短編集:夏 短篇集:夏
X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2024年5~7月分)をまとめたものです。
这是在 X(twitter)上参与的 One Life 投稿作品汇总(2024 年 5~7 月)。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
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結実 结果
目前、自宅の玄関先に立つ男は白い花束を持っていた。片方の手で一見すると乱雑に、しかしよく見れば最低限の気遣いをともなって。
此刻,站在自家玄关前的男子手持一束白花。一只手看似随意,细看却带着最低限度的体贴。
なにせ迫力のある造形をしている男だから、客観的に見ればその姿も様になっているのだろう。しかし中身の性格をよく知る人間としては違和感が拭えない。
毕竟是个有着震撼造型的男子,客观来看,他的姿态也算得上体面。然而,熟知其性格的人却难以抹去那份违和感。
それでも何度も同じ場面を目にするうちに流石に見慣れてきたような、そうでもないような、微妙なところだった。
尽管如此,多次目睹相同场景后,似乎确实习惯了些,又似乎并未完全习惯,处于一种微妙的境地。
そんなおかしな感慨を抱きながら、潔世一は今日も花を携えてやってきた、糸師凛を出迎える。
怀着这种奇怪的感慨,洁世一今天也带着花来了,迎接糸师凛。
確か、最初は数ヶ月ほど前だったと思う。 确实,最初应该是几个月前的事。
所属クラブは違えども同じ国に拠点を置くようになって、潔は凛と以前にも増して交流を持つようになった。かなり仲良くなった、といって差し支えないだろう。
虽然所属俱乐部不同,但因为都在同一个国家设立了据点,洁和凛的交流比以前更加频繁了。说关系变得相当好,应该没有问题吧。
少なくとも、気軽に互いの家を行き来する関係まで進展したことは確かだった。そんな中、凛の様子が変調を来した。
至少,他们已经发展到了可以轻松互访对方家的关系,这是确凿无疑的。然而,凛的样子却出现了异常。
ある日ドアを開けたら、そこには花束を持った凛が立っていたのである。
某天打开门,只见凛手捧花束站在那里。
潔は当然の如く驚愕した。 洁理所当然地感到惊讶。
別にその日は誕生日でもなんでもなかったし、イベントや祝い事の類も一切思い当たる節がない。強いて言うなら直前の試合で二ゴール一アシストを決めたが、凛がそれを祝うような神経の持ち主だとは到底思えない。
那天既不是生日,也没有任何活动或庆祝的迹象。硬要说的话,就是前一场比赛进了两球一助攻,但凛绝不是那种会为此庆祝的人。
そもそも相手は糸師凛である。世間一般的に花を贈るような祝い事があったとしても、だ。受け渡しの矢印が逆ならともかく、自分に対して凛が、などとはこれまで想像したこともなかった。潔も別に凛にそういった情がまったく存在しないとまで思っているわけではない。ただ、その示し方の問題なのだ。
毕竟对方是糸师凛。即使社会上普遍有送花的庆祝活动,那也是针对别人的。更不用说凛对自己,这种事以前从未想过。洁也不是认为凛完全没有这种情感,只是表达方式的问题。
そんな事態が今、現実として生じているのである。これが驚かずにいられようものか。
这样的事态如今已成为现实。怎能不让人惊讶。
目を丸くする潔に対し、凛はいつもの無愛想な面構えのまま持っていた花を押し付けると、これまで何度もそうしてきたのと同じ通りに潔宅の玄関を潜った。
面对惊讶的洁,凛依旧保持着平时的冷淡表情,将手中的花塞给他,然后像往常一样潜入了洁家的玄关。
