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リアン
Eine liebeshungrige Bestie【期間限定Web再録】 - リアンの小説 - pixiv
Eine liebeshungrige Bestie【期間限定Web再録】 - リアンの小説 - pixiv
100,621字
Eine liebeshungrige Bestie【期間限定Web再録】
『あの子と繋がる魔法のオナホ』の再録と書き下ろし五話を収録した同人誌になります。再販予定がないため、期間限定でWeb再録します。
昨年3/17の春コミにて頒布した本でした。お手に取ってくださった皆様、ありがとうございました!
カイザーの誕生日、アニメ登場を記念し、1月末まで掲載します。良ければお楽しみください。

あらすじ:
ブルーロックからの支給品に紛れた魔法のオナホを手に入れたカイザーは、『恋するあの子のナカを完全再現♡ ※感覚共有あり』という謳い文句を疑いながらも、最悪な関係性から進展の望めない世一を堕とすため、そのオナホを利用することに決める。本人を堕とせないなら、まずは身体から。感覚共有という文言に惹かれるままに連日オナホでひとり遊びをするようになっていく。

以下含みます
無理矢理/♡喘ぎ/結腸責め/濁点喘ぎ/潮吹き/中出し

今年もよろしくお願いいたします!

この作品以外でも感想などいただけたら嬉しいです!
https://marshmallow-qa.com/rian2370?t=7ZlRrN&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
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52773710,895
2025年1月1日晚上6点35分

クリスマスマーケット  圣诞集市


 日本よりドイツは寒い──と一概に言えるわけでは無いが、潔の生まれ育った埼玉と比べればドイツの冬の気候は厳しい。その上、グリューワインというスパイスの効いたホットワイン一つで冬の寒空の下話し込めるドイツ人と違って、寒さに慣れない潔は分厚いコートを身に纏っていても時間経過に伴って身体が冷えていってしまう。
日本比德国冷──但不能一概而论,比起洁的出生地埼玉,德国的冬季气候确实严酷。况且,德国人可以用一杯带有香料的热葡萄酒(格鲁维因)在寒风凛冽的冬日里聊天,而洁不习惯寒冷,即使穿着厚厚的羽绒服,时间一长身体也会变冷。

 雪が屋根に降り積もり、地面には大勢が踏みしめた雪の跡が残っている。ともすれば雪の上を歩くよりも、解けた雪で湿った道を歩く方が危険なことが多い。日本より寒いこともそうだが、こういった場合の対策のために冬用の靴を履くのだ。潔は埼玉出身だから知らなかったけれど、ドイツが特別なわけではなく、日本でも東北や北海道などの寒い地方では普通のことらしい。
雪落在屋顶上,堆积起来,地面上留下了许多人踩过的雪迹。有时在雪地上行走比走在融化的雪水湿润的路上更危险。不仅因为这里比日本冷,还在于为了应对这种情况,人们会穿冬靴。洁是埼玉人,所以不知道,但德国并非特殊,在日本,东北和北海道等寒冷地区也是常有的事。

 ミュンヘンから電車で一本、約一時間電車で揺られた先にニュルンベルクの街はある。
从慕尼黑坐火车一站,大约一小时车程,就到了纽伦堡。

 ニュルンベルクのクリスマスマーケットと言えば、世界一有名なクリスマスマーケットと称されることもある有名な催しである。美しいライトアップが特徴的で、規模も大きいため毎年多くの人で賑わっている。そんな人でごった返す中、普段から人混みなど嫌いだと言って憚らないカイザーがこうして潔の隣に立っているのはひとえに潔が行きたいと強請ったからに他ならない。自身が断れば他の相手と行くのだろうと疑心暗鬼になった
说到纽伦堡圣诞集市,它有时也被称为世界上最著名的圣诞集市,是一场著名的活动。它以美丽的灯光装饰为特色,规模庞大,因此每年都吸引了大量人群。在这样人山人海的情况下,平时一听到人多就避之不及的凯撒,竟然会站在洁的身边,这完全是因为洁强硬地要求他来。他如果拒绝,很可能会和其他人一起去,他心里疑神疑鬼的。

この男は、全く乗り気でないくせに潔の誘いに二つ返事で了承した。マフラーの中に青く染まった特徴的な髪を隠し、潔の歩幅に合わせて歩くカイザーは楽しんでいるようには見えないが、それでもすぐに帰りたがるような様子はない。
这个男人虽然一点也不情愿,却还是爽快地答应了洁的邀请。他把染成青色的标志性头发藏在围巾里,虽然跟着洁的步子走,看起来并不开心,但也没有表现出想立刻回去的样子。

 並んだ屋台──と言っても日本の屋台と違いしっかりと屋根のある小屋みたいなものだが──を眺めて、ゆったりと歩を進める。平日だから少し空いているようだが、夜であるせいか人は多い。ちらっと見渡しただけでも手作りのアクセサリーやオーナメントの店、有名なレープクーヘンにパンケーキ、定番のソーセージなどもあり、美味しそうな香りが鼻を擽った。
沿着排列的摊位——尽管不同于日本的屋台,这里的小屋有着结实的屋顶——悠闲地走着。因为是平日,所以看起来人比较少,但由于是晚上,人还是很多。随便一扫,就能看到手工饰品和装饰品店、著名的莱普库亨、煎饼、以及常见的香肠等,诱人的香味令人心旷神怡。

