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夜
極彩色で塗り潰す青春モノクローム(月影) - 夜の小説 - pixiv
極彩色で塗り潰す青春モノクローム(月影) - 夜の小説 - pixiv
16,023字 16,023 个字符
極彩色で塗り潰す青春モノクローム(月影) 青春的单色充满丰富的色彩(月影)
月島が元ヤンだったらなあ、という話。モブがたくさん出てくるので苦手な人はお気をつけ下さい。あと月島が影山好き過ぎてる。
我希望月岛曾经是个年轻人。会有很多小怪,不擅长的请小心。而且,月岛也太爱影山了。
ハイキュー!!腐向け月影HQ!!小説300users入り2つ目続きお願いします!
排位!!月影总部!!300名用户请继续第二本!
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2013年1月6日晚上9点09分 2013年1月6日晚9点09分


 目に映るもの全てが憎い時期があった。視界の端でちらつくだけで煩わしくて、ある事ない事をやたら吹聴し続ける言葉が聞こえてきては、誰彼構わずそいつらを殴り飛ばした。
曾经有一段时间,我讨厌我所看到的一切。我能听到烦人的话语在我的视野角落里闪烁,不断地宣扬一些无关紧要的事情,不管他们是谁,我都会把他们打掉。

 周囲を拒絶するように髪を金色に染め、ヘッドホンの音量を上げた。レンズ越しに見える世界が全て嫌だった。努力じゃどうにもならない世界から、努力を嘲笑う世界での精神的な暴力を好んだ。全てが嫌だった。例外なく全て。
她把头发染成了金色,并把耳机的音量调大,仿佛要拒绝周围的环境。我讨厌通过镜头看到的世界的一切。他更喜欢一个精神暴力的世界,在这个世界里,努力工作不会有任何成果,而是一个嘲笑努力工作的世界。我讨厌一切。皆无一例外。

 じわりと暑く、妬ましいほどしつこく、吐き気がする程気持ち悪い、焦れるような悪夢の日々。あれは、一体いつの夏だったんだろう。
逐渐炙热的噩梦连日,持续到令人羡慕的地步,恶心到恶心的地步。那是什么夏天?


 ゆっくり瞼を持ち上げて、月島は褪せた記憶を振り払った。眼前には傷んだ金髪に下卑た笑みを浮かべた連中が五人、月島を取り囲んでいる。月島は名前どころか顔さえも覚えていないが、向こうはどうやら、月島を知っているらしい。「その頃の」自分を知っているらしかった。
月岛缓缓抬起眼皮,甩掉那些褪色的记忆。在他的面前,五个金发受损、笑容猥琐的人围住了月岛。月岛不记得他的名字,甚至不记得他的脸,但对方似乎认识他。看起来他“当时”就知道我是谁。

 いつ頃ここまで戻ってきたのか、いつまであそこにいたのか、それら全ては月島にも分からない程曖昧だ。しかしただ一つ確かなのは、同じようにそこに居たとしても、あんな下品な笑みは浮かべていなかったということだ。格好よく見られたいとかそんな理由では決してない。ただ単純に、あの頃は何もかもが面白くなくていつも機嫌が悪かった。全てが煩わしくて気分が悪かった。それだけの事だ。
他什么时候回来的?在这里呆了多久?一切都那么模糊,就连月岛也不知道。但有一点是可以肯定的:就算他在,他的脸上也不会露出那副粗俗的笑容。这并不是因为我想看起来很酷或类似的东西。简单来说,那时候一切都不好玩,心情总是不好。一切都很麻烦,让我感到恶心。就这样。

 放課後、何時ものように喧しく部活へ誘う山口と共に、教室を出ようとしていた。声をかけられたのはその時だ。呼ばれてんぞ、とクラスメイトが呼び止める先は教室の窓の外、更にそこで知らない奴が月島の名前を大声で呼んでいる。今現在、月島の目の前にいるガラの悪い連中に取り囲まれて、名前も覚えていないクラスメイトが逃げ腰になっているのが教室からでも分かった。
放学后,我正要和山口一起离开教室,山口像往常一样大声邀请我参加社团活动。就在那时我被叫去。月岛的同学拦住他说:“你在叫我!”但教室窗外,一个陌生人正在喊着月岛的名字。即使在教室里,月岛也能看到自己连名字都记不清的同学正在逃跑,而他的面前却被一群无良之人包围了。

 ツッキー、と心配そうに声を掛ける山口を制し、ただ部活に遅れる旨を言付けて、月島はその誘いに乗った。学校を少し離れた路地裏、いかにもカツアゲされていると言った状況だが、そうではない事は月島自身が最も知るところである。
“月岛。”山口担心地叫道,但月岛只是简单地告诉他社团活动会迟到,就接受了邀请。位于距离学校不远的后巷,看上去像是被排斥的情况,但月岛自己最清楚事实并非如此。

 カツアゲだった方が早く話がついて良かったのに。心の中で世間とずれた不満を漏らしながら、月島はようやく、今目の前にいる連中を相手にすることにした。こんな息苦しい空間に、一秒も長居したくはない。
如果是胜上的话就更好了,我们可以早点互相交谈。一边心里埋怨自己与社会脱节,月岛最终还是决定对付眼前的人。我不想在这么闷热的空间里呆一秒钟。

 「それで、こんな所にまで呼び出して何の用なの」 “那么,叫你来这种地方的目的是什么?”
 「久し振りだな、月島、烏野じゃ随分大人しくしてるらしいじゃねえか」
「好久不见,月岛,你在乌野好像很安静啊。」

 「は?なに?」  “啊,什么?”
 「まあ、まあ、聞けよ。こっちも五十人斬りの月島って伝説まで作ったお前に、たったこれだけで喧嘩売りに来たんじゃねえし」
“好吧好吧,听我说。你还创造了五十人杀手月岛的传说,所以你来这里不是为了挑衅的。”

 「何の事言ってんのか分からないけど人違いじゃないの、僕はただの一般生徒なんだけど。まず君らの事なんて知らないし」
“我不知道你们在说什么,但我确定你们认错人了,我只是一个普通的学生,首先,我对你们一无所知。”

 「ばっくれんなよ。中学じゃ一緒に暴れ回った仲だろ、なあケイさん」
「不用担心。我们在中学时就一起横冲直撞了,圭同学。」

 「気安く名前呼ばないで、うざい」 “别随便叫我的名字,很烦人。”
 「その面倒な性格も相変わらずみてえだな。そんな事よりお前、随分と丸くなったみてえだけど、また俺らと組む気はねえか?」
“你这个麻烦的性格还是一如既往的好,而且,你看起来也成熟了很多,不过你有没有再和我们组队的意思?”

 「はあ?」  “嗯?”
 「悪い話じゃねえだろ。また前みたいに、俺らが困ってる時にちょっと力を貸してくれるだけでいいんだって。そしたらお前の邪魔はしねえよ」
“这故事不错吧?就像以前一样,你只要在我们有困难的时候帮我们一点忙,那我就不会妨碍你了。”

 「何の話してんの、しつこいな。知らないってば」 “你在说什么?你这么执着,你不知道。”
 「はっ、入院沙汰の事件を起こしといてよく言うぜ。お前らん中にもいたよな、確か」
“哈,我住院的那件事我经常这么说。我相信你也在场。”

 「おれァ腕折られましたね、中二ん時に」  “我八年级的时候手臂就骨折了。”
 「オレの足の傷、こいつっす」  “这是我腿上的伤口。”
 「階段で足外したとかじゃない、くどいんだけど」  “又不是在楼梯上丢了脚,太无聊了。”
 「……マジこっちが下手に出てりゃ調子乗りやがって、何が知らねえだよ、こっちはてめえに前歯折られてんだよざけんじゃねえっ!ぶっ殺すぞ!」
“……说真的,如果我不擅长,我就会得意忘形。我不知道发生了什么。我的门牙被我打断了!别混蛋!我会杀人的你!”

