
ふと見上げた居間の電灯が、心なしか暖かく感じた。 我不经意抬头看了看客厅的灯,感觉它似乎格外温暖。
ふうっと長く息をつく。前はもっと白かったはずの光が視界の隅でぼやける。適度に膨れたお腹がくるくるとかすかな音を立てる。反対に座る同居人には聞こえないほどのボリュームだけど、つい気になって反応をうかがう。
我长长地叹了口气。原本应该更明亮的光线在视野的角落里变得模糊。适度隆起的肚子发出轻微的声音。虽然坐在对面的室友听不见,但我还是忍不住想要观察他的反应。
まふゆはいまひとつ焦点の合ってなさそうな目でテレビに顔を向けていた。
まふゆ此刻用一双似乎有些失焦的眼睛盯着电视。
一人でいた頃は何年も点けてなかった居間のテレビだが、最近はたまに役目を果たしている。音量はたいてい絞っていて、手持ち無沙汰のとき、必要以上に手持ち無沙汰にならないための環境装置だった。
一个人待着的时候,客厅的电视已经好几年没开了,但最近偶尔会发挥作用。音量通常调得很小,主要是为了在无聊的时候,避免过于无聊的环境装置。
夕食を終えたあと、余裕がある時にはこうしてお茶を淹れ、お腹を落ち着かせながらふたりぼんやり過ごすことがある。
晚餐结束后,有空的时候就这样泡茶,肚子稍微平静下来,两个就这样发呆度过。
曲作りが佳境の時やアイディアを形にしたくて急いているときは、食器を流しに放り込むやいなやパソコンの前に戻るのだが、考えに詰まってる時なんかはこうして頭と心を休めるのも悪くない。
在创作曲子进入高潮,急于将想法付诸实践的时候,我会把餐具扔进水槽后立刻回到电脑前,但在思路卡壳的时候,像这样让头脑和心灵休息一下也未尝不是一种好选择。
自分の呼吸を感じるほどに感覚が広がり、そのぶん時間の流れがゆっくりになる。一呼吸に何秒もかかって、自分自身までもその中に伸ばされていくような錯覚を覚える。
自我呼吸的感觉扩展到如此程度,以至于时间的流逝变得缓慢。每一次呼吸都需要几秒钟,仿佛连自己也被拉入其中,产生了一种错觉。
去年までのわたしは、こんな状態を自分に許すことは決してなかっただろう。今も時にしくしくと心が痛むものの、たゆんとした日常に価値と意味を感じられるのは同居人あってこそだ。
直到去年,我绝对不会允许自己处于这样的状态。虽然现在有时心里还是会隐隐作痛,但能在这种悠闲的日常中感受到价值和意义,都是因为有室友的陪伴。
いつものきりりと整った居住まいで、やや無機質に湯飲みを口に運ぶ様は、ぐでんと椅子の上で伸びきったわたしと不釣り合いで可笑しい。
在一如既往整洁的居所中,略显无机质地将茶杯送到嘴边的样子,与在椅子上懒洋洋伸展的我形成了鲜明的对比,显得滑稽可笑。
究極的な「救い」にはまだ到底及ばないけれど、同時に、ただ一作の曲や、ただ一本の糸が誰かを救いきれるものでもないと理解し始めていた。哀しくも無力なただのわたしには、わたしのできる範囲のことしかできない。
究极的“救赎”仍然遥不可及,但同时,我也开始理解,仅仅一首曲子或一根线并不能完全拯救某个人。对于悲伤而无力的我来说,我只能做我能做的事情。
ならば話を聞くのも、自分の思ったことを伝えるのも、こうして時間と空間を共にするのも救いであっていい。それだって決して簡単なことではないのだ。むしろそれこそ出来てなかったのかもと、反省することが多い。
那么,倾听他人的话语,传达自己的想法,像这样共同度过时间和空间,都是一种救赎。这些事情绝对不是简单的。反而,我常常反思,或许我根本做不到这些。
事実、こんなささやかな休憩や気分転換が少なからずまふゆを包み込めているのだと、一番近くにいるわたしは確信していた。
事实上,这样微小的休息和心情转变在很大程度上包围着まふゆ,我作为最亲近的人深信不疑。
まふゆの深い瞳にテレビの映す原色が反射する。 まふゆ的深邃眼眸中反射出电视所映射的原色。
頭を起こしてお茶を啜り、頬杖をついて目だけテレビの方に転がす。もうもうと白い煙が立ちこめてるのは、温泉の紹介らしい。情報番組かなにかだろうか。次々と豪奢な浴場が映し出される。
抬起头来喝了一口茶,撑着腮帮子,眼睛却只转向电视。弥漫的白烟似乎是温泉的介绍。应该是某个信息节目吧。接连不断地映出奢华的浴场。
じっと見てるとなんだか足先が冷たくさみしいような感覚に襲われる。昨日お風呂サボっちゃったし、たまにはお湯を張ってゆっくり湯船で足を伸ばすのもいいかもしれない。
盯着看时,脚尖似乎被一种冰冷和孤独的感觉袭来。昨天没洗澡,偶尔泡个热水澡,舒舒服服地在浴缸里伸展一下脚也许不错。
「温泉」 温泉
まふゆがぼそりと言う。 まふゆ轻声说道。
「温泉だね。……まふゆ、興味あるの?」 “是温泉呢……まふゆ,你感兴趣吗?”
「わからない」 “我不知道”
「行ったことは?」 「去过吗?」
「子どもの頃に。家族と行って……ああ、お父さんは呼び出されて、途中で帰っちゃった」
“小时候。和家人一起去……啊,爸爸被叫走了,中途就回去了。”
「そ……っか」 “是……这样啊”
寂しい記憶を掘ってしまっただろうか。 我是否挖掘了寂寞的记忆呢?
「別に気にしてないから。それでお母さんと一泊して、どう、だったかな。別にどうということもなかった気がする」
“我并不在意。然后和妈妈住了一晚,怎么样呢?好像也没什么特别的。”
「あはは……小さい頃だと温泉ってあんまりありがたみ感じないのかもね。私たちよりも少し年上の、お姉さんたちが好きそうなイメージある」
“哈哈……小时候可能不太能体会温泉的珍贵呢。感觉比我们大一点的姐姐们会喜欢这样的地方。”
「そうだね」 “是啊”
受け答えが淡白なわりには、いつもよりまじまじ画面を眺めていて、どこが琴線に触れたのかわからないけど、じつは並々ならぬ興味があるのかもしれなかった。
受答虽然淡薄,但却比平时更加专注地盯着屏幕,不知道哪里触动了我的琴弦,实际上可能对这件事有着非比寻常的兴趣。
きりっと寒い頃に湯気立ち上る温泉というのは、確かに想像するだけでもどこか素敵な感じがする。家の風呂とどう違うのかと突き詰めると多分何の違いもなくて、普段のシャワーすら面倒がる人間が憧れを感じていいものかすこし気後れする。けれどみんなで温泉に行くというひとまとまりのイベントを想像すると、悪くなさそうだった。
在寒冷的时节,蒸汽袅袅升起的温泉,确实光是想象就让人觉得有些美好。仔细想想,家里的浴室和温泉有什么区别,可能根本没有什么不同,平时连淋浴都觉得麻烦的人,是否真的有资格向往这样的体验,心里有些犹豫。然而,当我想象和大家一起去温泉的这个整体活动时,似乎也并不坏。
「じゃ、そろそろ」 「那么,差不多该出发了」
最後の一口のお茶を飲みきったまふゆは、まだ続いている特集をブツリと切って立ち上がった。わたしも冷めかけの残りを急いで飲み下し、慌てて後を追う。
最后一口茶喝完的まふゆ,突然切断了仍在进行的特辑,站了起来。我也急忙喝下冷掉的剩茶,慌忙跟了上去。
「さっきのとこ、アイディア出そう?」 “刚才的地方,想出点主意吗?”
「えっと、まだ……」 “呃,还……没有……”
AメロとBメロの噛み合いがどうも気に入らないと言って、わたしの方から作業を中断して夕食をとりはじめたのだった。
我对 A 段和 B 段的衔接总觉得不太满意,于是我主动中断了工作,开始吃晚餐。
「そう。じゃあお風呂はいったら、模試の勉強しておくから」
“是啊。那么洗完澡后,我会先复习一下模拟考试的内容。”
そう言ってスタスタと自室の方に消えていく。 她这么说着,快步走向自己的房间。
「うん。25時までにはなんとかしてみる……」 “嗯。我会在 25 点之前想办法……”
とは言ってみたものの、わたしの頭の中には全然関係ない温泉のアイディアがぐるぐる飛び交うばかりだった。
虽然这么说,但我脑海中却不断飞舞着与温泉毫无关系的想法。
*
『いまちょっといい?』 『现在可以聊聊吗?』
ぴこぴことナイトコードの通知が鳴る。 叮叮叮,夜间代码的通知响起。
「絵名だ……なんだろ?」 “是绘名……这是什么呢?”
こういう正体のしれない書き方をされるとつい身構えてしまう。ちょっとここに座りなさい、なんてママンに呼び止められた記憶は、ボクにはないはずなんだけど。
这种不明身份的写法让我不由得紧张起来。虽然我应该没有被妈妈叫住说“来这里坐一下”的记忆。
『暇だよ〜、なーにー』 『闲着呢〜,干嘛呢〜』
入力中の表示が出たかと思ったら、ややあって通話が来た。
输入中的显示刚出现,就接到了电话。
「なになに」 “什么什么”
「あ〜、打つのめんどくさくて」 “啊~,打字太麻烦了”
「込み入った話?」 “复杂的事情?”
話すなら集まった時でもよさそうなのに。あとニ時間で25時だ。なにか一対一じゃないと言いにくいことなのかな。少し背中がこわばる。気を紛らわすように大仰に肩を回し、ごろんとベッドに転がった。
如果要说的话,聚在一起的时候似乎也可以。再过两个小时就是 25 点了。是不是有什么不适合一对一说的事情呢?背部有些紧绷。为了分散注意力,我夸张地转动肩膀,翻身躺在床上。
「瑞希はさ、前に泊まりはちょっと、って言ってたけど、やっぱりあんまり行きたくない?」
瑞希之前说过不太想住,但果然还是不太想去吗?
「え、えと、それは絵名と……?」 “呃,那个,是绘名和……?”
「私っていうか、ニーゴでかな」 “我说的是,应该是ニーゴ吧。”
目の奥がずきりと痛む。平衡感覚が失われる。 眼睛深处一阵刺痛。失去了平衡感。
あらかじめベッドに倒れておいて正解だったかもしれない。頭の中をざあっと血が駆けてゆき、反響してうるさかった。
提前倒在床上可能是个明智的选择。脑海中血液奔涌而过,回响得很吵。
「ごめん……やっぱりやだった……?」 对不起……果然还是不想……?
電話口から遠く絵名の声がする。これは、大丈夫。完全に無意識の反応で、すこし平静を取り戻すのに時間がかかるだけだ。そう自分に言い聞かせて、努めて呼吸を整える。
电话口传来远处绘名的声音。这没关系。这完全是无意识的反应,只是需要一点时间来恢复平静。我这样告诉自己,努力调整呼吸。
「ううん、そんなことないけど……。でも急にどうして?」
“嗯,不是这样的……但是为什么突然问这个?”
「今日の昼にセカイで奏と会って、話してたらまふゆが温泉に興味ありそうだったから調べてるって言ってたの。奏も最初は本気で行くつもりってわけじゃなかったみたいなんだけど、一緒にいろんな宿見たりとか、レンたちも来て、浴衣の話とか枕投げの話とか、結構盛り上がっちゃって」
“今天中午在世界上遇到了奏,聊着聊着发现まふゆ对温泉似乎很感兴趣,所以她说正在调查。奏一开始似乎也不是很认真想去,但一起看了各种旅馆,连レン他们也来了,聊起了浴衣和枕头大战的话题,气氛变得相当热烈。”
「なるほどね」 “原来如此”
「まふゆも時間取れるか分かんないし、瑞希も行きたいか分かんないから話半分ってことなんだけど 、心境の変化?とかあるかもしれないし、一応聞いとこうと思って」
“我也不知道まふゆ能不能抽出时间,瑞希也不一定想去,所以只是随便聊聊,但也许会有心境的变化?所以我想还是问问。”
「そう、ね……」 “是啊……”
想像がつかなかった。 无法想象。
正直言って、友達と泊まりでどこかに行くというのが全くの未知だった。
老实说,和朋友一起去某个地方过夜对我来说完全是未知的。
最後に行ったのは小学生の頃だったか。無邪気で無頓着で、いまよりはるかに気にすることリストが短かった頃だ。それも林間学校だか修学旅行だか学校の行事という枠にはまったやつだ。友達同士とは全然違う。高校生が友達と行くの旅行のしおりの持ち合わせはボクにはなかった。
最后一次去是小学的时候吧。那时天真无邪,无忧无虑,心中在意的事情远比现在少得多。那也是林间学校还是修学旅行,属于学校活动的范畴。和朋友们的旅行完全不同。作为高中生,我并没有和朋友一起去旅行的计划。
「やっぱり」と口に出しかけて、後ろ髪を引くものがあった。
“果然”我刚想说出口,却有些不舍。
断るのは簡単だ。絵名も、奏とまふゆも、違和感も余念もなく受け容れてくれるだろう。やっぱり普段どおりファミレスでの打ち上げや、ときたまフェニランやスポジョイに遊びに行くくらいにしておこうか、と落ち着くだろう。ニーゴは音楽サークルだ。旅行に行かなくて困ることはない。
拒绝是很简单的。绘名、奏和まふゆ都会毫无异议地接受这一点。果然还是像平常一样在家庭餐厅庆祝一下,偶尔去菲尼兰或运动乐园玩玩就好了,大家会这样平静下来。ニーゴ是音乐社团。并不会因为不去旅行而感到困扰。
けれど、なにか喉の奥につっかかるものがあった。ごろごろと妙な存在感があって、でも案外不快ではなかった。
然而,喉咙深处似乎有些东西卡住了。那种咕噜咕噜的奇妙存在感,虽然让人感到困扰,却意外地并不令人不快。
絵名に待ってもらって、糸をたぐってみる。 等着绘名,我试着拉扯着线。
そっか、これは冒険なんだ。 原来,这是一场冒险。
未知の扉を開こうとするとき、不安のほかにわくわくやどきどきもついてくる。
当试图打开未知的门时,除了不安之外,兴奋和紧张也随之而来。
なんってったって、ニーゴで旅行するのはミステリーツアー以来だもん。あれから一年はとっくに経って、まだボクはみんなと一緒にいられてる。これはほんと奇跡みたいで、でもあの日から連綿と続く現実だ。
毕竟,自从神秘之旅以来,我已经很久没有和妮戈一起旅行了。自那以后已经过去一年多了,我仍然能和大家在一起。这真像是奇迹,但从那天起,这种现实就一直在延续。
いきなり泊まりはハードルあるけど、今ならボクもほんのすこし高く跳べるんじゃないかって、高揚感に浮かされて、思ってしまった。
突然过夜有点难度,但现在的我似乎可以稍微高跳一下,心中充满了兴奋,忍不住这样想。
「あのさぁ、ちょっと恥ずかしいんだけど……」 “那个嘛,有点害羞……”
「……ん?」 「……嗯?」
絵名は声をひそめてこちらの様子を伺ってたらしい。ドキドキしてる様が電話越しでもなんとなく伝わった。
绘名似乎在低声观察我们的情况。从电话那头传来的她紧张的样子,隐约可见。
「ボク泊まりとか旅行とか、友達と行ったことなくて、こう、感じが分からないといいますか」
“我从来没有和朋友一起过夜或旅行过,所以,我有点不知道这种感觉。”
「そんなの私だってないけど」 “那样的事情我也没有过。”
「あはは! それもそっか! 絵名も友達いないもんね!」
「哈哈!也是呢!绘名也没有朋友呢!」
「は!! いるし! あんたでしょ、奏とまふゆでしょ、愛莉でしょ、雫……」
“哈!!是你们!是奏和まふゆ吧,还有爱莉,雫……”
「あーーーわかったわかった」 “啊——我知道了,我知道了”
一番目に今話してる相手が来るのはどうなのとはツッコむ気にもなれなかった。
我对现在正在交谈的对象会来第一位这件事,实在没有心情去吐槽。
「で、でも人が家に泊まりに来たことはあるし!?」 “可是,人来我家过夜的事情也是有的吧!?”
「それまふゆでしょ。知ってるよ……」 “那是まふゆ吧。我知道的……”
「私のことはおいといてもさ、高校生で泊まり掛けでどっか行くなんて、あんまり無いんじゃない? まふゆは部活の合宿あるのかもしれないけど、私は修学旅行くらいだし、瑞希もないでしょ、奏もなさそうじゃん」
“就算不提我的事,高中生能住在外面去哪里玩,应该不多吧?虽然まふゆ可能有社团的合宿,但我就只有修学旅行而已,瑞希也没有吧,奏看起来也没有。”
「ボクたち超インドア派だもんね」 “我们可是超级宅男呢。”
「そうそう。なんとかなるでしょ。ずっとボイチャ繋ぎっぱなのと変わんないって」
“是啊,没问题的。一直保持语音聊天也没什么不同。”
「まーためちゃくちゃなこと言ってる……」 “嘛,真是胡说八道……”
「瑞希に言われたくなーーい。じゃあ、都合あえば行くでいい?」
「我可不想被瑞希说。那如果时间合适的话就去吧?」
「うん……興味は、ボクもあるよ」 “嗯……我也很感兴趣。”
「よかった! まふゆには奏から聞いてくれてるみたいだから、また夜話そ」
太好了!看来まふゆ已经从奏那里听说了,所以晚上再聊吧
「うん。あとでね~」 “嗯。待会儿见~”
通話を切っても、ドキドキが止まらなかった。降って湧いた話にどーしよどーしよと脳内のボクが暴れまわるばっかりだ。まだ行くかどうかも決まらないのだからあわててもしょうがないのに。
通话结束后,心跳依然无法平息。脑海中的我对突如其来的事情感到无比焦虑,四处奔波。明明还没决定是否要去,急什么呢。
そうだ! ボクにはこういうとき超心強い味方がいたじゃないか。
没错!我在这种时候有一个超级可靠的伙伴。
『おねーーちゃーーーーん』 『姐姐ーーーー!』
*
「皆いるかな」 「大家都在吗」
はーいとかほーいとか声が返ってくる。まふゆはわたしの隣にいるので、いる。
好的,或者说“嘿”的声音回应着。まふゆ在我旁边,所以她在这里。
「作業は……さっきもう一度メロを調整したから、いま雪に確認してもらってる。アップしといたからみんなも聴いてみて」
“作业是……刚才我又调整了一次旋律,现在让雪来确认一下。我已经上传了,大家也可以听听。”
「わかった!」 “我明白了!”
