夢十夜 梦十夜
原作軸16歳凛が限界社畜潔のもとにタイムスリップしてくる話です
原作轴 16 岁凛穿越到极限社畜洁的世界的故事
⚠️若干の精神疾患描写あり ⚠️包含少量精神疾病描写
⚠️潔の交際歴等は一切描写ありませんが、えちおね要素として性経験はある設定です
⚠️洁的交往经历等未作描写,但设定上作为色情元素有性经验
⚠️薬物過剰摂取の推奨意図はありません ⚠️不推荐药物过量摄入
感想など 感想等
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こんな夢を見た。 做了这样一个梦。
新宿駅南口。
金曜日ということもあって、夜二十三時を回っているのに昼と変わらない、むしろそれより増えてる気がする人口が駅前を激しく交差していた。バカ笑いする女の人たちの声、ウェーと奇声をあげる男たち、歩道の真ん中にあぐらをかいて何か高説垂れてるヤバいジジイ。俺も含めた、今ここに立ってる人間の吐き出すシーオーツーは日本でいちばん膨大な量と言っても過言じゃないだろう。なのに空気がかろうじて澄んでるように思うのは、冬のおかげかもしれない。
因为是星期五,尽管已经过了晚上十一点,车站前的人流却如同白昼般热闹,甚至感觉比白天还要多。女人们发出傻笑的声音,男人们发出奇怪的叫声,人行道上有个老头盘腿坐着,高谈阔论着什么。包括我在内,现在站在这里的人们所吐出的二氧化碳,说是日本最多的也不为过。尽管如此,空气却似乎勉强保持着清澈,或许是冬天的缘故吧。
ギリ日付を超えず退社できた俺は、同期飲みを連チャンでパスする程度には多忙な部署に配属されている。まだ二次会か三次会が開催されてるかもしれないけど、「潔くんクマできてない?」と女の子の同期に酔っ払いながら言われたのがなんだか嫌で、それ以来よっぽど気が向かない限り、同期飲みに関しては「行けたら行く」のスタンスをつらぬいていた。
勉强在日期变更前下班的我,被分配到了一个忙碌到可以连续拒绝同期聚会的部门。虽然可能还在进行第二场或第三场聚会,但自从被喝醉的女同期说‘洁君,你是不是不行啊?’后,我就觉得很不舒服,除非特别有心情,否则我对同期聚会一直保持着‘能去就去’的态度。
大学時代から培ってきた人の隙間を縫って歩くスキルを駆使して、煌々と人工的に輝く改札周辺まで辿り着いた。
利用大学时代培养出的在人群缝隙中穿行的技巧,我终于来到了灯火通明的人工照明下的检票口附近。
「あえ、運転見合わせ……」 「啊,暂停驾驶……」
いつも乗って帰る線について、電光掲示板にお知らせが出ていた。人身事故らしい。酔っ払って線路に落ちたか、それとも衝動的にか。前者の方がまだ救われる、と思う。
平时乘坐的线路的电子显示屏上出现了通知。似乎发生了人身事故。是喝醉了掉下轨道,还是一时冲动呢。前者或许还有救,我想。
一番早い乗り換え、かつ、乗りたい線によっては迷宮と化す新宿駅の特性をふまえながら、家へと帰れるルートをさぐる。スマホを見ながら壁に背中をつけようとしたとき。ふくらはぎになにか当たった。
考虑到新宿站换乘最快、但根据想乘坐的线路可能会变成迷宫的特点,寻找回家的路线。正想边看手机边靠墙时,小腿肚碰到了什么。
「あ、すみませ……」 「啊,对不起……」
人。男だった。ジャージを着た。見た感じ、大学生か、高校生?
人。男的。穿着运动衫。看起来像是大学生,还是高中生?
ストレートパーマでもかけてんのかと思うくらいさらさらな緑がかった髪の毛で、膝を抱えて突っ伏して寝ている。さすがに心配になった。なんか荷物とか全然ないし。盗まれたんじゃないか?
头发是那种绿得发亮的直发,像是烫过一样顺滑,他蜷缩着抱着膝盖趴着睡觉。我实在有点担心。他身边什么行李都没有。不会是被偷了吧?
ここで他人だと割り切って無視すりゃよかったのに、高校生なんじゃないかという憶測が俺を火の中に飛び込ませた。
本该在这里当作陌生人无视掉就好了,但那高中生的猜测让我像飞蛾扑火般走了过去。
「おい、おーい、大丈夫か」 「喂,喂,没事吧?」
しゃがみこみ、男の子の肩を揺さぶる。こんな一動作でさえ、スーツを着ているだけである種の重さがが伴ってくる。職場ではこの重力を忘れているのに、仕事から解放されて、こうして非日常の何かに触れた瞬間、体が一気に重くなる。それは、休みの日にサブスクで何かしらのアニメを見て泣いた時、とか、実家と久しぶりに電話した時とか。明日は今日の続きであって、それ以上でも以下でもないと割り切れなくなった瞬間、俺の体は重くなる。
蹲下身,摇晃着男孩的肩膀。即便只是这样一个动作,穿着西装也带来了某种沉重感。在职场时忘记了这种重力,而一旦从工作中解脱出来,接触到这种非日常的瞬间,身体便一下子变得沉重。那是在休息日通过订阅服务看某部动画时哭泣的时候,或是与久违的家人通电话的时候。当明天只是今天的延续,既不多也不少,无法割舍的瞬间,我的身体变得沉重。
というわけで、今回は、この深夜の新宿ど真ん中で寝こけてる少年によって、今日と明日は分断された。明日も休日出勤なのに。
因此,这次,这个深夜在新宿中心昏睡的少年,将今天与明天分隔开了。尽管明天还是休息日出勤。
「……なんだ。寝てなかったのかよ」 「……什么啊。没睡吗?」
わりとすぐに顔を上げた彼の顔はやっぱり大学生。いや、やっぱりどこか幼い気がするので、高校生かな?
他很快抬起头,果然还是大学生的样子。不,总觉得哪里还带着些稚气,或许是高中生?
こりゃモテるだろうなー、うん、どっかで見た顔な気が、と俺が彼の反応を見守り始めるより先に、彼は青緑色の目ん玉をまんまるくした。
这家伙肯定很受欢迎吧——嗯,总觉得在哪儿见过这张脸——在我开始观察他的反应之前,他已经瞪大了那双青绿色的眼睛。
「……は、潔……?」 「……洁……?」
「ん……?」 「嗯……?」
あらゆる記憶をサルベージしようと試みたけど無駄だった。もともと仕事のせいで頭は働いてない。何か食わないとうまく考えられなかった。
尝试挖掘所有记忆,但都是徒劳。原本就因为工作而头脑不清。不吃点东西就无法好好思考。
でも、家より先にこのトー横キッズもどき(この子に失礼かもだけど)をなんとかしないといけない。彼が俺の名前を知ってることはいったん無視した。
但在此之前,我得先处理这个像小孩一样的家伙(虽然对这孩子有点失礼)。暂时忽略他知道我名字的事。
「えっと……大丈夫?高校生?」 「呃……你还好吗?高中生?」
「何言って」 「你在说什么」
「物とか盗まれてない?こんな夜中に……危ないよ一人だと。補導されちゃうし」
「东西没被偷吧?这么晚了……一个人很危险的。会被辅导的」
「お前、俺のこと、」 「你,对我,」
言いかけて彼は苦々しそうに口をつぐんだ。 话说到一半,他苦涩地闭上了嘴。
それから彼は俺の家につくまで、ほとんど一言も喋らなかった。
然后,直到他到达我家,几乎一句话也没说。
シャワーの音が聞こえていた。それでやっと冷静になって考えた。
我听到了淋浴的声音。终于冷静下来开始思考。
これ、俺が誘拐してるとかにならねぇよな。 这不会被当成是我绑架了他吧。
何聞いても口を割らないからお巡りさんを呼んでこようとしたら、「警察だけは嫌だ」と袖を掴まれた。その拍子に立ち上がった彼は俺より頭半分くらい、でかい。子供みたいな縋り方に対し、やっぱ大学生じゃん……?と思えるほどの体格および体の厚さのギャップに、頭の中に大量のハテナが飛び交った。
无论怎么问都不肯开口,正打算叫警察来,他却突然抓住我的袖子说:“唯独警察不行。”他猛地站起来,比我高出半个头,身材魁梧。面对他那孩子般的依赖方式,我不禁想,果然是大学生啊……?这种体型和体格的巨大反差,让我脑中充满了问号。
「……え、じゃあどうすんの。ここにずっといてもいずれ警察くるよ」
「……诶,那该怎么办。一直待在这里,迟早警察会来的。」
「泊まらせろ」 「让我留宿吧。」
「は!?今どきのガキ怖すぎ……」 「哈?!现在的孩子太可怕了……」
「ガキじゃねぇ」 「我不是小孩。」
「無理無理無理無理だって。名前も知らない子供を家に入れるとか、犯罪みたいじゃん!」
「不行不行不行不行。连名字都不知道的孩子怎么能让他进家门,简直像犯罪一样!」
「糸師凛。これでいいだろ」 「糸师凛。这样就行了吧」
「自己紹介したからって解決にはなんないの!」 「自我介绍了又有什么用!」
それからしばらく応酬を続けていたけど、瞬間風速1キロメートル/秒のアドレナリンで吹っ飛んでた疲れがだんだんと戻ってきて、どうでも良くなって、一泊くらいならいいか、と諦めて今に至る。一応客なので先にシャワーをあびてもらっているけど、ここから先のことについてはほとんど何も考えていない。郊外なおかげで多少は広い部屋に住んでるけど、その代償として毎朝毎朝、満員電車に乗らなくてはならない。なんでこんな広い部屋に住んでいるのか、彼女もいないし家は仕事でほとんど空けてるしと思っていた矢先、この部屋が役に立った。ワンルームであの子と俺が横になるのは無理だった。
之后又继续了一段时间的争执,但瞬间风速 1 公里/秒的肾上腺素带来的疲劳逐渐恢复,变得无所谓了,想着住一晚也没什么,于是就放弃了,直到现在。虽然作为客人先去洗了澡,但对于接下来要发生的事情几乎什么都没想。住在郊外的好处是房间稍微宽敞些,但代价是每天早上不得不挤满员电车。为什么住这么大的房间,她也不在,家里几乎因为工作而空着,正想着这些的时候,这个房间派上了用场。一室一厅的话,那孩子和我并排躺下是不可能的。
「おい。なんだこれ子供服か」 「喂,这是什么,童装吗?」
頭にタオル乗せて戻ってきた凛という子供は、大人の俺よりずっと体格がいいせいで貸してあげたスウェットも彼の手首や足首まで包むには力及ばす、所在なく七分袖に成り下がっていた。
头上搭着毛巾回来的凛,虽然是个孩子,但体格比大人我还健壮,借给他的运动衫也因为力量不足,无法完全包裹住他的手腕和脚踝,无奈地变成了七分袖。
「ちげ〜よお前がでかすぎんの!つか、もうちょっとしおらしくしろよ!ここ俺ん家なんですけど」
「才不是呢,是你太大只了!还有,稍微表现得乖巧点吧!这里可是我家啊。」
「お前の家?じゃあ余計にいいだろ何しても」 「你家?那更好了,随便我做什么」
「はあ……?」 「哈……?」
言いながら、俺もさっとシャワーを浴びて戻る。凛は律儀に、さっき買った値下げシール付きコンビニ弁当を温めてくれてたらしく、二人で向かい合って食べた。態度も体もでかいのに妙なところで丁寧なところを見せる、謎の少年。
说着,我也迅速洗了个澡回来。凛似乎很认真地帮我把刚才买的打折贴纸便当加热了,我们面对面一起吃了起来。他态度和体型都很大,但在某些奇怪的地方却显得很细心,是个谜一样的少年。
「……お前、結局高校生なの?」 「……你,到底还是高中生吗?」
「だったらなんだ」 「那又怎样」
「大アリだわ。うわ俺未成年家に連れ込んでんじゃん……」
「真是大问题啊。哇,我居然把未成年带回家了……」
「同性だし事案でもなんでもねぇだろ」 「同性之间又不是什么案件,没什么大不了的吧」
「あのなあ性別は関係なくて!大人は怖いんだぞ!お前もあんなところに一人でいて……てか、お前なんなの?どっから来たの?」
「喂,性别无关紧要!大人很可怕的!你一个人在那里……话说,你到底是谁?从哪儿来的?」
凛は人のあたたかみを一切感じない幕の内弁当のおかずを箸でつまむのを中断して、目を弁当に落としたまま、尋ねた。
凛停下了用筷子夹起毫无温情可言的幕之内便当配菜的动作,目光依旧落在便当上,问道。
「おい……今は何年だ?」 「喂……现在是哪一年?」
「え?2026年……だけど」 「诶?2026 年……不过」
「ふざけてたら殴る」 「再开玩笑就揍你」
「ふざける要素ないだろ」 「这玩笑开得没边了吧」
「……俺は、さっきまで2018……19年にいた」 「……我刚才还在 2018……19 年呢」
沈黙。ほぼ十年前。こういうの読んだことあるぞ。 沉默。几乎是十年前的事。这种情节我读过。
「パラレルワールド……」 「平行世界……」
「タイムスリップだろ」 「是时空穿越吧」
「こら、家帰りたくないからって嘘つくな家出少年!世間から見たら俺が犯罪者なんですけど!?」
「喂,别因为不想回家就撒谎离家出走啊!在世人眼里我可是犯罪者啊!?」
「ガチだっつの。単に迷ってんならとっくに警察のお世話になってる」
「真的,真的。如果只是迷路的话,早就报警求助了」
いきなりオカルトなことを話し出すので、凛が厨二病真っ最中なのかもしれないと左手で口元を抑えた。あまり深く突っ込まない方がいいかもしれないと心得ていた時、「スマホで俺の名前調べてみろ」と凛が言った。
突然说起超自然的事情,凛可能正处于中二病发作期,我左手捂住嘴角。正想着最好不要深究时,凛说:「用手机查查我的名字」。
「なんで……?そんな有名人なのお前……って、………あ………」
「为什么……?你这么有名吗……等等,……啊………」
糸師凛。糸師凛!
