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ストーカーの超論理/ネム的小说

ストーカーの超論理 跟踪狂的超逻辑

15,742字31分钟

無理に真実を暴くべからず。糸師凛のことをストーカーしている潔世一くんのお話です。愛が重い二人が好きです。糸師冴さんも沢山出てきます。
不要强行揭露真相。这是关于洁世一同学跟踪糸师凛的故事。我喜欢这对因爱而沉重的两人。糸师冴先生也会频繁出现。

よろしくお願いします! 请多关照!

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 糸師冴は、両親に愚弟の様子を定期的に見るように命令されている。
糸师冴被父母命令定期查看弟弟的情况。

 本当はそんな事せずともアイツは這い上がってくると思っているし心配なぞあの愚弟にいらないと感じているが、両親は断固として『兄弟の絆』を解いてくるのでややこしい。凛はきっと無表情ながら元気にやってるだろうに。だって凛はつくづく執着の塊で頭のおかしいやつであるから。
虽然我觉得即使不那样做,那家伙也会爬上来,而且我觉得那个愚蠢的弟弟不需要担心,但父母坚决要解开“兄弟的羁绊”,这很麻烦。凛一定虽然面无表情,但过得很好吧。毕竟凛是个执着到极点、脑子有问题的家伙。

 そうして、両親に言われて泣く泣く糸師冴は糸師凛の観察をしていた。
于是,在父母的嘱咐下,糸师冴含泪观察着糸师凛。

 今はシーズンオフで、糸師凛は日本にたまたま帰省している。
现在是淡季,糸师凛恰好回日本探亲。

 糸師冴もたまたま同じタイミングで帰省しているのである。
糸师冴也恰好在这个时候回乡了。

 その時に知った事なのだが、最近凛は実家の他に、ひとつの在り来りなマンションの一室を買ったらしい。
那时我得知,凛最近除了老家之外,似乎还买了一套常见的公寓中的一间房。

 何故そんなところを買ったのか。 你为什么买了那样的地方?
 テメェならもっとセキュリティやら何やらがしっかりしてそうなマンションを買うイメージであったと思ったが、凛自体が別に何不自由ない顔をしているのだから口を出すことでは無いのかもしれない。
我本以为如果是你,会选择一个安保等各方面都更完善的公寓,但凛自己看起来并没有什么不满,或许我也不该多嘴。

 糸師冴は両親に言われるがまま愚弟の家に押しかけたし、顔を見ていつもと同じようにキレ散らかしている愚弟を、「元気だな」と思った。それ以上でもそれ以下でもない。
糸师冴被父母要求去弟弟家,看到弟弟一如既往地发脾气,心想:“他还挺有精神的。”仅此而已。

 その時に初めて出た、ひとつの違和感。 那时初次出现的、一种违和感。

 窓の外からは隣の隣接された古びたマンションが見える。セキュリティも何もあったものじゃない。
从窗户向外望去,可以看到旁边紧挨着的陈旧公寓。安全措施也几乎不存在。

 
―――そこに、ある見知った顔が見えた気がしたのだ。
———我仿佛看到了一张熟悉的面孔。

 これが、違和感その一。 这是,违和感其一。

 次に、違和感その二。 接下来,是第二种不适感。

 糸師冴は雑誌を見る。両親が勝手に送ってきた、愚弟の乗っているゴシップ雑誌だ。両親はそういう方面に疎いのか、どんなくだらない雑誌でも送ってきやがるから困る。きっとゴシップという悪意に塗れた雑誌も、両親のフィルターを通してみると『子どもの写真後乗った全国紙の記録!』とフワフワしたものに置き換えられてしまっているのだ。
糸师冴看着杂志。这是父母擅自寄来的,上面有他那愚蠢弟弟的八卦杂志。父母似乎对这方面不太了解,无论多么无聊的杂志都会寄来,真是让人头疼。那些充满恶意的八卦杂志,经过父母的过滤后,肯定被美化成了“孩子登上全国报纸的记录!”这种轻飘飘的东西。

 そうして、その雑誌。 于是,那本杂志。
 そこには、糸師凛という名前がでかでかと乗った写真。そうして、隣には潔世一の写真も切り取りされて貼られてある。
那里有一张照片,上面大大地写着“糸师凛”的名字。旁边还剪贴着洁世一的照片。

『超仲良し?! お揃いのものを身につけている光景多発!』
超好朋友?!经常看到他们戴着相同的东西的场景!

 冴はため息をついた。糸師凛の着ている服、バッグ、靴、その他色々、それらと全く同じ服を来てパパラッチに写真を撮られている潔世一の姿の写真。
冴叹了口气。糸师凛所穿的衣服、包包、鞋子,以及其他各种物品,洁世一穿着完全相同的衣服,被狗仔队拍照的情景。

 冴はこの雑誌を見た時、アホ共はこういう所があるからいけない、と思った。今まで恋愛をしてこなかった分の反動だろうか。
冴看到这本杂志时,心想:这帮傻瓜就是因为有这样的地方才不行。或许是之前一直没有谈过恋爱的反弹吧。

 さながらYouTubeでカップルチャンネルを作っているアホカップルのようである。どうせYouTubeのあれらも、最後には仲が悪くなるだけなのに。愛がビジネスに変わるのはいつの時代も悲しき事だ。
简直就像在 YouTube 上创建情侣频道的傻瓜情侣一样。反正那些 YouTube 上的情侣频道,到最后也只是关系变差而已。爱变成生意,无论在哪个时代都是件可悲的事。

「惚気たいのは良いが全国紙でのイチャイチャを撮られるのは家系の恥なのでやめろ」
“想谈恋爱是好事,但别让全国报纸拍到你们卿卿我我的,这会给家族丢脸的,赶紧打住。”

と、冴はすぐに電話で抗議した。 冴立刻打电话抗议了。
これは死活問題だからである。 这是一个生死攸关的问题。
しかし、不思議なことに糸師凛は冴が言っていることが何なのか理解出来ていなかったようだ。
然而,奇怪的是,糸师凛似乎并不理解冴在说什么。

全然関係の無い、意味がわからない所でぎゃあぎゃあいつものようにキレていた。
在完全无关、意义不明的地方,像往常一样大吵大闹地发脾气。

だが、そんなわけが無い。意味がわからないということはないだろう、流石に。
但那是不可能的。再怎么说,也不至于不明白意思吧。

 よって、冴は凛に聞いてみた。 于是,冴向凛询问了。
「お前、潔世一と付き合ってんだよな?」 “你,是在和洁世一交往吧?”
 すると、凛は間髪入れずにこう言ったのである。 于是,凛毫不犹豫地这样说道。
「潔のカスと付き合うくらいだったら死んでやる」 “与其和那种人渣交往,我宁愿去死。”
 

違和感その三。 违和感之三。

 先程言った通り、冴はタイミングが会えば愚弟の様子を見てくるようにと両親に命令されている。悲しい性だ、いつまで経っても師匠に弟子が勝てないように、子どもは両親に勝てない。
正如刚才所说,冴被父母命令,只要时机合适,就去看看愚弟的情况。真是悲哀的宿命,无论过多久,弟子都无法超越师傅,孩子也无法超越父母。

 よって冴は定期的に凛が近くにいる時は押しかけたりしていた。本当に嫌な事だが。まぁ昔よりも色々な経験を経て、仲は多少良くなったので問題は無いだろう。
因此,冴定期在凛在附近时会去打扰。虽然真的很讨厌。不过,经历了许多事情后,两人的关系有所改善,所以应该没什么问题。

 そこで、両親への証拠として冴は愚弟を連れて時々外に買い物にでも行こうとするのだが。
于是,冴为了向父母证明,会带着愚弟偶尔外出购物。

「えっ、凛と冴じゃん! 偶然だな〜」 “诶,凛和冴啊!真是巧了~”

 ニコニコ笑う男。冴は何度目かとも思える場面に、眉をひそめた。凛は特に気にした様子もなく、「クソ潔死ね」と言いながら何だか楽しそうに会話を弾ませている。
微笑不断的男人。冴面对这似乎已多次出现的场景,皱起了眉头。凛似乎并不特别在意,一边说着“真他妈爽快去死”,一边不知为何兴致勃勃地继续着对话。

 おい潔世一と話せて嬉しいのは分かるが、周りに花をぽわぽわ飛ばしているのが見え見えである。冴は凛の事を結構分かっているので、今の糸師凛が結構楽しそうな顔をしているというのが分かる。表面上は潔世一に対して「カス」と罵り低い声を出してムカつきますオーラを放っているそれも、本当は嬉しいの裏返しだ。
我知道你很高兴能和洁世一说话,但你周围飘着的花朵实在是太显眼了。冴很了解凛,所以能看出现在的糸师凛看起来相当开心。表面上对洁世一骂着“废物”,用低沉的声音散发着恼怒的气息,其实内心深处是高兴的另一面。

 危機感というものが無いのだろうか、クソ愚弟には。
这家伙完全没有危机感吗,这个蠢弟弟。

―――だって、これで糸師冴が糸師凛と一緒に居る時に潔世一と出会った回数は、片手で数え切れないほどあるのだから!
——因为,糸师冴和糸师凛在一起时遇到洁世一的次数,多到一只手都数不过来!

