赤子の心 赤子之心
青監軸。頭痛をきっかけにカイザーの違う一面を知った世一が彼と話すようになるお話です。フランス戦前まで。
青监轴。以头痛为契机,世一了解到凯撒不同的一面,并开始与他交谈的故事。直到法国战前。
前作までの閲覧等ありがとうございました! 感谢阅读前作!
表紙お借りしましたillust/108750697
封面借用自 illust/108750697
- 775
- 946
- 12,528
赤子の心……生まれたままの純真で偽りのない心 赤子之心……生来便有的纯真无伪之心
#1
ずきり、と目の奥が痛んだ。 突然,眼底一阵刺痛。
(あー……またか) (啊……又来了)
起きた瞬間、世一は頭痛を悟る。動けないほどではない、ほんの僅かな違和感だが、快調には程遠い気分になった。
醒来的瞬间,世一察觉到了头痛。虽然不至于动弹不得,但那微妙的违和感让他感到远非舒适。
頭痛を起こすことは珍しくない。動いている間に消えてくれるだろう、と世一は判断して五角形のベッドから抜け出した。あと三日でイングランド戦が始まる。この程度で休んでなんかいられない。
头痛并不罕见。世一判断,只要动起来,它就会消失。于是他从五角形的床上起身。再过三天就是与英格兰的比赛了。这种程度可不能休息。
(……あー、やべ) (……啊,糟了)
午前中のトレーニングを経て、午後のミニゲームに参加する直前、世一はよろめいた。ずき、ずき。頭が痛い。朝から時間が経ち、消えるどころかひどくなった頭痛は、焦る世一を容易く苦しめる。骸骨が割れるような痛みに、思わず手で目元を覆った。
经过上午的训练,在即将参加下午的迷你游戏之前,世一踉跄了一下。咚咚,咚咚。头痛欲裂。从早上开始,头痛不仅没有消退,反而愈演愈烈,轻易地折磨着焦虑的世一。剧烈的疼痛如同骸骨裂开一般,他不由自主地用手捂住了眼眶。
「おやぁ、世一。随分と弱っているようだな」 「哎呀,世一。看起来相当虚弱啊」
「……カイザー」 「……凯撒」
後ろからかけられた声に、世一はため息を吐きたくなった。ぐ、と腹に力を入れて振り向く。にやけ顔の男は、さらりと金髪を揺らして近づいてきた。
身后传来的声音让世一忍不住想叹气。他用力收紧腹部,转过身去。那个面带戏谑笑容的男人,轻轻摇晃着金发,靠近过来。
「オーバーワークか? 結構結構。脇役らしい焦り方だ」
「工作过度了吗?不错不错。配角果然就是这种焦急的样子」
「……うぜ」 「……烦人」
普段ならもっとマシな言い返しができるのに、何も言葉が浮かんでこない。声を張ることもできず、吐息にも似た悪態を口にすれば、カイザーが怪訝そうにこちらを見下ろした。
平时明明能说出更得体的话,此刻却一个字也蹦不出来。连声音都发不出,只能吐出类似叹息的咒骂,凯撒便诧异地俯视过来。
「覇気がないな、クソつまらん。ああ、ようやく俺に屈したのか?」
「没有霸气啊,真无聊。啊,终于屈服于我了吗?」
「んなわけ、ない、……っ」 「才、才没有,……」
ずきずきずき。目の奥の神経が引きちぎられているような痛みに、世一は呻きそうになった。く、と喉を締めて声を抑える。カイザーにだけは、こんな自分を見せたくない。
刺痛,刺痛,刺痛。眼窝深处的神经仿佛被撕裂般的疼痛,让世一几乎要呻吟出声。他紧咬喉咙,压抑住声音。唯独不想让凯撒看到这样的自己。
「あら世一、体調不良なら医務室へ行ってください。邪魔ですよ」
「哎呀世一,身体不舒服的话就去医务室吧。你在这里很碍事哦」
「……るせ……」 「……啰嗦……」
うるさいコバンザメまで出てきた。これ以上こいつらに絡まれたら更に体調が悪くなってしまう。世一は身を翻し、青い監獄のメンバーが集う方へと戻ろうとした。しかし、それは服を掴まれたことによって阻まれる。
就连吵闹的小鱼也出现了。再被这些家伙纠缠下去,身体状况只会更糟。世一转身,试图回到蓝色监狱的成员聚集的地方。然而,这一举动被抓住衣服所阻止。
「全く、世話が焼ける道化だ」 「真是的,麻烦的小丑」
「ぐっ、なに……わっ!?」 「呃,什么……哇!?」
首根っこを掴まれた世一は、有無を言わさない力でずるずると引きずられた。咄嗟に体勢を整えるも、その手を振り払うことはできない。なんだこの馬鹿力。強いのは脚だけじゃないのかよ。
被抓住后颈的世一,毫无反抗之力地被拖拽着。他急忙调整姿势,却无法甩开那只手。这股蛮力是怎么回事。难道不止是腿力强吗。
「クソマスター、見てんだろ。世一を医務室に連れてく」
「混蛋主人,你看着呢吧。把世一带到医务室去」
『ドクターを派遣するか?』 『需要派遣医生吗?』
「この程度で呼ばれる医者が可哀想だ」 「这种程度就被叫来的医生真可怜」
ノアが指導者ストライカールームからスピーカー越しに応答した。そんな彼に横柄な台詞を吐いたカイザーは、足を止めることなく部屋を出ていく。世一は乱暴な扱いに抵抗しようとしたが、頭痛で思ったように体が動かない。結果、カイザーに医務室へ押し込まれるまで、されるがままに引きずられた。
诺亚从指导者斯托莱卡房间的扬声器中回应。对他说出傲慢台词的凯撒,毫不犹豫地离开了房间。世一试图抵抗粗暴的对待,但因头痛而无法如愿移动身体。结果,他被凯撒强行拖到了医务室。
「飲んどけ」 「喝下去」
ベッドに寝かされた世一は、棚を漁っていたカイザーに投げられたものを受け取る。それはドラッグストアでも買える一般的な頭痛薬だった。何度も世話になったことのある薬に、世一はほっと息を吐く。