 叫ぶように自らの屈辱を明かし、威嚇するように罵声を上げるリーダー格の男が、乱暴に月島の襟首を掴む。そういうの、僕より低い奴に下からやられてもあんまり怖くないし、ていうか、じゃあ今見えてんのは差し歯なんだ、笑える。そうは思ったが、月島は暴言を心の中に留めてただその手を振り払うだけに終えた。いちいち相手にする程の事ではない。
那个领袖般的男人,一边喊着自己的屈辱,一边威胁性地谩骂,猛烈地抓住了月岛的颈背。这种事情,就算被比我矮的人从下面攻击,我也不怕,或者说,你现在看到的都是假牙,这让我好笑。月岛心里这么想,但他把那些谩骂的话记在心里,只是摆了摆手。这不是你应该与他们每一个人打交道的事情。

 あるいは昔の月島なら、心の中と言わず、面と向かってそれを言ったかもしれない。簡単にキレていた、何かを考えるよりも先に暴力で全て解決させていた頃のままなら、もうこんな所に居もしないだろう。
或者说,如果月岛是过去的话,他可能会当面说这句话,而不是在心里说。如果他还是像以前那样,很容易生气,什么事情都用暴力解决,不去想什么,他就不会落到这个地步了。

 たかが半年で何が変わる訳でもない、本質的に月島は何一つ変わっていないが、それでも今それらを思い留まっているのはやはり烏野に来た影響だろうか。少なくとも今、月島を暴力に駆り立てるものは何もない。ただ息が詰まりそうな閉塞感が纏わりついているだけで。
六个月的时间里,一切都没有改变,月岛基本上没有任何改变,但我不知道他现在之所以犹豫不决,是因为来到乌野的影响。至少现在没有什么会促使月岛采取暴力行动。只是我感觉自己快要窒息了。

 馬鹿らしい、と嘲笑して向き直る。唐突な自己分析も、こいつらも、何もかもが馬鹿らしい。周りの連中に宥められ、リーダー格の男が冷静を取り戻したのを確認してから月島は口を開く。
“这太愚蠢了。”我嘲笑道,然后转过身来。这些家伙的一切,包括他们突然的自我分析,都是那么愚蠢。被周围的人安抚下来,看到首领已经恢复平静后,月岛开口了。

 「なに、慰謝料でも請求しに来たわけ?悪いけどそういうのは弁護士を通してくれる?」
“什么,你来这里索要赔偿?抱歉,这种事情可以请律师吗?”

 「あー、まあ聞けよ、別に復讐しに来たわけじゃねえ。その事は水に流してやるから」
“啊,听我说,我不是来报仇的,我会把它洗掉的。”

 「……はあ?」 “……嗯?”
 「別にうちのチーム入れっつってんじゃねえよ。ただ俺らがヤバい時に、ちょっと手伝ってくれるだけでいいんだって、マジそんだけでいい。同盟組もう、ってんだよ」
“我并不是想加入我们的队伍,我只是想让你在我们有困难的时候帮我们一点忙,我只是说,我们结成联盟吧。”

 「どこが。ここで君らと妙な関係持たなきゃ今まで通り、何事も起きないだけでしょ。お互いにメリットがあるから同盟って言うんだよ、馬鹿が難しい単語使ったって馬鹿が露呈するだけなんだけど」
“什么?如果我们这里和你们之间没有奇怪的关系,就不会像以前那样发生什么事情。之所以叫联盟,是因为互惠互利。白痴就算说难听的话,也只能说明他有多蠢。不过”

 「こっちの話が飲めねえなら、月島、俺達にも考えがあるぜ。お前の中学ン時のことをバラす」
“如果你不喜欢我们正在谈论的内容,月岛,我们也有一个主意。我们会揭露你中学时发生的事情。”

 にたりとリーダー格の男が笑った。爬虫類を思わせる顔が気持ち悪いが、それ以上に、他人の弱みをちらつかせて従わせようとする態度の腹立たしさが勝った。胸の内が不快感にざわつく。それこそ昔ならこの時点でキレて暴力沙汰になってるな、とは思いつつも、月島は拳を作るでもなく不快感を感じながらも聞き流していた。
领袖般的男人笑道。他那张爬虫类的脸让人恶心,但更让人恼火的是他用示弱的方式来欺骗别人服从他的态度。我的胸口因不适而嗡嗡作响。月岛本以为要是在以前,这个时候他一定会生气,发脾气,但月岛却没有握拳,听着心里不舒服。

 それが脅しにもならないというのが理由であったが、あるいは本当に月島を脅やかす事であったとしても、同じ反応であったかもしれない。露骨に溜め息を吐いて、月島は煩わしそうに返答した。返答はひどく軽い。
因为这并不是威胁,但就算真的对月岛构成威胁,他也可能会做出同样的反应。月岛公然叹了口气,懊恼地回答道。反应非常轻。

 「したら?」  “如果你愿意呢?”
 「あ?」  “A?”
 「別にバラされても困らない、って言ってんの。好きにしなよ」
“你是说,就算分手了,你也不会介意吗?你想怎么样就怎么样吧。”

 「はっ、お前の女がマワされてもそんな事言ってられんのか?」
“呵呵,就算你的女人被勾引了,你也不能这么说吧?”

 「いないし。居たところで、別に、彼女がレイプされたところで僕が痛いわけじゃないからいいけどね」
“她不在,就算我在,她被强暴了也不会对我造成伤害,所以没关系。”

 「けど全うな友達は出来たらしいじゃねえか。山口……つったっけ?お前の代わりにぶっ殺したっていいんだぜ」
“不过看来你交了个好朋友。山口……你生气了吗?我不介意杀了你而不是你。”

 「いいね、それ、もうまとわりつかれないで済みそうだ、やんなよ。君らがやった事は代わりに伝えてあげるしさ、今外周行ってると思うから張るなら校門だよ」
“好吧,看来你们不用再粘着我了,别这么做了。我会告诉你们你们替我做了什么,我想你们现在就要去外围了,所以如果你要张贴的话,就在学校门口。”

 「それならバレー部潰しに行くだけっすよ、大事なお仲間がたーくさん居るらしいし?」
“那我就去毁掉排球部吧,看来你有很多重要的朋友吧?”

 「返り討ちに遭うだろうけど試しにやってみたら?僕は部活なくなって楽になるしいいよ、まあ体育会系甘く見ない方がいいとは思うけどね。温厚なのは僕くらいだって、あそこ」
“我相信你会报仇,但是你为什么不尝试一下呢?没有俱乐部活动对我来说会更容易,所以没关系。好吧,我认为最好不要低估体育俱乐部。我是那里唯一一个态度温和的人。”

 「……っ、てめえ!さっきから聞いてりゃふざけんじゃねえぞ、月島ァ!」
「……嘿!月岛,你问这个问题已经有一段时间了,可别犯傻了!」

 「僕がふざけてたら、君ら、今頃そこに立ってないでしょ。これでも割と真面目に応対してる方なんだけど。それとも君らの真面目な対応ってのが殴り合いだって言うならそれも考えてあげようか?」
“如果我是开玩笑的话,你们现在就不会站在那里了。你们才是还在认真对待事情的人。或者,如果你们的认真反应意味着战斗,那就考虑一下吧,我给你们吧?”