 偶然偶然って、そんな偶然あってたまるか。流石に一回目なら許容が出来たが、ここまで多いと何だか故意的な何かを感じる。
偶然偶然的,哪有这么多的偶然。虽然第一次还能容忍,但这么多偶然,总觉得像是故意的什么。

 本当に怖い。 真的好害怕。
 何より、凛の隣で人畜無害そうにえへえへと笑っている男の中身の気が知れないことが、一番の怖さだ。
最重要的是,那个在凛旁边看似无害、傻笑着的人,其内心深不可测,这才是最令人害怕的。

「潔」

 冴は二人の会話を遮るように話を割って入った。潔世一は、きょとんと目をまん丸にして、冴を見つめ、上目遣いで肩をかしげる。あざとい仕草。
冴打断了二人的对话,插话进来。洁世一瞪大了眼睛,盯着冴,用上目遣い的方式耸了耸肩。这动作显得有些狡黠。

「なぁに、冴。ごめん、凛と話盛り上がりすぎちゃってた。冴もいっしょに話そう」
“没事的,冴。抱歉,我和凛聊得太投入了。冴也一起来聊聊吧。”

 世一はふわりと笑う。その仕草は小動物のようで、守りたくなるような何かを感じた。この姿で数々の男を落としてきたのだろう、アッパレだ。愚弟もまんまとその罠にかかってやがる。
世一轻轻地笑了。他的举止像小动物一样,让人感到想要保护他。他这副模样,想必已经让不少男人为之倾倒,真是太厉害了。我那愚蠢的弟弟也完全中了他的圈套。

 まぁ冴は自制心の強い男であるので、潔世一のまるこい頭を撫でるくらいにしてやった。潔世一は口元をふにふにと嬉しそうにしている。アニマルセラピーを感じた。
嘛,冴是个自制力很强的男人,所以他只是轻轻地抚摸了一下洁世一那圆滚滚的头。洁世一则是满脸欢喜,嘴巴嘟嘟囔囔的,感觉像是体验了一次动物疗法。

 それと同時に隣から凄い殺意を感じたが、冴は見なかったことにした。はいはい、お兄ちゃんに数少ない友人との会話を邪魔されて怒っているんですね、クソ愚弟くん。
与此同时,冴感受到了来自邻座的强烈杀意,但他决定视而不见。好吧好吧,哥哥你因为少有的朋友间的对话被打扰而生气了,真是愚蠢的弟弟啊。

 そうして、糸師冴は気になっていたことを聞いてみる。
于是,糸师冴试着问出了心里在意的事情。

「潔世一、何しにここに来たんだ」 “洁世一,你来这里做什么?”
「え? 普通に、スーパーに買い物だけど」 “诶?就是普通的去超市买东西啊。”
「ふーん」 

なるほど、なるほど。 原来如此,原来如此。
これが、違和感その三である。 这是第三种不适感。

◾︎

 ところで糸師冴は昔シャーロック・ホームズを読んだことがある。まぁそれは小学校かの遠い昔のことでよく覚えてはいない。確か、読書感想文とやらで読まされた記憶だったか。
话说糸师冴曾经读过《夏洛克·福尔摩斯》。不过那已经是小学时代遥远的事情了,记得不是很清楚。依稀记得好像是因为要写什么读书感想文才被迫读的。

 
 まぁ別に、特に内容を覚えていてもいなくてもいいのである。知っておけばいいのは、その物語には探偵と助手がいるということ。
嗯,其实,内容记不记得住都没关系。重要的是要知道,那个故事里有侦探和助手。

 それに加えて探偵という生き物は、正義の味方のように真実を脳みそひとつで突き止めていく『定形のフォーマット』が確立されているということだけである。
此外,侦探这种生物,仅仅是因为他们像正义的伙伴一样,仅凭一个大脑就能追寻真相的“固定格式”已经确立。

 それは随分と子どもの心をくすぐるものであった。厨二病的格好の良さと言えばいいだろうか。
那真是相当能撩拨孩子心弦的东西。可以说是中二病的那种酷劲吧。

 
 小学生の糸師冴はそれから少しだけ、些細なことにでも謎を感じる事にしたのである。
小学生时的糸师冴从那以后,决定对一些微不足道的事情也感到好奇。

 歩いている道路に彩りを。見た景色に謎を感じたら、どんな些細なことでも良いので立ち止まって考えてみる。
为行走的道路增添色彩。若在所见的景色中感受到谜团,无论多么微小的事情,都停下来思考一番。

 そうして、一人で「きっとそうであろう」という結論に至った時ほど嬉しく誇らしいものは無い。
独自一人得出“必定如此”的结论时,那种喜悦和自豪无以言表。

 例えば、これは子どもの時の糸師冴の記憶。 比如,这是糸师冴儿时的记忆。
冴が車を見ていたら、車の後ろ側がチカチカと光っていた。
冴看到车的时候,发现车的后部在闪烁着光。

 何故、光るのか? 为何会发光?
 それすら冴は分からなかった。まずそもそもの話、車というもの自体よく分かっていないのである。何だか動く機械といったもので、どうやって動くのか、どんな機能があるのか、どんなルールで動いているのか。
连那个都不明白。首先,根本的问题是,我对车这种东西本身就不太了解。总觉得是一种会动的机器,但它是怎么动的,有什么功能,按照什么规则在运行,这些我都不清楚。

 その事自体を子どもである糸師冴は理解をしていない。それでも、めげずに観察を続けた。登下校の時間に前に走る車を何台も見たりして。だって、これは糸師冴にとっての謎である。謎は解くべきものであるから。シャーロックホームズが解くように。
那件事本身,年幼的糸师冴并不理解。尽管如此,他仍不气馁地继续观察。他看到过许多次接送上下学的车。因为,这对糸师冴来说是个谜。谜题是应该解开的,就像夏洛克·福尔摩斯那样。

 そうして、気づく。車が後ろ側の右側をカチカチと光らせて点滅している時は、車は右に曲がる。対して左側が点滅している的は、左に曲がるのである。
于是,我注意到了。当车子的后部右侧发出咔嚓咔嚓的光并闪烁时,表示车子要向右转。相对地,如果左侧在闪烁,则表示车子要向左转。

 ということは、あのチカチカと点滅している光は、これから行くための方向を表しているのだろうか。
也就是说,那个一闪一闪的光,是在指示我们接下来要去的方向吧。

―――これは、世紀の大発見であった! 糸師冴は誰にも教えられていないのに、車の「謎」を解き明かした。車のルールの規則性を一人で見出した。子どもなのに。
——这可是世纪的大发现!糸师冴在没有被任何人告知的情况下,解开了汽车的“谜”。他独自发现了汽车规则的规律性。尽管他还是个孩子。

 これほど衝撃的な事は無い。 这般冲击性的事情是没有的。

 この時糸師冴は大興奮をして、両親や弟に「規則性」を熱弁したものだが、両親には生暖かい目で見られ、弟はまだ何も理解していない顔をしていたものだ。
这时,糸师冴异常兴奋,向父母和弟弟热情地阐述“规律性”,但父母只是温和地看着他,而弟弟则一脸茫然,似乎什么都没理解。

 このように、糸師冴は「謎」を解き明かそうとする事は、結構好きな部類である。
就这样,糸师冴喜欢解开谜团。

 よって。 因此。
 久しぶりに推理でもしてみようと思う。冴には今現在助手はいないが、脳みそは正常に働いているため『定形のフォーマット』を満たすことが出来ている。
我久违地想尝试一下推理。虽然冴目前没有助手,但大脑运转正常,因此能够满足“固定的格式”。

 ちょっとだけワクワクしてきた。冴は、ゆったりとした動作で顎に手を当てる。それだけでも、大層優雅で美しい所作であった。
我有点兴奋起来了。冴将手轻轻放在下巴上,动作从容不迫。仅此一举,便显得格外优雅美丽。

 顔が整っていると何をしていても優美になるという典型的な例である。
这是一个典型的例子,说明长相端正的人无论做什么都会显得优雅。

◾︎

「ここで、何をしている?」 “在这里做什么呢?”

