夜明け前、二人の世界 夜明け前,二人的世界
3,626 字7 分钟
二人で暮らしている絢瀬さんと東條さんのお話です。 这是关于住在一起的绚瀬和东条的故事。
※注意!
・短いよ ・短的
・匂わせてるよ ・在暗示呢
・全年齢だよ ・全年龄哦
ずーーーっと前にリクエストをいただいていたんですが、いろんなシチュエーションで書いていたら楽しくなってしまって収まりどころが分からなくなり、結局お誕生日を目処に新しく書き直しました。これで答えになるだろうか。
很久以前就收到了请求,但因为在各种场景中写得很开心,结果不知道该怎么收尾,最后以生日为目标重新写了一遍。不知道这样是否能算是答案。
遅れましたが、絢瀬さんハッピーバースデー! 迟到了,但绚濑小姐,生日快乐!
私にとっても大切な人であるあなたに、それからあなたの大切な人たちに。
我心中重要的人,以及你重要的人们。
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きし、と小舟が揺れたので、返事とも寝言ともつかない声を漏らした。
小舟摇晃了一下,我发出了既像回应又像梦话的声音。
「……起こしちゃった?」 「……把你叫醒了吗?」
囁く声はごく小さい。彼女が前髪を梳く気配がする。何度か往復した指先がそうっと耳をなぞっていって、むずかるように寝返りを打ったら今度は確かに笑ったようだ。ごめんね、と謝る気のない声と、それからこめかみにやわらかい音。彼女はいつもそうやって優しいキスをくれる。
囁声非常小。她似乎在梳前刘海。几次来回的指尖轻轻地划过耳朵,翻身时似乎确实笑了。没有道歉的声音说对不起,然后是颞部的柔和声音。她总是这样给我温柔的吻。
もう一度小さく小舟が揺れた。静かな水面にはそれきり波が立たず、私は再び眠気の中に沈んでいきながら、夢うつつに彼女の名前を呼ぶ。
又一次小船轻轻摇晃。平静的水面上再没有波纹,我再次在困倦中沉沉入睡,梦中呼唤着她的名字。
(…絵里)
ゆらゆらと覚束ない意識のまま手を伸ばしたけれど、掴んだのは絹のような髪の先でも滑らかな肌でもない。すっかり身に馴染んだ毛布の感触を緩慢な動作で引き寄せた。体温は無く、代わりに愛しいひとの匂いがする。ひとりぶんの重みを乗せたちいさな世界で、しばらくの間そうやって微睡みをひそやかに上下していた。
我伸出手,意识模糊不清,但抓住的不是丝滑的头发或光滑的肌肤,而是完全适应身体的毛毯的触感。我没有体温,取而代之的是心爱之人的气息。在这个承载着一个人重量的小世界里,我就这样静静地在微睡中上下沉浮了一段时间。
——次に目が覚めた時、世界は薄青に変わっていた。 ——当我再次醒来时,世界已经变成了淡蓝色。
「………」
まだ夢の続きを見ているのだろうかとぽやぽや瞬きをしていると、窓際でくすりと笑い声が聞こえる。
还在做梦吗?我迷迷糊糊地眨着眼睛,听到窗边传来轻轻的笑声。
「顔が寝ぼけているわよ、希」 「你的脸看起来很困呢,希」
きれいな雪の結晶が刺繍されたグレーの遮光カーテンは、この部屋に引っ越してきた時に二人で選んだものだ。家具売り場を二人で反対周りに巡って行って、最後に「せーの」で指を差した。希はあっちを選ぶと思った、と言われたカーテンは確かに好みではあったけれど、私と彼女が暮らす部屋ならきっとこっちの方がずっと馴染むと感じたし、今でもそうだと確信している。
刺绣着漂亮雪花的灰色遮光窗帘是我们搬进这个房间时一起挑选的。我们在家具卖场绕着反方向走,最后一起“预备,开始”地指了指。虽然被说成希会选择那边的窗帘确实是我的喜好,但我觉得如果是我和她生活的房间,这边的窗帘一定会更合适,现在我依然坚信这一点。
そのカーテンは今、役目を終えて左右に開かれていた。留められてはいない。幕が上がり切る前の世界で、愛しい恋人がこちらを見ているのが分かる。
那道窗帘现在已经完成了它的使命,向两边打开。没有被固定。在幕布完全升起之前,我能看到我心爱的恋人正朝这边看。