 簡単にそう言えば、月島は、面倒そうに溜め息を吐いた。呼び出された、それなら合法的に部活がサボれるなと思った、そんな安直な答えを笑うように時間ばかりが煩わしく過ぎていく。
简单来说,月岛发出了一声懊恼的叹息。我被传唤了,我以为我可以合法地跳过俱乐部活动,但时间就这样过去了,我好像在嘲笑这样简单的答案。

 バレー部の外周コースってわけじゃないし、人通りの少ない路地裏だし、そもそも誰に見られて困るわけでもないし、適当にこいつらやってそろそろ部活行くか。不穏な事を考えながら、月島は通りに視線を送る。その中には帰宅途中らしい烏野の制服もある、あるが、それが月島を暴力から遠ざける理由になるかと言えばそうではない。見て見ぬ振りで足早に去っていく彼らなど知ったことじゃない。月島にとってそれに相当するだけの理由は今、ここに存在しないのだ。
这不像是排球俱乐部的室外球场,它在一条人烟稀少的后巷里,而且我真的不介意有人看到我,所以我想我会和这些家伙做任何我想做的事快去俱乐部吧。月岛看向街道,心里想着一些令人不安的事情。其中有乌野的制服,似乎正在回家的路上,但这并不意味着它是让月岛远离暴力的理由。我从未听说过他们视而不见并迅速离开。对于月岛来说,现在还没有值得这样做的理由。

 やるか、と意を決し、月島は自分を取り囲む連中を改めて確認した。月島を含め、この場に居る全員が全員、それなりに喧嘩慣れした奴らばかりだろう。確認するまでもない前提を飛ばし、ちらりと、その中でも体格のいい二人を注視した。上背もあるし少しやりづらいかもしれないけど、それ以外はどうって事ない。パッと見た限り何のエモノもないし、特に凶器を隠し持っている様子もない。楽勝とはいかないかもしれないけど、そう時間もかからないだろう。
决定这么做的月岛又看了一眼周围的人。这里的所有人,包括月岛在内,都必须习惯了战斗。跳过不需要确认的前提,我看了一眼两人的身体状况。我有上背部,所以可能有点困难,但除此之外我没有问题。乍一看并没有什么可疑的地方,而且似乎也没有什么暗器。这可能不是一场轻松的胜利,但也不会花很长时间。

 息を吸い込んで、ぐっと指を握り込み拳に力を込める。勝てる自信はあった。ただこのままの状況であったなら、事実、月島が場を圧倒し、自らが思い描いた通りの結末で終わらせただろう。イレギュラーさえなければ、そうなっていたはずだった。
深吸一口气,收紧手指,握紧拳头。我有信心我能赢。然而,如果事情一直这样下去,月岛就会主导局势,并以他所设想的方式结束。如果不是因为违规行为,事情就会发生。

 「……月島?」 「……月岛?」

 イレギュラーさえなければ。 只要没有任何违规行为。
 烏野バレー部の黒いジャージ、黒い髪、平時をして機嫌の悪そうな男が、路地を塞いでいる。目が合って、ざわりと心臓が騒ぐ。
一名身穿乌野排球部黑色球衣、黑发、平时心情也不太好的男人挡住了小巷。我们的目光相遇,我的心狂跳起来。

 呼ばれて、世界が変わった気さえした。 当我接到电话时,我感觉世界都变了。

 「……王、様」  “……国王”
 「おまっ……、部活来ねえと思ったら絡まれてんじゃねえかよ!」
“哎……我还以为你不会来参加社团活动呢,没想到你竟然参与其中了!”

 「なに、してんの、こんなとこで、コースじゃないでしょ」
“你在做什么?这不是在这种地方上课的。”

 「人数揃ってないし時間あったから大回りしてたんだよっ、それよりお前…!」
“我们所有人都没有,我们还有时间,所以我们就来了个大转弯,但是你……!”

 改めてこの場に居て思うのは、一人だけ空気が違う、そんな単純な真理だった。似つかわしくない。軽々しく拳を振り上げて世界を拒絶出来る僕らとは違う種類の人間だと、少しだって予想していなかった影山の姿を認めて、月島が思ったのはそんな事ばかりで、自身を心配する影山の言葉は右から左へと意識を通過する。
再次来到这里,我意识到一个简单的事实:只有一个人的气氛是不同的。它不适合我。月岛认为影山是与我们不同的人,他可以轻松地举起拳头拒绝世界,这就是月岛的想法,而影山的话语从右到左掠过我的意识。

 そして月島と相対する彼らもまた同じことを思った。彼らは誰にも邪魔されないように、月島は誰かを巻き込まないように、お互いの意見が一致したからこそわざわざこんな所まで来た。それをぶち壊してきた影山がどうなるか、自分から親しさを滲ませて影山を呼んでしまった事と合わせて、それがどう転んでいくのか、月島は知っている。昔、何もかもが悪意に染まっていた頃、同じことをした。
而那些面对月岛的人也有同样的想法。他们千里迢迢来到这里,就是为了不让任何人妨碍他们,而月岛也不想让任何人介入,因为他们都同意了。月岛知道摧毁了它的影山会发生什么,也知道结果会如何,而且他自己也流露出亲密的气息,向影山呼唤。很久以前我也做过同样的事,当时一切都被恶意所玷污。

 これが少女漫画だったら助けに来た王子様、ってところかな。それが現実には、ライオンの群れに遭遇した兎みたいなものだと思うと実に哀れだ。
如果这是一部少女漫画,那就是关于王子来救她的故事。想想在现实中,就像一只兔子遇到了一群狮子,真是可悲。

 「ははっ、オーサマだって。月島の王様っつうことは、なに、おれらからしたら大王様ってことか?なあ?」
“哈哈,是奥萨马。这是否意味着他是月岛的国王?这是否意味着他是我们眼中伟大的国王?”

 「弱そうな大王様っすね」 “看来你是个软弱的国王。”
 「つうかケイさんが王様とか笑えんだろ、お前のがよっぽどそうだろっていう」
“我的意思是,庆小姐是国王,这很有趣,不是吗?你的国王更是如此。”

 「まあなんでもいいけどな。なあ王様」 “好吧,无论如何。嘿,国王。”
 「…おい、その呼び方ヤメロ。何なんだよ、お前ら、月島一人に寄ってたかって」
「……喂,你就是这样称呼我的,山郎。那是什么?你们刚刚来月岛吗?」

 「そんなんじゃないっすよお。あっ、そうだ、王様からも言ってやって下さいよ、俺達に協力してやれって」
“不是这样的。啊,对了,请转告国王,让我们配合吧。”

 「おい、こんな連中相手にしてないで行くぞ、月島」
「喂,月岛,我们还是别跟这种人打交道吧。」

 「はっ!おい聞いたか、お前ら!俺らこんな連中呼ばわりだぜ、さすが王様は違ぇよなあ!」
“哈!喂,你们听到了吗?我们就是这么称呼这样的人的,果然国王不一样啊!”

