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熱の中で/そらねむり/すや的小说

熱の中で 在热浪中

5,832字11分钟

風邪ひいて熱出した凛ちゃんと押しかけ女房の潔の話。
感冒发烧的凛酱和主动上门的洁的故事。

Twitterに投稿したものを多少手直ししました。
对在 Twitter 上发布的内容进行了一些修改。

施設の構造についての捏造が少しあります。 设施结构方面有少许虚构。
※凛ちゃん隔離部屋のドアが電動じゃないのは、隔離用という名目上簡単に、あるいは誤作動でドアが開いてしまわないようにするため
※凛酱隔离房间的门不是电动的,是为了防止在隔离名义下轻易打开,或因误操作导致门意外开启。


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*3/6-3/12のルーキーランキング12位入ってたみたいです、ありがとうございます。
*3/6-3/12 的新人排行榜上好像进入了第 12 位,非常感谢大家。

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 凛って風邪とかひくんだ。 凛也会感冒啊。
 糸師凛は風邪をひいたためしばらく個室隔離だ、という絵心からの伝達を聴いて、最初に思ったのがそれだった。
 听到绘心说糸师凛因感冒被暂时隔离在单间里,我首先想到的就是这个。

 凛のことだ、きっと俺が風邪なんてひいたものなら、「体調管理もろくにできないバカが世界一になれるとでも思ってんのか?」だとか言ってくることだろう。考えただけでちょっとイラッとした。考えなければよかった。
 如果是凛的话,如果我感冒了,他肯定会说:“连身体管理都做不好的笨蛋还想成为世界第一吗?”之类的话吧。光是想想就有点烦躁。真不该去想这些。

 余計なことを考えて勝手にイライラしていると、モニターの中の絵心が続けて口を開いた。
 正胡思乱想自顾自地烦躁时,屏幕里的绘心继续开口了。

「潔世一。お前は糸師凛の世話役になってやれ。仲良いでしょ?」
「洁世一。你来当糸师凛的照顾者吧。你们关系不错吧?」

「はぁ!? べ、べつに仲良くは…!」 「哈!?别、别说什么关系好……!」
「世話といっても、必要なものを部屋に持って行ってやるだけでいい。本人が望まなければ何回も行き来する必要はないから安心しなー」
「照顾嘛,也就是把需要的东西拿到他房间去就行了。如果他不愿意,也不用频繁来往,放心吧——」

 てことでこのリストのもの持って行っといて。と、モニターに差し入れリストが映し出されたので、慌ててメモ用紙とボールペンを用意して咄嗟にメモをとってしまった。まだ承諾していないというのに。自分のあまりのお人好しさと、流されやすさにはため息が出る。
 就这样,把这个清单上的东西带上吧。屏幕上显示出零食清单,我慌忙准备好便签纸和圆珠笔,立刻开始记录。尽管我还没有答应。对于自己这种老好人的性格和容易随波逐流的倾向,不禁叹了口气。

「まだ三次選考まで時間がある。練習ができず歯痒い思いをするだろうが、焦らなくてもいいと伝えておいてくれ。健康第一、そんじゃまた」
「还有时间到第三次选拔。虽然无法练习会感到焦急,但告诉他们不要着急。健康第一,再见」

 ぷつりとモニターの電源が落ちる。絵心からの連絡が終わった瞬間、はああ、と大きなため息が口からこぼれ落ちた。
 屏幕的电源突然关闭。绘心联络结束的瞬间,我长长地叹了一口气,声音从口中溢出。

「にしても、凛ちゃんが風邪ひくなんてね~。明日は槍でも降るのかな?」
「不过,凛酱居然感冒了啊~。明天会不会连枪都掉下来呢?」

「…そーかもな」 「…或许吧」
 偶然一緒にいた蜂楽が、やけに楽しげに、先ほど俺が思ったのと同じようなことを言った。いや、蜂楽はいつでも変に楽しそうなんだけれど。その楽しそうな表情が、いまだけは恨めしく思えた。
 偶然在一起的蜂乐,异常愉快地说了和刚才我想到的同样的话。不,蜂乐总是那样奇怪地兴高采烈。那副愉快的表情,此刻却让我感到有些可恨。