俺は急いでスマホで名前を調べて、検索結果に出てきた画像をよく見る。レ・アールの糸師凛。何度も何度も23歳の糸師凛の画像と目の前の凛を見比べる。
我急忙用手机查名字,仔细看搜索结果中出现的图片。Le・Ar 的糸师凛。我反复对比 23 岁的糸师凛的图片和眼前的凛。
信じるしか、なかった。 只能选择相信。
もう食事どころではなく、俺は立ち上がって一歩、二歩、テーブルから下がった。ティッシュの箱がかかとにぶつかる。
已经顾不上吃饭了,我站起来,一步、两步,从桌子旁退开。纸巾盒撞到了脚后跟。
「なんで……?」 「为什么……?」
「知るかよ。実家は鎌倉だけど、そこに帰ったって大騒ぎになるだけだろ。おまけにこの世界には、ブルーロックがねぇ」
「谁知道啊。老家在镰仓,但回去也只会引起大骚动吧。更何况在这个世界里,根本没有 Blue Lock。」
凛は弁当を至極まずそうに食べながら話していた。 凛一边极其难以下咽地吃着便当,一边说着话。
「ブルーロック……?」 「蓝锁……?」
「日時、23歳の俺、俺がいたブルーロック。そのみっつを調べて、スマホはお陀仏になった。だからとりあえず寝てた」
「日期、23 岁的我、我在的蓝锁。这三个查了一下,手机就报废了。所以暂时先睡了」
ずっと電源に接続されてる凛のスマホはいまだ復活の光を見せない。まさに超常現象だ。
一直连接着电源的凛的手机至今仍未显示出复活的光芒。这简直是超自然现象。
凛の言うことに限りなく信憑性があるとわかっても、脳が追いついてなかった。理論があっても理解ができない。いや理論すらない。とんでもないことが、俺に、糸師凛に起こっているということだけがわかった。
尽管知道凛的话有着极高的可信度,但大脑却跟不上。即便有理论也无法理解。不,连理论都没有。唯一明白的是,发生了一些不可思议的事情,涉及我和糸师凛。
いやでも、そんなことよりも。 不,但比起那个。
「……それが本当なら、めちゃくちゃ怖かったよな……」
「……如果那是真的,那真是太可怕了……」
「あ?」 「啊?」
俺たちはテーブル越しに向かい合い、凛はソファー側に座っていた。俺はテレビ側に正座し直して、冷めかけた弁当に引き続き箸をつける。
我们隔着桌子相对而坐,凛坐在沙发一侧。我重新跪坐在电视机旁,继续用筷子夹起已经有些凉了的便当。
「だってお前、まだ高校生だろ?んなこと起こったら、……普通、取り乱すよ。何もわからず警察に泣きつくと思う。俺なら絶対そうしてる」
「但你还是个高中生吧?发生那种事,……正常人都会慌乱的。什么都不懂就跑去警察那里哭诉。要是我,绝对会那样做。」
「お前と一緒にすんな」 「别跟我在一起」
「なあ、なんでさっきからそんな失礼なん?お前」 「喂,为什么从刚才开始就这么无礼?你」
事情はわかっても、どうしようもない。凛の行く場所がない以上、俺の家にいるしかないということだけが、決定づけられたのであった───。
虽然明白情况,却无计可施。既然凛无处可去,那么只能待在我家,这一点已经无可改变——。
……なんで俺? ……为什么是我?
夢十夜 梦十夜
なぜか凛が俺の使っているベッドに眠ることになり、俺が床に布団をしいて寝ることになった。一年ほど前に大学の友達(男)に布団を貸して、それきり使ってないやつだ。
不知为何凛睡在了我用的床上,而我则在地上铺了被子睡觉。这是一年前借给大学朋友(男)的被子,之后就没再用过。
「お前、人のベッドでよくそこまで気持ちよく横になれるな」
「你这家伙,在别人的床上居然还能睡得这么舒服。」
「気持ちよくねぇ。つま先が出てクソがつくほど寒い」
「才不舒服呢。脚趾都露在外面,冷得要死。」
「あーもう靴下持ってくるから!待ってて!」 「啊——我去拿袜子!等一下!」
もはやお母さんみたいになっている自分を自覚しながら多分これもちぃせぇと文句言われるだろうソックスを凛に渡して、流し台に戻る。それから、錠剤を三錠ほど口の中に入れ、水で流し込んだ。今やナイトルーティンの一環になっている、儀式のようなものだ。
意识到自己已经变得像妈妈一样,多半又要被凛抱怨这双袜子了,但还是递给了她,然后回到水槽边。接着,将三片药片放入口中,用水冲下。这已经成为夜间例行公事的一部分,像是一种仪式。
「……なんか病気でもしてんのか、お前」 「……你是不是生病了,你这家伙」
「あ、これ眠剤」 「啊,这是安眠药」
凛が起き上がって尋ねてきたこと自体が意外だったけど、隠すのもあれなのでさらっと答えた。みんざい……と世間知らずな言い方でオウム返しする凛は、大人っぽく見えてもやっぱり子供だ。
凛居然坐起来问我,这本身就让我意外,但隐瞒也不太好,于是我轻描淡写地回答了。凛用一种不谙世事的语气鹦鹉学舌般重复着,虽然看起来成熟,但果然还是个孩子。
「睡眠薬。不眠症みたいなもん。ストレス社会だし誰でもなるよ」
「安眠药。就像失眠症一样。在压力社会里,谁都会有的。」
「…………」
「寝よっか」 「去睡吧」
無表情は無表情なりに、凛の顔がかすかに曇ったのがわかった。俺はつとめて笑って言った。
凛虽然面无表情,但她的脸上还是隐约蒙上了一层阴霾。我努力挤出笑容说道。
電気を消したけど、実は寝れない。眠剤も規定量の倍を飲んでるけど、日に日に眠れなくなっていった。仕事のことやこれからのこと、もう終わってしまったこと。反芻することは山ほどあった。夢の見方を忘れてしまった、と思う。
虽然关了灯,但其实睡不着。安眠药也吃了规定量的两倍,但一天比一天难以入睡。工作的事、未来的事、已经结束的事,反复思索的事情堆积如山。我想,我已经忘记了如何做梦。
闇に目が慣れてきて、今夜もダメだなと眠ることをあきらめた。スマホは凛が起きるかもしれないしやめとこう。ああ見えてかなり不安を感じてるだろうから、せめて夜くらいはちゃんと寝かせてやりたい。
眼睛逐渐适应了黑暗,今晚又不行了,放弃入睡吧。手机还是别开了,万一凛醒了怎么办。别看她那样,其实相当不安吧,至少晚上得让她好好睡。
寝返りを打って、寝返りを打って。 翻身,再翻身。
苦しい、と思った。 感到痛苦,这么想着。
「うっせぇ」 「吵死了」
「あっ起きてた?」 「啊,你醒着吗?」
電気をつけるときのスイッチ音のように、凛の声が暗くて冷たい空気を小さく揺らした。
像打开电灯时的开关声一样,凛的声音轻轻地摇动了昏暗而冰冷的空气。
「そんなバカでかい音立てて動いてたら嫌でも起こされる」
「那么大的动静,不想醒也得醒了」
「寝返りうってただけなんだけど」 「只是翻了个身而已」
「……人ん家のベッドじゃ、やっぱ簡単に寝れねぇ」 「……在别人家的床上,果然还是睡不踏实」
そりゃそうだろうな、とも思ったし、凛なりの別のなにかだとも思った。
我也觉得应该是这样,但也觉得可能是凛特有的某种东西。
「なんか面白いこと話せ」 「说点有趣的事吧」
「え……そこでそんな無茶振り?」 「诶……这时候提这种无理要求?」
「早くしろ」 「快点做」
「り、凛って彼女とかいんの?」 「凛,你和她是什么关系?」
「は????」 「啥????」
地獄みたいな声が返ってきて、凛は起き上がり俺を見下ろした。
地狱般的声音回荡着,凛坐起身来俯视着我。
「何バカみてぇなこと聞いてる」 「问的什么蠢问题啊」
「え、ふ、普通じゃね?凛くらいのイケメンなら、めちゃくちゃモテるだろうし……現に、この時代の糸師凛も女性人気すげぇよ」
「诶,呃,不是很正常吗?像凛这样的帅哥,肯定会非常受欢迎的……实际上,这个时代的糸师凛在女性中的人气也非常高啊」
「付き合うとか興味ねぇ。んなことに気を取られてるヒマがあったら、世界一になる」
「我对交往什么的没兴趣。有那闲工夫,还不如去成为世界第一」
突き放すような、そして何かを押し流そうとするような凛の答え。自分でも信じられないほどに心の柔らかいところに矢が突き刺さったのがわかった。矢、というか、もっと、ガラスの破片のような無機質な物。
凛那仿佛要将人推开,又像是要将什么冲走的回答。他感觉到自己的内心深处,柔软的地方被一支箭深深刺中,那箭,不如说是更像玻璃碎片般的无机质之物。
「世界一って……世界一のストライカー?」 「世界第一是指……世界第一的射手?」
「当たり前だ」 「当然了」
「そうだよな……お前だったら目指せるし、現に世界トップクラスのフォワードだもんな……」
「是啊……如果是你的话,一定能达到的,毕竟你已经是世界顶尖的前锋了……」
凛は、『そっち』側で、俺はそうじゃなかった。才能も、可能性も、心の強さも何もかも、テレビの向こうの糸師凛と俺は違う。だから、高校最後の大会も準優勝にすら届かなかったし、俺のサッカー人生はそこで終わっていた。
凛在‘那边’,而我不是。才能、可能性、内心的坚强,所有的一切,电视那头的糸师凛和我都不同。所以,高中最后的大赛连亚军都没能触及,我的足球生涯就在那里结束了。
「……いきなり黙るな。気持ちわりぃ」 「……突然不说话了。真不好意思」
「いや、なんか昔を思い出して」 「不,只是想起了一些往事」
「昔?」
「うん……笑われるかもしれないけど、俺も、サッカーやっててさ。高校まで……。ノエルノアみたいな、世界一のストライカーになることが夢だった」
「嗯……可能会被笑吧,但我以前也踢过足球。直到高中……。我的梦想是成为像诺埃尔诺亚那样的世界第一前锋」
「…………」
「……凛、お前はすごいよ。そんな子供の頃から、サッカーのことだけ考えて生きてきたんだな。お前、世界一になれるよ。実際、未来が確定してるし」
「……凛,你真厉害啊。从小就只想着足球活到现在。你,一定能成为世界第一的。实际上,未来已经确定了」
「……知るかよ」 「……谁知道啊」
いつのまにか布団の中に身をもぐらせていた凛は、俺と逆方向に寝返りを打った。
不知何时钻进被窝的凛,翻了个身,背对着我。
「この時代でプロになってるのは、俺に似てるだけの他人だ。この未来も俺が書き換えてやる」
「在这个时代成为职业选手的,只是长得像我的陌生人罢了。这个未来,我会亲手改写。」
どこまでストイックなんだろう。でも、世界最強クラブのレ・アールでストライカーとして活躍して、これ以上凛が望むことが何なのかわからなかった。
他到底有多自律啊。但在世界最强俱乐部雷阿尔作为前锋活跃,已经不知道凛还渴望什么了。
凛の夢。凛の夢って、なんだろう。 凛的梦。凛的梦,是什么呢。
「……あれっ」 「……咦?」
考えながら目を閉じていたらいつのまにか外が明るくなっていた。ベッドを見ると、凛はまだ壁に体を向けて寝息を立てていた。
闭目沉思间,不知不觉外面已经天亮了。看向床铺,凛依然背对着墙壁,安稳地呼吸着。
考えすぎて時間が経っていたのか。にしては、眉間の重さがいくらが取れた気がする。
