【0518シャリシャア新刊】土方の日常 【0518 沙利沙亚新刊】土方的日常
ゼクノヴァ後地球に墜落したシャア大佐が土方をして過ごし、追いかけてきたシャリアも土方をする、ハートフルR18ストーリー。いろいろな人目線の、一連の短編集です。
在杰克斯星坠落地球后,夏亚大佐以土方身份度日,而追寻而来的雪莉露也成为了土方,这是一部温馨的 R18 故事。通过不同人物视角串联的短篇集。
サンプルではシャリアと再会する章の途中まで載せています。
在示例中刊登了与夏莉亚重逢章节的中间部分。
通販ページこちらです↓ 通贩页面请见下方↓
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▼土方の日常 ▼土方的日常
5月18日インテックス大阪発行 5 月 18 日大阪国际展览中心发行
A6文庫、本文92p(予定)、R18
A6 文库本,正文 92 页(预计),R18 限制级
4万字ちょっと。
约 4 万字左右。
大阪現地500円〜1000円くらいを予定。 大阪现场售价预计 500~1000 日元左右。
大阪ではノベルティ(シール)が付く予定です。 大阪场次将附赠特典(贴纸)。
※なんでもありのIF小説です。 ※这是一篇无所不能的 IF 线小说。
※オリジン等から着想を得ていますが、これだけでも読めると思います。
※虽然灵感来源于原作等,但单独阅读也能理解。
※モブも少し出てきます。 ※会有少量路人角色登场。
※♡濁点喘ぎあり(掲載部分にはないのです が、本にはあるのでタグ付けておきます)。
※包含♡带浊音的喘息描写(连载部分未收录,但单行本中有故添加标签)。
目次 目录
・壁掛けのカレンダー ・墙挂日历
・ボルドーの左岸 ・波尔多左岸
・騒がしい朝 ・喧闹的早晨
・土方シャリアの日常 ・土方沙利亚的日常
・現場監督の憂鬱 ・现场监督的忧郁
・N作戦 ・N 作战
・エグザベ・オリベは転職したい ・艾格扎贝·奥利弗想跳槽
・腕の中の彗星 ・臂弯中的彗星
・自由とは ・何谓自由
お楽しみいただけると嬉しいなと思います。 若能带给您愉快的阅读体验我将深感荣幸。
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土方仕事の朝は早い。六時過ぎには起床して支度をし、七時十五分には外に集合して朝礼、その流れでラジオ体操を実施する。
土方工作的早晨总是很早。六点刚过就要起床准备,七点十五分必须到外面集合开早会,紧接着就是广播体操。
澄んだ朝の空気の中、軽快な音楽と共に体を動かすのは気持ちがいい。前日の作業で凝った体がぐんぐんと伸びていき、深呼吸をすれば肺には新鮮な酸素が取り込まれるのだ。血行の良くなった体は温まりしなやかに動き、その後の作業での無駄な怪我も少なくなる。
在清澈的晨间空气中,随着轻快的音乐活动身体令人神清气爽。前一天劳作后僵硬的肢体逐渐舒展开来,深呼吸时新鲜的氧气便充盈肺部。血液循环改善后的身体变得温暖而柔韧,后续工作中也能减少不必要的受伤。
シャアは手と足の運動をした。 夏亚做了手部和腿部的运动。
最初は不慣れだったこの体操もすっかり板についている。
最初还不熟练的这套体操,如今已完全驾轻就熟了。
艦でも毎日ブリーフィングは行っていたが、全員で体操をするという発想はなかった。宇宙では無理な動きもあるし新鮮な空気を吸い込むとはいかないが――内容は変更しつつ導入するのもいいかも知れない。
虽然在舰上每天也会进行简报,但从未想过要全员一起做体操。宇宙中有些动作确实难以完成,也无法呼吸到新鲜空气——不过适当调整内容后引入这个主意或许不错。
シャアがソドンに持ち込むラジオ体操の構成を考えていた時、隣の作業員から「西さんは体操のキレがいいな!」と元気よく声をかけられた。
当夏亚正在构思要带到索多姆的广播体操方案时,隔壁工位的同事元气十足地搭话:"西先生的体操动作真利落啊!"
「いやあ、まだまだですよ」 "哪里哪里,还差得远呢"
「ははあ。流石西さん、意識が高い!」 "哈哈。不愧是西先生,觉悟就是高!"
「おーい、私語慎めー」 "喂——禁止交头接耳——"
前でだるそうにラジオ体操に励む現場監督から、いかにも表面上といった注意が入った。
站在前方懒洋洋做着广播体操的现场监督,敷衍地提醒了一句。
壁掛けのカレンダー 墙上的挂历
日が沈む。地平線に真っ赤な太陽が落ちていくのも、もう見慣れた光景だ。
夕阳西沉。赤红的太阳沉入地平线的景象,早已是看惯的风景。
シャアはモビルワーカーの操縦席から外に出た。機体に足をかけて夕陽を眺めていると、風が頬を撫でていく。
夏亚从机动工作车的驾驶舱里走了出来。他踩着机体眺望夕阳,微风轻拂过他的脸颊。
バイザー越しに見る熱の塊は、本来はもっと赤くて目を刺すような眩しさなのだろう。
透过护目镜看到的炽热光团,原本应该是更加刺眼的鲜红色吧。
そんなことを思っていると、じっとりと湿ったタンクトップの背中が少しだけ冷えた。
正这样想着时,被汗水浸湿的背心后背感到了一丝凉意。
シャアは工事用ヘルメットの下に被ったタオルで首筋の汗を拭った。
夏亚用戴在工程头盔下的毛巾擦了擦脖子上的汗水。
*
「もう五年になるのか」 "已经五年了啊"
「はい?」 "啊?"
