
第九十九代目ブリタニア皇帝の眠る墓は、彼が唾棄していた他の皇族たちと同じ敷地にあった。
第九十九代布里塔尼亚皇帝长眠的陵墓,坐落于他生前所唾弃的其他皇族所在的同一片陵园之中。
史上最悪の圧政を強いたルルーシュ皇帝の墓であれば、目的は様々であれど荒らされる可能性は高い。だが、そのときにきちんと亡骸が見つかるように、皇帝ルルーシュは死んだのだと確かな証拠となるように、遺体が残るようであれば敢えて墓を建ててもらいたいとルルーシュは言った。
若是为施行史上最残暴统治的鲁路修皇帝建造陵墓,尽管目的各不相同,但被破坏的可能性极高。然而鲁路修却说,为了让人们届时能明确找到遗骸,为了提供皇帝鲁路修确实死亡的铁证,只要尸体尚存就希望有人特意为他建造陵墓。
本当はゼロレクイエムのその場で民衆に遺体を明け渡して欲しいと頼まれたのだけれど、せっかく見えるようになったナナリーの目にルルーシュの体が辱められる場面など見せるわけにはいかないと反対すれば、折衷案として暴かれることが前提の墓の話が持ち上がってきた。
其实原本有人提议在零之镇魂曲现场就将遗体交给民众,但娜娜莉刚重见光明的双眼绝不能目睹鲁路修遗体受辱的场面,遭到反对后便提出了这个折中方案——以必然会被破坏的陵墓作为前提。
彼にとっては、彼自身もまた盤上の駒の一つにすぎないのか。そう気付いた瞬間から、彼を喪うカウントダウンが始まったように思う。
于他而言,自己也不过是棋盘上一枚棋子罢了。从意识到这点的瞬间开始,仿佛就开启了失去他的倒计时。
昔のことを振り返りながら、夜明け前の空の下、生い茂る芝を踏みしめて先へ進んでいく。
“踏着黎明前苍穹下的萋萋芳草,我在往事回溯中踽踽独行。”
彼が眠るこの場所は、今も限られた者しか立ち入ることの出来ない皇族陵だ。ナナリーが管理をしているうちは、そして僕が生きているうちは、絶対にこの場を荒らさせやしない。
“他长眠的这片禁域至今仍是唯有特权者方能踏足的皇族陵寝。只要娜娜莉尚执掌管理之责,只要我尚存一息,便绝不容许任何人亵渎此地。”
彼の名前を刻んだ石は、サンザシの木の横にある。最期に身に纏っていた装束を思わせる白の石碑に刻まれているのは、その名と彼が生きた十八年間という年月だけだ。
“镌刻着他名字的素碑静卧在山楂树旁。那座让人想起他临终时所穿的那身洁白装束的白色石碑上,只铭刻着姓名与他存世十八载春秋的岁月。”
静けさに満ちた薄蒼の闇の中、僕は彼の名がつく場所の前で足を止めた。
“在充满寂静的淡青色黑暗中,我在以他名字命名的场所前驻足。”
ここに来るのは、まだ三回目。 “这是我第三次来到这里。”
ゼロレクイエムから一年を経たときに初めて、僕はこの場所に立つことができた。彼の死を真正面から受け止めたのは僕だったはずなのに、どうやら頭はその事実を理解したがらずにいるらしい。
“零之镇魂曲落幕一年后,我才第一次站在这片土地上。明明应该是我直面他的死亡,可我的头脑似乎始终不愿接受这一事实。”
彼の死という現実が、三年経った今でも上手くつかめない。冷たいルルーシュの体がこの土の下にあるのだと思うと、今すぐにでも掘り返して彼の体を取り戻さなければという衝動に駆られてしまう。
他已然死去的事实,即使三年后的如今我也无法完全接受。只要一想到冰冷的鲁路修就躺在这片泥土之下,我就被一股冲动驱使着想要立刻掘开地面将他的躯体夺回。
一番に彼の墓を暴くのは、もしかしたら僕なのかもしれない。そんなことを思うと、冷えた夜風に弱々しい微苦笑が乗った。
第一个去掘他坟墓的,或许会是我。想到这里,寒冷的夜风中浮现出一丝虚弱的苦笑。
僕はもうルルーシュには会えない。伝えたい気持ちをとどける術がない。
我已经见不到鲁路修了。想要传达的心情却找不到送达的方法。
地面に片膝をつき、白く冷たい石にひたりと手を当てる。
单膝跪地,将手紧紧贴住冰冷苍白的石块。
ルルーシュ――切ない痛みを伴ってこの胸に響く名を、指先でなでる。指先で感じる一文字ずつを胸に刻むように、何度も繰り返し彼を呼ぶ。
鲁路修——这个名字伴随着苦涩的痛楚在胸口震颤,我用指尖轻轻抚过。仿佛要将指尖感受到的每一个字都铭刻于心,一遍又一遍地呼唤着他。
今の僕はゼロの仮面を被っていない。だからここにいるのは英雄ゼロではなく、枢木スザクの亡霊だ。
现在的我并没有戴上 Zero 的面具。所以此刻站在这里的不是英雄 Zero,而是枢木朱雀的亡魂。
ルルーシュ、と今度は声に出してその名を呼んだ。 “鲁路修。”这次我真正唤出了声。
僕は独りきり、今も夜は明けない。何度呼んでも君は遠く、この声はとどかない。
我依然茕茕孑立,永夜不曾破晓。千呼万唤君犹远,此声终难抵彼方。
ルルーシュの名を撫でる手を止めて、そっと白亜の石の表面に唇を押し当てた。
停下抚摸鲁路修名字的手,轻轻将嘴唇贴在了白垩石表面。
最後に触れたルルーシュの体はあたたかかったはずなのに、今唇に伝わってくる温度は、なぜこんなにも冷たいのだろう。
明明最后触碰到的鲁路修的身体还残留着温度,可此刻唇间传来的触感,为何会冰冷至此呢。
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ベッドの横に置いた目覚しのアラームで目が覚めた。
“被放在床边的闹钟铃声唤醒。”
目を閉じたまま仰向けになると、瞼の裏が明るい色に染まる。窓のない地下深くに位置する部屋なのに、まるで朝日を取り込んだかのように明るいのは、起床の時刻になると自動的に灯るライトがあるおかげだ。
“闭上眼睛仰面躺下,眼皮底下被明亮的颜色浸染。这个深埋地下没有窗户的房间之所以明亮如朝阳倾泻,多亏了到了起床时间就会自动亮起的灯光。”
ゼロとなった僕のためにこの部屋を用意したのは、ルルーシュだった。
为我这个成为了 Zero 的人准备了这间房间的,正是鲁路修。
枢木スザクの顔を外に晒すことはできないから、仮面を外す居住空間は、他の誰の目も届きようのない地中深い場所になった。だが、人間は太陽のない場所では生きられない。朝と夜の濃淡のない場所にいれば、途端に体内時計が狂い、体に変調をきたしていく。
枢木朱雀的真容不可示人,因此供他摘下面具的居住空间被设置在地下深处任何人都无法窥视的地方。但人类终究无法在没有阳光的地方生存。一旦身处没有晨昏之分之地,体内的生物钟便会立刻紊乱,身体也随之产生异样。
もう直接その目で朝日を見ることは出来ないけれど、せめて朝になれば同じ色の光を感じられるように。そう考えたのか、ルルーシュはこの部屋にささやかな仕掛けを残していった。
虽然已经无法再用这双眼睛直接仰望朝阳,但至少当清晨来临,还能感受到同样颜色的光芒吧。或许是出于这样的念头,鲁鲁修在这间屋子里留下了小小的机关。
僕は、今日もルルーシュに生かされている。 “我今天依然靠着鲁路修而活。”
一度頭の中でこれからの予定を思い返してから、僕はベッドに横たえていた身を起こした。少しばかり体が重い。眠りについたときは既に明け方だったから、寝不足なのは否めないだろう。
我在脑海中将接下来的行程重新梳理了一遍,随即从躺着的床铺上支起身子。身体有些发沉。毕竟入睡时天都已经蒙蒙亮了,睡眠不足这点无可否认。
夜の帳に紛れてルルーシュに会いに行ったのはほんの数時間前のことなのに、一度眠りについてしまったせいか、その出来事が随分と遠く思えた。
明明趁着夜色去见鲁鲁修只是几小时前的事,许是中途睡了一觉的缘故,那件事却显得无比遥远。
乾いた自分の唇に、指の背をあてる。夢でいいから会いたいと優しくキスをしてみたのに、君は夢にも出てきてくれなかった。
将指背贴上自己干涸的嘴唇。明明在梦中也好想见你,我明明那么温柔地献上亲吻,你却连我的梦境都不愿踏入。
ひどいなぁ。でも君は今の僕を見たら、お前のほうこそ酷いだろうって呆れるだろうか。
真过分啊。但如果你看到现在的我,会不会傻眼地说你才更过分呢。
最期に命を預けた相手から、まさかこんなに執着を向けられるなんて、さすがの君でも予想していなかっただろうから。
“毕竟就连你也不会料到,临终托付性命的对象竟会对你产生这般偏执的执念。”
テレビのチャンネルをニュースに合わせながら身支度をしているところに、外部からの通信が入ってきた。
正将电视频道切换到新闻节目准备更衣时,外部通讯请求突然接入。
ここへ連絡をしてこられる相手は限られている。その限られたうちの一人であるシュナイゼルからの通信であることを確認して、音声のみの回線を開いた。
能往此处发起联络的对象屈指可数。确认信号源来自白名单中的修奈泽尔后,我开启了仅语音传输的通讯回路。
「おはようございます、ゼロ様」 “早安,零大人”
「おはよう」 “早”
「本日十五時開始予定の会談の件でご連絡を」 「关于今日下午三点预定开始的会谈事宜,特此联系您」
「聞こう」 「您请讲」
胸元のスカーフを留めつつ先を促す。 她一边系紧胸前的丝巾,一边示意对方继续。
「本日十五時からEUとの会談ですが、天候不良のため先方の飛行機が遅れていると連絡があり、開始時刻が延びる見込みです」
「今日 15 点开始的欧盟会谈,因天气恶劣对方飞机延误,预计开始时间将推迟」
「天候不良……今日は荒れているのか?」 「天气恶劣......今天气候很糟糕吗?」
「いえ、ブリタニアは快晴ですよ、雲一つない。ゼロもご覧になってみればいかがです?」
「不,不列颠是万里晴空,连云丝儿都没有。Zero 大人不妨亲眼确认下?」
住まう場所は地下深くで、地上に出れば仮面を外せない。果たしてこの発言は皮肉なのかジョークなのか、それとも何の意図もないのかと判断に困っているうちに、シュナイゼルが言った。
居住的地方位于地下深处,一旦来到地面便无法摘下面具。"这番言论究竟是讽刺还是玩笑,又或者毫无深意?"就在我为此感到困惑时,施奈泽尔开口了。
「時間に余裕ができそうですので、ナナリー様のご視察が終わられるまで、出発をお待ちになりますか?」
“看来时间充裕,是否要等娜娜莉大人您视察结束后再出发?”