被安置在床上的世一接住了凯撒从架子上翻找后扔过来的东西。那是在药店也能买到的普通头痛药。世一曾多次受惠于这种药,他松了口气。
「さんきゅ。……あの、さ」 「谢谢。……那个,呃」
「なんだ」 「怎么了」
「……なんか、怒ってる……?」 「……怎么,生气了吗……?」
引きずられている間、カイザーの様子がいつもと違ったので、頭痛と戦いながらも彼の機嫌を観察していた。結論は『なぜか怒っている』。ぴりぴりとした雰囲気は、怒気によるものだ。
被拖着走的过程中,凯撒的样子和平常不一样,虽然还在和头痛作斗争,但还是观察了他的心情。结论是『不知为何在生气』。那股刺人的氛围,显然是怒气所致。
「怒ってる、ねぇ?」 「生气了,对吧?」
カイザーは馬鹿にしたようにそう言って、ミネラルウォーターのペットボトルと共にベッドの側へとやってきた。椅子に座り、一度開封してから締め直したペットボトルを差し出してくる。世一はそれを受け取り、一錠の頭痛薬を喉に流し込んだ。
凯撒轻蔑地说着,带着一瓶矿泉水走到了床边。他坐在椅子上,递过一瓶已经打开又重新拧紧的矿泉水瓶。世一接过,吞下一粒头痛药。
「呆れてはいる。体調管理すら碌にできない奴とプレーするのは久しぶりだからな」
「真是无语。已经很久没有和连身体管理都做不好的家伙一起比赛了。」
「……お前さ、病人に対してもその態度なわけ?」 「……你这家伙,对病人也这种态度吗?」
「優しくしてほしいのか? 俺に?」 「想要我温柔点吗?对我?」
「そんなわけないだろ」 「怎么可能」
「そもそも」 "「说到底」
カイザーは長い脚を組んで、横になった世一を見下ろした。冷たいアイスブルーが世一を睥睨する。
凯撒交叠着长腿,俯视着躺在一旁的世一。冰冷的冰蓝色眼眸睥睨着世一。
「ベストコンディションで試合に臨めないアスリートに、価値があるとでも?」
「无法以最佳状态参加比赛的运动员,还有什么价值可言?」
「――ッ」 「――唔」
「ここはハイスクールじゃねぇ。プロチームのスカウトやオーナーが品定めをする、オークション会場だ」
「这里可不是高中。这是职业球队的球探和老板们挑选人才的拍卖会场」
ぴり、と一際強い殺気が世一の肌を刺した。 突然,一股格外强烈的杀气刺痛了世一的肌肤。
「練習だろうが関係ない。俺もお前も、フットボールをしている時は常に見られていることを忘れるな」
「不管是练习还是什么,都无关紧要。我和你,踢足球的时候永远不要忘记自己正被注视着」
「……お前」 「……你」
世一は目を見開く。 世一睁大了眼睛。
「忠告してくれてる?」 「是在给我忠告吗?」
「ハッ、世一くんの頭はお花畑で羨ましいわねぇ」 「哈,世一君的脑袋真是花田,真让人羡慕啊」
カイザーが嘲るような笑みを浮かべた。 凯撒浮现出嘲讽的笑容。
「忠告じゃない。警告だ。俺を飽きさせるな、青い監獄の申し子」
「这不是忠告,是警告。别让我厌倦,蓝色监狱的宠儿」
尊大さを表に出した声で、朗々と告げられる。 用显露威严的声音,朗朗宣告。
「お前には次の試合でも踊ってもらわなければ困る。俺のための、警告だ」
「下一场比赛,你还得为我舞动。这是对你的警告。」
世一はカイザーをじっと見つめた。 世一凝视着凯撒。
初めて顔を合わせた時、この男は『お前に逢いに来た』と言っていた。あの時は世一がU-20戦で活躍しドイツを選んだからこそ、自分に矛先が向かったのだと思った。しかしカイザーは、どうやら青い監獄の主要なメンバーなら誰でもよかったわけではないらしい。
初次见面时,这个男人说‘我是为你而来的’。那时我以为是因为世一在 U-20 比赛中表现出色,选择了德国,才让矛头指向了我。但看来凯撒并不是随便找青之监狱的主要成员中的任何一个。
「なんで俺?」 「为什么是我?」
カイザーは口の端を引き上げた。良い質問だ、と言わんばかりの表情。しかし答えることなく、椅子から立ち上がる。
凯撒嘴角上扬。一副‘问得好’的表情。但他没有回答,而是从椅子上站了起来。
「余計なことに気を回せるくらいには回復したらしいな? 俺は戻る。無理して出てくるんじゃないぞ、か弱いお姫様」
「看来你恢复得不错,都能操心多余的事了?我回去了。别勉强自己出来,娇弱的公主殿下。」
「あ、おい」 「啊,喂。」
身を翻して出ていこうとする男を呼び止める。振り返った彼に、一瞬躊躇ってから口を開いた。
转身准备离开的男人被叫住。他回头,她犹豫了一瞬,然后开口。
「ありがとう。助かった」 「谢谢。帮了大忙」
「……ふん」 「……哼」
つまらなさそうに鼻を鳴らして、カイザーは今度こそ医務室を出ていく。意外な反応だった。てっきり、感謝しろよ、と嗤われるのだと思ったから。
不屑地哼了一声,凯撒这次真的离开了医务室。这反应出乎意料。本以为他会嗤之以鼻地说,感谢我吧。
「……よくわかんねぇやつ」 「……真搞不懂的家伙」
嫌な奴だと思っていた。今もその考えは変わっていないけれど、嫌悪一辺倒だった矢印に別の色が混ざったような、そんな変化が世一の中に訪れた。
一直觉得他是个讨厌的家伙。现在这个想法也没有改变,但原本只有厌恶的箭头,似乎混入了别的颜色,世一心中有了这样的变化。
#2
イタリア戦まで、あと六日。イングランド戦前までのような焦りは、もう無い。先の試合の中で、ミヒャエル・カイザーという最も身近で超えるべき存在を見据えることができたからだ。あとは理論を頭に叩き込み、実践のための能力を鍛えるだけ。世一はそのために、三つの寝息が聞こえる自室を抜け出した。