「あんたがここに来てからだよ」 "从你来这里开始算的"
現場監督の彼がそう何気なく呟いたのは、シャアが詰所でシャワーを浴び、いつもの椅子に腰掛けて一服している時だった。
现场监督的他随口说出这句话时,夏亚正在值班室冲完澡,像往常一样坐在椅子上小憩抽烟。
他の作業員は誰もいない。自宅が近いものは帰宅し、住み込みのものも寝床に引っ込んだあとで、何気ない風だったがそうではないのかもしれない。
其他作业人员都不在。家近的已经回去,住宿舍的也钻进被窝后,看似平常的风或许并非如此。
シャアが顔を横に向け監督のほうを見ると、彼の視線は壁にかけられたカレンダーに向けられていた。周囲の壁同様ヤニで黄ばんでいるそのカレンダーの、U.C.0085年の文字に目がとまる。
夏亚侧脸望向监督那边时,发现他的视线正对着墙上挂着的日历。和周围墙壁一样被烟熏黄的日历上,"U.C.0085 年"的字样格外醒目。
「ああ……もうそんなになりますか」 "「啊……已经到这个时候了吗」"
ここの世話になることにしたのはつい昨日のことのように感じるが、もうそんなに経っていたとは。時の流れとは恐ろしいものだなとシャアは思った。
明明感觉决定在这里落脚还是昨天的事,没想到竟已过去这么久。夏亚不禁感慨时光流逝之可怕。
五年前。あの異様な光に包まれた自分は、赤いガンダムに乗ったまま、気がつけば荒廃した土地の上に横たわっていた。
五年前。被那道异样光芒包裹的我,驾驶着红色高达,回过神来时已横卧在一片荒芜的土地上。
コックピットから脱出した瞬間はここがどこだか分からなかったが、暮れていく夕日と空に広がる星々の輝きに、地球に墜落したのだと知った。機体は動かないが大きな損傷は見られない。その身一つで大気圏をも突破できるこの機体の性能に改めて感心した。
从驾驶舱脱出的瞬间完全不知身在何处,但望着西沉的夕阳与满天星辰的光辉,才明白是坠落在了地球。机体虽无法启动却未见明显损伤。这具单机便能突破大气层的性能再次令我惊叹。
しかし助かったはいいものの、辺りを見渡しても人影はなく、赤土色の大地が続くだけだ。ひとまずガンダムはその場に置いておくとして、身を寄せる場所を探すことにした。そうして結構な距離を歩いたところで、見覚えのある「安全第一」の文字を目にしたのだ。
虽侥幸生还,但环顾四周杳无人迹,唯有赤褐色的大地绵延不绝。决定暂且将高达留在原地,先行寻找栖身之所。跋涉相当距离后,突然看见了记忆中「安全第一」的标语。
そう、そこはかつて――士官学校を出た直後に一時期世話になっていた、あの土木作業現場だった。シャアは、なんという運命だろう、と思いながらドアをノックした。
没错,那里正是——刚从军官学校毕业时曾短暂待过的那个土木工程现场。夏亚一边想着"何等宿命啊",一边叩响了工棚的门。
出てきた現場監督は多少老けはしたが変わらない様子で、こちらの顔を見るなりぎゅっと口を引き結び、幽霊でもみたような顔をした。顔を隠したままで分かるだろうか、と思ったが杞憂らしい。彼の奥に他の作業員は見当たらない。
出现的现场监督虽然略显老态但模样未变,一看到我的脸就紧紧抿住嘴唇,露出见了鬼似的表情。我原以为遮着脸应该认不出来,看来是多虑了。他身后不见其他工人的踪影。
シャアは「やあ、お久しぶりですね」と声をかけてみた。それからたらりと汗をかく男が発言するのを見守っていると、彼は何も言わずにこの腕を掴み、シャワー室に押し込まれた。
夏亚试着打招呼:"哟,好久不见啊"。随后他静静注视着那个汗流浃背的男人,对方却一言不发地抓住他的胳膊,将他推进了淋浴间。
それからばさばさとタオルと私服が放り込まれる。――赤いタンクトップはかつて自分が着ていたもので、最後にコツンと頭にぶつかり足元に転がったものは、見慣れたバイザーだった。
接着毛巾和便服被胡乱扔了进来——那件红色背心正是自己从前穿过的,最后咚地砸在头上又滚落脚边的,是那顶熟悉的护目镜。
明らかにジオン軍の高級士官である今の格好には、何一つ触れられなかった。自分で言うのもなんではあるが、この軍服は目立つであろう。「赤い彗星」の噂は地球にも届いているはずなのだが、ドアを開けた瞬間の彼は耳をぴくりと動かしただけだ。
明明此刻穿着吉翁军高级军官的制服,对方却刻意避而不谈。虽然自己这么说有点奇怪,但这身军装应该很显眼才对。"红色彗星"的传闻理应已传至地球,可推门瞬间他只是耳朵微微抽动了一下。
シャワーからあがると、彼は「あんた行き先あんのか?」とだけ言って、結局それ以上のことは何も聞かれなかった。
冲完澡后,他只问了句"你有地方去吗?",最终再没多问什么。
ぼろぼろの赤い軍服はその夜外で火に焼べて、ヘルメットと仮面は地中深くに埋めた。
那件破旧的红色军服当夜就在户外焚毁了,头盔与面具则深埋地底。
監督はカレンダーから目を逸らした。 监督把视线从日历上移开。
「……ジオンには帰らないのか?」 "……不回吉翁吗?"