 だって、凛は弱っているのだ。俺たちは互いに、相手に弱い部分を見せたくないと思っている。俺が顔なんか出したら、弱っている自分を見られるなんてと怒髪天だ。罵られるのも嫌だし、それで凛が余計に具合を悪くして、目の前で倒れられたりでもしたら夢に出るに違いない。凛は俺を嫌いだけれど、俺は存外アイツのことを嫌っていなかったりする。
 因为凛很脆弱。我们都不想让对方看到自己的弱点。如果我露面,被看到自己脆弱的一面,那简直是怒发冲冠。被骂也不愿意,更怕凛因此更加不舒服,甚至在我面前倒下,那肯定会出现在梦里。凛虽然讨厌我,但我其实并不怎么讨厌那家伙。

「まっ、ため息ついてたってしょうがないよ。早く行ってあげたら? いまごろ凛ちゃんも潔に会いたい~って枕濡らしてるよ」
「嘛,叹气也没用啊。快去看看她吧?现在凛酱可能正想见你,枕头都湿了吧」

「お前はいっつも訳わかんないこと言うな…わかったよ、行けばいいんだろ行けば」
「你总是说些莫名其妙的话……知道了,我去就是了,我去就是了」

「いってら~♪ オシャさんたちには伝えとくよ」 「走好~♪ 我会告诉大家的」
 無駄に機嫌の良さそうな蜂楽の声を背中に受け、肩を落としながら五人部屋をあとにした。
 背对着蜂乐那无端显得愉快的声音,我垂着肩膀离开了五人房间。

 食堂とランドリー、それからリネン室で必要なものを集めてから、延々と続く無機質な廊下をぺたぺたと歩き、凛がいるという個室へ向かった。食堂には指定の食糧とともに個包装のマスクが一枚置いてあったので、いまの俺はマスクを着けている。
在食堂、洗衣房和布草室收集完所需物品后,我沿着那条无尽的无机质走廊啪嗒啪嗒地走着,前往凛所在的单人房间。食堂里除了指定的食物外,还放着一枚独立包装的口罩,所以我现在戴着口罩。

 絵心に指示されて初めて足を踏み入れた、これまでの生活で入ったことのないゾーンには、やたらと多くの扉、もとい個室が存在しているようだった。こんなにあるのなら、もっと個室を使わせてくれてもいいのに、と思わないこともない。騒がしい集団生活も悪くはないが、実家の自室、というかプライバシーが恋しい。
被绘心指示第一次踏入的这个区域,似乎存在着异常多的门,或者说是个室。虽然有这么多,但也不是没有想过,如果能多用几个个室就好了。虽然热闹的集体生活也不坏,但还是会怀念老家的自室,或者说隐私。

 凛の部屋だという十番の扉の前に辿り着き、シーツやタオル、食糧を両腕で抱えたまま、つま先で扉を叩いた。
终于来到了标有凛房间的十号门前,两手抱着床单、毛巾和食物,用脚尖敲了敲门。

「おーい、凛、飲み物とか持ってきたから開けろー」 「喂——凛,我带了饮料什么的过来,开门啊——」
 返事はない。まさか倒れてるんじゃないだろうな。  没有回应。该不会是倒下了吧。
 行儀が悪いとは思いつつ、足でドアノブを押し下げてみると鍵がかかっていなかった。後ろによろめきながらも扉を開けて、個室に足を踏み入れる。
虽然觉得这样不太礼貌,但还是用脚压下了门把手,发现门没锁。踉跄着推开门,踏入了单间。

「凛? 寝てんの?」 「凛?睡着了吗?」
 扉が閉まったのを確認してから、足元に物資を置いてベッドのほうを覗き見た。布団が盛り上がっており、何者かが横になっているのがわかる。
确认门关好后,我将物资放在脚下,探头看向床铺。被子隆起,显然有人躺在那里。

