这是用户在 2025-6-27 8:25 为 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25137618 保存的双语快照页面,由 沉浸式翻译 提供双语支持。了解如何保存?

pixiv自2024年5月28日起更新了隐私政策更新记录


信奉者は×に殉ずる - ぐだ雛(からあげ)の小説 - pixiv
信奉者は×に殉ずる - ぐだ雛(からあげ)の小説 - pixiv
20,439字
信奉者は×に殉ずる
カルト宗教の御神体に祀り上げられる拓海クンと敬虔な拓海クン信徒蒼月の衛拓のパロディ話ですが、真○○○編、ノ○○○編、カ○○○澄野編辺りのネタバレエッセンスが含まれます。

1P目はべったーに投稿した薄暗い健全ポエム
2P目は一万字くらいの蛇足えろです。
查看后续
1372372,570
2025年6月23日晚上9点13分

 世界は美しくなんてないし、カミサマなんていない。
 それが蒼月衛人が十年間の人生で感じ、考え、達した結論で。今日も蠢く肉塊でしかない両親は何やら不快な雑音を垂れ流し続けている。
 ニンゲンが腐り溶けた肉のバケモノに見える。感じる。臭う。聞こえる。だから、異物としか思えない。そんな認識障害を訴えた時、この両親たちはボクの症状に真摯に向かい合い、其れを取り除こうと行動した。
 病院に行って様々な検査を受けた。薬も飲んで、手術を受けて、おかしな民間療法じみたこともたくさん。たくさん。たくさんして、────何も、変わらない。

 だから世界はこんなものなんだと、もういいからとボクは両親に言った。『諦めろ』と笑いながら、今までの行為は無駄な努力だと嗤いながら。
 思えば、その言葉が両親を壊したのだと思う。



 連れられて行った集会場は思ったより広く、薄暗く、無数の肉塊がそこかしこに犇いていて最悪だった。
 ぶつぶつと何事かを囁き合いながら手を合わせて、揃いのローブを纏い、背を曲げながら、この部屋の中で唯一白く眩い光を当てられて透けた天幕が下りた壇上に向かい揃って頭を下げている。そして其れに両親も倣い、ボクにも同じようしろと強要するのだ。

 ああ、崇めた神がいないなら、異なる神を崇めて救われろと?
 余りの短絡さに乾いた笑いが漏れそうだった。

 けれど、ボクだってこの集会の中でいきなり反抗的な態度を取るほど想像力が乏しいわけではない。この場をやり過ごしてから『終わって』しまったこの両親を殺して遺産を頼りに一人、人類を滅ぼすために生きようと、そう、思っていた。
 そんな思考をする中で、唐突にぱち、ぱちりと手を打ち鳴らす音が始まった。それは次第に数と音圧を増していき、そうやって洪水のようにその場を埋め尽くしていった喝采が悍ましく部屋の中を反響していくとその熱狂に持ち上げられる様にして壇上の天幕が上がっていく。

 そして、世界からピントを逸らす為に掛けていた度の合わない眼鏡のその向こうにボクは、見た。

 最初に目を引く、血のように赤く艶やかな髪色にはひと束の黒色が差し色のようにふわりと跳ねていて、その鮮やかさに思わず息を呑む。
 白い襦袢のような、薄く頼りなく粗末とすら思える衣服のみを身に纏っているけれど其のシンプルさはむしろ肌の白さや細い身体の線を際立たせる装飾と化している。
 何よりその瞳だ。青くて、虹彩は赤くて、角度によっては紫のようにも見える。蒼い焔のような強い意志を持った、けれど諦観を纏った美しい瞳。
 それらを持ち、少年と青年の齢の狭間の体躯と顔立ちをしたそんな『彼』が真っ白な壇上の真っ白な椅子の上にちょこんと座って、大喝采を送る肉塊たちを見下ろしていた。

 初めてだった、見惚れるという感覚。視線を逸らしたくないという欲。こんなに綺麗なものをボクはこの十年間で一度も見たことがなかった。
 幼いボクにも理解できるほどに、彼は『神さま』だった。

 どの肉塊も頭を垂れている中でボクだけが『神さま』を不躾に見つめている。どきどきと高鳴る心臓が鼓膜を突き破ってしまいそうで、取り繕う余裕も無くなっていたんだ。
 だからだろうか、その『神さま』がそんなボクを見つけてくれたのは。不純な想いを見透かされていたのだろうか。
 所以,是吗?那位“神明”之所以会注意到这样的我,是因为看穿了我那不纯的念头吗?

