短編集(冬) 短篇集(冬)
X(twitter)上で参加させていただいた新ワンライへの投稿作品(2024年2月分)を主にまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的新一期投稿作品(2024 年 2 月分)的主要汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请参阅第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
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冬の名残 冬日的余韵
近所の公園を散歩中、道端の雪が溶けかけていることに気付いた。露出した地面の茶色の中に白い蕾を見つけて実感する。もうすぐ春がやってくる。
在附近公园散步时,注意到路边的雪开始融化。在露出的褐色地面上发现白色的花蕾,这才真切感受到,春天即将来临。
頭を擡げた春の兆しを見下ろし、足を止めて潔はもの思いに耽る。
洁抬起头,俯视着春天的迹象,停下脚步陷入沉思。
(こたつ、そろそろ仕舞わねーとだよなぁ) (被炉,差不多该收起来了啊)
潔の自宅にはこたつがある。 洁的家里有一张被炉。
ドイツでは珍しい、純然たる日本風のこたつだ。何を隠そう潔が住居を選ぶ際の決め手になった逸品である。
在德国颇为罕见,是纯粹的日式被炉。毫不掩饰地说,这是洁在选择住所时的决定性因素之一。
仲介業者によれば日本旅行の際に惚れ込んだ先の住人が残していったらしい。そのために一室まるごと作り変えたというほどだ、余程熱を上げていたのだろう。
据中介所说,似乎是前住户在日本旅行时迷恋上后留下的。为此甚至改造了一整个房间,可见当时是多么热衷。
その熱意に感謝を捧げながら、潔はありがたく凍える夜を世話になった。
怀着对这份热情的感激,洁在寒冷的夜晚里得到了温暖的庇护。
これがなければ冬を越せなかっただろうとまで言えば流石に嘘になるが、気持ちの上ではそれに近いものがある。少なくともクラブの寮を出て異国の地で初めての一人暮らしとなった、その環境の変化に対する不安を大いに和らげてくれたことは事実だ。
虽说若没有它就无法度过冬天未免过于夸张,但在心理上确实有接近这种感觉。至少,它大大缓解了从俱乐部宿舍出来,在异国他乡开始第一次独居生活时,对环境变化的不安。
蜂楽や千切を筆頭とした友人たちからも好評で、度々集まってはどんちゃん騒ぎを繰り返した。凪など一度入ったが最後一切こたつから出ようとせず、毎度引っ張り出すのに酷く苦労した。蜂楽はそんなことすら楽しげに笑っていた。
以蜂乐和千切为首的朋友们也对此赞不绝口,经常聚在一起热闹非凡。凪一旦进去就再也不想从被炉里出来,每次都要费很大劲才能把他拉出来。蜂乐对这种事情也乐在其中,笑得十分开心。
しかしそのこたつにも、いよいよ別れを告げる時が迫ってきたというわけだ。
然而,就连这被炉,也终于到了要告别的时候。
ここ最近急激に気温が上がっているのは肌身に沁みてわかっていたが、それでも夜間はそれなりに冷えるため踏ん切りが付かずにいた。
最近气温急剧上升,肌肤深切感受到,但即便如此,夜间依然会相当寒冷,因此一直犹豫不决。
しかしこうして確かな形として目にすると、季節の移ろいに実感が湧く。
但如今亲眼目睹这确凿的景象,季节的变迁便涌上心头。
考えてみればもう暦の上では春なのだ。きっと日本では梅の花が咲いている頃だろう。
仔细想想,日历上已经是春天了。想必在日本,梅花已经盛开了吧。
実家の近くの神社の、立派な梅の木を思い出す。毎年この時期に前を通ると濃い甘い香りがした。自転車を漕ぎながらでもはっきりと分かるほど力強かった。幻が鼻腔をくすぐり、潔は目を細める。
想起了老家附近神社里那棵美丽的梅树。每年这个时候经过时,都会闻到浓郁的甜香。即使骑着自行车,也能清晰地感受到那股强劲的香气。幻觉刺激着鼻腔,洁眯起了眼睛。
うん、とひとつ頷く。やはり春先まで暖房器具を出しっ放しというのは据わりが悪い。戻ったら仕舞おう。結論は出た。
嗯,点了点头。果然,把暖气设备一直开着直到初春,感觉不太妥当。回去后就收起来吧。结论已经出来了。
丁度そのタイミングで、ポケットの中のスマートフォンがメッセージの通知音を鳴らす。取り出したそれに視線を落とし、瞬きをひとつ。
恰在此时,口袋里的智能手机响起了消息提示音。取出手机,目光垂落其上,眨了眨眼。
