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短編集(梅雨)/あきづき的小说

短編集(梅雨) 短篇集(梅雨)

10,102字20分钟

twitter上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2023年6月分)をまとめたものです。
这是在 Twitter 上参与的一次性投稿作品(2023 年 6 月)的汇总。

各話2000~3000文字程度。全体的に甘口でお送りします。
每话约 2000~3000 字。整体风格偏甜,敬请期待。

目次は1ページ目をご覧ください。 目录请查看第 1 页。

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好きな相手のことだから 因为是喜欢的人

 平日の夜。  平日的夜晚。
 ルームシェアの相手が共用スペースでくつろいでいるタイミングを狙って、後ろから声をかける。
 瞄准室友在共用空间放松的时机,从背后搭话。

 なるべく平常通りの声音で。なるべく、なるべく。  尽量用平常的声音。尽量,尽量。
「海、行くぞ」 「海、走吧」
「え?」 「诶?」
「行きたいってこの間お前が言ってただろーが。脳みそが小さすぎて忘れたか?」
「不是你前几天说想去的吗?脑子太小忘了吗?」

「あー、確かに言ったかも、そんなこと。って、よく覚えてたな凛…」
「啊,确实可能说过那种话。你居然记得这么清楚啊,凛…」

「…わかったら次の休みは空けとけよ、クソ潔」 「…知道了的话,下次休假就空出来吧,混蛋洁」
「はいはい、仰せのままに」 「好好,遵命遵命」
 ソファ越しに振り向いた顔が苦笑の形をとる。  沙发对面转过来的脸露出了苦笑。
 その、しょーがないなとでも言いたげな表情に苛立ちが募る。それでも確かに言質はとった。用が済んだので背を向け、リビングを後にする。儘ならない感情に、端正な顔立ちを歪めながら。
 那副像是无可奈何的表情让人越发焦躁。尽管如此,确实已经得到了承诺。事情办完了,于是转身离开客厅。带着无法释怀的感情,端正的面容微微扭曲。

 惚れた弱み、というものがある。  有所谓迷恋的弱点。
 好きな相手のことであれば何をおいても優先したくなる。それまでの、あるいはその相手の関わらないところでの自分からすればどう考えてもやらないようなことでも自ら進んでやってしまう。
 只要是喜欢的人,无论什么都会优先考虑。即使是以前自己或与对方无关时,无论如何都不会去做的事情,也会主动去做。

 よもや自分にそのような事態が発生するとは考えたこともなかったが、現実としてなってしまったのだから仕方がない。困ったことに、自覚があるからなおのこと厄介だ。
 从未想过自己会陷入这样的境地,但既然现实如此,也只能接受。麻烦的是,自己有自觉,所以更加棘手。

 だから糸師凛は潔世一が海が見たい、と言えばそれが独り言に近しいものであってもそわそわとお互いの次の休暇が重なる日をカレンダーで確認せずにはいられないし、自分のスマホで一番近いところにあってちょうどよさそうな海岸と、そこへのアクセス方法なんてものまで調べてしまう。
 所以,如果糸师凛说想看海,即使那接近自言自语,他也会忍不住焦急地查看彼此下一次休假重叠的日子,甚至用手机查找最近的海岸和前往那里的交通方式。

 認めたくはない。とても、とても、認めたくない。  不想承认。非常、非常、不想承认。

 潔が誘いを断らなかったことに胸を撫で下ろす。  得知洁没有拒绝邀请,松了一口气。
(いや、潔に他の予定が入っていないことは確認済みなのだから当然だ。そうでなければ殺す。)
(不,洁没有其他安排的事情已经确认过了,所以这是理所当然的。否则就杀了他。)

 予定日の天気を調べてそこに晴れのマークが表示されていることに安堵を覚えている。
 查看了预定日的天气,看到那里显示着晴天的标志,感到安心。

(態々予定を立てたのだから、それが崩れるのが嫌なだけだ。)
(特意制定了计划,只是不想让它被打乱而已。)

 最高気温を見て猛暑だと知り、自分用ではない熱中症対策グッズをネットショッピングで探している。
 看到最高气温知道是酷暑,正在网购不是自己用的防中暑用品。

(昔、自分がオーバーワークをたしなめられたときの仕返し。それだけだ。)
(曾经,自己被劝诫过度工作时的报复。仅此而已。)

 
 どれだけ誤魔化そうとしてみても、結果としてみれば同じことだ。凛自身にもわかっている。こんな浮かれた真似をしている自分が忌々しい。
 无论怎么试图掩饰,结果都是一样的。凛自己也明白。这样轻浮的行为让自己感到厌恶。

 それでも。  即便如此。
 その不快感を押しのけてしまいそうなほどに浮足立つ胸の高鳴りを自覚して、凛は自室のドアに背中を預けたまま、音高く舌打ちを漏らした。
 意识到自己心跳得几乎要压过那股不适感,凛背靠着卧室的门,忍不住高声咂舌。

 青い空。白い雲。一面に広がる海。そこそこ白い砂浜。海と言われて十人中九人がイメージするような景色をバックにして立つ、鍔の広い麦わら帽子を被った潔の後ろ姿。
蓝天。白云。一望无际的大海。还算洁白的沙滩。站在以这种十人中有九人会联想到的海景为背景,戴着宽檐草帽的洁的背影。

 不意に、強い風が吹く。慌てた様子で潔の両手が帽子を押さえた。
突然,一阵强风吹来。洁慌忙用双手按住帽子。

 天気予報は外れることなく、太陽は燦燦と降り注いでいる。雨天でないことは何よりだが、水分補給と体温調整を怠れば熱中症間違いなしの日和だ。
天气预报一如既往地准确,阳光灿烂地洒落。不下雨已经是万幸,但如果忽视水分补充和体温调节,中暑是必然的。