瑞希の弾んだ声から察するに、旅行の話は色よい反応をもらえたみたいだ。切り出しやすくてよかった。
从瑞希兴奋的声音中可以察觉到,旅行的提议似乎得到了很好的反响。能够轻松地切入话题真是太好了。
「あと、旅行の話だけど、聞いてる?」 “还有,关于旅行的事,你在听吗?”
「うん、雪が温泉行きたがってるってやつだよね」 “嗯,雪想去温泉的事。”
「わたしは言ってない」 “我没有说过。”
「あはは……たまたまテレビで温泉特集見てたから調べてみただけなんだけど。たまには大きめの気分転換もいいかなって」
「哈哈……刚好在电视上看到温泉特辑,所以随便查了一下。偶尔换个大一点的心情也不错吧。」
「雪は大丈夫なの? あんたが一番忙しそうじゃない」
“雪没问题吧?你看起来最忙。”
「一日くらいなら、平気。でも学校も予備校もない日、少ないから、日程が合えば」
“一天的话,没问题。不过学校和补习班都没有的日子很少,如果日程合适的话。”
「それと年末年始はかなり高くなるみたいだから、それも避けて、あと宿が空いてればかな……」
“还有年末年始的时候价格会涨得很高,所以我们也要避开那个时候,如果旅馆有空房的话……”
「そっか、結構大変だね~」 “是啊,挺麻烦的呢~”
「ごめん、いきなり言い出したから……」 “对不起,我突然说出来了……”
「ううん! 提案してくれて嬉しいよ!」 “嗯!我很高兴你提这个建议!”
瑞希がそう言ってくれると、ちいさな思いつきでも言ってみてよかったと思えた。
瑞希这么说让我觉得,即使是小小的想法也值得说出来。
「あとでいくつか宿の候補送るから、みんなはダメな日教えて」
“我稍后会发几个旅馆的候选名单给大家,大家告诉我不行的日子。”
「ちなみに、ご予算ってどれくらい? ボク実は今月Vのライブとアニメの円盤とクリスマスコフレと福袋の先行販売で厳しくて……」
顺便问一下,你们的预算大概是多少?其实我这个月因为 V 的演唱会、动画的蓝光碟、圣诞化妆品和福袋的预售,经济有点紧张……
「ちょっとは加減しなさいよね、まったく。でも大丈夫なんでしょ?K」
“稍微注意一下吧,真是的。不过没关系吧?K”
「うん。こないだAmiaが作ってくれたショート動画、いろんな配信サイトにアップしたよね。そのうちのひとつがびっくりするほど再生数まわって、しかも他のショートにもたくさん使ってもらったらしくて、広告とか利用収益がそれなりの額になったんだ」
“嗯。前几天 Amia 给我做的短视频,上传到了各种直播网站。其中一个的播放量惊人,而且似乎还被很多其他短视频使用了,广告和收益也达到了相当的数额。”
「そうなの!? 伸びてるなーとは思ってたけど、そんな、お金になるほどだったんだ」
“是吗!?我一直觉得在长,但没想到居然能值那么多钱。”
「私も聞いたときびっくりしちゃった。だから軍資金は大丈夫なのよね」
“我听到的时候也吓了一跳。所以军资金是没问题的,对吧?”
「うん。ニーゴのみんなで作った曲で生まれたものだから、みんなで使いたくて。素材とかプラグインとか、楽曲制作に使うものにとも考えたんだけど、みんなはどうかな」
“嗯。因为是妮果大家一起创作的曲子,所以想大家一起使用。我也考虑过素材和插件等用于音乐制作的东西,但大家觉得怎么样?”
「私はほとんどデジタルだし、大してお金かかってないからどっちでも」
“我几乎都是数字化的,而且花的钱也不多,所以无所谓。”
「わたしも。Kの家は機材たくさんあるから、困ってない」
“我也是。K 家有很多设备,所以不担心。”
「んー、ボクは結構素材買ってるけど、半分くらい趣味で集めてるし、そのためにバイトもしてるから、せっかくならみんなで何かするのに使いたいかな」
“嗯,我买了不少材料,不过大约一半是出于兴趣收集的,为此我还打了工,所以如果能的话,我想和大家一起做点什么。”
「わかった。宿泊プランのリスト作ってきたんだ。これだったら、どこも予算内だと思う。近くだから交通費もそんなにかからないし……」
“我明白了。我已经准备了住宿计划的清单。这样的话,应该都在预算内。因为离得近,交通费也不会太高……”
「おぉー! さすがK。リスト待ってるね」 「哦哦!果然是 K。我在等名单呢。」
「ちょっとAmia、私も選んだんですけど」 “等一下,Amia,我也是选的哦。”
「わざわざ言っちゃうところがえななんっぽいよねぇ」
“特意说出来的地方真是很像绘名呢。”
「それじゃこの後すぐ送るから。何かあったら言って」
“那我马上就发给你。如果有什么事就告诉我。”
ミュートにして、メモアプリに並んだ宿のURLをチャットに貼り付ける。隣に座るまふゆも自分のラップトップで確認しはじめていた。
静音模式,复制宿舍的 URL 到聊天中。坐在旁边的まふゆ也开始在自己的笔记本电脑上确认。
「奏、これってどう違うの?」 “奏,这个有什么不同吗?”
「えっと……条件はだいたいどれも同じだから、場所と、宿の雰囲気とかかな」
“嗯……条件大致上都差不多,所以就看地点和旅馆的氛围之类的吧。”
「ふうん」 “哼”
「あと泉質っていうのもポイントみたい。冷え症に効くとか、肌がすべすべになるとか」
“还有泉质似乎也是一个重点。对冷症有效,或者让皮肤变得光滑。”
「……よくわからない」 “……我也不太明白”
「わたしもよくわかんなかったから、それは瑞希と絵名に任せようか。みんなの気になるところをいくつか探してもらって、予約が取れるところにしようと思ってる」
“我也不太清楚,所以就交给瑞希和绘名吧。我打算让他们找一些大家感兴趣的地方,然后选择可以预约的地方。”
「じゃあわたしは、先に日程を確認したほうが良さそうだね」
“那么我还是先确认一下日程比较好。”
真剣に読む風もなくぐるぐるとマウスホイールを回していたのを中断し、カレンダーを開いていた。
我正无精打采地转动着鼠标滚轮,突然中断了,打开了日历。
「そうだね。それもお願い」 “是啊。那也拜托你了。”
「それで、曲なんだけど」 “所以,关于曲子……”
「うん」 嗯
「良いと思う。でも雰囲気が結構変わったから、歌詞も調整したい」
“我觉得不错。不过气氛变化挺大,所以我想调整一下歌词。”
「わかった。ありがとう」 “我明白了。谢谢你。”
パソコンを向き直ると、早速チャットで瑞希と絵名が論争を繰り広げていた。
当我转过身面对电脑时,瑞希和绘名已经在聊天中展开了争论。
『ボク草津とか伊香保とか、有名なところ行ってみたいな』
“我想去草津或者伊香保这些有名的地方看看。”
『北は止めてよね。絶対寒いじゃん』 “北方就别去了。绝对会很冷的。”
『この時期、どこ行っても寒いでしょ』 “这个时候,无论去哪里都很冷吧。”
『熱海のほうがいいって。熱海も有名でしょ?』 “热海更好吧。热海也很有名,对吧?”
『他はだいたいひとつかふたつなのに、熱海だけやたらたくさんあるのは全部えななんチョイスってこと?』
“其他地方大概只有一两个,而热海却有那么多,难道这全都是绘奈的选择?”
『まぁね』 『嘛呢』
『なんでそこまで熱海に思い入れあるのさ』 『你为什么对热海有这么深的感情呢』
『だって熱い海だよ? あったかそう』 『因为是热海吗?看起来很温暖。』
『名前だけじゃん!』 『名字而已!』
『ほんとに東京よりあったかいんだってば。草津とか絶対寒いでしょ』
“我真的告诉你,这里比东京暖和。草津绝对会冷吧。”
『それがいいんだって! 寒いところのほうが温泉のありがたみ大きそうじゃん。熱海は夏行くことにしてさ、冬は山にしようよ』
『这正是好啊!寒冷的地方更能感受到温泉的珍贵吧。热海我们决定夏天去,冬天就去山里吧。』
『夏は暑いからやだ』 『夏天太热了,我不喜欢』
『も~~~! わがまま!』 『真是的!太任性了!』
相変わらずのやりとりにくすくす笑いが漏れる。 相变わらず的互动让人忍不住笑出声。
旅行は準備しているうちが一番楽しいなんていうのも、あながち言いすぎじゃないのかもしれない。実際に行くのは一カ所だけど、その何倍も楽しい時間を想像して、話に花を咲かせることができる。
旅行的准备过程可能真的是最有趣的部分。虽然实际去的地方只有一个,但我们可以想象出无数倍的快乐时光,畅所欲言。
『えななんは冬季講習ないの?』 『えな难冬季补习没有吗?』
このままではいつまでたっても決まらなそうなので、すこし話題を変えてみる。
这样下去似乎永远都无法决定,所以我决定稍微换个话题。
『ある。けど短期集中で十二月の最後だから、前半なら大丈夫』
有。不过因为是短期集中,十二月的最后,所以前半部分应该没问题。
『ボクは暇人でーす!』 我是一名闲人!
『Amiaはちゃんと進級してね』 『Amia 一定要顺利升级哦』
『ぐえ、Kに言われるとクるものがあるなぁ。まだ首の皮一枚繋がってるけど』
『呜哇,被 K 这么一说还真有点受不了呢。虽然还勉强撑着一口气。』
『それ首はもう切れてるってことじゃない』 “那条脖子已经断了吧。”
『そうなんだよね。さすがのボクも結構焦ってる』 “是啊,果然我也有点紧张。”
『補習や授業ある日はちゃんと避けてね』 『补习和上课的日子一定要好好避开哦』
『うん、わかった』 『嗯,知道了』
全員の日程が出揃ってみると、冬休みは全滅で、その前の週の水曜と木曜がたまたまぽっかりと空く形になった。
全员的日程一整理,发现冬假全都没空,恰好在前一周的星期三和星期四有了空档。
まふゆと絵名は三年生の授業がない日がたまたま重なっていた。瑞希は自主休校。補習がない日は相変わらず休んでいい日扱いらしい。瑞希に「もし補習入ったらキャンセルしてちゃんと行くんだよ」って全員で何回も念押しして、その日に決まった。まふゆは木曜の夜に予備校があるが、昼過ぎに出れば間に合うとのことだった。
まふゆ和绘名恰好在没有三年级课程的日子重合。瑞希选择了自主休校。没有补习的日子依然被视为可以休息的日子。大家一再叮嘱瑞希:“如果有补习的话一定要取消,认真去上课。”于是就这样决定了。まふゆ周四晚上有补习班,但如果下午早些出发就能赶上。
平日なおかげで宿もまだいくらか空きがあった。熾烈な舌戦の挙げ句、景色も海鮮も楽しめるという理由で絵名の熱海案が勝利を収めた。
平日的关系,旅馆还有一些空房。经过激烈的争论,最终以可以享受美景和海鲜的理由,绘名的热海提案胜出。
とにかく出不精で寒がりで面倒くさがりなわたしたちは夕食も朝食もありのプランにした。出発も昼13時、東京駅集合。着いたらそのままチェックインできる時間だ。
总之,我们这些不爱出门、怕冷又懒惰的人选择了包含晚餐和早餐的计划。出发时间是中午 13 点,在东京站集合。到达后就可以直接办理入住。
「予約完了……っと。いま予約メールのコピー、チャットに貼ったから、確認しておいて」
“预订完成……好了。我把预订邮件的副本贴在聊天里了,确认一下。”
「はーい。日付もあってるし、うん、大丈夫そう」 “好的。日期也对,嗯,没问题。”
瑞希がさっそくチェックしてくれた。 瑞希立刻帮我检查了一下。
「ありがとう。なにか気になることがあったらわたしに聞いて。宿に問い合わせもできるから」
“谢谢。如果有什么让你在意的事情,随时问我。我们也可以联系旅馆。”
「うん、ありがと!」 “嗯,谢谢!”
*
ニーゴ打ち上げ旅行当日。 ニーゴ打上旅行的当天。
そう、打ち上げ旅行になったのだ。曲が直前の月曜日、正確には火曜日の明け方にあがり、元々予定してた旅行が、急遽打ち上げを兼ねることに決まった。ボクも、たぶん他のみんなも、気持ちよく旅行に行きたくて全速力で作業を進め、ナイトコードには久しぶりに気持ちのいい緊張感がみなぎっていた。
是的,这次变成了庆祝旅行。曲子在前一个星期一,确切地说是在星期二的清晨完成,原本计划好的旅行,突然决定兼作庆祝。也许我和其他人一样,都想愉快地去旅行,因此全力以赴地推进工作,夜间编程中久违地充满了令人愉悦的紧张感。
火曜日は珍しくオフになった。奏が曲のことを考えっぱなしで寝られないで来るとかわいそうだから、というのが大きい。25時にごく簡単にスケジュールを確認し、すぐにお開きとなった。
星期二难得放假。因为奏一直想着曲子的事情,睡不着来这里真让人心疼,所以这个原因很重要。在 25 点时简单确认了一下日程,立刻就散会了。
そのまま布団に入ったものの、すぐそこまで来ているはずの睡魔はいつまでたってもボクの枕元に立つ気配がなかった。
尽管我已经躺进了被窝,但似乎那即将降临的困意却始终没有在我枕边出现。
今すぐ頭を空っぽにして寝てしまいたいのに、目を閉じて寝入ろうとすると、どこからともなく青黒いもやもやが漂ってきて、体のあちこちがむず痒いような居心地の悪さをもたらす。我慢できなくなってスマホを開いてSNSをザッピングする、の繰り返しだった。
我现在真想把脑袋清空,立刻睡去,但每当我闭上眼睛想要入睡时,总有一股青黑色的迷雾从不知何处飘来,带来身体各处的痒痒和不适。我忍不住打开手机,反复在社交媒体上翻看。
「今日は早起きだったし学校も行ったし、そのうち眠くなるでしょ」
“今天早起了,学校也去了,过一会儿就会困吧。”
画面の上部に表示された3:04という数字の意味はなるべく考えないように、身を低くして自然な入眠を待つ。電子機器の画面をみてると眠りの質が悪くなるとか言うけど、眠れないよりずっといいよと一人ツッコむ。
我尽量不去思考画面上方显示的 3:04 这个数字的意义,低下身子等待自然入睡。有人说看电子设备的屏幕会影响睡眠质量,但我心里默默反驳,能睡着总比失眠要好。
握っていたスマホが震え、ぽこんとメッセージ通知が現れる。
握着的手机震动了一下,弹出了消息通知。
えななん
『まだ起きてんの?』 『还没睡吗?』
発言はしていなかったけど、SNSのアクティビティでバレちゃったのだろうか。
虽然我没有发言,但可能通过社交媒体的活动被发现了吧。
きみこそ寝なよとひとりごちながら目がギンギンのスタンプを返す。
你自己去睡吧,我一边自言自语,一边回了个眼睛亮晶晶的表情。
『シャンプーもってく?』 『要带洗发水吗?』
『うん』 『嗯』
旅行用の小容器に取り分けて、しっかりお風呂セットにしまってあった。さすがお姉ちゃん、コンパクトで便利な旅行のイロハをいっぱい教えてくれた。
旅行用的小容器里分装好了,妥妥地放进了洗澡用品里。果然是姐姐,教了我很多便捷的旅行小窍门。
『容器見つかんなくて、多めに持ってきてくれない?』
“能不能多带一些容器过来?我找不到了。”
『いいよ』 好的
少し迷って、一応補足する。 稍微犹豫了一下,还是补充一下。
『けど普通のやつだよ』 『不过是普通的家伙而已』
『うん。旅館のよりは瑞希ののほうが安心だから』 “嗯。比起旅馆,瑞希的地方更让人安心。”
『二、三回ぶん入れてあるから足りると思う』 “我觉得放了两三次,应该够用了。”
『ありがと』 『谢谢』
思えば、一番髪の短い絵名が一番ヘアケアにうるさいのもなんだかおかしかった。好みがあるのは良いことだけど、ずっと髪の多い奏やまふゆの無頓着ぶりを想像すると、ふふふと口元が緩む。
回想起来,头发最短的绘名对护发的要求却是最高的,这实在有些好笑。虽然有自己的喜好是件好事,但一想到头发浓密的奏和まふゆ那种毫不在意的样子,我不禁轻笑出声。
『寝坊しないでよ』 『别睡过头了』
『瑞希こそ早く寝なさいよ』 『瑞希你快点去睡觉吧』
はいはいと気のない返事をして、画面を消す。 好的好的,敷衍地回应了一声,关掉了屏幕。
とりとめもなく、絵名と話してる情景を脳裏に描く。一緒に電車乗って、他愛のない話をして、ときどきまふゆが突っ込んで、みんなで笑って。ふわふわと口角が浮き上がる。
脑海中浮现出和绘名无所事事地聊天的场景。一起坐电车,聊着无关紧要的话题,偶尔麻冬插话,大家一起笑着。嘴角不自觉地上扬。
ずっと眺めていても、もう電子世界に逃げ出したくなるような情景には出くわさなかった。
即使一直凝视,也没有遇到想要逃离电子世界的情景。
*
起きてカーテンを引くと、冬にしては元気の良すぎる朝日が目を焼いた。心なしか肩が軽い。悪くない出発の朝だった。
起床拉开窗帘,冬天却有些过于明亮的阳光刺痛了我的眼睛。感觉肩膀轻松了些。这是一个不错的出发早晨。
昨日のお願いを思い出してダメ押しでシャンプーとコンディショナーをツープッシュずつ追加する。一泊には明らかに過剰な量に友達の重みを感じてみたり。
昨天的请求让我想起,最后又多加了两推洗发水和护发素。对于一晚来说,这显然是过量的,我感受到了朋友们的重量。
メイクポーチと充電器をしまい、お母さんにしっかりめのいってきますを済ませ、いつものバックパックとともにおまけのダッフルバッグを背負う。
收好化妆包和充电器,向妈妈郑重地说了一声“我出发了”,背上平常的背包和一个额外的旅行袋。
着替え一着しか入ってないダッフルバッグはスカスカだけど、そのぶんお土産をたくさん買える。弟くんに絵名とおなじものあげたらどんな顔するかな、とかしょうもないことを考えながら駅を目指す。
装着的行李袋里只有一套换洗衣服,显得空荡荡的,但正因为这样我可以买很多土特产。想着如果给弟弟也买一件和绘名一样的东西,他会是什么表情呢,心里想着这些无聊的事情,朝着车站走去。
幸い絵名も遅刻せず、予定の13時には全員集まっていた。この電車に乗らないとといった指定もないので、ゆっくり駅弁を物色する。
幸好绘名也没有迟到,按计划的 13 点大家都聚齐了。因为没有指定必须乘坐的列车,所以我们慢慢挑选车站便当。
「奏とまふゆはご飯食べてきた?」 “奏和まふゆ吃饭了吗?”
