短編集:春 短篇集:春
X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2024年3月・4月分)をまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的 One-Rai 投稿作品(2024 年 3 月·4 月)的汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请参见第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
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夢渡り 梦渡
学校に行く夢を見た。凛が出てきた。なんと敬語で喋っていて、先輩と呼ばれた。違和感が拭えなかった。今思うと笑える。
梦见去学校。凛出现了。居然用敬语说话,还被叫前辈。那种违和感挥之不去。现在想想觉得好笑。
要約するとそういうことを、食事の際の雑談として潔が蜂楽に話していた。うっかり耳に入って腹が立ったのでシメた。その夜、凛は夢を見た。
洁在吃饭时闲聊,把那件事概括着告诉了蜂乐。不小心听到了,气得我把他收拾了一顿。那天晚上,凛做了个梦。
人気のない補習室で、数字とアルファベット記号の並ぶプリントにペンを走らせていた。ややこしい問題にぶつかり、ペンが止まる。眉間に皺が寄る。
在空无一人的补习室里,对着满是数字和字母符号的试卷奋笔疾书。遇到棘手的问题,笔停了下来。眉头紧锁。
「凛」
向かいの席から、聞き覚えのある声が名前を呼んだ。つられて顔を上げると、見慣れた眼差しが凛を捉える。
对面座位传来熟悉的声音呼唤着名字。不由自主地抬起头,熟悉的目光捕捉到了凛。
「わかんないとこでもあった? …ああ、それか。その手の問題文、まわりくどくて分かりにくいよなぁ。先に図の方見ちゃった方が早いと思う」
「有不明白的地方吗?……啊,还是说。那种问题描述,绕来绕去很难懂吧。我觉得先看图会更容易理解」
身を乗り出して凛の手元を覗き込み、相手は助言らしきものを口にする。
身体前倾窥视凛的手边,对方开口给出了建议。
それを見て、これは夢だな、と凛は思った。今目の前にいる男には、わかりやすく現実とは異なる点があった。服だ。酷く見覚えのある、黒い詰襟の学生服。すなわち自分が通っていた高校の制服を、ソイツが着ている。実際のところ、向こうの高校の制服がどんなものであるかなど凛は知らないが、まったく同じということは流石にないだろう。
看到这一幕,凛心想,这一定是梦吧。眼前这个男人,有一个显而易见与现实不同的地方。那就是他的衣服。那件黑色立领学生服,让人感到无比熟悉。也就是说,他穿着自己曾经就读的高中的校服。实际上,凛并不知道对方所在高中的校服是什么样子,但要说完全一样,那也未免太巧合了。
黙り込む凛に、向かいの席の男が首を傾げる。 面对沉默不语的凛,对面座位上的男人歪了歪头。
訝しげなその顔には見慣れない眼鏡まで掛かっていて、凛は半眼でそれを見据える。その視線にたじろいだ様子を見せながら、潔は凛に問い掛けた。
那张带着疑惑的脸庞上,还架着一副凛从未见过的眼镜,凛半眯着眼盯着它。洁在凛的注视下显得有些退缩,但还是向凛发问了。
「…お前、話聞いてる? てかなんか変じゃね、どうかした?」
「…你,有在听吗?话说回来,你是不是有点不对劲,怎么了?」
「別に」 「没什么」
「ああそう…」 「啊,这样啊…」
