短編集(梅雨) 短篇集(梅雨)
twitter上で参加させていただいたワンライへの投稿作品(2023年6月分)をまとめたものです。
这是在 Twitter 上参与的一次性投稿作品(2023 年 6 月)的汇总。
各話2000~3000文字程度。全体的に甘口でお送りします。
每话约 2000~3000 字。整体风格偏甜,敬请期待。
目次は1ページ目をご覧ください。 目录请查看第 1 页。
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ねむれないよる 无法入眠的夜晚
天気予報のチェックは毎朝の習慣だ。 每天早晨查看天气预报已成为习惯。
テーブルの上、食べ終わった朝食の傍らで、液晶画面に雲と傘のマークが表示されている。
餐桌上,吃完的早餐旁,液晶屏幕上显示着云朵和雨伞的标志。
地域はドイツ、ドルトムント。今日の天気は曇りのち雨。夕方ごろから降り出して翌日の明け方まで夜通し降り続くらしい。
地点是德国,多特蒙德。今天的天气是多云转雨。傍晚时分开始下,似乎会一直下到第二天黎明。
舌打ちを一つして、透明なラバーケースに包まれたスマホを乱雑にポケットに突っ込んだ。
他咂了咂舌,将包裹在透明橡胶壳里的手机胡乱塞进口袋。
今日は一日ずっとトレーニングの日だった。 今天一整天都是训练日。
汗を吸ったトレーニングウェアから着替え終え、潔世一は自分に割り当てられたロッカーを閉める。
换下吸满汗水的训练服,洁世一关上了分配给自己的更衣柜。
まだ残っていたチームメイトたちに少しは慣れてきたドイツ語で別れを告げ、一足先にクラブハウスの建物を出た。見上げた空には灰色の雲が重く垂れ込めている。
用逐渐熟悉的德语向还留在更衣室的队友们道别,他率先走出了俱乐部大楼。抬头望去,灰色的云层沉重地低垂着。
今朝の天気予報は当たっているようだ。憂鬱な気分で溜息をつく。
看来今早的天气预报说中了。他心情忧郁地叹了口气。
傘は持ってきていない。帰宅予定時刻と降水確率とを見比べて、ギリギリいけると判断したからだ。やはり持ってくるべきだっただろうかという後悔が頭をよぎる。
没带伞。比较了回家时间和降雨概率,判断勉强能行才没带的。后悔在脑海中闪过,或许还是应该带上吧。
しかし幸いなことに、今のところはまだ雨は降っていない。なんとか降り出す前に自宅に辿り着きたいところだ。そう意気込んで、足早に一歩を踏み出した。
但幸运的是,目前雨还没下。希望能赶在下雨前回到家。怀着这样的决心,加快脚步迈出一步。
結論から言うと、それは叶わなかった。 结论是,那未能如愿。
といっても、ずぶぬれになるような事態はかろうじて避けられたのだから上出来だ。
虽说如此,能勉强避免全身湿透的状况已经算是不错了。
今にも決壊しそうに見えた重たげな雲はその実随分と辛抱強かったらしく、帰り道の大半を持ち堪えてくれた。
看起来随时可能崩塌的厚重云层,实际上似乎相当有耐心,在归途的大部分时间里都坚持住了。
そして自宅まで徒歩であと数分というところまできたとき、ついに雨がぽつぽつと降り出し、あっという間に強くなった。慌てて部屋に駆け込んだが、本降りになる前に帰ってこれたのは幸運だったといっていいだろう。
当步行到离自家只剩几分钟路程时,雨终于开始淅淅沥沥地下起来,转眼间就变得猛烈。慌忙跑进屋里,能在倾盆大雨前赶回来,可以说是幸运的。
潔は湿った前髪を掻き上げ、玄関でほっと一息ついた。
洁将湿漉漉的刘海撩起,在玄关处长舒一口气。
シャワーを浴び、食事をとり、その日のトレーニング内容を振り返ってノートにまとめる。いつもの日課をこなしている間に、雨脚はどんどん激しくなっていった。窓ガラスに叩きつける雨滴の音が、カーテン越しにくぐもって聞こえてくる。
洗完澡,吃完饭,回顾当天的训练内容并记录在笔记本上。在完成日常功课的过程中,雨势逐渐变得猛烈。雨滴敲打在窗玻璃上的声音,透过窗帘隐约传来。
潔はずきり、と脳みそを突き刺すように響く頭の痛みに顔を顰めた。朝から兆候はあった。
洁因那如针刺般刺痛大脑的头痛而皱起了眉头。从早上开始就有征兆了。
雨の日は大抵こうなってしまう。だからいつも、天気予報に傘のマークを見つけると気が滅入る。機嫌が悪ければうっかり舌打ちまで漏れる。かつてはこれほど酷くはなかったのだが、環境が変わったせいだろうか。
雨天多半会变成这样。所以每次在天气预报中看到伞的标志,心情就会低落。如果情绪不佳,甚至会不小心发出咂舌声。曾经并没有这么严重,或许是环境变化的原因吧。
書き込んでいた手が止まる。ゆっくりゆっくり息を吐いて、ペンを置く。ノートをぱたりと閉じた。
写字的手停了下来。缓缓地吐出一口气,放下笔。笔记本啪地一声合上了。
今夜はもう、ここまでだ。 今晚,就到此为止吧。
照明を落として入ったベッドの中で、天井を見つめ溜息をつく。
关掉灯光,钻进被窝,凝视着天花板,叹了口气。
眠れない。 睡不着。
暗がりの中、じっと睨んでいたスマホの液晶が光る。
在黑暗中,一直盯着看的智能手机屏幕亮了起来。
着信、潔世一。