「うん。ついさっき食べたから、まだお腹空いてないかも」
“嗯。刚刚吃过,所以可能还不饿。”
「あはは、今日は晩ごはんも豪華だから、お腹あけとくのもありだよね〜」
“哈哈,今天的晚餐也很丰盛,所以留点肚子也是可以的呢〜”
「瑞希は?」 「瑞希呢?」
「ボクはせっかくだしなんか買おうかって思ってるけど……」
“我在想既然难得来一次,要不要买点什么……”
「どれもすごく偏ってるね」 “这些都很偏颇呢。”
とまふゆ。 冬季的温暖。
「そうなの! カニとかイクラとかすごいんだけど、これでもか〜〜ってくらいにそれしか詰まってなくて、なんか違くない? 東京の名産でもないし」
“是啊!螃蟹和鱼子酱都很棒,但里面几乎全是这些,感觉有点不对吧?这也不是东京的特产。”
「でも東京のものはいつでも食べられるでしょ」 “但是东京的东西随时都可以吃吧。”
「それもそうなんだよねぇ。う〜ん、焼売弁当にしようかな」
“这倒也是呢。嗯,我想做烧卖便当。”
「ねえ、あっちチーズケーキ売ってるから見てきていい?」
“嘿,那边有卖芝士蛋糕的,我可以去看看吗?”
絵名は聞いておきながら誰の返事も待たずにたったかとスイーツコーナーに去っていった。自由だなぁ。
绘名虽然听到了,却没有等任何人的回答,就匆匆走向了甜点区。真是自由啊。
お弁当を買って、絵名を回収しつつ全員分の良いジュースを買って、ホームに向かう。ふだんは全く縁を感じない熱海行きの電光掲示になんだか急に親近感が湧いて、ふわっと日常から足が離れるような、特別な感じがする。
买了便当,顺便把绘名接上,同时为大家买了好喝的果汁,朝着车站走去。平时完全没有联系的热海行的电子显示屏,突然让我感到亲切,仿佛轻轻地从日常中脱离出来,感受到一种特别的氛围。
「一本で行けるの、楽だね」 “一本就能到,真方便呢。”
一番身軽そうな奏が車内を見回しながら言う。運よく数少ないボックス席が空いていた。きっとまふゆの鞄の中に二人分入ってるのだろう。
一番轻松的奏在车内四处张望着说道。幸运的是,少数的包厢座位中有一个是空的。一定是まふゆ的包里装着两个人的东西吧。
「熱海にしといてよかったでしょ?」 “去热海真是太好了,对吧?”
絵名が奏の正面に腰掛けながら得意げに言う。 绘名得意洋洋地坐在奏的正面说道。
「終点だから寝過ごす心配も少ないね」 “因为是终点,所以睡过头的担心少了很多呢。”
「ふわぁ〜〜早起きしたから寝ちゃうかも……」 「哈〜〜因为起得太早了,可能会睡着……」
「早起きって、絵名何時に起きたの?」 “早起真是的,绘名你几点起的?”
「10時……11時前くらい?」 “10 点……大概在 11 点前?”
「それは、遅いんじゃないかな」 “那样是不是有点晚了?”
「私は夜型なの! 昼前は全部早起きなんだって」 “我可是夜猫子!听说早上大家都起得很早。”
「うへ〜明日起こすの大変そ〜。まふゆ、頼んだ!」 “哎呀~明天叫醒可真麻烦~。麻冬,拜托你了!”
「わかった」 “我明白了”
「え、まふゆなんか怖そう……。奏がいいな」 “诶,まふゆ看起来好可怕……我想要奏。”
「わたし、自信ないよ」 “我没有自信。”
ワイガヤ騒いでいるうちに電車は動き出していた。新橋、品川と見知った駅が過ぎていく。
在热闹的聊天中,电车已经开始动了。新桥、品川等熟悉的车站一个个经过。
「それじゃ、かんぱーい」 “那么,干杯!”
めいめいのジュースを取り出し、小声でビンをかちんと鳴らす。
每个人都拿出自己的果汁,轻声地碰了碰瓶子。
「はぁ〜、うま!」 「哈~,好吃!」
「相変わらず瑞希は飲むの早いね」 「瑞希还是喝得很快呢」
「今日はおかわりないんだからね」 “今天可没有多余的哦”
「え、絵名のくれるの?」 “诶,绘名要给我吗?”
「今ないって言ったでしょ!?」 “我不是说过现在不行吗!?”
控え目な声で盛り上がるのはろうそくのようなぬくもりがある。いつか見たアニメの、深夜の寄宿舎で秘密のお茶会をしているシーンをなぞってるみたいだ。このボクが、と思うと耳の奥がこそばゆい。ちょっと少女趣味が過ぎるかな。
控え目的声音中透出像蜡烛般的温暖。仿佛在重温某部动漫中,深夜宿舍里秘密茶会的场景。想到自己也在其中,耳朵深处感到一阵痒痒的。是不是有点过于少女心了呢。
ボックスシートはファミレスよりずいぶん狭い。荷物も多いし、膝を突き合わせてきゅっと詰め込まれている。コート越しでも伝わってくる隣の体温が気恥ずかしさに拍車をかける。ときおりもぞもぞと動いて、いきものを感じる。
包厢的空间比家庭餐厅小得多。行李也很多,膝盖紧紧相碰,挤得满满的。隔着外套也能感受到旁边的体温,这让我更加害羞。偶尔动来动去,感觉像是有生命的存在。
すごくリアルで、ボイスチャット越しがデフォルトのボクたちには逆に夢みたいだった。
非常真实,对于我们这些通过语音聊天交流的人来说,反而像是做梦一样。
横浜を過ぎ、知らない駅名の比率が増えてくると、反比例して乗客が減っていく。そろそろいいかなとお弁当を取り出す。
经过横滨,陌生车站的比例逐渐增加,乘客却反比例减少。差不多可以了,我拿出了便当。
結局買ったのはボクだけだったので気まずいかなと思ったら、絵名もなにやらポリ袋を取り出していた
结局买到的只有我一个人,觉得有点尴尬的时候,绘名也拿出了一个塑料袋
「何買ったの?」 “买了什么?”
「へっへっ、チーズケーキ」 “嘿嘿,芝士蛋糕”
「え、ほんとに買ったの?! 帰りにすればいいのに」
“诶,真的买了吗?!回去的时候再买也可以啊。”
「忘れそうだし、食べたい時に買うのが一番でしょ」 “我快要忘了,想吃的时候买最合适吧。”
のぞき込むと、小分けになっていて車内でも手で持って食べられそうだ。それでいてなかなか本格的な断面を呈している。
往里一看,食物被分成小份,似乎可以在车内用手拿着吃。而且看起来相当正宗。
「わ、美味しそうじゃん」 “哇,看起来好好吃啊!”
「でしょ? 食べる?」 “是吧?要吃吗?”
「絵名がボクにチーズケーキを……? 明日は雪かな」
「绘名要给我芝士蛋糕……?明天会下雪吗?」
「は? みんなで食べるつもりで買ったんだし。奏とまふゆも、どう?」
“哈?我可是打算大家一起吃的呢。奏和真冬,你们怎么样?”
「ありがと、絵名」 「谢谢你,绘名」
「わたしも貰う」 「我也要一个」
「ほら、瑞希よりまふゆのほうが素直じゃない」 “看,真希比真冬更不坦率。”
「なっ……、ボクも、ボクもお弁当食べ終わったらちょうだい!」
“那……我也,我也想在吃完便当后要一个!”
「はいはい、とっとくから」 “好的好的,我会留着的。”
「絵名が食べ切らないうちに爆速で食べなきゃ」 「在绘名吃完之前必须快速吃掉」
「そんなにたくさん食べないってば!」 “我才不吃那么多呢!”
「あはは、寝正月に向けて余力残しとこって?」 哈哈,留点力气迎接睡觉的新年吗?
「なにそれ、太れる余裕って意味〜〜?! もー!」 “那是什么,太胖的余裕是什么意思——?!真是的!”
「そこまで言ってないでしょっ」 “我可没说到那种地步!”
「でも寒くなってから全然外出てないから、既にちょっとヤバいんだよね……。奏と散歩するのも随分ご無沙汰だし」
“但是自从变冷之后我就完全没出门,已经有点糟糕了……。和奏散步也很久没做了。”
「大丈夫。奏は時々わたしと出かけてるから」 “没关系。奏有时会和我一起出去。”
「えっ、そうなの?」 “诶,真的是这样吗?”
「うん。買い物とか、前よりは一緒に行くこと増えたんだ」
“嗯。购物什么的,和以前比一起去的次数多了。”
「奏、立派になって……」
「瑞希より外出てるんじゃない?」 「你不是比瑞希更外出吗?」
「ホントにそうかも……ねね、奏、こんどボクとも散歩しようよ」
“真的可能是这样……嘿,奏,下次我们一起散步吧。”
「うん。でもお手柔らかにね……」 “嗯。不过请手下留情……”
「ムリさせるとあとが怖いからね……」 “让人勉强的话,后果会很可怕……”
もくもくとチーズケーキを口に運んでいたまふゆがジトッとこっちを見やる。わかってるってばさ。
默默地把芝士蛋糕送入口中的真冬用一种不满的眼神看着我。我知道的嘛。
あはあはとごまかしてお弁当に戻る。冷めたご飯を食べる機会は意外と少ない。お弁当はそれ用の味付けがちゃんとしてあって、すこし濃いけどこれはこれで美味しいものだ。
哈哈地掩饰着,回到便当上。吃冷饭的机会意外地少。便当的调味是专门为此准备的,虽然味道稍微浓一些,但这也是一种美味。
そろそろ食べ終わるころに右手の展望が一気に開け、キラキラと光が飛び込んできた。
差不多快吃完的时候,右手的视野突然开阔,闪烁的光芒涌了进来。
「おぉぉ、海だ」 “哦哦哦,海啊”
あちらこちらで日光がぎらぎら反射し、青いというより白かった。冬の冷めた空気を射抜くような鋭い光線に目を細める。
四处阳光刺眼地反射着,显得比蓝色更接近白色。微微眯起眼睛,感受着刺穿冬季冷空气的锐利光线。
いよいよ本格的に、旅だった。 终于正式开始了这次旅行。
*
《次は熱海、熱海、終点です。》 《下一个是热海,热海,终点站。》
いつのまにかうとうとしていたようだ。 不知不觉中似乎已经打瞌睡了。
お腹も膨れて、適温の車内とゆりかごのような電車の揺れには勝てなかったみたい。
肚子也饱了,似乎无法抵挡车内适宜的温度和摇晃得像摇篮一样的电车。
ぱっと目を開くと隣も「うん……」と小さな声を漏らした。対面のまふゆは真面目な顔で単語帳のページを繰っている。
我猛地睁开眼睛,旁边也发出了一声小小的“嗯……”。对面的まふゆ面带严肃,正在翻阅单词本的页面。
「案外すぐだったね」 “没想到这么快。”
「ここからが本番でしょ」 “从这里开始才是真正的开始吧”
目を覚ました絵名が気合を入れてカバンのチャックを閉める。あ、チーズケーキ。あとでもらお。
醒来的绘名鼓起干劲,把包的拉链拉上。啊,芝士蛋糕。待会儿再拿。
「だね。まず観光?」 “是啊。首先去观光?”
「先に荷物置きたいな」 “我想先放下行李。”
「旅館が海沿いだから、街中を通り抜けて行くみたい。ちょっと様子見ながら行こうか」
“因为旅馆在海边,所以好像要穿过市区。我们边走边看看情况吧。”
予約をしてくれた奏が場所を確認していた。 预约的奏在确认地点。
「絵名、荷物重い? 持とうか?」 「绘名,行李重吗?要我帮你拿吗?」
「……やっぱ明日雪かも」 “……果然明天可能会下雪。”
「なんでよ! よく持ってるでしょ〜買い物の時とかも!」
“为什么!你不是经常带着吗~比如购物的时候!”
「ごめんごめん、これちょっとお願い」 对不起对不起,这个麻烦你了
そう言って網棚から下ろした荷物をボクに託した。ボクのよりは少し重量があるが、これくらいなら二、三個は余裕だ。
她这么说着,把从行李架上拿下的行李交给了我。虽然比我的稍微重一点,但这种程度我可以轻松应付两三个。
いよいよドアが開き、熱海の風が車内に吹き込む。 终于,门打开了,热海的风吹进了车内。
海沿いだからか、風が強い。南国感は全くなく、ふつうに寒かった。
海边的缘故,风很大。完全没有南国的感觉,反而很冷。
「っ、さむっ!」 「好、好冷!」
予想通り絵名が叫ぶ。 果然,绘名大喊。
「電車でたった二時間なんだから、そんなに気温変わらないでしょ」
“电车才两个小时,气温应该没什么变化吧。”
「電車のなか、あったかかったもんね」 “在电车里,真是暖和呢。”
奏も寒さに顔がすぼまって、風に髪を乱されてへんてこになっていた。
奏的脸因为寒冷而缩起,头发在风中凌乱得很奇怪。
改札に降りると風が遮られて一息つけた。新幹線が停まる駅だけあって広々と立派だ。けれど見て回るほどのものはない。駅ビルが一応あるが、観光スポットという風ではなかった。
改札口一降,风就被挡住了,终于可以喘口气。果然是新干线停靠的车站,宽敞而气派。不过并没有值得四处游览的东西。车站大楼倒是有,但并不是个旅游景点。
「みんな、覚悟いい?」 “大家准备好了吗?”
地図アプリを開いた奏がコートの前を閉め、意を決してえいと改札を飛び出る。
打开地图应用的奏收紧了外套的前襟,鼓起勇气一跃而出,冲过了检票口。
目の前はどこにでもありそうなロータリーで、ホテルの送迎車がちらほら並んでいるほかは見慣れた風景だ。
眼前是一个看起来随处可见的环形交叉口,除了偶尔停着的酒店接送车,周围的景象都很熟悉。
「ねえ……」 “嘿……”
絵名が袖を引く。 绘名拉了拉我的袖子。
「足湯あるんだけど」 “有足汤哦”
駅前にちょこんと屋根が立っていて、ほっかほっかとあたり一面に湯気を撒き散らしている。
车站前矗立着一个小屋顶,热气腾腾地弥漫在四周。
すごい。ハチ公くらいのノリで温泉がある。熱海やっぱりすごいかもしれない。
太厉害了。就像八公一样的氛围,温泉真是太棒了。热海果然很了不起。
気合を入れて駅を飛び出てきたボクたちはわずか十歩で道を逸れ、へろへろと足湯に吸い込まれることになった。
我们满怀干劲地冲出车站,但仅仅走了十步就偏离了道路,疲惫地被足汤吸引了过去。
一目散に飛び込もうとして、はたと思いとどまる。 一目散地想要跳进去,却突然停下了思绪。
「誰か、タオルある?」 “有人有毛巾吗?”