 横になっていた何者か、つまり凛が俺の声に反応し、「……あ゛?」と平生に輪をかけて低い声で応対した。緩慢な動作でむくりと身体を起こす凛。その目は虚ろで頬は紅潮し、息も上がっていてまさしく“病人”といった様相を呈していた。
躺在那里的某人,也就是凛,对我的声音有了反应,用比平时更低沉的声音回应道:「……啊?」凛缓慢地起身,眼神空洞,脸颊泛红,呼吸急促,完全是一副“病人”的模样。

「うわ、ガチで具合悪そうじゃん」 「哇,看起来真的很难受啊」
「てめえ、どうしてここに…」 「你这家伙,为什么在这里…」
「絵心に言われたんだよ、お前の世話役になってやれって。ほら、飲み物とか冷えピタとか持ってきたぞ。汗かいたんならシーツ換えてやるから、いったん降りて着替えでもしてろ」
「是绘心让我来的,说要我照顾你。看,给你带了饮料和冷敷贴。要是出汗了,我会帮你换床单,先下来换衣服吧」

 のそのそと移動し、ベッドから降りようとする凛だったが、足元がおぼつかずふらりとよろめいてしまったところを、慌てて支えに入る。俺より体格が良く筋肉もついているというのもあるが、力の入っていない人間の身体は重く、俺まで倒れてしまいそうになるがなんとか踏ん張る。
凛慢吞吞地移动,试图从床上下来,但脚下不稳,摇摇晃晃地差点摔倒,我慌忙上前扶住。虽然他体格比我好,肌肉也发达,但无力的人身体很重,我差点也被带倒,但还是勉强站稳了。

「ちょっ、無理すんな! 椅子まで肩貸してやるから」
「喂,别逞强!椅子都借你肩膀了,坐下吧」

「…るせぇ……誰がてめえなんかに頼るか…」 「…烦死了……谁要靠你啊…」
「しんどいときくらい意地張んのやめろよ。っと、ほら、座って」
「累的时候就别逞强了。来,坐下吧」

 耳もとで熱を帯びた息を感じながら、あまりにもつらそうな凛の身体を支えて、少し離れたところにあった椅子まで連れて行ってやる。息が荒く、額や首筋にはとめどなく汗が流れており、相当熱が高いことがうかがえる。床に置いた荷物の中からタオルと着替えを拾い上げ、ほら服脱いで汗拭け、と渡してやれば、凛は舌打ちしながらものろのろとスウェットを脱ぎ始めた。
在耳边感受到炽热的气息,支撑着凛那过于痛苦的身躯,将她带到稍远处的椅子旁。她的呼吸急促,额头和脖颈上汗水不断流淌,显然体温相当高。从放在地上的行李中捡起毛巾和换洗衣物,递给她并说:‘快把衣服脱了擦擦汗。’凛虽然咂了咂嘴,但还是慢吞吞地开始脱下运动衫。

 凛が着替えと汗拭きを済ませている間に、汗で湿っているであろうシーツを取り換えるべく、ベッドからシーツを引き剝がした。それは確かにしっとりと湿っており、余程汗をかいたのだろうと感じさせるものだった。剥がしたシーツを床に放り投げ、新しいシーツをかけてベッドを整える。
在凛换衣服和擦汗的间隙,为了更换可能被汗水浸湿的床单,我从床上扯下了床单。那床单确实湿漉漉的,让人感觉到她出了相当多的汗。我把扯下的床单扔在地上,铺上新床单,整理好床铺。

「終わったぞ。あ、寝る前になんか飲む?」 「好了,结束了。啊,睡觉前要喝点什么吗?」
 振り返って声をかけると、凛は上裸の状態で天井を仰いではあはあと荒い呼吸を繰り返していた。右手には俺の渡したタオルが弱々しく握られており、白いけれど厚い胸板には汗が光っている。服を脱いだはいいものの、身体の汗を拭く力すらなかったらしい。
回头喊了一声,凛正赤裸着上身,仰望着天花板,急促地喘息着。右手无力地握着我递给他的毛巾,白色的厚实胸膛上汗水闪闪发光。虽然脱掉了衣服,但似乎连擦汗的力气都没有了。