或许是想得太多了,时间已经流逝。尽管如此,眉间的沉重感似乎减轻了不少。
「俺、寝れたのか……」 「我,睡着了吗……」
夢の中でも凛のことと、サッカーのことを考えていた。
即使在梦中,也在想着凛和足球的事。
◆
昨日フロアを戸締りする時に思い出した仕事があったので、朝起きて顔を洗い、歯を磨き、スーツに着替えた。胃に入らないから朝飯は食わない。
昨天在锁门时想起有件工作没完成,于是早上起床后洗了脸,刷了牙,换上了西装。因为没胃口,所以不吃早饭。
「……会社行くのか」 「……要去公司吗」
凛はサイズの全然合ってないスウェットで棒立ちしていた。
凛穿着完全不合身的运动衫,呆立在那里。
「うん。テーブルに置いてあるお金で適当にメシ食って。テレビとかゲームも自由にやってていいから」
「嗯。用桌上的钱随便买点吃的。电视和游戏也可以随便玩。」
「サッカーできる場所教えろ」 「告诉我哪里能踢足球」
全然話が繋がってなくて凛を三度見する。凛は腰に手を当て、金剛なんとか像みたいな堂々としたいでたちでスーツ姿の俺を見下ろしていた。
话题完全接不上,我第三次看向凛。凛将手放在腰间,以金刚力士像般的威严姿态,俯视着身穿西装的我。
「サッカー……?」 「足球……?」
「こんなとこにずっといたら体がなまる。会社には俺の練習用の場所を示してから行け」
「一直待在这种地方身体会生锈的。先告诉我公司里我练习的地方再走。」
「そんなアホな……そもそもボールないじゃん。使える場所があったって……」
「哪有那种傻事……再说根本没球啊。就算有能用的地方……」
「これはなんだ?」 「这是什么?」
凛は手品みたいに突然手の上にボールを乗せた。玄関の暗がりで凛が後ろに持ってたのに気づかなかったのだ。
凛像变魔术一样,突然将球放在了手上。在玄关的昏暗中,我竟然没注意到凛一直把球藏在身后。
「あ……」と口から勝手に声が出た。大学でサッカーサークルに入って、ノリがあわなくてすぐやめて、でも捨てられなくて今まで持っていたやつだ。ベッドの下にでも転がってたのかもしれないけど、社会人二年目にして完全に忘れてた。
「啊……」我不由自主地发出了声音。这是大学时加入足球社团,因为合不来很快就退出了,但又舍不得丢掉,一直留到现在的那颗球。可能是在床底下滚落了吧,但作为社会人第二年,我早已完全忘记了它的存在。
「諦められてねぇじゃん」 「还没放弃呢」
「えっ、いや、何を!?」 「诶,不,什么!?」
「いいから教えろ。それから出社しろこのド社畜が」 「快说。然后给我滚去上班,你这社畜」
「ド畜生みたいに言ってんじゃねーよ……」 「别像畜生一样说话……」
荒川には強いサッカークラブがあると聞いていたし、そのあたりの運動公園に電話してみたら、予約が入っていなかったら練習できるとのことだった。じゃあ行ってこい、と言いたかったけれど凛は態度がでかいわりに東京の地理について俺以上に無知らしく、運動場まで送ることになった、んだけど。
听说荒川有一支实力强劲的足球俱乐部,于是我试着给那一带的运动公园打了电话,结果被告知如果没被预订的话就可以去练习。我本想说“那就去吧”,但凛虽然态度强硬,对东京的地理却似乎比我还无知,结果只好由我送她去运动场。
「なんでお前までついてくんだ」 「为什么连你也要跟来啊」
「高校時代の糸師凛ってどんなサッカーすんだろと思って……」
「高中时代的凛,踢的是什么样的足球呢……」
ジャージ姿の凛は、少し黙ると、やがて「フン」と鼻を鳴らして芝の上を歩いて行った。
穿着运动服的凛,稍稍沉默了一会儿,随即「哼」地一声,鼻子里发出声音,在草地上走了起来。
土曜日の午前。サッカークラブは今日大会らしく、一日中ここは空いているとのことだった。ちらほら子供は見えるけど、誰もサッカーはやっていなかった。
周六的上午。足球俱乐部今天似乎有比赛,据说一整天这里都是空荡荡的。偶尔能看到几个孩子,但没有人踢足球。
恐ろしいほどに晴れてる空の下、枯れた芝が革靴の裏をこすった。
在晴朗得令人恐惧的天空下,枯黄的草地摩擦着皮鞋的鞋底。
ジャージで明らか練習に来てますって格好の凛はまだしも、スーツ姿で同伴する俺は明らか異端に周囲には見えるだろうと思った。
穿着运动服明显是来练习的凛还好,而我一身西装陪同,显然在周围人眼中显得格格不入吧。
「その辺走ってくる。お前はアホ面して待ってろ」 「我去那边跑跑,你就在这儿傻等着吧。」
「アホ面は余計だろ」 「傻样儿就免了吧。」
体を温めに走りに行く凛の背中を見る。俺より十近く年下でどうしようもなく生意気で口が悪い凛。でも、サッカーに向かう態度は誰よりも何よりも真摯で、痛いほどに真剣なのだとわかる。彼にとって今は非常事態に違いないのに、こんなときでもサッカーのことを絶対に忘れないんだ。
看着凛为了热身而跑开的背影。他比我小近十岁,却无比傲慢,嘴巴又坏。但他在足球上的态度比任何人都更认真,那份专注让人感到痛楚。尽管对他来说现在无疑是紧急时刻,但即便在这种时候,他也绝不会忘记足球。
スーツのまま体育座りして、フィールドの周りを走っている凛をゆっくり目で追っていた。いい天気だし、風もなく今日は温かい。小春日和ってやつだ。昨日と今日が分断され、分離していく。いや、日常と今が分離していく。ずっとこうやって凛の練習を見ていれたらいいのになと思った。
穿着西装盘腿坐在地上,目光缓缓追随着在场地周围奔跑的凛。天气晴朗,没有风,今天很温暖。正是小阳春的天气。昨天与今天被分割开来,逐渐分离。不,是日常与现在正在分离。真希望一直这样看着凛的练习。
「おじさん!あぶなーいっ!」 「叔叔!危险——!」
「え」 「诶」
おじさんと称される人物が俺かどうかわからないまま、無回転で俺に迫ってくるドッジ用のボールを見た。あ、これ顔面直撃する。一瞬で脳が選択肢をいくつも並べるも処理できないまま諦めた。大きな足が無遠慮に俺の視界を占領する。
还没搞清楚被称作大叔的人是不是我,就看到一个用于躲避的球毫无旋转地向我逼近。啊,这要直击脸了。大脑瞬间列出了几个选项,却来不及处理,只能放弃。一只大脚毫不客气地占据了我的视野。
「わーっありがとう!おじさん大丈夫?」 「哇,谢谢!大叔你还好吗?」
「う、うん……」 「嗯、嗯……」
小学生くらいの男の子たちはボールを拾って、また生者の奪い合いに戻って行った。どんな投げ方したらあんな強烈なやつになるんだ。将来のプロ野球選手でも混ざってんじゃねぇのか。
小学生们捡起球,又回到了争夺生者的行列中。到底要怎么投才能投出那么猛的球啊。该不会混进了未来的职业棒球选手吧。
「ボケッとしてんじゃねぇ」 「别发呆了」
「り、凛……ありがとう……」 「凛……谢谢你……」
さっきまでその辺を走ってたはずの凛が、足にボールを当てて逃してくれたのだ。いい感じに体が温まってきたのか、凛は膝でリフティングしていた。
刚才还在那边跑的凛,用脚把球踢过来给我。可能是身体已经暖和起来了,凛正用膝盖颠球。
「すげぇ……糸師凛のリフティング生で見れてる……」
「太厉害了……居然能亲眼看到糸师凛的颠球……」
「その糸師凛ってのは誰のことだ?」 「那个叫糸师凛的是谁?」
「え?」 「诶?」
リフティングされていたボールが、凛の二歩先に溢れる。
被颠起的球,在凛的面前两步处落下。
「お前は今の俺だけ見てろ」 「你只管看着现在的我」
踏み込み、長い手足のフォームから、その軌道まで完璧な、あまりにも、あまりにも美しい、世界でいう糸師凛のビューティフル・シュートが炸裂した。
踏入,从那修长的四肢形态,到完美的,太过于,太过于美丽的,世人所称的糸师凛的绝美一击,轰然炸裂。
「わぁ……すごい……」 「哇……好厉害……」
「目の前にいる俺を見る気になったか」 「终于愿意看我一眼了吗」
遠くで転がっているボールをそのままに、凛は俺に向き直った。ぎくりとして凛を見る。
远处的球依旧滚动着,凛转过身来面对我。我紧张地看着凛。
「目の前にいる凛ってか……最初からお前はお前だって思ってるよ」
「眼前的凛啊……从一开始我就觉得你就是你啊」
「じゃあ今すごいってのは、誰に対して思った。レ・アールにいる俺のガキ時代に対してか、それとも今の俺か」
「那么现在觉得厉害,是对谁而言的。是对在雷阿尔时的我的孩童时代,还是现在的我?」
「よ、よくわかんないけど……」 「呃,虽然不太明白……」
凛は、今の未来よりもっともっと高みを目指してるのだろうと思った。世界一のストライカー。レ・アールの糸師凛も、世界トップクラスのストライカーだけど、世界一の称号を確固として得たものはノエルノア以来、俺はまだ聞いていない。
我想,凛一定是在追求比现在的未来更高的目标吧。世界最佳射手。雷·阿尔的糸师凛也是世界顶尖的射手,但自从诺埃尔·诺亚以来,我还没听说过有谁稳固地获得了世界第一的称号。
凛は、それが欲しいのだろうと思った。だから、それをこの時代時点で達成できてない自分を他人と断じたのだと、俺は勝手に考えた。
凛大概是想要那个吧。所以,我擅自认为,她是在与他人断言,在这个时代这个时间点上,自己还未能达成那个目标。
「……凛のことを、言ってるよ」 「……在说凛的事哦」
「それは」 「那是」
「お前のことだよ。こんな状況でも練習を欠かさないで、コンディションやパフォーマンスの維持に努める……一人の選手として、その姿勢が本当にすごいと思ったし……」
「是关于你的事。即使在如此情况下,你也不懈练习,努力保持状态和表现……作为一名选手,你的这种态度真的让我感到非常了不起……」
これ何の時間だ。凛は高圧的に俺を見下ろしっぱなしで、俺は両手の指を胸の前で合わせるようにしながら凛にしどろもどろに伝えた。
这是什么时间啊。凛一直居高临下地俯视着我,我双手手指在胸前合十,语无伦次地向凛解释着。
「さっきのシュートなんか、俺がレ・アールの糸師凛を知らなくても見惚れてたと思う。かっこいいなって……」
「刚才那记射门,就算我不认识蓝色监狱的糸师凛,也会被迷住的。真是帅啊……」
凛は目力が強く、まさに瞳に射抜かれている状態だった。凛よりは大人であるはずの俺もつい狼狽えてしまい、尻すぼみになってしまって、それ以上のことは言えなかった。県大会止まりの俺がうかつにコメントするんじゃなかったかもしれない。
凛的目光锐利,简直像是被她的眼神穿透了一般。本应比凛更成熟的我,也不禁慌了神,话到嘴边却说不出口。或许,止步于县大赛的我,本不该贸然发表评论。
「……そうかよ」 「……这样啊」
興味を無くしたように踵を返し、凛はボールをとりに行った。とはいえまんざらでもなさそうで、俺は瞬きを繰り返し、凛の後ろ姿を眺めることしかできなかった。
兴味索然地转身,凛去捡球了。虽说并非全然无趣,我只能不断眨眼,望着凛的背影。