「まあ、いずれは」 "「嘛,总有一天会吧」"
「そんなこと言ってもう五年だぞ」 "「说这种话都已经五年了哦」"
「ほら、ジオンって最低でしょう? すぐには帰る気になれなくってね」
"「你看,吉翁最差劲了对吧?让人根本不想立刻回去呢」"
かつての言葉を引用したその返答に、監督はくくくと喉の奥で笑う。あんたが言うのか、とでも思われていることだろう。
听到这句引用自过往的回应,监督从喉咙深处发出咯咯笑声。他大概在想「这话居然从你嘴里说出来」吧。
諸事情あって戻れない、というのもあるし、考えがあって戻らない、というのもあるが、ここでのびのびと暮らすのも悪くはない。五年のうちに世界は大きく変わったが、あともう一押しが必要だった。
既有无法回去的种种原因,也有出于考虑选择不回去的理由,但在这里悠闲生活倒也不坏。五年间世界已天翻地覆,不过还差最后一搏。
その時監督がテレビのスイッチをつけた。報道番組が映し出される。イズマ・コロニー上空には、あの懐かしき強襲揚陸艦が停泊していた。
这时导演打开了电视开关。新闻节目画面中,伊兹马殖民地上空正停泊着那艘令人怀念的强袭登陆舰。
「――また、必死だな」 "「——又在拼命了啊」"
ついつい、声に色がついてしまったらしい。監督はこちらをちらりと見ると、何が面白いんだ? と怪訝そうな顔をする。
似乎不自觉让声音带上了情绪。导演斜瞥了我一眼,露出「有什么好笑的?」的诧异表情。
この脳内には、あの艦の中で眉をひそめているであろう男の顔が浮かんでいた。
脑海中浮现出那个在舰内皱眉的男人面容。
ボルドーの左岸 波尔多左岸
遠くに赤い光を見る。 远处可见红色的光芒。
宇宙を自在に駆ける赤い機体だ。 那是能自由驰骋宇宙的红色机体。
時々ふっとそんな予感がして、シャアは空を見上げた。
偶尔会有这样的预感涌上心头,夏亚抬头望向天空。
地球に墜落した赤いガンダムは、ある少年に奪取された。動力は完全に落ちていると思っていたが、まだ動いたのか。そう思いながら遠く離れていく機体を眺めたのが四年と少し前だ。
坠落地球的红色高达被某个少年夺走了。本以为动力已完全丧失,没想到还能行动。四年前的那个时候,他就这样目送着逐渐远去的机体。
目視できる距離にいるはずがないのは分かっているが、遥か彼方に存在は感じる。
明知不可能出现在目视距离内,却仍能感受到那遥远彼方的存在。
そんなことを続けていたら、同じ現場の土木作業員たちからは「あんた空が好きだよなあ」とよく言われるようになった。
这样的举动持续久了,同工地的土木作业员们常对他说"你小子可真喜欢看天啊"。
〝宇宙〟が好き、とは、あまり考えたことはなかった。これまではあの天に広がる光の中にいるのがごく当たり前で、自分にとっての自然だったのだ。
喜欢"宇宙"这件事,我过去从未深思过。对我来说,身处那片天穹绽放的光芒中本是再自然不过的日常。
シャアは今日も一日の労働を終え、モビルワーカーから降り立った。
夏亚结束了一天的劳作,从机动工作舱中迈步而下。
少し先では「おーい! 行くぞー」と、同僚が手を振っている。シャアは片手を上げてそれに応えると、「ああ!」と大きく声を張った。
不远处同事挥着手喊道"喂——该走啦!",夏亚扬起单手回应,高声答道"这就来!"
*
作業員たちの馴染みの店は、バーとは名ばかりの騒がしい酒場である。
工友们常去的那家店,虽挂着酒吧的名头,实则是个喧闹的酒馆。
長いカウンターのある薄暗い店内は確かにバーらしきものではあるが、客層はしっとりと酒を嗜むような輩ではない。ここにはガラの悪い連中ばかりが集まるが、その分堅苦しさは皆無であり、開放的な空気が流れていた。
昏暗的店内虽设有长吧台,确实像个酒吧模样,但聚集的顾客并非那种优雅品酒之人。这里尽是些粗野之徒,反倒毫无拘束感,流淌着一种开放的氛围。
「西さんはまたウイスキーか?」 “西先生又要威士忌吗?”
「ああ」 “啊”
〝にしさん〟とは、この作業現場での呼び名である。 所谓“西先生”,是这个作业现场对他的称呼。
「あんた、名前は?」と尋ねられたのは、勤務初日の夜に、他の住み込み作業員と詰所で麻雀に勤しんでいる最中だった。丸一日共に働いたというのにこのタイミングで? とは思ったが、近くて遠い距離感はむしろちょうどよく、好感触だった。
"「你叫什么名字?」这个提问发生在入职第一天的夜晚,当时我正和其他住宿舍的工友在值班室打麻将。明明已经共事了一整天,为什么偏偏这时候问?虽然心里这么想,但这种若即若离的距离感反而恰到好处,让人心生好感。"
しかし、なんと答えようか。シャアが考えた時、雀卓にあったある牌が目に入った。
然而该怎么回答呢?当夏亚思考时,目光落在了麻将桌上的一张牌上。
西――シャア――にし。 西——夏亚——西。
シャアが「西といいます」と答えると、かつての顔馴染みだった者は「あんたそんな名前だったか?」と首を傾げたが、「まあ事情がありまして」と言うと、「ああ、親の離婚は大変だよな」と勝手に納得してくれた。適当に解釈してそれ以上は踏み込んでこない。そんな大雑把さも、この場所が気に入っている所以である。
当夏亚回答「我叫西」时,曾经熟识的那人歪着头说「你原来叫这个名字吗?」,听到「啊,有些特殊情况」的解释后,对方擅自领悟道「哦,父母离婚很辛苦吧」。这种随意解读却不再深究的粗线条作风,正是我喜欢这个地方的原因。
五年前唐突に同じ作業現場に住み込みをし始めたシャアを、作業員たちはすんなりと受け入れた。流れ者が戸を叩くことはよくあるらしい。
五年前突然开始住在同一工地的夏亚,工人们很自然地接受了他。据说流浪者敲门借宿是常有的事。
かつての見知った顔もちらほらとはいたが、多くは辞め、新しい人員へと入れ替わっていた。
虽然还能零星看到几张熟悉的面孔,但多数人已经离开,换成了新来的员工。
流動する世間に、人に、慣れきった彼らに遠慮なんてものはない。シャアはある日の仕事終わりに「行くぞ!」と声をかけられて、「どこへ?」と聞く暇もなくこの店に連れてこられた。
