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きらきら星のワルツ/町的小说

きらきら星のワルツ  闪烁星光的华尔兹

94,610字3小时9分钟

「きらきら星のワルツ」  《闪烁星光的华尔兹》
A6/356P/全年齢/3000円  A6 尺寸/356 页/全年龄向/3000 日元
※イベントではノベルティーのうちわ(先着順)が付きます。
※活动现场将赠送限量团扇(先到先得)。

また、性行為そのものの描写はないですが事後や上半身丸出しなどの描写があります!!
此外,虽然没有直接的性行为描写,但包含事后场景及上半身裸露等情节!!


素敵な表紙はきょたさん(@kiyotamaru_2)に描いて頂きました!!
精美的封面由きょた老师(@kiyotamaru_2)绘制!!

装丁は全て餃子さん(@gyouz4)にデザインして頂きました!
整体装帧设计由饺子老师(@gyouz4)完成!


✦本のあらすじ✦  ✦故事梗概✦
女の子として生まれた潔世一が大学の夏季休暇にドイツに渡り色々あってカイザーと出逢い恋に落ちる、二ヶ月間のアバンチュールなラブコメ。
以女孩身份诞生的洁世一,在大学暑假期间前往德国,经历种种后与凯撒相遇并坠入爱河——这段为期两个月的浪漫喜剧冒险。

捏造満載かつ、男じゃないが故に世一がそもそも青い監獄に行けてないifの世界です。
本故事纯属虚构且设定为:正因并非男性,世一根本未能进入蓝色监狱的平行世界。

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Ⅳ ✦ Catch a falling star.
Ⅳ ✦ 抓住坠落的星星


──結論から言うと、犯人たち、、は無事掴まった。  ──简而言之,罪犯们已悉数落网。

そこに至るまでのボスとカイザーの舌戦は──若干世一のトラウマになっている節がある二人の仲を取り持つとかマジで舐めた考えすぎて本気で後悔したので──割愛したいのだが。
关于 BOSS 与凯撒之间那场唇枪舌战——鉴于给世一留下了些许心理阴影——在此就略过不表了。

まぁザックリと説明するのなら。  若要简单概括的话。
およそ一時間ほど続いた二人の埒が明かない罵り合いスラング合戦を、間に入った半泣き状態の世一がなんとか終えさせ──本当に針の筵でお前はどっちの味方なんだと詰められ怖かった──とりあえず形だけでもと、和解共闘の握手を無理やりさせてみた、その瞬間。
在持续约一小时的僵持骂战中,居中调停的世一好不容易才让两人停下——当时真是如坐针毡吓死人了——总之哪怕只是表面功夫,当他强行让两人握手言和的瞬间。

それまでの〝裁判を前提としたヤれるもんならヤってみな!のスタンス〟から一点して〝自分たちにこんな手間かけさせやがったクソ窃盗犯共にどう地獄をみせてやるか……〟に、マジで突然議題が切り替わったのである。
原本"以法庭诉讼为前提的立场"竟骤然切换成"绝对要让这群给我们添乱的混蛋尝尝地狱滋味……"的议题。

いや、うん。西洋人にとって握手は〝和解のサイン〟であり〝一時停戦の合図〟だと言う知識が薄らでもあったからこそ、世一も「とりあえずさ、ほら! 犯人は他にいるってわかったことだし! ね? 握手でもしましょ! 握手握手!」と無理やり二人の手を取って握らせたのだけど。
不,嗯。正因为世一隐约知道对西方人而言握手是"和解的信号"和"暂时停战的暗号",才会强行抓起两人的手相握,说着"总之你看!已经知道真凶另有其人了!对吧?来握个手吧!握手握手!"

でもそれでまさか、マジで〝納得してないが、握手しちまったからには仕方ねぇ。次の議題に移るか……〟されるとは、夢にも思ってなかったというか……──うん。
但他万万没想到,对方竟然真的"虽然心有不甘,但既然握了手就没办法了。进入下一个议题吧……"——嗯。

数秒前までの罵り合いから打って変わり〝どうやって犯人の息の根を止めるを社会的に殺し尽くすか〟の算段を付け始めた二人は、そこから見事な意気、、投合、、をしてみせたのだ。
与数秒前还在互相辱骂的情形截然不同,两人开始认真商讨"如何彻底解决凶手",随后竟展现出惊人的默契配合。

その姿たるや、まるで海外ドラマの悪役の完全犯罪でも企てているようというか。
那副模样,简直就像海外剧里的反派角色。

本当にそれまでの剣幕はどこにと探したくなるくらいの豹変、、に、世一はもう完全に静観するしかなくなってしまった。
世一只能彻底作壁上观,因为对方态度转变之剧烈,简直让人想找出方才的剑拔弩张究竟去了哪里。

だってなんだか、お店のイイ感じな雰囲気の照明絶妙に顔に影がかかるやや薄暗いライティングも相まって、それこそつい、、で口封じでもされそうな凄み、、だったのである。
毕竟在店铺恰到好处的氛围灯光映衬下,那种压迫感简直像是随时会被灭口似的。

悪巧みしてる時のマフィア感というか。  或者说,散发着黑手党策划阴谋时的危险气息。

もう、マジで怖かった。それに尽きる。  真的,太可怕了。仅此而已。
今思い出しても手が震える。多分トラウマになってる。早く忘れよう……。
现在回想起来手还在发抖。大概已经留下心理阴影了。快点忘掉吧……。

──窃盗の犯人は、若いスタッフに三人によるものだった。
──盗窃案的犯人,是三名年轻的工作人员所为。

この三人はミュンヘン市内の家事代行ハウスキーパーバイトを複数掛け持ちした上で、勤め先の顧客情報を共有して計画的に窃盗を繰り返していたらしい。恐れ知らずがすぎる。
这三人同时在慕尼黑市内多家家政服务公司兼职,通过共享雇主客户信息实施连环盗窃。简直胆大包天。

ちなみにその手法は至って簡単、というか粗雑なもので。
顺便一提他们的作案手法极其简单,甚至可以说是粗糙。

目を付けた金持ちのコメントを改竄し〝悪質クレーマー〟に仕立て上げ、他のスタッフに〝あの客からの依頼は受けたくない〟と思わせる。
篡改目标富豪的评论,将其包装成"恶意投诉者",让其他工作人员产生"不想接那个客户的委托"的想法。

そうして〝他にやる人が居ないから仕方なく〟という体でシフトに入れ替わりで入り、小さな貴金属しらばっくれられるサイズの物のみを狙って窃盗を繰り返した後、盗品がある程度集まった段階でアウクスブルクやニュルンベルク内の治安が悪いエリアの入手ルートは問わない質屋で盗んだ貴金属を換金して山分け、といったカンジ。
然后以"实在没人愿意做只好勉强接手"为由轮班上岗,专门瞄准小型贵金属反复行窃。待赃物积累到一定数量后,就在奥格斯堡和纽伦堡治安较差的区域当铺销赃分赃。