ジャージを脱いで、タンクトップに半パンの格好で凛はひたすらシュート練習を続けた。俺は見てるだけ。非日常として俺の目の前に現れた凛と、スーツ姿でずっと凛のことを見守ってる俺。
凛脱下运动衫,换上背心和短裤,专心致志地继续投篮练习。我只能看着。作为非日常出现在我面前的凛,以及一直穿着西装守护着凛的我。
もうこの時間には職場で仕事に没頭しているはずなのに、俺は凛から目を離せなかった。
明明这个时间应该在职场埋头工作,我却无法将目光从凛身上移开。
「……凛、腹空かね?そろそろなんか食いに行こうよ」
「……凛,肚子饿了吧?差不多该去吃点什么了吧。」
「……お前、仕事は」 「……你,工作呢?」
膝に左手をつきながら、右手でタンクトップの裾を引っ張って凛は顎から滴る汗を拭った。アスリートらしく割れた腹筋が見えて、大人げなく、憧れに似た気持ちを一瞬だけいだく。
左手撑在膝盖上,右手拉扯着 T 恤的下摆,凛擦去了从下巴滴落的汗水。运动员般分明的腹肌显露出来,一瞬间,让人不禁感到一丝孩子气,仿佛是某种憧憬。
「……凛と昼飯食ったら、行くよ」 「……和凛吃完午饭,就出发吧。」
「行く気ねぇなら、俺の服買え」 「没兴趣的话,就买我的衣服吧」
「え」 「诶」
「一日二日で戻れるとは思ってねぇ。毎日子供服あてがわれちゃたまらない」
「没想到一两天就能回去。每天被逼穿童装简直受不了。」
「子供服ってお前な」 「童装?你才是吧。」
けれど、凛には下着もないし、サイズの合ってる服なんて元々着てた青いラインのジャージ一枚だけだ。今日もたくさん汗をかいたし、着替えはあったほうが絶対いい。
然而,凛连内衣都没有,合身的衣服原本也只有那件蓝色条纹的运动服。今天又出了很多汗,绝对需要换洗的衣服。
「……じゃ午後は買い物行くか。仕事は明日一気に片付ける」
「……那下午去购物吧。工作明天一口气搞定」
「いいのかよシャカイジンが」 「真的好吗,沙海帝君?」
「うるせーな。土曜に行くと結局日曜も出ちまうんだよ。明日に回した方がまだ気が楽」
「吵死了。周六去的话,结果周日也得出门。明天再去还比较轻松。」
理由さえあれば、俺は会社に行かないで済む。昼飯は運動場近くのラーメン屋で食べることにした。
只要有理由,我就不用去公司。午饭决定在运动场附近的拉面店吃。
「……前髪邪魔じゃね?」 「……刘海不碍事吗?」
「うるせーほっとけ」 「吵死了,别管了」
カウンター席で俺は味噌ラーメン、凛は塩ラーメン。どっちも大盛り。凛は長い前髪を耳にかけるようにして食べていた。それでもときどき落ちてくるので気になって、店で用意してあるヘアゴムをひとつとり、前髪を耳の上にくくりつけてあげる。振り払われると思ったけど、意外と凛はされるがままになっていた。
在吧台座位上,我点了味噌拉面,凛点了盐味拉面。都是大份的。凛将长长的刘海撩到耳后吃着,但偶尔还是会掉下来,她有些在意,于是我从店里准备的皮筋中拿了一根,帮她把刘海扎在耳上。我本以为她会甩开,但意外的是,凛竟然乖乖地任由我摆布。
「……おい」 「……喂」
「ん?」 「嗯?」
「何してる」 「在做什么?」
「食べづらそうだなって」 「看起来很难吃的样子。」
「何色だこれ」 「这是什么颜色啊」
「ピンク」 「粉色」
「殺す」 「杀掉」
いっちょまえに色なんか気にしちゃってるけど、大した問題でもなさそうに麺を吸い込んでいく凛に少し笑う。
明明一副很在意颜色的样子,却似乎并不成问题,凛大口吸着面条,我不禁微微一笑。
「サイズさえ合えばなんでもいい」と言うので、ひとまずジーユーに連れていく。凛は適当なトレーナーと肩まわりのだぼついたニット、ボトムスを二枚、あと下着数日分に靴下、練習用であろうTシャツ、を本当に適当にカゴに投げ入れて、俺に渡してくる。ジーユーは安くはあるけど一気に買うとそれなりに高くなるんだよなーと思いながらバーコード決済を済ます。
「只要尺寸合适就行」,于是我先带凛去了 GUESS。凛随意地挑了件合身的运动衫、一件肩部有些松垮的针织衫、两条裤子,再加上几天的内衣和袜子,还有几件像是练习用的 T 恤,真的就是随便往篮子里一扔,然后递给了我。我在心里想着,GUESS 虽然不贵,但一次性买这么多还是有点小贵的,一边完成了扫码支付。
「なんなら今着てく?」 「要不现在就穿上?」
「あ?」 「啊?」
「着替えなよ、ずっとジャージも息がつまるだろ」 「换衣服吧,一直穿运动服也该闷坏了吧」
「別に」 「没什么」
そう言いながらも凛は俺から買い物袋を奪い取って、店員に何か話して更衣室に消えていった。
说着,凛从我手中夺过购物袋,与店员说了些什么后便消失在更衣室里。
「おー!似合ってんじゃん!」 「哦!很适合你啊!」
「普通だろ」 「很普通吧」
マジで適当に選んでるように見えたけど、肩周りのゆったりしたニットとタイトめのパンツは凛に本当に似合ってた。というか、顔が整ってるからなんでも似合うんだろうな。
虽然看起来像是随便选的,但那件宽松的针织衫和紧身裤真的很适合凛。或者说,因为她长得好看,所以穿什么都合适吧。
「こうなるともっと色々服欲しくなるな……お前どんなジャンルまで着こなせるのか気になるわ」
「这样一来,更想尝试各种衣服了……真好奇你能驾驭到什么风格呢」
「クソどうでもいい。つか、なんでお前がテンションあがってんだよ」
「管他呢。话说,你干嘛这么兴奋啊?」
「……だって凛がかっこいいから……」 「……因为凛很帅气嘛……」
本心では、弟がいたらこんなかんじなんだろうなと楽しんでいる自分を自覚していたけど、またガキじゃねぇって言われるだろうと思い別の本心にすり替えた。嘘じゃないし。
内心深处,我意识到自己在享受着如果有个弟弟会是这种感觉的幻想,但又担心会被说成幼稚,于是换上了另一副面孔。这并非谎言。
けれど、凛は喉の奥でなにか息を詰まらせた。長い前髪に隠れて、右目の表情は見えなかった。
然而,凛在喉咙深处似乎哽住了什么。长长的刘海遮住了右眼的表情,无法窥见。
「凛……ほらあそこの女子大生ぽい人たちめちゃくちゃ凛のこと見てるぞ、俺がいなかったらナンパされてたよ多分」
「凛……你看那边,那些女大学生模样的人一直在盯着你看,要是我不在的话,估计早就被搭讪了吧。」
「だからどうでもいいっつってんだろ」 「所以不是说了无所谓嘛」
家にいてもしょうがないので、観光案内がてら浅草を歩いていた。冬の空に浅草のパキッとした色の観光名所はよく映え、正月みたいなめでたさすら感じさせる。着物を着た女子高生か女子大生みたいな子達が凛に好意的な視線をさりげなくあびせかけていた。
在家待着也无事可做,于是顺便拿着旅游指南在浅草漫步。冬日的天空下,浅草那些色彩鲜明的观光景点显得格外醒目,甚至让人感受到一种类似新年的喜庆氛围。穿着和服的女生们,或许是高中生或大学生,不经意间向凛投来友善的目光。
「なあ、本当に彼女とかいなかったの?」 「喂,你真的没有女朋友吗?」
「……なんでそんな気になんだよ」 「……为什么那么在意啊」
「興味だけど……」 「只是有点兴趣……」
「くだらねぇ」 「无聊透顶」
凛のことだ。本当に恋愛なんてどうでもいいんだろう。たくさんの女の子に告白されて、全部をサッカーのために断ってきたんだと思った。羨ましい限りだ。
凛的事啊。他大概真的觉得恋爱什么的都无所谓吧。被那么多女孩子告白,全都为了足球拒绝了。真是让人羡慕得不得了。
「……好きなやつなら、いた」 「……喜欢的人,有过」
縦横に行き交う雑踏のなか、凛が俺の顔を見ないで静かに言った。
在纵横交错的喧嚣人群中,凛没有看我的脸,静静地说道。
「わっ」 「哇!」
外国人観光客の集団とぶつかり、後ろにバランスを崩す。凛に体を抱き止められて、無様に尻餅をつかずにすんだ。そうだった、俺スーツのまんまだった。明らか学生の凛に抱き止められた画を想像し、恥ずかしさで顔に血が集まる。
与一群外国游客相撞,失去平衡向后倒去。凛及时抱住我,才没狼狈地摔个屁股蹲儿。对了,我还穿着西装呢。想象着被明显是学生的凛抱住的画面,羞耻感让我的脸颊发烫。
「ご、ごめん……ありがと……」 「对、对不起……谢谢……」
「……」
「凛?」
体勢をもとにもどし、通りの中央に立っている俺たちを人々は迷惑そうによけていった。凛は思い詰めた瞳で俺の顔を見ていた。俺にはそれに応える術も、答えも、そもそも何を言えばいいのかもわからなかった。
恢复了姿势,站在路中央的我们被人们一脸不悦地避开。凛用陷入沉思的眼神看着我的脸。我既不知道如何回应,也不知道答案,甚至连该说什么都不清楚。
◆
今日買ったトレーナーをパジャマにして、凛はベッドに寝転がりながら映画を見ていた。
凛把今天买的运动衫当睡衣穿,躺在床上看着电影。
「あ」 「啊」
もう睡眠薬がない。かろうじて今日明日の分があるくらいだ。クリニックはだいたい日曜休診だし、平日なんていけるわけがない。ドラッグストアの睡眠薬は効きが悪いのでオーバードーズしそうで怖い。
已经没有安眠药了。勉强只剩下今天和明天的份。诊所大多周日休息,平日根本不可能去。药店的安眠药效果不好,怕会过量服用,很可怕。
処方された薬だって、飲んでも飲まなくても変わらないのに。
即使医生开的药,吃不吃也没什么区别。
「何してんだ」 「你在做什么」
いつのまにか凛が後ろに立っていた。俺は振り向けない。
不知何时凛已经站在了身后。我没有回头。
後ろめたいのだ。 感到内疚。
凛には間違いなく輝かしい未来が待ってるのに、俺は薬を飲んでまでやりたくもない仕事をこなして、疲弊し摩耗する一方の毎日。そんな未来が永遠に続くことをなんとなく知ってしまっている。
凛无疑有着光辉灿烂的未来,而我却为了那些连药都不想吃的苦差事疲于奔命,日渐疲惫磨损。我隐约知道,这样的未来将永远持续下去。
「あはは、薬もうなくなっちゃってさ……」 「啊哈哈,药都快没了……」
「……」
凛に背を向けたまま明るい声を出した。 背对着凛,用明快的声音说道。
「明日やってるメンクリあるかなー……どうしよっかな……」
「明天有练习会吗……怎么办好呢……」
「じゃあ、寝なくていいだろ」 「那就不用睡了吧」
「え?」 「诶?」
肩越しに凛を見る。思ったより凛が近くに立っていて、少しだけびっくりして流しに手をついた。
从肩膀旁看向凛。没想到凛站得这么近,稍微有点惊讶,手不由自主地扶在了水槽边。
「寝なくていいって……?」 「不用睡觉吗……?」
「映画見るの付き合え」 「能陪我去看电影吗?」
「え……もう見てんじゃん」 「诶……你不是已经看过了吗」
「俺は一週間に一回はホラー漬けにならないと気が済まねぇ。だから付き合え」
「我一周不看一次恐怖片就浑身不自在。所以陪我一起吧」
「は、はぁ……?そんなん明日の昼にでも一人で見ろよ。なんで一緒に見る必要……」