如何にも物申したそうな様子の潔を放置して、凛は思考を巡らせる。
凛无视了洁那副明显有话要说的样子,开始思考起来。
そもそもの話、状況からして不可解にも程がある。現実の自分たちは今なおブルーロックで戦っている真っ最中だ。こんなことに労力を割いている暇などない。そんな時間があったのは、僅かに二次選考の最後、それも英語だけだった。もし万が一そんな課題が発生したとしても、監獄内にこんな部屋はないし制服を着る意味もない。当初疑問に思わなかったこと自体がおかしい。
说到底,情况本身就极其不合理。现实中的我们此刻仍在蓝色监狱中奋战。根本没有时间浪费在这种事情上。有那种时间的,只有二次选拔的最后阶段,而且仅限于英语。即便万一有这样的课题,监狱里也不可能有这种房间,穿制服也没有意义。当初没有对此产生疑问本身就很奇怪。
何一つ整合性の取れていない、まさしく夢以外の何でもないシチュエーションだった。
没有任何一致性,这无疑是一个除了梦以外不可能存在的情景。
気付いてしまえば馬鹿らしくなって、凛は先程まで格闘していた紙切れをぐしゃりと丸める。どうせ夢なのだ、真面目にやる必要などどこにもない。
回过神来,凛觉得刚才还在拼命的那张纸片真是愚蠢,于是用力揉成一团。反正只是个梦,哪里需要这么认真。
その狼藉に、潔が慌てて声を上げる。 看到那一片狼藉,洁慌忙喊道。
「ああっ、お前それ提出しないと部活出れねぇんだぞ!?」
「啊啊,你那东西不交的话,社团活动可就参加不了了!?」
「知るか。どうでもいい」 「谁知道啊。关我屁事」
「よくねーよ、必死で交渉して再テストなしでこれ出せばオッケーってことにしてもらったのに…! 心象最悪じゃん、皺伸ばせるかこれ…?」
「超不爽的啊,拼了命去谈判才争取到不用重测就能通过的……!心情糟透了,这还能恢复吗…?」
懸命に紙を撫でつけて復元を試みる潔に、凛は冷え切った眼差しを向ける。
拼命试图抚平纸张恢复原状的洁,凛投以冰冷的眼神。
流れから察するに、この夢では凛と潔は同じ部活で潔が余計な気を回した、というところだろう。現実の凛はユースに所属しているため部活動には入っていない。監獄にいる今となっては、どちらにせよ大した差はないが。
从情境推断,这个梦里凛和洁在同一个社团,洁多虑了,大概就是这样。现实中的凛属于青年队,所以没有参加社团活动。如今身在监狱,无论哪种情况,差别都不大。
何にせよどうでもいい。今はただU二〇日本代表に、ひいては兄に勝つ。そのために己の全てを賭す。それだけだ。
无论如何都无所谓。现在只为战胜 U20 日本代表,进而战胜哥哥。为此赌上自己的一切。仅此而已。
「…まあ、終わらせさえすればいけるだろ! もう一息頑張ろうな、凛」
「…嘛,只要能结束就行了吧!再加把劲,凛」
皺の除去に見切りをつけた潔が言う。 洁放弃了去除皱纹,说道。
しょうがないな、と言いたげな顔が癇に障った。導火線に火がついた。一向に夢から覚めないことも相まって苛立ちが爆発し、凛は吐き捨てる。
那副无奈的表情让人恼火。导火索被点燃了。再加上一直无法从梦中醒来,烦躁感爆发,凛吐出了这句话。
「お前には関係ねぇだろ」 「这与你无关吧」
「は?」 「哈?」
潔の目元がぴくりと引き攣る。 洁的眼角微微抽动。
「例えば、俺が、」 「比如说,我,」
衝動に任せて口を開き、すんでのところで言葉を切る。固くて柔らかくて、どろどろとしたものが胃の腑から迫り上がってくる。記憶。湿った雪。這いつくばった地面。冷えた眼差し。去っていく背中。凛は束の間躊躇い、それを内側に押し込む。押し込もうとした。