距离意大利战还有六天。已经没有了英格兰战前那样的焦躁。因为在之前的比赛中,能够正视米夏埃尔·凯撒这个最接近且必须超越的存在。剩下的就是将理论牢记于心,锻炼实战能力。为此,世一离开了能听到三个呼吸声的卧室。
食堂側の角で曲がり、五つ目の扉。世一は心の中で唱えて、同じ造りの扉を数えていく。
在食堂旁边的拐角转弯,数到第五扇门。世一在心中默念着,数着同样构造的门。
就寝予定時間に近いからか、廊下は静かで誰もいない。世一にとっては幸運なことだ。今から訪ねる部屋の主が知られたら、どんな揶揄いや指摘を受けるか分からなかった。特にネスには知られたくない。周囲を警戒しながら、世一は目的の扉をノックした。コンコン、コンココン。独特のリズムは、相手と世一だけに通じるちょっとした暗号だ。
或许是临近就寝时间,走廊里静悄悄的,空无一人。对世一来说,这是幸运的。如果被发现要去拜访那间房间的主人,不知道会受到怎样的嘲笑或指责。特别是不想被内斯知道。世一一边警惕着四周,一边敲响了目标的门。咚咚,咚咚咚。独特的节奏,是只有对方和世一才懂的小小暗号。
少しだけ経ってから、扉が開かれる。こちらを覗いたアイスブルーが、世一を捉えた瞬間細められた。
稍等片刻后,门被打开了。窥视这边的冰蓝色眼睛,在捕捉到世一的瞬间眯了起来。
「ようこそ、こそ泥さん」 「欢迎光临,小偷先生」
「早く入れろアホ皇帝」 「快让我进去,笨蛋皇帝」
肩を竦めた男――カイザーは身を避けた。世一がその隙間にするりと入り込むと、花の香りが鼻腔をくすぐる。欧州では香りをつけるのが一般的だと知ったのは、この部屋の主人とこうして夜に会うようになってからだった。
耸肩的男子——凯撒避开了身子。世一趁机滑入缝隙,花香撩拨着鼻腔。在欧洲,使用香氛是普遍的,而得知这一点,是从与这个房间的主人这样在夜晚相会开始的。
「それで、今日も世一くんは懲りずに来て、何が知りたいんだ?」
「那么,今天世一君又来了,想知道什么呢?」
カイザーが揶揄うように訊いてくる。世一は定位置である丸椅子に腰掛けた。
凯撒带着调侃的语气问道。世一坐在了固定的圆形椅子上。
「今日のミニゲームでのお前ら、ドイツチームの動きで、気になったことがあったんだ」
「今天的迷你比赛中,你们德国队的动作,我有些在意的地方。」
「最中もクソ聞きに来ただろ」 「最中也他妈的来听了啊」
「あれは一部。まだある」 「那只是一部分。还有其他的」
持っていたノートを見せると、ベッドに腰掛けたカイザーは疲労を滲ませた顔で脚を組んだ。
他展示着手中的笔记本,坐在床上的凯撒疲惫地交叉着双腿,脸上透着倦意。
「今日こそ十分で終わらせろよ」 「今天一定要按时完成啊」
「善処シマス」 「我会妥善处理的」
「クソ棒読み」 「真他妈的敷衍」
カイザーの言葉を無視してノートを開く。今日のミニゲームでの動きと思いついた策を記録したページで、指を止めた。
无视凯撒的话,打开笔记本。停留在记录了今天迷你游戏中动作和想到的策略的页面上,手指停了下来。
イングランド戦前に体調不良でカイザーに運ばれたことをきっかけに、世一は彼への接し方を変えることにした。毛嫌いするだけでなく、その全てを利用してやろうと思ったのだ。
以英格兰战前因身体不适被凯撒抱走为契机,世一决定改变对他的态度。不仅讨厌他,还要利用他的全部。
世一が新英雄大戦を乗り越えるためには、ノアに勝つためには、間違いなくミヒャエル・カイザーを超える必要がある。その理論の中で、現時点の理想形である彼の思考を知ることが成長への近道だと世一は考えた。
世一为了超越新英雄大战,为了战胜诺亚,毫无疑问需要超越米海尔·凯撒。在那个理论中,世一认为了解作为现阶段理想形态的他的思考是成长的捷径。
すると、驚くことにカイザーは世一の考えに乗ってくれた。
令人惊讶的是,凯撒竟然同意了世一的想法。
――就寝前、俺の部屋に来るなら一言くらいはくれてやる。
——如果睡前来我房间,我会稍微说几句。
相変わらず偉そうな物言いではあったが、標的が自ら敵に塩を送ってくれるのならば受けないわけにはいかない。世一は練習日には必ずカイザーの部屋を訪れるようになった。
虽然说话依旧傲慢,但如果目标主动送上门来,那就不得不接受了。世一从此在训练日必定会拜访凯撒的房间。
以前の世一ならば、何企んでやがる、誰がテメェの部屋なんか、と一言目に拒否を示していたことだろう。けれど、あの日の医務室での彼はプロ精神に満ちたアスリートだった。その姿が頭に引っかかって、誘いを信じることにしたのだ。
若是以前的世一,肯定会第一句话就拒绝,说什么谁会去你房间之类的。但是,那天在医务室的他,是一个充满职业精神的运动员。那个身影在脑海中挥之不去,于是我决定相信他的邀请。
「おい、俺の部屋で寝るつもりか?」 「喂,你打算在我房间睡觉吗?」
「……あ、ごめん。考え事してた」 「……啊,抱歉。我在想事情」
「この俺が時間を割いているのに、考え事だと?」 「本大爷特意抽时间陪你,你却在发呆?」
「いひゃい」 「哎哟!」
頬をつねられる。容赦のない痛みが世一を襲い、早々に両手を挙げた。
脸颊被捏住。毫不留情的疼痛袭向世一,他赶紧举起双手投降。
「いてぇ……ごめんって。気をつける」 「疼……对不起。我会注意的」
「はぁ……。それで、今日は何が訊きたいんだ? なぜなに期の世一くんは」
「哈……。那么,今天你想问什么?为什么什么期的一世君」
「うぜ、……こほん。今日のミニゲームの、お前とグリムの動きについてなんだけど」
「烦人、……咳咳。今天的小游戏,关于你和格利姆的行动」