「あ、ああ。そうしよう」 “啊、啊。就这么办吧”
「かしこまりました。それでは後ほど」 “遵命。那么稍后再见”
シュナイゼル・エル・ブリタニア。ルルーシュのギアスにかかり続けている彼の腹違いの兄は、今も律儀にゼロに仕えてくれている。ゼロの補佐としてシュナイゼルが組み立てる論旨の展開や戦略があって、なんとか僕がゼロをやれているのは明白だ。
修奈泽尔·el·不列颠尼亚。这位持续受困于鲁路修 Geass 的同父异母兄长,至今仍恪守本分地效忠着 Zero。正是作为 Zero 副手的修奈泽尔所构建的论点推演与战略布局,才让我能够勉强维持住 Zero 这个身份。
シュナイゼルのやり方はルルーシュのそれを髣髴とさせるもので、その面影を見つけるたびにやっぱり二人は兄弟なのだと感心し、しかし時に見せる非情ともとれる判断力は、ルルーシュに似すぎているがために苛立ちを覚えることもあった。
修奈杰尔的行事作风总令我想起鲁路修,每当发现那相似的影子时,我便由衷感慨两人果然是兄弟。然而他偶尔展现出的近乎冷酷的判断力,又因与鲁路修过度相似而使我心生焦躁。
ルルーシュが魅せたほどの意外さはないけれど、常にシュナイゼルは「負けない」策をゼロに授けてくれる。
虽不像鲁路修那般惊艳四座,但修奈泽尔总能赋予 Zero"必胜"的计策。
デッドオアアライブの戦略を仕掛けざるを得なかったルルーシュの時代とは違う。戦いは終わった、もはや他者を負かす必要はない。だから新しい世界では、シュナイゼルのやり方でちょうどいいのだ。そうわかっていたから、ルルーシュは僕に適切な人材を残していったのだろう。
“这和鲁路修那个不得不采用你死我活战略的时代不同。战争结束了,已经不需要再击败任何人。所以在新的世界里,修奈泽尔的做法正合适。正因明白这点,鲁路修才会为我留下合适的人选吧。”
ああまた、僕はルルーシュに生かされている。 “啊啊,我依然靠着鲁路修而活。”
**
午前中にあった各国とのテレビ会議が長引いて、ナナリーを迎えに政庁まで戻るときには既に正午を大きく過ぎていた。途中で抜けてもよかったのだけれど、午後の予定に余裕ができたこともあって、つい最後まで席を立たずにいてしまった。
上午与各国的电视会议拖得太久,等到回政厅接娜娜莉时早已过了正午。虽然中途离席也无妨,不过想到下午的行程比较宽松,不知不觉就坐到了会议结束。
敷地内で車を降り、政庁の建物内に足を踏み入れると、フロアの正面から黒服のSPを連れた一団がやってくるのが見えた。その先頭を歩く、凛とした立ち姿の少女を目にして僕は思わず足を止める。
下车进入政府大楼后,我看到一群身着黑衣的护卫课人员从大厅正门迎面走来。当目光触及走在队伍最前方那位身姿挺拔的少女时,我不由自主停下了脚步。
相手が僕に気付くのも同時だった。 对方注意到我的时机也完全一致。
「ゼロ様!」 「Zero 大人!」
「神楽耶様」 「神楽耶大人」
その性格を示すかのように真っ直ぐで美しい黒髪を持つ女性、日本の象徴であるキョウト六家の唯一の生き残りとして活躍する皇神楽耶。四日後の五カ国首脳会議のために、扇首相へ同行してブリタニアにやってきていることは知っていたが、会談の前に会えるとは思っていなかった。
“宛若昭示其品格般拥有笔直美丽黑发的女子——作为日本象征的京都六家唯一幸存者而活跃的皇神乐耶。我虽知她为四天后的五国首脑会议随同扇首相前来布里塔尼亚,却不曾料能在正式会晤前重逢。”
彼女はSPを残してぱたぱたと小走りに駆け寄ってくると、ぱっと両手で僕の手をとった。
她将 SP 留在原地,啪嗒啪嗒地小跑着靠近,突然用双手抓住了我的手。
「お久しぶりですわね、ゼロ様。お会いできてよかった!」
“好久不见了呢,Zero 大人。能见到您真是太好了!”
「神楽耶様も、お元気そうで何よりです。今日はこちらに用が?」
“神乐耶大人也是,看到您气色尚佳再好不过。今日到访有何贵干?”
「用というほどのこともないのですけれど……元夫である貴方様の顔が見たいと思うのは、妻であった者としてそんなに不自然なことでもありませんでしょう?」
“倒也说不上什么要事......不过作为曾经的妻子,想见见自己前夫的脸庞,也不算多不自然的事吧?”
大きな水晶のような瞳にじっと見つめられて、言葉に詰まる。
“被那双水晶般的大眼睛直直凝视着,我一时语塞。”
神楽耶とどんな約束をしていたのか詳しいことは知らないけれど、ルルーシュ、君はあちこちで女の子に気を持たせておいて、そのくせ誰にも応えずにいなくなってしまうんだから、本当に困った男だ。おかげで僕が狼狽する羽目になってるじゃないか。
“虽然不清楚你和神乐耶具体有过什么约定,但鲁路修,你总是到处让女孩子对你心存期待,结果却一走了之谁也不理会,真是让人头疼的家伙。害得我不得不替你收拾烂摊子不是吗。”
仮面の中が見えたわけでもないだろうに、僕の困惑を悟ったのか、神楽耶は表情を緩めてくすりと微笑んだ。
虽然应该并未看到面具下的表情,但神乐耶或许察觉到了我的困惑,神情柔和地抿唇轻笑。
「冗談ですわ。でも貴方にお会いしたかったのは本当です」
“开玩笑的。但想见到你却是真的”
「私に、ですか?」 “要我来吗?”
「ええ、首脳会談の前に二人っきりでお話がしたくて待ってみたのですけれど……タイミングが合いませんでしたわね」
“是的,在首脑会谈前本想找个机会和您单独谈谈,试着等候了……但时机总是不凑巧呢。”
ちらりと神楽耶は入り口のほうに視線を向ける。既に玄関側には彼女を待つ車が待機しているようだった。
神乐耶匆匆朝入口处瞥了一眼。门口似乎已经有车在等候着她了。
日本がサクラダイトという資源に頼れなくなった今、彼女は諸外国で精力的に立ち回らねばならない位置にいる。それでも僕に、いやゼロに会いたいと行動を起こしたからには理由があるのだろう。
在日本无法再依赖樱彩石这一资源的当下,她不得不在各国间积极斡旋。即便如此,她仍采取行动想见我——不,是见零,这其中必有缘由。
「申し訳ありません」 “非常抱歉。”
「いいえ、アポイントメントなしで来たのですから当然ですわ。ですがもし都合がつくようであれば、明日私に十五分、いえ十分でもお時間をいただけません?」
「不,您没有预约就直接前来,这也是理所当然的。但如果您明日方便的话,能否抽空给我十五分钟——不,哪怕十分钟也好?」
こちらも分刻みでスケジュールが組まれている身ではあるが、そのくらいの時間なら確保できる。了承の意を伝えると、神楽耶は僅かにほっとしたように肩の力を抜いたように見えた。
虽然我的日程也是分秒必争,但这点时间还是能挤出来的。当我表示同意后,神乐耶似乎稍稍松了口气,肩膀明显放松了力道。
「急ぐこともないのでしょうけれど、どうしてもお伝えしておきたいことがあって。これも私達のお節介だと思ってくださいませ」
“虽然没必要急着说,但有件事无论如何都想告诉您。就当我们是多管闲事吧。”
彼女が細めたその目の色は、かつてルルーシュが僕に似ていると評した、深い湖面の緑をしていた。
她微微眯起的眼眸泛着深邃的碧绿色,恰似鲁鲁修曾评价与我相似的深潭之色。
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近隣の小学校の視察を終えたナナリーとは政庁で合流し、同じ車に乗り込んで会談の場所となるホテルに向かうことになった。
和视察完附近小学的娜娜莉在政厅会合后,我们便坐上同一辆车,朝举行会谈的酒店驶去。
目的地に向かう道すがらで、ナナリーは僕にあるものを見せてくれた。
前往目的地的途中,娜娜莉向我展示了某样东西。
「これ、さっきお話した子からいただいたんです」 “这是刚才提到的那个孩子送给我的。”
嬉しそうに話すナナリーの手に乗るのは、ピンク色の折り紙でつくられた花だった。一枚の紙を折り重ねて平面上に花を形づくる、それはまさに日本の折り紙の技術だ。
娜娜莉开心地说着,掌心托着一朵用粉色折纸制成的花朵。仅凭单张纸张反复折叠就在平面上构筑出花朵形态,这正是日本折纸艺术的精髓。
「折り紙を知っている子がいたんですね」 “原来还有孩子懂折纸呢”
「ええ、日本人の女の子でした。二年前まではエリア11……日本のフクオカゲットーに住んでいたんですって」
“嗯,是个日本女孩。直到两年前还住在 11 区……日本福冈聚居区呢。”
「最近は、元植民地からの移住者が増えています」 「最近来自前殖民地的移民越来越多了。」
ブリタニアの支配下にあった国の状況は、ある程度の自治が与えられていたエリアから、強い圧力を加えられていた日本のような矯正エリアまで様々だった。ナンバーズから解放されても、疲弊した国力を自力で回復することができずブリタニアの手助けを借りている国があれば、独立を色濃く打ち出す国もある。そこに住む人々に格差はあれど、元支配国との関係を一人一人が選択できる時代になった。
不列颠尼亚统治下的国家状况千差万别,既有保留部分自治权的区域,也有像日本矫正区那样遭受高压统治的地区。即便摆脱了数字区的身份,有些国家因国力衰微仍需依赖不列颠尼亚的援助,有些则旗帜鲜明地主张独立。尽管居民间仍存在差异,但如今每个人都能自主选择与前宗主国的关系。
ブリタニア本国での成功を夢見て海を渡る元ナンバーズが増えているというのは、あのゼロレクイエムの日にルルーシュが灯した小さな希望の火が、今も絶えず人々の中に広がっていることを感じさせてくれる。
越来越多前数字区居民怀揣着在不列颠尼亚本土实现成功的梦想远渡重洋。这让我深切感受到,鲁路修在零之镇魂曲那天点燃的微小希望之火,至今仍在人们心中不断蔓延。
ブリタニア側に残る選民意識や治安悪化などの問題もあり、全てが上手くいくわけではないけれど。
尽管布里塔尼亚仍存在精英意识和治安恶化等问题,但并非一切都能顺利进行。
穏やかな表情の内側に強い意思を宿して、ナナリーが言う。
“娜娜莉神情温和,眼底却藏着坚定意志,她开口说道。”
「ナンバーズは解放され、貴族制度は解体されました。これからは皆が希望する場所で、分け隔てなく学ぶことができるようにしていけたらと思うんです」
“‘Numbers 已经获得解放,贵族制度也废除了。今后我希望能够让所有人不分高低贵贱,都能在向往的地方学习。’”
「そうですね」 “‘说的没错。’”
「あの、アッシュフォード学園のように」 「就像阿什弗德学园那样」
その言葉を聞いた途端、既に亡くしたはずの僕の心臓が爪を立てられたようにキリリと痛んだ。
“听到那句话的瞬间,本应早已死去的心脏突然像是被利爪攥住般尖锐刺痛起来。”
そこは人種や立場や捕らわれず、ただ一人の学生として手足を自由に伸ばすことを許された場所。明日には忘れてしまうようなくだらないことで笑い、泣き、怒ることができた場所。悪意や敵意があれば、それを打ち消すほどの善意や良心もある、毎日が鮮やかで、賑やかで、そして――君がいた場所。
“这里不问种族、立场或身份,允许学生自由舒展四肢。是可以为明天就会遗忘的琐事欢笑、哭泣、愤怒的地方。若有恶意与敌意,就有足以抵消它们的善意与良知,每个日子都鲜活得耀眼,热闹非凡,而且——是你曾存在过的场所。”
あの頃のことを思い出すことも、そもそも思い出と呼べるものもほとんどないけれど、彼と友達でいられた大切な時間と結びつくあの学園の名は、その響きだけでキラキラとまばゆい光の欠片を散らす。
