短編集(初秋) 短篇集(初秋)
X(twitter)上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2023年9月分)をまとめたものです。
这是在 X(Twitter)上参与的 One-Rai 投稿作品(2023 年 9 月)的汇总。
各話大体2000~3000文字程度。目次は1ページ目をご覧ください。
每话大约 2000~3000 字。目录请查看第 1 页。
素敵な表紙はこちらからお借りしました。 精美的封面是从这里借用的。
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高くついた埋め合わせ 昂贵的补偿
事の発端は凛の兄である冴から送られてきた荷物だった。
事情的起因是凛的哥哥冴寄来的包裹。
末っ子のことを心配した糸師家の両親から定期的に日本食の類が送られてくることは知っていたが、しばらく仲の拗れていた兄から荷物が届くのは初めてだった。少なくとも潔が凛と同居を始めてからの期間ではそうだ。
凛知道,因为担心最小的孩子,糸师家的父母会定期寄来日本食物。但这是第一次从关系疏远了一段时间的哥哥那里收到包裹。至少在洁和凛开始同居之后是这样的。
タイミング悪く留守にしていた凛の代わりに荷物を受け取った潔は、そういえば、と夕食の席でその件を話題にすることにした。
洁在凛不在家时替他收下了包裹,于是晚餐时他决定提起这件事。
サラダを突きながら、潔は口を開く。 洁一边戳着沙拉,一边开口。
「昼間、お前のにーちゃんから荷物届いてたぞ。ナマモノじゃないっぽいからお前の部屋の前に置いといたけど」
「白天,你老爹寄来的包裹到了。看起来不是生鲜,我就放在你房间门口了。」
「おう」 「哦。」
「冴から来るの珍しくね? 何かあった?」 「冴主动联系,真是少见啊?发生什么事了吗?」
束の間、食事の席に沈黙が落ちる。 短暂的沉默笼罩了餐桌。
ナイフを構えていた凛が顔を上げる。皿に横たわる白身魚のムニエルを見つめていた眼差しが、潔の顔に向けられた。
凛放下手中的刀,抬起头。原本凝视着盘中白身鱼慕斯的目光,转向了洁的脸。
「誕生日」 「生日」
その内容に潔は目を丸くする。葉野菜を突き刺して、持ち上げようとしていたフォークの動きが止まる。細切りのニンジンがぽろりと皿に零れ落ちていく。
洁瞪大了眼睛,看着那内容。原本正要叉起蔬菜的叉子停在了半空,切碎的胡萝卜悄然滑落回盘子里。
誕生日。 生日。
誰の、というのは愚問だろう。冴の誕生日ならその当人から荷物が届くはずがない。
问是谁,这问题未免太愚蠢。如果是冴的生日,那礼物自然不可能由他本人送来。
「え、お前誕生日だったの」 「诶,你生日啊?」
「一週間前な」 「一周前的事了。」
「マジ? 全然知らなかったわ、言えよ。俺が薄情者みたいじゃん」
「真的?我完全不知道啊,你倒是说啊。搞得我好像很无情似的。」
「は?」 「哈?」
零れ落ちたニンジンを掬い上げ、しょぼくれた顔で潔は言った。
洁捡起掉落的胡萝卜,一脸沮丧地说道。
凛の眉間に深い皺が刻まれる。 凛的眉间刻下了深深的皱纹。
遡ること一週間前、凛はちょっとソワソワしながら一日を過ごした。
追溯到一周前,凛有些焦躁不安地度过了一天。
勿論自分の誕生日だったからだ。潔はそのあたり律儀な男なので、まあ何かしらはあるだろうと思っていた。言ってしまえば期待していた。
当然是因为那天是自己的生日。洁是个规矩的男人,所以想着他应该会准备些什么。说白了,就是抱有期待。
