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かくもうつくしき敗北/榎田的小说

かくもうつくしき敗北 如此美丽的失败

6,145字12分钟

負けず嫌いで恋愛赤ちゃんの潔のお話です。 讲述了一个不服输且恋爱新手洁的故事。

未来捏造(潔がBM所属)しています。 未来设定(洁属于 BM)。
n番煎じのお話ですがお読みいただけると幸いです。 虽是老生常谈的故事,但若您能阅读,我将倍感荣幸。

過去作品等へのいいね、ブクマありがとうございます。励みになっております。
感谢您对过往作品的点赞和收藏,这些都成为我创作的动力。


表紙は此方からお借りしています。 封面图片借用自此处。
illust/105056146 插画/105056146

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 人生なにが起こるか分からない。 人生不知会发生什么。
青い監獄で人生を変え続けた自負はある。しかし、こんなことになるとは全くの予想外だ。この未来をあの頃の自分に教えてやりたいがどうせ信じてもらえやしない。
在蓝色监狱中不断改变人生的自负是有的。然而,事情发展到这种地步,完全是意料之外。真想告诉那时的自己这个未来,但反正也不会被相信吧。

 過去を顧みる潔の脳内にはどうやったって邂逅を果たした日の憎たらしい笑顔が浮かぶのだ。いまも思い返すだけで腹の底がじわじわと苛立つ。
回顾过去的洁脑海中,无论如何都会浮现出那一天令人憎恶的笑容。现在只要回想起来,心底就会隐隐作痛。

そんな感情を抱かせた男は隣で愛車を走らせている。己の胸中など知りもしない、その澄ました横顔が面白くないと潔は唇を尖らせた。
让洁产生这种感情的男人正在旁边驾驶着他的爱车。他并不知道洁的内心,那副若无其事的侧脸让洁感到无趣,于是他撅起了嘴唇。

 

 潔がドイツに渡って数年の月日が経つ。 洁渡过德国已有数年光阴。
新英雄大戦でオファーを受けた潔がバスタードミュンヘンに加入したのは十八の年。若い芽を大切に育てたいというチームの意向もあり、潔のプロ生活はリザーブチームでの幕開けとなった。
在新英雄大战中接到邀请的洁,在十八岁那年加入了巴斯塔德慕尼黑。由于球队有意培养年轻新秀,洁的职业生涯从预备队开始。

新英雄大戦で食べ残してしまった男を今度こそ骨まで平らげてやると意気込んでいた潔だったが、その男はすでにトップチームへと昇格しており肩透かしを食らってしまう。ライバルとの差に凹んだ潔だったが、追いかけるのには慣れている。
洁满怀斗志,决心这次要将那个在新英雄大战中未尽全力的男人彻底击败,然而那人已晋升至一线队,洁只能空欢喜一场。面对与对手的差距,洁虽感沮丧,但追赶早已习惯。

 一分一秒でも早くその男と肩を並べたい一心で潔は慣れない環境の中、持ち前のコミュニケーション能力と適応力でチームに溶け込み、ハイスピードで結果を出し続けた。そんな勇往邁進といった青い監獄の申し子に『潔を早く上で見たい』という声がSNSやインターネット上でちらほら見受けられるようになり、シーズン途中であったが潔の昇格が決まった。
 洁一心只想尽快与那个男人并肩作战,在陌生的环境中,凭借天生的沟通能力和适应力迅速融入团队,并以高速持续取得成果。这样的勇往直前,仿佛是青色监狱的宠儿,使得社交媒体和互联网上开始零星出现‘想早点看到洁在上面’的声音,尽管赛季中途,洁的晋升还是被决定了。

 浮かれる気持ちを抑え、トップチームに合流した潔に「随分と遅かったじゃないか」と煽り散らかしたニヤニヤ顔をいまも覚えている。
 抑制住兴奋的心情,洁加入了顶级团队,至今仍记得那些散布挑衅的嘻嘻笑脸,他们说:‘你来得也太晚了吧’。

 そんなカイザーの鼻を明かしてやろうと躍起になっていた潔も欧州サッカー最高峰のひとつであるブンデスリーガに手を焼いていた。一部に属するトップチームと三部に位置するリザーブチームでは文字通りレベルが違うのだ。
 洁当时急于要揭穿凯撒的鼻子,却在欧洲足球最高峰之一的德甲联赛中苦苦挣扎。隶属于一部的顶级团队和位于三部的预备队,其水平简直是天壤之别。