虽然如今回忆往昔,几乎也找不到什么能称之为回忆的事物,但与那段和他作为朋友共度的珍贵时光紧密相连的那座学园之名,光是念及便觉璀璨耀眼,仿佛散落着无数光芒的碎片。
どんなに焦がれても戻ることのできない、その眩しさは、僕の胸に深く鋭く突き刺さる。
“无论多么渴求也无法挽回的这份炫目,正深深刺痛着我的胸膛。”
「教育だけではなく……私の目指す国の在り方は、私立アッシュフォード学園なんです」
“「不仅是教育层面……私立阿什福德学园正是我所追求的国家理想形态」”
「ナナリー、様……」 “「娜娜莉……大人」”
「懐かしいですね」 「真是令人怀念啊」
ぽつりと落とされたナナリーの呟きは、僕に向けられたものではなく、けれど僕に聞いていて欲しかったもののように思えた。
娜娜莉零落飘散的低语并非指向我,却让我觉得那些话正是希望被我听见的。
ナナリーの一番大切なものを奪ったのはゼロである僕だ。だがその小さく美しい唇に、恨み言や詰る言葉が乗ったことはない。ゼロが誰であるかわかっていて、ルルーシュの意図を恐らく限りなく正確に近いところまで掴んでいて、だからこそ流れ着く先のない寂しさをずっと抱えたままでいるのかもしれない。
夺走娜娜莉最重要之物的,是身为零的我。然而那娇小美丽的唇瓣,却从未吐露过怨言或责备的话语。她清楚零的真实身份,或许也近乎无限准确地把握住了鲁路修的意图。正因如此,才一直怀抱着无处可去的寂寞吧。
幼い頃に母親を殺されたナナリー、父を殺してしまった僕。僕たちの目に映る光景に、心安らぐものはあまり多くなかった。
幼年时母亲遇害的娜娜莉,杀死了父亲的我。映入我们眼帘的风景里,能令人心安的事物实在寥寥无几。
数少ない光の欠片を集めたら、その中にはあのアッシュフォード学園での日々があって、僕らの大切な人はあの学園を他よりもほんの少し気に入っていたから、きっと僕らの目にもあの場所が理想の世界のように輝いて見えるんだ。ナナリーも僕も、君がいる世界での喜びしか知らないから。
将那些为数不多的光之碎片收集起来的话,其中就有在阿什福德学园度过的时光。因为我们珍视的人比其他地方更偏爱那所学园,所以在我们的眼中,那个场所也一定如理想世界般闪耀着光芒吧。娜娜莉和我,都只知道有你在的世界的喜悦。
ぼんやりと遠くを見るナナリーの目には今、同じ色の瞳をした優しい兄の姿が映っているに違いない。
娜娜莉恍惚望向远方的双眸中,此刻一定映出了那位与她有着相同瞳色的温柔兄长身影。
ナナリーの視線の先を追うように車窓の外に目を向けたそのとき、物凄いスピードで走ってくる対抗車線のトラックが視界に入った。
“当我顺着娜娜莉的目光望向车窗外时,对面车道上一辆疾驰而来的卡车猛然闯入视野。”
それを危険だと察知したのは、これまで戦いに身を置いていた人間の持つ直感に他ならない。対抗車線側に座るナナリーに覆い被さるように、勝手に体が動いていた。
“能瞬间察觉到危险,全凭这具在战场上淬炼过的躯体所保留的生存本能。未等思考,身体已经擅自扑向坐在对侧座位的娜娜莉,用身躯将她完全笼罩。”
今まで体感したことのない強い衝撃が全身を襲ったのは、その直後の出来事だった。
“从未体验过的强烈冲击感席卷全身——这是发生在下一瞬间的事。”
いつから気を失っていて、いつ意識を取り戻したのだろう。気がつけば視界が緋色に染まり、周りの景色はゆらゆらと陽炎のように揺れていた。オイルか何かが焦げる匂いで肺が圧迫される。
“不知何时失去了意识,又不知何时苏醒过来。当视野重新聚焦时,眼前已浸染成绯红色泽,周遭景物如同热浪般摇曳晃动。肺部被刺鼻的焦糊味压迫着,像是某种机油燃烧的气味。”
状況は? と体を動かそうとした途端、うめき声が口を突くほどの激痛が走った。
正欲活动身体确认状况时,一阵剧烈的疼痛突然袭来,喉间迸出不受控制的痛吟。
下腹に力が入らないことを不思議に思って視線を下げると、何かの柱かと思うほど太い鉄の塊が自分の腹部から突き出ている。
正诧异为何使不上腹部的力道,低头却看见粗如梁柱的金属块从自己腹腔穿透而出。
「あ、れ……?」 「啊、咧……?」
なんだろう、これ。ありえない場所にある、ありえないもの。退かさなきゃ。そう思うのに、その塊で串刺しにされたかのように身体が動かない。ゼロの上着が太腿のあたりまで、じっとりと赤黒く濡れている。
“怎么回事…这是…不该出现在这里的异物。得移开才行——明明这样想着,身体却像被那团东西贯穿似的动弹不得。零的外套下摆直到大腿部位,都被暗红血渍浸得透湿。”
吸い込む空気は喉を焦がすほど熱く、皮膚がちりちりと焼ける。目の前で揺らぐこの緋色は炎だ。そう認識したと同時に、自分が仮面をしていないことに気がついた。
“吸入的空气灼烧着喉咙,皮肤滋滋作响地发烫。眼前摇曳的绯红是火焰——当意识到这点时,我才惊觉自己脸上没有覆着面具。”
まずいな、ゼロが枢木スザクだとばれるわけにはいかないのに。正体が知られてしまうくらいなら、いっそこの体ごと粉々に吹っ飛ばしてくれたほうがよかった。防弾車だったことが災いしたな。
“糟了,绝不能让零就是枢木朱雀的身份暴露。与其让真实面目被识破,倒不如让这副身躯当场炸得粉碎更好。防弹车反倒成了累赘。”
そもそもはなんだっけ。ああ、あのトラックだ。ナナリーを庇う前に見たあのトラック、あれが突っ込んできて……ただの衝突事故なら、辺りの建物までひしゃげて焼け焦げるような、こんな爆発事故のような惨状にはならない。これはテロなのだろうか。
事情究竟是怎么发生的来着。啊,是那辆卡车。在护住娜娜莉前看到的那辆卡车,它直冲过来……若只是单纯的车祸,绝不会让周遭建筑都扭曲变形烧成焦黑,演变成这般如同爆炸事故的惨状。这难道是恐怖袭击吗。
地にだらりと垂れた僕の手の傍で、折り紙の花が赤く汚れていた。そうだ、ナナリーはどこへ?
在我无力垂落的手边,折纸花被染得通红而污浊。对了,娜娜莉去哪儿了?
「くぁ……っぐ、うッ!」 「呃啊……咕、呜!」
身体に突き刺さった杭を抜こうと足の裏で地面を掻いただけで、堪えようのない悲鳴が漏れた。
试图拔出刺入身体的木桩,脚底刚在地面蹬踏几下,就忍不住发出凄厉的惨叫。
でも探さなきゃ、僕がナナリーを守らなきゃ。ルルーシュの代わりに。ルルーシュがしたかったことを、したくてもできなかったことを、僕が。
但我必须找到她,我必须保护娜娜莉。作为鲁路修的替代者。鲁路修曾经渴望做却未能完成的事,就由我来实现。
だけどそれは僕のための気休めに過ぎなくて、ナナリーが心の底では君を望んでいることも知っている。僕らの視線は、もういない君を間に挟むことでしか重ならない。
可这不过是自我安慰的借口,我深知娜娜莉心底真正渴望的是你。我们的视线,唯有通过夹在中间却已不在此处的你,才能得以重叠。
いや、僕はもうずっと長い間、誰かと目を合わせることを拒み続けてきたんだ、鏡の中の自分とでさえ。
“不,我已经逃避与他人的目光交汇太久,甚至连镜中的自己都拒绝直视。”
ああ、君だけだった。記憶の中の君が、最期の君だけが、だから僕は君に、もう一度だけでいいから、君に。
“唯有你。记忆中你的残影,临终时你的模样,所以我才想恳求你——哪怕仅此一次,让我再次......”
「――スザク」 「——朱雀」
他人の声でその名を呼ばれるのは、随分と久しぶりのことのように思えた。かろうじて動かせる視線をめぐらせると、赤く霞む視界にも鮮やかに映える緑色の髪が見える。
被人用声音呼唤那个名字,仿佛已是暌违多年的事。勉强转动视线望去,泛着血红的朦胧视野中,鲜亮的绿发依旧灼灼刺眼。
そこにあったのは、あのゼロレクイエムの日以来、行方の知れなかった不死の魔女の姿だった。
出现在那里的,正是自零之镇魂曲那日以来便下落不明的不死魔女的身影。
熱風に髪を翻し、彼女は一歩一歩近づいてくる。C.C.と、そう声にしたつもりだったのに、ごぷりと口から溢れてきたのは生ぬるい血だった。
“热风掀动她的发丝,她一步步走近。我明明是想呼唤 C.C.这个名字的,口中溢出的却只有温热的鲜血。”
「間に合わなくて、すまなかった」 「抱歉,没能赶上」
目の前で足を止めたC.C.が、僕を見下ろしてくる。
在眼前停住脚步的 C.C.正俯视着我。
これは痛みと混乱が見せた幻覚だろうか。でも、もしも本当にC.C.がいるのだとしたら。
“这是痛苦与混乱制造的幻觉吗?但如果 C.C.真的存在......”
「ナ、ナリー、を……」 “娜、娜娜莉...呜......”
彼女を助けて欲しい。ナナリーの命は、この世になくてはならないものなんだ。
请救救她。娜娜莉的生命,是这世上不可或缺的存在。
どうしてC.C.がここにいるのか、なにが起きているのかもわからないけれど、どうか。
虽然不知道 C.C.为什么会在这里,也不知道发生了什么,但无论如何。
そう訴えるように血濡れた唇を喘がせると、C.C.の眉がほんの一瞬だけ痛ましげに寄ったように見えた。
“带着泣血般的控诉喘息时,C.C.的蛾眉仿佛瞬间凝结着令人心碎的痛楚。”
「ナナリーは……いや、ナナリーは先に安全な場所へ運んだ。安心していい」
“娜娜莉已经...不,娜娜莉先被转移到安全区了。不必担心。”
そう言って、C.C.はべとりと赤く染まる自身の手の平を握り込んだ。
绿发魔女说着,将沾染黏稠猩红的手掌攥成拳头。
よかった、ナナリーさえ守れたなら、僕は。 “太好了,只要娜娜莉平安无事,我......”
安心した途端、まだ杭が刺さったままのそこから、緩んだようにどくりと腹から血が溢れてきた。手足の先から力が抜けて、だんだんと冷たくなっていく。
刚放下心的瞬间,木桩仍插着的伤口处突然松弛,腹中鲜血咕嘟涌了出来。指尖和脚尖的力气逐渐流失,体温随着血液的流逝渐渐变冷。
「お前はそんなになっても他人のことか。自分を省みない、体力馬鹿のお人好し。あいつが心配していたとおりだ」
“你都这样了还在担心别人吗?从不反省自己,只会滥用体力的老好人。那家伙担心的果然没错。”
そうC.C.のついた悪態は、僕の中に眠る懐かしい感覚を呼び起こしてくれた。
“C.C.的毒舌总能唤醒我体内沉睡的某种怀念感。”
天然、頑固者、お人好し、体力馬鹿。君の悪口はいつだって辛辣な言葉のくせして甘口で、誉められているかのように勘違いしそうになるんだ。
“天然呆、顽固分子、老好人、体力笨蛋。你那些看似尖酸刻薄的吐槽总裹着糖衣,害我差点要以为是夸奖了。”
ルルーシュ。 “鲁路修。”
僕は君のことが好きだった。君がいなくなるまで気がつかなかった大馬鹿者だから、君のいない世界で苦しむことが僕の罰だったんだろうけれど、もうそろそろいいだろうか。
“我曾那样喜欢过你。直到你消失才察觉心意的超级大笨蛋,或许在失去你的世界里受苦就是对我的惩罚吧。但这份煎熬,现在差不多可以结束了吧。”
目の前が暗く霞み、次第にC.C.の姿も薄れていく。体の痛みも熱さも曖昧になってきた。
眼前蒙上昏暗的雾霭,C.C.的身影逐渐淡去。身体的疼痛与灼热都变得模糊不清。
このまま僕は死ぬのだろうか。ああ、そうしたら。 “我就要这样死去了吗。啊,若是这样的话。”
「る、るーしゅに……あえる、かな」 “卢、卢修......我还能......见到你吗?”