「うう、さむ……」  うう、さむ…

 見ているだけで楽しいけれど、あまりにも寒い。吐息は白く染まり、雪こそ降っていないが周りに満ちた冷気が身体を刺した。手袋越しに手を擦り合わせてみれば、わずかに手のひらが熱を持つ。そんな涙ぐましい努力を続ける潔をどう思ったのか、カイザーが無言で潔に向けて左手を差し出した。その手とカイザーの顔の間で視線を彷徨わせて意図が分からず首を傾げれば、不機嫌そうな唸り声が降ってくる。
看着很开心,但太冷了。呼出的气都变成白色,虽然没有下雪,但周围的寒气刺痛了身体。透过手套搓搓手,手心才稍微有点热。洁这样努力的样子,凯撒是怎么想的呢?凯撒一言不发地向洁伸出了左手。在她的手和凯撒的脸之间游移着视线,不明白他的意图,歪着头,不悦的低吼声传来。

「手、貸せ」  手、貸せ
「え?」  嗯?
「遅い」  

 茨と王冠を手袋の下に隠したカイザーの左手が潔の右手を捉えて、布越しでも温かい手のひらを合わせてゆっくりと指を絡めた。感じる熱に思わず手を引こうとした潔の抵抗を物ともせず、離す気はないと告げるようにぎゅっと手に力が込められる。
凯撒左手抓住洁右手,布料下,温暖的手掌相贴,慢慢地十指交缠。感受到的热度,洁不自觉地想挣脱,但凯撒毫不理会,紧紧握住她的手,仿佛在宣告不会放开。

「ちょっ……ここ外!」  等等……这里外面!
「誰も見てない。それに、バレたって良いだろ」  没人看见。再说,就算被发现了又怎样
「そっ……れは、」
「嫌なのか?」  嫌吗?

 何食わぬ顔で、カイザーは繋いだ手を自身のコートのポケットに収めた。確かに恋人が手を繋ぐのはおかしなことではないと思うが、カイザーと潔は男同士だし、そうでなくとも犬猿の仲として有名な二人なのだ。バレても良いとカイザーは言うけれど、周りに騒がれてパパラッチに纏わりつかれたら絶対不機嫌になるくせして、拗ねたように潔を見つめるのは卑怯だろう。
何食わぬ顔で,凯撒把牵着的手放进自己外套的口袋里。虽然恋人牵手没什么奇怪的,但凯撒和洁是男人,就算不是,他们也以犬猿之仲闻名。凯撒说就算被发现也没关系,但要是被周围的人吵闹,被狗仔队缠上,他肯定会很不高兴,却还是像耍赖一样看着洁,这也太卑鄙了吧。

「嫌っていうか……騒がれたら面倒だろ。別に公表しなくても困ってないし、」
嫌,就是……要是被吵闹就麻烦了。本来也没必要公开,也没什么困扰。

「俺は困ってる」  我累了

 一瞬繋いだ手に力が籠った。カイザーが察しろと訴えかける時の仕草だが、残念ながら察してやれたことはほとんどない。導かれるまま顔を見上げれば、こちらを希うように見つめるカイザーの相貌があった。
一瞬握住的手中充满了力量。凯撒想要表达什么时的动作,但遗憾的是,几乎没有领会到。顺从地抬头看去,凯撒的面容正渴望地望着这边。

「え、ああ……お前モテるもんな」  啊,嗯……你很受欢迎嘛
「違う。お前のそれはわざとなのか? ……嫉妬くらいしろよ、クソ世一」
不。你的那是什么故意的吗?……有点嫉妒吧,废物。

「さすがに何も思わないわけじゃないけど……お前が俺以外を選べないって知ってるし」
「虽然我并不是一点也不在意……但是我知道你不会选择除了我以外的人。」

「チッ、恋人甲斐のない男だな」  呸,没恋爱的男人
「舌打ちすんな。それだけ信頼してるってことだよ」  别舌战。 这正说明我对你很信任。
「物は言いようだな」  “物”的翻译

 口ではそう言いながらも、不機嫌そうな表情は保ったままにむにむにと口元だけがわずかに動いている。感情のコントロールに長けていて恋愛にも慣れていそうなこの男が、照れていることに気付かれたくないなんて子供染みた理由で努めて顔を引き締めていることを知ってからは、こんな悪態にも腹は立たなくなった。
嘴上这么说,但还是板着脸,嘴巴只是微微动着。知道这个擅长控制情绪、看起来很老练的男子,竟然因为怕被发现害羞,而努力绷着脸,这幼稚的理由,让他再也没觉得这种恶劣态度有什么可生气的地方了。

「俺が浮気とかするような人間だと思ってる?」  你认为我会出轨?
「そうは言ってないだろ」  “这么说不是吧”
「じゃあ不安なだけ?」  那只是担心吗?

 潔の言葉で、眉間に深く皺が刻まれる。美形のキレ顔というのは迫力があって恐ろしい。だが、その程度のことで怯む潔ではない。
洁的言语,深深地皱起了眉头。美貌的冷峻面孔令人感到迫力和恐惧。但是,这种程度的事情不足以让洁害怕。

「……だからお前は悪魔だとか言われるんだ」  ……所以你才会被说成是恶魔
「それはフットボールの話でこれとは関係ないだろ?」
那是足球的事,这和这个无关吧?

「このクソ鈍感」  这个蠢货

 舌打ちでも聞こえてきそうな勢いで吐き捨てられた。カイザーが潔の言葉一つに揺さぶられて心乱す様は痛快ではあるけれど。さすがにこれ以上揶揄うと手痛い反撃を喰らいそうなのでそろそろ止めておいた方が賢明だろう。
舌头打得都能听到似的,一股脑儿地吐了出来。凯撒被洁的一句话扰得心神不宁,虽然看着挺痛快。不过,再这样嘲讽下去,恐怕就要遭到厉害的反击了,还是赶紧住嘴明智些。

「俺は恋人がいるのに、誰かに靡いたりしない。分かってるだろ?」
我女朋友都在,我不会跟别人乱搞。你懂吧?

