理不尽
プロ軸設定くらいのぼんやりとした謎時空です。 这是一个模糊不清的谜样时空,设定大致接近职业轴。
直接会いません。 不会直接见面。
スマホでやり取りするだけの短いお話です。 只是通过手机交流的短篇故事。
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窓から差し込む太陽光を吸い込み、白く発光しているように見えるガラス製テーブルの上で、もう随分長いこと機種変更もしていないスマートフォンが、メッセージの受信を知らせるためにヴッと小さく振動した。
窗边洒入的阳光被吸进,玻璃桌上仿佛闪耀着白光,一部已经很久没有更换的智能手机,为了通知收到消息而微微震动了一下。
本当はそれに飛びついてしまいたくなるほどに心を躍らせているというのに、また何でもない、つまらないものを確認するかのように余裕ぶった態度でスマートフォンを掴み上げる。一人暮らしの部屋の中、誰も見ていないのに。
明明内心激动得几乎要扑上去,却还是摆出一副漫不经心的样子,抓起手机,仿佛只是为了确认什么无关紧要、无聊透顶的东西。独自一人的房间里,明明谁也没在看。
メッセージは思った通り潔からのもので、俺が三時間ほど前に送った、『今何してる』というメッセージへの返信であった。
消息果然是洁发来的,是对我大约三小时前发送的那条“现在在干嘛”的回复。
『別に、何もしてない!』 “没什么,什么也没做!”
あいつからの返信は、たったのこれだけ。 那家伙的回复,就只有这么点。
遅いんだよ。 太慢了。
何もしていないのなら、そのたった十文字を打ち込んで送信ボタンを押すのに三時間もかからないだろう。
如果什么都没做的话,打这十个字按发送键,根本用不了三个小时吧。
こいつはいつもそうだ。 这家伙总是这样。
俺が何かメッセージを送ると、既読マークはすぐに付く。だからすぐに返信が来るだろうと思って画面をつけたまま待っているのに、実際に返事が返ってくるのは二時間後、三時間後、酷い時には丸一日待たさせることだってある。
我发消息过去,已读标记马上就出现了。所以我以为很快就会回复,就一直开着屏幕等着,但实际上回信可能是两小时后、三小时后,甚至有时要等整整一天。
じゃあ俺が待たされた時間に見合う程の長文が返ってくるのかと思えばそういうわけでもなく、返事は基本的に単語か短文か絵文字のみ。
那么,我等了这么久,是不是会收到与之相称的冗长回复呢?其实不然,回复基本上就是一个词、一句短语或者一个表情符号。
だから俺も腹が立って、そんなつもりはなかったはずなのについ、『そうかよ』とか『くだらねえ』とか冷たい一文を打ってしまうし、『遅い』、『今まで何してたんだ』、『何時間待たせんだよ』とか返してしまうこともある。
所以我也很生气,明明没有那个意思,却还是忍不住发一些冷冰冰的回复,比如“是吗”、“无聊”之类的,有时候还会回“太慢了”、“你刚才干嘛去了”、“让我等了多久啊”。
自分でも理不尽な怒りだというのは分かっている。 我自己也知道这种愤怒是不讲道理的。
あいつにだってあいつの都合というものがあるだろう。
他也有他的难处吧。
試合や練習がないときにだって自主的なトレーニングをしているだろうし、俺と違ってチームメイトとの交流もあるだろうし友達だって多いのだから、俺からのメッセージを確認はしてもすぐに返事を打てないこともあるのだというのは理解出来る。
即使在没有比赛和训练的时候,他也会自觉进行训练,而且与我不一样,他还有与队友的交流和许多朋友,所以即使他查看了我的消息,也可能无法立即回复,这一点我是能理解的。
けれど、それでもどうしようもない面倒な気持ちが胸の底に溜まってしまっていて、これが一向に消える気配がないどころか日に日に膨張していっているような気さえする。
然而,尽管如此,那种无法摆脱的烦闷心情却在我心底积聚,不仅没有消散的迹象,反而感觉一天天在膨胀。
毎度毎度、俺ばかりが待たされていて、それに対してヤキモキとしてしまっているのが悔しくて許せなくて恥ずかしいのが気持ち悪くてイラつくから、今回は俺が待たせてやろうと思ったのにそれは無理だった。
每次每次,总是我在等待,对此感到焦躁不安,这种感觉让我既懊恼又无法原谅自己,甚至觉得羞耻和恶心,因此这次我想让他也尝尝等待的滋味,但显然我做不到。
『何もしてないなら、電話』 『什么都没做的话,打电话』
また『遅せぇんだよ』と打ち込んでしまいそうになったのを堪え、それだけ入力して送信ボタンを押した。
差点又输入『太慢了』,忍住只发了这句话,按下发送键。
やはり既読マークはすぐに付く。 果然,已读标记立刻出现。
