あおいろの鍵 青色的钥匙
BM所属未来if。世一の家の鍵を盗んで入り浸るカイザーと、そんなカイザーを受け入れる世一のお話。
BM 所属未来 if。偷走世一家钥匙并常驻的凯撒,以及接纳这样凯撒的世一的故事。
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another.1
潔世一がバスタード・ミュンヘンに所属する、ということは風の噂で知っていた。
洁世一加入拜仁慕尼黑的消息,他是通过风闻得知的。
だが、クラブハウスで彼を見た時、ミヒャエルは驚いて足を止めてしまった。U-20ワールドカップ、いや、青い監獄で見た時と変わらない素朴な少年のまま、彼がスタッフと話していたから。
然而,当在俱乐部看到他时,米海尔惊讶得停下了脚步。那个在 U-20 世界杯,不,在蓝色监狱里见到的朴素少年,依然如故,正与工作人员交谈。
――いつ見ても、気に障る男だ。 ——无论何时见到,都是个令人不快的男人。
フットボールしている時と、ボールを手放した時。潔世一という男は異なる顔を見せる。ミヒャエルはそれが理解できなくて、気に入らない。それでも目を逸らせないからこそ、気味が悪い。気持ち悪い。
踢足球时和放手球时。洁世一这个男人展现出不同的面貌。米海尔无法理解这一点,感到不快。正因为无法移开视线,才觉得毛骨悚然。令人作呕。
「……あれ、カイザー?」 「……咦,凯撒?」
気付けば、ミヒャエルは世一の側まで歩いていた。スタッフと別れた世一がこちらを振り向いて、ただでさえ大きな瞳を見開く。ミヒャエルは動揺を一瞬で飲み込み、笑顔の仮面を被った。
回过神来,米海尔已经走到了世一的身旁。与工作人员分别的世一转过身来,原本就大的眼睛瞪得更大了。米海尔瞬间压下动摇,戴上了笑容的面具。
「ようこそ、世一。クソ待ちくたびれたぞ」 「欢迎,世一。等得我都快累死了。」
「あっ待って、俺英語しか喋れないんだ。英語もあんまり上手くないけど……でも今のドイツ語は分かったぜ。『ようこそ』だろ?」
「啊,等等,我只会说英语。虽然英语也不太好……但刚才的德语我听懂了。是‘欢迎’吧?」
「……その程度で自信を持たれても困る」 「……这种程度就自信满满,真是让人头疼。」
「良かった、お前は英語話せるんだな」 「太好了,你会说英语啊」
さっき会った選手には通じなくて参ったよ、と苦笑する世一に、ミヒャエルは眉を顰めた。早速調子を崩されている。
刚才遇到的选手完全无法沟通,真是头疼啊。" 世一苦笑着说,米海尔皱起了眉头。他立刻感到有些不适。
「ドイツにはいつ来たんだ」 「你什么时候来德国的?」
「昨日。クラブハウスには今日初めて来た。すっげー施設だな。トレーニングルームだけで一日過ごせそう」
「昨天。今天第一次来到俱乐部会所。设施真是太棒了。光是训练室就够我待上一整天了。」
「バスタード・ミュンヘンの資金力なら同然だろ。そもそも、リザーブ止まりの世一くんはここじゃなくキャンパスの方で練習だ。こっちに来られるのは何年後になるだろうな?」
「以巴斯蒂安·慕尼黑的资金实力,这不过是小菜一碟。再说了,你这个只能待在预备队的世界第一,应该是在校园那边训练吧。要来这边,得等到猴年马月啊?」
「半年後には来てテメェの背中蹴り飛ばしてやる」 「半年后我就来,把你踢飞到天边去。」
「ふっ」 「哼」
相変わらず、不可能に近いことを平然と口にする男だ。ミヒャエルは嘲笑うように息を吐いて、彼が持つ書類の一つを抜き取る。それは選手寮に関する書類のようで、外国人選手向けに英語で記されていた。記入欄には世一のものと思われる英字が並んでいる。子供の字にも思える拙い筆跡だった。内容はそこまで面白くないものだったので、世一の腕の中に書類を戻す。