「……お前はそうだろうな」  “……你大概就是这样吧”
「もぉ、逃す気はないって言っておきながら、なんでたまに弱気になるんだよ」
嘛,说好了不跑,怎么偶尔还胆怯啊

 万が一、カイザー以外の誰かに心動かされることがあったとして、俺のために身を引くような殊勝な男でもないくせに、本当にわがままな奴だ。
万一被除了凯撒以外的其他人吸引,就算不是什么为了我而退让的伟大男人,也真是个十足的任性鬼。

「……それだけいつもお前に振り回されてんだよ」  ……就一直被你耍来耍去

 ボソリとカイザーが呟いた言葉は思ったよりも甘くて、返す言葉もなく黙り込んだ。沈黙を少し気まずく感じていれば、カイザーがゆっくりと歩き出す。手を引かれるままにその少し後ろをついて歩いた。
凯撒低声说的话比想象中还要温柔,我无言以对,沉默了一会儿。感觉气氛有些尴尬,凯撒慢慢地走起来。我被牵着手,跟在他身后不远处走着。

「何が食べたいんだ」  你想吃什么

 視線は前から外さずに、振り向くこともなく独り言のように問いかける。近くの屋台からは香ばしい肉の香りが漂っていた。正直お腹は空いている。カイザーはどうするんだろう、とチラリと横顔を窺うが、ふいっと逸らされた。
视线从前方不移开,也不回头,像自言自语一样问道。附近的小摊飘来香喷喷的肉味。老实说肚子挺饿的。凯撒会怎么做呢?我偷偷瞥了一眼他的侧脸,但他却轻轻避开了。

 多分、カイザーもクリスマスマーケットに造詣が深いわけではないんだろう。ある意味、イメージ通りではある。
多分,凯撒也对圣诞集市不了解吧。某种意义上,正如预期的那样。

 でもどうしよう。ニュルンベルクと言えば、やっぱりニュルンベアガーと呼ばれるニュルンベルク特製のソーセージを挟んだパンだろうか。パンに挟むソーセージというと一本のイメージだが、ニュルンベルクでは短いものが三本と決まっている。焼いたソーセージをパンに挟んだ屋台飯はドイツの大抵のマーケットで売られているが、つまりそれほど定番で人気だということでもある。パンが硬めなのが日本人的には食べる時にちょっとネックだが、味は悪くない。あとどデカい容器に入ったケチャップやマスタードを自分で好みにかけられるというのもちょっと面白いポイントだ。珍しいものなら羊肉の串焼きなんかもあるようだけれど、潔はラム肉の臭みがあまり得意ではないからチャレンジするのはやめておいた方がいいだろう。
不过怎么办呢。说到纽伦堡,やっぱり还是夹着纽伦堡特制香肠的纽伦堡面包吧。说到夹在面包里的香肠,通常都是一根,但在纽伦堡却规定是三根短香肠。烤好的香肠夹在面包里的小吃摊在德国的大多数市场上都有卖,也就是说,它非常受欢迎。面包比较硬,对日本人来说吃的时候有点不太方便,不过味道还不错。另外,大大的容器装满了番茄酱和芥末酱,自己可以根据喜好添加,这一点也挺有意思。如果有什么稀奇古怪的东西,比如烤羊串,但洁不太喜欢羊肉的膻味,所以还是不要尝试的好。

「やっぱりニュルンベルクのソーセージパンかな。後で向こうのグリューワインも買おうぜ」
やっぱりニュルンベルクのソーセージパンかな。後で向こうのグリューワインも買おうぜ

「あいあい」  あいあい

 異論はないようで、潔が列に並ぶのに合わせてカイザーが隣に立つ。前には三人並んでいたが、店員の仕事が早いので順番が回ってくるまではすぐだった。
看来没有异议,洁按照队伍排列,凯撒站在她旁边。前面三人排队,但店员工作效率高,所以轮到他们很快。

「二つください」  请给我两个
「八ユーロね」  八欧元

 財布を取り出そうとした潔の手を制し、しれっとカイザーが横から二人分をまとめて支払った。
洁的手被制止了,凯撒悄悄地付了两个人份的钱。

「……ありがとう」

 お金は後で返すから、と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、いやそうじゃないだろうとお礼を言えば、カイザーが僅かに目尻を緩める。なんだか気恥ずかしくなって、渡された二つを素早く手に取って一つを手渡した。

「グリューワインも飲みたいんだろ」
「あっ、待って! ケチャップとマスタードかけるから。お前はいらないの?」
「別にいらない。先行ってる」
「もぉ……」

 さっさと別の店に向かって行ってしまった背中に向けてため息を吐いて、仕方なく一人ケチャップとマスタードの入った缶と向き合った。汚れないよう手袋を外すと冷気が直に肌に触れる。まあ、アイツこういう多勢の人の手に触れたやつ嫌がりそうだもんな。
 サクッと済ませてカイザーが向かった先へ赴けば、ちょうど支払いを終えて飲み物を受け取るところだった。

「ほら」

 わざわざ取手を持ちやすいように向きを変えて、湯気の立つマグカップが差し出される。らしくない男の気遣いを前に思わず一瞬手が止まった。どうした? と聞こえてきた声で止まりかけた思考は再度動き出し、どうにかそれを受け取って二人で傍のテーブルに移動した。ちなみに立食スタイルなので椅子はない。マグカップを握りしめて少しの間冷えた指を温めてから、テーブルに置いてパンに齧り付いた。