「わたし持ってる」 “我有。”
準備のいいまふゆがちょこんとカバンを開ける。ハンカチでもかろうじて何とかなると思うけど、次に手を洗うときに困りそうだ。
准备好的まふゆ轻轻打开了包。虽然手帕勉强可以应付,但下次洗手的时候可能会有些麻烦。
「やったー!」 「太好了!」
心置きなくいそいそと靴を脱ぎだすボクたちの横で、絵名が憮然とした顔で立ちつくしている。
心无旁骛地急忙脱下鞋子的我们旁边,绘名面露不悦地站在那里。
「絵名、どうしたの……って、あ」 「绘名,怎么了……呃,啊」
ひょいと顔を上げて絵名の足元を視界に収め、理由を悟る。
我抬起头,看到绘名的脚下,明白了原因。
「今日タイツだから……」 “今天穿的是紧身裤……”
ボクとまふゆはたまたまパンツ、奏はいつものジャージ。スカートに分厚いタイツの絵名は裾を捲って入るというわけにいかなかった。
我和まふゆ正好穿着内裤,奏则是平常的运动服。穿着厚厚的打底裤的绘名可没法卷起裙子进来。
見つけたとき歯切れが悪かった理由はこれだったか。 找到时口齿不清的原因就是这个吗。
「あー……」 啊……
ショートブーツから足を引き抜くところだったボクは、その場でこちっと固まってしまった。
我正要把脚从短靴里拔出来,却在那一瞬间僵住了。
「いーよいーよ、気にしないで」 “没关系没关系,别在意。”
そういわれても。ボクらがのほほんとあったまってる間、絵名一人だけ寒空の下というのはあまりに不憫だ。かといってボクが隣に立ったところで大した風よけにもなれなさそうで。
即便如此。在我们悠闲地享受温暖的时候,只有绘名一个人待在寒冷的天空下,实在是太可怜了。不过,就算我站在她旁边,也似乎帮不了她多少。
「脱いだら?」 「脱了之后呢?」
乱暴な提案をする。 提出粗暴的建议。
「……そうねぇ」 “……是啊”
さすがに逡巡している。 果然犹豫不决。
ボクのほうは申し訳無さに縮こまりながらも、着々と靴下を脱ぎ、裾をしっかりとたくし留めてほっかほっかの湯気に足を差し入れる。お湯は適度なぬるま湯で、ほわあっと足先からこわばりが解けていく。勝手に顔のしまりがなくなって、てろんとした表情になってしまう。
我一边感到歉意一边缩起身子,慢慢脱下袜子,把裤脚卷好,脚伸进热腾腾的蒸汽中。水温适中,温暖的水从脚尖开始,逐渐解开了紧绷的感觉。我的脸不由自主地放松下来,露出了懒散的表情。
「はぁ〜〜〜」 「哈〜〜〜」
つい、ピチピチの高校生に似つかわしくない声が喉から出る。
不由自主地,从喉咙里发出一个与青春洋溢的高中生不相称的声音。
「あったまるね」 “真暖和呢”
奏はすでに頬を軽くピンクに染め、嬉しそうに顔をほころばせていた。
奏已经轻轻地染上了粉红色的脸颊,脸上露出了愉悦的笑容。
「だねぇ〜」 “是啊〜”
ただ足をお湯につけただけでこんなにほどけてしまっていいんだろうか。人類の生存能力が心配になる。もう少し温泉が多かったら日本人は縄文時代に絶滅してたかもしれない。
只是把脚浸在温泉里就能放松到这种程度,真的可以吗?我开始担心人类的生存能力。如果温泉再多一点,日本人可能早在绳文时代就灭绝了。
湯温は全然熱くないのに、しばらく足を浸していると全身が温まってきて、コートを脱ぎ捨てたいくらい内側からぽかぽかになった。テンションが上がってきて足を揺らすと、ちゃぷちゃぷと水面が揺れ、六本の足が複雑に屈折する。
汤水温度虽然一点也不热,但浸泡了一会儿,整个身体开始变得温暖,感觉热得想脱掉外套。随着情绪高涨,我开始晃动双腿,水面随之荡漾,六条腿交错着扭曲。
「絵名、コート貸そうか?」 「绘名,要借我的外套吗?」
「瑞希がいらなくなっただけでしょ」 「瑞希只是变得不再需要了而已」
きっとボクの顔もほてっているのだろう。友達をコート掛けにしようとしてはいけない。
我想我的脸也一定红了。绝不能把朋友当成衣架。
「ばれたか。でも寒いよね。そろそろ行く?」 “被发现了吗。不过真的很冷呢。要不我们差不多去吧?”
「……やっぱ脱いでくる」 “……果然还是要脱掉。”
そう言い残してそそくさと駅の方に引き返していく。 她这样说完,匆匆地朝车站的方向走去。
すぐに寒空の下を素足で駆け戻ってきた。うひー寒そう。
我立刻赤脚在寒冷的天空下奔回来了。哇,真冷。
「ちょっと詰めて」 “稍微挤一挤”
ボクとまふゆのあいだにずいっと入ってくる。 我和まふゆ之间突然插了进来。
「ほぁ〜〜〜〜」 「哇〜〜〜〜」
絵名からも、やはりピチピチの高校生に似つかわしくない声が漏れる。絵名はもうすぐ高校生おしまいだし、いいか。
从绘名那里,也不禁漏出了与活力四射的高中生不相称的声音。绘名马上就要结束高中生活了,没关系。
「足湯、すごいよね」 “足汤,真厉害呢”
「ん〜」 「嗯〜」
ものの三十秒で夢見心地な受け答えだった。 不过三十秒就进入了梦幻般的回答状态。
急ぐ理由がなくなって、長居する理由が増えていく。 急于离开的理由消失了,留下来的理由却越来越多。
言葉少なに語らいつつ、足指がふやけ始めるまでずうっと居座ってしまった。
言语不多地交谈着,直到脚趾开始变得皱缩,我一直呆在那里。
「それじゃそろそろ」 “那么差不多该开始了。”
再び奏が音頭を取り、文字通りかなり重くなった腰をえっちらと上げる。
再一次,奏带头,费力地抬起了那几乎变得相当沉重的腰。
体は芯までぽかぽかだが、そのぶん足取りは頼りなかった。軽く酔ったみたいに頭がふわりと軽い。
身体暖和得透彻,但因此脚步显得有些不稳。头脑轻飘飘的,仿佛微微醉了。
「こっちみたい」 “看这边”
タオルを借りて順々に足を拭き、靴に足をつっこんで再出発する。絵名は素足のままで、それでも全然寒くないと大喜びしていた。
借了毛巾,依次擦干脚,重新穿上鞋子准备出发。绘名光着脚,还是高兴得不得了,完全不觉得冷。
観光客向けっぽいお店が立ち並ぶ道を海にむかって下りていく。まっすぐずばっと行くわけじゃなく、曲がりくねっていて、分岐も複雑だ。横道を覗くと道路に階段があったりして驚かされる。
沿着一条看起来像是为游客准备的街道朝海边走去。并不是笔直地走下去,而是曲曲折折,分岔也很复杂。偶尔瞥见旁边的小路,竟然还有通往道路的阶梯,让人感到惊讶。
すこし夕食には早い時間だからか、老舗っぽい飲食店はどこも閉まっていて、小ぎれいだがどこにでもありそうな店ばかり開いている。
可能是因为晚餐时间还早,老字号的餐饮店都关门了,只有那些干净整洁但随处可见的店铺开着。
そのなかで異彩を放っているのが干物屋だった。魚屋ではなく干物屋。地元の有名な店なのだろう。どっしりした佇まいで、お客さんもちゃんといる。なかなか他では見ない。デパ地下とかにはあるかもだけど、それくらいのニッチだ。そんなのが一件ではなくそこかしこにあるのだ。
在其中,最引人注目的是一家干物店。不是鱼店,而是干物店。看来是当地有名的店铺。店面稳重,顾客也不少。这种店在其他地方很少见。可能在百货公司的地下商场会有,但也只是那样的小众而已。这样的店并不是只有一家,而是随处可见。
「なんかさ、干物多くない?」 “感觉干物有点多吧?”
斜め後ろを歩いていた絵名も同じ疑問を抱いていたらしい。
斜着走在后面的绘名似乎也抱有同样的疑问。
「だよね。名産なんだろうけど」 “是啊。虽然是特产吧。”
海沿いだから海鮮がセールスポイントなのは分かる。海鮮丼ののぼりもいくつも目にした。でも干物? 保存食だよね。
海边的地方海鲜是卖点我明白。也看到了好几条海鲜丼的旗帜。但是干物?那是保存食品吧。
「干物買ってる人たち、お土産に持って帰るのかな?」
“买干物的人们,是打算带回去当作土特产吗?”
「東京まで魚ぶらさげて帰るの、ちょっとやだな」 “我有点不想提着鱼回东京。”
「しかも干物ってさ、あんまり映えないっていうか……。おいしいけど、観光地でわーってなるようなものじゃないじゃん」
而且干物嘛,感觉不太上镜……虽然好吃,但在旅游景点不会让人惊叹的东西吧。
「そうそう、なにが熱海なのかわかんないけど、熱海スイーツ!みたいののほうがまだアリ」
“对了,不知道热海到底是什么,但热海甜点!这种还比较可以。”
「だったらシブヤで食べるほうがおいしそうだなって思っちゃうけど」
“那么我觉得在涩谷吃的更好吃呢。”
「こらこら……」 「喂喂……」
身も蓋もない話が続く。 身心俱疲的谈话继续着。
先導してくれていた奏が細い路地に折れていく。車が通れないほど細い、住宅に挟まれた道だ。傾斜も結構きつい。歩いていくとどこかの家からテレビの音が漏れている。
先导着我们的奏转入了一条狭窄的小巷。那是一条连车都无法通行的细路,夹在住宅之间。坡度也相当陡峭。走着走着,隐约能听到某家传来的电视声。
観光客は場違いで、道を間違ってないか心配になるが、しばらくしたらもうすこしちゃんとした道に出た。時々ナビが指示してくる謎の抜け道みたいなやつだったらしい。
游客显得有些不合时宜,让人担心是不是走错了路,但过了一会儿,我们终于走上了一条更正规的道路。似乎有时导航会指引我们走一些神秘的小路。
「あ、ここかな」 “啊,这里吗”
奏が予約のメールと看板を見比べている。そこそこ歴史のある旅館らしいが、モダンにリノベされていて古臭さは全くない。隠れ家風料亭を思わせる和風で粋な佇まいだ。
奏正在对比预订的邮件和招牌。这家旅馆似乎有相当的历史,但经过现代化的改造,完全没有古老的感觉。它的和风设计让人联想到隐秘的高档餐厅,别具一番风味。
「ふーついた」 “呼——终于到了”
あちこちのんびりしていたせいで予定より一時間ほど遅れていた。
因为到处闲逛,所以比预定晚了一小时左右。
中のロビーも暗めの照明でシックな雰囲気に統一されていた。所詮は高校生のボクたちが来ても大丈夫なとこなのだろうか。
中间的大厅也在昏暗的灯光下统一营造出一种时尚的氛围。毕竟我们这些高中生来这里真的没问题吗?
「ようこそおいでくださいました」 “欢迎光临”
仲居さんの挨拶に応え名前を告げる。チェックインの続きを済ますとすぐに部屋に案内してくれた。
我回应了仲居的问候,报上了名字。完成了入住手续后,她立刻带我去房间。
「こちらになります。お食事は6時頃にお持ちしてよろしいでしょうか」
「这边请。请问您希望我们在六点左右送上餐点吗?」
「はい、お願いします」 “好的,拜托了”
とにかく広い部屋だった。靴を脱いで上がるとボクの部屋よりずっと広い畳敷の大部屋があり、もうすぐ海に沈みそうな夕日がどんと出迎えてくれた。何人用の作りなのかわからないけど、四人分の布団を敷いても十分すぎる。ど真ん中に置かれた机も会議室のように巨大だ。右手前がお手洗い、右奥がお風呂になっていて、露天風呂からも海が見える。
房间非常宽敞。脱了鞋子走进去,映入眼帘的是比我的房间大得多的榻榻米大房间,夕阳正准备沉入海平面,热烈地迎接着我们。不知道这个房间能容纳多少人,但铺上四张床垫也绰绰有余。正中央放着的桌子大得像会议室一样。右前方是洗手间,右后方是浴室,露天浴池也能看到海景。
部屋に温泉がついてるタイプの部屋は居室とお風呂がそのまま続いているタイプが多かったらしいが、ここはベランダに出てのぞき込みでもしない限り見えないので最低限のプライバシーは確保されていた。
房间里带有温泉的类型大多是居室和浴室直接相连的,但这里的设计确保了最低限度的隐私,除非走到阳台上往里窥视,否则是看不见的。
「浴衣はこちらに。ごゆっくりおくつろぎください」 “浴衣在这里。请您慢慢放松。”
仲居さんは簡単な説明を済ませてすいと出ていった。仲居さんの前では神妙な顔つきでおとなしくしていたが、いなくなったらはしゃぎ放題だ。
仲居小姐简单地做了说明后便轻轻离开了。在仲居小姐面前,我们面带严肃的表情安静地待着,但她一走,我们就开始尽情玩耍。
「わーすごーーひろーー」 哇——太厉害了——广啊——
荷物を投げ出し、畳でごろごろする。 把行李扔在一边,躺在榻榻米上翻滚。
みんなはまだ神妙なお顔のままな気がするけど、もう、はしゃがないとやってられなかった。
大家似乎还保持着严肃的表情,但我已经忍不住要兴奋起来了。
ニーゴのみんなと一緒に、はじめての仲間内での旅行に来て、一晩をここで共に過ごす。雄大な海原と、もうすぐ落ちる太陽と、初めてなのに不思議と落ち着いちゃう部屋と、その隅にみんなが置いた大きめの荷物と、そんなこんながやっとボクの心の鏡面に焦点を結んだ。
和ニーゴ的大家一起,第一次和朋友们旅行,今晚将在这里共度时光。壮阔的海面、即将落下的太阳、虽然是第一次却奇妙地感到平静的房间,以及角落里大家放置的大件行李,这些种种终于在我心中的镜面上聚焦。
ちょっと遠足とか、テーマパークに行くとか、そういうのと違うんだ。今日は日が暮れてもまたねばいばいしない。現実世界で25時過ぎまで一緒にいる。ほんとに、信じられないくらいすごいことで、なのに怖いくらい現実で、来ちゃったんだなぁって実感がぶわあっと体の奥から湧き上がってくる。内臓がうずうずして、のたうちまわりでもしないと破裂しそうだった。
这和去远足或者主题公园之类的事情不一样。今天即使天黑了也不会再说再见。在现实世界里,我们会一直待到 25 点过后。真的,这是一件令人难以置信的事情,然而又是如此真实,让我感到“我真的来了”这种感觉从身体深处涌了上来。内脏像是要翻腾一样,仿佛不扭动一下就要爆炸似的。
「あは、楽しそ」 “啊哈,听起来很有趣。”
絵名もボクの後ろをついてぐるぐる回ってくれた。すこしおっかなびっくりな印象があるけど、そこがまたかわいい。
绘名也在我身后转来转去。虽然有些小心翼翼的印象,但正是这点又显得可爱。
奏も座布団に座ったと思ったらそのままバタンと後ろに倒れ、天井を見上げている。まふゆは粛々と盆に乗ったお茶の準備をしてくれていた。
奏刚坐上坐垫,就这样啪的一声倒了下去,仰望着天花板。まふゆ则安静地在准备托盘上的茶。
「ボクも飲む〜」 「我也要喝〜」
ぐるぐるとまふゆのまわりで回転する。 在まふゆ的周围旋转。
「うん。全員分淹れる」 “嗯。全员都泡。”
「わ〜い、ありがと〜」 「哇〜谢谢〜」
いい加減ぐるぐるも目が回るので、座布団の方にぐるぐるしていって起き上がる。盆には茶菓子も乗っていた。よく分からないけど銘菓なのだろう。
我转来转去,眼睛都快晕了,于是朝坐垫那边转去,站了起来。托盘上也放着茶点。虽然不太明白,但应该是名产吧。
「食べちゃおー」 「吃掉吧——」
まだお茶を注いでくれてる途中だったが、パクっと一口味見する。
我还在倒茶的过程中,但还是咬了一口尝尝。
「あっこら、もうすぐ晩御飯だってば」 “喂,快要晚饭了!”
お母さんみたいなお小言が飛んできた。 像妈妈一样的唠叨传来了。
「へーきへーき、こういうお菓子はお風呂の前に疲れが……なんとかかんとかだから今食べるのが正解なんだよ!」
“没事没事,这种点心在洗澡前吃正好可以缓解疲劳……所以现在吃是对的!”
「旅してきて疲れてる人の血糖値は下がってることがあって、そのまま入浴するとさらに下がって低血糖になるリスクがあるから、疲れを癒しつつ血糖値を上げるためのお菓子だよ」
“旅行疲惫的人血糖值可能会下降,如果直接洗澡,血糖值会进一步降低,增加低血糖的风险,所以这是在缓解疲劳的同时提高血糖值的点心。”
「ん〜それそれ」 「嗯~就是这个」
「ったく適当なんだから。まふゆはどっかで読んだの」
「真是随便啊。真冬是在某个地方看到的。」
「こないだテレビで言ってた」 “前几天在电视上说的”
「あ、それって今回旅行企画する発端になったってやつ?」
“哦,那就是这次旅行企划的起因吗?”
「そう」 “是的”
「んで、そのお風呂はどうするの? 私はいつでもいいけど」
“那么,那个澡要怎么处理呢?我什么时候都可以。”
「ボクも」 “我也是”
「うちは晩ごはん終わってから入ることが多いかな」 “我们家通常是在晚饭结束后才会进去。”
奏もいつの間にか起き上がってお茶をすすっていた。地道な買い物活動の成果か、さほど疲れは見えず、元気そうなのは何よりだ。
奏不知不觉地起身喝起了茶。或许是踏实的购物活动的成果,她看起来并不太疲惫,精神状态很好,这点最重要。
「ボクは……わりと気分かも。絵名は深夜派だよね」 “我……可能是个比较随性的人。绘名是深夜派吧。”
「別に派閥じゃないけど。いろいろやってたら遅くなっちゃうことが多いだけ」
“并不是派系,只是做了很多事情,结果总是拖得很晚。”
「夜型なだけかー」 “只是夜型而已吗——”
夕食まで二時間弱。もうすぐ日も沈むし、いまから観光に繰り出すのは時間が厳しそうだった。かといって何もせず過ごすには少し長過ぎる。
夕食还有不到两个小时。天快要黑了,现在出去观光时间似乎有些紧张。不过,要什么都不做又觉得时间有点长。
海に没する夕日を見ながら露天風呂に浸かるのはとても魅力的に思えるけど、じゅんばんこで入ってたら途中で夜になりそうだ。
看着沉入海中的夕阳泡在露天温泉里,确实很有魅力,但如果轮流泡的话,可能会在中途就变成夜晚。
宿で、おふろで、となると考えるべきことがたくさんありそうだけど、ありすぎて、めんどっちくなる。話して決めよう。うん。
在旅馆里,洗澡的时候,似乎有很多事情需要考虑,但太多了,反而让人觉得麻烦。还是聊聊决定吧。嗯。
「今お風呂からも見晴らしいいと思うけど、誰か入りたいひといる?」
「现在我觉得从浴室里看出去也很不错,有人想进来吗?」
めいめい大きく開けた窓に目を向けたものの、思ったより反応は薄かった。
每个人都朝着大开的窗户看去,但反应比想象中要淡薄。
「瑞希入りたかったらいいよ。私は写真撮ってようかな。資料にもなりそうだし」
「如果瑞希想进来就可以。我想拍些照片。也许会成为资料。」
奏とまふゆもうんうんと小さく頷いている。あっけなく一番風呂の栄誉がボクのところにすとんと落ちてきた。
奏和まふゆ小声点头。没想到一番风呂的荣誉就这样轻易地落到了我身上。
「そ……そう? じゃ、お言葉に甘えて」 “是……是吗?那,我就恭敬不如从命了。”
なんかすぐ決まっちゃった。いいならさっと入っちゃおう。
好像很快就决定了。如果可以的话,就赶快进去吧。
カバンの一番奥に寝ていたお風呂セットを引っ張りだし、小脇に抱えて洗面所に向かう。脱衣所を兼ねた洗面所も立派に広い。シンクの左右に十分なゆとりがあって使いやすい。トイレが分かれているので、気兼ねなくゆっくりできそうだ。
我从包的最里面拉出洗澡用品,夹在腋下朝洗手间走去。洗手间兼更衣室也非常宽敞。水槽左右都有足够的空间,使用起来很方便。厕所是分开的,所以可以毫无顾虑地慢慢享受。
鍵を確認し、服を脱ぎ始める。恥ずかしいけど、その原因の大半はベランダまですこーんと丸見えなことの方にあるみたいだった。まだ明るい中、大きなガラス張りの窓の後ろで一糸まとわぬ姿になるのは、外からそうそう見えないとわかっていても羞恥心がすごい。
确认了钥匙,开始脱衣服。虽然很害羞,但大部分原因似乎是阳台上完全暴露的缘故。尽管知道在外面不容易看到,但在明亮的光线下,在大玻璃窗后面赤裸裸的样子,还是让人感到非常羞耻。
「やべ……」 「糟糕……」
浴衣を持ってくるのを忘れていた。 我忘记带浴衣了。
バスタオルは浴場にあったが浴衣は部屋の押し入れだった。さっき教えてもらったのに。あやうくパンイチでみんなの前に登場するところだった。
浴巾在浴室里,但浴衣在房间的壁橱里。刚才才被告知。差点就要穿着内裤出现在大家面前了。
めんどくさいけど畳んだ服をもう一度一枚づつ身につける。靴下やカーディガンはスキップスキップ。
麻烦的是,我又一次把叠好的衣服一件一件穿上。袜子和开衫就跳过不穿。
「あれ、どうしたの」 “怎么了?”