うまくパターンがハマって活躍できる日もあれば、完全に相手チームに封じ込められてしまう日もある。
有时能顺利适应模式发挥出色,有时则完全被对方队伍封锁。

勝利にかけるサポーターの熱はいままで身を置いていた環境と段違いで、そのプレッシャーは良くも悪くも精神をすり減らした。
支持者对胜利的热情远超以往所处的环境,那种压力无论好坏都磨砺着精神。

 しかし、それとは別に潔を摩耗させるモノがもう一つ。
 然而,除此之外还有另一个磨损意志的东西。

 
「いいスイッチだったな。俺のダミーご苦労サマ」 「真是漂亮的切换啊。我的替身辛苦了」
「あそこで決めんのは当然だろ。何喜んでんだ」 「在那里决定胜负是理所当然的吧。有什么好高兴的」
「なんだあのザマは。あれならグルンドシューレに通うガキを出した方がマシだったな」
「那算什么啊。还不如让格伦德尔学院的小鬼上场呢」

「お前はドイツに語学留学でもしにきたのか? リザーブで何を学んだ」
「你是来德国学语言的吗?在预备队学了些什么?」

 試合に勝っても負けても突っかかってくる男の存在に潔の堪忍袋の緒は切れかかっていた。
 无论比赛胜负,那个男人总是挑衅,洁的忍耐已经到了极限。

 ライバルチームとの大一番。なんとかゴールネットを揺らすことに成功した潔はここ最近のゲームでは一番の出来だと浮かれていた。今日は心置きなくスポーツニュースが見れると安堵する潔に、またもやあの男が水を差す。
 与劲敌队伍的决战。洁好不容易成功摇动了球门网,这是他最近比赛中表现最好的一次,心情愉快。今天终于可以安心看体育新闻了,正当洁感到安心时,那个男人又来泼冷水。

「今日のゴールは相手キーパーに助けられたな。せいぜいクソ雑魚キーパーに感謝することだ」
「今天的进球被对方门将救了。真该感谢那个垃圾门将。」

 ぷつん。カイザーのその一言に、ついに堪忍袋の緒が切れた潔は早口で捲し立てる。
「噗嗤。」凯撒的一句话,终于让洁的忍耐到了极限,他急促地反驳道。

 
「今日ノーゴールのヤツに言われてもなあ……そんでそのクソ雑魚キーパーはお前の国の正ゴールキーパーなんですけど? つーかさ毎回毎回そんな突っかかってくるって、お前って俺のこと好きなの?」
「对一个今天没进球的家伙说这些……而且那个垃圾门将可是你们国家的正选门将啊?话说每次都这样挑衅,你是不是喜欢我啊?」

 的確に急所を抉ると評判の潔のレスポンスが決まりにキマって静まり返るロッカールーム。
 确实,洁的回应直击要害,整个更衣室顿时鸦雀无声。

 やってしまった――――猫を被っていた訳ではないが平穏無事にプロ生活を送ろうと今まで必死に堪えていたのに。慌てて「なあんちゃって」と誤魔化してみるが目の前の男はポカンと間抜けな顔をしたと思うとみるみるうちに紅く染まる。
 搞砸了——虽然不是故意装傻,但一直拼命忍耐,想要平静无事地度过职业生涯。慌忙地试图掩饰说“没什么啦”,但眼前的男人却一脸呆滞,随即脸颊迅速涨红。

何も発せずに狼狽えているカイザーの顔には『図星』と書いてある。恥じらうような苛立っているようなその男に潔が感じたものは甘酸っぱい感情などではなく、ほんの少しの優越感だった。
凯撒的脸上写满了‘被说中了’的狼狈。洁感受到的不是什么酸甜的感情,而是些许的优越感。

 ドイツの若き皇帝として老も若いも熱狂させるこの男が、己を好きだという。その事実は潔を自惚れさせた。
作为德国的年轻皇帝,这个让老少皆为之狂热的男人,声称喜欢自己。这一事实让洁感到自负。

