短編集:春 短篇集:春
X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2024年3月・4月分)をまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的 One-Rai 投稿作品(2024 年 3 月·4 月)的汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请参见第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
illust/105497745 插画/105497745
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それはお前が思うより 那比你想象的
待ち合わせ場所に着いたその時点で、相手の機嫌があまりよろしくないことには気付いていた。しかしその原因は見当もつかない。
到达约定地点时,他已经察觉到对方的情绪不太好。然而,原因却毫无头绪。
困ったな、と潔はためいきを吐く。 “真是麻烦啊。”洁叹了口气。
それを見咎めたのか、テーブルを挟んで向かい合った顔の眉間に刻まれた皺が更に深くなる。
或许是察觉到了他的视线,对面那张隔着桌子的脸,眉间的皱纹更深了。
しまったという気持ちの一方で、段々と苛立ちが湧いてくる。
虽然心里暗叫不妙,但渐渐地烦躁感涌了上来。
せっかくの久方振りの再会だというのに、何故これほど気まずい空気を味わねばならないのだろう。プロの選手として活動するようになってしばらく経つ現在、自分と相手の所属先は異なっている。直接会おうと思えばスケジュール調整にはお互いそこそこ難儀する身だ。それを乗り越えた先でこんな事態が待っていようとは、これ如何に。
难得久违的重逢,为何要面对如此尴尬的气氛。作为职业选手活动了一段时间后,自己和对方的所属队伍已经不同。如果想要见面,彼此的日程安排都相当麻烦。克服了这些困难后,却遇到了这样的局面,真是无可奈何。
そこまで考えたところで自分の眉間にまで皺が寄りかけていることに気付き、慌てて軽く揉みほぐす。
想到这里,注意到自己的眉间已经皱了起来,慌忙轻轻揉开。
目の前の男は愛想のない、およそ笑顔とは無縁の人間性の持ち主ではあるが、意味もなく怒るようなことは流石にない。ここまで派手に臍を曲げているからにはそれなりの理由があるはずだ。それが自分にとって納得のいくものであるかというと、また別の問題ではあるのだが。
眼前的男人虽然不苟言笑,但也不至于无缘无故发脾气。既然如此明显地闹别扭,肯定有其原因。至于这个理由是否能让自己信服,那就是另一回事了。
意を決して、そろそろと口を開く。 下定决心,缓缓开口。
「あー…、凛さんや、何かトラブルでもありました…?」
「呃……凛先生,是遇到什么麻烦了吗?」
「別に」 「没什么」
間髪入れずに返ってきた言葉は取り付く島もない。問いを否定する内容とは裏腹に、それを口にする凛の眼差しは明らかにいつもより尖っている。潔の眉が下がる。
立刻回敬的话语毫无破绽。尽管内容是否定提问,但凛的眼神明显比平时更加锐利。洁的眉头微微皱起。
「そんな面しといてかよ。…言いたくないならいいけど」
「摆出那副表情干嘛。…不想说就算了」
投げる言葉に諦念を含ませ、潔は軽く目を伏せた。 含着放弃的话语抛出,洁轻轻垂下了眼帘。
凛から外した視線の先、卓上ですっかり存在を忘れ去られていたコーヒーが目に入り、手持ち無沙汰に砂糖とミルクを投下する。マドラーを突っ込んで、殊更にゆっくりとかき混ぜた。黒々とした水面が徐々に渦を巻き、茶色く濁る。