 俯き気味だった頭を軽く上げて、ボクの方に視線を向けたかと思うとゆっくりと瞬きをする。そして、目を見開いて宝石よりも美しい瞳をそこから溢れそうな程にまん丸にしてから。そっと優しく目を細めて、柔らかく微笑んだ。
轻轻地抬起原本低垂的头部,将视线转向我,然后缓缓地眨了眨眼睛。接着,他睁开双眼,那双比宝石还要美丽的眼睛仿佛要溢出来一般圆滚滚的。随后,他温柔地微微眯起眼睛,露出了一个柔和的微笑。

 がつんと頭を殴りつけられるみたいな衝撃だった。激しくて、綿飴の機械に放り込まれて飴に絡まれるかのように甘くて柔らかくて、ぐらぐらに煮えたぎったマグマに飛び込むように熱い。
翻译:  仿佛被狠狠地砸了一下头,那种冲击强烈而剧烈,就像被扔进棉花糖机器里,被糖丝缠绕般甜蜜而柔软,又像是跳进沸腾的岩浆中那样炽热。

 その時、ボクは神さまに×をしたんだ。   那时,我对神明做了×。



 それからボクは兎角、熱心に働いた。  从那以后,我更加热心地工作。
 『敬虔且つ模範的な信者は幹部となり神に直接奉仕を行う権利を賜り、さらに献身を認められたものは大願を成就するための天啓をも得る事ができるのだ』と信徒である肉塊は悪臭を撒き散らしながら喚いていた。
“虔诚且模范的信徒将成为干部,获得直接为神服务的权利,而且被认可献身的信徒还能获得实现大愿的天启。”信徒肉块一边散发着恶臭一边叫嚣着。

 天啓だとかそんなことはどうでも良いけど神さまに直接奉仕できるというのが魅力的で、だけど今その奉仕を肉塊どもが行っているのかと思うとはらわたが煮えくりかえるようで、ボクは寝食を削って、身を粉にして、果てしない階段を昇るようにして、ひたすら尽くし続けていた。
天启什么的都无所谓,但能直接为神明服务这一点非常吸引人。可是现在想到那些肉块们在进行这种服务,我的内心就像被煮沸了一样,我废寝忘食,粉身碎骨,就像攀登无尽的阶梯一样,一直尽心尽力。

 勿論この教団にではない。あの神さまにだ。あの美しい神さまに仕えて、その奉仕をボクが行う為。
当然不是为这个教团,而是为那位神明。为那位美丽的神明服务,由我来执行这种服务。

 そう思えば、ボクはなんでもできる気がしたし、実際になんだってできた。ああ、知らなかった。×ってなんて、すごいんだろう!
 这样一想,我觉得自己无所不能,事实上也确实做到了。啊,我之前不知道,×竟然如此强大!

 こんな新興宗教で必要なのは、ヒト。金。信仰。要はこれだけだ。其れを集めて貢献すれば馬鹿な信者たちは見目も地頭も良いボクを神童だとさざめき担ぎ上げるようになった。そうして数年もすれば『歳若くして有能な筆頭幹部信者』の出来上がりだ。
 在这种新兴宗教中,所需的无非是:人、金钱、信仰。只要收集这些并做出贡献,那些愚蠢的信徒们就会将外表和头脑都优秀的我视为神童,纷纷抬举我。这样过不了几年,就能塑造出一个“年轻有为的首席干部信徒”。

 だけどボクは、そんな事で満足しない。神さまに一歩でも近づく為の階段を昇るのを止めたりはしない。今日も×を原動力に神さまをこき下ろす、非難する、排除しようとする肉塊をナイフで撫で切って、刀身に滴る緑色だか紫だかよくわからないの血のような液体を慣れた所作で払ってから教団への帰路に立った。
 但我并不满足于此。为了更接近神明,我不会停止攀登那通往神明的阶梯。今天也以×为动力,用刀子抚过那些辱骂、诽谤、试图排除神明的肉块,熟练地拂去刀身上滴落的绿色或紫色、难以分辨的血液般的液体,然后踏上返回教团的归途。