冲动之下开口,却在千钧一发之际截断了话语。坚硬而柔软,黏稠之物从胃腑中涌上。记忆。湿漉漉的雪。匍匐的地面。冰冷的眼神。离去的背影。凛一时犹豫,试图将其压回内心。
けれど、失敗した。汚泥が口から溢れ出す。 然而,失败了。污泥从口中溢出。
「サッカー辞める」 「退出足球」
「え」 「诶」
潔が目を見開く。その色は、眼鏡越しでもよく見えた。
洁睁大了眼睛。那颜色,透过眼镜也能清晰地看见。
「っつったところで、お前には何の関係もない。他人の心配してる暇があったら手前の練習してろ。ほっとけよ、クソ潔」
「就算说了,也和你无关。有时间担心别人,不如先做好自己的练习。别管了,混蛋洁」
最低の気分だった。それもこれも全部このクソッタレな夢のせいだ。
心情糟透了。这一切都是这个该死的梦的错。
潔はしばらく黙っていた。やがてゆっくりと瞬きをした。次いで口にした言葉は場繋ぎのそれで、何の感情も篭ってはいなかった。
洁沉默了一会儿。不久,他缓缓地眨了眨眼。接着说出的话语只是为了维持场面,不带任何情感。
「…あー、うん」 「…啊,嗯」
ふ、と潔は浅く息を吐いた。片手で眼鏡を外し、眉間を揉む。
洁轻轻吐了口气。单手摘下眼镜,揉了揉眉心。
そして裸眼で凛を射抜くように見据え、口を開いた。
然后,他裸眼直视凛,开口说道。
「まあ、そうだな。凛がいようといまいと、俺は俺でサッカーやるし。その通りだよ。…でもさ、凛がいた方が楽しいっていうか。凛がいると、こう、燃えるんだよな。それだけって言えばそれだけだけど」
「嘛,确实如此。无论凛在不在,我都会继续踢足球。没错。……不过啊,有凛在会更开心,怎么说呢,有你在,我就会燃起来。虽然这么说也就这么简单。」
「…」
「で、ほんとに辞めんの?」 「所以,你真的要辞职吗?」
「…辞めるわけねぇだろ、クソが」 「…怎么可能辞职,混蛋」
「だよなぁ」 「就是嘛」
深々と息を吐いて、潔は肩をすくめる。 深深地吐出一口气,洁耸了耸肩。
「つーか、先輩つけろって何度も言ってんじゃん…。あと敬語。もういいけどさ今更…」
「话说回来,前辈,我不是已经说过很多次要你加油了吗…。还有敬语。虽然现在说已经晚了…」
凛は鼻を鳴らす。 凛哼了一声。
瞬きほどの間に、相対した視線の鋭さは輪郭を失う。ぼやく様は一転してひどくぬるい。
一眨眼的功夫,相对的视线锐利失去了轮廓。模糊的样子一转变得非常柔和。
諦めの表情を浮かべた潔に、ふと思い立って口を開く。どうせ夢だ。それもいいか、と魔が差した。
带着放弃的表情,洁突然开口。反正是在做梦。这样也不错,魔鬼在心中作祟。
曖昧に乗せた言葉が、舌の上から転がり落ちる。 含糊的话语,从舌尖滚落。
「…潔、先輩」 「…洁、前辈」
口にした響きはぎこちない。据わりの悪さに、凛はついと目を逸らした。
说出口的声音显得生硬。因着这份不自然,凛不由得移开了视线。
呼ばれた潔はぽかんとする。 被叫到的洁愣住了。
そして、弾けるように笑った。 然后,他如花绽放般笑了。
「あっははははは、似合わねー!!」 「啊哈哈哈哈哈,真不合适!!」
殺意が湧いた。 杀意涌上心头。
口を開こうとしたところで、目尻を拭う潔の輪郭がぐにゃりと歪む。覚醒の兆しだ。ようやくやってきたそれに凛は抗うことなく身を委ねた。
正要开口时,洁擦拭眼角的轮廓突然扭曲。这是觉醒的征兆。凛毫不抗拒地将自己交给了这终于到来的时刻。
目が覚めて、真っ先に思ったことはひとつ。 醒来后,首先想到的是一件事。
やっぱりムカつく。それだけだった。 果然还是让人火大。仅此而已。