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人間の運命は、三人の女神が司(つかさど)っている。
運命の糸を紡ぎ出す〈紡ぐ女〉クロートー・運命を割り当てる〈運命の図柄を描く女〉ラケシス・死の瞬間にその糸を断ち切る〈不可避の女〉アトロポスである。彼女たちは〝割り当て〟を意味するモイラに因(ちな)み、運命の三女神モイライと呼ばれる。
彼女たちは人々のために糸を紡ぎ、糸巻に巻き取り、各人の命が尽きるときその糸を断ち切るとされている。
大神ゼウスとテミス、あるいは女神ニュクスの子であるとされる彼女らは、地上の人々だけでなくあらゆる神々の運命をも支配する。誰も彼女たちが与える運命からは逃れられない。例外は父であるゼウスだけである。
彼女たちがどのように人々の運命を定めるのか、それは神話すらも語らない。ただ古代ギリシア人たちは、ひとつだけ明確に知っていた。それは、彼女たちが他の神々と同じくひどく残酷で気まぐれだということだ。
三女神は、今日もどこかで運命の糸を紡ぎ、織り、そして断ち切っている。無情に、手遊(てすさ)びに、そして慈愛を込めて。