慌てて追い掛けて理由を聞くと、凛は一言こう口にした。
慌忙追上去询问理由,凛只吐出了一句话。
べつに。 没什么。
いや、そんなわけないだろ、と潔は思った。 不,不可能的吧,洁这样想着。
しかしその表情は明らかにそれ以上の質問を受け付けてはいなかったので、平和主義者たる潔はああ、そう、とだけもごもごと口にして、おとなしく追求を諦めたのだった。完。
然而那表情显然不再接受进一步的提问,身为和平主义者的洁只好含糊地应了声“啊,是啊”,便乖乖放弃了追问。完。
しかし、本番はそれ以降だった。 然而,真正的考验才刚刚开始。
凛が潔の家を訪れる際、ほぼ毎度花を持ってくるようになったのである。
凛每次拜访洁的家时,几乎都会带上花。
嫌ではない、嫌ではないが困惑はする。しかしまあ、それ以外で凛の様子におかしなところはなかったので、潔はまあいいか、と思うようになった。嫌がらせというわけでもなさそうだし、恐らくこの男独特の好意の表れと解釈していいのだろう。多分。糸師家は日常的に花を贈り合うような家庭だったのかもしれない。
并不讨厌,并不讨厌但还是会感到困惑。不过,除此之外凛的样子并没有什么奇怪的地方,所以洁也渐渐觉得无所谓了。看起来也不像是恶作剧,大概可以理解为这个男人独特的善意表达吧。或许。也许糸师家平时就有互赠花的习惯。
そう収まりをつけて、潔はほぼ常時自分の部屋を飾るようになった花々に慣れていった。
就这样接受了,洁也逐渐习惯了几乎总是装饰在自己房间里的花。
カウンターの右隅、窓からの日差しがよく当たる場所。それが花を飾る定位置だった。花瓶代わりのビールジョッキに、前回凛が持ってきた花が少し萎れた姿で刺さっている。
柜台的右角,阳光从窗户照射进来的地方。那里是摆放花朵的固定位置。代替花瓶的啤酒杯中,插着上次凛带来的花,已经有些枯萎了。
リビングスペースからカウンター越し、キッチンに立つ凛の姿を潔は眺める。
从起居空间透过柜台,洁看着站在厨房的凛。
古い花の交換作業だ。それくらい自分でやる気はあるのだが、これも当然の顔をして凛がやろうとするのでおとなしく任せることにしている。ここまで来ればもう何もかもなすがままだ。
是更换旧花的作业。虽然自己也有意去做,但凛理所当然地想要接手,于是洁便顺从地交给了她。到了这个地步,已经一切随缘了。
向けられた視線を気に留める様子もなく、凛は今回持ってきた花束を一旦横に置く。
凛对投来的视线毫不在意,将这次带来的花束暂时放在一旁。
カウンターに向けて手を伸ばし、ジョッキの取っ手を掴む。持ち上げて手元に移動させる。
他伸手向柜台,抓住啤酒杯的把手。举起杯子,移到手边。
長い指が、萎れた花を引き抜く。茎から水の滴る様をやけに冷えた眼差しで見届けた後、ゴミ箱に打ち捨てた。そしてジョッキを傾け、残っていた水を流しにあける。
修长的手指,拔起枯萎的花朵。冷眼旁观茎上滴水的样子后,将其丢进了垃圾桶。然后倾斜酒杯,将剩下的水倒进水槽。
如何にも手慣れた、澱みない動きだった。つい無心で眺めていた潔は、そこであることを思い出し制止の声を上げる。
动作熟练而流畅,毫无滞涩。洁本是无心旁观,却在此时想起某事,急忙出声制止。
「あ、ちょっと待って」 「啊,稍等一下」
「何だよ」 「什么啊」
「いれもの新しいやつにしたい」 「想换个新的容器」
「…先に言え。さっさと持ってこい」 「…先说啊。快点拿来」
ジョッキを片手に掴んだまま、凛は半眼で告げる。はいはいと返し、潔は早足でリビングを出た。
凛一手抓着酒杯,半眯着眼说道。洁回应着“是是”,快步走出了客厅。
戻ってきた潔はじゃーん、と意気揚々と手に持ったものを掲げる。
回来的洁兴奋地举起手中的东西,得意洋洋地喊道:“看!”