 それから数日が経ち、どこか神妙な顔付きのカイザーに恋心を伝えられ面白半分でそれに頷いたのが二ヶ月ほど前。堪忍袋がいくつあっても足りないと思っていたカイザーとのお付き合いは意外にも、穏やかに進行していった。
之后过了几天,面对神情肃穆的皇帝表白,洁半开玩笑地点头答应,那已是两个月前的事了。本以为与这位耐心有限的皇帝相处会困难重重,没想到意外地平稳进展。

 好きな女の子をいじめる男子小学生のようだった以前とは打って変わって、スマートないい男を演じるカイザーには少し笑ってしまう。
与之前那个像欺负喜欢的女孩的男小学生般的皇帝截然不同,如今扮演着优雅好男人的皇帝,让人不禁莞尔。

「おい、何ニヤけてんだよ。家着いたぞ」 「喂,你在偷笑什么啊。到家了」
「え、あ、ああ! いつも悪いな。毎回送ってくれなくてもいいのに」
「诶,啊,啊!总是麻烦你,真不好意思。其实不用每次都送我的」

「別に。俺がしたいからやってるだけだ」 「没什么。只是我想这么做而已」
 
 また明日な、と言って降ってくる頬に触れるだけのキスに潔は肩をびくつかせた。いままで恋人なんてもののいなかった潔にとっては軽い接触でも刺激が強い。いかにも意識してますというような反応にカイザーはどこか嬉しそうな視線を向ける。それに潔は気恥ずかしくなって、少し強めに高級車のドアを閉めるのだ。運転席のカイザーが何やら文句を言ってるようだったが、潔の耳には何も入ってこない。
 “明天见。”洁只是轻轻触碰落下的脸颊,便让洁不禁肩膀一颤。对于从未有过恋人的洁来说,即使是轻微的接触也刺激强烈。凯撒似乎对这种明显在意的反应感到高兴,投来某种愉悦的目光。洁感到羞耻,稍稍用力关上了豪车车门。驾驶席上的凯撒似乎在抱怨什么,但洁什么也没听进去。

「ああもう……クソッ――――」 「啊真是……该死——」
 言葉にできない苛立ちは誰に知られることもなく街の喧騒に掻き消されてしまったが、疼くような左頬の熱だけがいつまでも残り続けた。
 无法言说的烦躁无人知晓,被街头的喧嚣所掩盖,但左颊那灼热的触感却久久不散。

 
 
 連日の勝利に沸くロッカールーム。  连日胜利的更衣室里,气氛热烈。
その騒がしさはもやもやした気分をも晴らしてくれるようで頼もしく思えた。ユニフォームを脱ぎながら仲の良いチームメイトと談笑していると、耳にとある会話が入り込んでくる。
那喧嚣似乎能驱散心中的烦闷,令人感到安心。脱下队服时,与好友队友谈笑间,耳边不经意地传入了某段对话。

 その声の主はロッカー左隣のイタリア人で、話の端々から推測するに恋愛相談に乗っているようだった。
 那声音的主人是更衣室左侧的意大利人,从对话的片段推测,似乎是在进行恋爱咨询。

 
「結局、好きになったら負けなんだよ」 「结局,喜欢上了就是输了啊」
 もう一人の同僚に吐き捨てるように放たれたその言葉は潔の胸にちくりと突き刺さる。
 那句像是吐露给另一位同事的话,深深刺痛了洁的内心。

 盗み聞きなんて心が痛むが、それ以上に達人のような顔で恋愛を説いているチームメイトの話をもっと聞きたいと思った。潔はまだ恋するということがよく分かっていない。恋というものが何なのかが理解出来れば、この言いようのない感情も走り回りたくなる衝動も説明がつくのだろうか。酸いも甘いも噛み分けた男たちの会話の中に何かヒントがあるはず。潔は左隣の会話にそっと耳を傾けるが、研ぎ澄まされた伝音器官は聞き慣れた機械音を拾う。
 偷听虽然让人心痛,但更想听那位队友以达人的姿态谈论恋爱。洁还不太明白恋爱的意义。如果能理解恋爱是什么,或许就能解释这种无法言喻的感情和四处奔走的冲动。在那些尝遍酸甜苦辣的男人们的对话中,一定有什么线索。洁悄悄地侧耳倾听左边的对话,但敏锐的听觉器官却捕捉到了熟悉的机械音。

