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短編集:夏/あきづき的小说

短編集:夏 短篇集:夏

13,056字26分钟

X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2024年5~7月分)をまとめたものです。
这是在 X(twitter)上参与的 One Life 投稿作品汇总(2024 年 5~7 月)。

各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
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秘伝・深夜メシの極意 秘传·深夜美食的极致奥义

 同居人が珍しく出掛けていって、一人で過ごす夜だった。
 同居人难得出门了,今晚独自度过的夜晚。

 潔は録画していた試合のチェックを終え、一息ついて気が付いた。小腹が空いている。そういえば今日の夕食は早めに摂ったのだった。そして思い出した。先日実家から送ってもらった段ボールに入っていた、馴染みの袋麺の存在を。
 洁检查完录下的比赛,松了口气,这才注意到。肚子饿了。说起来,今天的晚餐吃得比较早。然后他想起来了。前几天从老家寄来的纸箱里,装着熟悉的袋装方便面的存在。

 
 真夜中に食べるラーメンは美味い。不変の真理だ。  深夜吃的拉面特别美味。这是不变的真理。
 インスタントラーメンの袋を開けながら、潔世一はしみじみと思う。
 打开方便面的袋子时,洁世一不禁感慨万分。

 今夜凛がいなくてよかった。もしこの場に凛がいたのなら、侮蔑に満ちた視線を受けることは免れないだろう。
 今晚凛不在真是太好了。如果凛在这里,恐怕免不了要承受他那充满蔑视的目光。

 潔の同居相手である糸師凛はとてもストイックな性格の持ち主だ。いつ何時であれサッカーのことを考え、その妨げとなり得るものの一切を寄せ付けない。昼間の食事でさえその一定の節度を保っているのだから、この深夜に高カロリーなどもってのほかである。そのルールを他人に押し付けることまではしないが、目に見えた愚行を犯す間抜けを見て流すほど穏やかな人柄では到底ない。凛のそういったストイックさを潔は心から尊敬しているが、それとこれとはまた別の話なのだった。
 洁的同居人糸师凛是个性格非常严苛的人。无论何时都在思考足球的事,对任何可能妨碍到他的事物都毫不容忍。就连白天的饮食也保持着一定的节制,深夜吃高热量食物更是不可想象。虽然他不会将这些规则强加于他人,但绝不是一个看到别人犯傻还能保持冷静的人。洁对凛的这种严苛心怀敬意,但这又是另一回事了。

 小さめの鍋に張った水が沸騰したので乾麺を投入し、冷蔵庫からバターを取り出す。味噌ラーメンのトッピングには欠かせないアイテムだ。適当なサイズに切り取り、本体を冷蔵庫に戻す。どんぶりを用意するか迷って、鍋から直でいいか、と止めにした。深夜メシに必要なのは気軽さである。そういえばタイマーを忘れていた。まあいいか。
 小锅里的水沸腾了,于是投入干面,从冰箱里取出黄油。这是味噌拉面不可或缺的配料。切取适量大小,将黄油本体放回冰箱。犹豫是否准备碗,最后决定直接从锅里吃。深夜餐食需要的是轻松随意。对了,差点忘了计时器。算了,无所谓。

 湯の中の麺を突くと、大体良さそうな硬さだった。火を止め、付属のスープを入れて混ぜる。そしてスタンバイしておいたバター。少し柔くなったそれを麺の上に乗せればたちまち形をなくし、食欲を唆る匂いが立ち上った。頬が緩む。
 用筷子戳了戳锅里的面,硬度似乎刚刚好。关火,加入附带的汤料搅拌均匀。然后是事先准备好的黄油。稍微软化的它一放在面上就迅速融化,诱人的香气随之升腾。嘴角不禁上扬。

 鍋の取っ手を掴み、持ち上げる。キッチンで食べるのは流石にちょっと、と中途半端な理性が囁いたのだった。
 抓住锅柄,将其提起。在厨房吃似乎有点不妥,那半吊子的理性如此低语道。


 リビングのテーブルに並ぶ鍋敷き、鍋、箸、それとコップ。
 客厅的桌子上摆放着锅垫、锅、筷子和杯子。

 それらを前にいただきます、と手を合わせてから湯気の立つ麺を啜る。思わず、声が漏れた。
 面对着这些,合掌说声“我开动了”,然后吸了一口冒着热气的面条。不由得,声音漏了出来。

「う、まぁ……」 「呜、嘛……」

 それはもう、どうしようもなく背徳の味がした。塩分、脂質、糖分、その他諸々不健康のハッピーセットだ。だからこそ美味い。五臓六腑に染み渡る美味さだった。
 那是一种无法抗拒的背德滋味。盐分、脂肪、糖分,以及其他种种不健康的快乐集合。正因为如此,才美味无比。那种美味渗透五脏六腑。

 黙々と箸を運ぶ。あっという間に嵩が減っていく。  默默地动着筷子。转眼间,食物的量就减少了。
 空きっ腹が落ち着いてきたところで、ふと先程と正反対のことを思う。
 当空腹感渐渐平息时,突然想起了与刚才完全相反的事情。

