
ボクはいま、天気予報に裏切られている。天気予報が嘘をついた。
我现在,正被天气预报背叛了。天气预报撒了谎。
「……というか、さっきまで降ってなかったよね?」 「……话说回来,刚才不是还没下雨吗?」
補習の教室から見た景色は、どんよりとした曇り空だった。確かに晴れては、いなかったけれど。……それから昇降口に降りてきたいま、眼前では雨が降っている。無視できない程度には。
从补习班的教室望出去,天空阴沉沉的,确实没有放晴。……而现在,从楼梯口下来,眼前正下着雨。雨势不小,不容忽视。
家を出る前に確認した天気予報をおぼろげに思い浮かべる。たしか、ただの曇りマークだったはず。だから、傘なんて持ってきていない。
我模糊地回想起出门前查看的天气预报。记得,应该只是多云标志。所以,我根本没带伞。
どうしよう。ふだん念入りに手入れしているボク自慢のキューティクルへのダメージは看過できない。風邪を引いてしまうかもしれないし。それに、にわか雨かもしれない。……かといって、いま学校に居続けたいかというと……。
怎么办。平时精心打理的、我引以为傲的头发角质层受损可不容小觑。可能会感冒的。而且,这可能是阵雨。……话说回来,现在是否愿意继续留在学校呢……
まさに弱り目に祟り目。こういうちょっとした不運の積み重ねが苛立ちを誘う。忌々しくて睨みつけてみるけれど、雨はうんともすんとも言わないし、当然やんだりしてくれない。
真是屋漏偏逢连夜雨。这种小小的不幸接连发生,让人不由得烦躁起来。我恨恨地瞪视着,可雨却毫无反应,自然也不会因此停歇。
「…………」
降り注ぐ雨につられて、なんとなく目を伏せる。あるいは、のしかかってくる暗い思考の重さに耐えきれなくなったのかもしれない。雨が地面に打ち付けられ、大きめの水溜まりには無秩序な波紋が次々と広がっていく。
顺着倾泻而下的雨势,我不由自主地低下了头。或许,是承受不住那压顶而来的沉重思绪吧。雨水拍打着地面,较大的水洼中,无序的波纹接连扩散开来。
……まあ、いいか。濡れてもいいや。このまま帰ろう。いまこの場所に居続けたら、これ以上歩けなくなってしまいそうだから。
……算了,就这样吧。淋湿也无所谓了。就这样回去吧。如果继续待在这个地方,恐怕连一步都迈不动了。
「瑞希?」
「え?」 「诶?」
いざ妥協案に身を委ねる決心がついた途端に、聞き馴染みのある声が雨音を通り抜けてボクの耳に届く。顔を上げると、これまた馴染みのあるチョコレートブラウンが視界に入った。
就在我下定决心接受妥协方案的那一刻,熟悉的声音穿透雨声传入耳中。抬头一看,那同样熟悉的巧克力棕色映入眼帘。
「……あ、絵名」 “……啊,绘名。”
歩み出そうとしていた足が自然と止まって、その場に縫い付けられる。色気のないビニール傘を差した制服姿の絵名は空いている手を振っていた。振り返す元気はなかったけれど、何も返さないのも不自然だと思って、慌てて笑顔を取り繕って手を挙げて応えた。絵名に余計な心配はかけたくない。
正欲迈出的脚步自然而然地停下,仿佛被钉在了原地。绘名撑着毫无特色的塑料伞,身着校服,空着的那只手正朝我挥动。虽无回头的力气,但觉得什么都不回应也显得不自然,便慌忙挤出一丝笑容,举手回应。不想让绘名多操心。
絵名は庇の下にたどり着くと、傘を外に向けて静かに傘を閉じた。続いて、バサバサ音を立てながら、蓄えられたしずくを払い落とす。
絵名抵达屋檐下,将伞朝外轻轻合上。随后,伴随着沙沙声,抖落伞上积聚的水珠。
「珍しいじゃない、瑞希が学校来てるなんて。なに、補習?」
“真是少见啊,瑞希竟然来学校了。怎么,是补课吗?”
「うん。かなりサボってたから、案外時間かかっちゃってさあ」
“嗯。因为之前偷懒太多,没想到要花这么多时间呢。”
「あー。瑞希、だいぶ引きこもってたもんねえ」 「啊——。瑞希,你可是宅了好久呢。」
「うるさいなあ。なんとか取り返せそうだし、いいんだよお」
「烦死了。反正看起来能想办法补回来,就这样吧。」
絵名の常套句をそれとなく使う。ふだんはこんな憎まれ口を叩けば、多少「言いすぎちゃったかな」なんて後悔に苛まれるものだけれど、それも今ばかりは、絵名と今までと変わらずなんでもなく話せているという奇跡の印に他ならなかった。
我巧妙地运用了绘名常用的口头禅。平时要是这样口出恶言,多少会有些“是不是说过头了”的后悔感,但此刻,这不过是绘名和我能像往常一样毫无芥蒂地交谈的奇迹印记罢了。
しずくをひとしきり落とし切ったのか、絵名は軽やかにくるりとこちらを向く。微笑んでいた。でもそれも一瞬のこと。表情がわずかに翳り、くりくりした大きな瞳でボクを見据え、まるで心を覗き込むように動きを止めた。首を少し傾けたその仕草には、小さな疑念が滲んでいる。微笑みの名残が消えると、空気にひそかな緊張感が漂い始めた。
水滴似乎已经全部滴落,绘名轻盈地转过身来,朝这边微微一笑。但那笑容转瞬即逝。她的表情微微黯淡,用圆溜溜的大眼睛凝视着我,仿佛要窥探我的内心般停下了动作。她稍稍歪着头,那姿态中流露出些许疑虑。随着微笑的余韵消散,空气中开始弥漫起一丝不易察觉的紧张。
「…………」
「え、絵名? どうしたの? ボクの顔になにかついてる?」
“诶,绘名?怎么了?我脸上有什么东西吗?”
そんなにしげしげと無言で見つめられると、流石に落ち着かない。胸がざわつき、視線が揺れる。その瞳を正面から受け止めるのがだんだんと難しくなってくる。本当に心まで見透かされてしまいそうで、それとなく目を逸らしてしまった。
被她这样默默凝视着,实在难以保持平静。心中泛起波澜,视线也开始游移。直视那双眼睛变得越来越困难,仿佛真的会被看穿内心,我不由自主地避开了目光。
「……瑞希、なんか元気ない?」 「……瑞希,你看起来没什么精神呢?」
その言葉が耳に届いた瞬間、胸の奥でほのかな嬉しさが芽生えた。でもその感情を自覚した途端に、自分に嫌気が差す。隠そうとしているくせに、結局気付いてほしいだけのかまってちゃん。「目立ちたいだけなんじゃない」。頭の中でたびたびリフレーンするその声は、誰の言葉だっただろう。
那句话传入耳中的瞬间,心底悄然萌生出一丝喜悦。但一旦意识到这种情感,便对自己感到厌烦。明明想要隐藏,却终究还是希望被注意到,真是个渴望关注的孩子。“不过是想引人注目罢了。”脑海中反复回响的那个声音,究竟是谁的话语呢?