「溢れるぞ」

 噛んだ拍子に逆から溢れたマスタードをカイザーの指が拭い取る。そのままぺろりと指を舐めて、同じようにパンを食べ始めた。大口を開けてパンを貪って、ちらりと覗いた赤い舌に心臓が勝手に早鐘を打つ。そんな意図は無いんだろうが、さっきから俺ばかりが振り回されている気がして腹立たしい。ゆらゆらと揺れ動く感情を何かで誤魔化したくてついついグリューワインのカップを煽ってみたが、スパイスの効いた飲み物で身体が芯から温まっていく気はするもののアルコール特有の喉を焼くような感覚はなかった。もしや。

「……これ、ノンアルコール?」
「そうだ」
「お前のは?」
「……これはアルコール入りだ」

 男はどこかばつの悪そうな顔で下を向く。先んじてグリューワインを買いに行ったのはこのためだったのか、と今更ながら合点が行った。
 潔は別にアルコールに特別弱いわけではない。いや、カイザーや他のチームメイトに比べたら弱いのかもしれないが、常識の範囲内だ。ただ、この男曰く酔った俺はエロくなる……とかなんとか。間違いなくそんなことを思うのはカイザーだけだろうけど、チームの飲み会でもない限り、外でアルコールを摂取することにこの男が良い顔をしないということはさすがの潔も学習していた。

「良いけど、それをするならお前もノンアルコールにしろよ」
「……」

 ふい、と顔を逸らす。何食わぬ顔を装ってマグカップを煽っているが、その横顔は怒られたくない時の幼子のようだ。

「お前も特別お酒が好きなわけでもないくせに」

 アルコールを飲めたら大人、なんて思っているわけではないのだろうけれど、振る舞いは背伸びしたい子供のようだ。飲み会ではその場に合わせてアルコールを口にしているが、身体のメンテナンスにも気を抜かないこの男が酒も煙草も好まないことは知っている。

「何か言えよ」

 顔を背けて黙り込んだままの男の腹を肘で小突いた。パンを頬張って膨らんだ頬がもぐもぐと動く。ごくん、と口の中を空にしてから、男はニヤリと笑った。

「……あいあい。次は一緒にノンアルコールを飲んでやるよ」
「はあ~……まあ、いいか」

 あからさまに誤魔化された気がするが、追及するのも面倒になってパンを食べ進める。一足先に食べ終わった男の視線が痛かったが、全て無視した。
 パンを食べ終え、ちみちみとグリューワインを口にする。潔が飲んでいるのは正確に言えばグリューワインではなくアルコールを含まないキンダープンシュという飲み物だが、心の中でそう呼ぶ分には構わないだろう。

「あ、これ記念に持って帰りたいんだけど」
「マグカップか?」
「うん。デポジットを払ってれば貰ってもいいんだろ?」
「まあ、そうだが……持ち帰るならこのままじゃなく、綺麗なものと取り替えてもらった方がいいだろう」
「そんなんできんの?」
「店員に聞いてみればいい」

 カイザーはこともなげにそう言うが、潔としては遊園地なんかでよくあるスーベニア感覚で捉えていたから、新しいものと取り替えてもらうなんて考えもしていなかった。実際に可能かは分からないけれど、確かに聞いてみて損はないだろう。
 早速購入時のカウンターに戻って店員さんにお願いしてみれば、当然のように綺麗なものと交換してもらうことができた。それを手に、喜び勇んでカイザーの元へ戻る。

「替えてくれた!」
「良かったな」

 言ってからまたガキみたいだとか言って揶揄われるかと思ったが、カイザーは目を細めるだけで特に何かを言うことはなかった。拍子抜けして思わずその顔を呆然と見つめれば、その視線を何と勘違いしたのかカイザーが肩を竦めた。

「なんだ、もう次に行きたいのか? これを返してくるから少し待て」
「いや……急がなくて良いよ」
「そうか?」

 そうは言いつつ、カイザーは飲み終えたカップを手に返却カウンターへ向かっていく。ぼんやりとその背中を目で追っていれば、突如通常のカウンターへと舵を切った。
 そのままマグカップを差し出して店員と何かやりとりを始めたが、朧げにしか声が聞こえないのでぼうっとその様子を眺めていた。飲み干して空になったマグカップは店員の手に渡り、代わりに新しいマグカップを手にしたカイザーの口元が柔らかく緩む。それがあまりにも優しい笑みだったから、何故だか見てはいけないものを見てしまった気がして慌てて顔を逸らした。
 お前、俺が持って帰りたいって言った時は興味無さそうだったくせに、なんでそんなに嬉しそうにしてるんだ。
 湧き上がる感情を飲み込みきれないまま、机に突っ伏して視界を遮断する。はぁー、と深く息を吐くと背中をぽんぽんと優しく叩かれた。

「世一? どうした、体調が悪いのか?」
「ッ、戻ってきたのか。悪い、大丈夫だよ」

 素知らぬ顔で戻ってきたカイザーはさっきの出来事が夢だったかのように至って通常通りで、声をかけられた潔の方が動揺して肩が跳ねてしまった。

「次はどこへ行きたいんだ」
「あー……もう少し見て周りたいかな」
「そうだな」

 答えを聞くなり緩やかに歩き出した横顔を見上げる。気のせいかとも思ったが、さっきからカイザーと目が合わない。歩き出した歩調も先程よりも速い。こいつも平常心じゃないのかと思うと少しだけ心が落ち着いた。冷静さが戻ったら今度は努めて無表情を装うこの男の顔を崩してやりたくなって、一歩先を歩くカイザーの隣に駆け寄りそのコートのポケットに手を突っ込んだ。

