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すきんしっぷ なるものは - はごろもの小説 - pixiv
すきんしっぷ なるものは - はごろもの小説 - pixiv
13,871字
すきんしっぷ なるものは 什麼是 "Sukinshippu"?
去年夏頃に勢いで書き始め、X投稿用に画像にしたところ8枚に収まらず「長い!恥ずかしい!無理だ!」となって暫く寝かせておいた話をなんとか形にしました。
去年夏天,我一時興起開始寫作,當我把它變成圖片發到X 上時,我無法把它寫進八頁紙裡,於是我說:"太長了!太尷尬了!我做不到!於是我暫時放下了這個故事,設法讓它成形。

魈くんに先生の唇を食んでほしい一心で書こうとしたのですが、旅パイとの可愛い絡みも書きたくなり、このように延びてしまいました。
我想寫的初衷只是想讓阿勇吃掉老師的嘴唇,但又想寫出他和旅行派之間的可愛互動,所以就這樣延伸開來了。


スキンシップを語るにあたり、旅人とパイモンがゲームより更に仲良くなっております。
說到 "皮囊",旅行者和派蒙的關係比遊戲中還要親密。


同人の恥は掻き捨てだ!ということで、投稿失礼します。 
閱讀後續  
3740605
2024年3月20日 20:49

「魈って本当に先生と恋仲なんだよね?」 小雲真的愛上了她的老師,是嗎?
「な、何を突然」 突然之間怎麼了?

口に含み、咀嚼して、今まさに飲み込まんとしていた柔らかな杏仁豆腐が、突然石に変わったかのように喉に引っかかった気がした。
我把它放進嘴裡,嚼了嚼,感覺正要吞下的軟杏凝乳突然卡在喉嚨裡,好像變成了石頭。

ここは望舒旅館最上階の露台、遠くに望むは弧雲閣。晴れ晴れとした空の下、旅館は今日も観光客で賑わいを見せていた。
這是 Moshu 旅館的頂層,遠處是 Kounkaku。今天晴空萬裡,旅館裡擠滿了遊客。

モンドから石門をくぐり南へ向かうと広がる荻草の湿地には、巨大な岩柱の上に築かれた壮麗な旅館がある。碧水の青、大樹の葉の黄、草原と山々の緑が調和した景色を前に、訪れる人々は心を奪われ暫し足を止めてしまう。そうすると、モンドから流れる気ままな風がそっと背中を押し、今夜はあそこで泊まってみないかい?きっといい月が見られるかも、なんて囁き声が聞こえてくる気がするのだ。
荻曾濕地從蒙多穿過石門向南延伸,在巨大的石柱頂端建有一座宏偉的客棧。湛藍的湖水、大樹樹葉的黃色、草原和山巒的綠色,構成了一幅和諧的風景畫,讓遊客駐足片刻,陶醉其中。這時,一陣從蒙多吹來的微風將他們輕輕推回,並詢問他們今晚是否願意留在這裡。你幾乎可以聽到一個聲音在低聲說:『今晚就住在這裡吧,也許能看到美麗的月亮。

そんな旅館の最上階には奇怪な若者がいて、彼が話しているところを見たことがない。このように記したのは、テイワット観光ガイドの著者・アリスである。しかし、その奇怪な若者が最近は異郷の旅人と食卓を囲むこともあるということを、読者は知っているだろうか。
在這樣一家客棧的頂層,有一個陌生的年輕人,從未有人見他說過話。這句話是 Tay Wat 旅遊指南的作者 Alice 寫的。但讀者們是否知道,如今這個奇怪的年輕人有時會與來自其他國家的旅客同桌而坐呢?

さて、石珀……ではなく、杏仁豆腐をなんとか嚥下した魈は、突然の旅人の問いかけに思考を巡らせた。そもそも、[本当に]とはどういうことだ。
現在,在成功吞下杏桃布丁,而不是石琥珀......,葉正突然想到了旅行者的問題。你說的[真的]到底是什麼意思?

鍾離と魈が特別な関係であると旅人が知ったのは、つい最近の出来事だった。
直到最近,旅行者才了解到廖鐘和葉之間的特殊關係。

◇◆◇
少し前……場所は変わらず望舒旅館の最上階で、旅人は鍾離と食卓を囲んでいた。とある任務で鍾離の知識が必要になり、急な頼み事にも関わらず手を貸してくれた彼への礼として、旅人から誘ったのだ。
過了一會兒......,地方還是一樣,在萬樹旅館的頂樓,旅行者們和鍾離圍坐在餐桌旁。旅行者們邀請鍾離加入他們,以感謝他在如此短時間內提供的幫助,因為他們需要他的知識來完成某項任務。

予想外だったのは、鍾離が旅人の想像以上に料理を注文し始めたことだ。言笑は優れた料理人であり、彼の作るものはどれも美味しい。たくさん注文する気持ちも分かる。だが、今日の彼の懐はどうだろう?いつもと変わらず寂しがっているのではないだろうか?
讓人意想不到的是,Jong Liao 點的菜比旅行者想像的還要多。 Jong Liao 是個出色的廚師,他做的每道菜都很美味。我可以理解他為什麼點這麼多菜。但他今天的口袋又是怎麼回事呢?他不是和往常一樣寂寞嗎?

「えーっと……先生、そんなにたくさん頼まれても俺のモラでは足りないんだけど……。もしかして先生が払ってくれるの?この前胡桃からもらった財布はある?」
'嗯,...... 老師,我的莫拉不夠支付這麼多要求。 ……也許老師會付錢呢?你有核桃那天給你的錢包嗎?