この犯人たちが金持ちばかりを狙って犯行に及んだのは〝金に困っていない金持ちたちは被害を受けても黙認することが多い〟と思ったからだそうで。
据悉这些罪犯专挑富豪下手,是认为"不缺钱的富豪们即使受害也多半会保持沉默"。

実際、ドイツで窃盗被害は〝軽犯罪〟に分類され後回しにされることが多いらしく。
实际上在德国,盗窃案往往被归类为"轻微犯罪"而遭到搁置处理。

被害者が被害届を出してきても捜査が始まるのは遅いから、その間にトンズラできるだろうと思っていたんだそう。ンなわけあるかい。
据说他盘算着就算受害者报案,调查启动也会很慢,趁这段时间就能溜之大吉。开什么玩笑。

あと、チップ問題はこの犯人たちだけの話ではなく、なんと事務所全体で慢性的に起きていた事案だったそうで。
另外,克扣小费的问题不仅限于这几个犯人,听说整个事务所都长期存在这种恶劣行径。

これに関しては、去年からバイトを始めたらしいミラも知らなかったらしい。なのでミラも凄く驚いていて──正直、ちょっと安心した。ミラも悪いコトしてたらどうしようと思ってたから。
关于这件事,似乎连去年才开始打工的米拉都不知情。所以米拉也大吃一惊——说实话我稍微松了口气。因为我一直担心要是米拉也参与其中该怎么办。

とまぁ、そんな感じでカイザーを筆頭とした複数の被害者たちには、今まで窃盗された物品代──残念なことに質に入れられたもの全てを取り戻すのは非常に困難と言われたらしい──を一旦会社側ボスたちが建て替え、損害賠償として返金。
总之,以凯撒为首的多名受害者们,事务所方面将先行垫付被盗物品的折价款——遗憾的是被告知那些被典当的物品几乎不可能全部追回——并作为损害赔偿进行退款。

そうして肩代わりした金額は、すでに刑事告訴済みの犯人たちに借金として貸付け、それを損害倍書請求権の時効である30年の間で返済させていく流れで和解は成立したのだそう。
据说和解方案是这样的:由他人代为偿还的金额,会以债务形式借给那些已被刑事起诉的罪犯们,让他们在损害赔偿请求权时效的 30 年内分期偿还。

ちなみに国外逃亡できないように、犯人たちの身柄の拘束パスポート及び銀行口座も全て法的に差し押さえ済みらしく。
顺便一提,为了防止罪犯潜逃国外,他们的身体拘束和银行账户似乎都已被依法扣押。

ボスなんかは、最近よく「ドイツでも臓器売買が合法だったらよかったのに」と楽しそうに呟いている。
那位老板最近经常乐呵呵地嘀咕:"要是德国也允许器官买卖合法化就好了"。

つまり合法だったら臓器売らせて借金返させるつもりだったんだろうか。
也就是说...如果合法的话,他是打算让他们卖器官来还债吗?

冗談なんだろうけど冗談に聴こえないところが怖すぎるボス・クオリティだ
虽然知道是玩笑话,但听起来完全不像玩笑才最可怕。

───そんなこんなで、件の問題は一応〝完全勝利〟というに相応しい結末を無事迎えることができたのだ。
───就这样,那件事最终迎来了堪称"完全胜利"的圆满结局。

だから世一的には〝このまま契約を切られちゃうのかな〟と、思っていたのだけれど。
所以世一原本想着"这下合约会被解除吧"。


「……やっぱり、危機感が死んでたり?」  "......该不会,危机感已经死透了吧?"


意外なことに、世一は未だ〝ミヒャエル・カイザー邸〟で仕事をしていた。
出乎意料的是,世一仍在"米夏埃尔·凯撒宅邸"工作着。

正直言って、吃驚だ。だって世一はてっきり、カイザーは自分に文句をつけるチップを受け取らない理由を聞く為に近づいてきたと思っていたから。
老实说,这很令人吃惊。因为世一原本认定凯撒接近自己只是为了找茬。

なので目的を果たしたから、カイザーとはもうお別れかなと思ってて。
所以他以为目的达成后,就该和凯撒分道扬镳了。

なのに実際は、カイザーは今もなお固定で世一を使い続けている。つまり危機感が死んでるのだ。
可实际上,凯撒至今仍固定雇佣着世一。也就是说危机感已经彻底消失了。

もう解決したとは言え、窃盗被害にも遭ったというのに。
虽说问题已经解决了,但毕竟还遭遇过盗窃事件呢。

同じ会社を使って、また被害に遭ったらとか思わないんだろうか。いやそんなことしないんだけど。
难道不会担心再用同一家公司的话,又会遭遇同样的事吗?不过应该不会发生这种事啦。

「まあ、こっちは給料お小遣い的にも嬉しいんだけどさ」  "不过嘛,从工资角度来说我们倒是挺开心的"

しかもその臨時収入指名料金が馬鹿にならないときた。  而且这笔临时收入还相当可观。
そう、なぜかカイザーは家事代行ハウスキーパーの使用頻度を上げたのである。
没错,不知为何凯撒增加了家政服务的频率。

あと、掃除する部屋もリビングやキッチン、お風呂場だけじゃなくなって。
而且打扫范围也不再仅限于客厅、厨房和浴室。

一階だけじゃなく二階の部屋までもが掃除の対象となり、それこそ入ったことがないのは多分寝室くらいになっている。
从一楼到二楼的房间都成了清扫对象,大概只剩卧室还没被涉足过。

勿論毎回全ての部屋を掃除するわけでは──それは流石に、この広さを考えると時間が足りない──なく、今日は一階のダイニングルームとサンルームで、明後日は二階の書斎とシアタールームとか。そんな感じで日によって指定される部屋は違う感じなんだけど。
当然并非每次都要打扫所有房间——考虑到这房子的面积,时间确实不够——而是像今天打扫一楼的餐厅和阳光房,后天打扫二楼的书房和影音室这样,每天指定的房间都不一样。

でも、前と違ってもう部屋に鍵は掛けられていないので。
不过,和之前不同的是,房门已经不再上锁了。

だから気付けば勝手、、知っ、、と言えるくらいに知り尽くしてしまったこの豪邸ヴィラに、世一は時折感慨深い気持ちでいっぱいになってしまう。
因此每当意识到自己竟已对这座豪宅了如指掌时,世一总会涌起万千感慨。