对于早已习惯流动的世间与人情的他们来说,根本不懂什么叫客气。某天工作结束后,夏亚刚被喊了声"走啊!",还没等问"去哪儿?"就被带到了这家店里。
テーブル席に陣取ってワイワイと酒盛りをするのが、今では週末の恒例である。
如今每逢周末,占据餐桌席位热热闹闹地喝酒已成为固定节目。
「おっかねえよなあ」 「真是可怕啊」
「本当に」 「真的」
シャアは作業員たちの声に視線をやった。 夏亚将视线投向作业员们的声音方向。
巷を賑わせている例の報道は、店内のテレビ画面にも映し出されている。ジオン軍の目立った動きとなれば、ここ地球でも大きく報じられるのだ。だからこの五年間特に意識しなくとも、〝彼ら〟のことは容易に知ることができた。
街头巷尾热议的那则报道,也在店内的电视屏幕上播放着。若是吉恩军有明显动向,即便在地球也会被大幅报道。所以这五年来即便不刻意关注,也能轻易知晓"他们"的消息。
ジオンの強襲揚陸艦は依然としてイズマ・コロニーに停泊中、ミノフスキー粒子は散布されてはいないとのことだ。本日動きがあった模様、政府高官との接触ありか? 詳細については引き続き取材中――。
吉翁的强袭登陆舰仍停泊在伊兹玛殖民地,据悉尚未散布米诺夫斯基粒子。今日似有行动迹象,或与政府高官接触?详细情况仍在持续追踪中——
シャアは無言でグラスを傾けた。作業員の一人は「はあー」と感嘆を含んだ声を上げる。
夏亚沉默地倾斜酒杯。一名作业员发出"哈啊——"的感叹声。
「派手にやるもんだな」 "搞得真夸张啊"
「あの艦、赤い彗星を追いかけてるって話だろ」 "听说那艘战舰在追击红色彗星吧"
その時斜め前に座っていた現場監督が盛大にむせた。監督は震える指で画面に映るソドンを指差し「……あれってそうなのか?」と聞き返した。
当时斜前方坐着的现场监督猛地呛住了。他用颤抖的手指指着屏幕上显示的索多姆,反问道:"……那个真的是这样吗?"
「監督、ちゃんとニュース見てます?」 "监督,您有好好看新闻吗?"
「有名な話でしょ。ほら、今映ってる」 "这可是很有名的事啊。你看,现在正播着呢"
「シャリア・ブル中佐は、赤い彗星のためにならなんだってやるって噂じゃないですか」
"夏利亚·布尔中校不是有传言说,为了赤色彗星什么都愿意做吗"
矢継ぎ早に語られる事実に、監督は顔を青白くして黙り込んだ。そのまま、画面に映る髭を蓄えた男の写真をじっと見つめている。
面对连珠炮般陈述的事实,导演脸色发青地沉默下来。他就这样死死盯着屏幕上那个蓄着胡须的男性照片。
あの強襲揚陸艦が自身の作業現場に乗り込む姿でも想像しているのだろうか、と考えると実に面白い。
想到他或许正在想象那艘强袭登陆舰闯入自己作业现场的场景,实在令人忍俊不禁。
「そんなこたあ……ないよな?」と半笑いで投げかけられる監督の言葉がこちらに向けられていることを分かってはいたが、シャアは何も答えないでおいた。すると勘違いした作業員たちは「全部マジですって!」と追撃し、監督は再び黙りこんだ。
"这种事...不可能吧?"导演半带苦笑抛来的这句话显然是冲着我来的,但夏亚只是保持沉默。于是会错意的工作人员们乘胜追击:"千真万确!",导演再度陷入沉默。
「五年経つんだろ?」「よくやるぜ」「よっぽどお熱だな」「何考えてるかさっぱりだ」
"都五年了吧?""真有你的""够痴情的""完全搞不懂在想什么"
「なあ、西さんもそう思うだろ?」 “喂,西先生你也这么觉得吧?”
シャアが噂好きの作業員たちの会話を聞き流していると、ふいに話が飛んできた。
当夏亚心不在焉地听着那些爱闲聊的工人们的对话时,话题突然转到了他身上。
「全くもってその通りですな」 “完全就是这么回事啊。”
ふむと大きく頷いてみせる。 他故作深沉地用力点了点头。
「凡夫の私には、軍のお偉いさんのやることは、さっぱり」
「对我这等凡夫俗子来说,军队大人物们的行事作风实在难以理解」
監督が酒を吹き出した。 监督噗地喷出了酒。
「おいおい、歳か?」などと心配されている彼は、じとっとした目で「あんたがそれを言うのか」と語っている。
被众人调侃「喂喂,年纪大了吗?」的他,正用湿漉漉的眼神说着「你还好意思说这种话」。
監督は「もうチャンネル変えろ」と言って無理やり店員からリモコンを奪ったが、どの局も内容は同じだった。カーキの制服、淡緑の髪、思慮深い瞳に、読めない表情。公の場に出た際のシャリアの写真の数々が用いられている。結局作業員たちの本日の酒の肴は、〝シャリア・ブル中佐の人となりについて〟に落ち着いたようだ。
监督喊着「快给我换台」强行从店员手里抢过遥控器,可所有频道都在播放相同内容——卡其色军装、淡绿色头发、沉思的眼眸与难以捉摸的表情。公开场合出现的夏利亚中校各种照片被反复使用。最终工人们今日的下酒话题,终究还是落到了「夏利亚·布尔中校的为人」上。
「結構いい男だな」 「真是个不错的男人啊」
「温和そう、か……?」 「看起来很温和……是吗?」
「いやあ、ジオンだぞ。外面だけだろ。いかにも冷徹無慈悲って感じもするなあ」
「哎呀,毕竟是吉翁的人嘛。只是表面功夫吧。总觉得有种冷酷无情的感觉呢」
「食えない男ってやつか」 「就是那种很难搞定的男人吧」
以前の彼を形容する言葉は、真面目で実直で、不器用。そんなものが多かった。この五年で随分変わったものだなと思いつつ、確かに苦労が多そうな人相だから、人が変わるほどのそれなりの出来事があったのだろう。そう、苦労の元凶であるシャアも納得した。
过去用来形容他的词汇,多是认真、耿直、笨拙这类。这五年来变化真大啊,我暗自想着。确实,从面相看就是个饱经风霜的人,想必是经历了足以改变性格的大事件吧。没错,就连造成这些苦难的元凶夏亚也对此表示认同。
「ただの上司を、五年も探すもんかね」と作業員の一人がポツリと言う。
"「哪有人会花五年时间寻找一个普通上司啊」其中一名作业员低声嘟囔道。"
「……まあ、赤い彗星っていえば伝説だもんな。必要なんじゃねえの、軍に」