 ひと仕事を終えて帰ったらまずは、念入りに身を清める。泡立ったバススポンジで皮膚が赤くなるまで汚れを擦り落とし、バスルームのタイルの上にお湯とともに流れていく奴らの体液を横目にしながら曇ったガラスを手のひらで擦ると指の跡に現れた鏡面に映った自分の鏡像と目が合って、そいつはこれから訪れる幸福にだらしなく頬を緩ませていた。
完成一项工作后回到家,首先要做的是彻底清洁身体。用泡沫丰富的浴球将皮肤擦得发红,直到污垢完全脱落,一边斜眼看着那些家伙的体液随着热水一起流过浴室的瓷砖,一边用手掌擦拭起雾的玻璃,当掌纹在镜面上显现时,与镜中自己的目光相遇,那家伙正因即将到来的幸福而不自禁地放松了脸颊。

 その緩んだ口元をぐっと引き締めて、指先で顎に触れ、頬をなぞり、目元に隈はないかと確認し、漸く神さまの前に立つのに及第点だと判断してからシャワーコックを捻り、水を止めて禊を終わらせる。
 紧了紧那松弛的嘴角,用指尖轻触下巴,抚过脸颊,确认眼周没有黑眼圈,终于觉得站在神明面前算是合格了,然后拧紧水龙头,结束沐浴净身。

 髪を乾かして整え、趣味の悪い白いローブを被り、世界とボクを隔てる眼鏡、は掛けないまま廊下を歩いて行くと施設の最奥にある扉がアナログで頑強な南京錠を備えて佇んでいた。
吹干头发,整理好,穿上品味不佳的白色长袍,没有戴上那副将我与世界隔开的眼镜,就这样走在走廊上,来到设施最深处的那扇门,门上配备着老式而坚固的南京锁。

 奉仕係のボクにだけ与えられた鍵を鍵穴に挿し込んでゆっくりと回せば、
 将只有我这位服务人员才有的钥匙插入锁孔,缓缓转动,


「蒼月」  “苍月”


 座敷牢のような狭い部屋の中、座り込んでボクを見上げる神さまが、今日も美しかった。
在如同座敷牢般狭小的房间里,坐着仰望我的神明,今天依然美丽。

 幹部となってすぐ、神さまに奉仕することが何よりの願い。それだけを生き甲斐としてその為に何もかも捧げると熱弁すればそれを証明しろと重苦しい刀身が鈍色に光るナイフ一本を与えられ、それを受け取ったボクは、もはや自らの願いの為だけに愚鈍に手を合わせるだけのモノとなっていた両親を手にかけた。
成为干部后,侍奉神明成了我最大的愿望。我将这视为生活的意义,愿意为此奉献一切。当我热情洋溢地陈述这一点时,被要求证明,于是递给我一把沉重的、钝色光芒的刀刃——一把匕首。接过它的我,已经变成了一个只为自己的愿望而愚钝地合手祈祷的怪物,亲手了结了父母。

 そして、その犯行の全てを単独で隠蔽した後に引き継いだ遺産を全て、教団へと寄金した。
然后,在独自隐瞒了所有罪行之后,将继承的遗产全部捐赠给了教团。

 それに気をよくしたお飾り教祖の肉塊はすぐにボクを神さまの奉仕役に抜擢してくれた。ああ、なんて欲深くて短慮で醜くて愚かで、どうしようもない。いっそアイツを排除して神さまをここから連れ去ってしまえれば、と口端が歪む。ボクと神さまとの間に存在する障害の排除までに必要な日数と道具と金銭と労力とを考え、
这让那位装饰性的教祖肉块心情大好,立刻提拔我为神明的侍奉者。啊,多么贪婪、短视、丑陋、愚蠢,简直无可救药。我甚至想,干脆排除掉他,将神明从这里带走算了,嘴角不禁扭曲。我开始思考,为了排除存在于我和神明之间的障碍,所需的天数、工具、金钱和劳力。