『いつものところで待ってる。早く来い』 『在老地方等你。快点来』
 必要最低限のメッセージは送り主の苛立つ顔が見えるようだと、潔は慌てて身支度を整え目的の場所まで足を急がせた。
 看到这条简短的讯息,仿佛能想象出发送者焦躁的表情,洁急忙整理好行装,快步赶往目的地。


「ゴール決めたってのに浮かねえ顔してんじゃねえよ」
「明明已经决定好目标了,别摆出那副不开心的脸啊」

「あ、うん」 「啊,嗯」

 どこか上の空の潔に何か言いたげなカイザーだったが諦めたらしく、運転に集中することにしたようだ。
 似乎有些心不在焉的洁,好像想对凯撒说些什么,但似乎放弃了,决定专心驾驶。

 無言の時間が続くも潔の家まで後少しというところで何かを思い出したようにカイザーが呟く。
 沉默的时间持续着,在快到洁家的时候,凯撒像是想起了什么似的喃喃自语。

 
「明後日のオフ空けとけよ」 「后天给我空出来」
「あさって? 別に予定ないからいいけど。なに?」 「后天?我倒是没什么安排。怎么了?」
「お前、こっち来て何年も経つのにまともに観光のひとつもしてないんじゃないのかと思って」
「你来这里都好几年了,不会连一次正经的观光都没去过吧?」

 
 そんなことないと言いたいところだが、全くもってその通りである。リザーブチームにいた時は一刻も早くトップチームに合流するため死に物狂いでトレーニングに励みそれどころではなかったし、選手寮を出て一人暮らしを始めてからはスーパーぐらいしか出歩かない。
 虽然很想否认,但确实如此。在预备队时,为了尽快加入一线队,拼命训练,根本无暇顾及其他;搬出宿舍开始独居后,除了超市几乎不出门。

 
「すぐ近所だが気分転換ぐらいにはなるだろ」 「虽然很近,但至少能转换一下心情吧」
 近頃の潔の考え込む姿を見兼ねて誘ってきたのだろう。自尊心の塊である尊大なこの男が他人を気遣うなんて天変地異の前触れかと、少し前の潔だったらそう思っていた。しかし、潔は知ってしまったのだ。カイザーの優しさが何に由来するのかを。それを自覚するたびに潔は叫んで喚いて走り出したくなってしまう。これ以上、訳のわからない感情で混乱させるのは辞めろと言ったところで辞めてもらえるはずがないのは明白だった。
 大概是看不下去最近洁陷入沉思的样子,才来邀请的吧。这个自尊心极强的傲慢男人居然会关心别人,要是以前的洁,肯定会觉得这是天地异变的预兆。然而,洁已经知道了。凯撒的温柔源自何处。每当意识到这一点,洁就忍不住想大喊大叫,跑出去。即使说不要再让这种莫名其妙的感情扰乱自己,也不可能停止,这是显而易见的。


「おお! すげえ……」 「哦!太厉害了……」
 ドがつくほどの定番の観光地である旧市街は観光客で溢れかえっている。アパートからは電車で三、四十分ほどの場所だが、こうしてカイザーに誘われなければ訪れることはなかったかもしれない。
 作为游客必到的经典景点,旧市区挤满了游客。虽然从公寓乘电车只需三四十分钟,但若不是凯撒邀请,我可能永远不会来这里。

 観光客のテンションに当てられたのか、潔の気分も高揚していく。建造物の由緒など知りもしないが、その荘厳な佇まいに口から漏れるのは感嘆の溜め息ばかりである。語彙力を失っていたことを気恥ずかしく思った潔がカイザーを伺うも、思わず面を食らってしまう。
 或许是受到游客们热情的感染,洁的心情也逐渐高涨起来。虽然对建筑的历史一无所知,但面对其庄严的姿态,口中不由自主地流露出赞叹的叹息。洁为自己的词汇贫乏感到羞愧,向凯撒投去询问的目光,却意外地看到对方一脸惊讶。