「哈、哈啊……?那种东西明天中午一个人看不就行了。为什么非得一起看……」
「ビビってんのか」 「你害怕了吗?」
「ビビってねぇよ」 「我才不怕呢」
心の中の自分が、またひとつ安堵する。 心中的自己,又多了一份安心。
凛は俺が楽になる理由というか、言い訳を与えてくれる。
凛给了我一个让我感到轻松的理由,或者说,一个借口。
「いやいやいや行かない方がいい!絶対行かない方がいいって!なんで行くかな!?うわーっ」
「不不不,还是别去的好!绝对不去才对!为什么要去啊!?呜哇——」
「うっせぇ……」 「吵死了……」
ガチの心霊ものってよりは、ホラーサスペンス。幽霊騒ぎと殺人事件を絡み合わせた作品。雰囲気作りとか言って凛は照明まで落とし、ソファの上に二人並んでテレビに夢中になっている。
与其说是真正的灵异题材,不如说是恐怖悬疑。这部作品将幽灵骚动与谋杀案交织在一起。凛甚至为了营造氛围而调暗了灯光,两人并排坐在沙发上,全神贯注地盯着电视。
「え、凛、この二人死ぬ?死ぬよな?」 「诶,凛,这两人会死吗?会死的吧?」
「さぁな」 「谁知道呢」
「わっ死に方えぐ……」 「哇,死得真惨……」
うち一人がいきなり首をつられて、断末魔のかわりに激しく脚を暴れさせている。ペアの女は狂ったように叫んでは泣く。見てるこっちも何かが起こるまでは怖いけど、いざ起こるといったん落ち着いてしまうもんだ。
其中一人突然被吊起脖子,剧烈地挣扎着双腿,而不是发出临终的惨叫。她的同伴则疯狂地尖叫哭泣。看着这一切,虽然一开始很害怕,但一旦事情发生,反而会冷静下来。
「こんなん目の前で起きたらトラウマなるよな……あ、みんな来た。人間が犯人なのかなぁ……?」
「这种事要是发生在眼前,绝对会留下心理阴影吧……啊,大家都来了。犯人是人类吗……?」
「どれかが取り憑かれてるってオチだろ、どうせ」 「反正结局肯定是哪个被附身了吧」
「あーっ……それありそう」 「啊……确实有可能」
展開を予想したり、ちょっとシュールな状況に突っ込んだり、単純に怖くて枕を思い切り抱きしめてるうちにエンドロールが始まった。
预想剧情发展,突然陷入些许荒诞的境地,单纯因为害怕而紧紧抱住枕头时,片尾字幕已经开始滚动。
「お、面白かった……」 「哦,真有趣……」
「じゃあもう一回見るか」 「那再看一遍吧」
「いや。二度と見たくない」 「不,再也不想看了」
サスペンス色も強くて面白かったけど、心臓に悪すぎて気分は最悪。時間は午前二時をすぎていた。
虽然悬疑色彩浓厚很有趣,但心脏受不了,心情糟透了。时间已过凌晨两点。
「口直しに別のやつ見ようよ」 「换换口味,看看别的吧」
「はあ」 「哈」
「ほらこれ……漫画の実写版」 「看这个……漫画的真人版」
「勝手にしろ」 「随你便」
原作ファンからも評価が高いというジャンプ漫画の実写を見る。アクションものなのでハラハラはするけど、胸糞展開のリスクは低い。
观看原作粉丝评价也很高的《周刊少年 Jump》漫画改编真人版。因为是动作片,所以会紧张刺激,但烂尾的风险较低。
「おい……寝てんじゃねぇか」 「喂……你不是在睡觉吧?」
「……ねてない」 「……没睡」
布団から持ってきた枕に顎を乗せてるうちに気持ちよくなってきて、まどろんでたのを凛の声に呼び覚まされる。
把下巴搭在从被窝里拿来的枕头上,正舒服得快要打盹时,被凛的声音唤醒了。
「眠いならとっとと布団入れ」 「困了就赶紧去睡吧」
「いや。まだいける」 「不,我还撑得住」
「なんの意地はってんだテメェは」 「你逞什么强啊」
凛が俺の頭を軽く押すようにして、肩を貸してくれた。全身を凛によりかからせると、途方もない安心感が体を包んでいく。俺のがずっと年上なのに、凛はずるい。俺はそのまま意識を手放した。
凛轻轻地按住我的头,将肩膀借给了我。当我全身倚靠在她身上时,一种无与伦比的安心感包裹了我的身体。明明我比凛大那么多,她却如此狡猾。我便这样放任意识沉沦了。
目が覚めると俺はソファに寝かされてて、凛はやっぱりベッドで寝息を立てていた。羽毛布団が俺の体にかかっていた。
睁开眼时,我发现自己躺在沙发上,凛依旧在床上安睡着,发出均匀的呼吸声。羽绒被轻轻盖在我身上。
その日はさすがに仕事に出て、休日出勤独特の集中力によりノルマタスクはすぐに終わり、ついでに明日の分の仕事にも手をつけて退社した。帰ると凛がご飯を作ってくれていた。
那天果然还是去上班了,凭借假日出勤特有的专注力,很快就完成了定额任务,顺便还处理了明天的工作才下班。回到家时,凛已经为我做好了晚饭。
「男の料理って感じ……」 「有种男人做的料理的感觉……」
「文句あるなら食うな」 「有意见就别吃」
渡したお金でキャベツと肉を買い、わからないなりに料理してくれたらしい。味付けは醤油だけ。ものすごくシンプルな味がした。
用渡给的钱买了卷心菜和肉,似乎尽力做了料理。调味只用了酱油。味道非常简单。
「……にしたって、野菜焦げすぎだろ」 「……就算这样,蔬菜也烤得太焦了吧」
「だから文句あるなら……」 「所以有意见的话……」
「食べるよ。折角凛が作ってくれたんだもん」 「我会吃的。难得凛特意为我做的嘛」
「……」
笑いかけると、凛はなんともいえない無表情を維持した。
笑意浮现,凛却维持着难以言喻的木然表情。
凛の作ってくれた料理を肴にビールを飲んだ。凛がこの時代にいちゃいけないとわかっていても、こんな毎日がずっと続けばいいのにと思った。
以凛亲手制作的料理佐酒,畅饮啤酒。明知凛不应存在于这个时代,却仍不禁期盼这样的日子能永远延续。
◆
スケジュール管理には気を付けていた。先方からのメールチェックも入念にしていたし、連絡はすぐに返すことを意識していた。
一直很注意日程管理。对对方的邮件也仔细检查,意识到要立即回复联系。
俺にできる限りのことを全部やっていても、それでもダメなんだと毎日思い知る。
即使我尽全力去做我能做的一切,每天还是意识到这样也不行。
「大変申し訳ありませんでした」 「非常抱歉」
「申し訳ないじゃないんだよ。改善点を示せって言ってんの。俺は潔のこと思って言ってんだぞ?わかるか?」
「不是道歉的问题啊。是说要指出改进的地方。我可是为了洁才这么说的,明白吗?」
「はい」 「是」
締切変更のメールがこっちに届いてなかった。先方のミスのはずなのに、責任は全て俺になすりつけられた。
截止日期变更的邮件没有发到我这里。明明是对方失误,责任却全推到我头上。
締切に変更がないか都度電話確認しなかったから先方に迷惑をかけた。社会人としてあってはならないこと。新人のほうがまだできる。
未及时电话确认截止日期是否有变,给对方添了麻烦。作为社会人这是不应该的。连新人都能做到。
そんな感じの言葉は右耳から左耳に通り抜けていくタイミングで、やすりのように俺の内側を削っていく。
那些话在我左耳进右耳出的瞬间,如同砂纸般磨蚀着我的内心。
「ったく……こういうミスやってるようじゃ、お前やってけねぇぞ。俺の時代の時は●%☆×、で、〜、しかも鬆ュ縺梧が縺??縺」
「真是的……像你这样老是犯这种错误,可没法混下去啊。在我那个时代,●%☆×,然后,〜,而且鬆ュ縺梧还縺??縺」
「はい。はい。申し訳、ありませんでした」 「是的,是的。非常抱歉。」
「縺雁燕縺ッ譛ャ蠖薙↓菴ソ縺医↑縺?d縺縺?縺ェ」
「雁燕飞过,留下痕迹。思念如潮,涌上心头。」
「はい、すみません」 「是,对不起」
罵声と怒鳴り声のなか、口で唱えてる呪文と全く逆の感情で、やすりに削られた内側が満たされていく。
在骂声与怒吼声中,内心被与口中吟唱的咒文完全相反的情感所填满,如同被锉刀削磨一般。
ああ、何してんだろ。俺。 啊,我在做什么呢。我。
◆
日付を超えて帰宅したにもかかわらず、凛は起きていた。彼はやっぱりホラー映画を見ていた。
尽管已经过了日期才回家,凛却还醒着。他果然还在看恐怖电影。
「悪りぃな凛、起きててくれたのか」 「抱歉啊凛,你醒着吗?」
「別に。今日はなんとかのタレってのを買った」 「没什么。今天买了个什么酱料。」
テーブルの上には二人分の食事が用意してある。今日も肉野菜炒め。冷蔵庫を見ると焼肉のタレが入っていた。
桌上摆着两人的餐食。今天也是肉炒蔬菜。打开冰箱一看,里面放着烤肉酱。
「肉を先に焼いたから野菜は焦げてない。これでも文句あるか」
「肉先烤了,所以蔬菜没焦。这样还有意见吗?」
「ねぇよバカ」 「才不是呢,笨蛋」
大真面目に眉間にしわを寄せて俺に手料理をふるまう凛に、勝手に顔が笑う。明日どんな顔して会社に行けばいいのかもわからないのに、凛の前でだけ、俺は心から笑うことができる。
凛认真地皱着眉头为我端上亲手做的料理,我不由自主地露出了笑容。虽然明天去公司时该用什么表情都不知道,但在凛面前,我能够发自内心地微笑。
「ん、おいしい」 「嗯,好吃」
「フン」 「哼」
ご飯まで炊いてくれて、食卓はあたたかさに満ちていた。毎日コンビニ弁当だった俺にとっては、凛の不器用な手料理だってご馳走だ。
饭已经煮好了,餐桌上洋溢着温暖。对我这个每天吃便利店便当的人来说,凛那笨拙的手艺也是佳肴。
「……明日も早いのか」 「……明天也很早吗」
「うん、今日ミスしたから早朝出勤だなー」 「嗯,今天犯错了,得一大早去上班啊——」
「……今日も七時に出ただろうが」 「……今天不也七点就出门了吗?」
「始末書書かなきゃだから」 「还得写检讨书呢」
「……そこまでなんかやらかしたのかよ」 「……你到底干了什么啊?」
「や、まあミスってか……相手方のミスを俺の確認不足扱いにされただけだから何を反省すりゃいいのって感じだけどな」
「呃,算是失误吧……只是对方失误被我当成确认不足而已,所以也不知道该反省什么。」
「……」
「でも謝っとけばいいんだ。反抗したって白い目で見られるだけだから。俺が悪いってことにしとけば全部丸く治るんだ。全部俺が悪いって。そう自分に思い込ませとけば大丈」
「但只要道歉就好了。反抗也只会被白眼相待。只要把错都归咎于我,一切就能圆满解决。全都是我的错。就这样让自己深信不疑,大事化小。」
「潔」 「洁」
はっとした。凛って子供相手に愚痴を言い過ぎた。目の奥が熱くなってることに気を取られて制御がきかなくなっていた。凛の顔を見た。凛の表情はいつも整っていて、変わらない。
吓了一跳。凛对小孩子抱怨得太多了。注意力被眼底的热度吸引,控制不住了。看了凛的脸。凛的表情总是整齐划一,不变。
「ご、ごめん……疲れてんだわ。仕事脳になってっから、今」
「对、对不起……我累了。因为工作脑子转不过来,现在」
「潔」 「洁」
「ごめん……風呂はいってくる」 「对不起……我去洗澡了」
肉野菜炒めを一気に口に入れて、逃げるように浴室へ。
