短編集(初秋) 短篇集(初秋)
X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2023年9月分)をまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的 One-Rai 投稿作品(2023 年 9 月)的汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请参阅第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
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ある午後の道行 某个午后的漫步
うとうとと、ほどよい揺れに身を任せていた。 迷迷糊糊地,任由适度的摇晃摆布着身体。
窓から入る穏やかな午后の光は私の上半身を優しく包んで、じんわりと温かい。
从窗户透进的柔和午后阳光温柔地包裹着我的上半身,温暖而舒适。
外での用事を済ませて家に戻るトラムの中で、私はぼんやりと眠気を堪えていた。
办完外面的差事,在回家的电车上,我迷迷糊糊地强忍着睡意。
本数の少ない路線なので、降り損ねると厄介だ。いつ来るかわからない逆方向行きを待つのも、歩いて戻るのも御免被りたい。
因为线路班次少,错过下车会很麻烦。不想等不知何时来的反方向车,也不想步行回去。
そう考えながらも、私の頭はふらふら前後に揺れていた。
尽管如此想着,我的头还是前后摇晃着。
トラムが止まる。慣性に従って頭ががくん、と勢いよく前につんのめる。
电车停了下来。惯性使然,头猛地向前一倾。
はっとして、首を左右に振った。 惊觉之下,左右摇了摇头。
船を漕ぎっぱなしで安定しない頭を窓ガラスに預ける。視線を向けた窓の外に、トラム乗り場の庇の下から出てくる青年の姿が見えた。
将一直划船而未曾稳定的头靠在车窗玻璃上。视线投向窗外,看到了从电车站的遮檐下走出的青年身影。
黒髪。乳色の肌。アジア人の特徴。 黑发。乳白色的肌肤。亚洲人的特征。
観光客かな、と視線を外してぼんやりと思う。けれどもこの近くに、観光客が来るような場所などあっただろうか。すぐには思いつかない。あったような気もするのだけれど、うまく働かない頭では思い出せない。
是游客吧,视线移开,茫然地想着。但在这附近,有游客会来的地方吗?一时想不起来。虽然隐约觉得有,但运转不灵的脑袋却想不起来。
ぷしゅう、と背後で自動ドアの開く音がする。 噗咻,背后传来自动门打开的声音。
ステップを踏む足音は二つ。先程見えた青年の後ろにもう一人いたらしい。
脚步声有两下。刚才看到的青年身后似乎还有一个人。
前方、運転手が緩慢な動きで車内の様子を伺い、一つ頷く。程なくしてドアが閉まり、トラムが再び動き出す。
前方,司机缓慢地观察车内情况,点了点头。不久车门关闭,电车再次启动。
戻ってきた揺れが眠気を誘う。 回来的摇晃诱发了睡意。
必死で意識を保っていると、ふと後方から声が聞こえた。
拼命保持意识时,忽然听到后方传来声音。
『ーー』 『——』
この国の言葉とは違う、耳慣れない音の響き。でも、どこかで聞いたことがあるような。ああ、大学の第二言語で学んだ日本語だ。
这不是这个国家的语言,是陌生的音调。但不知为何,似乎在哪里听过。啊,是大学第二外语学过的日语。
盗み聞きなんて悪趣味だけれど、この際眠気を払うのには好都合。通りすがりの赤の他人、悪用なんてするつもりもないし許してもらおう。
偷听这种行为虽然不雅,但此时正好用来驱散睡意。只是路过的陌生人,并无恶意利用之意,就请原谅吧。
そう考え、私は背後から聞こえる内容を聞き取ろうと耳をすませた。