「瑞希? 体調でも悪いの?」 「瑞希?身体不舒服吗?」
尚も絵名は問いかける。ただ問いかけるだけ。 尚美绘名仍在追问。只是单纯地追问。
その優しさに揺らぎそうになる。……でも絵名と一緒にいると、安心しきったボクはぜんぶぜんぶ、抑え込んだはずの感情さえ吐き出してしまうんじゃないかって、不安なんだ。それが絵名に不快な思いをさせちゃうんじゃないか、って。ボクですら、ボクの心の奥にあるこの暗澹とした塊が、不快で不快でしかたないのだから。
那份温柔几乎让我动摇。……可是,和绘名在一起时,完全放松的我,会不会连那些压抑已久的感情都倾泻而出呢?这让我感到不安。担心这样会让绘名感到不快。因为就连我自己,内心深处这块阴郁的疙瘩,也让我无比难受,难以忍受。
まだ大丈夫。ごまかせる――そう自分に言い聞かせて、せいいっぱいに虚勢を張る。
还撑得住。还能蒙混过去——我这样告诉自己,竭尽全力地虚张声势。
「……あはは、そんなことないよ~。メチャクチャげんき!」
「……啊哈哈,没那回事啦~。我超级精神的!」
「はいはい、嘘言わない。どう見ても空元気じゃない」
「好啦好啦,别撒谎了。怎么看都是在强颜欢笑嘛。」
呆れ顔で眉根を寄せる絵名。虚勢はあっさりと見抜かれた。あれ以来、絵名に隠し事をするのが苦手になってしまったのかもしれない。
绘名一脸无奈地皱起眉头。我的虚张声势轻易就被她看穿了。或许自从那次以后,我就变得不擅长在绘名面前隐瞒事情了。
「……って、もしかして、傘持ってないの?」 「……诶,该不会,你没带伞吧?」
と思ったけど、絵名の視線はボクの顔からボクの手元へと移る。どうやら、傘を持ってないから落ち込んでいたのだと勘違いしてくれそうだった。まあ、傘がなくて困っていたのは本当だけれど。
我正想着,绘名的视线却从我的脸上移到了我的手边。看样子,她似乎误会了我因为没有伞而感到沮丧。不过,我确实因为没带伞而有些困扰。
なら、その流れに乗じるしかないよね。絵名をこれ以上心配させないためにも、少しでも普段通りを装わないと。
那么,只能顺应这股潮流了。为了不让绘名再担心,至少得装出平常的样子来。
「……あー、そうなんだよねー。今日雨が降るなんて思わなくてさ」
“……啊,是啊。没想到今天会下雨呢。”
「実は、私も。家出てちょっとしてからいきなり降ってきたから慌てて家に戻って傘取ってきたんだよね」
“其实我也是。出门后不久突然下起雨来,慌忙回家拿了伞。”
「だからビニール傘なんだ〜。絵名にしては可愛くないなって思ってた~」
「所以才是塑料伞嘛~我还想着对绘名来说不够可爱呢~」
「うるさいわね。別になんでもいいやって思ったのよ。瑞希と出くわすなんて思わなかったし」
「烦死了。我只是觉得随便什么都行啦。又没想到会碰到瑞希。」
今度はボクが揶揄ってみると、絵名本人もまたその常套句で返してきた。それだけで、なんだか少し安心した気がした。沈んだきもちが少しは、すくわれた気がした。
这次轮到我调侃她时,绘名本人也用那句老话回敬了我。仅此一点,不知为何让我感到些许安心。原本沉重的心情,似乎也因此得到了一丝慰藉。
だからそのまま、教室に向かうはずの絵名を「じゃあね」と見送って、雨降りの帰路につく。そのはずだった。
于是,我本该就这样目送着要去教室的绘名,说声“再见”,然后踏上雨中的归途。本该如此。
「……って絵名? なにしてるの?」 “……绘名?你在做什么呢?”
思い描いていたのとは異なる光景に、ボクは面食らった。絵名が、しずくを落としたばかりの傘をなぜかまた開いていたのだ。その傘をしっかりとその手に持ち、まるで「そのまま帰る気なの」とでも言いたげに目で訴えてくる。
眼前的景象与我所想象的截然不同,让我一时不知所措。绘名不知为何又将刚刚滴落水珠的伞重新撑开。她紧紧握着那把伞,眼神仿佛在诉说着“就这样回去吧”。
「送っていってあげるわよ」 「我送你回去吧。」
意外な言葉。意外な行動。 意外的话语。意外的举动。
「え、絵名? これから授業なんじゃ?」 「诶,绘名?你不是接下来还有课吗?」
「サボり魔の瑞希が言う?」 「逃课大王瑞希说的?」
「まあ、そうだけどさ〜」 「哎呀,话是这么说啦~」
「でしょ、サボればいいじゃない。学校にはあとで連絡入れとくし。瑞希と違って1回休んだくらいじゃなんともないんだから」
「对吧,逃课不就好了。学校那边我待会儿会联系的。和瑞希你不一样,我偶尔逃一次课也没关系的。」
「……で、でも……なんで……」 「……可、可是……为什么……」
「でももなんでもない! そんな顔した瑞希を放っておけるわけないでしょ!」
「没什么可是不可是的!看到瑞希露出那样的表情,我怎么可能置之不理呢!」
また勝手に居なくなられたりしたら困るんだから、と絵名は軽く笑って、冗談めかして言った。
絵名轻轻一笑,半开玩笑地说道,要是你又擅自消失不见,那可就麻烦了。
そんなふうに言われたら、ボクはどうしようもなくなってしまう。絵名の優しさは嬉しい。でもその優しさに寄りかかっているだけの自分が嫌い。こうやって絵名の優しさを素直に受け入れられなくてモヤモヤしてしまう自分も、本当に嫌いだ。
被这么一说,我真是无计可施。绘名的温柔让我感到高兴,但讨厌只会依赖她温柔的自己。像这样无法坦率接受绘名的温柔,内心纠结的自己,也真的让我讨厌。
絵名の言う通り、ボクの顔は酷いことになっているのだろう。ボクの曇った表情が、絵名の心まで曇らせてしまっている。心臓が空虚にざわついて、冷や汗が無意味に全身に沁みた。浅い呼吸が繰り返される度、少しずつ冷たい空気が入り込んで身体を塗りつぶしていく。外気に満たされた身体の空白に耐えられなくて、両目をギュッと瞑る。
正如绘名所说,我的脸色一定很难看吧。我阴郁的表情,连绘名的心都蒙上了阴影。心脏空虚地躁动,冷汗无意义地渗透全身。每一次浅呼吸,冰冷的空气便一点点侵入,涂抹着身体。无法忍受被外界空气填满的身体空白,我紧紧闭上了双眼。
ほんとうに、いや、だ、 真的,不,讨厌,
「瑞希」
自分を呼ぶ、優しい声がして。なんとか、意識を引き戻す。恐る恐る目を開けると、穏やかな表情の絵名がいた。
耳边传来呼唤自己的温柔声音。我努力将意识拉回现实。战战兢兢地睁开眼睛,映入眼帘的是面带平和表情的绘名。
「瑞希は笑ってるのが一番カワイイんだから。そんな顔してちゃダメよ」
“瑞希笑起来最可爱了。别摆出那样的表情嘛。”
「あ…………」 「啊…………」
絵名の声が、ボクの心にふっと触れる。柔らかな笑い声が、「ボク」を再生させてくれる。ボクの心の中の小さな綻びをひとつずつ、繕ってくれるような気がした。
绘名的声音轻轻触动了我的心。那柔和的笑声,仿佛在让“我”重生。我感觉到,她正一点一点地修补着我心中那些细小的裂痕。
「話、よかったら聞かせてよ」 「话,如果可以的话,说给我听听吧。」
「…………うん」 「…………嗯」