会いたいなぁ。そう僕は呟いた。君に会いたい。会いたいよ。
好想见你啊。我这样低语道。想要见到你。好想见你。
「……死にたいんだな、お前は」 “......你其实是想死吧。”
C.C.の一言が遠いところで揺らぐ。 C.C.的话语在遥远的地方回荡。
そうだ、君に託された明日を生きているのに、なにを守りきっても僕はずうっと虚しかった。情けないけれど、もう疲れてしまったんだ。世界を守ると誓い、その信念を両足に履いて歩き始めたくせに、その靴底はこの三年間で薄っぺらに磨り減ってしまった。
是啊,明明正活在托付于你的明日之中,无论守护住什么我都始终空虚。虽然很没出息,但我已经精疲力尽了。明明曾发誓要守护世界,将那份信念当作双足踏上旅途,可这双鞋底短短三年就被磨得薄如蝉翼。
この体も使い物にならなさそうだけれど、なにより再び立ち上がるだけの気力が沸いてこない。
这副身体似乎已经无法再派上用场,但更重要的是,我连重新振作起来的力气都没有了。
そうか、これが死か。長かったような、短かったような気もするけれど、僕はやっと死ねるのか。
是吗,这就是死亡啊。虽然感觉既漫长又短暂,不过我终于可以死了吗。
そうして重い泥のような安らぎに身をゆだねかけたそのとき、体の奥底で誰かの声が響いた気がした。
正当我试图沉溺于那如淤泥般沉重的安详时,身体深处仿佛传来了某个人的声音。
**
ピピピ、と鳴るアラームの音に、僕は勢いよく瞼を開ける。
“哔哔哔”的闹钟声里,我猛地睁开了眼睛。
綺麗な白い光に包まれる中、僕は自室のベッドの上にいた。
笼罩在美丽的白色光芒中,我正躺在自己房间的床上。
「え……?」 「咦……?」
見上げ慣れた天井に視線を据えたまま、僕はおそるおそる自分の体へと手を這わせてみる。下腹に穴が空いているわけでもなければ、どこか痛む場所もない。いたって健康な僕の体だ。
我抬头仰望着早已看惯的天花板,小心翼翼地让手在自己身上游走。腹部也没有破洞,更没有任何疼痛的地方。我这副身体依然健康得很。
「夢?」 「梦?」
ぼんやりとした頭で導き出した結論はそれだった。 “昏沉的头脑得出的结论便是如此。”
どんな内容の夢だったか、起きた直後は覚えていたはずなのに、いざ思い出そうとすると記憶は霞みがかったように逃げてしまう。とても大事な夢を見たような気がするのだけれど。
“明明刚苏醒时还记得梦境的内容,真正要回想时记忆却如晨雾般消散。总觉得那是个至关重要的梦。”
今日はEUとの大事な会議が控えている。夢に迷わされていつまでもぼうっとしているわけにはいかなかった。
今天还有与欧盟的重要会议要开。决不能一直沉溺于梦境而浑浑噩噩下去。
僕はベッドから身を起こして大きく体を伸ばし、そのまま軽くストレッチに移る。
我从床上支起身子,大大地舒展了一下身体,接着轻轻做起拉伸运动。
ルルーシュの墓参りに行ったのはほんの数時間前のことなのに、妙な夢を見たせいか、その出来事が随分と遠く思えた。
“明明几小时前才去给鲁路修扫过墓,许是做了怪梦的缘故,那段记忆竟显得格外遥远。”
乾いた自分の唇を指でなぞる。夢でいいから会いたいと、ルルーシュが眠る場所にキスをした。夢の中で君に会えたような気がしたけれど、それも上手く思い出せない。
“指尖抚过自己干涸的嘴唇。在鲁路修长眠之地,我以渴求在梦中相会的心情献上一吻。恍惚间觉得在梦里与你重逢过,可连那份记忆都变得支离破碎。”
君は意地悪だなと、ふいに泣きたい気分になる。やっと会えたのかもしれないのに、思い出も残してくれないなんて。
“你真是坏心眼啊——突如其来的酸楚漫上鼻尖。明明好不容易才相见,却连回忆都不肯为我留下。”
身支度をしているところに外部からの通信が入ってきたので、僕は音声のみの回線を開いた。
我正在更衣时突然接到外部通讯请求,于是开启了纯语音通讯频道。
「おはようございます、ゼロ様」 “早安,零大人”
通信の相手はシュナイゼルだった。 通讯界面显示对方是修奈泽尔。
「本日十五時からEUとの会談ですが、天候不良のため先方の飛行機が遅れていると連絡があり、開始時刻が延びる見込みです」
「今日 15 点开始的欧盟会谈,因天气恶劣对方飞机延误,预计开始时间将推迟」
今日は天気が荒れるのだろうか。思わず口をついて出た疑問に、律儀にもシュナイゼルが応じる。
今天天气会变糟吗?面对这脱口而出的疑问,施耐泽尔一板一眼地给出了回答。
「ブリタニアは雲ひとつない快晴ですよ。ゼロもご覧になってみればいかがです?」
“不列颠尼亚现在可是万里无云的好天气呢,Zero 大人要不要亲自确认下?”
それは彼なりのジョークなのだろうかと眉を寄せた瞬間、妙な既視感に捕らわれた。
正皱眉思索这是否属于他特有的冷笑话时,某种诡异的既视感突然攫住了我。
「シュナイゼル」 “修奈泽尔”
「はい」 “是”
「私は前にもそんなことを言われた気がする」 “我好像之前也被这么说过”
「そうでしたか?」 “是这样吗?”
「ああ」 “啊。”
貴方のそれは冗談なのですかと聞きたかったけれど、どう答えを返されても僕が反応に困りそうだったので、やめておいた。
“您这话是在开玩笑吗”——我本想这么问,可无论得到怎样的回答都怕自己会手足无措,终究还是把话咽了回去。
「先ほどの話ですが、時間に余裕ができそうですので、ナナリー様のご視察が終わられるまで、出発をお待ちになりますか?」
「关于方才的提议,既然时间尚有余裕,是否要等到娜娜莉大人结束视察再启程呢?」
「そうしよう」 「就这么办吧」
「かしこまりました。それでは後ほど」 「明白了。那么稍后再联系」
通信を切った後にも、何かが引っかかるような感覚が抜けきらなかった。
“挂断通讯后,仍有种如鲠在喉的感觉挥之不去。”
その違和感が僕を動かしたのは、午前中のテレビ会議が延長に縺れ込もうかというときだ。
“这份异样感驱使我行动时,正值上午的视频会议眼看就要陷入延长的泥沼。”
このまま話し合いを続けていても結論が出ないと、なぜか僕は確信していた。時計の針が正午を差す前に、申し訳ないがと断りを入れて会議の席を立つ。
“不知为何我确信继续讨论也不会有结果。在时针指向正午之前,我起身道歉并离开了会议室。”
午後の予定には余裕ができたというのに、僕の意識は政庁へ戻ることを急いでいた。理由のない焦りなんて初めてで、正直僕自身が困惑している。
下午的行程明明变得空闲,我的意识却催促着我返回政厅。这种毫无理由的焦躁感还是头一遭,说实话连我自己也感到困惑。
だが政庁の敷地内で車を降りて建物内に足を踏み入れた瞬間、僕の頭の中にはっきりと、まるでキーボードで一文字ずつ打ち込まれたかのように、ここへ来るべき理由が浮かび上がった。
“然而当我在政厅院内下车踏入建筑物的瞬间,一个清晰的理由如同被键盘逐字敲入般浮现在脑海中——这正是我必须来此地的原因。”
急ぎ携帯電話を取り出して、ゼロの執務室にいるシュナイゼルに電話をかける。
“我急忙掏出手机,给正在零之执务室的修奈泽尔打电话。”
ツーコール目で繋がった相手の言葉を待たずして、僕は相手に問い掛けた。
“第二声铃响后,未等对方开口我便抢问道。”
「皇神楽耶は来ているか?」 「皇神楽耶来了吗?」
**
政庁の内部にある応接の間、大きな革張りのソファに座って、その女性はゼロである僕を待っていた。
政厅内部的接待室里,那位女性坐在宽大的皮革沙发上,等待着身为零的我。
「ゼロ様、お久しゅうございますわ。お会いできてよかった!」
“Zero 大人,久疏问候。能见到您真是太好了!”
「お久しぶりです。今日はいかがされたのですか、神楽耶様」
“好久不见。今日您大驾光临有何贵干,神乐耶大人?”
かつての負けん気が強い活発だった少女は、見ないうちに少しばかり大人の女性らしく成長を遂げていた。だが真っ直ぐな黒髪と、僕と同じ色をした大きな目の輝きは変わらない。
昔日那个争强好胜的活泼少女,在我未曾留意时,已出落得有了几分成熟女性的风韵。唯有那一头笔直黑发,和与我同色的大眼睛里的光芒不曾改变。
彼女はその目元にいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
她眼角浮现出一抹恶作剧般的笑意说道。
「用というほどのこともないのですけれど……元夫である貴方様の顔が見たいと思うのは、妻であった者としてそんなに不自然なことでもありませんでしょう?」
“倒也说不上什么要事......不过作为曾经的妻子,想见见自己前夫的脸庞,也不算多不自然的事吧?”
仮面の男に、顔なんてあったものじゃないと思うんだけど。
不过,我觉得面具男本来就没有脸这种东西吧。
「体調はいかがです? 不摂生などしておりませんこと? いくらお体に自信がおありでも、過信はなりませんよ」
“您身体如何?没有过什么不规律的生活吧?就算对自己的身体再有信心,过度自信可不行哦。”
その詰め寄り方は、まるで夫の生活習慣を管理する妻のようだ。
“这种步步紧逼的架势,简直像妻子管束丈夫生活习惯似的。”
神楽耶は今も、ゼロの元婚約者だと主張している。ルルーシュが神楽耶とどんな約束をしていたのか知らないけれど、あちこちで女の子に気を持たせておいて、そのくせ誰にも応えずにいなくなってしまうんだから困った男だ。おかげで今僕が、神楽耶の前で困惑する羽目になっているじゃないか。
“神乐耶至今仍坚称自己是 ZERO 的前未婚妻。虽然不知道鲁路修究竟与她有过什么约定,但这家伙总到处让女孩子对他抱有期待,最后又不告而别,真是个让人头疼的家伙。害得我现在要在神乐耶面前不知所措。”
まさか神楽耶の用ってこんなことじゃないだろうな。いや神楽耶だから、ありえる。
“神乐耶的来意总不会是这个吧。不,因为是神乐耶,还真有可能。”
内心うんざり溜息を吐きかけると、図ったように神楽耶の声のトーンが変わった。
她不由得在心底叹了口气,而神乐耶的声音却像是算准时机般骤然一变。
「ゼロ様、なにか身辺、変わったことはございませんか?」
「ZERO 大人,您身边是否发生了什么变故?」
「……と、いいますと?」 「……您是指?」
先を促す僕から、神楽耶はふいと視線を逸らす。赤いカーテンに縁取られた窓の外には、澄んだ薄い空の色。
“我催促着,神乐耶却忽然移开了视线。被红色窗帘框起的窗外,是一片清澈的淡色天空。”
「悪逆皇帝ルルーシュの没後、三年経ちますわね」 “暴虐皇帝鲁路修驾崩后,已经过去三年了呢。”
ああもう三年、だけどやっとの三年だった。 啊,已经三年了,但却是好不容易熬过的三年。
「ルルーシュ皇帝に均しく国力を削がれたおかげで、どこの国も今ここで戦争を仕掛けようなどという馬鹿な考えは持っておりません。ですがゼロ様、貴方様の周辺は近頃少しばかり賑やかになっているようですわ」
「多亏鲁路修皇帝平等地削弱了各国国力,如今没有哪个国家会愚蠢到想要在此刻挑起战争。不过 Zero 大人,您身边最近似乎有些热闹起来了呢」
お心当たりがおありでしょうが。そう神楽耶に言われて、僕の頭に浮かんだのは。
您应该心里有数吧。被神楽耶这么一说,我脑海中浮现的是。
「悪逆皇帝の支持派ですね。先日の第一次ブラックリベリオン追悼式典でも、火炎瓶所持の男が逮捕されています」
「是暴虐皇帝的支持派吧。前些天在第一届黑色叛乱追悼典礼上,还有个持火焰瓶的男人被逮捕了」
ブリタニアの強制支配からの解放を受けて三年。ルルーシュ皇帝時代の圧力のおかげで各国の武力放棄に対する意識は高まったが、この三年で少しずつ足並みの崩れも顕在化してきた。その綻びの中から生まれてきた集団の一つが、悪逆皇帝の圧制を是とする一派だ。
从不列颠尼亚强制统治下获得解放已有三年。得益于鲁路修皇帝时代的强权压迫,各国对放弃武力的意识有所提高,但这三年间各国步调逐渐紊乱的迹象也开始显现。从这些裂痕中诞生的组织之一,便是主张暴虐皇帝铁腕统治正当化的派系。
窓の外を眺めたまま、神楽耶が言う。 神乐耶望着窗外说道。
「ルルーシュ皇帝のお顔は、とても美しくていらっしゃいましたわね。それこそ逢魔が時に出逢う、人を魅入らせ狂わす鬼のように」
“鲁路修陛下的容颜,当真是美得惊心动魄。简直像逢魔时刻现身的、会蛊惑人心令人发狂的鬼魅那般。”
「鬼、ですか」 “鬼吗?”