「…えり?」
「うん」 「嗯」
どうしたの、と微笑む彼女は窓際のスツールから抱えていた片脚を下ろした。シャツの裾から惜しげもなく晒された白い肌。ガラス越しに広がる街と空はまだ眠りから覚めていない。
怎么了,她微笑着从窗边的凳子上放下了抱着的一条腿。衬衫下摆毫不吝啬地暴露出白皙的肌肤。透过玻璃,街道和天空仍然没有从睡梦中醒来。
何をしているのと訊く前に、彼女の方が答えてくれた。
在我问她在做什么之前,她先回答了我。
「——ふと起きた時にね」 「——突然醒来的时候」
私と彼女はこれまで長い時間を過ごしてきた。両手の指では数えきれない季節が過ぎ、新たな年を迎え、今もまた新しい季節がやってくるところだ。
我和她已经度过了很长的时间。用双手的手指都数不清的季节过去了,迎来了新的一年,现在又有新的季节即将到来。
最初の方にどんなプレゼントを贈ったか私が忘れてしまっても、彼女はにこにことして「忘れてないわ」と言い、決してそれを教えてはくれない。いつも優しいのに何故か時々意地悪で、だけど嫌いになんかなれないのが少し悔しい。結局、事前にプレゼントを買うのは何年か前から諦めてしまった。その代わり、一緒に出かけた日の中で私が彼女に贈りたいと思ったものをひとつ選んでデートの最後にそれを渡すようになっている。今回は恐竜をモチーフにした文房具セット。その半ば子供じみたペンケースを持って職場に向かう彼女を想像しては笑う私を見て、「クリスマスを楽しみにしていることね」と言い返す彼女だって随分と楽しそうだった。きっと来年も同じようなことをするんだろう。
最初的时侯我送了什么礼物我已经忘记了,但她总是笑着说“我没有忘”,却从不告诉我。她总是很温柔,但有时又有些恶作剧,这让我有些懊恼,因为我根本无法讨厌她。最终,我从几年前就放弃了提前买礼物的想法。相反,我会在一起出去的日子里选择一件我想送给她的东西,并在约会结束时把它交给她。这次是以恐龙为主题的文具套装。想象着她拿着那半是孩子气的笔袋去上班,我忍不住笑了,她也回应我说“我很期待圣诞节呢”,看起来也很开心。明年大概也会做同样的事情吧。
「部屋が静かで、ひんやりした空気が満ちていて。あと喉が少し乾燥していたから、ああ加湿器をセットするの忘れちゃったな、って思ったの」
“房间安静,空气清凉。还有喉咙有点干,所以我想,啊,我忘了设置加湿器。”
絵里はまるで世界に私たちだけしかいないように、小さくてひそやかな囁き声で続ける。私は彼女の、私だけに聞かせてくれるその掠れた声が好きだった。
絵里仿佛只有我们两个人在这个世界上,继续用小而低沉的耳语声说着。我喜欢她那只让我听到的沙哑声音。
「うん」 「嗯」
「でもね? 希の寝顔を見た瞬間、そういうのがどうでもよくなっちゃって」
「但是呢?看到希的睡脸的瞬间,那些都变得无所谓了」
「…うん?」 「…嗯?」
寝ぼけた顔のままで思わず首を傾げる。聞き間違いだろうかと片眉をあげた私を見ながら、彼女はいっそう嬉しそうに微笑んだ。どうやら私の耳がねぼけている訳ではないらしい。
寝ぼけ的脸庞不由自主地歪着头。看着我抬起一边眉毛,似乎在怀疑自己听错了,她更加开心地微笑着。看来我的耳朵并不是在打瞌睡。
「まるくてすべすべの肩とか、子供みたいに口元に添えてる手とか、細い首すじとか、いい匂いのする髪の生え際とか、可愛い寝顔とか。そういうのを見ていたらどんどん嬉しくなっちゃって、最後の方には寝る前の事やご飯を食べた後の事をぽんぽん思い出しちゃったものだから」
“圆润光滑的肩膀,像孩子一样轻轻放在嘴边的手,纤细的脖颈,散发着好闻气息的发际线,可爱的睡颜。看到这些,我越来越开心,最后甚至想起了睡前的事情和吃完饭后的事情。”
「…ちょ、」 「…等一下,」
「幸せを目一杯叫びそうになって希のことを起こしちゃいそうだったから、それで一旦落ち着こうと思って街を見ていたのよ」