「おまっ…、どんだけだよ。ほらタオル貸せ」 「你这家伙…,到底怎么了。来,毛巾借你」
 病人からタオルをひったくり、汗ばんだ身体を甲斐甲斐しく拭いてやった。文句を言う気力もないのか、凛はされるがままだ。
从病人手中夺过毛巾,卖力地擦拭着他汗湿的身体。或许连抱怨的力气都没有了,凛只是任由我摆布。

 絵心からは「風邪をひいた」としか聞いていなかったものだから、まさかここまでとは思っていなかった俺は、内心ではかなり困惑していた。ふだん弱音のひとつも吐かず、弱いところなんて見せたことのない男が、こんなにも力なく萎れているのだ。そりゃ驚くし、焦るし、混乱もする。タオル越しに感じる体温はひどく熱くて、こりゃすごいなと変に関心してしまった。
绘心只告诉我他“感冒了”,我万万没想到会严重到这种地步,内心相当困惑。平时从不示弱,从不展现软弱一面的男人,如今却如此无力地萎靡不振。这怎能不让人惊讶、焦急、混乱呢?隔着毛巾感受到的体温异常高热,我不禁莫名地感到佩服。

「熱測ったか? 薬は?」 「量过体温了吗?药吃了吗?」
 額に冷却シートを貼り、新しいスウェットを着せてやりながら訊けば、息の合間に答えが返ってきた。
一边在他额头上贴上退热贴,给他穿上新运动服,一边询问,他喘息间回答了。

「…よんじゅう、くすりは、知らん」 「…四十度,药,不知道」
「四十度て」 「四十度啊」
 思わずあきれてしまった。そんな高熱、実家にいたころでさえ出したことがない。そもそもこんな閉鎖環境でどうやって風邪にかかったのかも疑問だったが、一体なにをどうすればそこまで熱が上がるというのか。普段の傲岸不遜な態度のバチでも当たったんじゃないかと言いたいところだったが、凛の苦しそうな表情を見てぐっとこらえた。ここでそんな心無い冗談を言えるほど俺は子どもじゃない。
不禁哑然。这么高的烧,连在老家时都没发过。更何况在这种封闭环境中,怎么染上感冒的也令人费解,到底做了什么才会烧到这种程度。真想说句,平时的傲慢态度终于遭报应了吧,但看到凛痛苦的表情,我硬是忍住了。我还没幼稚到在这种时候说那种没心没肺的玩笑话。

 部屋を見回すと、ベッドの横にサイドテーブルがあり、その上に風邪薬らしき錠剤の詰まった小瓶が置いてあった。手に取って見てみると、解熱効果もある市販の風邪薬らしかった。ここまで熱が高いのだから、本当は病院に連れて行ってやりたいところだがそうもいかない。薬があるだけいいかと思うことにした。
环视房间,床边有一张床头柜,上面放着一个小瓶,里面装着像是感冒药的药片。拿起来一看,似乎是市面上有退热效果的感冒药。既然烧得这么高,其实真想带她去医院,但现实不允许。有药已经算不错了,我这样安慰自己。

「今日起きてからなにか食べたか?」 「今天起床后吃过什么吗?」
「…食えるわけ、ねぇだろ、アホが」 「…怎么可能吃得下,笨蛋」
「食べないと薬も飲めないだろ。ほら、ゼリーとかお粥とか持ってきたから。食べられそうなものあったら少しでいいから腹に入れろ」
「不吃东西药也喝不下去吧。看,我带了果冻和粥来。有能吃的东西的话,哪怕一点点也好,吃下去吧」

「……クソが…」 「……可恶……」
 ガサガサと袋から食糧やらドリンクやらを取り出して凛の前に並べてやる。高熱で食欲もなく、なにも口にできないのは仕方がないし気持ちもわかるが、かといって薬を飲まないわけにもいかない。無理にでも腹に入れて薬を飲まなければ、下がる熱も下がらない。
哗啦哗啦地从袋子里取出食物和饮料,摆在凛的面前。高烧导致没有食欲,什么都吃不下也是没办法的事,心情也能理解,但也不能因此就不吃药。无论如何也要吃点东西再吃药,否则退烧也无从谈起。