 軽薄な笑い声が路地裏に響く。下品な声音が煩わしく、完全に雰囲気に飲まれている影山が哀れに見えた。それでも、下卑た笑いと嘲笑に眉をしかめつつも、影山はぶれることなく普段通りを装っている。それが愛しい。ろくに知りもしない、明らかにぶっ飛んだ連中を相手に、影山は不得意な口論で応対する。
一阵轻佻的笑声在后巷里回荡。粗俗的声音很烦人,影山一脸可怜兮兮,完全沉浸在气氛中。尽管如此,尽管影山对那些粗俗的笑声和嘲讽皱起了眉头,但他依然毫不动摇,装出平常的样子。这是可爱的。影山在与他几乎不认识且明显疯了的人打交道时,会用不熟练的争论来回应。

 その姿はやっぱり、王様というよりも、ピンチに駆け付けて助けに来る王子様みたいだと思った。それじゃ僕が助けを待つお姫様のようで、自分でも随分と気色悪い想像だけれども。
我觉得他看起来更像是一个在紧要关头会冲上去帮忙的王子,而不是一个国王。这会让我看起来像一位等待帮助的公主,即使对我来说这也很令人毛骨悚然。

 月島の手を引いて逃げようと、影山は路地に一歩踏み出す。行くぞ、と雑音を振り払って月島に伸ばされた影山の手は、しかし、届く前に阻まれた。月島より早く影山の手を掴み、にやにやと感じの悪い笑みで、リーダー格の男は影山に話しかける。
为了拉着月岛的手逃跑,影山踏入了小巷。影山甩掉噪音,向月岛伸出手,示意他走,但手还没伸到他身上就被挡住了。领袖般的男人比月岛更快地抓住了影山的手,脸上带着阴森的笑容对影山说道。

 「オレらまだこいつに用あるんで、王様はとっとと帰ってもらっていいっすかあ」
“这家伙还有事要处理,王还是赶紧回家吧。”

 「俺もそいつに用があんだよっ、月島、」 「月岛,这件事我也有关系。」
 「ちょっと、影山、僕のことはいいから!」 “嘿,影山,别担心我!”
 「そうはいかねえだろ!」 “这不可能是真的!”
 「ほんと平気だから、すぐ行くから先戻ってなよ、別にカツアゲとかじゃないし大丈夫だって言ってるでしょ」
“我真的很好。我马上就来,所以你先回去吧。我不是凶手什么的,所以我很好。”

 「ちょ、ケイさんが優しい振りとかマジうけんだけど」
「嘿嘿,圭同学的表现真是好人啊,真是太棒了。」

 「ははっ、お前、月島、高校入ってすっかり弱くなったんじゃねえかぁ!?」
「哈哈,月岛,你自从进入高中以来就变得很弱不是吗!?」

 笑う声は耳障りで、ただ月島の神経を逆撫でる。それでもぐっと堪えているのは、その先が分かっているからだ。ここで下手を打てば傷付くのは影山だ。彼らは影山が、本当に月島の友人だなどとは思ってもいない。月島が友人を作りたがらない性格であるのを、彼らは知っているからだ。
笑声刺耳,刺激着月岛的神经。我仍然坚持下去的原因是因为我知道接下来会发生什么。如果他在这里做错事,受到伤害的就是影山。他们不知道影山实际上是月岛的朋友。他们知道月岛不喜欢交朋友。

 しかし、それでも、いざという時の盾にくらいされるだろうことを分かっていて、だからこそ月島は途端に何も出来なくなった。さっさと殴り倒して学校に戻ろうと思っていた気持ちが、今では根こそぎ奪われている。
但即便如此,月岛也知道自己只能在紧急情况下充当盾牌,所以他也无能为力。那种想赶紧揍他回学校的感觉,现在已经完全消失了。

 くそ。くそ、僕だって、僕だってそれが影山じゃなかったら、例えば山口だったりただの彼女だったりしたら気にしたりなんかしないよ!
他妈的。妈的,即使是我也不会在意那不是影山,就像山口一样,或者只是一个女朋友!

 叫び出したい気持ちを抑え込み、月島は表面上、平静を装い続ける。息の詰まる思いだった。
月岛强忍着尖叫的欲望,继续装出一副平静的样子。我感到窒息。

 「ほら、ケイさんもそう言ってることだし?真面目に部活した方がいいんじゃねーの、オーサマ」
「看吧,圭小姐也是这么说的。大萨马,你应该认真对待社团活动吧。」

 「だからその呼び方やめろって言ってんだろ!」 “所以我才叫你别再这么叫我了!”
 「おいおい、何熱くなってんだよ、おれら普通に話してるだけだぜ?いいだろ、お前に関係ねえっつの」
“喂,你激动什么?我们只是正常说话好吗?不关你的事。”

 「先にそいつに用があったのはこっちなんだよっ!おい、つきし、」
“我是第一个和你有生意的人!嘿,月志。”

 「しつけえなッ!!いいから失せろよっ、ぶっ殺すぞ!」
“你不能管教我!!只要把它除掉,我就杀了你!”

 一人が吠え、影山に殴りかかる。一瞬、自分の中の世界が止まった。ひやりと冷たい何かが走る。
一个人一边咆哮一边对影山拳打脚踢。一瞬间,我内心的世界停止了。有一股冰冷的感觉流过我的全身。

 危なげなく影山は避けた。続く一撃も、その後も。お互いに何かを言いながら影山は避ける。次の行動が避ける為のものだったのか、それとも立ち向かったのか、それは影山本人にも分からない。ただ一つ、振り上げたその手が、綺麗に男の腹に決まったという事実だけだが残った。
影山避开了,没有任何危险。接下来的打击,以及后果。当他们互相交谈时,影山避开了他们。就连影山自己也不知道自己下一步的举动是避开他还是对抗他。唯一剩下的,就是抬起的手,完美的落在了男人的小腹上。

 運が良かったのか悪かったのか、しっかりと鳩尾にはまった一撃に、そのまま男は崩れ落ちた。それに驚いているのは月島より男の仲間達より影山本人で、大丈夫か、と慌てて声をかけるそれは震えていた。そして男達の目が変わる。
不管是运气好还是运气不好,这一击都牢牢地落在了哈托的尾巴上,那人倒下了。比月岛和他的男同伴更惊讶的是影山本人,他浑身发抖,急忙询问他是否还好。男人的眼神也变了。

 あ、と月島が声をあげる程の時間もなかった。慌てて駆け寄った影山に向かって、二人が一気に殴りかかる。後頭部に一発、短い呻き声と共に前のめりになったところを、腹に膝蹴りを一発、更に追い打ちをかけるように、その背中を思い切り弾いて地面へ転がした。
连月岛喊叫的时间都没有来得及。影山冲向他,两人同时对他拳打脚踢。我的后脑勺受到了打击,当他向前倾身发出一声短促的呻吟时,我用膝盖踢了他的腹部,然后就像是要继续打击一样,我用尽全身力气拍打他的背部。并把他摔倒在地。

 悲鳴の隙間すらなく、影山は地に伏している。その頭を乱暴に踏みつける、そこまでの流れを、月島はただ見ていた。ゆっくりとスローモーションで、倒される恋人の姿を、特に誰に動きを制限されているわけでもないというのに、黙って見ていることしか出来なかったのだ。
影山甚至没有发出一声尖叫,就倒在了地上。月岛只是看着他粗暴地踩在她的头上。尽管没有人特别限制他的行动,他却只能默默地看着自己的爱人被慢动作地击倒。