 凛もいればよかったのにな、と。  要是凛也在就好了,想着。
 この場に彼奴がいたならきっと間違いなく、自分に軽蔑の眼差しを向けていただろうけれど。でも、という確信があった。潔が一口食う?と持ち掛けたなら、きっと凛はなんだかんだ言いつつこの背徳の塊を口にしていただろう。そしてその美味に少しだけ表情を和らげて、ふんと鼻を鳴らしたに違いない。
 如果那家伙在场,肯定会毫不犹豫地投来轻蔑的目光吧。但心中却有确信。如果洁提议尝一口,凛一定会一边抱怨一边吃下这背德之物。然后,脸上会因美味而稍稍缓和,发出哼的一声。

 その光景はありありと脳内に浮かんで、潔に含み笑いをさせる。ふす、と間の抜けた音が室内に響いた。
 那情景清晰地浮现在脑海中,让洁不禁含笑。噗嗤,一声空洞的笑声在室内回响。

 考えながらも箸は進み、そのうち鍋はすっかり空になった。スープはまだ残っていたが、それを飲むのは許されないという自制心はギリギリ残されている。潔はごちそうさまでしたと手を合わせた。
 一边思考着,筷子却不停前进,不一会儿锅就彻底空了。虽然汤还剩下一些,但那种自制心勉强残留着,不允许自己喝掉。洁合掌说了声多谢款待。


 鍋と箸を洗い、ゴミを捨て、証拠隠滅を終えて一息つく。
 洗好锅和筷子,扔掉垃圾,完成证据销毁后松了一口气。

 時計を見れば、時刻は深夜零時を回ったところだった。どうしようか、と軽く考える。
 看了看时钟,时间已经过了午夜零点。轻声思考着该怎么办。

 しょっぱいものを食べれば次は甘いものが食べたくなる。これまた自然の摂理というものである。困った摂理だった。
 吃咸的东西后,自然会想吃甜的东西。这也是自然法则之一。真是令人困扰的法则。

 そして視線を向けた先、冷凍庫には棒アイスが入っている。自分で買ったので間違いない。
 视线转向的地方,冷冻库里有棒冰。是自己买的,没错。

 理性と欲望の天秤がぐらぐらと揺れる。既に摂取したカロリーを考えればアイスなど誤差では。内なる悪魔が囁いて、秤は欲望に傾いた。
 理性和欲望的天平摇摆不定。考虑到已经摄入的卡路里,冰淇淋什么的不过是误差罢了。内心的恶魔低语着,天平倾向了欲望。

 冷凍庫の扉に手を掛け、アイスの箱を取り出す。外箱を開封する。本体を取り出して、意気揚々とビニールを破く。そのとき、潔の耳に玄関の方から物音が届いた。
 手搭在冷冻库的门上,取出冰淇淋的盒子。打开外包装。取出本体,意气风发地撕开塑料膜。就在这时,洁的耳朵捕捉到了玄关方向传来的声响。


 キッチンまで進んだ凛の視界に飛び込んできたのは、片手に構えたアイスを今まさに食べようとしている潔の姿だった。
 凛走进厨房,映入眼帘的是洁正准备吃手中的冰淇淋的模样。

 凛はすっと目を細める。かなり剣呑な顔つきだった。
 凛微微眯起眼睛。表情相当不悦。

 そんな凛を気にした様子もなく、潔はのほほんと言う。
 凛的担忧似乎并未影响到洁,他轻松地说道。

「おかえり。これ、凛も食う?」 「你回来了。这个,凛也要吃吗?」

 これ、という言葉と共にふらふらと揺れるアイスに視線を吸い寄せられながら、凛は仏頂面でそれを切り捨てる。
 随着“这个”一词,视线不由自主地被摇摇晃晃的冰淇淋吸引,凛却板着脸拒绝了。

「ぬりぃ。いるかそんなもん。今日は散々食ってきたんだよ、カロリーオーバーだっての」
「涂啊。那种东西有吗。今天已经吃得够多了,热量超标了」

「まあまあ、そう言わずに。一口くらいなら誤差だって」
「哎呀,别这么说嘛。一口的话,就当是误差吧」

 食い下がる潔に、凛は少しだけ眉根を寄せる。  面对坚持的洁,凛微微皱起了眉头。

「…」
「口直しにもいいって言うし」 「说是可以解解闷」

 そう言って、潔は持っていたアイスを凛に差し出した。凛はその青色をしばらく眺める。やがて小さく息を吐き、無言で齧り付いた。
 说着,洁将手中的冰淇淋递给了凛。凛盯着那青色的冰淇淋看了一会儿。不久,轻轻吐了口气,默默地咬了一口。

 潔の顔に笑みが浮かぶ。しかしその表情は、齧られた後のアイスを見て悲しげに歪む。凛の持っていった面積の大きさにああ、と声をあげた。
 洁的脸上浮现出笑容。然而,当他看到被咬过的冰淇淋时,表情却悲伤地扭曲了。看到凛咬下的大块面积,他不禁“啊”地叫出声来。

「容赦ねーな、お前…」 「你还真不留情啊…」

 残された部分を口に運びながら、潔はしょぼしょぼと不平を溢す。
 洁一边将剩下的部分送入口中,一边不满地嘟囔着。

 お構いなしに凛はしゃくしゃくと口内のアイスを味わい、飲み込む。
 凛毫不顾忌地大口品尝着口中的冰淇淋,然后咽下。

 終わり際、ふん、と鼻を鳴らす音が響くのを聞いて、潔はひっそりと目を細めた。
 临近尾声,听到一声不屑的鼻息,洁悄悄地眯起了眼睛。

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