「……なっ?!」
「あっためてくれるんじゃねーの?」
「ほんとっ、お前……クソッ」

 額に空いた手を押し当てて、悪態を吐きながらも手をしっかりと握りしめる男は本当に素直じゃない。

「行こうぜ」

 カイザーはその言葉にこくりと頷いて未だ首筋まで真っ赤に染まった顔を隠しながら、よたよたと雛鳥のように潔の後ろをついて歩く。絵面はだいぶアレな気はするが、正直気分が良かった。



 ◇ ◇ ◇



 中央広場の真ん中には教会が建っている。その前には小さなステージが設置されており、ステージ上では潔やカイザーと同じくらいの年齢の女性二人組が歌を歌っていた。楽しそうに眺めている人、スマホでカメラを回す人、足早に前を駆け抜けていく人も。
 だが屋外のライブを近くで聴くには音が過剰で、五感の鋭い潔にとっては刺激が強すぎた。通り過ぎる際に思わず歩調を早めた潔の意図を理解したカイザーが、音を遮断するために繋いだ手を解き壁になるよう逆側に立った。

「……離れるぞ」

 潔の肩を抱いて、人混みを掻き分けステージから遠ざかっていく。その腕に抱かれながら、不意に跳ねた心臓の音がカイザーの耳に届いていないことを願った。
 まるで素行の悪い不良が猫を拾うのを見て心動かされてしまうような、愚かなことだと分かっているけれど。一度跳ねた心臓はなかなか元には戻ってくれなかった。
 Nürnberger Kinderweihnacht(ニュルンベルクの子供たちのクリスマス)という装飾のあるマーケットの入り口あたりまで来ると、人混みも僅かに落ち着いてカイザーの熱が離れていく。潔は未だ落ち着かない心のまま、立ち竦み呆然とそのオーナメントを見上げた。
 ただそうして佇んでいれば、突如どん、と背後から誰かに突進されてしまい、ほとんど反射的に後ろを振り返る。目線を下げれば、焦った様子の碧眼とパチリと目が合った。

「ごめんなさい!」

 ぶつかってきた少年はそう言って走り去っていく。その行方を目で追えば、子供の頃遊園地で見たものより一回りくらい小さな、けれど二階建てという豪勢なメリーゴーランドに目を奪われた。ライトアップされて、芸術品のようにも見えるそれに思わず見惚れる。

「なんだ、乗りたいのか? あれは子供用だぞ」
「いや、さすがに乗らないけど……」

 黙り込んだまま目を輝かせる潔を見て、隣に並んだ男が感情の籠っていない声でそう言った。確かに見える範囲でも子供と乗る親の姿はあるが、それ以外の大人の姿はない。たまたま見たタイミングの問題で乗る大人もいるのかもしれないけれど、今の潔には見ているだけで十分だった。カイザーは黙り込んで前を見つめる潔の手を取り、今度は手袋越しでなく直接肌を触れ合わせて繋ぎ直す。

「メリーゴーランドには乗ったことがあるのか?」
「……あるよ。小さい時だけど。母さんに支えられながら白馬に乗ったんだ」

 まだ小さくて一人では乗れないのに、他のものじゃなくてどうしても白馬に乗りたいと我儘を言う潔を母が持ち上げて乗せてくれた。幼かったので潔自身がその思い出を鮮明に覚えているわけではないが、アルバムを眺めていた母が懐かしそうに教えてくれたことがあった。

「……そうか」

 カイザーは感慨深そうにそれだけを呟く。横顔で垣間見た瞳には深い寂寞の色が滲んでいた。
 子供達がメリーゴーランドに群がり、親達がそれを見守っている。キラキラと黄金色に輝くライトの光が幻想的で、どうしてだかそうしたくなって、潔は自ら繋いだ手に力を込めた。

「……っ、よいち、」

 空色の瞳がその真意を図りかねて、潔を見つめる。じりじりと肌を焼くようなその視線に顔を上げれば、絡み合った視線に動揺してか、はくはくとカイザーの赤い唇が開いては閉じて、結局は言葉を失って脱力した。

「ふっ、……こうしてるの、悪くないかも」

 肩を擦り寄せて微笑んで見せる。顔を彩る赤は寒さのせいか、それとも──
 明るいライトが鮮明に潔の顔を映し出し、滅多にカイザーには向けられない笑みを前に絶句した男が唸った。

「……クソ、俺をどうしたいんだ……」

 頭を抱えて声を絞り出すカイザーの横で、回るメリーゴーランドがゆっくりとスピードを緩めていく。緩やかに停止すると、止まったそばから子供達が親の元へと飛び出して行った。
 空っぽになったメリーゴーランドに再び子供たちが集い、我先にと目当ての乗り物を見つけていく。目の前の白馬に乗り込んで得意げに笑う少年を瞳に映したまま、潔はぽつりと呟いた。

「お前と過ごす時間、思ったより好きだよ」
「は、」

 零れ落ちた言葉は本心だったが、それは口に出すつもりのなかった心の内で。潔は意図せず自身の喉を震わせた言葉に一人動揺しながら、恐る恐る隣に立つ男の顔を仰ぎ見た。

「おまえは、」

 ほとんど衝動的に繋いだ手を離すことも厭わず、何かを堪えるかのように、噛み締めるようにカイザーが潔の身体を抱きしめる。僅かに肩を震わせる男の背に、潔からも優しく手を回した。
 子供の楽しげな声が響く中で場違いに抱き合う男二人は浮いて見えるかもしれない。いや、この喧騒の中そんなことを気にする人もいないだろう。