「蒼月。どうしたんだ?」  「苍月,怎么了?」
「──何でもないよ。神さま」  「──没什么,神明。」

 神さまからの呼び掛けにボクは愚かな肉塊に関しての怨嗟全てを思考の外側に追い出して、神さまにしか見せたことのない、外面ではない心からの笑顔で応えた。
 在神明的召唤下,我将关于那愚蠢肉块的怨恨全部驱逐出思考之外,用只有神明才见过的,并非表面的,而是发自内心的笑容回应。

 きょとんと瞬きをして無垢な様子を見せる神さまは外で教団が、ボクが何をしているのかも知らず。人々が健やかであれとひたむきに奇跡をもたらす存在としてこの場に繋ぎ止められている。手のひらから赤き神の酒を滴らせて、天啓を授けるのだ。
 それが、神さまが教団で神と尊ばれる所以。
 全く。奴らは何もわかっていない。そんなものが無くてもどれだけ神さまが美しいのかすらわかりもしないなら、やっぱりボクだけが真実の目を持っているのだろう。

 見る目だけでなく耳も腐っている。きっと溶けた脳が耳孔で固まり詰まってしまっているに違いない。
 発声を禁じられ、今までの奉仕係とのやりとりも身振り手振りのみで済ませていたという神さまの声が肉塊ども如きに晒されなかったのは僥倖と言えるのかもしれないけれど。
 その長年の束縛のせいで奉仕し始めて暫く、いや、数日もしないうちにボクへ語りかけてきてくれた神さまは交流に飢えていたようだ。出会った頃のままの青年になりきれない少年の姿で、心もその見た目に寄り掛かるような溌溂さを失わせていない神さまは、光栄なことに、外見年齢の近いボクへの期待と好奇と少しの不安をない混ぜに「なあ」とボクの袖を摘んで、内緒話をするような囁き声で話しかけてくれた。
 その時の感動はとても形容しきれない。キャパシティを超えた悦びから自分が内側から爆ぜてしまったかと思うほどの衝撃。閾値を軽く凌駕する多幸感で気絶するかと思った。でも、神さまを前にそんな愚は犯せない。
 なんとか我を取り戻してから、勿論神さまの話し相手役を謹んで拝命したボクは神さまから様々な話を聞いた。
 『なにぶん、長いことずっとこの施設の中でしか暮らしてこなかったから、同じ歳くらいの子とは数える程度にしか話したことがないんだ』と、しどろもどろにそう語りながら。神さまは久々の会話の取捨選択にあくせくしていた。


『神さまはずっとその姿であらせられるのに、齢など関係があるのですか?』
『うーん……オレはこの歳で止まってるだけで元々、不老不死ってわけでもないしなあ。……あ、あと敬語はできればやめてくれると嬉しい。友達みたいに話せたら、嬉しいなって、思って』
『……ともだち』
『い、いやならいいぞ! 無理強いはしないからな!』
『…………神さまがそう言うなら、わかった。……よ?』
『……ふはっ、あははっ! ぎこちないな、何で疑問系なんだよ?』

 そうやって声を上げて笑い、心底嬉しそうにする顔も

『神さま、今日は欲しがっていた本を持ってきたよ』
『ありがとう蒼月! 今までずっと座って飲み食いして空想の魚の数を数えてるだけで、本当に退屈だったんだ。色々持ってきてくれたんだな……大変じゃなかったか?』
『全然。神さまが喜んでくれるならボクは喜んで、なんでもするよ』
『えー……めちゃくちゃありがたいけど申し訳ない。オレが出来ることがあったらすぐに言ってくれよ。オレも、蒼月にお返ししたいからさ』

 ぐっと両拳をにぎりながら、きりりと眉を吊り上げてボクの為にと張り切る様子も

『なあ、蒼月。欲しいものとかないのか?』
『神さまと過ごす時間』
『や、そうじゃなくてさ。ほらそれこそ不老不死とか巨万の富とか、そういうのだよ!』
『神さまと過ごす時間があればいい。神さまの傍にいて話せるだけでボクは幸せなんだ』
『は、恥ずかしいこというなあ……』

 赤くなったそこを誤魔化す様に頬を掻きながら、嬉しさを隠しきれずはにかむ笑い方も

『蒼月、なあ。蒼月』

 ボクの名前を呼んでくれる。その精悍で柔らかで甘くてでも声変わりを果たした低い声も、
 全部、全部が涼やかで、美しくて、もっと聞いていたくて、×××で。だから、このまま、この日常がずっと続けばボクはそれで、それだけで、





