笑顔 笑容
本誌ネタバレ(#307)ありです! 含正刊剧透(#307)!
衝動で書きました。妄想でしかない。これぞ二次創作。
一时冲动写的。纯属妄想。这才是二次创作。
新キャラのキャラも何もかも掴めてないので、全部妄想です。キャラおかしかったら何事もなかったようにそっと下げます。
新角色的性格设定都没完全把握,全是脑补。如果角色性格有偏差就当作无事发生悄悄撤下。
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※今週の本誌ネタバレ(#307)あります※ ※内含本周杂志剧透(#307)※
〝笑顔〟ってやつは、案外都合がいい。 所谓"笑容"这种东西,意外地很便利。
内心何を思っていても、笑顔を貼り付けておけば、人は簡単に騙せる。
不管内心在想什么,只要贴上笑容,就能轻易骗过别人。
笑顔を浮かべているだけで「気のいいやつ」「穏やかなやつ」「好青年」なんて、勝手にいい印象を抱いてくれる。
仅仅挂着笑脸,人们就会擅自产生"性格不错""温和的人""好青年"之类的好印象。
まぁ中にはサッカーの実力がある故にヘラヘラしているボクが気に入らないと、敵意を向けてくるやつもいる。だが、そういう奴も大抵はこっちが上なのだとサッカーの実力を示した上で、笑顔で接してやれば大抵折れる。
不过也有人因为看不惯我仗着足球实力强就吊儿郎当的样子,对我露出敌意。但只要在球场上展现出压倒性实力后,再对他们露出笑容,这些家伙多半就会服软。
敵わない──そう思わせた上で、笑顔で優しく接してやれば、相手に屈辱を味合わせることもできるし、逆に掌を返したようにボクを神聖化してくる奴もいる。
先让对方意识到"根本赢不了",再微笑着温柔相待——这样既能令对方尝到屈辱滋味,偶尔还会有人突然态度逆转,把我捧上神坛。
人間って単純な生き物だなと、つくづく思う。 人类真是单纯的生物啊——我时常这么感慨。
笑顔を作って向けてやるだけで、こんなにも周りの空気は思い通りに動いていく。
仅仅摆出笑脸相迎,周围的氛围就能如此轻易地任我摆布。
それがとても気持ちが良く、そして同時にとても────つまらない生き方だ。
这种感觉非常美妙,但同时又是如此────乏味的生活方式。
笑顔は都合がいい。だけど、とてもめんどくさい。口の角を上げて、目尻を下げて、その表情筋を維持することは疲れる。
笑容真是方便。但同时又麻烦透顶。嘴角上扬,眼角下垂,维持这副表情肌实在累人。
だけど誰にも知られてはならない。 但绝不能被人发现。
笑顔で好青年──それがボク〝バニー・イグレシアス〟なんだ。
以笑容示人的好青年──这就是我"巴尼·伊格莱西亚斯"。
みんなが求める、ボクなんだ。 大家所期待的,就是这样的我。
笑って、笑って、笑って……サッカーをやり続ける。サッカーで自分の存在証明をし続ける。
笑着、笑着、笑着……继续踢足球。用足球来持续证明自己的存在。
そうしていれば、簡単にみんなの求める〝ボク〟になれる。
只要这样做,就能轻易成为大家所期待的"我"。
たとえ笑うたびに、自分の中で擦り切れるような感覚があったとしても。虚空の中にいるような気持ちになっても。
即便每次微笑时,内心都像被磨损般疼痛。即便感觉自己仿佛置身虚空之中。
誰にも知られなければ、そんなボクは〝ない〟のだ。
只要不被任何人发现,这样的我就等于"不存在"。
カランコロンと店のドアが開く音がする。 叮铃当啷——店铺门扉开启的声响传来。
ボクはそんな音を聞きながらも、BGMのように意識はせず、目の前のフィデウアを黙々と食べる。
我一边听着这样的声响,却如同对待背景音乐般不加留意,只是默默咀嚼着眼前的费迪乌斯面。
今日は試合だ。いつものようにただみんなの求められるように動いて、活躍して、それで終わり。
今天是比赛日。和往常一样只需按大家的期待行动、表现活跃、然后落幕。
この食事のように、当たり前にこなすルーティンだ。
这就像吃饭一样,是理所当然的日常惯例。
そう思いながら、腹を満たすためだけの行為を繰り返す。
一边这么想着,一边重复着只为填饱肚子的行为。
そんな時だった── 就在那时──
「あのー、すみませーん! ハロー!」 "那个——,不好意思!哈喽!"