从凛那里移开的视线前方,桌上早已被遗忘的咖啡映入眼帘,无聊地投入砂糖和牛奶。将搅拌棒插入,特意缓缓搅拌。漆黑的水面逐渐卷起漩涡,变得浑浊。
もういいだろうと判断してコップを口元に寄せればそれは随分ぬるくなっていて、潔は微かに渋面を作った。
判断已经足够,将杯子靠近嘴边,却发现它已经变得相当温热,洁微微皱起了眉头。
凛はその顔を眺め、やや置いて口を開く。 凛凝视着那张脸,稍稍停顿后开口。
「この間。配信してたろ、お前」 「之前。你不是在直播吗?」
「うん? いつ?」 「嗯?什么时候?」
「…先週の木曜」 「…上周四」
首を傾げる潔に、相変わらず棘の生えた声で凛は言った。
洁歪着头,凛依旧用带刺的声音说道。
凛のいう配信とは、潔がファンに向けて動画視聴サービスで行っている生放送のことだ。それ自体は潔にもわかっていた。
凛所说的直播,是指洁通过视频观看服务向粉丝进行的现场直播。这一点洁也是知道的。
しかしマネジメント事務所からの指示により、潔はこの生放送をそれなりの頻度で行っている。したがって凛が言わんとするのがどの回のことか、最初の言葉だけでは判断がつかなかったのだ。
然而,由于经纪公司的指示,洁不得不以一定的频率进行这种直播。因此,凛所指的是哪一期,仅凭第一句话是无法判断的。
凛の返答に潔は得心し、ああと頷く。 听到凛的回答,洁恍然大悟,点头称是。
「ホワイトデーのやつな。それがどうかした?」 「白色情人节的那个吧。那有什么问题吗?」
特にお前関係の話はなかったと思うけど、と続けられた言葉に凛は顔を歪める。
虽然我觉得应该没有特别提到你的事,但凛听到接下来的话还是皱起了眉头。
やはり自分は此奴のこういうところが心底嫌いだと、そう再確認させられた所為だった。
果然自己就是打心底讨厌这家伙的这种地方,这一点再次得到了确认。
「テメェが」 「你这家伙」
凛の唇がゆっくりと動き、言葉を区切る。地の底から響くような声音に、潔は慌てて居住まいを正した。
凛的嘴唇缓缓动着,分隔着话语。那声音如同从地底深处传来,洁慌忙端正了姿态。
「有象無象の雑魚どもに」 「对于那些无名小卒」
すうっと瞼が半ばまで下ろされ、見事に生え揃った睫毛が存在感を示す。その陰から覗く瞳は、対峙する相手を射殺さんばかりだった。
眼睑轻轻垂下,整齐排列的睫毛彰显着存在感。从那阴影中窥视的目光,仿佛要将对峙的对手射穿。
「あんな、クソぬりぃことほざいてんの見て、愉快な気持ちでいられるわけねぇだろ」
「看到那种满嘴喷粪的家伙,怎么可能还高兴得起来啊」
目を丸くする潔を、凛は一切の容赦なく睨み付ける。
凛毫不留情地瞪着眼睛圆睁的洁。
先日の配信は日本のイベントに倣い、バレンタインのお返しと銘打って為されたものだった。そのため潔もいつもよりリスナーのリクエストに大盤振る舞いで応えており、そのうちの一つが凛の感情を致命的なまでに逆撫でた。
前几天的直播是效仿日本的节日,打着情人节回礼的名义进行的。因此洁也比平时更慷慨地回应听众的请求,其中之一彻底触怒了凛的逆鳞。
潔はリアルタイムで送られてくるコメントに応じ、画面外のスタッフから促されて、半信半疑のまま困ったような、はにかんだような顔でカメラに向かって愛の言葉を告げたのだ。
洁根据实时传来的评论,在画面外的 staff 催促下,半信半疑地,带着困扰又羞涩的表情,对着镜头说出了爱的告白。
ピッチ外では人畜無害を絵に描いたような男のそれは大いに評判を呼び、回り回ってついには凛の知るところとなったのである。今の凛にとって、潔がそうして何の気なしに振る舞う好意は吐き気を催す対象に他ならない。