我这样想着,竖起耳朵试图捕捉从背后传来的对话内容。
会話の声は二人分。どちらも男性。 对话的声音是两个人的。都是男性。
柔らかい方の声は饒舌で、硬い方の声は言葉少なだ。
柔和的声音健谈,而硬朗的声音则话语不多。
「綺麗なところだったな」 「真是美丽的地方啊」
「…」
「実りの秋、収穫の秋、っていうけどさ。俺、あんまり実感したことなくて。地元には畑とか、そうそうなかったからかな。いや、探せばあるんだろうけど、少なくとも近所にはなかったと思う。凛の地元は? どうだった?」
「虽说有‘丰收之秋’的说法,但我其实没什么感觉。家乡那边没有多少田地,或许是因为这个吧。不,应该说找找还是有的,但至少我家附近没有。凛的家乡呢?怎么样?」
「ねぇ」 "「呐」
「だよな。鎌倉にそんなイメージねーもん、納得」 「是吧。镰仓哪有那种印象,理解了」
「イメージってんなら埼玉はありそうなもんだけどな」
「要说印象的话,埼玉倒是挺符合的」
「え、そう? 埼玉っつったら例の地下神殿じゃね?」
「诶,是吗?说到埼玉不就是那个地下神殿吗?」
「何だよ、それ」 「什么啊,那是什么?」
「知らない? えっと、正確には貯水施設だったっけ。俺も中学のときに課外授業で行ったきりだけど、あそこはあそこで迫力あったなー」
「不知道吗?嗯,准确来说是蓄水设施吧。我也只是在中学时的课外教学去过一次,那里真是气势磅礴啊。」
「へぇ」 「哦——」
「ま、そんな感じだからさ。今のとこみたいな風景って、かなり感動したわ。見渡す限り畑だから緑なんだけど、なんか大自然って感じじゃないんだよな。不思議。人の手が入ってるから整ってて、丘の上に修道院まで建ってて。なんか、絵みたいだった」
「嘛,就是那种感觉啦。像现在这样的风景,真是相当感动啊。放眼望去全是田地,一片绿色,但不知为何却没有那种大自然的气息。真是不可思议。因为有人工的痕迹,所以显得很整齐,山丘上还建有修道院。简直像画一样。」
「まぁな」 「是啊。」
「で、上から眺めたときは全然わかんなかったのに、下から覗くとめっちゃ葡萄生ってんの。びっくりした」
「而且,从上面看的时候完全没注意到,但从下面一看,葡萄长得满满的。真是吓了一跳。」
「…」
「あの時、お前も実はちょっと驚いてたろ」 「那时候,你其实也稍微有点惊讶吧」
ふん、と鼻を鳴らす音。 哼,鼻子里发出不屑的声音。
くっくっと押し殺した笑い声。 咯咯地压抑着笑声。
葡萄と聞いて、ああ、と私は納得する。ようやくピンと来た。確か近くにワイナリーがあった。交通の便が悪いせいで、わざわざ来る人なんてあまりいないから忘れていた。
听到葡萄,我恍然大悟。终于明白了。确实附近有个酒庄。因为交通不便,特意来的人不多,所以忘记了。
先程のトラム乗り場からも随分離れていたはずだけれど、この二人は一体どんな足を使ったのだろう。
刚才的电车站应该离得很远,这两人到底用了什么脚力啊。
「冴に渡すの、楽しみだな」 「给冴的,真期待啊」
「…おう」 「…哦」
「試飲させてもらったやつ、めっちゃ美味かったもん。きっと喜ぶよ。ウチの父さんと母さんにも今度買おうかな…」
「让我试喝的那个,超级好喝的。他一定会很高兴的。下次也给家里的爸爸妈妈买吧…」
「…」
「凛? …」
元々口数の多くなかった相槌が途切れ、沈黙が落ちる。
原本就不多话的应答声中断,沉默降临。
気になって、そっと窓ガラス越しに後ろを窺い見る。
心中挂念,悄悄透过车窗玻璃向后窥视。
窓際の席で先程見た青年が隣の相手の左肩に頭を預け、目を閉じていた。目元を縁取る長い睫毛の先端が、日差しに透けてぼんやりと光り輪郭を成している。
窗边的座位上,刚才见到的青年将头靠在邻座的左肩上,闭着眼睛。眼周长长的睫毛尖端,在阳光下透出朦胧的光晕。