「本当に、狡い男だ」

 揶揄いの色は微塵もなく、弱々しい声音はこの男らしくない。でもだからこそ、これほどまでに胸を打つ。

「カイザー」

 ぽんぽん、とその背を優しく叩いてやれば、縋るように一層強い力で抱き締められた。

「……離れるな」
「離してくれないくせに」

 そういう意味じゃないと知りながらそう返せば、ぎゅう、と咎めるように身体が軋むほど腕に力がこもる。大人しくその腕に抱かれていれば、ぽすんとカイザーの頭が肩に落ちた。

「……なあ、俺はもう十分待っただろう」

 言葉の意図が分からず、その後ろ頭を撫でながら続きの言葉を待った。分厚いコートを纏った男を抱きしめても熱が伝わることはない。

「そろそろ一緒に住むことを考えてくれないか」

 耳元で囁かれた声には懇願の色が滲んでいた。潔の住まいは未だ選手寮のままだ。渡航前には繰り返し打診された同棲も、潔がドイツに来てからは話題に上がることがなかったからカイザーも考えを改めたのだと勝手に思い込んでいた。それは誤りなのだと、縋り付く熱が痛切に訴えかける。

「同棲する上でルールが必要なら考える、から。断らないでくれ」

 ぎゅう、と全身が密着するほどにキツくカイザーの腕が潔の身体を締め付ける。

 ──カイザーは本当に変わったと思う。傍若無人に潔を振り回していた監獄時代が嘘のように、少しずつ優しさを素直に示せるようになっていった。自分勝手に振る舞うのではなく、潔がどう思い、何を望むかを考えて行動するように。未だ素直に言葉にすることは苦手なようだが、ここまで態度で示されて何も響かないほど潔も不感症ではない。

「……分かった。前向きに考えてみるよ」
「本当か?!」

 ガバッと顔を上げたカイザーが両腕を掴んで潔を揺さぶった。

「新しい家がいいか? それとも俺の家で、」
「いやちょっと落ち着けよ」

 興奮気味に捲し立てる男の肩をポンポンと叩いて鎮める。普段スンと表情を殺しているカイザーのテンションがここまで高いのは初めて見たかもしれなかった。

「悠長に構えていたらお前の気が変わるかもしれないだろう。なんだ、善は急げ、だったか?」
「それが善かどうかは一旦置いておいて……」

 ちらり、周りを見る。雑踏の中とはいえど、ちらほらとこちらを窺う人の姿が見受けられた。フットボーラーのミヒャエル・カイザーと潔世一だとは気付かれなくても、男同士の痴話喧嘩ともなれば少なからず人目を集めてしまうのだろう。

「……後でゆっくり話そうぜ。ここじゃしっかりした話はできないだろ」
「そう言って煙に巻く気じゃないだろうな」
「しないって。ちゃんと話すよ」
「……明日の予定は空けておけ」
「はいはい」

 性急に外堀を埋めようとする男には少し呆れるが、それもこの男の執着の形なのだろう。コイツと一緒に住むなんて以前なら絶対に御免だったが、今のカイザーとなら悪くないのかもしれない。もちろん、この男が精神的に成長していよういまいが、生活上のルールに関して妥協してやるつもりは全くないけれど。

「ほら、次行こうぜ」
「まだ見て回るのか」
「だって夕食食べただけだろ」
「今度は甘味か? ほどほどにしろよ」
「たまには良いだろ」

 一度離した手をどちらからともなく繋いで、再び屋台の方へと歩き出した。



 ◇ ◇ ◇



 肩を寄せ合って、立ち並ぶ屋台を眺める。時折日本語を話す観光客の方に目を引かれながら、ふと装飾品が並ぶ店の前で足を止めた。クリスマスツリー用のサンタクロースやオーナメントボールに紛れて小さく佇む、小さな白い天使のオーナメント。洋服まで細かく作り込まれていてやけに潔の目を引いた。立ち止まった潔の視線の先を覗き込んで、カイザーが問いかける。

「それが欲しいのか?」
「いや、お前の名前って大天使ミカエルから取られてるのかなってふと……思って」

 こんなの、お前のことを考えていたのだと告白するのと何も変わらない。口に出してから恥ずかしくなって、止まっていた足を瞬時に動かしてその場を後にしようとした。

「待て、世一」
「ちょっと、後にしてくれ」
「嫌だ」

 だが握られた手が逃げることを許してはくれない。視界の端に映る、店員の穏やかな微笑みが今は酷く羞恥心を煽った。

「せめて、ここじゃなくて」
「顔を見せろ」
「も、もう、」
「ハハッ……顔真っ赤」

 ──なんて顔で笑うんだよ。
 無理矢理顔を覗き込まれたことへの文句を言ってやろうと思ったのに、どろりと甘く溶けた瞳と穏やかに弧を描く口元はいつになく雄弁に愛を語っていた。素直じゃないお前が、時折見せる無邪気な表情の愚直さが憎い。

「ほんと、最悪……」
「照れ隠しにしても酷いなァ?」
「……もう絶対に名前なんか呼んでやらないからな」
「おいおい、期待させておいてそれは酷いだろう」
「知るか!」

 繋いだ手を離そうと指を解くも、カイザーの指が追いかけてきて逃げられなかった。

「なぁ、世一」
「こんなっ、甘えるな!」
「クソ天使の名前を呼ぶくらいなら、俺の名前を呼べ」
「呼ばない!」
「じゃあ、呼ぶまで離さない」

 お前、そんなキャラじゃないだろ。その後もすりすりと絡めた指を動かして、言葉でも行動でも訴えかけてくる。

「世一」

 クソ、いちいち声が甘ったるいんだよ。砂糖菓子のような、どろどろに煮詰めたジャムにも似た甘い声が耳に直接吹き込まれる。普段と違う非日常な空間で、この男も舞い上がっているのだろうか。