その優しい目で見つめられると、隠さなきゃという強迫観念がふっと緩んで、毒気がすっと抜けていく。それで、ただ頷くしかなかった。
被那双温柔的眼睛注视着,那种必须隐藏的强迫感突然松弛下来,心中的毒素也随之消散。于是,我只能点头答应。
結局、ボクに別の憂いがあることは絵名に見抜かれているみたいだった。
最终,似乎絵名已经看穿了我心中另有忧虑。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
補習が終わって教室から出た後、偶然、杏に会った。ボクがニーゴから失踪している間、絵名は杏にも相談をしていたらしい。これは絵名から聞いた話であって、杏はそんなことボクにはおくびにも出さなかったわけだから、本当に頭が上がらない。一言お礼をしたいと思っていたので、渡りに船だった。
补习结束后,从教室出来时,偶然遇见了杏。在我从尼奥那里失踪期间,绘名似乎也向杏咨询过。这是从绘名那里听来的事,而杏对我却只字未提,真是让我无地自容。我一直想向她道声谢,这次偶遇正是时候。
「ほんとに、心配かけてごめんね、杏」 「真的,让你担心了,对不起,杏。」
「そんな、当たり前じゃん、友達なんだからさ! まあ私はいつもよりサボってるな〜くらいの認識だったけどね。まじめに心配し出したのは絵名さんから話を聞いた後だったし」
「这有什么,不是理所当然的吗,因为是朋友啊!虽然我之前只是觉得她比平时偷懒了些~。真正开始认真担心,是在听绘名说了之后。」
杏は「私ってちょっと大雑把だよね~」と照れくさそうに笑う。
杏带着些许羞涩的笑容说:「我这个人有点粗心大意呢~」
杏って本当に誠実だな。杏のこういうところ、尊敬してるんだ。そんなことを思うけれど、改まって言葉にするのは照れくさくて、結局伝えないでおく。
杏真的很真诚。我尊敬杏的这一点。虽然心里这么想,但郑重其事地说出来又觉得不好意思,最终还是没有传达给她。
「お詫びというか……お礼、したいんだけど。ボクになにか出来ることあるかな」
「说是道歉……其实是想表达谢意。我能为你做些什么吗?」
「え? いいのに。でもまあ、んー、そうだなー」 「诶?不用啦。不过嘛,嗯——让我想想——」
顎に手を添え、思案顔で頭を傾ける。その動きに合わせて、青くグラデーションした綺麗な黒髪が枝垂れて、小さな星の髪飾りがキラキラ揺れる。
她手托下巴,歪着头思索。随着这一动作,渐变蓝色的美丽黑发垂落,点缀其上的星星发饰闪闪发光,轻轻摇曳。
「じゃあさ、今度ショッピングに付き合ってよ。最近全然一緒に行ってない気がするし!」
「那下次陪我去购物吧。感觉最近都没怎么一起出去过呢!」
「そんなことでいいなら、お安いご用だよ。ボクも楽しいしね! あ、でも……ボクが楽しんじゃったらとお礼にならないような?」
「如果这样就行的话,那太简单了。我也很开心呢!啊,不过……如果我玩得太开心,会不会反而让你觉得不够意思呢?」
その言葉が口をついて出た瞬間、ほんの少しの気がかりが胸に広がる。杏に喜んでもらいたいのに、ボクの楽しさがそれを上回っているなんて、なんだかおかしい気がしてしまった。そんなボクの言葉を聞いて、杏はきょとんとしてからカラカラ笑いだす。
这句话脱口而出的瞬间,一丝忧虑在心中蔓延。明明想让杏开心,可我的快乐似乎盖过了她的,总觉得有些奇怪。听到我这么说,杏先是愣了一下,随后咯咯笑了起来。
「あったりまえじゃん! 瑞希が楽しそうにしてたら私だって嬉しいし。それにほら、瑞希なら私に合うコーディネートとか見繕ってくれるでしょ? あれすっごく助かるんだよね〜」
「这不是理所当然的嘛!看到瑞希开心,我也会很高兴。而且你看,瑞希不是会帮我挑选合适的搭配吗?那真的帮了我大忙呢~」
「……そっか。じゃあそうしよう! 久々に杏に似合うカッコカワイイコーデをボクが組んであげちゃうよ!」
「……这样啊。那我们就这么办吧!久违地,我来给杏搭配一套又酷又可爱的装扮!」
お互いの空いている日時を伝え合い、予定を調整する。最近は引きこもっていたせいで、ニーゴ以外の人と遊ぶ約束をするのも久しぶりだった。メッセージでやり取りしても良かったけれど、たまには直接会って言葉を交わすのも悪くないと思った。
我们互相告知空闲的时间,调整各自的日程。最近因为一直宅在家里,除了和尼奥之外,已经很久没有和别人约出去玩了。虽然通过消息交流也可以,但偶尔直接见面聊聊天也不错。
集合時間と場所をおおかた決めて近況報告を交えた雑談をしていると、不意に誰かの声が耳に入った。
大致确定了集合时间和地点后,我们一边闲聊着近况,突然,某个人的声音传入了耳中。
「あれ、暁山さんじゃない?」 “哎呀,那不是晓山同学吗?”
「ほんとだ、珍しいね」 “真的呢,真是少见啊。”
声の主たちは廊下の向こうにいて、たぶん、同じクラスの生徒だった。
声音的主人位于走廊的另一端,大概,是同班同学吧。
「遠目から見るとほんとにどっちかわからないよね」 「从远处看真的分不清谁是谁呢」
「そもそも知らなかったらわからないし」 「本来不知道的话,也就不会明白了。」
彼女らとボクらのあいだにはそれなりの距離があるはずなのに、甲高い笑い声はがらんどうの廊下に嫌によく反響する。ちょっと、声が大きすぎるんじゃないか。ズキズキと古傷が疼いて、それ以上の声は単なる音になる。こんなのいつものことだ。そんな言葉でごまかそうとしても、痛いものは痛くて。あの痛いくらいの夕焼けを思い出してしまう。
她们和我们之间理应保持着一定的距离,可那尖锐的笑声却在这空旷的走廊里格外刺耳地回荡着。喂,声音是不是太大了点?旧伤隐隐作痛,再大的声音也只会变成噪音。这已是家常便饭。即便用这样的话来搪塞,疼痛依旧真实存在。我不禁回想起那痛彻心扉的晚霞。
思わず、杏の表情を盗み見る。ムッとした表情。でもそれはすぐに不敵な笑みへと移行した。
我不由自主地偷瞄了一眼杏的表情。她露出一副不悦的神情。但很快,那表情便转变成了一抹无畏的微笑。
「なに? アンタたち。私たちに何か用なわけ? 用があるならそんなに遠くにいないでこっちに来たら?」
「什么?你们。找我们有事吗?有事的话就别站那么远,过来这边吧?」
杏が大きめの声を出してひと睨みすると、彼女らは声をかけられるとは思っていなかったのか、怖気づいたように一目散に逃げていった。
杏用稍大的声音瞪了一眼,她们似乎没料到会被叫住,吓得一溜烟逃走了。
その姿を見て、なにかが胸にわだかまるような違和感を覚えた。少し考えを巡らすと、拍子抜けするほどたやすくその正体が分かった。
看到那身影,心中涌起一种难以名状的违和感。稍加思索,便轻易地识破了其真面目,轻松得令人泄气。
そっか、ボクは……。 原来如此,我……。
「……杏、ありがとう」 「……杏,谢谢你」
「あんまり気にしないでね、瑞希。瑞希はなにも悪くないんだから」
「别太在意了,瑞希。你并没有做错什么」
「……うん。そうかもね」 「……嗯。也许吧」