「浴衣忘れちゃった」 「我忘记带浴衣了」
はは……と笑っているとちょうど近くでスマホを構えていた絵名が取ってくれた。
哈哈……正笑着的时候,正好在附近用手机拍照的绘名帮我拍了。
そそくさと戻って数十秒前に着たものをもう一回脱ぐ。シャンプーやらクレンジングやら乳液やらがちゃんと整ってるのを確認し、今度こそ飛びこむ。うおお。
匆匆忙忙地回去,再次脱掉几分钟前穿上的东西。确认洗发水、卸妆液和乳液都准备妥当,这次终于跳了进去。哇哦。
洗い場は室内で、湯船が外にある。一通り身体を洗って、日の落ちないうちに湯船に急ぐ。
洗澡的地方在室内,浴缸在外面。洗完身体后,我急忙在天还没黑之前去浴缸。
海風に混ざって夜の匂いがし始めていた。 海风中开始混合着夜晚的气息。
眺望を売りにしているだけあり、湯船にずぶんと沈んでも綺麗に水平線が見渡せる。日光は薄くかかった雲を照らし出しながら、一歩また一歩と空を宵闇に明け渡していた。
眺望是这里的卖点,即使浸泡在温泉中,也能清晰地看到美丽的地平线。阳光照耀着薄薄的云层,一步又一步地将天空交给了夜幕。
きっと反対側も綺麗なんだろう。一面の茜空の端から薄紫に染まった空を想像する。ざーんという波の音が秒針のように規則正しく、地球をコチコチ回している。
一定对面也很美吧。我想象着从一片绯红的天空边缘染上淡紫色的天空。海浪的声音像秒针一样有规律地“咕咕”作响,地球在不停地转动。
ボクたちの街並みにかき消される夕日に比べて、儚くなりつつも威厳を保って海に去る様はずいぶん頼もしく見える。町をまるごと飲み込んで、明日に連れて行ってくれそうな力強さをたたえている。
与被我们城市的街景所掩盖的夕阳相比,逐渐变得虚幻却依然保持威严的海面,显得格外令人振奋。它仿佛拥有吞噬整个城镇、将我们带向明天的强大力量。
お湯はやや熱く、頭が風に吹かれると気持ちがいい。暑くなってきたら少し足を伸びしておなかを晒すと、たちまち熱が奪われる。行ったり来たりを繰り返してちょうど居心地がいい、やじろべえみたいな安定だった。
热水有些烫,当头部被风吹拂时,感觉非常舒适。天气变热时,稍微伸展一下腿,露出肚子,立刻就能感到热量被带走。来来回回的动作让人感到恰到好处,像是摇摆木偶一样的稳定。
「よし」 “好”
水平線にはわずかに燭光が残るのみとなった。意を決して湯から上がる。ポカポカにあったまっていても、全身を撫でる風は一気に濡れた手足の熱を奪い、神経を一瞬で縮み上がらせる。わずか数歩を小走りで戻る。
水平线上仅剩微弱的烛光。我下定决心从温泉中站起。虽然身体暖洋洋的,但迎面而来的风却瞬间夺走了湿漉漉的手脚的热量,让神经瞬间收缩。我小跑着走回去,仅仅几步。
髪をほどいて洗い、メイクも落として、もう一度全身を丁寧に洗う。初めての浴室で自分の体を撫で回してみるとやっぱり変な感じだ。最も身近な自分の体と、全く知らない空間がすぐ近くで重なり合って、非日常が形をなしたみたい。
把头发解开洗净,卸掉妆容,再一次仔细地洗全身。在这个陌生的浴室里,轻轻抚摸自己的身体,果然感觉很奇怪。最亲近的自己的身体与完全陌生的空间在眼前交织在一起,仿佛非日常的形态在此形成。
でも頭をもたげていた漠然とした不安はやっぱり全部杞憂だった。伸び伸び大胆にお風呂を後にする。
但是心中隐隐升起的模糊不安果然都是多余的担忧。我们放松大胆地离开了浴室。
スキンケアが終わる頃にはアフターグローも消えていた。真っ暗な海は想像もできない本物の黒を湛えていて、高いところに立ったみたいに足がすくむ。慌てて目を逸らし、皆のところに戻る。
护肤结束时,肌肤的光泽也消失了。漆黑的海洋散发着无法想象的真实黑色,仿佛站在高处一样让我感到腿软。我慌忙移开视线,回到大家身边。
「お先にいただきましたん」 「我先吃了哦」
部屋に戻ってもまだ体が芯から熱く、汗が滲みそうだ。くたりと柔らかい浴衣の生地が心地いい。
回到房间后,身体仍然从内到外热得发烫,汗水似乎要渗出来。柔软的浴衣布料让人感到舒适。
「いいお湯だったね」 “水真不错呢”
先制攻撃みたいに奏に言われる。一目瞭然だもんね。 先制攻击似乎被奏说了出来。显而易见嘛。
「うん、とっても。誰か入る?」 “嗯,非常好。有人要进来吗?”
バトンタッチするなら早めに洗面所を空けようと髪を乾かさないで出てきた。ご飯の時間まではまだ数十分あるから、あと一人は行けそうだ。
如果要交接的话,就早点把洗手间腾出来,我没把头发吹干就出来了。距离吃饭时间还有几十分钟,应该还能再去一个人。
「じゃあ私入るね」 “那我进去了哦。”
ボクがいない間に打ち合わせが済んでいたらしい。まふゆと奏は習慣どおり夜ご飯の後に入ることにしたのだろう。
在我不在的时候,似乎已经开完了会议。まふゆ和奏按照惯例决定在晚饭后去泡温泉。
「あ、ドライヤーだけ取っていい? どっか邪魔になんなそうなところでするから」
“啊,我可以拿一下吹风机吗?我会在一个不碍事的地方用。”
「うん。あそうだ、シャンプー借りるね」 “嗯。对了,我借一下洗发水。”
「一揃い出しっぱなしにしてあるからなんでも使って」
“因为一整套都放着,所以随便用吧。”
「ほんとだ、ありがと。たすかる~」 “真的,谢谢你。太帮忙了~”
広縁に腰を落ち着け、ドライヤーをかけはじめる。奏とまふゆはなにか作業でもしているのか、ほぼ無言だ。ボクもスマホを眺めながら髪を丁寧に乾かしていく。
我坐在宽敞的阳台上,开始吹干头发。奏和まふゆ似乎在忙着什么,几乎没有说话。我一边看着手机,一边仔细地把头发吹干。
ドライヤーの手を休めると、静まった部屋にシャワーの水音がひとり反響する。
当我停下吹风机的手,静谧的房间里只有淋浴的水声在回响。
音しか聞こえないからむしろ、細かく想像してしまう。そこに水が跳ね上がるだけのしっかりしたボリュームがあるって事実が刃のように目前に突きつけられる。壁一枚隔てた先で絵名がボクがさっきまで使っていたお風呂に入っていて、その肢体を水がしゃらしゃらと流れるさまを思い描いてしまう。
音只听得见,反而让我更加细致地想象。水花溅起的那一刻,强烈的音量如刀刃般刺入眼前的事实。隔着一面墙,绘名正在我刚才用过的浴缸里洗澡,水流轻轻滑过她的身体,这一幕不禁浮现在脑海中。
すごくいけないことをしてる気がして、慌ててドライヤーに戻る。轟音でシャワーをかき消し、自分の毛先の状態にでも無理に注意を向ける。う〜んこのへんぱさついてるな、なんてわざわざ声を出さんばかりに。
我感觉自己在做一件非常不好的事情,慌忙回到吹风机旁。用轰鸣的声音掩盖淋浴的水声,强迫自己注意到发梢的状态。嗯,这里有点毛躁,简直快要忍不住出声了。
友達の、そういうのを勝手に想像するのはいけないことだ。小学生の頃、初めてハダカを意識したときみたいに、ポッと頭の中が恥ずかしさでいっぱいになる。悪いって自覚はあるのに、自分でもなんでなのかわからなくて、開けてはいけない箱を開けてしまったみたいに怖い。できるだけ他のことを考えようとすればするほど、ぜんまいじかけの車みたいにしゅるしゅる戻っていく。
朋友们,随意想象这样的事情是不好的。就像小学时第一次意识到裸体时一样,脑海中瞬间充满了羞耻感。明知道这样不好,却又不明白为什么,仿佛打开了不该打开的盒子一样令人害怕。越是想尽量去想其他事情,就越像发条玩具车一样,咕噜咕噜地回到原点。
一人では手に負えず、奏に助けを求める。なんでもいい。とにかくお話して意識を絵名から引き剥がす。
一个人无法应对,向奏求助。无论是什么。总之,聊聊天,把意识从绘名身上拉开。
「奏もよかったらシャンプーつかってみてよ。いっぱい持ってきたから」
“如果奏你愿意的话,可以试试我的洗发水。我带了很多过来。”
「ありがとう」 谢谢
「備え付けのやつよりはいいと思うし。奏のサラサラヘアーがサラサラサラサラヘアーくらいになっちゃうかも!」
“我觉得比配备的那个要好。奏的顺滑长发可能会变得更加顺滑!”
「あはは、髪長いからたくさん要ると思うけど、足りるかな」
“哈哈,头发长所以需要很多,但够吗?”
「うん、容器にパンパンに持ってきたから。よかったらまふゆも使ってみて」
“嗯,我把它装得满满的。如果你愿意的话,まふゆ也可以试试。”
「わかった」 “我明白了”
「奏んちは普段どんなの使ってるの?」 “奏家平时用的是什么?”
「えっと、なんだっけ」 “呃,那个是什么来着”
奏がまふゆに視線で助けを求めると、まふゆはよくCMをやってるブランド名を口にした。どこのドラッグストアにも量販店にも置いてあるポピュラーなやつだ。
奏向まふゆ投去求助的目光,まふゆ则提到了一个经常出现在广告中的品牌名。这个品牌在任何药妆店和量贩店都能找到,是个非常受欢迎的选择。
「それでそんなに髪つやつやなの……絵名が聞いたら怒り出すよ」
“所以你的头发这么光亮……如果绘名听到一定会生气的。”
「はは……お母さんもわたしみたいな綺麗な髪してた記憶あるから、遺伝かな」
“哈哈……我记得妈妈也有像我一样漂亮的头发,可能是遗传吧。”
「へぇ〜、やっぱり持って生まれたものかぁ。うらやましい」
“嘿,果然是天生的啊。真让人羡慕。”
奏から家族の話を聞くのは久しぶりだった。 听奏讲家里的事已经很久了。
ボクも髪質が悪いわけじゃないけど、伸ばすと少しクセが出てくる。ふだんは巻いてるし纏めてるし、これはこれで大好きだけど、清楚で軽やかなストレートには誰だって憧れてしまう。
我并不是说我的发质不好,但长长了就会有一点卷曲。平时我都是卷着和扎起来的,这样也很喜欢,但谁不向往那种清爽轻盈的直发呢。
ふと会話が途切れてみると、シャワーの音は止んでいた。こんどは部屋がしんと静まりかえるが、ニーゴのみんなといるときの静寂は雪の朝みたいで好きな静けさだ。
忽然间,谈话中断,淋浴的声音也停止了。这时房间里变得寂静无声,但和妮戈的大家在一起时,这种宁静就像雪天的早晨,我喜欢这种安静。
それでも気を抜くと艶めかしい印象がコンニチハと顔をのぞかせるので油断できない。性的なものというより、それはまるで神秘で……いや、やめよう。この扉を開けてしまうと、戻れなくなる。とにかく、今はまずい。
即便如此,一旦放松警惕,那种妩媚的印象便会悄然浮现,让人无法掉以轻心。与其说是性方面的东西,不如说那是一种神秘……不,还是算了。如果打开了这扇门,就再也无法回头。总之,现在可不行。
ちょうど絵名がお風呂から上がったころ、仲居さんが夕食の準備ができましたと告げに来た。
正当绘名刚从浴室出来时,服务员来告诉我们晚餐准备好了。
一人お風呂にいるけどすぐ来ますからと食卓の準備をしてもらう。
我一个人在浴室,但很快就会过来,请你们准备好餐桌。
ドライヤーしてる絵名にご飯来るよーと叫ぶとすぐに出てきた。頭がいつもよりへたっとしている。
我大喊一声“饭来了”,正在用吹风机的绘名立刻跑了出来。她的头发比平时显得更加蓬松。
「まだ乾いてなくない?それ」 “还没有干吧?那个。”
「乾いた乾いた」 「干燥得很干燥」
まだ水分を含んだ髪はいつもより茶色が濃く、電灯の光を受けてつやつやしていた。
还带着水分的头发比平时更深的棕色,在灯光下闪闪发光。
「いや乾いてないでしょ……ボクが乾かしちゃうぞ〜?」
“不会干的吧……我来让你干燥哦〜?”
「やった! お得じゃん。ラッキー」 “太好了!真划算。运气真好。”
「え、マジ……?」 “诶,真的吗……?”
「自分で言っといてめんどくさいとかなしだからね」 “自己说了又觉得麻烦,真是没办法呢。”
まだ用意が整うまでは時間がありそうで、せっかくだし洗面所にひっぱっていく。狭いところで二人きりになるのはさすがに憚られて、ドアは開けっ放しにしておいた。
似乎还有一些时间才能准备好,既然如此,就把她拉到洗手间去。在狭小的空间里只有我们两个人,实在有些不便,所以我把门开着。
「むこうむいて〜」 「转过身去〜」
リンやレンよりは一回り大きく、頭のてっぺんは目線より高い。ほんの少しの違いだけど、関係性がまるっきり違って感じられる。
比起リン和レン,我要大一圈,头顶的高度超过了视线。虽然只有一点点的差别,但关系却感觉完全不同。
髪をいじくりまわすことはちょくちょくあるけど、他人の髪を乾かす経験はなく、どうも左手がうまく動かない。角度がしっくりこないのだ。ドライヤーをつかんだ右手をぐるぐる動かし、とりあえず表面の水分を飛ばしていく。
我时常会摆弄自己的头发,但从来没有给别人吹干头发的经验,左手总是动得不太顺利。角度总是对不上。握着吹风机的右手不停地转动,先把表面的水分吹干。
グオオオとドライヤーがうなり髪をなびかせると、ボクと同じにおいが香る。あたりまえだけど。甘すっぱいものを食べたみたいに、のどの奥がきゅってする。
当吹风机发出轰鸣声,头发随之飘动时,弥漫着与我相同的气息。这是理所当然的。就像吃了酸甜的东西一样,喉咙深处感到一阵紧缩。
「シャンプーどうだった?」 “洗发水怎么样?”
「なに??」 “什么??”
「シャンプー!」 “洗发水!”
ドライヤーがうるさくて、会話もままならない。うるさいばかりであんまり乾かないなとは自分でやった時も思っていた。絵名が途中でやめる気持ちもわからなくはない。
吹风机太吵了,根本无法进行对话。我自己用的时候也觉得光吵闹而不怎么干。对于绘名中途停下来的心情,我也能理解。
「んーー、ふつう!」 “嗯——,普通!”