「ああ、問題ない。このようにずっと持ち歩いているぞ」
是的,沒問題。我一直這樣帶著它。

そう言って鍾離が取り出した財布は、シンプルなデザインでありながら、持ち手の気品さを際立たせていて、彼の装いにも合う落ち着いた色合いだった。
說到這裡,Jonglei 拿出了一個錢包,錢包設計簡單,突出了手柄的優雅,顏色低調,與他的著裝相得益彰。

「この前は中にモラを入れ忘れて、魈を困らせてしまってな」
上次我忘了把莫拉放在裡面,這讓葉很惱火。

ここにはいない夜叉の名を聞いて、出来たての料理に舌鼓を打っていたパイモンはふと食べるのを止めて口を開く。
聽到一種不在這裡的夜來香的名字,正在享用新鮮食物的派蒙突然停止進食,張開了嘴巴。

「オイラわかったぞ、鍾離は魈を呼ぶためにこんなにたくさん料理を頼んだんだろ!ほら、ここに杏仁豆腐だってあるしな!」
我知道了,鐘力點了這麼多菜來叫你!你看,我這裡還有杏桃布丁呢!

「パイモンは鋭いな、その通りだ」 'Paimon很敏銳,這是肯定的。
「ふふん、だったら早く呼んだ方がいいぞ!オイラが全部食べちゃうからな!」
嗯,那你最好快點打電話給他們!我會吃光的!

急かされた鍾離はそのまま口を開いて彼の名前を呼ぶかと思いきや、旅人の方を向く。
匆匆趕來的宗遼張口如是,轉頭看向旅行者,期待他叫出自己的名字。

「旅人、お前から呼んでみてくれないか?」 

てっきり鍾離に呼び出された魈が颯爽と現れ、片膝をつき、いつもの様に畏まると思っていた旅人はきょとんとする。しかし、不思議に思いはしたが断る理由も特にない。何より、好物である杏仁豆腐を口に含む瞬間の柔らかな表情を早く見たかった。 
そうして、そっと名を呼ぶ。魈、いる?と。 

「何か用か」 

瞬く間に現れた魈は、旅人とパイモンを確認したかと思えば、すぐさま向かいに座る鍾離を凝視し、半歩下がる。それはほんの僅かな時間だったが、2人が何か目で会話をしているように感じられた。 

「……鍾離様もいらっしゃったとは。此度は旅人からの命でございます故、済み次第我は去ります。どうかお気になさらず」 

気のせいだろうか、いつもよりやや早口に感じられる。もしかして、何か焦っている?彼が?口にはしないが頭に数々の疑問符を浮かべていた旅人は、ふと魈に真っ直ぐに見つめられていることに気がつく。要件は何かと、その綺麗な黄金の目が問うている。 

「魈、少し久しぶりだね。実は今日呼んだのは俺なんだけど、俺じゃなくて……」 

どういうことだ?と魈が口を開く前に、鍾離が箸を静かに置いて答える。 

「俺が旅人に頼んだんだ、魈。お前の驚く顔が見たくてな」 
「なっ……」 

魈と旅人の声が重なった。 
これは旅人も予想外だった。実は魈と喧嘩していて、自分で呼び出すのは気まずいから……なんて彼らしくないことを言われた方が余っ程納得できたかもしれない。元、とはいえ彼の岩王帝君が1人の夜叉の顔を見たくて呼び立てるなど、もしここが昔の奥蔵山だったら、帰終と留雲はなんて言うだろうか。 
当の本人はより困惑しているようで、彼にしては珍しく続く言葉が出ないのか、口を小さく開けたまま固まっていた。 

「その様子だと本当に驚いているようだな。ハハッ、良い顔を見られた。旅人よ、感謝するぞ」 

あまり彼をからかわないであげてねと釘を刺したら、きっともっと笑うだろうから、旅人は敢えて彼を横目で見るに留めた。魈が何も言わないことに痺れを切らしたのか、パイモンが小さな体を浮かせてくるりと回る。 

「魈!鍾離は確かにちょっと変なことを言ったけど……お前を呼んだのは、この杏仁豆腐を食べてもらいたいからなんだ!オイラが誰にも食べられないように取っておいたんだぞ!」 

フフンと鼻を鳴らして、さりげなくうまいことを言って場を収めるパイモンに、魈は怪訝な顔をしながらも着席した。 
魈は内心ずっと考えていた。ぐるぐる、ぐるぐると……。彼の真意は何なのか。まさか自分の顔を見る為だけに呼び出したはずはなかろうと。 
彼には一つ、心当たりがあった。それは先日、鍾離の方から「旅人に自分達の関係を打ち明けてもよいか」という確認があったことだ。同じ仙人であり山に住まう旧友達は、恐らく言わずとも気づいているだろう。鍾離が関わり深い璃月港縁の者達には、彼の正体のこともあり話は控えたい。だが諸国を行き交う旅人はどうだ。魈は暫し思考を巡らせた。彼は自分達にある程度詳しいし、信頼に足る存在だ。何より、魈自身も彼の恋人という立場で、前々から鍾離について尋ねたいことがあった。鍾離がそうしたいと言うならば、好機逸すべからず。 
了解したのはいいが、この時魈はそれが いつどこで 行われるか、詳しく聞かなかった。 