「実は、私にも鬼に魅入られた経験があるのです。いやに理に適った物言いをする、頑なで美しくて、どこか寂しそうな目をした鬼に。ねえゼロ様、あの方は本当に恐ろしい方でしたわね」
“其实我也曾被鬼魅蛊惑过呢。那是个说话意外合乎情理,固执又美丽,眼神却透着寂寞的鬼。您说对吧 ZERO 大人,那位当真是位可怕的存在呀。”
くすくすと笑い出す彼女が、一体何のことを言っているのかはわからなかった。ただ、神楽耶はルルーシュをただの悪逆皇帝とは見ておらず、それどころかかつてゼロを支持していたときのような情熱を向けていることを知っている。
她嗤嗤发笑的模样,让人完全摸不清话中真意。但我知道,神乐耶并未将鲁路修视作单纯的暴虐皇帝,倒不如说此刻她眼中燃烧的,正是昔日支持 ZERO 时那般炽热的光芒。
「ですから、ルルーシュ皇帝を神格化し、己の利害など投げ打ってのめり込む輩がいるという事実も予想のうちです。個々であるうちはよくても、集団化した途端に憧れや理想を掲げて暴走し始めるのも、想像に易いですわ」
「正因如此,将鲁路修皇帝神格化、甚至不惜抛却自身利害关系沉溺其中之人的存在,也在预料之中。个体尚可控制,一旦形成群体高举憧憬与理想开始失控暴走,这般光景亦不难想象。」
悪逆皇帝の支配した世界こそ至高だったとする狂信ぶり、薄暗い中でごそごそと虫が蠢いているような気味の悪さをもった集団が、近頃になって表舞台に出てきた所を見ると、裏に何らかの組織が関係しているように思われるが、未だ全貌は見えていない。
最近这个高呼'暴君统治的世界方为至高'的狂信集团开始浮出水面,其宛如阴暗角落蠢动虫豸般令人作呕的特质,令人生疑背后似乎有某种组织在操控,只是至今尚未窥见全貌。
それでも、彼らの目的だけはわかる。 即便如此,他们的目的也昭然若揭。
神楽耶はこちらに視線を据えて、きっぱりとこう告げる。
神乐耶将目光定格在我们这边,斩钉截铁地如此宣告。
「彼らが排したがっているのは、ゼロ様、貴方です」 「他们想要排除的,正是零之阁下——您本人」
悪逆皇帝を討ち、英雄と讃えられるゼロという存在を、地に落とすこと。
“将讨伐暴虐皇帝、被奉为英雄的零之存在彻底打入尘埃。”
狙われているのは他の誰でもない、僕だ。 “被盯上的不是别人,正是我自己。”
「それでも私は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを否定し続けます」
“即便如此,我仍要继续否定鲁路修·Vi·布里塔尼亚。”
どれほどの危険があっても、僕は逃げない。それがルルーシュとの約束だからだ。
“无论面临何等危险,我都不会逃避。因为这是和鲁路修的约定。”
「ええ、ゼロ様のお覚悟は承知しております。ですから、どうかお気をつけて。首脳会議はテロリストにとって格好の舞台ですもの」
“是的,属下深知 Zero 大人已抱持觉悟。因此,请您务必多加小心。首脑会议对恐怖分子而言可是绝佳的舞台呢”
「国内の警備は増強されています、ご安心ください」 “国内安保已全面升级,请您放心”
僕としては普通の受け答えをしたつもりだったのに、どうしたことか神楽耶は明らかな呆れを表情に乗せた。
我自认为只是做了普通回应,不知为何神乐耶脸上却浮现出明显的愕然神色。
「もう、わかっておりませんわね! 貴方の周りの警備が手薄という意味で申し上げているというのに!」
「真是的,您完全不明白啊!我是在说您身边的安保人手太薄弱了呀!」
「え……?」 「咦……?」
「ゼロが『え?』だなんて間の抜けた声を出すんじゃありません」
「Zero 先生请不要发出'诶?'这种傻里傻气的声音」
ぴしりと説教されて僕は口篭る。部屋に二人きりなうえに、ゼロの中身が僕だと気付いているからこその、この態度だ。
“被严厉训斥后我噤了声。房间里只剩我们两人,正因为察觉到我体内藏着零的灵魂,他才会用这种态度对待我。”
僕の体は頑丈にできているし大丈夫、それよりもナナリーの警護を……と考えたところで、胸が妙にざわついた。僕はなにかを取り違えているのではないか、そんな疑念が頭を過ぎる。
“我的身体构造很结实不要紧,比起这个更应该考虑娜娜莉的护卫问题......”想到这里,胸口莫名涌起一阵焦躁。难道我错判了什么?这样的疑虑掠过脑海。
しかし考えをめぐらせるうち、その違和感は掴みどころなく指の先から逃げていってしまった。
“然而在反复推敲的过程中,那股违和感却变得难以捉摸,如同流沙般从指缝间悄然消逝。”
「ここ暫くの間、反ゼロ派組織の動きをマークしている者がおりますわ。追って貴方に接触があるでしょう。我らの動きが無駄にならないよう、くれぐれも用心してくださいませ」
“近期有势力在监视反 ZERO 派组织的动向。很快会有人与你接触。为了不让我们的努力白费,请您务必小心谨慎。”
水晶のような神楽耶の瞳が、仮面のゼロをまっすぐに映す。
神乐耶水晶般的瞳孔里,清晰倒映着假面下的 ZERO。
「もはや力なきキョウトですが、皇はゼロ様のお志をお手伝いしたいと思っております」
「如今的京都虽已势微,但皇仍愿为 Zero 大人的宏图略尽绵薄之力」
小さな頃から変わらない、彼女の強さと優しさに自然と頭が下がった。
自儿时起从未改变的那份刚柔并济,让我不由自主地俯首称臣。
「ありがとうございます、神楽耶様」 「感激不尽,神乐耶大人」
「他人行儀はおやめくださいな。……と、ごめんなさい、つい話し込んでしまいましたわね。そろそろ失礼させていただきますわ」
“请别这么见外。......啊,抱歉,一不留神就聊了这么久。妾身也该告辞了”
そう言って席を立った神楽耶を見送ろうとすると、そんな暇はないでしょうときっぱり断られた。こういうところも彼女らしく、確かに次の予定が入っている僕としてはありがたい。
我正要起身送别神乐耶,却被对方斩钉截铁地回绝"您可没这闲工夫吧"。这般雷厉风行的作风倒符合她的性格,对于接下来另有安排的我而言确是求之不得。
応接室の外で簡単に別れの挨拶をして、互いに踵を返す。しかし数歩も歩かないうちに、はたと僕は振り返った。
在会客室外简单道别后,我们各自转身离去。然而没走出几步,我突然猛地回头张望。
「あっ……あの!」 「啊……那个!」
去っていく彼女を慌てて呼び止める。神楽耶とその周りのSPから驚きの視線を受けて少し恥ずかしくなったけれど、聞きそびれたことがあったのだ。
我慌忙叫住正要离去的她。被神乐耶和周围保镖们投来诧异的目光,虽然有些难为情,但确实有件必须问清楚的事。
「私に接触してくる相手というのは……?」 「主动接近我的人是……?」
相手が誰であるかわからなければ、こちらも準備のしようがない。僕の問いに、神楽耶は意味ありげな笑みを浮かべてこう言った。
若是连对手是谁都搞不清楚,我们也无从准备。面对我的质问,神乐耶浮现意味深长的笑容如此说道。
「三人官女のうちの一人、ですわ」 「是三位官女中的其中一位呢」
**
今朝目が覚めた瞬間から、僕はどこか別の世界にいるかのような、そんな不思議な感覚に囚われ続けている。世界ががらりと変わってしまうことなど考えられないので、おかしくなったのだとしたら僕のほうだ。
从今晨睁眼的瞬间开始,我就持续被某种奇异的感受所萦绕,仿佛置身于另一个世界。既然世界不可能骤然改换天地,若说有什么变得不对劲的话——那一定是我自己脑子出问题了。
とても大事なことがあるはずなのに、意識の奥底に引っかかって思い出せない。歯がゆさが次第に焦りに変わり始める。
“明明有非常重要的事情,却卡在意识深处无法想起。焦躁逐渐开始转化为焦虑。”
「ゼロ、どうかされましたか?」 “零,您没事吧?”
ふいにナナリーから顔を覗き込まれて、少しばかり驚いた。
娜娜莉突然凑近端详我的脸,让我稍稍吃了一惊。
そういえば、会議の場所へと向かう車に同乗してからいくらか時間は経っていたが、ナナリーとは会話らしい会話ができていなかった。
“说起来,自从同乘前往会场的车辆后已经过了些时间,我却始终没能和娜娜莉进行像样的对话。”
「すみません、少し考え事を」 “抱歉,刚才在想事情。”
「お仕事に真面目なところがゼロらしいですけれど、あまり根を詰めないでくださいね」
“虽然看不出您有认真工作的样子,但还请别太勉强自己哦。”
気を遣ってか、ナナリーは僕に優しく笑いかけてくれる。
或许是顾虑到我的感受,娜娜莉朝我温柔地笑了笑。
「あっ、そうだ。私あなたにお見せしたいものがあったんです」
「啊,对了。我有样东西想给你看」
そうして彼女が取り出してきたのは。 接着她取出的东西是——
「これ、さっきお話した子からいただいたんですよ」 「这是刚才提到的那个孩子送给我的哦」
ナナリーの手に乗る折り紙の花を見た瞬間、ぶわっと全身が総毛立った。
“看见娜娜莉掌心那朵折纸花的瞬间,我唰地浑身寒毛倒竖。”
僕は知っている。この折り紙の花が赤く染まる光景を。平和な世界が一変して炎に包まれることを。この後に起こる、取り返しのつかない惨劇を。
“我知晓这一切。知晓这朵折纸花被鲜血染红的景象。知晓和平世界骤然化作火海的变故。更知晓接踵而至的、这场无可挽回的惨剧。”
――思い出せ。僕はこの状況を、知っている。 “——回想起来。这般情形,我曾亲历。”
バッと顔を上げて、今の現在地を確認する。対抗車線の車がなくなった隙を狙って、僕は後部座席から身を乗り出し、運転手の持つハンドルを強引に右へ切った。
“我猛地抬起头确认当前位置。趁着对向车道无车的空档,我从后座探出身,强行将司机手中的方向盘往右猛打。”
タイヤのスリップする耳障りな音と共に、車が脇道に滑り込む。予期せぬ遠心力に引っ張られて、踏ん張る力のないナナリーの体が大きく傾ぐのが、フロントミラー越しに見えた。
“伴随着轮胎打滑的刺耳声响,车子滑进了岔道。透过后视镜,我看见娜娜莉因突如其来的离心力被甩向一侧,纤弱的身躯无力支撑大幅倾斜。”
「どっ、どうされたのですか?」 “怎、怎么了?”