"「……不过说起红色彗星,那可是传说啊。军方应该很需要他吧」"
「いやあ、それでもなあ……」 "「哎呀,话虽这么说……」"
それきり会話が途切れてしまった。全員がぼんやりと画面を眺めている。周囲のざわめきがボリュームを上げ、シャアは口を開いた。
对话就此中断。所有人都茫然地盯着屏幕。周围的嘈杂声逐渐放大,夏亚开口道。
「すみませんが、私は監督がいなくなっても五年は探せませんね」
「抱歉,就算导演失踪了,我也没法坚持找五年啊」
その言葉にどっと笑いが起こる。 这句话引发了一阵哄堂大笑。
「俺なら一年も無理だな」 「换我的话连一年都撑不住」
「半年も続かないだろ」 "「估计连半年都撑不下去吧」"
「そもそも探しにいかん」 "「本来就不会去找」"
監督が「探せよ!」と怒鳴り、ますます笑いが起こった。流れていた微妙な空気が一掃されたその時、店員がグラスを下げにきた。シャアは「追加のご注文は?」と聞かれて、「ボルドーの左岸」という言葉がなんとなく口をついて出た。
导演怒吼着「给我去找!」,引得众人笑得更厉害了。当微妙的氛围被一扫而空时,店员过来收杯子。夏亚被问到「需要追加点单吗?」,不知怎地脱口说出了「波尔多左岸」这个词。
店員はぴくりと眉を動かした。 店员的眉毛微微抽动了一下。
「残念ながら当店にはございません。ご提供できるリストはこちらに」
「很遗憾本店没有。能提供的清单在这里」
「ああ、じゃあこれで」 「啊,那就用这个吧」
「ボルドーノサガン?」「何だそれ」と興味津々だった作業員たちは、運ばれてきたグラスを見て、「ただのワインかよ」とつまらなそうに言う。
「波尔多诺萨甘?」「那是啥」工人们饶有兴趣地看着送来的玻璃杯,却失望地说「不就是普通葡萄酒嘛」。
シャアは確かにつまらなくて安っぽいワインを口にしながら、あの日あの男と飲んだワインは格別だったなと思い返した。
夏亚啜饮着确实廉价乏味的葡萄酒,回想着那天和那个男人共饮的美酒是多么特别。
宇宙に戻れなくなったとはいえ、連絡は取ろうと思えばすぐに取れる。我が艦に戻り他の機体で赤いガンダムの捕縛に当たってもよかったが、それをしないのは、まだ戻る時ではないからだ。ザビ家の内輪揉めが熾烈になり、潰しあってくれたら万々歳だった。
虽说已无法返回宇宙,但若想联系还是能立刻取得联络。本可以回到母舰换乘其他机体去捕获红色高达,之所以没那么做,是因为现在还不是回去的时候。若是扎比家内斗愈演愈烈自相残杀,那可就再好不过了。
既に内部にそのような動きがあることは掴んでいるが、不用意に連絡を取って居場所が漏れて、巻き込まれるにはまだ早い。機は熟してはいないのだ。
虽然已掌握内部存在此类动向,但贸然联系导致行踪泄露而被卷入其中还为时尚早。时机尚未成熟。
それにしても——と、シャアはテレビを眺めながら考えた。
即便如此——夏亚凝视着电视屏幕陷入沉思。
まさかシャリアにここまで必死に探されるとは、正直想定外だった。彼と共に戦ったのはたった二ヶ月ほどの期間であったが、心を通わせたと思っていたのは自分だけではないらしい。
说实话,没想到夏莉亚会如此拼命地寻找自己。虽然与他并肩作战仅短短两个月,但看来认为彼此心灵相通的并非只有我一人。
シャリア・ブル(当時は)大尉。ジオン軍のニュータイプ。初めて自ら、友人と名付けた男。
夏利亚·布尔(当时还是)上尉。吉翁军的新人类。第一个被自己称为朋友的男子。
非情な戦争の中で分かり合える存在がいることは、こうも頼もしいものかと思った。彼はこれまでの人生で経験したことのない充足感をもたらしてくれた。真意を疑う必要もなく、隠された裏に惑わされず、ただ身を任せられる安心感のようなものを、確かにあの時自分も感じていたのだ。ただし、それだけを握りしめて生きるには、自分の背景は複雑すぎる。
在无情的战争中能遇到心灵相通的存在,竟是如此令人心安。他带来了自己人生中从未体验过的充实感。无需怀疑真心,不被隐藏的阴谋迷惑,那种可以完全托付的安心感,那时的自己确实也感受到了。只不过,仅凭这份情感就想活下去的话,自己的背景实在太过复杂。
「なあ、赤い彗星って生きてると思うかい?」と、シャアは隣の作業員に問いかけた。
"「喂,你觉得红色彗星还活着吗?」夏亚向身旁的作业员问道。"
「どう、だろうなあ……死んでるんじゃないか? 流石に」
"「这个嘛……应该已经死了吧?毕竟都那样了」"
そう。世間的には、彼のように思っている者も多い。MIAなんて、ただ死体が見つかっていないというだけで、死んだも同然だ。終戦後すぐに出回ったゼクノヴァの実態——三分の一が抉られたあの異様なソロモンの写真は、人々に赤い彗星の戦死を印象付けた。赤いガンダムが現れたこと、それに対するキシリア閣下とギレン総帥の動きで、赤い彗星存命の可能性も示唆されたが、五年も成果がなければ人々の認識も変わってくる。——だと言うのに、シャリアはあの強行姿勢のまま五年である。軍の中には「形骸化した任務の裏で、何を企んでいるのやら」などと言う者もいるようだが、シャリアの行動を目の当たりにすれば口を閉ざした。
确实。在世人眼中,像他这样想的人不在少数。所谓 MIA(作战中失踪),不过是尸体尚未被发现,与战死无异。战争刚结束时流传的吉恩公国实况——那张被削去三分之一的诡异所罗门照片,给人们留下了红色彗星战死的深刻印象。虽然红色高达的出现,以及基西莉亚阁下与基连总帅对此的应对,暗示了红色彗星存活的可能,但五年毫无成果后,人们的认知也逐渐改变。——可即便如此,夏利亚仍保持着那强硬的姿态长达五年。军中甚至有人议论"在这形同虚设的任务背后,究竟在谋划什么",但只要亲眼目睹夏利亚的行动,便会噤声。
「あのシャリア・ブルって人は、本気みたいだけどな」と、隣の彼が付け加える通りだ。
"那个叫夏利亚·布尔的人,看起来是认真的呢"——正如邻座的他补充道。
彼は自分を忘れてはくれないらしい。 他似乎从未忘记过我。
「……物好きだな」 "……真是个怪人"
「んあ? なんか言ったか?」 “嗯啊?你刚才说什么了吗?”