一如既往,这个男人总是若无其事地说出近乎不可能的事情。米哈尔嗤笑一声,从他手中的文件中抽出一份。那似乎是关于选手宿舍的文件,用英语为外国选手准备的。填写栏里排列着世一那令人印象深刻的英文字母。那笔迹稚拙得像是孩子的字。内容并没有那么有趣,于是他将文件放回世一的臂弯中。
「寮に住むのか」 「要住宿舍吗」
「あー、それが……」 「啊,那个……」
世一が困ったように眉を下げて頬をかく。 世一困扰地皱起眉头,挠了挠脸颊。
「さっきスタッフさんに言われたんだけど、手違いで寮の空室を他の人に貸しちゃったみたいで。だからクラブが手配してくれたアパートに住むことになったんだ」
「刚才工作人员告诉我的,好像是因为失误,宿舍的空房间被租给别人了。所以俱乐部安排我住进了公寓。」
「元はお前の部屋だったんだろ。追い出せばいい」 「原本不是你的房间吗。赶出去就好了」
「だってその人は一ヶ月前から住んでるんだぜ? また引っ越すのも大変だろうし……支払いやサポートはクラブがしてくれるっていうから」
「但那个人已经住了一个月了吧?再搬家也很麻烦……而且支付和支援都是俱乐部负责的」
そう言って、世一は笑みを浮かべる。明らかに損をしているのは自分だというのに、何故笑えるのか。持ち前のエゴイズムはどこへ行った。
" 说着,世一笑了。明明明显是自己吃亏,为什么还能笑得出来。他那与生俱来的自我中心主义去哪儿了。
――フットボールだけでなく、プライベートでも理解できない男だ。
――不仅在足球上,连私生活也难以理解的男人。
「ま、どうせトップチームに上がったら寮追い出されるらしいし、それが早まったってことで」
「嘛,反正听说升到一线队就会被赶出宿舍,只是提前了而已」
「クソ自意識過剰。リーグ三部で得点王になってから言え」
「真是自我意识过剩。等你成为联赛三部的射手王再说吧」
「当然。カイザーが生で観なかったことを後悔するようなスーパーゴール連発してやるよ」
「当然。我要让凯撒后悔没亲眼看到,超级进球连发!」
胸を張る世一を、ミヒャエルは複雑な心境で見下ろす。世一がどんなプレーをしたとしても、ミヒャエルは自分がリザーブチームの試合映像を確認するだろうと理解していた。一方でこの男はミヒャエルが試合を観ないことを前提に話している。
米海尔复杂的心情俯视着挺胸的世一。无论世一做出怎样的表现,米海尔都明白自己会去确认预备队的比赛录像。然而,这个男人却是在米海尔不看比赛的前提下说话的。
――クソ殴りたい。 ——真想揍他一顿。
そんな気持ちで彼を眺めていると、彼が腕で抱きしめている荷物の中に銀色を見つけた。鍵だ。同じ形のものが二つある。恐らくアパートの鍵なのだろう。
怀着这样的心情注视着他,发现他手臂抱着的行李中有一抹银色。是钥匙。有两把形状相同的。恐怕是公寓的钥匙吧。
ミヒャエルは呆れた。盗んでくださいと言わんばかりの位置と警戒心の緩さだった。
米夏尔感到无语。这位置和松懈的警戒心简直像是在说“请偷走吧”。
「……クソ世一。さっさと上がってこい。俺がお前を蹴落とすために」
「……该死的世一。快点上来。为了把你踢下去」
「ああ、すぐ行くから待ってろよ、カイザー」 「啊,马上就来,等我一下,凯撒。」
別れの挨拶代わりの言葉を交わし、彼の側を通り抜ける――間際、手を静かに動かした。手で世一の死角を辿り、肘の辺りにある鍵の一つを指で攫っていく。音は立てない。幼い頃から、それだけは得意だった。
作为告别的话语交换后,他穿过他的身旁——临走之际,手悄然一动。手指沿着世一的死角摸索,轻轻夹住了他肘部附近的钥匙之一。没有发出任何声音。从小时候起,这一点他一直很擅长。