──だってここは、あの憧れのバスタード・ミュンヘンのスター選手の家なのだ。
——毕竟这里可是那位令人憧憬的拜仁慕尼黑明星球员的家啊。


そりゃ、相手カイザーは世一の焦がれるノア様じゃあないけど。
虽说对方并不是世一日思夜想的诺亚大人就是了。

でも、それにしたって凄すぎる。一生分の運を使い切ってしまったかもしれない。
可是,即便如此也太过惊人。可能已经把一辈子的运气都用光了吧。

そうだ、それくらい──今だってまだ、ずっと気持ちがふわついちゃってる。
没错,就是如此——直到现在,心情依然轻飘飘地悬着。

しかも、新たに解放された部屋の中にはトロフィー室まであったのだ。
而且,新开放的房间里甚至还有一座奖杯陈列室。

今までミヒャエル・カイザー選手が、バスタード・ミュンヘンとして試合に出て勝利した、全てのメダルやトロフィー、そして数々の記念品が飾られた部屋。
里面陈列着米夏埃尔·凯泽选手代表拜斯塔德·慕尼黑参赛获胜所获得的所有奖牌、奖杯,以及各式纪念品。


その室内に初めて踏み入った時、世一は今にも気絶してしまいそうな興奮に襲われた。
第一次踏入那个房间时,世一几乎要被兴奋感冲击得晕厥过去。


だって、全ての憧れが詰まってる。  因为这里凝聚着所有的憧憬。
掃除機を持つ手が震えて、時の流れは体感五倍速で。  握着吸尘器的手不停颤抖,时间流速仿佛加快了五倍。
なんとか気持ちを切り替えて掃除をしようとしても、気を抜いたらすぐ記念品のメダルに意識を持ってかれてしまって。
好不容易想转换心情开始打扫,稍不留神意识又被纪念奖牌吸引过去。

だからか、いつもなら15分もあれば終わる仕事が、あの部屋|トロフィー室だと30分経っても終わらなくて……本当に、隅から隅まで、部屋にあるなにもかもが最高、、だったのだ。
或许正因为如此,平时 15 分钟就能完成的工作,在那个房间——奖杯室里待了 30 分钟还迟迟无法结束……真的,从角落到角落,房间里每样东西都堪称完美。

それこそ、あと少しで時間切れカイザーが返ってくる時間になりそうだったくらいには、あの部屋の魔力はヤバすぎた。
毫不夸张地说,那个房间的魔力强到差点让我忘记时间限制。

多分、我を忘れ世一を夢中にさせる魔法でも掛かっているのだ。  大概是被施了什么让人忘我的魔法吧。
だから何度入っても、いつだって慣れることなくうっとりと魅入ってしまって……。
所以无论进去多少次,永远都无法习惯,总是会不由自主地沉醉其中……。

「はぁ……ここでの暮らしも、あと一ヶ月ちょっとかぁ」
「唉……在这里的生活,也只剩下一个多月了啊」

──そう、ドイツ滞在も、あと一ヶ月と少しだけ。  ──是啊,在德国的停留时间,也只剩下一个多月了。
気づけば目前にまで迫っていた折り返し地点に、この夢みたいな日本じゃ経験しないだろう毎日とも、あと一ヶ月ちょっとでお別れなんだと寂しくなる。
回过神来才发现,这段如梦似幻的日常,距离那个近在眼前的转折点也只剩下一个多月就要告别了,不禁感到寂寞。

残念だけど、これは最初から決まってたことだから、仕方ない。
虽然遗憾,但这是从一开始就决定好的事情,无可奈何。

「はぁ〜〜~。ドイツ留学とか……いや無理無理」  「哈啊~~~。去德国留学什么的……不行不行绝对不行」

──こういう時〝生まれた国が違ったら〟とか、考えちゃうんだよな。
──这种时候就会忍不住想"要是出生在不同的国家"之类的。

なんて思って、世一はそっと瞳を伏せていく。だって最初からドイツに生まれることが出来てたら、こんな風にあぁだこうだと悩む必要なんてなかったワケで。
怀着这样的念头,世一悄悄垂下了眼眸。毕竟如果从一开始就出生在德国的话,就不用像现在这样烦恼来烦恼去了。

いや、あんなに優しくて寛容な両親の元に生まれてこれたんだから。
不对,能出生在那么温柔宽容的父母身边已经很幸运了。

これ以上望むのは我儘だと、高望みしすぎだとも思うけど。
明知再奢求就是任性,也知道自己太过贪心。

でも、それでもやっぱり──夢見がちなもし、、は、いつだって気を抜いたら世一の本心ナカから溢れ出てしまうのだ。
可是即便如此——那些爱做梦的"如果",总会在不经意间从世一心底满溢而出。

「……、…………」

もしも、ドイツで生まれることが出来ていたら。  如果,能出生在德国就好了。
もしも潔世一が──男の子として、この世に誕生していたら。
如果洁世一——是以男孩子的身份降生在这个世界上的话。

そうしたら今みたいに理学療法士じゃなく、きっとサッカー選手を目指していて。
那么现在就不会成为理疗师,而一定会立志成为足球运动员吧。

そうしたらきっと、今よりももっと真っ直ぐな道のりで──フットボールが一番熱い場所に、辿り着けていた。
那样的话,想必会比现在走得更笔直——最终抵达足球最炽热的舞台。

「……留学資金って、いくらくらい必要なんだろ」  "……留学资金,大概需要准备多少呢"

そんなのお金が掛かりすぎるから、おねだりするのはもう、無理だけど。
因为那样太花钱了,所以已经没法再撒娇要了。

いや両親からそう言われた訳ではない。けど、今すでに世一は親の脛を齧りまくってるワケなので。
倒不是父母这么说过。只是现在世一已经啃老啃得够狠了。

この状態で〝ドイツ旅行楽しかったからドイツに留学したい!〟と甘えるのは、流石に舐めてんのかと思う。誰にって、もちろん自分自身に。
这种状态下还撒娇说"德国旅行好开心所以想去德国留学!",连自己都觉得是不是太得寸进尺了。当然是对自己这么想。

「はぁ~~~」  「唉~~~」

今日の分のゴミを集めて──と言っても、二日前にも綺麗にしたから殆どないんだけど──ゴミ箱に捨てつつ。具体的な数字留学に必要な資金に思いを馳せて、世一は重く溜息を吐く。
收拾着今天的垃圾——虽然两天前才打扫过,所以几乎没什么可扔的——世一一边往垃圾桶里丢,一边盘算着具体数字,沉重地叹了口气。

ドイツの学費は安いとは聞く。  听说德国的学费确实便宜。
けれどその分、今回の渡独時にそうだったように、ブロック生活資金の証明口座に数百万を用意しなくちゃいけなかったはず。
但相应地,就像这次赴德时那样,必须在冻结账户里准备好几百万日元才行。

それに加えて、日本よりもかなり高めな家賃とかの生活費も別で必要で。それら全部含めて計算すると───。
再加上房租等生活费也比日本高出不少。把这些全部算进去的话——。

「……一年間で大体500万くらい? うわー、何年かかるかな」
"……一年大概能赚 500 万左右?哇——不知道要攒多少年呢"

大学を卒業後、そのまま運良くどこかのプロチームに入れたらいいけど。
大学毕业后要是能幸运地直接进入职业战队就好了。

でもそれが叶わなかった入れたのが実業団チームだった場合の給料は、多分そこまでというか。
但如果没能实现的话,工资估计也就那样吧。

いや、プロチームは経歴と能力で人によってかなり報酬が変わるっていうし、新入りの給料は多分控え目。
不过职业战队会根据资历和能力调整报酬,新人工资大概会比较保守。

そして福利厚生とかは殆どないらしいから──結局ピンキリ何を取るかで、運があるかどうかな話になる気もする。
福利待遇似乎也几乎没有——说到底还是看运气好坏,感觉全凭个人造化。

「早くて2年、いや5年……?」  "快的话 2 年,不...可能要 5 年...?"