球场外那个人畜无害的男人引起了极大的反响,最终传到了凛的耳中。对现在的凛来说,洁那不经意间表现出的好意,只会让他感到恶心。
「言ったはずだ。よそ見しやがったら殺す」 「我说过的吧。敢东张西望就杀了你」
「いやでも、ファンの人は別枠っていうか、」 「不过嘛,粉丝这种存在,算是另当别论吧,」
「知るかクソ」 「谁知道啊混蛋」
妙に軽やかな心持ちで、凛は潔の弁明を切って捨てる。
心情莫名地轻松起来,凛干脆地打断了洁的辩解。
そんな理屈は凛にも分かっている。潔が塵芥の如き大多数と、凛とに向けるそれはまったく別のものなのだと。それでも気に入らないという感情が抑えられないからこそ、凛の苛立ちはいや増した。
凛也明白这个道理。洁对那些如尘埃般的大多数人和对凛的态度是完全不同的。正因为无法抑制这种不喜欢的感情,凛的烦躁才愈发加剧。
しかし、一度口に出してしまえばすっきりした。そうだ、何もかも此奴が悪い。こんな自明の理さえ解さない、潔世一という人間が。
然而,一旦说出口,心情就舒畅了。没错,一切都是这家伙的错。连这种显而易见的道理都不懂,洁世一这个人。
「お前は俺の恋人だろうが」 「你不是我的恋人吗」
潔の目が見開かれる。元より大きな目が、今は零れ落ちそうなほどいっぱいいっぱいだった。
洁的眼睛瞪大了。原本就大的眼睛,此刻几乎要溢出泪水。
間の抜けた面を凝視する。 凝视着那张呆滞的脸。
じわじわと潔の顔が赤みを帯びていき、やがてくしゃりと歪んだ。頬を掻いて、あー、とも、うー、ともつかない中途半端な呻きを漏らす。
洁的脸颊渐渐泛红,最终扭曲成一团。他挠了挠脸颊,发出一声既非“啊”也非“呜”的半吊子呻吟。
「凛ってそういうとこ、案外直球だよなぁ…」 「凛那家伙,有时候还真是直截了当啊……」
「文句あんのか」 「你有意见吗?」
「いや、そうじゃない。ないけどこう…ムズムズするんだよ……」
「不,不是那样。没有意见,但就是……心里痒痒的……」
潔は瞼を一旦閉じ、深々と息を吸って、吐いた。 洁闭上眼睛,深深吸了一口气,然后吐出。
自分と凛とがこうした関係になってから、既にそれなりの時間が経っている。その間、相応のお付き合いというものをしてきたつもりではある。しかし潔の感覚として、それはこれまでの親交の延長線上にある域を出なかった。
自从自己和凛变成这种关系以来,已经过去了相当长的时间。在这期间,自认为也进行了相应的交往。然而在洁的感觉中,那始终没有超出以往亲密关系的范畴。
だから改めてこうも直接的に明言されて、それらしい感情をぶつけられると照れてしまう。
所以再次被如此直接地表白,面对那种真挚的情感,不禁感到害羞。
浮き足立つ気持ちを落ち着かせるには少しばかり時間が必要だった。
让浮躁的心情平静下来,需要稍稍一点时间。
耳に熱さが残ったまま、それでもどうにか瞼を押し開く。凛と目が合った。
耳朵还残留着热度,尽管如此,还是勉强睁开了眼睑。与凛的目光相遇。
「…うん、ごめん。俺だって多分、お前が同じようなことしてたらいい気はしねーもんな。天地がひっくり返ってもなさそうだけど。兎に角これからはそういうの、ないように気をつける」
「…嗯,抱歉。我也是,如果换成你做同样的事,我也不会觉得好受的。虽然天地倒转也不太可能。总之,以后我会注意不再这样了。」
「わかりゃいい。金輪際忘れんじゃねぇぞ、タコ」 「明白了就好。千万别忘了,章鱼。」
「はいはい」 「是是」
潔は大人しく頷く。 洁顺从地点头。
凛は軽く鼻を鳴らす。そうして潔のそれと同じようにすっかり冷めていたコーヒーを口に含み、盛大に眉を顰めた。
凛轻轻哼了一声。她像洁一样含了一口已经完全冷掉的咖啡,皱起了眉头。
見ていた潔がふは、と笑った。 看着这一幕的洁哈哈笑了起来。