ある程度進んだところで足を止め、振り向く。世一は気付かず帰って行ったようで、廊下から姿を消していた。ミヒャエルは裾の中に隠した鍵を取り出し、じろじろと見つめる。
走了相当一段距离后,他停下脚步,回头望去。世一似乎并未察觉,已经消失在走廊尽头。米海尔从衣摆中取出藏起的钥匙,细细端详。
癖で盗ってしまったが、目的があったわけでもない。しかし、返してしまうのも勿体ない気がした。
虽然出于癖好偷了,但并没有什么目的。不过,就这样还回去又觉得可惜。
とりあえず財布に入れて、再び歩き出す。活用方法はその内思いつくことだろう。
暂且放进钱包,再次迈步前行。利用方法总会有办法想到的。
another.2 另一个.2
平和ボケ男は、警戒心というものを母国に置いてきたらしい。盗んだ鍵で家に入り、居座っていたミヒャエルに驚きはしたものの、警察に突き出すこともなく、更に二度三度侵入すれば慣れたのか夕食を平然と差し出してくる。どこまでお人好しなんだ。ミヒャエルは一周回って彼の善性が心配になった。こんな男のどこからあのエゴイズムが生まれてくるのか、甚だ疑問である。
和平主义的男子,似乎把警惕心留在了祖国。用偷来的钥匙进入家中,虽然对坐在那里的米夏埃尔感到惊讶,但没有报警,甚至再次三番五次地侵入后,竟然习惯了,还若无其事地端出晚餐。到底有多好心啊。米夏埃尔转了一圈又开始担心他的善良本性。真不知道这样的男人是从哪里冒出那种自我主义的,实在令人费解。
とはいえ世一の家は案外過ごしやすく、クラブハウスにも近い。ミヒャエルは自宅までの中継地点として時折彼の家に寄ることにした。おかげで日本食の美味しさに目覚め、醤油という日本のソースを自宅に置くようになった。あれと卵料理の相性は悪くない。
虽说如此,世一的家意外地舒适,离俱乐部也不远。米海尔决定偶尔把他的家作为回家的中转站。因此,他发现了日本料理的美味,开始在家里备有酱油这种日本调味料。它和鸡蛋料理的搭配并不差。
世一と過ごす時間が増えれば、嫌でも彼のプライベートな面を知っていくことになる。地域の規則に生真面目に取り組むところ、食に対するこだわりが妙に強いところ、趣味がフットボールと言わんばかりに試合映像ばかりを見て楽しんでいるところ。チームメイトとして過ごしていたら気付けなかったような潔世一の人間性に、ミヒャエルは僅かながらにも興味を持った。彼の一挙手一投足を見つめ、観察し、分析する。それは思いの外楽しくて、しかし意義の無いものだった。
与世一共度的时间增多,自然会了解到他私下的面貌。他对地区规则的认真态度,对食物的异常执着,以及几乎可以说是以足球为兴趣,只看比赛录像来享受的样子。作为队友时未曾察觉的洁世一的人性,米海尔开始产生了些许兴趣。他注视着世一的一举一动,观察、分析。这意外地有趣,但却是毫无意义的事情。
そんな日々が続いたある日、世一がクナイペで酔っ払った。酒飲みのチームメイトに囲まれハイペースで飲んだらしい。ミヒャエルは下らないとそれを遠目から眺めて巻き込まれないようにしていたが、トラブルは向こうから歩いてきた。
这样的日子持续了一段时间后,有一天世一在克奈佩尔喝醉了。似乎是被爱喝酒的队友们围着,喝得很快。米海尔觉得无聊,从远处看着,避免被卷入其中,但麻烦却自己找上门来。
「かいじゃ〜」 「再见啦~」
真っ赤な顔でビール瓶を持った世一が、よたよたとミヒャエルに近づいてくる。発音もままならないらしい。無視しようとしたが、目の前の椅子に座られ、反応せざるを得なくなった。
满脸通红的世一拿着啤酒瓶,摇摇晃晃地向米海尔靠近。发音似乎也不太标准。本想无视他,但他坐在了面前的椅子上,不得不做出反应。
「さっさと帰れ、クソ酔っ払い」 「赶紧滚回去,臭酒鬼」
「おれよってない!」 「我没醉!」
「酔っ払いは全員そう言うんだよ。散れ」 「醉鬼都这么说。走开」