「チッ、じゃあ、ゼリー」 「嘁,那就,果冻吧」
「みかんでいいか?」 「橘子可以吗?」
「食えりゃ…なんでも、いい」 「能吃的话…什么都行」
「あっそ」 「啊,这样」
 選ばれしみかんゼリーを手に取り、蓋を剥がしてスプーンとともに凛の前に差し出す。凛は受け取るための腕すら上げず、ゼリーと俺の顔とを交互に見た。その行為になんの意味があるのか理解できず、首を傾げた。
拿起被选中的蜜柑果冻,剥开盖子,连同勺子一起递到凛面前。凛连伸手接过的动作都没有,只是交替看着果冻和我的脸。无法理解这一行为有何意义,歪了歪头。

「この……状態で、自分で、食えると思うのか…てめえは」
「在这种……状态下,你以为,我能自己,吃得了吗…你这家伙」

「え?」 「诶?」
「自分で…食えたら、苦労、しねぇよ、バカが。…食わせろ、世話係」
「自己…能吃的话,就不用这么辛苦了,笨蛋。…喂我,照顾者。」

 朦朧とした翡翠の瞳が俺を睨みつける。コイツいまなんて言った? 食わせろって言ったか?
朦胧的翡翠色眼眸瞪着我。这家伙刚才说什么?让我喂他?

「は…はぁ!? なっ…んで、んなこと」 「哈…哈?! 怎…怎么回事」
「同じこと、いわせんな…腕上がんねえから、食わせろ、つってんだ」
「别让我重复…手臂抬不起来,所以让我吃,就是这样」

 横柄にもそう宣う凛は、相も変わらず荒く息をして、苦しさに眉根を寄せていた。そのつらそうな様子に俺は簡単に陥落してしまう。生まれてこのかたひとりっ子として育ってきたが、突然大きな弟ができた気分だ。「……しょうがねぇな」
凛傲慢地如此宣称,依旧粗重地喘息着,因痛苦而皱起眉头。看到她那副难受的样子,我轻易地就心软了。虽然从小到大都是独生子,但突然有种多了个大弟弟的感觉。「……真是没办法」

 果肉が入った半透明のゼリーをスプーンで小さめに掬い、凛の口もとまで持っていってやる。凛は、なんとか、といった様子で小さく口を開き、ゼリーを口に含み、数回咀嚼して飲み下した。喉仏が動くのを見てどこかほっとした気分になる。
用勺子舀起一小块半透明的果肉果冻,送到凛的嘴边。凛勉强地微微张开嘴,含住果冻,咀嚼了几下后咽了下去。看到喉结动了动,心里不知为何松了口气。

 まだ食べられそうなので、またゼリーを掬って食べさせてやる。親鳥が雛鳥に餌付けするかのごとく何度かその行為を繰り返すと、もういい、とでも言うように凛が力なく首を振った。ゼリーは半分くらい食べてくれた。よかった、と心の中で胸を撫でおろす。
看起来还能再吃一点,于是又舀了一勺果冻喂她。像亲鸟喂雏鸟一样重复了几次这个动作后,凛无力地摇了摇头,仿佛在说“够了”。她吃了大约一半的果冻。心里暗自庆幸,松了一口气。

 コップに水を汲み、サイドテーブルから薬瓶を持ってきて凛に渡そうとしたが、凛の手は震えており、瓶はともかく水の入ったコップを持たせられる状態ではなかった。
从杯子里倒出水,从床头柜上拿起药瓶准备递给凛,但凛的手在颤抖,别说药瓶了,连装水的杯子都无法稳稳地拿住。

「凛、大丈夫か? 薬飲めそうか?」 「凛,没事吧?能吃药吗?」
「……っ、はあ…………」 「……啊……」
 凛は眉間にしわを寄せ、目を閉じ、肩で息をしていた。熱がまた上がっているのかもしれない。
凛皱起眉头,闭上眼睛,用肩膀呼吸着。或许热度又上来了。

 せっかくゼリーを食べられたのだから、薬を飲まないと苦労した意味がない。けれどいまの凛にコップを持たせて、水と一緒に薬を飲めというのも難しい話だ。となると、俺に思いつく手段はひとつしかなかった。できれば選択したくない手段だが、背に腹は代えられない。
 好不容易能吃果冻了,不吃药的话辛苦就白费了。但让现在的凛拿着杯子,和水一起吃药也很难。这样一来,我能想到的手段只有一个。虽然是不想选择的手段,但背腹不能相代。