ノートに描いた戦況図を見せる。覗き込んでくるカイザーに、ペン先でなぞりながら説明した。
展示笔记本上的战况图。向探头查看的凯撒,用笔尖边描边解释。
「黒名と雷市でネスを封じたから、フリーなのはカイザーとグリム。グリムがボールを持った時点で、パスする先はカイザーしかないと思った。グリムのとこにはディフェンダー二枚、俺と雪宮がカイザーについて……、こう、簡単には抜けられないようにした。そしたら、グリムはこっちの、誰もいないところに撃った。それを近いところにいた雪宮が取ったら、カイザーが奪ってゴール。覚えてるか?」
「黑名和雷市封锁了内斯,所以自由的是凯撒和格利姆。我认为格利姆拿到球时,传球目标只能是凯撒。格利姆那边有两名防守者,我和雪宫盯防凯撒……这样,他不容易突破。然后,格利姆朝这边、没人防守的地方射门。雪宫在附近接住,凯撒夺球得分。记得吗?」
「ああ」 「啊」
「これさ、もともと雪宮がボールを取ること前提の策だったのか? アドリブかもって考えたけど、それにしては上手くいきすぎてるし」
「这个啊,原本就是以雪宫拿到球为前提的策略吗?我以为是即兴发挥,但如果是那样的话,也太顺利了吧」
「世一くんは深読みが好きねぇ」 「世一君就是喜欢深究呢」
カイザーがペンを奪う。 凯撒夺过笔。
「グリムが、たとえばここにボールを撃ったとする」 「假设格林在这里射门」
雪宮ではなく世一側の空白に、カイザーはボールの道筋を描いた。同じくカイザーが取りに行けないルートだ。
卡伊泽在雪宫而不是世一那边的空白处,描绘了球的轨迹。这也是卡伊泽无法接球的路线。
「お前はどう動く、世一」 「你会如何行动,世一」
「……取る、と思う」 「……取走,我想」
「右で? 左で?」 「右边?左边?」
「左……」
あ、と世一は口を開いた。 啊,与世一开口了。
「どのパターンでも敵に取らせてから奪う算段だったのか。こういう分かりやすいルートだと、敵のパスカットの仕方も単調になるし、人がいないから予想外の動きも起きない……」
「无论哪种模式,都是先让敌人出手再夺取的策略。这种显而易见的路线,敌人的拦截方式也会变得单调,而且因为没人,意外的举动也不会发生……」
「格下相手だからできる動きだ」 「因为是实力较弱的对手,才能做出这种动作」
「一言多いんだよお前は!」 「你这家伙,话太多了!」
ペンを奪い返してやると、カイザーはふんと鼻を鳴らした。顔こそ顰められているが、機嫌は良さそうだ。
夺回笔后,凯撒哼了一声。虽然皱着眉头,但心情似乎不错。
世一はカイザーの言葉から得た知見を書き込んでいく。すると珍しくカイザーが覗き込んできた。整った顔がグッと近づいてきて、たじろいてしまう。
世一根据凯撒的话记录下心得。没想到凯撒罕见地凑过来看。他端正的脸庞突然靠近,让人不禁退缩。
「な、なに」 「什、什么?」
「日本語は難解な形をしているな」 「日语的结构真是复杂啊」
「あ、あー、そっちからしたらそうかもな」 「啊,啊——,从你那边来看的话,或许是这样吧」
「……世一」
「……なに?」 「……什么?」
じっ、とカイザーに見つめられた。世一は余計に動揺してしまう。カイザーの目は宝石のように綺麗で、見つめられると平静ではいられなくなるのだ。
被凯撒紧紧盯着,世一更加慌乱了。凯撒的眼睛如宝石般美丽,被他注视时,内心无法保持平静。
そんな世一を観察するように黙っていたカイザーは、おもむろに口を開いた。
默默观察着世一的凯撒,缓缓地开口了。
「お前は距離が近い」 「你离得太近了」
「………………は?」 「………………哈?」
「他人との距離だ。自覚はないんだろうが、クソ近いぞお前」
「是人与人之间的距离啊。你大概没意识到,但离得太近了,混蛋。」
「いやお前が言う?」 「你还好意思说我?」
初手で遠慮なく近づいてきた男が何言ってんだ。世一は心の底からそう言ったが、カイザーは納得していないようだった。それどころか機嫌が急降下していく。
初次见面就毫不客气靠近的男人在说什么啊。世一从心底里这么想着,但凯撒似乎并不满意。不仅如此,他的心情还急转直下。
「他の奴にもその距離だろ。警戒心がないのか?」 「对其他人也是这个距离吧。没有戒心吗?」
「初対面で顎掴んできた奴に言われたくねぇよ」 「不想被初次见面就抓下巴的家伙这么说」
「俺は人を選んでる」 「我在挑选人」
「俺だって」 「我也是」
「そうか?」 「是吗?」
カイザーは皮肉げに口の端を引き上げた。 凯撒嘲讽地扬起了嘴角。
「青い監獄の奴らには無条件で警戒を解いているように、俺には見えたが」
「青之监狱的那些家伙,似乎对你们毫无保留地解除了警戒,我可是看得一清二楚。」
「そりゃあ……あいつらは仲間でライバルだ。警戒してたら何もできねぇ」
「那当然……他们既是伙伴也是对手。要是警戒着,什么都做不成。」
「だから隙を見せて良いって? 世一くんはお人好しねぇ」
「所以可以露出破绽吗?世一君真是老好人呢」
世一は違和感を覚えた。なんか、責められている気がする。
世一感到一阵违和。总觉得,像是在被责备。
「俺が距離近いの、気に食わないのか?」 「我靠得太近,你不高兴吗?」
カイザーの眉間の皺が濃くなった。当たりらしい。ただ、その理由が分からなくて首を捻った。世一が他人との距離が近いことによって、カイザーに何か不利なことが起こるのだろうか。
凯撒的眉间皱得更深了。看来是猜对了。只是,他不明白其中的原因,疑惑地歪了歪头。世一与他人距离过近,会给凯撒带来什么不利吗?