杏はボクの様子を見て、不安げな顔をしていた。瞳に心配の色が伺える。ボクにはそれに応えることができない。ボクはただ「ごめん、またね」と告げて、その場から逃げるように杏と別れた。
杏看着我,脸上露出不安的神情。她的眼中透露出担忧。我无法回应她的关切,只能对她说“对不起,再见”,然后像逃跑一样离开了杏。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ってことがあったんだ」 “……有过这么一回事。”
「そっか」 「这样啊。」
相変わらず雨が降りしきる空の下、ボクは学校での顛末を絵名に語った。1人ぶんの傘は、少し大きめだったけれど、2人が入るにはちょっと窮屈だった。ボクと絵名の肩が軽く触れ合うくらいには近づかないといけなかった。
一如既往,在连绵不断的雨幕下,我向绘名讲述了学校里的种种。一把单人伞,虽稍显宽大,但两人共用却略显局促。我和绘名不得不靠得近些,以至于肩膀轻轻相触。
ちなみに、傘は絵名が差している。貸してもらうのだからボクが持つのが筋だと思ったのだけれど、絵名は「そんな顔してる人に任せられない」の一点張りで、ボクは渋々引き下がったのだった。絵名のそういう頑固さは厄介だけれど、長所だと思う。
顺便说一下,伞是绘名撑着的。虽然我觉得既然是她借给我的,理应我来拿,但绘名坚持说“不能交给摆出那种表情的人”,我只好无奈地退让了。绘名这种固执虽然麻烦,但我认为这是她的优点。
「白石さん、本当に良い子よね。彰人もお世話になってるみたいだし」
「白石さん,真是个乖孩子呢。彰人好像也受到了你的照顾。」
「うん、本当にね」 “嗯,真的呢。”
絵名の言葉にボクも頷く。雨粒はまばらに降り注ぎ、地面に落ちると道の外縁に向かって流れ、側溝に吸い込まれていく。整備された道は水捌けが良く、水溜まりを残さない。それを見ると、ささくれ立った心が少しは落ち着く気がした。
我点头赞同绘名的话。雨点稀疏地落下,一触地面便沿着道路边缘流淌,最终被排水沟吞噬。这条精心维护的道路排水良好,不留积水。目睹此景,我那烦躁的心情似乎稍稍平复了些。
「それで……、話したくなかったら話さなくてもいいけど……、なんで落ち込んでたのよ」
「所以……如果你不想说也没关系……但为什么你会这么沮丧呢?」
絵名が控えめに問う。それは当然の疑問。ボクはただ起こったことを話したにすぎないから。杏が助け舟を出してくれたっていうことしか絵名には伝わっていないだろう。
絵名谨慎地询问。这是理所当然的疑问。因为我只是讲述了发生的事情。对于絵名来说,她所知道的仅仅是杏伸出了援手。
絵名の性格からすれば、本来はもっとずけずけ突っこんできてもおかしくない。それを指摘したら「それどういう意味?」とか不機嫌そうな声が返ってきそうだなとぼんやり考えて、それすら愛おしくなる。こうやってあえて遠慮がちに言ってくれる配慮だって、ボクのことを大切してくれているからこそ。でも、それと同時にどうしても芯の方が冷えていく感覚もある。
以絵名的性格,本应更加直截了当地追问才符合常理。若是指出这一点,恐怕会听到她带着不悦的声音反问“你这话什么意思?”,想到这里,连这种可能性都让我感到怜爱。她之所以选择这样小心翼翼地表达,正是因为她珍视我。然而,与此同时,内心深处却不可避免地感到一阵寒意。
「いや、大したことじゃないんだけど……」 「不,其实没什么大不了的……」
「大したことないんならそんな顔してないでしょ」 「要是没什么大不了的事,你也不会是这副表情吧。」
「……ボク、そんなにひどい顔してる?」 「……我,脸色有那么糟糕吗?」
「うん。今の瑞希、相当ぎこちないわよ。辛うじて、あ、笑おうとしてるのかなってくらいはわかるけど」
“嗯,现在的瑞希,动作相当生硬呢。勉强能看出,啊,是在努力想笑出来吧。”
冗談混じりで意地悪く笑う絵名。……手鏡で確認したいけれど、リュックから取り出すのはこの狭い傘の下では無理だな。
绘名带着玩笑意味,坏心眼地笑了。……真想用镜子确认一下,但在这么小的伞下从背包里拿出来是不可能的了。
「瑞希」
そこで絵名は急に立ち止まった。前髪に少し雨粒が落ちる。ボクらの間にほんのわずかな隙間ができる。振り返ったボクに、絵名は「ごめん」と言いつつもボクの目をまっすぐ見据え、言葉を継ぐ。
于是,绘名突然停下了脚步。几滴雨珠落在她的前额发梢上。我们之间拉开了一丝微不可察的距离。她回头看向我,一边说着“对不起”,一边直视我的眼睛,继续道。
「そういう予防線、いらないから。たとえ私にとってなんでもないようなことでも、瑞希にとっては違うってわかってる。わらったり否定したり、しないから」
“不需要这样的防备线。即使对我来说是无关紧要的事,我也明白对瑞希你来说可能截然不同。我不会嘲笑或否定你的感受。”
「……ありがとう、絵名」 「……谢谢你,绘名」
絵名はいつだって、ボクの欲しい言葉をくれる。それを意識する度にボクの心はちくりちくりと痛むけれど、それこそがボクらの友愛の証なんだと思い直す。
绘名总是能说出我渴望听到的话语。每当意识到这一点,我的心便隐隐作痛,但转念一想,这正是我们友情的见证。
怖いけど、話すんだ。前を向いて、止めた足を踏み出す。ボクが左手でいざなうと絵名もついてきてくれて、再び肩がそっと触れ合う。
虽然害怕,但我还是要说。我抬起头,迈出停下的脚步。当我用左手示意时,绘名也跟了上来,我们的肩膀再次轻轻相触。
「ボクね、杏が嫌な連中を追い払ってくれたとき……。正直、胸がスッとしたんだ」
“我啊,当杏把那些讨厌的家伙赶走的时候……说实话,心里一下子轻松了。”
「え、それがなんで……」 “诶,那是为什么……”
「うん、それ自体はいいこと、だと思う。でも、気づいちゃったんだ。あの子たちが逃げていくのを見て……、それってボクも同じだったんじゃないかって」
「嗯,我觉得那本身是件好事。但是,我意识到了。看着那些孩子逃跑的样子……,我是不是也一样呢?」
「同じって……、どういうこと?」 「一样……,什么意思?」
端へ端へと流れる雨水を見ながら、慎重に言葉を選ぶ。自分でもよく分かっていない生の感情を絵名に打ち明けるのはやっぱり気が引けたけれど、今更あとには引けなかった。
望着流向边缘的雨水,我谨慎地挑选着言辞。向绘名坦白自己尚未完全理解的原始情感,确实让我有些犹豫,但事到如今已无法回头。
「たぶん、『理解できないもの』から逃げてるところ、かな」
「大概,是在逃避那些『无法理解的事物』吧。」
淡々とそう言ってみる。たぶん、この言い方で間違っていないはず。
我淡淡地这样说道。大概,这种说法应该没错。
「ボク、昔からカワイイものが大好きで、でもそれが理解されなくて、理解されないのが理解できなくて、すごく、辛かった。カワイイものを諦めかけたこともあるんだ。……諦めはしなかったけど、その代わり、理解してもらえないならいいやって、周りとの親しい関係を諦めて距離を取ってきた。逃げてきたんだよ」