「蒼月、飲んでくれ」

 言いながら、神さまはボクへと差し出した傷一つない手のひらから赤い液体をじわりと湧かせた。その小さな手の中心がなにか、紫色に渦巻いている。
 その奇跡を見て、でもボクはざわざわと胸を掻きむしる様な嫌な予感がして、神さまが願っているのに一歩下がってしまう。

「ぼ、……ボクは、神さまの天啓なんて、神の酒なんていらない。言ったでしょう? ただ傍にいられればそれでいいんだ」

 だから、と二の句を次ごうとしたその時には、神さまがその液体を自ら口に含んだ。するりと小柄な身体をボクの胴に滑り込ませ、首に腕を回してきて、その力に逆らわずこうべを垂れたボクの口を勢いのままに、塞いだ。
 その、薄い唇で食まれたボクの唇は初めての感触に狼狽えて、間抜けにも口を開いてしまう。その隙に小さな舌が潜り込んできてとろりと液体をボクの口に流し込んでいく。
 やっていることは大胆なのに、いやにその舌は震えていた。

 そしてその、ボクの初めてのキスの味は、血の味が口内を鉄臭く埋め尽くすものだった。



「オレは神様なんかじゃないんだ。ごめんな蒼月、ごめんな……」

 そう言って、口元を艶かしく血の色で汚しながら神さまが泣いている。謝罪なんて、一つもいらないのに。

「ノモケバっていう怪物を取り込んだ人間の成れの果て、それがいつからか神様だなんて言われて、受け入れられる為に必死に取り繕っていただけの臆病な奴がオレなんだ」

 襦袢に隠されていた白く細い腕を露出させて、ぐずりと紫色に歪んだ異形を見せつけてながらぼろぼろとまだ泣いている。怪物。神さまが、怪物?
 そのイコールを頭の中に結びつけるのが難しくて、優秀と讃えられたはずのボクの頭の回転が停止しかける。
 だって、異形を纏って痛々しい神さまの姿もこんなに綺麗なのに。それ以上に彼の心は美しいのに、なにを拒絶する必要があるのかわからない。昔も今も、結局正しく彼を見れているのはボクだけなんだと、元々なかった人類への期待が地の底にめり込むのを感じる。

「オレは生まれつき、フトゥールムの旧い歴史にある異血っていう力を強く持ってるから、ノモケバの侵食に呑み込まれずに自我が保ててるらしい。昔、両親はオレをスミノ、……澄野拓海と呼んでくれていたけど。ノモケバに侵食された後のオレはもう、その両親にも会えなかった。だから、この名前はオレ以外誰も知らないけど、最初は、本当に普通の、人間だったんだ」

 神さま、怪物……スミノタクミ、すみのたくみ……澄野拓海。
 なんだか舌に馴染む、しっくりとくる名前だなとどこか第三者的にこの場を俯瞰するボクがそう、思った。
 神さまでないのなら、怪物でもないとボクが断じるならば、残る彼は、澄野拓海という名のボクの、ボクだけの、××になってくれるのかもしれない。と浅ましく都合のいい思考だけはよく巡る。

「だから、蒼月。オレは、元はただの人間だったうえに今は、化け物なんだ。だから、お前にはオレが人間に見えてたんだと思う。蒼月が歪んで見えるっていう人間でも、勿論、神様でもないから」

 だったら、その人間たちの方が真の化け物なんだと反論したかったけれど、神さまへの従順な姿勢を七年間も続けてきたボクはどうしてもその言葉を遮れない。そもそもボクから認識障害について彼に話した覚えはないんだけど、一体どうして彼がそれを知ったのか。
 ぽろぽろと瞳から滴り落ちる透明な液体が神の酒なんかよりも尊くて、それをずっと見ていたいような、それ以上に止めてあげたいような気持ちにさせられるのに、足が、口が動かない。

「嬉しかったんだ。1人じゃなくなってからはずっと赤い雫を、神酒を生むだけの存在だったから」

 人類が憎い。神さまに、拓海クンにこんな思いをさせて、許せない。赦されるはずがない。

「蒼月がオレに話しかけてくれて、何もいらないって言ってくれて嬉しかった」

 当たり前だ。今だって、拓海クン以外に欲しいものなんてない。このままボクより小さな身体を抱き込んで、そのままずうっとボクの傍にいてくれるなら本当にボクは何も、何もいらないのに!