「なんでだよ。お前に遠慮しろっていう話なら聞かねぇぞ」
「为什么啊。如果是要我对你客气的话,我可没听说过」
「そんなことは言ってない」 「我没那么说」
「はぁ〜?」 「哈?」
煮え切らない態度に、世一は苛立ちを露わにする。 面对这种含糊其辞的态度,世一明显露出了不耐烦的神色。
「じゃあ何なんだよ。単純に俺が他の奴に近づくのが嫌だって言うのか?」
「那到底是什么意思?你是说单纯因为我接近其他人你就不爽吗?」
言っていて、独占欲の強い恋人かよ、と自分で自分に突っ込んだ。カイザーからも『それはお前だろう』なんて軽口で返されるのだろうと思った。
说着,自己都忍不住吐槽自己,真是占有欲强的恋人啊。想着凯撒大概会用‘那不就是你嘛’之类的玩笑话回敬。
しかし、一向にカイザーから反応が来ない。カイザーは世一を見つめたまま口を閉じていた。世一が問うように見返すと、音なく視線が逸らされる。おや、と世一の思考が切り替わった。
然而,凯撒那边却毫无反应。凯撒依旧盯着世一,闭口不言。当世一以询问的眼神回望时,他的视线无声地移开了。咦,世一的思绪切换了。
「お前、ほんとに俺が他の奴に近づくのが嫌なの?」 「你,真的讨厌我接近其他人吗?」
「クソ黙れ」 「闭嘴」
強い口調で叩き返されるが、世一は怯まなかった。カイザーという人間の認識が、ばらばらと崩れて再構築されていく。
虽然被强硬地反驳了,但世一并未退缩。关于凯撒这个人的认知,正在一点点崩塌并重新构建。
「お前……」 「你……」
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」 「没听到我说闭嘴吗?」
「俺のこと、独り占めしたい、のか?」 「你想独占我吗?」
その瞬間、視界が揺れた。遅れて体に強い衝撃が走る。
那一瞬间,视野摇晃了。随后身体传来强烈的冲击。
「黙れ」 「闭嘴」
世一は、抵抗する間もなくカイザーにベッドへ押し倒されていた。顰められた顔が目前に迫る。吐息がかかるほど近い距離に、お前はやっぱり人のこと言えねぇよ、と場違いな感想を抱いた。
世一还没来得及反抗,就被凯撒推倒在床上。皱着眉的脸近在咫尺。在如此近的距离下,他不合时宜地想着,你果然还是不会说人话啊。
「ここまでして、俺のことを蹴りも殴りもしないとは。危機感クソ皆無にも程があるだろ」
「做到这种地步,你却连踢我打我都不肯。危机感也太他妈的没有了吧」
「……そりゃあ、嫌じゃねぇし」 「……那倒也不讨厌」
「……、は」 「……啊」
アイスブルーが瞠られる。世一は笑おうとして、失敗した。
冰蓝色眼睛瞪大了。世一试图笑,却失败了。
「言ったろ。『俺だって』相手は選んでる」 「我说了吧。『我也是』会挑选对手的」
「……俺を、選んだって? お前が?」 「……选了我?你选的?」
カイザーは心から驚いているらしい。動揺が見てとれて、世一はおかしく思えた。普段の態度に隠れているが、この男は割と自己肯定感が低い。選ばれて当然、くらい言えよな。
凯撒似乎真的感到惊讶。看得出他很动摇,世一觉得有些好笑。虽然平时态度傲慢,但这个男人其实相当缺乏自信。被选中是理所当然的,这种话应该说得出口吧。
「海外に住むお前からしたら、確かに日本で育った俺は警戒心が薄く見えるのかもしれないけどさ。さすがにこんな夜中に会いに行こうと思うのはお前だけだよ」
「从住在国外的你看来,或许确实会觉得在日本长大的我警戒心很薄弱。但即使如此,会想到在这种深夜去见面的,也只有你了」
「俺を利用するためか」 「是为了利用我吗?」
「最初はそうだった。でも、もう違う」 「起初是这样。但现在不同了」
世一は少しだけ迷ってから、くっと首を持ち上げた。唇をぶつけ、事故ではない証拠に皮膚を擦り合わせてから離れる。
世一稍稍犹豫了一下,然后猛地抬起头。嘴唇相碰,为了证明这不是意外,皮肤摩擦后才分开。
「……今は、こう、いうこと、なんだけど」 「……现在,是,这样,的情况,虽然」
「…………ふざけるなよ、クソ世一…………」 「…………别开玩笑了,混蛋世一…………」
「えっ」 「诶?」
地を這うような声に、世一は嘘だろと声を上げた。先のやり取りで何となくカイザーの気持ちを推察していたので、まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったのだ。
听到那低沉的声音,世一不禁喊出“骗人的吧”。虽然通过之前的对话多少察觉到了凯撒的心情,但万万没想到会得到这样的回应。
勘違いだとすれば、世一はとんでもない自爆をしてしまったことになる。かあ、と顔が熱くなった。火が吹けそうだ、というか吹いてほしい。今すぐスプリンクラーを起動させて頭と顔を冷やしたい。
如果这是误会,那世一就犯下了不可饶恕的自爆错误。啊,脸颊发烫。简直像要喷火一样,不,真希望它能喷出来。现在就想启动洒水器,让头和脸冷却下来。
「世一」
「う、忘れてくれカイザー。その、俺が食うべきストライカーとしてお前を特別視してるって意味で」
「呃,凯撒,忘了这事吧。那个,我是说,作为我应该吃掉的 Striker,我特别看重你。」
「――へぇ」 「——哦?」
言い訳で、カイザーの声がまた一段と低くなった。なんかまた間違ったらしい。一度冷静にならせてくれ。
借口一出,凯撒的声音又低沉了几分。感觉好像又错了。让我先冷静一下。
「ならお前は、ノアともこういうことをするのか?」 「那你也会和诺亚做这种事吗?」
「は――んぅ!?」 「啊——嗯!?」
べろりと唇を舐められた後、ぱくりと食べられる。先程世一の方から仕掛けたキスが幼稚な触れ合いに思えるほど、深く獰猛な口付け。世一は口内を舐め回され、悲鳴を上げた。さらにはカイザーがキスをしながらこちらを凝視してくるため、混乱は増すばかり。おかげでカイザーの質問も頭を通り抜けていった。
舌头舔过嘴唇后,被一口咬住。刚才世一主动的吻,相比之下显得如此幼稚,这个吻深沉而凶猛。世一的口腔被舔舐着,发出了悲鸣。更甚的是,凯撒一边亲吻一边凝视着这边,让混乱愈发加剧。结果,凯撒的问题也只是在脑海中一闪而过。
「おい」 「喂」
「……っ、あ、ふ……」 「……唔、啊、哈……」
「こういうことを、ノアともするのかお前は」 「你这家伙,也会和诺亚做这种事吗」
「っし、しねぇよ! 俺のことなんだと思ってんだ!」
「少啰嗦,别以为你了解我!」
「強いストライカーなら三十超えのジジィだとしても尻尾振る小型犬」
「就算是三十多岁的老头子,只要是厉害的前锋,也会像小狗一样摇尾巴」
「振らねぇよ馬鹿!」 「才不会摇呢,笨蛋!」
「なら、俺に誓え」 「那就向我发誓」
剣呑な声と共に、鼻先を甘噛みされる。こちらを睨むアイスブルーに、頬を染めた己の顔が映っていた。あれ、もしかして勘違いじゃないのか。
伴随着粗暴的声音,鼻尖被轻轻咬住。映入那冰蓝色眼眸中的,是自己染红脸颊的模样。难道,这不是误会吗?