──世一は海外チーム、特にこのドイツブンデスリーガで理学療法士になりたいと夢見てる。
——世一梦想着能在海外球队,尤其是德国成为理疗师。

それは当然狭き門で、特に外国人の採用となると、即戦力──つまりは過去の実績を重視されるはず。
这自然是道窄门,尤其对外籍应聘者而言,更看重即战力——也就是过往的工作资历。

だから最低でも1、2年は国内で経験を積んだ方がよくて。
所以至少要在国内积累一两年工作经验比较好。

その間も給料を貯金して、最低500万くらいは溜めて。資金が溜まったらまた渡独して、日本で得た資格をドイツでも使えるようにする為の認定プログラムを受けて。
这段时间也要把工资存起来,至少攒够 500 万日元左右。等资金到位后再次赴德,参加认证课程以便将在日本取得的资格证书转为德国认可资质。

それとは別に、出来れば同時期くらいにドイツでの理学療法士の試験も受けて、どちらにも合格できたらそこからやっと就職活動……──これ、マジで何年かかるんだろ。
除此之外,如果可能的话最好同期参加德国的物理治疗师资格考试,两项都通过后才能正式开始求职......──这到底要花多少年啊。

「というか本当に500万で足りるのか? んー、後でちゃんと調べなきゃな……」
"话说 500 万真的够用吗?嗯...之后得好好查查资料才行......"

そこまで言って、ぐ~~ッと背を反らして伸びをする。
说着说着,他猛地向后仰伸了个大大的懒腰。

骨を鳴らすのは、ホントは良くないんだけど。でもポキポキ鳴る背骨が気持ちいい。
虽然知道掰响骨头其实对身体不好。但脊椎咔咔作响的感觉实在很舒服。

今日の掃除はまぁ、こんなもんで大丈夫だろう。  今天的打扫工作嘛,差不多这样就够了吧。
週に3日くらいのペースで掃除に来てる所為で、綺麗にするところがそもそもないという話でもあるんだけど。
毕竟每周要来打扫三次,本来也没什么特别需要清洁的地方就是了。

なんて考えながら纏めた荷物を肩に掛けた世一は、そのまま例の、、に軽やかな足取りで近づいていくのだ。
世一边这样想着,边将整理好的行李挎上肩头,迈着轻快的步伐朝那张熟悉的书桌走去。

「さぁて今日はっと……ふふ」  "好啦今天要......呵呵"

──机の上には、金色のインクで縁取りされたポストカードサイズのお洒落な便箋と黒いシンプルなペン、そして包装が外されたお菓子の箱。
──桌面上摆放着金边装饰的明信片大小时尚信纸、简约黑色钢笔,以及拆开包装的零食盒。

その中の、まずは便箋に世一は目を向けていく。  世一首先将目光投向其中的信纸。
中央上に同じく金色の薔薇が描かれている紙には〝昨日チームメイトから貰った。ローエンシュタイン本店のやつ。好きなだけ食べていい。世一はどの味が好きだ?〟と書かれていて。
同样在中央绘有金色玫瑰的纸上写着:"昨天从队友那里收到的。罗恩施坦因总店的。想吃多少都可以。世一喜欢什么口味?"

多分、世一が読みやすいように配慮してくれているんだろう。
大概是为了让世一更容易阅读而特意这样做的吧。

筆記体ではなくブロック体──文字を繋げずに大文字と小文字それぞれをバラバラにして書く文体──で書かれたメッセージに、ほんのりと唇をゆるめて。
看着用印刷体——不连笔而将大小写字母分开书写的字体——写成的留言,他的嘴角微微放松。

便箋メモの隣にある繊細な花柄で飾られた箱の蓋を、世一はそっと持ち上げていく。
世一轻轻掀开信纸旁那个装饰着精致花纹的盒子盖子。

「わ、おいしそ! チョコだ」  "哇,看起来好好吃!是巧克力呢"

そこには、繊細な装飾が施されたチョコが14個並んでいた。
那里整齐排列着 14 颗装饰精美的巧克力。

手つかずだと食べにくいだろうとでも思ったんだろうか。
或许是觉得原封不动会很难下口吧。

一粒だけ空席のある整列に、ここにはどんな形のチョコが入ってたのかな、なんて。
唯独空缺一格的位置,让人不禁猜想这里原本放着什么形状的巧克力呢。

想いを馳せながら、世一は気になった一粒を摘まんで口の中へと放り込んでいくのだ。
世一一边浮想联翩,一边拈起一粒令他在意的果实送入口中。

「……ん~~! んふ♡ んまぁ♡」  "……嗯~~!嗯呼♡ 嗯啊♡"

この味は、多分ラズベリーだろうか。  这味道,大概是覆盆子吧。
歯で噛んだ瞬間に口の中でとろりと溢れた甘酸っぱいジャムソースの味に、世一はうっとりしながら舌鼓を打つ。
当牙齿咬破果实的瞬间,酸甜的果酱在口中流淌开来,世一陶醉地咂了咂嘴。

ついでに甘いものを食べると喉が乾くななんて思って、鞄の中からペットボトルを取り出して一口。
顺便想着吃甜食容易口渴,从包里掏出塑料瓶喝了一口。

中身はただのぬるい炭酸なので、チョコのお供としては可も不可もない感じ。本音を言うと、冷えてたら最高だったかも。
里面只是温吞的碳酸饮料,配巧克力说不上好也说不上坏。说实话要是冰镇的就更棒了。

というものも流石にお客さんの家の食器は勝手に使えないし、水も飲めないので。飲み物はいつも持ち込みなのである。
毕竟总不能擅自用客户家的餐具,连水都不能喝。饮料向来都是自带的。

まぁ、勝手に飲んでもカイザーは怒んない気もするんだけど。
不过嘛,总觉得就算擅自喝了凯撒也不会生气。

──あの、、ミヒャエル・カイザーと邂逅かいこうした日。  ──与那位米歇尔·凯撒相遇的日子。

クラブハウス近くの、ちょっとお高めな飲食店世一の財力じゃ絶対無理なトコ  俱乐部附近那家价位稍高的餐厅里。
そこでリカバリーと身支度を終えたカイザーと共にボスを待ち構えていた世一は、ふとチップの存在を思い出したのだ。
和整理完仪容的凯撒一起等候 BOSS 到来的世一,突然想起了小费的事。