どうせまた放置されんだろうなと画面を消した瞬間、今度はスマートフォンが着信を知らせるためにヴーッと長めに振動した。
就在我心想反正又要被晾在一边,关掉屏幕的瞬间,这次智能手机为了通知来电而发出了一阵较长的振动声。
顔がニヤけそうになるのを抑えてつまならそうに応答ボタンを押すと、電話の向こうからこの世で一番ムカつく奴の無邪気な声が聞こえてくる。
我强忍着嘴角上扬的冲动,按下了接听键,电话那头传来了这个世界上最让人恼火的家伙那天真无邪的声音。
***
シングルベッドの宮の上、愛用の目覚まし時計の隣に置きっぱなしにしていたスマートフォンが、メッセージの受信を知らせるためにヴッと短く振動した。
在单人床的宫殿上,我随手放在爱用的闹钟旁边的智能手机,为了通知收到消息而轻轻振动了一下。
案の定、フランスにいる凛からで、『今何してる』とそっけないように見えて決してそうではない、可愛い内容だった。
果然,是凛从法国发来的消息,内容看似冷淡,实则可爱至极,写着“现在在做什么”。
別に何をしているわけでもない。今日は試合もないし、練習もすでに終えて帰宅している。
其实也没做什么特别的事。今天没有比赛,训练也早已结束,已经回家了。
だから『何もしてない』と返信をすることは今すぐにでもできる。
所以,我完全可以立刻回复“什么也没做”。
けれど、俺はそうしない。 但我不这么做。
今回だけではなく、いつも。 不仅这一次,一直以来都是。
既読マークを付けたまま、しばらくの間放置する。 已读标记保持不变,暂时搁置一旁。
なぜかって、凛が可愛いから。 为什么呢,因为凛很可爱啊。
しばらく待たせて返事をすると、凛は待ってましたと言わんばかりのスピードですぐにレスポンスを付けてくる。こんなの、可愛くないわけがない。
让她稍微等了一会儿才回复,凛立刻以仿佛一直在等待的速度给出了回应。这样子,怎么可能不可爱。
俺はドイツ、凛はフランスに住んでいて、別に俺は凛の部屋に盗聴器や監視カメラを忍ばせているわけではないのだけれど、なぜだか凛が俺からの返事を今か今かとウズウズ、そわそわ、イライラしながら待っている様子がありありと想像出来てしまうのだ。
我住在德国,凛住在法国,虽然我并没有在凛的房间里偷偷安装窃听器或监控摄像头,但不知为何,我竟然能清晰地想象出凛此刻正焦急不安、坐立难安地等待着我回复的样子。
そしてそれを隠そうとして余裕ぶった態度をとろうとしていることも。
而她试图掩饰这一点,装出一副从容不迫的样子。
返事を待たせている間、きっと凛は俺への苛つきや不満で頭がいっぱいになっているだろう。
在等待回复的期间,凛一定满脑子都是对我的焦躁和不悦吧。
自分でも理不尽なことをしてしまっている自覚はあるのだが、俺の行動が凛の気持ちを揺さぶっている――それが堪らなく嬉しいと思ってしまう俺は、少しおかしいのかもしれない。
虽然自己也意识到做了些无理取闹的事,但我的行为能动摇凛的心情——这让我感到无比开心,或许我有点不正常吧。
俺たちは付き合っているわけではないけれど、なんとなく、お互いにそういう少し特別な気持ちを抱いているんだろうなとは気が付いているはずだ。少なくとも、俺はそうだ。もし凛に「俺と付き合え」なんて偉そうに言われたら、生意気だなお前と小言をぼやきながらも迷うことなくOKと答えるだろう。
我们并不是在交往,但彼此之间应该都察觉到了那种微妙的特别情感吧。至少我是这么认为的。如果凛傲慢地说“跟我交往吧”,我虽然会一边嘟囔着“你这家伙真自大”,但还是会毫不犹豫地答应。
友達という関係ではないし、ただのライバルというわけでもない。もちろん恋人でもない俺たちのこの名前の付かない関係が、きっと凛をモヤつかせているんだろう。
我们既不是朋友关系,也不是单纯的竞争对手。当然也不是恋人,我们这种无名无分的特殊关系,一定让凛感到困扰吧。
もし、俺が凛のことを結構好きだなんてバレてしまったら、あいつは調子に乗るに違いない。
如果被发现我其实挺喜欢凛的,那家伙肯定会得意忘形。
そうしたらきっと、俺からの返信を待って悶々とすることもなくなってしまうんだろうと思うと、少し寂しかったりする。
一想到那样的话,凛就不会再因为等待我的回复而闷闷不乐,心里竟有些许寂寞。
だから、俺のこの想いが、凛にはまだ届きませんように。
所以,希望我的这份心意,还未能传达到凛那里。
そんなことを考えながら『別に、何もしてない!』 一边这样想着,一边回复『才没有,什么都没做!』
と打ち込んで送信ボタンを押す。 输入完毕后按下发送按钮。
そうするとやっぱり凛から光の速さで返事が来たので、今度はすぐに電話をかけてやった。
果然,凛以光速回复了,于是这次我立刻打了电话过去。