「……なぁ、」
「しつこいな」

 名前だろうと苗字だろうとどっちでも良いだろ。カイザーで定着してしまった呼び名を今更変えるのは難しいのだと、説明しても理解してはくれないのだろう。結局、延々と続きそうなやり取りに潔の方が先に白旗を上げた。

「──ミヒャエル! ……もぉ、これでいいだろ」

 ミヒャエルなんて面してないくせに。理不尽な文句が頭に浮かんでは消えていく。しばらくしても何も言葉を返さないカイザーを不思議に思って顔を見上げれば、ニヤける口元を抑えて目を細めた男の顔があった。潔の視線に気付いてどろりと青が溶ける。

「……もう一度、」
「はァ?!」
「次は愛称で呼べ」
「調子に乗るな! もう呼ばない!」

 図に乗って擦り寄る男を引き剥がした。不満気に眉間に皺を刻んでいるが、これ以上譲歩する気は無い。

「次行くぞ!」
「ふぅん? 世一クンはお揃いのアクセサリーをご所望?」
「はあ?」

 によによと笑うカイザーに眉を顰めたが、よく見るとオーナメントの店の隣には手作りのアクセサリー店が並んでいた。慌てて弁解しようとした潔を遮るように、カイザーがそちらに視線を投げてぽつりと溢す。

「なぁ、世一。お前はどこまでなら許せる?」
「……え?」

 先程までの煽るような口調は鳴りを潜め、すりすりと繋いだ手の薬指をカイザーの指が撫でさすった。

「お前は高い指輪を渡しても受け取ってくれないだろう」
「……まあ、失くしたら怖いし、そんなことしてもらう義理もないし」
「……後半は聞かなかったことにしてやる」

 ゆっくりと繋いだ手を持ち上げて、カイザーが空いた手を添える。潔よりも高い体温でじんわりと熱が伝わった。

「指輪はあからさますぎるかと思って時計も考えたが、お前は腕時計もあまり着けないだろう?」
「……そうかも?」

 言われて振り返ってみたが、確かに玲王の勧めでトレーニング用にスマートウォッチならば着けているけれど、所謂おしゃれとしての腕時計はパーティでもなければつける機会がなかった。それは単に腕に高価なものを着けて外を歩くのが不安だと言う理由もあるが、結局スマホで事足りるなと思ってしまうせいでもあった。

「お前が俺のもので、俺がお前のものだという証が欲しい」

 くだらないわがままだと切り捨てても良かった。でも切実なその瞳に射抜かれると、言葉が喉につっかえて出てこなくなってしまう。

「高いものでなくても良い。お前が望むもので構わない」

 まっすぐな視線に根負けして、再び並べられたアクセサリーに目線を落とした。確かに、ここにあるアクセサリーはそこそこ値段がするものもある。装飾品の類を見慣れない潔の感覚からすればそれでも高いと思うくらいには。でも、億を稼ぐスポーツ選手が持つには安っぽいと言われてもおかしくないものだ。何も知らない学生だった頃ならともかく、プロのスポーツ選手はただその競技に打ち込んでいれば良いというものではないことは、この半年で身に染みて学習した。チームの顔として、スポンサーが常に後ろにいることを意識し、それに見合うだけの振る舞いと身なりを心掛けなければならない。特に潔はブルーロックの申し子と呼ばれていただけあって注目株で、既にいくつもの企業とスポンサー契約を結んでいる。プロ契約を結んだばかりで、何も分からず右往左往していた潔を助けてくれたのもカイザーだった。

「俺はそういうのよく分かんないから聞かれても困る……」

 並んだ宝飾品を見ても、綺麗だとは思うが自分が着けているイメージは湧かなかった。潔が持っている身の回りの高級品と言えば、パーティ用のネクタイピンや、スポンサーから貰った腕時計くらいだ。値段の高低に関わらず、アクセサリーに正直興味はない。それでも、カイザーがそうしたいなら付き合っても良いと思うくらいには絆されている。

「俺の好みで贈ってもお前は許してくれるか?」
「……まあ、お前の方がセンスあるし」
「高級品でも?」
「大切にする。……でも、限度はあるからな」

 じゃあ、と言ってカイザーは店員に近付くと、即決で一つアクセサリーの入った箱を手に取って財布を取り出した。
 まさかこの場で買う気とは思わなくて口を挟む間もなくただ呆然とその様子を眺めていると、戻ってきたカイザーが潔の右手を取って即座に指輪をはめる。寒空の下で、触れた金属の冷たさで肌が粟立った。

「冷たいか。悪い」
「悪くはないけどさ……今じゃなくても」

 行為自体を咎めるわけではないが、今日のカイザーはどこか性急だ。この男ならこんな人混みの中じゃなく、どこかで仕切り直しでもしそうなものを。

「……お前がいつになく素直だから」

 果たしてそれは理由になるのか。角の店だから人の出入りは他より少ないが、ちらほらこちらを窺う視線がある。じきに誰なのかも気付かれてしまうだろうに、周りを気にする余裕もないらしい。──でも、まあいいか。