 だって、なに、あれ。  因为,那是什么?
 うそ。
 うそ、だって、あいつは、あいつはそういう住人じゃない。あいつは、ただのバレー馬鹿で、ここはあの頃、あの時じゃない。だけどあれは、影山だ。
那是谎言,因为他不是那种居民。他只是一个排球白痴,现在已经不是现在的样子了。但那是影山。

 影山。
 僕の、好きな人。好きで好きで仕方なくて、例えば山口とか日向とか、誰がきたってこうはならなかった。動揺なんてこいつらに悟られることもなく、むしろ自分から攻撃してさっさと気絶させて切り抜けてやったのに。
我最喜欢的人。我太爱他了,爱到无法自拔,无论谁来,像山口或日向,这都不会发生。这些家伙没有注意到我的不高兴,我本可以亲自攻击他们并迅速将他们击倒以度过难关。

 倒れてるのは、影山だ。僕は何もしないで見ていたから。影山が倒れている。
倒下的人是影山。我只是看着,什么也没做。影山倒下了。

 瞬間、ぶちんと、自分の理性が切れるのが分かった。
那一刻我发现我的理智完全消失了。

 あれ以来、結構、どんな事でも我慢できるようになったと思う。何に対しても冷めた対応に徹して、どんな事を言われても適当に煽って馬鹿にして終える。それで、全部、やり過ごしてきた。
从那时起,我想我已经能够忍受几乎任何事情了。他对一切都反应冷淡,无论对他说什么,他都取笑他,最后还是取笑他。所以我经历了这一切。

 だけどその今までの努力が、ぷつりと、音を立てて終わったのだ。
然而,我迄今为止所做的所有努力都以一声巨响结束了。

 「かげ、やま」 《影、亚玛》
 「あぁ?なんだよ、やっぱりオトモダチが心配かよ、つき、……し、…ッ」
「啊?什么,你到底是担心你的朋友啊,月……S……」

 
 真横の男に裏拳を一発。影山が来て、色を取り戻したように変わった世界は、今再び淀み出していく。モノクロの視界に映るのは、落ちた烏がただ一羽。
我向旁边的那个人挥出一记后拳。随着影山的到来,原本已经恢复了色彩的世界,现在又开始停滞了。在我的单色视野中出现的只是一只倒下的乌鸦。

 しかし不思議と、閉塞感はない。息の詰まる思いもない。すう、と息を吸い、ただゆっくり吐く。そんな当たり前のことをようやく思い出したかのように呼吸が楽だ。また一つ、頭の中で何かが切れていく。
但奇怪的是,却没有任何被禁锢的感觉。我不觉得窒息。只需深吸一口气,然后慢慢呼气即可。我可以轻松地呼吸,仿佛我终于想起了一些如此明显的事情。再一次,有什么东西打破了我的头脑。

 飛べない烏が一匹、地に伏している。それが、僕の覚えてる最後だった。
一只不会飞的乌鸦躺在地上。这是我记得的最后一件事。

 「僕の大事なもんに手ぇ出した落とし前は、きっちり付けてもらうからな」
“在你碰触对我来说重要的东西之前,我会确保你把它戴好。”


 
    *



 「――ま」  “ - 嘛”
 「……っ、」 “……”
 「――やま」  “ - 山”
 「……ん、」  “……是的,”
 「影山!」 “影山!”
 「………つ、…き、しま…?」 「……这……木岛……?」
 「あ、よ、よかっ、……よかった、かげやま、影山」
“啊,哟,好吧……好吧,影山,影山。”

 影山が意識を取り戻した時、空は随分と色を落としていた。寒さが肌を撫ぜて身震いする。あれからどれだけの時間が経ったのか分からないが、十分やそこらの事じゃないだろう。きっと部活など、とうに終わっているに違いない。
当影山恢复意识的时候,天空已经失去了很多颜色。寒冷触及我的皮肤,我颤抖起来。不知道从那以后过去了多少时间,但大概不会超过十分钟。我确信俱乐部的活动早就结束了。

 さっき蹴られたからだろうか、腹に違和感はあるが、歩けないほど痛いわけじゃない。吐くほど練習したことだってあるし、その帰りに比べたらまだマシだ。そう自分に言い聞かせて落ち着く。
我感觉肚子不舒服,可能是因为之前被踢了,但也没有痛到走不了路。我练得很辛苦,都吐了,但还是比回家好。告诉自己这一点,然后冷静下来。

 そんな様子を、月島はただ心配そうに見つめるばかりで、泣きそうな恋人の顔を認めて影山は眉を顰めた。いつも飄々として嫌味ったらしく笑ってるくせに、お前、何でそんな顔してんだよ。何をそんな顔を、お前がする必要があるんだ。別にお前の所為で傷付いた訳でも、お前の為に傷付いたわけでもねえのに。
月岛只是担忧地看着他,影山看到爱人泪流满面的脸,皱起了眉头。你为什么总是笑得那么轻松,脸上还带着讽刺的表情?为什么一定要摆出那种表情?我受伤并不是因为你,也不是因为你。

 月島は影山の上体を抱き上げて、片手でその手を握り締め、影山の胸に自分の頭を乗せた。いつもは強気な男の、絶対に自分に頭を垂れることのない男の真白い項が、今はひどく弱々しく感じられて恐ろしい。それでもその身体に、少なくとも見える範囲に、傷がなさそうなのが唯一の救いだ。
月岛抱起影山的上半身,用一只手握住他的手,将头靠在影山的胸口上。平时坚强、从不低头的男人,一身纯白的外衣,此时却感到无比的虚弱和可怕。不过,唯一值得庆幸的是,他的身上似乎没有任何划痕,至少在肉眼可见的范围内是这样。

 影山は初めて感じる痛みを堪えて平然とした態度をとってみせ、何でもない風で、ぽんと月島の頭を撫でながら返答した。
影山假装镇定地忍受着第一次感受到的疼痛,若无其事地拍着月岛的头回答道。

 「なんだよ、大袈裟だな」  “什么,你太夸张了?”
 「うん、うん、よかった。よかった、影山、どこも、痛くない?」
「是啊是啊,很好。很好,影山,哪里不疼吗?」

 「あー、いや、いてえけど、まあ、別にそこまでじゃねえし」
“啊,不,我可以留下来,不过也没什么大不了的。”

 「そ……っか。そっか、じゃあ、いい。よかった、ほんと、影山に何もなくて」
「原来……原来如此。原来如此。那么,没关系。我很高兴,真的,影山没有什么问题。」

 「俺はいいけどお前の方がどうかしてるぞ。お前、普段そんなキャラじゃねえだろ」
“我很好,但做错事的人是你,你平常不是这样的性格。”

 「いいんだよ、今は、キャラとか。影山しかいないんだから」
「没关系。现在,查拉和大家。影山就剩下了。」

 「あーそ。普段からそんだけ可愛げもありゃいいのにな、お前」
“哦,是的。我希望你永远那么可爱。”

 「…ごめんね、こんな事に巻き込んで」  “……很抱歉把你卷入这件事。”
 「逃げろって言われて逃げなかった俺が悪いだろ」  “当我被告知要逃跑时,我没有逃跑,这是我的错。”
 「どんな時でも、被害者が悪いなんて事はないよ」  “这从来都不是受害者的错。”
 「あいつら知り合いか?」  “你们认识吗?”
 「さあ、記憶にはないけど、向こうは知ってるみたいだったからそうじゃない?もう覚えてないよ、そんな話」
“呃,我不记得了,不过对方好像知道这件事,不是吗?我不记得了,就是这么回事。”

 「中学卒業して一年も経ってねえのにか」  “我初中毕业还不到一年。”
 「そう、影山と会う前の事なんて、全部どうでもいいんだよ。影山が居る、この今が、僕にとっては大事なんだから」
“是的,我并不关心遇见影山之前发生的一切。现在有影山在身边,对我来说很重要。”

 「……いきなり恥ずかしいこと言い出すなっての」  「……别突然说些难堪的话。」
 「嬉しい?」  “快乐的?”
 「嬉しいけど誤魔化されねえから。あいつらはどうしたんだよ」
“我很高兴,但我不想被愚弄。那些家伙怎么了?”