 凛の意識が限りなく朦朧としていることを祈りつつ、俺はマスクに指をかけ、顎下まで下げた。
 祈祷着凛的意识无限朦胧,我将手指勾在口罩上,拉到下巴处。

「……不可抗力の最終手段なんだから、恨むなよ。恨むなら、風邪ひいた自分を恨め」
「……这是不可抗力的最终手段,别怨我。要怨的话,就怨感冒的自己吧」

「…ぁ……?」 「…啊……?」
 俺の言った言葉を断片的にしか聴き取れなかったのか、薄目を開けた凛が小さく訊き返してきた。しかし俺はそれにはいらえず、水と錠剤を口に含む。
 或许是因为只听清了我话语的片段,凛微微睁开眼,小声地反问。但我并未回应,只是含着水和药片。

 そして、目の前の端正な顔を両手で包み、その唇に自らのそれを重ねた。
 然后,我用双手捧起眼前那张端正的脸庞,将自己的唇轻轻贴了上去。

 凛が目を見開き、身体をこわばらせる。驚いて開いた口に水と錠剤を流し込み、口移しの要領で病人の口内に薬を入れることに成功する。ごくりと音がするのと同時に凛の喉仏が動いたのを確認して、唇を離した。
 凛睁大了眼睛,身体僵硬。她迅速将水和药片倒入惊愕张开的口中,以口对口的方式成功将药送入病人的口中。确认到随着吞咽声,凛的喉结动了动,她才松开了唇。

 こんなところでファーストキスを失ってしまうのは甚だ遺憾だが、だからといってなにもしなかったら下手すれば彼は死んでしまうかもしれないのだし、仕方がないと自身に言い訳をする。これはノーカンだ、俺はまだファーストキスを失ってない。よし、それにしよう。
 在这种地方失去初吻实在令人遗憾,但若不这样做,他可能会因此丧命,无奈之下只能自我安慰。这不算数,我的初吻还在。好吧,就这么决定了。

「ほら、薬も飲めたことだし、あとはもう寝てろ。ベッド行くぞ、立てるか?」
「好了,药也喝了,接下来就好好休息吧。去床上躺着,能站起来吗?」

 先ほどのように肩を貸してやるべく凛の隣に屈む。凛はなにも言わず、俺の方に腕をまわしたので、よいしょと力を入れて凛もろとも立ち上がる。狭い個室は数歩も歩けばベッドだ、踏ん張れと自分を鼓舞する。
 像刚才那样屈膝在凛的身旁,准备借给她肩膀。凛一言不发,只是将手臂绕过我的肩膀,于是我用力一撑,与她一同站了起来。狭窄的单间只需几步就能走到床边,我暗自鼓劲,稳住脚步。

 ふらふらの凛をベッドに座らせ、さて帰るかと半身を翻したところで、視界の端に翡翠が映り込む。汗で乱れた前髪の隙間から、熱に浮かされた両の瞳が俺を見つめていることに気づいた。なにか言いたげな目だ。十中八九、さっきの口移しのことだろう。気持ちはわかる。
 让摇摇晃晃的凛坐在床上,正当我转身欲归时,视线边缘映入了翡翠的身影。从她凌乱的刘海缝隙中,我察觉到那双因高热而迷离的双眼正注视着我。她的眼神似乎有话要说。十有八九,是关于刚才的口对口喂药之事。我能理解她的心情。

「…あー、その。さっきのはあれだよ、ああするしかなかったんだからしょうがないっていうか…。ノーカンだ、無かったことにしよ、俺も忘れるからお前も」
「…啊,那个。刚才的事嘛,那是没办法的,只能那样做,所以…就当没发生过吧,我也忘了,你也忘了吧」