『お前はそれしか言えないのか』と馬鹿にしたような表情で嘲るカイザーを想像していたが、そこにはまるで愛しいものを眺めるような目をした男がいるだけだった。
『你就只会说这个吗』,本以为凯撒会带着嘲弄的笑容如此说道,但眼前却只站着一位眼神温柔如凝视珍爱之物的男子。

 その眼差しに居た堪れなくなった潔は、適当に理由をつけてその場から離れることにした。
 洁因那目光而感到难以忍受,便随便找了个理由决定离开那里。

 
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」 「啊,我去趟洗手间」
「付いてくか?」 「要跟来吗?」
「大丈夫だって! ここで待っててよ」 「没问题的!在这里等着哦」
「あいあい。迷子になんなよ」 「知道了知道了。别迷路了啊」
「うるせ」 「吵死了」

 ニヤニヤと揶揄うようなカイザーを適当にいなして目的の場所へと向かう。クラシカルな建造物の中にでんと設置されたトイレは近代的すぎて周囲から浮いている。有料制なだけあって逆に使いづらい程に清潔だ。下手したら日本のトイレより綺麗かも、と鏡を見つめた潔は鏡の中の自分と目が合う。だらしなく溶け切った顔。もう、自覚しなくてはならない気がしていた。
随便应付了嘲笑着的凯撒,朝目的地走去。古典建筑中突兀地设置的厕所过于现代化,显得格格不入。因为是收费的,反而干净得让人难以使用。说不定比日本的厕所还干净,洁盯着镜子,与镜中的自己对视。那是一张松懈到极点的脸。他已经意识到,自己必须有所自觉。

 あの男を好いている。面白半分で始めたこの関係も、気付けば好意が大半を占めた。己を好きだというあの男を笑ってやろうとすら思っていたのに、ふとした瞬間にカイザーの想いを感じるたび潔の胸は甘くときめくのだ。ようやく想いを自覚した潔の心は軽やかで、浮かれたような足取りで場を後にする。
他喜欢那个男人。原本只是半开玩笑开始的关系,不知不觉间好感占据了大部分。他曾想过嘲笑那个自称喜欢自己的男人,但每当在某个瞬间感受到凯撒的心意时,洁的心就会甜蜜地跳动。终于意识到自己心意的洁,心情轻松,脚步轻快地离开了现场。

 時間にして五分も経っていないが、きっとあの男は眉を顰めて「遅い」と呟くに違いない。不機嫌そうに己を待つカイザーを想像して口元が緩む。自分由来でカイザーの感情が揺れるのは非常に愉快だ。そんなことを考えながら先ほどカイザーと別れた場所へ足早に向かうと、目的の人物は二人の若い女に纏わりつかれ写真をねだられているようだった。
时间还不到五分钟,那家伙肯定皱着眉头嘀咕着‘太慢了’。想象着不悦地等待着自己的凯撒,嘴角不禁上扬。能让凯撒的情绪因自己而动摇,真是非常愉快。一边想着这些,一边快步走向刚才与凯撒分别的地方,发现目标人物似乎正被两个年轻女孩缠着,要求合影。

 球団スタッフに普段から「愛想良く、ファンを蔑ろにするな」と口酸っぱく言われているせいか、胡散臭い笑顔を浮かべている。両腕に女を抱え込むようなポーズをとるカイザーも、それにきゃいきゃいとはしゃいでみせる彼女らの楽し気な声も潔のテンションを急降下させるには十分だった。
或许是平时球队工作人员总是苦口婆心地告诫他‘要和蔼可亲,不要轻视粉丝’,他脸上挂着一副可疑的笑容。凯撒摆出将女孩们拥入怀中的姿势,而她们则欢快地尖叫着,这些都足以让洁的心情急速下降。

 ぼうっとその状況を眺めている潔に気付いたのか、二人と一言二言会話を交わすとカイザーがゆっくりと近づいてくる。
或许是注意到了呆呆地看着这一幕的洁,凯撒与两个女孩简单交谈了几句后,缓缓地走了过来。

 
「世一。次はマーケットでも――――」 「世一。接下来去市场吧——」
 何事もなかったように次のプランを提案するカイザーに腹が立って、途中で言葉を遮る。
对若无其事地提出下一个计划的凯撒感到恼火,中途打断了他的话。