「我从小就特别喜欢可爱的东西,但这份喜爱却不被理解,而无法理解为何不被理解,让我感到非常痛苦。甚至一度想要放弃喜欢可爱的东西……虽然最终没有放弃,但取而代之的是,既然得不到理解,那就无所谓了,我放弃了与周围人建立亲密关系,选择了保持距离。我一直在逃避。」
ボクの口から滔々と吐き出される黒い感情も、雨の中で少しずつ流れ去っていくようだった。
从我口中滔滔不绝涌出的黑色情感,仿佛在雨中逐渐流逝。
「でも……、それって、ああいう人たちにとっても、同じことだったんだろうなって。ボクのことが理解できないから、遠巻きに見るし、距離を取ってさ」
「可是……对他们来说,大概也是一样的吧。因为无法理解我,所以远远地看着,保持着距离。」
「っ……」 「呃……」
左隣から息を呑むような気配が静かに伝わってくる。何か言いたいことがあるようだけれど、言葉を飲み込んだまま、ボクが話し終わるのを待っていてくれている。
从左侧传来一阵令人屏息的静谧气息。似乎有话想说,却又将话语咽下,只是静静等待着我讲完。
「相互理解……っていうと、なんだか陳腐に聞こえるけど。とにかく、そのためにはどちらかが先に歩み寄らないといけない。ボクはずっと、周りの人にボクのことを理解してほしかった。だから歩み寄らないといけなかった。それなのにボクは、周りの人のことを理解しようとするのを諦めてきたんだ。初対面の人にすら、もう最初から諦めちゃってるところがある。それはたぶん……」
“说到相互理解……听起来或许有些陈词滥调。但无论如何,要实现它,总得有一方先迈出一步。我一直渴望周围的人能理解我,所以必须主动靠近。然而,我却放弃了去理解他人。甚至对初次见面的人,从一开始就抱有一种放弃的心态。这大概是因为……”
(――変なの) (――真奇怪)
一歩進みたいと思うとき脳裏によぎるあの言葉。ボクの心に刺さって抜けないトゲ。そのトゲはあまりに長い間ここにあって、深く、ボクの心に突き刺さっている。もう、どこまでがボクでどこからがそのトゲなのか、分からなくなってしまうほどに。
每当我想迈出一步时,脑海中总会闪过那句话。它像一根刺,深深扎进我的心里,无法拔出。这根刺已经在这里太久,深深地刺入我的心灵。以至于,我已经分不清哪里是我,哪里是那根刺了。
「……ずっとずっと、拒絶されてきたから。それで、どうせ分かってもらえないって……、ボクは『変』だから、ボクの『変』な苦しみが『普通』の人に分かるわけないんだって、どこかで決めつけてきた」
“……因为一直以来,一直被拒绝。所以,反正也不会被理解的……,我是个‘怪人’,我的‘怪异’痛苦‘普通’人是不会明白的,我不知何时已经这么认定了。”
頭の中でイメージするのは、ヤマアラシのジレンマ。2匹のヤマアラシが、互いに針を刺し合わないように距離を保って動かない様子。傷つきたくないから、傷つけたくないから、じっと動かずにいる。
脑海中浮现的是豪猪的困境。两只豪猪为了不互相刺伤,保持距离,静止不动。因为不想受伤,也不想伤害对方,所以一动不动地待着。
「……そんなの、ボクと周りの距離が縮まるわけないのにね……」
「……那样的话,我和周围人的距离根本不可能拉近啊……」
漏れた言葉は雨音に溶けていく。傍らで「……瑞希」と呟く声には、ボクをそっと受け止めてくれる温かさと、ほんの少しの哀しさが混じっていた。
漏出的言语在雨声中渐渐消融。身旁传来“……瑞希”的低语,那声音中夹杂着温柔地接纳我的暖意,以及一丝淡淡的哀伤。
「まあつまり、これまでの自分の愚かさに気づいて、すごーく落ち込んでたってわけ」
「哎呀,就是说,我意识到自己之前的愚蠢,感到非常沮丧。」
言葉にしてみると、案外軽く感じられるようでもあり、それでいて、現実の輪郭をなぞって重苦しくのしかかってくるようでもあった。ごまかすように空を見上げても、透明な被膜ごしの空は暗いまま。それでも努めて明るく。あまり元気は、ないけれど。力なく口角を吊り上げることしか、できないけれど。
一旦诉诸言语,意外地感觉轻松了些,然而,它又仿佛沿着现实的轮廓,沉重地压将下来。即便试图逃避,抬头望向天空,透过那层透明的薄膜,天空依旧昏暗。尽管如此,仍努力保持明亮。虽然,活力所剩无几。尽管,只能无力地扬起嘴角。
雨に濡れたアスファルトを進んでいく。ボクの話が一段落したのを察してか、絵名がゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
我走在被雨水打湿的柏油路上。绘名似乎察觉到我的故事告一段落,开始缓缓编织起她的话语。
「……瑞希はバカだけど、」 “……瑞希虽然是个笨蛋,”
「えな~?」 「诶~?」
「でも、愚かなんて言わないで。瑞希はよく自分のこと臆病って言って卑下するけど、たとえ実際そうだとしても、それが瑞希の優しさに繋がってるって、私は思う」
「但是,请不要说愚蠢。瑞希总说自己胆小,贬低自己,但即便真是如此,我认为这也正是瑞希温柔之处的体现。」
それに、と絵名は言葉を重ねる。 接着,绘名又补充道。
「瑞希が周りの不躾な輩と自分を重ねるのはいい。それが瑞希の想いなら、そう思っててもいい。……だけど、少なくとも私は瑞希のことを悪く言われるの、嫌だから。その現場に居合わせたら私、我慢できないと思う。瑞希自身が瑞希を悪く言うのも許さないからね。わかった?」
「瑞希把周围那些无礼之徒和自己相提并论,这没关系。如果那是瑞希的想法,那么她这么想也无妨。……但是,至少我不愿意听到有人说瑞希的坏话。如果我在场,我想我无法忍受。我也不允许瑞希自己说自己的坏话。明白了吗?」
「……うん。分かった」 “……嗯。明白了”
首肯してみせたけれど、実際ボクは自虐が癖になっている。カワイイを求めるあまり、自分のカワイくない部分をどうしても蔑んでしまう。覆い隠して、擂り潰して、ゴミ箱にポイって捨ててしまいたい。いつもそう思っている。でも……、絵名には申し訳ないけれど、絵名が怒ってくれるならこの悪癖も悪くないかもしれない。ボクが大切にできないボクまで、大切にしろって絵名が怒ってくれるなら。……なんて、こればっかりは口が裂けても言えないな。
虽然我点头表示同意,但实际上我已经习惯了自虐。为了追求可爱,我总是不由自主地鄙视自己不够可爱的地方。想要把它们掩盖、碾碎,然后丢进垃圾桶。我一直都是这么想的。但是……虽然对绘名很抱歉,但如果绘名为此生气的话,这个坏习惯或许也不坏。如果绘名能因为我无法珍惜自己而生气,要求我珍惜自己……这样的话,我无论如何也说不出口。
「……それで、なんて言われたのかとか、ちょっと気になるかも」
“……所以,他说了什么之类的,我可能有点在意。”
「うん?」 「嗯?」
「あ、いや。やっぱり聞かなかったことにして」 「啊,不。还是当我没问过吧。」
「何のこと?」 「什么事?」
「……今日瑞希がその不躾な連中になんて言われたか、よ……」
「……今天瑞希被那些无礼的家伙说了些什么,你知道吗……」