それが今ではないかと思うのだ。 
もし話があるとすれば覚悟が必要だ。旅人たちの前で如何に反応するか。パイモンはどれ程質問してくるのか。魈は膝上に乗せていた両の拳を強く握りしめた。瞳は真剣そのもの。これから食事をする者の気迫ではない。 
対する鍾離は、この筍は軽策荘で譲ってもらって云々といった食材の話を、相も変わらず嬉しそうに話している。旅人も彼とこうして話す機会は暫くなかったようで、忙しなく料理を口元に運びながらも頷いていた。そんな様子を目にしていたら、ふと、弥怒が昔よく言っていたことを思い出した。[状況に応じて愉しく振る舞い、予想外の出来事を愉しむ]彼がそうしていたように、自分も愉しくあるべきなのかと考える。鍾離も、今は亡き友と桂花酒を手に語らっていたかつてを重ねているのだろうか。 

「魈?食べないのか?」 

頭上からのパイモンの声にハッとした。鍾離の顔を見つめたまま、このような場で昔を懐かしむなど、はじめの緊張感はどこにいったのだ。居住まいを正し、聡い彼に気づかれぬよう、目前の杏仁豆腐を食す。 

暫く賑やかな時間を過ごした後、旅人は食べきれなかった料理を持ち帰りたいと、オーナーに包みをもらいに階下に消えていった。大好きな料理をたくさん食べて幸せいっぱいになったパイモンは、途中で眠ってしまってからまだ目覚めない。 
聞くには今しかないと、魈は鍾離に視線を送る。 

「鍾離様、恐れながらお尋ねしてもよろしいでしょうか。これから、あの者たちに件の話をするおつもりで……?」 

聡い鍾離なら、どの話と言わなくても伝わるだろう。そう思っての発言だった。 
しかし、しっかりと聞こえる声量で伝えたにも関わらず、鍾離は何も言わず、ニコリと微笑を返す。整ったかんばせをそのように柔和に崩されてしまっては、魈はただ見つめる他ない。鍾離はたまにこういうことをする。魈に考えさせたいのか、お楽しみにしておきたいのか、恐らく前者だろうが、何れにせよ魈が更に頭を悩ませることは明白だった。 
2人が何も言わず互いに見つめあっていると、重箱を抱えた旅人が帰ってきた。どうやらオーナーが張り切って豪華なものを貸し出したらしい。器用に料理を入れて、パイモンを起こして…旅人が着々とこの場を離れる準備をする。そして、いざ行かんとするタイミングで鍾離はなんてことのないように、告げる。 

「旅人、今後の旅も心ゆくままに進むといい。それと、これは最近の話ではないのだが……俺は魈と新たな道を歩んでいる。所謂恋仲というものだ。これまでの記憶を胸に、互いのこれからを実りあるものにしていきたいと思っている。このような関係になる前から魈は好ましいと思っていたが、俺から話を告げた時の反応はとても可愛らしくてな……」 

呆れ気味に鍾離を見つめる旅人、あんぐりと口を開けたパイモン。時間が停止した中で鍾離だけが彼らを見回し、口元に手を添えて思案する。 

「む?こういうことは、ムードが大事だと前に言っていたじゃないか。だからこうして食事も揃えて、魈も呼んで……何かおかしかっただろうか」 
「おかしくはない、ないけどね……」 

そう答える旅人が視線を移す先は魈だ。先程まで杏仁を含んでいた頬は今や赤く色付き、それは髪で見え隠れする耳にまで及んでいた。顔から湯気が見えるような気さえする。面映ゆいという感情が、顔を伏せていても、微動だにせずとも、伝わってしまう。 

「……あ!ってことは、今まで鍾離がオイラたちに話してた魈のことって、全部惚気だったのか?!清心を摘む魈の横顔が綺麗だったとか、新しい香炉をあげたら胸元で大事そうに包み込んでいる様子が小動物のように見えるとか!それとこの前の……」 
「パ、パイモン!声が大きいって!落ち着いて、俺と一緒に深呼吸しよ?」 

旅人が矢継ぎ早に記憶を辿るパイモンを思わず止めにかかる。魈が、伏せた顔を、首を痛めるのではないかと心配になるほど斜め後ろに向けていたからだ。あ 、だの、う、だの、途切れ途切れに声が漏れている。 

「あ、ああ、ごめん……。その、オイラ、鍾離が魈のこと大事に思ってることは分かってたんだけどさ。そういう意味も含めてだったなんてびっくりしたぞ」 
「パイモンは記憶力がいいな。俺と似ている」 

スーハーと呼吸を落ち着けるパイモンを見て、カラカラと笑う鍾離は上機嫌だ。 

「先生、感心してるとこ悪いけど俺はずっとそうだろうと思っていたよ。先生が魈の話をしながら、2人の関係性について質問されるのを待っていたことにも気づいてた。でもこういうのって、本人の口から伝えられるべきだと思って聞かなかったんだ。……今思えば聞くべきだったかもしれないけど」 

「ほう、そうだったのか。しかし、何れにせよ俺はその場では答えなかっただろう。お前たちに告げるのは、魈の了承あってからと決めていたからな。そうだろう、魈?」 
「た、確かに、そうですが……。我は、我がいない場で話すものと考えておりました故、このようなことになるとは露も思わず……。そ、それに清心の話も……」 
「ハハハッ。俺はお前と声を揃えて告げるのも一興かと考えていたほどだ」 
「う……。おやめ下さい、それならば我から伝えるでしょう」 
「例えば、どのように?」 
「〜〜〜〜〜っ、は、その……、わ、我と鍾離様は…………あ、ぅ……」 

「えっと、じゃあ俺たちは帰るね!お幸せに!魈はなんでも俺に聞いていいから!またね!」 

じわじわと壁際に追い詰められていく魈を見かねて旅人は声を張る。元気よく手を振って風のように去っていく2人の様子を暫く見守った鍾離は、さて、と切り出す。 

「俺は凡人に倣い、会計をしてくるからお前はここで待っていろ」 
「はい……」 

旅人にろくに別れも告げられなかった魈は、未だ顔に紅葉を散らしている。そんな様子が愛しくて仕方がない。 
そして鍾離はオーナーの前で財布を開き、立ち尽くすのであった。 