「ちょっと人混みに酔ったみたいだ」 「稍微有点人群恐惧症了」
 お前の家で休ませてよ、そう付け加えればカイザーは明らかにたじろいで見せる。
在你家休息一下吧,这样补充道后,凯撒明显露出了动摇的神色。

「な、いいだろ?」 「喂,没问题吧?」
「具合が悪いならお前の家に送り届けてやる」 「如果身体不舒服,我就送你回你家」
「やだ。お前と二人きりになりたいって言ってんの、分かれよ」
「讨厌。我说了想和你单独相处,明白了吗?」

 我ながらなんとストレートな誘い文句だと思う。  连我自己都觉得这邀请真是直白得可以。
挑発するように睨みつけると、カイザーの口から了承の言葉が渋々といった感じで吐き出された。
我挑衅般地瞪着他,凯撒的嘴里勉强吐出了同意的话语。

 カイザーの住処へと向かう車内の空気はひたすらに重く、こんな雰囲気でこれから恋人ふたりきりの甘い時間を過ごすなんて誰が思うだろう。これから殺し合いを始めると言われたほうが納得がいく。
 前往凯撒住处的车内气氛异常沉重,谁会想到在这种氛围下,接下来会是两人独处的甜蜜时光。倒不如说接下来要开始互相残杀,才更让人信服。

 初めて足を踏み入れたカイザーの部屋は想像以上に整然としていて落ち着かない。
 第一次踏入的凯撒房间,比想象中更加井然有序,令人不安。

 カイザーに促され、リビングの真ん中に置かれたカウチソファに腰をおろした。何か飲み物を取ってくる、と言いこの場を離れようとするカイザーの腕を無理やり掴んで隣に座らせる。その距離が思いの外近くて心臓がどきりと跳ねた。
 在凯撒的催促下,坐在了客厅中央的沙发上。凯撒说要拿点饮料,正要离开时,我强行抓住他的手腕,让他坐在旁边。那距离比想象中更近,心脏不由得猛跳了一下。

「キスして」 「亲我一下」
 そう強請ると目の前のアイスブルーの瞳が揺れ動いた。観念したような表情のカイザーから施された触れるだけの優しいキスに不満が募る。
 如此央求后,眼前那双冰蓝色的眼眸微微颤动。卡伊萨尔带着一副认命的表情,只轻轻触碰的温柔之吻,令不满逐渐累积。

「これでいいだろ」 「这样总行了吧」
「ガキじゃねえんだ、まさかこれで終わりじゃないよな?」
「我不是小孩子了,不会就这样结束的吧?」

「世一。あんまり俺を困らせるな」 「世一。别让我太为难啊。」
 その言葉とともに吐き出された溜め息に潔の心はささくれだっていく。
 随着那句话吐出的叹息,洁的心也变得粗糙起来。

 先に好きだと言ったのは目の前の男のはずなのに。  明明先说喜欢的是眼前的这个男人。
 俺はそれに絆されてやっただけなのに、これじゃあ俺の方がこいつのことを好きみたいじゃないか。そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
 我只是被他牵着鼻子走而已,这样岂不是显得我更喜欢这家伙了吗?想到这里,身体就不由自主地动了起来。

 まさか押し倒されるなんて思ってもみなかったであろうカイザーの身体は驚くほどあっさりとソファに倒れ込んでしまう。日頃、見下ろされるばかりの男を見下ろすのは気分が良かった。
 凯撒大概从未想过会被推倒,他的身体出乎意料地轻易倒在了沙发上。平日里总是被俯视的男人,如今俯视他,感觉真是不错。

「おい、流石に怒るぞ」 「喂,真的要生气了啊」
 怒りを抑えて冷静なカイザーとは対照的に潔は声を荒げる。
与压抑怒火保持冷静的凯撒形成鲜明对比,洁大声吼道。

 
「俺のこと好きなんだろ、じゃあいいじゃねえか。お前がクソのヘタレ野郎だからしょうがなく俺から迫ってやってんだ! だから、俺は負けたわけじゃない」
「你喜欢我吧,那不就得了。谁让你这废物怂得要命,只好我主动出击!所以,我可没输。」