「我差点大声喊出幸福,可能会把希吵醒,所以我想先冷静一下,看看街道。」
夜明け前の風景って、学生の頃にあった期末考査ぶりだわ。そう言って涼しい顔で笑っているけれど、ようやく覚醒し始めた私の頬は逆に温度が上がり始めている。あんなに綺麗な顔をしながらなんてことを考えているんだか。希が関わるとあいつ斜め上にすっ飛ぶわよね、という評価を下していた友人の顔が頭をよぎる。
夜明け前的风景让我想起了学生时代的期末考试。虽然我面带微笑,显得很冷静,但我刚刚开始清醒过来,脸颊却反而开始发热。真不知道她在想些什么,明明长得那么漂亮。朋友曾评价说,一旦希参与其中,那家伙就会飞向斜上方,这个想法在我脑海中闪过。
私は自分の格好を思い出して更に体温が上がるのを感じながら、もぞもぞと毛布の中に潜り直した。寝具に染み付いた彼女の香りも、私が好きなもののひとつ。
我回想起自己的打扮,感到体温进一步上升,便在毛毯中重新蜷缩起来。寝具上残留的她的香气,也是我喜欢的东西之一。
「希?」
「…もー。風邪ひくで、えりち」 「…真是的。会感冒的,绘梨衣」
戻ってきいと隣のスペースをぺしぺし叩けば、忠犬よろしく素直に立ち上がって近寄ってくる。
回来后轻轻拍打旁边的空间,像忠犬一样乖巧地站起来走过来。
「カーテン閉める?」 “要关窗帘吗?”
「いい。起きたら二人でパン屋さん行こ」 “好。醒来后我们一起去面包店。”
「それは名案ね」 “那是个好主意。”
するりとベッドの中に滑り込んできた彼女の脚はひんやりしていて、それを温めるように身を寄せた。くすくす笑った相手の腕を枕にするといっそう距離が近くなる。あやすように何度か口づけを落とされ、それがいかにも可愛がるように柔らかくてくすぐったいから段々気恥ずかしくなってきた。
她滑进床里的腿冰凉,我靠近她以温暖她。把对方咯咯笑的手臂当作枕头,距离变得更近了。她像是在安抚我一样几次亲吻,柔软而又让人发痒的感觉让我渐渐感到害羞。
「…えりち、完全に起きとるやん」 「…えりち,完全醒着呢」
「希もね」 希もね
絵里はそう言うと私をぎゅうと抱きしめて、耳朶に唇を寄せてきた。
絵里是这样说的,然后紧紧抱住了我,把嘴唇靠近了我的耳朵。
「あなたが私のことを絵里って呼ぶ時は、寝ぼけてるか抱かれてるかのどっちかだもの。——覚えてる? さっき寝ながら私のこと呼んだの」
“你叫我绘里的时候,要么是迷糊,要么是被抱着。——记得吗?刚才你在睡觉的时候叫了我的名字。”
「は、あ?」 「哈,啊?」
「実はそれもあって、すっかり目が覚めちゃったのよね。…でも今日はせっかくの誕生日だし、我慢しなくても良いかしら?」
「其实也是因为这个,我彻底醒过来了呢……不过今天是难得的生日,难道不可以忍耐一下吗?」
「…——あ、あほ!」 「…——啊,笨蛋!」
すかさずお尻に手が伸びてきて、慌てて離れようとするけれどもう遅いみたいだ。こちらは数時間前の疲労がまだ残っており、向こうは準備万端。早起きは苦手なくせに、本当こういう時ばかり隙がない。すかさず顎や首筋やらに溢れるほどの愛を注がれ、十年の間に隅々まで知られてしまった体はあっという間にふやけていく。
手立刻伸向我的臀部,我慌忙想要躲开,但似乎已经来不及了。这里的疲劳在几小时前就已经留下,而对方却早已准备好。虽然我不擅长早起,但在这种时候却总是毫无破绽。立刻就被倾注了满满的爱意在下巴和脖子上,十年来被彻底了解的身体瞬间变得软绵绵的。
「ねえ、希」 「嘿,希」
薄青に包まれた夜明け前の小さな世界で、愛しい彼女が優しく覆いかぶさってくる。
在薄青包裹的黎明前的小世界里,心爱的她温柔地覆盖过来。
「な、に」 「那,什么」
「あなたに会えてから、私はこんなに幸せでいいのかしらってずっと思ってたの。でも希はずっとそばにいてくれて、何度でも私に幸せをくれる。——好きよ、希。今までも、これからも、ずっと生きていくこの先の果てまで」