静かに眠る顔を、肩を貸す通路側の青年が柔らかい眼差しで見守っている。被った帽子の鍔の下から覗く目が、ふと、眠る青年を越えて窓を向く。
安静入睡的脸庞,被借出肩膀的通道侧青年以温柔的目光守护着。帽檐下露出的眼睛,忽然越过熟睡的青年望向窗外。
窓ガラス越しに、視線が合った。 透过窗户玻璃,我们的视线交汇了。
驚いた顔をした私に気付いて、幼なげな顔立ちのその青年は少し目を丸くする。そして真っ直ぐに立てた右手の人差し指を唇に当て、しぃ、と悪戯っぽく笑った。
注意到我惊讶的表情,那位有着稚嫩面容的青年微微睁大了眼睛。然后,他竖起右手食指贴在唇上,调皮地笑了笑,发出了一声“嘘”。
私が驚いたのは、その顔を知っていたからだ。 我之所以惊讶,是因为我认识那张脸。
遠く海を越え、異国の地日本からやって来たエゴイスト。歳の離れた弟が熱狂的に応援する名門サッカーチーム、そのエースストライカー。かつては青い監獄の申し子として名を馳せた、ヨイチ・イサギその人だった。
跨越海洋,从异国日本而来的自我中心者。年幼的弟弟狂热支持的名门足球队,其王牌前锋。曾作为蓝色监狱的宠儿而声名远扬,他就是蜂乐廻本人。
ちなみに情報はすべて愛すべき弟からの受け売りだ。あまりにも熱心なので、私自身はさほど興味もないのにイサギの顔と名前だけ覚えてしまった。
顺便一提,这些信息全是从我可爱的弟弟那里听来的。他太过热情,以至于我本人并不怎么感兴趣,却还是记住了蜂乐的脸和名字。
完全なプライベートの様子を見て取って、慌ててこくこくと頷く。無音のまま、イサギの唇がフランス語で『ありがとう』を象った。そろそろと目を逸らす。
完全的私人模样被看穿,慌忙地点头。无声之中,蜂乐的唇用法语勾勒出‘谢谢’。缓缓移开视线。
どうしよう、サインとか、は無理だろうな。 怎么办,签名什么的,大概是不可能了吧。
彼と一緒にいる友人を起こしてまで強請るのはマナーとしてよろしくないだろう、と判断する程度の良識は私にもあった。弟には土産話だけで満足してもらうしかないな、と残念に思いながら目を伏せる。
判断到即使叫醒他和朋友在一起的同伴强行索要也不合礼仪,我还是有这样的常识。只能让弟弟满足于听我带回来的故事了,我遗憾地垂下眼。
それにしても。 即便如此。
窓ガラスに映っていた光景を反芻して、私はこっそりと笑う。
我偷偷地笑了,回味着映在窗玻璃上的景象。
大切な友人なのだろうな、と思う。この上なく穏やかな、優しさに満ちた顔つきだった。その後の笑みも含めて、これまで弟の横で見ていたサッカー中の猛々しさとは随分印象が違う。
我想,他一定是个重要的朋友吧。那是一张无比温和、充满温柔的脸庞。包括之后的笑容在内,与之前在弟弟身边看到的足球场上的勇猛印象大相径庭。
でも、その落差が癖になりそう。 不过,这种反差似乎成了我的癖好。
そうして噛み締めているうちに降りる駅に着いて、慌てて席を立つ。
就这样咬紧牙关,到达了下车的车站,慌忙起身。
降りる間際、ちらりと目をやったイサギは、こちらに気付いて小さく手を振ってくれた。隣の青年は相変わらず寝ているみたいだった。
下车之际,瞥了一眼的伊佐木,注意到这边,轻轻挥了挥手。旁边的青年似乎还在睡觉。
その日の夜、気になって訊ねた弟に見せられた、一推しだという青い監獄時代の試合の切り抜き。
那天晚上,被在意而询问的弟弟展示的,据说是首推的蓝色监狱时代比赛的剪辑。
そこにイサギの肩を枕にしていた青年の姿を見つけて、私はその青年の眼光のあまりの鋭さに、そしてトラム内での静謐とはまるでかけ離れた二人の闘争の火花に、危うく目を回しそうになったのだった。
在那里,我发现了以伊佐木的肩膀为枕的青年,他的目光锐利得令人难以置信,与电车内本应的宁静格格不入,两人之间仿佛迸发出斗争的火花,我差点被这景象惊得眼花缭乱。