「おいおい! ちょっと待てやめろ!」 「喂喂!等等,住手!」
「待たねえよ、お前は黙って見てろ」 「不会让你久等的,你就在一旁看着吧」

 潔は震える指で自身のシャツのボタンをひとつひとつ外して行く。ボタンを全て外し終え、邪魔だと言わんばかりにシャツを投げ捨てる。何も纏っていない潔の上半身にカイザーが息を呑むのが分かった。
洁颤抖着手指,一颗一颗解开自己衬衫的纽扣。待所有纽扣都解开后,他仿佛在说“碍事”一般,将衬衫随手扔掉。看到洁赤裸的上半身,凯撒不由得屏住了呼吸。

 ほら、やっぱりお前は俺が好きなんだ。 你看,你果然还是喜欢我的。
 冷静に努めようとするカイザーの瞳に欲が滲む様に潔は高揚していくのを感じた。ハイになった潔がカイザーのベルトのバックルへ手を伸ばしかけた刹那、今までされるがままだったカイザーが慌てて身体を起こした。形勢逆転。今度は潔がソファに縫い付けられる番だ。
试图保持冷静的凯撒眼中,洁的欲望逐渐渗透,他感受到了洁的兴奋高涨。当兴奋至极的洁伸手去解凯撒腰带扣的瞬间,一直被动接受的凯撒慌忙起身。形势逆转。这次轮到洁被牢牢固定在沙发上了。

「おい、やめろって言ったよな? それと『負け』ってのが何なのか教えてくれよ」
「喂,我不是说了住手吗?还有,‘输’是什么意思,给我解释一下。」

 額に青筋をたてたカイザーに完全に身動きを封じられた潔は観念したように言葉を紡ぐ。ロッカルームでのチームメイトの会話の仔細をぽつりぽつりと吐き出していく。一通り話し終えた潔にカイザーは今日一番の溜め息をついた。
被青筋暴起的凯撒完全制住无法动弹的洁,像是认命般地开口。他断断续续地吐露出更衣室里队友们的对话细节。洁说完后,凯撒叹出了今天最深的一口气。

「ヨイチクンはほんと馬鹿ねえ」 「由一君真是笨蛋呢」
「うるっせえ。俺だって分かってるよ。恋愛に勝ち負けなんてないって。でも、むかつくじゃん……」
「吵死了。我也知道恋爱没有胜负之分。可是,就是让人火大啊……」

 
 俺はお前に何ひとつも勝てないのに、と力無く漏らす潔にカイザーはもう一度長い溜め息を吐き出した。
 尽管我对你毫无胜算,凯撒无力地喃喃道,再次长叹了一口气。

 
「お前は馬鹿だ」 「你真是个笨蛋」
「はい。その通りです」 「是的,确实如此」
「負けん気が強いのは結構だが、フットボールと恋愛をごちゃ混ぜにすんな馬鹿。ほんと救いようのない馬鹿だ」
「好胜心强是不错,但别把足球和恋爱混为一谈,真是无可救药的笨蛋。」

「分かってるから何度も言うな」 「知道就别老说」

 自分が愚かだったと自覚はしていても、馬鹿だと連呼されるのは気分のいいものではない。己を嘲る男を睨むと、馬鹿だと罵るに相応しくないほどの柔らかい笑みを浮かべている。
即使明知自己愚蠢,被连声骂作傻瓜也绝非愉快之事。瞪视着嘲讽自己的男人,他脸上浮现出一种温柔得几乎不适合用来骂人的微笑。

「それに、もしも恋愛が勝負って言うなら俺はとっくに負けてる」
「而且,如果说恋爱是一场胜负,那我早就输了」

 
 そう言って呆れたように笑うカイザーに言葉が詰まる。
卡伊扎尔无奈地笑着说,我一时语塞。

 この言いようのない感情を恋と呼ぶのなら、結局はそのままならなさすら愛するしかないのだ。
如果这种难以言喻的情感被称为恋爱,那么最终除了顺其自然地爱上之外,别无他法。

 その感情を植え付けた張本人を睨みつけるも、相も変わらず愛しいと訴えるその眼差しに潔はただただ声にならない呻きを漏らすことしかできなかった。
瞪视着植入这份感情的始作俑者,然而面对那依旧诉说着深爱的眼神,洁只能发出无声的呻吟,别无他法。

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