「ふむ、モラがない。入れ忘れたようだな」 

(結局中身入ってなかったのかよ!) 
そんなパイモンの声が旅館内に木霊することもなく、お馴染みの「ツケ」で事は済んだのである。 

◇◆◇ 
話は冒頭に戻る。突然の質問に戸惑う魈。そんな彼を見守る旅人とパイモン。 

旅人は考える。あの告白事件から、鍾離から魈の話は聞けど、魈から鍾離の話を聞くことは一度もなかった。二人は対照的だった。普段の鍾離は、遠回しな物言いの中に真意を含めながらも旅人の理解を促すような話し方をするのに、魈について語る時はやけに直接的だった。好ましい、可愛らしいという言葉を使うようになったことが大きな違いだろうか。その様子があまりに幸せそうなものだから、旅人も友の新たな一面を見られたことに喜びを感じたものだ。 
対する魈は、あんなに顔を赤らめていたというのに、まるで何も気にしていないかのように、その後はいつも通りだった。気にしていないというより、鍾離のことを敢えて話していないように感じる。彼は俗世のことについて旅人によく尋ねるものだから、同じ要領で聞いてくると思っていたのだ。 

しかし、2人が恋人であることを知っているのに、あの質問は意地悪だったなと思い返す。 

「ごめん、そんなに深い意味はないんだ。ただ、先生は俺たちに会うといつも魈の話をするのに、魈からはそういう話聞かないなと思って」 
「そうそう!オイラ、お前の口から出てくる鍾離のことも知りたいぞ!」 
「まぁそれもあるんだけど、何か聞きたいことがあるんでしょ?魈」 
「へっ?そうなのか?」 

「お前たち……」 

本当によく喋る2人だ。まるで雨だれのように。鍾離といる時の自分に必要なのは、これなのだろうか。 
魈は悩んでいた。 
というのも、自分といる時の鍾離が時折、真剣な表情で見つめてきたと思えばすぐにいつもの様子に戻ったり、手や顔を近づけたと思えば何事もなかったかのように話を続けることがある。彼に何かの迷いがあることは分かるが、その先が分からず魈はいつも見つめ返すことしか出来ない。 
加えて、鍾離と魈がいわゆる恋仲になった前後で何か大きな変化があったかというと、特に何も無いのである。趣味の散歩に付き合ってほしいとか、白朮に渡す薬草を探しに行きたいとか、そんな鍾離の用事に誘われては隣に付き添うだけ。普段の魈は、物知りな鍾離が話すことへの返答も簡素になりがちで、もっと別の者だったら彼を喜ばせることができるだろうにとよく考えるものだ。 
そう、魈は鍾離を喜ばせたいのだ。彼が喜色の笑みを浮かべる様は、まるで日の出のように煌々と魈の心を照らし、ぽかぽかと温もりをもたらしてくれる。 
鍾離が喜ぶこと、それ即ち鍾離が好きなことをする必要があるということだ。しかし、それが魈には難しい。前述のように、隣で寄り添うだけでは彼に不思議な行為をさせてしまう。自分を律することのできる鍾離が他人に悟られてしまう程のことだから、余程何か思うことがあるのだろう。では、旅人とパイモンのようにたくさん話すのはどうだ。いや、それも難しい。魈は元から口数が少なく、話すにも知見が足りないと自覚している。適切な返しもできず、きっと困らせてしまうのだ。 

「ありのままのお前が好きなんだ」 

これは鍾離がよく言う言葉だ。しかし、今や何も変われないありのままの自分が鍾離を迷わせている。 
何か、何かしなければならない。して差し上げたい。その思いは募るばかりだ。 

「知っての通り、我は話すのが得意ではない。それはあの方についても同様で……。いや、同様ではなく、それ以上に難しく……」 

伝わる。魈が頑張って思いを言葉にしようと努力している様子が。魈にこんな表情をさせるなんて、先生ってつくづくすごいなと旅人は呑気なことを考えてしまう。 

「だが、それでもお前たちには聞かなければならないことがある。言っておくが…我とあの方のことを知っている者であれば誰でも良いわけではないぞ」 

これは魈と旅人たちの間で育まれてきた信頼の成果である。 

「わかってるよ。言葉にしてくれてありがとう」 
「おう!オイラもちゃんと答えるから、どんどん言ってくれよ!」 

2人の言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべる魈は一呼吸おいてこう尋ねる。 

「その……鍾離様は、お前たちが何をすると喜ばれる……?」 
「俺たちが、か……。この前一緒に遺跡探索した時は、そこら辺に落ちてたよく分からない杯を拾ってこれは何百年前の云々〜って楽しそうに話してたけど、そういうことじゃないよねきっと」 
「空、オイラも違うと思うぞ」 

旅人とパイモンはウンウンと唸りながら考えている。自分より普段の鍾離に通じているこの者たちでさえ、こうなのだ。殺生にしか取り柄のない夜叉など彼の身辺警護が関の山だろうか。 

「前の海灯祭では、俺が璃月の各地を巡る先生に会いに行ったら喜んでたかな?色んな話をしてくれて、少し散歩してさ」 
「あの時の鍾離は確かにいつもより嬉しそうだったな!」 