ナナリーの声に応えている余裕はなく、運転手にはこのまま政庁に戻るよう指示をした。この車の前後についていた護衛車両は、突然のルート変更に対応できず、元いた道を走っていっただろう。
“无暇回应娜娜莉的呼唤,我吩咐司机立即折返政厅。前后护卫车辆显然无法应对突如其来的路线变更,仍沿着原定路线继续行驶了吧。”
車に搭載されている緊急回線のマイクをオンにして、僕はゼロとして宣言する。
我开启车载紧急频道的麦克风,以 ZERO 的身份向外界宣告。
「こちらゼロ。テロの可能性があるためAクラスの緊急発令を行う」
“这里是 ZERO。因存在恐怖袭击可能性,现发布 A 级紧急动员令。”
背後に控えるナナリーに緊張が走るのがわかった。 “我察觉到守在身后的娜娜莉浑身紧绷起来。”
この声は軍部や関係各所にそのまま伝わる。指示を誤れば被害は拡大し、ゼロの英雄像も失墜しかねない。それこそ僕の勘違いだった日には目も当てられないが、しかし僕の本能と呼ぶべきものが、この先は危険だと最大限に訴えている。
“这个声音会原封不动传达给军部和相关机构。若是指示出错,不仅伤亡会扩大,连零的英雄形象都可能崩塌。如果那真是我的误会,后果将不堪设想——但我体内那份堪称本能的东西,正在最大程度地发出危险的警告。”
思い出した。僕は、この光景を夢に見ていたのだ。 “我想起来了。这个场景,我曾在梦中见过。”
起き抜けにかかってきたシュナイゼルの電話でスケジュールのずれを知り、神楽耶とはうまく会えずに終わり、そうして突然のテロで命を落とす。にわかに信じ難いけれど、これが予知夢と呼ばれるものならば、夢を現実にするわけにはいかない。
“被清晨来电的修奈泽尔告知日程错位,最终没能和神乐耶顺利会面,就这样在突如其来的恐怖袭击中丧命。虽然难以立刻相信,但若这就是所谓的预知梦,就绝不能让其成为现实。”
「テロリストは大量の爆発物を所持しており、無差別の破壊行為に及ぶ危険性がある。警戒パターンはA-6、封鎖対象はエリアAからGとし全車両を検問にかけろ。特に大型トラックの荷台に注意」
“恐怖分子持有大量爆炸物,极可能展开无差别破坏行动。警戒模式采用 A-6 预案,封锁区域从 A 到 G,所有车辆必须接受盘查。尤其注意大型卡车的货柜部分。”
じわりと心臓に汗を掻く。誰の策もない、僕ひとりの判断に全てがかかっている。
“心口渗出冷汗。没有任何后援策略,所有重担都压在我独自的决断之上。”
ルルーシュならば検問などかけずに犯人の場所を割り出せるのだろうけれど、正直言って僕にそこまでの機転は難しい。だからここは正攻法だ。
“若是鲁路修的话,想必不用设置盘查就能锁定犯人位置吧。但老实说,我实在缺乏这种临机应变的能力。所以这里只能采取正面突破。”
「消防およびレスキューは現場待機。警察は混乱を招かないよう速やかに周辺地域住民の退避を開始せよ」
「消防与救援队在原地待命。警方立即开始疏散周边居民,避免引发混乱。」
そこまで言い切ってから、僕はゼロ専用の携帯電話を取り出した。緊急通信を耳にしていたであろうシュナイゼルは、こちらのコールに瞬時に応じた。
说完这句话后,我掏出 Zero 专属的通讯器。正在监听着紧急频道的修奈泽尔立即接通了我的呼叫。
「シュナイゼル」 “修奈泽尔”
「上空に偵察機を三機派遣しました。各観測ポイントにおける前後二時間分の車体ナンバーも解析済みです」
“已派遣三架侦察机前往上空。各观测点前后两小时内的车辆牌照也解析完毕了。”
第一声でその対応を告げられて、彼の読みの速さに内心舌を巻く。
听到对方接起通讯后的第一句话就直奔主题,我暗自为他的信息处理速度咋舌。
「ありがとう。それから至急、本日の警護担当者の、過去一ヶ月の行動と通信記録を洗ってくれ」
“辛苦了。另外立即彻查今日当值的护卫人员——调取他们过去一个月的行动轨迹与通讯记录。”
「内通者がいると?」 「有内鬼?」
「可能性はある」 「不排除这种可能」
気付いたのは、本当に今しがたのことだ。 意识到这一点,真的就是方才的事。
神楽耶は、ゼロを狙う者に動きがあると伝えてくれた。無差別ではなく標的をゼロに搾ったテロだと仮定すると、成功させる鍵はゼロの正確な行動把握だ。
“神乐耶告诉我,针对 Zero 的势力有所行动。假设这是场目标精准锁定 Zero 的恐怖袭击而非无差别攻击,那么成功的关键就在于掌握 Zero 的精确行动轨迹。”
今日の僕の動きは、あらかじめ予定されていたスケジュールとはいくらか異なっている。当初は午前中のテレビ会議の場所から、直接EUとの会談の場所へと向かう手筈になっていた。EU側の到着が遅れ、会談の前に一旦政庁に戻ることにしたのは今日の朝。ナナリーと合流して、当初の経路とは違う道を通ることになったと知っているのは、ごく限られた数人に搾られる。
“我今天的行程与预定计划有所出入。原本上午参加完电视会议后,应该直接前往与欧盟会谈的场地。今早临时决定先回政厅,是因为欧盟代表团的抵达时间推迟。知道我会与娜娜莉汇合并改变原定路线的人,范围已经被压缩到极小。”
「わかりました。ジョーカーを炙り出しましょう」 “明白了,那就让 Joker 现形吧。”
電話越しに聞く、シュナイゼルのいつもと寸分も違わない落ち着き払った声が、ひどく頼もしく聞こえた。
“从电话那头传来的修奈泽尔声音,与平日分毫不差的从容不迫,此刻听起来竟无比令人安心。”
「私が政庁に戻るまで、全体指揮は任せる」 “在我返回政厅之前,总指挥权交由你全权负责。”
「かしこまりました」 “遵命。”
シュナイゼルとの通話を終えて、前に乗り出していた身を一旦後部座席に落ち着けると、ナナリーが不安げな瞳でこちらを見つめていることに気がついた。
“结束了与修奈泽尔的通话后,我将前倾的身子靠回后座,这才注意到娜娜莉正用不安的眼神注视着我。”
僕は自らの死を恐れてはいない。しかし僕の争いにナナリーを巻き込むわけにはいかないのだ。
“我并不畏惧自身的死亡。但决不能将娜娜莉卷入我的纷争之中。”
膝の上で硬く握られたナナリーの手をとり、僕の手袋越しの手を重ねる。
“我伸手覆上娜娜莉在膝头攥紧的拳头,隔着我的手套轻轻包裹住她冰凉的手指。”
「大丈夫ですナナリー様。この命に代えてでも、貴女を守ります」
“没问题的娜娜莉大人。即使拼上这条性命,我也会守护您。”
だが、僕の言葉を聞いたナナリーの表情が一変した。
但听到我的话语后,娜娜莉的神情骤然剧变。
誇り高き血筋に備わった覚悟と、統治者の強さと冷静さを取り戻して。
重拾那份铭刻于高贵血脉中的觉悟,以及统治者应有的强大与冷静。
「貴方も、一緒に生きてください」 「请你也与我共同活下去」
まっすぐなロイヤルパープルの瞳に射抜かれて、ドクン、と心臓が大きく鳴った。
被那双笔直望来的皇家紫瞳瞬间击穿,心脏重重咚地一跳。
君たちは兄妹揃って僕に同じことを言うのか。 你们兄妹俩倒是异口同声对我说同样的话啊。
思うと同時に、強烈な胸のざわめきに襲われた。その言葉が、願いが、僕の内側で反響する。
“意识到这点的瞬间,强烈的胸口躁动向我袭来。那个话语、那个愿望,在我体内不断回荡。”
”――生きろ!” “——活下去!”
己の手も届かない意識の奥底の、裏側の、深層レベルで揺らぐ僕の意思が、ルルーシュの命令に突き動かされる。自らの生存のためには他のすべてを犠牲にする呪い、この体の真ん中で滾るマグマが噴き出すのにも似たあの感覚を、どうして僕は今こんなにも生々しく思い出せるのだろう。
“我意识最深处那双手无法触及的、背面的、在深层领域摇曳的意志,被鲁路修的命令强行驱动着。为何此刻我竟能如此鲜活地回忆起——这具躯体中央沸腾的熔岩即将喷发般的战栗感,这道为了自身生存不惜牺牲一切的诅咒?”
ふいに、今朝の夢で見た光景が脳裏にフラッシュバックする。
“突然,今天早晨梦中见到的景象在脑海中闪现。”
僕の体に刺さった鉄片、燃える街並み、足元を浸す血かオイルかわからない液体。僕に手を差し伸べてくるシルエット、鮮やかな緑の髪をした、あれは。
“刺入我身体的金属碎片,燃烧的街道,浸没脚边分不清是血还是油的液体。那个向我伸出手的身影,拥有鲜艳绿发的,那究竟是……”
「……C.C.?」
仮面の外には聞こえないくらいの声で、僕は呟いた。
“用低到连面具外都听不见的声音,我轻声呢喃。”
どうして彼女の姿を思い出す? それも夢で見たのだろうか。
“为何会想起她的身影?难道那也是我在梦中见到的吗?”
『エリアB-6に不審車両がニ台』 “『区域 B-6 发现两辆可疑车辆』”
入ってきた通信に、ハッと我に返った。 “传入的通讯让我猛然回过神来。”
『検問を突破して逃走しました。追跡します』 “『已突破检查站并逃离,正在追踪』”
急ぎ、こちらのマイクをオンにする。 “急忙打开这边的麦克风。”
「相手は自爆も厭わない。刺激せずに、民間人のいないエリアに追い込め」
“敌人甚至不惜自爆。不要刺激他们,把他们驱赶到没有平民的区域。”
やがて何度か切迫した通信が行き交った後、その一報が舞い込んできた。
最终在数次紧迫的通讯往来后,那则消息终于传了过来。
『不審車両を拘束しました』 「可疑车辆已成功拦截」
同時に、一つのロープで手繰り寄せたように次々と成果が上がってくる。
与此同时,各项成果如同被一条绳索串联牵引般接踵而至。
『荷台に大量の爆発物を所持。解体班を要請します』 「车斗内装有大量爆炸物。请求派出拆弹小组处理」
『A-9地区、不審な動きをする男数名を捕縛しました』
『A-9 地区已拘捕数名形迹可疑的男子』
ひとまずどこにも犠牲は出なかった。これで、あの惨事は未然に防げたのだ。
暂且没有出现任何伤亡。这样一来,那场惨剧就被防患于未然了。
政庁に戻ると、ナナリーの側近たちが緊張と安堵の入り混じった表情で僕らを待ち構えていた。
回到行政厅时,娜娜莉的亲信们带着紧张与安心交织的表情守候着我们。
「ナナリー様、ご無事で何よりです」 「娜娜莉大人,您平安无事比什么都好」
「さすがゼロ様」 「不愧是 Zero 大人」
尊敬の眼差しを向けられたけれど、違う。僕はただ知っていたから動けただけだ。
尽管被投以充满敬意的目光,但我心里清楚并非如此。我只是因为知道真相,才能采取行动而已。
「ナナリー様を頼む。私は対策本部へ向かう」 「请照顾好娜娜莉大人。我要前往对策本部」
ナナリーの車椅子を押す手を預け、その場を立ち去ろうとした僕の腕がそっと押さえられた。
将娜娜莉的轮椅交由我推动后,正欲离开的我手腕被轻轻按住了。
「ありがとうございました、ゼロ」 「谢谢您,Zero」
添えられたナナリーの手の温かさを、分厚いゼロの服越しに感じられた気がした。
“隔着厚重的 Zero 制服,仿佛能感受到娜娜莉覆在我手背上的温度。”
ナナリーを守れてよかった。ルルーシュは僕に、自分がやりたかったことを、したくてもできなかったことを託していったのだと、そう思っているから。
“能守护娜娜莉真是太好了。因为我相信,鲁路修是将他自己想做却未能做到的事托付给了我。”
ふと、夢の中でも僕は同じことを思っていたなと思い出す。
“忽然想起,即便在梦中我也曾有过同样的念头。”
あれは本当に予知夢だったのだろうか。強烈な痛みも、炎の熱さも、肉の焦げる匂いも吐き気がするほど生々しく記憶に刷り込まれているというのに、あれは本当に夢だったのか?