「オレ以外がきちんと見えるようになったら、蒼月が離れていくんじゃないかって怖かった。だから、……っ」

 だから、そんな理由の罪滅ぼしのつもりでこの万能薬たる神酒をボクに授けたのだとしたら。


「…………ごめんな」


 それは、ひどい酷い思い違いだよ。拓海クン。




 洪水の様に神さま──拓海クンに浴びせられた言葉たちを一晩中反芻して、結局その夜、ボクは一睡もすることができなかった。
 短い話ながらに情報量は多かったけど、精査すれば単純明快な彼の経緯。ボクの異常を治療するために元々漁っていた旧フトゥールム史や文献の中にも『ノモケバ』というものの記述を見た覚えはあったし、失礼ながらもお世辞にも賢いとは評せない拓海クンの話の割に一通りの筋は通っている。
 つまり、『拓海クン』は神さまではなく、異血を持った戦士と古来に称されていた、ヒト。隔世遺伝なのかその血を引いて生まれて、さらに『ノモケバ』を取り込んで怪物になってしまった成れの果ての姿。ということになる。あくまで彼の自認であり、ボクがどう認識し、評するかには影響しないけどね。
 そして今、その『ノモケバ』が生み出す奇跡を口にして初めて教団へと赴いたボクの視界には初めて目にするものが映っていた。
 ボクと同じ様なカタチ。ちょっと違う色。大きさ。髪の毛。目と耳がふたつに、鼻と口が一つ。
 信者たちもボクと似たような背格好だったり、低かったり太かったりするけど、“同じような”生き物なんだとぼんやりと実感できてきた。
 その元肉塊の中には美しいと形容されるであろうカタチの女性がボクに馴れ馴れしく話しかけてきて、ああ、いつも鬱陶しかった目だけじゃなく口も溶けていた小さな肉塊はこいつか。なんて、……ハハ。


 ────拓海クン、これが、ボクの望んでいたことだっていうの?

 違う。いらない。ハリボテのように体面を取り繕っても奴らの中身は醜く腐りきっている。
 だから、だから君だけを美しく思っているボクが拓海クンから離れるわけがないと、悲痛さでくしゃくしゃな表情を浮かべて懺悔するようにボクに告げた彼にそう伝えなければと、ボクだけが開けられる彼の領域に行かなければと、焦がれた胸と頭がガンガン鳴り響いて訴えた。
 カツカツと早足な靴音を鳴らしながら拓海クンのいるその部屋へと向かって廊下を行き、扉の前、南京錠をいつものように開こうと鍵を、──あれ?

 まだボクは開けて、ない。のに、なんで。ボクだけの、拓海クンの鍵が外れて、……壊されて?

 嫌な予感に目が回る。こんな事をして、教団にバレたら信者一人一人の手で順番に刺し貫かれた後足先からじっくりと炙られて殺されるだろう重大な裏切りだ。つまり、こんな事をする奴は反乱分子の、侵入者の、いや、気の狂った信者の?
 嫌な汗が止まらない、けど、手遅れでない事を祈りながらボクは勢いよく扉を開き、




『神よ、どうかあの男に騙されないでください! 彼奴の両親より聞きし悍ましき心身の有り様は説明したでしょう! あの男は神の御技、神の身体だけが目当ての俗物! 私こそ神の膝下に相応しき真の信徒なのです。ああ、ああ、その身体が四六時中貴方の傍にへばりついていたあの男に汚されていないか確認を、嫌がらないでください! これは教団のためにも必要なことなのです! 私が奉仕係だった以前より再三申し上げていたでしょう! 神の酒を生みしその肉の身体にはこれは必要なことなのです、だから、ほら、私を受け入れて』



 今まで聴いていた不快な音よりもよっぽど悍ましいヒトの喚き声。それを辿ると信者の男が、拓海クンに伸し掛かり、外の陽も知らない細く白い肌に豚のような指を、這わせて、いつも拓海クンが着ている襦袢を、乱して、抵抗するのを無理矢理暴こうとして、あ、あぁ、────ああ。