そう、自分はチップの多さにただ文句をつけただけで〝もう置かなくていい〟とは伝えられてないのではと、気付い我に返ったというか。
没错,他意识到自己只是抱怨了小费金额太多,却还没明确传达过"不用再给了"这句话。

なのでそのまま「もうチップ、用意しなくていいからね。給料にちゃんとチップ分も入ってるから」とかなんとかゴニョゴニョと呟いた──瞬間に、タイミングよくボスが到着したのである。
所以他就这么嘟囔着"不用再准备小费啦,工资里已经包含小费部分了"之类的话——就在这个瞬间,老板恰到好处地出现了。

そうなると当然、そこからの話題は窃盗問題へと移り変わるワケで。
这样一来,话题自然就转向了盗窃问题。

そして世一自身、カイザーとの契約の家事代行の利用はもう終わりなんだろなと、目の前で繰り広げられるレスバ罵り合いを見て確信すら抱いていたので。
而且世一自己也确信,和凯撒的合约应该已经结束了,毕竟眼前正在上演着唇枪舌战的场面。

だからまぁ、カイザーとはもうチップのやり取り──には実際至ってなかったんだけども──をすることはないんだろうなと思っていたのに、しかし蓋を開けたみたらそんなことなく。
所以嘛,他本以为和凯撒之间不会再有小费往来——虽然实际上也从来没给过——但没想到事情根本不是这样。

というかカイザーは、世一がもにょもにょと呟いたあの細やかな言葉チップは要らない発言を、ちゃんと聞いていたらしく。
倒不如说,凯撒似乎把世一那含混不清的细碎低语都听得一清二楚。

その上で、まるでなら、、とでも言うように、こうして〝チップの代わり〟に置手紙とお菓子を机に残すようになったのである。
不仅如此,他就像在说"既然如此"似的,开始像这样把留言纸条和点心当作"筹码替代品"留在桌上。

見た目は軽薄そうなのに、意外とマメな男だと思う。  明明看起来是个轻浮的家伙,没想到意外地细心周到。
というかちょっと変わってる。  或者说,这人有点怪怪的。

「ん♡ ン~~、オレンジうまー♡」  「嗯♡ 嗯~~,橙子味好好吃♡」

また一つチョコを摘まみ、噛み応えのあるオレンジピールを堪能する。
又捏起一颗巧克力,细细品味着带有嚼劲的橙皮颗粒。

美味しい。こういうチョコって色んな味があって楽しいと思う反面、でもシェアはしにくい気もする……だなんて考えて。
真美味。虽然觉得这种混合口味的巧克力很有趣,但似乎不太适合分享给别人呢......正这么想着。

じゃあそろそろカイザーに返事、、を書くかと、ペンを手に取った世一はカチッとノック部分を押し込んでいく。
那么该给凯撒回信了吧,拿起笔的世一咔嗒一声按下了笔帽。

──例えば今日の〝世一はどの味が好きだ?〟みたいに、カイザーはよく手紙に質問を書いてくるから。
──比如今天问的"世一喜欢哪种口味?",凯撒经常会在信里写些问题。

だからそれに、聞かれるままに世一も文字を書き込むようになっていって。
所以世一也就这样,被问到什么就写什么回复过去。

気づけば置手紙というよりも、なんだか交換日記みたいになっていたり。
回过神来才发现,这与其说是留言条,倒更像是交换日记了。

まぁ、とはいっても中身は本当に〝この味好き〟とか〝この前美味しいパン屋さんを見つけた〟とか、そんなどうでもいいコトばっかなんだけど。
不过嘛,虽然说是交换日记,内容其实都是"我喜欢这个口味""前几天发现家超棒的面包店"之类无关紧要的琐事就是了。

「………んー」  "……嗯——"

チョコレートを口にもう一つ含みながら。  又往嘴里塞了一块巧克力。
ペン先を彷徨わせてどうしようかなと考える世一は、数秒悩んだあと〝食べたやつ全部美味しかった。チョコレート好きだから嬉しい〟と拙いドイツ語で書いていく。
笔尖游移不定的世一思索着该如何下笔,犹豫几秒后,他用生涩的德语写下"每款都很好吃。因为喜欢巧克力所以很开心"。

格好良く筆記体で書けたらよかったけど。  虽然用漂亮的花体字写出来会更帅气呢。
でもスペルを間違えたくないから、やっぱり世一もブロック体だ。
但我不想拼写错误,所以世一还是用印刷体吧。

ドイツ語で頑張ってるだけ褒めて欲しい。  只是想表扬一下努力学德语的你。

「……はぁ、そろそろ帰んなきゃ」  "……哈啊,差不多该回去了"

──事務所の方針で、お客さんと鉢合わせるのはNG。
——根据事务所规定,禁止与客人碰面。

だからカイザーがこの家に帰って来る前に、早く出ていかなきゃいけないんだけど。
必须在恺撒回到这个家之前赶紧离开才行。

だけど最近、どうにもこの家の中が心地よくなってきてしまって。
可是最近,不知怎的这个家里变得越来越舒适了。

よくない傾向だとわかってるのに、気づけば動きがのんびりしてしまう。
明明知道这样不好,回过神来动作却总是慢悠悠的。

「……ここも、あと一ヶ月でお別れかぁ」  "……这里,也只剩下一个月就要告别了啊"

言葉にすればより、切ない気持ちになっちゃって。  一旦说出口,反而更觉心酸。
それに、良くない良くないッ! と無言でフルフル顔を横に振って、ふぅと一息。
"不行不行!"无声地用力摇头,轻轻叹了口气。

切り替えなきゃだ。素敵な日常を、素敵な思い出にする為に。
必须转换心情。为了将美好的日常变成珍贵的回忆。

残りが一ヶ月なら、その一ヶ月をめいっぱい楽しめなきゃ。
既然只剩一个月,就要尽情享受这最后时光。

ずっとしんみりしてたら、思い出まで湿っぽくなっちゃう。
一直沉浸在感伤中,连回忆都会变得湿漉漉的。

「よし! じゃあさっさと帰っ──」  "好!那我们赶紧回──"

瞬間、ガチ、、ャリ、、と響いた音に。  刹那间,哐当一声巨响传来。
思わずビクンッと身体を跳ね上がらせた世一は──そのままギギギ、と錆び付いたブリキ人形のような動きで首を横に動かしたのだ。
世一吓得浑身一颤,像生锈的锡皮玩偶般嘎吱嘎吱地转动脖子。


「……、…………おッおかえりなさい、です!」  “……欢、欢迎回来!”
「……ただいま」  “……我回来了”


─────は、鉢合っちゃった〜〜〜!!!  ─────啊,撞个正着~~~!!!
ヤッバ! どうしよ! 会っちゃダメなのに会っちゃった! 始末書だこれ!!
糟了!怎么办!明明不该见面的却碰上了!这下要写检讨书了!!