 その姿を見た時、随分と物騒な世の中になっちまったな、と糸師冴は他人事のように思う。殺人、パワハラ、モラハラ、セクハラ、薬の密売人、暴力、脅迫、恐喝、いじめ、痴漢、エクセトラ。どんどんと犯罪の種類は緻密化されていき、手に負えない。
看到那副景象时,糸师冴像是在说别人的事一样,觉得这个世界变得相当危险了。杀人、职场霸凌、家庭暴力、性骚扰、毒品走私、暴力、威胁、敲诈、欺凌、猥亵,等等。犯罪的种类越来越复杂,让人难以应对。

 最近ではニュースのひとつに、女子トイレでちいこい丸型の釘のようなカメラが壁に貼り付けられていて問題になった事を思い出す。
最近,一则新闻让人想起,在女厕所的墙壁上贴着一个小小的圆形钉子状的摄像头,引起了问题。

 大きなカメラが問題を掻い潜るように小さくなったように、まるでイタチごっこだ。取り締まる人間がいるように、それを掻い潜る人間もいるという事。
大型相机变得像是在问题中穿梭般缩小了,简直就像捉迷藏一样。就像有监管的人,也有穿梭其中的人。

 ま、糸師冴は女子トイレなんてのにカメラを仕掛けたとて、何が楽しいのだかは分からないが。そんな事をするならその辺の女を抱いた方がコスパが良かろう。だって、女なんてのは腐るほど寄ってくるのだから。
嘛,就算糸师冴在女厕所安装了摄像头,我也不明白有什么好玩的。如果要做那种事,还不如随便找个女人抱抱,性价比更高吧。毕竟,女人这种生物,多得是。

 冴はそんな、非凡人非リア共に聞かれてしまったから絶対に殺されてしまうであろう事を平気で思う。
冴觉得,即使被那些非凡人和非现实的人听到了,也绝对会被杀掉的事情,她却毫不在意。

 ああ、少し付け加えておくと、糸師冴は今現在サッカーで忙しい。そのため女なんてのは邪魔な存在である。
啊,稍微补充一下,糸师冴现在因为足球非常忙碌。因此,女人对他来说是个碍事的存在。

 ゆえにここから導き出される確かな結果として、糸師冴に彼女なんてものはいない。せいぜいこの俺の情報を聞いて、泣いて喜んで欲しいものである。
因此,从这里得出的明确结论是,糸师冴身边并没有她这样的存在。最多不过是听到我的消息,希望她能哭着感到高兴罢了。

非リアガチ恋勢どもには。 非现实恋爱派们。

 しかし、そんなこんなで彼にとっていつもだったら他人事だった「問題」は、今この瞬間だけは他人事ではなくなってしまった。嫌なことに。
然而,对他来说,那些平时总是事不关己的“问题”,此刻却不再是旁观者,而是成了切身之事。真是令人不快。

 この国日本では、どんどんと犯罪者がのさばる国だ。放置してもいけないけれど、どんどん増えゆくばかりで悲しいことである。
在这个日本国家,犯罪者越来越猖獗。不能放任不管,但犯罪者数量不断增加,实在令人悲哀。

 ということで、糸師冴は目の前の人間をじっと見つめる。何を考えているのか分からない、ボケっとした顔で。
于是,糸师冴静静地凝视着眼前的人。脸上带着茫然的表情,不知在想些什么。

 追い詰める。 逼入绝境。
 問い詰める。 追问。

「なぁ、何してんだ。潔世一」 “喂,你在干什么呢。洁世一”

 目の前の人間。目の前の怯えている、いや、困っている顔をして、焦っている人間。悪事が探偵に暴かれる前の犯人のように、口をぱくぱくとさせて。この場合、糸師冴が名探偵で、コイツは裁かれるべき真犯人とでも言うべきか。
眼前的人。眼前那张带着恐惧,不,是困扰的脸,显得焦急万分。就像恶行即将被侦探揭露前的犯人一样,嘴巴不停地一张一合。在这种情况下,糸师冴可以说是名侦探,而这人则是应当受到审判的真凶。

 潔世一は糸師冴の姿を見て、「やっちまった」と正直な顔が穏便に伝えていた。
洁世一看到糸师冴的身影,脸上露出了坦诚的表情,仿佛在说:“这下糟了。”


◾︎

「凛の事、運命だと思って。ちょっとだけ、気になっちゃっただけで」
“我觉得凛的事,是命中注定的。只是稍微有点在意而已。”

 潔世一は気まずそうに言った。 洁世一尴尬地说道。
 ここは、潔世一のボロっちぃ家である。冴が潔をとっ捕まえて家までお邪魔した次第。
这里是洁世一的破旧家。冴把洁抓住并带到了家里。

 そうして潔は目をウロウロとさせて、冴に詰められ涙目になっている。
于是洁的眼睛四处游移,被冴逼得泪眼汪汪。

 これは大変庇護欲を感じさせる顔である。思わず柴犬味を感じた冴は、潔世一の頬をムニムニとしてしまった。しょうがない、こいつはもしかしたらとんでもない蜘蛛かもしれねぇ。いつものサッカーしてる時とのギャップで人を絡めとっていく男なのである。
这是一张让人感到强烈保护欲的脸。冴不由得感受到了柴犬的味道,忍不住轻轻捏了捏洁世一的脸颊。没办法,这家伙说不定是个不得了的蜘蛛。他总是利用平时踢足球时的反差来缠住人。

 冴は気を引き締めた。自分の身は自分で守らねば。愚弟もこの男に首ったけなのである、自分もこの男と話していていつどういう気分になってしまうのか予測もつかない。
冴决心坚定起来。自己的安全必须自己守护。愚蠢的弟弟也完全被这个男人掌控,自己和他交谈时,也无法预料何时会陷入何种情绪。

 糸師冴は、居心地の悪そうにしている潔世一を見て先程潔世一の事を捕まえた時の事を思い出す。
糸师冴看着似乎感到不舒服的洁世一,回想起刚才抓住洁世一时的情景。

 冴は凛に目星をつけて、今朝から凛の事を尾行していた。その時に、『やはり』こいつを見つけたのである。
冴从今天早上开始就盯上了凛,一直在跟踪她。就在那时,他发现了“果然”是这家伙。

 潔世一は、マスクに、黒いサングラス。そうして黒いパーカー。どこをどう見ても怪しい格好で、きっとこんなのがコソコソいたら100パーセント通報されているであろう出で立ちをしていた。
洁世一戴着口罩,黑色的太阳镜,还有黑色的连帽衫。无论怎么看都是可疑的装扮,如果这样偷偷摸摸地行动,百分之百会被举报的。

 あきらかにあやしい。バカかお前、もっと上手くやれ。こんなの探偵が推理するまでもなく、その辺の大阪のオバチャンでもひっ捕らえてしまうことだろう。やりがいの無いことだ。これがもしかして巷で噂のやりがい搾取? 違うか。
明显很可疑。你是不是傻啊,做得更好点。这种事根本不需要侦探推理,随便一个大阪的大妈都能抓到吧。真是没劲。这难道就是传闻中的榨取乐趣?不对吗。

「ふん。凛のストーカーをすることを、運命と定義したか。中々強引で悪くない」
“哼。把对凛的跟踪行为定义为命运吗。倒是挺强硬的,不错。”

「何その変態ソムリエみたいな言い方? というか、ちっ、ちがくてぇ!!!ほんと、本当に違くて」
“什么啊,那种变态品酒师一样的说法?而且,才不是,才不是那样!!!真的,真的不是那样。”

「ストーカーしてたのに?」 “你之前在跟踪别人吗?”
「してないって言ってるだろ!」 “不是说了没做吗!”
「じゃスマホ見せてみろ」 “那把手机给我看看”
「ぎゃっ!!!」 “呀!!!”

 冴はソファに座ってもじもじとしながら言い訳をしている潔にかまわず、無防備で机に置いてあった潔世一のスマートフォンを奪い取った。
冴不顾洁的辩解,坐在沙发上扭捏着,趁其不备夺走了放在桌上的洁世一的智能手机。

 潔世一はアタフタとしながらどうにか冴からそのスマートフォンを奪い返そうとしているが、この俺に勝てるわけがない。
洁世一一边慌张地试图夺回那部智能手机,但怎么可能赢得了我。

「暗証番号」
「言うわけなくね?」 “这不是理所当然的吗?”
「凛……の誕生日は、9月9……」 凛的生日是 9 月 9 日

 試しに冴が『0909』と入れてみると、見事に開いた。流石ストーカー様々である。ストーカーの考えることなんて、本当に分かりきっていて面白みもない。
试了一下冴输入“0909”,果然成功打开了。真不愧是各种跟踪狂。跟踪狂的想法,真是完全明白,毫无趣味可言。

「な、なんで開いたのぉ?!」 “咦,怎么开了?!”
「知るか。お前が凛の事好きすぎるだけだろ」 “我怎么知道。你只是太喜欢凛了吧。”
「すッッっっ?!! ち、ちげーし! そんなんじゃねーし! パスワードも全然ぜんぜん、深い意味ないし!」
“什、什么?!! 才不是那样! 密码也完全没有完全没有深层含义!”

 潔世一が本当に真っ赤にして焦っている間に、糸師冴は写真フォルダを開く。そうして、普通に引いた。
洁世一真的急得满脸通红时,糸师冴打开了相册。然后,他很自然地翻阅起来。

 なるほどこれはやはり、『糸師凛』の盗撮写真の宝庫であった。
确实,这里果然是“糸师凛”偷拍照片的宝库。

「やっぱお前、ストーカー野郎じゃねぇか」 “果然你这家伙,不就是个跟踪狂吗?”
「違うっつってんだろ!」 “都说不是了!”
「じゃあこの写真の数々は何だ。言い逃れできるか? これ見て。百人中百人がストーカー認定するぞ」
“那这些照片又算什么?你逃得掉吗?看看这个,一百个人里有一百个人都会认定这是跟踪狂的行为。”

「これは、情報収集のためなんだよ! ストーカーなんていう不名誉なものじゃない。仕方なかったんです。正当防衛なんですよ冴さん信じてください」
“这是为了收集信息!我可不是什么不光彩的跟踪狂。我也是没办法。这是正当防卫,冴先生,请相信我。”

「信じられるか、馬鹿。ストーカーって、すぐ言い訳する……」
“你信不信,傻瓜。跟踪狂总是很快找借口……”

 糸師冴にとって、情報収集という言葉はストーカーと何が違うのかてんで理解できない。とりあえず尾行しちまってんだからストーカーだろうが。
对于糸师冴来说,他完全无法理解“信息收集”这个词与“跟踪狂”有什么区别。反正他现在就是在尾随别人,那不就是跟踪狂吗?