一口气把肉炒蔬菜塞进嘴里,逃也似地跑向浴室。
頭からお湯を浴びながらそっと絶望していた。 从头淋着热水,悄悄地陷入了绝望。
知りたくなかった。 不想知道。
自分自身を押さえ込んで、やりたくもない仕事をして、下げたくもない頭を下げて、自分を含めた何もかもに失望していること。
压抑自己,做着不想做的工作,低着不愿低的头,对包括自己在内的一切都感到失望。
休日で正気にもどったせいだ。壊れたままのほうが楽だった。家に帰るたび、凛が俺を正常にする。今日と明日が分断される。正気に戻るほど体が重くなる。
因为今天是休息日,所以恢复了理智。还是坏掉的状态更轻松。每次回家,凛都会让我恢复正常。今天和明天被割裂开来。随着恢复理智,身体变得越来越沉重。
シャワーから戻っても凛は起きてた。 淋洗完回来,凛还在醒着。
「寝ててよかったのに……もう二時だよ」 「明明可以继续睡的……已经两点了呢」
「お前は、寝れるのかよ」 「你这家伙,能睡得着吗?」
「わかんないけど……横になって、目閉じるしかないよ」
「虽然不明白……但只能躺下,闭上眼睛了。」
凛がベッドから降りて、髪の濡れたままの俺の前に立ちはだかる。それで、凛の鎖骨がそのまま目の前に迫ってきて、凛に、抱きしめられた。
凛从床上下来,站在我面前,湿漉漉的头发还滴着水。然后,凛的锁骨直接逼近眼前,被凛紧紧抱住了。
「……凛?」
「俺はサッカー以外のことを知らない」 「我只懂足球。」
「……」
「仕事とか社会人とか知らねぇし、知ろうとも思わない」
「工作啊社会人啊什么的,我既不了解也不想了解」
「うん……」 「嗯……」
「……でも今は、お前に何も言えない俺に、死ぬほどムカついてる」
「……但如今,我对你无话可说,气得要死」
何分間も凛に抱きしめられていた。髪の濡れているのをいいことに、俺は泣いた。凛は俺より十近くも年下のはずなのに、大きくて、水のように柔らかくて、優しい。
被凛抱了好几分钟。我借着头发湿了的机会,哭了。凛明明比我小近十岁,却那么高大,像水一样柔软,温柔。
体の内側を満たしていた感情があふれて、目から流れおちていく。
体内满溢的情感,从眼中流淌而出。
言葉もなく、俺は凛と一緒に同じベッドに寝た。凛はずっと俺を抱きしめてくれていた。
无言以对,我和凛一起躺在同一张床上。凛一直紧紧地抱着我。
ゆめうつつのまま朝を迎え、ある種の習性のようにスーツを着込む。スーツは俺を少しだけ強くしてくれる。重い体も少しはしゃきっとしてくれる。
半梦半醒间迎来清晨,某种习性使然地穿上西装。西装让我稍稍坚强起来,沉重的身体也变得稍微轻快些。
朝五時半にもかかわらず、凛は俺が部屋を出る前に起きてきた。
尽管才五点半,凛却在我离开房间前就醒了。
「寝れたのか」 「你睡了吗?」
「ちょっとは」 「稍微睡了会儿。」
「大丈夫かよ」 「没事吧?」
「うん。ありがとな」 「嗯。谢谢你」
それだけ言葉を交わして、笑って家を出た。 说完那句话,笑着走出了家门。
凛はどうしてこんなに俺に優しくしてくれるんだろう。元々に返ると、なんで俺を頼ったんだろう。ほとんど誰もいない電車で、かなしいほどに美しい朝日に目を灼かれながら思った。けれどそれは思っただけで、理由の究明にまで俺の思考が働くことはなかった。
凛为什么对我这么好呢?追溯本源,为什么她会依赖我呢?在几乎空无一人的电车上,我一边被悲伤得令人心碎的朝阳刺痛双眼,一边想着。但那也只是想想而已,我的思绪并未深入到探究理由的地步。
凛が俺の生きる理由になろうとしていることだけが確かだった。
凛正试图成为我活下去的理由,这一点是确凿无疑的。
案ずるより産むが易しとはよく言ったように、朝イチでまた怒られると思ったらそこまででもなかった。ネチネチと嫌味を言われるだけ。とはいっても、それらは毎日少しずつ確実に、俺の内側を削っていく。俺の内側、心が、あとどれくらい残っているのか、俺にもよくわからない。
正如常言道,与其担忧不如行动来得容易,本以为一大早又要挨骂,结果倒也没那么严重,只是被冷嘲热讽了一番。话虽如此,这些冷言冷语却日复一日,一点一滴地侵蚀着我的内心。我内心深处,心灵还剩下多少,连我自己也不甚明了。
凛。今は借りたフィールドでシュート練習でもしてるのかな。いや、筋トレとか走り込みかな。仕事をしながら凛のことを考えると、強張っていた体がゆるんだ。深呼吸をして、上司に頭を下げる。始末書については何も言われなかった。
凛。现在是不是在借来的球场上练习射门呢。不对,或许是做力量训练或者跑步吧。一边工作一边想着凛的事情,原本紧绷的身体也放松了下来。深吸一口气,向上司鞠躬。关于检讨书的事,什么也没被说。
今日もなんとか生き抜いた。 今天也总算撑过来了。
「ただいま……」 「我回来了……」
「ん」 「嗯」
今日は麻婆茄子だった。俺がびっくりして凛を見ると、彼はゴミ袋を指差した。クックドゥのパッケージがあって納得する。
今天吃的是麻婆茄子。我惊讶地看向凛,他指了指垃圾袋。里面有 CookDo 的包装袋,我这才恍然大悟。
「早かったな、今日は」 「今天来得有点早啊。」
「うん。育ち盛りの子供いるし、早く帰んないとなーって」
「嗯。家里有正在长身体的孩子,得早点回去啊。」
「俺はお前のガキじゃねぇ」 「我又不是你的小孩。」
凛の言葉に声を立てて笑った。まだ時間は十時過ぎだった。
凛的话音刚落,我不禁笑出声来。时间才刚过十点。
「凛は今日は何してたの?」 「凛今天在做什么呢?」
「ずっとその辺走ってた。あと筋トレ」 「一直在那附近跑步,还有做力量训练」
「ボール触ってないのか?」 「没碰过球吗?」
「なんとか町内会の貸切で使えなかった」 「好不容易借到了社区活动中心的场地」
「そうなんだ……」 「原来如此……」
凛ほどのストライカーにボールを触らせてあげられないのも申し訳ない感じがした。麻婆茄子を口の中で転がしていると、「なんでそんな顔すんだよ」と凛が呟いた。
让凛这样的前锋碰不到球,也觉得有些过意不去。嘴里嚼着麻婆茄子,凛低声嘟囔道:“干嘛摆出那副表情啊。”
「え」 「诶」
「ボールを取り上げられたガキみてぇな顔しやがって」
「被抢了球还一副小鬼样的脸,真是够了」
「ガキはお前だろガキ!」 「小鬼是你吧,小鬼!」
「うっせぇちんちくりん」 「吵死了,笨蛋」
「ちんち……」 「亲亲……」
童顔の自覚はあるけれども。この前未成年に間違えられたけれども。凛の方が年上に見えるかもってことだけは認めたくない。
虽然有意识到自己看起来年轻。之前还被误认为是未成年人。但唯独不想承认凛看起来比我年长。
「クソ……明日からセノビック飲むわ。絶対お前の身長追い越してやる」
「可恶……从明天开始喝生长素。绝对要超过你的身高」
「成長期とっくにすぎてんだろタコ」 「你的成长期早就过了吧,章鱼」
「うるさい」 「吵死了」
「お前もまたサッカーやればいい」 「你也去踢足球就好了」
「は?」 「哈?」
「本当は諦められてねぇんだろ。世界一のストライカー」
「其实你根本就没放弃吧。世界最强的前锋」
わかりやすく言葉に詰まる自分が心底嫌になった。かろうじて、県大会で負けて一人で泣いた過去を飲み下す。
自己那词穷到直白的模样,真是打心底里讨厌。勉强咽下在县大赛败北后独自哭泣的过往。
馬鹿野郎。何年前の話だよ。 混蛋。那是多少年前的事了。
「……もう、そんな若くないよ」 「……已经,没那么年轻了啦」
「そんなん理由にならない」 「那不算理由」
「やめろよ……俺はお前とはちがう」 「别这样……我和你不一样」
凛は黙った。俺も黙った。凛のことは好きだし、可愛いとも思うし家族みたいに思いかけてる。でも、凛みたいな輝かしい人間には、俺は到底なることはできない。隣に立つような人間じゃない。
凛沉默了。我也沉默了。我喜欢凛,也觉得她很可爱,甚至有时把她当作家人一样看待。但是,像凛这样闪耀的人,我无论如何都无法成为那样的人。我不是那种能站在她身边的人。
布団に入る前。睡眠薬を祈るみたいに体内に取り込むのを、凛がじっと見ていた。最後の三錠だ。
钻进被窝前。凛静静地看着她像祈祷般将药片吞入体内。这是最后的三片了。
「……何?」
「本当は、何粒飲むやつだそれ」 「其实,那家伙到底吃了几粒啊」
「……いいんだよ少しでも寝れれば」 「……稍微能睡一会儿就好」
「バカみたいに薬に頼りやがって」 「像个傻瓜一样依赖药物」
「じゃあ凛がなんとかしてくれるの?」 「那凛会帮我解决吗?」
俺が凛に迫るように向き合ったから、凛は少しびっくりしたみたいだった。
我逼近凛,面对面地看着她,她似乎有点惊讶。
「俺はこれしかできることがないんだよ。夢の中に逃げたいのに、逃げられない。現実が辛いんだから、これくらい好きにさせろよ……」
「我只能做到这些了。明明想逃到梦里去,却逃不掉。现实太痛苦了,就让我这么任性一下吧……」
ああ、バッド入ってる。 啊,坏掉了。
凛がずっと平坦なのに、俺ばかりが情緒不安定になってる気がする。まだたった十六才の凛にこんなふうに当たるなんてどうかしてる。
凛一直都很平静,我却总是情绪不稳定,感觉真是不公平。对才十六岁的凛这样发脾气,我真是太不应该了。
「俺に……何ができる」 「我……能做些什么?」
「は?」 「哈?」
凛は俺のうざい無茶振りにすら動じない。前髪がくっつくくらいに顔を近づけて、凛はおだやかにも聞こえる冷静さで。いや、冷静に見せようとしてるのかわからないけれど。せいいっぱいの健気さを凛の瞳から感じ取って、途端に切なくなった。
凛面对我那烦人的无理要求也毫不动摇。她将脸贴近到几乎要碰到刘海的程度,用一种听起来平静却冷静得令人难以捉摸的语气说道。不,我不知道她是否在努力表现得冷静。从凛的眼中感受到她竭尽全力的勇敢,我突然感到一阵心痛。
「言ったろ。社会人とか仕事とか知らねぇ。現実的に、俺に何ができるか言え」
「我说过了。社会人什么的,工作什么的,我一概不知。现实点,告诉我,我能做什么?」
「そんなん……」 「那种事……」
凛のことが好きだ。凛に俺の夢を重ねている。凛に世界一のストライカーになってほしい。弟みたいで可愛い。
我喜欢凛。我把我的梦想寄托在凛身上。我希望凛成为世界第一的射手。他像弟弟一样可爱。
何か一線を越えかけてるのを自覚しながら俺は言った。
我一边意识到自己正越过某条界限,一边说道。
「……一緒に寝て……」 「……一起睡吧……」
「……」
「昨日みたいに、俺のこと抱きしめて寝て……」 「像昨天那样,抱着我睡……」
ベッドの中じゃないのに、凛は俺のことを抱きしめた。
明明不在床上,凛却抱住了我。