しかし潔の口からその話題が出ることはなかった。というかオフだったので日中は普通に外出していた。
但洁从未提起过那个话题。或者说,因为是休息日,白天他还是照常外出。
結局凛がその日得た物は、日本の両親から送られてきたちょっと豪華な鯛茶漬けセットと、スペインの兄からの「誕生日おめでとう。プレゼントは今日手配したから来週届く」というメッセージだけだった。
最终,凛那天得到的只有来自日本父母寄来的稍显豪华的鲷鱼茶泡饭套装,以及西班牙哥哥发来的“生日快乐。礼物今天已经安排好了,下周会送到”的短信。
ファンからの贈り物はクラブの保管庫を埋め尽くさんばかりだったが、その山は彼らのことなど有象無象としか見ていない凛の視界に入ることはなかった。クラブの事務方から連絡はいったが当然のように受取拒否されたため、チャリティーイベントに寄付される予定である。
粉丝送来的礼物多得几乎要填满俱乐部的保管库,但那些堆积如山的礼物从未进入过凛的视线,他根本不把这些东西放在眼里。俱乐部的事务方虽然联系过他,但理所当然地被拒绝了领取,因此这些礼物预计会被捐赠给慈善活动。
認めたくもない落胆を振り払うように打ち込んだ結果として翌日の凛のプレーは極めて研ぎ澄まされ、潔は大喜びした。
不愿承认的失望被抛诸脑后,结果第二天凛的表现极为精湛,洁欣喜若狂。
その反応に一層殺意を募らせた凛はその日一日潔と口を利かなかった。潔は首を捻っていた。
凛因那反应更加激起杀意,那天一整天都没和洁说话。洁困惑地歪着头。
それだけ振り回しておいて、凛の口から。自分は誕生日です、祝ってくださいと。そう言えと宣うのか、このクソ野郎は。
如此折腾一番后,凛居然开口说:今天是我的生日,请为我庆祝。这混蛋是命令我这么说吗?
阿修羅の如き凛の形相を見た潔は、慌てて口を開く。
看到阿修罗那般凛然的模样,洁慌忙开口。
「あーいや俺が悪かったです、ハイ。お前がここんとこ荒れてたのそれだったわけね…」
「啊——不,是我的错,抱歉。你最近这么暴躁,原来是因为这个啊……」
「うるさい。死ね、クソ潔」 「吵死了。去死吧,混蛋洁。」
「もぉ…ごめんって、埋め合わせはするから許せよ。でもプレゼントか…。うーん、そうだな…」
「真是的……对不起啦,我会补偿的,原谅我吧。不过礼物啊……嗯,这样吧……」
しゃくしゃくとサラダを咀嚼しながら、潔はしばらく考えた。
一边津津有味地嚼着沙拉,洁思考了一会儿。
咀嚼が終わったのでごくりと飲み込み、その様子を半眼で見つめる凛に向けてにっと笑顔を浮かべる。
咀嚼完毕后咕噜一声咽下,对着半眯着眼盯着他的凛,露出了一丝笑容。
「よし、とりあえず誠意の証として凛の願い事をなんでも聞いてやるよ」
「好,作为诚意的证明,凛的愿望我什么都听。」
「あ? 敬老の日のガキかよ」 「哈?敬老日的小鬼吗?」
「まあまあ。ほら、貯金はそれなりにあるし、多分大体のことは叶えられると思うぜ? ほら言ってみろって、なんかねーの」
「哎呀,别这样。你看,我存款还算不少,大概大部分事情都能实现吧?来,说来听听,有什么愿望吗?」
馬鹿じゃねーのか、とか。稼いでる額は大して変わんねーだろ、とか。
你是不是傻啊,之类的。赚的钱也没多大差别吧,之类的。
その得意げな笑みを前にして、色々と言いたいことはあった。しかしそのすべてを飲み込み、凛は冷静に確認する。
面对那得意的笑容,心里有很多想说的。但凛还是咽下了所有的话,冷静地确认。
「何でも、だな?」 「什么都可以,是吧?」
「おー、二言はない!」 「哦,没问题!」
潔が意気揚々とサムズアップ。 洁自信满满地竖起大拇指。