なんて盛大に焦り散らかす世一は、そのまま壁に掛けられたお洒落にも程がある──つまり文字盤に数字が全くない──時計をバッと見上げた。
这位慌乱到极点的世界第一,猛地抬头看向墙上那款时尚得过分——准确说是表盘上连数字都没有——的挂钟。

その秒針は、やっぱりいつもより早い位置を指していて。
那根秒针果然指向比平常更早的位置。

つまりこれは、まだ大丈夫だろうと高を括ってた慢心からなる、不覚……!
也就是说,这是源于自以为还来得及的傲慢所导致的……失策!

「ぁ、わ、わわ……! ごめ、いやすみませ……! すぐ! すぐ帰るんでッ」
"啊、对、对不起……! 抱歉失礼了……! 马上! 我马上就走!"

というのも、世一が勤めてる家事代行ハウスキーパーは、人間関係のゴタ、、ゴタ、、──今回の窃盗の話ではなく、ボスが会社を立ち上げた頃に客に惚れられ色々と面倒、、なコトになったことがあったとかで──を避けるべく、スタッフに〝仕事は全て客に姿を見られることなく遂行せよ〟を徹底させているのだ。
因为世一所在的家政代工公司,为了避免人际纠纷——不是指这次的盗窃事件,而是据说老板创业初期曾被客户爱上惹出不少麻烦——严格规定员工必须"在不被客户看见的情况下完成所有工作"。

そうしてそれは、同じく客側にも求められており。  这项规定同样也要求客户方遵守。
家事代行ハウスキーパー利用後にアプリに表示される返信必須の〝感想〟項目には〝スタッフの姿を見ましたか?〟なYes/Noチェック欄が存在しているのである。
在家政代工服务结束后,应用程序上会显示必须填写的"服务反馈"栏目,其中设有"您是否见到工作人员?"的 Yes/No 勾选栏。

だからカイザーに、あの項目で〝Yes〟を選択されたら始末書確定。
所以如果凯撒在那栏选了"Yes",写检讨书就是板上钉钉的事了。

なのでどうにかして自分が悪いのは百も承知で、カイザーには〝No〟を押してもらわなければ、なんて。
所以必须想办法让凯撒按下"拒绝"键才行,之类的念头。

世一がぐるぐると思考を巡らせていれば。  世一正天马行空地胡思乱想着。

「そんな事より」  "比起那个"
「そッそんなことより!?」  "比、比起那个!?"

まるで気にも止めない態度でカイザーにさらりと話題を流され、世一は思わず鸚鵡返しを言われた言葉を繰り返しながら叫んでしまった。
凯撒用一副毫不在意的态度轻描淡写地转移了话题,世一不禁像鹦鹉学舌般喊了出来。

でも、そんな事とはなんだそんな事とは。始末書大変なんだぞ。言い訳考えるのめちゃめちゃ大変なんだぞ! 全部ミラ常習犯の受け売りだけど!
可、可这算什么事啊!写检讨书超麻烦的好吗!编借口超级费脑子的好吗!虽然这些话全是米拉教我的!

「──今日は、これ以外の仕事は?」  "──今天还有其他工作吗?"

がしかし、まるで動じる様子を見せないカイザーは、そのまま淡々と質問を投げかけてくるので。
然而凯撒始终保持着波澜不惊的表情,就这样若无其事地继续发问。

どうにも意表を突かれたような気分というか。いやというよりも、自分だけがなにやら過剰反応して意識しまくってるような気がしてきて。世一はもにょりと舌をまごつかせてしまう。
总有种被出其不意地摆了一道的感觉。不,与其这么说,倒更像是只有我自己在过度反应似的。世一含混不清地吞吐着舌头。

「な、ないです」  "没、没有的事"
「? 何故かしこまる。この前と同じように喋ればいい」
"?干嘛突然这么拘谨。像之前那样说话就行"

「え、はいッ、あ! いやちが、……うん」  "诶、好!啊!不对......嗯"

──え、なにこの会話。  ──咦,这段对话是怎么回事。
そんでなに、この距離感。なんだかやけに近し、、く感、、じる、、扱い、、に、身体がギクリと揺れてしまって。
而且这距离感是怎么回事。突然被如此亲昵地对待,身体不由得僵直颤抖。

でも、この前会った時の、最後の印象は〝ボスと罵り合う姿〟だったから。
可是上次见面时,最后的印象还是"互相辱骂上司"的场景。

こうもゆったりした口調で話し掛けられると、それだけでなんだか──ギャップ? みたいのを、感じてしまうと、いう、か。
现在突然用这么悠闲的语调搭话,光是这点就让人感受到──该说是反差感吗?之类的,感觉。

「それで? この後の予定は?」  "那么?接下来有什么安排?"
「な、ない、けど……」  "没、没有啦……"

具体的に言うと、相手カイザーの顔を何故、、直視できないのだ。
具体来说,不知为何就是无法直视对方的脸。

いやというよりも、目線を上げられない。  或者说,根本抬不起视线。
目線を上げると、謎の、、吸引、、で蒼い瞳に縫い付けられちゃいそうで。
一抬头,那双蓝眼睛就像有魔力般牢牢吸住我的视线。

だから意味もなく、左斜め下をチラチラ見るしかなくて。
所以我只能漫无目的地频频瞥向左下方。


「──じゃ、飯行くぞ」  "──走,吃饭去"


そう、飯に──Ich gehe zum Essen?この人今なんて言った?
没错,吃饭去──Ich gehe zum Essen?

その予想外にも程がある言葉に、思考が一瞬停止ストップする感覚。
这意料之外的发言让思维瞬间停滞。

そうして今聞いたドイツ語を再度翻訳し直しても──め、飯にしか行かないやっぱりご飯に誘われてるなこれ……!?
把刚才听到的德语重新翻译一遍后——居、居然只是去吃饭……!?

「……エッどっっエ!? な、なんッどこに……!?」
「……诶诶诶诶!?去、去哪里……!?」

最早混乱どころではない。大混乱だ。  这已经不止是混乱了。简直是超级大混乱。
だから当然、文法がめちゃくちゃなドイツ語しか飛び出せないってか、これちゃんと伝わってる? ドイツ語になってなくない? ドイツ語ってなんだっけ?
所以理所当然地,我只能蹦出些语法乱七八糟的德语对吧,这样真的能传达清楚吗?这根本不像德语吧?德语到底是什么来着?