大声で普通を宣言される。貸してもらったからとか忖度しないところが小気味よい。
大声宣告普通。因为借给我而不顾忌的地方让人感到舒畅。
「ふつうのシャンプーだからね」 “因为是普通的洗发水嘛”
「でも悪くなかったよ。指通りもいいし」 “不过也不错呢。手感很好。”
比較的乾いている横髪をくるくると指で遊んでいる。 比较干燥的横发被我用手指卷来卷去。
「どういたしまして」 不客气
あっちこっちからガーガーしてるうちにお膳が四つ準備されていた。固形燃料に火がついて、こっちにもおいしそうな匂いがただよってくる。そろそろ準備良さそうだ。
四周传来嘎嘎的声音,四个餐桌已经准备好了。固体燃料点燃了,这边也飘来了美味的香味。准备差不多好了。
「そろそろ行こっか」 “我们差不多该走了。”
絵名はやっぱりご飯が気になって仕方ないらしい。 绘名果然还是对饭菜念念不忘。
いまだ乾いているか湿っているかでいけば、誰に聞いても湿っていると答えるありさまだけどまあいいか。絵名はもともと気にしてないみたいだし。仲良くならんで部屋に戻る。
如果问起来是干的还是湿的,谁都会回答湿的,虽然情况就是这样,但也没关系。看来绘名本来就不在意。我们并肩走回房间。
のんびりお茶を飲んだテーブルが華やかな食卓に早変わりしていた。どれひとつ取ってもきらきら輝いている。色合いも盛り付けも上品で可憐。ジュエリーボックスのようだ。
悠闲地喝着茶的桌子瞬间变成了华丽的餐桌。每一样都闪闪发光。色彩和摆盘都优雅而可爱。就像一个珠宝盒。
ひとつひとつメニューの紹介をしてくれるが、なにせ品数が多いし、調理やソースも趣向が凝らされている。あまり耳にしない食材もあって、半分も理解できなかった。きっとまふゆが覚えていてくれるだろう。なにより早く食べたくて、のんびり話を聞いている場合じゃない。だくだくとよだれがあふれてくる。
每一道菜的介绍都很详细,但菜品实在太多,烹饪和酱汁也都别出心裁。有些食材我从未听说过,根本无法理解一半。一定是まふゆ会记住这些。最重要的是我迫不及待想吃,根本没时间慢慢听他们讲。口水止不住地流下来。
最後に小鍋の食べ方を教えてもらって、説明が終わった。いそいでいただきますをして、さっそく箸を伸ばす。どれから食べるか迷う余裕もなく、目を惹いたものをかたっぱしから口に運んだ。
最后教我怎么吃小锅,说明结束了。我急忙说了声“开动”,立刻伸出筷子。根本没有时间犹豫该从哪儿开始吃,眼前吸引我的东西我一个个都往嘴里送。
二口か三口で食べきれてしまうものがほとんどだが、なにせ数が多い。口に入れるたびに瑞々しい喜びが広がり、後に残らずサッと消えていく。一口ではっきり素材の味わいが分かるのに、次に別のものを口に入れても喧嘩しない。良い素材と味付けの妙が合わさっての技だと想像がついた。
大多数的食物只需两三口就能吃完,但数量实在太多。每当放入口中,清新的喜悦便在舌尖绽放,随即又悄然消散。虽然一口就能清晰地品尝到食材的味道,但接着再吃其他的东西也不会互相冲突。我想这正是优质食材与调味的巧妙结合所带来的技艺。
全員が喋るのも忘れて黙々と箸を動かしている。目で楽しみ、香りを楽しみ、味と触感を楽しむという食事の極意なのだ。他のことに気をやる余裕などなかった。半分くらいたいらげて、炊き込みご飯に手を伸ばしはじめたところでやっと絵名が口を開いた。
全员都忘记了说话,默默地动着筷子。用眼睛享受,用香气享受,用味道和触感享受,这就是用餐的精髓。没有余裕去关注其他事情。大约吃了一半,刚开始伸手去拿炊饭的时候,绘名终于开口了。
「思ってたのとけっこう違ったかも。蟹!とかいくら!とかじゃなくて、いろんなのがあるんだね。やっぱり魚介類が多いけど」
“我想的和实际有点不一样呢。不是蟹!或者鲑鱼!而是有很多种类呢。果然海鲜还是很多的。”
「そうそう、いかにもって感じなのはお刺身くらいで、いくらはちょこんって乗ってるだけだったしね」
“没错,感觉最明显的就是刺身,鱼子酱只是小小地放在上面而已。”
「でも干物はやっぱり出たね」 “不过干物果然还是出现了呢。”
来る途中の干物街を思い出してみんな笑う。小さめの切り身で、たしかカマスと言っていた。好き放題言っていても、やっぱり口にすれば味がぎゅっと引き締まっていて、おいしい。
来时路上的干物街让大家都笑了。小小的切片,确实是叫做鲐鱼。虽然大家随意说着,但一入口,味道却是紧致而美味。
「まふゆはどう?」 「まふゆ怎么样?」
「味はやっぱりよくわからないけど……すごく、一生懸命な感じがする。きれいだし、頑張って作ったんだろうなっていうのは、伝わってくる」
“味道我还是不太明白……不过,感觉非常用心。很漂亮,能感受到是努力制作出来的。”
「うんうん、だよね~。ただ美味しいだけじゃなくて、特別!って感じがするの、いいな」
“嗯嗯,是啊~。不仅仅好吃,还有种特别的感觉,真不错!”
「楽しんでくれて、よかった」 “能享受真是太好了”
奏がにこにこしている。奏の笑顔にはこっちまでほっとするような不思議な魅力があった。冷静になるとこっ恥ずかしいことを言った気もするが、こうして受け止められると気にもならない。
奏正笑得灿烂。奏的笑容有一种让人感到安心的奇妙魅力。冷静下来想想,似乎说了一些让人害羞的话,但在这样的接受下,反而不再在意了。
「うん。奏も絵名も、企画ありがとう」 “嗯。奏和绘名,感谢你们的策划。”
「ほんと、みんなで来られてよかったな」 “真是太好了,大家能一起过来。”
「んふふふ、また卒業旅行とかしちゃう?」 “嗯呵呵呵,又要去毕业旅行了吗?”
「瑞希は卒業じゃないでしょうが」 「瑞希还没有毕业吧」
「えぇ~いいじゃん、卒業の予行演習ってことで」 “哎~没关系嘛,就当是毕业的预演吧。”
「最悪留年で卒業が一年先になるかもしんないんだから、危機感持ちなさいよ」
“最糟糕的情况是留级,毕业可能要推迟一年,所以要有危机感。”
「それ言ったら絵名だって……」 “要是这么说的话,绘名也是……”
「なによ」 “什么啊”
絵名がやんのかとばかりにジト目を向けてくる 绘名用一种似乎在问“你要干什么”的眼神盯着我
「いやぁ、なんでも~」 “哎呀,什么都~”
ボクでも踏み込む勇気はなかった。言われたとおり頑張ればなんとかなる進級と違って、実力も運も求められる受験は冗談にならない。詳しいスケジュールは知らないけれど、早いところではもう試験まで一ヶ月を切っていて、どうしても敏感な空気がある。
我也没有勇气去踏出那一步。与其说努力就能顺利升级的情况不同,考试需要实力和运气,这可不是开玩笑。我不知道详细的日程安排,但有些地方的考试已经不到一个月了,空气中总是弥漫着紧张的气息。
「卒業旅行、笑顔で行けるといいね」 “毕业旅行,希望能带着笑容去。”
「ちょっと、まふゆ! ボクが言わなかったのに!」 “等一下,まふゆ!明明是我没说的!”
「あんたも受験生でしょうが~~!」 “你也是考生吧~~!”
一回盛り上がり始めると歯止めが効かない。絵名とまふゆの戦いが収まる頃にはたくさん並んでいたお料理もぺろりとたいらげていた。
一旦开始热闹起来就停不下来了。当绘名和まふゆ的争斗平息时,原本摆了一桌的菜肴也被一扫而空。
仲居さんが食器を下げ、食後のお茶も入れてくれる。ずいぶん楽しそうで、と言われたのでうるさくしてごめんなさいと謝ったら、隣は今日お客さんがなく、他の部屋は離れているから大丈夫と教えてくれた。
仲居小姐收拾了餐具,还为我们泡了饭后茶。因为被说得很开心,我道歉说抱歉打扰了她,她告诉我旁边今天没有客人,其他房间也很远,所以没关系。
布団を敷いてもらうあいだ、お腹いっぱいで部屋のすみでぐでっとしていた。まふゆだけがお風呂の準備に立ち動いている。
在铺好被褥的期间,我肚子饱饱地在房间的角落里懒洋洋地待着。只有まふゆ在忙着准备洗澡。
「ボクここ~」 “我在这里~”
見事な手際であっというまに完成した布団にダイブする。
我毫不犹豫地跳进了迅速完成的被褥中。
思えば布団で寝るのも久し振りだ。目の前に畳の匂いがする。倒れ込んでしまえばベッドと大差ないが、やはり気持ち床の硬さが突き抜けてくる。
思えば,躺在被子里睡觉也已经很久了。眼前弥漫着榻榻米的气息。虽然一倒下去和床没什么区别,但果然还是能感受到地板的硬度透过来。
「こーら、食べてすぐ寝ないの」 “喂,吃完就不要马上睡觉。”
はーいと生返事をするが、お布団の魅力には抗えない。特にすることもなく、ずぶずぶと潜って、手だけ出してスマホをいじる。自堕落の典型みたいな格好だった。
好的,我回应了一声,但无法抗拒被子带来的魅力。没有特别的事情可做,我就沉沉地钻进去,只伸出手来玩手机。看起来简直就是自堕落的典型。
真似したのか誘惑に負けたのか、絵名も隣で布団に入っていた。
真似了还是被诱惑所动,绘名也躺在旁边的被窝里。
「あ、充電しなきゃ」 “啊,我得充电了。”
まだいけるけど、明日一日は無理そうだ。知らないところで電池切れになったら困るだろうし。
还可以,但明天一天似乎不行。如果在陌生的地方电池没电就麻烦了。
「絵名、充電器取って」 「绘名,拿一下充电器」
「は? 瑞希の充電器がどこにあるかなんて知らないけど」
“哈?我不知道瑞希的充电器在哪里。”
「荷物のなか」 「行李之中」
「そんなんじゃ分かんないってば。ってか瑞希の荷物、そっちのほうが近いじゃん」
“这样我可不明白。话说回来,瑞希的行李,那边更近吧。”
「めんどくさいんだもん~」 “真麻烦啊~”
「だから寝ちゃだめって言ったのに」 “我不是说过不能睡觉吗?”
「絵名もでしょ~」 「絵名也是啊~」
くだらない言い争いをしてると、奏がわざわざ立ち上がってボクのカバンを二つとも足元にひっぱってきてくれた。
当我们在争论一些无聊的事情时,奏特意站起来把我的两个包都拉到了我的脚边。
「わっ奏! わざわざごめんね!」 “哇,奏!特意来这里真是不好意思!”
「ううん、わたしが一番近かったし」 “不是的,我离得最近。”
「もう瑞希、奏のことこき使うなんて許せない!」 “真是的,瑞希,居然让奏干活,太过分了!”
「なんにもしてない絵名に怒られるのおかしくない……? でも奏、ありがと~」
“什么都没做的绘名被骂不是很奇怪吗……?不过奏,谢谢你~”
「これくらいなんでもないよ」 “这没什么大不了的。”
配達されたダッフルバッグからスマホの充電器を引っ張り出す。柱についたコンセントからはちょっと遠かったが、延長コードも準備していたのでちゃんと枕元まで届いた。
从送达的旅行袋中拉出手机充电器。虽然离柱子上的插座有点远,但我准备了延长线,所以充电器顺利地到了床头。
「延長持ってきてるの、準備いいじゃん!」 “你带来了延长线,准备得真好!”
「これもお姉ちゃんが教えてくれたんだ。みんなで行くんだったら取り合いになるからあったほうがいいって」
“这也是姐姐教我的。如果大家一起去的话,就会争抢,所以有的话会更好。”
「あはは、たしかに二口しかないもんね。私も借りていい?」
「哈哈,确实只有两口呢。我也可以借一下吗?」
「いいよー。ここに三つ刺せるから、あとひとつは壁のやつ使えばちょうど足りるよね」
“好的。这里可以插三个,剩下一个用墙上的那个就正好够了。”
「ん~快適」 「嗯~舒适」
ふたり並んで布団に潜り、電池の心配もなくなったスマホをいじりつづける。
两人并肩躺在被窝里,继续玩着不再担心电池的手机。
温泉でリフレッシュして、美味しいごはんをたらふく食べて、あったかい布団に潜って、絵に描いたような慰安旅行だった。思ったより疲れていたのか、読んでいた記事がおもしろくなかったせいか、だんだん瞼が重くなってきて、すとんと落ちてしまった。
在温泉中放松身心,吃了丰盛的美食,钻进温暖的被窝,这真是一场如画的慰安旅行。也许是比想象中更疲惫,或者是因为正在阅读的文章不够有趣,渐渐地我的眼皮变得沉重,最终不知不觉地睡着了。
誰かの喋り声で浅い眠りから浮かび上がる。あれ、なんか数が多い。
被某人的说话声唤醒,浮出浅眠。嗯,似乎人挺多的。
「あ、レン……?」 “啊,连……?”
「ごめん、起こしちゃったかな」 对不起,打扰到你了吗?
奏のスマホから飛び出たレンが申し訳無さそうにしていた。
从奏的手机中跳出来的莲显得有些愧疚。
あらためて見るとミクとリンも来ている。 再仔细一看,米库和铃也来了。
「う、ううん、まだ寝るつもりじゃなかったし、だいじょぶだいじょぶ」
“呃,不,我还没打算睡呢,没问题没问题。”
げんきげんきと身を起こして腕を振ってみる。 精神抖擞地坐起身来,挥动着手臂。
奏もまふゆもお風呂を終えているところを見ると、意外と一時間くらい寝入っていたのかもしれない。
看到奏和まふゆ都已经洗完澡了,看来我意外地睡了大约一个小时。
「瑞希ちゃんも浴衣なんだね」 「瑞希也穿着浴衣呢」
「そ、おそろい!」 “是、是一样的!”
誰か自前のパジャマ持ってくるかなと思っていたけど、蓋を開けてみればみんな備え付けの浴衣になっていた。
我本以为会有人带自己的睡衣,但打开一看,大家都穿上了旅馆提供的浴衣。
言われてから、あわてて寝乱れてないか確認する。ほとんど崩れていないが、念の為きゅっと前を寄せる。
被这么一说,我急忙确认了一下自己有没有睡乱。虽然几乎没有崩坏,但还是小心翼翼地把前面拉紧了一下。
「レンたちに旅館のこととか温泉のこと話してたんだ」
“我在跟莲他们聊旅馆和温泉的事。”
奏が教えてくれた。 奏告诉我了。
「もう暗くなっちゃったけど、夕方は窓から海とでっかい夕日が見えてすごかったんだよ~」
“虽然已经变暗了,但傍晚时分从窗户可以看到大海和巨大的夕阳,真是太美了~”
「海、見てみたいな」 「我想看看海。」
「あれ、レンは見たことなかったっけ」 “咦,连之前没见过吗?”
「うん。絵本や写真は見たけど、本物はないんだ」 “嗯。我看过绘本和照片,但是真品还没有。”
たしかにニーゴで海まで来るのははじめてだった。ミクたちが顔を出すのはみんなで何かしている時のほうが多いから、ボクが一人で有明に出かけていてもセカイのみんながその風景を見ることはない。
确实是第一次以ニーゴ的身份来到海边。因为米库她们大多数时候都是在大家一起做什么的时候才会露面,所以即使我一个人去有明,世界上的大家也看不到那种风景。
「じゃあ明日はレンも一緒に回ろうよ、ミクとリンも」
“那明天也一起带上レン吧,还有ミク和リン。”
「うん! 楽しみだな」 “嗯!我很期待呢。”
「わたしは……気が向いたら」 「我……如果有心情的话」
リンはミクの後ろに隠れるようにしてそう言っていたが、絶対気が向くと思う。
琳躲在初音的身后这样说道,但我绝对觉得她会有兴趣。
「浴衣も、奏ちゃんに教えてもらったけど本物は初めて。スッとしてかっこいいね」
“浴衣也是在奏小姐那里学的,但是真正的还是第一次。看起来真是帅气呢。”
「そうだね~。ボクたちあんまり和装してないし。これは寝る用の簡単なやつだけど、お祭とか花火に着ていくカワイ~~のもあるんだよ」
“是啊~。我们穿和服的机会不多呢。这是睡觉用的简单款,不过还有适合节日和烟火的可爱款哦。”
「うん、絵名ちゃんが貸してくれた本に出てた」 “嗯,是绘名小姐借给我的书里提到的。”
少女漫画かなんかだろうか。あんまり教育に悪いやつを見せてないといいけど……
少女漫画之类的吧。希望没让人看到什么太不好的东西……
「もうすぐお正月だし、みんなで着物着るのもいいかも!」
“快到新年了,大家一起穿和服也不错!”
ボクの提案にレンは目を輝かせる。 我的提议让莲的眼睛闪闪发光。
レンに似合う着物、あるかな。かっこいい系か。紋付袴はいかつすぎるし。どんなのがいいかいろいろと思い巡らせていると、ボクもどんどん楽しみになってくる。
レン适合的和服,有吗?是帅气风格吗?纹付袴太过严肃了。想着各种适合的款式,我也越来越期待了。
「ちょっと。盛り上がってるところ悪いんだけど、今年は私たち忙しいんだからね」
“等一下。打扰你们兴致勃勃的气氛,不过今年我们可是很忙的哦。”
「わかってるって。年越しパーティーのかわりに、ちょっとだけ新年のお祝いしようよ」
“我知道的。我们就稍微庆祝一下新年,代替跨年派对吧。”
「まあそれくらいなら。大切な節目だし」 “那也没问题。毕竟是一个重要的节点。”
「そうそう、今年はいっぱいお世話になったし、来年もいーっぱいお世話になるつもりだから、ちゃんと挨拶しとかないと」
“对了,今年受了很多照顾,明年也打算继续受到很多照顾,所以得好好打个招呼。”
「今年以上にお世話すんの……? まあ、私にできることならいいけど」
“今年还要更加照顾我……?嘛,只要是我能做到的事就好。”
「んふふふ、たしかに今年以上はなかなかないかも?」
「嗯呵呵,确实今年可能很难再有这样的机会了?」
いっぱい迷惑をかけて、心配もさせて、いまでも申し訳なさにまみれている。でもいつのまにか、照れくさくはあるものの、ネタにできるくらいには昇華していた。
我给大家带来了很多麻烦,也让大家担心,现在仍然感到非常抱歉。但不知不觉中,虽然有些害羞,但已经升华到可以拿来当作笑料的程度了。
「じゃ、明日の予定も年末年始の予定も決まったし、そろそろ寝ようか」
“那么,明天的计划和年末年始的计划都定下来了,差不多该睡觉了。”
「え、ボクいま起きたとこなんだけど」 “诶,我刚刚起床。”
「でも明日早いんでしょ?奏」 “但是明天很早,对吧?奏”
「そうだね。朝ごはんは別の場所らしいから寝ててもいいけど、チェックアウトが十時だから、絵名にはちょっと早いかも」
“是啊。早餐好像是在别的地方,所以可以继续睡,不过退房是十点,可能对绘名来说有点早。”
「ほらね。だから私は寝まーす」 “你看吧。所以我去睡觉了。”
「絵名ちゃん早くねんねしてえらいですね~。しょうがない、ボクももう一回寝るかぁ」
「绘名小姐真早就睡觉,真了不起呢~。没办法,我也再睡一会儿吧。」
「それじゃあ、みんなおやすみ」 “那么,大家晚安”
めいめい挨拶してミクたちはセカイに帰っていった。 每个人互相打了招呼,米库她们回到了世界。
奏とまふゆも布団に入っている。すぐ布団でごろごろするボクや絵名と違って、この二人が布団に入ったら本気で寝そうな印象がある。
奏和まふゆ也躺在被子里。与我和绘名在被子里打滚不同,这两个人一旦躺下就给人一种真的要睡着的印象。
「ほらほら、電気消すよ」 “快来,关灯了哦”
「はぁーい」 「哈~」
消灯係は絵名せんせいだ。ぱちんとそこだけ古めかしいスイッチを落とすとたちまち真っ暗になる。
消灯的责任由绘名老师承担。她啪的一声按下那只显得有些古老的开关,瞬间四周变得漆黑一片。
「うわ、暗」 「哇,好黑」
絵名が自分の寝床に戻るにもスマホで照らさないと危ないほどだ。
绘名回到自己的床上时,甚至需要用手机照明才安全。
「ボクの足踏まないでよ~~」 “不要踩到我的脚~~”
「えいっ」 「嘿!」
「痛っ!」 “痛!”