“那真的只是预知梦吗?明明连剧烈的痛楚、火焰的灼热、皮肉烧焦的焦臭味都像烙铁般鲜明得令人作呕地刻在记忆里,那真的只是场梦吗?”
僕は、なにか大きな思い違いをしているのではないだろうか。
“我是不是哪里搞错了什么天大的误会?”
**
それから僕が自室に戻ることができたのは、翌日の夜遅くになってからだった。
“而我能回到自己房间时,已是翌日深夜了。”
首脳会議直前で各国の要人が集まりつつある状況下でのテロ阻止は意味のあるものだったが、警備体制の見直しや今回の事件の処理に追われて関係機関はおおわらわだ。
在首脑会议即将召开之际,各国政要陆续汇集之时成功阻止恐袭确实意义重大。但随之而来的安保体系调整和本次事件善后工作,让相关机构忙得焦头烂额。
少し仮眠を取ったら、僕もまた政庁に戻らなければならない。仮面のせいで仮眠を取るにも場所が限られているなんて、こんなときばかりは正体を隠した生活を不便に思う。
小憩片刻后,我也必须返回政厅。因为面具的缘故,连打盹都受限于特定场所,这种时候总会觉得隐藏身份的生活实在不便。
ゼロの自室へ行くためには、指紋と掌紋、それから網膜の認証が必要だ。それが全て僕のものと一致しなければ、扉が開くことも地下へ進むエレベーターが動くこともない。
要进入 ZERO 的私人房间,需要指纹、掌纹以及虹膜三重认证。若其中任何一项与我的生物信息不符,不仅房门无法开启,通往地下的电梯也不会启动。
いつもどおり、すべての認証を通過して部屋のロックを外す。
“像往常一样完成所有认证,解除了房间的门锁。”
だが扉が開いた瞬間、僕は我が目を疑った。 “但在门打开的瞬间,我不敢相信自己的眼睛。”
「――し……!」 「――啊……!」
真実、言葉を失うとはこういうことか。 “这就是所谓的事实让人哑口无言吧。”
「遅かったな。この私を待たせるとはいい度胸をしている」
“来得真慢啊。敢让我等候,你胆子不小嘛。”
部屋の中に、涼やかに笑う緑の髪の魔女――C.C.がいた。
房间里,一位绿发魔女正带着凉薄的笑意——正是 C.C.。
ゼロレクイエムのとき以来、僕の前に姿を見せなかったルルーシュの共犯者。世界のどこかを旅していると風の便りに聞き及んでいたが、ルルーシュがいなくなった今、僕の前にもう姿を見せることはないのかと、そう思い込んでいた。
“自零之镇魂曲以来,鲁路修的共犯者就再未在我面前现过身。风闻他正在世界各地旅行,但如今鲁路修不在了,我以为他永远都不会出现在我面前了。”
驚いた。というのは確かだが、頭のどこかでは彼女が現れたことに納得もしていた。
“确实很惊讶。但大脑某处却又对她现身的事实感到理所当然。”
「神楽耶が言っていた相手って、君のことだったんだな」
“神乐耶所说的那个人,原来就是你啊。”
同時期に黒の騎士団と行動を共にしていた二人ならば、面識があって当然だろう。ぴたりと当てはまった答えを呟くと、C.C.は僕のベッドの上にぞんざいに腰を下ろした。
“既然是和黑色骑士团同期行动的两人,彼此相识也是理所当然的事吧。”当我准确推断出答案时,C.C.大剌剌地在我床上坐了下来。
「なんだ、つまらない男だな。もう少し動揺するかと思っていたよ」
“真没意思,我还以为你会更慌乱些呢。”
「ああ……確かに、よくここまで入れたなぁとは思ったけど」
“啊……确实,我也觉得你能潜入到这里很厉害。”
「一応、ルルーシュは私のことを信用してくれていたようだ」
「至少,鲁路修似乎曾对我抱有过信任。」
この部屋には僕だけしか入れないようになっているものだと思っていたけれど、C.C.も立ち入れるように仕組みを作っていたということは、ルルーシュはいつか僕とC.C.の接触が必要になるときが来ると予想していたということだ。もう僕に隠していることはないと言っていたくせに、なんだか少しだけ悔しく思うのは子供っぽいだろうか。
虽然我曾以为这间屋子只有我能进入,但鲁路修既然设置了让 C.C.也能进来的机关,就说明他预见到了某天我与 C.C.不得不产生交集的时刻吧。明明说过已经不再对我有所隐瞒,却还是忍不住感到一丝不甘,这样是否显得孩子气了呢?
「お前、まさか部屋の中でまでその暑苦しい仮面をつけているわけではないだろうな」
“你该不会在房间里都戴着那个闷热的面具吧?”
仮面を被ったままの僕を見て、C.C.が呆れた口調で言う。一応、一定程度驚いていたせいで忘れていただけなんだけれど。
C.C.看着始终戴着面具的我,用不耐烦的语调说道。其实只是因为我太过震惊才暂时忘记摘下来罢了。
本当に鬱陶しげな顔をする彼女に苦笑して、僕は仮面を外した。丸一日以上顔を隠し続けていたせいか、頬に触れる空気をいやに新鮮に感じる。
对着她货真价实的厌烦表情露出苦笑,我摘下了面具。或许是因为持续遮脸超过整整一天,面颊接触到的空气竟格外清新。
「C.C.、今回のテロの件について、君が情報を持っていると聞いたんだけど」
「C.C.,关于这次恐怖袭击事件,我听说你掌握着某些情报」
「ああ。だがその前に、お前に一つ訊いておきたいことがある」
「啊。不过在谈这个之前,有件事我要先问你」
金色に光るC.C.の瞳が、スッと猫のように細められる。
C.C.泛着金光的眼眸倏地眯起,如同猫科动物般拉成细缝。
「スザク、どうしてお前がギアスを持っている?」 「朱雀,为什么你会有 Geass?」
「え……?」 「咦……?」
C.C.から告げられたその言葉は、僕にとっては晴天から矢が降ってくるかのごとく唐突なものだった。
从 C.C.口中听到的那句话,于我而言犹如晴天霹雳般突然。
**
もう体はぴくりとも動かない。視界が緋色に霞み、僕はもうここで死ぬのだと思った。
身体已经完全无法动弹。视野蒙上绯红的薄雾,我心想自己恐怕就要死在这里了。
テロを防げなかったことも、最後にゼロの正体が知られてしまう可能性があることも憂慮すべきことなのに、僕の意識は死という甘い誘惑に引き摺られていく。
“明明该忧虑没能阻止恐怖袭击的事态,该担心零的真实身份最终会暴露的危机,我的意识却被死亡这种甜美的诱惑不断拖向深渊。”
どれだけのことを成し遂げても、この先の未来でルルーシュが笑ってくれることはない。その現実に、本当はもうずっと絶望し続けていたんだ。
“无论完成多少伟业,在未来的时光里鲁路修都不会对我展露笑颜。这个事实,其实早让我陷入了永无止境的绝望。”
「……死にたいんだな、お前は」 “......你其实是想死吧。”
炎の舞う中、C.C.が静かに僕を見下ろしている。
“在跃动的火焰中,C.C.正静静俯视着我。”
死ぬことを許されるのなら、もう終わりにしたい、させてほしい。
“若死亡能被允许…我渴望就此终结,请让我解脱吧。”
もはや視野の狭まった目を閉じる、その瞬間だった。
此刻,我正要闭上那早已变得狭窄的双眼。
地の底からマグマの塊が溢れ出すかのように、僕の内側に熱いものが湧き上がってくる。閉ざしかけていた意識が、自分ではないものに強引に塗り替えられる。
仿佛地底深处的岩浆块喷涌而出,某种炽热之物正从我体内翻涌而上。逐渐封闭的意识,正被某种非我的存在蛮横地覆盖取代。
もういい、もう死にたい。なのに。 “已经够了…好想死…可为什么…”
「生き、る……」 「活…下去……」
ガリ、と爪が地面を掻く。 喀啦,利爪深深抠进地面。
もう持ち上がらないと思っていた腕が動いて、腹から突き出た鉄の杭を掴む。ぶしゅ、と穴の空いた腹から血が吹き出てくるのに、杭はびくともしない。これをどうにかしない限り他に生き延びる手段がないと、僕にかかったギアスがそう言っているのに。
“本以为再也抬不起的手臂突然动了,握住了贯穿腹部的铁桩。噗嗤——随着开洞的腹部喷出血沫,铁桩却纹丝不动。明明施加在我身上的 Geass 告诉我,不解决这个就活不下去。”
「っ、ぼくは……俺、は……!」 「呜、我是……我、是……!」
前へ。起き上がらなければ、立ち上がらなければ。這いつくばってでも、生き延びなければ。
向前。必须起来,必须站起。哪怕匍匐在地,也要活下去。
「いき、なきゃ……るるー、しゅ、俺は……生きな、と……」
“必须...活下去...露露...修...我...必须要...活...”
呪いのように吐き出した言葉が、喉から溢れてくる血の塊に掻き消された。俺は生きる、生きなきゃ、生きなきゃ、生きろ、でも。
诅咒般嘶吼的话语,被喉间涌出的血块彻底淹没。我要活着,必须活着,必须活下去,活下去啊,可是。
「るるー…しゅ……」 “露露...修...”
ぼろぼろっと目の端から涙の粒がこぼれ落ちた。 “泪珠扑簌簌地从眼角滚落。”
「くるし……さみし、よ…るる……もう……」 “「好痛苦……好寂寞、啊…呜噜……已经……」”
ルルーシュ、君に会いたい。杭を抜こうとしていた腕が、宙に伸びる。
“鲁路修,我想见你。原本试图拔出木桩的手臂,徒然伸向半空。”
「る…ぅ、しゅ……るる……」 “呜…嗯、啾……噜噜……”
伸ばした腕が、何度も何度も宙を掻く。 伸出的手臂在虚空中反复徒劳抓握。
君との約束を守れないのはつらい。だけどこのまま君のいない世界で生きているのもつらいんだ。
无法遵守与你的约定让我心如刀绞,但要在没有你的世界里苟活同样令我痛不欲生。
ごめん、ルルーシュ。ゼロを全うしきれない弱い人間で、本当にごめん。
对不起,鲁路修。我终究是个无法贯彻 Zero 之道的懦弱之人,真的...很抱歉。
徐々に鼓動が弱くなり、目の前が真っ暗になっていく。君の残した生きろのギアスでもあらがえない死の淵がゆっくりと手を伸ばしてきて――
心跳逐渐微弱,眼前陷入一片漆黑。连你留下的'活下去'的 Geass 也无法抗衡的死亡深渊,正缓缓向我伸出手来——
「スザク」 「朱雀」
しかし、僕の手を掴んだ相手は死神ではなかった。 “然而,抓住我手的并非死神。”
「悪いなルルーシュ、これはお前の望んだ未来ではないだろうが……」
“抱歉啊鲁路修,虽然这或许并非你期望的未来……”
絶え絶えの息をつきながら、僕はうっすらと目を開ける。ほとんど暗く潰れてしまった視界の中に、C.C.のシルエットだけがかろうじて認識できた。
我断断续续地喘息着,勉强睁开双眼。在几乎被黑暗吞没的视野中,唯有 C.C.的轮廓尚能辨认。
掴んだ手に力をこめ、C.C.は僕の傍に顔を寄せてくる。
“C.C.紧紧攥住我的手,将脸庞凑近我的身侧。”
「枢木スザク、私と契約を結ばないか?」 “枢木朱雀,要与我缔结契约吗?”