 話を誤魔化すように無理矢理話題を戻して影山が問うと、びくりと月島の肩が跳ねた。声は弱々しいし、態度も普段の月島らしくない。それでも、聞けば全て答えてくれた。その月島が急に押し黙る。
当影山像是为了转移话题一样强行把话题拉回来的时候,月岛惊讶地耸了耸肩。他的声音微弱,态度也不像月岛人的典型。尽管如此,他还是回答了我提出的所有问题。月岛突然沉默了。

 なんだよ、とようやく暗順応した眼で影山が辺りを見渡せば、記憶の最後にある制服が地面に転がっていた。それから見覚えのある、やたらと派手な金髪。四、五人は居たと思うのに、誰一人として立っている者はいない。そして腕の曲がっている角度がおかしい。足の曲がっている角度もおかしい。コンクリートにうっすらと溜まって見えるものは、もしかして、赤い色をしていないだろうか。気付いてしまえば、うう、と呻き声が漏れ聞こえてくる気がする。
当影山终于用适应黑暗的眼睛环顾四周时,他看到了躺在地上的他记忆中最后一件东西的制服。然后是熟悉的、华丽的金发。我想有四五个人,但没有一个人站着。另外,手臂弯曲的角度也很奇怪。腿弯曲的角度也很奇怪。混凝土上看似薄薄的一层污垢可能是红色的。当我意识到这一点时,我感觉自己仿佛听到了一声呻吟。

 思い至った瞬間、ぞわりと、影山の背中を寒さのせいばかりではない怖気が走った。じっと月島を見る。その手は僅かに血が滲んでいて、制服も乱れている。俺の記憶の最後で、月島は何か言っていた。それは何だったんだろうか。ぞわりぞわりと、見てもいないシーンが頭に浮かんだ。
当他想到这个想法的时候,影山的后背不禁一阵颤抖,不仅仅是因为寒冷。我盯着月岛。他的双手微微流血,制服也已经凌乱不堪。在我记忆的最后,月岛说了一句话。我想知道那是什么?一阵颤抖,我的脑海里浮现出一个我从未见过的场景。

 影山の胸に頭を預けたまま、今はもう、影山からはもうその表情は覗えない。しかし何となく、その顔が、声同様に泣きそうに歪んでいるのであろうことは想像に易かった。
他把头靠在影山的胸口,现在影山已经看不到他的表情了。但不知道为什么,很容易想象她的脸和她的声音一样扭曲,好像快要哭了。

 「……おい、これ、…全部、お前が?」 “……喂,这……这都是你吗?”

 月島は何も答えない。それが答えの全てを、端的に示しているのだと気付いた。
月岛没有回答任何问题。我意识到这清楚地表明了整个答案。

 ドラマみたいなリアリティのない現実を前に、普段は見上げなきゃいけないはずの恋人が、胸の中で泣いている。何も言わなくなってしまった恋人が、とても弱い生き物のように思えた。守ってあげなきゃいけないような可愛い生き物じゃない。それは、もう、この状況が何よりも分かりやすく示しているというのに。
在戏剧般的、不切实际的现实面前,我平日仰望的爱人在我胸口哭泣。我的爱人不再说话,看起来像一个非常虚弱的生物。它们不是需要保护的可爱生物。这个情况比其他任何事情都更清楚。

 「月島」 《月岛》
 「………、」 “……”
 「月島」 《月岛》
 「………っ」 “……”
 「つき、……蛍!」 “月……萤!”
 「……かげやま?」 「……影山?」
 「『王様』」  ““国王””
 「え?」  “图片?”
 「『王様』」  ““国王””
 「え、…え、なに、どうしたの?」 “什么……什么?发生什么事了?”
 「呼べよ。『王様』って、いつもみたいに」 “像往常一样叫我‘国王’。”
 「なに、だって、いつも王様って呼ばれんの嫌がるのに、」
“什么?我不喜欢一直被称为国王。”

 「そうやって何も喋らねえ方が嫌だっての。呼べよ、いつもみたいに、王様って俺のこと呼んで、いつもみたいに笑え。そんな顔すんな」
“我不喜欢你不说那样的话。叫我,叫我国王,就像你平常那样,然后像平常一样微笑。别露出那种表情。”

 「……そんな顔って、僕、どんな顔してんの」 “……我是什么样的脸?”
 「俺に逃げられたらあいつら殺してやるって顔してる」
“他们看起来如果逃跑就会杀了我。”

 「は、」 “牙齿”,
 「ていうか、じゃあ何で逃げなかったんだよ。何でこんなとこに何時までもいんだよ、早く行こう、誰かに見つかったらヤバいだろ」
“我是说,你为什么不逃?为什么在这里呆这么久?我们快走吧,万一被人发现就危险了。”

 いつまでも項垂れている月島をぐっと押し返し、影山はその顔を正面から見据えた。きっと月島はやるだろう。ここで俺が、悲鳴の一つでもあげてこいつから逃げだそうものなら、その憂さ晴らしにこいつらは更に悲劇的な目に遭うことになるんだろうと思う。これはそういう目だ。
影山推开永远低着头的月岛,直视着他的脸。我确信月岛会做到的。如果我尖叫一声,逃离这些家伙,他们肯定要面临更大的悲剧才能发泄悲伤。这就是它的样子。

 影山は乱暴に月島を引っ張り挙げ、ぐいぐいと、月島の手を引いて表通りへと走り出して行く。制服とジャージで、学校までの道を走り出す。月島の待ったは聞かなかった。
影山猛地把月岛拉起来,猛地拉住月岛的手,就向大街跑去。我穿上制服和运动衫,开始沿着去学校的路跑。月岛没有问他在等什么。

 口論になれば勝てない。それが分かっているから、反論の隙を一つも与えることなく、それより早く走り出す。月島が状況についてこられていないのが幸いした。月島の手を引いたまま走るなど、きっと普段のこの男なら、誰に見られるとも分からない外で何を馬鹿なことをと怒っただろう。
如果你陷入争论,你就赢不了。知道了这一点,我开始跑得更快,不给自己任何反驳的机会。我很高兴月岛没有跟上这种情况。如果是正常人,估计会生他的气,因为他做了这种傻事,拉着月岛的手跑到外面,不知道会有人看到他。


 らしくない程大人しくしていた月島が口を開いたのは、学校に着いてからの事だった。既に解散になっていたらしい部室の中、二人で同じ重苦しい空気を共有して暫く経った後、帰り支度をする影山の背中にそっと言葉を吐きかける。
直到到了学校,一反常态的安静的月岛才开了口。显然已经解散的俱乐部室内,两人一时间都处于同样沉重的气氛中,然后他在影山准备回家的背影上轻声说道。