「わざわざ言うから、フリかとおもって」 “你特意这么说,我还以为是在开玩笑呢。”
「こんなもの丁寧に拾わなくていいから」 “这种东西不用这么认真地捡起来。”
絵名も無事隣に帰ってきた音がする。ボクも諦めて寝ようとするが、目を閉じていてもいまいち眠くならない。中途半端に寝たせいで、逆に目が冴えてしまった。
絵名也安全地回到了旁边的声音。我也想放弃了准备睡觉,但即使闭上眼睛也总是睡不着。因为半途而废地睡了一会,反而让我更加清醒。
消灯後の話題の定番といえば怖い話か恋バナなんだけど。冬に怖い話というのも格好が付かないし、絵名に本気で叩かれそうだ。
消灯后的话题定番就是恐怖故事或者恋爱八卦了。不过在冬天讲恐怖故事也显得不太合适,可能会被绘名认真地打。
恋バナは、この面子だとぎこちなくなるのが目に見えていた。もう一年近く一緒に住んでいる対面の二人がどんな関係なのか気にせずにはいられないのだけど、二人がなにも言わないってことはきっと何もないのだろう。なにかあればボクたちには言うだろうし、隠し通せるようなタイプにも見えない。絶対曲とか歌詞とか、めっちゃ影響出るでしょ。
恋爱话题在这个面子上显得格外尴尬。已经一起住了一年多的两个人,究竟是什么关系让人无法不去关注,但他们什么都不说,想必是没什么吧。如果有什么,他们肯定会告诉我们,而且看起来也不是那种能隐瞒的人。绝对会对曲子或者歌词产生很大的影响。
まふゆがそんな強い感情を抱く相手は奏以外に想像つかないし、奏に至っては人付き合い自体がだいぶ乏しい。やっぱり全然盛り上がらなそうだ。
まふゆ对除了奏以外的任何人都无法产生如此强烈的情感,而奏本身在人际交往方面也相当匮乏。果然看起来完全不会热闹起来。
ボクにしたって、話せと言われても困り果てる有り様だ。みんな恋バナしよ~、ボクはね、ありません。じゃ示しがつかない。やっぱりこの話題はボツだ。
我也是,被要求说话的时候真是无从下手。大家都想聊恋爱话题~,我嘛,没什么好说的。这样可不行。果然这个话题得放弃。
絵名は、どうなんだろう。一番予想できなかった。定時は人数少ないけどクラスメイトいるし、絵の教室も行ってるし、交友関係はかなり広い。だからといって好きになる人が現れるとは限らないし、やっぱりいまの絵名にとっては絵が一番なんだろうけど、逆に周囲の人の目に留まるのはおおいにありそうだった。絵名、かわいいし。
绘名怎么样呢?这是我最没想到的。虽然定时的人数少,但有同班同学在,还有去美术教室,交友关系相当广泛。不过这并不意味着会出现喜欢的人,毕竟对现在的绘名来说,画画才是最重要的,但反过来,周围的人很可能会注意到她。绘名,真可爱。
親しくなったり、気持ちを伝えられてみれば気にもなるだろう。相手してみたらどうしようもない奴だったと愚痴がこぼれ出てくる可能性も高いが、案外楽しかったなんて感想もなくはない。
亲密起来后,传达了心意,自然会在意对方。如果真的接触了,可能会发现对方是个无可救药的家伙,抱怨也会随之而来,但也不乏意外觉得很有趣的感想。
「なーんて」 “哎呀”
みんなの安眠を邪魔しないくらいの極小声で言う。 我用极小的声音说,尽量不打扰到大家的安眠。
考えてみてもしょうがない。ただ、なんとなく、それ以上考えていたくなかった。訊く気にもあんまりなれなかった。簡単に超えられるちょっとした柵でも、ひとつあるだけでわざわざ乗り越えていこうとは思わない、みたいな。
考虑再多也没有意义。只是,莫名其妙地,我不想再想下去了。也不太想去询问。就像是即使有一个简单的小障碍,存在着一个,我也不会特意去跨越它。
ボクもバイトの話とか、そんなに詳しくするわけじゃないし。まふゆの部活の話もあんまり聞かなかった。
我也没有详细讲打工的事。关于まふゆ的社团活动我也没怎么听。
それこそ恋人でもないんだし、なんでもかんでも共有するってわけじゃない。とにかく一緒に作業している時間が長いから雑談にいろんなことを話すけど、その奥にはそれぞれの世界が何倍も広がっている。それでいい、はず。
这毕竟不是恋人关系,所以并不是所有事情都要分享。总之,因为一起工作的时间很长,所以在闲聊中会谈论各种事情,但在这些话语背后,各自的世界却是无比广阔的。这样就很好,应该是。
にしても。恋バナってなんなんだろうね。共学校の高校生ともなれば月に二回くらいの割合でいろんな噂が飛び交うものだけど、いまいちピンと来ない。アニメやゲームで見てるあれが現実に、ほんとにありえるんだろうか。将来の夢と夜見る夢みたいに、全然違ったものをたまたま同じ名前で呼んでるような疑念が拭えない。
不过,恋爱话题到底是什么呢?作为一名共学校的高中生,差不多每个月都会听到各种各样的传闻,但我总觉得有些不真实。像在动漫和游戏中看到的那些,真的会在现实中发生吗?就像未来的梦想和夜晚的梦,似乎只是偶然用同样的名字称呼着完全不同的东西,这种疑虑让我无法摆脱。
ましてそんなことが自分の身の上に起きるなんて、想像も及ばない。享楽的に生きていたら、たぶんそういうのって無縁なんだ。なくてよかったとすら思う。きっと、ボクにとってはすごく辛いから。なんてね。
更不用说这样的事情会发生在自己身上,简直无法想象。如果过着享乐的生活,或许就与这些无缘了。甚至觉得没发生是件好事。因为对我来说,这一定是非常痛苦的。真是的。
落ち着いた三つの寝息が聞こえていた。やっぱりみんな寝るの早いな。一人だけ眠れないと、ちょっぴり取り残されたように感じる。これも旅行の発見だった。
安静的三种呼吸声在耳边响起。果然大家都睡得很早。只有我一个人无法入睡,感觉有些被遗留下来。这也是旅行中的一种发现。
絵名がおおいびきをかくようなこともなく、スローペースで単調な呼吸同士がわずかにずれてリズムを作る。その合間をとん、とんと確認しているうちに、四つめの寝息を奏で始めた。
绘名没有打呼噜,缓慢而单调的呼吸之间微微错开,形成了一种节奏。在这之间,随着轻轻的确认,第四声寝息开始奏响。
*
目を開けると上に見慣れぬ木目が並んでいて、光の差してくる方向がいつもと逆だった。光の方に答えを求めて、逆光のなか身支度をするまふゆに目の焦点があったころ、ようやく意識がリブートする。
睁开眼睛时,看到上方排列着陌生的木纹,光线照射的方向与往常相反。为了寻找光明的答案,我的目光聚焦在逆光中整理着衣物的まふゆ身上,这时意识终于重启。
「おは……よ」 “早……安”
部屋が乾燥していたのか、喉ががらがらだった。声ががさついて、全然出ていない。こりゃだめだ。しばらく黙っておこう。
房间里很干燥,喉咙沙哑得厉害。声音嘶哑,根本发不出来。这样可不行。还是先沉默一会儿吧。
「おはよう」 早上好
まふゆは着替えもほとんど済ませ、広縁の椅子に座って胸元のリボンを結んでいる。よく見ると制服だった。
まふゆ几乎已经换好衣服,坐在走廊的椅子上系着胸前的丝带。仔细一看,原来是制服。
いきなり女子高生が朝ごはんを食べにきたらまわりがびっくりすると思うけど、まあいいや。コスプレだと思ってもらおう。予備校あるっていってたし、それかな。
如果突然有女高中生来吃早餐,周围的人一定会感到惊讶,不过算了。我就让他们认为这是在 cosplay 吧。她说过有补习班,可能就是那个。
奏は起きてはいるらしいが、まだ布団でもぞもぞしている。絵名は堂々と寝ていた。予想どおりすぎて嬉しくなる。
奏似乎已经醒了,但还在被子里翻来覆去。絵名则是安然入睡。这个情景太符合我的预期,让我感到高兴。
「朝食、あと三十分くらい」 “早餐,还有大约三十分钟。”
ってことは六時半か。ボクもこんなに早く起きることはないので、全身が気だるい。睡眠時間が足りていても、慣れない時間に起きるとうまく動けない。
那就是说六点半了。我也很少这么早起床,所以全身都感到懒散。即使睡眠时间足够,习惯不来的时间起床也会动不了。
身支度をするのは間に合わないが、浴衣のままでもべつにいいらしい。ちゃんとかわいくしたいけど、ねむい。ぐう……
身支度虽然来不及,但穿着浴衣也没关系。想要打扮得可爱一点,但就是困。呼……
次に意識が戻ったとき、スマホには8:53と書いてあった。
当我再次恢复意识时,手机上显示的是 8:53。
あ~~、やらかした。 啊~~,搞砸了。
奏もしっかり起きて、スマホでなにやら作業をしている。今日もジャージだ。昨日とは違うジャージなんだろうか。まふゆはまたも参考書を開いていた。
奏也已经起床,正在用手机忙着什么。今天也穿着运动服。是不是和昨天的运动服不一样呢?まふゆ又打开了参考书。
「朝ごはんは……?」 “早餐是……?”
「たべてきた」 「吃过了」
「奏も?」 「奏也?」
「うん」 嗯
はぁ。天を仰ぐ。十時はハードリミットだ。それまでに喉をうるおして、歯磨きして、洗顔して、着替えて、髪を整えて、メイクして、荷物しまって。考えただけで気が遠くなる。
哈。仰望天空。十点是硬性截止时间。在那之前要润喉、刷牙、洗脸、换衣服、整理头发、化妆、收拾行李。光是想想就让人头晕。
それに絵名と洗面所の取り合いだ。よりによって準備に時間がかかる二人がそろってねぼすけ。いけるか……? ギリ。超ギリ。
而且还是和绘名争洗手间。偏偏准备时间都很长的两个人一起睡过头。能行吗……?勉强。超级勉强。
「絵名、起きて」 「绘名,起床了」
朝は戦場だ。覚悟を決めた。 早晨是战场。我下定了决心。
躊躇したものから倒れる。掛け布団の下からあられもない姿が出てきたとしても、心を鬼にしてひっぺがし、たたき起こさねばならない。
躊躇的东西会倒下。即使从被子下露出了不堪入目的样子,也必须狠下心来把它撕开,狠狠地叫醒。
幸い武力行使に突入する前に事態は収拾できた。弟くんから聞いていたよりはるかに簡単に片が付き、胸を撫で下ろす。
幸好在武力行使之前,事态得以平息。比弟弟告诉我的要简单得多,我松了一口气。
しばらくふわふわしてたが、時間を告げるとやっと観念して身体を起こす努力をし始めた。
我在那儿飘飘然了一会儿,但当时间提醒我时,我终于意识到,开始努力坐起身来。
あとをまふゆに任せ、着替えを持って洗面所に向かう。朝のルーティンを全速力で回す。途中で絵名が来たので選手交代し、その間にアイロンを準備する。
把后面的事情交给まふゆ,我带着换洗衣物朝洗手间走去。全速进行早晨的日常。途中,絵名来了,于是我们换了人,这期间我准备熨斗。
「使って良くなったら言って〜」 “如果用得好就告诉我〜”
「あ、もういいよ」 “啊,没关系了”
絵名がガラッと戸を開けてくれる。 绘名猛地打开了门。
「どもども」 「你好你好」
ちょうどファンデをぬったくってる最中だった。 我正好在涂粉底。
ちょっとよけて場所をつくってもらい、横に並んで髪をやる。隣で忙しげにメイクする気配に、かすかにお姉ちゃんを思い出す。こうしてるときょうだいみたい。言ったら怒るかな。
稍微让一下位置,排成一排做头发。旁边忙着化妆的气息,让我微微想起姐姐。这样的时候就像兄弟姐妹一样。如果说出来的话,她会生气吗。
おっと、雰囲気に浸ってる場合じゃなかった。後ろはどうせ結ぶし適当にばさばさっとして、ボクもメイクにとりかかる。
哦,不,没时间沉浸在气氛中了。后面反正要绑起来,随便弄弄,然后我也开始化妆。
一緒に買いにいってるから、メイクポーチの中身のいくつかはお揃いだったり色違いだったり。あ、これめっちゃ色悩んでたやつだ、なんて思い出す。並んでメイクするの、全然初めてな気がしない。
我们一起去买的,所以化妆包里的几个东西都是一样的或者是不同颜色的。啊,这个是我纠结了很久的颜色,想起了这些。并排化妆,完全没有初次的感觉。
ちらちら時計を見ながら、いくつか工程をスキップし時間内で最良の結果を目指す。
一边时不时地看着钟表,一边跳过几个步骤,力求在时间内取得最佳结果。
残り十分を切ったあたりで絵名が後片付けを始めた。 在剩下不到十分钟的时候,绘名开始收拾残局。
「お先~」 「我先走了~」
意気揚々と去っていく。くそ~。ボクのほうが早起きしたのに。なんなら絵名のこと起こしてあげたのに。
意气风发地离开了。真是的~。明明我起得更早。要不然我还可以叫醒绘名呢。
「今日もカワイイじゃん」 “今天也很可爱呢”
「んふ、でしょ」 “嗯哼,是吧”
素顔もかわいいけどね。似合ってる。大事なことだ。 素颜也很可爱呢。很适合你。这是很重要的事。
ラストスパート、ティントを乗せて、軽くオフして、前髪をぴっぴっとして、片付けつつ全体をチェック。うん、今日もカワイイ。
最后冲刺,涂上唇彩,轻轻卸妆,整理一下刘海,边收拾边检查整体。嗯,今天也很可爱。
「準備、できたーっ!」 “准备好了——!”
奏とまふゆは靴まで履いて準備万端。絵名も沓脱に下りていくところだった。ボクもいそいでポーチをしまい、コートをひっかけて後に続く。
奏和まふゆ已经穿好鞋子,准备得十分充分。绘名也正要下楼脱鞋。我也急忙收好化妆包,挂上外套跟在后面。
受付で鍵を返し、燦々と日の降る外に出る。陽溜りのなかはぎゅっと目をつぶるほどまぶしくて、暖かかった。
在接待处归还钥匙,走到阳光明媚的外面。阳光洒在身上,刺得我紧紧闭上眼睛,温暖而明亮。
「どうする?」 “怎么办?”
「さきに海のほうに行こうか。レンも見たがってたし」
“我们先去海边吧。连也想去看看。”
宿が海寄りで、駅は坂を登っていったほうだ。海沿いを散歩してからゆるゆる戻っていくとちょうどよさそう。
宿舍靠近海边,车站则在上坡的方向。沿着海边散步后慢慢返回,正好合适。
「レンー!」 「伦!」
勝手に奏のスマホに呼びかけると、にゅっと顔を出す。やっぱりリンも来ていた。ルカとミクもいるみたいだ。
胜手地呼唤奏的手机,脸庞突然出现。果然,琳也来了。看来露卡和初音也在。
「ここがあたみ? みんなの住んでるとこと、そんなに変わらないんだね」
“这里是热海吗?大家住的地方,和这里没什么太大区别呢。”
「あはは、住宅地は日本全国似たようなもんだからね。でもあっちの商店街のほうは珍しいお店が結構あるよ。干物やさんとか」
哈哈,住宅区在日本全国都差不多。不过那边的商业街上有不少特别的店铺哦,比如干物店之类的。
「へぇ~、見てみたいな」 “嘿~,我想看看。”
「先に海のほうにいって、後で行こうと思ってるんだけど、どうかな」
“我打算先去海边,之后再去那边,你觉得怎么样?”
「うん、わかった」 “嗯,知道了”
奏が説明してくれている間に、海辺のスポットを検索する。
在奏解释的同时,我搜索海边的景点。
「海沿いを南にいったところに砂浜と公園があるみたいだから、そっちに行ってみない?」
“听说沿海往南有沙滩和公园,要不我们去那边看看?”
「よさそうだね、レンもいいかな」 “听起来不错呢,连也可以吧。”
ホログラムのみんなが頷いている。 全息图中的大家都在点头。
「じゃ、出発しんこー」 “那么,出发吧!”