 家を出るときに潔に帽子を押し付けて正解だった、と凛は密かに拳を握った。足を動かし、夢中で海を見つめる潔の横に並ぶ。
出门时坚持戴上帽子真是明智之举,凛暗自握紧了拳头。她迈开步伐,与专注凝视大海的洁并肩而行。

 遠く、海を眺める。彼方の水平線は朧げに揺らぎ、空と海の境目は曖昧だ。目を凝らせば、恐らくは船だろう小さな影がかろうじて見える。すっきりとした晴天に、穏やかな波がきらきらと光を返す。
远眺大海。远方的地平线朦胧摇曳,天空与海洋的界限模糊不清。凝神细看,或许能隐约看到一艘小船的影子。在晴朗的天空下,平静的海浪闪烁着光芒。

 海開きはまだのはずだが、暑さのためか泳いでいる人間もちらほらといた。
虽然海还没有正式开放,但或许是炎热的缘故,已经有零星的人在游泳了。

「海…!」
「見りゃわかるな」 「一看就知道了」
「そうだけど。いやそういうことじゃなくてですね、凛さん」
「是啊,不过我不是那个意思,凛小姐」

「それ以外に何があんだよ」 「除此之外还有什么啊」
「もうちょっとこう、風情とか情緒とかあるじゃん。お前がよく見てるサメ映画にはないような感動的な何かが、この海にはさぁ。まあそもそも海出てこないけどなアレ。なんなんだろうなアレ。うんよし、そんな凛くんにはわからなくて当然だったわー」
「再多一点那种风情或情绪之类的嘛。这片海里,有你常看的鲨鱼电影里没有的那种感动。嘛,反正那电影里也没有海。那到底是什么啊。嗯,好吧,凛你不懂也是理所当然的啦——」

「は? お前の貧相な語彙の責任を俺に押し付けてんじゃねぇよ、死ね」
「哈?别把你那贫乏的词汇怪到我头上,去死吧」

「あーはいはい、言い過ぎました。ゴメンナサイ。…まあ凛の地元は鎌倉だもんな。海なんて見慣れてるか」
「啊——好好,说过了,对不起。……嘛,凛的家乡是镰仓嘛。海什么的早就看惯了吧」

「…別に。それとこれとはまた別の話だろ」 「……那倒不是。这和那又是两码事吧」
「そうなの? まぁ、いいか」 「是吗?嘛,算了」
 くるり、と潔が振り向いた。  潔轻轻地转过身来。
 何年も前から一向に変わる気配のない童顔。ルームシェアをするようになってから気付いた、いつの間にか慕情を抱くようになっていたその瞳。鼻筋。口元。帽子の鍔の陰でそのかたちが笑みを成す。
多年来始终如一的童颜。自从开始合租后才注意到,不知何时起已悄然萌生的爱慕之情,那双眼睛。鼻梁。嘴角。在帽檐的阴影下,那轮廓勾勒出微笑。

 凛の瞳孔が開く。  凛的瞳孔放大了。
 目がひきつけられる。耳をそばだててしまう。意識の全てが、潔に集中する。
目光被吸引。耳朵竖起。意识全部,干净地集中。

「来てよかったよ。あんな独り言なんて覚えてて、誘ってくれてありがとな。この帽子のことも」
「来了真好。还记得那样的自言自语,邀请我真是太感谢了。这顶帽子的事也是」

 はじけるような、満面の笑みだった。  绽放般的,满面笑容。
「俺さ。お前と一緒に来れて、本当に楽しい」 「我啊。能和你一起来,真的很开心」
 両の眉が柔らかく下がる。細められた潔の瞳が、きらきらと輝きを宿す。その口元が、大きな弧を描く。
两边的眉毛柔和地垂下。细长的洁的瞳孔中,闪烁着光芒。嘴角勾勒出一个大大的弧度。

 凛は表情を失ったまま立ち尽くす。  凛失去了表情,呆立在那里。
 その笑顔を見るだけで、なにもかもどうでもよくなってしまう。そんな自分を気持ちが悪いと思うのに、その感情すらもどこかに放り出してしまいそうになる。
 只要看到那笑容,一切的一切都变得无所谓了。明明觉得自己这样很恶心,连这种感情都仿佛要被抛到九霄云外。

 だから、この瞬間がとても嫌だった。  所以,这一刻让我无比厌恶。
 そして抗いようもなく、潔のことが好きだった。  然而无可抗拒地,我喜欢上了洁。


 潔世一は笑う。 洁世一笑了。
 今のクラブへの移籍の際、拝み倒してルームシェアに漕ぎつけられて本当に良かった。恐らくは気まぐれ程度の理由だろうが、こうして隣で過ごせる時間が増えたのはとても喜ばしいことだ。
 转到现在这个俱乐部时,能死缠烂打地争取到合租,真是太好了。虽然可能只是他一时兴起,但能这样增加相处的时间,真是令人无比高兴。

 凛は存外、懐を許した相手には際限なく甘いのだろう。そういうところも好きだな、と思う。そうだ。もはやどの時点からかも覚えてはいないが、ずっと前から、潔は凛のことが好きだった。
 凛意外地对允许进入他内心的人无比温柔。想到这一点,洁也觉得喜欢。没错。虽然已经记不清是从什么时候开始的了,但洁一直都喜欢着凛。

 だから、この瞬間がとても嬉しい。  所以,这一刻是如此令人欣喜。
 己の感情に正直に、隠す気もなく溢れさせて、潔は笑った。
 坦率地面对自己的情感,毫无掩饰地让它满溢,洁笑了。


评论

  • 05432-
    2023年7月11日回信
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