それは新品の花瓶だった。僅かに緑の混ざる青の、鮮やかな色合いが印象的だ。凛は僅かに目を見開く。
那是一个崭新的花瓶。略带绿色的青色,鲜艳的色调令人印象深刻。凛微微睁大了眼睛。
「わざわざ買ったのかよ」 「特意买的吗?」
「その通り! いい加減ビールジョッキに本来の仕事をさせてやりたくてさぁ」
「没错!我早就想让啤酒杯做回它本来的工作了。」
凛に花瓶を渡し、潔は冗談めかして言う。そして軽く目を細めた。
凛接过花瓶,洁开玩笑地说道,然后轻轻眯起了眼睛。
「そんなときにちょうど見かけて一目惚れ、みたいな? まあ正直、ちょっと落ち着かなくなってきたんだよ。折角凛が毎回持ってきてくれるのに、ずっと適当ってのもどうなんだって」
「就像是在那种时候恰好看到,然后一见钟情之类的?说实话,我开始有点不安了。毕竟凛每次都特意带来,我却一直敷衍了事,总觉得不太对劲。」
「…」
「あ、これからも買ってこいって強要するわけじゃないから。単に俺の気分の問題な」
「啊,并不是以后也要强迫你买的意思。只是我心情的问题而已」
凛がふん、と鼻を鳴らした。蛇口を捻り、受け取った花瓶に水を注ぐ。
凛哼了一声,扭开水龙头,往接过的花瓶里注水。
機嫌を損ねたわけではなさそうだった。様子を伺いながら、潔は改めて疑問を口にする。
看起来并没有生气。一边观察着情况,洁再次开口提出疑问。
「つーかその、今更だけど、お前、なんで花くれるようになったの…?」
「话说回来,虽然现在问有点晚了,但你为什么开始送花了…?」
恐る恐る問う潔を、凛はじっと見つめる。その視線はひどく静かだった。
凛静静地注视着小心翼翼提问的洁。她的目光异常平静。
水が溜まっていく音だけが空間に響く。二人の間に、たっぷりとした沈黙が横たわる。やがて、いっぱいになった水が花瓶から溢れ、流れ落ちていく。
只有水滴积聚的声音在空间中回响。两人之间,充斥着满满的沉默。不久,装满的水从花瓶中溢出,流淌而下。
その永遠とも思える時間に耐え切れず、潔はやっぱいいや、と声を上げて問い掛けをなかったことにしたくなる。煩悶し、舌先に言葉をのせようとしたちょうどそのとき、ようやく凛が動いた。蛇口を逆方向に捻って水を止め、口を開く。
在那仿佛永恒的时间中,洁终于忍不住,几乎要喊出“果然还是算了”,想要将这番问话当作从未发生。他烦躁不安,正要将话语置于舌尖的那一刻,凛终于动了。他反向拧紧水龙头,止住水流,然后开口。
「お前の」 「你的」
「あっハイ」 「啊,是的」
「そういうツラを見ると、多少気分がいい」 「看到你那副表情,我心情倒是好了不少。」
潔はぽかんと口を開ける。 洁愣愣地张开了嘴。
凛はこともなげに目を伏せ、花瓶から余分な水を捨てた。そして傍に置いておいた花を取り上げ、生ける。
凛轻描淡写地垂下眼帘,将花瓶中多余的水倒掉。然后拿起一旁的花,插进瓶中。
花瓶の青と、花の白。陽だまりの中で、調和する二色が鮮やかだった。
花瓶的青与花的白。在阳光下,这两种和谐的颜色显得格外鲜艳。
始まりは一瞬の気の迷いだった。潔の家に向かう道中、花屋の前でふと足を止めたのが最初の過ち。視界に入ったのはいつだったか潔から贈られたものと同じ花だった。極めてありふれた薔薇の花。年中行事に託けてそれを日頃の感謝などと抜かして寄越した男の顔が脳裏に浮かび、凛は顔を顰める。
一切的开始只是一瞬间的迷茫。在前往洁家的路上,凛不经意间在花店前停下了脚步,这是最初的错误。映入眼帘的是与洁曾经赠送过的相同的花。极其普通的玫瑰花。那个男人总是借着节日之名,将它作为平日感谢的象征送来,凛不禁皱起了眉头。
そして花に添えられていたカードを捲ったのが、二番目の過ち。花言葉、と記されたそれを見た瞬間、心底吐き気がした。
而翻开花旁的卡片,则是第二个错误。看到上面写着“花语”的瞬间,凛打心底感到一阵恶心。
苛立ちは膨れ上がり、どうあっても気がおさまらない。
焦躁感不断膨胀,无论如何都无法平息。
思い知ればいいのにと思った。この激情を吐き出して叩き付けて、そうしたら潔はどんな顔をするだろう。けれどそうしたところできっと、あの男は何も変わりはしないのだ。
想着如果能明白就好了。将这股激情倾泻而出,狠狠地甩在他脸上,洁会露出怎样的表情呢。但即便如此,那个男人一定也不会有任何改变。
むしゃくしゃする。酷く。 烦躁至极。非常。
せめてなんでもいいから困らせてやりたい、と思って、凛は衝動のまま、気づいたときには花束を持って潔の前に立っていた。
至少想让他为难一下,哪怕是什么都好,凛怀着这样的念头,冲动之下,回过神来时已经拿着花束站在洁的面前。