「ストーカーは不名誉すぎる。パパラッチに変更してください。冴おにいちゃん」
“跟踪狂太不光彩了。请改成狗仔队吧。冴木哥哥”

「パパラッチでも同じだろうがよ。潔、もうストーカーから義弟気取りか? 悪くねぇ。もっと言え」
“狗仔队也一样吧。洁,你这是从跟踪狂变成小舅子了吗?不错啊,继续说。”

「冗談だろお兄様」 “开玩笑的吧,哥哥。”
「お兄ちゃんのが良い」 “哥哥的更好”
「ちょっとキモ…凛の兄貴じゃなかったら追い出してた……」
“有点恶心……如果不是凛的哥哥,早就赶出去了……”

「ストーカーに言われたくねぇな。その言葉まんまお返しする」
“不想被跟踪狂这么说。原话奉还。”

 軽快なリズムの会話。冴は、まぁこいつはストーカーという前科はあるが、そんなことを踏まえても糸師凛のパートナーに最も相応しい男であると思っている。
轻快的对话节奏。冴认为,虽然这家伙有跟踪狂的前科,但即便考虑到这一点,他仍然是与糸师凛最为相配的搭档。

 あの頭のおかしな弟と喋れる上に仲良く出来ているのだ、義弟にしても何ら不足はない。それに、凛が潔世一以外と一緒にいる所すら見たことがないのだ。
那个脑袋有问题的弟弟能和他聊得来,关系也很好,作为妹夫没有任何不足。而且,我甚至没见过凛和洁世一以外的人在一起。

 でもやっぱりストーカーをするのはやめてやって欲しいとも思う。そんなことをするのなら、あの一人で可哀想な弟とデートでもしてやって欲しい。切実に。
但我也真心希望你能停止跟踪行为。如果非要这么做,我恳切地希望你能去和那个可怜的、独自一人的弟弟约会。

「で」
「え?」 “诶?”
「今、何してる」 “现在在做什么?”
「……今は、昨日の残りのご飯を温めるところです」 “……现在,我正在加热昨天剩下的米饭。”
「ふうん」 “嗯”
「お腹空いたので……」 “肚子饿了……”
「ほう」 “哦”
「話の途中にごめんね…?」 “对不起,打断一下…?”

 潔世一が急に立ち上がってレンジで何かをチンし始めたので聞いてみると、どうやらこの男、おなかがすいたらしかった。マイペースすぎる。問い詰めるとしょもしょもとお腹を撫でながら悲しそうにしていた。目線はレンジのままである。
洁世一突然站起来,在微波炉里加热什么东西,我一问才知道,看来这家伙肚子饿了。真是太我行我素了。我追问时,他一边抚摸着肚子,一边显得很悲伤。视线始终停留在微波炉上。

 やはり凛が望むイカれたエゴイストである。ストーカーだと詰め寄られている時に、自分の腹の具合を心配するとは。
果然凛所期望的是个极端自私的人。在被指责为跟踪狂的时候,还在担心自己的肚子状况。

 もし今この瞬間冴が警察にでも突き出したらこの男はどんな顔するのだろうとふと思う。
如果此刻冴突然向警察举报这个男人,他会露出怎样的表情呢?

 しないけれど、でも糸師冴がしないということを潔世一に完全に理解されているのは悔しい。
虽然不会做,但糸师冴不做的事情被洁世一完全理解,这让人感到不甘心。


「……警察に言うか」 “……跟警察说吗?”
「ちょっっごめんて! 食べないから!」 “对不起!我不吃!”
「本当に食べたくないのか」 “真的不想吃吗?”
「ぐう! 本当は食べたいです。ほかほかスパゲティさまを」
咕!其实我很想吃。热腾腾的意大利面大人。

「よろしい。ただの冗談だ」 “好的。只是个玩笑而已。”
「冴って本当に凛と同じで性格終わってんな…」 “冴姐真的和凛一样,性格都这么极端啊…”
「あ? 1、1、0」 “啊?1、1、0”
「舐めた態度してサーセンっした!」 “用轻蔑的态度说了对不起!”

 冴が携帯を取り出すと、潔世一は腰を直角90度に曲げて謝罪をした。
凛拿起手机,洁世一便深深鞠躬,腰弯成 90 度,表示歉意。

 しかし手には、今まさに温め終わったほかほかのスパゲティを手放さずに。
但手中仍紧握着刚刚热好的热腾腾的意大利面。

 仕方ないので、冴は何も言わずに重く頷く。これは許しのサインである。
没办法,冴什么也没说,只是沉重地点了点头。这是表示原谅的信号。

 それに気付いたのか、潔世一はパッと顔を明るくした。わーっと喜び、犬みたいで嬉しそう。こんなの、まさか今現在ストーカーしていた男とは思えない。
察觉到这一点,洁世一突然露出了明朗的表情。他欢呼雀跃,像只小狗一样显得非常开心。这副模样,让人难以相信他就是现在正在跟踪的男子。

 潔世一は、椅子に座った冴の隣に座り、いそいそとスパゲティの皿のサランラップを取り外した。「いただきまーす!」という元気な声が隣で聞こえる。
洁世一坐在冴旁边的椅子上,兴致勃勃地撕掉了意大利面盘子上的保鲜膜。旁边传来了元气满满的“我开动了!”的声音。

 美味しいようで、良かったな。未来の義弟が楽しそうで何より。
看起来很好吃,真是太好了。未来的小舅子看起来很开心,这比什么都好。

「はい。冴も。あーん」 “是的。冴也是。啊——”
「は?」 “啊?”
「……え? なに」 “……哎?什么?”
「ガチか、潔世一……」 “认真的吗,洁世一……”
「どしたのそんな深刻そうな顔をして」 “怎么了,一脸严肃的样子。”
「何をやろうとしてる?」 “你想做什么?”
「え? 美味しい食べ物のおすそ分け。幸せは分け与えた方がいいじゃん。……あっ、そ、そうか。でも、これ嫌か。同じ箸はさすがに嫌か……配慮が足りなかった、ごめんね冴」
“诶?好吃的食物分给你。幸福是分享才好嘛。……啊,这、这样啊。但是,这个你不喜欢吗?用同一双筷子果然还是不行吗……考虑不周,对不起冴。”

「そこじゃない」 “不是那里”

 糸師冴は、心底弟に同情した。まだアイツは自分の気持ちに気付いてないだろうが、絶対に糸師凛が潔の事が好きだということは冴は分かっている。
糸师冴从心底同情他的弟弟。尽管那家伙可能还未意识到自己的感情,但冴清楚地知道,糸师凛绝对喜欢洁。

 そんな恋愛初心者糸師凛が、もし自分の気持ちに気付いた上でこいつがこんな事をやっていると知ったら、脳みその血管が切れて脳出血を起こしてしまいかねん。
如果恋爱初学者糸师凛意识到自己的感情,并且知道这家伙在做这种事,恐怕会脑部血管破裂,引发脑出血。

「……最悪な男だな、潔世一は」 “……真是个糟糕的男人啊,洁世一。”
「究極の罵倒。傷ついちゃうよ流石に俺も」 “终极的骂人话。连我也觉得受伤了,真是厉害。”
「ん」
「お! 冴、おいし?」 “哦!冴,好吃吗?”
「うめぇ」 “好痛”
「えへ、良かったぁ!」 “诶嘿,太好了!”

 それはそれとして、目の前にスパゲティが差し出されたら食べる。これは当然の摂理である。ライオンだってそうする。
那是另一回事,如果眼前端出了意大利面,就会吃掉。这是理所当然的道理。即使是狮子也会这么做。

 特に罪悪感なんてものは無い。凛と違って、(まぁ凛は自分の気持ちに気付いていないようだが)冴は潔世一に対して恋愛的下心を持ち合わせていないからである。
特别没有罪恶感。与凛不同(嘛,凛似乎还没有意识到自己的感情),冴对洁世一并没有恋爱的心思。

 あるのは、潔世一の小動物的癒しへの心地良さだけ。
存在的只是洁世一那小动物般的治愈感所带来的舒适。

 何だか冴の携帯の音がブーブーとなっていたが、潔世一のスパゲティを食べるのに忙しいのだ、俺は。
总觉得冴的手机发出了嘟嘟的声音,但我正忙着吃洁世一的意大利面呢。

 そうして、交互にそのスパゲティを食べながら、冴は部屋の内情を観察する。
于是,冴一边与对方交替吃着那盘意大利面,一边观察着房间的内部情况。

 外から見ても思っていたが、やっぱり。 从外面看也觉得是这样,果然。

「……ずっと思ってたが。この家、ボロっちいな。お前金あるだろ。実家は?」
“……我一直这么想。这房子,也太破旧了吧。你不是有钱吗?老家呢?”