静かな路地を歩くこと数分、視界が開けて海が見えたものの、交通量が多い道であんまり風情がない。
静静地走了几分钟的小巷,视野突然开阔,海面映入眼帘,但在车流量繁多的道路上,感觉并没有什么情调。
「ここをずっと右に行けばいいみたい」 “好像一直往右走就可以了。”
落ち着いて海を眺めるのはもうすこしおあずけだった。人通りが少ないから油断してミクたちをだしっぱなしにしていたけど、考えてみると車の中の人達が腰を抜かしてた可能性もある。
落ち着いて海を眺めるの是时候再等一等了。因为人流稀少,我有些放松,忘记了让美克她们待在车里,但仔细想想,车里的人们可能已经吓得瘫坐在座位上了。
「このへんが砂浜で、もうちょいむこうが公園だね」 “这边是沙滩,再往前一点就是公园了。”
遮るものはなにもなく、冬でも日焼けが心配になるくらい元気に太陽が照りつけていた。サンビーチの名もかくやである。
遮挡的东西没有,冬天里阳光照耀得让人担心晒黑,阳光照耀得如此强烈。这就是名副其实的阳光海滩。
「うわー、おっきいねえ!」 “哇,真大啊!”
視界いっぱいに薄い青と深い青がただただ続いている。右手には半島の続きが見えるが、正面はほんとになにもない。冬の澄んだ空気のなかに、クルーザーだろうか、小振りの船が数隻ゆらいでいた。
视野中满是浅蓝和深蓝,延绵不绝。右手边可以看到半岛的延续,但正前方真的什么都没有。在冬季清澈的空气中,似乎是游艇,几艘小船在轻轻摇曳。
みんなで砂浜に下りてみたものの、すこし歩くだけで砂が舞い上がって靴に入る。ブーツのボクはまだいいほうで、くるぶしの出ているまふゆと絵名は数歩で断念して戻っていった。
大家一起下到沙滩上,不过走了几步,沙子就飞扬起来,灌进了鞋子里。穿着靴子的我还算好,露出脚踝的まふゆ和绘名走了几步就放弃了,回去了。
「波打ち際までいってみる?」 “要去海浪拍打的地方看看吗?”
レンたちの要望を聞き、ボクのスマホに移ってもらって散歩をつづける。足元がぐらぐらしてヒールが埋まる。アスファルトの何倍も歩きにくくて、たどり着くころには汗がうっすら額に汗をかいていた。
听取了レン他们的要求,我把他们转移到我的手机上,继续散步。脚下摇摇晃晃,鞋跟陷入了地面。比起走在柏油路上,这里难走得多,等我终于到达时,额头上已经微微出汗。
波はとても穏やかなのに、すぐそばまでくると結構音が大きい。規則的なようでいてよく聞くと微妙に外れている。ひとつの波を見ていたつもりが、いつのまにか別の波で上書きされて、またそれも新しい波に巻き込まれ、複雑に絡み合って、溶けていく。油断してると、大きくなった波がすぐ近くまでやってきて、慌てて逃げる。
波浪虽然非常平静,但靠近时声音却相当大。看似有规律,仔细听却又微微偏离。原本只是在看一朵波浪,不知不觉中却被另一朵波浪覆盖,又被新的波浪卷入,复杂交织,逐渐融化。如果放松警惕,突然涌来的大浪就会逼近,让人慌忙逃离。
陸地を歩く三人に合図を送り、並行に海岸線を歩いて行く。真冬のビーチは見渡す限り砂ばかりで、ボクの他には人っ子一人いない。スマホをかかげ、セカイのみんなに景色を見せる。初めて見る砂浜と大海原に、話題は尽きない。一人だけど、独りじゃなかった。
我向在陆地上行走的三人发出信号,沿着海岸线并行走去。真冬的海滩一望无际,只有沙子,除了我之外没有一个人。我举起手机,把风景展示给世界上的大家。初次看到的沙滩和大海,话题源源不断。虽然我一个人,但并不孤单。
この海の先になにがあるか、知識では知っているのに、目で見ても水しかわからない。ひどくあべこべではないか。そんなのがおかしくて、ほんものの自然に触れるのは、結構好きだ。
在这片海的尽头有什么,虽然在知识上知道,但用眼睛看却只看到水。这不是很矛盾吗?这种感觉让我觉得好笑,真正接触自然,我其实挺喜欢的。
半分くらいのところでいきなりコンクリが海に突き出していて、通せんぼされる。しぶしぶコンクリ沿いに戻り、そのまま舗装された道まで戻ってしまった。慣れない砂地はやっぱり疲れる。
半路上突然有混凝土突入海中,挡住了去路。无奈之下只好沿着混凝土返回,最终又回到了铺好的道路上。陌生的沙地果然让人感到疲惫。
公園まで来ると、犬と遊んでいる人やベンチで休んでるカップルがちらほらいた。海に面していて吹きさらしだが、今日は風も穏やかなのでくつろげる丁度いいコンディションだ。
来到公园时,看到有些人在和狗玩耍,还有一些情侣在长椅上休息。公园面向大海,虽然有些风吹拂,但今天的风很温和,正是放松的好时机。
ボクも座って靴のなかの砂を払い、ぼんやりと足を休める。奏とまふゆはミクたちを連れて海縁まで行き、あっちこっちを指差しながら話している。絵名は探検してくると言いのこして反対に行ったとおもったら、すぐに帰ってきた。
我也坐下,拍掉鞋子里的沙子,恍惚地放松双脚。奏和まふゆ带着米库她们走到海边,一边指指点点一边聊天。绘名说要去探险,转身走了过去,没过多久就回来了。
「なんもなかった」 “什么都没有”
「そうなの?」 “是这样吗?”
「ずーっと道、遊歩道?が続いてるだけ。あと駐車場と、この船泊めるとこ」
“只是一直有条路,步道?在延续。还有停车场和这个停船的地方。”
並んで座った右手には数え切れないほどの小型船が係留されている。公園といいつつ、ほとんどは車から船に乗りかえる場所ってことか。まったく想像できないライフスタイルだ。
并排坐着的右手边停泊着数不胜数的小型船只。虽然称之为公园,但几乎都是人们从车上换乘船只的地方。真是无法想象的生活方式。
「なーんだ」 “原来如此”
「遊具もないし」 “没有游乐设施。”
「あったら遊ぶ? ブランコとか、たまにはよくない?」
“要是有的话,去玩一下吗?秋千什么的,偶尔也不错吧?”
「しないけど」 「不做」
しないんかい。 不做吗?
海なんて一分もせずに飽きるかと思ったけど、ずっと眺めていると意外といろいろあっておもしろかった。トンビやカモメが飛んできたと思ったら、沖のほうですーっと船が動いていったり、ときどき海がぎらっと反射したり。寒すぎず暑すぎず、ずっと眺めていられそうだった。
我本以为在海边待上一分钟就会感到厌倦,但仔细看去,意外地发现有很多有趣的事情。看到海鸥和苍鹰飞来飞去,远处的船缓缓驶过,偶尔海面闪烁着耀眼的光芒。天气既不冷也不热,似乎可以一直呆在这里欣赏。
「おなかすいた」 “我饿了”
ぼそっと絵名が言う。 絵名轻声说道。
「あはは、朝食べそこねたもんね」 “哈哈,早上没吃上呢。”
スマホを見るともう十一時をまわっている。そろそろお昼にしてもいい時間だ。
看手机的时候已经超过十一点了。差不多可以吃午饭了。
「もっと早く起こしてよ」 “快点叫我起床。”
「ボクも寝てたんだってば」 “我也在睡觉啊。”
「もっとちゃんとまふゆに頼んどけばよかった」 “要是更早好好地拜托まふゆ就好了。”
「でも絵名、七時に起こされたらねむいって怒ったでしょ」
“但是绘名,如果七点被叫醒的话,你会生气说困吧。”
「……そんなことない、と思うけど……」 “……我觉得不是这样的……”
「いーや、絶対キレてるね。弟くんから聞いて知ってるんだから」
“不会的,绝对生气了。我从弟弟那里听说过。”
「それは、彰人だから……」 “那是因为是彰人……”
「そうかなぁ?」 “是这样吗?”
たしかにボクが起こしたときは暴れはしなかったけど。
确实在我叫醒她的时候,她并没有发脾气。
「もう、ご飯いこ」 “好了,去吃饭吧。”
立ち上がって、奏たちを呼びに行った。 我站起来,去叫奏她们。
「絵名、いきたいところあるの?」 「绘名,有想去的地方吗?」
まふゆが尋ねている。 まふゆ在询问。
「んーん、駅前の商店街で探すので、どう?」 “嗯,怎么样?我们就在车站前的商店街找找吧?”
「いいよ」 “好的”
奏とボクも異論はない。うねうねと続く道を上がり、駅を目指す。ちょうど駅前の商店街の終点側についた。
奏和我也没有异议。我们沿着蜿蜒的道路向上走,朝着车站前进。正好到达了车站前商业街的尽头。
「やっぱり海鮮丼かな」 “果然还是海鲜盖饭吧”
昼前なのに、シャッターを下ろしたままの店が多い。名店街というが、街を名乗るにはすこし寂しい。レンに案内すると言ったけれど、案内するものがない。
虽然还是中午前,但许多店铺都关着门。虽然被称为名店街,但要称之为街道却显得有些冷清。我说要带伦去逛,但其实没有什么好带她去的。
開いているなかで一番よさそうなところの暖簾をくぐる。既に一組お客さんがいて妙に安心する。名物らしい海鮮丼を四人前頼むとすぐに出てきた。
我走过一条看起来最好的暖帘。里面已经有一组客人,让我感到莫名的安心。我们点了四份名物海鲜丼,立刻就上来了。
「ふむふむ」 “嗯嗯”
ふむふむ、といった味だった。ネタは新鮮でしっかり旨味があるし、間違いなく美味しいのだが、昨晩の丹精込めた絶品を思い出すと、ふむふむという反応になってしまう。
嗯嗯,味道就是这样的。食材新鲜,鲜美十足,毫无疑问是美味的,但一想到昨晚那道用心制作的绝品,就不禁发出“嗯嗯”的反应。
絵名がふむふむにツボってずっとふむふむ言っていた。失礼だからやめなって。
绘名一直在“嗯嗯”地笑,真是太搞笑了。别这样,太失礼了。
「おなかいっぱいになった?」 “肚子饱了吗?”
「うん。あとはおみやげかな」 “嗯。还有就是纪念品了。”
絵名の空腹エマージェンシーアラートはひとまず鳴り止んだようだ。
绘名的饥饿紧急警报暂时停止了。
「おみやげ……も、あんまりなさそうだよね」 “纪念品……好像也没什么特别的呢。”
「昨日通った道のほうに戻ってみようか」 “我们要不要回到昨天走过的那条路上去看看?”
「おっ絵名、干物買っちゃう?」 “哎,绘名,要买干物吗?”
「干物はあんまりお土産向きじゃないけど、お菓子屋さんとかもあったじゃん」
“干物虽然不太适合作为土特产,但也有糖果店之类的吧。”
共通の友達も多いから、ある程度レパートリーがほしいところだ。
因为我们有很多共同的朋友,所以希望有一定的曲目。
「駅前……駅ビルかな、ふたつくらい土産物屋さんがあるみたい」
“车站前……是车站大楼吗,似乎有两家土特产店。”
奏がスマホで調べて教えてくれた。 奏在手机上查了资料告诉我。
「じゃあ駅戻ろうか。まふゆ、時間まだ大丈夫?」 “那我们回车站吧。まふゆ,时间还来得及吗?”
「うん。二時くらいまでは」 “嗯。大约到两点左右。”
「まだ余裕あるね」 “还挺从容的呢”
帰りの電車も来たやつに適当に乗ればいいので、楽ちんだった。
回程的电车随便上哪一班都可以,所以很轻松。
海からは空腹に追い立てられるようにして早足で来たが、お腹がふくれると、こんどはのんびりになる。レンたちに人目につかないように覗いてもらいつつ、数少ない開いている店をひやかしながら、ぶらぶら駅に向かう。
从海边匆匆赶来,仿佛是被饥饿驱赶一样,但肚子填饱后,便开始悠闲起来。在让レン他们偷偷观察的同时,边逛边朝着几家开着的店铺走去,慢慢向车站走去。
お土産やさんはいかにもな土産物が並んでいた。静岡って横に長いから、静岡土産っていってもそれは関係ないでしょ、みたいなのも混ざってたりする。うなぎパイとか、こっからだと東京のほうが近い。
土特产商店里摆满了典型的土特产。静冈横向很长,所以说静冈特产,其实也没什么关系,里面还混杂着一些其他地方的东西。比如鳗鱼派,从这里看,东京反而更近。
適当に家族と友人のぶんを買う。自分用にもなにか欲しいなと思ったけど、あんまり良いのがなかった。海辺のきれいな貝がらでも拾ってくればよかった。
随便为家人和朋友买了一些东西。虽然也想为自己买点什么,但似乎没有什么好的。要是捡一些海边漂亮的贝壳就好了。
すぐに用事が済んでしまい、とくに見るところも思いつかずそのまま駅に向かう。
很快事情就办完了,特别没有想到要去看的地方,就直接朝车站走去。
「高崎行き……って東京行くの?」 “高崎去……是去东京吗?”
コンコースの表示を見ていた奏が聞いてきた。 奏看着指示牌问道。
「高崎は群馬。行くよ」 高崎在群马。我们去吧。
「あっ、それこないだアニメで出てきたとこ!」 “啊,那是前几天在动画里出现的地方!”
「それは知らないけど」 “我不知道那个。”
「このまま群馬まで行くんだ。すごいね」 “就这样一直去群马吗?真厉害。”
たしかにすごい。はしっこまで行ったら何時間かかるんだろう。余裕で夜になっていそうだ。
确实很厉害。到达边缘需要多少小时呢?看起来轻松就会变成晚上。
安心して停車していた電車にそのまま乗り込む。来たときと同じ型の車両だ。もう見知ったところに帰ってきてしまったみたいで、名残惜しくなる。慣れ親しんだ発車ベルも、いつもどおりのぷしゅうというドアの音も、いつもより寂しげに聞こえた。
安心地走进停靠的电车。和来时一样的车厢。仿佛回到了熟悉的地方,让人感到依依不舍。熟悉的发车铃声,以及一如既往的“噗嗤”关门声,听起来比平时更加寂寞。
「なーんか、あっというまだったね」 “真是转眼间就过去了呢。”
「そうだね。でもその分のんびりできたかな」 “是啊。不过这样反而能放松一下。”
「企画ありがとね。奏も楽しめたならよかった」 “谢谢你的策划。如果奏也能享受那就太好了。”
「まふゆはどうだった?」 「まふゆ怎么样?」
「うん。よかった」 “嗯。太好了。”
言葉少なに言い切るのは、それだけ強い感情がにじんでいた。
言辞简练地表达出来,正是因为那份强烈的情感在流露。
「ふふ。じゃあよかった」 “呵呵。那么就好。”
乗ってすぐ単語帳を取り出しているのはさすがだった。こんなに頑張って勉強してるなか時間をつくって来てくれて、それでも満足してくれたのなら、やっぱり大成功だ。
上车后立刻拿出单词本,果然不出所料。在这么努力学习的情况下,还特意抽出时间来,若是能因此感到满足,那真是大成功。
絵名は、と見ると、もう窓枠に持たれて目を閉じていた。
绘名一看,已经靠在窗框上闭上了眼睛。
「また来たいね」 “我们还想再来一次呢。”
起こさないように、すこしだけ声を下げる。 为了不吵醒她,我稍微压低了声音。
「だね」 “是啊”
今回はたまたま軍資金も潤沢で、みんなの都合も合ったけど、そうそう行けるものではない。ボク以外は三年生で、高校卒業になる。環境も大きく変わるし、ニーゴの活動じたいどうなるか、まだ分からない。口にはしないけれど、似たような懸念をみんな抱えてる気がする。
这次恰好资金充足,大家的时间也都合适,但这样的机会并不常有。除了我以外,大家都是三年级,马上就要高中毕业了。环境也会发生很大变化,ニーゴ的活动究竟会怎样,仍然不清楚。虽然没有说出来,但我觉得大家心中都抱有类似的担忧。
でもいつかまたこのメンバーで旅行したいと念じておけば、きっといつかは叶いそうだった。
但只要心中想着有一天能和这个成员再次旅行,肯定总有一天会实现。
来たときの順序を逆に辿り、一時間も経てば見知った駅名が現れ始める。
来时的顺序反向追溯,一小时后熟悉的车站名称开始出现。
ガタンゴトンと揺れるたびに旅の終わりが近づいてくる。
每当列车摇晃时,旅程的尽头就愈发逼近。
東京についてバイバイしても、また25時になればいつもどおり会えると分かっていても、みんなで一緒の時間が途切れてしまうのが寂しかった。
即使知道告别东京后,25 点时我们依然可以像往常一样见面,但大家一起度过的时光却中断了,这让我感到寂寞。
奏もまふゆもいつのまにか寝てしまい、ひとり行き場のない想いが胸の底にぴちょんぴちょんと溜まっていく。
奏和まふゆ不知不觉中都睡着了,只有我一个人,心底无处发泄的思绪在不断积累。
車窓の海もとうに切れた。徐々に乗客が増え、ボクのよく知る喧騒が戻ってくる。ほんとはボクのほうが戻っていってるんだけど。ボクたちだけの世界が壊れて、破片がばらばらと日常に降り注ぐ。
车窗外的海早已消失。乘客逐渐增多,我熟悉的喧嚣又回来了。其实是我在回去而已。我们独有的世界破碎了,碎片纷纷洒落在日常生活中。
仕方のないこと
全員参加、色恋なし。 全员参加,色恋无关。
イブのうちに投稿するつもりが、洗濯機が壊れたので遅れました。だいぶ荒削りです。ごめん。
我本打算在平安夜之前发帖,但洗衣机坏了,所以耽搁了。内容还有些粗糙。抱歉。
かなまふ要素もいっぱい入れたかったんだけど、瑞希が絵名のことばっか気にしてるのでぜんぜん入りませんでした。ごめん。
我本来想加入很多要素,但瑞希一直在担心绘名,所以完全没能加入。抱歉。
去年も伊東に行っていた記憶。今回は長野あたりに行ってほしかったんだけど絵名に拒否られました。夏行こうな。
去年的记忆中,我也去了伊东。这次我本想去长野附近,但被绘名拒绝了。夏天去吧。