聞き馴染みのない言語と、発音のなってない英語が聞こえた。
耳边传来陌生的语言和发音蹩脚的英语。
目を向ければ、そこには東洋人らしき子どものような顔つきの男がいた。
抬眼望去,那里站着个长着娃娃脸的东方男人。
ボクは咄嗟に、いつもの仮面をつける。 我条件反射般戴上了惯用的面具。
「やぁ!(オラ!)」 "哟!(喂!)"
できるだけ警戒心を持たれない、爽やかな口調で挨拶を交わす。すると、男もキョトンとしたような顔をして「お……オラ!」と片言で返してくれる。
用尽可能不引起戒备的清爽语调打招呼。于是对方也露出困惑的表情,结结巴巴地回应道:"哦......你好!"
表情からして、ボクの顔の傷跡に驚いているのだろう。初対面の人間は大抵ボクの傷跡に対してこんな顔をする。もう慣れた。
从表情来看,他大概是被我脸上的伤疤惊到了吧。初次见面的人大多会对我的伤疤露出这种表情。早就习惯了。
童顔の男はボクに何か聞きたいようだった。
東洋の言語で話して、ボクのフィデウアを指差す。もちろん東洋の言語なんて知らないボクは頭を捻る。すると男は「あー……」と言いながら、ボクに何かを手渡してきた。
小型のイヤホンのようだった。そうして、それを耳に入れるようにジェスチャーしてくる。
ボクは従い、耳に入れる。それと一緒に男も、ボクに渡したイヤホンの片方を耳に入れて、もう一度ボクのフィデウアを指して話す。
「この料理はなんていう名前ですか?(¿Cómo se llama este plato?)」
イヤホンをつけた方の耳から、聞き馴染みのある自国の言語に置き換わって、彼の声が二重に聞こえる。
すごいイヤホンだなと思いながら、ボクは口を開いてその問いに答える。
「……それは〝アウディフ〟だよ」
平然と嘘をついた。ボクの悪い癖かもしれない。
警戒心もなく、外国の地で、見ず知らずの人間に声をかけてくるこの能天気さが、なんとなく鼻についた。だから、少しのいたずら心が働いて、嘘が口についた。
すると青年はボクの言葉を疑いもせず「へぇー、〝アウディフ〟」と感心したように言葉を繰り返す。
あぁ、典型的な騙されやすい人間だ。ボクはニッコリと笑いながら、心が冷めていくのを感じる。
「キミどっから来たの?」
「日本だよ。ジャパン」
ボクの問いに、青年はそう簡単に答える。
警戒心を母親の腹の中にでも置いてきたのか、コイツは……とボクは驚きを通り越して軽蔑しながらもボクは続けて「何しにここに?」と尋ねる。するとその青年は、分かりやすく瞳に光を灯し、表情を明るくさせる。
「サッカーを観に来たんだ! 世界のサッカーをもっと知りたくて!」
〝サッカー〟……その言葉に、ボクは一瞬心の中が無になる。
「……サッカー好きなの?」
そう返せば、青年は瞳の光をさらに強くさせ、ワクワクとしたような表情でサッカーの好きなところを語ってくれた。
ボクはそんな熱の入った彼の言葉を聞きながら、それに比例するように自分の心がどんどん冷めていくのを感じる。
イヤホンで自国の言葉を聞いているはずなのに、まるでイヤホンをする前の時のように、彼の言葉が音としてしか認識できない。頭に入ってこない。
ただ感じるのは、不快感だけだった。
彼の綺麗なキラキラした瞳に、高揚したような声色に、反吐が出そうなほど苛立ってくる。
「だから今夜の試合も超楽しみ!」
そう語りきった彼に、ボクはあの仮面を貼り付けて口を開く。
「へぇ、いいなぁキミは。本当に楽しそうに好きなモノの話をするね」
ボクは腹の奥のムズムズとするような不快感を吐き出すように、そう言い捨てる。
すると目の前の彼は驚いたような顔をする。
「いやあるでしょキミにも。好きなモノのひとつやふたつぐらい」
日本人らしい平和ボケしたその感性に、ボクの不快感は喉奥まで迫り上がる。