「ああ…………別に、いいよ」 「啊…………没什么,没关系」
ボクを極力傷つけまいとする心遣いに、やっぱりちくりと胸が痛む。それが言葉に棘を含ませてしまう。絵名だって積極的に聞きたいことじゃないだろうに、ボクへの配慮がそうさせてしまっているんだと思う。それにボクも、積極的に話したいわけじゃない。
他极力避免伤害我的那份体贴,反而让我的胸口隐隐作痛。这让我说出的话带上了刺。虽然绘名大概也不是真心想听,但正是对我的顾虑让她这么做了。而且,我也并非真心想谈这些。
でもふと思ったけれど……、こういうのも『愚痴』なのかもしれない。今までは、暗いきもちを打ち明けられる相手なんて、たぶん類くらいしかいなかった。……絵名になら少しくらいはいいのかな、って。自分を許してもいいのかな、なんて。そんなふうに思わせてくれるのも、絵名の凄いところだ。
但突然想到……,或许这也算是一种“抱怨”吧。以前,能够倾诉阴暗心情的对象,大概只有类一个人。……如果是绘名的话,稍微说一点也没关系吧,这样想着。或许可以原谅自己吧,之类的。能让我产生这样的想法,也是绘名的厉害之处。
「忘れちゃったならそれでいいし、無理はしないでいいから」
「如果忘记了也没关系,不用勉强自己。」
「いや……うん。ちょっと思い出してみるよ」 「不……嗯。我稍微回想一下」
と言いつつも、ボクはなんて言われたかくらい覚えている。何度も言われてきた言葉だし、幸か不幸か、ボクは記憶力が良い方だ。そのおかげで勉強に関しては器用にこなせる。反面、そのせいで心無い言葉が心に沈殿する羽目になっているのだけれど。
话虽如此,我还是记得他们说了些什么。这些话我已经听过无数次了,幸运或不幸的是,我的记忆力相当不错。正因如此,我在学习上能够游刃有余。但另一方面,这也让那些无心之言深深沉淀在我的心底。
「ええっとたしか……」 「嗯,我想想……」
こめかみに指を当てて、思い出す仕草を大げさに演じる。絵名の負担をなるべく軽くしたい一心で。
她夸张地做出将手指贴在太阳穴上回忆的动作,一心只想尽量减轻绘名的负担。
「『知らなかったらどっちか分からないよね』、みたいな感じだった、かな」
「『如果不知道的话,就分不清是哪边了吧』,大概就是这种感觉吧。」
「…………あー」 「…………啊——」
「あ。こういう言葉もさ、ボク、よく言われてきたし慣れちゃってるから、言葉自体は気にしてないよー」
「啊,这种话嘛,我也经常被人这么说,已经习惯了,所以对这话本身并不在意啦。」
「…………うーん…………」 「…………嗯…………」
「……えーと、絵名さん?」 「……那个,绘名小姐?」
せっかくボクが絵名を気遣って気丈に振る舞って見せているというのに、絵名は難しい顔をして唸ってばかりいる。
我特意为了照顾绘名的心情,表现得坚强一些,可她却一直皱着眉头,唉声叹气。
「……ある程度離れてるのに聞こえるくらいの声で言ってたのよね。ちなみに、それってどんな感じの表情してたとか、わかる?」
“……明明离得挺远的,却用那种能让人听见的声音在说话呢。顺便问一下,你知道她当时是什么表情吗?”
「え? うーん、どうだったかなあ」 “诶?嗯——,怎么说呢……”
思いがけない問いを受け、今度は本当に記憶を探ってみる。そんなに近い距離じゃなかったから、判然とはしない。ただでさえああいう時のボクは親しい人の顔色ばかり伺って、好奇の目を向けてくる連中の顔なんて見向きもしていない。見たくないし。……でも、まあ。
面对这突如其来的问题,我这次真的开始搜寻记忆。因为距离并不那么近,所以印象并不清晰。本来在那样的场合,我就只顾着察言观色亲近的人,对那些投来好奇目光的家伙根本不屑一顾。也不想看他们。……不过,算了。
「たぶん、笑ってた、かな? 表情はあんまり分からなかったけど、笑い声は聞こえた気がするよ。嘲笑だったのかもね~」
「大概,是在笑吧?虽然表情看不太清楚,但感觉听到了笑声。可能是在嘲笑呢~」
おどけてみせるけれど、返ってくるのは大きな溜め息だけ。
虽然我试图逗乐,但回应我的只有一声沉重的叹息。
「ちょっと絵名? 人を励ますのに溜め息はないでしょ~?」
「喂,绘名?鼓励别人的时候可别叹气啊~」
「それはごめん。……なんというか、瑞希。私の思い違いじゃなければ、なんだけど……」
“那真是抱歉了……怎么说呢,瑞希。如果我没理解错的话,其实……”
絵名はしばらく至極気まずそうに逡巡していたけれど、おもむろに口を開いた。
绘名犹豫了一会儿,显得极为尴尬,但最终还是缓缓开口了。
「それ、悪口じゃないかも。言い方はほんっと良くないけど」
「那可能不算坏话。虽然说法确实不太好。」
「……え? どういうこと?」 “……诶?什么意思?”
絵名の言うことが理解できない。『知らなかったらどっちか分からない』というのは、ボクがこんな格好をしているから紛らわしい、くらいの意味だと思っていた。ボクのことを決まった型に押し込めて、ぺてん師だと罵るような言葉。それが悪口じゃないなんてことがあるんだろうか。
我无法理解绘名的话。她说的“如果不知道的话就分不清是哪一边”,我以为只是因为我这副打扮容易让人混淆的意思。她把我归入固定的类型,用骗子这样的词来骂我。这难道不是恶言相向吗?
「たぶんだけど……、むしろ、褒めてる」 「大概吧……其实,我是在夸奖你。」
「褒めてる? 絵名ほんき?」 「你是在夸我吗?絵名,你是认真的?」
「うん。あのね、瑞希。こんなふうに言うのは癪だけど……、瑞希は、可愛いのよ」
「嗯。那个啊,瑞希。虽然这么说有点让人不爽……但瑞希,你很可爱哦」
悪口どころか褒め言葉だと言われ、あげく絵名の口から滅多に出ないようなことを言われて、ボクはもうありえないくらいにパニックになってしまう。
不仅没有被说坏话,反而被称赞了,最后还从绘名口中听到了她平时几乎不会说的话,我已经惊慌失措到无法形容的地步了。
「……知ってるけど? それとこれになんの関係が……」
“……我知道啊?但这和那有什么关系……”
「ああもう、めんどくさいわね!」 「啊真是的,麻烦死了!」
やや乱暴な口調ながら、複雑に絡み合った糸を解きほぐしていくように、絵名は説明をしてくれた。
虽然语气略显粗暴,但绘名像解开错综复杂的线团一般,耐心地为我解释着。
要するに、紛らわしいとか騙されるとかではなくて、高いレベルでカワイイを突き詰められていることへの称賛、らしい。やけに大きな声で話していたのも、それが褒め言葉だと思っているからかもしれない、とか。
简而言之,这并非混淆视听或欺骗,而是对将“可爱”这一概念推向高境界的赞誉。她之所以说话声音特别大,或许也是因为认为这是赞美之词吧。
……そう言われて思い返してみれば、あの笑い声にはそこまで棘はなかった、ような。
……被这么一说,回想起来,那笑声似乎并没有那么刺耳。
「そもそも、奏もまふゆも、よく一緒に遊びに出てた私ですら気付かなかったくらいなんだからね。結果的にはそのせいで瑞希に苦しい思いをさせちゃったし」