「いいや何も」 “不,没什么。”
あなたも先に進めばいいものを、と思う。しかしそうは思いつつも、シャリアが自分に拘ってくれていることを知るたびに、胸の奥がざわつく。
明明你也可以继续前进的,我这样想着。但每当意识到夏利亚依然执着于我时,胸口深处便泛起阵阵躁动。
この感情の正体は、いくら考えてもまだ分からない。
这份感情的真面目,无论怎么思考都尚未明晰。
シャアは、次に会ったらシャリアはどんな顔をするだろうか、と、想像してみた。
夏亚想象着,下次见面时夏莉亚会露出怎样的表情。
その顔に浮かべるのは、この身勝手に対する怒りなのか、宿願を果たした喜びなのか——。
那脸庞上浮现的,是对这份任性的愤怒,还是夙愿得偿的喜悦——。
そこまで考えた時、キーンと頭の奥が鳴った。 想到这里时,脑海深处突然一阵刺痛。
遠くに赤い光を感じる。宇宙を自在に駆けるあの赤い機体だ。
远处能感受到红色的光芒。那是自由驰骋宇宙的红色机体。
監督が諦め悪くチャンネルを変えた。すると、やっと報道番組ではないものが映し出される。
导演无奈地切换了频道。终于,屏幕上显示的不再是新闻节目。
「なんだこれ、クラン、バトル?」 “这是什么,战队对战?”
「宇宙で流行ってる遊びだよ」 “这是在宇宙里流行的游戏哦。”
「中継なんてあったんだな」 “原来还有实况转播啊。”
頭上の遥か彼方では、少年たちが派手に戦っているらしい。
头顶的遥远天际,少年们似乎正激烈地战斗着。
赤いガンダムを追うシャリアは、きっとどこかでこれを見ているに違いないと思った。
追逐红色高达的夏利亚,此刻一定在某个角落注视着这一切吧。
もしも彼がここに辿り着いたなら、労う必要があるだろうな。
若他真能抵达此处,或许该好好慰劳一番才是。
二人で美味いワインでも開けて、「あなたの願いを何でもひとつ叶えてあげようか」と提案したなら――その時彼はどんな顔をして、その口からは何を発するのだろうか。
若两人共启美酒,提议道"我可以实现你任意一个愿望哦"——那时他脸上会浮现怎样的表情,又会从唇间吐出什么话语呢。
ああ、また。気がつけば、こんなことばかりを考えている。
啊,又来了。回过神来,发现满脑子都是这种事。
騒がしい朝 喧嚣的早晨
詰所の二階で雑魚寝をしていたシャアは、突然の騒音と揺れにパチリと目を覚ました。
在哨所二楼打地铺的夏亚,被突如其来的噪音和震动惊醒,猛地睁开了眼睛。
ゴウゴウと吹き荒ぶ風に詰所全体が揺れ、簡素な壁も屋根も剥がれ落ちてしまうのではないかと不安になる勢いで、蛍光灯からはぱらぱらと埃が降ってくる。
狂风呼啸着撼动整个哨所,简陋的墙壁和屋顶仿佛随时会被掀翻,连荧光灯都簌簌抖落着灰尘。
周りで寝ていた作業員たちも飛び起きて、「なんだなんだ」と口々に叫んでいる。
周围正在睡觉的工人们也纷纷跳起来,嘴里喊着“怎么了怎么了”。
「く、空襲⁉︎」 “空、空袭⁉︎”
「竜巻か⁉︎」 “是龙卷风⁉︎”
慌てふためく彼らを横目にシャアが上体を起こした時、目の前を横切ったのは監督だった。
夏亚用余光瞥了一眼惊慌失措的他们,刚支起身子,就看到监督从眼前横穿而过。
彼はブラインドを開けて外を確認すると、目を見開いて顔を青ざめさせた。それから勢いよく部屋から出ていく。そんな監督を見た他の作業員たちも、続けて外を確認した。するとみな監督と同じような反応をして、「は……?」とか「なんで?」とか呟いたあとに、全員そろって脚をもつれさせながら、一階へと降りて行ってしまった。
他拉开百叶窗确认外面的情况,突然瞪大眼睛脸色发青。随后猛地冲出房间。其他工作人员看到监督这般模样,也纷纷探头查看窗外。结果所有人都露出与监督相同的反应,有的喃喃"哈......?"有的嘀咕"为什么?",接着全都脚步踉跄地一齐往一楼跑去。
部屋にはシャアだけが取り残された。 房间里只剩下夏亚一人。
寝床に一人座ったまま窓の外を見る。 独自坐在床铺上凝望窗外。
天変地異みたいな揺れの中、外から差し込む光は明るく、見える空は青く快晴だ。
在天地异变般的剧烈摇晃中,从窗外射入的光线异常明亮,可见的天空湛蓝如洗。
この揺れと音が空襲でも自然災害でもないと、シャアは理解していた。
夏亚明白,这种震动与声响既非空袭也非自然灾害。
シャアが焦ることなく一階に降りると、ちょうど騒音と揺れが止んだ。
当夏亚从容不迫地走到一楼时,噪音和震动恰好停止了。
詰所の一階には先に降りた作業員たちがたむろし、ブラインドの隙間から恐る恐るといった様子で外を窺っている。
值班室一楼聚集着先下来的工人们,他们正透过百叶窗的缝隙战战兢兢地窥视着外面。
「監督さんは?」 "监工先生呢?"
