少し遠い目で言う。 他略带遥远的眼神说道。
そして、思いついたように続けた。 然后,像是突然想到似的继续说道。
「でも、自分以外が食べてる音は平気。むしろ好きかも。って、さっき聞いてて思った」
「不过,别人吃东西的声音倒是不介意。甚至可能还挺喜欢的。刚才听着听着就这么觉得了」
へらりと笑う。 微微一笑。
その顔から、凛は目を逸らす。その先で、潔の左手に握られたアイスから雫が落ちそうになっていることに気づいて教えてやった。
凛移开了视线,注意到洁左手握着的冰淇淋快要滴落,便提醒了他。
「いいからさっさと食えよ。溶けかけてんぞ」 「好了好了,快吃吧。都要化了」
「え、やば」 「啊,糟了」
潔は溶け出た雫を慌てて舐めとり、アイスに向き直る。そして改めて攻略に挑んだ。
洁慌忙舔去滴落的冰淇淋液滴,重新转向冰淇淋,再次发起攻略。
最初は先程までと同様に舌を出してアイスの表面を舐めていたが、流石に時間が掛かり過ぎると判断したらしい。
最初和刚才一样伸出舌头舔冰淇淋的表面,但似乎觉得这样太费时间了。
天を仰ぎ、かぱりと大きく口を開く。先端を下向きにして構えられたアイスが、その中心に向かって真上から吸い込まれていく。目一杯奥まで咥えたところで唇が閉じる。
仰望天空,咔嚓一声张大嘴巴。将冰淇淋尖端朝下,从正上方吸入中心。直到最大限度地含到深处,嘴唇才闭合。
しゃく、と音が響いた。アイスが口から引き抜かれる。齧り取られたそれは半ばまで欠けて、木の棒が露わになっている。
发出“咻”的一声。冰淇淋从口中拔出。被咬掉的部分缺了一半,木棍露了出来。
潔は瞼をぎゅっと閉じる。その首筋を、無数の汗が伝う。始まりは顎の断崖から、尖った喉仏の稜線を越えて、白いシャツの内側へ。つ、と滑り落ちていく。
洁紧紧闭上眼睑。无数的汗水从她的脖颈流淌而下。起始于下巴的悬崖,越过尖锐的喉结棱线,滑入白色衬衫的内侧。缓缓地滑落。
空気が熱を帯びている。 空气变得炽热。
潔はそうやって口の中に収めたそれを、なおも噛もうとはしなかった。閉ざされた口腔で、オレンジの塊がゆっくりと溶けていく。茹った凛の脳味噌が、そんな光景を幻視する。喉がごくりと上下した。
洁就这样将那东西含在口中,却并未试图咬碎。在封闭的口腔内,橙色的块状物缓缓融化。煮沸的凛的脑髓,幻视着这样的景象。喉咙咕噜一声上下动了动。
しばらくして瞼が開く。 过了一会儿,眼睑缓缓睁开。
上を向いたままの潔が横目で凛を見て、照れたように笑う。
洁依旧仰着头,用眼角瞥向凛,羞涩地笑了。
「は、超見てんじゃん」 「哈,你这不是全看到了嘛」
アイスキャンディーはあと半分。 冰棍还剩一半。
バスはまだ、来ない。 公交车还没来。