送り主は糸師凛。 发送者是糸师凛。
内容は、来週潔宅を訪ねる旨が最低限の語句で綴られている。
内容简洁地写着,下周将拜访洁宅。
記憶を辿ったところその日の夜に予定は入っていない。問題ないと判断して了承の言葉を入力し、送る。既読の表示はまもなく付いた。
追溯记忆,那天晚上并没有安排。判断没有问题后,输入了同意的话语并发送。不久便显示已读。
そこまで見届けて、潔は短く息を吐いた。 确认到此,洁轻轻吐了口气。
そして再び思案する。 然后再次陷入沉思。
来訪予定日当日、潔宅。
潔の目前にはこたつが鎮座していた。 洁的眼前,被炉稳稳地坐镇着。
先週仕舞うと決めたはずのこたつだが、冬の間と変わらない姿でそこに堂々と佇んでいる。
本该在上周末收起来的被炉,却以与整个冬天无异的姿态,堂堂正正地伫立在那里。
先週の春めいた暖かさは何処へやら、ここ数日はすっかり冷え込んで今夜は雪まで降っていた。冬が戻ってきた、そんな印象だ。その点を鑑みれば、暖房器具をすぐに使える状態にしていることには充分な正当性があるといえるだろう。
上周那春意盎然的温暖不知去了哪里,这几天彻底冷了下来,今晚甚至下起了雪。给人一种冬天又回来了的感觉。从这个角度来看,保持取暖设备随时可用状态,可以说是有充分的正当性的。
しかし、それは先週の潔が結論を覆したことと直接的には関係していない。
然而,这与上周洁推翻结论的事情并无直接关联。
ならば何故こたつを出したままにしておいたのかというと、これからやってくる男にその理由はあった。
那么为何要将暖桌一直摆出来呢?因为即将到来的男人有这个理由。
恐らくだが、凛はこたつが好きだ。 恐怕,凛是喜欢暖桌的。
潔の新居を初めて訪れて、こたつを目にした時は僅かに瞠目していた。いいだろ、と自慢すれば面白くなさそうに鼻を鳴らして、しかし入ってみれば案の定虜になっていた。少し悔しそうで、けれどこの魔力には抗えない、そんな様子だった。
初次造访洁的新居,看到被炉时,我微微瞪大了眼睛。他得意地说“不错吧”,我却无趣地哼了一声,但一坐进去果然就被俘虏了。他有些不甘心,却又无法抗拒这魔力,那样子真是可爱。
その姿が可笑しくて、懸命に笑いを噛み殺したのをよく覚えている。結局隠しきれなかったそれはバレて、潔はこたつの中で向こう脛を蹴飛ばされて悶絶することになった。
那模样实在滑稽,我拼命忍住笑意,至今记忆犹新。最终还是没藏住,被洁发现了,他在被炉里踢了我的小腿,让我痛得直叫。
以降、凛が来た時にはこたつのある部屋で過ごすのが定番になっている。
从此以后,凛来访时,我们总是在有被炉的房间里度过。
ではこたつが出たままなのは凛のためかというと、それも少し違う。
那么,被炉一直没收起来,并不是为了凛,这一点也有些不同。
凛がなんだかんだと言いながら入り浸り、少しだけ目元を和らげる、その顔を見るのが潔は嫌いではなかった。みかんやらアイスクリームやらを口にしながら、のんびりとその様を眺めて過ごす時間はひどく心地がよかった。
凛虽然嘴里说着各种理由,却总是泡在这里,偶尔眼角会柔和下来,看到那样的表情,洁并不讨厌。一边吃着橘子或冰淇淋,一边悠闲地看着她,这样的时光非常舒适。
それが名残惜しくて、結局潔はこたつを仕舞えなかった。そういうことだった。
因为舍不得这样的时光,结果洁始终没能把被炉收起来。就是这么回事。
結果としては寒の戻りがあったため丁度よかった。大正解と言っていい。
结果因为寒流回潮,天气刚好合适。可以说是大正解。
そんな日にわざわざやってくる凛のことを考えると少々気の毒に思いもするが、それはそれというものだ。せめて万全の暖かさで迎えてやろう。つい一昨日凛が試合で見せた新技についても、是非とも詳しく聞かねばなるまい。
想到凛在这样的日子特意过来,不禁觉得有些可怜,但那也是没办法的事。至少要以万全的温暖迎接她。顺便一提,昨天凛在比赛中展示的新技术,也必须详细询问一番。
こたつの卓上にガスコンロと鍋と一通りのものを用意をして、潔は満足げに頷く。
在暖桌的桌面上准备好煤气炉、锅和一应俱全的物品,洁满意地点了点头。
待ち人の来訪を知らせるブザーの音が響く。潔は足早に廊下を進む。
门铃声响起,告知着访客的到来。洁快步穿过走廊。
ドアスコープの確認すら省いて玄関扉を開く。見慣れた男が、無愛想な面の鼻先を赤く染めて立っていた。
连门镜的确认都省略,直接打开了玄关的门。熟悉的男人站在那里,冷淡的面容上鼻尖微微泛红。