 影山がそんな言葉を望んていないことを分かった上でのことだった。
他知道影山不想听这些话。

 「ごめん」  “对不起”
 「………は?」 “…………牙齿?”
 「ごめん、僕の所為で怖い思いさせて。怪我もさせちゃったし」
“很抱歉,因为我,让你感到害怕。我什至受伤了。”

 「別に、怖くはなかったけど。あとこれも、お前の所為じゃないし」
“不过我并不害怕。而且,这也不是你的错。”

 「でも巻き込んだ。僕が、王様、なんて呼んだから」
“但我让他参与其中。因为我称他为国王。”

 「どうせこうなってたって。それよりお前は?どっかやられたりとか、」
“无论如何,事情都会变成这样。那你呢?或者类似的事情。”

 「してないよ。こういうの、慣れてるから」 “没有,我已经习惯了这种事情。”
 「……そうかよ」 “...我懂了。”
 「うん」  “是的”
 「それで、結局さっきのはなんだったんだよ」 “那,刚才是怎么回事?”
 「それはっ、………だから、ほんとに、あいつらの事なんて覚えてないんだって」
“那是……所以说,你真的不记得他们的事了。”

 苦し紛れの言い訳みたいな真実を答えると、影山はそうかよ、とそれだけを簡単に返した。少しだけ苛立ったようなそれは、多分、僕の所為だろう。僕ははっきりと答えないから。影山にとって意味のない謝罪ばっかり繰り返して、肝心なことを言わないから。そうだろうと思う。
当我如实回答时,影山只是回答说:“我明白了。”这听起来像是一个蹩脚的借口。也许是我的错,我感到有点恼火。因为我无法给出明确的答案。因为影山一直在重复毫无意义的道歉,并且不说重要的事情。我想是这样。

 だけど、本当に、あんな連中のことなんて覚えていやしない。似たようなものが何時も傍に居て、傍に居たというよりは勝手に後ろや隣を歩いていて、それだけだ。雑踏を行く時、いちいちそいつらの顔を全部見ながら歩くわけじゃないだろう、それと同じだ。
但说实话,我不记得那些家伙的任何事情。类似的东西总是在我身边,但它不是在我身边,而是走在我后面或旁边,仅此而已。这就像当你穿过人群时,你不会边走边看他们所有人的脸。

 聞こえるはずのない言い訳を心の中でしていれば、当然会話は途切れ、再び重苦しい空気が流れた。暗く、静まり返った部室に、ただ影山が制服に着替える音だけが聞こえるばかりだ。
当我在心里编造一些不该听的借口时,谈话自然就停止了,气氛又变得凝重起来。社团室内漆黑一片,寂静无声,只有影山换制服的声音。

 何も言ってこないのが、僕を信頼してるとか、言ってくれるまで待ってるとか、そういう、優しくありがちな好意によるものじゃないだろう事くらい分かっている。僕を、試しているんだ。
我知道他没有告诉我任何事情的原因可能不是因为他信任我,也不是因为他在等我说什么,或者是那种友善的、常见的礼貌之类的。你这是在考验我。

 すう、と深呼吸する。影山が着替え終わったのを確認して、背を向けて着替えていた影山が振り向くより先に口を開く事にした。いつの間にか握り締めていた掌は、指先ばかりが冷たくて、じわりと嫌な汗をかいている。
我深吸了一口气。确认影山已经换好后,他决定在背对着自己换衣服的影山转过身之前开口说道。不知不觉间,我的手掌已经攥紧了,指尖冰冷,冒着汗。

 そして影山が振り返った。いつものように帰るぞ、と言われるより早く、声をかける。
然后影山转过身来。像往常一样,在他叫我回家之前,我喊了他一声。

 「あのね、」  “你知道吗,”
 「……なんだよ」  “……它是什么”
 「目に映るもの全てが憎く思える時期って、あった?」
“你是否曾经经历过一段时期,你讨厌你所看到的一切?”

 「は?」 “牙齿?”
 「視界の端に存在するだけで煩わしくて、会話とか交渉とかそういう段階全部ぶっ飛ばして、誰彼構わず殴り飛ばして蹴倒した。誰とも慣れ合いたくなくて髪を染めたり、ヘッドホンの音量を上げたりしてさ。何もかも嫌だった。全部気に食わなかった」
“仅仅存在于我的视野边缘就很烦人,所以我会破坏对话、谈判以及所有类似的事情,对每个人拳打脚踢,无论他们是谁。”我不想习惯对任何人来说,所以我染了头发并调高了耳机的音量,我讨厌一切。”

 「何の、話だよ、それ」 “你在说什么?”
 「僕が厨二病だった頃の話。中一の後半辺り、だったかな、確か。そんな時期がね、あったよ」
「这是我患中二病时的故事。如果我没记错的话,大概是我初中一年级后半段的时候吧。曾经有过这样的一段时光。」

 「……覚えてんじゃねえか」 “……你不记得了吗?”
 「でもあいつらの顔覚えてないのはほんとだし」 “但确实,我不记得他们的脸了。”

 思い出すのも気分が悪い。暗く淀んだ、モノクロの世界。
即使想起它我也感觉很糟糕。一个黑暗、停滞、单色的世界。

 暴力で全てが解決した。殴りつける肉の感触は、今もまだ、この手に残っている。
一切都用暴力解决了。我仍然能感觉到手上的肉在打我的感觉。

 僕の居た地獄の名前は、きっと誰にでも起こり得るもので、多分、僕だけが適応できなくてああなった。ただあの世界は、不思議な程、息がしやすかった。
我所处的地狱可能发生在任何人身上,而我可能是唯一一个无法适应的人。然而那个世界却出奇的容易呼吸。

 ここはすごく、息苦しい。 这里真的很闷。
 影山。お前の隣は、特別に。 影山。你旁边的那个很特别。

 「だけど、だから、……ねえ、王様。別れるなら今だよ」
“但是,这就是为什么……嘿,King。如果你们要分手,现在就是时候了。”

 「………は?」 “…………牙齿?”
 「僕はその時の事なんていちいち覚えてなんかないよ。誰を殴ったとか、誰を蹴ったとか、誰を病院沙汰にしたとかね。だけど向こうは覚えてる。きっと今日みたいなことは、これからずっと、僕にはついて回る」
“那次的事情我什么都不记得了,我打了谁,踢了谁,把谁送进了医院。但是他们都记得,我相信今天这样的事情不会再发生了,跟我走吧。” ”

 「だから、巻き込まれたくないなら別れろってか?俺達が付き合ってることなんか誰も知らねーだろ」
“所以,如果你不想参与,就分手吧?没有人会知道我们在约会。”

 「でも影山じゃなかったら、僕はああはならない。今日、あそこに、山口でも日向でも、他の誰が来ても、きっと僕は笑って終わらせるよ。山口が殴られて、僕はそれを平然と見下ろして、何だよやっぱり友達が殴られたって気にしねえ奴じゃん、って、なってた。僕が殴って終わらせるっていう可能性もあるかもしれないし」
“但是如果没有影山,我就不会那样。如果山口、日向或者其他人今天在场的话,我相信我会笑着结束这一切。山口被击中了,我就这么做了。”我低下头想:“搞什么?他不在乎他的朋友是否被击中。”我有可能会通过击中他来结束这一切。

 「ならねえよ!だってお前、」  “别这么做!因为你……”
 「なるんだって。本当に、そうだったんだよ、友達に何されても彼女に何されても、別に何とも思わなかった。だって痛いのは僕じゃないし?」
“确实如此,无论我的朋友对我做了什么,我的女朋友对我做了什么,我都不在乎。毕竟,受伤的不是我,不是吗?”