凛は俺を抱きしめて眠るようになった。自分でもバカだと思うけど、睡眠薬の手元になくなった俺にとって、凛が夢への導入剤になった。凛の、筋肉のはっきりした大きな体。抱きしめられるだけで死んでしまいそうなほど安心した。夢に包まれているような感じがした。輝いていて、甘くて、優しい夢。
凛开始抱着我入睡。虽然自己也觉得傻,但对于手边没有安眠药的我来说,凛成了通往梦境的引子。凛那肌肉分明、强壮的身体。仅仅是被抱住,就让我感到安心得仿佛要死去。仿佛被梦境包裹的感觉。闪耀着、甜美而温柔的梦。
日付を超えて帰ってきても、そうでなくても、凛は俺を待って起きてくれていた。凛のつくったご飯を食べて、凛に抱きしめられて寝た。
无论是否超过约定日期归来,凛都会一直等着我,醒来时迎接我。吃着凛亲手做的饭,被她紧紧拥抱着入睡。
凛は、俺の、生命線。 凛,是我的生命线。
俺の、夢。 我的,梦想。
◆
土曜日になった。 星期六到了。
「凛!凛!おきろー!」 「凛!凛!快起来——!」
布団の中で凛がぐずるのを揺さぶる。 在被子中摇晃着凛,让她不要再闹腾。
「うるせ……」 「吵死了……」
「朝ごはん食べて、練習行こう!俺、凛のサッカー見たい!」
「吃完早饭,我们去练习吧!我想看凛踢足球!」
凛が買って使い切れてなかった卵で目玉焼きをつくり、トーストと一緒に食べる。コーヒーでいいかって聞いたら頷いたくせに、半分しか飲めてなかったのが可愛かった。
凛用买来还没用完的鸡蛋做了煎蛋,和吐司一起吃。问她要不要咖啡,她点头答应,结果只喝了一半,真是可爱。
電車に乗り、練習場につく。 乘上电车,抵达练习场。
「お前はやんねぇのかよ」 「你还不睡吗?」
「俺は凛のサッカー見たいだけだし、気にせずやってよ」
「我只是想看凛踢足球,别在意,继续吧」
「やけに元気だな」 「你今天特别有精神啊」
「最近ちゃんと寝れてるからかな」 「最近睡得挺好的,可能是因为这个吧」
俺が笑うと、凛はフンと鼻を鳴らした。 我一笑,凛便哼了一声。
午前の光で凛の汗が煌めいて宝石みたいに綺麗だった。
午前阳光下,凛的汗水闪耀如宝石般美丽。
俺の帰りが遅いせいで生活が不規則になっているけど、夜のクールダウンヨガは欠かしてないみたいで、瞑想もちゃんとしてるらしい。この若さにしていろいろなものがプロのアスリートそのものである凛は、俺には眩しすぎて、それでいてそんな凛を今一番近くで見られることがとても嬉しかった。
我回家晚导致生活不规律,但她似乎从未间断夜间的冷却瑜伽,冥想也做得很好。在这个年纪就拥有专业运动员般多才多艺的凛,对我来说太过耀眼,而能如此近距离地看到这样的凛,让我感到无比欣喜。
「凛が世界一になるの、こうして見てたいな」 「想看着凛成为世界第一的样子」
「は」 「哈」
俺はしゃがんで、膝に両肘で頬杖をつきながら、シュート練習のさなかの凛に喋った。
我蹲下身,双肘撑在膝盖上托着脸,对正在练习射门的凛说道。
「凛が世界一になるのを、一番近くで見てたい。凛のサッカーが、大好きだから」
「我想在最近的地方,见证凛成为世界第一。因为,我最喜欢凛的足球了。」
「………」
凛はボールを蹴るのをやめて、しばらく黙っていた。
凛停下了踢球的动作,沉默了一会儿。
「凛?」
「無理だろ、それは。俺は元の時代に帰る。そこで世界一になるために、俺は今練習してる」
「那不可能吧。我要回到原来的时代,在那里成为世界第一,所以我现在正在练习。」
「……」
「そこに、今俺の目の前にいるお前はいない」 「那里,现在我眼前的你并不存在」
俺を見ないで、凛は見事なシュートを決めた。俺は立ち上がって、何も言い返すことができず、凛に依存している自分を肯定できなくなってしまった。
不要看我,凛完美地射门得分。我站起来,无法反驳,也无法再肯定自己依赖凛的事实。
午前の練習を終えて、ファミレスでご飯を食べてどこにも寄らずに家に帰った。
上午的练习结束后,在家庭餐厅吃了饭,没有去任何地方就直接回家了。
「……おい」 「……喂」
服を床に落として、ソファにかけたままの部屋着をとる。振り向くと、凛は目を気まずそうに斜め下に落としていた。
将衣服扔在地上,拿起搭在沙发上的睡衣。转身时,凛尴尬地垂下了目光。
「静かすぎてきめぇ。気に入らないことがあんなら言え」
「太安静了,受不了。有什么不喜欢的就说出来。」
「そんなの特にないよ」 「没什么特别的啦」
「ないわけねぇだろ。わかりやすいんだよ、お前」 「怎么可能没有。你太明显了,伙计」
「そうかな。俺、ポーカーフェイス得意な方だけど」 「是吗。我可是很擅长保持扑克脸的」
「周りの目が節穴だっただけだろ」 「周围的人都是瞎子罢了。」
俺は凛に甘えてるのかもしれない。凛が自分の思うように生きてて、思うように言葉を話すから、俺も思うように態度に出しちゃってるのかもしれない。こんな子供相手に。スウェットを頭からかぶると、凛はようやく目をあわせてくれた。
我可能是在依赖凛。因为凛按照自己的想法生活,按照自己的想法说话,所以我可能也不自觉地表现出了自己的态度。对这样的孩子。当我把运动衫从头套上时,凛终于肯与我对视了。
「……凛、いずれここからいなくなっちゃうんだよな」
「……凛,总有一天会从这里消失的吧」
沈黙。
「いや……わかってる。凛には世界一のストライカーになってほしいし、元のとこに戻るべきなのもわかってる。……でも凛と離れたくないって、思ってる俺もいる……」
「不……我明白的。我希望凛成为世界第一的前锋,也知道她应该回到原来的地方。……但也有一个我,不想和凛分开……」
凛といると、おかしくなる。正常になり、それから凛にあてられて俺まで純粋になって、夢まで見そうになってしまう。
和凛在一起,就会变得奇怪。恢复正常,然后又被凛感染,连我也变得纯粹起来,甚至快要做起梦来了。
叶うにも追いかけるにも遅すぎる夢。 追之不及、触之不得的梦。
凛は未来にたくさんの希望も愛も満ちていて、俺には何もない。
凛的未来充满了希望和爱,而我却一无所有。
比べることすらおこがましい。そんな凛の隣にいたいって本当にバカみたいだ。全てにおいて自分が惨めで、笑うしかなかった。
连比较都显得自不量力。真的想待在凛的身边,简直像个傻瓜。在各方面都显得如此悲惨,只能苦笑。
「あーやだ。ほんとにやだな。なぁ、凛の好きな人って、どんな人?」
「啊——不要。真的不要啊。呐,凛喜欢的人,是什么样的?」
「……は」 「……是」
凛は片眉を器用に吊り上げて、俺のことを信じられないような目で見た。
凛挑起一边眉毛,用一种难以置信的眼神看着我。
「その人が元の時代にいるんだもんな。世界一のストライカーになるためにも、その人に会うためにも、元のとこに戻りたいんだろ」
「那个人还在原来的时代啊。为了成为世界第一的射手,也为了能见到那个人,你一定想回到原来的地方吧」
「……お前、いい加減にしろ」 「……你,适可而止吧」
凛が俺の腕を掴む。俺のがずっと年上なのに、凛より手が小さくて悲しくなる。逃げようとしたことなんてないけど、実際今ここで抱きしめられたとして、逃げようとしても俺は凛に敵わないのだと思う。
凛抓住了我的手腕。明明我比她大那么多,手却比她小,真是令人难过。虽然我从未想过要逃走,但即便此刻被她紧紧抱住,我想我也无法与凛抗衡。
「なんとも思ってない他人にここまでするほど俺はお人好しじゃない」
「我可不是那种对毫不相干的人也会做到这种地步的老好人」
「じゃあ……何……」 「那么……什么……」
「潔、俺が好きか」 「洁,你喜欢我吗?」
凛は、俺を抱きしめるんじゃなく、体を向き合わせるように、逃がさないように両肩を掴んできた。いつ狂うかもわからない、はりつめた真剣な瞳で。
凛没有抱紧我,而是面对面地抓住了我的双肩,不让我逃脱。他用那双随时可能失控的、紧绷而认真的眼睛盯着我。
「何……いきなり……」 「何……突然……」
「質問を質問で返すな」 「别用问题回答问题」
「好きだよ……」 「我喜欢你……」
「俺の聞いてる意味わかって言ってんだろうな」 「你明白我说的意思吧」
一緒に寝るようになって一線。そしてまた次の一線を越えようとしてるのがわかる。泥沼。凛は、眩しくて、優しくて、狂気的なまでに純粋で、俺のことを深く沈めてしまう。
一起睡过后又越过了一道界限。然后又感觉到他正试图跨越下一道界限。陷入泥潭。凛,耀眼、温柔,纯粹到近乎疯狂,深深地将我沉溺其中。
「潔……」 「洁……」
熱烈に迫られてるのをわかってるのに、喉から何一つ、言葉をしぼりだすことができない。
明明知道被热烈地逼近,喉咙却一个字也挤不出来。
凛は、決して離さないとばかりに、俺を腕の中に閉じ込めた。
凛紧紧地抱住我,仿佛决不放手。
俺は逃げられなかった。 我无法逃脱。
体を密着させて眠る時も、こうやって太ももに硬いのが当たっていた。
身体紧贴着入睡时,大腿上也会这样顶着硬硬的东西。
◆
裸で一緒に寝て、それ以上のことはしなかった。男同士でする場合の最後までって一体どこまでなのか、興味本意程度にしか俺は知らない。
赤裸相对而眠,未曾逾越雷池。男儿间情事究竟能至何境,我仅略知皮毛,不过好奇罢了。
凛に体を触られて、舐められる。唇をほほに寄せられて目を閉じるとキスされた。
凛触碰着身体,舔舐着。当嘴唇贴近脸颊,闭上眼睛时,被亲吻了。
それから少し眠ってたらしい。 然后好像稍微睡了一会儿。
凛は服を着て、ソファに座って映画を見ていた。かなりハードなスプラッタムービーだった。
凛穿好衣服,坐在沙发上看电影。那是一部相当血腥的恐怖片。
「凛……」
裸のまま起き上がって、名前を呼ぶ。凛は反応しなかった。何かしらの後悔がその後ろ姿から伝わって、俺は何も見なかったふりをしてもう一度眠ることにした。
赤裸着起身,呼唤她的名字。凛没有回应。从她的背影中,我感受到了某种悔意,于是决定装作什么都没看见,再次入睡。
◆
日曜日。
凛とベッドの中でずっと抱き合っていた。休みの許す限り、凛のサッカーが見たいのに、凛がいなくなるかもという焦りから、凛の温もりから離れられなかった。
凛和我一直相拥在床上。尽管我渴望尽可能多地观看凛的足球比赛,但因担心凛可能离去而产生的焦虑,让我无法离开凛的温暖怀抱。
「好きにしていいよ」って言っても、凛は本当の一線を越えようとはしてこなかった。ただ、苦しそうな顔で、俺の体で気持ちよくなっていた。
即使我说「你可以随心所欲」,凛也从未真正跨越那条界限。他只是带着痛苦的表情,在我身上寻求着快感。
凛に体を触られて、凛の大事なところを触ってあげるほど、聞くに聞けなくなっていく。
凛触碰身体,触及凛的重要部位,渐渐变得无法听从。
どうして俺のところに来たのか。どうして俺のことが好きなのか。
为什么来我这里。为什么喜欢我。
好きなのは、本当に俺なのか。どんな人が、好きだったのか。
你真正喜欢的是我吗?你曾经喜欢过什么样的人?