散歩。その言葉を聞いて、つい口を挟んでしまう。 

「……散歩であれば、我も共にすることがある。だが、最近はどこかぎこちないご様子なのだ。背後で鍾離様の気が揺らぐ気配がする」 
「え……あっ」 

眉間に皺を寄せて考え込んでいるパイモンとは対照的に、旅人は何かを閃いたのか明るい顔になる。 

「俺分かっちゃったかも。俺がパイモンにされると嬉しいなってことを知るのはどう?俺が魈で、パイモンが先生のつもりで参考にしてみて」 
「鍾離様とその大食らいを並べろと?」 
「大食らいってなんだよ!……まぁその通りだけど」 

宙で地団駄を踏むパイモンを横目に、魈は続けて問う。 

「して、何が分かったのだ」 
「ズバリ!スキンシップだよ」 
「すきん……なんだ?」 

夜叉には聞き慣れぬ単語だ。スメールで学んだのだろうか?もしや自分が知らないだけで、案外他の仙なる者たちは知っているのだろうか。魈の真面目な考察モードの始まりである。 

「言葉より、見た方が分かり易いかな。ほらっ、パイモン!」 

すると、旅人はパイモンに向かって両手を広げ、思いっきり抱きしめて頬擦りをした。
然後,旅行者向派蒙伸出雙臂,拼命抱住他,並揉搓他的臉頰。

「ひえっ。なっ……なんだよ旅人ぉ」 '嘻。 …… 是什麼,旅行者?

上擦った声をあげたパイモンだったが、すぐに意味を解したのか照れくさそうに反応する。
帕蒙發出了吱吱的聲音,但很快就明白了其中的意思,並做出了尷尬的反應。

パイモンは好物のご飯を前にした時よりも幸せそうな顔をして、旅人にお返しをしている。旅人も、少し頬を染めて恥ずかしそうにしながらも、それを受け入れている。2人の様子から、すきんしっぷとはしてもらえた者だけでなく、した者も嬉しくなる行為だと魈は捉えた。相乗効果でもあるのだろうか。となると、自分があの方にしたとして……いや、今は考えない方が良さそうだ。
帕蒙看起來比面對她最喜歡的食物--米飯時還要開心,並回報了旅行者。旅行者也顯得有些尷尬,但還是接受了這個舉動。從兩人對視的眼神中,伊認為這不僅是讓受禮者開心的舉動,也是讓施禮者開心的舉動。這也是一種協同效應。如果是這樣的話,我對那個人做的那一刻,最好不要去想......。

「魈?えっと、分かったかな?そんなに真剣に見つめられるとさすがに恥ずかしいというか……」
'魈?嗯,你明白了嗎?被人這麼嚴肅地盯著確實很尷尬,還是......。

「あぁ、すまない。よく分かった。だが、あくまで参考にするだけだ。実際に我がその馴れ合いをしたところで、鍾離様がお喜びになるかは分からないからな」
哦,對不起。我完全理解。但我只是把它當作一個參考。我不知道如果我真的跟你玩了那個遊戲,鐘勒大人會不會高興。

「鍾離なら絶対喜ぶぞ!」 瓊萊州肯定會對此表示感謝!

食い気味に答えるパイモンに、その自信の出処を聞きたかったが、そろそろ経たねばならない。
我想問用尖酸刻薄的語氣回答我的帕蒙,他的自信從何而來,但現在是時候讓它過去了。

午後の賑やかな光はいくらか薄れ、辺りは次第に夕暮れの気配が混ざり始めた。
午後熱鬧的光線有些暗淡,這裡逐漸開始混雜黃昏的跡象。

「旅人、パイモン。我はここを経つが、後は好きにするといい。……今日のことは感謝している」
旅行者,派蒙我從這裡離開,剩下的就隨你們處置了。我感謝 ...... 你今天所做的一切。

「お礼なんていいよ。スキンシップ、頃合を見てやってみてね」
別謝我Skinship,時機成熟時再試試。

「……また話を聞いてくれるか」 …… 你能再聽我一次嗎?
「うん。楽しみにしてるね」 '是的,我很期待 'Yeah.很期待

旅人と目線を合わせたあと、小さく頷き、魈は風のように去っていった。今夜あの風はどこへ向かうのだろう。
在與旅行者進行眼神交流後,他微微點了點頭,"夷 "便像風一樣飄走了。不知道今夜的風會吹到哪裡去。

「……パイモン、俺一肌脱いじゃったんだけど、強引過ぎたかな。少しは後押しできたと思う?」
…… Paimon,我給了你一塊我的皮膚,但我覺得我太咄咄逼人了。你覺得我還能再推一下嗎?

「?なんのことだ?お前は今のままでいいと思うぞ!」
'?什麼意思?我覺得你這樣挺好的! ' I think you're just fine the way you are!

「ふふふっ。そっか、そうだよね。それにしてもパイモンのほっぺはふにふにだね。さすが非常食」
嗯我明白了對了,派蒙的臉頰真柔軟。這就是我對緊急口糧的期待。

可笑しそうに笑いながら頬をつまんでくる旅人に、パイモンは怒って照れて、また笑った。
帕蒙又氣又窘,被旅人捏著臉頰滑稽地笑了起來。

◇◆◇ 
旅人の助言が魈にどれほど響いたかというと……。
請造訪 .......,看看旅人的建議能引起魈多少共鳴。

夜、降魔を終えて望舒旅館に戻ってきた彼が、下の階にいる凡人を観察する程度には響いていた。
這引起了他的共鳴,以至於當他下山後晚上回到毛州旅館時,他看到樓下的普通人。

魈が見ているのは親しげに話す男女。女性は酔っているのかその頬を赤らめ、潤んだ瞳で男性を見上げている。すると、男性の唇が女性の唇に重なった。触れ合っている。重なっている。なるほど、あれもすきんしっぷとやらか。
聶小倩看到一男一女正在友好地交談。女人喝多了,臉頰緋紅,抬起頭用濕潤的眼睛看著男人。然後,男人的嘴唇碰到了女人的嘴唇。他們相互接觸。他們重疊在一起。我明白了,這也叫 "suikinshippu"。

魈はこのように、見ることで学びを得ていた。実践したらどうなるかなんて、考えもせずに……。
因此,葉在觀看中學習。甚至都沒想過如果他們付諸實踐會發生什麼事。 .....