繋がらないかもしれない。もう寝ているかもしれない。そう思い、散々躊躇してから結局掛ける電話は、いつも数コールののちにあっけなく繋がる。
可能接不通。也许已经睡了。尽管如此犹豫再三,最终拨出的电话总是在几声铃响后轻易接通。
画面が通話中の表示に切り替わり、聞き慣れた声が不愛想に響く。
屏幕切换到通话中的显示,熟悉的声音不客气地响起。
『もしもし』 『喂』
「…よう、凛」 「…凛,你来了」
『遅ぇ。今何時だと思ってんだ』 『太慢了。你知道现在几点了吗?』
「うん、ごめんな」 「嗯,对不起」
『わかってるなら直せ。さっさと寝ろ。いちいち謝んな、クソ』
『知道的话就改掉。赶紧去睡。别一个个道歉,混蛋』
「はは。…ありがと」 「哈哈。……谢谢」
潔の苦笑いに対して返ってきたのは、ふん、と鼻を鳴らす音だった。
面对洁的苦笑,回应的是一声轻蔑的鼻哼。
凛とは毎度毎度、同じやり取りをしている。 每次和凛都是重复着同样的对话。
フランスとドイツの間に時差はない。時刻は日付を回る頃。ストイックな生活スタイルを貫いている凛なら、きっと普段はもう寝ている時間だろう。
法国和德国之间没有时差。时间已接近午夜。一贯坚持严苛生活方式的凛,平时这个时间肯定已经睡下了吧。
付き合わせることに申し訳なさを感じながらも、結局はいつも甘えてしまう。
虽然感到打扰她很抱歉,但最终还是忍不住依赖她。
多分、凛が口では散々罵倒しながらもその行動で潔の行いを許しているからだ。電話にはほぼ必ず出る。出られなかったときは折り返す。そうしてなんやかんや言いつつも、潔が眠りに落ちるまで言葉を交わしてくれる。
大概是因为凛虽然嘴上骂得凶,但行动上却默许了洁的行为。几乎每次电话都会接。接不到的时候也会回拨。就这样一边说着各种话,一边陪洁直到他入睡。
それは日本を離れて環境が変わった最初のころ、どうしても眠れなかったある雨の日に始まった。
那是在离开日本、环境改变的最初时期,某个无论如何也睡不着的雨天开始的。
最初のとき、出る筈がないと本気で思っていたそれが予想外に許されて以来、頭痛がどうしても堪えがたいほどに重く眠れない夜、潔は凛に電話を掛けるようになった。
最初的时候,本以为不可能接通的电话却意外地被接听了,从那以后,每当头痛得难以忍受、无法入睡的夜晚,洁就会给凛打电话。
話すのは例えば、サッカーのこと。試合の反省点。トレーニングの内容について。新しいチームメイトとの連携の課題。
比如谈论足球的事。比赛的反省点。训练的内容。与新队友的配合问题。
もっと他愛のない話もした。 也聊了些无关紧要的话题。
帰り道で見かけた、四匹も並んで散歩していた大きな犬のこと。びっくりして見ていたら飼い主の女性が撫でさせてくれて、毛並みがとてもふかふかだったこと。
回家路上看到的,四只并排散步的大狗。吓了一跳看过去,狗主人女性让我摸了摸,毛非常柔软。
親しくなったチームメイトに連れて行ってもらった店のブルストが絶品だったこと。もし凛がこちらに来ることがあれば一緒にいこう、という約束。
被带去与关系亲密的队友一起去的店里,那里的勃艮第红酒炖牛肉美味至极。如果凛能来这边,就一起去吧,这样的约定。
いつだってそんな、なんでもないような話をしているうちに瞼が重くなってくる。
总是在那些看似无关紧要的对话中,眼皮渐渐变得沉重。
凛の声を聞いているうちに、いつのまにか頭の痛みは意識の形とともに明瞭さを欠いてほどけていく。口に出す言葉もふわふわと覚束なくなって、いつの間にか次の日の朝になっている。
听着凛的声音,不知不觉间头痛随着意识的形态一起变得模糊,逐渐消散。口中说出的言语也变得飘忽不定,不知何时已迎来次日清晨。
今日も、同じだった。 今天也是,一如既往。
『…そこに、あじさいが咲いてて。こっちにもあるんだな』
『…那里,紫阳花盛开着。这边也有啊』
「らしいな」 「似乎是这样」
『きれいだった』 『真美啊』
「そうか」 「这样啊」
『りんにもみせたいなって、おもったんだけど』 『想让凛也看看呢』
「おう」 「哦」
『あめ、ふってて。かさなかったから』 『下雨了。没带伞』
「…」
『…すまほ、……だせなくて………』 『…对不起,……说不出口………』
「……」
沈黙が落ちた。 沉默降临。
潔の言葉が途切れる。 洁的话语戛然而止。
電話越しに微かに届く雨音と、すう、すう、と響き始めた寝息に、凛は静かに目を細めた。そっと息を吐き、ラバーケース越しにスマホ側面の電源ボタンを押し込んで通話を終了させる。
电话那头隐约传来的雨声,以及渐渐响起、呼、呼的鼾声,凛轻轻地眯起了眼睛。他悄悄地吐了口气,隔着橡胶套按下手机侧面的电源键,结束了通话。
ベッドの上、静かな部屋でぽつりと呟いた。 在安静的房间里,床上的人喃喃自语。
「横着してんじゃねーよ。天気予報、雨だっただろうが」
「别偷懒了。天气预报不是说会下雨吗?」
カーテンで閉ざされた窓の外、凛の暮らすパリの夜は、雲一つない空に月が輝いている。
窗帘紧闭的窗外,凛所居住的巴黎之夜,在无云的天空中,月亮正闪耀着光芒。