「お。そこ気づいちゃう? 実家にもちゃんと行ってるよ」
“哦,你注意到啦?我确实有好好回老家呢。”

「へぇ」 “嘿”
「ただあれ。ちょっと実家がさ、特定されちゃって。冴にもあるだろ」
“就是那个。我老家啊,被特定出来了。在冴那里也有吧。”

「あぁ。よく聞く話だ」 “啊,这种事经常听说。”
「俺、何かよくわかんねーけど、最近記者に張り付かれることが多くって。それで、家に迷惑かけたくないからさ。ちょっとだけ寝泊まりする部屋探したいなーと思って」
“我虽然不太清楚怎么回事,但最近老是被记者跟踪。所以,我不想给家里添麻烦。想找个地方暂时住一下。”

「思って、ここにした、と?」 “想着,就选了这里,是吗?”
「うう、断れなくて……」 “呜呜,没法拒绝……”

 潔世一が言うには、不動産会社に泣いてお願いされたのだとか。もう無料でもいいので住んでください、と。かつてここで首吊り事件があり、ずっとずっと売れずに残っていたので困り果てていたとかなんとか。
洁世一说道,是房地产公司哭着求他的。他们说,即使免费也行,请住在这里吧。据说因为这里曾发生过上吊事件,一直一直卖不出去,所以非常困扰。

 世一は、まぁ日本にいるのもちょっとの間だけだからな〜……と泣いてる不動産会社の人に同情をしてしまい、まんまとこの部屋に過ごすことになってしまったという事のあらましだ。
世一在日本待的时间并不长,因此对哭泣的房地产公司人员产生了同情,结果就这样住进了这个房间,事情的大致经过就是这样。

 
「嫌なことを聞いた。ここ、事故物件かよ」 “听了件烦心事。这里,是事故房吗?”
「いやでも、何もないよ。ポルターガイストとか見た事ねぇし……ちょっと視線を感じるだけだし」
“不,什么都没有。我也没见过什么幽灵……只是感觉有点视线而已。”

「立派な怪異じゃねぇか。凛をここに連れてきたことは?」
“这不是挺厉害的怪异吗?把凛带到这儿来是为什么?”

「ある訳ない。凛ちゃん怖がらせちゃ悪いだろ」 “不可能的。吓到凛酱可不好吧。”
「凛は心配だけど俺はいいってか? はっ、とんだエゴイストだ」
“凛是担心,但我没事,对吧?哈,真是个自私的家伙。”

 冴は笑って、潔世一の頭をぐりぐりとする。愛のムチだ。ただの友人同士の戯れでしかない。世一は冴にぐりぐりされながら、「やめてぇー! あはは、ごめんって!」ときゃらきゃら笑っていた。
冴笑着,用力揉搓洁世一的头发。这是爱的鞭策。只不过是朋友间的嬉戏罢了。世一在被冴揉搓的同时,咯咯笑着说:“别这样啦!啊哈哈,对不起嘛!”


 しかしこの瞬間、ふと糸師冴は思い出す。頭が冷えて冷静になる。
然而在这一刻,糸师冴突然想起了什么。头脑冷静下来,变得清醒。

 そうして、こいつ、この潔世一という男が嘘をついているのかもしれないとも思った。可愛い顔をしてるくせして、中身がまるで読めない。
于是,我也开始怀疑,这个叫洁世一的家伙可能在撒谎。明明长着一副可爱的脸,内心却完全捉摸不透。

 糸師冴は、『違和感その一』の事を思い出したのだ。何で忘れていたんだろう。
糸师冴想起了“违和感其一”的事情。为什么之前会忘记呢?

 この部屋は、だって、凛の家と近すぎる。 这个房间,因为离凛的家太近了。
『窓を開けてここから見上げれば見える』位置に、糸師凛のマンションの一室があるのである。
打开窗户,从这里抬头望去,就能看到糸师凛的公寓中的一间房间。

 普通に考えて、だって、こんなボロっちい部屋に潔世一が住むわけが無い。潔世一は普通に金を持っている。
普通想来,洁世一怎么可能住在这种破旧的房间里。洁世一通常是有钱的。

 だからこそ、こんなリスクもクソもない部屋を、何かの有益な利益が無いと選ぶはずがないと糸師冴は思うのだ。
正因如此,糸师冴认为,没有这种风险或问题的房间,如果没有某种有益的利益,是不可能被选中的。

「なんでそんな見え透いた嘘をつく。俺はお前がストーカーだって気付いているぞ。別に隠さなくてもいい」
“为什么要说这么明显的谎话。我已经察觉到你是跟踪狂了。不用隐瞒也没关系。”

「な、何を? わかんない。冴、どうした?」 “什、什么?我不明白。冴,怎么了?”
「事故物件なんてのは嘘だろ」 “事故物件什么的,是骗人的吧”
「嘘じゃない……まぁ心霊とか信じれない気持ちはわかるけど。俺も信じてないし」
“不是骗人的……不过,我能理解那种不相信心灵之类的感觉。我也不信这些。”

「凛のためだって言えばいい話だ」 “只要说是为了凛,就能说得通了。”
「ええ……何でそこで、凛が出てくるの?」 “嗯……为什么凛会出现在那里?”
「お前、だって凛のストーカーだろ」 “你也是凛的跟踪狂吧。”
「ストーカーじゃないって何度言えば……凛を尾行し始めたのだって、昨日のことだし」
“我说了多少遍我不是跟踪狂……我开始跟踪凛,也就是昨天的事。”

「……?」
「?」

 話が噛み合わない。糸師冴は、何だか大きな食い違いをしていると感じる。しかし、それが何なのか分からない。
话不投机。糸师冴感觉似乎存在某种重大的分歧,但又不知道那究竟是什么。

◾︎

「うん。俺はやっぱり、凛のことを運命だと思ったんだよ」
嗯,我还是觉得凛是命中注定的。

 潔世一はそこから話した。だって糸師冴と潔世一の間には、埋まらない謎のヒビがある。糸師冴は独自の考えを持っていたし、潔世一も自分の確固たる意志を持っていた。このままでは堂々巡りであると二人とも気付いたのである。
洁世一从那里开始说话了。因为糸师冴和洁世一之间,存在着无法填补的谜之裂痕。糸师冴有自己的想法,而洁世一也有自己坚定的意志。两人都意识到,这样下去只会陷入僵局。

 なのでまずは主張の場所を。弁護人は主張をお願い致します。
那么首先请陈述主张的地点。请辩护人陈述主张。

 そこで問題のすり合わせを行い真実に近づけていくというのが、従来の裁判のやり方である。
因此,通过进行问题的核对来逐渐接近真相,这是传统审判的方式。

「まず凛は…案外可愛くて、優しくって」 “首先凛她…意外地可爱,又温柔。”
「おいおい、それは嘘だろ」 “喂喂,那不是骗人的吧?”
「むむむ……!?」 “嗯嗯嗯……!?”

 糸師冴は一言目から潔世一・弁護人の主張に口を挟んだ。世一は、かけても無い存在しないはずのメガネをクイクイっとする素振りを見せて、不満げな顔をした。口をむいむいとへの字にしている。
糸师冴从第一句话开始就插嘴反驳洁世一律师的主张。世一不满地皱起眉头,做出推眼镜的动作,尽管他并没有戴眼镜,嘴角向下撇成“へ”字形。

「うるさいですよ、コラ! そこ! 喋っているでしょう、潔世一のターンです」
“吵死了,喂!那边!在说话吧,轮到洁世一了。”

「口挟みたくもなるだろ。ストーカーの惚気を聞かせるな」
“听了都想插嘴吧。别让我听到跟踪狂的痴情话。”

「ちがうの! ちゃんと繋がるから待ってて」 “不对!会好好连上的,你等一下”
「嘘つけ」 "别撒谎"
「むーっ! もう、もう! 冴弁護士は本当に意地っ張りで嫌になりますね。裁判長、どうにかしてください」
“哼!真是的,真是的!冴律师真是固执得让人讨厌。审判长,请您想想办法吧。”

「えー、静粛に。では話を続けなさい、潔弁護人」 “咳咳,请大家安静。那么,请继续发言,洁律师。”
「ふふ! はい、分かりました裁判長」 “呵呵!好的,明白了,审判长。”

 冴が裁判長の真似をしてやると、世一は口に手を当てて嬉しそうに笑う。まぁ冴の真似なんてせいぜいちょっとだけ低い声を出してトントンと机を叩いただけだが、それでも潔世一は嬉しそう。一人二役の演技も困りものである。
冴模仿裁判长的样子,世一便用手捂着嘴,开心地笑了起来。虽然冴的模仿不过是稍微压低声音,轻轻敲了敲桌子,但洁世一看起来还是很高兴。这种一人分饰两角的表演也真是让人头疼。

 きゃあきゃあ喜んでくれるやつがいないとこんな事はしない。全く。
哎呀哎呀,要是没有人高兴得不得了,我才不会做这种事。真是的。

「凛はね、絶対に俺が言ったことは忘れないんだ」 “凛啊,我说的那些话,她绝对不会忘记的。”
「ほう」 “哦”
「分析をすると、ささいな雑談の中で、俺が行きたいって言ったら三週間後に俺を拉致してそこに連れてってくれる」
“分析一下,在闲聊中,如果我说我想去,他们就会在三周后绑架我并带我去那里。”

「拉致?」
「うん。あれは……拉致だな! あはは、初めて問答無用で車に詰め込まれた時は死ぬかと思ったんだよ」
“嗯。那真是……绑架啊!啊哈哈,第一次被不由分说地塞进车里时,我还以为自己要死了呢。”