あまりに堕落した一日を過ごして、床に投げっぱなしになっていた乱れた服を頭から被り、ゆるやかに下着へ脚を通す。
度过了一个过于堕落的日子,将散乱丢在床上的衣服从头套上,缓缓地将脚伸进内衣里。
同期に勧められるがまま買って、一本だけ吸って放置していた赤いマルボロを棚の奥から出した。ライターがないなと思ったけど、これまた去年同期と花火大会したときに押し付けられたチャッカマンがあったので、ベランダに出て、火をつけてみる。
从架子深处翻出了同期推荐下买来、只抽了一根就被搁置的红万宝路。想着没有打火机,但去年同期的烟花大会上被硬塞的 Zippo 还在,于是走到阳台,试着点燃。
東京の冷たい夜景が遠くに見える。思い切って煙を吸って、肺に届く前に咽せて、どこまでも子供なままな自分を思い知る。
东京冰冷的夜景在远处若隐若现。鼓起勇气吸了一口烟,却在烟雾到达肺部前呛到,不禁意识到自己依旧是个长不大的孩子。
それでも俺はタバコに口をつけて、喉の浅いところでふかし続けた。大人であろうとすることで、凛から体を引き離そうとした。夜景がぼんやりと滲んでいく。涙なんて邪魔になるだけで、大事なものが見えなくなるし、嫌でも出てくるから余計に悲しくなる。クソ。クソ。
尽管如此,我还是叼起了烟,在喉咙浅处持续地吸着。试图通过这种成为大人的方式,从凛身边拉开距离。夜景渐渐变得模糊不清。眼泪只会碍事,让人看不清重要的东西,而且即使不想也会流出来,反而更加悲伤。可恶。可恶。
「……副流煙」 「……副流烟」
ベッドで寝てたはずの凛がベランダに出てきた。わざわざ玄関から靴を持ってきたらしい。パンツにスウェット姿で俺の隣に立った。
本应在床上睡觉的凛走到了阳台。似乎特意从玄关拿了鞋子过来。穿着运动裤和运动衫站在我旁边。
「いーだろ別に。ベランダで吸ってんだから」 「无所谓吧,反正是在阳台上抽的」
「喫煙者でもねぇくせに」 「明明不是烟民」
「うるさい。ホント、クソがつくほど生意気……」 「吵死了。真是的,自大到让人想骂脏话……」
俺はずるずるとへたり込むようにしゃがんで、タバコの灰を落としながらスウェットの袖で涙を拭いた。凛も一緒にしゃがんで、副流煙を吸う。だめだ。凛の肺は、フットボーラーの肺。こんな俺に巻き込ませてはいけない。
我像瘫软般蹲下,一边抖落烟灰,一边用运动衫的袖子擦去眼泪。凛也一起蹲下,吸着二手烟。不行。凛的肺,是足球运动员的肺。不能让她卷入这样的我。
俺は綺麗な空気を何回も吸っては吐いて、ようやく凛に「ごめん」と言えた。
我反复深吸几口清新的空气,终于对凛说出了“对不起”。
「……なにが」 「……什么啊」
「俺、凛のこと好きだよ。……でも、本当に純粋に、凛のことが好きだったわけじゃない」
「我,喜欢凛。……但,并非真正纯粹地,喜欢凛。」
凛の瞳は瞬きもしないで俺をうつす。 凛的目光一动不动地盯着我。
「凛を通して、夢を見てた。お前が来て十日間、凛の夢が俺の夢になってた。俺は夢を諦めた、くたびれた大人でしかない。俺にお前を引き止める資格なんてない。俺は、お前で、自分の傷を舐めてただけだ」
「通过凛,我看到了梦想。你来了十天,凛的梦成了我的梦。我放弃了梦想,只是个疲惫不堪的大人。我没有资格挽留你。我,只是用你来舔舐自己的伤口罢了。」
本当に、嫌な大人になった。自分で行動することを忘れて、諦めて、疲弊した搾りカスが俺だ。
真的,变成了一个讨厌的大人。忘记了主动行动,放弃了,疲惫不堪的残渣就是我。
おぼえてもいない、生まれて初めてサッカーを見たときのスタジアムの歓声が、耳の奥にこだまする。幻聴だ。
耳畔回响着连自己都不记得的、生平第一次看足球比赛时体育场的欢呼声。那是幻听。
「俺だって、俺だって、世界一の……ストライカーに……」
「我也是,我也是,世界第一的……前锋……」
タバコの火が指を焼く。火種をコンクリートに落として、スウェットの生地と、左手の冷え切った指先を目元にあてながら、俺はみっともなく嗚咽をもらして泣いた。子供の前で大人気なく。
香烟的火烫到了手指。将烟蒂丢在水泥地上,用运动服的布料和左手冰冷的指尖贴在眼角,我难堪地抽泣着哭了。在孩子面前毫无大人样。
凛は俺をしんと見つめたままだ。同じ目線でしゃがんでから、きっとどうすればいいのかわからないでいる。
凛一直静静地注视着我。她蹲下身来,与我平视,一定是不知该如何是好。
やがて、たどたどしく、凛の長い指が、俺の目尻から涙をぬぐった。目元の皮膚は薄いから、どんなに優しく触れても少し乱暴に触覚がとらえてしまう。優しくするのに慣れてないような指。
不久,凛笨拙地用她修长的手指,从我的眼角拭去泪水。眼周的皮肤很薄,无论多么轻柔地触碰,都会稍显粗暴地被感知到。像是还不习惯温柔的指尖。
「潔」 「洁」
「うぇっ……うっ……」 「呜……呜……」
タバコがサンダルの近くでくすぶり、火が今にも消えかけている。
香烟在凉鞋旁忽明忽暗,火光眼看就要熄灭。
「……俺も似たようなもんだ」 「……我也差不多」
「ふ、」 「呼、」
「だからもういい。俺まで謝らなくちゃいけなくなる」
「所以已经够了。连我也要道歉了」
凛は目をふせた。なんのことかわからなかったけれど、俺が自分を許せなくても、凛は許してくれた。凛のそばでしばらく泣いて、足元は冷えていく。
凛闭上了眼睛。虽然不明白发生了什么,但即使我无法原谅自己,凛却原谅了我。在凛的身边哭泣了一会儿,脚下的地面渐渐变得冰冷。
夢の終わりが見えてきた。 梦的尽头即将到来。
「……凛の好きだった人って、どんな子?」 「……凛喜欢的人,是什么样的孩子?」
凛に覆い被さられて、凛の首に抱きついて、性交の真似事をしたあとに、二人で狭いベッドに並んで天井を見つめていた。ベランダで冷えた体は二人で温め直した。
被凛覆盖着,紧紧抱住凛的脖子,模仿性交之后,两人并排躺在狭窄的床上,凝视着天花板。在阳台上冷却的身体,两人重新温暖起来。
「あ?」 「啊?」
「いや……今聞くことじゃないとは思ってるけど……。気になって……」
「不……我知道现在不该问……可是,我很好奇……」
高校の可愛い女の子と俺は踏んでいた。やっぱり死ぬほどモテるだろうし、告白もいっぱいされて、その中からようやく凛が付き合う気になれるくらいの女子。
我和学校里可爱的女生交往了。果然是受欢迎到死的那种,告白也接了不少,终于有个叫凛的女生愿意和我交往了。
好きだった、って言わせるくらいに凛を夢中にさせた女の子。
让凛为之痴迷到可以说出“喜欢”的女孩。
「……まず、クソ生意気」 「……首先,真是个自大的家伙」
「……おお」 「……哦」
「次に、ストーカー気質」 「接下来,跟踪狂属性」
「はあ」 「啊」
「壊しても壊しても食らいついてきてムカつく」 「无论怎么破坏,都会再次扑上来,真是令人恼火」
「……なあ、好きな子の話だよな?」 「……喂,是关于你喜欢的人吧?」
あまりに悪口のオンパレードなので俺は耳を疑った。凛は、天井を見ながら言った。
因为恶言恶语铺天盖地,我简直怀疑自己的耳朵。凛一边望着天花板一边说道。
「そいつに、俺は振られた」 「那家伙,把我甩了」
「……」
「俺らそんなんじゃないだろって言われて、クソムカついたがその通りだった。……今は絶対にアイツを殺すことしか考えてない。……それしか考えたくなかった。でも」
「被说我们不是那种人,虽然气得要死,但确实如此。……现在满脑子只想杀了那家伙。……只想这么想。但是」
「凛、それって」 「凛,那个是」
「殺してから、どうするか考える。俺のことを拒否れないくらい、ぐちゃぐちゃにしてやって、そのときに考える。お前に会ってから、そう決めた」
「杀了之后,再考虑怎么办。把你弄得一团糟,让你无法拒绝我,到那时再想。自从遇见你,我就这么决定了。」
「それって、男の子?」 「那是男孩子吗?」
凛がようやく目だけでこっちを見た。「だったら何だ」と凛はつぶやいた。
凛终于只是用眼睛瞥了我一眼。“那又怎样”,凛低声说道。
「そ、そうなんだ……勝手にアイドルみたいな女の子かと……」
「这、这样啊……我还以为是那种自以为是偶像的女孩呢……」
「だから、そういうの興味ねぇっつってんだろ」 「所以,我不是说了对那种没兴趣吗」
ため息をつき、凛はまぶたをおろした。不思議と嫉妬はしなかった。凛のことをやっぱりどこかで弟みたいと思ってるからなのか、好きな子が男ってことに意外性を覚えたからなのか、それともまた別の理由か自分でもわからなかった。
叹了口气,凛垂下了眼帘。奇怪的是,她并没有感到嫉妒。是因为在心底某处还是把凛当作弟弟看待,还是因为喜欢的对象是男生这件事感到意外,又或者是其他原因,连她自己也不清楚。
「凛……好きだったって言ってるけど、まだその子のこと好きなんだろ」
「凛……虽然你说喜欢过,但心里还是喜欢那孩子的吧」
凛はうっすら目を開ける。 凛微微睁开眼睛。
「大丈夫だよ。その子も凛と同じくらい、サッカーに一生懸命なのかな。でも、サッカーが大好きなら、絶対凛のことも大好きだよ。次告白すればいけるって。だって、凛以上のサッカーをする人なんて、この世にいない」
「没问题的。那孩子也和凛一样,对足球非常拼命吧。不过,如果他那么喜欢足球,绝对也会喜欢凛的。下次告白一定能成功。毕竟,这世上没有比凛更厉害的足球选手了。」
凛は黙って俺の言葉を聞いていた。俺は凛の方を向くように寝返りを打って、凛の肩に頭を載せた。
凛默默地听着我的话。我翻身面向凛,将头靠在她的肩上。
「俺、応援するよ。凛のこと。世界一になることも、その甘酸っぱい恋のことも」
「我会为你加油的,凛。无论是成为世界第一,还是那段酸甜苦辣的恋情。」
「……おい、バカにしてんだろ」 「……喂,你是在耍我吧」
「してないよ。してないけど、一個だけ爪痕残していい?」
「没有啊。虽然不是,但能让我留下一个印记吗?」
凛の体の上に体を寝そべらせて、鼻をくっつけ合わせた。
将身体横躺在凛的身上,鼻子贴着鼻子。
「大人のキス……教えてあげる」 「大人的吻……我来教你」
今の凛がしてくるような、衝動的なものじゃなくて、ちゃんと相手を気持ちよくできるキス。
不是像凛刚才那样冲动的吻,而是能让对方真正感到愉悦的吻。
凛がその好きな子とキスする時に、少しでも俺のことを思い出してくれますように。
凛在和那个喜欢的女孩接吻时,能稍微想起我就好了。
嫉妬してないなんてやっぱり嘘。俺だって、凛のことが好き。
果然还是在嫉妒。我也喜欢凛。
「潔……」 「洁……」
「ん?」 「嗯?」
キスの最中に、凛は寂しそうな掠れ声で言った。 接吻中,凛用略带寂寞的声音说道。
「好きだ」 「我喜欢你」
「うん」 「嗯」
「嘘じゃないしこの場限りでもねぇ。好きだ」 「不是骗你的,也不是一时兴起。我喜欢你。」
「うん、俺も、凛が大好き」 「嗯,我也最喜欢凛了」
その晩俺は、とても幸せな夢を見た。 那晚我做了一个非常幸福的梦。