「说到底,就连经常和奏、真冬一起出去玩的我都没能察觉到。结果还因此让瑞希受了苦。」
「…………そっか。そうだったんだ」 「…………这样啊。原来如此」
陰口でしかないと思っていたけれど、見方を変えてみれば、面と向かって言う勇気がなかっただけの不器用な表現にすぎなかったのかもしれない。そう思えたら、すっと胸が軽くなった。
虽然一直以为那只是背后的闲言碎语,但换个角度想,或许那只是缺乏当面直言的勇气,而显得笨拙的表达方式罢了。这样一想,心里顿时轻松了许多。
「ま、言い方はよろしくないと思うし。もっとはっきり言いなさいって話よね。直接見たわけじゃないから今日のその子たちがそうだったかはわからないし、今までそういうことを瑞希に言ってきた全員がそうだったとは思わないけどね。そういうこともあるかもよ、ってこと」
「嘛,我觉得表达方式可能不太恰当。应该更明确地说出来才对。毕竟我没有亲眼所见,所以今天那些孩子是否真的如此我也不清楚,而且我也不认为之前所有对瑞希说过这种话的人都是那样。只是说,这种情况也是有可能的。」
「……うん、そうだね。でも、それじゃあ……」 “……嗯,是啊。不过,那样的话……”
自戒の言葉が喉でつっかえて、肺の中をぐるぐる回る。こんなところでも顔を出してくる逃走癖に辟易しながらも深呼吸をして、ようやく言葉を絞り出す。
自戒的话语在喉咙里打结,在肺中盘旋。即便在这种地方,逃跑的恶习也会冒出头来,令人厌烦。我深吸一口气,终于挤出了话语。
「……ボクってやっぱり、周りの人のこと、ちゃんと見れてなかったんだね」
“……果然,我还是没能好好看清周围人的心意呢。”
絵名にもらった、安堵するきもち。それとは裏腹に、再び自己嫌悪と恐怖に蝕まれる。自分のカワイイ部分を大切に思う反面、醜い部分を蔑むボク。ボクのカワイイ部分を受け入れずに奇異の目を向ける他者。それらに対する嫌悪が意識に纏わりつく。纏わりついて、ぐちゃぐちゃになって、ボクを見失う。
絵名给予我的那份安心感。与之相反,我再次被自我厌恶和恐惧所侵蚀。我珍视自己可爱的一面,却蔑视丑陋的部分。那些不接受我可爱之处,反而投以异样目光的他人。对这些的厌恶缠绕在我的意识中。缠绕着,混乱着,让我迷失了自我。
(――変なの) (――真奇怪)
ボクは。ボクは…………。 我。我…………。
「瑞希は、これからどうしたいの?」 「瑞希,你接下来想怎么做?」
ふっと視界が開ける感覚。その問いかけは、暗い自己否定の回廊に迷い込んだボクを外へと連れ出した。あくまで優しく、柔らかい問いかけ。ボクを苛む無遠慮と好奇に塗れたものとは全然ちがう。
突然,视野豁然开朗的感觉。那个提问,将迷失在黑暗自我否定回廊中的我,带到了外面。那始终温柔、柔软的提问。与折磨我的无礼和充满好奇的事物完全不同。
「瑞希って、していいとか、しちゃだめとか、そういうことばっかり頭に浮かんで縛りつけられちゃうでしょ。それなら、瑞希がしたいことをしていいって、私が保証してあげる」
「瑞希,你总是被‘可以做’、‘不可以做’这样的想法束缚住头脑吧。既然如此,我向你保证,瑞希想做的事情都可以去做。」
力強い瞳。……絵名らしいな。その力強さを少しでも分けてもらえたら。
那双有力的眼睛……真像是绘名啊。要是能分得一点那种力量就好了。
「ボク……これからは、ちょっとずつでもいいから、前に進んでいきたいんだ。絵名が、自分が傷ついても、ボクを傷つけるとしても、ボクと一緒にいたいって思ってくれたみたいに……傷つくとしても、周りの人に『ボク』を分かってもらいたい」
「我……从今以后,哪怕只是一点点也好,想要向前迈进。就像绘名即使自己受伤,即使会伤害到我,也愿意和我在一起那样……即使会受伤,我也想让周围的人理解『我』。」
絵名は黙って聞いてくれている。ひとつの傘に寄り添うように体が触れ合っている。
绘名默默地听着。两人的身体紧贴在一起,仿佛共享一把伞。
「そのためには、ボクの方から歩み寄らないといけない。こっちから歩み寄ってみたい。理解されるのを待つんじゃなくて、理解してもらえるように、がんばりたい。……でも、でも……」
「为此,我必须主动迈出一步。我想从自己这边开始尝试靠近。不是等待被理解,而是努力让别人理解我。……可是,可是……」
(――変なの) (――真奇怪)
震える声が雨音に負けないように、辛うじて、でも、と言う。目頭が熱くなり、視界がぼやけ、歩むペースが落ちる。たぶん、ボクは泣いている。冷たい雨とは対照的な熱い涙が目尻からこぼれ落ちていくのを感じる。あの日以来、ボクはずいぶん涙腺が緩くなってしまっていた。
颤抖的声音勉强盖过雨声,艰难地,却又坚定地诉说着。眼角发热,视线模糊,脚步也随之放缓。或许,我正在哭泣。感受到与冷雨形成鲜明对比的热泪从眼角滑落。自那天起,我的泪腺似乎变得异常脆弱。
「やっぱり、怖いんだ。どうしようもなく、怖い……」
「果然,还是害怕。无法抑制地害怕……」
嗚咽とともに足が止まる。頬から顎に伝ったしずくが、ぽたぽたと地面に向かって落ちていく。雨水に混ざって溶けていく。
呜咽声中,脚步戛然而止。从脸颊滑落至下巴的泪滴,啪嗒啪嗒地坠向地面。与雨水交融,渐渐消融。
少しのあいだ嗚咽と雨の音だけがその場に響いたあと、傍らから声がする。
片刻之间,只有呜咽声和雨声在空气中回荡,随后,旁边传来了声音。
「瑞希、私がいま思ってること、言っていい?」 「瑞希,我现在心里想的,可以说出来吗?」
「…………うん」 「…………嗯」
目を開き、左を向く。そこには、微笑みを湛えた絵名がいた。
睁开眼睛,转向左边。那里,是面带微笑的绘名。
「私はずっと、瑞希のそばにいるよ」 「我会一直,陪在瑞希身边的。」
やっぱり、ひどい顔。 果然,脸色很差。
そう言って、フリルのついたピンクのハンカチでボクの涙をぬぐってくれる。
她这样说着,用带有蕾丝的粉色手帕为我擦去眼泪。
「ううん、私だけじゃない。きっと、奏もまふゆも、同じきもち。これから瑞希ががんばるなら、いまの瑞希みたいに怖くなっちゃうこともあるだろうし、疲れちゃうことだってあると思う。そういう時は、私たちを頼ってよ。もう瑞希のことを独りにはさせないんだから」
「不,不只是我。我相信,奏和真冬也是一样的心情。如果瑞希从现在开始努力,也许会有像现在的瑞希一样感到害怕的时候,也会有疲惫的时候。那种时候,就依靠我们吧。我们不会再让瑞希一个人了。」
……ボクはずっと独りなんだって、ずっと思っていた。これまで、諦めたことがたくさんあった。でも、ボクが思いもしなかった見方を、絵名はくれた。独りじゃないなら、みんなと……絵名と一緒なら、ボクも歩いていきたい方向に、歩いていけるかな。
……我一直以为,自己会永远孤独。至今为止,我放弃了很多事情。但是,絵名给了我意想不到的视角。如果不再孤单,和大家一起……和絵名一起的话,我是否也能朝着自己想走的方向前进呢?