「外だ。誰も出んわけにはいかんだろ……」 「外面。总不能没人出去吧……」
「そう」 「是啊」
シャアは自分のロッカーを開けた。 夏亚打开了自己的储物柜。
「テレビと同じ……本物だ」 「和电视上一样……是真的」
「なんでこんなところに」 "「怎么会在这种地方」"
「この現場って違法? じゃないだろ?」 "「这现场算违法吗?应该不至于吧?」"
作業員たちがコソコソと話し合っているのを聞きながら、タンクトップの上から作業服のジャケットを羽織り、バイザーをかける。
一边听着工人们窸窸窣窣的交谈声,他在背心外套上工作服夹克,戴好护目镜。
そんないつもの朝の身支度を終えたシャアを作業員たちは不思議そうに見ていたが、シャアが出入り口のドアノブを掴んだ瞬間に「おいおいおい」と一斉に止めに入った。
工人们用疑惑的目光看着完成这日常晨间准备的夏亚,可当夏亚握住出入口门把的瞬间,他们齐声喊着「喂喂喂」上前阻拦。
声を張ってしまった彼らは、はっとしてから口元を押さえる。詰所内が静かになると、外からは僅かに話し声が聞こえてきた。
他们因声音过大而猛然惊醒,随即捂住嘴。当值勤室内恢复寂静时,隐约能听见外面传来的谈话声。
作業員の一人が「今出るのはやめとけって」と小声で囁く。
其中一名作业人员小声嘀咕道:"现在最好别出去。"
「なぜです?」 "为什么?"
「外、見てないのか⁉︎」 "你没看见外面吗⁉︎"
「今から見るところですよ」 「现在正要开始看呢」
シャアはドアノブを回した。作業員たちが「あ!」と言うのと、扉が開くのは同時だった。
夏亚转动了门把手。工作人员们发出「啊!」的惊呼声与门扉开启的瞬间完全同步。
まず見えたのは、目の前に立っていた監督の背中だ。先には見覚えのある強襲揚陸艦がある。騒音と揺れの原因はあれだ。離れたところには降り立ったようだが、こんな小さな詰所、あと少しでも近ければ吹き飛ばされていたところだ。……逆に言えば、そのぎりぎりの位置にぴたりと着けられていた。
首先映入眼帘的是背对着自己站立的监督背影。前方停泊着那艘熟悉的强袭登陆舰。噪音与震动的源头正是它。虽然降落在稍远处,但若这间狭小的值班室再靠近些,恐怕早就被冲击波掀飞了。……反过来说,对方精准地停在了临界距离上。
後ろで扉が開いたことに気がついた監督が、ゆっくりとこちらを振り返る。たらりと涙と鼻水を垂らしたその顔は、ひどく情けない。
察觉到背后开门声的监督缓缓转身。那张涕泪横流的脸庞,显得格外狼狈不堪。
「あんた……。もう、観念して……自首しろ」 "你……已经无路可逃了……去自首吧"
詰所の中から「自首⁉︎」と驚く声が聞こえる。 从值班室里传出「自首⁉︎」的惊叫声
シャアが「心外です」と言おうとした時、奥にいた男が監督を横に押し退けた。
当夏亚正要说出「这太冤枉了」时,里屋的男人把监督推到一旁
こちらを見る、緑の目が見開かれる。 那双看向这边的绿色眼眸骤然睁大
「——シャリア」 "——夏莉亚"
懐かしい彼の名を呼ぶと、シャリアは真顔のまま、一歩二歩とこちらに歩み寄った。それからものすごい速さで、ガッと手首が掴まれる。
呼唤着记忆中那个熟悉的名字时,夏莉亚仍保持着面无表情的样子,一步步向我走来。紧接着以惊人的速度,猛地抓住了我的手腕。
背後が「逮捕された」とざわつく。「余罪を告白しろ」「まだ刑が軽くなるかもしない」という彼らの小声のアドバイスは当てになるのだろうか。
身后传来"被捕了"的骚动声。"快坦白其他罪行""说不定还能减刑"——他们这些小声的建议真的靠谱吗。
「心配をかけた、な」 "让你担心了啊"
シャアが自分の思う余罪を口にしたその瞬間、シャリアはたぱーと滝のような涙を流した。
当夏亚亲口说出自认的余罪时,夏莉娅的泪水如瀑布般倾泻而下。
「……大佐」
ぎゅうっと手首を掴む彼の手の力が強くなる。 他握住她手腕的力道骤然加重。
「もう一生離しません」とシャリアが呟く。それを聞いた誰かが「終身刑……」と口にした。
「这辈子都不会再放开您了」夏莉娅低语道。听见这话的某人小声嘀咕「无期徒刑啊……」
それからシャリアは、本当に手を離そうとはしなかった。
从那以后,夏利亚真的没有打算放手。
ただ立ち尽くしとめどなく涙を流し続ける男に、周りの人々は何も言えなくなってしまったようで、恐れというよりも哀れみの空気が強くなる。彼らは「あれ、もしかして逮捕じゃないのかな」とやっと気がつき始めた。
对于只是呆立原地、泪流不止的男人,周围的人似乎已经无话可说,空气中弥漫的与其说是恐惧,不如说是怜悯。他们终于开始意识到:"咦,该不会不是逮捕吧?"