ミヒャエルは手を振る仕草で追い払おうとした。しかし世一はふにゃりと緩んだ顔でこちらを見上げると、あろうことかその手を掴み、引き寄せる。そして手の甲を凝視し、すりすりと頬を擦り付けてきた。ぞわ、と得体の知れない何かが背筋を這う。
米夏尔挥手试图赶走他。然而世一却软绵绵地抬起头看着这边,竟然抓住那只手,拉近自己。然后盯着他的手背,蹭着脸颊。一阵莫名的寒意爬上脊背。
「俺さぁ、お前の脚大好きなんだ」 「我啊,最喜欢你的腿了。」
「お前が握ってるのは手だ。クソ離れろ」 「你握着的是手。滚开。」
「お前のシュート、振りのフォームも、脚を振り抜くところも、ボールが飛んでく速さも、それに驕ることなく進化していくところも、全部ぜんぶ、好き。あ、お前の脚はシュートだけじゃない。勘違いすんなよ。走りも良い。無駄な動きがない素早さが好き。そんで、お前の思考と理論に強みが全て生かされるところも好き。俺も武器はたくさん持つようにしてるけど、お前は一つ一つがお前にしか使えない特別で強力な武器だ。それを才能、って言ってしまえる人もいるのかもしれないけど、俺はお前を形作る全部があって初めて存在できる才能だと思うんだ」
「你的射门,挥臂的姿势,踢出球的速度,以及不因此自满而不断进化的样子,全部全部,我都喜欢。啊,你的腿不只是用来射门的。别误会了。跑步也很好。我喜欢那种没有多余动作的敏捷。还有,你的思考和理论中所有优势得以发挥的地方,我也喜欢。我也在努力拥有多种武器,但你拥有的每一个都是只有你才能使用的特别而强大的武器。也许有人会说这是才能,但我认为,正是你的一切塑造了你,才让你成为独一无二的才能。」
カイザーは突然始まったマシンガントークに面食らって、反応することすらできなかった。酔っ払いはこちらの様子を見ようともしていないようで、さらに言葉を重ねる。
凯撒被突如其来的机关枪式谈话弄得措手不及,连反应都来不及。醉汉似乎连看这边一眼的打算都没有,继续滔滔不绝。
「フィジカルギフトやサッカーのセンス、IQの高さ、そんでお前の安定したメンタル、驕らない心、先を求める、原点を求めるエゴ。俺はお前の、お前だけのサッカーが、好き。すげー、好き、……………」
「身体素质、足球天赋、高智商、还有你那稳定的内心、不骄不躁的心态、追求进步、回归初心的自我。我喜欢你的、只有你的足球,非常喜欢,……」
早口でべらべらと述べたと思ったら、途中でがくりと頭を落とした。咄嗟に手を出して支えると、遅れて寝息が聞こえてくる。なんだこいつ。ミヒャエルは頬を引き攣らせて、遠くで談笑している諸悪の根源を呼びつけた。
刚以为他一口气说了一大堆,中途却突然低下头来。急忙伸手扶住,随后才听到他沉沉的鼾声。这家伙搞什么鬼。米海尔抽搐着脸颊,把远处谈笑风生的罪魁祸首叫了过来。
世一を酔っ払わせた男に押し付けようと思ったのだが、エース同士支え合ってくれよという謎の理論で逆に押し付けられてしまう。一向に起きない世一を捨て置いてやろうかと本気で思ったが、それでこいつが何かに巻き込まれた場合さらに面倒なことになるので家まで引きずることにした。
本想把世一灌醉后推给那个男人,结果却因为什么“王牌之间互相扶持”的谜之理论,反被推了回来。看着一直不醒的世一,我真想就这么丢下他不管,但万一这家伙被卷入什么麻烦,事情只会更复杂,于是决定把他拖回家。
勝手知ったる世一の家にタクシーで連れて行き、寝室に荷物ごと放り投げる。乱暴な扱いを受けても目覚めることなく間抜けな寝顔を晒す男に、ミヒャエルは顔を顰めた。
打车把世一带到我熟悉的他家,连人带行李扔进卧室。即便如此粗暴对待,他依旧没醒,露出傻乎乎的睡脸,米海尔皱起了眉头。
「……クソ分かんねぇ」 「……真他妈搞不懂」