「お前が隙を見せるのは俺だけだ。返事は?」 「你只会对我露出破绽。回答呢?」
「……もっとさ、言い方あんだろ」 「……再怎么说,也有更委婉的说法吧」
「へ、ん、じ、は?」 「什、么、意、思?」
「いたいって」 「好痛啊」
がじがじと鼻先を噛まれる。そこまで痛くないし、何だか心の方がくすぐったい。それに、カイザーが照れている時の反応が何となく分かってきた気がする。案外可愛いとこあるんじゃん。世一の口元は自然と緩んでいた。
嘎吱嘎吱地被咬了鼻尖。虽然不怎么疼,但心里却痒痒的。而且,感觉渐渐明白了凯撒害羞时的反应。意外地还挺可爱的嘛。世一的嘴角自然地放松了。
「じゃあ、お前も俺に誓えよ」 「那么,你也向我发誓吧」
「クソ却下」 「去你的,拒绝」
「内容くらい聞けって」 「至少问问内容吧」
「そのにやけ面から出てくる条件なんて、どうせクソだろ」
「从你那副奸笑里冒出的条件,肯定烂透了」
「お前は、俺をずっと見てろ」 「你,给我一直看着我」
カイザーが黙り込んだ。予想外の言葉だったらしい。どんな難題がふっかけられると思ったんだか。世一は笑ってやった。
凯撒沉默了。似乎是意料之外的话语。不知他以为会面临怎样的难题。世一笑着回应。
「青い監獄にいる間はその辺心配してねぇし、その後もお前が一番に意識する選手になってやるつもりだけど、プライベートばかりはどうにもできないからな」
「在蓝色监狱的期间我可没担心过那些,之后也打算让你成为我最在意的选手,但私生活方面我可就无能为力了。」
「……随分とまあ、根拠のない自信がおありで」 「……真是相当,毫无根据的自信啊。」
「そりゃあ、もちろん!」 「那当然!」
世一は勢いよく上半身を起こして、カイザーに抱き着いた。正しくは抱き着くような強さで正面から体当たりし、仰け反ったカイザーの手を握る。わざと指を絡めてから、にやりと口の端を引き上げた。
世一猛地挺起上半身,扑向凯撒。准确地说,是以一种扑抱的力度正面冲撞过去,握住仰倒的凯撒的手。故意缠绕手指后,嘴角勾起一抹坏笑。
「お前の人生壊してやるって言っただろ」 「我说过要毁了你的人生吧」
「……ああ」 「……啊」
カイザーはわずかに目を瞠ったあとで、口元を緩めた。彼らしくない穏やかな顔は一瞬で引っ込み、その表情は普段通りの不遜な笑みに染まる。
凯撒微微睁大了眼睛,随后嘴角放松下来。他那不寻常的温和表情一瞬间便收敛起来,表情又恢复了平日里那副傲慢的笑容。
「ちゃんと、俺の人生に立ちはだかれよ、世一」 「好好地,挡在我的人生路上吧,世一」
#3
「なんだその顔」 「你那是什么表情」
「お前も俺の話聞いたらこの顔するぜ」 「你听了我的话也会变成这副表情的」
イタリア戦後。いつも通りにカイザーの部屋を訪れたら眉を顰められた。世一はげんなりとした顔で皮肉げに返し、部屋に踏み込む。
意大利战后。一如既往地拜访凯撒的房间,却被皱眉嫌弃。世一一脸不爽地讽刺回去,踏进了房间。
「氷織が教えてくれたんだけど、SNSではBLTVが結構話題らしくて」
「冰织告诉我的,在社交媒体上 BLTV 似乎挺热门的」
「……むしろそれを狙ったサービスだろう」 「……倒不如说那是他们瞄准的服务吧」
「そうなの?」 「是那样吗?」
「話題性をわざと高くしている。試合だけでなく、練習や日常を編集して流しているのは何故だと思っていたんだ」
「故意制造话题性。不仅比赛,连训练和日常都剪辑播放,你以为这是为什么?」
「あんま詳しくないんだよな、そういうのに」 「我对这些不太了解啊。」
「それで、SNSで『潔世一』に対する誹謗中傷でも見て傷ついたか?」
「所以,是在社交媒体上看到对『洁世一』的诽谤中伤而受伤了吗?」
「まあ、ある意味誹謗中傷かもしれねぇな。ベストカップルって呼ばれてるらしいぜ、俺たち」
「嘛,某种意义上也算是诽谤中伤吧。我们好像被称为最佳情侣呢。」
「……クソくだらねぇ……」 「……真他妈无聊……」
「さっきの俺より酷い顔してんじゃん」 「你刚才的表情比我还糟糕啊」
今にも吐きそうな顔をするカイザーが面白くて、世一は自分を棚に上げて笑った。当の本人たちはこんな反応なのだと、言っている奴らに見せてやりたい。
看着凯撒那副快要吐出来的表情,世一忍不住自嘲地笑了。真想让那些说他们会有这种反应的人看看。
「ま、ベストカップルでも片割れの思考はまだ全部読めてないから。それで、今日のイタリア戦について聞きたくて――」
「嘛,就算是最佳搭档,也没法完全读懂另一半的想法。所以,我想问问你对今天意大利战的看法——」
「お前は馬鹿なのか?」 「你是傻瓜吗?」
「……は?」 「……啥?」
世一は無意識に拳を振り上げた。カイザーはそれを一瞥してから、感情の読めない目で世一を見下ろす。
世一不自觉地举起了拳头。凯撒瞥了一眼,然后用难以捉摸的眼神俯视着世一。
「お前は俺に勝った。俺はお前に負けた。そんな相手に、まだ乞う教えがあると?」
「你赢了我。我输给了你。这样的对手,还有什么可请教的?」
「……あー」 「……啊——」
世一は拳を下ろした。 世一放下了拳头。