「私も、さ」 「我也是。」
絵名は恥ずかしそうに俯く。 絵名害羞地低下了头。
「分かってもらいたいってきもちはたぶん、人一倍ある。瑞希とはタイプが違うけどね」
“想要被理解的心情,我大概比常人更强烈。虽然和瑞希的类型不同。”
「……知ってる」 “……我知道。”
「でしょ。絵を描いてもだーれにも見てもらえないからって、自撮りなんかして、そっちばっかり喜ばれてさ。奏に見つけてもらえなかったら、いまごろ最悪なことになってたかもしれない。まふゆにズケズケ言われてなかったら、自分とちゃんと向き合わなかったかもしれない」
「对吧。因为画了画也没人看,就自拍起来,结果那边反而更受欢迎。如果不是被奏发现的话,现在可能已经糟糕透顶了。如果不是被真冬直言不讳地说出来,我可能也不会好好面对自己。」
ムカつくけど、とかなんとかぶつぶつ言う絵名。その不満げな口調に反して絵名はどこか楽しそうだ。
虽然嘴上嘟囔着“真让人火大”之类的话,但绘名看起来却有些乐在其中,与她不满的语气形成了鲜明对比。
「……それに、瑞希と一緒に笑う時間が無かったら、自分で背負った重荷に押しつぶされてたかもしれない」
「……而且,如果没有和瑞希一起欢笑的时光,我可能已经被自己背负的重担压垮了。」
「……うん。ボクも、奏とまふゆ……それに絵名がいてくれたから、今まで諦めてたことに向き合おうって思えるんだよ」
“……嗯。因为有奏、真冬……还有绘名在我身边,我才能鼓起勇气去面对那些曾经放弃的事情。”
ボクたちは互いに目を合わせて、静かに笑った。 我们彼此对视,静静地笑了。
雨音は次第に遠のいていき、薄曇りの空の向こうに赤橙色の空が覗き始めた。舗道に残る雨粒が淡く光を反射し、まるで小さな宝石が散りばめられたように輝いていた。湿った空気の中に、雨上がり特有の澄んだ匂いが漂って鼻孔をくすぐる。
雨声渐渐远去,薄云密布的天空那头,开始透出赤橙色的光芒。留在人行道上的雨滴反射出淡淡的光辉,宛如撒落的小宝石般闪烁。湿润的空气中,雨后特有的清新气息飘荡,轻轻撩拨着鼻尖。
「あれ、もう雨降ってないじゃん。話に熱中して気づかなかった」
“哎呀,雨已经停了呢。聊得太投入都没注意到。”
「ホントだ〜。……あ」 「真的啊~……啊」
絵名は言うが早いか、透明な傘を閉じた。それでも、ボクたちの距離は変わらないまま。肩に伝わる絵名の温度が、彼女が確かにここにいるという実感をそっと刻み込む。自然と口角が上がる。
絵名话音刚落,便收起了透明的伞。即便如此,我们之间的距离依旧未变。从肩膀传来的絵名的温度,悄然刻印下她确实在此的实感。嘴角不自觉地扬起。
「……こんなにすぐやむなら、傘だけ貸してもらえばよかったね。そしたら絵名に授業をサボらせずに済んだのに」
「……要是雨这么快就停的话,只借把伞就好了呢。那样的话,就不用让绘名翘课了。」
「そしたら瑞希があのまま家に帰ってウジウジすることになってたでしょ? それでまた25時にナイトコードに来なかったりしてね」
「那样的话,瑞希就会那样回家闷闷不乐了吧?然后又在 25 点的时候不来 Night Code 了,对吧?」
「うっ……」 「唔……」
前科があるだけに、何も言い返せない。 因为有前科,我无言以对。
でもそれ以上はボクを揶揄うこともなく、「それじゃあさ」と絵名は続ける。
但她并没有进一步揶揄我,而是接着说:「那就这样吧。」
「これからショッピングでも行かない? 気になるコスメがあったんだよね。明日にでも見に行こうと思ってたんだけど。ちょうどいいから付き合ってよ」
「接下来去购物怎么样?我有些心仪的化妆品想看看。本来打算明天去的,正好你陪我去吧。」
「え〜、これから? もうすぐ夜になっちゃうよ?」 「诶~,现在吗?天都快黑了哦?」
文句を垂れるボクをよそに、絵名はスマホを少し操作して目当てのサイトページを示す。それはボクも注目していた商品だった。
不顾我发牢骚,绘名稍作操作手机,展示出她心仪的商品页面。那正是我也关注的产品。
「……あ、ボクもこれ気になってたんだ! これ絵名に似合いそうな色合いだな、じかに色を見てみたいな~、って」
「……啊,我也对这个很感兴趣!这颜色感觉挺适合绘名的,真想亲眼看看实物呢~」
「じゃ、決まりね」 「那就这么定了」
ボクの家に向かって歩いていたけれど、2人してショッピングモールの方へ舵を切る。
虽然原本是朝我家方向走的,但两人不约而同地转向了购物中心。
ボクはスマホを取り出し、ブックマークしておいたサイトを次々と巡回していく。絵名の言っていたコスメの他にも、最近気になっているアイテムがいくつかあった。特に新しい香水やスキンケア商品が気になって、スクロールしながらちょっとワクワクしてしまう。服やアクセサリーにも目が留まり、ついつい見入ってしまう。それぞれのデザインや色に心惹かれ、せっかくだから、それらもチェックしておこうと心に決める。
我掏出手机,开始逐一浏览收藏的网站。除了绘名提到的化妆品外,最近还有几样东西让我很在意。特别是新出的香水和护肤品,滚动屏幕时,我不禁有些兴奋。衣服和饰品也吸引了我的目光,不知不觉就看得入迷。每一款的设计和颜色都让我心动,心想既然来了,不如也把这些都好好看看。
歩きながらふと、絵名がボクに声をかけてきた。優しく、でもどこかイタズラっぽい口調で。
走着走着,绘名突然向我搭话。她的语气温柔,却又带着一丝调皮。
「やっぱり、笑ってる瑞希が一番カワイイわよ。調子に乗るとちょっとウザいけどね」
「果然,笑着的瑞希最可爱了。虽然得意忘形的时候有点烦人就是了。」
「なんだと〜! ボクのこと大好きなくせに〜!」 「你说什么~!明明最喜欢我了~!」
「ええ、そうよ。文句ある? 瑞希だって私のこと大好きじゃない。お互い様」
「是啊,没错。有意见吗?瑞希你不也最喜欢我嘛。彼此彼此。」
「そうだけどさ〜」 「话是这么说啦〜」
ボクらの他には誰もいない道のりに、はしゃぐ声が愉快に響く。
在我们独自前行的道路上,欢闹的声音愉快地回响着。
そうやって、ボクのあしあとはこれからも続いてゆく。
就这样,我的足迹将继续延伸下去。
キミと一緒に。 与你一同。
イベントストーリー「傷だらけの手で、私達は」の少し後を想定した妄想です。よって瑞希はカムアウト済みです。恋愛要素はないつもりです。
设想的是活动故事“伤痕累累的手中,我们”之后不久的情节。因此,瑞希已经出柜了。本作不打算包含恋爱元素。
少しだけ杏ちゃんが出てきます。 杏酱会稍微露个面。
タイトルはもちろん「ボクのあしあと、キミのゆくさき」のパロディです。このイベントタイトル大好きです。
标题自然是《我的足迹,你的前路》的戏仿。我超喜欢这个活动标题。
12月頭に偶然「荊棘の道は何処へ」のイベストを読んでプロセカに入り、暁山瑞希とみずえなとニーゴにドハマりしました。もっとみずえなやニーゴを書いていきたいです。よろしくお願いします。
十二月初偶然读到《荆棘之路通向何方》的活动故事,便入了 Project Sekai 的坑,深深迷上了暁山瑞希、瑞希和 Nigo。希望能多写些关于瑞希和 Nigo 的故事。请多关照。
瑞希が前向きに生きてゆけますように。幸あれ。 愿瑞希能积极向前地生活。愿她幸福。