 照れくささと気まずさがないまぜになった感情で、頬をぽりぽりと掻きながら矢継ぎ早に言い訳を並べていると、ふいに腰を引かれ倒れこんでしまう。ベッドに腰かける凛の膝の上にぽすんと尻が乗り、横向きで凛の膝の上に座り込んでしまって、唐突に詰まった距離に面食らう。
 羞涩与尴尬交织的情感,让她不停地挠着脸颊,急切地找着借口。突然间,腰被一拉,整个人倒在了床上。屁股轻轻地坐在凛坐在床上的膝盖上,侧身坐在凛的膝上,突如其来的近距离让她一时不知所措。

「は、え、凛? なに、を」 「啊,呃,凛?怎么了,你」

 戸惑う俺の頬に手を添え、もう片方の手は腰に置いたまま、凛は俺に口づけた。目の前には伏せられた瞼、美しく生えそろった長い睫毛。触れ合った唇が熱くて、柔らかくて、溶けそうだ。
迷茫中,凛将手轻抚在我的脸颊上,另一只手则依旧搭在腰间,她向我献上了亲吻。眼前是她闭合的眼睑,以及那整齐排列、美丽动人的长睫毛。相触的唇瓣炽热而柔软,仿佛要融化一般。

 数時間にも思えた数瞬ののち、凛は唇を離し重い瞼を持ち上げた。視線が交錯し、なにが起こったのか理解できずにいた俺の脳に、“凛にキスされた”という強烈すぎる事実が流れ込む。しかもそれは、俺が先ほどした不可抗力のものではなく、紛れもなく凛の意思で行われたものだ。
仿佛过了数小时的数秒之后,凛离开了我的唇,抬起了沉重的眼睑。视线交错,我的大脑还未理解发生了什么,“被凛亲吻了”这一过于强烈的事实便涌入其中。而且,那并非我刚才所做的不可抗力之举,而是确确实实出于凛的意愿。

「なっ…はっ、はあ!? おまっ、急になに」 「什…啊、啊!? 喂、突然干嘛」
「お前が先に、したんだろ」 「是你先动手的吧」
「だから俺のは仕方なく」 「所以我的也是没办法的事」
「お前が」 「你才是」
 俺の言葉を遮った凛の声は、熱のせいで弱々しいものの、どこか気迫のようなものがあり思わず黙り込んでしまう。
 凛打断我的话,声音因发烧而虚弱,却带着某种气势,让我不由得沉默下来。

「…お前が、ノーカンとか、言うから。…これで、無かったことには、できねえだろ」
「…因为你,说什么不算数。…这样,就没办法当作没发生过吧」

 さっきから、心臓の音がうるさい。耳のすぐ近くに心臓があるみたいだ。どくどくと、全身を血が駆け巡っているのがわかる。これは一体、なんだ。
从刚才开始,心脏的声音就吵得厉害。仿佛心脏就在耳边似的。扑通扑通,全身的血液奔涌而过的感觉清晰可辨。这到底是怎么了。

「忘れさせてなんて、やらねえよ。クソ潔」 「才不会让你忘记呢。真他妈干脆。」

 そこまで言って、凛は意識を手放し、どさりとベッドに倒れこんだ。凛の膝の上の俺は、熱い頬を押さえて呆然としながら、仰向けに倒れた凛を眺めていた。気絶するように意識を失った凛だったが、すうすうと幾分か穏やかな寝息を立てているのがわかり、困惑のさなかでも少し安心した。
说完这些,凛便放开了意识,重重地倒在了床上。我呆呆地按着发烫的脸颊,俯视着仰面倒下的凛。虽然凛像是昏过去一样失去了意识,但能听到她平稳的呼吸声,在困惑中稍稍感到安心。

「…さーて、どうすっかな、これは……」 「…那么,该怎么办呢,这个……」
 心臓がずっと早鐘を打っており、顔も耳もどこもかしこも熱い。
 心脏一直像敲钟一样快速跳动,脸和耳朵,到处都热得发烫。

 風邪ってこんなに簡単にうつるんだな、なんて笑えない冗談を言う気力さえ、俺にはなかったのだった。
 感冒竟然这么容易传染,这种笑不出来的玩笑话,我连说出口的力气都没有。

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评论

  • やま
    2023年3月12日回信
  • フラグ
    2023年3月12日回信
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