 「月島、」 《月岛》
 「だけど、影山はどうも、そういかないみたいなんだよね。だから、ほら、お別れしよう。僕と一緒に居てさ、また痛い思いするのは嫌でしょ?」
“但是影山似乎做不到这一点。所以,来吧,我们说再见吧。你不想在和我在一起的时候再次感到受伤,对吧?”

 ぎゅっと握り込んだ掌は、いつのまにか、殆ど感覚がなくなっていた。そうして、ゆっくり、心まで感覚をなくしていくんだろう。
不知不觉间,我本来紧紧握着的手掌,已经几乎失去了知觉。然后,慢慢地,我什至连我的心都会失去知觉。

 そうして耳を塞いで、目を塞いで、世界をモノクロで閉ざして終わる。真似事のように普通な振りをしてみたけど、やっぱり僕には苦しいばかりだった。自重気味に、傷付かない為の予防線を張りながら、月島はそっと影山から視線を逸らす。
然后,我闭上耳朵,遮住眼睛,最终将世界封闭在单色之中。我试着假装正常,但这对我来说只是痛苦。月岛悄悄地把目光从影山身上移开,感到有些不自在,并拉起一道防线以免受伤。

 そして、だから、気付かなかった。一歩、影山は月島の元へ距離を詰める。それから手を月島の頬へ、両手で包み、視線を合わせた月島に向かって、思いっきり頭突きした。
这就是为什么我没有注意到。影山距离月岛又近了一步。然后他把手放在月岛的脸颊上,用双手捧住,一边用头撞着月岛,一边看着他。

 「いっ……!!」 “我...!!”
 「ってえよ!」 “就是这样!”
 「はあ!?自分からしといてなに、」 “啊!?你为什么要自己做?”
 「けど!けど、別に、そんだけだろ!痛いだけで、別に、お前が好きじゃなくなるとかそういうんじゃねえだろうが!」
“但是!但是,事情就是这样!疼,并不代表我就不会喜欢你了!”

 「は、」 “牙齿”,
 「そんな理由じゃねえ限り、ぜってー、別れねえからな」
“只要不是这个原因,我就不会和你分手。”

 「え、ちょっと、影山…?」 「等等,影山……?」
 「お前、俺のこと好きだろ」 “你喜欢我,对吧?”
 「好き、だけど」 “我喜欢,但是”
 「俺しかいないって、言ったよな」 “我告诉过你我是唯一的一个。”
 「言った」  “说”
 「俺の所為でキレて見境なくなるくらい、俺のこと、好きなんだよな」
“你这么爱我,竟然因为我做的事而生气,不分青红皂白。”

 「好きだよ。いちいち確認しないでくれるかな、恥ずかしいんだけど」
“我喜欢你,希望你不要每次都检查,好尴尬。”

 「じゃあ、何で、俺の為にちょっと苦しくても恋人でいようって、思わねえんだよ」
“那你为什么不认为你会成为我的爱人,即使这对我来说有点痛苦呢?”

 「……え?」  “……图片?”
 「え?じゃねえよ、俺の為に苦しめ!」 “什么?不行,你要为我受苦!”

 月島の胸倉を掴み、睨み上げて、影山は言う。その一連の言葉に、月島は何一つとしてろくな返答が出来なかった。挑発されている事には気付いている。暴力的な所作だとも分かっている。その上で、月島は、何も出来なかった。
影山说道,抓住月岛的胸口,抬头怒视着他。对于这一系列的话语,月岛无法给出合适的答复。我知道我被激怒了。我知道这是一个暴力的举动。除此之外,月岛也无能为力。

 だって、影山は、自分が何言ってるのか分かってるんだろうか。そんな、はは、さすが王様、横暴だ。
因为,我想知道影山是否知道他在说什么。哈哈,不愧是国王,暴虐啊。

 こんなにも息苦しいのに、泣きそうなくらい、真っ暗な中なのに、こんなにも暖かい。
虽然呼吸很困难,却很想哭;虽然漆黑,却很温暖。

 「じゃあ、……別れない?」
 「当たり前だろ!」
 「僕のことが好きだから?」
 「当たり前だろ!」
 「……そっか」
 「そうだって何度も言ってんだろ!みくびんな!」

 堂々と言ってのける影山が愛しくて、胸倉を掴む手を離し、そのままぎゅうと抱き締めた。月島の掌は、今はもう、握り締められてなどいない。

 「王様さあ、」
 「…なんだよ」
 「普段は妙な擬音ばっかで何言ってんのか分からないけど、時々、ほんと時々、かっこいいよね」
 「お前、それ褒めてんのか?貶してんのか?」
 「褒めてるに決まってるでしょ」
 「じゃあもっと素直に褒めたらいいだろ」
 「うん、じゃあ、後悔しないでね」
 「は?何をだよ」
 「苦しみ損なんてごめんだからね。王様が誰に何されても、もしかしたら助けないかもしれないし、見過ごして笑うかもしれないけど、絶対助けるし報復するから。最後まで付き合ってね」
 「上等だ」

 言ったら、にやりと影山が笑った。ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
 ぱっと、まるで何事もなかったかのように影山は僕の腕を抜けて、それから僕の鞄を放り投げてきた。それから自分の鞄を持つまでの流れを、やっぱり、何もするでもなく眺めるのが精一杯だった。
 本当に。かっこいいと、思うよ、影山。そういうところ、すごく。
 すっかり陽の沈んだ暗い部室で、それでも眩しさを感じるくらい鮮やかに影山は笑って、当然のように僕の手をとった。その所作は、どこまでもいつも通りで、放課後から続いたさっきまでの会話まで全て、何事もなかったかのようにあっさりとその言葉を吐いた。

 「帰ろうぜ。明日も部活あるし」
 「………そうだね」
 「殆ど何もしてねーのにすげえ疲れたわ、今日」
 「僕も」
 「お前はしただろ、色々」
 「覚えてないよ、そんなの。影山が王子様みたいに助けてくれたのは覚えてるけど」
 「どっちかっつーとお前だろ、王子様は」
 「ああ、そっか、影山は王様だもんね」
 「だからその呼び方ヤメロ」
 「さっきは王様って呼べ、とか言ってたくせに」
 「あれはあん時だけだっての!」

 その言葉がどこまでも普段通りで、当たり前に僕と影山の間を行き来するものだから、もう何もかもがどうでもよくなって、つられて僕も笑った。文句を言いながら影山も笑う。
 多分、僕は、最初からでそれで良かったんだ。

 じわりと暑く、妬ましいほどしつこく、吐き気がする程気持ち悪い、焦れるような悪夢の日々。あれは、一体いつの夏だったんだろう。だけどただ一つ分かるのは、それがもう二度と、やってこないだろうということだ。こうして影山の隣に居る限り、多分、ずっと。
 それから二人並んで、部室を後にして帰路についた。それはなんてことのない、冷えた冬の日のことだった。それを僕は、ずっと、忘れないだろうと思う。


/end.(極彩色で塗り潰す青春モノクローム)



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極彩色で塗り潰す青春モノクローム(月影)
月島が元ヤンだったらなあ、という話。モブがたくさん出てくるので苦手な人はお気をつけ下さい。あと月島が影山好き過ぎてる。
43954418,243
2013年1月6日晚上9点09分
夜
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秋庭凉
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