一度こんがらがると、もう何もかもが単語の組み立てすらダメになってしまって。
一旦陷入混乱,就什么都搞不定了。

そうしてそんな、一人で勝手にあたふたし続ける、完全に挙動不審となった世一の鞄を──カイザーは、何気ない仕草で取り上げていってしまうのだ。
于是凯撒就用若无其事的动作,把那个完全行为可疑、独自手忙脚乱的世界第一的包包——给拿走了。

そう、仕事道具が入っている、会社から支給された大きなトートバックを。
没错,就是那个装着工作用具、公司配发的大号托特包。

あ、鞄が遠くに滑ってく壁に向かって放られちゃった……。今ちょっと嫌な音したな……。
啊,书包滑到远处去了……刚才好像听到了不妙的声音……

「アッえっ」  "啊、诶"
「だから飯。夕食ディナー──は、まだ早いか。ならケーキはどうだ? 好きだろ、甘いの」
"所以吃饭。晚餐——还太早吧。那蛋糕怎么样?你喜欢甜食吧"

──いや、好きだけども。  ——不,虽然确实喜欢啦。
でも置かれてる状況も、誘われてる事実も、全部が意味わからなすぎる。
可是所处的境况也好,被邀请的事实也罢,全都莫名其妙得让人摸不着头脑。

なんでこの人、たかがバイトなんかハウスキーパーにケーキ奢ろうとしてんのってか、え? ど、え? なんでご飯? なんでケーキ? なんで、私?
为什么这个人会为了区区打工就打算请我吃蛋糕啊?诶?等、诶?为什么是吃饭?为什么是蛋糕?为什么,是我?

「な、なんで……?」  "为、为什么......?"

なにもかもが理解不能すぎて、小さい子供みたいにぽかんと口を開けてしまう。
一切都太过难以理解,我像个小孩似的呆呆张大了嘴。

するとそんな世一の姿に、何を思ったのか。  世一这副模样,究竟让他想到了什么?
カイザーはその形のいい眉を、どこか悩ましげに歪ませ──
凯撒那形状优美的眉毛,带着几分困扰般微微蹙起——

「……親しくなりたいと、思ってるから」  "……因为我想和你变得亲近"

────────ェッッ。  ────────诶诶!?

瞬間、世一の喉がキュッと音を鳴らした。  刹那间,世一的喉咙发出"咕"的一声轻响。
そうして訳も解らないまま、言われた言葉を頭の中で反芻して。
就这样不明就里地在脑海中反复咀嚼着听到的话语。

それで、多分聞き間違いではないっぽいと理解したら──一気に喉が、カラカラに乾いてく。
当终于意识到这大概不是听错时——喉咙突然干渴得厉害。

心臓が弾けそう。  心脏几乎要炸裂开来。
でも、そんな、そん、、不貞、、腐れ、、たよ、、うな、、をしてる癖に。
明明摆出那样、那样闹别扭的表情。

なのに、それなのに、目の前の色素の薄い肌が、じわりじわりと少しずつ赤くなってく、から。だからなんだか、世一、、だっ、、、もっと緊張、、しち、、ゃっ、、
可是、尽管如此,眼前那色素淡薄的肌肤,却渐渐、渐渐地一点点泛红起来。所以不知怎的,就连世一也变得更加紧张了。

「……ッ、…………!」  「……唔、…………!」

はくはくと、唇が意味もなく動いてしまう。  嘴唇无意识地,微微颤抖着。
ただ視線が奪われて、ただ棒のように立ち尽くしてしまって。
视线被牢牢攫住,只能像木桩般呆立原地。


カラダが熱い。体温が上昇して、頭の天辺から茹だっていくような錯覚に陥る。
脸颊发烫。体温攀升,仿佛头顶都要蒸腾出热气的错觉袭来。

けど、でも、息ができない。息の仕方を、思い出せない。
可是,无法呼吸。连呼吸的方式,都回忆不起来。

あ、だめだ。思考も回らない。どうしよ。困った。  啊,不行了。思绪也停滞了。怎么办。糟透了。
なんだかもう、いっぱいいっぱいで、なんか涙まで滲んじゃってる。
不知怎的,整个人已经手忙脚乱到连眼泪都渗出来了。

というか、多分──世一、、顔も、、絶対、釣ら、、れち、、ゃっ、、てる、、、から。
或者说,大概是因为——世一的表情肯定也被我传染了吧。


「………、……………よ、洋服、こゆのしか、なくて」
"………、……………那、那个,衣服,只有这种款式的"


だから、ぎゅッとエプロンの裾を握りしめて。  所以,紧紧攥住了围裙的下摆。
時間をかけて必死に絞り出した声は、情けないくらいに震えていた。
拼命挤出的声音,颤抖得可怜。

そうして脳裏に、小さい頃に何度も観た──某魔女が宅急配達をする潔家は母の趣味でギブリ映画ばかりあったのだ──アニメ映画の女の子の姿が浮かんで。あの子が困り果てて言った「でも私、この服しか持ってないもん」の気持ちが──今やっと、痛い程よくわかってしまった。
于是脑海中浮现出小时候看过无数遍的——某位魔女做宅急便送货的——动画电影里那个女孩的身影。此刻我终于痛彻心扉地明白了,她说"可是我只有这件衣服"时的心情。


だって世一も、お洒落な食事に行くような服なんて一枚も持ってきてない。
因为世一也没带任何时髦的衣服来。


全部シンプルかカジュアルのダボッとした服ばかりで。
全是些朴素或宽松的休闲装。

今着てるワンピースだってそうだ。つるんとしたシルエットの、なんの飾り気もないもの。
就连现在穿的连衣裙也是这样。光滑的剪影,毫无装饰的款式。

それに、今更後悔で頭がいっぱいになる。  而且,事到如今满脑子都是后悔。
でも、だって。女の子みたいな恰好も、女の子みたいな身の、、振り、、方も、、、世一は恥ずかしくなるくらい、なんにも知らないのだ。
但是啊。无论是像女孩子一样的打扮,还是像女孩子一样的举止,世一对这些都一无所知到会感到羞耻的程度。

あぁ、興味を抱けないなんて、時間の無駄だなんて。  啊,说什么提不起兴趣,说什么浪费时间。
過去の自分を殴りつけてやりたい。ホント馬鹿だ。馬鹿すぎる。
真想痛揍过去的自己一顿。真是蠢透了。蠢得无可救药。

だけど、どうしよう。  可是,该怎么办呢。
こんな格好じゃ、どこにもデートになんか行けない。  这副模样,哪里都去不了。


「──なら、買いに行くか」  "──那就去买一套吧"


伏せた瞳が、思わず揺れる。  低垂的眼睫,不自觉地颤动。
でも、けど。この人いま───なんて?  但是,可是。这个人现在──在说什么?