◇◆◇ 
それから幾日か経ったある夜のこと。  幾天後的一個晚上
魈は旅館の寝室で、鍾離が淹れた煙霞繁葉を飲んでいた。何故このような状況になったのかと、心の中で茶に聞いても勿論答えは得られない。出会いは夕暮れだったのに、美味しい茶葉を手に入れたと意気揚々と話す鍾離に流されるように夜の始まりを迎えていた。夜は常の2人が共にいない時間帯だった。互いに都合がつかないことも多いが、どことなく不可侵の領域と捉えていたのだ。魈のとって、夜は別れの時間であり、冷たくなる時間だった。
葉在客棧的臥室裡,喝著鍾離野泡的銀霞重葉。他在心中問茶,為什麼會出現這種情況,當然得不到答案。兩人相見時已是黃昏,但他們卻像被鍾離昧掃地出門一樣開始了夜晚的生活,鍾離昧興致勃勃地說著他得到的美味茶葉。夜晚是兩人平常不在一起的時候。對兩人來說,這往往是不方便的,但他們卻莫名其妙地將其視為不可侵犯的領地。對葉來說,夜晚是分離和冷漠的時刻。

そんな時間に、今日は鍾離の方から足を踏み入れてきた。降魔がなくとも日が沈んだら鍾離の元を離れようとしていた魈は思わぬ足止めをくらった。無論、鍾離といたくないわけではないのだが、この時間から遠出をするはずもなく、自分は一体何に役立てるのだろうと考えてしまうのだ。今はゆっくりと茶を味わう鍾離も、飲み終えたらきっと帰るはず。せめて帰離原を抜けるところまでは護衛を名乗り出るのが的確か。
在這樣的時刻,鍾離今天介入了。即使沒有妖怪,原本打算太陽一落山就離開鐘雷的餘,也意外地止住了腳步。當然,不是他不想和鍾離在一起,而是這時候他不可能離開,他不知道自己能有什麼用。就連此刻正在慢慢品茶的鍾理,也一定會在喝完茶後離開。要求至少護送他到歸田,這樣做準確嗎?

「……魈」 「……钚」

ふと、茶碗を机に静かに置きながら鍾離が声をかける。
突然,鐘立一邊叫著,一邊悄悄地把茶杯放在桌上。

「はい、鍾離様。もう帰られますか?」 是的,瓊格萊先生。你現在要走了嗎?

魈は瞬時に立ち上がるが、鍾離は首を振る。  葉瞬站了起來,鍾離野卻搖了搖頭。

「帰る?俺が?……寂しいこと言ってくれるな。むしろその逆だ。お前さえよければ、今日はここに泊まってもいいか」
你要離開?我? .... 你會想我的。恰恰相反。如果你不介意,我今天可以留在這裡。

魈の動きが一瞬ぴくっ、と止まる。恐らく勘づいただろうが、鍾離は気にせず続ける。
鍾離業的動作因抽搐而停頓了一下。鍾離業可能察覺到了,但他毫不在意地繼續著。

「実はこの部屋は今日のことを見越して俺が前々から予約しておいたんだ。突然来て部屋が空いているなど、不思議に思っただろう?」
事實上,我為你預留了這個房間,就是為了今天。你一定想知道為什麼我不請自來,卻發現房間空空如也。

確かにそうだ。いつも賑わう荻花州一の宿にこうもあっさり泊まれる客などいない。ということは、鍾離は元から魈と過ごす夜を計画しており、それは今現在も順調に進行していることになる。
當然是這樣。在一向繁忙的荻花一號客棧,沒有客人能像這樣輕易下榻。這說明鍾離原計劃與虞姬共度良宵,而現在這一切都在順利進行中。

「それに、愛する者同士が夜を共にするのはおかしいことではない」
而且,兩個相愛的人一起過夜也沒什麼好奇怪的。

「あいするもの、どうし……」 "Aisuru mono, doushi ......

つい鍾離の言葉の後に続いて、言葉をなぞってしまう。時折忘れそうになるが、自分たちは付き合っているのである。
我們最終會追溯到一個又一個的瓊漿玉液。我們時不時就會忘記自己在談戀愛。

「未だに実感が湧かないという顔をしているな」 你看起來還是沒有感覺。

いけない、また悟られた。どうにも最近の魈は、この元神である命の恩人と自分が対等に付き合うことについて考えがちだ。その様子を見つめる鍾離は、魈に近づいてやおら片手を背中に回そうとして……困り顔で戻した。
不應該啊,我又開竅了。無論如何,這些天來,葉傾向於把自己和這位前生命之神的關係想成平等的關係。正看著他的鍾離業走近葉小天,突然想把一隻手背在身後,又放了回去,臉上露出...... 惱怒的神色。

まただ。この気配、この表情。さすがの魈でもはっきりとわかる、鍾離の違和感。そこで魈ははっとする。今こそ、旅人たちに教えられたことの実践の機会なのではないか?そうだ、鍾離を喜ばせることが出来る絶好の機会だ。
也是。這個手勢,這個表情。連岳都能清楚看出鍾莉的不悅。這時,鐘莉突然意識到。現在不正是實踐旅行者教我的東西的時候嗎?是的,這是讓鍾離高興的絕佳機會。

魈の判断は早かった。そうと決めたのであれば惑う必要もない。いざ尋常に、鍾離に向き合い両手を広げる。
葉很快就做出了決定。既然決定了,就不必再迷惘。現在該是提問的時候了,面對鍾離,攤開雙手。

「ど、……どうぞ」 
「……」 「......