「あいつは本当に生きづらそうな生き方をしてんな」 “那家伙活得真是艰难啊。”
「ほんとにね! そこがいいんだけどな!」 “真的啊!但是那一点才是好的地方呢!”
「流石ストーカー」 “真是个跟踪狂”
「まだ言うか、それ。まぁそんなこんなで結構俺たち、一緒の所に行ったりしていた。遊園地とか」
“还要说吗,那个。总之就这样,我们经常一起去各种地方。比如游乐园之类的。”

「野郎二人で遊園地? よく凛が発狂しなかったな」 “两个男人去游乐园?凛居然没发疯,真是难得。”
「連れてきたの凛だしね」 “带来的是凛呢。”
「やっぱ惚気言いたいだけか、潔」 “果然只是想表白啊,干脆。”

 糸師冴はゲンナリとした。どこに愚弟と潔がイチャイチャしている話をニコニコで聞ける兄が居るというのだ。俺が知りたいのは、何故潔世一がそうまでして自分はストーカーでは無いと言い張る理由だけである。
糸师冴感到无奈。哪里会有哥哥能笑眯眯地听弟弟和别人卿卿我我的故事呢?他只想知道,洁世一为何如此坚持声称自己不是跟踪狂。

「でも…うーん、そうだな。それ以外でも、なんか会うのが多くなってきたんだよ」
“但是…嗯,是啊。除此之外,感觉见面的次数也变多了。”

「へぇ?」 “诶?”
「バー、飲み会、まぁ色んなところで凛と会うようになった」
“在酒吧、聚会上,总之在各种场合都能遇到凛了。”

「……」 “……”
「服だってそうだ。だんだん、凛となんか系統が似てきて。凛ってばなんでも似合うから。いや思い出してきた。冴覚えてる、あの時の凛の服、めっちゃ良くなかった? 黒いシック系の……」
“衣服也是这样。渐渐地,和凛的风格越来越像了。凛穿什么都好看。啊,我想起来了。冴你记得吗,那时候凛穿的那件衣服,不是特别好看吗?黑色的,很时髦的那种……”

「話脱線してきてるぞ」 “话题跑偏了啊。”
「おお、ごめん。でもさ、何かさ、凛と会うの多くなって。これって、運命なのかもって嬉しくなってきて。だって前、ショッピングモールのトイレで出会った時もあったんだぞ、俺たち。面白くってさ」
“哦,对不起。不过啊,最近和凛见面的次数变多了。我开始觉得这可能是命运,感到很开心。毕竟之前我们还在购物中心的厕所里偶遇过呢,真有意思。”

 糸師冴はとても嫌な予感がした。なるほど、この話を聞く限り、潔世一が糸師凛と出会っていたのは、全くの偶然だったらしい。
糸师冴感到一种非常不祥的预感。确实,从听到的这些话来看,洁世一与糸师凛的相遇似乎完全是偶然的。

「それで、俺、気付いたんだ。ぐぅ、口にするの超恥ずかしいけど…」
“于是,我注意到了。呃,说出口真是超级害羞的……”

 潔世一は顔を赤らめる。恥ずかしがって、そうしてパタパタと顔を手で仰いだ。
洁世一脸红了。他害羞地用手掌遮住了脸,不停地扇动着。

「俺、凛が好きなんだって。凛って本当にかわいい。こんなに全てが合うなんて、運命でしょ? だから、凛のこともっと知りたくなって…つい一日尾行しちゃったんだ。ストーカーって言われたのは心外だけど」
“我喜欢凛。凛真的很可爱。我们这么合拍,一定是命中注定吧?所以,我越来越想了解凛……不知不觉就跟踪了她一整天。虽然被说是跟踪狂让我很受伤。”

 潔世一はそうして、とろりと笑った。恋する乙女のような顔である。
洁世一就这样,露出了柔和的笑容。脸上带着如同恋爱中的少女般的表情。



単純接触効果、というものがある。 有一种现象叫做单纯接触效应。

【単純接触効果とは、繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果。1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが論文にまとめ知られるようになった。ザイアンスの単純接触効果、ザイアンスの法則、ザイアンス効果などとも呼ばれる。】
【单纯接触效应是指,反复接触会使好感度或印象提高的效果。1968 年,美国心理学家罗伯特·扎伊翁茨在其论文中总结并广为人知。也被称为扎伊翁茨的单纯接触效应、扎伊翁茨法则或扎伊翁茨效应。】

 好きな人には会いたい。そうして何度も会ったら、今までよりも好感が高まるなんて、なんといい事であろうか。
喜欢的人,总是想见面。这样多次相见后,好感度比以往更高,这是多么美好的事情啊。

 潔世一と糸師凛はこの定理のもと、ここ最近毎日のように会っていたので好感は高まっていくばかりだと言えよう。なんと素敵でハッピーなことか。
洁世一和糸师凛在这个定理的基础上,最近几乎每天都会见面,可以说他们的好感度在不断上升。多么美好和幸福的事情啊。


 そしてもうひとつ、『ミラーリング』というものもある。
还有一样东西,叫做“镜像”。

【ミラーリングとは、まるで鏡を見ているかのように相手と同じ行動を取ることで親近感を抱かせる心理学の法則の1つである。】
【镜像效应是指,就像照镜子一样,采取与对方相同的行动,从而产生亲近感的心理学法则之一。】

 これは、好きな人の真似をしたい、そうして相手を見て、相手の振る舞いを真似ることで、相手はこちらを鏡に映る自分を見ているような錯覚に陥る。
这是想要模仿喜欢的人,通过观察对方并模仿对方的行为,使对方陷入一种错觉,仿佛在镜中看到了自己。

 そうして、好意を持たれやすくするというものである。ミラーリングのミラーは鏡。
这样一来,就容易被人抱有好感。镜像的“镜”就是镜子。

 潔世一と糸師凛は、ここの所全くもって同じような服を着て、同じような振る舞いをしていた。それこそどこぞのカップルのように。
洁世一和糸师凛最近总是穿着相似的衣服,行为举止也如出一辙,简直就像某对情侣一样。



 糸師冴は思った。もし名探偵なら、この場合どうするのか。糸師冴は、自分の持っていた固定観念が全て180度違ったことを知る。
糸师冴想,如果是名侦探的话,在这种情况下会怎么做呢。糸师冴意识到,自己所持有的所有固有观念全都与事实 180 度相反。

 なるほど、だから潔世一とこうも食い違う訳だ。 原来如此,难怪和洁世一会有这么大的分歧。

 糸師冴は、ずっと潔世一が糸師凛の事をストーカーしているのだとばかり思っていた。だって、何度も何度も潔に会うから当然だ。
糸师冴一直以为洁世一在跟踪糸师凛,毕竟他多次与洁相遇,这很自然。

 そしてこれは、きっと潔が仕組んだことなのだろうとばかり考えていた。
于是,我便一直认为这一定是洁策划的事情。

 その考えに囚われていた。 他被那个想法困住了。
 それ以外があるなんて思いつかなかった。 没想到还有其他的。

「潔世一。ついてこい」 洁世一。跟我来。
「え、なに。ここ俺の家なんですけど……」 “哎?什么?这里可是我家啊……”
「お前の寝室、どこだ?」 “你的卧室在哪儿?”
「寝室? そこに行きたいの、冴」 “卧室?我想去那儿,冴。”
「あぁ。案内しろ」 “啊。带路吧。”
「傍若無人なヤツめ…! まぁ、減るもんじゃないし、いいぜ」
“这家伙真是旁若无人啊…!不过,这种人也不会少,算了。”

 潔世一は、「こっちだよーさえーこっちー」と軽い足取りで冴を手招きする。そんなに言わなくてもついてくるのに。
洁世一轻快地踏着步伐,向冴招手喊道:“这边哦——冴——这边——”明明不用说那么多,他也会跟过来的。

 何の下心もない、無防備な背中である。こんなだからこんな目にあうのだ、潔世一という男は。
没有任何企图,毫无防备的背影。正因为如此才会遭遇这样的命运,洁世一这个男人啊。

 そうして潔世一は寝室の扉をあけた。 洁世一打开了卧室的门。

「じゃーん! 結構散らかっててごめん。人来るって思ってなかったから」
“哇!有点乱,不好意思。没想到会有人来。”

「別にいい」 “没什么”

 そう言って冴は、当たりを見渡す。 冴说着,环顾四周。
 冷たい目線だった。くまなく、何にも見落とすことの無いように。この考えがどうか現実にならないようにと願わずには居られない。
那目光冷冷的。无所不察,不漏掉任何东西。我无法不祈祷这种想法不要变成现实。

 だって身内から犯罪者を出すのは勘弁だ。倫理観というものを一から叩き込まなければならなくなる。
毕竟从自己人中出现犯罪者是难以容忍的。必须从头开始灌输伦理观念。

―――しかし。嫌な予感は女神様の力によって大抵は当たってしまうものだ。
——然而,不祥的预感往往因女神的力量而大多成真。

 糸師冴はポスターの端っこの方。そこに小さな穴を見つける。そう、見つけてしまった。最悪すぎる。自分の視力が良い眼球が嫌になる。
糸师冴在海报的边缘处。他在那里发现了一个小洞。是的,他发现了。糟糕透顶。他对自己良好的视力感到厌恶。