凛は一度瞼を下ろす。ほんの僅かな動作ですっと息を吸って、吐いて。
凛轻轻闭上眼,微微吸气,又缓缓呼出。
そして瞼を上げて、言った。 然后睁开眼,说道。
「じゃあ、お前の人生を寄越せ」 「那么,把你的生命交出来吧」
「…は?」 「…什么?」
潔が再び目を丸くする。 洁再次瞪大了眼睛。
その視線が凛の鋭い眼光とかち合い、至極本気の言葉であることを悟って、すっと細くなる。
那视线与凛锐利的目光相撞,意识到这是极其认真的言辞,瞬间变得细小。
「えーっと、それ、そういう意味?」 「呃,那个,是那个意思吗?」
「そういうもクソも知るか。ただ、最後までそばにいろ。俺を見ろ。クソほどムカつくけどサッカーでは許す、けどそれ以外じゃよそ見すんな、アホ」
「那种事谁知道啊。总之,到最后都要在我身边。看着我。虽然气得要死,但在足球上我会原谅你,不过除此之外别给我东张西望,笨蛋」
気迫に満ちた声音と表情だった。それは、凛が死にそうな気持ちでどうにか絞り出した言葉だった。
那是充满气势的声音和表情。那是凛在濒死的心情中勉强挤出来的话语。
潔は顎に指を当て、真面目な顔をしてしばらく考え込む。
洁将手指放在下巴上,一脸认真地沉思了一会儿。
そして頷いた。 然后点了点头。
「うーん。…まぁ、いいか」 「嗯……嘛,算了」
あまりにもあっさりとした言葉だった。 这话说得太过轻描淡写了。
その軽やかさに、凛の眼差しが黒く焦げる。湧き上がる感情は怒りであり、憎悪だった。
那份轻盈,让凛的眼神变得焦黑。涌起的情感是愤怒,也是憎恨。
この男はいつでも、そしてきっと誰にでもこうなのだ。死ねばいいと心の底から思った。
这个男人总是这样,而且对谁都一样。从心底里希望他去死。
しかし、紡がれた潔の二の句がその激情に水を差す。
然而,纺出的洁的第二句诗,给那激情泼了冷水。
「凛になら。いいよ、うん」 「如果是凛的话。可以哦,嗯」
潔が相好を崩す。 洁的表情放松下来。
少し頬さえ染めて、照れを混じらせながら笑う。 脸颊微微泛红,带着一丝羞涩地笑了。
凛のグチャグチャの感情など軽々と飛び越えて、潔は言う。
凛那纷乱的情感轻易地被抛在脑后,洁说道。
「だから、お前の人生も寄越せよ。…あと、誕生日パーティー的なの、その内やろーぜ。お前の生まれた日、俺にちゃんと祝わせろよ」
「所以,把你自己的人生也交给我吧。…还有,生日派对之类的,过段时间再办吧。你的生日,让我好好庆祝一下。」
呻くように、凛は返答を口にした。 凛呻吟般地回应道。
その内容は、分かりきったものだった。 那内容,早已是心知肚明的。
そうして、潔は二十代の前半にして想定になかった形でではあるが伴侶を得ることとなった。
就这样,洁在二十岁出头的年纪,以未曾预料的方式获得了伴侣。
人生とはわからないものだ。 人生真是难以预料。
ずっとそんなことばかりだったような気もするが、今、改めてしみじみとそう思う。
总觉得一直就是那样,但现在再次深切地这么觉得。
まあしかし、一緒に暮らす内にコイツ俺のこと結構、いやかなり好きじゃね、くらいは潔だって気づいていたので。そして、それが嫌ではなかったり、それどころか大分嬉しかったりもしたので。
嘛,不过一起生活的时间里,这家伙对我的感情相当,不,是非常喜欢,这点我早就察觉到了。而且,我并不讨厌,甚至可以说非常高兴。
まあ。 嘛。
結果オーライ、ということで。 结果好就一切都好,是这么说的吧。
潔は手始めに、小さく切り分けたムニエルの一片をフォークで突き刺して、未だ一口も食べていない凛の口元に運んでやった。
洁首先用叉子叉起一小块切好的炸鱼排,送到一口还没吃的凛嘴边。