「自从见到你,我一直在想我这么幸福真的好吗。但是希一直在我身边,给我无数次的幸福。——我喜欢你,希。直到现在,未来,以及一直活到生命的尽头。」
そうやって溺れそうなくらいの愛をこめて、絵里は私にキスをした。
就这样,满怀快要溺死般的爱,绘里吻了我。
「愛してるわ、希。もう泣いても喚いても離してあげない、何度だって伝えに行くから覚悟していてね」
「我爱你,希。无论你怎么哭泣、怎么叫喊,我都不会放开你,我会一次又一次地去告诉你,所以请做好心理准备。」
「…えりちこそ。怖がって怯えたってにがさへんよ。一生そばにいてもらう」
「…恵理只会。就算害怕也不会放开你。我会让你一辈子陪在我身边。」
噛み付くようにキスを返せば、彼女はアイスブルーの瞳を嬉しそうにきらめかせた。「望むところだわ」
如果你像咬住一样回吻,她的冰蓝色眼睛闪烁着愉悦的光芒。“正是我所希望的。”
セミダブルのベッドは身を寄せ合うには少々手狭で、だけど私たちにとっては丁度いい。舟の帆みたいな真っ白いシーツ、湖みたいな深みのあるブルーの毛布。お気に入りのカーテンに好きなものばかりが並んだ棚、私が撮った写真、彼女が集めたポストカード。1LKの二人の世界は、そういう小さな幸せが重なって回っている。
双人床的床有点狭小,但对我们来说正合适。像船帆一样的洁白床单,湖水般深邃的蓝色毛毯。喜欢的窗帘上摆满了喜欢的东西,我拍的照片,她收集的明信片。1LK 的两人世界,就是这样的小幸福交织在一起。
私は何度だって小舟に寝転ぶ夢を見るだろう。行先は分からず、未来に何が待ち受けているのかも定かではない夢を。
我会无数次做梦躺在小船上。目的地不明,未来会有什么在等待着我也不确定的梦。
「えり、ち。絵里」
「うん」 「嗯」
「…好き。好きよ」 「…喜欢。我喜欢你」
幸せでいいのかなんて、それは私の台詞なのに。ひとりで夜を過ごす寂しさも、誰かを待つ切なさも、繰り返される喜びも、覚えきれない嬉しさも、あなたがくれたその数えきれないすべてが私にとっての幸せだった。絶え間なく降り積もっていく日々は同じようでいて全く飽きることが無い。何度も喧嘩をしたし、何ならもうだめだと思った時もあったのに、絵里も私もお互いがいないと幸せの温度すら分からなくなってしまうのだ。
幸せでいいのかなんて,那是我的台词呢。一个人度过夜晚的寂寞,等待某人的切肤之痛,反复出现的喜悦,无法记住的快乐,所有你给予我的那些数不清的东西,都是我幸福的源泉。不断积累的日子看似相同,却从未感到厌倦。我们吵过很多次,甚至有过觉得不行的时刻,但无论是绘里还是我,彼此缺席时连幸福的温度都无法感知。
私は震える息を吐き出しながら、絵里の首にすがりつく。
我颤抖着吐出一口气,紧紧抱住绘里的脖子。
「あいしてる」 我爱你
満足げに目を細めた絵里は苦しくなるくらい抱きしめてくれた。その重さと体温を全身に受け止めて、私は全身が幸福に包まれていくのを実感する。
满意地眯起眼睛的绘里紧紧地抱住了我,几乎让我感到窒息。感受到她的重量和体温,我意识到自己全身都被幸福包围着。
部屋に満ちる薄青い闇が、ゆっくりと潮が引いていくように薄れていった。窓の向こうの夜明けも段々と白く姿を変えていく。その向こうに滲み始めた空は、きっと愛しい彼女の色だ。もう一度寝て起きる頃には世界もすっかり目を覚ましてしまい、また騒々しくて目まぐるしい日常が戻ってくる。二人きりの夜明けの世界なんてすっぽり飲み込んで隠してしまうほどの毎日を。
房间里弥漫的淡蓝色黑暗,像潮水一样缓缓退去。窗外的黎明也渐渐变得洁白。那边开始模糊的天空,肯定是我心爱的她的颜色。等我再一次睡觉醒来时,世界也完全苏醒过来,又会迎来喧闹而忙碌的日常。每天都像是将两人独处的黎明世界完全吞没并隐藏起来。
——だけど隣に彼女が居続けてくれる限り、どんな世界だって私は美しいと感じるのだろう。
——但是只要她一直在我身边,无论是什么样的世界,我都会觉得美丽。
『夜明け前、二人の世界』end 《夜明け前,二人的世界》end