 いや、普通に考えてポスターに穴なんてあるわけないだろう。でも、それにはあった。
不,按常理来说,海报上怎么可能会有洞呢。但是,那里确实有。

 潔世一は気づいていないのかもしれない。だって壁に付けられた装飾品は、壁に張り付いた瞬間から日常を彩るオブジェクトに変わるのだから。
洁世一可能没有注意到。因为一旦被贴在墙上的装饰品,从那一刻起就变成了点缀日常的物品。

 いつも見ている光景を疑うことは難しい。 总是怀疑自己所见之景并非易事。
 これは第三者でありながら全てを疑う糸師冴だから気づけたのかもしれない。
尽管身为第三方,糸师冴却能察觉到一切的疑点,这或许是因为他总是怀疑一切。

「おい」 “喂”
「なにぃ?」 “什么?”
「ベッドに寝転べ」 “躺在床上”
「いいけど……」 “可以是可以……”

 潔世一は無防備に、糸師冴に言われるがまま、ゴロンとベッドに横になった。
洁世一毫无防备地,任由糸师冴摆布,咕咚一声躺在了床上。

 潔は天井をぽけぇっとした顔をしながら見つめている。呑気なヤツめ。
洁正呆呆地望着天花板。这个悠闲的家伙。

 糸師冴はそんな姿を見つめながら、自分の黒のシャツをプチンプチンと脱いでいく。ゆっくりと、時間をかけて。部屋中に見せつけるように。それは何とも扇情的な様子であった。
糸师冴一边注视着那样的姿态,一边缓缓地、不紧不慢地脱下自己的黑色衬衫,仿佛要让整个房间都看到这一幕。那样子实在是充满了挑逗性。

 普通の女なら、期待して濡れる所であろう。それくらい糸師冴は糸師凛と同じように美しくこの世のものとは思えないほど顔が整っている。
普通的女孩子,大概会因为期待而湿润吧。糸师冴和糸师凛一样,美得让人难以相信这是世间应有的面容。

 ぎぃ、とベッドが軋む音がした。冴が、潔世一の寝ているベッドに乗り上げたのである。
"嘎吱"一声,床板发出了响声。凛踏上了洁世一正在睡觉的床。

 糸師冴は潔世一に覆い被さる。そうして、後ろからはすっぽりと潔世一の顔が見えなくなった。そう、「ポスター」の方向からは、きっと今、糸師冴が潔世一を襲っている様子しか見えていない。
糸师冴覆盖在洁世一身上。这样一来,从后面完全看不到洁世一的脸了。没错,从“海报”的方向看去,现在肯定只能看到糸师冴袭击洁世一的样子。

「暑くなった? 冴。冷房つけようか」 “热了吗?冴。要不要开空调?”
「この、大バカまぬけめ」 “这个大笨蛋蠢货!”

 糸師冴はクスリと笑った。何ともまぁ気の抜けることで。そうして、このマヌケをどうしてやろうかと思った。
糸师冴轻声笑了。真是让人泄气的事啊。然后,他在想该怎么对付这个傻瓜。

 ひとまず、酷い目に合わされてはいけないので、どこかに避難させるか……どうしようか。
暂且不能让她遭受不幸,得找个地方让她避难……该怎么办呢?

 糸師冴は、糸師凛の圧倒的な執着心を知っている。こんなマヌケがそれに到底耐えられるとは思えない。
糸师冴知道糸师凛有着强烈的执着心。他觉得这个愚蠢的家伙根本无法承受那种执着。

 きっと共倒れしてしまうのだ。凛の言うことを全部聞いてしまうことになる。そんなのはいけない。
一定会一起倒下。结果会听从凛的所有话。那样是不行的。

「潔」
「なんだよ冴」 “什么呀,冴”
「忠告だ。凛はやめとけ。お前の手に負えない。アイツは俺が躾ける」
“给你个忠告,凛的事你别管了。你应付不了他,那家伙由我来调教。”

「どういうこと?」 “什么意思?”

 潔世一はいつだって、真っ直ぐすこやかに、誰にも邪魔されずにサッカーをしなければならない。
洁世一必须始终不受任何人干扰,健康地、笔直地踢足球。

 糸師冴はこんなにも狂っている愚弟と違って恋愛感情なんてものは微塵もなかったが、それでもクルクルと表情の変わる愉快な潔世一を弟分のように可愛がる気持ちの情はあった。
糸师冴虽然与这个疯狂的愚蠢弟弟不同,对恋爱感情毫无兴趣,但他对表情多变、活泼可爱的洁世一,却有着如同对待弟弟般的喜爱之情。

 なので、潔が怖がることはいけないと、それだけは確かに思う。
所以,我觉得确实不能让洁感到害怕。

「……もし」 “……如果”
「もし?」 “什么?”
「糸師凛が、俺の弟だが、アレがどうしようもなく狂っていたらどうする。お前、好きでいつづけることなんて出来んのか」
“糸师凛是我弟弟,但如果他真的无可救药地疯了,你该怎么办?你还能继续喜欢他吗?”

 糸師冴はそう聞いた。でも聞いて少し後悔した。馬鹿な潔の事だ、きっと、こいつは「出来る」と言うのだと思う。こんな純粋なもん、アイツの隣に置いておけねぇ。心配すぎて胃に10個穴が空いて事しまうだろう。
糸师冴听到了那句话。但听完后他有些后悔。他觉得洁真是愚蠢,这家伙肯定会说“能做到”。这么纯粹的人,不能放在那家伙身边。担心得胃都要穿出十个洞了。

「―――できるよ!」 “———可以的!”

 潔世一がそう言った瞬間、ドンドンドンドンドンと鈍く響く音が玄関からした。
洁世一说完那句话的瞬间,玄关处传来了沉闷的咚咚咚咚声。

 殺意のある音だ。殺意がないと、こんなにも地響きと鳥肌が立つわけが無い。
那是充满杀意的声音。如果没有杀意,就不会引起如此强烈的地鸣和鸡皮疙瘩。

 執着、増悪、殺してやるという明確な殺意。それがドアの向こうから聞こてくる。
执着、加剧、杀了你,这明确的杀意,从门的另一边传来。

「見てくるから、部屋で待ってろ」 “我去看看,你在房间里等着。”

 冴は潔にそう一言告げる。奥から、愚弟の怒鳴り声がした。
冴对洁说了这样一句话。从里面传来了愚弟的怒吼声。

「ぶっ殺してやる」 “杀了你”
「クソ兄貴」 “混蛋大哥”
「今すぐ殺す」 “现在就杀掉”
「潔世一、出てこい!」 “洁世一,出来!”
「死ね、殺す、今すぐに」 “去死,杀掉,立刻”

 こんなの警察を呼んだ方が良い。糸師冴は、ベッドからそっと降りる。そうして、玄関の方に向かった。後ろからととと、と潔世一が着いてくる音がする。冴は潔世一へ部屋にいろと言っていたのに。
这种情况下应该报警。糸师冴轻轻地从床上下来,朝门口走去。他听到身后传来潔世一跟着的脚步声。明明已经告诉潔世一待在房间里了。

 来てしまったものはもう仕方の無いので、後ろの潔は見なかったことにして、糸師冴は玄関ドアのレンズからそっと奥の様子を伺ってみた。
既然已经来了,也无法改变,于是洁装作没看见,糸师冴从玄关门的猫眼悄悄窥视屋内的情况。

「ッ、!」 “啊!”

 そこには、じっと無表情で真っ黒な目をしてこちらを見ている糸師凛がいた。凛の髪は暴れたせいか、パサパサと山姥のように舞っていた。
那里,丝师凛静静地站在那里,面无表情,一双漆黑的眼睛直视着这边。或许是头发乱舞的缘故,他的发丝蓬松松地飘扬,宛如山姥一般。

 そして、こちらがレンズで見ていることに気付いたのか、あちらもレンズに目をくっつけて、こちらを見ている。
于是,可能意识到我正通过镜头观察,对方也把眼睛贴在镜头上,注视着我。

 深淵を除く時は深淵もまた覗いているという。まったく、久しぶりに冴はゾワゾワとした得体の知れない恐怖を感じた。
当你凝视深渊时,深渊也在凝视着你。确实,冴久违地感受到了那种令人毛骨悚然的、难以名状的恐惧。

 マジで狂ってやがる、と冴は思う。恋ってものはこんなにも人を狂わせるのか。
冴心想,真是疯了。恋爱这种东西,竟然能让人如此疯狂。

 それなら俺は一生しなくていい。もう、ここまで愚弟の事を悪化させた潔世一にも問題があるのでは無いかと思わずには居られない。
那我就不用做一辈子了。我实在忍不住怀疑,让这个笨蛋弟弟恶化到这种地步的洁世一,是不是也有问题。

 糸師冴は、見たものの余りの光景の衝撃でよろりと数歩後ろに下がった。
糸师冴因所见景象的冲击过于强烈,踉跄地后退了几步。

 すると、次の瞬間、玄関のドアの下側に埋め込まれているポスト―――郵便受けから、ドンッと何か飛び出してきた。
于是,下一瞬间,玄关门下侧嵌入的邮箱——邮便受け中,咚的一声有什么东西跳了出来。

「……終わってらァ」 “……结束了啊”

 それは、確かに美しく尖った『包丁』である。郵便受けの隙間から、こちらを殺そうとしてきやがった。良かった、数歩下がっておいて。本当に最悪なこと極まりない。
那确实是一把美丽而锋利的「刀」。它从邮箱的缝隙中,似乎想要置我于死地。还好,我提前退了几步。真是糟糕透顶。

「―――冴? 凛が、そこにいるの?」 “——冴?凛在那里吗?”