「……ぇ? え?」  「……诶? 啊?」

呆然としながらゆるゆると視線を持ち上げれば、そこには世一を真っ直ぐ見──いや、もはや睨み付けてると言ってもいい程、鋭い眼差しでこちらを見詰めるカイザーの姿があって。
当茫然地缓缓抬起视线时,映入眼帘的是凯撒正用锐利到近乎瞪视的目光直直盯着世一的身影。

その予想外すぎる姿に、眼光に。世一は堪らず喉をごきゅッと鳴らしてしまった。
那过于出人意料的身影,让世一的目光为之一震。他忍不住喉头咕咚作响。

だってなんか、圧すごすぎ。それもう怒ってない?  因为这实在太令人震撼了。

「俺は今の服も嫌いじゃないが世一は気になるんだろ。なら好きな服を買ってやる」
"我虽然不讨厌现在的衣服,但世一你很在意吧。那就给你买喜欢的衣服"

「……、………──ッッいやいやいや! それは流石にッてか、道具! しょ、職場に戻さなきゃだし」
"......,.........──不不不!这也太夸张了吧!而且工具!还、还得把工具送回工作室"

──ほんと、何言ってんだろこの人。  ──真是的,这人到底在说什么啊。
いきなり早口だし、意味わかんないし。  突然语速这么快,根本听不懂在讲什么。
そう、意味わかんないって思ってるのに、なのに世一の脈拍はもう、爆発しそうなくらいの勢いで。
明明觉得完全听不懂,可世界第一的心跳却已经快得像要爆炸似的。

そうだ最早、顔どころではなく全身が燃えるように熱くなってる。
没错,现在早就不仅是脸,全身都像燃烧般发烫。

自分の鼓動がバクバク煩くて、部屋中に響き渡ってるような錯覚に襲われてしまって。
心跳声扑通扑通吵得厉害,仿佛整个房间都在回荡着这种错觉。

「そ、そう鞄、もどさなきゃ……」  "得、得把书包还回去才行......"

だから、そんなワケないのに。  明明知道根本不可能这样。
この心音がカイザーに聴こえてたらどうしよ、なんて。そんなバカみたいなコトまで考えてしまう。
要是被凯撒听到这心跳声该怎么办啊,连这种蠢事都忍不住去想。

こんな、こんな意味わかんないコト、言われてンのに!
明明说着这种、这种莫名其妙的话!

「ンなもん、置いてきゃいい。どうせここ以外に入ってないだろ、仕事」
"那种东西,扔下不管就行了。反正除了我没人会进去工作"

「そ、そお、だけど……!!」  "是、是这样没错,可是……!!"

いっぱいいっぱいなのだ。さっきから、もうずっと。  已经快要崩溃了。从刚才开始,一直都是。
目の前の華やかな男は、多分こう、、いう、、に慣れてるんだろうけど。でも世一は、ずっと勉強しかしてこなかった。それしか、してこなかったから。
眼前这个光彩夺目的男人,大概早就习惯这种场面了吧。但世一从小到大,除了学习什么都没做过。真的,什么都没做过。

意味わかんない。  完全搞不懂。
そう思う。そう思ってるのに、頭の中がバグって空回る。
明明这么想着,大脑却像程序出错般空转着。

もっとちゃ、、んと、、遊んでれば、上手な切り返しが言えたんだろうか。とか。
要是以前多玩玩社交,现在就能说出更漂亮的回应了吧。之类的。

でも遊ぶって何。なにすればよかったんだマジで。  但玩耍到底是什么。到底该做什么才好真的搞不懂。

てか、これって普通のコト? これって普通の流れ?
话说,这算正常吗?这是常规流程吗?

食事に行こうとか服買おうとか、こんな突然言われるもんなの?
突然被约去吃饭买衣服什么的,这种情况常见吗?

「それに、ブティックに行ったら時間も丁度よくなるだろ」
"而且,去精品店的话时间也刚好合适吧"

「ぶ、ぶてぃ……!?」  "布、布提……!?"

──しかも、次から次へと畳みかけてくるし……!  ──而且攻势还一波接一波地袭来……!

ブティックって、アレじゃん。ブランド品とかの高い店じゃん!
精品店不就是那种地方吗?卖名牌货的高档店铺啊!

それは普通に無理だって! こっちはずっとシマムラで生きてきたのに! 流石に場違いすぎて死ぬから!
这绝对办不到啊!我可是从小在岛村长大的!实在太格格不入会死人的!

てかンなトコに入れるような格好してないし、絶対門前払い喰らうだろ!!
话说穿成这样根本进不去吧,绝对会被拒之门外的!!

「む、むり! 無理だから! そんなお金ないし、服だって……お、お店、入れない!」
"不、不行!真的不行啦!我既没有那么多钱,衣服也......那、那种店根本进不去的!"

「? だから俺が金を出すと言ってるだろ」  "?所以我不是说了我来出钱吗"
「そ、そういうことじゃないんだってば……!」  "都、都说了不是钱的问题啦......!"

こいつホント話通じないな!?  这家伙真是完全没法沟通啊!?
そう思って、世一が口を開いた、瞬間。  就在世一这么想着,正要开口的瞬间。

「………ぁッ!」  "………啊!"
「──俺は、世一だったらどんな姿でも構わない」  "──如果是世一的话,无论什么样子我都无所谓"

ぐッと、腕を取られて。  被猛地抓住了手腕。
そのまま強く引き寄せられ──蒼い瞳が、間近へと迫ってくる。
就这样被用力拉近──那双蓝眼睛,骤然逼近眼前。

「ッ、……ぁ、まっ」  "呜、……啊、等——"

咄嗟のことに、身体が上手く動かせない。  事出突然,身体完全来不及反应。
すると手を上へと持ち上げさせられ、そのままゆっくりと指が絡められていって。
于是手被向上抬起,就这样慢慢地十指相扣起来。

腰を抑えるように、反対の手が回されていく。  一只手环过腰间,另一只手也被牵引着。
その、まるでダンスでも踊るような姿勢ポーズに、世一が堪らず視線を伏せてしまえば。
面对这宛如共舞般的姿势,世一不禁垂下了视线。

「世一は、俺とは嫌か……?」  "世一...是讨厌和我这样吗?"
「……~~~ッ!」  "......~~~!" (注:最后一行拟声词"~~~ッ"在中文中常保留原状或译为"呜哇"等语气词,此处选择保留日文原状以传达角色情绪)

今度は耳許で、声を吹き込むように囁かれて。  这次是在耳边,如同吹入声音般低语。
吐息が肌をくすぐる感覚に、もう、呼吸すらも儘ならなくなってしまう。
被吐息轻抚肌肤的感觉,已经连呼吸都无法自如。

「なァ、世一?」  "呐,世一?"

頭が、くらくらする。  头脑,晕眩发昏。
ぴったりと密着する身体が、火傷しそうなくらいに熱くて。
紧密相贴的身体,灼热得仿佛要烫伤彼此。

──だめだ、なんだかもう、溺れそう。  ──不行了,总觉得快要,沉溺其中。

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