こつん、と彼女の額が僕の額に合わさった。 “咚的一声,她的额头与我的相抵。”
「けい、やく?」 「契约?」
「ああそうだ。お前が生き延びるために、ルルーシュの願いを叶えるために、私と契約を――」
「啊没错。为了让你活下去,为了达成鲁路修的愿望,和我签订契约——」
彼女がなにを言おうとしているのか、もうよく理解できなかった。
他已经无法理解她到底想说些什么了。
生きろ、と。 “活下去吧。”
かつてたったひとつだけルルーシュから下された命令が、体の奥で響いていた。
“曾经鲁路修对他下达的唯一一道命令,此刻正在他身体深处回响。”
**
コードを持つC.C.は、ギアスを持つ相手と意識を共鳴させることができるという。
“据说拥有 Code 的 C.C.能够与拥有 Geass 的对象产生意识共鸣。”
半信半疑で彼女の手に触れたとき、僕の中に流れ込んできたのは紛れもない「僕の記憶」だった。
“当我半信半疑触碰她指尖的刹那,汹涌流入体内的分明是货真价实的「我的记忆」。”
反ゼロ派によるテロ行為は、元の時間軸では成功していた。そのテロに遭い、あれほどの傷を負った状況下では、仮に救助があったとしても生存できなかっただろう。生きるという目的を叶えるために唯一残された手段として、僕にかかった生きろのギアスが選んだのは、C.C.の誘いに乗ることだった。
“反 Zero 派的恐怖袭击,在原时间线中是成功的。若是遭遇那种规模的袭击并受到致命伤,即便获得救援也不可能存活。为了实现活下去这个终极目标,施加在我身上的生存型 Geass 最终选择了接受 C.C.的邀约。”
呆然として、僕はしばしなにをどう受け入れたらいいか考えることもままならなかった。
“我茫然呆立着,一时之间不知该如何接受这一切,连思绪都陷入了凝滞。”
やがて、ようやく形になった言葉は。 最终,终于成形的话语是。
「僕が、ギアスを……?」 「我、Geass......?」
予知夢かと思っていたあれは、夢よりも遥かに性質の悪いものだった。
我曾以为那是预知梦,但那其实是比梦境恶劣得多的存在。
「それ以外には考えにくいな。私もまた随分とお節介なことをしたものだ」
「除此之外很难想象其他可能性。我也算是做了相当多管闲事的事情呢」
表情や仕草から感情を読ませないC.C.だが、このときばかりはやや困惑を示しているように見えた。
素来无法从表情举止读取情绪的 C.C.,唯有这次似乎流露出了些许困惑。
ギアスを与えた彼女を恨むのは筋違いとわかっている。これは僕の弱さが生んでしまった結果だ。
我明白怨恨赐予我 GEASS 的她实在毫无道理。这不过是我的软弱造就的结果。
「お前のギアスは、時間を巻き戻す力……とでもいったところか?」
「你的 Geass 能力,莫非是让时间倒流……之类的?」
正確な能力の把握は難しいが、とC.C.は言葉を足す。
C.C.又补充道,要准确把握其确切能力恐怕很困难。
僕のギアスが本当に時を遡るものなのだとしたら、その能力は僕一人にしか確認できない。僕にギアスを授けたあのC.C.は、今の僕が生きる過去にも未来にも存在しないものだからだ。
倘若我的 Geass 真能令时光倒流,那么这份能力便只有我一人能够验证。因为赋予我 Geass 的那位 C.C.,并不存在于如今我所生存的过去与未来之中。
「僕がギアスを使ったなんて、信じられない」 「我竟然使用了 Geass 这种事,简直无法置信」
「だが、お前がギアスを持っているのは事実。私がお前にギアスを授けたというのも、どうやら事実のようだ」
「但拥有 Geass 力量确实是事实。而且看起来,我赋予你 Geass 这件事似乎也是事实」
ギアス。人の運命を狂わせる能力が僕の中にある。これはどんな悪夢だろうか。
Geass。这种能够扭曲人类命运的力量正沉睡在我体内。这究竟是何等可怕的噩梦啊。
「ギアスは人の内なる願いを具現化する。スザク、お前は……今も過去を悔やんでいるということか?」
“Geass 会具现化人类内心的愿望。朱雀,你...至今仍在悔恨过去吗?”
心臓の傍にナイフを押し当てられたような心地がした。
心脏旁仿佛被抵上了利刃般的刺痛感骤然袭来。
ずっと過去に囚われ続けている僕には、悔いのない人生なんて想像がつかない。父さんのときもユフィのときも、ルルーシュのときも、後悔ばかりなのだ。
对于始终被过去囚禁的我而言,根本无法想象毫无悔意的人生。无论是父亲的事,尤菲的事,还是鲁路修的事,都只剩下无穷无尽的懊悔。
C.C.はただ事実を述べただけであっても、心の中を暴かれているような気持ちになる。
“即使 C.C.只是陈述事实,也让我产生了一种内心被赤裸裸剖开的错觉。”
三年前のあの日、本当にルルーシュを失う以外の解決策はなかったのか、もしも時間が戻せたらと夢想し続けてきた僕がここにいた。
“三年前那个雨夜,是否真的只有失去鲁路修这个选项?怀抱‘若能时光倒流’妄念至今的我,此刻正伫立于此。”
「お前が持つのは、他を従える王の力だ。私が見る限り、お前のギアス能力者としての素質は高くない。しかしギアスやコードの影響を受けやすい体質と見える。これが危険だ、ということはお前にもわかるな?」
“你拥有的是统御万民的王之力。就我观察,你作为 Geass 能力者的资质并不出众,但肉体却极易受到 Geass 和 Code 的影响——这有多危险,你该明白吧?”
「……ああ」 「……啊」
「王たる力の代償は、善意と悪意の狭間に囚われ、他者と異なる理で生きていく覚悟。お前にはその覚悟がない。ギアスを使った者の末路も知っている。よって、」
“身为王之力的代价,是困于善意与恶意的夹缝中,以迥异于他人的法则活下去的觉悟。你并没有这种觉悟。我亦知晓使用 Geass 之人的末路。因此——”
ひたり、C.C.の視線が僕に据えられる。 C.C.的视线蓦然锁定在我身上。
「敢えて忠告しておこう、スザク。お前はギアスの力を使うな」
“不妨给你个忠告,朱雀。绝对不要使用 Geass 的力量。”
ギアスを憎み続けてきた僕が、この力に頼ってはいけない。どれほど変えたい過去があっても、この力を使ったが最後、あとは人としての理を外れて転がり落ちていくだけだ。
“持续憎恨着 Geass 的我,绝不能依赖这种力量。无论有多少渴望改变的过去,一旦使用这份力量,最终只会脱离为人之道不断堕落。”
ルルーシュもギアスがこの世から屠られることを望んで、僕の刃に掛かったじゃないか。
“鲁路修不也是期望将 Geass 从世间屠灭,才主动赴死于我的剑下么?”
「わかっているよ、C.C.」 “我知道的,C.C.”
その力は悪魔の力。人の内なる欲望を引きずり出す。
那是恶魔的力量,能将人内心的欲望拖拽而出。
「この力は使わない」 “我不会使用这种力量”
だが人は、凍りついた願いを叶えられる手段を手に入れたとき、その誘惑に打ち勝てるほど強くはできていないのだ。
“但人类这种生物,在获得实现冰封愿望的手段时,终究无法强大到抵抗那份诱惑。”
C.C.が部屋から去った後、ひとりきりになった僕は力なくベッドに突っ伏していた。彼女がくれたテロリストの情報も、今は思考の隅に置かれている。
C.C.离开房间后,独自留下的我无力地趴倒在床上。就连她提供的恐怖分子情报,此刻也被抛在了思绪的角落。
明日のために、少し眠らなければならなかった。たくさんのことが一度に起きたせいで神経は昂ぶった状態にあるけれど、体は休息を欲しがっている。
为了明天,我必须得睡上一会儿。虽然接二连三的变故让神经仍处于亢奋状态,但身体已经在渴求休息。
その相反する天秤が、うつらうつらと僕に幻影を見せた。
这矛盾的天平,让我在恍惚间窥见了幻影。
――なあスザク、ギアスとは願いに似ていないか?
——呐朱雀,Geass 和愿望不是很像吗?
かつてルルーシュは、ギアスという力にそう解釈を宛てた。
曾经鲁路修对名为 Geass 的力量,赋予了这般诠释。
――自分の力だけでは叶わないことを、誰かに求める。
――仅凭一己之力无法实现的愿望,转而向他人祈求。
僕は願ってしまった。過去を変えたい、君のいない世界で生きていたくない。ただ、君にもう一度会いたいと。
我许下了这个愿望;想要改变过去,不愿生活在没有你的世界;只求能再次与你相见。
それは叶わない夢、慰みの妄想にすぎないはずだったんだ。
这本该是无法实现的幻梦,不过是一厢情愿的妄想罢了。
「俺は人々の、願いという名のギアスにかかる。世界の、明日のために」
「我将以世人名为愿望的盖亚斯为食。为了世界的明日——」
はっと僕は我に返った。 我猛然回过神来。
目の前に、白の皇帝服を着た彼が、ルルーシュがいた。
眼前站着身着纯白帝王装束的他——鲁路修。
「それが、ゼロレクイエムだ」 “这就是‘零之镇魂曲’。”
ルルーシュの声が、直接この耳に響く。時が流れるにつれておぼろげに霞みつつあったその姿が、その声が、ありありと鮮やかに命を吹き返して、今僕の目の前にある
鲁路修的声音直接回荡在耳畔。随着时光流逝逐渐朦胧模糊的那个身影与声音,此刻正鲜明地复苏重生,如此真实地呈现在我眼前
これは、夢か。 这是,梦境吗?
咄嗟に伸ばした手が、ルルーシュの肩を掴む。 “猛然伸出的手,抓住了鲁路修的肩膀。”
うそだ。この手に、掴むことができるなんて。 “这不可能...这双手...明明已经...”
「スザク?」 “朱雀?”
驚きに瞠られていく紫玉も、掌に伝わってくる肉や骨の硬さも、生きている人間のそれと同じ。
掌中传来的血肉与骨骼的坚硬,与活生生的人类别无二致。就连那颗因惊愕而愈发明亮的紫玉,也透出活物特有的光泽。
これは夢なのだろうか。それとも僕は、まさか本当に、時を遡って――
“这莫非是一场梦?又或者,难道我真的回到了过去——”
「おいスザク、大丈夫か?」 “喂,朱雀,你没事吧?”
ルルーシュの肩を掴む僕の手に、彼の細い指先が添えられる。ずっと触れたくて触れたくて気が狂いそうだったその温もりに、ぐらぐら眩暈がする。
鲁路修的肩膀被我抓住的手上,覆上了他纤细的指尖。长久以来渴望触碰、几乎要发疯的那份温暖,令我头晕目眩。
「スザク……?」 “朱雀……?”
ああ、僕は。 “啊,是我。”
「っ、ルルーシュ……!」 “鲁路修……!”
左目に、力が発動した名残のような熱を感じる。 “左眼残留着力量发动后的灼热余韵。”
キィンと研ぎ澄まされたような鋭い音が、かすかに耳の奥に響いていた。
“铮——锋利如刃的尖锐声响,在耳膜深处隐隐震颤。”
零之镇魂曲落幕三年后,徘徊在生死边缘的朱雀意外获得了「时间回溯的 Geass」。被对鲁路修的思念拖向过去的他,越是渴望拯救对方,命运的齿轮便越发失控。
枢木スザクの後悔から始まる、反逆の物語。 以枢木朱雀的悔恨为起点的,叛逆物语。
サイトで2012~2014年にかけて連載していたものです。『魔女と魔王と正義の味方(novel/10638222)』から続いていますが、前作を読んでいなくても通じる内容になっています。
本文为 2012-2014 年间在网站连载的作品。虽接续前作《魔女与魔王与正义使者(novel/10638222)》,但未读过前作的读者也能理解剧情。
全年齢向けの描写でスザルルが主ですが、途中でルルーシュがモブから無理やり襲われる場面がありますのでご留意ください。
虽以全年龄向的苏飒露为主角,但中途存在鲁路修被路人强行袭击的场景,请知悉。
復活のルルーシュが公開となる記念に。 谨此纪念《复活的鲁路修》剧场版公开。