 やっぱりコイツは、コイツらは、醜くて汚くて臭くて煩くて最悪だ。最悪だった。死ね、死ね死ね死ね死ね死ねよ化け物。ボクの拓海クンを汚そうとして許さない殺す一片の肉塊も残さない刻んで燃やして灰を他の信者に食わせてそいつらも皆殺しにしてこの教団を焚べて拓海クンを煩わせて悲しませるものすべて全て総て排除してそうやって一人になった拓海クンの手をとってそれから、

「あお、つき」

 ボクだけの所に、仕舞い込んでしまえ。
 ──何時の間にか、腕の中に閉じ込めるようにキツく抱き竦めていた拓海クンがボクに抱えられたまま、悪夢に魘されるような、うわ言のような声を上げる。
 可哀想に、レイプされかけた驚きで拓海クンの半身はあの時に見せてくれた、紫色の異形に変異してしまっている。驚きで保てなくなったそのカタチをボクに見られている事に気がついた拓海クンは、慌てて身を捩ってそれを隠そうとした。
 関係ないのに。そう思って、その異形ごと拓海クンを隙間のないくらいに抱き寄せて視線を遮ってから、ボクはその向こうに倒れ込むニンゲンを心底見下す。拓海クンの真の美しさも理解できず神酒と身体に惹き寄せられただけの害虫。辛うじて詰まっていたらしい頭のうちを曝け出して、脳髄を垂れ流す様はお似合いだ。到底、拓海クンには見せられない醜さだね。
 ひとまわり小さな身体をすっぽりと囲ってしまえば彼の目を汚さずに済む、と言い訳をしながらぎゅうぎゅうと囲う。閉じ込める。逃がさない。汚させない。
 そのまま、拓海クンの頬に手をやってその瞳を見下ろすとおそるおそる、ボクを見返して何かを期待しながら、何かに怯える光がボクを映していて本当に、堪らなかった。
 だから、まだ異形から戻り切らない唇の半分ごと、ボクの口をそこに一瞬だけ重ねてから、「いい?」と事後承諾で問いかける。狡いボクの言葉に狼狽しながらも、小さく頷いた拓海クンに優しく、大丈夫だよと教えるようにもう一度唇の先でそこを食んだ。

「××ているよ、拓海クン」

 その夜、一つの教団が祝福のように燃え上がり、神さまは殉教者の手を取ってそこを後にした。







「一目惚れだったんだ」
「初めて見た時からなんて綺麗なんだろうって、欲しくなったんだ」
「話す言葉も一挙一動もその眼の輝きも不思議な色の毛艶も白い肌も全部ぜんぶ」
「すごく優しくて、でもその優しさが自分に向けられる特別だってわかって優越感が生まれた」
「醜い部分を見せても構わず手を取ってくれて、天に昇るかと思った」
「好きなんだ。大好きなんだ。恋を始めてしたんだ。だからさ」
「愛してるから、ずっと一緒にいてくれよ」



「なあ、蒼月」



「オレの為に両親を手にかけてくれて」
「オレの為に奉仕係になるために働いてくれて」
「オレの為に話をたくさん聞かせてくれてくれて」
「オレの為に醜い化け物の部分までまるごと抱き締めてくれて」
「オレの為に人間をきちんと認識しながらも迷わず排除してくれて」
「オレの為に教団を滅ぼしてくれて」


 ありがとう。オレに殉教してくれた、オレだけの蒼月衛人。美しかったお前を愛で汚して殺すことを赦してくれ。
 望みどおり、ずっとオレを閉じ込めて二人きりでいてくれ。オレもお前の全てを赦すから。手脚をもがれても二度と陽の光が見えなくても良い。


 カミサマだっていない世界だけど、蒼月だけ、いればいいんだ。

夹书签
信奉者は×に殉ずる
カルト宗教の御神体に祀り上げられる拓海クンと敬虔な拓海クン信徒蒼月の衛拓のパロディ話ですが、真○○○編、ノ○○○編、カ○○○澄野編辺りのネタバレエッセンスが含まれます。

1P目はべったーに投稿した薄暗い健全ポエム
2P目は一万字くらいの蛇足えろです。
查看后续
1372372,570
2025年6月23日晚上9点13分
评论
izumi20091
传达您的感想给作者吧

同时推荐