昨日のイタリア戦で、世一はゴール数でカイザーに勝った。だが、あくまでそれはイタリア戦での話だ。次のフランス戦ではどうなるか分からない。それに、そもそもゴール数勝負はカイザーが持ち掛けてきた話だ。世一が勝った時、カイザーが勝った時、何かをするという約束も特にしていない。つまり、単なる数値の張り合いというわけだ。なので世一は勝ったという事実に満足して、それ以上気にするつもりもなかった。だが、カイザーはそうではないらしい。表情が『すごく気にしています』と言っている。
昨天的意大利战中,世一在进球数上胜过了凯撒。但那毕竟只是意大利战的情况。下一场法国战会如何还不得而知。而且,原本就是凯撒提出要比进球数的。世一赢了的时候,凯撒赢了的时候,并没有特别约定要做什么。也就是说,这只是单纯的数字较量。所以世一对于胜利的事实感到满足,并没有打算再深究。然而,凯撒似乎并非如此。他的表情仿佛在说『非常在意』。
こいつ、そういうところ面倒臭かったな。短い付き合いながらもカイザーの人間性の一端に触れてきた世一は、頬を掻いた。
这家伙,这种地方真是麻烦。尽管交往时间短暂,但世一已经触及了凯撒人性的一角,他挠了挠脸颊。
「今回の勝負には勝ったけど、潔世一はミヒャエル・カイザーに勝ってねぇよ。オファー額が良い証拠だろ」
「这次比赛是赢了,但洁世一并没有赢过米海尔·凯撒。报价高就是证据吧」
「数値では負けた」 「在数值上输了」
「フランス戦ではどうか分からないし」 「法国战会怎样还不知道呢」
「お前に俺が負けたという事実は変わらない」 「你赢了我的事实是不会改变的」
「……あーもう、何が言いたいんだよ」 「……啊——真是的,你想说什么啊」
世一がカイザーの部屋にやってきたのは、そんな言い合いをしたかったからじゃない。この話題をさっさと終わらせたくて声を上げれば、カイザーはじっと世一を見つめてきた。
世一来到凯撒的房间,并不是为了争吵。如果他想尽快结束这个话题,提高声音,凯撒就会静静地注视着世一。
「世一は、何がしたいんだ」 「世一,你到底想做什么?」
「何、って、昨日の試合の復習を」 「什么,昨天比赛的复盘啊」
「そんなもの、俺でなくともできるだろ」 「那种事,就算不是我也能做到吧」
本当に理由が分からないようだった。カイザーは淡々と、世一に問うてくる。
他似乎真的不明白理由。凯撒淡淡地,向世一提问。
世一はゆっくりとカイザーの言葉をかみ砕いた。そして、気づく。
世一慢慢地咀嚼着凯撒的话。然后,他意识到了。
「俺さ、あの日から、お前に教えてもらうって名目でお前に会いに来てるんだけど」
「我啊,从那天起,就以向你请教的名义来见你」
「……っ」 「……」
「マジでただ質問のために来てると思ってたわけ?」 「你真以为我只是为了提问才来的吗?」
心外である。世一は久しぶりに腹を立てた。ずかずかとカイザーに近づき、その胸ぐらをつかんで引き寄せる。額を突き合わせる距離で、怒鳴った。
心外。世一久违地动了怒。他大步走向凯撒,一把揪住对方的衣领拉近,额头相抵的距离,怒吼道。
「俺は、カイザー選手じゃなくて、ミヒャエル・カイザーと付き合ってるつもりだった。サッカーでどうだったとか、試合でどうだったとか、そんなの関係なくお前と時間を過ごせる関係だと思ってた! ……お前は、違うのかよ」
「我本以为,我不是和凯撒选手交往,而是和米夏埃尔·凯撒在一起。无论足球场上如何,比赛结果怎样,我都以为我们可以无关这些,共度时光!……你,不是这样想的吗?」
無反応の男に、次第に悲しくなって突き放す。空気を殴っているような、虚しい気持ちが世一の胸を支配した。カイザーと過ごす時間にそれなりに浮かれていたからこそ、ショックが大きい。
对毫无反应的男人,渐渐感到悲伤而推开。仿佛在殴打空气般的,空虚感支配了世一的胸膛。正因为与凯撒共度的时光中曾有过相应的喜悦,所以冲击才如此巨大。
「……世一」
カイザーが、戸惑いに揺れた声で名前を呼んできた。時間をかけて顔を上げると、動揺を露わにしたカイザーがこちらを見つめている。
凯撒用带着困惑的颤抖声音呼唤着名字。缓缓抬起头,看到凯撒满是动摇地注视着自己。
「お前、『俺』が好きだったのか」 「你,喜欢『我』吗?」
「今更!?」
限られた時間とはいえ、それなりの日数を重ねてきたと思っていたので、世一は更なるショックを受けた。散々キスしたし、ちょっとした触り合いっこもしただろうが。
尽管时间有限,但世一以为他们已经度过了相当的日子,因此受到了更大的冲击。明明已经亲吻过无数次,也有些许的肌肤之亲。
「好きじゃないやつとあんなことしねぇよ!」 「才不会跟不喜欢的人做那种事!」
「世一の好意は知っている」 「我知道世一的好意」
「は、はあ?」 「哈?」
「ただそれは、フットボールをしている俺に向けたものだと思っていた」
「我只是以为,那是针对正在踢足球的我说的。」
ぱちぱちと、世一は目を瞬かせた。何言ってんだこいつ。
世一眨了眨眼,啪嗒啪嗒地。这家伙在说什么呢。
「まさか、だから勝負に負けたお前に興味を無くすって思ったのか、お前」
「难道说,所以你以为我是因为你输了比赛就对你失去兴趣了吗,你这家伙。」
「そうだ」 「没错」
「ばーーーーーーか!!」 「笨蛋!!」
世一はドイツ棟に響くほどの大声で叫んだ。この際もう聞こえてもいい。こいつに分からせる方が先だ。
世一用足以响彻德国栋的大声喊道。这时候就算被听到也无所谓了。首先要让这家伙明白。