 糸師冴はもうダメだと思った。こんなにも狂ってるやつを潔世一に任せられない。こんなのを渡してしまう時が一番申し訳が無さすぎる。
糸师冴觉得已经不行了。不能把这么疯狂的家伙交给洁世一。在不得不交出这种东西的时候,最感到无地自容。

 糸師冴の名推理。 糸师冴的名推理。
 それは、潔世一が糸師凛のストーカーをしていたのではなく、糸師凛が潔世一のストーカーをしているのだということである。
那意味着,并非洁世一在纠缠糸师凛,而是糸师凛在纠缠洁世一。

 あぁだから、潔世一の行く所々に凛が現れたのか。そうして、部屋にはカメラがあった。
啊,所以凛才会出现在洁世一去的每个地方。而且,房间里还有摄像头。

これで四六時中、潔世一は愚弟によって生活を覗き見られていたのだろう。プライベートなんてあったもんじゃない。
这样一来,洁世一的生活恐怕无时无刻不被他那愚蠢的弟弟窥视着。根本就没有什么隐私可言。

 ならきっと、糸師凛がこの近くに部屋を借りたのは、潔を監視するためであろうか。
那么,糸师凛在这附近租房间,大概是为了监视洁吧。

「潔。落ち着け。今凛は、包丁を持ってやがる」 冷静。现在凛拿着菜刀。
「えっ」 “哎?”
「驚くと思うが、手短に言う。………お前はずっと、凛にストーカーされていた。お前の部屋にはカメラが隠されてある」
我想你会很惊讶,简单来说……你一直被凛跟踪。你的房间里藏有摄像头。

「カメラ……」 “相机……”
「凛はおかしい。だから、どうにか……窓から……どこでもいいが。今すぐ逃げることは出来るか? なぁ、だいじょうぶ、か―――」
“凛很奇怪。所以,无论如何……从窗户……哪里都行。现在能立刻逃走吗?喂,没问题吧,对吧——”

 糸師冴は、潔世一の事が心配になった。 糸师冴开始担心洁世一的事情。
 怖いだろう。だって未だに凛の口から呪いのような増悪的言葉が聞こえてくるし、ドアはけたたましく叩かれている。
好可怕吧。因为至今还能从凛的口中听到像诅咒一样的恶毒话语,而且门被敲得震天响。

 もし自分が潔の立場であったら、そんなことを急に言われても、困る。
如果我是洁的立场,突然被这么说,也会感到困扰。

 先程、どんなに狂っていても好きでいる、と断言したばかりであっても、判断が鈍ってしまうこと間違いなし。
刚才还断言无论多么疯狂都喜欢,但判断力变得迟钝是肯定的。

 だって目の前には、ぶっ殺してやると言わんばかりの男がいるのだから。
因为他面前站着一个仿佛在说“我要杀了你”的男人。

 そうして、冴は、潔世一の顔を振り返った。潔世一が先程からひと言も喋らなくなったので、心配になったのだ。
于是,冴回头看向洁世一的脸。因为洁世一从刚才开始就一句话也没说,这让冴感到担心。

 きっと、震えて、怖がっているだろうと。 他一定在发抖,害怕着吧。
 頭のおかしな愚弟に好かれて、気味が悪がっているのだろうと。
被脑袋有问题的傻弟弟喜欢上了,感觉有点不舒服吧。

 そうして、冴は。 于是,冴她。
 潔を見て絶句した。そうしてその目の前の情報が冴の脳内に行き渡った次の瞬間、くしゃりと口元を歪ませて、笑う。糸師冴は、はははと腹を抱えて、天井に向かって思わず笑わずにはいられない。
看到洁后惊呆了。紧接着,眼前的信息传到冴的大脑中的下一瞬间,他嘴角扭曲,笑了起来。糸师冴忍不住捧腹大笑,对着天花板不由自主地笑出声来。

 それと『同時』に、『潔世一』も大層嬉しそうに、頬を真っ赤にして、肩を震わせて、冴とは逆に丸まるようにして『笑って』いた。奇妙な光景。
与此同时,洁世一也显得非常高兴,脸颊通红,肩膀颤抖,与冴相反地蜷缩着身体在笑。这真是一幅奇妙的景象。

「うふ、うふふふ、くく」 “呵呵,呵呵呵,哼哼”
「ははは、ハハハハ!」 “哈哈哈,哈哈哈哈!”

―――あぁ、良かった! ——啊,太好了!
 とんだ無駄足。これで悲しみ苦しむ人は誰一人居ない。
白跑了一趟。没有人会因此感到悲伤和痛苦。

「ね、くく、ふふ、凛ってば、やっぱ、最高にかぁいいよなぁ。冴、わかるよね? 冴は凛のお兄ちゃんだもん。こんなことしちゃうって、ほんと、可愛すぎる!」
“呐,呵呵,哈哈,凛啊,果然,真是太可爱了啊。冴,你懂的吧?冴是凛的哥哥嘛。做出这种事,真是太可爱了!”

 お生憎様、分かってたまるか。イカれたやつしか分かんねぇだろう。勝手に兄を弟と同じにするな。
真是不巧,我怎么可能明白。只有疯子才会懂吧。别擅自把哥哥和弟弟相提并论。

 まぁ、潔世一の『どんなに糸師凛が狂っていても好き』という言葉。これが嘘偽りのない言葉だということは、今の潔世一の顔を見ていたら分かる。無事に証明された。
嘛,洁世一说的“无论糸师凛多么疯狂,我都喜欢”这句话。看到洁世一现在的表情,就能明白这是他发自内心的真话。这一点已经得到了证实。

 だってここでは、糸師冴の笑いと、潔世一の笑いが部屋中に響き渡っているのだから。
因为在这里,糸师冴的笑声和洁世一的笑声响彻了整个房间。


「ァー、心配して損した」 “啊,真是白担心了。”

 潔世一は、微塵も怖がってなんていなかった。むしろ喜びを胸に抱えている。頭のおかしなやつには、頭のおかしなやつが呼び寄せられるという説は正しいのかもしれない。
洁世一完全没有害怕,反而心中充满了喜悦。或许那种“奇怪的人会吸引奇怪的人”的说法是真的。

 そういう奴らをくっつかせれば世界は幾分か平和になるもの。
如果把那些家伙凑在一起,世界或许会稍微和平一些。

 特大の殺意を向けられて、怖がらないで大喜びをする気色悪ぃ人間は、狂った愚弟にお似合いだ。
面对特大的杀意,不感到恐惧反而大喜过望的恶心人类,正适合那个疯狂的愚蠢弟弟。

 もしかすると、全て潔世一の計算だったのか。ここまで愚弟がおかしくなったのが潔が仕組んだ罠という可能性。それとも、本当の所は糸師凛のせいで、潔世一の方が狂わせられてしまっていたのか。
或许,这一切都是洁世一的算计。愚弟变得如此古怪,可能是洁设下的陷阱。又或者,实际上是糸师凛的错,洁世一反被逼疯了。


 どこからどこまで計算で、どこからどこまでが糸師凛が勝手に行ったのかなんてのは冴には分からない。
冴不知道计算从哪里到哪里,也不知道从哪里到哪里是糸师凛自己擅自做的。

 まぁ別にそんなのはどっちでもいい。だって二人とも頭がおかしいことには変わりは無いのだから。
嘛,那种事情怎样都无所谓。毕竟两个人都是脑子有问题,这一点是没变的。

 

 冴は頭のおかしな弟が、これからの未来二人になっちまうのか、と苦笑した。
冴苦笑着想,难道自己和这个脑袋有问题的弟弟,就要这样成为彼此的未来了吗?

知らない方が良かった。こんなにも狂ってるやつが身近に二人もいるなんて、頭がおかしくなってしまいそう。
早知道就不该了解这些。身边竟然有两个如此疯狂的家伙,简直要让我也变得不正常了。

 でもまぁ本当に心の底から最悪な事なのだが、二人が幸せであるならばいい事なのかもしれない。
但话说回来,虽然这真的是从心底感到最糟糕的事,但如果他们幸福的话,也许也是件好事。


 糸師冴の教訓。 糸师冴的教训。

 探偵の受難。名探偵は、必ずしも真実を全て突き止めるのが良いということでは無い。無為に引っ掻き回すのはやめましょう。
侦探的苦难。名侦探并不一定非要揭露所有真相才是好事。不要再无谓地搅扰了。

 無理に真実を暴くべからず、という事だ。 不可强行揭露真相。

评论

  • アル
    2023年12月14日回信
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  • 田名米

    2人の弟の幸せを願ってる冴にいちゃもお互いに狂っいあってる 凛潔もめっちゃくちゃよかったです!
    冴和一茶在互相疯狂地祝福着彼此的弟弟幸福 凛洁也非常好!

    2023年12月14日回信
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  • りょくちゃ 绿茶
    2023年12月13日回信
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