潔世一という男が理解できない。それは無性にミヒャエルを苛つかせた。今までなら『理解できない』で結論付け、興味を失うような事柄だというのに、相手が潔世一である、というだけで疑念を捨てることができない。
洁世一这个男人无法理解。这莫名让米海尔感到烦躁。换作以往,他会以『无法理解』为结论,失去兴趣,但对方是洁世一,仅此一点就让他无法放下疑虑。
「……ん、あ?」 「……嗯,啊?」
もぞり、と頭を揺らして、世一が目を開ける。その眼差しがぼんやりとミヒャエルを捉えた。無垢な顔つきが笑みを浮かべる。
世一摇摇头,睁开眼睛。那目光朦胧地捕捉到了米海尔。他那纯真的面容浮现出笑容。
「おはよう、かいざー……」 「早上好,海贼……」
「こんばんは、仔兎ちゃん。随分と長いお眠りだったこと」
「晚上好,小兔子。你可是睡了相当长的一觉呢」
「は……、あれ、みんなは!?」 「啊……,咦,大家呢!?」
「とっくに解散した。で? 家まで連れてきた俺への言葉は?」
「早就解散了。然后呢?你把我带回家,有什么话要说?」
「え、お前が……?」 「诶,是你……?」
「他に誰がいる」 「还有谁在吗」
世一はぱちぱちと目を瞬かせて、そっか、と俯いた。しかしすぐに顔を上げ、微笑みを向けてくる。
世一眨巴着眼睛,低下头喃喃道:“这样啊。”但很快又抬起头,露出了微笑。
「ありがとう、カイザー。ごめんな、迷惑をかけて」 「谢谢你,凯撒。抱歉,给你添麻烦了。」
「……なら、礼をもらおうか」 「……那么,就收下你的谢意吧。」
ミヒャエルはベッドに乗り上げ、世一に近づいた。その顎に指をかけると、顔と顔の距離が縮まり、世一がぎょっと瞳を大きく開く。次いで何かに気づいたような顔をして、きゅっと目を瞑った。
米海尔爬上床,靠近世一。他用手指托起世一的下巴,两人的脸庞逐渐靠近,世一惊讶地瞪大了眼睛。接着,他似乎察觉到了什么,紧紧地闭上了眼睛。
初心な反応に、ミヒャエルはため息を吐きたくなる。本当は唇を奪ってやろうかと思ったが、その気すら失せる表情だった。少し悪さをしてやろうと思っただけであり、強姦まがいのことをやるつもりはない。
面对世一那初次的反应,米海尔几乎要叹气。他本想夺走他的唇,但世一的表情却让他连这个念头都打消了。他只是想稍微捉弄一下,并没有打算做出类似强暴的行为。
ミヒャエルは指を額に近づけ、弾いた。 米海尔将手指靠近世一的额头,轻轻弹了一下。
「いたっ」 「疼」
「クソ間抜け面」 「蠢货脸」
せせら笑ってやれば、揶揄われたと気づいた世一がこちらを睨んでくる。そうそう、その顔。お前はそれでいい。口端が自然と上がる。
嗤笑一声,被嘲弄的世一便瞪向我。没错,就是那张脸。你就该这样。嘴角自然地上扬。
「次は道端に捨てていくからな。自分の管理は自分でしろ」
「下次就扔路边了,自己管好自己。」
「待てよ」 「等等。」
ベッドから降りたところで引き留められる。煩わしい、という顔を作ってそちらを見れば、世一はじっとこちらを見上げていた。
刚从床上下来就被叫住。一脸不耐烦地看过去,世一正抬头静静地看着这边。
「お前、今から帰んの?」 「你,现在就要回去吗?」
「は?」 「哈?」
「泊まればいいじゃん。夜だし、遅いし」 「留下来不就好了。已经是晚上了,又这么晚了。」
「はあ?」 「哈?」
ミヒャエルは久方ぶりに心の底から呆れるということをした。泊まればいいと簡単に言うが、世一の家にベッドは一つしかない。ソファーもあるが、ミヒャエルの背丈でははみ出してしまう。つまり、寝るためには世一のベッドか床しかないわけだ。
米海尔久违地从心底感到无语。简单地说可以住下,但世一家里只有一张床。虽然有沙发,但以米海尔的身高来说会超出。也就是说,睡觉的地方只有世一的床或地板。