「よくサイズが分かったな?」
「そりゃ……何度お前に触れたと思ってる」

 熱っぽい視線を浴びてその言葉の意味するところに気付き、顔が熱を発した。

「なッ……」
「改めて別のものを贈るまでこれをつけていろ。チェーンも貰ったから、これでネックレスにするのでも良い」

 小袋を潔の手に握らせて、カイザーの指が指輪で彩られた薬指を撫でる。酷く嬉しそうに頬を染めて、うっかり熱が移ってしまいそうなほど幸せな顔で笑っていた。

「ていうか、薬指ってお前……」
「……日本だと右手で婚約指輪、左手で結婚指輪だったか? ドイツだと逆になるが……お前の好きなように解釈しろ」
「あ……っそ」

 ここまでするかとも思うが、カイザー相手に嫌だと言えない時点できっと自分も同罪だ。

「明日は忙しい一日になるな」
「……なんで?」

 しみじみと呟かれた言葉に思わず反応した。明日はお互いオフなのに。カイザーは当然だろう? と笑みを深めて告げる。

「家探しとジュエリーショップ巡りだ。その代わり、今夜は手加減してやる」
「え、ちょ……っ。そもそも、俺が寮を出るにはまずチームの許可を取らなきゃ、」

 まだ新人に課せられた一年の入寮期間は終わっていない。結婚したとか、プライベートな理由で途中退寮する選手は珍しくないが、事後報告では許されないだろう。

「必要ない。前々からこっちも話つけてたんだよ。クソオーナーが世一の意思が第一だとか言わなけりゃ、最初から同棲出来てたんだ」
「……いや、そこは俺の意思を尊重しろよ」
「……」

 黙り込んだ男は拗ねたように顔を背けた。当時の、寮に入りたいと潔が言った際のオーナーの安堵したような表情はそういう意味だったのか。

「最近優しくなったと思ったけど、やっぱりお前はお前だよ」
「……悪かったな」
「うん。反省しろ」

 もっと優しくなって、俺が惚れ込むくらいの男になれよ。絆されたじゃなく、お前が良いんだと俺が言い切れるくらいに。わざわざそんなこと言ってやらないけど。
 ずーんと自己嫌悪で沈んだ男の手を引いてやる。

「んじゃ、帰ろうぜ」
「もういいのか」
「うん。だって、来年もついてきてくれるだろ?」
「……ああ」

 世一の言葉で驚きにぱちぱちと目を瞬かせて、カイザーがふわりと笑った。歩き出した潔に猫のように擦り寄って鳴く。

「いつも俺を誘え」
「はいはい」
「あとは名前を呼べ」
「どさくさに紛れて違うこと要求してくんな」

 肩が触れ合う距離で囁いてくるその脇腹を肘で突いた。ケラケラと笑う男には一切響いていないようではあったが、その笑みは驚くほど邪気のない素直なものだったから、少しだけ優しくしてやってもいいかという思いが──いや、悪戯心が顔を出した。
 未だ笑みを浮かべたままの男に小声で耳打ちする。

「……明日はお前にも指輪をくれてやるよ、ミヒャ」
「は?」

 計画通り、呆然と立ち尽くした男を置いて走り出す。少し後で、ようやく覚醒したカイザーが背後から全力疾走で追いかけてきた。

「……っ、は?! もう一度言え、世一!!」
「今日はもう締め切りました!」
「クソが! ふざけるな!」
「あはっ、あはははは!」

 叫びながら必死な形相で追ってくる男に、込み上げてくる笑いが止まらなかった。振り回されるのは御免だけど、振り回す側なら悪くない。恋愛は惚れた方が負け、つまりカイザーはもう俺に負けてるってこと。
一边喊叫一边拼命追来的男人,让我忍不住笑了起来。被追着跑就算了,追别人倒也不错。恋爱是喜欢的人输,也就是说,凯撒已经输给我了。

 一般人とはとても思えないスピードで追いかけっこをする二人を道ゆく人が振り返る。衆目を集めるのは御免なので、人気の少ない方へと走り続けた。
路过的人回头看着两个以一般人难以想象的速度进行追逐的人。为了避免引人注目,他们继续跑向人少的地方。

 マーケットから遠ざかり、誰もいない狭い路地へと滑り込んでそろそろいいかとスピードを緩めてやれば、これ幸いとカイザーが潔の背中を抱きしめた。息を荒げ、さぞ得意気な顔をしているであろう男に振り返り笑って告げる。
远离市场,滑进空无一人的狭窄巷道,速度渐渐放慢,觉得差不多了,凯撒抓住洁的背紧紧抱住。喘着粗气,想必那男人得意洋洋地笑着,回头笑着说道。

「お前の負けだ、カイザー!」  你的输了,凯撒!

 襟首を引っ掴んで、荒く息を吐く唇に蓋をした。男が驚愕で目を見開いて、じわじわと頬がイチゴのように真っ赤に染まっていく。
抓住他的衣领,用粗重的呼吸堵住他张开的嘴唇。男人惊恐地瞪大眼睛,脸颊慢慢地像草莓一样涨得通红。

 ああ、なんて気分が良い!  啊,心情真好!
 

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Eine liebeshungrige Bestie【期間限定Web再録】
『あの子と繋がる魔法のオナホ』の再録と書き下ろし五話を収録した同人誌になります。再販予定がないため、期間限定でWeb再録します。
昨年3/17の春コミにて頒布した本でした。お手に取ってくださった皆様、ありがとうございました!
カイザーの誕生日、アニメ登場を記念し、1月末まで掲載します。良ければお楽しみください。

あらすじ:
ブルーロックからの支給品に紛れた魔法のオナホを手に入れたカイザーは、『恋するあの子のナカを完全再現♡ ※感覚共有あり』という謳い文句を疑いながらも、最悪な関係性から進展の望めない世一を堕とすため、そのオナホを利用することに決める。本人を堕とせないなら、まずは身体から。感覚共有という文言に惹かれるままに連日オナホでひとり遊びをするようになっていく。

以下含みます
無理矢理/♡喘ぎ/結腸責め/濁点喘ぎ/潮吹き/中出し

今年もよろしくお願いいたします!

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52773710,895
2025年1月1日晚上6点35分
リアン
评论
星野凝
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