「中、入ってもらったら?」と勧められて、それもそうだなと詰所のソファにシャリアと二人並んで座ると、「まあお茶でも飲んでさ」と湯呑みが目の前に置かれた。
"要不,进去里面坐吧?"被这样劝说着,想想也是,便和夏利亚并排坐在值班室的沙发上。"先喝点茶吧",说着茶杯就被放到了面前。
監督と作業員たちは場を持て余したのか、「じゃあ作業に出るから」「西さんは今日は休みなよ」などと言うと、そそくさと詰所から出ていった。
监工和工人们可能觉得场面尴尬,说着"那我们去干活了""西先生今天就休息吧"之类的话,匆匆离开了值班室。
「それにしても随分と泣く」 「不过还真是哭得厉害啊」
「申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしています」
「非常抱歉。让您看到如此失态的样子」
「見苦しくはないよ。ただ、こんなに泣けるものなのだなと思ってね」
「并不失态哦。只是没想到能哭成这样呢」
「五年分が溢れているのです。そのうち止まりますから、どうかお気になさらず」
「这是积攒了五年的泪水。很快就会止住的,请您不必在意」
そうは言うが、シャリアの涙が止まる気配は一切ない。
话虽如此,夏莉雅的眼泪却丝毫没有要停的迹象。
再会したら彼はどんな顔をするのだろうと考えてはいたが、これは想定外だったなと、彼の頬を伝い落ちていく雫を見て思う。
虽然想过重逢时他会露出怎样的表情,但看着他脸颊滑落的泪滴,心想这还真是出乎意料啊。
「怒ってはいないのか」 “你没有生气吗?”
「怒る? まさか。一体何に怒るというのです」 “生气?怎么会。我有什么可生气的呢?”
「すぐに戻らなかったことか」 「没有立刻返回这件事吗」
「作戦の一部でしょう。時季をみて動くには、長期間の潜伏も必要です」
「这是作战计划的一部分。为了等待最佳时机行动,长期潜伏也是必要的」
「それでは、連絡を取らなかったこと?」 「那么,没有取得联系这件事呢?」
「不用意な外部への連絡は致命傷になり得ます。こんな警備もずさんな環境では——大佐が連絡をお取りにならずに、むしろ良かったと思っています」
「贸然与外界联系可能造成致命后果。在这种警备松懈的环境下——上校您没有进行联络,我反而认为这是明智之举」
「かなり苦労もかけたようだ」 “看来让你费了不少功夫”
「全てはただ私がやりたくてやった行動ですから。大佐が無事であったなら、もう十分です」
“这一切都只是我出于自愿的行动。只要大佐平安无事,就足够了”
シャリアは「だからこれは怒りとは違うのですが」と前置きをしてから、一呼吸おいた。
夏莉雅在说完“所以这和愤怒是不同的”作为开场白后,稍作停顿。
「私も、連れて行っていただきたかった」 “我也……想被您一起带走”
ぽつりと言葉が落とされる。あの状況ではそれこそ無理だ、とは彼自身思っているようだが、漏れ出た本音という響きだ。
话语轻轻落下。在那般境况下连他自己都觉得强人所难,却仍漏出了心声般的回响。
シャアは少し考えてから、「そうだな、次はそうしよう」と了承した。
夏亚略作思索后应允道:"是啊,下次就这么办吧。"
宇宙の藻屑になる時は一瞬で、自分ではどうにもならない。本来なら約束なんてできないが、今の彼にはこの言葉が必要であると感じる。
化作宇宙尘埃不过转瞬之事,人力终究难及。本不该许下承诺,但他此刻却觉得必须说出这句话。
「もうこのようなことは、ご勘弁いただきたいものですが」
"还望今后莫要再发生这等事了"
「共にゆけるなら」と、シャリアが力無く笑う。仮初の言葉でも安心したように細められる瞳に、唐突に胸が打たれた。
「如果能一起走下去的话」夏利亚虚弱地笑了笑。望着她因这短暂话语而安心眯起的眼眸,我的胸口突然被重重击中。
「シャリア・ブル中佐、あなたの……両目が見えるのは新鮮だ」
「夏利亚·布鲁中校,你的……双眼能视物真是令人耳目一新」
もっと、よく見てみたいと思った。ずっと感じていた胸のざわめきも、今心に触れている何かも——あと少しで分かる気がするのだ。
想要更仔细地看清她的念头愈发强烈。长久以来胸口的躁动,此刻触及心灵的某种悸动——仿佛再靠近一步就能明白。
シャアは気がつけば、バイザーを外し、吸い込まれるようにシャリアの瞳を覗き込んでいた。
夏亚回过神来时,已不自觉地卸下护目镜,如同被吸入般凝视着夏利亚的瞳孔。
あ。近いな。そう思った時、シャリアの涙がぴたりと止まった。彼の身に纏う空気が変わる。
啊。好近。当这个念头闪过时,夏利亚的眼泪突然止住了。他周身萦绕的氛围骤然改变。
それからどちらともなく唇が引き寄せられていき——最後には重なった。
接着不知是谁先主动,双唇渐渐靠近——最终重叠在一起。
シャリアの重たくて熱い思念が、とろりと脳内に流れ込んでくる。同時にぬるりとした舌が差し込まれて、こちらからも絡めてみせた。するとシャリアは更にキスを深くしこの舌を吸う。
夏利亚沉重而炽热的思念,缓缓流入脑海。同时滑腻的舌头探了进来,我也试着缠绕上去。于是夏利亚将吻加深,吮吸着我的舌。
パチパチと弾ける官能に、体の芯に火が灯る。前のめりになったシャリアに押されて、ソファの座面に背がついた。
劈啪迸裂的快感中,身体深处被点燃。被前倾的夏利亚推着,后背陷进了沙发坐垫里。