「この俺を床で寝させる気か?」 「你想让老子睡地板吗?」
「まさか。ベッドで寝ろよ」 「怎么可能。去床上睡吧」
「そのベッドとは、このクソ狭いベッドのことを言ってるんじゃないだろうな」
「你说的那张床,不会是指这张该死的窄床吧」
「狭くないだろ。一応ダブルベッドだ」 「不窄啊。好歹是张双人床」
「はぁ……」 「哈……」
アスリートの男が二人並んで寝られるダブルベッドなんか、この世に存在しない。ミヒャエルは頭が痛くなってきた。
运动员体型的两个男人并排躺的双人床,这世上根本不存在。米海尔感到头痛欲裂。
「クソ狭い。お前を蹴落としてもいいなら喜んで寝てやるよ」
「真他妈窄。要是能把你踹下去,我倒是很乐意睡这儿。」
「蹴落とされる前にカイザーにしがみつくからいいよ」
「在被踢下去之前抓紧凯撒就行了」
「良くねぇ」 「才不好」
さてはまだ酔っているな、この男。ミヒャエルはひくりと頬を引き攣らせる。酔っ払いほどタチの悪い生き物はいない。
看来这家伙还没醒酒啊。米夏埃尔微微抽动脸颊。没有比醉鬼更难缠的生物了。
とはいえ、ここで紳士な対応をするのも癪だった。きっとこいつは一度痛い目をみないと分からないタイプだ。
话虽如此,在这里表现得绅士也让人不爽。这家伙肯定是不吃点苦头就不知道教训的类型。
ミヒャエルは上着を脱ぎ、無遠慮にベッドへ潜り込んだ。酔っ払いは何が楽しいのか、笑いながら腕を広げてくる。
米夏尔脱下外套,毫不客气地钻进床里。醉汉不知为何开心地笑着,张开双臂。
「よーこそ、ハグしてやる」 「欢迎欢迎,给你个拥抱」
「クソいらねぇ」 「真他妈烦人」
「まあまあまあ」 「哎呀哎呀哎呀」
世一の短い腕が体に巻き付いてきた。ミヒャエルは目を閉じる。適度なアルコールと部屋の暗さで、眠気が近づいてきた。
世一的短臂缠绕在身上。米夏闭上了眼睛。适量的酒精和房间的昏暗,让睡意渐渐袭来。
そういえば、誰かと寝るのは初めてだ。その初めての相手が世一になるとは、日本に飛んだ時には思いもしなかった。
说起来,和别人睡觉还是第一次。没想到第一次的对象会是世一,当初飞到日本时根本没想过。
――クソわかんねぇ。 ——真他妈搞不懂。
警戒心が甘い世一のことも、それを拒めない自分のことも。
对警戒心不足的世一,以及无法拒绝他的自己。
another.3 另一个.3
起きると、目の前には口を開けて涎を垂らす阿呆面があった。暫しそれを見つめ、状況を理解する。
醒来时,眼前是一张张着嘴流着口水的傻脸。暂时凝视着它,理解了状况。
ミヒャエルは自分の世界に世一が入ってきていることに気づき、密かに合鍵を返した。けれど世一を追い出すどころか、ますます頭から離れなくなってしまい、ついには自分から世一の家に出向いて、鍵を寄越せと言うはめになった。盗んだ奴が何を言ってんだ、と怒鳴られるかと思っていたが、返ってきたのは予想もしない反応。
米海尔意识到世一进入了他的世界,悄悄归还了备用钥匙。但不仅没有赶走世一,反而越来越无法从脑海中抹去,最终自己主动前往世一的家,要求交出钥匙。本以为会被骂“偷东西的还敢说什么”,但得到的却是意料之外的反应。
――これは、お前のもの。 ――这是你的。
世一はいつの間にか、ミヒャエルを受け入れていた。そこでようやく、自分も世一も互いを求め合っていたのだと気づく。それをよりによって世一に気付かされたというのは屈辱だった。その感情を突き詰めたら、どんな意味を持つのかも知らないくせに。
世一不知何时起,已经接受了米夏尔。直到那时,他才终于意识到,自己和世一都在互相寻求着对方。然而,偏偏是世一让他察觉到这一点,这让他感到屈辱。尽管他并不清楚这种感情深入下去会意味着什么。