あぁ、ダメだ。我慢しなくちゃ。これを言ったらきっとダメだ。そう思うのに、ボクの口は勝手に動き続ける。
「キミみたいに幸せそうな人間をみると、死にたくなる」
ボクの口から本音がポロリと溢れる。
自分とは違う、何もかも楽しそうなキミを見ると、たまらなく死にたくなる。
何も感じない、何も楽しみを見出せない自分がまるで欠陥品のように思えてくる。生きていることを責められているように感じる。
敵意も悪意も向けられたことのない、ぬくぬくとした環境で育てられた、無垢な頭お花畑野郎なこの目の前の男に、ボクは胸糞悪さを隠しきれなかった。
この感覚は昔にもあった。あぁ、確かあれも日本人のサッカープレイヤーだったかな。
世界一になるために来た、なんて実力も伴わないのに、そんな夢物語を本気で語ってるやつ。
現実も見れてないくせに、夢や希望に満ち溢れた瞳をして、笑みを浮かべるそいつが憎らしくて──………あぁ、それからどうしたんだっけな。あんまり覚えてないや。
覚えてるのは、ソイツの光に満ちた瞳が真っ黒に染まって、憔悴したような表情でボクを見つめている姿だ。
心がスッとするような気がした。そして安堵もした。あぁ、ボクはまだ生きていていいんだ、そう思えた。
「なんか……つまんない話聞かせてゴメンね。俺もう行くよ」
ボクの態度にさすがに何か思うところがあったのか、青年は申し訳なさそうにそう謝ってくる。
あぁ、いけない。リカバリーしないと。彼はただの一般人の観光客だ。一応ボクは有名なサッカークラブに所属する選手の一人。ボクの態度の評価のせいで、サッカークラブの印象を落とすのは後々面倒だから避けたい。ボクは素直に青年に謝る。
「あ、ゴメン。違うんだ。悪いのはキミじゃなくて、ボクの感受性って話」
ボクが悪いんだよ。そう笑顔で言っておけば、それだけで相手は気分を良くする。人間って生き物は単純だから。自分よりも人が謙れば、寛容にもなる。日本人なら尚のこと……そう思っていた。
青年はそんなボクにゆっくりと「いやでも……」と口を開いた。
「逢った時からずっとキミ……寂しそうに笑うから」
──〝見抜いていたよ〟
そう、耳元で囁かれたような気がした。
貼り付けていた仮面が、ぐらりと揺れて、外れかかる。
ボクはそれを必死に押さえ付け、仮面を貼り付け直す。
「……なにそれ、めっちゃ失礼」
「あーゴメン、ゴメン! でもそのカオ、そのカオ!」
謝りながらも、ソイツはボクの顔を指さしてくる。見透かしているよ、とばかりに。
背筋がゾクリとした。今まで誰にもバレていなかった、隠し通せていた〝ボク〟を見つける奴がいた。
それは言いようもない恐怖だった。
ボクはそれを隠すように、見て見ぬ振りするようにその場から立ち上がる。
「じゃあボクの方から先に行くよ。楽しい時間をありがとう」
心にもない言葉を口にして、ボクはイヤホンを彼に渡すと、その場から逃げるようにして、店を出た。
──なんなんだアイツは。気持ち悪い。
心の中で何度も呟く。
ただの平和ボケした日本の男だと思っていた。それなのに、あの一瞬で、あの一言で、ボクが積み上げてきたものを崩されたような気がした。
怖い。変だ。あんなやつ今まで出逢ったことがない。
自分の存在を脅かすような未知の存在に、ボクは気味の悪さを感じた。
だがそんなボクを落ち着かせるように、もう一人のボクが言う。
──慌てることはない。もう会うこともないんだ、彼には。
そう、彼はただサッカー観戦をしに来た一般人観光客。もう相見えることはない。
忘れよう。これから自分の人生に関わってくることのない存在に、心を乱すなんて馬鹿らしい。
試合なんてめんどくさいと思っていたが、今はむしろ有難く思った。
サッカーをやって、すぐに〝自分〟を取り戻したかった。
みんなの求める〝ボク〟になれる手段は、それしかない。
ボクはそう言い聞かせ、スタジアムに足を進めた。