沈黙。 
場の空気が凍っているわけでは無いが、如何とも形容しがたい空気が流れた。 

「……違いましたでしょうか。あの、これは我なりに考えた、鍾離様がお喜びになることでして……。ふ、深い意味はなく、あっ、決して軽くもなく……」 

一体自分は何を言っているのだろうと口早に続けていると、魈の体は大きな体に包まれる。 

「まさかお前に先を越されるとはな」 

そうこぼすと、鍾離は楽しそうに笑い始めた。これは無事喜んでもらえたと捉えてよいだろうと、魈もほっと胸を撫で下ろす。しかし、その胸が今はしっかりと鍾離に抱かれていると自覚し始めると、途端に鼓動が早まる。この感覚はなんだろうか。 
そんな魈の様子もお構い無しに、鍾離は細身を抱きしめながら話し続ける。 

「実は、ずっとこうしたいと思っていた。しかし、いざしようとするとお前がどこかへ行かないか不安になってな。恥ずかしい話だが、この腕で抱き留めたお前が消えるかもしれないと思うとあと一歩が踏み出せなかったのだ」 
「わ、我が鍾離様から離れるなど……」 
「無いと言い切れるか?」 

魈の背中に回された鍾離の手がゆっくりと下へ動き、胴体をなぞる。 

「そう言われると……こ、困ります」 
「ははっ。素直でよろしい。このような状況になって、俺はようやくお前の温もりを感じているわけだ。お前には感謝しなくてはならない」 
「それは、我もです。その……とても嬉しく思います。旅人に聞いた甲斐がありました」 
「旅人?」 

鍾離の脳内に今はこの場にいない友と、その案内人が浮かぶ。 

「はい。我自身では考えが及ばないため、先日旅人に聞いてみたのです。貴方様を喜ばせる方法は何か、と」 
「その結果がこれか」 
「は、はい……。すきんしっぷ、なるものです」 
「ふむ……。お前は成功した気でいるかもしれないが、正直俺はもうずっと、お前と共にいる時は常に喜んでいるぞ」 
「そ……うなのですか?我は何も出来ていないように思えますが」 
「信じられないようなら我が身を龍に変え、尾でも振って見せるか?話によると、犬も嬉しいとそうなるらしい」 

至極真面目な顔で答える鍾離の様子に、今までの緊張はどこにやら、魈は小さく吹き出した。ハッとして口元を小さい手で隠すも、もう遅い。鍾離自身は決して冗談を言うつもりではなく、彼の少しの天然さがうまく作用して結果的に冗談になってしまっただけだったのだが、魈には効いたようだ。こんな風に笑う可愛い恋人をずっとこのまま抱きしめて、大事に大事に仕舞い込みたいという欲望が脳内を占める。しかし、鍾離にはもう少し気になることがあった。 

「他に旅人から学んだことはあるのか?」 
「いえ、旅人からはこれだけです」 
「む?その言い方…」 
「その……旅人ではなく、旅館で下の階の者達がしていたことなのですが、恐らくこちらもすきんしっぷに当たるかと。実践してもよろしいでしょうか」 
「ああ、折角の機会だ。構わない」 

ハハハと笑い、彼にしては今日は積極的だなと考える鍾離の唇に、何かが触れた。 
触れた。確かに触れた。己の唇に、はみ、と。 
……はみ?食んだ? 

「如何でしたか」 

如何も何も、鍾離は今しがた目の前の恋人に上唇を食べられてしまったのだ。と言っても、歯を立てられたわけでも舌で舐められたわけでもなく、魈の小さく薄い唇で、柔らかく挟まれたのだ。 

「もう一度頼めるか」 
思わずこぼす鍾離。 

「はい。それでは」 
すかさず応える魈。 

はみ、と。次は下唇だ。 
やはり、食んだ。さすがに二度目となれば、この認識は間違いではないと気づく。気づいたからにはしっかりと教えなければならない。 

「魈。今のは恋人同士が行う口付けという行為に近しい。恋人同士のスキンシップとも取れるだろうが……感想を欲するのであれば、勿論嬉しいぞ」 
「口、付け」 

口付け、恋人、口付けと交互に復唱する魈の顔色は段々と青くなったり赤くなったり、忙しない。先日旅人達に関係性を告げた時はあんなにも恥じらっていた魈が今日は積極的だったので不思議に思っていたが、なるほど自覚がなかったわけだ。それに、ただ唇を合わせるのではなく、何を勘違いしたのか食んできた。いつでも食べたいのはこちらの方だというのに、またしても先手を打たれてしまった鍾離は、そんなこともおかしくて密かに笑い始める。対する魈は何かに気づいたかのようにばっと顔を上げて問う。 

「もしや、先程のすきんしっぷも恋人が行うという……類でもあり……?」 
「ああ。ハグだな」 
「……」 
「しかし、そもそもスキンシップという行為は恋人以外にも家族や友人間でもするものだ。俺とお前の行為は、恋人同士の愛情表現になる訳だが。そして旅人がお前に話をした意図は恐らく……」 