「……クソムカつく男」 「……该死的男人」
くかぁ、と情けない寝息を立てる顔を眺めながら、八つ当たりのように言ってみる。それでも目覚めないのだから、腹が立つというものだ。
看着那张发出可怜鼾声的脸,我赌气似地说道。可他还是没醒,真是让人火大。
昨日、ミヒャエルは世一と抱きしめ合って、数えきれないほどの口づけをして、眠りについた。その先に進みたい欲もあったけれど、段階を踏みたいと告げた世一が、キスだけで幸せそうな顔をするものだから、その願いを受け入れた。
昨日,米哈伊尔与世一紧紧相拥,交换了无数个吻,然后沉沉睡去。虽然他心中也渴望更进一步,但看到世一仅凭亲吻就露出幸福的表情,他便接受了世一希望循序渐进的心愿。
――ああ、クソが。 ——啊,该死。
思い出したら、また口付けたくなってしまった。その衝動に敗北と似た何かを感じながらも、顔を動かす。世一の頬に口づけて、鼻先にも唇を擦り付けて。そういうキスを繰り返す内に、瞼が震え始めた。穏やかな朝に相応しい、まどろんだ青色が姿を見せる。
回想起来的瞬间,又忍不住想亲吻。尽管在那种冲动中感受到类似失败的情感,还是动了动脸。在世一的脸颊上亲吻,鼻尖也蹭上了唇。在这样反复亲吻的过程中,眼睑开始颤抖。适合宁静早晨的,朦胧的青色开始显现。
「ん……あ、かいざぁ……?」 「嗯……啊,海贼……?」
寝起きだからだろう。舌足らずな音で名前を呼ばれた。それにまた衝動が湧き上がり、今度は唇を食べるように口づける。息をする暇も与えずにその熱を貪っていると、流石に苦しいのか腕を掴まれた。渋々唇を離せば、涙が滲んだ目で睨まれる。
大概是刚睡醒的缘故吧。用含糊不清的声音被叫了名字。接着冲动再次涌起,这次像是要吃掉嘴唇般地亲吻。连呼吸的间隙都不给,贪婪地汲取那份热度,果然还是感到痛苦,被抓住了手腕。不情愿地松开嘴唇,便被泪眼婆娑地瞪着。
「朝から何すんだ」 「一大早就干嘛呢」
「昨日の続き」 「昨天的继续」
「続きも何も、キスしかしてな……んむっ」 「后续什么的,只接了吻……嗯唔」
うるさくなりそうだったので、また口を塞いだ。世一の背に手を回し、撫でながら舌を絡め取っていく。反抗心を宿していた青藍に甘さが滲んでいくさまを、口づけながら見つめた。
因为觉得吵闹,又堵住了嘴。将手绕到世一的背上,一边抚摸一边缠绕着舌头。一边亲吻,一边注视着青蓝中渗出的甘甜。
世一を見ていると、飢えて飢えて仕方ない。けれど、笑顔を見て、手が触れて、抱きしめ合って、キスをして――その目に自分だけが映って。それだけで満たされてしまう。ミヒャエル・カイザーはそんな簡単な理屈で生きていなかったはずなのに。
看着世一,饥渴难耐。但是,看到笑容,触摸到手,拥抱在一起,亲吻——只有自己映在那双眼睛里。仅仅这样就感到满足。米夏埃尔·凯撒本不该如此简单地活着。
――この男に変えられた。変えられてしまった。 ——被这个男人改变了。彻底改变了。
フットボールで一度、プライベートで一度。二度も壊したミヒャエルのことを、手放すことは許さない。
足球场上一次,私下里一次。两次伤害了米夏尔,我绝不会轻易放手。
「世一」
「ん、なに」 「嗯,怎么了?」
「おはよう」 「早上好」
世一は真っ赤な顔で目を丸くして、次いで笑った。 世一满脸通红,瞪大了眼睛,接着笑了起来。
「おはよ、カイザー」 「早上好,凯撒」
その眼差しに映る自分が頬を緩ませる。 那目光中映出的自己不禁露出了微笑。
「クソだらしない顔」 「一脸窝囊相」
お前も、俺も。その一言を心の中だけで呟いて、ミヒャエルは笑みを模った唇に己のそれを重ねる。世一はくすぐったそうに笑い声を上げた。
你也是,我也是。在心中默念着这句话,米夏埃尔将他的唇覆上了对方那模拟微笑的唇。世一痒得笑出了声。