「そんな気持ちでキスできるか! お前はできるかもしれねぇけど、俺はできないんだよ!」
「怀着那种心情能接吻吗!你可能可以,但我做不到啊!」
「クソうるさい」 「吵死了」
「テメェのせいだろ! 大人しく聞け!」 "「都是你的错!乖乖听着!」
理解できない、という顔をしている男に、世一は指を突きつける。
世一伸出手指,对着那个一脸不解的男人。
「サッカーしてるお前も嫌いじゃない。でも、俺はお前のサッカーを好きになったんじゃない、お前っていう人間と一緒にいたいって思ったんだ」
「我并不讨厌踢足球的你。但是,我并不是因为你的足球而喜欢上你,而是因为想和你这个人在一起。」
「俺のフットボールも好きなくせに」 「明明也喜欢我的足球。」
「〜〜ッ! はいはい、好きです好きに決まってんだろ天才が! 今はそこはいいんだよ置いとけ」
「〜〜ッ! 是是是,喜欢喜欢,天才当然喜欢啦!现在先别管那个了,放一边去」
要は、と世一は赤い顔でカイザーを睨んだ。 总之,世一红着脸瞪着凯撒。
「これから先、お前がサッカーで負けようが辞めようが、俺はお前に会いに来るしキスもする。今更逃げんなよクソ王子。一度懐に入れたんなら最後まで責任持て」
「从今以后,无论你在足球上输掉还是放弃,我都会来找你,还会亲你。别想现在逃跑,混蛋王子。既然已经进了我的怀抱,就要负责到底」
「……世一くんは俺が大好きなのねぇ」 「……世一君,你真是喜欢我啊」
「茶化すんじゃねぇよ」 「别开玩笑了」
カイザーは一度視線を逸らし、ため息を吐いてから世一を向く。呆れている、と分かる目をしていた。
凯撒移开视线,叹了口气,然后看向世一。他的眼神中透露出无奈。
「俺は、そう簡単に思えない。ミヒャエル・カイザーは潔世一に負けたんだ。クソ不快で、クソ最悪で、今すぐお前の首をへし折ってやりたいくらいには苛ついてる」
「俺は、没那么简单。米海尔·凯撒输给了洁世一。他妈的不爽,他妈的糟糕,简直想立刻折断你的脖子。」
王冠が刻まれた手は、薔薇が咲く首元をゆっくりと撫でる。
刻有王冠的手,缓缓抚过绽放蔷薇的颈项。
「お前のクソ大胆な告白に、返せるものはない。お分かり?」
「对于你他妈的大胆告白,我无以回应。明白吗?」
「あっそう」 「啊,这样啊」
「……おい」 「……喂」
世一は遠慮なく部屋の中に進むと、最近の定位置であるベッドに腰掛けた。ノートとペンは椅子に置いて、ごろんと寝転がる。世一の部屋のベッドよりも寝心地がいい。格差を感じて、少しだけ嫌な気持ちになった。
世一毫不客气地走进房间,坐在最近的固定位置——床上。笔记本和笔放在椅子上,他顺势躺下。这张床比世一房间的床还要舒服。感受到这种差距,他心里稍微有些不快。
「話聞いてたかクソ世一」 「听说你来了,混蛋世一」
「そんな台詞で俺を追い返せると思ったお前が悪い」 「以为用这种台词就能赶走我,是你太天真了」
我が物顔でベッドに陣取った世一は、立ち惚けたままのカイザーを、ふん、と鼻で笑ってやる。
世一毫不客气地占据了床铺,对着愣在原地的凯撒,嗤之以鼻地哼了一声。
「別に見返りなんか求めてねぇよ。こっちはお前と顔を見ながら話をしたくて来てんだ。俺を早く帰らせたいなら、俺を満足させるんだな」
「我可没指望什么回报。我来这儿是想和你面对面聊聊。你要是想让我早点回去,那就得让我满意。」
「……クソ我儘」 「……真是个混蛋。」
「身近に良い見本がいるんでね」 「身边有个好榜样嘛。」
ぶつかった視線がばちりと火花を散らす。睨み合っていたのはほんの数秒で、肩を竦めたカイザーがベッドに乗り上げてきた。世一には触れることなく、仰向けに寝転ぶ。
碰撞的视线迸发出刺眼的火花。对峙不过短短数秒,凯撒耸了耸肩,跨上床铺,没有触碰世一,仰面躺下。
「勝手に喋って勝手に満足して帰れ。フランス戦が終わるまで来るな」
「随便说几句就自己满足地回去吧。法国战结束前别再来」
「勝手に喋りはするけど、明日の夜も来るからな」 「虽然会随便说,但明晚也会来的」
「無視してやる」 「无视你」
「へぇ」 「哼」
仰向けになってカイザーを見下ろした世一は、笑みを浮かべた。
仰面朝天,俯视着凯撒的世一,脸上浮现出笑意。
「お前はドアを開けるよ」 「你去开门吧」
「……」
「そういうやつだから、俺は好きなんだ」 「就是因为他这样,我才喜欢他」
意外と律儀で、誠実。尊大な態度やマウント癖に覆われて気づけなかったカイザーの良さを、世一はもう知っている。知らないふりなんかしてやらない。
意外地正直、诚实。世一已经知道了凯撒的优点,这些优点被他傲慢的态度和喜欢占上风的毛病掩盖了,让人难以察觉。世一不会再假装不知道了。
むすりと顰められた顔を見つめていると、天井を眺めていたアイスブルーがこちらを捉えた。
皱着眉头的脸庞映入眼帘,一直望着天花板的艾斯布鲁捕捉到了这边。
「お前のことは、フランス戦で殺す」 「你的命,在法国战场上终结。」
「やってみろよ。今度こそ、お前の全てを食ってやる」
「放马过来吧。这次,我要把你的一切都吞噬殆尽。」
殺意に満ちた物騒な台詞へ、世一は普段通りに返してやる。話は終わりだとキスを落とせば、これまたいつも通りに、カイザーの手が頭を撫でてきた。
面对充满杀意的危险台词,世一一如既往地回应。当他说完话并落下吻时,凯撒的手也像往常一样抚摸着他的头。