外界から新たな情報を処理する能力値が限界を迎えたのか、魈の脳内にテイワット外の未空間の景色が浮かび始めた。鍾離は何か話し続けているが、魈は先程までの己の失態を思い返すのに忙しい。鍾離を喜ばせることを一心に考えた結果、なんて大胆なことをしてしまったのだろう。鍾離は嬉しいと言っていたが、本当なのだろうか。 

「……であり、結局のところ旅人はお前にスキンシップを教えつつ、俺の背中も後押ししてくれたのだな。そうは思わないか?魈」 
「は、あ、はい」 

なんと曖昧な返事だろう。鍾離の話を聞き逃すなど、以前の己ではあってはならないことだったのに。 

「やはりあの食卓で話をしたのは良い運びだった」 

いつの間にか鍾離の話が終わっており、片手が魈の頬へ添えられる。 

「あの日……」 

そういって鍾離は一拍置いて、目を眇める。 

「俺が旅人と話していたのを見ていたお前の表情。あれが忘れられない」 

突然のことに魈は目を見開く。 

「我はどのような顔をしていたのでしょうか」 
「今の俺と同じ顔をしていた。愛おしい者を見つめる顔だ」 
「あの時は……鍾離様が旅人と仲睦まじく話されている様子を見て、かつてを思い出しておりました」 

答える魈の表情は優しい。それは鍾離が帝君と呼ばれ、戦の合間に同じ魔神である帰終や諸仙人、夜叉達を囲んで共に酒を片手に話していた頃はよく見られた光景だったからだ。話好きな仙人達との談笑、音楽や仕掛けの術について熱く語らう歌塵と帰終に意見を問われる様子。魈がそれらの集まりに顔を出す機会は数えられるほどしかなかったが、赴いた際には鍾離の様子をつぶさに観察していたものだ。その後、戦禍にのまれて数多くの仲間を見送ってきた鍾離が、今は新たな友と平穏に語らう姿を見ると、魈の胸中は安堵で満たされるのであった。 

「同時に、我も夜叉達を思い出しておりました。場の状況に応じて愉しく振る舞い、例え予想外のことが起きもそれを愉しむという弥怒の言葉を。確かにその通りなのかもしれません。しかし我は……、我はこうして貴方様といる時は、振る舞うのではなく……」 

魈は次第に俯きがちだった顔を上げ、鍾離の両の石珀を捉える。 

「ありのままを、見てほしい。……です」 

あぁ、もう、たまらない。鍾離は先程より強く魈を抱きしめた。 

「お前のことが、たまらなく好きだ。たまらなく」 

鍾離にしては珍しく言葉が浮かばず、同じことを繰り返してしまう。そんな鍾離をさらに刺激するように、腕の中の魈は続ける。 

「あなた様に相応しくないということは承知しておりますが、我のことを……恋、人として、受け入れてくださいますか」 

緊張から途切れ途切れに控えめな様子で、しかし真摯に言葉を紡ぐ魈。鍾離は幸せを噛み締めるように彼の髪に唇を落とす。 

「無論だ。しかし、今や俺とお前は対等な関係だということをこれからは心に留めてほしい。互いに思いを伝え合い、分かち合おう」 
「は、はい」 
「俺たちの新しい関係性をお前が自覚出来なかったのも、無理もない。何せ今までと何も変わらず、それらしいこともしてこなかったからな。これからは徐々にスキンシップから始めていくか……恋人のな」 
「お、お手柔らかにお願いします……」 

急にやる気に満ち溢れ饒舌になった鍾離を前に頷くことしかできない魈だったが、恋人同士のスキンシップを意識し始めてしまった魈にとっては、これからが大変になるだろうことは想像に容易かった。しかし、やると言われた手前、魈が何も変わらない訳にはいかない。 

「では次にお会いする時までに機会を作り、深い仲であろう凡人同士が口付けする様をこの目で見て学んでまいります」 
「いや、待て、それはいい。なんだかお前が減る気がする」 
「我がへる?」 

少し焦った鍾離が場を収める。凡人がいけないのであれば、学ぶ先は旅人だろうか?しかし、すきんしっぷで最近世話になったばかりである。恐れ多くも、目の前にいる恋人に直接願うしかないだろう。 

「では、我に手本を示していただけますか?折角の機会ですのでご教授いただきたく。今、この時から学びます」 
「良い心がけだ。やはり実践に限る」 

その夜は、鍾離の抱擁によって全身に熱が回った魈が幾度もの口付けによって思考を溶かされ、[学ぶ]ということもすっかり忘れて寝台に沈んでいった。 
それからしばらく 

「魈、俺を食べてくれないか?」 

と、くすりと笑ってお願いする鍾離と、頬を赤く染めながらも近づいて、鍾離の唇を味わう魈がいたそうな。より深いところへ触れたい鍾離が時折、これもスキンシップの一環だと言ってしまえば魈が疑うはずもなく、2人はゆっくりと熱を分け合いながら、溶け合っていくのだった。 
その光景は、互いに数千年を生き抜いた者とは思えないほど初々しく、瑞々しいものだった。 

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すきんしっぷ なるものは 
去年夏頃に勢いで書き始め、X投稿用に画像にしたところ8枚に収まらず「長い!恥ずかしい!無理だ!」となって暫く寝かせておいた話をなんとか形にしました。 
魈くんに先生の唇を食んでほしい一心で書こうとしたのですが、旅パイとの可愛い絡みも書きたくなり、このように延びてしまいました。 

スキンシップを語るにあたり、旅人とパイモンがゲームより更に仲良くなっております。 

同人の恥は掻き捨てだ!ということで、投稿失礼します。 
閱讀後續  
3740605
2024年3月20日 20:49 
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